説明

樹脂成形体加工方法及び樹脂成形体加工装置

【課題】気泡発生を抑制するとともに、圧力歪みを防ぎ寸法安定性に優れ、温度調節が簡単な成形体の加工方法及び加工装置を提供することである。
【解決手段】樹脂成形体Wの表層の全部又は一部に二酸化炭素を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程において二酸化炭素が含浸された領域に、所定のパターンを有する金型6を押し付けて、そのパターンを転写する転写工程と、を有し、前記含浸工程及び前記転写工程において、前記樹脂成形体Wの温度、前記樹脂成形体Wに含浸させる二酸化炭素の温度、又は前記金型6の温度の少なくとも1つを、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂成形体を加工する方法及び装置に関するものであり、特に、熱可塑性の樹脂成形体の表層に微細パターンを転写する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光情報記録媒体(光ディスク)や導光板など、表面に微細形状を有し、これら表面形状の高転写性が要求される製品や、カメラやプリンタ用の光学レンズ等のように低複屈折性が要求される製品は、ポリカーボネートやアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂を射出成形することにより製造されている。
【0003】
近年、低複屈折性や更なる高転写性が要求されるようになり、これらの製品を製造するには従来の射出成形では限界があることから、プレスモールド成形方法や、エンボス加工方法などの特殊成形方法、加工方法が提案されている。
【0004】
プレスモールド成形方法とは、予備成形体を金型のキャビティ内に置いた後、キャビティ容積を縮小し、キャビティ内に高い内圧を均一に発生させて等圧圧縮を行う方法であり、保圧のかかり方が射出成形と異なり均一になるので、成形品の残留ひずみが低減される。また、金型の転写性が著しく向上するという利点がある。
【0005】
一方、エンボス加工方法とは、通常、ロールや金型を用いて模様、パターン等の形状を転写する加工方法をいう。例えば、熱可塑性樹脂からなる予備成形体のエンボス加工方法においては、成形前に金型及び予備成形体を熱可塑性樹脂の固化温度以上に加熱した後、金型を昇圧してプレスし、その後、金型を熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却してから成形品を取り出している。
【0006】
しかし、これらの方法では、予備成形体を再度溶融させてからプレスするため、微細形状の転写性、低複屈折性は向上するものの、金型内における樹脂の予熱時間を長く要し、サイクルタイムも長くなるという問題が生じる。また、予備成形体の溶融冷却を繰り繰り返し行うので、冷却時における収縮率が一定せず、寸法精度が低下するという問題がある。
【0007】
その一方で、二酸化炭素が熱可塑性樹脂に溶解すると、ガラス転移温度(Tg)の低下、粘度の低下、表面張力の低下などを促す可塑化作用がみられる。このような効果を利用してナノスケールの微細形状を樹脂成形体表面に形成する方法も提案されている。
【0008】
例えば特許文献1には、超臨界状態の二酸化炭素が含浸した溶融樹脂を超臨界状態の二酸化炭素雰囲気下で金型に充填し、プレス金型を用いて加圧して微細パターンが形成された光情報記録媒体の製造方法が開示されている。この方法によればプレスモールド成形方法やエンボス加工方法に比べて、優れたパターン転写率を発揮することができる。
【0009】
しかしながら、溶融樹脂に二酸化炭素を含浸させているので、パターン転写後の減圧の際に生じる気泡を完全に抑制することが困難であるという問題がある。
また、溶融樹脂をプレスするために、樹脂成形体全体にかかる圧力歪みを回避し難く、寸法安定性が十分に得られないおそれがあるという問題がある。
さらに、樹脂の溶融状態及び固体状態に2つの状態を取り扱うため、金型などの温度調節が難しいという問題がある。
【特許文献1】特開2005−11815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、低複屈折性や高転写性を実現しつつ、さらに気泡発生を抑制するとともに、寸法安定性に優れ、サイクルタイム(加工時間)を短縮し、温度調節が簡単な成形体の加工方法及び加工装置を提供することをその所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る樹脂成形体加工方法は、樹脂成形体の表層の全部又は一部に二酸化炭素を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程において二酸化炭素が含浸された領域に、所定のパターンを有する金型を押し付けて、そのパターンを転写する転写工程とを有し、前記含浸工程及び前記転写工程において、前記樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることを特徴とする。ここで、樹脂成形体の表層とは、樹脂成形体の表面から所定の厚みを有する部分であり、その厚みは、含浸工程における含浸時間、含浸圧力又は含浸温度等により決定されるものである。具体的には、樹脂成形体の拡散係数をDとして、含浸時間をtとすると、その含浸する表層部分の厚さは、二酸化炭素の含浸深さと同一となり、2×(Dt)1/2となる。
【0012】
このようなものであれば、表層の全部又は一部のみに二酸化炭素を含浸させて局所的にガラス転移温度を低下させているので、二酸化炭素の含浸時間、さらには加工時間を短縮することができる。また、表層のみに二酸化炭素を含浸させているので、気泡発生を抑制することができる。さらに、樹脂成形体全体を溶融する必要が無いので、圧力変化や温度変化に伴う樹脂成形体の圧力歪みを防ぐことができ、寸法安定性を確保することができる。加えて、樹脂成形体を二酸化炭素含浸後のガラス転移温度以上二酸化炭素含浸前のガラス転移温度未満の範囲内で処理しているので、樹脂成形体全体を溶融状態にする温度から固体状態にする温度への温度調節を必要としないので、温度調節が極めて容易となる。
【0013】
ここで、樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にすると、二酸化炭素が含浸している領域(含浸領域)では、表層部分が軟化して柔くなり、二酸化炭素が含浸していない領域(未含浸領域)では、表層部分は固体状態であり、形状維持可能な状態である。
【0014】
さらに、樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満の範囲内に確実に調節するためには、前記樹脂成形体に含浸させる二酸化炭素の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることが望ましい。
【0015】
その上、金型の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることが望ましい。
【0016】
前記金型に形成された具体的な転写パターンが、ナノオーダーの形状である場合に、本発明の効果を一層顕著なものとすることができる。ここで、ナノオーダーの形状とは、金型に形成された転写パターン、つまり金型に設けられた凹凸において、その一部に1μm未満の寸法を含む形状をいう。
【0017】
二酸化炭素が樹脂成形体の表層に溶解しやすくするためには、前記二酸化炭素に含浸条件を緩和するための助剤を混合させていることが好ましい。助剤としては、アルコールや低分子の有機溶媒が挙げられる。環境安全性の観点からアルコールを用いることが好ましい。このように、含浸助剤を添加することで含浸条件の緩和、つまり含浸の低温化、低圧化、時間短縮(含浸効率の向上)の少なくとも1つを達成することができる。二酸化炭素に添加する量としては、二酸化炭素に溶解する量を限度としている。
【0018】
さらに、本発明に係る樹脂成形体加工装置は、樹脂成形体を加工する樹脂成形体加工装置であって、前記樹脂成形体を収容する収容室と、前記収容室内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部と、前記収容室内で前記成形体を保持する成形体保持部と、前記成形体保持部により保持された前記樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節する樹脂成形体W温度調節部と、前記成形体保持部により保持された前記成形体に所定のパターンを転写するための金型を押し付ける押圧機構と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満の範囲内に確実に調節するためには、樹脂成形体に含浸させる二酸化炭素の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節するガス温度調節部、又は前記金型の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節する金型温度調節部を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、表層の全部又は一部のみに二酸化炭素を含浸させて局所的にガラス転移温度を低下させているので、二酸化炭素の含浸時間、さらには加工時間を短縮することができる。また、表層のみに二酸化炭素を含浸させているので、気泡発生を抑制することができる。さらに、樹脂成形体全体を溶融する必要が無いので、圧力変化や温度変化に伴う樹脂成形体の圧力歪みを防ぐことができ、寸法安定性を確保することができる。加えて、樹脂成形体を二酸化炭素含浸後のガラス転移温度以上二酸化炭素含浸前のガラス転移温度未満の範囲内で処理しているので、樹脂成形体全体を溶融状態にする温度から固体状態にする温度への温度調節を必要としないので、温度調節が極めて容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の樹脂成形体加工装置1に係る一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る樹脂成形体加工装置1は、高圧に保った二酸化炭素の雰囲気下で、樹脂成形体Wをプレス加工するコールドエンボス装置であって、図1に示すように、樹脂成形体Wを収容する収容室2と、収容室2内に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部3と、収容室2内で樹脂成形体Wを保持する樹脂成形体保持部4と、樹脂成形体保持部4により保持された樹脂成形体Wの温度を調節する樹脂成形体温度調節部5と、樹脂成形体保持部4により保持された樹脂成形体Wに所定のパターンを転写するための金型6を押し付ける押圧機構7と、を備えている。なお、本実施形態に用いる樹脂成形体Wは、厚さ3mm、直径20mmのディスク状(円盤状)に加工したアクリル樹脂(PMMA(Polymethyl Methacrylate))である。
【0023】
以下に各部について説明する。
収容室2は、樹脂成形体Wを収容するものであり、中間壁23によって上室21と下室22との2室に分けられている。上室21の上壁211には、金型6を固定するための金型固定部8が設けられている。中間壁23の略中央部には、後述する樹脂成形体保持部4が、上室21及び下室22が気密状態でスライド移動可能な開口が設けられている。上室21及び下室22の側壁にはそれぞれ二酸化炭素を供給するための供給管31及び二酸化炭素を排出するための排出管34が接続されている。さらに、収容室2の周囲には、収容室2内の温度を調節するための収容室温度調節部(図示しない)を設けるようにしている。なお、排出管34には、二酸化炭素の排出を制御するための排出制御弁35が設けられており、図示しない制御装置により制御されている。
【0024】
金型6は、本実施形態においては、樹脂成形体Wの上面の表層全体に所定のパターンを転写するためのものであり、所定の転写パターンを有する転写面61を有する。その転写面61の具体的な形状は、高さが60nm、幅が1μmの凸部を複数有するものである。
【0025】
二酸化炭素供給部3は、二酸化炭素を貯蔵している二酸化炭素タンク9から二酸化炭素を収容室2の上室21及び下室22にそれぞれ供給するための供給管31と、その供給管31に設けられた流通制御弁32と、二酸化炭素を収容室2の上室21及び下室22に供給するためのポンプ33とからなる。そして、流通制御弁32及びポンプ33は、図示しない制御装置により制御されており、例えば収容室2内に充填された二酸化炭素が超臨界状態となるように制御される。また、供給管31の周囲には、収容室2内に供給する二酸化炭素の温度を調節するためのガス温度調節部(図示しない)を設けるようにしている。
【0026】
樹脂成形体保持部4は、樹脂成形体Wの上面が収容室2内に供給された二酸化炭素と接触するように略水平に保持するものであり、中間壁23の開口にスライド移動可能に設けられている。そして、後述する押圧機構7により、樹脂成形体Wに二酸化炭素が含浸される含浸位置と、樹脂成形体Wが金型6に押し付けられる転写位置との間で移動するものである。
【0027】
樹脂成形体温度調節部5は、樹脂成形体Wの温度を調節するものであり、樹脂成形体W及び樹脂成形体保持部4との間に設けられ、直接的に樹脂成形体Wの温度を調節するものである。具体的には、樹脂成形体Wの温度を、その樹脂成形体Wに二酸化炭素を含浸させた後に低下したガラス転移温度(Tg’)以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度(Tg)未満に調節するものである。
【0028】
本実施形態のPMMAからなる樹脂成形体Wは、通常のガラス転移温度(Tg)(二酸化炭素を含浸させる前のガラス転移温度)は約100℃であり、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度(Tg’)は約30℃である。つまり、本実施形態において樹脂成形体温度調節部5は、PMMAからなる樹脂成形体Wを30℃から100℃の間の温度となるように温度調節するものである。さらに、本実施形態においては、温度調節を簡単化するために、樹脂成形体Wの表層に二酸化炭素を含浸させる含浸工程から、当該含浸工程において二酸化炭素が含浸された領域に金型6を押し付けて、その転写パターンを転写する転写工程まで、樹脂成形体Wが同一の温度となるように温度を調節するようにしている。
【0029】
二酸化炭素が含浸している領域(含浸領域)では、そのガラス転移温度(Tg’)は約30℃となり、それ以外の二酸化炭素が含浸していない領域(未含浸領域)では、そのガラス転移温度(Tg)は約100℃のままである。したがって、樹脂成形体Wを例えば40℃に加熱したとしたならば、含浸領域のみ軟化することになり、未含浸領域は、ガラス転移温度(Tg)以下であるので、樹脂成形体Wは軟化することはなく金型6を押し付けても所定の転写パターンが転写されることはない。
【0030】
押圧機構7は、樹脂成形体Wを含浸位置と転写位置との間で移動させ、樹脂成形体Wに金型6の転写面61を押し付けるためのものであり、本実施形態では、上室21の圧力(含浸する圧力)と下室22の圧力との圧力差に応じて、樹脂成形体Wを金型6に押し付けるものである。その構成は、樹脂成形体保持部4に連続して設けられた可動部材71と、当該可動部材71の鉛直方向へのスライド移動を案内する案内部材(図示しない)とから構成される。樹脂成形体Wを含浸位置から転写位置に移動させる場合には、上室21の圧力よりも下室22の圧力を大きくし、転写位置から含浸位置に移動させる場合には、上室21の圧力よりも下室22の圧力を小さくする。
【0031】
次にこのように構成した樹脂成形体加工装置1の動作には、図2に示すように樹脂成形体Wの表層に二酸化炭素を含浸させる含浸工程と、当該含浸工程において二酸化炭素が含浸された含浸領域に、所定の転写パターンを有する金型6の転写面61を押し付けて、その転写パターンを転写する転写工程とがある。具体的には以下の工程がある。
【0032】
収容室2の成形体保持部4に樹脂成形体Wを固定して、二酸化炭素供給部3により二酸化炭素を収容室2内に導入する。そして、収容室2内及び樹脂成形体Wを所定の温度(30℃〜100℃の間の温度)まで加熱し、ポンプ33により収容室2内の圧力を所定の圧力(例えば10MPa)まで加圧する。そのまま、一定時間(例えば1分)保持し、二酸化炭素を樹脂成形体Wの表層に含浸させる(含浸工程)。このとき含浸時間、含浸圧力又は含浸温度などにより二酸化炭素の含浸する表層の厚みが調節される。その後、上室21の圧力及び下室22の圧力を流通制御弁32により調整して、金型6に樹脂成形体Wを押し付けて、所定時間保持して転写を行う(転写工程)。最後に、樹脂成形体Wが発泡しないように収容室2内を減圧して加工した樹脂成形体Wを取り出す。
【0033】
<第1実施例>
次に、本実施形態の樹脂成形体加工装置1を用いた第1実施例について説明する。
本実施例における樹脂成形体Wは、厚さ3mm、直径20mmのディスク状(円盤状)に加工したアクリル樹脂(PMMA)であり、その加工条件は、二酸化炭素の圧力(含浸圧力)を10MPa、含浸温度を40℃、プレス圧力を13.8MPa、プレス時間を30分とした。ここで、プレス圧力とは、樹脂成形体Wにかかる力[N]を、樹脂成形体Wの上面の面積[m]で割った値である。また比較の為、含浸時間は1時間及び2時間の場合で成形をした。なお、本実施例における金型6の転写面61の凸部は、高さ60nm、幅1μmである。転写後の減圧方法は、発泡を防ぐために30℃まで減温後、緩慢減圧である。
【0034】
加工した樹脂成形体Wは、AFM(原子間力顕微鏡)観察により形状評価を行った。具体的には、図3に示すように、金型6及び転写面(図3(ア))をAFMにより観察し、得られた断面形状を数値化して(図3(イ))平均化することにより(図3(ウ))、溝の転写形状(凸部)を評価した(図3(エ))。
【0035】
このときの転写率は含浸時間1時間の場合には87[%]であり、含浸時間2時間の場合には91[%]であった。図4に示されるように、常温に近い温度(40℃)において樹脂成形体Wの加工ができることが示された。ここで、転写率は以下の式により求めた。
【0036】
【数1】

【0037】
<第2実施例>
次に、本実施形態の樹脂成形体加工装置1を用いた第2実施例について説明する。
本実施例における樹脂成形体Wは、厚さ3mm、直径20mmのディスク状(円盤状)に加工したアクリル樹脂(PMMA)であり、その加工条件は、二酸化炭素の圧力(含浸圧力)を10MPa、含浸時間は1分、プレス圧力を24.1MPaとした。ここで、プレス圧力とは、樹脂成形体Wにかかる力[N]を、樹脂成形体Wの上面の面積[m]で割った値である。なお、本実施例における金型6の転写面61の凸部は、高さ50nm、幅1μmである。転写後の減圧方法は、急減圧である。
【0038】
上記の条件の下、含浸温度及びプレス時間を変化させた場合の結果を図5に示す。
【0039】
図5(a)は含浸温度を30℃(液状の二酸化炭素)、プレス時間を30秒とした場合、図5(b)は含浸温度を35℃、プレス時間を30秒とした場合、図5(c)は含浸温度40℃、プレス時間1分とした場合の転写形状の結果を示す図である。
このときの転写率は(a)の場合には90.6[%]であり、(b)の場合には88.6[%]であり、(c)の場合には97.9[%]であった。これらの図からわかるように、本発明の加工方法を用いることで、含浸時間を短縮しても充分な転写性を満たした加工ができることが示された。
【0040】
<第3実施例>
次に、本実施形態の樹脂成形体加工装置1を用いた第3実施例について説明する。
本実施例における樹脂成形体Wは、厚さ3mm、直径20mmのディスク状(円盤状)に加工したポリカーボネート(PC)であり、その加工条件は、二酸化炭素の圧力(含浸圧力)を10MPa、含浸時間は5分、プレス圧力を33.7MPaとした。ここで、プレス圧力とは、樹脂成形体Wにかかる力[N]を、樹脂成形体Wの上面の面積[m]で割った値である。なお、本実施例における金型6の転写面61の凸部は、高さ60nm、幅1μmである。転写後の減圧方法は、発泡を防ぐために減温後、緩慢減圧である。
【0041】
ポリカーボネートの二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度(Tg)は、約150℃であり、二酸化炭素を含浸した後のガラス転移温度(Tg’)は、95
℃である。このようなことから、含浸温度を100℃、120℃、140℃のそれぞれの場合で成形をした。
【0042】
このとき図6の転写結果に示されるように、ポリカーボネートからなる樹脂成形体Wを二酸化炭素含浸後のガラス転移温度以上二酸化炭素含浸前のガラス転移温度未満で加工することがわかる。
【0043】
このように構成した本実施形態の樹脂成形体加工装置1によれば、樹脂成形体Wの表層にのみ二酸化炭素を含浸させて局所的にガラス転移温度(Tg)を低下させているので、二酸化炭素の含浸時間、さらには加工時間を短縮することができる。また、表層のみに二酸化炭素を含浸させているので、気泡発生を抑制することができる。さらに、樹脂成形体W全体を溶融する必要が無いので、圧力変化や温度変化に伴う樹脂成形体Wの圧力歪みを防ぐことができ、寸法安定性を確保することができる。加えて、樹脂成形体Wを二酸化炭素含浸後のガラス転移温度(Tg’)以上二酸化炭素含浸前のガラス転移温度(Tg)未満の範囲内で処理しているので、樹脂成形体全体を溶融状態にする温度から固体状態にする温度への温度調節を必要としないので、温度調節が極めて容易となる。
【0044】
また、二酸化炭素を収容室2に供給する供給管31にガス温度調節部を設けて、二酸化炭素の温度を変化前のガラス転移温度(Tg)未満かつ変化後のガラス転移温度(Tg’)以上としているので、樹脂成形体Wの温度の調節を容易にすることができる。
【0045】
さらに、本実施形態においては、含浸工程及び転写工程において温度一定にしているのでより温度調節を一層簡単化することができる。
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0046】
例えば、前記実施形態において、二酸化炭素に含浸条件を緩和する助剤としてアルコールを混合させて収容室内に供給するようにしても良い。このようなものであれば、二酸化炭素の樹脂成形体への含浸を一層促進することができる。
【0047】
また、二酸化炭素の温度を所望の温度に調節するガス温度調節部と同様に、金型を所望の温度に調節する金型温度調節部を設けるようにしても良い。
【0048】
あるいは、前記実施形態では、樹脂成形体の温度及び二酸化炭素の温度を、樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節するようにしているが、この他にも、樹脂成形体の温度、二酸化炭素の温度又は金型の温度の少なくとも1つを二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節するようにしても良い。
【0049】
さらに、前記実施形態では、樹脂成形体は、アクリル樹脂(PMMA)から成形されたものを用いたが、これに限られることはなく、例えばスチレン系樹脂、(例えば、ポリスチレン、ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等)、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブテン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、飽和ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、生分解性ポリエステル樹脂(例えば、ポリ乳酸のようなヒドロキシカルボン酸縮合物、ポリブチレンサクシネートのようなジオールとジカルボン酸の縮合物等)ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の1種または2種以上の混合物、さらに無機物や有機物の各種充填材が混合された樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂中では、非晶性樹脂が特に好ましい。
【0050】
また、前記実施形態の樹脂成形体加工装置は収容室の上下2室の差圧により、樹脂成形体が上下に移動する構成になっているが、当然金型が上下に移動する構成にしても良いし、このほかにも前記実施形態のような差圧を用いない機構により金型を樹脂成形体に押し付けるようにしても良い。
【0051】
加えて、樹脂成形体加工装置は前記実施形態のほかに、樹脂成形体の一方の表層の一部分のみに二酸化炭素を含浸させてガラス転移温度を低下させて所定のパターンを転写する装置であっても良い。具体的には、図7に示すように、樹脂成形体Wの表面に気密に接触して、二酸化炭素を含浸させる表層のみを覆う筒状体10と、当該筒状体10の内部に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部3と、筒状体10内で樹脂成形体Wに金型6を押し付ける押圧機構7(図示しない)とを備えたものであっても良い。
【0052】
その他、本発明は前述した実施形態や変形例の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態における樹脂成形体加工装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態における樹脂成形体加工装置の加工工程を示す図。
【図3】AFM(原子間力顕微鏡)観察により形状評価を示す図。
【図4】第1実施例の転写結果を示す図。
【図5】第2実施例の転写結果を示す図。
【図6】第3実施例の転写結果を示す図。
【図7】その他の変形実施形態における樹脂成形体加工装置の模式構成図。
【符号の説明】
【0054】
1 ・・・樹脂成形体加工装置
W ・・・樹脂成形体
2 ・・・収容室
3 ・・・二酸化炭素供給部
4 ・・・樹脂成形体保持部
5 ・・・樹脂成形体温度調節部
6 ・・・金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の表層の全部又は一部に二酸化炭素を含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程において二酸化炭素が含浸された領域に、所定のパターンを有する金型を押し付けて、そのパターンを転写する転写工程と、を有し、
前記含浸工程及び前記転写工程において、前記樹脂成形体の温度、前記樹脂成形体に含浸させる二酸化炭素の温度、又は前記金型の温度の少なくとも1つを、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素を含浸する前のガラス転移温度未満にしていることを特徴とする樹脂成形体加工方法。
【請求項2】
前記金型に形成された転写パターンが、ナノオーダーの形状であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体加工方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素に助剤を混合させていることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂成形体加工方法。
【請求項4】
樹脂成形体を加工する樹脂成形体加工装置であって、
前記樹脂成形体を収容する収容室と、
前記収容室内に二酸化炭素を供給するガス供給部と、
前記収容室内で前記樹脂成形体を保持する樹脂成形体保持部と、
前記樹脂成形体保持部により保持された前記樹脂成形体の温度を、二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節する樹脂成形体温度調節部と、
前記樹脂成形体保持部により保持された前記樹脂成形体に所定のパターンを転写するための金型を、前記樹脂成形体に押し付ける押圧機構と、を備えている樹脂成形体加工装置。
【請求項5】
前記樹脂成形体に含浸させる二酸化炭素の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節するガス温度調節部を備えていることを特徴とする請求項4記載の樹脂成形体加工装置。
【請求項6】
前記金型の温度を、前記樹脂成形体の二酸化炭素を含浸させた後のガラス転移温度以上二酸化炭素が含浸される前のガラス転移温度未満に調節する金型温度調節部を備えていることを特徴とする請求項4又は5記載の樹脂成形体加工装置。
【請求項7】
前記金型に形成された転写パターンが、ナノオーダーの形状であることを特徴とする請求項4、5又は6記載の樹脂成形体加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−137033(P2007−137033A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337728(P2005−337728)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】