説明

歯周病菌増殖抑制剤、口腔衛生品、及び飲食品

【課題】前処理の複雑化を回避可能な原料から得ることのできる歯周病菌増殖抑制剤、口腔衛生品及び飲食品を提供する。
【解決手段】歯周病菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物の原料であるオオバギは、マカランガ・タナリウスとも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹である。オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。この歯周病菌増殖抑制剤は、例えば口腔衛生品及び飲食品に含有させて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病菌増殖抑制剤、並びにそれを含む口腔衛生品及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病菌の感染により発症する歯周病は、歯肉炎、歯周炎、及び咬合性外傷に大別されている。最近では、歯周病が慢性化することで歯周病菌を原因として、呼吸器疾患、心疾患、糖尿病、早産等といった感染症を引き起こすことが知られている。こうした歯周病菌に対する抗菌剤として、カカオマス中に含まれるココア分を有効成分としたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、トウダイグサ科オオバギ属に属するオオバギ(大葉木)の抽出物は抗菌作用を発揮することが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】国際公開第2003/99304号パンフレット
【特許文献2】特開2007−45754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の抗菌剤では、原料のカカオマスを得るためにはカカオ豆を焙煎する工程等が必要である。すなわち、植物由来の原料から得られるととともに、歯周病菌の増殖を抑制することのできる歯周病菌増殖抑制剤であっても、原料の製造工程が複雑なものとなるという問題がある。本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、オオバギ抽出物が歯周病菌の増殖を抑制する作用を発揮することを見出すことでなされたものである。なお、上記特許文献2では、歯周病菌に対するオオバギ抽出物の作用は解明されていない。
【0005】
本発明の目的は、前処理の複雑化を回避可能な原料から得ることのできる歯周病菌増殖抑制剤、口腔衛生品及び飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の歯周病菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の歯周病菌増殖抑制剤において、前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤において、アクチノバシルス(Actinobacillus)属、及び、ポルフィロモナス(Prophyromonas)属の少なくとも一方に含まれる歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明の口腔衛生品は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする。
請求項6に記載の発明の飲食品は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前処理の複雑化を回避可能な植物原料から得ることのできる歯周病菌増殖抑制剤、口腔衛生品及び飲食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物の原料であるオオバギ(大葉木)は、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)である。オオバギは、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などに生育している。また、オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0012】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、二種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。オオバギ抽出物の歯周病菌増殖抑制作用が高まるという観点から、原料には果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、及び分泌物(ワックス等)を含むことが好ましい。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根、及び葉の占める割合は高い。このため、扱いやすいオオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、採取・乾燥後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、又は、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した後に乾燥させた状態として、抽出操作を行うことができる。抽出操作を効率的に行うべく、破砕した原料を用いることが好ましい。こうした破砕には、例えばカッター、裁断機、クラッシャー等を用いることができる。破砕した原料の形状は、特に限定されず、例えば三角形状、四角形状等の多角形状が挙げられる。なお、破砕した原料の寸法は、1辺が1cm程度であることが好ましい。一方、粉砕した原料を調製する際には、例えばミル、クラッシャー、グラインダー等を用いることができる。すり潰した原料を調製する際には、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0013】
上述した原料からオオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。グリセリン又はプロピレングリコールは、歯磨剤、洗口剤等の口腔衛生品において、溶剤、湿潤剤等として配合されることがある。従って、グリセリン又はプロピレングリコールを抽出溶媒として用いたオオバギ抽出液の配合に伴って、口腔衛生品の溶剤、湿潤剤等として、グリセリン又はプロピレングリコールを配合することができるようになる。このように口腔衛生品の製造について効率化を図るという観点から、抽出溶媒はグリセリン又はプロピレングリコールを含むことが好ましい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、オオバギに含まれる有効成分を効率的に抽出できないおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0014】
なお、抽出溶媒中に、有機塩、無機塩、緩衝剤、乳化剤、デキストリン等を溶解させてもよい。
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作、加温等を行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。歯周病菌の増殖の抑制に対して有効に作用する成分は、オオバギに含まれるニムフェオール類である。ニムフェオール類は、水のみに対して不溶の成分であるため、オオバギを例えば熱湯で煮沸することで、ニムフェオール類以外の不必要な侠雑物を効率的に除去することができる。
【0015】
抽出操作の後には固液分離操作が行われることで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の分離法としては、例えばろ過、遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたオオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮してもよい。
【0016】
また、オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。こうした溶媒の除去は、例えば減圧下で加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。
【0017】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物には、ニムフェオール類が含有されている。ニムフェオール類は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を含む。ニムフェオール−A(nymphaeol−A)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-geranylflavanone)である。ニムフェオール−B(nymphaeol−B)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-geranylflavanone)である。ニムフェオール−C(nymphaeol−C)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(3´´´,3´´´-ジメチルアリル)-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(3´´´,3´´´-dimethylallyl)-2´-geranylflavanone)である。
【0018】
オオバギ抽出物の主要な成分は、上述したニムフェオール類であり、こうしたニムフェオール類が歯周病菌の抑制作用に寄与していると推測される。
さらにオオバギ抽出物には、プロポリンAが含有されている。プロポリンA(propolinA)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)である。オオバギ抽出物には、微量成分として、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-ゲラニルフラバノン(イソニムフェオールB:isonymphaeol−B:5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-geranylflavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimetyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-ゲラニルフラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-geranylflavanone)等が挙げられる。なお、オオバギの各部位から抽出された抽出液の中でも、実の部位(ワックスを含む)から抽出された抽出液には、ニムフェオールA,B,C及びイソニムフェオールBが高濃度で含有されている。
【0019】
歯周病菌増殖抑制剤には、その増殖抑制作用を損なわない範囲でオオバギ抽出物以外の成分を含有させてもよい。オオバギ抽出物以外の成分としては、例えば賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、香料、甘味料等が挙げられる。
【0020】
歯周病菌増殖抑制剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤、注射剤等が挙げられる。
【0021】
歯周病菌の感染により発症する歯周病は、歯肉炎、歯周炎、及び咬合性外傷に大別されている。本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、歯周病菌の増殖を抑制することで、歯周病の治療、予防等に使用される。歯周病菌としては、アクチノバシルス(Actinobacillus)属、ポルフィロモナス(Prophyromonas)属、プレボテラ(Prevotella)属、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属等に含まれる歯周病菌が知られている。
【0022】
アクチノバシルス属に含まれる歯周病菌としては、アクチノバシルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)等が挙げられる。
【0023】
ポルフィロモナス属に含まれる歯周病菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Prophyromonas gingivalis)、ポルフィロモナス・アサッカロリティカ(Prophyromonas asaccharolytica)、ポルフィロモナス・エンドドンタリス(Prophyromonas endodontalis)等が挙げられる。
【0024】
プレボテラ属に含まれる歯周病菌としては、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigrescens)、プレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)等が挙げられる。
【0025】
フゾバクテリウム属に含まれる歯周病菌としては、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobaeterium nucleatum)、フソバクテリウム・ネクロフォルム(Fusobacterium necrophorum)、フソバクテリウム・ナビフォルム AA(Fusobacterium naviforme)等が挙げられる。
【0026】
こうした歯周病菌の中でも、アクチノバシルス属、及び、ポルフィロモナス属の少なくとも一方に含まれる歯周病菌は、歯周病の主要な原因菌とされている。本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、アクチノバシルス属、及び、ポルフィロモナス属の少なくとも一方に含まれる歯周病菌の増殖を抑制することで、歯周病の予防及び治療に優れた効果を発揮する。
【0027】
歯周病菌増殖抑制剤は、口腔衛生品、飲食品、医薬品、医薬部外品等として利用される。歯周病菌増殖抑制剤は、歯周組織へ有効成分を接触させ易く、その有効成分を作用が十分に発揮され易いという観点から、口腔衛生品又は飲食品として利用されることが好ましい。
【0028】
本実施形態の口腔衛生品は、上記歯周病菌増殖抑制剤を含有する。口腔衛生品としては、粉歯磨剤、練歯磨剤、液状歯磨剤、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、局所塗布剤、トローチ剤、チューイングガム、デンタルフロス等が挙げられる。このような口腔衛生品は、口腔内の歯周病菌の増殖を抑制することができるため、歯周病の予防及び治療に有効である。こうした口腔衛生品中には、オオバギ抽出物が固形分換算で好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲で含有される。口腔衛生品中におけるオオバギ抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%未満の場合には、歯周病菌の増殖を抑制する作用を高めることが困難となるおそれがある。一方、口腔衛生品中におけるオオバギ抽出物の含有量が固形分換算で10質量%を超える場合には、歯周病菌の増殖を抑制する作用をそれ以上に高めることが困難となる。口腔衛生品には、その形態に応じた基材の他に、必要に応じて乳化剤、溶剤、安定剤等が含有される。
【0029】
本実施形態の飲食品は、飲料品又は食品であって、上記歯周病菌増殖抑制剤を含有する。飲料品としては、炭酸飲料、茶飲料、清涼飲料、酒類、牛乳、コーヒー、フルーツシロップ、ゼリー飲料、栄養ドリンク剤等が挙げられる。炭酸飲料としては、サイダー、レモンスカッシュ、コーラ等が挙げられる。茶飲料としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶等が挙げられる。清涼飲料としては、果汁入り飲料、ミネラルウォーター等が挙げられる。酒類としては、ビール、発泡酒、日本酒、ウイスキー、焼酎、カクテル等が挙げられる。食品としては、ヨーグルト、スープ、カレー、のど飴、キャンディー、クッキー、ケーキ、和菓子、スナック菓子、シロップ等が挙げられる。
【0030】
飲食品は、健康食品、特定保健用食品、健康飲料、栄養補助食品等であってもよい。こうした飲食品中には、オオバギ抽出物が固形分換算で好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲で含有される。飲食品中におけるオオバギ抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%未満の場合には、歯周病菌の増殖を抑制する作用を高めることが困難となるおそれがある。一方、飲食品中におけるオオバギ抽出物の含有量が固形分換算で10質量%を超える場合には、歯周病菌の増殖を抑制する作用をそれ以上に高めることが困難となる。飲食品には、その形態に応じた基材の他に、必要に応じて乳化剤、溶剤、安定剤等が含有される。
【0031】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有している。オオバギ抽出物は、オオバギの抽出操作によって容易かつ効率的に得ることができる。そして本研究者らは、こうしたオオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類が歯周病菌の増殖を抑制する作用を発揮することを見出している。これにより、本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、前処理の複雑化を回避可能な植物原料から得ることができる。
【0032】
(2)オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。このようにオオバギは、その栽培管理に手間がかからない。また、オオバギ抽出物は、植物由来の原料であるため、安全性が高い。従って、本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、歯周病菌の増殖を抑制する作用に加えて、原料の供給、生産性、安全性等についても、優れている。
【0033】
(3)本実施形態の歯周病菌増殖抑制剤は、アクチノバシルス属、及び、ポルフィロモナス属の少なくとも一方に含まれる歯周病菌の増殖を抑制することで、歯周病の予防及び治療に優れた効果を発揮する。
【0034】
(4)本実施形態の口腔衛生品及び飲食品は、上記歯周病菌増殖抑制剤を含むため、前処理の複雑化を回避可能な植物原料から得ることができる。さらに、こうした口腔衛生品及び飲食品は、歯周病菌の増殖を抑制する作用に加えて、原料の供給、生産性、安全性等についても優れている。
【0035】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記歯周病菌増殖抑制剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制するように構成することもできる。すなわち、歯周病菌の増殖を抑制する有効成分は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種であるため、それら有効成分は、オオバギ抽出物を由来とする以外に、例えば沖縄産プロポリス等を由来としてもよい。また例えば、沖縄産プロポリス由来のニムフェオールとオオバギ抽出物由来のニムフェオールとの混合物を有効成分としてもよい。
【0036】
上記有効成分がオオバギ抽出物由来であることにより、上記(2)欄に記載の作用効果を得ることができる。
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0037】
・少なくともニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cを有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制する歯周病菌増殖抑制剤。
・前記オオバギ抽出物が、水と有機溶媒との混合溶媒から抽出されたものである請求項1に記載の歯周病菌増殖抑制剤。
【0038】
・アクチノバシルス・アクチノミセテムコミタンス、及び、ポルフィロモナス・ジンジバリスの少なくとも一方の歯周病菌の増殖を抑制する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤。
【実施例】
【0039】
次に、試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<オオバギ抽出物の調製1>
沖縄県で採集して冷凍したオオバギの生葉を解凍した後に、はさみでその生葉を細かくカットした。カットした生葉30gと、溶媒100mlとをチューブ内に入れ、室温で2週間浸漬させて溶媒抽出を行った後に、ろ過することにより、ろ液としてオオバギ抽出液を採取した。なお、前記溶媒抽出には、エタノールと水とを体積比率でエタノール:水=90:10とした混合溶媒を使用した。次に、オオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、下記のHPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、50質量%であった。なお、このニムフェオールの濃度は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cを合計した濃度を示している。以下においても、ニムフェオールの量は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cの合計量を示している。
【0040】
(HPLC条件)
システム: PDA−HPLCシステム(島津製作所)、LC10ADvpシリーズ、UV;SPD−10Avp、PDA;SPD−M10Avp
カラム : Luna C18 (2.0×250mm)(島津GLC)
溶媒 : A:水(5%酢酸)、B:アセトニトリル(5%酢酸)
溶出条件: 0−20min
(グラジエント溶出;A:B=80:20→A:B=30:70)
20−50min
(グラジエント溶出;A:B=30:70→A:B=0:100)
50−60min(A:B=0:100)
60−75min(A:B=80:20)
流速 : 0.2ml/min
PDA検出:UV190−370nm
UV検出: UV287nm
注入量 : 20μl
温度 : 40℃
この50質量%のサンプルのクロマトグラムを図1に示す。
【0041】
<歯周病菌に対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
以下に示される歯周病菌の菌株1及び菌株2をGAM寒天培地に白金耳を用いて接種した後に、35℃で7日間培養した。
【0042】
菌株1:アクチノバシルス・アクチノミセテムコミタンス(JCM8577)
菌株2:ポルフィロモナス・ジンジバリス(JCM12257)
これにより、増殖したコロニーをGAM寒天培地から白金耳を用いて採取した後、生理食塩水に溶解することで10cfu/mlの接種菌液1及び接種菌液2を調製した。
【0043】
GAM寒天培地にエタノール及び、上記オオバギ抽出物の調製1で得られたオオバギ抽出物を混合することにより、終濃度を以下の値としたブランク培地及び各サンプル培地を調製した。
【0044】
ブランク:エタノール 0.7%
サンプル1:オオバギ抽出物 100ppm
サンプル2:オオバギ抽出物 250ppm
サンプル3:オオバギ抽出物 500ppm
各培地を115℃、15分間の条件で滅菌することにより平板培地を作成した。
【0045】
各平板培地に上記接種菌液1及び接種菌液2を白金耳で塗抹した後、それら平板培地を三菱ガス化学社製嫌気システムにて35℃で7日間培養した。その結果、コロニーの検出が全く認められなかった平板培地についてオオバギ抽出物の濃度を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】

表1の結果から明らかなように、上記オオバギ抽出物の調製1で得られたオオバギ抽出物は菌株1の歯周病菌の発育を250ppmの濃度で阻止することが確認された。また、菌株2の歯周病菌の発育に対しては、100ppmの濃度で阻止することが確認された。なお、こうしたオオバギ抽出物の抗菌活性は、オオバギ抽出物中に含まれるニムフェオール類が有効成分として寄与することで発現されると推測される。オオバギ抽出物中のニムフェオールに換算すると、上記オオバギ抽出物は、菌株1及び菌株2をそれぞれ125ppm及び50ppmの濃度で阻止することができると推定される。こうした結果から、本試験例のオオバギ抽出物は、とくに菌株2の増殖を抑制する作用に優れることがわかる。
【0047】
(実施例2)
<オオバギ抽出物の調製2>
カットした生葉0.2〜0.3gをまず水(95℃)に30分浸漬し、これを濾過した後、溶媒抽出を行った以外は、オオバギ抽出物の調製1と同様の方法にて抽出を行った。
【0048】
カットした生葉30gをまず水(95℃)で30分浸漬し、これを濾過した。濾過した後の残った葉に100%エタノールを添加し、3日間浸漬させて溶媒抽出を行った。この抽出液をろ過してオオバギ抽出液を採取した後、そのオオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。
【0049】
このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、上記のHPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、40質量%であった。
この40質量%のサンプルのクロマトグラムを図2に示す。
【0050】
<歯周病菌に対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
実施例1と同様に抗菌活性試験を実施したところ、実施例2で調製したオオバギ抽出物においても同様の抗菌活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。
【図2】実施例2に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする歯周病菌増殖抑制剤。
【請求項2】
ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有し、歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする歯周病菌増殖抑制剤。
【請求項3】
前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする請求項2に記載の歯周病菌増殖抑制剤。
【請求項4】
アクチノバシルス(Actinobacillus)属、及び、ポルフィロモナス(Prophyromonas)属の少なくとも一方に含まれる歯周病菌の増殖を抑制することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする口腔衛生品。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯周病菌増殖抑制剤を含むことを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137869(P2009−137869A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314796(P2007−314796)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】