説明

樹脂積層体の製造方法

【課題】異物の混入が無く、飛散防止性、耐擦傷性、透明性に優れた表面層を有する樹脂積層体を高生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】樹脂基材、該樹脂基材上に存在する該樹脂基材の飛散防止のための飛散防止層、及び該飛散防止層上に存在する硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層からなる樹脂積層体、並びにこの積層体の製造方法において、型上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化塗膜層と、飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する第1の工程、前記積層膜の形成された型の少なくとも1枚を、前記積層膜が形成された面を内側に用いて鋳型を作製する第2の工程、前記鋳型に樹脂原料を注入し注型重合を行う第3の工程、及び、重合終了後、該重合により形成された樹脂基材上に、前記飛散防止層と、前記硬化塗膜層とが順次積層された樹脂積層体を鋳型から剥離する第4の工程を含む樹脂積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイの前面板や高速道路の遮音壁などに好適な、透明性、飛散防止性、耐擦傷性に優れた板状等の形状の樹脂積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂等の透明樹脂は、工業用資材、建築用資材等として広く使用されている。特に近年では、その透明性と耐衝撃性の点から、アクリル樹脂がCRTや液晶テレビ等の各種ディスプレイの前面板として使用されるに至っている。しかし、他の樹脂と同様に、アクリル樹脂はガラスと比較して柔らかいため、引掻き等による傷が発生し易い場合がある。また、アクリル樹脂は割れた場合にその破片のエッジがとがりやすく、その破片の飛散を防止することが求められている。
【0003】
耐擦傷性を向上する方法としては、多官能(メタ)アクリレート等の多官能性単量体を用い、架橋樹脂層を樹脂基材の表面に形成することが知られている。しかし、従来の架橋樹脂層は、飛散防止性を全く示さないか、不十分な場合が多い。
【0004】
一方、アクリル樹脂基材に飛散防止性能を付与する方法が提案されている。例えば、特許文献1にはアクリル樹脂層と耐衝撃性を有する樹脂層を共押出成型により積層体とする方法が提案されている。さらにその表面にプラズマCVD法にてハードコート層を形成する方法も提案されている。
【0005】
しかしながら、従来の製造方法では表層に異物などが混入し外観不良となる場合があり、さらに、この方法では、ハードコート層までを連続的に形成することが困難であるため、生産性の点で改良の余地があった。
【特許文献1】特開平6−71826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、異物の混入が無く、飛散防止性、耐擦傷性、透明性に優れた表面層を有する樹脂積層体を高生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、樹脂基材、該樹脂基材上に存在する該樹脂基材の飛散防止のための飛散防止層、及び該飛散防止層上に存在する硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層からなる樹脂積層体である。
【0008】
また本発明に係る樹脂積層体の製造方法は、樹脂基材、該樹脂基材上に存在する該樹脂基材の飛散防止のための飛散防止層、及び該飛散防止層上に存在する硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層からなる樹脂積層体の製造方法において、型上に硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層と、飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する第1の工程、
前記積層膜の形成された型の少なくとも1枚を、前記積層膜が形成された面を内側に用いて鋳型を作製する第2の工程、
前記鋳型に樹脂原料を注入し注型重合を行う第3の工程、及び、
重合終了後、該重合により形成された樹脂基材上に、前記飛散防止層と、前記硬化塗膜層とが順次積層された樹脂積層体を鋳型から剥離する第4の工程、
を含む樹脂積層体の製造方法である。
【0009】
また、前記第1の工程が、前記硬化性混合物を含む塗料で形成した塗布層を介在させてあらかじめ形成された飛散防止フィルムを前記型に貼り合わせて飛散防止層とし、前記硬化性混合物を硬化させて硬化塗膜層とすることを特徴とする。
【0010】
また、前記第1の工程が、型上に硬化塗膜層を形成し、さらに該硬化塗膜層の上に飛散防止性能を有する樹脂を含む材料を塗布し飛散防止層を形成することを特徴とする。
【0011】
さらに、前記硬化性混合物が、紫外線硬化性混合物であり、該紫外線硬化性混合物を紫外線硬化させて前記硬化塗膜層を形成することを特徴とする。
【0012】
また、前記樹脂基材がアクリル系樹脂から構成される基材であることを特徴とする。
【0013】
加えて、一対の相対するエンドレスベルト及び該エンドレスベルトの幅方向の両端部付近に配設するガスケットから構成されており、少なくとも一方のエンドレスベルト上に前記硬化塗膜層と飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する前記第1の工程を実施した後、該積層膜の形成されたエンドレスベルトを含む一対のエンドレスベルト間に樹脂を注型し、重合して樹脂積層体を連続的に製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂基材上の少なくとも片面に飛散防止層が積層され、該飛散防止層上に硬化塗膜層が積層されているので、十分な飛散防止性能を示すとともに耐擦傷性および透明性にも優れた樹脂積層体を得ることができる。
【0015】
また本発明によれば、型面を転写したものなので、異物等による欠陥が無い優れた表面を有し、密着性に優れた樹脂積層体を高い生産性で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の樹脂積層体の製造方法は、型上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化塗膜層と、飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する第1の工程、
前記積層膜の形成された型の少なくとも1枚を、前記積層膜が形成された面を内側に用いて鋳型を作製する第2の工程、
前記鋳型に樹脂原料を注入し注型重合を行う第3の工程、及び、
重合終了後、該重合により形成された樹脂基材上に、前記飛散防止層と、前記硬化塗膜層とが順次積層された樹脂積層体を鋳型から剥離する第4の工程、
を含むものである。このような方法で製造される樹脂積層体は、樹脂基材の少なくとも片面に飛散防止層を有し、さらに該飛散防止層の上に硬化塗膜層を有している。
【0017】
まず、型上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化塗膜層と、飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する第1の工程について説明する。
【0018】
硬化塗膜層は、樹脂基材表面に対して耐擦傷性を向上させるものであり、この耐擦傷性をもたらす各種の硬化性化合物からなる硬化性混合物を膜状に硬化させたものである。硬化性混合物としては、後述する紫外線硬化性混合物のようなラジカル重合系の硬化性化合物からなる硬化性混合物や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシランなど、熱重合系の硬化性化合物からなる硬化性混合物を挙げることができる。これらの硬化性化合物は、例えば、電子線、放射線、紫外線などの活性エネルギー線を照射することにより硬化するか、或いは加熱により硬化するものである。これらの硬化性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の同種の硬化性を有する化合物を組み合わせて用いてもよい。場合によっては、ラジカル重合系の硬化性化合物と熱重合系の硬化性化合物とを組み合わせてもよい。なお、硬化性化合物単独で用いる場合も便宜的に「硬化性混合物」という。
【0019】
本発明において、硬化塗膜層を形成する硬化性混合物中の硬化性化合物として、紫外線硬化性化合物を用いることが好ましい。以下、紫外線硬化性混合物を硬化させてなる硬化塗膜層を用いた第1の工程について説明する。
【0020】
紫外線硬化性混合物としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物、及び光開始剤からなる紫外線硬化性混合物を用いることが生産性の観点から好ましい。
【0021】
例えば、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の主なものとしては、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物、多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物と(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物等が挙げられる。
【0022】
また、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物の具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキルジオールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の3官能以上のポリオールのポリ(メタ)アクリレート;などが挙げられる。
【0023】
さらに、多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物と(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物において、多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物と(メタ)アクリル酸の好ましい組合せとしては、例えば、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0024】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物のその他の例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モル当たり、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系モノマー3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;エポキシポリ(メタ)アクリレート;ウレタンポリ(メタ)アクリレート;などが挙げられる。ここで「(メタ)アクリ」とは、「メタクリ」又は「アクリ」を意味する。
【0025】
光開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等のリン化合物;などが挙げられる。
【0026】
光開始剤の添加量は、紫外線硬化性混合物100質量%中、紫外線照射による硬化性の観点から0.1質量%以上が好ましく、硬化塗膜層の良好な色調を維持する観点から10質量%以下が好ましい。また、光開始剤は2種類以上併用してもよい。
【0027】
硬化性混合物を含む硬化塗膜層形成用の塗料には、必要に応じて、レベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、光安定剤(紫外線吸収剤、HALS等)等の各種成分をさらに添加できる。積層体の透明性の観点から、その添加量は硬化性混合物100質量%中、10質量%以下が好ましい。
【0028】
硬化塗膜層としては、膜厚が1μm〜100μmであることが好ましい。かかる範囲においては、十分な表面硬度を有し外観も良好である。より好ましくは、1μm〜30μmである。
【0029】
本発明で用いる飛散防止層(中間層)は、樹脂基材が衝撃力を受けた際、該基材が破砕しその破片が飛散するのを防止するためのものであり、この飛散防止性能をもたらす飛散防止層は、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−トリアリルイソシアネート共重合体、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、シリコーン、ポリカーボネート、ポリアリレートから選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。
【0030】
これらの樹脂としては、透明性、飛散防止性能の観点から、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。
【0031】
上記飛散防止層には、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤、難燃剤、蛍光剤、架橋剤等が添加されていても良い。
【0032】
飛散防止層の膜厚としては、150μm〜1000μmであることが好ましい。かかる範囲においては、十分な飛散防止性能を有しかつ外観不良などが発生しない。
【0033】
また、予め形成された飛散防止フィルムを飛散防止層として用いることができる。このような飛散防止フィルムは市販されており、例えば、積水化学工業(株)製商品名「エスレックフィルム」、ソルーシアジャパン(株)製商品名「セーフレックス」、オカダエンジニアリング(株)製商品名「Tecoflex」などが挙げられる。飛散防止フィルムは紫外線硬化性混合物が硬化する程度の紫外線透過性と、飛散防止性能を併せ持てばよく、上記の限りではない。
【0034】
第1の工程における積層膜の形成方法は、前記硬化性混合物を含む塗料で形成した塗布層を介在させて上記のような飛散防止フィルムを型に貼り合わせて飛散防止層とし、前記硬化性混合物を硬化させて硬化塗膜層とする方法と、硬化塗膜層と、飛散防止層とを順次形成する方法とが挙げられる。
【0035】
まず前者の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
硬化性混合物を含む塗料で形成した塗布層を介在させて、飛散防止フィルムを型に貼り付ける。前記硬化性混合物としては、前記したように紫外線硬化性混合物が好ましい。以下、紫外線硬化性混合物を含む塗料で形成した塗布層を介在させて、飛散防止フィルムを型に貼り付ける樹脂積層体の製造方法について説明する。飛散防止フィルムを型に貼り付ける方法としては、例えば、型もしくはフィルムに紫外線硬化性混合物を含む塗料を塗布し、ゴムロールで圧着する方法が挙げられる。特に、貼り合わせる際のエアーの巻き込みを防ぐためには、型上に過剰量の紫外線硬化性混合物を含む塗料を塗布し、飛散防止フィルムを介してゴムロールで過剰な塗料をしごき出しながら貼り付ける方法が好ましい。
【0037】
前記の工程で飛散防止フィルムを型に貼り付けた後、飛散防止フィルムを介して紫外線を照射し、前記塗布層中の紫外線硬化性混合物を硬化させて硬化塗膜層とする。この紫外線照射には、紫外線ランプを使用すればよい。紫外線ランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、蛍光紫外線ランプ等が挙げられる。紫外線硬化性混合物以外の硬化性混合物を用いる場合は、例えば、電子線、放射線などのエネルギー線を飛散防止フィルムを介して照射することにより硬化するもの、或いは加熱により硬化するものを用いればよい。
【0038】
次に後者の製造方法について詳細に説明する。
【0039】
まず、紫外線硬化性混合物を型へ塗布し、紫外線を照射して紫外線硬化性混合物を硬化させて硬化塗膜層を形成する。型への塗布方法は、エアーナイフコート法、流延法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法などが挙げられる。また、紫外線照射に用いるランプは前述のランプ等が挙げられる。紫外線硬化性混合物以外の硬化性混合物を用いる場合は、前述のものが用いられる。
【0040】
次に、飛散防止層を硬化塗膜層の上に形成する。飛散防止層の形成方法は、飛散防止層に含有する前述の樹脂を熱溶融した状態で、硬化塗膜層の上に塗布する方法、又は、樹脂を溶剤に溶解させた状態で硬化塗膜層の上に塗布した後、乾燥させる方法などが挙げられる。硬化塗膜層への塗布方法は、エアーナイフコート法、流延法、ローラーコート法、バーコート法、カーテンコート法、スロットダイ法などが挙げられる。
【0041】
型を構成する部材としては、例えば、鏡面を有するステンレス板、ガラス板または表面に凹凸を有するステンレス板、ガラス板等を使用できる。
【0042】
次いで、第2の工程について説明する。第2の工程では、硬化性混合物を硬化させてなる硬化塗膜層及び該硬化塗膜層上に積層された飛散防止層を有する前記型を用いて鋳型を作製する。
【0043】
鋳型の作製は、例えば、少なくとも一方に上記の積層膜を有する2枚の型を用いて、その一つの型と対向するもう一方の型との間に、軟質ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸メチル共重合物等からなる中空形状物をガスケットとして挟み込み、クランプで固定して、鋳型を組立てる等の工程により行うことができる。また、連続的に注型重合(キャスト重合)する方法として、図1に示すような対向して走行する2枚のステンレス製エンドレスベルトを型として、それらエンドレスベルトの間で樹脂原料を注型重合して樹脂板を製造する方法が知られており、本発明においてもこのようなエンドレスベルトを型とする成型方法が、生産性の点で最も好ましい方法である。エンドレスベルトを用いた連続製造については後述する。
【0044】
このように鋳型を作製した後、樹脂原料(樹脂基材用の重合性原料)を鋳型内に注入し、重合する第3の工程について説明する。
【0045】
作製した鋳型内部にて、樹脂基材となる樹脂原料の注型重合を行なう際、その樹脂原料としては、従来より知られる各種の原料を使用できる。例えば、アクリル系樹脂基材を注型重合で製造する場合は、その樹脂原料として、(メタ)アクリル酸のエステル類単独の単量体、又はこれを主成分とする単量体、或いは、この単量体とこの単量体の重合物との混合物を含有するシロップ等を挙げることができる。
【0046】
また、このようなアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸のエステル類の単独重合物、或いはこれを主な単量体成分とする共重合物を例示することができる。(メタ)アクリル酸のエステル類としては、メタクリル酸メチルを例示することができる。例えば、メタクリル酸メチルを主な単量体成分として共重合する場合、その他の単量体成分としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;等が挙げられる。
【0047】
メタクリル酸メチル単量体或いはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物中に、メタクリル酸メチル単量体或いはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物の一部重合物を含む場合は、メタクリル酸メチル単量体或いはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物に前記重合物を溶解させてもよいし、或いはメタクリル酸メチル単量体或いはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物を一部重合させてもよい。アクリル系樹脂原料を重合するための開始剤としては一般的に用いられるアゾ系の開始剤、或いはパーオキサイド系開始剤等が挙げられ、これらの開始剤を用いて公知の方法により注型重合を行う。アクリル系樹脂原料には、その他目的に応じ、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料等を添加することができる。
【0048】
樹脂基材の厚みは、樹脂材料や用途に応じて適宜最適の厚みとすればよいが、生産性の観点から、0.5mm〜15mmが好ましい。
【0049】
次いで、重合終了後、樹脂基材と、飛散防止層と、硬化塗膜層とが順次積層された樹脂積層体を鋳型から剥離する第4の工程を実施する。このようにして得られる樹脂積層体は、型面を転写したものなので異物等による欠陥が無い優れた表面を有し、密着性に優れかつ耐擦傷性や飛散防止性能に優れている。
【0050】
剥離を容易とするため、型の表面に離型剤を塗布する等、離型処理を施していても良い。
【0051】
以上のようにして製造される樹脂積層体には、必要に応じて、例えば硬化塗膜層の表面に反射防止層などの他の機能層を設けることもできる。例えば、反射防止層を形成する場合、市販の反射防止用塗料を樹脂積層体に塗布、乾燥させて形成する方法(湿式法)、或いは、蒸着法やスパッタリング法などの物理気相堆積法などが挙げられる。また、硬化塗膜層の表面は平坦でもマット状でも良い。また防汚膜をさらに積層してもよい。
【0052】
次に、エンドレスベルトを用いた樹脂積層体の連続製造方法について図面を参照して詳細に説明する。図1の装置において、上下に配置した一対のエンドレスベルト1、2を型とし、エンドレスベルト1、2は、それぞれ主プーリ3、4、5、6で張力が与えられ、同一速度で走行する。上下対になったキャリアロール7は、走行するエンドレスベルト1、2を水平に支持し、該ベルトの走行方向と直角方向かつ該ベルト面の垂直方向から該ベルト面に対して線荷重をかける。
【0053】
注型重合する樹脂原料は、重合性原料注入装置14からエンドレスベルト1、2の間に供給される。エンドレスベルト1、2の幅方向の両端部付近は弾力性のある二個のガスケット12が配設されてシールされ、鋳型を構成する。これにより鋳型の空間部が形成されている。ここで「幅方向」とは、エンドレスベルトの走行方向と直角方向かつ該ベルト面に水平な方向をいう。エンドレスベルト1、2の間の空間部に注入された樹脂原料(重合性原料)は、エンドレスベルト1、2の走行に伴い、第一重合ゾーン8において温水スプレー9による加熱によって重合を開始し、次いで第二重合ゾーン10において遠赤外線ヒーターで加熱されて重合を完結し、冷却ゾーン11で冷却された後、矢印13方向に樹脂基材が連続的に取り出される。
【0054】
第一重合ゾーンの重合温度や重合時間等は、注型重合する樹脂原料の組成に応じて適宜最適となる条件を選択すればよく、例えば、上記例示したアクリル系樹脂を樹脂原料とする場合は、30℃〜90℃が好ましく、重合時間は10分〜40分程度とすることが好ましい。ただし、この範囲の温度や時間に限定されるものではない。例えば、始めは低温で重合を行い、次いで温度を上昇させて重合を継続させる方法等も用いることができる。その後、第二重合ゾーンにおいて、100℃〜130℃程度の高温条件で10分〜30分加熱して重合を完結させることも好ましい。
【0055】
(連続製造方法1)
エンドレスベルト1、2の少なくとも一方には、前記した硬化塗膜層と飛散防止層が形成され、その後注型重合する樹脂原料が注型される。図2にこれら工程を実施するための装置の断面図を示す。図2においては、エンドレスベルト2上に積層膜を形成する場合を示す。又、図3は、図2におけるA、B、Cでの模式的横断面図を示す。
【0056】
エンドレスベルト2上に紫外線硬化性混合物を含む塗料16を塗布し(図3(a))、ゴムロール17により、飛散防止フィルム15を圧着する。その後、紫外線硬化性混合物を含む塗料16は、高圧水銀灯18により硬化されて、飛散防止フィルム15と硬化塗膜層16’とからなる積層膜19が形成される(図3(b))。続いて、エンドレスベルト1との会合直前に重合性原料注入装置14より樹脂基材用の重合性原料20を注入し、エンドレスベルト1と会合することで、図3(c)に示すようにエンドレスベルト1、2及びガスケット12から構成される鋳型が形成される。その後は、上記のように重合性原料の重合を実施し、エンドレスベルトの他端側で鋳型から解放され、樹脂積層体が剥離される。
【0057】
(連続製造方法2)
図2の装置に代えて、図4の装置を用いて積層膜を形成することができる。図5は図4におけるA、B、Cでの模式的横断面図を示す。
【0058】
エンドレスベルト2上に紫外線硬化性混合物を含む塗料16を塗布し、高圧水銀灯18により硬化されて硬化塗膜層16’が形成される(図5(a))。この時、バーコーター21で所定の厚みとなるように規制される。次に、飛散防止層用の樹脂材料22が塗布され、同様にバーコーター23にて所定の厚みに規制され、熱風炉等の乾燥手段24により乾燥されて積層膜19’が形成される(図5(b))。その後、図2と同様にして樹脂基材用の重合性原料20を注入し、エンドレスベルト1と会合することで、図5(c)に示すようにエンドレスベルト1、2及びガスケット12から構成される鋳型が形成される。
【0059】
これらの積層膜の形成に際しても、図3及び5に示すように、積層膜の幅を規制するようにガスケット12をエンドレスベルト2に付帯させておくことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0060】
このように、エンドレスベルトを用いた連続製造装置により樹脂積層体を連続的に製造することが可能となる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、実施例、比較例で使用した化合物の略称は以下の通りである。
「MMA」:メタクリル酸メチル
「AIBN」:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)
「C6DA」:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)
「TAS」:コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合混合物(大阪有機化学工業(株)製)
「BEE」:ベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)製)
「IRGACURE184」:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・ジャパン(株)製)
「IRGACURE819」:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン(株)製)
「エスレッククリアーフィルム」:飛散防止フィルム(積水化学工業(株)製)
「セーフレックスRB41」:飛散防止フィルム(ソルーシアジャパン(株)製)
「セーフレックスDS31」:飛散防止フィルム(ソルーシアジャパン(株)製)
「セーフレックスAG21」:飛散防止フィルム(ソルーシアジャパン(株)製)
「ビュートバーB74」:ポリビニルブチラール粉末(ソルーシアジャパン(株)製)
「ビュートバーB76」:ポリビニルブチラール粉末(ソルーシアジャパン(株)製)
「Tecoflex」:飛散防止フィルム(オカダエンジニアリング(株)製)
「アクリライトL001」:ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製)。
【0062】
なお、実施例における物性の評価は下記の方法に基づいて行った。
【0063】
<全光線透過率及びヘーズ>
日本電色製HAZE METER NDH2000(商品名)を用いてJIS K7136に示される測定法に準拠して、全光線透過率及びヘーズを測定した。
【0064】
<耐擦傷性>
擦傷試験の前後におけるヘーズの変化(Δヘーズ)をもって評価した。即ち、#000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドを積層体の硬化塗膜層表面上に置き、9.8Nの荷重下で、20mmの距離を100回往復擦傷し、擦傷前と擦傷後のヘーズ値の差を下式(1)より求めた。
[Δヘーズ(%)]=[擦傷後ヘーズ値(%)]−[擦傷前ヘーズ値(%)]・・(1)
<飛散防止性能>
JIS K 7211−1に準じ落錘試験にて1kgの錘を高さ150mmから落下させ積層体の割れた破片が飛び散るかどうか評価した。
○:割れるが破片の飛び散りはない。
×:割れて破片が飛び散る。
【0065】
<表面欠陥>
積層体の表層(面積300×300mm)の異物数を目視により観察した。
○:異物ゼロ
×:異物が無数に存在。
【0066】
<密着性評価>
付着性試験(クロスカット法;JIS K5600−5−6)により評価した。
○:硬化塗膜層或いは飛散防止層の樹脂基材からの剥離無し。
×:硬化塗膜層或いは飛散防止層の樹脂基材からの剥離有り。
【0067】
[実施例1]
型となるステンレス(SUS304)板上に、TAS50質量部、C6DA50質量部、BEE1.5質量部からなる紫外線硬化性混合物を含む塗料を塗布した。
【0068】
ステンレス板に形成させた紫外線硬化性混合物を含む塗膜上に、飛散防止フィルムとして膜厚500μmのエスレッククリアーフィルムを重ね、JIS硬度40°のゴムロールを用い、紫外線硬化性混合物を含む塗膜の厚みが15μmとなるように過剰な塗料をしごき出しながら、気泡を含まないように圧着させた。尚、紫外線硬化性混合物を含む塗膜の厚みは、この紫外線硬化性混合物を含む塗料の供給量及び展開面積から算出した。
【0069】
次いで、エスレッククリアーフィルムを介して出力9.6kWの高圧水銀灯の下20cmの位置を3.0m/minのスピードで通過させて、塗膜層を硬化させ、膜厚が13μmの硬化塗膜層を得た。積層膜の膜厚は513μmであった。尚、硬化塗膜層及び、積層膜の膜厚は、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から測定して求めた。
【0070】
このようにして形成した積層膜を有するステンレス板を2枚用意し、それぞれの積層膜が内側になるように対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した(面積300×300mm)。この鋳型内に、重量平均分子量220000のMMA重合物20質量部とMMA単量体80質量部の混合物100質量部、AIBN0.05質量部、ジオクチルスルフォサクシネートのナトリウム塩0.005質量部からなる樹脂原料を注入し、対向するステンレス板の間隔を2.5mmに調整し、80℃の水浴中で1時間、次いで130℃の空気炉で1時間重合した。その後、冷却して、ステンレス板から、得られた樹脂板を剥離することにより、両面に積層膜、すなわち表面に硬化塗膜層を、内部に飛散防止層を有する板厚2mmのアクリル樹脂積層体を得た。
【0071】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは1.2%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0072】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1において、飛散防止フィルムとして膜厚760μmのセーフレックスRB41を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0074】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは1.5%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0075】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
実施例1において、飛散防止フィルムとして膜厚630μmのセーフレックスDS31を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂積層体を作製した。
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは1.2%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0077】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
実施例1において、飛散防止フィルムとして膜厚510μmのセーフレックスAG21を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂積層体を作製した。
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは1.1%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0079】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例5]
型となるステンレス(SUS304)板上に、TAS50質量部、C6DA50質量部、IRGACURE184を4質量部、IRGACURE819を0.2質量部からなる紫外線硬化性混合物からなる塗料をバーコーターを用いて塗膜の厚みが15μmとなるように塗布した。尚、紫外線硬化型樹脂を含む塗膜の厚みは、この紫外線硬化性混合物を含む塗料の供給量及び展開面積から算出した。次いで、空気下で出力9.6kWの高圧水銀灯の下10cmの位置を2m/minのスピードで通過させて、硬化塗膜層を硬化させ、膜厚が13μmの硬化塗膜層を得た。尚、硬化塗膜層の膜厚は、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から測定して求めた。
【0081】
次いで、エスレッククリアーフィルムをテトラヒドロフラン(THF)へ溶解し5質量%溶液を作成した。その後、該硬化塗膜層の上にTHF溶液をバーコーターを用いて塗布し、80℃の条件下で10分乾燥し飛散防止層を形成した。この作業を乾燥後の飛散防止層の膜厚が300μmとなるまで繰り返した。尚、飛散防止層の厚みは、飛散防止層の比重を1g/mLと仮定し塗布面積から概算で算出した。その後、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から、飛散防止層の厚みが300μm、硬化塗膜層の膜厚が13μmである、合計膜厚313μmの積層膜であることを確認した。
【0082】
このようにして積層膜を形成した後、実施例1と同様して、樹脂積層体を作製した。
【0083】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.5%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0084】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0085】
なお、本実施例及び以下の実施例において、便宜上、市販の飛散防止フィルムを用いてTHF溶液を調製したが、通常の製造の際は、相当する樹脂原料を用いて塗布溶液を調製或いは樹脂溶融物を流下するなどして飛散防止層が製造し得ることは明らかである。
【0086】
[実施例6]
実施例5において、THF溶液としてセーフレックスRB41の5質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0087】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.8%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0088】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例7]
実施例5において、THF溶液としてセーフレックスDS31の7質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0090】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.5%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0091】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0092】
[実施例8]
実施例5において、THF溶液としてセーフレックスAG21の5質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0093】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.4%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0094】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例9]
実施例5において、THF溶液としてTecoflexの10質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0096】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.7%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0097】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例10]
実施例5において、THF溶液としてビュートバーB74の5質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0099】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.5%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0100】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例11]
実施例5において、THF溶液としてビュートバーB76の10質量%溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、樹脂積層体を作製した。
【0102】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.5%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0103】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例12]
まず、実施例1と同様にして紫外線硬化性混合物を含む塗料を調製した。図1の装置において、相対して同一方向へ同一速度(2.5m/min)で走行する幅1500mm、厚さ1mmの鏡面仕上げしたステンレス(SUS304)製エンドレスベルト1、2の上向きのベルト2上へ、前記紫外線硬化性混合物を含む塗料を図2に示す装置により実施例1と同様の方法で塗布し、ゴムロール17を用いて前記飛散防止フィルム(エスレッククリアーフィルム)15を圧着させた。次いで、実施例1と同様の方法で紫外線硬化し、ステンレス製エンドレスベルト2上に飛散防止層15と硬化塗膜層16’からなる積層膜19を得た。硬化塗膜層16’の厚みは15μmであった。
【0105】
以上のようにして片面に積層膜を形成したエンドレスベルトと、他のエンドレスベルトとを相対させ、その相対する面側の幅方向の両端部において両エンドレスベルトと同一速度で走行する軟質ポリ塩化ビニル製ガスケットとで鋳型を構成し、2枚のエンドレスベルトの間隙をあらかじめ1.2mmの厚みになるように設定した。この型内に実施例1と同じ樹脂基材を形成する樹脂原料を一定流量で注入し、ベルトの移動とともに78℃の温水シャワーで30分間加熱し重合硬化させ、遠赤外線ヒーターで135℃の熱処理を20分間行い、送風により10分間かけて100℃に冷却し、得られた樹脂板をエンドレスベルトから剥離し、片方の表面に積層膜すなわち硬化被膜層及び飛散防止層を有する板厚1.2mmのアクリル樹脂積層体を長さ75mにわたって安定して得た。
【0106】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは1.2%であり、透明性に優れていた。さらに、異物による外観欠陥は全くなく、良好な外観を有するものであった。
【0107】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、飛散防止性能、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化塗膜層や飛散防止層の密着性も良好であった。結果を表1に示す。
【0108】
[比較例1]
実施例1において、紫外線硬化性混合物からなる塗料を塗布せずに、直接型となるステンレス(SUS304)板上に飛散防止フィルムを張り合わせ、さらに紫外線照射を実施しない事以外は、実施例1と同様にして樹脂積層体を形成した。その結果、熱重合後、冷却してステンレス板から、得られた樹脂板を剥離しようとした際、剥離ができずアクリル樹脂積層体を得ることができなかった。
【0109】
[比較例2]
実施例5において、飛散防止層を形成しなかったこと以外は、実施例5と同様にして樹脂積層体を形成した。得られた樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.1%であり、透明性は良好であった。また、擦傷後のヘーズ増分は0.0%であり、耐擦傷性に優れるものであった。しかしながら、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散が見られた。結果を表1に示す。
【0110】
[比較例3]
厚さ1mmのアクリライトL001の両面へバーコーターを用いて、エスレッククリアーフィルムの5質量%THF溶液を塗布し、80℃の条件下で10分乾燥し飛散防止層を形成した。
【0111】
この作業を乾燥後の飛散防止層の膜厚が300μmとなるまで繰り返した。尚、飛散防止層の厚みは、飛散防止層の比重を1g/mLと仮定し塗布面積から概算で算出した。
【0112】
次いで、TAS50質量部、C6DA50質量部、IRGACURE184を4質量部、IRGACURE819を0.2質量部からなる紫外線硬化性混合物からなる塗料をバーコーターを用いて塗膜の厚みが15μmとなるように塗布した。尚、塗膜の厚みは、この紫外線硬化性混合物を含む塗料の供給量及び展開面積から算出した。次いで、空気下で出力9.6kWの高圧水銀灯の下10cmの位置を2m/minのスピードで通過させて、塗膜を硬化させ、膜厚が13μmの硬化塗膜層を得た。尚、硬化塗膜層の膜厚は、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から測定して求めた。上記の作業をクリーン度クラス1000の環境下で実施した。
【0113】
得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は92%、ヘーズは0.5%であり、透明性に優れていた。しかし、異物による欠陥が発生していた。
【0114】
また、飛散防止性能を評価した結果、割れた破片の飛散はなかった。擦傷後のヘーズ増分は0.3%であり、飛散防止性能は優れるものの耐擦傷性が不足しており、異物欠陥も発生した。また、飛散防止層と硬化塗膜層との密着性も不良であった。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の方法で製造された樹脂積層体は、高速道路などの遮音壁、各種電気機器の銘板、間仕切り等の各種グレージング、CRT、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、プロジェクションテレビ等の各種ディスプレイの前面板、及び携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー、モバイルパソコンなどの情報端末の情報表示部の前面板等に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の方法に使用可能なベルト式連続キャスト製板装置を例示する模式的断面図である。
【図2】本発明の方法に使用可能な積層体の形成装置を例示する模式的断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、図2のA、B、Cでの模式的横断面図である。
【図4】本発明の方法に使用可能な積層体の形成装置を例示する模式的断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、図4のA、B、Cでの模式的横断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1、2 エンドレスベルト
3、4、5、6 主プーリ
7 キャリアロール
8 第一重合ゾーン
9 温水スプレー
10 第二重合ゾーン
11 冷却ゾーン
12 ガスケット
13 樹脂積層体の取り出し方向
14 重合性原料注入装置
15 飛散防止フィルム
16 紫外線硬化性混合物を含む塗料
16’ 硬化塗膜層
17 ゴムロール
18 高圧水銀灯
19、19’ 積層膜
20 重合性原料(樹脂基材用)
21、23 バーコーター
22 飛散防止層用樹脂原料
24 乾燥手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材、該樹脂基材上に存在する該樹脂基材の飛散防止のための飛散防止層、及び該飛散防止層上に存在する硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層からなる樹脂積層体。
【請求項2】
樹脂基材、該樹脂基材上に存在する該樹脂基材の飛散防止のための飛散防止層、及び該飛散防止層上に存在する硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層からなる樹脂積層体の製造方法において、
型上に硬化性混合物を硬化させた硬化塗膜層と、飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する第1の工程、
前記積層膜の形成された型の少なくとも1枚を、前記積層膜が形成された面を内側に用いて鋳型を作製する第2の工程、
前記鋳型に樹脂原料を注入し注型重合を行う第3の工程、及び、
重合終了後、該重合により形成された樹脂基材上に、前記飛散防止層と、前記硬化塗膜層とが順次積層された樹脂積層体を鋳型から剥離する第4の工程、
を含むことを特徴とする樹脂積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程が、前記硬化性混合物を含む塗料で形成した塗布層を介在させてあらかじめ形成された飛散防止フィルムを前記型に貼り合わせて飛散防止層とし、前記硬化性混合物を硬化させて硬化塗膜層とする請求項2に記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程が、型上に硬化塗膜層を形成し、さらに該硬化塗膜層の上に飛散防止性能を有する樹脂を含む材料を塗布し飛散防止層を形成する請求項2に記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項5】
前記硬化性混合物が、紫外線硬化性混合物であり、該紫外線硬化性混合物を紫外線硬化させて前記硬化塗膜層を形成することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂基材がアクリル系樹脂から構成される基材である請求項2〜5のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項7】
前記鋳型が一対の相対するエンドレスベルト及び該エンドレスベルトの幅方向の両端部付近に配設するガスケットから構成されており、少なくとも一方のエンドレスベルト上に前記硬化塗膜層と飛散防止層とが順次積層された積層膜を形成する前記第1の工程を実施した後、該積層膜の形成されたエンドレスベルトを含む一対のエンドレスベルト間に樹脂を注型し、重合して樹脂積層体を連続的に製造する請求項2〜6のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−166276(P2009−166276A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4203(P2008−4203)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】