説明

樹脂シートの製造方法および樹脂シートの製造装置

【課題】長尺状の樹脂シートの一方の主表面上に連続的に形成される微細形状の寸法をインラインで計測し、その計測結果をインラインで製造条件にフィードバックすることにより、高精度な成形品を提供することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】連続的に樹脂シートに微細形状を形成し、形成した微細形状を計測し、計測結果をあらかじめ記憶させた判断基準と比較することにより、樹脂シートやロール金型の動作条件を補正する。これらの工程を連続的に繰り返すことにより、生産ラインを止めずに、形成される微細形状の寸法を調整する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂シートの製造方法および樹脂シートの製造装置であり、より特定的には、連続的に微細形状を形成する工程を行ないながら、形成した微細形状の寸法を計測する工程と、微細形状を形成するための動作を制御する工程とを行なう、樹脂シートの製造方法および樹脂シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に微細な形状を形成した光学素子を安価に製造する方法として、たとえば円柱形のロール金型に微細形状を加工したものを樹脂シートなどの一方の主表面上に転写することにより連続的に形成(成形)を行なう、ロール成形法がある。ロール成形法はロールを回転することにより微細形状を連続的に形成できるため、生産性が高く、安価に製造することが可能である。そのため、ロール成形法は長尺状の連続シートであるたとえば樹脂シートを得る方法として適している。特に光学製品を対象とした樹脂シートにおいては、光を精密に制御するためにミクロンオーダの微細形状が要求される。
【0003】
たとえば樹脂シートの一方の主表面上に微細形状を転写する場合、樹脂の軟化点まで樹脂を加熱した状態で、回転したロール金型を樹脂シートに一定圧力で加圧させることにより、微細形状を樹脂シートに転写する。また同時に、微細形状が転写された樹脂シートはロール金型の回転方向と同じ方向に一定速度で移動させる。
【0004】
ロール成形法により形成した、たとえば樹脂シートの微細形状の寸法計測は、量産工程の最中に生産ラインを止めて製品を抜き取って計測を行なったり、成形工程が全て終了した後に成形品の計測を行なったりしていた。このため、たとえば製品を抜き取って計測を行なったために量産工程全体に長時間を要して非効率になったり、成形工程が終了した後に計測を行なったために計測結果に問題があった場合に入力している製造条件へのフィードバックが遅れたりした。結果的に、高精度な樹脂シートを得ることは困難であった。
【0005】
以上より、インラインで(生産ラインを止めずに、動かしたまま)製品の計測を行ない、計測結果に問題があった場合にもインラインで製造条件へのフィードバックを行なえる製造方法を導入することが課題であった。
【0006】
同様の課題を解決する技術として、特開2006−349530号公報(以下、特許文献1)においては、液晶ディスプレイ等で用いられるシート状光学積層体の膜厚を、シートが生産ライン内で移動中に計測する方法が開示されている。これは、移動するシート状光学積層体の移動方向に対して交差する方向に移動しながら、シート状光学積層体に光を照射してその干渉光を計測する干渉光計測装置を利用している。このとき、光学積層体の一方および他方の主表面上部の領域の一部をカバープレートで覆うことにより、光学積層体の移動に伴う空気の乱流を抑制して光学積層体の振動を防止する。このことにより、干渉光計測装置においては干渉光のピントがずれることなく、確実に高精度で光学積層体の膜厚を計測することができる。
【0007】
また同様に、特開2002−148718号公報(以下、特許文献2)においては、背面投射型スクリーンや液晶ディスプレイのバックライトなどに用いる光拡散シートの拡散特性を、インラインで評価する特性評価装置および特性評価方法が開示されている。拡散特性とは、光拡散シートに拡散される、たとえばシートの基材とは異なる屈折率の材料からなる透明球状粒子(拡散ビーズ)を分散したものの特性であり、たとえば拡散層の厚みや分散濃度、拡散ビーズの屈折率などである。これをインラインで評価するために、特定の主指向方向に強い光線強度で光を発生する指向性光源と、特定の主指向方向に高い感度を有する指向性光検出手段とを備える。そして両者がシートの一方および他方の主表面の上部の領域に、特定の主指向方向がシートに交差する方向となるように配置して特性評価を行なう。特性評価のための計測は量産工程の最中に、すなわちインラインで行なう。
【特許文献1】特開2006−349530号公報
【特許文献2】特開2002−148718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1はインラインでシート状光学積層体の膜厚を計測する方法を開示しているものの、インラインで膜厚を計測した結果を、生産ラインを止めずに製造条件にフィードバックする方法については述べられていない。また、上述した特許文献2については、インラインでシートに形成した拡散層の特性を評価する方法が開示されており、シート状に形成した、ミクロンオーダの高精度の微細形状を計測しようとする本件とは計測の対象が異なる。また、特許文献2についても、計測結果を、生産ラインを止めずに製造条件にフィードバックする方法についての具体的な記載がない。
【0009】
本件においては、ミクロンオーダの高精度な微細形状が要求される光学製品を対象とした樹脂シートを製造しようとしている。しかしミクロンオーダという非常に微細な形状を形成するため、たとえたとえば円柱形のロール金型の円の外周の周速度と、微細形状を形成する樹脂シートの移動速度とを同じにしても、設計したとおりの微細形状が得られないことがある。したがって、ロール金型の回転速度と、微細形状が形成された樹脂シートの移動速度とを、常時極めて高精度に制御する必要がある。そのためには、まず、インラインでたとえば樹脂シートに形成された微細形状の寸法を計測する。そしてなおかつ、寸法の計測値が設定値に対して大きな誤差を生じた場合には、インラインでロール金型および樹脂シートのたとえば動作速度を制御することにより、形成される微細形状の寸法を制御する必要がある。しかし上述のとおり、特許文献1、特許文献2とも、上述した制御を行なう技術については開示されていない。
【0010】
本発明は、上記の各問題に鑑みなされたものである。その目的は、たとえば長尺状の樹脂シートの一方の主表面上に連続的に形成される微細形状の寸法をインラインで計測し、その計測結果をインラインで製造条件にフィードバックすることにより、高精度な成形品を提供することが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ロール金型を回転させながら樹脂シートの一方の主表面上に押圧するとともに、ロール金型と樹脂シートとが相対的に移動する動作により、樹脂シートに連続的に微細形状を形成する樹脂シートの製造方法である。具体的には、ロール金型を用いて連続的に微細形状を形成する形成工程と、微細形状を形成する工程とを行ないながら、形成された微細形状を計測する計測工程と、計測工程での計測結果をもとに、形成工程の動作条件を補正する補正工程とを備える、樹脂シートの製造方法に関する発明である。
【0012】
また、本発明は、一方の主表面上に連続的に微細形状を形成する、樹脂シートの製造装置に関する発明である。本発明の製造装置は、樹脂シートを連続的に移動させる移動装置と、樹脂シートの一方の主表面上に連続的に微細形状を形成するロール金型を連続的に回転させる回転装置とを備える。また、微細形状を計測するセンサーと、微細形状を調整するための補正回路とを備える。その補正回路は、あらかじめ入力した判断基準と計測を行なった結果とを比較することにより、連続的に微細形状を形成しながら、ロール金型または樹脂シートの動作を制御する、樹脂シートの製造装置に関する発明である。
【発明の効果】
【0013】
本発明における樹脂シートの製造方法および樹脂シートの製造装置を用いれば、たとえば長尺状の樹脂シートの一方の主表面上に連続的に形成されるミクロンオーダの微細形状の寸法をインラインで計測し、その計測結果をインラインで製造条件にフィードバックすることにより、高精度な成形品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0015】
(実施の形態1)
最初に、本発明における樹脂シートの製造方法および製造装置の概略について説明する。まず図1は、本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造装置が制御を行なう動作の流れを示す概略図である。また、図2は、本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造装置の外観を示す概略図である。
【0016】
本発明における、たとえばミクロンオーダの高精度の微細形状が要求される光学製品用の樹脂シートを製造する際には、樹脂シートの一方の主表面上に連続的に形成された微細形状をインラインで、すなわち先述のように微細形状を形成するラインを止めずに動かしたまま、寸法計測してその結果をインラインで微細形状の形成条件にフィードバックさせる。具体的には、まず図1に示すセンサーから、シート上に形成した微細形状に対して、たとえばレーザー光や赤外線、紫外線などの光を照射する。そして微細形状の表面で反射されて返って来た光を、同じセンサーにて検出する。樹脂シートの一方の主表面上に形成される微細形状は後述する図7の概略図にて示されるように、たとえば樹脂シートの一方の主表面上に押圧するロール金型と樹脂シートとが相対的に移動する方向に垂直な断面が三角形である三角柱の形状である。すなわち樹脂シートがロール金型に入る側とロール金型から抜ける側とに、それぞれ樹脂シートの主表面に対して傾斜方向が異なる傾斜面を有する微細形状である。そしてこのセンサー内にて、形成された微細形状のα(入り側角度、後述の図7参照)、β(抜け側角度、後述の図7参照)、T(厚み、後述の図7参照)のそれぞれを計測する。計測されたα、β、Tの値を補正回路に転送する。そしてあらかじめ補正回路に記憶された判断基準のデータと比較することにより、V(樹脂シートの移動速度、後述の図2参照)およびω(ロール金型の回転角速度、後述の図2参照)を調整する指令を出す。補正回路から指令を出された移動装置(樹脂シートを移動させる装置、後述の図2参照)およびロール金型回転速度調整装置(ロール金型の回転を制御する装置、後述の図2参照)は、それぞれ樹脂シートの移動速度およびロール金型の回転角速度を調整させる。このような一連の作業をインラインで行なうことにより、ミクロンオーダの高精度な微細形状を樹脂シートの主表面上に形成することを可能とする。
【0017】
次に図2に示す、樹脂シートの製造装置を参照しながら、本発明における樹脂シートの製造方法および製造装置について詳細に述べる。図2に示す、樹脂シートの製造装置は、まず微細形状を形成させる樹脂シート1と、樹脂シートを移動させる働きを持つ樹脂シート移動用ローラ2とを備える。また、樹脂シート1に微細形状を形成させる前に樹脂シート1を加熱するための加熱装置3を備える。そして、樹脂シート1に形成させたい微細形状を転写することにより形成するためのロール金型4を備える。ロール金型4には、これを連続的に回転させる回転装置であるロール金型回転速度調整装置13が接続されている。また、樹脂シート1の下側、すなわち樹脂シート1に微細形状を形成させる主表面と反対の主表面側には、樹脂シート1をセットするための基材7、および基材7を移動させる働きを持つ基材移動用ローラa5と基材移動用ローラb6とが設置されている。ロール金型4の転写により形成された微細形状の寸法を計測するためのセンサー8が設置されており、センサー8にはデータの記憶を行なう記憶部9とデータの処理や演算を行なう演算部10とが備え付けられている。また、センサー8には、転写される微細形状の寸法を調整するための演算処理や指令などを行なう補正回路11が接続されている。そして、補正回路11により樹脂シートの移動速度に関する指令を受け、樹脂シート1を連続的に移動させる移動装置12が樹脂シート1に接続されている。基材移動用ローラa5および基材移動用ローラb6は樹脂シート1および基材7を円滑に移動させるためのガイドローラである。なお、補正回路11は、上述したロール金型回転速度調整装置13に対しても、ロール金型4の回転角速度に関する指令を出す。なお、図2に示す製造装置は、上述した各装置や部品を備えるが、その配置は、図2のように右側から左側へ樹脂シート1を移動させる配置にしてもよいし、その逆に左側から右側へ樹脂シート1を移動させる配置にしてもよい。
【0018】
上述の構成を有する樹脂シートの製造装置を用いて、以下に用いる方法を用いて実際の樹脂シートの製造工程を実施する。図3は、本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造工程の流れを示すフローチャートである。図4は、図3の工程(S20)の詳細な流れを示すフローチャートである。以下、図3および図4を用いて、本発明における樹脂シートの製造方法について説明する。
【0019】
まず、形成工程である、連続的に微細形状を形成する工程(S10)を行なう。具体的には、たとえば円柱形のロール金型に微細形状を加工したものを樹脂シートなどの一方の主表面上に転写することにより、樹脂シートに連続的に微細形状の形成を行なう工程である。
【0020】
ここで、図5はロール金型が樹脂シートに微細形状を転写する状態を示す概略図である。たとえばロール金型4が円柱形の形状を有する場合、図5に示すように、ロール金型4の曲面上には、樹脂シート1上に微細形状15を形成させるために、たとえば多数の微細なV字型形状14が加工されている。たとえばロール金型の直径が30mmの場合、ロール金型4に加工されたV字型形状14のサイズは、樹脂シート1に形成したい微細形状と同じ、数μmから数百μmの範囲が考えられる。具体的な数値としてはたとえば、高さ5μm、頂角が90°の二等辺三角形が考えられる。またこの場合、互いに隣り合う2つのV字型形状14のピッチとしては、たとえば10μmが考えられる。また、別の例としては、ピッチが100μm、V字型形状14の高さが50μm、頂角が90°の二等辺三角形も考えられる。
【0021】
本発明における樹脂シート1は、光学素子として使用するものである。具体的にはたとえばリニアエンコーダ用のリニアスケール、また液晶ディスプレイのプリズムシートに用いることも考えられる。ロール金型のV字型形状14を転写することにより樹脂シート1に形成させる微細形状15は、樹脂シート1を光学素子として使用する際の光を拡散させるためのものである。
【0022】
たとえば円柱形のロール金型4の曲面上に図5に示すようにV字型形状14が加工されている場合、この形状を樹脂シート1の一方の主表面上に形成させる原理は、以下に述べるとおりである。ロール金型4が回転角速度ωで回転しながら、移動速度Vにてたとえば図の右側から左側に移動される樹脂シート1の一方の主表面上に押圧する。このとき、樹脂シート1のロール金型4により押圧される領域は、あらかじめ加熱装置3にて(図2参照)樹脂の軟化点付近の温度まで加熱されている。このため、樹脂シート1はロール金型4の、V字型形状14が加工されていない箇所により押圧されて圧延される。ロール金型4のV字型形状14が加工された箇所を基準に考えると、V字型形状14が加工されていない箇所はロール金型4の凸部に該当する。この凸部が、樹脂シート1に押圧して圧延させるため、圧延された箇所においては樹脂シート1の厚みTが薄くなる。逆に言えば、ロール金型4のV字型形状14が加工された箇所が樹脂シート1の主表面上を押圧するように通過したとき、その箇所においては樹脂シート1は圧延されないため、樹脂シート1の厚みTが厚くなる。
【0023】
ここで、円柱形のロール金型4の底面をなす円の半径をRとすれば、ロール金型4の回転角速度がωであれば、ロール金型4の曲面(ロール金型4の底面をなす円の外周)の回転の周速度はRωとなる。上述のようにV字型形状14のサイズがミクロンオーダと微細であれば、Rωの値が樹脂シート1の移動速度であるVと等しくなるようにすれば、近似的に樹脂シート1の主表面上に転写されることにより形成される微細形状15は、理論的にはロール金型4のV字型形状14と合同の三角形の突起形状となる。
【0024】
以上に述べたように、ロール金型4を回転させながら樹脂シート1の一方の主表面上に押圧させた状態で、回転するロール金型4と移動する樹脂シート1とを相対的に移動させる。すると、後述の図6に示すように、樹脂シート1上にはロール金型4のV字型形状14が連続的にそのまま転写される。このようにして樹脂シート1上には連続的にV字型形状14による微細形状15が形成される。
【0025】
図6は、図5の○で囲った部分を詳解するための、ロール金型に形成した微細形状を樹脂シートに転写させた状態を示す簡略図である。図7は、微細形状を形成させた樹脂シートの外観を示す概略図である。なお、図6においては、説明を簡単にするため、ロール金型の表面上に加工した微細形状は1つだけとし、その大きさは実際より大きく描写してある。
【0026】
図6に示すように、樹脂シート1の移動される方向と、ロール金型4の回転する方向とは同じである。したがって、図6のようにたとえば樹脂シートが図の右側から左側に移動される場合、ロール金型4は図面上では反時計方向に回転する。すると、ロール金型4のV字型形状14について、図6に示すように左側の角度をα、右側の角度をβとすれば、樹脂シート1上に形成される微細形状15は、左側をα、右側をβとして、理論的にはα=α、β=βとなる。ここで、αはロール金型4のV字型形状14が樹脂シートへの入り側の傾斜角度なのでα(α)を入り側角度、またβはロール金型4のV字型形状14が樹脂シートからの抜け側の傾斜角度なのでβ(β)を抜け側角度と定義する。
【0027】
上述の方法により樹脂シート1の一方の主表面上に形成された微細形状15は、図7に示すような形状となる。この微細形状15は、ロール金型に多数加工された凹型のV字型形状によるものなので、逆にV字型形状の存在しないところをロール金型4が通過したときは、ロール金型4が樹脂シート1に対して押圧することにより圧延されて厚みが減少し、図7のように厚みがTとなった構造となる。なお、先述のとおり、樹脂シート1の微細形状15は、光学素子として使用したときの光を拡散させるためのものであり、厚みがTのフラットな部分は、光を反射させてセンサー8にて検出させるための形状である。
【0028】
一例として、本発明の各実施の形態においては、入り側角度αは45°、抜け側角度βは45°、樹脂シート1のうち圧延を行なったフラットな箇所の厚みTは0.3mm、そして樹脂シート1の移動速度Vの初期設定値は1.60mm/秒、ロール金型4の回転角速度ωの初期設定値は1.0rpmとする。入り側角度αは30°以上60°以下、抜け側角度βは30°以上60°以下、樹脂シート1のうち圧延を行なったフラットな箇所の厚みTは0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。なお、樹脂シート1の移動速度Vおよびロール金型4の回転角速度ωは、ロール金型4の直径によって変化する。ロール金型4としては任意の直径のものを使用できるが、たとえばロール金型4の直径が30mmであれば、ロール金型4の回転角速度ωは1rpm以上5rpm以下であることが好ましい。また、この場合の樹脂シート1の移動速度Vは、ωが1rpmから5rpmに上がるのに対応して、1.60mm/秒から8.0mm/秒に上昇させることが好ましい。
【0029】
以上のような構成の樹脂シート1を形成させるために、樹脂シート1の材料としては、加熱装置3の加熱により、圧延やパターンの転写が可能な材料を用いることが好ましい。すなわち非晶性の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、たとえばPMMA樹脂、PC樹脂、シクロオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。また、非晶性と結晶性の性質を併せ持ったオレフィン系グラフトポリマーを用いてもよい。加熱による軟化点は、各樹脂のガラス転移点(Tg)によって変わる。Tgは、たとえばPMMA樹脂であれば100℃、PC樹脂であれば150℃であり、この温度よりも高いことが必要である。特にTgより10℃〜50℃高い温度であることが好ましい。
【0030】
次に、計測工程である、形成した微細形状を計測する工程(S20)を行なう。具体的には、まず先の工程(S10)にてロール金型4により樹脂シート1の一方の主表面上に連続的に形成された微細形状15が搬送される領域に、センサー8から計測用の光を連続的に照射する。そして照射された、新しく形成された微細形状15や厚みがTのフラット部(ロール金型4の圧延により厚みが減少した部分)から反射された光を検出して計測することにより、その微細形状の寸法や形状を計測する工程である。なお、工程(S20)は、図4のフローチャートに示す、光を照射する工程(S21)と、光を検出する工程(S22)と、光から形状を解析処理する工程(S23)とから構成される。以下、図2、図4、図7を参照しながら、これらの工程について説明する。
【0031】
まず、光を照射する工程(S21)を実施する。具体的には、センサー8から放出する、計測用の光を、樹脂シート1上に形成した微細形状15に連続的に照射する工程である。放出する光としては、たとえば波長が700〜900nmの指向性光源であるレーザー光を用いるが、計測の対象物や用途などに応じて、先述のとおり、その他たとえば赤外線、紫外線などを用いてもよい。樹脂シート1上の微細形状15は、ロール金型4により連続的に形成されており、樹脂シート1は連続的に移動速度Vにて移動されている。このため、樹脂シート1上に新しく形成された微細形状15が連続的に搬送される。そこで、新しく形成された微細形状15が連続的に搬送される領域にセンサー8の光を照射できるようにしておく。すると、センサー8から連続的に光を放出させれば、樹脂シート1の新しく形成された微細形状15および厚みがTのフラット部には、連続的にセンサー8の光が照射される。したがって、この工程(S21)を行なう際、樹脂シート1上に微細形状15を連続的に形成する工程(S10)を中断する必要はない。
【0032】
続いて、光を検出する工程(S22)を実施する。先の工程(S21)にて樹脂シート1上に新しく形成された微細形状15および厚みがTのフラット部には光が照射されている。この照射された光が樹脂シート1の微細形状15および厚みがTのフラット部によって拡散されたり反射されたりする。そこでこれらの拡散ないし反射された光を、センサー8にて検出する工程である。
【0033】
そして、光から形状を解析処理する工程(S23)へと進む。先の工程(S22)にてセンサー8が検出した光に対して、センサー8にてこの工程(S23)を行なう。するとセンサー8に内蔵されている記憶部9および演算部10により、検出した光のデータが解析処理される。その結果、樹脂シート1の微細形状15の寸法や形状、フラット部の厚みTなどの計測値を出力することができる。なお、計測方法としては、まず先の工程(S21)にて照射したレーザー等の指向性光源が微細形状15にて拡散ないし反射された量を解析処理することによって高さ方向の座標を検知する。そして、樹脂シート1の移動速度Vと微細形状15が移動するのに要する時間とを計測することによって三角形状の寸法を得る方法を用いる。以上により、樹脂シート1の微細形状15の寸法や形状としての入り側角度α、抜け側角度β、およびフラット部の厚みTを計測する。これらの工程(S22)および工程(S23)を行なう際、樹脂シート1上に微細形状15を連続的に形成する工程(S10)を中断する必要はない。
【0034】
ここで、図3に示す、判断基準と比較する工程(S30)を実施する。具体的には、まず先の工程(S20)にて計測された、微細形状15の寸法やフラット部の厚みTなどのデータを、あらかじめ入力した判断基準のデータと比較を行なう。そして、微細形状15を形成する工程における動作条件を示す、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとをどのように制御すべきか決定する工程である。
【0035】
ロール金型4の曲面上に加工されたV字型形状14の入り側角度αと抜け側角度βと、樹脂シート1のフラット部の厚みTとの設計値を、図2のセンサー8に接続されている補正回路11を構成する記憶部にあらかじめ記憶させておく。また、使用するロール金型4の直径に応じて、樹脂シート1の移動速度Vおよびロール金型4の回転角速度ωの設定値についても、制御パラメータとしてのデフォルト値を補正回路11を構成する記憶部にあらかじめ記憶させておく。これらの設計値および設定値のデータを、上述したあらかじめ入力した判断基準のデータとして使用する。このあらかじめ入力した判断基準のデータと、先の工程(S20)にて計測された、微細形状15の寸法やフラット部の厚みTなどのデータと比較を行なう工程が、判断基準と比較する工程(S30)である。以上の方法により、微細形状15の入り側角度α、抜け側角度βおよびフラット部の厚みTの計測された値を、判断基準との比較を行なう。
【0036】
そして、補正工程として、動作を制御する工程(S40)を行なう。具体的には、先の判断基準と比較する工程(S30)にて、計測結果をあらかじめ入力した判断基準と比較した結果を元に、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとを制御する工程である。この工程を行なうことにより、次に樹脂シート1に形成される微細形状15に関して、その入り側角度α、抜け側角度βなどの寸法値をそれぞれの理想値である設計値により近づけることが可能となる。
【0037】
センサー8に接続された補正回路11にあらかじめ入力した、動作条件を補正するデータを用いて、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとを制御することにより、樹脂シート1やロール金型4の動作を補正する。ここでいう、あらかじめ入力した、動作条件を補正するためのデータとは、図3に示す第1のデータおよび第2のデータのことである。そこで、工程(S40)を行なうに先立って、第1のデータを計測する工程(S41)および第2のデータを計測する工程(S42)を行ない、補正回路11を構成する記憶部に記憶させておくことが好ましい。以下においては、最初に工程(S41)および工程(S42)について説明する。
【0038】
工程(S41)でいう第1のデータとは、微細形状15を形成する工程における動作条件を示す、ロール金型4の回転角速度ωと樹脂シート1の移動速度Vとの差に対する、樹脂シート1上に形成した微細形状15の抜け側角度βと微細形状15の入り側角度αとの差の関係を示すデータである。ここで、図8は、第1のデータを概略的に例示する検量線である。図8にて第1のデータ21を示す検量線は、横軸がRω−Vの値を示している。また、縦軸はβ−αの値を示している。すなわちロール金型4の曲面(ロール金型4の底面をなす円の半径をRとしたときの外周)の回転の周速度であるRωと、樹脂シート1の移動速度であるVとの差をプロットしたものである。なお、図8において、第1のデータ21は、原点を通る一次関数となっているが、実際にはRω−Vの値に対して、β−αの値は単調に増加することを示すに過ぎず、直線とはならない。また、第1のデータ21はあくまで理論値であり基準値であるので、実際の動作は必ずしもこれに準じない。こういった第1のデータ21を、任意の微細形状15の入り側角度αに対して求め、補正回路11に記憶させておく工程が、第1のデータを計測する工程(S41)である。後述するように、αの値は、設計値であるαに対して実際に形成される微細形状のαの値に大きな誤差が生じることは少ない。そこで、常にα=αとなるという仮定のもとに任意のαに対して第1のデータ21を準備してもよい。
【0039】
本発明の各実施の形態においては、ロール金型4に加工されたV字型形状14の入り側角度αと抜け側角度β(図6参照)とは等しいとすると、理論的には、Rω−V=0であればα=βすなわちβ−α=0となる。すなわち理論的には、図8に示すように、微細形状15を形成する工程を行なう際には、Rω=VすなわちRω−V=0であることが好ましい。図8中の★印は、理想的な値をとる点を示しており、図8においては、β−α=0かつRω−V=0であることが好ましいので、原点に★印を施している。
【0040】
次に、工程(S42)でいう第2のデータとは、樹脂シート1の動作条件を示す移動速度Vに対する樹脂シート1のフラット部の厚みTの関係を示すデータである。ここで、図9は、樹脂シートの移動速度Vの関数である第2のデータを概略的に例示する検量線である。図9において第2のデータ22を示す検量線は、横軸が樹脂シート1の移動速度Vを示している。また、縦軸が樹脂シート1のフラット部の厚みTを示している。また、図9においてTとは、あらかじめ補正回路11に記憶させた、樹脂シート1のフラット部の厚みTの設計値を示す。すなわちT=Tとなることが理想である。したがってT=Tとなる箇所に★印を施している。図9においても、第2のデータ22は、直線状の一次関数としているが、実際にはVの値に対して、Tの値は単調に増加することを示すに過ぎず、直線とはならない。このような第2のデータ22を、任意のロール金型4の回転角速度ωに対して求め、補正回路11に記憶させておく工程が、第2のデータを計測する工程(S42)である。
【0041】
また、工程(S42)でいう第2のデータとは、ロール金型4の動作条件を示す回転角速度ωに対する樹脂シート1のフラット部の厚みTの関係を示すデータでもある。ここで、図10は、ロール金型の回転角速度ωの関数である第2のデータを概略的に例示する検量線である。図10において第2のデータ23を示す検量線は、横軸がロール金型4の回転角速度ωを示している。また、縦軸が樹脂シート1のフラット部の厚みTを示している。このような第2のデータ22を、任意の樹脂シート1の移動速度Vに対して求め、補正回路11に記憶させておく工程が、第2のデータを計測する工程(S42)である。その他については、図9に示す第2のデータ22と同じである。
【0042】
次に、第1のデータおよび第2のデータが補正回路11を構成する記憶部に記憶されている状態で、補正回路11を構成する演算部を用いて、今回計測された微細形状15のデータと比較を行なう。先述のように、V字型形状14のサイズがミクロンオーダと微細であるため、ロール金型4の円の外周の周速度Rωの値が樹脂シート1の移動速度であるVと等しくなるように設定しておいても、実際に樹脂シート1上に形成される微細形状15にはたとえばラインの随所に発生する種々の擾乱により、誤差が生じやすい。その結果、RωとVとの各移動速度の間に差が生じ、α=βとならないことがある。また、RωとVとの各移動速度によってロール金型4が樹脂シート1に対して押圧して接触している時間にも変化が生じる。この結果、樹脂シート1のフラット部の厚みTにも変化が生じることになる。
【0043】
ここで図11は、樹脂シート上に形成される微細形状の計測結果に対する制御方法をまとめた図表である。また、図12は、微細形状の各角度の計測結果に対する原因と制御方法とをまとめた表である。図13は、樹脂シートのフラット部の厚みの計測結果に対する原因と制御方法とをまとめた表である。以下、図8〜図13を参照しながら説明する。
【0044】
たとえば、計測の結果、図11の(a)に示すように微細形状15の抜け側角度βが入り側角度αより小さくなり、樹脂シート1のフラット部の厚みTが設計値Tより大きくなったとする。この場合図8に示す第1のデータ21より、β−α<0となるため、このとき、Rω−V<0である。すなわち、V>Rωである。(図12参照)したがって、図8において理想値を示す★印に近づけるためには、Rωを大きくするか、Vを小さくする制御をすればよいことがわかる。すなわち、Vを遅くするか、あるいはωを速くする制御を行なうべきなのである。(図12参照)これらのうちいずれの制御を行なうべきであるかは、T>Tであることから判断する。図9に示す第2のデータ22、および図10に示す第2のデータ23より、寸法を理想値を示す★印に合わせるためには、Vあるいはωを遅くする制御を行なえばよいことがわかる。すなわち、図13に示すように、ロール金型4が樹脂シート1に押圧して接触している時間が短いために、圧延される量が少なく、厚みTが設定値ほど小さくならなかったことが原因でT>Tとなったと考えることができる。したがって、以上を総合的に勘案し、ここではVを遅くする制御を行なうべきと判断する(図11参照)。
【0045】
以下同様に、次のような方法で判断を行なう。たとえば、計測の結果、図11の(b)に示すように微細形状15の抜け側角度βが入り側角度αより大きくなり、樹脂シート1のフラット部の厚みTが設計値Tより小さくなったとする。この場合図8に示す第1のデータ21より、β−α>0となるため、このとき、Rω−V>0である。すなわち、V<Rωである。(図12参照)したがって、図8において理想値を示す★印に近づけるためには、Rωを小さくするか、Vを大きくする制御をすればよいことがわかる。すなわち、Vを速くするか、あるいはωを遅くする制御を行なうべきなのである。(図12参照)これらのうちいずれの制御を行なうべきであるかは、T<Tであることから判断する。図9に示す第2のデータ22、および図10に示す第2のデータ23より、寸法を理想値を示す★印に合わせるためには、Vあるいはωを速くする制御を行なえばよいことがわかる。すなわち、図13に示すように、ロール金型4が樹脂シート1に押圧して接触している時間が長いために、圧延される量が多く、厚みTが設定値以上に小さくなったことが原因でT<Tとなったと考えることができる。したがって、以上を総合的に勘案し、ここではVを速くする制御を行なうべきと判断する(図11参照)。
【0046】
以下についても同様に、たとえば、計測の結果、図11の(c)に示すように微細形状15の抜け側角度βが入り側角度αより大きくなり、樹脂シート1のフラット部の厚みTが設計値Tより大きくなったとする。この場合図8に示す第1のデータ21より、β−α>0となるため、このとき、Rω−V>0である。すなわち、V<Rωである。(図12参照)したがって、図8において理想値を示す★印に近づけるためには、Rωを小さくするか、Vを大きくする制御をすればよいことがわかる。すなわち、Vを速くするか、あるいはωを遅くする制御を行なうべきなのである。(図12参照)これらのうちいずれの制御を行なうべきであるかは、T>Tであることから判断する。図9に示す第2のデータ22、および図10に示す第2のデータ23より、寸法を理想値を示す★印に合わせるためには、Vあるいはωを遅くする制御を行なえばよいことがわかる。すなわち、図13に示すように、ロール金型4が樹脂シート1に押圧して接触している時間が短いために、圧延される量が少なく、厚みTが設定値ほど小さくならなかったことが原因でT>Tとなったと考えることができる。したがって、以上を総合的に勘案し、ここではωを遅くする制御を行なうべきと判断する(図11参照)。
【0047】
また、計測の結果、図11の(d)に示すように微細形状15の抜け側角度βが入り側角度αより小さくなり、樹脂シート1のフラット部の厚みTが設計値Tより小さくなったとする。この場合についても上述した内容と同様に考え、ここではωを速くする制御を行なうべきと判断する。(図11参照)以上の判断を、補正回路11において演算処理を行なうことにより実施する。
【0048】
なお、以上の各判断においては、全て微細形状15の入り側角度αに対する抜け側角度βの大小を元に判断を行なっている。図14においても、入り側角度αに対する抜け側角度βの変化を図示している。これは、樹脂シート1に形成される微細形状15に関しては、入り側角度αについてはRωとVとの差による影響をほとんど受けず、常にロール金型4の入り側角度αとほぼ同一の値となるように形成されるためである。抜け側角度であるβは、ロール金型4のV字型形状14が樹脂シート1の内部に入り込んでから樹脂シート1の外部に抜けるまでの時間における、RωとVとの各速度の差に影響を受ける。このため微妙な移動速度の変動により、βの値に変動が発生することがある。これに対してαは入り側角度であり、ロール金型4のV字型形状14が樹脂シート1の内部に入り込み始めて間もない時間に形成される。このためαはRωとVとの各速度の差にあまり影響されない。したがってαは、常時あらかじめ入力された設計値αとほぼ同一の値になるように形成される。
【0049】
以上の方法により、動作条件である、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとをどのように制御すべきか決定する。以上の方法を、新しく形成される微細形状15に対して、インラインで実施することが可能なので、たとえば形成される微細形状の寸法が規格外になるなどの問題が発生する前に、装置の動作を制御させることにより、問題の発生を未然に防止することが可能となる。
【0050】
そして、実際に動作条件の補正を行なう。ここで具体的に、補正回路11を構成する演算部を用いて、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとを制御することにより、樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωとの補正を行なう。この工程を行なうことにより、次に樹脂シート1に形成される微細形状15に関して、その入り側角度α、抜け側角度βなどの寸法値をそれぞれの理想値である設計値により近づけることが可能となる。
【0051】
図14は、補正回路が行なう樹脂シートの移動速度Vとロール金型の回転角速度ωとの制御のための演算処理を示すフローチャートである。これは、上述した工程(S30)および工程(S40)をまとめたフローチャートである。図14に示すフローチャートに則った演算処理が補正回路11(図2参照)にて行なわれる。その上で、補正回路11から、移動装置12(図2参照)およびロール金型回転速度調整装置13(図2参照)に、それぞれVとωとを調整するよう指令を与える。
【0052】
図14に示すように、新しく形成された微細形状15に対し、入り側角度α、抜け側角度βを計測した結果、およびフラット部の厚みTを計測した結果が、補正回路11に入力される。たとえばα>βかつT>Tであれば、先述の図11の(a)の状況である。このため、補正回路11はVを遅くするよう、移動装置12に指令を出す。図14に示すように、Vをあらかじめ補正回路11に記憶された樹脂シート1の移動速度Vの設定値(制御パラメータとしてのデフォルト値)、VをVの加減分の速度とする。仮に、これまでV=Vにて樹脂シート1が移動されていたと仮定すると、V=V−Vとなるように、補正回路11が移動装置12に指令を出す。以後、樹脂シート1は移動速度V=V−Vにて移動される。
【0053】
同様に、たとえばα>βかつT<Tであれば、先述の図11の(d)の状況である。このため、補正回路11はωを速くするよう、ロール金型回転速度調整装置13に指令を出す。図14に示すように、ωをあらかじめ補正回路11に記憶されたロール金型4の回転角速度ωの設定値(制御パラメータとしてのデフォルト値)、ωをωの加減分の回転角速度とする。仮に、これまでω=ωにてロール金型4が回転されていたと仮定すると、ω=ω+ωとなるように、補正回路がロール金型回転速度調整装置13に指令を出す。以後、ロール金型4は回転角速度ω=ω+ωにて回転される。
【0054】
同様に、たとえばα<βかつT>Tであれば、先述の図11の(c)の状況である。このため、補正回路11はωを遅くするよう、ロール金型回転速度調整装置13に指令を出す。したがって、上述と同様に考えて、図14に示すように、ω=ω−ωとなるように、補正回路がロール金型回転速度調整装置13に指令を出す。以後、ロール金型4は回転角速度ω=ω−ωにて回転される。また、たとえばα<βかつT<Tであれば、先述の図11の(b)の状況である。このとき、補正回路11はVを速くするよう、移動装置12に指令を出す。以後、樹脂シート1は移動速度V=V+Vにて移動される。
【0055】
以上に述べた、工程(S10)から工程(S40)までの各工程を、図3のフローチャート中に矢印(A1)にて示したように、連続的に実施する。すなわち、樹脂シート1上に微細形状15を形成するたびに計測し、判断基準と比較し、動作を制御する。このループを繰り返しながら微細形状15の形成を連続的に行なう。このことにより、インラインにて微細形状15の寸法や樹脂シート1のフラット部の厚みの調整を連続的に行なうことで、計測結果をインラインで製造条件にフィードバックすることができる。したがって、たとえば形成される形状の寸法が規格外になるなどの問題が発生する前に、装置の動作を制御させることにより、問題の発生を未然に防止することが可能となり、高精度な成形品を提供することができる。
【0056】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態1において樹脂シート1の移動速度Vとロール金型4の回転角速度ωを、補正回路11にあらかじめ記憶させた検量線のデータを元に制御することにより、Vやωの補正を行なっていた。これに対し、本発明の実施の形態2においては、補正回路11としてPID制御回路を使用し、PID制御にてVとωの制御を行なうことにより、補正を行なう。
【0057】
PID制御とは、比例制御(Proportional Control)、積分制御(Integral Control)、微分制御(Derivative Control)の3種類の制御を組み合わせて設定値に収束させる制御のことである。まず、比例制御(P制御)は偏差(設定値と現在値との差)に比例させて操作量を変える制御である。したがって偏差が大きいほど操作量が大きく、設定値に近づく速度が速くなる。また設定値に近づくと操作量が小さくなり設定値に近づく速度が小さくなる。
【0058】
ところが操作量が小さくなりすぎると、制御される側が偏差を偏差として認識しなくなり、偏差に対して反応しなくなる。この結果、偏差が残ったままになる。これを残留偏差という。そこで、残留偏差を時間ごとに累積させると、小さい残留偏差も時間を経ると大きくなる。この累積させた、すなわち時間積分させた残留偏差の大きさに比例して操作量を変えると、再び操作量が大きくなり、設定値に近づいていく。この制御が積分制御(I制御)である。
【0059】
しかし、比例制御と積分制御とを組み合わせたPI制御を採用してもまだ不十分な場合がある。積分制御は偏差を時間積分するため演算処理に時間を要する。このため仮に現在値が設定値に対して大きな誤差を生じたとしても、PI制御で制御していればある程度時間が経ってからでないとシステムが反応しない。この問題を解決するために微分制御(D制御)をさらに組み合わせる。微分制御は偏差の変化率、すなわち偏差が変化する速度を捉え、これに比例した操作量をだすため、たとえば上述のように突如、大きな誤差を発生させた場合に高速で応答することが可能となる。以上の3つの制御を組み合わせたPID制御を用いれば、いかなる偏差に対しても高速で応答し、迅速に現在値を設定値に合わせることが可能となる。
【0060】
図15は、PID制御回路が行なう樹脂シートの移動速度Vとロール金型の回転角速度ωとの制御のための演算処理を示すフローチャートである。図15に示すように、新しく形成された微細形状15に対し、入り側角度α、抜け側角度βを計測した結果、およびフラット部の厚みTを計測した結果が、補正回路11に入力される。たとえばα>βかつT>Tであれば、先述の図11の(a)の状況である。この場合、補正回路11に組み込まれたPID制御回路が迅速に、上述した設定値と現在値との偏差であると解釈し、偏差に応じた操作量を求め、V(図14参照)を演算する。そして、PID制御回路は、移動装置12に対し、樹脂シート1の移動速度VをVだけ遅くするよう、指令を出す。同様に、たとえばα>βかつT<Tであれば、先述の図11の(d)の状況である。この場合においても、補正回路11に組み込まれたPID制御回路が迅速に、上述した設定値と現在値との偏差であると解釈し、偏差に応じた操作量を求め、ω(図14参照)を演算する。そして、PID制御回路は、ロール金型回転速度調整装置13に対し、ロール金型4の回転角速度ωをωだけ速くするよう、指令を出す。以下同様に、たとえばα<βかつT>Tであれば、先述の図11の(c)の状況である。PID制御回路は、ロール金型回転速度調整装置13に対し、ロール金型4の回転角速度ωをωだけ遅くするよう、指令を出す。また、たとえばα<βかつT<Tであれば、先述の図11の(b)の状況である。このときPID制御回路は、移動装置12に対し、樹脂シート1の移動速度VをVだけ速くするよう、指令を出す。
【0061】
以上の点においてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2に関して、上述しなかった製造条件や工程などは、すべて本発明の実施の形態1に準ずる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、インラインで計測した結果をインラインで製造条件にフィードバックすることにより、高精度なたとえば長尺状の樹脂シートの一方の主表面上に連続的に形成される微細形状の成形品を提供する技術として特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造装置が制御を行なう動作の流れを示す概略図である。
【図2】本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造装置の外観を示す概略図である。
【図3】本発明の各実施の形態における樹脂シートの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3の工程(S20)の詳細な流れを示すフローチャートである。
【図5】ロール金型が樹脂シートに微細形状を転写する状態を示す概略図である。
【図6】図5の○で囲った部分を詳解するための、ロール金型に形成した微細形状を樹脂シートに転写させた状態を示す簡略図である。
【図7】微細形状を形成させた樹脂シートの外観を示す概略図である。
【図8】第1のデータを概略的に例示する検量線である。
【図9】樹脂シートの移動速度Vの関数である第2のデータを概略的に例示する検量線である。
【図10】ロール金型の回転角速度ωの関数である第2のデータを概略的に例示する検量線である。
【図11】樹脂シート上に形成される微細形状の計測結果に対する制御方法をまとめた図表である。
【図12】微細形状の各角度の計測結果に対する原因と制御方法とをまとめた表である。
【図13】樹脂シートのフラット部の厚みの計測結果に対する原因と制御方法とをまとめた表である。
【図14】補正回路が行なう樹脂シートの移動速度Vとロール金型の回転角速度ωとの制御のための演算処理を示すフローチャートである。
【図15】PID制御回路が行なう樹脂シートの移動速度Vとロール金型の回転角速度ωとの制御のための演算処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 樹脂シート、2 樹脂シート移動用ローラ、3 加熱装置、4 ロール金型、5 基材移動用ローラa、6 基材移動用ローラb、7 基材、8 センサー、9 記憶部、10 演算部、11 補正回路、12 移動装置、13 ロール金型回転速度調整装置、14 V字型形状、15 微細形状。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール金型を回転させながら樹脂シートの一方の主表面上に押圧するとともに、前記ロール金型と前記樹脂シートとが相対的に移動する動作により、前記樹脂シートに連続的に微細形状を形成する樹脂シートの製造方法であって、
前記ロール金型を用いて連続的に微細形状を形成する形成工程と、
前記微細形状を形成する工程を行ないながら、形成された前記微細形状を計測する計測工程と、
前記計測工程での計測結果をもとに、前記形成工程の動作条件を補正する補正工程と
を備える樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記計測工程は、
前記微細形状の表面に光を照射して、反射される光を検出する方法で計測することを特徴とする、請求項1に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂シートに形成される前記微細形状は、前記ロール金型の入り側と抜け側とにそれぞれ傾斜面を有し、
前記計測工程は、前記微細形状の前記入り側の傾斜角度と、前記抜け側の傾斜角度と、前記樹脂シートの厚みとを計測する、
請求項1または2に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
計測結果をもとに動作条件を補正する前記補正工程において、
あらかじめ入力した判断基準と前記計測結果とを比較した比較結果と、
前記微細形状を形成する工程における動作条件と前記微細形状の前記入り側の傾斜角度と前記抜け側の傾斜角度との関係を示す第1のデータと、
前記動作条件と樹脂シートの厚みとの関係を示す第2のデータとを用いて、動作条件を補正することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記動作条件の補正において、PID制御を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
一方の主表面上に連続的に微細形状を形成する、樹脂シートの製造装置であり、
前記樹脂シートを連続的に移動させる移動装置と、
前記樹脂シートの一方の主表面上に連続的に微細形状を形成するロール金型を連続的に回転させる回転装置と、
前記微細形状を計測するセンサーと、
前記微細形状を調整するための補正回路とを備え、
前記補正回路は、
あらかじめ入力した判断基準と前記計測を行なった結果とを比較することにより、連続的に前記微細形状を形成しながら、前記ロール金型または前記樹脂シートの動作を制御する、樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
前記補正回路には、
前記微細形状の入り側の傾斜角度と、前記微細形状の抜け側の傾斜角度と、前記樹脂シートの前記微細形状形成後の厚みとの設計値と、
前記ロール金型の回転の周速度と、前記樹脂シートの移動速度との設定値と、
任意の前記微細形状の入り側の傾斜角度に対して、前記ロール金型の回転の周速度と前記樹脂シートの移動速度との差に対する、前記微細形状の抜け側の傾斜角度と前記微細形状の入り側の傾斜角度との差の関係を示す第1のデータと、
任意の前記樹脂シートの移動速度ないし任意の前記ロール金型に対する前記樹脂シートの前記微細形状形成後の厚みの関係を示す第2のデータとを記憶する記憶部と、
前記センサーが計測した前記微細形状のデータと前記第1のデータおよび前記第2のデータを用いて、前記金型および前記樹脂シートの動作条件を補正する演算部とを備える、請求項6に記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項8】
前記補正回路として、PID制御を用いる、請求項6に記載の樹脂シートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−214332(P2009−214332A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58040(P2008−58040)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】