説明

正常ヒト表皮角化細胞の分化抑制剤

【課題】表皮細胞の増殖、分化に対して、レチノイン酸やレチノイン酸誘導体と同様の作用を示し、皮膚老化の予防、防止、改善に有用で、かつ、皮膚に対して安全な成分を含有する、皮膚の老化を予防、防止、改善するための組成物を提供すること。
【解決手段】シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類から選ばれる1種または2種以上の化合物および/またはそれらの化合物を含む植物および/または植物抽出物から選ばれる1種または2種以上を含む皮膚老化防止用、皮膚外用、食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮細胞の分化を抑制し、増殖を維持することにより、ターンオーバーの遅延を予防、防止、改善し、加齢や紫外線照射により引き起こされるしわやたるみなどの皮膚の老化を予防、防止、改善する作用をもつある特定の化合物およびその化合物を含む植物または植物抽出物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
しわ、しみ、くすみ、たるみなど、皮膚の老化に伴って起こる変化には、加齢、日光曝露、環境によるストレス、精神的ストレスなどが関与することが知られている。皮膚の老化により、表皮細胞、線維芽細胞および血管が減少するとともに、皮膚構造を保持する機能を持つ細胞外マトリックスである真皮のI型コラーゲン、III型コラーゲンおよびエラスチンや基底膜のIV型コラーゲンやラミニンなどの減少や変性などが起こり、表皮、真皮および基底膜が偏平化する。
【0003】
老化した皮膚を改善する作用をもつ代表的な成分がレチノイン酸およびレチノールなどのレチノイン酸誘導体である。レチノイン酸は、皮脂腺萎縮作用をもつことからニキビ治療薬として開発されたが、コラーゲンの産生を促進し、有意にシワを改善することが報告された。また、レチノールは、表皮細胞分化抑制により角化を抑制することが報告され、特に連用により、表皮においてはその肥厚、各層構造の接着緻密化、各層の層数減少、真皮においては線維芽細胞の活性化、細胞数増加、真皮乳頭層におけるコラーゲンの増加、アンカリングフィラメントの増加などが見られることが示されている(日本香粧品科学会誌、16(3),172−174,1992;Varani,J.,J.Invest.Dermatol.,114(3),480−486,2000)。以上のようなことから、レチノイン酸およびレチノイン酸誘導体を用いた皮膚老化防止用組成物が多数開発されている(米国特許第4603146号、米国特許第4877805号、欧州特許第0631772号、特許第2688473号、特許第2774408号、特許第2931349号、特表平8−501574号公報、特表平8−502742号公報、特開平10−45533号公報、特開平10−158290号公報)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レチノイン酸は日本国内では、催奇性があることが理由となり医薬品や化粧品としての許可がない成分である。また、レチノールなどのレチノイン酸誘導体は、体内でレチノイン酸に変化して作用することから基本的にはレチノイン酸と同様の作用を示し、過剰に摂取すると頭痛、嘔吐、眼痛、不安、不機嫌、食欲不振、低体重、脱毛、口角亀裂、肝臓肥大、柑皮症(カロチン)、成長遅延、筋肉痛、皮膚炎などの副作用が生じることが知られている。特に、妊娠中の過剰摂取は催奇性があるので注意が必要とされている。
【0005】
レチノイン酸およびレチノイン酸誘導体は熱、光、酸素に弱く、安定に保つためには窒素置換で冷蔵または冷凍保存の必要がある。また、特有な匂いがある。
【0006】
以上のようなことから、表皮細胞の増殖、分化に対して、レチノイン酸やレチノイン酸誘導体と同様の作用を示し、皮膚老化の予防、防止、改善に有用で、かつ、皮膚に対して安全な成分を含有する皮膚老化防止用組成物の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、表皮細胞の角化を抑制し、増殖を維持する作用において、レチノイン酸およびレチノールなどのレチノイン酸誘導体と同様の作用を有する成分の探索を行った。その結果、シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類化合物が表皮細胞の角化を抑制し、増殖を維持する作用において、レチノイン酸およびレチノールなどのレチノイン酸誘導体と同様の作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1.シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類から選ばれる1種または2種以上を含む皮膚老化防止用組成物。
2.シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物またはビタミンP類を含む植物または植物抽出物から選ばれる1種または2種以上を含む皮膚老化防止用組成物。
3.1または2記載の組成物を含む表皮細胞分化抑制用組成物。
4.1または2記載の組成物を含むターンオーバー遅延予防用または改善用組成物。
5.皮膚外用である請求項1〜4のいずれか記載の組成物。
6.食品である1〜4のいずれか記載の組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように、シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類から選ばれる1種または2種以上の化合物および/またはそれらの化合物を含む植物および/または植物抽出物から選ばれる1種または2種以上を含む本発明の組成物は、表皮細胞の分化を抑制し、増殖を維持することにより、ターンオーバーの遅延を予防、防止、改善し、老化により偏平化した表皮を肥厚させ、しわ、たるみのない若々しい肌の状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
シリマリン(Silymarin;CAS No.65666−07−1)は、キク科マリアアザミ(別名オオアザミ、オオヒレアザミ、ミルクアザミ;CAS No.84604−20−6)から抽出されるフラボノリグナンの総称であり、確認されている主要成分はシリビン(Silybin;CAS No.22888−70−6)、シリジアニン(Silydianin;CAS No.29782−68−1)、シリクリスチン(Silychristin;CAS No.33889−69−9)、イソシリビン(Isosilybin;CAS No.72581−71−6)などがある(天然薬物事典、奥田拓男編)。シリマリンは古くからヨーロッパで肝臓疾患の予防および治療を目的として使用されている。また、酸化防止剤として広く知られている。皮膚に対して有用な組成物として、乾癬およびアトピー性皮膚炎治療製剤(特開平5−286864号公報)、フラボノリグナンとリン脂質との錯体を活性成分として含み、紅斑、火傷、皮膚または粘膜のジストロフィー状態、皮膚炎等の治療、皮膚の老化防止および放射線、風、太陽などの外部環境からの刺激保護に有用な組成物(特許第2948818号)、表皮透過バリア強化剤(特開2000−169328)皮脂分泌抑制剤(特開2000−169332)などが知られている。シリマリンは通常マリアアザミの種実からエタノール抽出し、スプレードライにより乾燥粉末として得られるエキス原料として市販されている。本発明に使用するシリマリンは市販されているシリマリンをそのまま用いることができる。また、マリアアザミからシリビン、シリジアニン、シリクリスチン、イソシリビンなどのシリマリンの構成成分を単離、精製した化合物を用いることができる。
【0011】
フラボノール系化合物は、3−ヒドロキシフラボンを基本骨格とするフラボノイドで、フラボノイドの中で自然界に最も広く分布し、多くは配糖体として存在する(天然薬物事典、奥田拓男編)。以下にフラボノール系化合物の例を挙げるが、これらに限定されるものではない。フラボノール系化合物としては、ケルセチン(Quercetin;CAS No.117−39−5)、ケルシトリン(Quercitrin;CAS No.522−12−3)、イソケルシトリン(Isoquercitrin;CAS No.482−35−9)、ケンフェロール(Kaempferol;CAS No.528−18−3)、ルチン(Rutin;CAS No.153−18−4)、ミリシトリン(Myricitrin;CAS No.17912−87−7)などが挙げられる。
【0012】
また、フラボノール系化合物を含む植物として以下に例を挙げるが、これらに限定されるものではない。ケルセチンはフラボノイドの中で最も広く分布し、遊離または配糖体として植物の各器官に含まれる。ケルシトリンやイソケルシトリンも種々の植物に存在し、ドクダミ科のドクダミ(Houttuynia Cordata Thunb.)やアオイ科のワタ(Gossypium arboreum Linn. var. indicum Roberty)などに含まれる。ケンフェロールはクロウメモドキ科のクロウメモドキ(Rhamnus japonica Maxim. var. decipiens Maxim.)やフウロソウ科のゲンノショウコ〔Geranium nepalenseSweet subsp. thunbergii (Sieb. et Zucc.) Hara.〕などに含まれ、ルチンはミカン科のヘンルーダ(Ruta graveolens Linn.)、マメ科のエンジュ(Sophorajaponica)、タデ科のソバ(Fagopyrum esculentum Moench.)などに含まれ、ミリシトリンはヤマモモ科のヤマモモ(Myrica rubra Sieb. et Zucc.)などに含まれる。フラボノール系化合物には、毛細血管の脆弱化抑制、抗酸化、血圧上昇抑制、消臭などの作用が知られている。皮膚に対して有用な組成物として、タンニング促進化粧料組成物(特開平5−279225号公報)、アトピー性皮膚炎治療剤(特開平7−118151)、美白化粧料(特開平5−255376号公報、特開平10−287544号公報)などが知られている。
【0013】
フラボノール系化合物は、例えば化学大辞典8巻964頁(共立出版、昭和56年第26版縮刷版)の記載されているように、種々の化合物から単離、精製された天然品であっても良く、また、公知の方法 [例えば、ケンフェロールの合成はBeilatein 18巻(3/4)、3283頁に記載の方法により、ケルシトリンの合成はBeilatein 18巻(3/4)、3491頁に記載の方法 ]により合成された合成品でも良い。ケルセチン、ケルシトリン、イソケルシトリン、ケンフェロール、ルチンおよびミリシトリンなど多くのフラボノール系化合物が市販されており、これを用いることができる。
【0014】
スチルベン系化合物としては、スチルベンおよびその誘導体が挙げられる。以下にスチルベン系化合物の例を挙げるが、これらに限定されるものではない。スチルベン(Stilbene;CAS No.588−59−0)はトランス型スチルベン(trans−Stilbene;CAS No.103−30−0)、シス型スチルベン(cis−Stilbene;CAS No.645−49−8)があり、いずれも用いることができる。また、スチルベン誘導体としては、レスバラトロール(Resveratrol;CAS No.501−36−0)、レスバラトロシド(Resveratroloside;CAS No.38963−95−0)、トリアセチルレスバラトロール(Triacetylresveratrol;CAS No.42206−94−0)、プテロスチルベン(Pterostilbene;CAS No.537−42−8)、ラポンティン(Rhapontin;CAS No.155−58−8)、イソラポンティン(Isorhapontin;CAS No.32727−29−0)、ラポンティゲニン(Rhapontigenin;CAS No.500−65−2)、イソラポンティゲニン(Isorhapontigenin;CAS No.32507−66−7)、ピノシルビン(Pinosylvin;CAS No.102−61−4)、ピノシルビン酸(Pinosylvic acid;CAS No.38232−09−6)、ピノスチルベン(Pinostilbene;CAS No.42438−89−1)、ピノスチルベノシド(Pinostilbenoside;CAS No.58762−96−2)、ピセイド(Piceid;CAS No.27208−80−6)などが挙げられる。
【0015】
スチルベン系化合物を含む植物として以下に例を挙げるが、これらに限定されるものではない。レスバラトロールはユリ科のバイケイソウ(Veratrumalbum Linn. Subsp. oxysepalum Hulten)などに含まれ、ラポンティンはタデ科のショクヨウダイオウ(Rheum rhaponticum Linn.)、カラダイオウ(Rheum undulatum Linn.)などに含まれ、ピセイドはタデ科のイタドリ(Reynoutria japonica Houtt.)などに含まれる。スチルベン系化合物には、色素脱失、血管拡張、血栓防止、突然変異誘発抑制、発癌抑制、酸化防止などの作用が知られている[Soleas G.J.,et al., Clin. Biochem.,30(2),91−113,1997;Bhat K.P.L.,et al., Antioxid. Redox Signal, 3(6),1041−64,2001]。皮膚に対して有用な組成物として、美白効果に優れる皮膚外用剤(特開平5−271046)、チロシナーゼ活性阻害剤(特開2001−335472)、紫外線吸収剤(特許第2981420号)、皮膚の落屑促進剤および/または表皮の再生刺激剤(特許第3204948号)、抗グリケーション剤(特開2001−58916、特開2001−253820)などが知られている。本発明で用いるスチルベン系化合物は、公知の方法によって合成することができ、例えば該当するフォスフォニウム塩と該当するアルデヒドのヴィッティッヒ反応によって合成することができる(Tetrahedron letters,E.Reimann,47,4051,1997)。トランス型スチルベン、レスバラトロール、ラポンティンなどが市販されており、これを用いることができる。
【0016】
ビタミンPは、レモン汁、パプリカなどから紫斑病に有効な成分として分離され、この物質が毛細血管の透過性(permeability)を低下させることからビタミンPと名付けられたが、のちにこれはヘスペリジンとルチンの混合物であることが分かった(天然薬物事典、奥田拓男編)。以下に、ビタミンP類化合物の例を挙げるが、これらに限定されるものではない。ビタミンP類化合物としては、ヘスペリジン(Hesperidin;CAS No.520−26−3)ネオヘスペリジン(Neohesperidin;CAS No.13241−33−3)、ヘスペリチン(Hesperetin;CAS No.31712−49−9)、グルコヘスペレチン(Glucohesperetin;CAS No.2500−68−7)、ケルセチン(Quercetin;CAS No.117−39−5)、イソケルシトリン(Isoquercitein;CAS No.)、ルチン(Rutin;CAS No.153−18−4)、ディオスメチン(Diosmetin;CAS No.520−34−3)、エリオジクチン(Eriodictin;CAS No.480−35−3)、エリオジクチオール(Eriodictyol;CAS No.552−58−9)、エリオシトリン(Eriocitrin;CAS No.13463−28−0)、エピカテキン(Epicatechin;CAS No.490−46−0)などが挙げられる。
【0017】
また、ビタミンP類化合物を含む植物として以下に例を挙げるが、これらに限定されるものではない。ヘスペリチンはナス科のパプリカ(Capsicum annuum Linn.)、ミカン科のウンシュウミカン(Citrus unshu Marc.)およびレモン[Citrus limon (Linn.) Burm.]などの多くの植物に含まれ、ルチンはミカン科のヘンルーダ(Ruta graveolens Linn.)、マメ科のエンジュ(Sophora japonica Linn.)、タデ科のソバ(Fagopyrumesculentum Moench.)などに含まれ、エリオジクチオールはオトギリソウ科のオトギリソウ(Hypericum erectum Thunb.)、クロウメモドキ科のクロウメモドキ(Rhamnus japonica Maxim. var.decipiens Maxim.)、イネ科のハトムギ(Coix ma−yuen Roman.)などに含まれ、エピカテキンはセンダン科のマホガニー(Swietenia mahagoni Jacq.)、ネムノキ科のペグノキ(Acacia catechu Willd.)、フトモモ科のユーカリ(Eucalyptus gobulus Lab.)などに含まれる。ビタミンP類化合物にはさまざまな作用が知られている。
【0018】
例えば、ヘスペリジンは毛細血管透過性阻害作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用などの作用があり、脳出血、網膜出血、動脈硬化症、紫斑病の予防と治療に用いられ、ルチンは毛細血管透過性阻害作用があり、出血傾向の改善や高血圧改善に用いられ、ケルシトリンは利尿作用がある(天然薬物事典、奥田拓男編)。皮膚に対して有用なビタミンP類化合物を含む組成物として、皮脂抑制およびざ瘡治療用組成物(特表平8−509224)、ビタミンP類の化合物の組み合わせと賦形剤を含み、ケラチノサイトの分化を高めることにより、皮膚の乾燥度を低減し、かつシワの出現を低減する作用をもつ組成物(特開平9−176008号公報)、シナノキ科の植物と細胞賦活作用剤としてビタミンP類等を含む抗炎症、老化防止などの作用をもつ皮膚外用剤(特開平9−301880)、細胞間接着抑制剤(特開平10−330259号公報)、光毒性抑制剤(特開2000−319154)、血行改善性繊維構造物(特開2001−26542)などが知られている。ビタミンP類化合物は、公知の方法によって合成することができる。ヘスペリジン、ヘスペリチン、ケルセチン、イソケルシトリン、ルチン、エピカテキンなど多くのビタミンP類化合物が市販されており、これを用いることができる。
【0019】
本発明における化合物は、それら自体を乾燥させた乾燥物およびそれらを各種溶媒を用いて溶解した溶解物として使用できる。例えば、水またはエタノール、メタノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコールなどの多価アルコール、エーテル、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いて溶解した溶解物として使用できる。
【0020】
本発明で用いる化合物は、該化合物を含む植物を乾燥、抽出、精製などの処理をすることによって得られた乾燥物、抽出物などを用いても良い。
【0021】
本発明における化合物を含む植物は、葉、茎、芽、花、木質部、木皮部(樹皮)などの地上部、根、塊茎などの地下部、種子、樹脂などのすべての部位が使用可能である。
【0022】
本発明における化合物を含む植物または植物抽出物は、天然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥させたり、醗酵させたりしたものをそのまま使用するか、もしくは常法に従って、濃縮、抽出、粉末化などの処理を行って得られたものを使用することができる。
【0023】
シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類から選ばれる1種または2種以上の化合物および/またはそれらの化合物を含む植物および/または植物抽出物から選ばれる1種または2種以上を含む本発明組成物は、表皮細胞の分化を抑制し、増殖を維持することにより、ターンオーバーの遅延を予防、防止、改善し、加齢や紫外線照射により引き起こされる表皮の偏平化を防ぎ、老化した皮膚を再生する作用を有する。
【0024】
本発明における化合物および/またはそれらを含む植物または植物抽出物を含む組成物は、非経口用の化粧料、経口用の食品として製造することができる。
【0025】
化粧料としては、本発明における化合物および/または本発明における化合物を含む植物または植物抽出物を直接または小麦胚芽油あるいはオリーブ油などに添加して、化粧料成分として使用し、化粧料を製造することができる。
【0026】
食品としては、本発明における化合物および/または本発明における化合物を含む植物または植物抽出物を直接、または種々の栄養成分を添加して使用できる。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して健康補助食品、保健機能食品などとして、食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用してもよく、水、果汁、牛乳、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
【0027】
本発明における化合物およびそれらを含む植物または植物抽出物の組成物への有効配合量は、化合物およびそれらを含む植物または植物抽出物の調製法、製剤の形態などにより、適宜選択、決定され、特に限定されないが、化合物の場合はそれぞれ0.001〜20質量%、植物または植物抽出物の場合は乾燥重量としてそれぞれ0.01〜60重量%が好ましい。
【0028】
本発明における化合物および/または本発明における化合物を含む植物または植物抽出物の有効投与量は、使用者の年齢、体重、症状、患者の程度、投与経路、投与スケジュール、製剤形態などにより、適宜決定することができる。例えば、本発明における化合物の場合、乾燥重量として1日当り0.01g〜10gの範囲で適宜調節して、1回または数回に分けて投与できる。また、本発明における化合物を含む植物または植物抽出物の場合、乾燥重量として1日当り0.1g〜25gの範囲で適宜調節して、1回または数回に分けて投与できる。
【0029】
本発明の組成物には、適用形態に応じて、適宜、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、ヒアルロン酸のような保湿剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、美白剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
【0030】
油脂類としては、例えばツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、トリオクタン酸グリセリン、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類が挙げられる。
【0031】
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
【0032】
高級脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
【0033】
高級アルコールとして、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
【0034】
シリコーンとして、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0035】
アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸、スルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩等が挙げられる。
【0036】
カチオン界面活性剤として、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0037】
両性界面活性剤として、例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン等のベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
非イオン界面活性剤として、例えば、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体が挙げられる。
【0039】
防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等を挙げることができる。
【0040】
金属イオン封鎖剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エデト酸、エデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩を挙げることができる。
【0041】
高分子として、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL等)等のビニル系高分子、等を挙げることができる。
【0042】
増粘剤として、例えば、カラギーナン、トラガカントガム、クインスシード、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト等を挙げることができる。
【0043】
粉末成分としては、例えば、タルク、カオリン、雲母、シリカ、ゼオライト、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、無機白色顔料、無機赤色系顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ等のパール顔料、赤色201号、赤色202号等の有機顔料を挙げることができる。
【0044】
紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸フェニル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノン、等を挙げることができる。
【0045】
紫外線遮断剤として、例えば、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等を挙げることができる。
【0046】
保湿剤として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、1、2−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、ソルビトール、ブドウ糖、果糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0047】
薬効成分としては、例えば、ビタミンA油、レチノール等のビタミンA類、リボフラビン等のビタミンB類、ピリドキシン塩酸塩等のB類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸モノパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド等のビタミンC類、パントテン酸カルシウム等のパントテン酸類、ビタミンD、コレカルシフェロール等のビタミンD類;α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類等のビタミン類を挙げることができる。プラセンタエキス、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、ローヤルゼリー、ブナノキエキス等の皮膚賦活剤、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、γ−オリザノール等の血行促進剤、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、アズレン等の消炎剤、アルギニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸類、常在菌コントロール剤のマルトースショ糖縮合物、塩化リゾチーム等を挙げることができる。さらに、カミツレエキス、パセリエキス、ブナノキエキス、ワイン酵母エキス、グレープフルーツエキス、スイカズラエキス、コメエキス、ブドウエキス、ホップエキス、コメヌカエキス、ビワエキス、オウバクエキス、ヨクイニンエキス、センブリエキス、メリロートエキス、バーチエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、トウガラシエキス、レモンエキス、ゲンチアナエキス、シソエキス、アロエエキス、ローズマリーエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、マロニエエキス、ハマメリスエキス、クワエキス等の各種抽出物を挙げることができる。
【0048】
本発明の組成物は、例えば、水溶液、油剤、乳液、懸濁液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤、粉末、顆粒、カプセル、マイクロカプセル、固形等の固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏、硬膏、ハップ剤、エアゾール剤、坐剤、注射剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、シロップ剤、トローチ剤等の種々の剤型とすることができる。これらを身体に塗布、貼付、噴霧、飲用等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、ローション剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤等が皮膚外用剤に適している。
【0049】
化粧料としては、化粧水、乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップクリーム、乳液状又はクリーム状あるいは軟膏型のファンデーション、口紅、アイカラー、チークカラーといったメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション等の身体用化粧料、入浴剤等とすることができる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[試薬の調製]
生化学用試薬グレードのジメチルスルホキシド(DMSO;和光純薬)、エタノール(99.5容量/容量%;和光純薬)、レチノイン酸(all−trans−レチノイン酸;和光純薬)、レチノール(all−trans−レチノール、和光純薬)、シリマリン(Silymarin group;シグマ−アルドリッチ)、イソケルシトリン(Isoquercitrin;EXTRASYNTHESE S.A.)、スチルベン(trans−Stilbene;シグマ−アルドリッチ)、ケンフェロール(Kaempferol;シグマ−アルドリッチ)、ヘスペレチン(Hesperetin;シグマ−アルドリッチ)、大 豆レチチン(Soyasaponin;和光純薬)およびけい皮酸(trans−Cinnamic acid;シグマ−アルドリッチ)を使用した。レチノイン酸をDMSOにより100μMに溶解し、終濃度100nMで処理した。レチノールをDMSOにより250μMに溶解し、終濃度250nMで処理した。シリマリン、イソケルシトリン、スチルベンおよび大豆レシチンをDMSOにより10mg/mlに溶解し、終濃度10μg/mlで処理した。ヘスペレチンをエタノールにより1mg/mlに溶解し、終濃度1μg/mlで処理した。ケンフェローおよびけい皮酸をエタノールにより10mg/mlに溶解し、終濃度10μg/mlで処理した。
【0051】
[正常ヒト表皮角化細胞の培養]
胎児由来正常ヒト表皮角化細胞;NHEK(旭テクノグラス)を表皮角化細胞用培地;KGM(旭テクノグラス)で37℃−5%COインキュベーターにて培養した。KGMは、表皮角化細胞基礎培地にヒト上皮細胞増殖因子(0.1ng/ml)、インシュリン(5.0μg/ml)、ハイドロコルチゾン(0.5μg/ml)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、アンフォテリシンB(50μg/ml)、牛脳下垂体抽出液(2ml)を添加したものである。本実験には継代数が3〜5代の細胞を使用した。
【0052】
[各化合物による表皮角化細胞の形態変化の評価]
NHEKをKGMで5×10/mlとなるように懸濁し、4ml/ウェルで6穴プレートに播種し、24時間培養してプレートに細胞を接着させた。各化合物を添加したKGMを4ml/ウェルで処理し、2日毎に培地交換しながら、8〜10日間培養した。毎日、顕微鏡下で形態観察を行い、DMSOまたはエタノール処理した無処理対照の細胞が分化様の形態変化を示した時点で、写真撮影を行い、培養を終了した。
【0053】
結果を図1に示す。シリマリン、イソケルシトリン、スチルベン、ケンフェロール、ヘスペレチンを処理した場合は、DMSOまたはエタノール処理した無処理対照に比べて、分化様の形態変化が抑制され、増殖様の形態を維持していた。また、ポジティブコントロールとして用いたレチノイン酸およびレチノールも同様に、DMSO処理した無処理対照に比べて、分化様の形態変化が抑制され、増殖様の形態を維持していた。一方、大豆レシチンおよびけい皮酸を処理した場合は、DMSOまたはエタノール処理した無処理対照と同様に、分化様の形態変化を示した。
【0054】
[各化合物による表皮角化細胞の増殖維持作用の評価]
図1に見られるような形態変化を起こしたNHEKをトリプシン処理によりプレートから剥がした後、KGMで2.5×10/mlとなるように懸濁した。細胞懸濁液を2ml/ウェルで24穴プレートに播種し、2日毎に培地交換しながら、8日間培養した。培養後、NHEKをトリプシン処理によりプレートから剥がした後、コールターカウンター(ベックマン・コールター)により細胞数を測定した。各化合物を処理したサンプル数は3で、平均および標準偏差を算出し、グラフ化した。
【0055】
結果を図2に示す。シリマリン、イソケルシトリン、スチルベン、ケンフェロール、ヘスペレチンを処理した場合は、DMSOまたはエタノール処理した無処理対照に比べて細胞増殖率が有意に促進された。また、ポジティブコントロールとしてもちいたレチノイン酸およびレチノールも同様に、DMSO処理した無処理対照に比べて細胞増殖率が有意に促進された。一方、大豆レシチンおよびカテキンを処理した場合は、DMSOまたはエタノール処理した無処理対照と同程度の細胞増殖率であった。
【0056】
以下に、本発明の処方例を示す。
[処方例1]クリーム
下記の処方(単位は質量%)により、クリームを製造した。

〔製法〕上記成分(1)〜(10)を80℃に加熱溶解し油相とする。成分(11)〜(13)を70℃に加熱溶解し水相とする。油相に水相を徐々に加え乳化し、攪拌しながら40℃まで冷却し、さらに30℃まで攪拌冷却してクリームを得た。
【0057】
[処方例2]クリーム
下記の処方(単位は質量%)により、クリームを製造した。

〔製法〕上記成分(1)〜(10)を80℃に加熱溶解し油相とする。成分(11)〜(13)を70℃に加熱溶解し水相とする。油相に水相を徐々に加え乳化し、攪拌しながら40℃まで冷却し、さらに30℃まで攪拌冷却してクリームを得た。
【0058】
[処方例3]錠剤
下記の処方(単位は質量%)により、錠剤を製造した。
(1)シリマリン 20.0
(2)乳糖 65.0
(3)コーンスターチ 14.0
(4)グアーガム 1.0
【0059】
[処方例4]錠剤
下記の処方(単位は質量%)により、錠剤を製造した。
(1)ヘスペレチン 20.0
(2)乳糖 65.0
(3)コーンスターチ 14.0
(4)グアーガム 1.0
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】各化合物による表皮角化細胞の分化様形態変化の抑制作用を示す図である。
【図2】各化合物による表皮角化細胞の増殖維持作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物およびビタミンP類から選ばれる1種または2種以上を含む皮膚老化防止用組成物。
【請求項2】
シリマリン、フラボノール系化合物、スチルベン系化合物またはビタミンP類を含む植物または植物抽出物から選ばれる1種または2種以上を含む皮膚老化防止用組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物を含む表皮細胞分化抑制用組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の組成物を含むターンオーバー遅延予防用または改善用組成物。
【請求項5】
皮膚外用である請求項1〜4のいずれか記載の組成物。
【請求項6】
食品である請求項1〜4のいずれか記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−56035(P2007−56035A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284491(P2006−284491)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【分割の表示】特願2002−255448(P2002−255448)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】