説明

樹脂膜形成方法及びその装置

【課題】
薄い樹脂膜であっても耐久性等の性能と外観品質を同時に満足し得る樹脂膜形成方法及びその装置を提供する。
【解決手段】
金属ワークの表面に樹脂を塗布し、この樹脂を誘導加熱により加熱溶融させると共に冷却することにより硬化させて樹脂膜を形成する樹脂膜形成方法であって、誘導加熱時に、第1加熱温度まで加熱して当該加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、第1加熱温度より高い第2加熱温度まで加熱する。また、前記第1加熱温度に対応した温度に保持した後に、第1加熱温度より高く第2加熱温度より低い温度以上に予め設定した時間保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の所定の表面に防錆や接着等の目的で形成される樹脂膜の形成方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材の表面に防錆等の目的で樹脂膜を形成する方法としては、例えば特許文献1に開示されている。この樹脂被膜方法は、鋼板の表面に樹脂粉体のスリラーを形成し、これを乾燥させて樹脂粉体の集積層を形成すると共に、この集積層を誘導加熱等により加熱溶融させて鋼板表面に溶融膜(樹脂膜)を形成するようにしたものである。
【特許文献1】特開平10−160090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この樹脂被膜方法にあっては、鋼板表面に形成した樹脂粉体の集積層を、誘導加熱を利用して単に240℃程度に加熱溶融させて冷却することにより樹脂膜を形成しているため、樹脂膜の厚さによっては表面にピンホール等が発生して外観品質的に好ましくなく、また、使用する樹脂がスリラー等の特殊なものに特定され易く、コスト的に不利になり易いという問題点を有している。
【0004】
特に、この樹脂被膜方法においては、金属材の表面に比較的薄いミクロン単位の厚さの樹脂膜を形成する場合に、単に常温から所定の加熱温度まで加熱しただけでは、加熱時に集積層内(樹脂中)に残存したり発生する気泡を外部に完全に脱気することが困難で、形成された樹脂膜の表面にピンホールやボイド等が発生し易く、そのため樹脂膜に耐久性等の性能と外観品質が同時に要求される場合等に、適用し難いのが実情である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、薄い樹脂膜であっても耐久性等の性能と外観品質を同時に満足し得る樹脂膜形成方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の樹脂膜形成方法は、金属ワークの表面に樹脂を塗布し、この樹脂を誘導加熱により加熱溶融させると共に冷却することにより硬化させて樹脂膜を形成する樹脂膜形成方法であって、前記誘導加熱時に、第1加熱温度まで加熱して当該加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、前記第1加熱温度より高い第2加熱温度まで加熱することを特徴とする。また、請求項2に記載の発明は、前記第1加熱温度に対応した温度に保持した後に、第1加熱温度より高く第2加熱温度より低い温度以上に、予め設定した時間保持することを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に記載の樹脂膜形成装置は、金属ワークの表面に樹脂を塗布し、この樹脂を誘導加熱により加熱溶融させると共に冷却することにより硬化させて樹脂膜を形成する樹脂膜形成装置であって、前記金属ワークの樹脂塗布面に対向配置される加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給するインバータと、該インバータを制御して前記加熱コイルによる樹脂塗布面の加熱を複数の加熱温度に段階的に設定し得る制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の発明は、前記制御手段が、第1加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、前記第1加熱温度より高い第2加熱温度に設定し得ることを特徴とし、請求項5に記載の発明は、前記加熱コイルが、金属ワークの複数の樹脂塗布面にそれぞれ対向する複数のコイル部を有し、該コイル部が直列接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、金属ワークの表面に塗布された樹脂の誘導加熱時に、第1加熱温度まで加熱してこの第1加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、第1加熱温度より高い第2加熱温度まで加熱するため、誘導加熱時に樹脂中に残存等する気泡を、第1加熱温度に対応した温度で所定時間保持している間に脱気することができて、ピンホール等の発生がなく表面品質が優れた外観品質が得られると共に、脱気された後の第2加熱温度による加熱で樹脂膜の耐久性等の性能を高めることができる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、第1加熱温度に対応した温度に保持した後に、第1加熱温度より高く第2加熱温度より低い温度以上に予め設定した時間保持するため、第1加熱温度で脱気された樹脂を硬化等に適した加熱温度に所定時間保持することができて、樹脂膜の耐久性等の性能を一層高めることができる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明によれば、制御手段によりインバータを制御して、加熱コイルによる金属ワークの樹脂塗布面の加熱を複数の加熱温度に段階的に設定するため、樹脂塗布面の誘導加熱時に樹脂中に残存等する気泡を、段階的な加熱により脱気することができて、ピンホール等の発生がなく表面品質が優れた外観品質が得られると共に、脱気された後の脱気温度より高い第2加熱温度による加熱で樹脂膜の耐久性等の性能を高めることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、制御手段により第1加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、第1加熱温度より高い第2加熱温度に設定されるため、樹脂中の気泡を第1加熱温度で確実に脱気して表面品質を一層高めることができると共に、第2加熱温度で樹脂膜の耐久性等の性能を一層高めることができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項3または4に記載の発明の効果に加え、加熱コイルが、金属ワークの複数の樹脂塗布面にそれぞれ対向する複数のコイル部を有し、該コイル部が直列接続されているため、各コイル部を樹脂塗布面に確実に対向させて各樹脂塗布面を均一に加熱できて、金属ワークの樹脂塗布面に高精度な樹脂膜を簡単に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図4は、本発明に係わる樹脂膜形成装置の一実施形態を示し、図1がその概略構成を示す回路図、図2がその加熱コイルとワークの分解斜視図、図3が樹脂膜形成方法の一例を示す工程図、図4がその説明図である。
【0015】
図1において、樹脂膜形成装置1は、トランジスタ式のインバータ回路2を有し、このインバータ回路2は、4つのアーム2a〜2dにそれぞれ接続された半導体スイッチング素子としての4個のFET3a〜3d等を有している。そして、このインバータ回路2の各アーム2a〜2dは、アーム2aとアーム2bが直列接続され、アーム2cとアーム2dが直列接続されると共に、アーム2aとアーム2cの接続点が直流電源の+端子4aに接続され、アーム2bとアーム2dの接続点が直流電源の−端子4bに接続されることにより、フルブリッジ回路を形成している。なお、前記端子4a、4b間には、電解コンデンサ5と、抵抗6及びダイオード7の直列回路が接続されている。
【0016】
また、アーム2aとアーム2bの接続点には、トランス8の一次側コイルの一方側が接続され、アーム2cとアーム2dの接続点には、前記トランス8の一次側コイルの他方側が接続されている。さらに、トランス8の二次側には、出力トランス9(変流器)の一次側が接続され、この出力トランス9の二次側にはホルダー等を介して加熱コイル10が着脱可能に接続されている。そして、これらのトランス8、出力トランス9及び前記インバータ回路2等によって本発明のインバータが構成されている。
【0017】
なお、アーム2aとアーム2cの接続点と、アーム2aのFET3aのドレイン間及びアーム2cのFET3cのドレイン間、アーム2bとアーム2dの接続点と、アーム2bのFET3bのソース間及びアーム2dのFET3dのソース間には、各アーム2a〜2dの電流をバランスさせる差動トランス11がそれぞれ設けられている。
【0018】
そして、出力トランス9の二次コイルに、検出トランス12の一次コイルとしての安全コイル12aが接続され、この安全コイル12aと誘導結合された検出トランス12の二次コイル12bが制御手段としての制御装置13に接続されている。この時、検出トランス12は、例えば銅の円形パイプ、銅板、銅線等で形成された安全コイル12aを円柱状コアの周囲に巻回し、このコアの所定位置に二次コイル12bとしての電線等を所定回数巻回すること等により形成されている。
【0019】
また、安全コイル12のインダクタンス(例えば巻数)は、後述する加熱コイル10のインダクタンス(例えば巻数)に対して1/2〜1/10程度となる小さい値に設定されている。この安全コイル12aのインダクタンス値は、1/2未満の場合は安全コイル12aのインダクタンスが大きくなりすぎて加熱コイル10のインダクタンスに悪影響を与え、1/10を超える場合は加熱コイル10の状態を的確に検出することができないという、実験結果に基づいて求めた値である。これにより、検出トランス12の安全コイル12aが加熱コイル10と並列接続状態となり、この安全コイル12aによって加熱コイル10の短絡、開放等の異常状態が検出されてその信号が二次コイル12bから制御装置13に出力されるようなっている。
【0020】
前記制御装置13は、マイコンあるいはリレーや電磁開閉器、シーケンサー等で形成され、その入力側に検出トランス12の二次コイル12b等が接続され、出力側にFET3a〜3dをオン・オフさせるための発振器や電源回路(図示せず)等が接続されている。また、インバータ回路2のアーム2b、2dには、必要に応じて電流検出器14がそれぞれ接続される。
【0021】
前記加熱コイル10は、図2に示すように、内部に冷却水の流路を有する1本の連続した円形銅パイプを屈曲させることにより形成され、ワーク15の3つの樹脂塗布面16a〜16cに対向する3つのコイル部10a〜10cを有し、これらの各コイル部10c〜10dは直列接続されている。すなわち、ワーク15は、例えばSUS等の鋼板(金属材)により、基盤15a表面の中心位置に所定外径で突出形成された突出部15bを有する略円盤状に形成され、基盤15a外周面と突出部15b表面及び基盤15a表面で突出部15b外側の所定内径の円環状部分に樹脂塗布面16a〜16cが形成されている。
【0022】
そして、このワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに前記加熱コイル10の各コイル部10a〜10cが矢印イの如く進退して対向するようになっており、この時、コイル部10bとコイル部10cは、平坦な樹脂塗布面16b、16cに対向して例えば円形銅パイプが2本水平方向に並設状態で巻回することにより形成され、コイル部10aは、垂直な樹脂塗布面16aに対向して例えば円形銅パイプを2本垂直方向に並設状態で巻回することにより形成されている。
【0023】
なお、円形銅パイプはその外周面に絶縁処理17が施されて隣接する円形銅パイプ同士の短絡が防止されると共に、2本並設状態で巻回されたその外周部にも絶縁テープ等の絶縁材18が巻回されている。また、巻回されることで3つのコイル部10a〜10cを形成する1本の円形銅パイプの両端部が、前記ホルダーや図示しない接続銅板等を介して出力トランス9の二次コイルに例えば着脱可能に接続されている。
【0024】
次に、このように構成された樹脂膜形成装置1によるワーク15への樹脂膜の形成方法の一例を、ワーク15が図2に示す形状を有する場合を例にし図3の工程図に基づいて説明する。図3に示すように、先ず、ワーク15を樹脂膜形成装置1の図示しないラインのセット台上にセット(K101)し、塗装ロボット等によりワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに所定の樹脂をそれぞれ塗布(K102)する。この時の樹脂としては、防錆、防食用等の樹脂や接着性を有する樹脂等、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに要求される品質や機能等に応じて適宜の樹脂が使用される。
【0025】
ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに樹脂を塗布したら、このワーク15の表面側に図2の矢印イで示すようにして加熱コイル10を例えば前進させてセット(K103)し、この状態で前記制御装置13の制御信号により、インバータ回路2を作動させて第1電流値を加熱コイル10に供給し、各樹脂塗布面16a〜16cを第1加熱温度(例えば図4に示すT1=100℃)で加熱する第1段加熱(K104)を行う。この第1段加熱時に、インバータ回路2は次のように作動する。
【0026】
すなわち、制御装置13の制御信号により前記発振器が作動すると、インバータ回路2のFET3a〜3dがオン・オフしてトランス8の一次側に発振器の周期数に応じた所定周波数の高周波電流が印加され、この高周波電流は、トランス8の二次側に接続された出力トランス9で大電流に変換されて第1電流値となり、これがホルダーを介して加熱コイル10に高周波電流として供給される。そして、加熱コイル10に高周波電流が供給されると、該加熱コイル10の各コイル部10a〜10cと対向するワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに渦電流が誘起されて当該塗布面16a〜16cが誘導加熱され、この誘導加熱により各樹脂塗布面16a〜16cが第1加熱温度まで加熱されることになる。
【0027】
このようにしてインバータ回路2により第1段加熱が行われると、制御装置13によりインバータ回路2の作動を停止させて加熱コイル10への通電を遮断し、この状態を所定時間維持、すなわちワーク15を所定時間放置(K105)する。この放置により、図4に示すように、時刻t0で加熱が開始されて時刻t1で100℃まで加熱されたワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cの温度が、略100℃から自然上昇による150℃程度の間に所定時間(tb=t2−t1)保持されることになり、この第1段加熱と放置とによって、第1段加熱により発生した塗布されている樹脂中の気泡が外部に脱気された状態となる。なお、工程K105における放置時間tbとしては、例えば3分から15分程度が好ましく、時刻t0から時刻t1までの時間taは30秒から90秒程度が好ましい。
【0028】
そして、第1段加熱後の放置時間tbが時刻t2で終了したら、制御装置13によりインバータ回路2を再び作動させて第2電流値を加熱コイル10に供給して、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cを第2加熱温度(例えば図4に示すT3=300℃)で加熱する第2段加熱(K106)を行う。この第2段加熱においても、加熱コイル10に供給される電流値が異なるのみでインバータ回路2は第1段加熱と同様に作動し、第2加熱温度に達した時点で制御装置13の制御信号により、インバータ回路2の作動が停止される。
【0029】
第2段加熱が終了、すなわち図4の時刻t4で加熱温度が第2加熱温度T3となりインバータ回路2の作動が停止すると、この状態を時刻t5まで所定時間放置(K107)してワーク15を自然冷却させ、加熱コイル10を例えば退去(K108)させ、その後ワーク15をセット台上から取り出す(K109)。この工程K107における放置時間tc(t5−t3)は、図4に示す各樹脂塗布面16a〜16cの加熱温度が第1加熱温度T1より高く第2加熱温度T3より低い温度T2(図4の場合はT2=200℃)で、第2段加熱により樹脂に良好な硬化状態が得られるに必要な時間であり、図4の場合は例えばtc=5分以上に設定される。
【0030】
そして、ライン上から取り出したワーク15を自然放置(もしくは強制冷却)等で冷却することにより、各樹脂塗布面16a〜16cに塗布された樹脂が硬化して、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cに性能的に優れかつ外観品質の優れた樹脂膜が形成されることになる。なお、図3に示す工程図は一例であって、例えば工程K107の放置開始と略同時に加熱コイル10を退去させる等、適宜に変更することができる。
【0031】
また、工程K104と工程K106の加熱時において、前記制御装置13によりインバータ回路2の異常電流等が次のようにして監視される。すなわち、加熱コイル10に高周波電流が供給されると同時に、ホルダー(出力トランス9の二次側)に流れる電流が検出トランス12の安全コイル12aにも流れ、検出トランス12で加熱コイル10に流れる電流値に対応した所定の電流値が検出されて制御装置13に入力される。
【0032】
そして、制御装置13は、検出トランス12から検出電流値が入力されると、これを制御装置13の図示しない記憶部に予め記憶されている基準値と比較し、例えば加熱コイル10自体が短絡していたり切断によるオープンとなっていたり、あるいは加熱コイル10がホルダーに対して接触不良となって検出電流値が異常時となり例えば基準値を超えた(あるいは基準値未満となった)場合は、加熱コイル10が異常であると判定して、発振器に直ちに停止信号を出力してその発振を停止させる。これにより、異常電流によるFET3a〜3dの破壊等が防止されることになる。
【0033】
このように、上記実施形態の樹脂膜形成装置1にあっては、制御装置13によりインバータ回路2を制御して、加熱コイル10によるワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cの加熱を第1加熱温度と第2加熱温度に設定する2段階加熱するため、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cの誘導加熱時に樹脂中に残存等する気泡を、第1段加熱で確実に脱気することができて、ピンホール等の発生がなく表面品質が優れた外観品質が得られると共に、脱気された後の脱気温度より高い第2加熱温度による第2段加熱で樹脂膜の耐久性等の性能を十分に高めることができる。
【0034】
なお、実験によれば、40ミクロン程度の薄い樹脂膜を形成した場合、その接着力、引っ張り強度、伸び率、耐環境性等の各種性能において、従来の方法に比較して数倍から数十倍の性能アップが図れると共に、ピンホール等の発生がなく外観品質的にも優れることが確認されている。
【0035】
また、加熱コイル10が、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cにそれぞれ対向する複数のコイル部10a〜10cを有し、該コイル部10a〜10cが直列接続されているため、各コイル部10a〜10cを各樹脂塗布面16a〜16cに確実に対向させて各樹脂塗布面16a〜16cを均一に誘導加熱できて、ワーク16の各樹脂塗布面16a〜16cに高精度な樹脂膜を簡単に形成することができる。特に、加熱コイル10として、1本の円形銅パイプを所定形状に屈曲させつつ巻回することで、ワーク1の各樹脂塗布面16a〜16cに略並行状態で対向するコイル部10a〜10cを形成しているため、各コイル部10a〜10cにより各樹脂塗布面16a〜16cを一層均一に誘導加熱できて、樹脂膜の品質を一層高めることが可能となる。
【0036】
さらに、制御装置13の制御で電流値が調整可能なトランジスタ式のインバータ回路2を有すると共に、進退可能な加熱コイル10を使用しているため、ワーク15の各樹脂塗布面16a〜16cへの樹脂の塗布から加熱、取り出しまでをロボット等により自動的に行うことができて、ワーク15への樹脂膜の形成作業の能率向上を図ることができると共に、使用する樹脂として、一般的な樹脂を使用できて、高品質の樹脂膜を安価に形成することが可能となり、各種ワークに好適に適用することができる。
【0037】
また、安全コイル12を備えたトランジスタ式のインバータ回路2を使用しているため、例えば加熱コイル10自体の不具合や接続不良により、加熱コイル10がオープン状態の場合は、出力トランス9の端子部に安全コイル12aが接続されている状態となり、端子部が完全開放の場合にインバータ回路2に加わる異常負荷(過負荷)が安全コイル12aの略インダクタンス分だけ軽減されることになって、インバータ回路2の破壊を防止することができる。
【0038】
特に、加熱コイル10と並列接続される検出トランス12の安全コイル12aのインダクタンスが、加熱コイル10の性能に悪影響を与えない所定範囲の小さい値に設定されていることから、加熱コイル10の異常のみを高精度に検出することができる。その結果、特に加熱コイル10が着脱可能に構成された場合において生じ易い、短絡や開放による高価なFET3a〜3dの破損を確実に防止できると共に、検出トランス12をメンテナンスし易い位置や形態で配置することができて、メンテナンスコストの低減化を図ること等も可能となる。
【0039】
また、加熱コイル10の接続状態が正常時には、安全コイル12aのインダクタンスが加熱コイル10の加熱性能に悪影響を与えない範囲に設定されているため、十分な加熱効率が得られると共に、インバータ回路2に作動トランス11を設けることにより、インバータ回路2の各アーム2a〜2dを流れる電流値を平均化することができたり、アーム2b、2dに設けた電流検出器14でも異常電流を検出してインバータ回路2の作動を停止させることができ、異常電流に強く安全性に優れたインバータ回路2(樹脂膜形成装置1)を得ることが可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態においては、加熱コイル10に3つのコイル部10a〜10cを設けこれらを直列接続したが、本発明はこれに限定されず、ワーク15の樹脂塗布面16a〜16cの形態に応じて例えば2つあるいは4つ以上のコイル部も設けても良いし、各コイル部を並列接続して良い。また、上記実施形態においては、インバータ回路2の半導体スイッチング素子として、FET3a〜3dを使用したが、例えば一般的なトランジスタ、サイリスタ、IGBT等の各種の半導体スイッチング素子を使用することができる。さらに、上記実施形態におけるワーク15や加熱コイル10の形状も一例であって、誘導加熱が可能な各所形状の金属ワーク等を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、金属ワークの所定面への樹脂膜の形成に限らず、例えば金属ワークの所定面に樹脂を介して金属・プラスチック・木材・石材等の他の部材を接着する場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係わる樹脂膜形成装置の一実施形態の概略構成を示す回路図
【図2】同その加熱コイルとワークの分解斜視図
【図3】同樹脂膜形成方法の一例を示す工程図
【図4】同その説明図
【符号の説明】
【0043】
1・・・樹脂膜形成装置、2・・・インバータ回路、2a〜2d・・・アーム、3a〜3d・・・FET、8・・・トランス、9・・・出力トランス、10・・・加熱コイル、10a〜10c・・・コイル部、11・・・差動トランス、12・・・検出トランス、12a・・・安全コイル、12b・・・二次コイル、13・・・制御装置、15・・・ワーク、15a・・・基盤、15b・・・突出部、16a〜16c・・・樹脂塗布面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ワークの表面に樹脂を塗布し、この樹脂を誘導加熱により加熱溶融させると共に冷却することにより硬化させて樹脂膜を形成する樹脂膜形成方法であって、
前記誘導加熱時に、第1加熱温度まで加熱して当該加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、前記第1加熱温度より高い第2加熱温度まで加熱することを特徴とする樹脂膜形成方法。
【請求項2】
前記第1加熱温度に対応した温度に保持した後に、第1加熱温度より高く第2加熱温度より低い温度以上に、予め設定した時間保持することを特徴とする請求項1に記載の樹脂膜形成方法。
【請求項3】
金属ワークの表面に樹脂を塗布し、この樹脂を誘導加熱により加熱溶融させると共に冷却することにより硬化させて樹脂膜を形成する樹脂膜形成装置であって、
前記金属ワークの樹脂塗布面に対向配置される加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給するインバータと、該インバータを制御して前記加熱コイルによる樹脂塗布面の加熱を複数の加熱温度に段階的に設定し得る制御手段と、を備えることを特徴とする樹脂膜形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、第1加熱温度に対応した温度に予め設定した時間保持した後に、前記第1加熱温度より高い第2加熱温度に設定し得ることを特徴とする請求項3に記載の樹脂膜形成装置。
【請求項5】
前記加熱コイルは、金属ワークの複数の樹脂塗布面にそれぞれ対向する複数のコイル部を有し、該コイル部が直列接続されていることを特徴とする請求項3または4に記載の樹脂膜形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−21088(P2006−21088A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199942(P2004−199942)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(591195994)株式会社ミヤデン (21)
【Fターム(参考)】