説明

樹脂フィルム付金属製外装材及びその製造方法

【課題】アルミニウムやステンレス等の基材金属に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れた樹脂フィルム付金属製外装材を提供する。
【解決手段】基材金属1と、基材金属1の一方又は両方の面に設けられた下地皮膜2と、下地皮膜2上に設けられたラミネートフィルム又は樹脂塗膜3とを有し、その下地皮膜2が金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜である樹脂フィルム付金属製外装材。このとき、金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜は、置換めっき法又は電気めっき法で形成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム付金属製外装材及びその製造方法に関する。詳しくは、電解液に接触した場合でも基材金属とラミネートフィルム又は樹脂塗膜との密着性を維持することができる樹脂フィルム付金属製外装材及びその製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、アルミニウムやステンレス等の基材金属に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れた樹脂フィルム付金属製外装材等に関する。
【背景技術】
【0003】
ラミネート加工は、樹脂製のフィルム(以下、樹脂フィルム又はラミネートフィルムという。)を金属材料の表面に加熱圧着する加工手段であって、表面を保護すること又は意匠性を付与することを目的とした金属材料表面の被覆方法の一つであり、様々な分野で使用されている。ラミネート加工は、金属材料の表面に樹脂組成物を塗布乾燥することによって樹脂塗膜を形成する方法に比べ、乾燥時に発生する溶剤や二酸化炭素等の廃棄ガス又は温暖化ガスの発生量が少ない。そのため、環境保全の観点から好ましく適用され、その用途は拡大し、例えば、アルミニウム薄板材、スチール薄板材、包装用アルミニウム箔又はステンレス箔等を素材とした食品用缶のボディー若しくは蓋材、食品用容器、又は、乾電池容器等に用いられている。
【0004】
特に最近では、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコン又はビデオカメラ等に用いられるモバイル用リチウムイオン2次電池の外装材として、軽量でバリア性の高いアルミニウム板又はステンレス板等の金属板が好ましく用いられており、こうした金属板の表面にラミネート加工が適用されている。また、電気自動車又はハイブリッド自動車の駆動エネルギーとしてリチウムイオン2次電池が検討されているが、その外装材としても、ラミネート加工した金属板が検討されている。
【0005】
こうしたラミネート加工に用いるラミネートフィルムは、直接金属材料に貼り合わせた後に加熱圧着する。そのため、樹脂組成物を塗布乾燥してなる一般的な樹脂塗膜に比べて原材料のムダを抑制できる、ピンホール(欠陥部)が少ない、及び加工性が優れる、等の利点がある。ラミネートフィルムの材料としては、一般に、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド系樹脂が用いられている。
【0006】
ラミネートフィルムを金属材料の表面(以下、単に「金属表面」ともいう。)にラミネート加工する際、ラミネートフィルムと金属表面との密着性及び金属表面の耐食性を向上させるために、金属表面を脱脂洗浄した後、通常、リン酸クロメート等の化成処理等が施される。しかしながら、こうした化成処理は、処理後に余剰の処理液を除去するための洗浄工程が必要であり、その洗浄工程から排出される洗浄水の廃水処理にコストがかかる。特にリン酸クロメート等の化成処理等は六価クロムを含む処理液が用いられるので、近年の環境的配慮から敬遠される傾向にある。
【0007】
一方、金属表面に化成処理等の処理を施さないでラミネート加工を行うと、金属表面からラミネートフィルムが剥離したり金属材料に腐食が生じたりするという問題がある。例えばリチウムイオン2次電池の外装材等においては、その製造工程で加工度の高い加工を受ける。リチウムイオン2次電池の電解質は、炭酸エチル又は炭酸ジエチル等の有機溶剤と、ヘキサフルオロリン酸リチウム又はテトラフルオロホウ酸リチウム等のフッ素系リチウム錯塩とが用いられる。そのため、こうした外装材が長期間使用されると、電解質である有機溶剤のみならず、大気中の水分が容器内に浸入し、これが電解質と反応してフッ化水素酸を生成し、そのフッ化水素酸がラミネートフィルムを透過して金属表面とラミネートフィルムとの剥離を発生させるとともに、金属表面を腐食するという問題がある。また、ラミネートする前に金属材料を予備加熱(200〜300℃)する場合があり、熱によって皮膜が劣化し密着性を低下させる問題がある。
【0008】
リチウム2次電池を包装する包装材として、有機溶剤やフッ化水素酸に対して耐性を有する積層体が種々提案されている、例えば、特許文献1では、最外層/バリア層/最内層、又は、最外層/バリア層/中間層/最内層からなる積層体において、前記バリア層の最内層面側表面を脱脂、又は表面酸化物を除去し、リン酸塩皮膜、クロム酸塩、フッ化物系化合物又は、有機ケイ素化合物、有機チタン系化合物、有機アルミ系化合物からなる耐酸性皮膜の形成及び/又はシラン系、有機チタン系、有機アルミ系の物質からなるカップリング処理等を施した積層体が提案されている。この技術によれば、ポリマー電池を収納するケースに用いる積層フィルムとして、水蒸気その他のガスバリア性に優れ、また、耐内容物性と積層体の層間の接着強度とに優れ、かつ、耐突き刺し性等をはじめ機械的強度があり、また高温においても使用可能であり、電解液に対しても安定した積層体の構成を提供できるとされている。
【0009】
また、特許文献2では、シーラント層の一方の面に、少なくとも接着樹脂層、第1の化成処理層、アルミニウム箔層、第2の化成処理層、接着剤層及び基材層が順次積層されたリチウムイオン電池用包装材において、アルミニウム箔層が、両面がエッチングされたアルミニウム箔からなり、第1の化成処理層及び第2の化成処理層が酸化亜鉛被膜からなるリチウムイオン電池用包装材が提案されている。この技術によれば、環境負荷の可能性があるクロムを使用することなく、優れた耐電解液性、耐フッ酸性が得られ、かつアルミニウム箔の両面に簡便に化成処理層を形成できる高い生産性のリチウムイオン電池用包装材を提供できるとされている。
【0010】
また、特許文献3では、プラスチック製ベースフィルムと金属箔と機能性プラスチック層とを重ね合わせたプラスチックラミネートフィルムにおいて、金属箔の少なくとも機能性プラスチック層の方に向けられた面と機能性プラスチック層の金属箔の方に向けられた面と機能性プラスチック層の内部とに又はそのうちのいずれかに、少なくとも1つクロム層のような金属製保護層が物理気相蒸着法によって成膜する技術が提案されている。この技術によれば、個々の層間の密着性を高めて、リチウムイオンポリマー電池やリチウムポリマー電池のクラッディングに使用されるプラスチックラミネートフィルムとして好ましく用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−35453号公報
【特許文献2】特開2011−76887号公報
【特許文献3】特表2009−544492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1〜3で提案された技術はいずれもリチウム2次電池を包装するためのラミネートフィルムであり、前記したような加工度の高い加工を受けない。そのため、そのラミネートフィルムに対して加工度の高い加工がされた後に長期間使用された場合に、依然として高い耐電解液性を有するか否かは不明である。
【0013】
本発明の目的は、アルミニウムやステンレス等の基材金属に樹脂フィルムをラミネートし又は樹脂塗膜(以下「樹脂フィルム」ともいう。)を形成し、その後に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れた樹脂フィルム付金属製外装材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材は、基材金属と、該基材金属の一方又は両方の面に設けられた下地皮膜と、該下地皮膜上に設けられたラミネートフィルム又は樹脂塗膜とを有し、前記下地皮膜が金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜であることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、基材金属と樹脂フィルムとの間の下地皮膜として金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を設けたところ、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しない高い密着性を示し、かつ酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持するという結果が得られた。
【0016】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材において、前記ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が、ポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンを含むことが好ましい。
【0017】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材において、前記基材金属が、アルミニウム又はその合金、ステンレス鋼、銅又はその合金、及びニッケル又はその合金、から選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材において、前記金属亜鉛含有皮膜が、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の元素を含むように構成してもよい。
【0019】
この発明によれば、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の元素を含む金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜として設けることにより、例えば置換めっきで下地皮膜を形成する場合には基材金属の置換量を低減でき、さらにその下地皮膜の機械的強度を高めることができる。
【0020】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材において、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工が施されてなるように構成してもよい。
【0021】
この発明によれば、樹脂フィルムを設けた後の金属製外装材に対して深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、樹脂フィルムが剥離しない高い密着性と、酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性とを備えている。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法は、基材金属の一方又は両方の面に、置換めっき法又は電気めっき法で金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜として形成する工程と、前記下地皮膜上に、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、基材金属の一方又は両方の面に置換めっき法又は電気めっき法で金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜として形成し、その後、下地皮膜上にラミネートフィルム又は樹脂塗膜を形成したところ、製造された樹脂フィルム付金属製外装材は、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しない高い密着性を示し、かつ酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持するという結果が得られた。
【0024】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法において、深絞り加工、しごき加工及びストレッチドロー加工から選ばれるいずれか1又は2以上の加工工程をさらに有するように構成してもよい。
【0025】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法において、前記下地皮膜の形成工程の前に、前記基材金属の表面の酸化物皮膜を除去する工程をさらに有するように構成してもよい。
【0026】
この発明によれば、下地皮膜の形成工程の前に基材金属の表面の酸化物皮膜を除去する工程をさらに有するので、基材金属と下地皮膜との密着性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材及びその製造方法によれば、基材金属と樹脂フィルムとの間の下地皮膜として金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を設けることにより、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しない高い密着性を示し、かつ酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持するという結果を得ることができた。こうした効果を備えた樹脂フィルム付金属製外装材に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、そのラミネートフィルム又は樹脂塗膜が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れるという効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材及びその製造方法について説明する。なお、以下の説明及び図面の形態により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0030】
[樹脂フィルム付金属製外装材]
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10は、図1に示すように、基材金属1と、その基材金属1の一方又は両方の面に設けられた下地皮膜2と、その下地皮膜2上に設けられたラミネートフィルム又は樹脂塗膜(以下、特に断らない限り「樹脂フィルム3」という。)とを有している。そして、その下地皮膜2が、金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜であることに特徴がある。なお、図1では、基材金属1の片面に下地皮膜2と樹脂フィルム3を設けているが、基材金属1の両面に下地皮膜2と樹脂フィルム3を設けてもよい。
【0031】
以下、本発明の構成を詳しく説明する。
【0032】
(基材金属)
基材金属1は、本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10のベース(基材)となる金属の薄板材又は箔である。基材金属1の材質としては、アルミニウム又はその合金、ステンレス鋼、銅又はその合金、及びニッケル又はその合金、から選ばれるいずれかを挙げることができる。こうした基材金属1は、購入品であってもよいし、所定厚の板材を熱間圧延や冷間圧延して得たものであってもよい。基材金属1の厚さは特に限定されないが、例えば0.01mm〜2.0mm程度である。なお、後述する置換めっきで下地皮膜2を設ける場合は、基材金属1がエッチングされるので、そのエッチング量を考慮して厚さが設計される。
【0033】
また、これらの金属又は合金上に他の金属又は合金を設けたものであってもよい。他の金属又は合金の形成手段としては、めっき(電気めっき、無電解めっき)手段、蒸着手段、クラッド手段等を挙げることができる。一例として、銅又は銅合金上に電気ニッケルめっきしたニッケルめっき銅等を挙げることができる。
【0034】
(下地皮膜)
下地皮膜2は、基材金属1の一方又は両方の面に設けられる金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜である。本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10では、金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を樹脂フィルム3の下地皮膜2として基材金属1上に設けることにより、樹脂フィルム3と基材金属1との密着性を高め、さらに酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持することができるという結果を導くことができた。
【0035】
金属亜鉛皮膜は、金属亜鉛のみで構成された層であり、金属亜鉛含有皮膜は、金属亜鉛を含む金属皮膜からなる層である。「含む」とは亜鉛以外の金属元素を含む意味であるが、そうした金属元素としては、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の鉄族金属を挙げることができる。これらの鉄族金属を含む金属亜鉛含有皮膜は、硬度等の機械的強度を高めることができるとともに、後述する置換めっきの際に基材金属1のエッチング量を抑えることができるという利点がある。金属亜鉛含有皮膜中の鉄族金属の含有量は、0.5質量%〜15質量%の範囲であることが好ましい。こうした範囲の鉄族元素を含む金属亜鉛含有皮膜は、基材金属1のエッチング量を抑えることができるという観点からは、下地皮膜2の厚さを過度に厚くしなくても、十分に耐電解液密着維持性を有する下地皮膜を形成することができるという利点がある。なお、このときの金属亜鉛含有皮膜は、不可避不純物成分(微量酸化物成分を含む。)を除いた全てが金属亜鉛である。
【0036】
下地皮膜2である金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜は、置換めっき法又は電気めっき法で形成される。
【0037】
置換めっき法は、置換めっき液に接触した基材金属1の酸化還元電位と、めっき液に含まれる亜鉛イオンの酸化還元電位との大小によって、基材金属1の酸化溶解と亜鉛イオンの還元析出とが化学反応によって同時に起こる酸化還元反応であり、基材金属1の溶解(エッチングともいう。)と同時に起こる亜鉛の析出によって下地皮膜2が形成される。したがって、置換めっき法は、置換めっき液中での基材金属1と析出し得る金属イオンとの酸化還元電位の大小に依存し、基材金属1が電子を残して酸化溶解する化学反応が起こり、その電子を液中の金属イオンが受け取って還元析出する化学反応が起こる酸化還元環境が整った場合に適用される方法である。また、めっき液に鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上が含まれている場合も同様であり、基材金属1と析出し得る金属イオンとの酸化還元電位の大小に依存し、下地皮膜2に含まれたり含まれなかったりする。こうした置換めっき法は、基材金属1の形状に関わらず、均一な厚さの下地皮膜2を形成できるので便利であり、さらに電気めっき法で形成される下地皮膜2に比べて硬く、引張強度等の機械的強度に優れている。
【0038】
置換めっき法による下地皮膜2の形成は、基材金属1と、アルカリ性又は酸性の置換めっき液とを接触させて行う。アルカリ性又は酸性のいずれの置換めっき液を用いるかは、置換めっき液中での基材金属1と金属イオンの酸化還元電位の大小によって置換めっきが起こるか否かで適宜選択することができる。「接触」させる手段は、置換めっき液への基材金属1の浸漬や、基材金属1への置換めっき液のスプレー噴射等を挙げることができる。
【0039】
置換めっき液は特に限定されないが、例えば後述する実施例で用いるアルカリ性置換めっき液(ジンケート浴と呼ばれ、硫酸亜鉛と水酸化ナトリウムを主成分とする)、酸性置換めっき液(硫酸亜鉛と酸性フッ化アンモニウム又はフッ酸を主成分とする)等を挙げることができる。なお、これらの置換めっき液には、必要に応じて光沢剤、錯化剤、還元剤、pH調整剤、緩衝剤等の添加剤が含まれていてもよく、例えば、グルコン酸ナトリウム、その他の添加剤を挙げることができる。また、下地皮膜2に鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属をさらに含有させる場合には、置換めっき液に例えば硫酸第1鉄、硫酸ニッケル、硫酸コバルト等を任意に配合する。
【0040】
なお、上記した各塩は例示であり、目的とする金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を基材金属1の一方又は両方の面に形成できれば、上記以外の亜鉛塩、各種金属塩等を用いてもよい。また、置換めっき液の液組成も特に限定されない。例えばジンケート浴の場合は、硫酸亜鉛8〜16g/L、水酸化ナトリウム90〜150g/Lが一般的である。
【0041】
電気めっき法は、電気めっき液に接触した基材金属1と、同じく電気めっき液に接触させた対向電極(対極ともいう。)との間に電流を印加して、基材金属1上に電気めっき液中の金属イオンを強制的に還元析出させる手段である。
【0042】
電気めっき法による下地皮膜2の形成は、基材金属1と対向電極とに電気亜鉛めっき液を接触させた状態で電流又は電圧を印加して行う。対向電極としては、亜鉛板や不溶性電極(例えば炭素電極、白金被覆チタン電極等)を用いることができる。また、金属亜鉛含有皮膜を、亜鉛成分以外の金属成分を含む電気めっき液を用いて形成する場合には、金属亜鉛含有皮膜に含まれる亜鉛以外の金属成分と同量の割合を含む対向電極を用いてもよい。こうすることで、電気めっき液中の金属成分の減少量に応じた量を対向電極から供給できる。こうした電気めっき法は、置換めっき法とは異なり化学反応を伴わないので、電流又は電圧を制御するだけで容易に所望の厚さの下地皮膜2を形成できる。また、置換めっき法に比べて析出速度が速いので、高速での形成が可能である。
【0043】
電気亜鉛めっき液は特に限定されないが、例えば後述する実施例で用いる硫酸亜鉛めっき液を挙げることができる。なお、電気めっき液には、必要に応じて光沢剤、錯化剤、pH調整剤、緩衝剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、下地皮膜2に鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属をさらに含有させる場合には、電気めっき液に例えば硫酸第1鉄、硫酸ニッケル、硫酸コバルト等を任意に配合する。
【0044】
こうした各手段で形成した下地皮膜2の厚さは、通常、0.01μm〜0.70μm(総付着量で約0.10g/m〜約5.0g/mに相当)であり、好ましくは0.03μm〜0.28μm(総付着量で約0.2g/m〜約2.0g/mに相当)である。下地皮膜2の厚さが0.01μm未満では、十分な耐電解液密着維持性が得られないことがある。一方、下地皮膜2の厚さが0.70μmを超えると、耐電解液密着維持性に優れるものの、下地皮膜2の成膜時間がかかり、生産性に劣ることがある。なお、下地皮膜2の総付着量1g/mは下地皮膜2の厚さ約0.14μmに相当する。
【0045】
なお、下地皮膜2として金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を設けた場合に耐電解液密着性が維持される理由は現時点では明確ではないが、おそらく、LiPF等を電解質とした電解液中に本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10を浸漬した場合、下地皮膜2と樹脂フィルム3との間に濃縮したリン元素が確認されたことから、浸漬した際にLiPFの加水分解生成物であるフッ酸によって下地皮膜2中の亜鉛成分が溶出し、その亜鉛成分が、同じくLiPFの加水分解生成物であるリン化合物と反応して不溶性塩が生成したためであり、こうした不溶性塩が耐電解液密着性を維持する要因になっているのではないかと考えられる。
【0046】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム3は、下地皮膜2上に樹脂製フィルムをラミネートしてなるラミネートフィルムとして、又は、下地皮膜2上に樹脂を塗布してなる樹脂塗膜として設けられる。樹脂フィルム3は、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、又はそれらを主成分として含む樹脂組成物で形成される。こうした樹脂フィルム3は、酸や溶剤等に長時間接触しても基材金属1が腐食や浸食されるのを防ぐために設けられる。
【0047】
ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン;エチレンとα−オレフィンとの共重合体;ホモポリマー、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーを原料とするポリプロピレン;プロピレンとα−オレフィンとの共重合体;等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンを無水マレイン酸等でクラフト変性させて得ることができる。
【0048】
樹脂フィルム3は、単層であってもよいし、複数の層を積層した多層構造であってもよい。また、必要に応じて、エチレンと環状オレフィンとの共重合体等の樹脂をさらに積層して、防湿性を持たせてもよい。また、樹脂フィルム3は、必要に応じて、酸化防止剤、難燃剤及び粘着付与剤等の添加材を含んでいてもよい。樹脂フィルム3の厚さは、通常、10μm〜100μmであり、20μm〜50μmであることが好ましい。
【0049】
ラミネートフィルムを設けるためのラミネート加工は、ヒートラミネーション法、ドライラミネーション法、押出しラミネーション法又は共押出しラミネーション法等を挙げることができる。
【0050】
ヒートラミネーション法による樹脂フィルム3の形成は、下地皮膜2の表面に樹脂フィルム3を熱圧着することにより行う。熱圧着する際の温度と圧力等は、樹脂フィルム3の性質に応じて任意に設定される。なお、樹脂フィルム3の表面には必要に応じて接着剤層を設け、その接着剤層を熱圧着層として利用してもよい。こうした接着剤層としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂組成物からなる層を挙げることができ、そうした樹脂を塗布、乾燥等して設けることができる。
【0051】
ドライラミネーション法による樹脂フィルム3の形成は、下地皮膜2の表面に接着剤層を形成し、その接着剤層の表面に樹脂フィルム3を常温圧着することにより行う。接着剤層としては、ポリエステル系接着剤、ポリエチレン系接着剤、ポリエーテル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、有機チタン系接着剤、ポリエーテルウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリエステルウレタン系接着剤、イソシアネート系接着剤、ポリオレフィン系接着剤等の樹脂組成物を挙げることができ、接着剤層はそうした樹脂組成物を下地皮膜2の表面に塗布、乾燥して形成できる。
【0052】
押出しラミネーション法又は共押出しラミネーション法による樹脂フィルム3の形成は、溶融した樹脂を下地皮膜2の表面に直接押し出した後に冷却することにより行う。樹脂の押し出し及び冷却には、例えばフラットダイ法や溶融押出成形法の設備を用いることができる。
【0053】
(樹脂フィルム付金属製外装材)
こうして構成された樹脂フィルム付金属製外装材10は、その後に必要に応じて、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工が施され、所定の形状に成形されて各種の用途に用いられる。例えば、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコン又はビデオカメラ等に用いられるモバイル用リチウムイオン2次電池の外装材として用いられる。また、スマートホンやタブレットPCのような携帯型機器の枠体として用いることもできる。また、電気自動車又はハイブリッド自動車の駆動エネルギーとしてリチウムイオン2次電池の外装材としても用いることができる。
【0054】
以上説明したように、本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10によれば、基材金属1と樹脂フィルム3との間の下地皮膜2として金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を設けることにより、樹脂フィルム3が剥離しない高い密着性を示し、かつ酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持するという結果を得ることができた。こうした効果を備えた樹脂フィルム付金属製外装材10に深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の厳しい成形加工を施した場合であっても、その樹脂フィルム3が剥離しないような高い密着性を付与することができ、更には酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持し得る耐薬品性に優れるという効果が得られた。
【0055】
[樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法]
本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10の製造方法は、基材金属1の一方又は両方の面に、置換めっき法又は電気めっき法で金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜2として形成する下地皮膜形成工程と、その下地皮膜2上に、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜を形成する樹脂フィルム形成工程と、を有する。なお、「有する」としたのは、下地皮膜形成工程及び樹脂フィルム形成工程以外の工程を有していてもよいことを意味している。例えば、後述する前処理工程、加工工程、及び酸化物皮膜除去工程等のいずれか1又は2以上を有していてもよい。
【0056】
各工程についての詳細は、上記「樹脂フィルム付金属製外装材」の説明欄で説明したとおりであり、基材金属1の準備又は形成工程、下地皮膜2の形成工程、樹脂フィルム3の形成工程、深絞り加工等の加工工程は、以下ではその記載を省略する。この製造方法では、下地皮膜2を形成する前に、基材金属1の表面の酸化物皮膜を除去する工程をさらに設けてもよい。酸化物皮膜の除去は、例えば硫酸、硝酸、塩酸、硝フッ化水素酸等の酸を用いた一般的な酸洗浄によって行うことができる。酸洗浄手段としては、浸漬式洗浄又は噴射式洗浄等を挙げることができる。また、必要に応じて、一般的な前処理である脱脂処理も行うことができる。なお、水洗浄は、通常、各工程間に配置される。
【0057】
樹脂フィルム付金属製外装材10は、その後に必要に応じて、深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工等の加工工程で加工される。そうした加工工程によって、所定の形状に成形されて各種の用途に用いられる。
【0058】
以上、本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材10の製造方法によれば、基材金属1の一方又は両方の面に置換めっき法又は電気めっき法で金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜2として形成し、その後、その下地皮膜2上に樹脂フィルム3(ラミネートフィルム又は樹脂塗膜)を形成したところ、製造された樹脂フィルム付金属製外装材10は、樹脂フィルム3が剥離しない高い密着性を示し、かつ酸や溶剤等に長時間接触しても高い密着性を維持するという結果が得られた。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において、「部」は「質量部」のことであり、「質量%」は「重量%」と同義であり、以下では単に「%」と表すこともある。
【0060】
[基材金属]
基材金属として以下の金属板又は金属箔を用いた。
【0061】
1a:アルミニウム板(JIS記号:A1100P、純アルミニウム、厚さ0.3mm)
1b:アルミニウム合金箔(JIS記号:A8079、厚さ0.03mm)
1c:ステンレス鋼箔(JIS記号:SUS304、厚さ0.1mm)
1d:銅板(JIS記号:C1020P、無酸素銅、厚さ0.3mm)
1e:ニッケル板(純度99質量%以上、厚さ0.3mm)
1f:NiめっきCu板(電気NiめっきCu、銅板:C1020Pの無酸素銅、厚さ0.3mm、Niめっき厚2μm)
【0062】
[下地皮膜の形成方法]
基材金属の表面に以下に示す方法で下地皮膜を形成した。
【0063】
(2a:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0064】
(2b:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物1.16部(鉄として)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製しした。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0065】
(2c:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、硫酸ニッケル6水和物2.0部(ニッケルとして)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0066】
(2d:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、硫酸コバルト7水和物3.0部(コバルトとして)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0067】
(2e:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物1.16部(鉄として)、硫酸ニッケル6水和物0.23部(ニッケルとして)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0068】
(2f:アルカリ性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物16.87部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物1.16部(鉄として)、硫酸コバルト7水和物1.06部(コバルトとして)、水酸化ナトリウム116部、グルコン酸ナトリウム20部及び残りが水である計1000部のアルカリ性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0069】
(2g:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物10部(亜鉛として)、酸性フッ化アンモニウム7.65部及び残りが水であり、さらに10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.0に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0070】
(2h:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物13部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物3.6部(鉄として)、55質量%フッ化水素酸水溶液12.1部及び残りが水であり、さらに10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH2.0に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0071】
(2i:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物13部(亜鉛として)、硫酸ニッケル6水和物0.8部(ニッケルとして)、55質量%フッ化水素酸水溶液12.1部及び残りが水であり、さらに10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.0に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0072】
(2j:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物13部(亜鉛として)、硫酸コバルト7水和物2.1部(コバルトとして)、55質量%フッ化水素酸水溶液9.7部及び残りが水であり、さらに10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.0に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0073】
(2k:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物13部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物2.5部(鉄として)、硫酸ニッケル6水和物0.3部(ニッケルとして)、55質量%フッ化水素酸水溶液12.1部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH2.5に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0074】
(2l:酸性置換めっき)
硫酸亜鉛7水和物13部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物1.5部(鉄として)、硫酸コバルト7水和物0.4部(コバルトとして)、55質量%フッ化水素酸水溶液12.1部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH3.0に調整した計1000部の酸性置換めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を30℃で30秒間浸漬し、水洗した後、電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0075】
(2m:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物91.6部(亜鉛として)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH4.0に調整した1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0076】
(2n:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物32.7部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物27.5部(鉄として)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH3.5に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0077】
(2o:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物32.7部(亜鉛として)、硫酸ニッケル6水和物25部(ニッケルとして)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH3.5に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0078】
(2p:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物32.7部(亜鉛として)、硫酸コバルト7水和物25部(コバルトとして)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH4.0に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0079】
(2q:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物32.7部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物27.5部(鉄として)、硫酸ニッケル6水和物25部(ニッケルとして)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH3.5に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて0℃で1分間加熱乾燥した。
【0080】
(2r:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物32.7部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物27.5部(鉄として)、硫酸コバルト7水和物25部(コバルトとして)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH3.5に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。このめっき液中に基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0081】
(2s:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物91.6部(亜鉛として)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、さらに10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH4.0に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。その後、基材金属を、硝フッ化水素酸水溶液(硝酸10質量%、フッ化水素酸5質量%)中に、室温で1分間浸漬した後、水洗した。その後、上記電気亜鉛めっき液中に、上記基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0082】
(2t:電気亜鉛めっき)
硫酸亜鉛7水和物91.6部(亜鉛として)、硫酸第1鉄5水和物27.5部(鉄として)、硫酸ナトリウム200部及び残りが水であり、10質量%のアンモニア水溶液を用いてpH4.0に調整した計1000部の電気亜鉛めっき液を作製した。その後、基材金属を硝フッ化水素酸水溶液(硝酸10質量%、フッ化水素酸5質量%)中に、室温で1分間浸漬した後、水洗した。その後、上記電気亜鉛めっき液中に、上記基材金属を浸漬し、対極に亜鉛板を用い、30℃で電流密度5A/dmにて10秒間カソード電解を行なった。その後、水洗し、電気炉を用いて80℃で1分間加熱乾燥した。
【0083】
(2u:酸化亜鉛コーティング)
酸化亜鉛ゾル(分散粒経20nm、固形分濃度1.5質量%、pH9.0)を#3バーコーターにて塗工した後、電気炉にて120度で1分間加熱乾燥した。
【0084】
(2v:下地皮膜なし)
基材金属について、下地皮膜を形成せずに、そのまま電気炉を用い、80℃で1分間加熱乾燥した。
【0085】
[樹脂フィルムの形成方法]
以下のいずれかの方法で樹脂フィルムを形成した。
【0086】
(3a:ヒートラミネーション)
下地皮膜の表面に、厚さ50μmのマレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを190℃、1MPaで10秒間熱圧着した。
【0087】
(3b:ヒートラミネーション)
下地皮膜の表面に、厚さ20μmのマレイン酸変性ポリプロピレン層と厚さ30μmのプロピレン及びエチレンの共重合体層とが積層された2層構造の樹脂フィルムの、マレイン酸変性ポリプロピレンフィルム層側を、190℃、1MPaで10秒間熱圧着した。
【0088】
(3c:ヒートラミネーション)
下地皮膜の表面に、酸変性ポリプロピレンのディスパージョン(三井化学株式会社製、商品名:R-120K、不揮発分濃度:20質量%)を、#8SUSマイヤーバーを用い、バーコートによって塗布した後、熱風循環式乾燥炉内で200℃、1分間乾燥して接着剤層を形成した。その後、下地皮膜上の接着剤層の表面に、厚さ30μmのポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製、「CPPS」)を、190℃、1MPaで10秒間熱圧着した。
【0089】
(3d:押出しラミネーション)
下地皮膜の表面に、酸変性ポリプロピレンを厚さ15μmの溶融樹脂層として押出し、その後さらに厚さ30μmのポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製、「CPPS」)を貼り合わせる押出しラミネーションを実施した。
【0090】
(3e:ドライラミネーション)
下地皮膜の表面に、ウレタン系ドライラミネート接着剤(東洋モートン株式会社製、商品名:AD−503/CAT10、不揮発分濃度:25質量%)を、#8SUSマイヤーバーを用い、バーコートによって塗布した後、電気炉で80℃、1分間乾燥して接着剤層を形成した。その後、この接着剤層と、厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(二村化学工業株式会社製、商品名:FCZX)のコロナ放電処理面とを、100℃、1MPaで圧着した後、40℃で4日間養生した。
【0091】
[供試材の作製]
上記した基材金属をファインクリーナー359E(日本パーカライジング株式会社製、アルカリ脱脂剤)の2%水溶液で50℃、10秒間スプレー脱脂し、さらに表面を水洗し、表1〜表4に示した実施例1〜71及び比較例1〜12で用いる基材金属として準備した。
【0092】
次に、表1〜表4に示した実施例1〜71及び比較例1〜12で用いる基材金属に対し、表1〜表4に示した各処理を適用して下地皮膜を形成した。表1〜表4に示す実施例1〜実施例71では2a〜2tのいずれかの処理を選択し、比較例1〜比較例12では2u又は2vの処理を選択した。
【0093】
ここで、置換めっき処理の場合には基材金属がエッチングするので、そのエッチング量(g/m)を測定した。エッチング量の測定は、置換めっき液中に溶出した基材金属をICP分析(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)で定量した。その結果を表1〜表4に示した。また、下地皮膜を構成する金属元素(Zn、Fe、Ni、Co等)の付着量(g/m)もICP分析で定量した。この付着量は、下地皮膜を設けた基材金属を60%硝酸中に浸漬して溶解し、その溶解液をICP分析して測定した。なお、1g/mの金属元素が付着すると、下地皮膜の厚さは約0.5μmとなる。その結果を表1〜表4に示した。また、下地皮膜の表面について、XPS分析(株式会社島津製作所製、ESCA−850M)し、下地皮膜中の亜鉛元素の化学状態をZnLMMオージェスペクトルのピーク位置より同定した。ZnLMMオージェスペクトルのピーク位置が993.6eVの場合は、亜鉛元素が金属状態であり、988.6eVの場合は、亜鉛元素が酸化状態である。その結果を表1〜表4に示した。
【0094】
次に、表1〜表4に示した実施例1〜71及び比較例1〜12で用いる下地皮膜付基材金属に対し、表1〜表4に示した各処ラミネート処理を適用して樹脂フィルムを形成した。
【0095】
次に、得られた実施例1〜71及び比較例1〜12の樹脂フィルム付金属製外装材を深絞り加工を施した。先ず、直径160mmに打ち抜いた樹脂フィルム付金属製外装材を絞り加工(1回目)し、直径100mmのカップを作製した。続いて、そのカップを直径75mmに再度絞り加工(2回目)し、さらに直径65mmに絞り加工(3回目)し、供試材である缶を作製した。なお、1回目の絞り加工、2回目の絞り加工及び3回目の絞り加工におけるしごき率(薄肉化分率)は、それぞれ、5%、15%及び15%であった。
【0096】
[性能評価]
樹脂フィルム付金属製外装材を深絞り加工した後の缶(供試材)の初期密着性、耐久密着性、耐電解液密着維持性、及び液安定を以下のようにして評価した。その結果を表1〜表4に示した。
【0097】
(初期密着性)
深絞り加工した後の供試材である缶について、初期密着性を評価した。缶が作製でき、樹脂フィルムの剥離がなく、初期密着性に優れるものを「3点」とし、樹脂フィルムの一部が剥離したものを「2点」とし、樹脂フィルムが全面剥離したものを「1点」とした。
【0098】
(耐電解液密着維性)
深絞り加工した後の供試材である缶を、密閉容器中に充填されたイオン交換水を1000ppm添加したリチウムイオン2次電池用電解液(電解質:1mol/LのLiPF、溶媒体積比率;EC:DMC:DEC=1:1:1)中に浸漬した後、60℃の恒温槽中に7日間投入した。なお、「EC」は、エチレンカーボネートのことであり、「DMC」はジメチルカーボネートのことであり、「DEC」は、ジエチルカーボネートのことである。その後、供試材を取り出し、イオン交換水中に1分間浸漬し、揺動して洗浄した後、電気炉にて100℃で10分間乾燥した。その後、樹脂フィルム面をピンセットの先で引っ掻き、全く樹脂フィルムの剥離が起こらないものを「4点」とし、剥離するが引っ掻き抵抗が高く実用レベルにあるものを「3点」とし、非常に弱い力で剥離するものを「2点」とし、既に樹脂フィルムが剥離しているものを「1点」とした。
【0099】
表1〜表4に示すように、実施例1〜71の供試材(本発明に係る樹脂フィルム付金属製外装材)は、比較例1〜12の供試材に比べて、電解液に浸漬された場合でも密着性を維持することができ、耐電解液密着維持性が優れていることが確認された。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【符号の説明】
【0104】
1 基材金属
2 下地皮膜(金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜)
3 樹脂フィルム(ラミネートフィルム又は樹脂塗膜)
10 樹脂フィルム付金属製外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材金属と、該基材金属の一方又は両方の面に設けられた下地皮膜と、該下地皮膜上に設けられたラミネートフィルム又は樹脂塗膜とを有し、前記下地皮膜が金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜であることを特徴とする樹脂フィルム付金属製外装材。
【請求項2】
前記ラミネートフィルム又は樹脂塗膜が、ポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンを含む、請求項1に記載の樹脂フィルム付金属製外装材。
【請求項3】
前記基材金属が、アルミニウム又はその合金、ステンレス鋼、銅又はその合金、及びニッケル又はその合金、から選ばれるいずれかである、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム付金属製外装材。
【請求項4】
前記金属亜鉛含有皮膜が、鉄、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の元素を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂フィルム付金属製外装材。
【請求項5】
深絞り加工、しごき加工又はストレッチドロー加工が施されてなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム付金属製外装材。
【請求項6】
基材金属の一方又は両方の面に、置換めっき法又は電気めっき法で金属亜鉛皮膜又は金属亜鉛含有皮膜を下地皮膜として形成する工程と、
前記下地皮膜上に、ラミネートフィルム又は樹脂塗膜を形成する工程と、を有することを特徴とする樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法。
【請求項7】
深絞り加工、しごき加工及びストレッチドロー加工から選ばれるいずれか1又は2以上の加工工程をさらに有する、請求項6に記載の樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法。
【請求項8】
前記下地皮膜の形成工程の前に、前記基材金属の表面の酸化物皮膜を除去する工程をさらに有する、請求項6又は7に記載の樹脂フィルム付金属製外装材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−99869(P2013−99869A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243944(P2011−243944)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】