説明

機上測定方法及び測定装置

【課題】ワークの加工面形状を工作機械上で高精度に測定し得る装置等を提供する。
【解決手段】基準ミラー21をテーブル2上に配設し、ワークWの加工面を測定する第1のレーザ変位計Lと基準ミラー21の基準面を測定する第2のレーザ変位計Lとを工具保持台3に配設する。測定運動付与部24によってテーブル2と工具保持台3とを正弦波軌跡で相対移動させ、この状態で測定される加工面変位データと基準面変位データとを基に、感度算出部28によって第1のレーザ変位計Lの感度を算出する。ついで、実形状データ算出部29により、算出された感度を基に、加工面変位データを補正し、補正後の加工面変位データと基準面変位データとの差分をとって、加工面の実形状データを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械により加工したワークの加工面形状を、加工後、該ワークを工作機械に取付けたまま機上で測定する方法及び装置に関し、更に詳しくは、測定器として非接触式のレーザ変位計を用いた機上測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の測定対象面を非接触式のレーザ変位計を用いて測定する方法及び装置として、従来、特開2000−298011号公報に開示されたものが知られている。
【0003】
この測定装置は、2つのレーザ変位計を上下に相互に対向させて配設するとともに、この2つのレーザ変位計間に、測定対象物と基準ミラーとを配設した構成を備え、前記測定対象物はその測定対象面が上部レーザ変位計の測定領域に位置するように配設され、基準ミラーはその平滑な基準面が下部レーザ変位計の測定領域に位置するように配設される。
【0004】
そして、この測定装置では、測定対象物と基準ミラーとを同時に所定の測定方向に移動させながら、対応するレーザ変位計で測定対象物の測定対象面の変位と基準ミラーの基準面の変位とをそれぞれ測定し、測定した測定対象面の変位データと基準面の変位データとの差分を算出して、算出された変位データをもって前記測定対象面に係る実際の形状データとしている。
【0005】
レーザ変位計を用いて測定する場合、レーザ変位計と測定対象物とを適宜移動機構によって相対移動させる必要があるが、この移動機構には直線運動誤差(例えば、運動の真直度誤差やピッチング,ヨーイング,ローリングによる誤差)が内在されており、このため、単にレーザ変位計を用いて測定対象面の変位を測定したのでは、測定データに前記直線運動誤差が加算され、精度の良い測定を行うことができない。
【0006】
そこで、上記従来の測定装置では、平滑な基準面と測定対象面とを同時に測定し、これらの変位データの差分値をもって、測定対象面に係る実際の形状データとしている。即ち、基準面の変位データは、移動機構の直線運動誤差を反映したものとなるが、直線運動誤差が加算された測定対象面の変位データから、直線運動誤差が反映された基準面の変位データを差し引くことで、測定対象面の純粋な変位データ(即ち、形状データ)を得ることができるのである。
【0007】
このように、上記従来の測定方法及び装置によれば、直線運動誤差を取り除いた正確な形状データを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−298011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、工作機械を用いた切削加工の分野では、近年、加工後のワークの加工面形状を機上で測定して目標形状との誤差を同定し、同定後直ちにその誤差を修正する、所謂修正加工に関する研究が行われている。
【0010】
この場合、測定面を傷付けることなく高速に測定できるという利点から、上記非接触式のレーザ変位計が一般的に用いられているが、レーザ変位計とワークとの相対移動を担う工作機械の送り機構には、上述した従来例に係る移動機構と同様の直線運動誤差が内在されているため、正確な形状データを得るためには、この直線運動誤差を取り除く必要がある。したがって、かかる機上測定においても上記従来例に係る測定方法及び装置をそのまま適用し得ると考えられる。
【0011】
ところが、切削加工された加工面を測定する場合、上記直線運動誤差を取り除くだけでは、十分に正確な形状測定を行うことができないという問題があった。
【0012】
即ち、切削加工によって形成された加工面は鏡面ではなく、切削に起因した表面粗さを有し、また、切削工具によって形成される加工痕にはその表面に傾きが有り、これら表面粗さや表面の傾きの他、ワーク材質といった加工面の性状により、レーザ変位計によって測定されるデータに誤差が生じるのである。
【0013】
したがって、加工面の正確な形状を測定するためには、レーザ変位計によって得られたデータから、加工面の性状に起因した誤差成分を取り除かなければならない。
【0014】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、工作機械により加工したワークの加工面形状を機上で極めて高精度に測定し得る測定方法及び装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明に係る機上測定方法は、
ワークを保持するワーク保持機構を備えたテーブルと、工具を保持する工具保持機構部と、前記テーブルと工具保持機構部とを平行移動させる第1軸方向、該第1軸方向と直交し、前記テーブルと工具保持機構部と離接させる方向の第2軸方向、並びに前記第1軸及び第2軸と直交する第3軸方向に前記テーブルと工具保持機構部とを相対移動させる送り機構部とを備えた工作機械において、該工作機械により加工されたワークの加工面形状を機上で測定する方法であって、
鏡面状の基準面を備えた基準ミラーを前記テーブル上に配置し、
前記ワークの加工面の変位を測定する第1のレーザ変位計、及び前記基準ミラーの基準面の変位を測定する第2のレーザ変位計を前記工具保持機構部に配置し、
前記第1軸方向と一致する走査方向に沿って前記第2軸方向に振動する正弦波軌跡を描くように、前記テーブルと前記工具保持機構部とを相対移動させ、且つ該相対移動の間に、前記第1のレーザ変位計によって前記加工面の変位を測定するとともに、前記第2のレーザ変位計によって前記基準面の変位を測定し、
得られた加工面の変位データ及び基準面の変位データを解析して、前記第1のレーザ変位計の感度を算出した後、算出した感度を基に、前記加工面の変位データを補正し、
ついで、補正後の加工面の変位データと前記基準面の変位データとの差分をとって、前記加工面の実形状を算出するようにしたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る機上測定装置は、
ワークを保持するワーク保持機構を備えたテーブルと、工具を保持する工具保持機構部と、前記テーブルと工具保持機構部とを平行移動させる第1軸方向、該第1軸方向と直交し、前記テーブルと工具保持機構部と離接させる方向の第2軸方向、並びに前記第1軸及び第2軸と直交する第3軸方向に前記テーブルと工具保持機構部とを相対移動させる送り機構部とを備えた工作機械に設けられ、該工作機械によって加工されたワークの加工面形状を機上で測定する測定装置であって、
鏡面状の基準面を備え、前記テーブル上に配設される基準ミラーと、
前記工具保持機構部にそれぞれ配設され、前記ワークの加工面の変位を測定する第1のレーザ変位計、及び前記基準ミラーの基準面の変位を測定する第2のレーザ変位計と、
前記テーブルと前記工具保持機構部とが前記第1軸方向と一致する走査方向に沿って前記第2軸方向に振動する正弦波軌跡で相対移動する測定運動を、前記工作機械に付与する測定運動付与部と、
前記第1のレーザ変位計によって測定される前記加工面の変位データと、前記第2のレーザ変位計によって測定される前記基準面の変位データとを解析して、前記第1のレーザ変位計の感度を算出する感度算出部と、
前記感度算出部によって算出された前記第1のレーザ変位計の感度を基に、前記加工面の変位データを補正し、補正後の加工面の変位データと前記基準面の変位データとの差分をとって、前記加工面の実形状を算出する実形状データ算出部とを備える。
【0017】
上述したように、レーザ変位計とワークとを相対移動させてワーク加工面の変位を測定する場合、得られる変位データには、相対移動に伴う運動誤差成分と、ワーク加工面の性状に起因した誤差成分とが含まれたものとなる。
【0018】
本発明者等は、これら運動誤差成分と加工面性状に起因した誤差成分とを含む変位データL(a)を、以下の一般式(数式1)で表すことができるとの知見を得た。
【0019】
(数式1)
L(a)=S[p(a)+e(a)]
【0020】
但し、aは前記相対移動方向における座標値、また、p(a)は加工面形状の変位成分、e(a)は運動誤差の変位成分である。そして、Sは、加工面性状に起因した誤差要因が、加工面形状の変位成分p(a)及び運動誤差による変位成分e(a)に影響する度合いを示すもので、本発明では、これを「感度」と称する。
【0021】
尚、上記一般式を前記第1のレーザ変位計によって測定される変位データに適用すると、この変位データL(a)は、次式数式2となる。
【0022】
(数式2)
(a)=S[p(a)+e(a)]
【0023】
但し、aは、前記第1軸における座標値である。
【0024】
また、前記第2のレーザ変位計によって測定される変位データL(a)は、次式数式3によって表される。
【0025】
(数式3)
(a)=e(a)
【0026】
そして、本発明者等は、前記正弦波軌跡を描く測定運動の下で、前記第1のレーザ変位計によって測定される加工面の変位データ、及び第2のレーザ変位計によって測定される基準面の変位データを解析することにより、前記第1のレーザ変位計の感度を算出することができることを知見した。
【0027】
そして、この算出された感度を用いることで、下式数式4のように、前記第1のレーザ変位計によって測定される加工面の変位データを補正し、補正後の加工面変位データL(a)と、第2のレーザ変位計によって測定される前記基準面の変位データをL(a)との差分を算出することによって、加工面の実形状データを得ることができるとの知見を得るに至ったものである(下式数式5)。
【0028】
(数式4)
(a)=L(a)/S=p(a)+e(a)
【0029】
(数式5)
(a)−L(a)=[p(a)+e(a)]−e(a)=p(a)
【0030】
尚、前記感度Sは、前記加工面の変位データL(a)及び基準面の変位データL(a)からそれぞれ前記正弦波成分を分離した後、その振幅比を算出し、算出した振幅比を基に設定すると良い。
【0031】
また、前記正弦波軌跡は、前記第1軸の座標値をaとし、その前記正弦波軌跡における第2軸の座標値をb(a)としたとき、下式数式6によって定義されるものとすると良い。
【0032】
(数式6)
(a)=A・sin[2π(a−a)/λ
【0033】
但し、Aは正弦波軌跡の片振幅、aは初期位相である。また、λは前記正弦波軌跡の波長であり、前記テーブルと工具保持機構部とを前記走査方向に相対移動させたときに前記第1のレーザ変位計によって測定される前記加工面の変位データを波長分析し、その結果の最も少ない波長成分から選定される波長である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、レーザ変位計とワークとの相対移動に伴う運動誤差と、ワーク加工面の性状に起因した誤差と取り除いた、高精度な加工面形状を工作機械上で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る機上測定装置の構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る測定制御部における処理手順を示したフローチャートである。
【図3】走査運動により、第1のレーザ変位計によって測定された加工面の変位データと、第2のレーザ変位計によって測定された基準面の変位データを示す信号波形図である。
【図4】図3に示した加工面変位データをフーリエ変換して波長分析したパワースペクトルを示す図である。
【図5】正弦波軌跡を描く測定運動の下で、第1のレーザ変位計によって測定された加工面変位データと、第2のレーザ変位計によって測定された基準面変位データとを示す信号波形図である。
【図6】本実施形態にしたがって算出した加工面の実形状データに係る信号波形図である。
【図7】走査運動によって測定された図3に示す加工面変位データと基準面変位データとの差分をとった信号波形図である。
【図8】本実施形態における効果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0037】
図1に示すように、本例の機上測定装置20は、公知の構成を有する工作機械1に付設されるものであるが、その詳細な説明に先立って、まず、工作機械1の概略について説明する。
【0038】
図1に示すように、本例の工作機械1は、テーブル2と、工具5を保持する工具保持台3と、数値制御装置8とを備える。テーブル2は、その上面に、ワークWを保持するための保持具4が取り付けられ、X軸送り機構6により駆動されてX軸方向に移動する。また、工具保持台3は、テーブル2の上方に設けられ、Z軸送り機構7により駆動されてZ軸方向に移動する。尚、特に図示していないが、テーブル2と工具保持台3とを紙面と直交するY軸方向に相対移動させるY軸送り機構が設けられている。また、数値制御装置8は、NCプログラムを記憶するNCプログラム記憶部11、NCプログラムを解析して制御信号を生成するプログラム解析部10、生成された制御信号に基づいて前記X軸送り機構6,Y軸送り機構(図示せず)及びZ軸送り機構7の作動を制御する送り制御部9等を備える。
【0039】
斯くして、以上の構成を備えた工作機械1では、多くを説明するまでもないが、数値制御装置8によって前記X軸送り機構部6,Y軸送り機構部(図示せず)及びZ軸送り機構部の作動が適宜制御され、これによりテーブル2と工具保持台3とがX軸、Y軸及びZ軸の直交3軸方向に適宜相対移動され、かかるテーブル2と工具保持台3との相対移動によって、ワークWが加工される。
【0040】
次に、本例の機上測定装置20の詳細について説明する。
【0041】
図1に示すように、前記機上測定装置20は、テーブル2上に配設された基準ミラー21と、工具保持台3に配設された第1及び第2の2つのレーザ変位計L,Lと、数値制御装置8内に設けられた測定処理装置22と、入出力装置32とを備える。
【0042】
前記基準ミラー21は、表面が平坦な鏡面状の基準面をなすもので、この基準面を上にして、前記保持具4と並び前記テーブル2上に固設される。
【0043】
前記第1のレーザ変位計L及び第2のレーザ変位計Lは、それぞれ三角測量型のレーザ変位計からなり、第1のレーザ変位計Lは工具5近傍の工具保持台3に固設されて、ワークWの加工面の変位を測定する。他方、第2のレーザ変位計Lは、基準ミラー21と対向するように工具保持台3に固設され、当該基準ミラー21の基準面の変位を測定する。
【0044】
前記測定処理装置22は、測定制御部23,測定運動付与部24,データ取込部25,Lデータ記憶部26,Lデータ記憶部27,感度算出部28,実形状データ算出部29,実形状データ記憶部30及び入出力処理部31とからなる。
【0045】
測定制御部23は、測定運動付与部24,データ取込部25,感度算出部28及び実形状データ算出部29における各処理を統轄制御する処理部であり、図2に示した処理を順次実行する。
【0046】
測定運動付与部24は、テーブル2と工具保持台3とが所定の測定方向に沿って正弦波軌跡で相対移動する測定運動を前記工作機械1に付与する処理部である。具体的には、例えば、テーブル2と工具保持台3とがX軸方向に沿ってZ軸方向に振動する正弦波軌跡を描いて相対移動するようなX軸送り機構6及びZ軸送り機構7に係る制御信号を生成して送り制御部9に送信する。
【0047】
このような測定運動に係る制御信号は、例えば、X軸の座標値をxとし、その前記正弦波軌跡におけるZ軸の座標値をz(x)として、次の数式7に従って算出され、前記測定運動付与部24は、かかる数式7に従った制御信号を生成して、前記送り制御部9に送信する。
【0048】
(数式7)
(x)=A・sin[2π(x−x)/λ
【0049】
但し、Aは正弦波軌跡の片振幅、xは初期位相であり、λは正弦波軌跡の波長である。
【0050】
尚、前記波長λは、工具保持台3を固定し、テーブル2をX軸方向に移動させて(この移動を、以下、「走査運動」という)、前記第1のレーザ変位計Lを用いてワークWの加工面の変位を測定し、得られた変位データをフーリエ変換して波長分析を行い、その結果の最も少ない波長成分から選定される波長である。波長λをワークの加工面形状及び運動誤差に含まれていない波長とすることで、波長λの正弦波成分を精度良く分離でき、感度Sを正確に求めることができる。
【0051】
因みに、前記走査運動を行い、前記第1のレーザ変位計Lによって測定される前記加工面の変位データをL(x)、前記第2のレーザ変位計Lによって測定される前記基準面の変位データをL(x)とすると、これらL(x)及びL(x)は、次の数式8及び数式9によって表される。
【0052】
(数式8)
(x)=S[p(x)+e(x)]
【0053】
(数式9)
(x)=e(x)
【0054】
但し、p(x)は加工面形状を表し、e(x)は直線運動誤差のZ軸成分を表している。
【0055】
また、前記片振幅A及び初期位相xは、次の数式10及び数式11を満たすように適宜設定される。
【0056】
(数式10)
max[L(x)+z(x)]=dmax
【0057】
(数式11)
min[L(x)+z(x)]=dmin
【0058】
但し、[dmin,dmax]は、第1のレーザ変位計Lの線形誤差が大きくならないように適宜設定される測定範囲である。
【0059】
ここで、前記走査運動を行って、前記第1のレーザ変位計Lによって測定される加工面の変位データL(x)と、前記第2のレーザ変位計Lによって測定される基準面の変位データL(x)の一例を図3に示す。
【0060】
図3に示した基準面の変位データL(x)は、基準面の変位成分にX軸送り機構6の運動誤差成分(低周波成分)が加算された波形を示し、加工面の変位データL(x)は加工面の変位成分にX軸送り機構6の直線運動誤差成分(低周波成分)と加工面の面性状に係る誤差成分が加算された複雑な波形を示している。
【0061】
また、図3で示した加工面の変位データL(x)をフーリエ変換して波長分析を行ったパワースペクトルを図4に示す。この場合、図において矢印を付した波長2mmの成分が少ないので、上記数式7におけるλは2mmに設定される。
【0062】
前記データ取込部25は、前記測定運動を行っている間に、前記第1のレーザ変位計Lから出力される変位データ(加工面変位データ)L(x)を取り込んでLデータ記憶部26に格納するとともに、同様に、前記第2のレーザ変位計Lから出力される変位データ(基準面変位データ)L(x)を取り込んでLデータ記憶部27に格納する処理を行う。
【0063】
ここで、一例として、上記数式7におけるλを2mmとし、数式10及び数式11における[dmin,dmax](測定範囲)を[−2μm,+2μm]として設定される数式7に従った測定運動を工作機械1に付与した場合に、前記第1のレーザ変位計Lによって測定された加工面変位データL(x)と、前記第2のレーザ変位計Lによって測定された基準面変位データL(x)とを図5に示す。
【0064】
前記感度算出部28は、Lデータ記憶部26及びLデータ記憶部27からそれぞれ加工面変位データL(x)と基準面変位データL(x)とを読み出し、これらからそれぞれ波長λの正弦波成分を分離して、その振幅比を算出して上記数式8における感度Sを決定する。
【0065】
前記実形状データ算出部29は、Lデータ記憶部26及びLデータ記憶部27からそれぞれ加工面変位データL(x)と基準面変位データL(x)とを読み出し、前記感度算出部28によって算出された感度Sを用いて、次の数式12にしたがって加工面変位データL(x)を補正した補正変位データL(x)を算出し、得られた補正変位データL(x)と基準面変位データL(x)とから次の数式13により、加工面の実形状データp(x)を算出して、これを実形状データ記憶部30に格納する。
【0066】
(数式12)
(x)=L(x)/S
【0067】
(数式13)
p(x)=L(x)−L(x)
【0068】
また、前記入出力処理部31は、入出力装置32から入力された測定開始信号を受けてこれを前記測定制御部23に送信し、また、同入出力装置32から出力要求を受け付けて、前記Lデータ記憶部26,Lデータ記憶部27,実形状データ記憶部30に格納された各データを前記入出力装置32に出力する。
【0069】
以上の構成を備えた本例の機上測定装置20によれば、まず、入出力装置32から測定開始信号が入力され、この測定開始信号が前記測定制御部23に送信されることで、機上測定が開始される。尚、前記保持具4にはワークWが保持され、このワークWはその上面が工具5によって加工されているものとする。
【0070】
前記測定開始信号が測定制御部23に送信されると、当該測定制御部23は図2に示した処理を順次実行する。
【0071】
即ち、まず、ステップS1において、測定運動付与部24が測定運動に係る制御信号を送り制御部9に送信し、テーブル2と工具保持台3に測定運動を行わせる。
【0072】
ついで、前記測定運動が行われている間に、前記データ取込部25によって、第1のレーザ変位計Lから出力される加工面変位データL(x)と、第2のレーザ変位計Lから出力される基準面変位データL(x)とが取り込まれ、それぞれLデータ記憶部26とLデータ記憶部27に格納される(ステップS2)。
【0073】
次に、感度算出部28により、Lデータ記憶部26及びLデータ記憶部27からそれぞれ加工面変位データL(x)と基準面変位データL(x)とが読み出され、これらからそれぞれ波長λの正弦波成分が分離されて、その振幅比から感度Sが算出される(ステップS3)。
【0074】
ついで、算出された感度Sを基に、実形状データ算出部29により、加工面変位データL(x)が補正され(ステップS4)、補正された変位データL(x)と基準面変位データL(x)との差分をとって加工面の実形状データp(x)が算出され(ステップS5)、算出された実形状データp(x)が実形状データ記憶部30に格納され(ステップS6)、一連の処理が終了される。
【0075】
ここで、図5に示した加工面変位データL(x)及び基準面変位データL(x)を基に、上記ステップS3〜S5の処理を行って算出した加工面の実形状データp(x)を、実施例として図6に示す。
【0076】
また、従来例に相当する比較例として、前記走査運動によって測定された図3に示す加工面変位データL(x)と基準面変位データL(x)との差分をとったものを図7に示す。
【0077】
更に、試料対象のワークWを工作機械1から取り外して、誤差を殆ど含まない精密な形状測定器によって当該ワークWの加工面の形状を測定し、得られた形状データ(真の形状データ)と、図6に示した実施例に係る形状データ、及び図7に示した比較例に係る形状データとの差分をそれぞれ算出した結果を図8に示す。
【0078】
上述したように、レーザ変位計とワークとを相対移動させてワーク加工面の変位を測定する場合、得られる変位データには、相対移動に伴う運動誤差成分と、ワーク加工面の性状に起因した誤差成分とが含まれたものとなっており、したがって、従来例のように、運動誤差成分のみを除去したのでは正確な加工面形状を算出することができない。
【0079】
本例によれば、運動誤差成分とワーク加工面の性状に起因した誤差成分の双方を除去することができるので、極めて高精度な加工面形状を工作機械上で測定することができる。このことは、図8を見れば明らかである。即ち、実施例として示した加工面の形状データは、真の形状データとの差が殆ど無いが、比較例として示した加工面の形状データは、真の形状データに対して大きな誤差を含んでおり、本例によって、加工面形状を高精度に測定し得ることが理解される。
【0080】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら、上例のものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、工作機械の加工分野において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 工作機械
2 テーブル
3 工具保持台
4 ワーク保持具
20 機上測定装置
21 基準ミラー
22 測定処理装置
23 測定制御部
24 測定運動付与部
25 データ取込部
26 Lデータ記憶部
27 Lデータ記憶部
28 感度算出部
29 実形状データ算出部
30 実形状データ記憶部
第1のレーザ変位計
第2のレーザ変位計
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持するワーク保持機構を備えたテーブルと、工具を保持する工具保持機構部と、前記テーブルと工具保持機構部とを平行移動させる第1軸方向、該第1軸方向と直交し、前記テーブルと工具保持機構部と離接させる方向の第2軸方向、並びに前記第1軸及び第2軸と直交する第3軸方向に前記テーブルと工具保持機構部とを相対移動させる送り機構部とを備えた工作機械において、該工作機械により加工されたワークの加工面形状を機上で測定する方法であって、
鏡面状の基準面を備えた基準ミラーを前記テーブル上に配置し、
前記ワークの加工面の変位を測定する第1のレーザ変位計、及び前記基準ミラーの基準面の変位を測定する第2のレーザ変位計を前記工具保持機構部に配置し、
前記第1軸方向と一致する走査方向に沿って前記第2軸方向に振動する正弦波軌跡を描くように、前記テーブルと前記工具保持機構部とを相対移動させ、且つ該相対移動の間に、前記第1のレーザ変位計によって前記加工面の変位を測定するとともに、前記第2のレーザ変位計によって前記基準面の変位を測定し、
得られた加工面の変位データ及び基準面の変位データを解析して、前記第1のレーザ変位計の感度を算出した後、算出した感度を基に、前記加工面の変位データを補正し、
ついで、補正後の加工面の変位データと前記基準面の変位データとの差分をとって、前記加工面の実形状を算出するようにしたことを特徴とする機上測定方法。
【請求項2】
前記加工面の変位データ及び基準面の変位データからそれぞれ前記正弦波の成分を分離した後、その振幅比を算出し、算出した振幅比を基に前記感度を算出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の機上測定方法。
【請求項3】
前記正弦波軌跡は、前記第1軸の座標値をaとし、その前記正弦波軌跡における第2軸の座標値をb(a)としたとき、下式によって定義されるものである請求項1又は2記載の機上測定方法。
(a)=A・sin[2π(a−a)/λ
但し、Aは正弦波軌跡の片振幅、aは初期位相である。また、λは前記正弦波軌跡の波長であり、前記テーブルと工具保持機構部とを前記走査方向に相対移動させたときに前記第1のレーザ変位計によって測定される前記加工面の変位データを波長分析し、その結果の最も少ない波長成分から選定される波長である。
【請求項4】
ワークを保持するワーク保持機構を備えたテーブルと、工具を保持する工具保持機構部と、前記テーブルと工具保持機構部とを平行移動させる第1軸方向、該第1軸方向と直交し、前記テーブルと工具保持機構部と離接させる方向の第2軸方向、並びに前記第1軸及び第2軸と直交する第3軸方向に前記テーブルと工具保持機構部とを相対移動させる送り機構部とを備えた工作機械に設けられ、該工作機械によって加工されたワークの加工面形状を機上で測定する測定装置であって、
鏡面状の基準面を備え、前記テーブル上に配設される基準ミラーと、
前記工具保持機構部にそれぞれ配設され、前記ワークの加工面の変位を測定する第1のレーザ変位計、及び前記基準ミラーの基準面の変位を測定する第2のレーザ変位計と、
前記テーブルと前記工具保持機構部とが前記第1軸方向と一致する走査方向に沿って前記第2軸方向に振動する正弦波軌跡で相対移動する測定運動を、前記工作機械に付与する測定運動付与部と、
前記第1のレーザ変位計によって測定される前記加工面の変位データと、前記第2のレーザ変位計によって測定される前記基準面の変位データとを解析して、前記第1のレーザ変位計の感度を算出する感度算出部と、
前記感度算出部によって算出された前記第1のレーザ変位計の感度を基に、前記加工面の変位データを補正し、補正後の加工面の変位データと前記基準面の変位データとの差分をとって、前記加工面の実形状を算出する実形状データ算出部とを備えてなることを特徴とする機上測定装置。
【請求項5】
前記感度算出部は、前記加工面の変位データ及び基準面の変位データからそれぞれ前記正弦波の成分を分離した後、その振幅比を算出し、算出した振幅比を基に前記感度を算出するように構成されてなることを特徴とする請求項4記載の機上測定装置。
【請求項6】
前記測定運動付与部は、前記第1軸の座標値をaとし、その前記正弦波軌跡における第2軸の座標値をb(a)としたとき、下式によって定義される正弦波軌跡の測定運動を前記工作機械に付与するように構成されてなる請求項4又は5記載の機上測定装置。
(a)=A・sin[2π(a−a)/λ
但し、Aは正弦波軌跡の片振幅、aは初期位相である。また、λは前記正弦波軌跡の波長であり、前記テーブルと工具保持機構部とを前記走査方向に相対移動させたときに前記第1のレーザ変位計によって測定される前記加工面の変位データを波長分析し、その結果の最も少ない波長成分から選定される波長である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−20233(P2011−20233A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168925(P2009−168925)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月13日に、社団法人精密工学会関西支部主催の、精密工学会2009年度関西地方学術講演会にて発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【Fターム(参考)】