説明

歯周組織破壊の抑制・改善剤及びスクリーニング方法

【課題】歯周病の内毒素による歯周組織破壊の詳細なメカニズムを明らかにし、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤及びこれを含有する口腔用組成物、ならびに歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上とからなる歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊に対する抑制・改善剤及びこれを含有する口腔用組成物、ならびに歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、多くの人が罹患しており、特に成人の罹患率は非常に高い。今後老齢化が進む中で歯周病の予防、治療は重要な課題である。この歯周病の主な原因は、歯周ポケットに蓄積する歯垢中の細菌であり、中でも嫌気性のグラム陰性細菌、特にポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)が歯周病原因菌の一つとして注目されている。これらの細菌は、歯周ポケット内に定着、増殖すると、様々な物質を分泌して歯周組織に悪影響を及ぼしている。中でもこれらの菌の内毒素(Lipopolysaccharide:以下LPSと略す場合がある。)は、直接又は間接的に歯周組織に対して炎症を惹起したり、歯槽骨吸収を促進したりすることが確認されており、近年注目されている。
【0003】
これに対して生体側では、白血球等の免疫担当細胞や歯肉線維芽細胞等の歯周組織構成細胞による防御機構により、歯周組織の恒常性を維持しようとする。しかしながら、歯周病が進行すると、この防御機構のバランスが破綻してしまう。すなわち、上記細胞から産生されるサイトカイン、活性酸素、マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase:以下、MMPと略す場合がある。)等のリソソーム酵素が過剰になり、本来は防御作用のために働くべきこれらの酵素が、逆に自己の歯周組織を攻撃し、破壊してしまうと考えられている。
【0004】
従来、歯周病における歯周組織破壊を予防・改善するための有効成分として、ルチン又はその配糖体とクエン酸塩等との併用(特許文献1:特開平7−187974号公報参照)、グリチルレチン酸とタウリン(特許文献2:特開平8−40858号公報参照)、牛膝抽出物と楡白皮抽出物(特許文献3:特開平10−167945公報参照)、ブドウ種子エキス(特許文献4:特開2000−191487号公報、特許文献5:特開2002−29953号公報参照)、ラブデン酸類(特許文献6:特開2005−8574公報参照)等が提案されている。しかしながら、さらに効果の高い歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊に対する抑制・改善剤が望まれている。
【0005】
一方、歯周病の際の歯周組織破壊についての詳細なメカニズムについては明らかになっていない。現状では、歯肉線維芽細胞や免疫担当細胞が感染防御反応のために産生するMMPが歯周組織の主要構成成分であるコラーゲンを分解することが主たる原因と考えられており、歯周組織細胞のMMP産生を阻害することとコラーゲン合成を促進することが歯周病の治療又は進行の予防に有効であるといわれている(特許文献3、4、5参照)。しかしながら、上記文献1〜6に開示された成分は、歯周病の際の歯周組織破壊を、ある程度改善する効果が認められるものの、必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平7−187974号公報
【特許文献2】特開平8−40858号公報
【特許文献3】特開平10−167945公報
【特許文献4】特開2000−191487号公報
【特許文献5】特開2002−29953号公報
【特許文献6】特開2005−8574公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、歯周病の内毒素による歯周組織破壊の詳細なメカニズムを明らかにし、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤及びこれを含有する口腔用組成物、ならびに歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、歯周病の内毒素による歯周病における歯周組織破壊のメカニズム解明の研究を鋭意進めてきた。その結果、LPSで刺激した歯肉線維芽細胞において、LPS無刺激の歯肉線維芽細胞と比較して遺伝子発現が増加あるいは減少する因子群が存在することを知見し、これを利用して精度の高い歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分がスクリーニングできること、このスクリーニング方法を用いて、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、下記発明を提供する。
[1].ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上とからなる歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤。
[2].[1]記載の歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤を含有する口腔用組成物。
[3].歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する口腔用組成物。
[4].コラーゲン発現量の減少を抑制することを特徴とする[3]記載の口腔用組成物。
[5].コラーゲン修飾関連タンパク質発現量の減少を抑制することを特徴とする[3]又は[4]記載の口腔用組成物。
[6].コラーゲン分解関連タンパク質発現量の増加を抑制することを特徴とする[3]、[4]又は[5]記載の口腔用組成物。
[7].歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法。
[8].歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法であって、歯周病菌の内毒素及び被験物質を歯肉線維芽細胞に接触させ、この内毒素で刺激された歯肉線維芽細胞の(A)MMP1、MMP3、MMP10、MMP12、FOSB、FOS及びJUNBからなる群から選ばれるコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子、又は(B)COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL4A1、COL4A3、COL5A1、COL5A2、COL11A1、COL15A1、COL18A1、P4HA1、P4HA2、P4HB、PCOLCE、PLOD2、SERPINH1、BMP1及びADAMTS2からなる群から選ばれるコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量を測定し、この発現量と被験物質を接触させない場合の発現量とを比較し、内毒素の刺激により増加する(A)遺伝子の発現量が減少する物質、又は内毒素の刺激により減少する(B)遺伝子の発現量が増加する物質を、前記歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分として選択するスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊に対して優れた抑制・改善剤を提供することができる。また、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分を選択する簡便で精度の高いスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法について説明する。このスクリーニング方法には、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊メカニズム解明が必須である。このメカニズム解明には、歯周組織破壊モデル評価系を用いて、DNAマイクロアレイ解析による網羅的な遺伝子発現解析を主たる手段として実施した。すなわち、歯周組織のモデルとして歯肉線維芽細胞を用い、歯周病を惹起する薬剤として歯周病の主要原因因子のひとつである、歯周病原菌P.gingivalisのLPSを用いたモデル評価系を作製し、解析を行った。具体的には、LPSで刺激した歯肉線維芽細胞と正常な歯周組織のモデルであるLPS無刺激の歯肉線維芽細胞で発現している遺伝子について、DNAマイクロアレイ解析を用いて網羅的に解析した(DNAマイクロアレイ解析に関しては「DNAマイクロアレイ実践マニュアル」を参照)。その結果、LPSで刺激した歯肉線維芽細胞において、LPS無刺激の歯肉線維芽細胞と比較して遺伝子発現が増加あるいは減少する因子群が存在していた(試験例1参照)。
【0012】
遺伝子発現が増加していたのは、下記遺伝子であった。
MMP1:matrix metalloproteinase1(マトリクスメタロプロテアーゼ1)、GeneID:4312)
MMP3:matrix metalloproteinase3(マトリクスメタロプロテアーゼ3)、(GeneID:4314)
MMP10:matrix metalloproteinase10(マトリクスメタロプロテアーゼ10)、(GeneID:4319)
MMP12:matrix metalloproteinase12(マトリクスメタロプロテアーゼ12)、(GeneID:4321)
FOSB:FBJ murine osteosarcoma viral oncogene homolog B(FBJ マウス オステオサルコーマ ヴァイラル オンゴジーン ホモログ B)、(GeneID:2354)
FOS:v−fos FBJ murine osteosarcoma viral oncogene homolog(v−fos FBJ マウス オステオサルコーマ ヴァイラル オンゴジーン ホモログ)、(GeneID:2253)
JUNB:jun B proto−oncogene(jun B プロト−オンゴジーン)、(GeneID:3726)
【0013】
一方、遺伝子発現が減少していたのは
COL1A1:collagen, type I alpha 1(I型コラーゲンα1)、(GeneID:1277)、
COL1A2:collagen, type I, alpha 2(I型コラーゲンα2)、(GeneID:1278)、
COL3A1:collagen, type III, alpha 1(III型コラーゲンα1)、(GeneID:1281)、
COL4A1:collagen, typeIV alpha 1(IV型コラーゲンα1)、(GeneID:1282)、
COL4A3:collagen, type IV, alpha 3(IV型コラーゲンα3)、(GeneID:1285)、
COL5A1:collagen, type V alpha 1(V型コラーゲンα1)(GeneID:1289)、
COL5A2:collagen, type V alpha 2(V型コラーゲンα2)(GeneID:1290)、
COL11A1:collagen, type XI alpha 1(XI型コラーゲンα1)(GeneID:1301)、
COL15A1:collagen, type XV alpha 1(XV型コラーゲンα1)(GeneID:1306)、
COL18A1:collagen, type XVIII alpha 1(XVIII型コラーゲンα1)(GeneID:80781)、
P4HA1:procollagen−proline,2−oxoglutarate 4−dioxygenase proline 4−hydroxylase,alpha polypeptide I(プロコラーゲン−プロリン,2−オキソグルタレート 4−ジオキシゲナーゼ プロリン 4−ヒドロキシラーゼ、αポリペプチド I)、(GeneID:5033)、
P4HA2:procollagen−proline,2−oxoglutarate 4−dioxygenase proline 4−hydroxylase,alpha polypeptide II(プロコラーゲン−プロリン,2−オキソグルタレート 4−ジオキシゲナーゼ プロリン 4−ヒドロキシラーゼ、αポリペプチド II)、(GeneID:8974)、
P4HB:procollagen−proline,2−oxoglutarate 4−dioxygenase proline 4−hydroxylase,beta polypeptide(プロコラーゲン−プロリン,2−オキソグルタレート 4−ジオキシゲナーゼ プロリン 4−ヒドロキシラーゼ、βポリペプチド)、(GeneID:5034)、
PCOLCE:procollagen C−endpeptidase enhancer(プロコラーゲン C−エンドペプチド エンハンサー)、(GeneID:5118)、
PLOD2:procollagen−lysine,2−oxoglutarate 5−dioxygenase lysine hydroxylase2(プロコラーゲン−リジン,2−オキソグルタレート 5−ジオキシゲナーゼ リジン ヒドロキシラーゼ2)、(GeneID:5352)、
SERPINH1:serine or cysteine proteinase inhibitor, clade H heat shock protein47, member1,collagen binding protein1(セリン又はシステイン プロテイナーゼ インヒビター クレード H ヒートショックプロテイン47,メンバー1,コラーゲン バインディング プロテイン 1)(GeneID:871)、
BMP1:bone morphogenetic protein1(骨形成プロテイン1)、(GeneID:649)、
ADAMTS2:a disintegrin−like and metalloprotease reprolysin type with thrombospondin type 1 motif, 2、(GeneID:9509)であった。
GeneIDは、「NCBI Entrez Gene」での遺伝子IDを表す。
【0014】
発現が増加している遺伝子は、大半がコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子であり、発現が減少している遺伝子は、大半はコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子であった。したがって、歯周病では以下のようなメカニズムにより、歯周組織破壊が亢進することが明らかとなった。
1.内毒素によりコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子の発現量の増加し、歯周組織の分解が促進する。
2.内毒素によりコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量の減少し、歯周組織が脆弱化する。
【0015】
歯周病等の歯周疾患においては、コラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子の発現量が増加し、コラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量が減少する。従って、内毒素の不活性化剤、又はこれらの遺伝子の発現を制御し、正常なレベルに戻すことにより、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を効果的に抑制・改善することができる。
【0016】
このことから、下記物質が歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤として有効である。これらを含有する口腔用組成物にすることができる。口腔用組成物については後述する。
1)内毒素の不活性化剤。
2)内毒素の刺激により増加するコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子、又は内毒素の刺激により減少するコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量を正常レベルに戻す物質。
3)内毒素の刺激により増加する(A)MMP1、MMP3、MMP10、MMP12、FOSB、FOS及びJUNBから選ばれる遺伝子の発現を減少させる物質。
4)内毒素の刺激により減少する(B)COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL4A1、COL4A3、COL5A1、COL5A2、COL11A1、COL15A1、COL18A1、P4HA1、P4HA2、P4HB、PCOLCE、PLOD2、SERPINH1、BMP1及びADAMTS2から選ばれる遺伝子の発現を増加させる物質。
【0017】
本発明の歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法は、歯周病等の歯周疾患において、増加する(A)コラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子、又は減少する(B)コラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量を正常なレベルに戻すことを選択基準とし、歯周病菌の内毒素及び被験物質を歯肉線維芽細胞に接触させ、内毒素で刺激された歯肉線維芽細胞の(A)MMP1、MMP3、MMP10、MMP12、FOSB、FOS及びJUNBからなる群から選ばれるコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子、又は(B)COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL4A1、COL4A3、COL5A1、COL5A2、COL11A1、COL15A1、COL18A1、P4HA1、P4HA2、P4HB、PCOLCE、PLOD2、SERPINH1、BMP1及びADAMTS2からなる群から選ばれるコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量と被験物質を接触させない場合の発現量とを測定することを特徴とする。具体的には、この発現量と被験物質を接触させない場合の発現量とを比較し、内毒素の刺激により増加する(A)遺伝子の発現量が減少する物質、又は内毒素の刺激により減少する(B)遺伝子の発現量が増加する物質を前記歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を、抑制・改善する有効成分として選択するスクリーニング方法である。
【0018】
スクリーニング方法は、歯周病菌の内毒素及び被験物質を歯肉線維芽細胞に接触させる。歯周病菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis:以下、P.g.菌と略す場合がある。)、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(A.actinomycetemcomitans:以下、A.a.菌と略す場合がある。)等が挙げられ、これらから抽出した内毒素であるLPS(Lipopolysaccharide)を用いる。歯肉線維芽細胞は特に限定されないが、ヒト正常歯肉線維芽細胞が好ましい。歯肉線維芽細胞に歯周病菌のLPS及び被験物質を添加し、5%CO2、37℃の条件下で0.5〜72時間培養する。歯周病菌のLPSの添加濃度は104〜107あたり、1〜100μg/mLが好適である。培地等は、歯肉線維芽細胞に通常用いるものを使用する。上述したように、LPSを添加した場合は、LPSを添加しない場合に比べ、上記(A)遺伝子群は発現量が増加し、上記(B)遺伝子群は発現量が減少する。
【0019】
遺伝子発現量の測定には、DNAマイクロアレイ、RT−PCR法を用いた遺伝子発現量の定量法、抗体アレイ、ウエスタンブロッティング等を用いた蛋白質発現量の定量法を用いることができる。本発明においては、培養後の細胞からRNAを抽出し、(A)MMP1、MMP3、MMP10、MMP12、FOSB、FOS及びJUNB、ならびに(B)COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL4A1、COL4A3、COL5A1、COL5A2、COL11A1、COL15A1、COL18A1、P4HA1、P4HA2、P4HB、PCOLCE、PLOD2、SERPINH1、BMP1及びADAMTS2からなる群から選ばれる遺伝子の発現量をDNAマイクロアレイで測定することが好ましい。
【0020】
上記で得られた発現量と被験物質を接触させない場合の発現量とを比較する。具体的には、この比較により、内毒素(LPS)を添加することにより増加した(A)遺伝子群の発現量が減少する結果が得られる物質、又は内毒素(LPS)を添加することにより減少した(B)遺伝子群の発現量が増加する結果が得られる物質を歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分として選択する。
【0021】
この方法により、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善効果を有する物質を、高精度で簡便にスクリーニングすることができる。このスクリーニング方法でスクリーニングされる物質は特に限定されず、例えば、植物抽出物や海藻抽出物、菌由来物質等の天然物、化学合成化合物、遺伝子組み換え産物等が挙げられる。
【0022】
上記スクリーニング方法によって、ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上との組み合わせが、内毒素(LPS)を添加することにより増加した(A)遺伝子群の発現量を減少させ、内毒素(LPS)を添加することにより減少した(B)遺伝子群の発現量を増加させ、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善効果が確認された。ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上との組み合わせは、内毒素の不活性化剤、内毒素(LPS)により増加する(A)遺伝子の発現抑制剤もしくは発現量減少剤、又は内毒素(LPS)により減少する(B)遺伝子の発現促進剤もしくは発現量増加剤としても有用である。また、内毒素(LPS)により増加する(A)遺伝子、内毒素(LPS)により減少する(B)遺伝子の発現制御剤としても有用である。
【0023】
本発明に用いるラクトフェリンは、市販のラクトフェリン、哺乳類(例えば人、牛、羊、山羊、馬等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳等又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等から、常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー)により分離したラクトフェリン、植物(トマト、イネ、タバコ)から生産されたラクトフェリンである。ラクトフェリンは、市販品を使用してもよいし、公知の方法により調製して使用することができる。ラクトフェリンとしては、牛由来のものが好ましい。
【0024】
月見草エキスは、月見草の種子を溶剤で抽出することによって得られ、プロアントシアニジン等のポリフェノールを多く含有する。オールスパイスエキスは、オールスパイスの果実を溶剤で抽出することによって得られる。松樹皮エキスは、ヨーロッパアカマツを原料とし、その樹皮を溶剤で抽出することにより得られ、オイゲニイン等のポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンを多く含有する。これらの植物エキスは、市販品あるいは公知の方法によって得られたものを使用することができる。この場合、抽出に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0025】
前記抽出工程における各種条件は、特に制限されるものではないが、通常、抽出原料と前記抽出溶媒との比率は、質量比で抽出原料:抽出溶媒=1:5〜1:100の範囲が好ましく、抽出処理としては、例えば冷漬、温漬、加熱還流、パーコレーション等が挙げられ、3時間〜2週間、抽出溶媒に浸漬又は撹拌して行うと好適である。なお、抽出pHは、極端な酸性又はアルカリ性でなければ、特に制限はない。溶媒抽出の他に水蒸気蒸留、又は炭酸ガスを臨界状態にして行う超臨界抽出によって得たエキスも同様に利用できる。超臨界抽出では抽出助剤として、ヘキサン、エタノール等を用いることができる。
【0026】
前記抽出溶媒が、水、エタノール、水/エタノール(含水エタノール)等の非毒性の溶媒である場合は、抽出物をそのまま用いてもよく、あるいは希釈液として用いることができる。また、前記抽出物を濃縮エキスとしてもよく、凍結乾燥等により乾燥粉末物にしたり、ペースト状に調製してもよい。なお、他の溶媒を用いた場合は、溶媒を留去後、乾燥分を非毒性の溶媒で希釈して用いることが望ましい。
【0027】
レシチンは、植物や動物、微生物の生体内に広く分布し、それらの生体から抽出分離されて製品とされており、主に、大豆レシチンや卵黄レシチンが市販されている。本発明に用いるレシチンは、特に大豆由来のものが好ましい。
【0028】
本発明の口腔用組成物は、ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上とからなる歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤を含有する。
【0029】
ラクトフェリンの含有量は、口腔用組成物中0.01〜10%(固形分質量%)が好ましく、さらに0.1〜4%(固形分質量%)が好ましい。この範囲で、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善が特に効果的である。月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の含有量は、口腔用組成物中0.01〜10%(固形分質量%)が好ましく、より好ましくは0.1〜4%である。含有量がそれぞれ0.01%に満たないと、満足な効果が得られない場合があり、10%を超えて配合しても効果の向上はなく、香味に問題が生じたり、組成物の安定性に問題が生じる場合がある。
【0030】
口腔用組成物としては、チューインガムが効果的である。その他、練歯磨、液状歯磨、泡状歯磨、洗口剤、塗布剤、トローチ、グミ、キャンディー等の口腔用組成物、錠剤、カプセル剤、粉末剤、ドリンク剤等の内服薬等にすることも可能である。また、その組成物の適用態様、剤型等に応じて、例えば、界面活性剤、洗浄剤、保湿剤、増粘剤、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、油分、アルコール類、高分子物質、防腐剤、包接化合物、酸化防止剤・抗酸化剤、キレート剤、無機粉体、ガムベース、酸味料、軟化剤、着色料、光沢剤、乳化剤、甘味剤、pH調整剤、香料、色素、生薬、糖類、塩類、アミノ酸類、上記以外の薬効成分、抗菌剤、水等を配合することができ、通常の方法で調製することができる。
【0031】
以上のように、本発明にかかる歯周組織破壊の抑制・改善剤は、歯周病における歯周組織破壊の抑制・改善に極めて有効である。また、本発明のスクリーニング方法は、歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分の選択に有効である。
【実施例】
【0032】
以下、試験例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。試験例及び実施例で用いたラクトフェリン、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス、レシチン、ブドウ種子エキスは以下のものを使用した。
【0033】
ラクトフェリン:商品名ラクトフェリン(和光純薬(株)製)
月見草エキス:商品名月見草エキスP(オリザ油化(株)製)
松樹皮エキス:商品名フラバンジェノール((株)東洋新薬製)
レシチン:レシチンFA(ホーネンコーポレーション製)
オールスパイスエキス:オールスパイス果実を乾燥、粉砕して粗末とし、粗末10gをエタノール100mLに浸漬し、室温で5日間抽出した。前記オールスパイス果実粗末をろ別して得られた抽出液を減圧濃縮して抽出エキスを得た。
【0034】
[試験例1]
ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)由来内毒素(LPS)のヒト正常歯肉線維芽細胞(HGF)への影響
(1)方法
75cm2の組織培養用フラスコに、10%牛胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)に懸濁したヒト正常歯肉線維芽細胞(HGF)を播種し(5×105cell/フラスコ)、37℃のCO2インキュベーターで培養した。細胞がコンフルエントになったところで、1%FBS及び1μg/mLのP.gingivalis(ATCC 33277)由来LPSを含むDMEMに移行し、72時間培養した。1%FBSのみを含むDMEMで培養したものを対照とした。培養後、細胞を回収し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)にてRNAを抽出し、GeneChip Human Genome Focus Array(Affymetrix社)を用いて遺伝子発現量の解析を行なった。
【0035】
(2)結果
GeneChip解析結果の中から、コラーゲン代謝に関与する遺伝子のデータを抽出してまとめた。その結果、LPSで刺激した歯肉線維芽細胞において、LPS無刺激の歯肉線維芽細胞と比較して遺伝子発現が増加あるいは減少する因子群が存在していた。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
[試験例2]
75cm2の組織培養用フラスコに、10%牛胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)に懸濁したヒト正常歯肉線維芽細胞(HGF)を播種(5×105cell/フラスコ)した。P.gingivalis由来LPS(1μg/mL)と、ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上とを混合し、この混合物を37℃で30分間インキュベートした。この混合物及び1%FBSを含むDMEMを調製し、細胞がコンフルエントになったところで、HGFに添加した。ラクトフェリン、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンの使用量は、単独の場合は各々1000ppmで、2種以上の場合はそれらの合計が1000ppmとなるように調整した。混合物及び1%FBSを含むDMEM添加から2時間後に、1%FBSを含むDMEMに培地を交換し、さらに18時間培養した。培養後の(A)MMP1、MMP3、(B)COL1A1、COL1A2、P4HA1、P4HA2、P4HB、SERPINH1それぞれの遺伝子発現量をRT−PCR法により測定した。LPS無添加培地で培養した場合の遺伝子発現量、LPS単独添加培地で培養(LPSで刺激)した場合の遺伝子発現量を同様に測定し、内毒素の刺激により増加する(A)遺伝子は式(1)、内毒素の刺激により減少する(B)遺伝子は式(2)に基づいて、発現改善率を算出し、下記評価基準で示した。結果を表2に示す。
【0038】
【数1】

【0039】
基準
◎:遺伝子発現改善率70%以上
○:遺伝子発現改善率50%以上
△:遺伝子発現改善率30%以上
×:遺伝子発現改善率30%未満
【0040】
【表2】

【0041】
培養後の培養上清を回収し、I型コラーゲン量及びMMP−1量をELISA法にて測定した。結果を下記で示す。LPS無添加培地で培養した場合、LPS単独添加培地で培養(LPSで刺激)した場合のI型コラーゲン量及びMMP−1量を同様に測定し、下記式(3)に基づいてコラーゲン量改善率(%)、及び下記式(4)に基づいてMMP−1産生阻害率(%)を算出した。結果を表3,4及び図1,2に示す。
【0042】
【数2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
上記結果から、ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上の組み合わせは、上記遺伝子群の発現を改善することにより、内毒素(LPS)に起因する細胞のコラーゲン合成抑制及びコラーゲン分解促進に対して改善効果が認められた。
【0046】
[処方例1〜32]
本発明の口腔用組成物の処方例を示す。各処方例は組成に従い、各剤型の常法に準じて調製した。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【0053】
【表11】

【0054】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】試験例2におけるコラーゲン量改善率を示すグラフである。
【図2】試験例2におけるMMP−1産生阻害率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンと、月見草エキス、オールスパイスエキス、松樹皮エキス及びレシチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上とからなる歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊の抑制・改善剤を含有する口腔用組成物。
【請求項3】
歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分のスクリーニング方法であって、歯周病菌の内毒素及び被験物質を歯肉線維芽細胞に接触させ、この内毒素で刺激された歯肉線維芽細胞の(A)MMP1、MMP3、MMP10、MMP12、FOSB、FOS及びJUNBからなる群から選ばれるコラーゲン分解に関連する蛋白質の遺伝子、又は(B)COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL4A1、COL4A3、COL5A1、COL5A2、COL11A1、COL15A1、COL18A1、P4HA1、P4HA2、P4HB、PCOLCE、PLOD2、SERPINH1、BMP1及びADAMTS2からなる群から選ばれるコラーゲン合成に関連する蛋白質の遺伝子の発現量を測定し、この発現量と被験物質を接触させない場合の発現量とを比較し、内毒素の刺激により増加する(A)遺伝子の発現量が減少する物質、又は内毒素の刺激により減少する(B)遺伝子の発現量が増加する物質を、前記歯周病菌の内毒素による歯周組織破壊を抑制・改善する有効成分として選択するスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−298913(P2006−298913A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80761(P2006−80761)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】