説明

気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】ばらつき異常検出に伴うユーザの違和感を低減する。
【課題手段】本発明によれば、1気筒当たりに二つのインジェクタを有する多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。異常検出時に両インジェクタの噴射割合が基準の第1値から検出用の第2値に変更されると共に、噴射割合の第2値から第1値への復帰がアクセルオンと同時に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に係り、特に、多気筒内燃機関において気筒間の空燃比が比較的大きくばらついていることを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に一致させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対し同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。特に自動車用内燃機関の場合、排気エミッションの悪化した車両の走行を未然に防止するため、気筒間空燃比ばらつき異常を車載状態(オンボード)で検出することが要請されており、最近ではこれを法規制化する動きもある。
【0005】
例えば特許文献1に記載の装置では、燃料噴射量をストイキ運転時の噴射量から増大側或いは減少側の何れか一方に変化させ、このときのトルク或いは回転数の変化幅を、気筒間の吸入空気量のばらつきの程度を示す指標値として出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−220133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、1気筒当たりに二つのインジェクタを備える内燃機関が公知である。この場合、ばらつき異常検出の精度を高めるため、両インジェクタの噴射割合を所定の基準値から検出用の値に変更してばらつき異常検出を行うことが考えられる。
【0008】
この場合、検出終了後には噴射割合を検出用の値から基準値に復帰させなければならない。しかしこれらの噴射割合の変更および復帰(これらを総称して切り替えという)は、運転音の変化を伴うため、ユーザに違和感を与える虞がある。
【0009】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みて創案され、その目的は、ばらつき異常検出に伴うユーザの違和感を低減し得る気筒間空燃比ばらつき異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様によれば、
1気筒当たりに二つのインジェクタを有する多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置であって、
異常検出時に両インジェクタの噴射割合を基準の第1値から検出用の第2値に変更すると共に、前記噴射割合の前記第2値から前記第1値への復帰をアクセルオンと同時に行うことを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。
【0011】
好ましくは、前記装置は、アクセルオフの状態で異常検出を実行し、前記噴射割合の復帰を異常検出後のアクセルオンと同時に行う。
【0012】
好ましくは、前記内燃機関が車両に搭載されたものであり、前記装置は、前記車両のアイドル停止中で且つアクセルオフの状態で異常検出を実行し、前記噴射割合の復帰を異常検出後、アクセルオン且つ車両発進と同時に行う。
【0013】
好ましくは、前記装置は、前記噴射割合の変更を車両走行中に行う。
【0014】
好ましくは、前記装置は、前記噴射割合の変更を前記内燃機関のフューエルカットからの復帰と同時に行う。
【0015】
好ましくは、前記装置は、前記噴射割合の変更および復帰の少なくとも一方の際に前記噴射割合を徐変させる。
【0016】
好ましくは、前記装置は、前記噴射割合の変更終了から異常検出開始までの間に所定の待ち時間を設定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ばらつき異常検出に伴うユーザの違和感を低減することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】噴き分け率を設定するためのマップを示す。
【図4】空燃比センサ出力の変動を示すタイムチャートである。
【図5】図4のV部に相当する拡大図である。
【図6】インバランス割合と空燃比変動パラメータの関係を示すグラフである。
【図7】回転変動パラメータを説明するためのタイムチャートである。
【図8】インバランス割合と回転変動パラメータの関係を示すグラフである。
【図9】リッチずれ異常検出の原理を説明するための図である。
【図10】リッチずれ異常検出の原理を説明するための図である。
【図11】本実施形態の第1実施例に係るタイムチャートである。
【図12】本実施形態の第2実施例に係るタイムチャートである。
【図13】本実施形態の第3実施例に係るタイムチャートである。
【図14】本実施形態の第4実施例に係るタイムチャートである。
【図15】本実施形態の第5実施例に係るタイムチャートである。
【図16】本実施形態の第6実施例に係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0020】
図1に本実施形態に係る内燃機関を概略的に示す。図示される内燃機関(エンジン)1は、車両(自動車)に搭載されたV型6気筒デュアル噴射式ガソリンエンジンである。各気筒#1〜#6にそれぞれ二つのインジェクタ、すなわち吸気通路噴射用インジェクタ2と筒内噴射用インジェクタ3とが設けられている。エンジン1は第1のバンク4と第2のバンク5とを有し、第1のバンク4には奇数番気筒すなわち#1,#3,#5気筒が設けられ、第2のバンク5には偶数番気筒すなわち#2,#4,#6気筒が設けられている。#1,#3,#5気筒が第1の気筒群をなし、#2,#4,#6気筒が第2の気筒群をなす。
【0021】
吸気通路噴射用インジェクタ2は、いわゆる均質燃焼を実現するよう、対応気筒の吸気通路特に吸気ポート6内に向けて燃料を噴射する。以下、吸気通路噴射用インジェクタを「PFI」ともいう。他方、筒内噴射用インジェクタ3は、いわゆる成層燃焼を実現するよう、対応気筒の筒内(燃焼室内)に向けて燃料を直接噴射する。以下、筒内噴射用インジェクタを「DI」ともいう。
【0022】
吸気を導入するための吸気通路7は、前記吸気ポート6の他、集合部としてのサージタンク8と、各気筒の吸気ポート6およびサージタンク8を結ぶ複数の吸気マニホールド9と、サージタンク8の上流側の吸気管10とを含む。吸気管10には、上流側から順にエアフローメータ11と電子制御式スロットルバルブ12とが設けられている。エアフローメータ11は吸気流量に応じた大きさの信号を出力する。各気筒には、筒内の混合気に点火するための点火プラグ13が設けられる。
【0023】
排気ガスを排出するための排気通路は、本実施形態の場合、第1のバンク4に対する第1の排気通路14Aと第2のバンク5に対する第2の排気通路14Bとが個別に設置されている。つまり排気系統はバンク毎に独立して2系統ある。両バンクについて排気系統の構成は同じなので、ここでは第1のバンク4についてのみ説明し、第2のバンク5については図中同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
第1の排気通路14Aは、#1,#3,#5の各気筒の排気ポート15と、これら排気ポート15の排気ガスを集合させる排気マニホールド16と、排気マニホールド16の下流端に接続する排気管17とを含む。そして排気管17の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒、すなわち上流触媒18と下流触媒19が直列に設けられている。上流触媒18の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ、即ち触媒前センサ20及び触媒後センサ21が設置されている。これらセンサは排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。このように1気筒群の排気通路の集合部に単一の触媒前センサ20が設置されている。
【0025】
上述のPFI2、DI3、スロットルバルブ12及び点火プラグ13等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100に電気的に接続されている。ECU100は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU100には、図示されるように、前述のエアフローメータ11、触媒前センサ20、触媒後センサ21のほか、エンジン1のクランク角を検出するためのクランク角センサ22、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ23、エンジン1の冷却水の温度を検出するための水温センサ24、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU100は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、PFI2、DI3、スロットルバルブ12及び点火プラグ13等を制御し、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度、点火時期等を制御する。またECU100は、クランク角センサ22の出力に基づきエンジン1のクランク角を検出すると共に、エンジンの回転速度を計算する。ここでエンジンの回転速度としては1分当たりの回転数(rpm)を用いる。
【0026】
触媒前センサ20は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ20の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ20は、排気ガスの空燃比に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.6)であるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0027】
他方、触媒後センサ21は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ21の出力特性を示す。図示するように、排気ガスの空燃比がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ21の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1(V))内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0028】
上流触媒18及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx、HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0029】
そこで上流触媒18に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、通常運転時、空燃比制御(ストイキ制御)がECU100により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ20によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるように燃料噴射量を制御する主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ21によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるように燃料噴射量を制御する補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
【0030】
このような空燃比制御はバンク毎に行われる。すなわち、第1のバンク4側の触媒前センサ20および触媒後センサ21の出力に基づいて、第1のバンク4に属する#1,#3,#5気筒の空燃比制御が行われる。他方、第2のバンク5側の触媒前センサ20および触媒後センサ21の出力に基づいて、第2のバンク5に属する#2,#4,#6気筒の空燃比制御が行われる。但し同一バンク内の各気筒に対しては同一の補正量および燃料噴射量が用いられる。あたかも直列3気筒エンジンが二つあるかの如く空燃比制御が行われる。
【0031】
また本実施形態では、1気筒で1噴射サイクル中に噴射される全燃料噴射量を所定の噴き分け率αに応じてPFI2及びDI3に分担させる噴き分けが行われる。このときECU100は、噴き分け率αに応じて、PFI2から噴射される燃料量(ポート噴射量という)と、DI3から噴射される燃料量(筒内噴射量という)とを設定し、これら燃料量に応じて各インジェクタ2,3を通電制御する。
【0032】
噴き分け率αは、ここでは全燃料噴射量に対するポート噴射量の比をいい、0〜1の値を持つ。全燃料噴射量をQtとした場合、ポート噴射量Qpはα×Qtで表され、筒内噴射量Qdは(1−α)×Qtで表される。PFI2とDI3、もしくはポート噴射量Qpと筒内噴射量Qdの噴射割合はQp:Qd=α:(1−α)(%)である。このように噴き分け率αは、PFI2とDI3、もしくはポート噴射量Qpと筒内噴射量Qdの噴射割合を規定する。全燃料噴射量はECU100によりエンジン運転状態(例えばエンジン回転数と負荷)に基づいて設定される。
【0033】
図3に、噴き分け率αを設定するためのマップを示す。図示するように、噴き分け率αは、エンジン回転数Neと負荷KLで規定される各領域に応じてα1からα4まで変化する。例えばα1=0、α2=0.35、α3=0.5、α4=0.7であるが、これらの値や領域分けは任意に変更可能である。この例では、低回転高負荷側に向かうほどポート噴射量の割合が増加する。またα=α1の領域では噴き分けは行われず筒内噴射のみで燃料が供給される。このようにマップで定まる噴き分け率αおよび噴射割合が基準の第1値としての噴き分け率αおよび噴射割合である。
【0034】
噴き分け率αは、両バンクの各気筒に対し同一の値が用いられる。すなわち噴き分け率αについてはバンク毎の設定はなされない。
【0035】
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒(特に1気筒)のインジェクタが故障し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生したとする。例えば#1気筒が他の#2〜#6気筒よりも燃料噴射量が多くなり、#1気筒の空燃比が他の#2〜#6気筒の空燃比よりも大きくリッチ側にずれる場合等である。このとき、#1気筒を含む第1のバンク4について、前述のストイキ制御により比較的大きな補正量を与えれば、トータルガスの空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#3,#5気筒がストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
【0036】
図4は、本実施形態とは異なる直列4気筒エンジンにおける触媒前センサ出力の変動を示す。なおここでの例が本実施形態の如きV型6気筒エンジンにも適用し得ることが理解されよう。
【0037】
図示するように、触媒前センサによって検出される排気空燃比A/Fは、1エンジンサイクル(=720°CA)を1周期として周期的に変動する傾向にある。そして気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル内での変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス割合でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス割合でリッチずれの場合を示す。見られるように、ばらつき度合いが大きくなるほど空燃比変動の振幅が大きくなる。本実施形態のようなV型6気筒エンジンでも、片バンクについて同様の傾向がある。
【0038】
ここでインバランス割合(%)とは、気筒間空燃比のばらつき度合いを表すパラメータである。即ち、インバランス割合とは、全気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量即ち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス割合をIB、インバランス気筒の燃料噴射量をQib、バランス気筒の燃料噴射量即ち基準噴射量をQsとすると、IB=(Qib−Qs)/Qsで表される。インバランス割合IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
【0039】
[気筒間空燃比ばらつき異常検出]
上記の説明から理解されるように、空燃比ばらつき異常が発生すると触媒前センサ出力の変動が大きくなる。そこでこの出力変動に基づいてばらつき異常を検出することが可能である。
【0040】
ここで、ばらつき異常の種類としては、1気筒の燃料噴射量がリッチ側(過剰側)にずれているリッチずれ異常と、1気筒の燃料噴射量がリーン側(過少側)にずれているリーンずれ異常とがある。本実施形態では、リッチずれ異常を触媒前センサ出力変動に基づいて検出し、リーンずれ異常は後述の方法によりエンジン回転変動に基づいて検出する。但し、リッチずれ異常およびリーンずれ異常を区別せず、広くばらつき異常を触媒前センサ出力変動およびエンジン回転変動の少なくとも一方に基づいて検出してもよい。
【0041】
リッチずれ異常の検出に際しては、触媒前センサ出力の変動度合いに相関するパラメータである空燃比変動パラメータを算出すると共に、この空燃比変動パラメータを所定の異常判定値と比較して異常を検出する。ここで異常検出はバンク毎に、対応する空燃比センサである触媒前センサ20の出力を用いて行う。
【0042】
以下、空燃比変動パラメータの算出方法を説明する。図5は、図4のV部に相当する拡大図であり、特に1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の変動を示す。触媒前センサ出力としては、触媒前センサ20の出力電圧Vfを空燃比A/Fに換算した値を用いる。但し触媒前センサ20の出力電圧Vfを直接用いることも可能である。
【0043】
(B)図に示すように、ECU100は、1エンジンサイクル内において、所定のサンプル周期τ(単位時間、例えば4ms)毎に、触媒前センサ出力A/Fの値を取得する。そして今回のタイミング(第2のタイミング)で取得した値A/Fnと、前回のタイミング(第1のタイミング)で取得した値A/Fn-1との差ΔA/Fnの絶対値を次式(1)により求める。この差ΔA/Fnは今回のタイミングにおける微分値あるいは傾きと言い換えることができる。
【0044】
【数1】

【0045】
最も単純には、この差ΔA/Fnが触媒前センサ出力の変動を表す。変動度合いが大きくなるほど空燃比線図の傾きが大きくなり、差ΔA/Fnが大きくなるからである。そこで所定の1タイミングにおける差ΔA/Fnの値を空燃比変動パラメータとすることができる。
【0046】
但し、本実施形態では精度向上のため、複数の差ΔA/Fnの平均値を空燃比変動パラメータとする。本実施形態では、1エンジンサイクル内において、各タイミング毎に差ΔA/Fnを積算し、最終積算値をサンプル数Nで除し、1エンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。そしてさらに、Mエンジンサイクル分(例えばM=100)だけ差ΔA/Fnの平均値を積算し、最終積算値をサイクル数Mで除し、Mエンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。こうして求められた最終的な平均値を空燃比変動パラメータとし、以下「X」で表示する。
【0047】
触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど空燃比変動パラメータXは大きくなる。そこで空燃比変動パラメータXが所定の異常判定値以上であれば異常ありと判定され、空燃比変動パラメータXが異常判定値より小さければ異常なし、即ち正常と判定される。
【0048】
なお、触媒前センサ出力A/Fは増加する場合と減少する場合とがあるので、これら各場合の一方についてだけ上記差ΔA/Fnあるいはその平均値を求め、これを空燃比変動パラメータとしても良い。特に1気筒のみリッチずれの場合、当該1気筒に対応した排気ガスを触媒前センサが受けた時にその出力が急速にリッチ側に変化(すなわち急減)するので、減少側のみの値をリッチずれ検出のために用いることも可能である。もっとも、これに限定されず、増加側の値のみを用いることも可能である。
【0049】
また、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する如何なる値をも空燃比変動パラメータとすることができる。例えば、1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の最大値と最小値の差(所謂ピークトゥピーク; peak to peak)に基づいて、空燃比変動パラメータを算出することもできる。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど当該差も大きくなるからである。
【0050】
図6には、インバランス割合IBと空燃比変動パラメータXの関係を示す。図示されるように、インバランス割合IBと空燃比変動パラメータXの間には強い相関性があり、インバランス割合IBが増加するほど空燃比変動パラメータXも増加する。ここで図中のIB1は、前記異常判定値に相当するインバランス割合IBの値であり、例えば60(%)である。
【0051】
次に、リーンずれ異常の検出について説明する。この検出に際しては、エンジン回転速度の変動度合いに相関するパラメータである回転変動パラメータを算出すると共に、この回転変動パラメータを所定の異常判定値と比較して異常を検出する。この場合、異常検出はいずれのバンクであるかを問わず、単に検出されたエンジン回転速度の変動に基づいて行う。
【0052】
図7において、(a)はクランク角(°CA)、(b)は30°CA時間T30(s)、(c)は回転変動パラメータYの変化を示す。図示例は通常の直列4気筒エンジンの例であるが、以下の説明により本実施形態のようなV型6気筒エンジンにも適用可能であることが理解される。点火順序は#1、#3、#4、#2の各気筒順である。図中、「正常」とは、いずれの気筒にも空燃比ズレが生じていない場合を示し、「リーンずれ異常」とは、#1気筒のみにインバランス割合IB=−30(%)のリーンずれ異常が生じている場合を示す。
【0053】
30°CA時間T30とは、クランクシャフトが30°CA回転するのに要した時間のことをいう。30°CA時間T30が長い(大きい)ほど回転速度は遅い。回転変動パラメータYとは、今回点火気筒TDC(圧縮上死点)と前回点火気筒TDCとの間の30°CA時間T30の差のことをいう。なお、ここではクランクシャフトの回転角として30°CAを挙げているが、この値は任意であり、他の値(例えば10°CA)に変更可能である。
【0054】
まずリーンずれ異常の場合に着目する。図示例では#1気筒にリーンずれ異常が生じているので、(b)に示すように、#1気筒を点火しても燃焼が悪化し、トルクが十分出ず、その後の30°CA時間T30が長くなっている。これに対応して、#1気筒TDCと#3気筒TDCとの間の30°CA時間T30の差は大きく、(c)に示す回転変動パラメータYの値は大きくなっている。
【0055】
これに対し、#1以外の気筒、例えば#3気筒の場合は正常であるので、(b)に示すように、#3気筒TDCと#4気筒TDCとの間の30°CA時間T30の差は小さく、(c)に示す回転変動パラメータYの値も小さくなっている。
【0056】
次に正常の場合に着目すると、いずれの気筒も正常であるので、気筒間の燃焼バラツキは少なく、(b)に示すように、前回点火気筒TDCと今回点火気筒TDCとの間の30°CA時間T30の差はいずれも小さくほぼ一定で、(c)に示す回転変動パラメータYの値も常に小さくほぼゼロ付近である。
【0057】
従って、かかる回転変動パラメータYを所定の異常判定値と比較することでリーンずれ異常を検出することが可能である。本実施形態では、ある気筒の回転変動パラメータYが異常判定値以上となっている場合、当該気筒にリーンずれ異常が生じている旨判定する。そして全気筒の回転変動パラメータYが異常判定値より小さい場合、リーンずれ異常が生じている気筒はなく、正常である旨判定する。
【0058】
図8には、インバランス割合IBと回転変動パラメータYの関係を示す。図示されるように、インバランス割合IBと回転変動パラメータYの間には強い相関性があり、インバランス割合IBが減少(マイナス側に増加)するほど回転変動パラメータYは増加する。ここで図中のIB2は、前記異常判定値に相当するインバランス割合IBの値であり、例えば−30(%)である。
【0059】
ところで、ばらつき異常検出、例えば空燃比変動パラメータXを用いたリッチずれ異常検出に際しては、噴き分け率αを図3のマップから定まる基準値から変更しなければならない場合がある。本実施形態のようなデュアル噴射式エンジンの場合、仮に噴き分け率αが小さいと、筒内噴射量に対してポート噴射量が相対的に少なくなる。よってPFI2にリッチずれ異常が生じている場合であっても、その影響がトータルの噴射量にそれほど反映されず、空燃比変動がそれほど大きくならないからである。
【0060】
従ってこの場合には、噴き分け率αをマップから定まる基準値よりも増大する。こうすればPFI2のリッチずれ異常の影響をトータルの噴射量に大きく反映させることができ、空燃比変動を大きくすることができる。
【0061】
以下、図9および図10を用いて本実施形態のリッチずれ異常検出の原理を説明する。なお本実施形態では空燃比変動パラメータXを用い、且つ噴き分け率αを変更して、吸気系の故障等に起因する空燃比ずれ即ち吸気系異常をも検出するようにしている。
【0062】
まず図9の例を説明する。図中左側の状態Iは、噴き分け率αが基準値A=0.4の場合である。また図中右側の状態IIは、噴き分け率αが基準値よりも大きいB=0.8に変更された場合である。状態Iから状態IIに変わると、噴き分け率αは0.4から0.8に変化し、筒内噴射量割合は減少し、ポート噴射量割合は増大する。ここでは仮に、異常判定値Zをインバランス割合20%相当の値として定める。図示される波形は片バンクの触媒前センサ20の出力波形である。すなわちここでは片バンクのみに着目する。
【0063】
図9(a)は、何れの気筒のPFI2およびDI3にも異常が生じておらず、また吸気系にも異常が生じていない正常時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合0%相当の空燃比変動パラメータXAが得られ、状態IIでもインバランス割合0%相当の空燃比変動パラメータXBが得られる。XA<Z且つXB<Zであり、この場合には正常と判定する。
【0064】
図9(b)は、何れの気筒のPFI2およびDI3にも異常が生じていないが、吸気系にインバランス割合50%相当の異常が生じている吸気系異常50%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合50%相当の空燃比変動パラメータXAが得られ、状態IIでもインバランス割合50%相当の空燃比変動パラメータXBが得られる。XA≧Z且つXB≧Zであり、この場合には吸気系異常と判定する。なお状態Iと状態IIとで空燃比変動パラメータXの値が変わらない理由は、PFI2およびDI3が正常なので噴き分け率αの変化の影響を受けないからである。
【0065】
図9(c)は、1気筒のDI3にインバランス割合50%相当の異常が生じており、残りのPFI2およびDI3には異常が生じておらず、吸気系にも異常が生じていないDI異常50%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合30%相当の空燃比変動パラメータXAが得られる。なぜならDI3の噴射割合は(1−0.4)=0.6であり、50%×0.6=30%、つまりDI3の異常の影響が噴き分けの結果減じられてしまうからである。他方、状態IIではインバランス割合10%相当の空燃比変動パラメータXBが得られる。なぜならDI3の噴射割合は(1−0.8)=0.2であり、50%×0.2=10%だからである。XA≧Z且つXB<Zであり、この場合にはDI異常と判定する。
【0066】
図9(d)は、1気筒のPFI2にインバランス割合50%相当の異常が生じており、残りのPFI2およびDI3には異常が生じておらず、吸気系にも異常が生じていないPFI異常50%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合20%相当の空燃比変動パラメータXAが得られる。なぜならPFI2の噴射割合は0.4であり、50%×0.4=20%、つまりPFI2の異常の影響が噴き分けの結果減じられてしまうからである。他方、状態IIではインバランス割合40%相当の空燃比変動パラメータXBが得られる。なぜならPFI2の噴射割合は0.8であり、50%×0.8=40%だからである。XA<Z且つXB≧Zであり、この場合にはPFI異常と判定する。
【0067】
特に、状態Iのまま噴き分け率αを変更(増大)しない場合には、PFI異常を検出することができない。それ故、異常検出時に噴き分け率αを変更する必要がある。
【0068】
次に図10の例を説明する。この例は前記と逆で、噴き分け率が減少させられる。図中左側の状態Iは、噴き分け率αが基準値A=0.4の場合である。また図中右側の状態IIは、噴き分け率αが基準値Aよりも小さいC=0.0の場合、すなわちDI3のみで燃料噴射が行われる場合である。状態Iから状態IIに変わると、噴き分け率αは0.4から0.0に変化し、ポート噴射量割合は減少し、筒内噴射量割合は増大する。ここでは仮に、異常判定値Zをインバランス割合30%相当の値として定める。図示される波形が片バンクの触媒前センサ20の出力波形であり、片バンクのみに着目する点は前記同様である。
【0069】
図10(a)は、何れの気筒のPFI2およびDI3にも異常が生じておらず、また吸気系にも異常が生じていない正常時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合0%相当の空燃比変動パラメータXAが得られ、状態IIでもインバランス割合0%相当の空燃比変動パラメータXCが得られる。XA<Z且つXC<Zであり、この場合には正常と判定する。
【0070】
図10(b)は、何れの気筒のPFI2およびDI3にも異常が生じていないが、吸気系にインバランス割合50%相当の異常が生じている吸気系異常50%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合50%相当の空燃比変動パラメータXAが得られ、状態IIでもインバランス割合50%相当の空燃比変動パラメータXCが得られる。XA≧Z且つXC≧Zであり、この場合には吸気系異常と判定する。
【0071】
図10(c)は、1気筒のDI3にインバランス割合40%相当の異常が生じており、残りのPFI2およびDI3には異常が生じておらず、吸気系にも異常が生じていないDI異常40%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合24%相当の空燃比変動パラメータXAが得られる。なぜならDI3の噴射割合は(1−0.4)=0.6であり、40%×0.6=24%、つまりDI3の異常の影響が噴き分けの結果減じられてしまうからである。他方、状態IIではインバランス割合40%相当の空燃比変動パラメータXCが得られる。なぜならDI3の噴射割合は(1−0.0)=1.0であり、40%×1.0=40%だからである。XA<Z且つXC≧Zであり、この場合にはDI異常と判定する。
【0072】
図10(d)は、1気筒のPFI2にインバランス割合80%相当の異常が生じており、残りのPFI2およびDI3には異常が生じておらず、吸気系にも異常が生じていないPFI異常80%時を示す。この場合、状態Iではインバランス割合32%相当の空燃比変動パラメータXAが得られる。なぜならPFI2の噴射割合は0.4であり、80%×0.4=32%、つまりPFI2の異常の影響が噴き分けの結果減じられてしまうからである。他方、状態IIではインバランス割合0%相当の空燃比変動パラメータXCが得られる。なぜならPFI2の噴射割合は0.0であり、80%×0.0=0%だからである。XA≧Z且つXC<Zであり、この場合にはPFI異常と判定する。
【0073】
特に、状態Iのまま噴き分け率αを変更(減少)しない場合には、DI異常を検出することができない。それ故、異常検出時に噴き分け率αを変更する必要がある。
【0074】
上記の原理に従い、ECU100により、例えば次の方法で片バンクに関するリッチずれ異常と吸気系異常とを検出することができる。
【0075】
ステップS1:噴き分け率αが基準値Aのときの空燃比変動パラメータXAを取得する。
【0076】
ステップS2:噴き分け率αを基準値Aより大きい所定値Bに変更し、このときの空燃比変動パラメータXBを取得する。
【0077】
ステップS3:噴き分け率αを基準値Aより小さい所定値Cに変更し、このときの空燃比変動パラメータXCを取得する。
【0078】
ステップS4:XA,XB,XCを所定の異常判定値Zと比較し、PFI異常、DI異常、吸気系異常および正常のいずれかの判定を行う。この判定は次の通りである。
【0079】
A<Z、XB<Z、XC<Zのときは正常と判定。
【0080】
A≧Z、XB≧Z、XC≧Zのときは吸気系異常と判定。
【0081】
A<Z、XB≧Z、XC<ZのときはPFI異常と判定。
【0082】
A≧Z、XB<Z、XC≧ZのときはDI異常と判定。
【0083】
ステップS5:噴き分け率αを元の基準値Aに復帰して、終了する。
【0084】
このような検出方法を採用することにより、PFI異常、DI異常および吸気系異常を区別して的確に検出することが可能となり、検出精度の向上が図れる。
【0085】
なお、ここでは一律の異常判定値Zを用いたが、XA、XB、XCの種別毎に異常判定値の値を変えても良い。また変更後の噴き分け率αの値は、燃焼安定性、トルク変動およびDI熱保護等の観点から適切に定めるのが好ましい。
【0086】
ところで、上記の如き噴き分け率αの変更および復帰(切り替え)は、運転音の変化を伴うため、ユーザに違和感を与える虞がある。すなわち、PFIとDIではそれぞれのノイズ(騒音)レベルが異なるため、両者の噴射割合が変化すると運転音が変化し、ユーザに違和感を与える虞がある。
【0087】
また、噴き分け率αの切り替えは、吸気ポート内壁における燃料付着量および燃料蒸発量のバランスを変化させ、筒内混合気の空燃比ひいては燃焼状態の一時的な荒れを生じさせる。この荒れにより一時的なトルク変化が生じ、これもユーザに違和感を与える原因となる。
【0088】
そこで本実施形態では、特に噴き分け率αの基準値Aへの復帰に際し、アクセルオンと同時に復帰を行うようにしている。アクセルオンはユーザが自らの意思で行うものであり、アクセルオンと同時にエンジン回転数が上昇し、車両が加速し、他の騒音や振動が発生する。よって噴き分け率αの復帰による運転音やトルクの変化を、他の騒音や振動と紛らわすことができ、ユーザの違和感を低減することができる。
【0089】
ここで、アクセルオンとは、ユーザがアクセル部材としてのアクセルペダルに入力を与えた状態、すなわちアクセルペダルを踏み込んだ状態をいう。これとは逆のアクセルオフとは、ユーザがアクセルペダルに入力を与えてない状態、すなわちアクセルペダルを解放した状態をいう。これらアクセルオンおよびアクセルオフはアクセル開度センサ23により検出される。すなわち、検出されたアクセル開度がゼロのとき、ECU100はアクセルオフと判断し、検出されたアクセル開度がゼロより大きいとき、ECU100はアクセルオンと判断する。アクセルオフからアクセルオンに切り替わったのと同時に、噴き分け率αの基準値Aへの復帰が行われる。
【0090】
図11に、本実施形態の第1実施例に係る異常検出の様子を示す。(A)〜(F)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数、車速、噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。
【0091】
噴き分け率変更指示とは、所定条件成立時にECU100の内部で発生する噴き分け率変更指示信号のことであり、これがオンのとき噴き分け率αが検出用の値Bとされ、これがオフのとき噴き分け率αが基準値Aとされる。異常検出がオンとは異常検出が実行されている状態をいい、異常検出がオフとは異常検出が実行されてない状態をいう。
【0092】
図示例では、アクセルオフの状態で異常検出が実行され、さらにエンジン回転数がアイドル回転数で且つ車速がゼロである車両のアイドル停止中に異常検出が実行されるようになっている。変更指示は図の初期状態からオンであり、従って噴き分け率αも図の初期状態から検出用の値Bとされている。
【0093】
ここで噴き分け率αに関し、例えば基準値Aは図3のマップに従ってα1=0であり、検出用の値Bは1である。この場合、噴き分け率αが基準値Aから検出用の値Bに変更されると、燃料噴射はDI3による筒内噴射100%の状態から、PFI2による吸気通路噴射100%の状態に切り替えられる。すなわちPFI2とDI3の噴射割合は、基準の第1値としての0:100(%)から、検出用の第2値としての100:0(%)に変更される。
【0094】
そして逆に、噴き分け率αが検出用の値Bから基準値Aに復帰されると、燃料噴射はPFI2による吸気通路噴射100%の状態から、DI3による筒内噴射100%の状態に切り替えられる。すなわちPFI2とDI3の噴射割合は、検出用の第2値としての100:0(%)から、基準の第1値としての0:100(%)に復帰される。
【0095】
図示例では、何れかの気筒のPFI2のリッチずれ異常およびリーンずれ異常を検出する目的で、噴き分け率αが検出用の値Bに変更されている。
【0096】
さて、図示例では時刻t1で異常検出が開始され、時刻t2で異常検出が終了されている。一般的にはこの終了と同時に噴き分け率αを基準値Aに復帰させるが、本実施形態では敢えて復帰させず、ユーザによるアクセルオンのタイミングを待つ。そして時刻t3でアクセルオンになったと同時に、変更指示をオフし、噴き分け率αを基準値Aに復帰させる。
【0097】
アクセルオンと同時に、エンジン回転数が上昇し、車両が発進加速する。このときに発生する他の騒音や振動に、噴き分け率復帰による運転音やトルクの変化を紛らわすことで、ユーザの違和感を低減することができる。
【0098】
特に、車両のアイドル停止中には、噴き分け率復帰による運転音やトルクの変化が生じるとこれが目立ち易いが、噴き分け率復帰をアクセルオンに合わせて行うことでこれを目立たなくすることができる。よって車両のアイドル停止中に異常検出を行う場合に本実施形態は極めて有利である。
【0099】
もっとも、異常検出はアイドル停止中のみならず、他の条件下、例えばアクセルオフで低回転(アイドルを含む)且つ低速で車両走行しているような条件下でも実行可能である。この場合にも噴き分け率復帰をアクセルオンと同時に行うことで、噴き分け率復帰による運転音やトルクの変化を目立たなくすることができる。
【0100】
図示例では、図11(F)に実線で示すように、時刻t3において、噴き分け率αを検出用の値Bから基準値Aに瞬間的に(あるいはステップ状に)復帰させている。しかしながら、代替的に、図11(F)に仮想線aで示すように、噴き分け率αを検出用の値Bから基準値Aに徐変(徐々に変化)させるようにしてもよい。
【0101】
前述したように、噴き分け率αの切り替えは、吸気ポート内壁における燃料付着量および燃料蒸発量のバランスを変化させ、筒内混合気の空燃比ひいては燃焼状態の一時的な荒れを生じさせる。図11(F)に実線で示すように、時刻t3において、吸気通路噴射100%の状態から筒内噴射100%の状態に瞬間的に切り替えられると、切り替え直後、吸気ポート内壁に付着していた燃料が蒸発して筒内に入り込み、筒内混合気の空燃比が想定外にリッチ側にずれる。このような空燃比荒れにより一時的なトルク変化が生じ、これもユーザに違和感を与える原因となる。
【0102】
しかし、図11(F)に仮想線aで示すように、噴き分け率αを徐変させれば、かかる空燃比荒れの影響を低減し、これによるユーザへの違和感を抑制ないし防止することができる。このような噴き分け率αの徐変は、後述する別の実施例においても、噴き分け率αの変更および復帰の少なくとも一方の際に実行することが可能である。
【0103】
次に、図12には、本実施形態の第2実施例に係る異常検出の様子を示す。前記同様、(A)〜(F)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数、車速、噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。
【0104】
この第2実施例では、時刻t1で変更指示がオフからオンに切り替わっている。これに伴い、噴き分け率αが基準値Aから検出用の値Bに変更されるが、このとき噴き分け率αは徐変される。そして噴き分け率αの変更終了時点t2において、異常検出が開始される。
【0105】
前述したように、噴き分け率αの切り替えは、吸気ポート内壁における燃料付着量および燃料蒸発量のバランスを変化させ、筒内混合気の空燃比ひいては燃焼状態の一時的な荒れを生じさせる。もし仮に時刻t1において、筒内噴射100%の状態から吸気通路噴射100%の状態に瞬間的に切り替えられたとすると、切り替え直後、PI2から噴射された燃料の一部が吸気ポート内壁に比較的多く付着し、その分筒内への燃料量が不足し、筒内混合気の空燃比が想定外にリーン側にずれる。このような空燃比荒れにより一時的なトルク変化が生じ、これがユーザに違和感を与える虞がある。また、空燃比荒れの結果、筒内の空燃比が暫くの間安定せず、これによって検出精度が低下する虞がある。
【0106】
しかしながら、本実施例のように、噴き分け率αの変更の際に噴き分け率αを徐変させることで、空燃比荒れの影響を低減し、これによるユーザへの違和感や検出精度低下を抑制ないし防止することができる。
【0107】
なお異常検出開始以降は、第1実施例と同様、時刻t3で異常検出が終了され、時刻t4でアクセルオンになったと同時に変更指示がオフされ、噴き分け率αが基準値Aに復帰させられる。
【0108】
次に、図13には、本実施形態の第3実施例に係る異常検出の様子を示す。前記同様、(A)〜(F)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数、車速、噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。
【0109】
この第3実施例では、時刻t1で変更指示がオフからオンに切り替わっている。そしてこれと同時に、噴き分け率αが基準値Aから検出用の値Bに瞬間的に変更され、且つ異常検出が開始されている。
【0110】
このように噴き分け率αを瞬間的に変更すると、前述したような空燃比荒れの影響が懸念される。しかしながら本実施例では、かかる瞬間的な変更の直後に、燃料噴射量の補正を併せて実行することで、空燃比荒れの影響を低減するようにしている。
【0111】
燃料噴射量の補正は次のように実行される。噴き分け率αが基準値Aから検出用の値Bに瞬間的に変更されると、PFI2における燃料噴射量もゼロから所定量(ここではストイキ相当量)に瞬間的に変更される。
【0112】
但し、PFI2による燃料噴射開始前は吸気ポート内壁に燃料が付着していないので、PFI2による燃料噴射開始直後には、PFI2からの噴射燃料のうちの比較的多くの割合が吸気ポート内壁に付着するようになる。そして吸気ポート内壁に付着した燃料は一部蒸発して筒内に入る。この付着と蒸発を複数の噴射サイクルに亘って繰り返すことで、燃料付着量は次第に多くなり、噴射燃料のうちの付着燃料の割合は次第に少なくなり、やがて燃料付着量は実際の燃料噴射量に見合った飽和量に達する。この飽和時点で燃料付着量と燃料蒸発量が平衡に達し、空燃比荒れが解消する。
【0113】
補正制御においては、燃料噴射量およびエンジン運転状態(回転数および負荷)に応じた平衡状態における燃料付着量と、PFI2の燃料噴射量がゼロからストイキ相当量に瞬間的に変化した時点から平衡状態に達するまでの時間(時定数ないし応答時間)とを、予め適合により求めておく。そして、吸気ポート内壁に付着することで不足した筒内流入燃料量を算出し、これを補うように燃料噴射量を増量する。増量量を、時定数の間、1噴射サイクル毎に徐々に一定量または一定割合ずつ減衰させていく。
【0114】
なお、噴き分け率αが検出用の値Bから基準値Aに瞬間的に復帰される逆の場合にも、同様の燃料噴射量補正を実行することが可能である。この場合、燃料噴射量およびエンジン運転状態に応じた平衡状態における燃料付着量と、PFI2の燃料噴射量がストイキ相当量からゼロに瞬間的に変化した時点から、全ての付着燃料が蒸発する平衡状態に達するまでの時間(時定数ないし応答時間)を予め適合により求める。そして、吸気ポート内壁の付着燃料が流入することで過剰となった筒内流入燃料量を算出し、これを補うように燃料噴射量を減量する。減量量を、時定数の間、1噴射サイクル毎に徐々に一定量または一定割合ずつ減衰させていく。
【0115】
このような燃料噴射量の補正を実行すると、図示例の如く、噴き分け率αの瞬間的な変更と同時に即座に異常検出を開始することができる。すなわち、噴き分け率αの変更と同時に異常検出を開始しても、筒内空燃比荒れを抑制するような燃料噴射量補正がなされているので、検出精度の低下が抑制され、検出が実行可能である。従って噴き分け率αの変更開始から検出終了までの時間を短縮することができ、検出機会をより多く確保することが可能である。
【0116】
なお異常検出開始以降は、第1実施例と同様、時刻t2で異常検出が終了され、時刻t3でアクセルオンになったと同時に変更指示がオフされ、噴き分け率αが基準値Aに復帰させられる。燃料噴射量の補正は、公知方法も含め、上記以外の他の方法によっても実行可能である。
【0117】
次に、図14には、本実施形態の第4実施例に係る異常検出の様子を示す。前記同様、(A)〜(F)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数、車速、噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。
【0118】
この第4実施例は図12に示した第2実施例の変形例である。時刻t1で変更指示がオフからオンに切り替わり、これと同時に、噴き分け率αの基準値Aから検出用の値Bへの変更が開始される。この変更に際して、図示例では噴き分け率αが徐変されているが、噴き分け率αを瞬間的に変更してもよい。そして時刻t2で噴き分け率αの変更が終了しているが、この終了時点でも異常検出は未だ開始されない。異常検出が開始されるのは、噴き分け率αの変更終了時点t2から所定時間経過した後の時刻t3である。このように噴き分け率αの変更終了から異常検出開始までの間に所定の待ち時間が設定されている。
【0119】
待ち時間を設定することにより、噴き分け率αの変更に伴う空燃比荒れの影響をさらに低減し、筒内空燃比がより安定した状態で異常検出を実行することができる。そして検出精度を一層向上することができる。
【0120】
待ち時間は、単純に時間で規定してもよいし、所定回数の点火が実行されるまでの時間として規定してもよいし、クランクシャフトの1回転が所定回数実行されるまでの時間として規定してもよい。かかる待ち時間を図13に示した第3実施例に適用してもよい。
【0121】
異常検出開始以降は、時刻t4で異常検出が終了され、時刻t5でアクセルオンになったと同時に変更指示がオフされ、噴き分け率αが基準値Aに復帰させられる。
【0122】
次に、図15には、本実施形態の第5実施例に係る異常検出の様子を示す。前記同様、(A)〜(F)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数、車速、噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。
【0123】
この第5実施例の主な特徴は、車両走行中に噴き分け率αの変更を行う点にある。
【0124】
すなわち、車両走行中の時刻t1でアクセルオンからアクセルオフの状態に切り替わり、これに伴いエンジンおよび車両が減速される。そして変更指示は、時刻t1より後で且つ車速がゼロに達する前の時刻t2で行われる。そしてこの時刻t2で噴き分け率αの変更が開始される。
【0125】
その後は第4実施例と同様、噴き分け率αが基準値Aから検出用の値Bに徐変され、噴き分け率αの変更終了時点t3から所定の待ち時間を経過した後の所定時期t4において、異常検出が開始される。なお図示例において当該時期t4は車速がゼロ、エンジン回転数がアイドル回転数になった時と一致させられている。この後、時刻t5で異常検出が終了され、時刻t6でアクセルオンになったと同時に変更指示がオフされ、噴き分け率αが基準値Aに復帰させられる。
【0126】
車両走行中に噴き分け率αの変更を行うことで、噴き分け率変更による運転音の変化を、走行状態によって変化するロードノイズ、エンジン音および風切り音に紛らわせることができ、また噴き分け率変更によるトルク変化を車両振動に紛らわせることができる。よってユーザの違和感を低減することができる。
【0127】
本実施例において噴き分け率αの変更を開始または実行するタイミングは、車速がゼロより大きく且つ所定値以下であり、またアクセルオフの状態であるタイミングとすることができる。
【0128】
次に、図16には、本実施形態の第6実施例に係る異常検出の様子を示す。前記同様、(A)〜(C)はそれぞれアクセルのオンオフ状態、エンジン回転数および車速を示す。(D)はフューエルカット(F/C)のオンオフ状態を示す。(E)〜(G)はそれぞれ噴き分け率変更指示のオンオフ状態、異常検出のオンオフ状態、および噴き分け率を示す。フューエルカットがオンとはフューエルカットが実行されている状態、すなわち全気筒の燃料噴射が停止されている状態をいう。またフューエルカットがオフとはフューエルカットが実行されていない状態、すなわち全気筒の燃料噴射が実行されている状態をいう。
【0129】
この第6実施例の主な特徴は、エンジンのフューエルカットからの復帰と同時に噴き分け率αの変更を行う点にある。
【0130】
すなわち、車両走行中でエンジン回転数が所定の復帰回転数Ncより高い時刻t1において、アクセルオンからアクセルオフの状態に切り替わると、これと同時にフューエルカットが実行され、エンジンおよび車両が減速される。そしてエンジン回転数が復帰回転数Ncに達したと同時に(t2)、フューエルカットが終了され、フューエルカットからの復帰がなされる。そしてこれと同時に変更指示がオンされ、噴き分け率αの変更が行われる。ここでは噴き分け率αの変更を瞬間的に行い、第2実施例のような徐変も第3実施例のような燃料噴射量補正も行っていないが、これらを行ってもよい。
【0131】
その後、車速がゼロとなり、エンジン回転数がアイドル回転数に達した時点t3で、異常検出が開始される。エンジン回転数が復帰回転数Ncからアイドル回転数に低下するまでの時間(t2〜t3)により、筒内空燃比の荒れが低減され、検出精度向上に有利である。
【0132】
その後、時刻t4で異常検出が終了され、時刻t5でアクセルオンになったと同時に変更指示がオフされ、噴き分け率αが基準値Aに復帰させられる。
【0133】
フューエルカットからの復帰と同時に噴き分け率の変更を行うことで、フューエルカット復帰による全気筒の燃料噴射を、変更後の噴き分け率で最初から開始することができる。よって、噴き分け率の変更自体による運転音およびトルク変化を無くすことができ、ユーザの違和感を低減することが可能である。
【0134】
また、フューエルカットからの復帰時点は、通常図示例のように、車両の走行中である。よって第5実施例と同様の理由によってもユーザの違和感を低減することができる。
【0135】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば本発明はV型以外のエンジン(直列エンジン等)にも適用可能である。エンジンの気筒数、形式、用途等に特に限定はない。前記実施形態では空燃比センサの出力変動に基づくばらつき異常検出と、エンジンの回転変動に基づくばらつき異常検出との両者を実施可能としたが、これに限らず、いずれか一方のみを実施可能としてもよい。
【0136】
上記各実施例の各特徴は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせ可能である。例えば、第2実施例の噴き分け率徐変は第3〜第6実施例に適用可能である。第3実施例に適用した場合、噴き分け率変更時にこれが徐変されると共に燃料噴射量が補正されることとなる。
【0137】
第4実施例の待ち時間は、噴き分け率変更時にこれを徐変させた場合のみならず、瞬間的に変更した場合にも適用可能である。なお第5および第6実施例の図示例(図15,16)において、噴き分け率変更終了から異常検出開始までの間に時間差があるが、この時間差が待ち時間に相当する。
【0138】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0139】
1 内燃機関
2 吸気通路噴射用インジェクタ(PFI)
3 筒内噴射用インジェクタ(DI)
4 第1のバンク
5 第2のバンク
20 触媒前センサ
22 クランク角センサ
100 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1気筒当たりに二つのインジェクタを有する多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置であって、
異常検出時に両インジェクタの噴射割合を基準の第1値から検出用の第2値に変更すると共に、前記噴射割合の前記第2値から前記第1値への復帰をアクセルオンと同時に行うことを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項2】
アクセルオフの状態で異常検出を実行し、前記噴射割合の復帰を異常検出後のアクセルオンと同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項3】
前記内燃機関が車両に搭載されたものであり、
前記車両のアイドル停止中で且つアクセルオフの状態で異常検出を実行し、前記噴射割合の復帰を異常検出後、アクセルオン且つ車両発進と同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項4】
前記噴射割合の変更を車両走行中に行うことを特徴とする請求項2または3に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項5】
前記噴射割合の変更を前記内燃機関のフューエルカットからの復帰と同時に行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項6】
前記噴射割合の変更および復帰の少なくとも一方の際に前記噴射割合を徐変させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項7】
前記噴射割合の変更終了から異常検出開始までの間に所定の待ち時間を設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−202373(P2012−202373A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70177(P2011−70177)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】