説明

正荷電制御樹脂及び電子写真機能部品用樹脂

【課題】トナーと接触する電子写真機能部品をトナー極性と反するような帯電性にすることができ、メインバインダーとの分散性・相溶性が優れた正荷電制御樹脂を提供する。
【解決手段】本発明は、式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、式(2)及び/又は(3)で示されるアミノ基含有モノマー、及び式(4)で示される水酸基含有モノマーを共重合成分として重合した共重合体からなる正荷電制御樹脂に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式電子写真法において静荷電潜像を可視像とする際に用いる正荷電制御樹脂及び電子写真機能部品用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式電子写真法においては、ブレード、ローラーなどの電子写真機能部品の加圧などにより、トナーと電子写真機能部品表面の摩擦力によってトナーを荷電させてトナーを担持させている。したがって、電子写真機能部品の表面層としては、トナーを正荷電させたい場合には負荷電性の材料を、また、トナーを負荷電させたい場合には正荷電性制御剤の材料を選定する必要がある。前者としてはフッ素系樹脂など、後者としてはナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂などが提案されている。
【0003】
一方で、電子写真機能部品には、ニップ幅の向上、トナーストレスなどを削減するために、ゴム状材料を主基材層とした柔軟なものを用いることが好ましい。しかしながら、柔軟な主基材層を用いた場合、トナーと電子写真機能部品表面の摩擦力だけでは荷電量が少なく、上記のような従来から提案されているフッ素系樹脂、ナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂を用いただけでは良好な画像を得ることが困難である場合もある。
【0004】
前記課題を解決するために、積極的に電子写真機能部品表面層の荷電性の改質を行うことを考え、トナーと接触する電子写真機能部品に荷電制御剤を添加する手段がとられている。最近、正荷電制御剤として、有機溶剤に可溶で現像ローラーや現像スリーブに塗工可能な正荷電制御樹脂を用いる方法が提案されており、現像スリーブに用いる方法が報告されている(例えば特許文献1)。これらはいずれも主として、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとメタクリル酸メチルとの共重合体を正荷電制御樹脂として使用している。
【0005】
また、正荷電制御樹脂のメタクリル酸メチルを炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーに代えて、アミノ基含有モノマーと共重合させることで、より大きな帯電量を与える正荷電制御樹脂となることが知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−005507号公報
【特許文献2】特開2005−194518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された正荷電制御樹脂をそのまま電子写真機能部品に適用しても、荷電性はある程度改善できると期待できる。しかし、近年急速に高性能化が進んでいる電子写真装置に組み込まれる機能部品に対応するためには、その特性についてさらなる改善が望まれている。
【0007】
さらに、特許文献2に記載の正荷電制御樹脂を添加することで電子写真機能部品表面層の荷電性の改質を行うことが十分可能となるが、電子写真機能部品によっては正荷電制御樹脂の添加による物理特性の変化に起因する画像特性の悪化が懸念される場合がある。そのため、より少ない添加量で大きな帯電量を得られる正荷電制御樹脂の開発が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、トナーと接触する電子写真機能部品をトナー極性と反するような帯電性にすることができ、メインバインダーとの分散性・相溶性が優れた正荷電制御樹脂およびそれを含有した電子写真機能部品用樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)、(B)、(C)のいずれかの組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合した共重合体からなる正荷電制御樹脂に関する。
(A):式(1)、式(2)、及び式(4)で示されるモノマー。
(B):式(1)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
(C):式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1以上14以下のフルオロアルキル基、R2、R2a、R2b及びR2cは、各々水素原子またはメチル基を表す。R3a、R3b及びR3cは炭素数1以上7以下の二価の有機基、R4a、R4b、R5a及びR5bは、各々水素原子、炭素数1以上20以下の有機基、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した炭素数4以上20以下の環状構造、あるいは、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む炭素数4〜19の環状構造を表す。)
また、本発明は、ポリウレタンを含有する電子写真機能部品用樹脂において、ポリウレタンの原料であるポリオール成分として前記の正荷電制御樹脂を含有することを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の正荷電制御樹脂は、メインバインダーとの分散性・相溶性に優れ、トナーと接触する電子写真機能部品をトナー極性と反するような帯電性にすることができ、良好な帯電性を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者の検討によれば、(A)、(B)、(C)のいずれかの組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合した共重合体からなる正荷電制御樹脂を用いると、電子写真機能部品の表面層に正荷電制御樹脂を添加した際の効果が顕著に現れることがわかった。
(A):式(1)、式(2)、及び式(4)で示されるモノマー。
(B):式(1)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
(C):式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1以上14以下のフルオロアルキル基、R2、R2a、R2b及びR2cは、各々水素原子またはメチル基を表す。R3a、R3b及びR3cは炭素数1以上7以下の二価の有機基、R4a、R4b、R5a及びR5bは、各々水素原子、炭素数1以上20以下の有機基、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した炭素数4以上20以下の環状構造、あるいは、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む炭素数4以上19以下の環状構造を表す。)
式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、具体的には、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−ヘンイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、5−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,6,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、7−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,8,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、9−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,7,8,8、9,10,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、11−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,7,8,8、9,9,10,10,11,12,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する(以下、同様)。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、共重合成分全体の1〜50質量%であることが好ましい。もし、フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーが1質量%未満となる場合には、帯電量が不充分となる場合があり、50質量%超となる場合にはメインバインダーとの相溶性が低下し易く、帯電量が不充分となる場合があり好ましくない。
【0017】
式(2)で示されるアミノ基含有モノマーとしては、具体的には、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジブチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジエチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジプロピルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジブチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N−ラウリルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N−ステアリルアミノベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
式(3)で示されるアミノ基含有モノマーは、具体的には、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジブチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジエチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジプロピルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジブチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N−ラウリルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N−ステアリルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド等が例示される。なお、「(メタ)アクリルアミド」はメタクリルアミドあるいはアクリルアミドを意味する(以下、同様)。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
前記(A)の組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合する場合、式(2)で示されるアミノ基含有モノマーは、共重合成分全体の2〜99質量%であることが好ましく、10〜98.9質量%がより好ましい。前記(B)の組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合する場合、式(3)で示されるアミノ基含有モノマーは、共重合成分全体の2〜99質量%であることが好ましく、10〜98.9質量%がより好ましい。前記(C)の組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合する場合、式(2)で示されるアミノ基含有モノマーと式(3)で示されるアミノ基含有モノマーの合計は、共重合成分全体の2〜99質量%であることが好ましく、10〜98.9質量%がより好ましい。いずれの場合でも、アミノ基含有モノマー又はその合計が2質量%未満となる場合、99質量%超となる場合のいずれも、帯電量が不充分となる場合がある。
【0020】
式(4)で示される水酸基含有モノマーとしては、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等が例示される。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
式(4)で示される水酸基含有モノマーは、共重合成分全体の0.1〜40質量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の正荷電制御樹脂は、上述のような成分と、それと共重合可能なモノマーとを共重合させることもできる。共重合可能なモノマーとしては、具体的には、フルオロアルキル基、アミノ基、水酸基のいずれをも含有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレンの如きスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ギ酸ビニルの如きビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトンの如きビニルケトン等が挙げられる。共重合可能なモノマーは、帯電量を低下させない範囲で用いればよい。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
共重合可能なモノマーは、共重合成分全体の50質量%を超えない量であることが好ましい。
【0024】
本発明の正荷電制御樹脂を得るための重合方法としては、特に限定されるものではないが、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。反応を容易に制御できる点から溶液重合法が好ましい。溶液重合法で重合する際の溶媒としては、特に限定されるものではないが、キシレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、イソプロピルアルコール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等が用いられる。溶媒とモノマー(共重合成分)の比は、特に限定されるものではないが、溶媒100質量部に対してモノマー30質量部以上400質量部以下で行うのが好ましい。
【0025】
本発明の正荷電制御樹脂を重合するために使用する重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、クミルパーピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
重合開始剤は、モノマー100質量部に対し0.05質量部以上30質量部以下(好ましくは0.1質量部以上15質量部以下)の濃度で用いられる。反応温度としては、特に限定するものではなく、使用する溶媒、開始剤、モノマーに応じて設定することができるが、40℃以上150℃以下で行うのが好ましい。
【0027】
本発明の正荷電制御樹脂のアミノ価は、5mgKOH/g以上350mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上345mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以上340mgKOH/g以下である。正荷電制御樹脂のアミノ価が5mgKOH/g未満となる場合には、帯電量が不充分となる場合があり、350mgKOH/g超となる場合には、メインバインダーとの相溶性が低下し易く、帯電量が不充分となる場合がある。
【0028】
本発明の正荷電制御樹脂の水酸基価は、0.1mgKOH/g以上150mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以上145mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは1mgKOH/g以上140mgKOH/g以下である。正荷電制御樹脂の水酸基が0.1mgKOH/g未満となる場合には、効果が不充分となる場合があり、150mgKOH/g超となる場合にはメインバインダーとの相溶性が不充分となる場合がある。
【0029】
本発明の正荷電制御樹脂の質量平均分子量(Mw)は、2000以上50万以下が好ましく、より好ましくは3000以上30万以下であり、さらに好ましくは5000以上20万以下である。質量平均分子量(Mw)が2000未満となる場合には、経時的にブリードアウトする場合があり、20万超となる場合には、メインバインダーとの相溶性が低下し易い。
【0030】
本発明の正荷電制御樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−100℃以上180℃以下が好ましく、より好ましくは−90℃以上170℃以下であり、さらに好ましくは−80℃以上160℃以下である。ガラス転移温度(Tg)が−100℃未満となる場合には、粘着性が大きく、摩擦係数も大きくなる場合があり、180℃超となる場合には、メインバインダーにおける正荷電制御樹脂の分散状態が不均一な場合がある。
【0031】
本発明の電子写真機能部品用樹脂はポリウレタンを含有する。ポリウレタンとは、ウレタン結合(−NH−COO−)を有する高分子であり、イソシアネート成分(イソシアネート基(−NCO)を有する化合物)とポリオール成分(水酸基(−OH)を有する化合物)の反応によって得られるものである。本発明の電子写真機能部品用樹脂はポリオール成分として本発明の正荷電制御樹脂を含有することを特徴とする。
【0032】
ポリウレタンを構成するイソシアネート成分については、特に制限はなく、汎用であるTDI、MDI、粗製−MDI(ポリメリックMDI)、および変性MDIだけでなく、特殊なイソシアネートを用いても差し支えない。特殊なイソシアネートしては、例えば、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添−XDI、水添−MDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオフェスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロへプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、これらも好適に用いることができる。また、イソシアネートをブロック剤でマスクした構造のブロック型イソシアネートを用いることもできる。ブロック型イソシアネートは、常温では反応せず、ブロック剤が解離する温度まで加熱すると、イソシアネート基が再生する。
【0033】
ポリウレタンを構成するポリオール成分については、本発明の正荷電制御樹脂だけでも構わないが、それと供にポリウレタンの材料として一般的なポリオール成分を用いることもできる。ポリウレタンの材料として一般的なポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、THF−アルキレンオキサイド共重合体ポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物、フォスフェート系ポリオール、ハロゲン含有ポリオール、アジペート系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール、ポリブタジエンポリオール等を好適に用いることができる。本発明の正荷電制御樹脂は、ポリオール成分全体の0.1質量%を下回らない量であることが好ましい。
【0034】
ポリウレタンを構成するイソシアネート成分及びポリオール成分は、OH/NCOが0.02〜50となる質量比で使用することが好ましい。
【0035】
また、ポリウレタン化反応において、反応性を促進または制御するために触媒を使用する場合がある。代表的な触媒としては、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0036】
本発明の電子写真機能部品用樹脂は、ポリウレタン以外の成分を含有してもよい。ポリウレタン以外の成分としては、公知のものがすべて使用可能であるが、例えば、スチレン樹脂(スチレン又はスチレン置換体を含む単重合体又は共重合体)、アクリル樹脂((メタ)アクリル酸エステルを含む単重合体又は共重合体)、塩化ビニル樹脂、スチレン−酢酸ビニル共重合体、ロジン変性マレイン酸樹脂、フエノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。実施例記載のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーA1、A2の構造式、アミノ基含有モノマーB1、B2の構造式、水酸基含有モノマーC1、C2の構造式を以下に示す。
【0038】
【化3】

【0039】
(実施例1)
CCR1の製造
撹拌機、冷却器、温度計および窒素導入管を付した4つ口セパラブルフラスコに、以下の成分を仕込み、撹拌し、窒素下80℃で8時間溶液重合した。
・フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート(A1)12g
・アミノ基含有モノマー:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(B1)35g
・水酸基含有モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(C1)3g
・溶媒:トルエン37.5gおよびエタノール12.5g
・重合開始剤:ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)2.0g
その後、減圧乾燥することで正荷電制御樹脂CCR1を得た。
【0040】
得られたCCR1のアミノ価と水酸基価、質量平均分子量(Mw)、Tgをそれぞれ以下の装置を用いて測定した。
・全自動滴定装置(京都電子工業(株)製AT−510(商品名))
・GPC測定(装置:東ソー(株)製HLC−8120GPC(商品名)、カラム:昭和電工(株)製KF−805L(商品名)×2本)
・DSC測定(セイコーインスツルメンツ(株)製DSC6200(商品名))
結果を表1に示す。
【0041】
傾斜帯電量測定
得られたCCR1 5gとMDI(OH/NCO=1になるように調整)、さらにMEKを加え、サンプル溶液を調製した。そのサンプル溶液を傾斜帯電量測定用のSUS板に均一に塗り、加熱することで測定用試料板を作製した。そして、カスケード式表面帯電量測定装置(東芝ケミカル(株)製)により、帯電量測定を行った(図1)。N/N(22℃、55%RH)環境下、傾斜勾配60度のフッ素樹脂製の台に測定用試料板を固定し、投入口から基準粉体を20秒間流し、測定用試料板の帯電量を測定した(測定点1サンプルにつき3点とり、平均値を帯電量とした)。なお、図1において、1は基準粉体投入口、2は傾斜板(サンプル台)、4は受け皿、5は絶縁版、6はエレクトロメーター、7はメーター接続端子である。
【0042】
まず受け皿4の質量を秤量し、W1〔g〕とした。傾斜勾配60度の傾斜板2に測定用試料板を固定し、基準粉体投入口1から基準粉体3を20秒間落下させた。基準粉体落下後、測定用試料板の電荷をエレクトロメーター6で測定し、Q〔nC〕とした。また、基準粉体落下後の受け皿4全体の質量を秤量し、W2〔g〕とした。傾斜帯電量は次式によって計算した。
【0043】
傾斜帯電量〔nC/g〕=Q/(W2−W1
1サンプルにつき3点とり、平均値を帯電量とした。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2〜5)
CCR2〜5の製造
フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、アミノ基含有モノマー、水酸基含有モノマー、重合開始剤を表1に従って使用した以外は製造例1と同様にして、CCR2〜5を得た。得られたCCR2〜5のアミノ価、水酸基価、Mw、Tgをそれぞれ実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0045】
CCR1の代わりにそれぞれCCR2〜5、表2に記したポリオール、イソシアネートを用いた以外は実施例1と同様にして傾斜帯電量を測定した。なお、実施例5において、CCR5とPPGとの質量比は1:1とした。結果を表2に示す。
【0046】
(比較例1)
ポリオールとしてCCRの代わりにPPGを用いたほかは、実施例1と同様にして傾斜帯電量を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
(他の実施の形態)
本発明の正荷電制御樹脂を実際に、電子写真機能部品に含有せしめて用いる場合には、実機との対応で、その都度、適正な帯電量の調整が必要となる。電子写真機能部品の事例として導電性ローラーを形成し、画像形成装置に利用した。ここでは現像ローラーについての説明であるが、帯電ローラーあるいは転写ローラー等他のローラータイプの部品や、現像ブレード、クリーニングブレードに対しても適用可能である。ここでの画像形成装置は、電子写真方式の、プロセスカートリッジを使用したレーザプリンタであり、現像ローラーを有する現像装置が装着されている。
【0050】
図2は他の実施形態としての現像ローラーの概略を示すもので、(a)は現像ローラーの軸線に沿った概略断面図、(b)は現像ローラーを軸方向からみた図である。この図に示す形態の現像ローラー114は芯金114a上に弾性層114bを形成し、その外周に最外層114cを設けたもので、最外層114cが正荷電制御樹脂含有樹脂からなる。
【0051】
(応用例)
(応用例1)
現像ローラー1の製造
下記の要領で、表面層に本発明の正荷電制御樹脂を含有する現像ローラー1を作製した。
【0052】
外径8mmの芯金(SUM製)を内径16mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、弾性層として液状導電性シリコーンゴム(東レダウシリコーン社製、AskerC硬度35度、体積固有抵抗10×109Ωcm)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分加熱成型した。脱型後、200℃のオーブンで4時間2次加硫を行い、弾性層厚み4mmのローラーを得た。
【0053】
次いで、ウレタン塗料(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)を固形分濃度10質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、ウレタン塗料の固形分100質量部に対して、次の成分を添加した。
・正荷電制御樹脂:CCR1 10質量部
・抵抗調整材:カーボンブラック(商品名:#7360SB、東海カーボン製)50質量部
・表面粗し材:平均粒子径14μmのウレタン粒子(商品名:アートパールC400、根上工業製)6質量部
各成分が十分に分散したものに、硬化剤(変性TDI、商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)をウレタン塗料の固形分100質量部に対して10質量部添加し、攪拌した。得られた塗料を先に成型した弾性層上にディッピングにより乾燥膜厚20μmとなるように塗布し、80℃のオーブンで15分乾燥後、140℃のオーブンで4時間硬化することで被覆層を形成し、現像ローラー1を得た。
【0054】
(応用例2〜5)
CCR1の代わりに、実施例2〜5で製造したCCR2〜5をそれぞれ使用した以外は応用例1と同様に現像ローラー2〜5を製造した。
【0055】
(応用比較例1)
CCR1を、用いなかった以外は、応用例1と同様に現像ローラー6を製造した。
【0056】
現像ローラー1〜6の評価
上記で得られた現像ローラー1〜6を、それぞれ、負帯電性の非磁性トナーからなる一成分現像剤を使用する評価用レーザービームプリンターに取付けた。そして、32.5℃×80%RHの環境下で所定の画像(文字パターン画像)を16000枚、連続的に印刷した後、ドラム上に付着しているトナーのカブリ指数を評価した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
2)白ベタ画像出力中にプリンターを停止し、感光体上に付着したトナーをテープではがし取り、反射濃度計(マクベス社製スペクトロアイ(商品名))にて基準に対する反射率の低下量(%)を測定し、カブリ量とした。応用比較例1のカブリ量を100として、応用例1〜5のカブリ量をカブリ指数とした。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】傾斜帯電量測定に利用した装置の概略図である。
【図2】現像ローラーの基本構成を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基準粉体投入口
2 傾斜板(サンプル台)
3 基準粉
4 受け皿
5 絶縁版
6 エレクトロメーター
7 メーター接続端子
114 現像ローラー
114a 芯金
114b 弾性層
114c 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)、(B)、(C)のいずれかの組合せからなるモノマー群を含む共重合成分を共重合した共重合体からなる正荷電制御樹脂。
(A):式(1)、式(2)、及び式(4)で示されるモノマー。
(B):式(1)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
(C):式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で示されるモノマー。
【化1】

(式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1以上14以下のフルオロアルキル基、R2、R2a、R2b及びR2cは、各々水素原子またはメチル基を表す。R3a、R3b及びR3cは炭素数1以上7以下の二価の有機基、R4a、R4b、R5a及びR5bは、各々水素原子、炭素数1以上20以下の有機基、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した炭素数4以上20以下の環状構造、あるいは、R4a及びR5a又はR4b及びR5bが化学的に結合した、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む炭素数4以上19以下の環状構造を表す。)
【請求項2】
該共重合体が、5mgKOH/g以上350mgKOH/g以下のアミノ価、0.1mgKOH/g以上150mgKOH/g以下の水酸基価を有することを特徴とする請求項1に記載の正荷電制御樹脂。
【請求項3】
該共重合体の質量平均分子量(Mw)が、2000以上50万以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の正荷電制御樹脂。
【請求項4】
該共重合体のガラス転移温度(Tg)が、−100℃以上180℃以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の正荷電制御樹脂。
【請求項5】
ポリウレタンを含有する電子写真機能部品用樹脂において、ポリウレタンの原料であるポリオール成分として請求項1乃至4のいずれかに記載の正荷電制御樹脂を含有することを特徴とする電子写真機能部品用樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−133393(P2008−133393A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321630(P2006−321630)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】