説明

樹脂選別方法および樹脂選別装置

【課題】 リサイクルの対象となる樹脂片を材質別または特定物質の含有率別に精度よく選別可能な樹脂選別装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 樹脂選別装置1においては、樹脂片2を各々吸着筒5により個別に吸着保持、搬送される樹脂片2に電磁放射線を照射し、樹脂片2より取り出された電磁放射線量を検出し、樹脂片2の材質または樹脂片に含有されている特定物質の含有率を識別して、樹脂片2を選別基準に従って選別回収するものである。これにより、樹脂片を材質別または特定物質の含有率別に精度よく選別回収することが容易にできるといった効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リサイクルに使用する樹脂片を樹脂片に含まれる材質別または特定物質の含有率別に選別回収する樹脂選別方法および樹脂選別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、材料のリサイクル利用に対する期待が高まっており、家庭電化製品等においても使用済み製品を回収・解体して材質別にリサイクルする動きが進んでいる。家庭電化製品においては、種々の樹脂材料が用いられているが、再資源化のため回収された樹脂を樹脂原料として、再利用を行うためには、これらの樹脂を材質別に高い精度で選別し、回収することが求められる。特に、主に使用されるポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)を選別する必要がある。このため、破砕された樹脂片は、主に比重の違いによって選別される。または、各材質の誘電率の違いを利用して、静電気を付与し電界により選別する手法も開発され、選別収率は向上している。
【0003】
このため、従来の物質分離方法及び装置にあっては、被選別対象物質を透過電磁放射線の照射領域を通過させ、検知器によって測定された電磁吸収性および透過性に応じて、空気圧エジェクタを動作させて分離するとされ、例えば、分離された物質を搬送するようにコンベアベルトを配置することによって、物質を効率よく分類するシステムを実現している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方で、塩素や臭素等の、樹脂から分離すると環境に影響を及ぼす元素の添加の有無による選別は、これらの方法では困難である。環境に影響を及ぼす物質の使用規制が進められている現状において、リサイクル樹脂においてもこれらの物質の含有率を如何に小さくできるかが、資源の有効活用の観点から、リサイクル樹脂の再利用を進める上で重要となる。特に、リサイクル樹脂として、難燃剤として樹脂に添加されているBr(臭素)の含有率(濃度)を一定以下にすることが求められている。そこで、リサイクル樹脂に含まれるBr含有率を正確に測定し、含有率別に樹脂を選別した上で、再生する必要に迫られている。
【0005】
このため、従来の難燃剤含有プラスチックの分別装置、及び分別方法では、分別対象物の搬送装置と、分別対象物にX線あるいは電子線を照射する照射発生装置と、発生する特性X線の検出装置と、特性X線を解析し、プラスチック中の難燃剤の種類を判別したり、特定の難燃剤の存否を判別したり、あるいは難燃剤の存否を判別するデータ処理部と、データ処理部からの信号に基づいて適当にプラスチックを分別する分別機構を持ち、データ処理部では、特性X線を解析して難燃剤に特有の元素を検出し、難燃剤の種類、特定の難燃剤の存否、あるいは難燃剤の存否を判定し、その結果の信号を分別機構に供給して分別を行っている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−131176号公報
【特許文献2】特開2004−219366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される物質分離法及び装置においては、同発明が非塩化プラスチックを含む混合物から塩化プラスチックを分離することを主な目的としており、コンベアを流れる被選別物体が塩素含有プラスチックであるかどうかを判定し、エアノズルから噴射される空気流により異なるコンベアに送出することにより行っており、塩素の含有の有無や、二種類のプラスチックを分離する二者択一で判断する目的には十分な機能を発揮するが、含有されている特定物質の含有率に応じて細かく分類するとか、多数のプラスチックを種類別に選別するには不向きであるといった問題があった。
【0008】
また、特許文献2に示される難燃剤含有プラスチックの分別装置、及び分別方法においては、分別対象物にX線あるいは電子線を照射し、プラスチック中の難燃剤の種類、存否を判別し、分離機構に供給して分別を行うとしているが、エアブローなどでプラスチックを然るべき収納箱に収納したり、別のコンベアに乗り移らせたりする等の公知の処理をすればよいとの示唆があるだけで具体的な手段については、何等記述がなく、特許文献1と同様、含有されている特定物質の含有率に応じて細かく分類するとか、多数のプラスチックを種類別に選別することには一切触れられておらず、この場合の解決策が提示されていないといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、リサイクルの対象となる樹脂片を、材質別または樹脂片に含まれる特定物質の含有率別に精度よく複数種別に選別可能な樹脂選別装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂選別方法は、樹脂片を個別に吸着筒により吸着保持、搬送する工程と、吸着搬送中の樹脂片に電磁放射線を照射する工程と、樹脂片より取り出された電磁放射線量を検出する工程と、検出された電磁放射線量により樹脂片の材質または樹脂片に含有されている特定物質の含有率を識別する工程と、識別された樹脂片を選別基準に従って選別回収する工程と、を有するものである。
【0011】
また、本発明の樹脂選別装置は、複数の吸着筒を有し、樹脂片を各々吸着筒により個別に吸着保持し搬送する搬送装置と、吸着搬送中の樹脂片に電磁放射線を照射する電磁放射線源と、樹脂片より取り出された電磁放射線量を検出する検出器と、検出された電磁放射線量により樹脂片の材質または樹脂片に含有されている特定物質の含有率を識別する識別装置と、識別装置により識別された樹脂片を選別基準に従って搬送装置から脱離させ選別回収する選別回収容器と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂片を吸着筒により個別に吸着された状態で電磁放射線を照射することにより、樹脂片より取り出された電磁放射線量から樹脂の材質別または樹脂片に含まれる特定物質の含有率別に精度よく選別回収することが容易にできるといった顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1における樹脂選別装置を示す概略図である。
【図2】実施の形態1における樹脂選別装置の赤外線検査の動作を説明するための検査部の概略図である。
【図3】選別する樹脂の光吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施の形態2における樹脂選別装置の赤外線検査の動作を説明するための検査部の概略図である。
【図5】実施の形態2における樹脂選別装置を示す概略図である。
【図6】実施の形態3における樹脂選別装置のX線検査の動作を説明するための検査部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る樹脂選別方法および樹脂選別装置について説明する。
【0015】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1における樹脂選別装置について図1から図3に基づいて説明する。
図1において、本発明の実施の形態1における樹脂選別装置は、破砕された樹脂片をリサイクルのために樹脂の材質別に選別回収するもので、図1において、1は樹脂選別装置であり、樹脂片2を供給するホッパ3と、このホッパ3によりコンベアベルト4上に散布された樹脂片2を吸着保持し、搬送する搬送装置5(5A,5B,5C,5D,・・・,5N)と、搬送装置5で樹脂片2を吸着するための吸引ポンプ6と、吸着されなかった樹脂片2を回収する回収容器7と、搬送装置5の吸着筒5aにより吸着された樹脂片2に電磁放射線源である赤外線を照射する赤外線発生装置8aと、樹脂片2を反射した赤外線量を検出する赤外線検出装置8bとからなる赤外線検査装置8からの信号により、樹脂片2の材質を判定する識別装置9と、識別装置9により材質が判定された材質Aの樹脂片2a、材質Bの樹脂片2b、材質Cの樹脂片2cを搬送装置5から脱離させ材質別に選別回収する選別回収容器10(10A,10B,10C)と、により構成されている。図2に示すように、搬送装置5は、複数の吸着筒5aと、吸着筒5aの上端部を上蓋5bで蓋をされ、吸着筒5aの下端部の吸引口にメッシュ5cが取り付けられ、樹脂片2を吸着するためにそれぞれの吸着筒5aの側面に取り付けた吸引管5dと、吸着筒5aを移動させるためのアーム5eとにより構成されている。吸引管5dは、吸着筒5aを減圧する吸引ポンプ6に接続されており、個々の吸引管5dには、吸引と解除を行うための電磁弁(図示せず)が取り付けられており、識別装置9にて操作される。また、赤外線検査装置8は、個々の吸着筒5aに対応して赤外線を含む光源であるタングステンランプ8cが設けられた赤外線発生装置8aと、タングステンランプ8cから放射された赤外線が吸着筒5aに吸着された樹脂片2に照射され、その個々の樹脂片2からの反射光は光学フィルタ8fを透して光検出素子8dにて検出する赤外線検出装置8bから構成されている。また、赤外線検査装置8は、選別したい樹脂の種類の数に応じて用意され、赤外線検査装置8A、8B、8C毎に、透過する赤外線波長が異なる光学フィルタ8fが用いられる。搬送装置5は順次、赤外線検査装置8A、8B、8C上を通過するように設定されている。
【0016】
次に、実施の形態1の動作について、図1から図3を参照して説明する。
一般にリサイクル工場では、回収された選別対象となる樹脂製品は数mm大に破砕され、磁力や比重の違いを利用して、まず金属と、非金属すなわち樹脂片とに大別される。従って、ほぼ均一な大きさの樹脂片について、特定物質の含有の有無あるいは樹脂の種類を識別分類すればよいことになる。
【0017】
ここでは、例えば、材質Aとしてポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、材質Bとしてポリスチレン樹脂(PS)、材質CとしてPE樹脂(ポリエチレン)の3種の樹脂を材質別に選別する場合について説明する。図3に、PET樹脂、PS樹脂、PE樹脂およびポリプロピレン樹脂(PP)の赤外線領域における光吸収スペクトルを示す。PET樹脂は、波長1,655nm付近に、PS樹脂は、波長1,690nm付近に、PE樹脂とPP樹脂は、波長1,730nm付近にそれぞれ吸収ピークがある。また、PP樹脂は、波長1,710nm付近にも第二のピークがある。したがって、これらの光吸収ピークに相当する波長を透過中心とする光学フィルタF1(PET)、F2(PS)、F3(PE)により、上記3つのグループに選別することが可能である。PE樹脂とPP樹脂は、1,710nmの波長を透過中心とする光学フィルタF4を併用することにより互いに選別することが可能である。具体的には、赤外線検査装置8Aの赤外線検出装置8bの光学フィルタ8fにF1を、赤外線検査装置8Bの赤外線検出装置8bの光学フィルタ8fにF2を、赤外線検査装置8Cの赤外線検出装置8bの光学フィルタ8fにF3を、それぞれ取り付ければよい。実際には、例えば、樹脂片2の赤外線検査装置8Aで検出された赤外線光量が少なく、他の赤外線検査装置8B、8Cで検出された赤外線光量が多ければ、PET樹脂であると判定することができ、樹脂片2aとされる。PS樹脂、PE樹脂でも同様であり、それぞれ樹脂片2b、2cとされる。すなわち、樹脂片2をこれら3つの赤外線検査装置8を通すことにより、その透過特性から樹脂片2の材質を識別判定することができる。なお、PET樹脂、PS樹脂、PP樹脂の吸収ピーク量は異なるため、予め補正しておく。
【0018】
まず、ホッパ3からコンベアベルト4上に散布された樹脂片2は、コンベアベルト上4を移動中に吸引管5dを介して吸引ポンプ6に接続された搬送装置5の吸着筒5aにそれぞれ吸引、吸着され搬送される。吸着筒5aに吸着されなかった樹脂片2は、コンベアベルト4から落下し、回収容器7にて回収される。搬送装置5はアーム5eにて、赤外線検査装置8Aのところまで移動され、そこで、赤外線を含む光源のタングステンランプ8cからそれぞれ吸着筒5aに吸着された樹脂片2に光が照射されて、その反射した赤外線の内、赤外線検出装置8bのF1の光学フィルタ8fを透過した赤外線光量が、光検出素子8dで検出される。ここで、赤外線検出装置8bは、吸着筒5aに対応した複数の赤外線検出素子8dのアレイにより構成されている。さらに、同様に、赤外線検査装置8B、8Cにおいても、F2、F3の光学フィルタ8fを透過した赤外線光量が、光検出素子8dで検出される。赤外線検査装置8A、8B、8Cの結果から識別装置9にて、樹脂片2の個々の材質が判定される。さらに、識別装置9にて材質Aと判定された樹脂片2a、材質Bと判定された樹脂片2b、材質Cと判定された樹脂片2cは、樹脂の材質別に用意された選別回収容器10A(PET樹脂用)、10B(PS樹脂用)、10C(PE樹脂用)上に移動され、それぞれ識別装置9から指示に基づいて、吸引管5dに個別に設けられた電磁弁(図示せず)を操作して吸引を停止され、材質別にそれぞれ所定の選別回収容器10上で、吸着筒5aから脱離されて選別回収される。使用される複数の搬送装置5(5A,5B,5C,5D,・・・,5N)は、樹脂片2を吸着する工程、樹脂片2の赤外線による材質の測定工程、樹脂片2の脱離、選別回収容器10への選別回収工程を、順にこれらの動作を繰り返しながら観覧車にように回転され、コンベアベルト4上の樹脂片2は、個別に吸着、選別される。なお、選別不能な樹脂片2があれば、別に用意された回収容器(図示せず)に落下させて回収すればよい。また、吸引口のメッシュ5cは、吸着筒5aの内径よりも小さい樹脂片2を吸着筒5a内に吸い込んでしまう可能性があることから、吸引防止の観点から設けられている。
【0019】
なお、上記実施の形態1において、吸着筒の吸引口の断面は、必ずしも円形である必要はなく、方形等、他の形であってもよい。また、吸着筒の吸引口の断面を星形のように口を絞った形で構成することにより、樹脂片の吸引防止の観点から設けられているメッシュを付けなくてもよい。
【0020】
なお、家電製品等に主に使用される樹脂としては、上記の樹脂の他、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)が使用されるが、ABS樹脂の光吸収スペクトルに応じた光学フィルタを使用することにより、選別することが可能であり、他の樹脂にも適用が可能である。上記説明では、光学フィルタは個々の光検出素子毎に用意されていたが、赤外線検出装置のすべての光検出素子を覆う1枚の光学フィルタであってもよい。
【0021】
また、材質の誤判定を避けるため隣接する他の樹脂片からの散乱光の進入を防ぐため、個々の光検出素子間に仕切り板を設けてもよい。
【0022】
このように、実施の形態1における樹脂選別装置では、吸着筒により個別に吸着された状態で、選別する対象である破砕された樹脂片に赤外線を照射し、その反射した赤外線光量を検出することにより材質を識別する機能を備えているので、樹脂片を完全に個別に操作することが可能になり、エアブローによる選別で問題となる近傍の樹脂片を一緒に巻き込み、誤判定をしてしまう所謂「共連れ」がなく、樹脂片を材質別に高精度で選別回収することが容易にできるといった顕著な効果を奏するものである。
【0023】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2における樹脂選別装置の図1および図4に基づいて説明する。
図4において、本発明の実施の形態2における樹脂選別装置は、樹脂片を樹脂の材質別に選別回収するもので、実施の形態1における赤外線発生装置8aの赤外線含む光源のタングステンランプ8cの替わりに半導体レーザを使用し、また、光検出素子8dの前に設置した光学フィルタ8fを除去したものである。これ以外の他の構成は、図1および図4と同一であるので説明を省略する。
【0024】
次に、実施の形態2の動作について、図4を参照して説明する。
例えば、実施の形態1と同様、PET樹脂、PS樹脂、PE樹脂の3種の樹脂を選別する場合について説明する。赤外線発生装置8aの赤外線光源として使用する半導体レーザ8gは、図3に示したPET樹脂、PS樹脂、PE樹脂の光吸収スペクトルのピーク値に対応した発振波長を持つものである。赤外線検査装置8Aの半導体レーザ8gは、PP樹脂に対応した波長1,655nm付近の発振波長を持ち、赤外線検査装置8Bの半導体レーザ8gは、PS樹脂に対応した波長1,690nm付近の発振波長を持ち、さらに、赤外線検査装置8Cの半導体レ−ザ8gは、PE樹脂に対応した波長1,730nm付近の発振波長を持つ。半導体レーザ8gとしては、例えば、赤外領域に発振波長を持つInGaAsP系の半導体レーザが、光検出素子8dとしては、例えば、InGsAs系のフォトダイオードが使用できる。
【0025】
搬送装置5は、アーム5eにて、赤外線検査装置8Aのところまで移動され、そこで、赤外線発生装置8aの半導体レーザ8gから吸着筒5aに吸着された樹脂片2にそれぞれ赤外線光が照射されて、その反射した赤外線光量が、光検出素子8dにより検出される。ここで、赤外線検出装置8bは、吸着筒5aに対応した複数の光検出素子8dのアレイから構成されている。さらに、同様に、赤外線検査装置8B、8Cにおいても、同様に樹脂片を反射した赤外線光量が、光検出素子8dにより検出される。赤外線検査装置8A、8B、8Cの測定結果の基づき識別装置9にて、樹脂片2の個々の材質が判定される。この後の工程の樹脂片の選別方法は、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0026】
なお、使用する半導体レーザ8gの発振波長は、必ずしも選別する樹脂の光吸収ピーク値に合わせる必要はなく、他の材質の樹脂とを識別できればよく、それぞれの樹脂の光吸収ピーク値を中心とする近辺の波長であればよい。
【0027】
また、実施の形態1で述べたように、材質の誤判定を避けるため隣接する他の樹脂片からの散乱光の進入を防ぐため、個々の光検出素子間に仕切り板を設けてもよい。
【0028】
このように、実施の形態2における樹脂選別装置では、吸着筒により個別に吸着された状態で、選別する対象である破砕された樹脂片に半導体レーザから赤外線を照射し、その反射した赤外線光量を検出することにより材質を識別する機能を備えているので、光学フィルタを使用せずに、樹脂片を完全に個別に操作することが可能になり、樹脂片を材質別に高精度で選別回収することが容易にできるといった顕著な効果を奏するものである。
【0029】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3における樹脂選別装置を図5および図6に基づいて説明する。
本発明の実施の形態3における樹脂選別装置は、破砕された樹脂片をリサイクルのために樹脂に含有される特定物質の含有率別に選別回収するもので、図5において、1は樹脂選別装置であり、樹脂片2を供給するホッパ3と、このホッパ3によりコンベアベルト4上に散布された樹脂片2を吸着保持し、搬送する搬送装置5(5A,5B,5C,5D,・・・,5N)と、搬送装置5で樹脂片2を吸着するための吸引ポンプ6と、吸着されなかった樹脂片2を回収する回収容器7と、搬送装置5の吸着筒5aに吸着された樹脂片2に電磁放射線源であるX線を照射するX線発生装置11と、樹脂片2を透過したX線量を検出するX線検出装置12と、X線検出装置12からの信号により、Brの含有率を判定する識別装置9と、識別装置9によりBrの含有率が判定された樹脂片2d,2e,2fを搬送装置9から脱離させ選別回収する選別回収容器10(10D,10E,10F)と、により構成されている。図6に示すように、搬送装置5は、複数の吸着筒5aと、吸着筒5aの上端部をX線透過材料で構成される上蓋5bで蓋をされ、吸着筒5aの下端部の吸引口にメッシュ5cが取り付けられ、樹脂片2を吸着するためにそれぞれの吸着筒の側面に取り付けた吸引管5dと、吸着筒5aを移動させるためのアーム5eとにより構成されている。吸引管5dは、吸着筒5aを減圧する吸引ポンプ6に接続されており、個々の吸引管5dには、吸引と解除を行うための電磁弁(図示せず)が取り付けられており、識別装置9にて操作される。
【0030】
リサイクルのために破砕された樹脂片には、環境基準管理物質の1つとされる特定物質のBrを難燃剤として数質量%含まれているものがあり、リサイクルする上で樹脂片に含まれるBrの含有率(濃度)を正確に把握し、含有率別に選別する必要がある。一般的には、リサイクル樹脂を用いた製品のBr含有率が再利用可能の上限とされる0.1質量%を越えないように管理すればよい。これまでの発明者の実験から、Brの含有率が1重量%を越える樹脂片を除外すれば全体としての基準を満たすことができることを確認している。樹脂片に難燃剤として含まれる特定物質としてのBrが1質量%の含有量であっても、含まれている樹脂と含まれていない樹脂との間にはX線吸収率に相違があり、X線透視像において濃淡のコントラストが得られるので、Brの含有率の識別判定が可能である。
【0031】
そこで、例として、PP樹脂のBrの含有率を識別判定の対象として、2mm厚のPP樹脂片で、Brを含まない試料A、1質量%のBrを含む試料B、4質量%のBrを含む試料Cとして、X線の透過率を計算した結果を表1に示す。便宜上、計算上では、1質量%相当あるいは4質量%相当のBr層が樹脂片上に重なっていると仮定した(表1では、1質量%、4質量%をそれぞれ1%、4%と表記)。
【0032】
【表1】

【0033】
BrのX線吸収端である13.47keV以上のX線を照射すれば、表1の計算結果からも明らかなように、13.0keVでは、各試料間のX線透過率に大きな差はないが、14.0keVにおける試料Aに対する試料BのX線透過率では22%低下、試料Aに対して試料CのX線透過率では63%低下しており、Br含有率に対して透過率に差があり、Brを含む樹脂片を識別することが可能である。さらに、Brを含まない3mm厚のPP樹脂片(試料D)についても実施したが、2mm厚の1質量%のBrを含む試料Bの透過率の方が16%と大きく低下しており、結果、厚さによる変化よりもBrの含有による変化の方が大きいので識別が可能であり、厚さによる誤判定も少ない。従って、選別対象となる樹脂片を2〜3mm厚、大きさが数mm大のフレーク状に揃えておけば、個々の樹脂片の重量は1g未満であり、負圧に保った内径1mm程度の吸着筒に吸着させ、搬送させることは容易である。
【0034】
次に、実施の形態3における破砕された樹脂片をBr含有率別に選別回収する動作を説明する。
まず、ホッパ3からコンベアベルト4上に散布された樹脂片2は、コンベアベルト4上を移動中に吸引管5dを介して吸引ポンプ6に接続された搬送装置5の吸着筒5aにそれぞれ吸引、吸着され搬送される。吸着筒5aに吸着されなかった樹脂片2は、コンベアベルト4から落下し、回収容器7にて回収される。吸着筒5aはアーム5eにて、X線発生装置11のところまで移動され、そこで、X線が照射されて、その透過したX線量はX線検出装置12にて検出される。このX線検出装置12の結果から識別装置9にて、樹脂片2の個々に含まれるBr含有率が判定される。さらに、識別装置9にてBr含有率が1質量%未満と判定された樹脂片2d、1質量%以上4質量%未満と判定された樹脂片2e、4質量%以上と判定された樹脂片2fは、Brの含有率別に用意された選別回収容器10D(1質量%未満用)、10E(4質量%未満用)、10F(4質量%以上用)上に移動され、それぞれ識別装置9から指示に基づいて、吸引管5dに個別に設けられた電磁弁(図示せず)を操作して吸引を停止され、材質別にそれぞれ所定の選別回収容器10上で、吸着筒5aから脱離されて選別回収される。使用される複数の搬送装置5(5A,5B,5C,5D,・・・,5N)は、樹脂片2を吸着する工程、樹脂片2のX線によるBrの含有率の測定工程、樹脂片2の脱離、選別回収容器10への選別回収工程を、順にこれらの動作を繰り返しながら観覧車にように回転され、コンベアベルト4上の樹脂片2は、個別に吸着、選別される。選別不能な樹脂片2があれば、別に用意された回収容器(図示せず)に落下させて回収すればよい。また、吸引管5dと吸引ポンプ6の接続は、ロータリジョイント等(図示せず)を用いて、搬送装置5の回転により、吸引管5dがよじれないようにしておけばよく、吸引管5dは可とう性があるほうが好ましい。
【0035】
リサイクル樹脂製品のBrの含有率がRoHS規制値を満足させ、できるだけ多くの樹脂片をリサイクルするため、Brの含有率に応じて樹脂片を複数に選別して回収することにより、用途や規格に応じてリサイクル樹脂と新材の混合割合を変えることができる。例えば、選別基準値をBrの含有率1質量%以下で選別すれば問題なくリサイクル利用でき、また、4質量%未満であれば、新材や他の樹脂との混合物として、新たな製品を製造できるので、Brの含有率に応じて3種類に選別することは有効である。
【0036】
本実施の形態3においては、吸着筒5aに樹脂片2を個別に吸着させた状態で透過X線量の検出を行うようにしていることから吸着、搬送時に樹脂片2にX線が照射されるようにしておく必要がある。そこで、X線を吸着筒5aの上端部から樹脂片2に照射できる構成にしておき、上下の開口部をX線が透過できれば、吸着筒5aそのもの自体はX線を透過しなくてもよいことから、吸着筒5aは、必ずしもX線を透過する材質で構成する必要はなく、アルミニウム製など加工性に優れた材質で作製することができる。もちろん、吸着筒5aがX線透過材料で構成されていれば問題はない。また、樹脂片2の吸着のため、吸着筒5aの排気は、吸着筒5aの側面から行うようにして、さらに、吸着筒5aの上端部は、X線の透過率が高い材質の上蓋5bで覆う構造としておけばよい(図6参照。)。例えば、ポリイミドフィルムは、機械的強度に優れ、50mm径の筒に50μm厚のフィルムを貼付した場合でも、大気圧と1/50気圧に減圧された吸着筒5a内部との圧力差に耐える強度を有することから、X線を透過する上蓋材料として適している。実際には、100μm厚程度のポリイミドフィルムを吸着筒5aの上蓋5bとして使用すればよい。測定に使用する14keVのX線に対する100μm厚のポリイミドフィルムの透過率は98.4%であり、その吸収量は少なく、実用上の影響も少ない。また、樹脂片2の吸着筒5a内への吸引防止の観点から、吸引口に設けられているメッシュ5cは、ポリイミド等のX線の吸収量の少ない材質を使用する。X線検出素子12aとしては、例えば、シンチレータ方式のラインセンサが適用できる。
【0037】
なお、上記の実施の形態3の説明では、吸着筒に吸着された樹脂片をコンベアベルト外で吸着筒の上方からX線を照射し、樹脂片を透過するX線量を検出して、Brの含有率を判定する場合について述べたが、コンベアベルト上で、吸着筒に吸着された樹脂片に上方からX線を照射し、コンベアベルトの下にX線検出装置を配置して、X線量を検出する場合であっても同様の効果を奏し得る。また、X線発生装置を下方に配置し、X線を下方から樹脂片に照射し、透過するX線を上方に配置したX線検出装置で受けるようにしてもよい。
【0038】
なお、上記の実施の形態3の説明では、難燃剤として使用されるBrを含有する樹脂片のBr含有率の測定について述べたが、リン(P)系難燃剤についても同様に、X線を用いて含有率を測定する場合についても適用できる。
【0039】
さらに、上記の実施の形態3の説明では、Brの含有率の測定に電磁放射線として、X線を用いる場合について述べたが、赤外光やテラヘルツ光などを用いる識別法もある。この場合においては、それら電磁放射線の発生源と適切な検出器を配備することは言うまでもないが、合わせて、本発明に係る吸着筒の上端部の上蓋に関しては、それらの電磁放射線を有効に透過する材質を選択すればよい。
【0040】
このように、実施の形態3における樹脂選別装置では、選別する対象である破砕された樹脂片を吸着筒により個別に吸着された状態でX線を照射し、その透過X線量を検出するX線検出装置とX線の透過量による識別機能を備えているので、樹脂片を完全に個別に操作することが可能になり、エアブローによる選別で問題となる近傍の樹脂片を一緒に巻き込み、誤判定をしてしまう所謂「共連れ」がなく、樹脂片を特定物質であるBrの含有率別に高精度で選別回収することが容易にできるといった顕著な効果を奏するものである。
【0041】
なお、上記実施の形態1、2および3の説明では、吸着筒に吸着状態で樹脂の材質またはBrの含有率の判別が行われた樹脂片は、そのまま吸着筒により選別位置まで搬送され、脱離すべき位置において吸着のための減圧を解除することにより、自然落下させて、回収容器にて選別回収されるとしているが、吸着筒に空気の加減圧を行う吸引脱着機能を持たせ、減圧解除だけでは落下し難いような樹脂材料を扱う場合においては、空気を減圧から加圧に切り替えることで、強制的に脱離、落下させることも可能である。
【0042】
また、上記実施の形態1、2および3の説明では、樹脂の材質またはBrの含有率に対する選別種類を3種類とする場合について説明したが、検査装置や選別回収容器を増やすことによって、3種類以上の材質に対する選別回収も可能であることは言うまでもない。吸着筒の数を増やす、または吸着筒を複数並列に配置し、吸着筒数に見合った光源、光検出素子やX線検出素子を用意することにより、多数の樹脂片を短時間で選別することができ、処理能力を向上させることが可能である。
【0043】
また、上記実施の形態1、2および3では、複数の搬送装置に対して吸引ポンプが1台で共用する場合について説明したが、それぞれの搬送装置毎に個別に吸引ポンプを配置し、搬送装置とともに回転移動するようにしてもよく、吸引ポンプを共用する場合と同様の効果が得られる。
【0044】
また、上記実施の形態1、2および3では、搬送装置を観覧車のように垂直面で回転させる場合について説明したが、メリーゴーラウンドのように水平面で回転させても同様の効果が得られる。
【0045】
また、図において、同一符号は、同一または相当部分を示す。
【符号の説明】
【0046】
1 樹脂選別装置
2,2a,2b,2c,2d,2e,2f 樹脂片
5,5A,5B,5C,・・・,5N 搬送装置
5a 吸着筒
5d 吸引管
6 吸引ポンプ
8,8A,8B,8C 赤外線検査装置
8a 赤外線発生装置
8b 赤外線検出装置
9 識別装置
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F 選別回収容器
11 X線発生装置
12 X線検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂片を個別に吸着筒により吸着保持、搬送する工程と、
前記吸着搬送中の樹脂片に電磁放射線を照射する工程と、
前記樹脂片より取り出された前記電磁放射線量を検出する工程と、
前記検出された電磁放射線量により前記樹脂片の材質または前記樹脂片に含有されている特定物質の含有率を識別する工程と、
前記識別された樹脂片を選別基準に従って選別回収する工程と、を有する樹脂選別方法。
【請求項2】
選別基準が、樹脂の材質の違いによるものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂選別方法。
【請求項3】
電磁放射線が、識別対象となるポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂および/またはポリエチレンテレフタレート樹脂に対する吸収量により識別可能な波長を含む赤外線であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂選別方法。
【請求項4】
選別基準が、樹脂片に含有されている特定物質の濃度の違いによるものであって、前記特定物質が臭素(Br)であり、電磁放射線が樹脂片に含有される臭素(Br)を吸収する波長を含むX線であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂選別方法。
【請求項5】
複数の吸着筒を有し、樹脂片を各々前記吸着筒により個別に吸着保持し搬送する搬送装置と、
前記吸着搬送中の樹脂片に電磁放射線を照射する電磁放射線源と、
前記樹脂片より取り出された前記電磁放射線量を検出する検出器と、
前記検出された電磁放射線量により前記樹脂片の材質または前記樹脂片に含有されている特定物質の含有率を識別する識別装置と、
前記識別装置により識別された前記樹脂片を選別基準に従って前記搬送装置から脱離させ選別回収する選別回収容器と、を備えた樹脂選別装置。
【請求項6】
吸着筒は、空気の加減圧による吸引脱着機能を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂選別装置。
【請求項7】
選別基準が、樹脂の材質の違いによるものであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の樹脂選別装置。
【請求項8】
電磁放射線が、識別対象となるポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂および/またはポリエチレンテレフタレート樹脂に対する吸収量により識別可能な波長を含む赤外線であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の樹脂選別装置。
【請求項9】
選別基準が、樹脂片に含有されている特定物質の濃度の違いによるものであって、前記特定物質が臭素(Br)であり、電磁放射線が樹脂片に含有される臭素(Br)を吸収する波長を含むX線であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂選別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−207772(P2010−207772A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59511(P2009−59511)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】