説明

気相成長装置

【課題】サセプタの面内温度分布の均一化を図りつつ、回転軸の耐久性の低下を抑制する。
【解決手段】成膜室1と、成膜室1内に成膜用の原料ガスを供給するシャワーヘッド7と、成膜室1内において被処理基板3を加熱するヒータ6と、成膜室1内において被処理基板3が載置される回転可能なサセプタ4と、サセプタ4を支持し、サセプタ4に回転力を伝達する回転軸25とを備える。回転軸25は、この回転軸25の軸方向に並んで一体に連結される複数の軸部材51,22,53を含む。複数の軸部材51,22,53の各々は、外径が拡径した継手部51a,22a,22b,53aを有する。複数の軸部材51,22,53のうちの互いに隣接する少なくとも1組の軸部材51,22の継手部51a,22a同士は、この軸部材51,22の材料より熱伝導率の低い材料で形成された側面視平板状の環状部材21を間に挟んで互いに連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板上に薄膜を形成する気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体材料を用いたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、発光ダイオード、半導体レーザ、宇宙用ソーラーパワーデバイス、および、高速デバイスなどが製造されている。
【0003】
MOCVD法においては、トリメチルガリウム(TMG)またはトリメチルアルミニウム(TMA)などの有機金属ガスと、アンモニア(NH3)、ホスフィン(PH3)またはアルシン(AsH3)などの水素化合物ガスとを成膜に寄与する原料ガスとして用いる。
【0004】
MOCVD法は、上記の原料ガスをキャリアガスと共に成膜室内に導入して加熱し、被処理基板上で気相反応させることにより、被処理基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。
【0005】
MOCVD法によって所望の薄膜を形成する際、反応性を有する原料ガスによって被処理基板表面で生起される表面反応は、極めて複雑なメカニズムを有することが知られている。すなわち、原料ガスの温度、流速、圧力、原料ガスに含まれる活性化学種の種類、反応系における残留ガス成分、および、被処理基板の温度など、多数のパラメータが、上記表面反応に寄与する。そのため、MOCVD法でこれらのパラメータを制御して所望の薄膜を形成させることは極めて難しい。
【0006】
MOCVD法において好適な結晶成長を実現するためには、被処理基板を均一な面内温度分布で加熱する必要がある。高精度の加熱温度制御を目的とした気相成長装置を開示した先行文献として、特開2008−171933号公報(特許文献1)および特開2005−302939号公報(特許文献2)がある。
【0007】
特許文献1に記載された半導体製造装置においては、被処理基板を保持する回転可能なサセプタと、サセプタに回転力を伝える回転軸とを備える。回転軸のサセプタに面する先端部には回転軸連結部が配置される。サセプタの回転軸に面する主面の中央部には、連結部材が配置される。回転軸を回転させることにより、連結部材の側面を回転軸連結部の側面が押圧してサセプタを回転させることが可能となるように、回転軸はサセプタの主面の中央部上に配置される。
【0008】
特許文献2に記載された気相成長装置においては、サセプタの熱が熱伝導により反応炉外部へ逃げるのを防止する目的で断熱シャフトを設けている。サセプタ側の下部回転軸のフランジ部と断熱シャフトである上部回転軸のフランジ部とを対向させて連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−171933号公報
【特許文献2】特開2005−302939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
MOCVD法により処理する気相成長装置には、化合物半導体結晶の品質を向上しつつ製造コストを抑えるために、材料の歩留まりおよび処理能力を向上することが求められる。そのため、可能な限り多くの大口径の被処理基板を一括して高品質に処理可能なように、気相成長装置の大型化が図られている。
【0011】
大型の気相成長装置においては、大口径の被処理基板を多く処理するために、被処理基板を載置するサセプタが大型となる。また、処理能力を向上するために、大型のサセプタの中心部から端部まで被処理基板が敷き詰められて処理される。そのため、サセプタの面内温度分布の均一化を図りつつ、大型のサセプタを安定して支持した状態で回転させなければならない。
【0012】
サセプタに回転力を伝達する回転軸は、高温に曝されつつ回転力が繰り返し負荷される。そのため、回転軸の一部が劣化して破損することがある。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、サセプタの面内温度分布の均一化を図りつつ、回転軸の耐久性の低下を抑制できる気相成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に基づく気相成長装置は、成膜室と、成膜室内に成膜用の原料ガスを供給するガス供給部と、成膜室内において被処理基板を加熱するヒータと、成膜室内において被処理基板が載置される回転可能なサセプタと、サセプタを支持し、サセプタに回転力を伝達する回転軸とを備える。回転軸は、この回転軸の軸方向に並んで一体に連結される複数の軸部材を含む。複数の軸部材の各々は、外径が拡径した継手部を有する。複数の軸部材のうちの互いに隣接する少なくとも1組の軸部材の継手部同士は、この軸部材の材料より熱伝導率の低い材料で形成された側面視平板状の環状部材を間に挟んで互いに連結されている。
【0015】
本発明の一形態においては、環状部材が石英で形成されている。
本発明の一形態においては、複数の軸部材が、下端に継手部を有する上部軸部材、両端に継手部を有する中間軸部材、および、上端に継手部を有する下部軸部材からなる。上記1組の軸部材は、上部軸部材および中間軸部材である。
【0016】
本発明の一形態においては、中間軸部材がモリブデンから形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サセプタの面内温度分布の均一化を図りつつ、回転軸の耐久性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】比較例のMOCVD装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るMOCVD装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る気相成長装置および比較例の気相成長装置について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。また、気相成長装置の一例として、縦型シャワーヘッド型のMOCVD装置について説明する。まず、比較例の気相成長装置について図を参照して説明する。
【0020】
(比較例)
図1は、比較例のMOCVD装置の構成を示す断面図である。図1に示すように、MOCVD装置10は、内部が気密に保持される成膜室1を備える。成膜室1は、後述する原料ガスを排気するための排気口1aを下部に有する。また、成膜室1の天井部は、後述するシャワーヘッド7で構成されている。成膜室1の側壁部とシャワーヘッド7とは、Oリング2を間に挟んで気密に連結されている。
【0021】
MOCVD装置10は、成膜室1内において被処理基板3が載置される回転可能なサセプタ4、成膜室1内に成膜用の原料ガスを供給するガス供給部であるシャワーヘッド7、および、成膜室1内において被処理基板3を加熱するヒータ6を備える。また、MOCVD装置10は、サセプタ4を下方から支持し、サセプタ4に回転力を伝達する回転軸15を備える。
【0022】
シャワーヘッド7は、サセプタ4と対向している。シャワーヘッド7の上部は、原料ガスが導入される配管8の一端と接続されている。配管8の他端には、原料ガスを貯蔵した図示しないガスボンベおよびマスフローコントローラなどが接続されている。シャワーヘッド7の下面には、原料ガスを噴出するための複数の開口が設けられている。
【0023】
ヒータ6は、サセプタ4の下方に位置している。本実施形態においては、ヒータ6の面内における複数エリアを個別に加熱可能なマルチゾーンヒータを用いている。ヒータ6の下方および側方には、ヒータ6の熱を反射するリフレクタ11が設けられている。
【0024】
回転軸15は、回転軸15の中心軸がサセプタ4の中心と重なるように、サセプタ4の下方に位置している。回転軸15は、図示しない回転駆動部と連結され、軸中心に回転可能にされている。
【0025】
回転軸15は、回転軸15の軸方向に並んで一体に連結される複数の軸部材を含む。複数の軸部材の各々は、外径が拡径した継手部を有する。比較例に係るMOCVD装置10においては、複数の軸部材は、下端に継手部51aを有する上部軸部材51、両端に継手部52a,52bを有する中間軸部材52、および、上端に継手部53aを有する下部軸部材53からなる。
【0026】
上部軸部材51および下部軸部材53は、たとえば、耐熱鋼で形成されている。中間軸部材52は、約1100℃の温度のN2、H2およびNH3雰囲気下において耐性を有し、耐熱鋼より熱膨張係数および熱伝導率の低い石英で形成されている。
【0027】
上部軸部材51の継手部51aと中間軸部材52の継手部52aとは、図示しないボルトおよびナットにより締結されている。中間軸部材52の継手部52bと下部軸部材53の継手部53aとは、図示しないボルトおよびナットにより締結されている。その結果、上部軸部材51、中間軸部材52および下部軸部材53が一体で連結されている。
【0028】
回転軸15は、ベアリングユニット9により回転可能に支持されている。ベアリングユニット9は、真空環境用の2つのベアリング9aとベアリングホルダ9bとを含む。2つのベアリング9aの各々の内径部に、下部軸部材53が嵌通している。2つのベアリング9aの各々の外径部とベアリングホルダ9bの内径部とが嵌合している。ベアリング9aの耐熱温度は350℃である。
【0029】
上部軸部材51の上端部とサセプタ4の下部とが互いに連結されている。回転駆動部により回転軸15が図中の矢印方向に回転させられることにより、サセプタ4が回転軸15と一緒に回転する。
【0030】
サセプタ4の側面と対向し、かつ、サセプタ4の下方を覆うように筒状部材13が設けられている。筒状部材13の外表面に沿って成膜室1内の原料ガスが排気口1aから排気されるため、回転軸15、ヒータ6およびリフレクタ14などに原料ガスとの反応生成物であるパーティクルが付着することを抑制できる。
【0031】
MOCVD装置10により被処理基板3に薄膜を形成する際には、原料ガスをシャワーヘッド7から成膜室1へ供給する。このとき、サセプタ4を介してヒータ6により被処理基板3を加熱する。ヒータ6の設定加熱温度は1300℃程度とする。加熱された被処理基板3上で化学反応が起こることにより、被処理基板3上に薄膜が形成される。被処理基板3上を通過したガスは、排気口1aから排気される。
【0032】
比較例のMOCVD装置10においては、回転軸15の中間に位置する中間軸部材52が熱伝導率の低い石英で形成されているため、回転軸15を伝わる熱量を低減できる。また、回転軸15が複数の軸部材で構成されていることにより、軸部材同士の間に伝熱抵抗が発生して、回転軸15を伝わる熱量が低減される。
【0033】
そのため、ベアリングホルダ9bの外表面の温度は、176℃程度以下に維持される。このように回転軸15への熱拡散を低減することにより、サセプタ4の中心部における温度低下を抑制して、サセプタ4の面内温度分布の均一化を図れる。
【0034】
しかし、比較例のMOCVD装置10において回転軸15の回転駆動を継続して行なうと、中間軸部材52に破損が発生することがある。これは、中間軸部材52を構成している石英が非常に脆い材料であり、回転駆動の衝撃により亀裂が発生して破損するためである。特に、継手部52a,52bの根元部に応力が集中して破損が発生する。このように、中間軸部材52を石英などの断熱性の高い脆性材料で形成した場合、回転軸15の耐久性が低下する。
【0035】
そこで、本実施形態に係るMOCVD装置20においては、サセプタ4の面内温度分布の均一化を図りつつ、回転軸の耐久性の低下を抑制するために、比較例のMOCVD装置10とは異なる構成を有している。
【0036】
以下、本発明の一実施形態に係る気相成長装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態に係るMOCVD装置20は、回転軸の構成のみ比較例のMOCVD装置10と異なるため、他の構成については説明を繰り返さない。
【0037】
(本実施形態)
図2は、本発明の一実施形態に係るMOCVD装置の構成を示す断面図である。MOCVD装置20においては、複数の軸部材のうちの互いに隣接する少なくとも1組の軸部材の継手部同士が、この軸部材の材料より熱伝導率の低い材料で形成された側面視平板状の環状部材を間に挟んで互いに連結されている。
【0038】
図2に示すように、本実施形態においては、回転軸25を構成する複数の軸部材が、下端に継手部51aを有する上部軸部材51、両端に継手部22a,22bを有する中間軸部材22、および、上端に継手部53aを有する下部軸部材53からなる。
【0039】
上記1組の軸部材は、上部軸部材51および中間軸部材22である。すなわち、上部軸部材51の継手部51aと中間軸部材22の継手部22aとが、環状部材21を間に挟んで、図示しないボルトおよびナットにより互いに締結されている。環状部材21には、ボルトが挿通するための複数の開口が形成されている。その結果、上部軸部材51、中間軸部材22、下部軸部材53および環状部材21が一体で連結されて回転軸25を構成している。
【0040】
中間軸部材22は、約1100℃の温度のN2、H2およびNH3雰囲気下において耐性を有し、耐熱鋼より熱膨張係数が低く、石英より引張強度が高いモリブデンで形成されている。
【0041】
環状部材21は、約1100℃の温度のN2、H2およびNH3雰囲気下において耐性を有し、耐熱鋼およびモリブデンより熱膨張係数および熱伝導率の低い石英で形成されている。
【0042】
本実施形態のMOCVD装置20においては、回転軸25の中間に位置する環状部材21が熱伝導率の低い石英で形成されているため、回転軸25を伝わる熱量を低減できる。また、回転軸25が複数の軸部材および環状部材21で構成されていることにより、軸部材同士、および、軸部材と環状部材21との間に伝熱抵抗が発生する。比較例の回転軸15より回転軸25における界面の数が多い分だけ、この伝熱抵抗は大きくなる。
【0043】
ベアリングホルダ9bの外表面の温度は、232℃程度以下に維持される。比較例に比べてベアリングホルダ9bの外表面の温度が高いのは、環状部材21を比較例の中間軸部材52より薄く形成したためである。
【0044】
このように回転軸25への熱拡散を低減することにより、サセプタ4の中心部における温度低下を抑制して、サセプタ4の面内温度分布の均一化を図れる。
【0045】
また、環状部材21を側面視平板状に形成することにより、継手部のような応力集中部をなくしたことにより、石英で形成されている環状部材21が回転駆動の衝撃により破損することを抑制できる。
【0046】
さらに、本実施形態においては、中間軸部材22をモリブデンで形成しているため、中間軸部材22を石英で形成した場合に比較して、回転駆動の衝撃により中間軸部材22が破損することを抑制できる。
【0047】
このように、環状部材21および中間軸部材22を用いることにより、回転軸25の耐久性の低下を抑制することができる。
【0048】
なお、回転軸25を構成する複数の軸部材、および、環状部材21の材質は上記に限られず、同様の効果を得られるものであればよい。たとえば、上部軸部材51および下部軸部材53の両方をモリブデンで形成してもよい。
【0049】
また、環状部材21を中間軸部材22の継手部22bと下部軸部材53の継手部53aとの間にさらに配置してもよい。
【0050】
上記の構成により、MOCVD装置20は、サセプタの面内温度分布の均一化を図りつつ、回転軸の耐久性の低下を抑制できる。
【0051】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 成膜室、1a 排気口、2 Oリング、3 被処理基板、4 サセプタ、15,25 回転軸、6 ヒータ、7 シャワーヘッド、8 配管、9 ベアリングユニット、9a ベアリング、9b ベアリングホルダ、10,20 MOCVD装置、11,14 リフレクタ、13 筒状部材、21 環状部材、22,52 中間軸部材、22a,22b,51a,52a,52b,53a 継手部、51 上部軸部材、53 下部軸部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室と、
前記成膜室内に成膜用の原料ガスを供給するガス供給部と、
前記成膜室内において被処理基板を加熱するヒータと、
前記成膜室内において被処理基板が載置される回転可能なサセプタと、
前記サセプタを支持し、前記サセプタに回転力を伝達する回転軸と
を備え、
前記回転軸は、該回転軸の軸方向に並んで一体に連結される複数の軸部材を含み、
前記複数の軸部材の各々は、外径が拡径した継手部を有し、
前記複数の軸部材のうちの互いに隣接する少なくとも1組の軸部材の前記継手部同士は、該軸部材の材料より熱伝導率の低い材料で形成された側面視平板状の環状部材を間に挟んで互いに連結されている、気相成長装置。
【請求項2】
前記環状部材が石英で形成されている、請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記複数の軸部材が、下端に前記継手部を有する上部軸部材、両端に前記継手部を有する中間軸部材、および、上端に前記継手部を有する下部軸部材からなり、
前記1組の軸部材は、前記上部軸部材および前記中間軸部材である、請求項1または2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記中間軸部材がモリブデンから形成されている、請求項3に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−105831(P2013−105831A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247452(P2011−247452)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】