説明

樹脂バルーンを含有する樹脂組成物

【課題】軽量であるにも関わらず高い強度を有し、且つ量産性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ベース樹脂と、外殻部及びこの外殻部に囲まれた中空部から構成された樹脂バルーンと、を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂バルーンの前記外殻部がニトリル系単量体を93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、前記樹脂バルーンの前記外殻部の平均厚が0.35μm〜0.50μmであり、前記樹脂バルーンの平均粒子径が80μm〜120μmであり、前記樹脂バルーンの粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、前記樹脂バルーンの真比重が0.020g/cc〜0.040g/ccであり、前記樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性が83%以上であり、前記樹脂組成物の比重が0.70〜0.80であることを特徴とする樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂バルーンを含有する樹脂組成物に関し、特に、軽量であるにも関わらず高い強度を有し、且つ生産性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディや蓋もの(開きもの)のヘミング部分(かしめ構造部分)には、シーリング材やアンダーボディーコート材(以下、UBC材ともいう)が用いられている。これらシーリング材やUBC材としては、PVC/アクリル/ウレタン等のべ一ス樹脂に、可塑剤、充填剤、その他添加剤等を配合したものが挙げられる。
【0003】
これに対して、例えば、アクリル樹脂粒子のアクリルゾルに、熱硬化性材料として、遊離のイソシアネート基をブロックしたイソシアネート成分及び特定の潜在性硬化剤を配合したプラスチゾル組成物が提案されている(特許文献1参照)。このプラスチゾル組成物は、低温硬化性、貯蔵安定性、及び低温柔軟性に優れ、自動車等の組立ラインで用いるボディシーラーとして有用であるとされている。また、自動車のアンダーコートやその他金属材料のコーティング材、接着剤としても使用可能であるとされている。
【0004】
また、塩化ビニル系プラスチゾルに、ガラス若しくはシラス系中空状体を添加してなる自動車用シーリング材が提案されている(特許文献2参照)。このシーリング材は、中空状体を用いていることから、体積収縮率が低く軽量化されているため、自動車の防錆・防水用のシーリング材に好適であるとされている。
【0005】
また、熱可塑性樹脂からなる中空微小球をフィラーとして用いたことを特徴とする樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。この樹脂組成物は、低密度のフィラーを用いているため軽量化が実現されており、自動車塗料の充填剤や難燃性組成物の充填剤等に好適であるとされている。
【0006】
また、凝集微小球や真比重の大きな微小球の含有率を極めて低くすることが可能な熱膨張性微小球の製造方法が提案されている(特許文献4参照)。この製造方法で製造された熱膨張性微小球は、外力で破損し難く、軽量化を目的とした樹脂組成物に配合した場合には、成形時の硬化収縮を防止でき、得られた中空体成形品における経時的な熱ヘタリの問題を解消できるとされている。このため、例えば、タイヤとリムとの組立体の空洞部分に充填することにより、タイヤ受傷時の優れた受傷部封止材として、またタイヤ内圧付与材として好適に利用できるとされている。
【特許文献1】国際公開第2001/088011パンフレット
【特許文献2】特開平4−108570号公報
【特許文献3】国際公開第2004/074396パンフレット
【特許文献4】特開2006−213930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案されているプラスチゾル組成物は、比重が高いことから、自動車等に塗布した場合にあっては、重量が増加して燃費に悪影響を及ぼしてしまう。また、充填材として、炭酸カルシウム、ガラスバルーン、プラスチックバルーン等が例示されているが、これらの充填材の配合により、さらに比重が高くなるうえ、組成物全体の強度が低下してしまう。
【0008】
また、特許文献2で提案されている自動車用シーリング材では、ガラス系バルーンやプラスチック系バルーンが用いられているが、外殻部(シェル)の強度が十分ではないため、混合時や吐出時にバルーンが破損し易い。このため、低比重化が十分に達成されないうえ、バルーン自体の硬さやバルーンの破損残骸が原因でホースやノズルを損傷させ易く、生産性が著しく劣る。
【0009】
一方、特許文献3で提案されている樹脂組成物では、充填材を樹脂バルーン化しているため、上記のような生産設備の損傷問題をある程度解決できる。しかしながら、シェル自体の耐圧性が十分ではないことから、配管設備使用時に比重が高くなり、外観不良が生じて使用に耐えない。
【0010】
また、特許文献4では、軽量な中空微粒子である樹脂バルーンの製造方法が提案されているものの、シーリング材の充填剤として樹脂バルーンを用いた場合に必要となる強度や配合量に関して何ら考慮されてはいない。このため、この製造方法によっては、軽量且つ高強度で生産性に優れたシーリング材を得ることはできない。
【0011】
以上の通り、軽量であるにも関わらず高い強度を有し、且つ量産性に優れるという相反性のある課題を解決し得る樹脂組成物は、これまでのところ見出されてはいない。従って、軽量であるにも関わらず高い強度を有し、且つ量産性に優れた樹脂組成物の開発が求められている。
【0012】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量であるにも関わらず高い強度を有し、且つ生産性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の物性を有する樹脂バルーンを用いた樹脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0014】
請求項1記載の樹脂組成物は、ベース樹脂と、外殻部及びこの外殻部に囲まれた中空部から構成された樹脂バルーンと、を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂バルーンの前記外殻部がニトリル系単量体を93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、前記樹脂バルーンの前記外殻部の平均厚が0.35μm〜0.50μmであり、前記樹脂バルーンの平均粒子径が80μm〜120μmであり、前記樹脂バルーンの粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、前記樹脂バルーンの真比重が0.020g/cc〜0.040g/ccであり、前記樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性が83%以上であり、前記樹脂組成物の比重が0.70〜0.80であることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載のシーリング材は、請求項1記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする。
【0016】
請求項3記載のシーリング方法は、請求項2記載のシーリング材を圧送してノズルに供給し、このノズルから前記シーリング材を流出させることを特徴とする。
【0017】
請求項4記載のアンダーボディーコート材は、請求項1記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載のコーティング方法は、請求項4記載のアンダーボディーコート材を圧送してノズルに供給し、このノズルから前記アンダーボディーコート材を流出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の樹脂組成物によれば、樹脂バルーンにおいて、外殻部の平均厚が0.35μm〜0.50μmであり、樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性が83%以上であり、樹脂組成物の比重が0.70〜0.80の範囲内に設定されているため、軽量であるにも関わらず、優れた耐圧性、高い強度を有する樹脂組成物を提供できる。また、本発明に係る樹脂組成物を塗布する際には、吐出ノズルの磨耗を抑制できる。このため、ノズルの交換頻度を低減できることから、低コスト化、生産性の向上が図れる。従って、本発明に係る樹脂組成物は、自動車用シーリング材やアンダーボディーコート材に求められる高強度・低比重・高生産性を備えており、これらの用途に最適である。
【0020】
外殻部の平均厚が0.35μm未満である場合には、厚みが薄く、耐溶剤性及び耐圧性が低すぎて樹脂組成物に含有させた際に実用に耐えない。一方、0.50μmを超える場合には、比重が大きくなることがあるうえ十分な軽量化効果が得られないことがあり、好ましくない。
【0021】
また、繰り返し圧縮耐久性が83%未満である場合には、樹脂バルーンを樹脂組成物中に添加・分散させたときに、攪拌応力によってシェルが破壊されてしまう。本発明における繰り返し圧縮耐久性は、後述する測定方法により測定される。この繰り返し圧縮耐久性は、外殻部を構成する樹脂の重合度測定が困難であることから、重合度の評価軸を置き換えた指標である。
【0022】
また、樹脂組成物の比重が0.70〜0.80の範囲内に設定されているため、高強度・軽量化のバランスがとれた樹脂組成物が得られる。比重が0.70未満である場合には、軽量化は図れるものの、強度が不十分となる。比重が0.80を超える場合には、従来並みの強度は得られるものの、軽量化の効果が十分に発揮されない。
【0023】
また、樹脂バルーンの外殻部がニトリル系単量体を93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、樹脂バルーンの平均粒子径が80μm〜120μmの範囲、粒度分布の変動係数CVが30%以下、及び真比重が0.020g/cc〜0.040g/ccの範囲に設定されているため、軽量であるにも関わらず、より優れた耐圧性、及び高い強度を有する樹脂組成物を提供できる。樹脂バルーンの外殻部が、ニトリル系単量体の配合割合が93質量%未満である場合、樹脂バルーンの耐熱性及び耐溶剤性が低下することがあるため好ましくない。ニトリル系単量体の配合割合が97質量%を超える場合には、樹脂バルーンを得る際に熱膨張性微小球の膨張性が低下することがあるため好ましくない。
【0024】
平均粒子径が80μm未満である場合、樹脂バルーンの外殻厚みが薄くなる結果、繰り返し圧縮耐久性が悪化したり、対溶剤性が低くなることがあるため好ましくない。平均粒子径が120μmを超える場合、樹脂組成物中に樹脂バルーンを添加分散する際の攪拌応力により破壊され易くなり、繰り返し圧縮耐久性も悪化することがあるため好ましくない。
【0025】
樹脂バルーンの変動係数CVが30%を超える場合には、所望の粒子径に対して粗大な粒子が多く含まれることになり、樹脂組成物中に樹脂バルーンを添加分散する際の攪拌応力により破壊され易くなり、繰り返し圧縮耐久性も悪化することがあるため好ましくない。
【0026】
樹脂バルーンの真比重が0.020g/cc未満である場合には、樹脂バルーンの外殻厚みが薄くなる結果、繰り返し圧縮耐久性が悪化したり、対溶剤性が低くなることがあるため好ましくない。真比重が0.040g/ccを超える場合には、所望の軽量な樹脂組成物を得るために必要な樹脂バルーンの添加量が増加するため、樹脂組成物の粘度の増大等によりハンドリング性が低下することがあるため好ましくない。
【0027】
請求項2記載のシーリング材によれば、請求項1記載の樹脂組成物を用いていることにより、軽量性、高強度、及び高耐圧性(高生産性)に優れたシーリング材が得られる。また、請求項3記載のシーリング方法によれば、従来に比して優れた耐圧性を有する請求項2記載のシーリング材を用いることにより、工場の圧送設備においても樹脂バルーンが破壊することなく、使用が可能である。このため、生産性が飛躍的に向上したシーリング方法を提供できる。
【0028】
請求項4記載のアンダーボディーコート材によれば、請求項1記載の樹脂組成物を用いていることにより、軽量性、高強度、及び高耐圧性(高生産性)に優れたアンダーボディーコート材が得られる。また、請求項5記載のコーティング方法によれば、従来に比して優れた耐圧性を有する請求項4記載のアンダーボディーコート材を用いることにより、工場の圧送設備においても樹脂バルーンが破壊することなく、使用が可能である。このため、生産性が飛躍的に向上したコーティング方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0030】
本発明に係る樹脂組成物で用いられる樹脂バルーンは、下記の熱膨張性微小球を加熱膨張させることにより得られる。以下、熱膨張性微小球について説明する。
【0031】
[熱膨張性微小球]
熱膨張性微小球は、従来公知の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法で使用される種々の手法を用いて製造することができる。例えば、ラジカル重合性単量体と、任意に架橋剤及び重合開始剤を含む単量体混合物と、発泡剤と、を混合し、得られた混合物を、適当な分散安定剤等を含む水系懸濁液中で懸濁重合させることにより製造される。
【0032】
図1に、本発明に係る樹脂組成物中に含有される樹脂バルーンの製造に用いられる熱膨張性微小球10の模式図を示す。図1に示されるように、熱膨張性微小球10は、熱可塑性樹脂からなる外殻部11と、外殻部11に内包された発泡剤12とを備える。
【0033】
水系における分散安定剤としては、コロイダルシリカ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナゾル等が挙げられる。これらの分散安定剤は、上記単量体混合物に対して、0.1質量%〜20質量%の割合で使用されるのが好ましい。その他に、分散安定補助剤として、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等の高分子タイプの分散安定補助剤等を用いてもよい。これら分散安定補助剤は、単量体混合物に対して、0.05質量%〜2質量%の割合で使用されるのが好ましい。
【0034】
分散安定剤を含有する水系懸濁液は、分散安定剤及び分散安定補助剤等を水(例えばイオン交換水)に配合して調製される。重合時の水系懸濁液のpHは、使用する分散安定剤及び分散安定補助剤の種類によって適宜決定される。また、水系懸濁液中に水溶性還元剤を添加してもよい。これにより、重合中の凝集微小球の生成が抑制される。水溶性還元剤としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩や、塩化第一スズ、塩化第二スズ、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、水溶性アスコルビン酸類等が挙げられる。これらの中でも、水中での安定性の観点から、亜硝酸アルカリ金属塩が好ましい。その添加量は、単量体混合物に対して0.0001質量%〜1質量%であることが好ましく、0.0003質量%〜0.1質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
重合温度は、重合開始剤の種類に応じて適宜設定されるが、好ましくは40℃〜100℃、さらに好ましくは45℃〜90℃、特に好ましくは50℃〜85℃の範囲である。重合初期圧力については、ゲージ圧で0MPa〜5.0MPa、さらに好ましくは0.1MPa〜3.0MPa、特に好ましくは0.2MPa〜2.0MPaの範囲である。
【0036】
熱膨張性微小球の平均粒子径については、用途に応じて適宜設定される。特に、シーリング材やアンダーコーティング材としての用途の場合には、好ましくは10μm〜40μm、さらに好ましくは15μm〜35μm、特に好ましくは20μm〜30μmの範囲である。
【0037】
また、熱膨張性微小球の粒度分布の変動係数CVは、特に限定されないが、好ましくは30%以下、さらに好ましくは27%以下、特に好ましくは25%以下である。変動係数CVは、下記式(1)及び(2)により算出される。
【数1】

[式(1)及び(2)中、sは粒子径の標準偏差、<x>は平均粒子径、xはi番目の粒子径、nは粒子数を表す。]
【0038】
熱膨張性微小球は、熱可塑性樹脂からなる外殻部と、この外殻部に内包され、且つ外殻部を形成する熱可塑性樹脂の軟化点以下の沸点を有する発泡剤と、から構成されることが好ましい。発泡剤は、熱可塑性樹脂からなる外殻部に内包され、熱可塑性樹脂の軟化点以下の沸点を有する物質であることが好ましい。例えば、発泡剤として、炭素数4〜8の炭化水素が挙げられる。これらの発泡剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。炭素数4〜8の炭化水素としては、例えば、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、イソヘキサン、イソオクタン、石油エーテル等の炭化水素が挙げられる。
【0039】
熱膨張性微小球の外殻部は、例えば、ラジカル重合性単量体を含む単量体混合物に、重合開始剤を適宜配合して重合させることにより得られる熱可塑性樹脂から形成される。ラジカル重合性単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体;塩化ビニリデン;メチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体等が用いられる。これらのラジカル重合性単量体は、1種又は2種以上を併用してもよい。本発明では、単量体混合物がニトリル系単量体を必須成分として含むため、優れた耐熱性及び耐溶剤性が得られる。耐熱性の観点から、ニトリル系単量体の配合割合は、単量体混合物に対して93質量%〜97質量%であることが好ましく、94質量%〜96質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
単量体混合物は、上記ラジカル重合性単量体以外に、重合性二重結合を2個以上有する重合性単量体(架橋剤)を含んでいてもよい。架橋剤を用いて重合させることにより、ガスバリア性、耐溶剤性を向上させることができる。架橋剤としては、特に限定はされないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PEG#200(数平均分子量が200のポリエチレングリコール)、ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のジ(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらの架橋剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。架橋剤の配合割合は、特に限定はされないが、単量体混合物に対して好ましくは0.01質量%〜2.0質量%であり、さらに好ましくは0.05質量%〜1.5質量%である。
【0041】
重合開始剤は特に限定はされず、従来公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。好ましくは、ラジカル重合性単量体に対して可溶な油溶性の重合開始剤が用いられる。
【0042】
[樹脂バルーン]
樹脂バルーンは、外殻部及びこの外殻部に囲まれた中空部から構成される。外殻部は、ニトリル系単量体を全体の93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合して得られる熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0043】
樹脂バルーンの平均粒子径は、好ましくは80μm〜120μm、さらに好ましくは85μm〜115μm、特に好ましくは90μm〜110μmの範囲である。樹脂バルーンの平均粒子径が80μm未満である場合には、樹脂バルーンの外殻厚が薄くなる結果、繰り返し圧縮耐久性が悪化したり、対溶剤性が低くなることがある。平均粒子径が120μmを超える場合には、樹脂組成物中に樹脂バルーンを添加分散する際に、攪拌応力により破壊され易くなり、繰り返し圧縮耐久性が悪化することがある。
【0044】
樹脂バルーンの粒度分布の変動係数CVは、好ましくは30%以下、さらに好ましくは28%以下、特に好ましくは25%以下である。粒度分布の変動係数CVが30%を超える場合には、所望の粒子径に対して粗大な粒子が多く含まれることになる。このため、樹脂組成物中に樹脂バルーンを添加分散する際に、攪拌応力により破壊され易くなり、繰り返し圧縮耐久性も悪化することがある。
【0045】
樹脂バルーンの真比重は、好ましくは0.020g/cc〜0.040g/cc、さらに好ましくは0.025g/cc〜0.038g/cc、特に好ましくは0.028g/cc〜0.035g/ccである。真比重が0.020g/cc未満である場合には、樹脂バルーンの外殻厚が薄くなる結果、繰り返し圧縮耐久性が悪化したり、対溶剤性が低くなることがある。真比重が0.040g/ccを超える場合には、所望の軽量な樹脂組成物を得るのに必要な樹脂バルーンの添加量が増加する結果、樹脂組成物の粘度が増大する等してハンドリング性が低下することがある。
【0046】
また、樹脂バルーンの平均粒子径、真比重、内包率を調整することにより、樹脂バルーンの外殻厚(膜厚)を調整することができる。樹脂バルーンの外殻部の平均厚は、0.35μm〜0.50μmであり、さらに好ましくは0.35μm〜0.45μmである。外殻部の平均厚が0.35μm未満である場合には、繰り返し圧縮耐久性が悪化したり、対溶剤性が低くなることがあるため好ましくない。外殻部の平均厚が0.50μmを超える場合には、所望の軽量な樹脂組成物を得るのに必要な樹脂バルーンの添加量が増加する結果、樹脂組成物の粘度が増大する等してハンドリング性が低下することがあるため好ましくない。
【0047】
樹脂バルーンの外殻部の理論平均膜厚は、下記式(3)により算出される。ここで、平均膜厚は、外殻部の平均厚と同義である。
【数2】

[式(3)中、<x>は熱膨張性微小球全体としての平均粒子径(μm)、dcは微小球の平均真比重(g/cc)、dpは外殻を構成する熱可塑性樹脂の平均真比重(g/cc)、Gは発泡剤の内包率(質量%)を表す。]
【0048】
樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性は、83%以上であり、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは87%以上である。繰り返し圧縮耐久性が83%より小さい場合には、樹脂組成物中に樹脂バルーンを添加分散する際に、攪拌応力により破壊され易くなることがあるため好ましくない。
【0049】
樹脂バルーンの製造方法については、上記熱膨張性微小球を加熱膨張させる方法であればよく、特に限定はされない。例えば、上記熱膨張性微小球を含む気体流体を、出口に分散ノズルを備え且つ熱風流の内側に設置された気体導入管に流通させ、分散ノズルから噴射させる工程(噴射工程)と、気体流体を分散ノズルの下流部に設置された衝突板に衝突させ、熱膨張性微小球を熱風気流中に分散させる工程(分散工程)と、分散させた熱膨張性微小球を熱風気流中で膨張開始温度以上に加熱して膨張させる工程(膨張工程)と、を含む製造方法により製造される。
【0050】
上記製造方法は、例えば、発泡工程部を備えた製造装置を用いて行うことができる。図2に、発泡工程部を備えた製造装置の概略図を示す。図2において、1は熱風ノズル、2は冷媒流、3は過熱防止筒、4は分散ノズル、5は衝突板、6は熱膨張性微小球を含む気体流体、7は気体流、8は熱風流、11は熱風ノズル、12は分散ノズル、13は熱風流、14は熱膨張性微小球を含む気体流体をそれぞれ示す。
【0051】
この発泡工程部は、出口に分散ノズル4を備え且つ中央部に配置された気体導入管と、分散ノズル4の下流部に設置された衝突板5と、気体導入管の外周囲に間隔を空けて配置された過熱防止筒3と、過熱防止筒3の外周囲に間隔を空けて配置された熱風ノズル1とを備える。発泡工程部においては、気体導入管内の矢印方向に熱膨張性微小球を含む気体流体6が流通し、気体導入管と過熱防止筒3との間に形成された空間には、熱膨張性微小球の分散性の向上及び気体導入管と衝突板の過熱防止のための気体流7が矢印方向に流通している。さらに、過熱防止筒3と熱風ノズル1との間に形成された空間には、熱膨張のための熱風流8が矢印方向に流通している。ここで、熱風流8、気体流体6、及び気体流7は、通常、同一方向の流れであるが、必ずしも同一方向でなくてもよい。過熱防止筒3の内部には、冷却のために、冷媒流2が矢印方向に流通している。
【0052】
凝集微小球や熱融着体の生成を抑制するためには、気体導入管及び/又は衝突板5が過熱防止機能を備えていることが好ましい。衝突板5の形状は特に限定されないが、紡錘形、円錐形、角錐形、球形、半球形、及びこれらを組み合わせた形状等が挙げられる。
【0053】
この製造方法における噴射工程では、熱膨張性微小球を含む気体流体6を、出口に分散ノズル4を備え且つ熱風流8の内側に設置された気体導入管に流通させ、気体流体6を分散ノズル4から噴射させる。気体流体6については、熱膨張性微小球を含む気体の流体であれば特に限定はされないが、熱膨張性微小球を含み、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性気体の流体であることが好ましい。また、気体流体6に含まれる水分量は、熱膨張性微小球の分散不良等を考慮すると、好ましくは30g/m以下、さらに好ましくは9.3g/m以下である。気体流体6の流速については、特に限定はされないが、次の分散工程において、どの熱膨張性微小球に対しても、できるだけ同じ熱履歴を受けさせて熱風気流8中で膨張できるように調整されることが好ましい。
【0054】
この製造方法における分散工程では、気体流体6を分散ノズル4の下部に設置された衝突板5に衝突させ、熱膨張性微小球が熱風気流8中に万遍なく分散するように操作される。ここで、分散ノズル4から出た気体流体6は、気体流7とともに衝突板5に向かって誘導され、衝突板5に衝突する。気体流7としては、気体流体6と同様の気体を用いることができる。
【0055】
この製造方法における膨張工程では、分散した熱膨張性微小球を熱風気流8中で膨張開始温度以上に加熱して膨張させる。その後、樹脂バルーンを冷却部分に通過させる等して、熱膨張性微小球の外殻である熱可塑性樹脂の軟化点以下の温度まで冷却し、樹脂バルーンが回収される。回収は、サイクロンやバグフィルター等の一般的な固気分離装置を用いることが好ましい。
【0056】
上記製造方法において、得られた樹脂バルーンを、液状有機化合物で湿潤させる工程(湿化工程)をさらに含むことが好ましい。これにより、樹脂バルーン発塵が防止され、樹脂バルーンを樹脂成分に添加混合する際の分散性が向上する。この液状有機化合物については特に限定はされず、例えば、得られた樹脂バルーンの性質、使用目的に応じて適宜選定することができる。基本的には、(i)液状有機化合物が、発泡剤の気化温度よりも高い沸点を有すること、(ii)液状有機化合物が、樹脂バルーンの外殻部を構成する熱可塑性樹脂を溶解又は膨潤しないこと、の2要件を満たすことが好ましい。
【0057】
上記(i)の要件を満たすため、及び保存中の揮発を避けるためには、液状有機化合物の沸点は、好ましくは80℃〜270℃、さらに好ましくは90℃〜260℃、特に好ましくは100℃〜250℃である。
【0058】
上記(ii)の要件は、本製造方法における原料として、上記架橋剤を併用して製造された熱膨張性微小球を使用することにより、その耐溶剤性を向上させることができる。このため、液状有機化合物について、選択の自由度が著しく向上する。
【0059】
液状有機化合物の種類については、特に限定はされない。液状有機化合物としては、例えば、湿潤させて得られる組成物を、プラスチック、エラストマー、シーラント、塗料等に用いる場合には、ジブチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジオクチルアジベート、トリクレジルホスフェート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、オクチルアルコール等の可塑剤;湿潤させて得られる組成物を軽量発泡成形体や接着剤用に用いる場合には、ジシクロペンタジエンやスチレン等の単量体が挙げられる。また、上記以外の液状有機化合物としては、例えば、非イオン界面活性剤、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、シリコーンオイル、流動パラフィン、油脂類等が挙げられる。これらの液状有機化合物は、2種以上を混合して用いてもよい。また、液状有機化合物の代わりに水を用いてもよい。
【0060】
樹脂バルーンと液状有機化合物(又は水)の配合比については、特に限定はされず、樹脂バルーンの表面性や真比重による発塵具合等を考慮して適宜決定される。具体的には、その樹脂バルーンの発塵が目立たなくなる配合比が好ましい。液状有機化合物量が多すぎる場合には、余分な液状有機化合物の存在により、液状有機化合物と樹脂バルーンとの割合が部分的に不均一になる。このような観点から、例えば、真比重が0.03g/ccの樹脂バルーン10質量部に対しては、液状有機化合物が90質量部以下であることが好ましい。一方、液状有機化合物が少なすぎると、樹脂バルーンの発塵が目立つため好ましくない。
【0061】
湿化工程を実施するためには、樹脂バルーンを、液状有機化合物とともに揺動又は攪拌する。揺動又は攪拌は、一般的な粉体混合機を用いて行うことができ、例えばリボン型ミキサー、副軸ローター型混合機等を用いて行うことができる。以下、湿化工程について詳しく説明するが、これに限定されない。湿化工程で用いる装置(以下、湿化装置という)に所定量の樹脂バルーンを投入し、液状有機化合物(又は水)を添加する。この際、樹脂バルーンの揺動又は攪拌面0.07m以上に対して、1つの吐出口より液状有機化合物を吐出し(例えば、2L/分以下で)、液状有機化合物を添加後、この装置で樹脂バルーンを均一に湿化できるまで揺動又は攪拌する。吐出口は、揺動若しくは攪拌面上、又は、内に設ける。1つの吐出口あたりの揺動又は攪拌面は、吐出口より出た液状物同士の干渉のために樹脂バルーンの揺動又は攪拌による微小球の運動が低下することなく、液状有機化合物が微小球に十分に接触して全体の均一湿化ができるように設定する。また、この時の液状有機化合物の吐出量は、揺動又は攪拌している微小球に十分に接触して、全体の均一湿化ができるように設定する。
【0062】
吐出口は、可動式として揺動若しくは攪拌面上、又は内を動くようにすれば非常に効率が良い。可動式の移動速度にもよるが、例えば、20cm/秒の移動速度では、固定式の吐出口の約5倍の吐出量での湿化が可能である。このため、液状物質を添加後に均一に湿化できるまでの揺動又は攪拌に要する時間を短縮できる。
【0063】
この吐出口は、単に配管やホースのエンド部でもよい。また、シャワー状の口やスプレー口を用いてもよい。粘度の高い液状有機化合物を吐出するためにある程度加圧し、棒状の液を吐出することにより、微小球が廻りに飛散するのを抑制できる。圧力を極めて高くして噴霧状態にすると、揺動又は攪拌している微小球を廻りに飛散させることとなり、湿化装置の密閉化や集塵装置が必要となってくる。
【0064】
樹脂バルーンに液状有機化合物を添加した後、均一に湿化できるまで揺動又は攪拌する。終点の判定は、湿化装置内の複数の部分より試料を採取し、各試料0.5g〜0.8gについて、液体置換法にて真比重を測定し、その値のばらつき、例えば標準偏差等で行うことができる。
【0065】
[ベース樹脂]
本発明に係る樹脂組成物に用いられるベース樹脂としては、特に限定されないが、例えばSBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PU(ポリウレタン)、PS(ポリスチレン)、天然ゴム、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。樹脂の種類は、用途やコストに応じて適宜選択し得るが、環境の面からアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
[可塑剤]
本発明に係る樹脂組成物は、可塑剤を含有していてもよい。可塑剤としては、一般的な可塑剤を用いることができる。具体的には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。汎用性や調達コストの面から、フタル酸エステル系可塑剤が好ましい。可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、20容量%〜40容量%であることが好ましく、さらに好ましくは25容量%〜35容量%である。
【0067】
[その他添加剤]
本発明に係る樹脂組成物は、希釈剤、硬化剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。これら希釈剤、硬化剤としては従来公知のものを用いることができ、本発明の効果が奏される範囲内で配合することができる。
【0068】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、ベース樹脂及び樹脂バルーンに、可塑剤、硬化剤、希釈剤等の任意成分を配合し、これらを従来公知の手段(例えば、プラネタリアミキサー)を用いて一括混合することにより製造することができる。
【0069】
本発明に係る樹脂組成物は、比重が0.70〜0.80の範囲内である。比重が0.70未満である場合には、塗料としての吐出が困難であり、比重が0.80を超える場合には、十分な軽量化効果が得られない。好ましい比重の範囲は、0.75〜0.80である。
【0070】
[平均粒子径及び粒度分布]
樹脂バルーンの平均粒子径及び粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製 HEROS&RODOS)を用いて測定される。乾式分散ユニットの分散圧は5.0bar、真空度は5.0mbarで乾式測定法により測定し、D50値を平均粒子径とする。
【0071】
[真比重]
樹脂バルーンの真比重は、温度25℃において、イソプロピルアルコールを用いた液置換法(アルキメデス法)により測定される。具体的には、容量100ccのメスフラスコを空にし、乾燥後、メスフラスコ重量(WB1)を秤量する。秤量したメスフラスコにイソプロピルアルコールをメニスカスまで正確に満たした後、イソプロピルアルコール100ccの充満されたメスフラスコの重量(WB2)を秤量する。また、容量100ccのメスフラスコを空にし、乾燥後、メスフラスコ重量(WS1)を秤量する。秤量したメスフラスコに約50ccの樹脂バルーンを充填し、樹脂バルーンの充填されたメスフラスコの重量(WS2)を秤量する。そして、樹脂バルーンの充填されたメスフラスコに、イソプロピルアルコールを気泡が入らないようにメニスカスまで正確に満たした後の重量(WS3)を秤量する。得られたWB1、WB2、WS1、WS2、及びWS3を下記式(4)に導入することにより、樹脂バルーンの真比重dcが算出される。
【数3】

【0072】
[樹脂バルーンの含水率]
樹脂バルーンの含水率は、カールフィッシャー水分計(MKA−510N型、京都電子工業株式会社製)を用いて測定される。
【0073】
[樹脂バルーンに封入された発泡剤の内包率]
樹脂バルーン1.0gを直径80mm、深さ15mmのステンレス製蒸発皿に入れ、その重量(W1)を測定する。アセトニトリル30mlを加えて均一に分散させ、3時間室温で放置した後に、120℃で2時間加熱し、乾燥後の重量(W2)を測定する。得られたW1及びW2を下記式(5)に導入することにより、発泡剤の内包率が算出される。
【数4】

[式(5)中、含水率は上記の方法により測定される。]
【0074】
[樹脂バルーンの外殻部の真比重]
樹脂バルーン30gをアセトニトリル900mlに分散させた後、超音波分散機で30分間処理し、室温で3時間放置した後、120℃で5時間加熱乾燥させる。得られた乾燥微粒子を真空ポンプでさらに2時間減圧乾燥し、質量変化が無いことを確認したうえで、上記真比重の測定方法と同様にして外殻部(外殻部を構成する熱可塑性樹脂)の真比重dpが測定される。
【0075】
[繰り返し圧縮耐久性]
本発明で用いられる樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性は、以下のようにして算出される。先ず、上記で得られた樹脂バルーン2.00mgを、直径6mm(内径5.65mm)及び深さ4.8mmのアルミカップに入れ、樹脂バルーン層の上部に直径5.6mm及び厚み0.1mmのアルミ蓋を載せたものを試料とする。次いで、DMA(DMAQ800型、TA instruments社製)を使用し、この試料に25℃の環境下で加圧子によりアルミ蓋の上部から2.5Nの力を加えた状態での樹脂バルーン層の高さL1を測定する。その後、樹脂バルーン層を2.5Nから18Nまで10N/minの速度で加圧後、18Nから2.5Nまで10N/minの速度で除圧する操作を、8回繰り返した後、加圧子によりアルミ蓋上部から2.5Nの力を加えた状態の樹脂バルーン層の高さL2を測定する。そして、下記式(6)に示すように、測定した樹脂バルーン層の高さL1とL2との比を繰り返し圧縮耐久性と定義する。
【数5】

【0076】
[用途]
本発明に係る樹脂組成物は、強度が高く比重も低いことから、自動車用のシーリング材やアンダーボディーコート材として最適である。このため、本発明に係る樹脂組成物は、自動車鋼板の継ぎ目、車体フロア裏面、ホイールハウス等にシーリングガン等を用いて塗布される。また、本発明に係る樹脂組成物は樹脂組成物自体の耐圧性が高いため、樹脂組成物を圧送した場合であっても樹脂バルーンが破壊されることがほとんどなく、ロボット等で大量の自動車に塗布させる工場ラインにおいても使用可能である。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
<樹脂バルーンの耐圧性評価>
[実施例1〜2、比較例1]
以下の手順に従って、樹脂バルーンを製造した。イオン交換水500gに、塩化ナトリウム150g、アジピン酸−ジエタノールアミン縮合物3.0g、コロイダルシリカ20g(有効成分量:20%)、及び亜硝酸ナトリウム0.15gを加えた後、均一に混合し、これを水相とした。
【0079】
次いで、アクリロニトリル200g、メタクリロニトリル100g、イソボルニルメタクリレート25g、トリメチロールプロパントリメタクリレート1.0g、アゾビスイソブチロニトリル2.0g、及びイソペンタン100gを混合、攪拌、溶解し、これを油相とした。
【0080】
得られた水相と油相とを混合し、ホモミキサーで3,000rpmにて2分間予備混合した後、10,000rpmにて2分間攪拌し、縣濁液とした。これを反応器に移し、窒素置換をしてから攪拌しつつ、61℃×20時間重合させた。重合後、重合生成物を濾過、乾燥し、熱膨張性微小球を得た。
【0081】
得られた熱膨張性微小球を、図2に示される発泡工程部を備えた製造装置で加熱膨張させることにより、樹脂バルーンを製造した。膨張条件としては、原料供給量1.0kg/h、原料分散気体量0.05m/min、熱風流量0.5m/min、熱風温度を250℃に設定した。
【0082】
上記樹脂バルーンの製造において、前記膨張条件の設定を適宜変更することにより、外殻部の平均厚が異なる3種類の樹脂バルーンを製造した。
【0083】
さらに、上記3種類の各樹脂バルーン40容量%をそれぞれ、アクリルウレタン樹脂(アクリル樹脂:三菱レイヨン製「LP−3106」、ウレタン樹脂:TDI系ブロックイソシアネート)25容量%、可塑剤(フタル酸ジイソノニル)30容量%、希釈剤(パラフィン系高沸点炭化水素)3容量%、硬化剤(ドデカン二酸ジヒドラジド)2容量%と混合し、4種類の樹脂組成物を調製した。外殻部の平均厚が0.30μmの樹脂バルーンを配合した樹脂組成物を比較例1とし、同様にして0.40μmのものを実施例1とし、0.50μmのものを実施例2とした。なお、各樹脂バルーンの平均粒子径、粒度分布の変動係数、真比重、繰り返し圧縮耐久性は表1に示す通りであった。
【0084】
【表1】

【0085】
[比較例2〜10]
上記樹脂バルーンの製造において、アクリロニトリル200g、メタクリロニトリル100g、イソボルニルメタクリレート25gとあるところを、アクリロニトリル195g、メタメチルメタクリレート130gに変更した以外は上記実施例と同様の操作を行い、外殻部の平均厚が0.26μm〜0.80μmの範囲内となるように、外殻部の平均厚が異なる9種類の樹脂バルーンを製造した。
【0086】
得られた9種類の樹脂バルーンを用いて、実施例と同様の手順により樹脂組成物を調製した。外殻部の平均厚が0.26μmの樹脂バルーンを配合した樹脂組成物を比較例2とし、同様にして0.40μmのものを比較例3、0.45μmのものを比較例4、0.50μmのものを比較例5、0.52μmのものを比較例6、0.55μmのものを比較例7、0.56μmのものを比較例8、0.60μmのものを比較例9、0.80μmのものを比較例10とした。なお、各樹脂バルーンの平均粒子径、粒度分布の変動係数、真比重、繰り返し圧縮耐久性は表2に示す通りであった。
【0087】
【表2】

【0088】
[評価]
ポンプ(グラコ社製エアレスポンプ圧縮比65:1)、ホース(汎用耐圧ホース3部×5m)、をグラコ社製Precision FLO XL システムに接続してなるシーリング材吐出設備を作製した。作製したシーリング材吐出設備を用いて、圧力20MPa、最高温度40℃の条件で、実施例及び比較例で得られたそれぞれの樹脂組成物を45分間吐出した後の比重と、吐出前の初期比重とを測定した。比重の変化の要因は、そのほとんどが樹脂バルーンの破壊に因るものであることから、両者から比重変化率を算出することで樹脂バルーン破壊率を推測して評価した。外殻部の平均厚(平均外殻厚)と破壊率との関係を図3に示す。
【0089】
外殻部の平均厚を厚くすれば耐圧性が向上することは自明であるが、外殻部の平均厚の調整は樹脂バルーンの平均粒子径、真比重、内包率等の調整により行われる。この点、図3に示されるように、樹脂組成物の比重が0.70〜0.80であり、繰り返し圧縮耐久性が83%以上である実施例1〜2の樹脂バルーンにおいては、外殻部の平均厚が0.35μm〜0.50μmの範囲内であるときに、破壊率が極小を示すことが確認された。即ち、樹脂組成物の比重が0.70〜0.80であるときに、外殻部がニトリル系単量体を93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、外殻部の平均厚を0.35μm〜0.50μmの範囲内に設定するとともに、樹脂バルーンの平均粒子径が80μm〜120μmの範囲、粒度分布の変動係数CVが30%以下、真比重が0.020g/cc〜0.040g/ccの範囲、樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性を83%以上に設定することにより、樹脂バルーンの耐圧性を飛躍的に向上させることができ、樹脂バルーンの破壊を最小限に抑えることができることが確認された。
【0090】
<樹脂組成物の強度評価>
[実施例3〜5、比較例11〜15]
上記実施例及び比較例で用いた材料で同様の手順により、実施例3〜5及び比較例11〜15の樹脂組成物を、表3に示す配合に従って調製した。調製した樹脂組成物に対して、JlS K7113「プラスチックの引張試験方法」に基づいて強度評価を行った。試験片は、第2号試験片(ダンベル形状)を用いた。試験速度は、速度Fの引っ張り速度50mm/minとした。試験片切断時の最大引張り力を、樹脂組成物の強度(MPa)として評価した。強度目標は、0.8MPa以上とした。評価結果を表3に示した。なお、表3において、樹脂バルーン(A)は、比較例5で用いた樹脂バルーン(繰り返し圧縮耐久性が83%未満、外殻部の平均厚が0.5μm)を表し、樹脂バルーン(B)は、実施例2で用いた樹脂バルーン(繰り返し圧縮耐久性が83%以上、外殻部の平均厚が0.5μm)を表す。
【0091】
【表3】

【0092】
シーリング材やアンダーボディーコート材としての用途の場合、樹脂組成物に求められる強度は0.8MPa以上であるとされている。この点、実施例3〜5に係る樹脂組成物は、比重が0.80以下であるにも関わらず、いずれも0.8MPa以上の強度を備えており、シーリング材やアンダーボディーコート材として最適であることが分かった。
【0093】
<吐出ノズル磨耗性評価>
[実施例6、比較例16〜17]
上記実施例4に係る樹脂組成物と同じものを実施例6として、吐出ノズル磨耗性の評価に用いた。また、実施例4に係る樹脂組成物中に配合されている樹脂バルーンの代わりに、炭酸カルシウムを配合したものを比較例16とし、ガラスバルーンを配合したものを比較例17として、吐出ノズル磨耗性の評価に用いた。
【0094】
先ず、ポンプ(グラコ社製エアレスポンプ圧縮比45:1)、ホース(汎用耐圧ホース3部×5m)、吐出ノズル(エクスカ社製ステンレス製口径0.5mm)を接続してなるシーリング材吐出設備を作製した。作製したシーリング材吐出設備は、実施例及び比較例の各樹脂組成物を吸引し、吐出ノズルからシーリング材を任意の圧力、吐出量にて吐出することができる。
【0095】
作製したシーリング吐出設備を用いて、圧力20MPa、最高温度40℃の条件で、実施例及び比較例それぞれの樹脂組成物を250L分吐出した後のノズルの磨耗状況を評価した。具体的には、ノズルの重量変化率と、ノズルの口径を測定した。その結果を表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4に示されるように、樹脂バルーンを充填材とした本実施例によれば、炭酸カルシウムやガラスバルーン等の無機バルーンを用いた比較例に比して、ノズルの磨耗を大きく低減できることが分かった。このため、本実施例の樹脂組成物を用いてなるシーリング材やアンダーボディーコート材は、吐出量が安定し、且つノズルの交換の頻度が減ることから、生産性の向上に大きく寄与できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の樹脂バルーンの製造に用いられる熱膨張性微小球の模式図である。
【図2】発泡工程部を備えた製造装置の概略図である。
【図3】樹脂バルーンの平均外殻厚と破壊率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
10 熱膨張性微小球
11 外殻部
12 発泡剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂と、外殻部及びこの外殻部に囲まれた中空部から構成された樹脂バルーンと、を含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂バルーンの前記外殻部がニトリル系単量体を93質量%〜97質量%含有する単量体混合物を重合させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂バルーンの前記外殻部の平均厚が0.35μm〜0.50μmであり、
前記樹脂バルーンの平均粒子径が80μm〜120μmであり、
前記樹脂バルーンの粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、
前記樹脂バルーンの真比重が0.020g/cc〜0.040g/ccであり、
前記樹脂バルーンの繰り返し圧縮耐久性が83%以上であり、
前記樹脂組成物の比重が0.70〜0.80であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とするシーリング材。
【請求項3】
請求項2記載のシーリング材を圧送してノズルに供給し、このノズルから前記シーリング材を流出させることを特徴とするシーリング方法。
【請求項4】
請求項1記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とするアンダーボディーコート材。
【請求項5】
請求項4記載のアンダーボディーコート材を圧送してノズルに供給し、このノズルから前記アンダーボディーコート材を流出させることを特徴とするコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90299(P2010−90299A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262710(P2008−262710)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】