説明

水性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】界面活性剤を使用することなく優れた物性が得られるポリオレフィンワックス含有水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部が、下記の一般式(1)を満たす化合物15〜67質量部、水90〜380質量部の存在下、加熱溶解された後、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなることを特徴とする水性樹脂組成物。
一般式(1)
CmH2m+1-(OCH2CH2)n-OH
m :4〜6までの整数、n :1〜4までの整数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系ワックスの水性エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水性ポリオレフィン系ワックスエマルションは、例えば、インキ、接着剤、水性塗料、フロア−ポリッシュ、繊維処理剤、紙処理剤、離型剤等として、単独または他樹脂エマルションと混合して広い分野で利用されている。
【0003】
この水性ポリオレフィン系ワックスエマルションは、機械的に粉砕する方法、高圧で噴射粉砕する方法、細孔より噴霧させる方法、溶剤に溶解後高圧ホモジナイザーにより乳化後、溶剤を除去する方法、ワックスを融点以上に加温後高圧ホモジナイザーにより乳化する方法などで製造されている。
【0004】
しかし、このような製造方法は、特殊な設備を必要とし、また溶剤を除去する工程が必要になるなど、工業的に有用ではない。
【0005】
そこで、従来より、簡便な方法によるエマルションの製造方法として、界面活性剤を含有させる水性樹脂組成物の製造方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2001−253946号公報
【特許文献2】特開2002−69302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の製造方法によって得られる水性樹脂組成物では界面活性剤が含まれているので、これら水性樹脂組成物の乾燥物は、耐水性等の期待する物性が発現しないという不都合を生じる。
【0007】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、界面活性剤を使用することなく優れた物性が得られるポリオレフィンワックス含有の水性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行なった結果、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス、一般式(1)を満たす化合物、水を加温下で混合した後、所定量の塩基性化合物を添加し、樹脂を分散させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部が、下記の一般式(1)を満たす化合物15〜67質量部、水90〜380質量部の存在下、加熱溶解された後、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなる水性樹脂組成物である。
一般式(1)
CmH2m+1-(OCH2CH2)n-OH
m :4〜6までの整数、n :1〜4までの整数
以下本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明に用いられるカルボキシル基含有ポリオレフィンワックスは、例えば、ポリプロピレンワックス、プロピレン- α- オレフィン共重合体ワックス、ポリエチレンワックス、エチレン- α- オレフィン共重合体ワックスから選ばれる少なくとも1種に、α, β- 不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合して得られる。
【0011】
ここで、プロピレン- α- オレフィン共重合体ワックスとは、プロピレンを主体としてこれとα- オレフィンを共重合したワックスである。α- オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1- ペンテンなどの、炭素原子数2または4〜20のα- オレフィンが挙げられる。プロピレン- α- オレフィン共重合体におけるプロピレン含有量は、50モル%以上であることが好ましい。プロピレン成分の含有量が50モル%未満であると、ポリプロピレン基材に対する密着性が悪くなる。
【0012】
また、エチレン- α- オレフィン共重合体ワックスとは、エチレンを主体としてこれとα- オレフィンを共重合したワックスである。α- オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1- ペンテンなどの、炭素原子数3〜20のα- オレフィンが挙げられる。エチレン- α- オレフィン共重合体ワックスにおけるエチレン含有量は、50モル%以上であることが好ましい。エチレン成分の含有量が50モル%未満であると、ポリエチレン基材に対する密着性が悪くなる。
【0013】
ポリオレフィンワックスにグラフト共重合するα, β- 不飽和カルボン酸およびその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸等が挙げられる。これらの中でも無水マレイン酸、無水イタコン酸が好ましい。
【0014】
ポリオレフィンワックスは、酸変性したものであってもよい。この場合、酸変性ポリオレフィンワックスにおけるα, β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物成分の含有量は10〜110mgKOH /g であるのが好ましい。110mgKOH /g を超えると、樹脂の親水性が高くなり、目的組成物から得られる塗膜の耐水性が悪化するおそれがある。一方、10mgKOH /g 未満であると、樹脂の分散が困難になる。
【0015】
ポリオレフィンワックスに、α, β−不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合する方法としては、ラジカル発生剤の存在下で該ポリオレフィンワックスを融点以上に加熱溶融して反応させる方法(溶融法)、該ポリオレフィンワックスを有機溶剤に溶解させた後にラジカル発生剤の存在下に加熱攪拌して反応させる方法(溶液法)などの公知の方法が挙げられる。
【0016】
また、ポリオレフィンワックスは、カルボキシル基を導入するために酸化処理したものであってもよい。この場合、ポリオレフィンワックスにカルボキシル基を導入するために酸化処理する方法としては、該ポリオレフィンワックスを融点以上に加熱溶融した中に、空気、酸素やオゾンを吹き込んで酸化する方法などの公知の方法が挙げられる。
【0017】
酸化処理して得られるカルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基含有量は、10〜110mgKOH /g であるのが好ましい。110mgKOH /g を超えると、樹脂の親水性が高くなり、目的組成物から得られる塗膜の耐水性が悪化するおそれがある。一方、10mgKOH /g 未満であると、樹脂の分散が困難になる。
【0018】
前記カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスの170℃での溶融粘度は、30000mPa ・s 以下であることが好ましい。30000mPa ・s を越えると、樹脂の溶解性が悪いために分散が困難となる。
【0019】
本発明で使用される一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物は、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部に対して、15〜67質量部用いる。15質量部未満であると、樹脂の分散が困難になる。一方、67質量部を越えると、目的組成物を乾燥させるのに高温、長時間が必要になるおそれがある。また、水性媒体に分散させるという本来の目的からずれてしまう。
【0020】
一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物としては、例えば、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert- ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0021】
これら化合物は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
本発明において、酸変性塩素化ポリオレフィンを分散させるには塩基性化合物が必要である。これを系内に存在させることにより、酸変性塩素化ポリオレフィンの分散性を向上させることが可能となる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩基性化合物類、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N- ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、2-アミノ-2- メチル-1- プロパノール、2-ジメチルアミノ-2- メチル-1- プロパノール等のアミン類、アンモニア等が挙げられる。
【0023】
塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量が好ましい。1倍当量未満では、分散が困難になる。また4倍当量を超えると、目的組成物の乾燥物中における残存量が多くなりすぎるおそれがある。
【0024】
ポリオレフィンワックスを分散させる際に使用する水の量は、90〜380質量部用いる。90質量部未満であると、分散が困難になる。一方、380質量部を越えると、目的物を乾燥させるのに高温、長時間が必要となるおそれがある。
【0025】
本発明の水性樹脂組成物は、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部を、一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物15〜67質量部、水90〜380質量部の存在下、加温溶解させた後、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の塩基性化合物を加えて製造される。
【0026】
カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスを、一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物、水の存在下で加温溶解させる場合の温度は90〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
【0027】
次に上記溶解物に塩基性化合物を加し、樹脂を分散する。塩基性化合物を添加する際の温度は90〜160℃が好ましい。
【0028】
塩基性化合物を添加した後、樹脂を十分に分散させるために加温下で攪拌する必要がある。攪拌時の温度は90〜160℃が好ましい。また攪拌時間は30分〜6時間、好ましくは1時間〜4時間である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、界面活性剤を含有していない優れた物性の水性樹脂組成物を提供することができる。また、この水性樹脂組成物は、特殊な装置や煩雑な製造工程を必要とすることなく得ることができ、工業的利用に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
以下において、平均粒子径の測定には、レーザー回折式粒径分布測定機として、マルバーン(MALVERN )社製ゼータサイザーナノZSを用いて行った。
【0032】
製造例1
プロピレン・エチレン共重合体(エチレン成分含有量=3モル%)420g 、無水マレイン酸105g 、ジーtert―ブチルパーオキシド7g 及びトルエン280g を攪拌器を取り付けたオートクレーブ中に加え、窒素置換を約5分行った後、加熱攪拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のアセトン中に投入し樹脂を析出させた。この樹脂を更にアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。これを減圧乾燥することで、カルボキシル基含有量が57mgKOH /g 、170℃での溶融粘度が25800mPa ・s の無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックスを得た。
実施例1(水性樹脂組成物(a)の製造)
攪拌機を備えたオートクレーブに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体ワックス200g、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル36g、脱イオン水400g、をそれぞれ仕込み、120℃に保った状態で2時間撹拌し樹脂を十分溶解させた。この溶液を100℃に冷却後、N,N-ジメチルエタノールアミン23gを加えた。2時間攪拌後冷却することで、樹脂濃度(固形分)が30質量%、平均粒子径が48nmの水性樹脂組成物(a)を得た。
【0033】
実施例2(水性樹脂組成物(b)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が77nmの水性樹脂組成物(b)を得た。
【0034】
実施例3(水性樹脂組成物(c)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、平均粒子径が35nmの水性樹脂組成物(c)を得た。
【0035】
比較例1(水性樹脂組成物(d)の製造)
攪拌機を備えたオートクレーブに製造例1で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス200g、ノニルフェノールエチレンオキサイド11モル付加物(商品名ノイゲンEA- 140、第一工業製薬株式会社製、HLB =14)54g 、48%水酸化カリウム水溶液21g、亜硫酸ナトリウム3g、脱イオン水610gを入れ、150℃まで昇温した。昇温後、1時間撹拌し、室温まで冷却することで樹脂濃度(固形分)が30質量%、平均粒子径が180nmの水性樹脂組成物(d)を得た。
【0036】
比較例2(水性樹脂組成物(e)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、水性樹脂組成物(e)の製造を試みた。しかしながら、酸変性塩素化ポリオレフィンに対するグリコールエーテルの量が少ないために、分散が行えなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
このようにして得られた水性樹脂組成物(a)〜(d)について、以下の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0039】
剥離強度試験
乾燥膜厚が5μm になるように水性樹脂組成物を未処理ポリプロピレンフィルム、未処理ポリエチレンフィルムにそれぞれバーコーターで塗布し、80℃で乾燥後、120℃、1kgf /cm2 にて同じフィルム同士をヒートシールを行い試験片を作製した。この試験片を 20cm/min の引っ張り速度でテンシロンを用いて180°剥離強度を測定した。
【0040】
耐水性
水性樹脂組成物をガラス板に50μm アプリケーターを用いて塗布し、室温にて12時間乾燥させて試験片を作製した。この試験片を60℃の温水に24時間浸したあと、試験片の状態を観察した。
【0041】
貯蔵安定性
水性樹脂組成物80g を容量100mlの容器に入れて密封し、50℃の雰囲気下に2週間放置し、その粘度変化を下記の評価基準で評価した。
【0042】
○;わずかに増粘(初期粘度に対して2倍以下の粘度)
×;増粘(初期粘度に対して2倍以上の粘度上昇)
【0043】
【表2】

【0044】
表2から明らかなように、水性樹脂組成物(a)〜(c)は良好な密着性を示すとともに、耐水性、貯蔵安定性にも優れていることが分かる。
【0045】
これに対し、界面活性剤を含む水性樹脂組成物(d)は密着性、耐水性共に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
ポリプロピレン系ワックスを含有した水性樹脂組成物として、インキ、接着剤、水性塗料、フロア−ポリッシュ、繊維処理剤、紙処理剤、離型剤、各種バインダー等として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部が、下記の一般式(1)を満たす化合物15〜67質量部、水90〜380質量部の存在下、加熱溶解された後、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなることを特徴とする水性樹脂組成物。一般式(1)
CmH2m+1-(OCH2CH2)n-OH
m :4〜6までの整数、n :1〜4までの整数
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスが、ポリオレフィンワックスにα, β- 不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種を10〜110mgKOH /g グラフト共重合してなる酸変性ポリオレフィンワックスであることを特徴とする請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスが、ポリオレフィンワックスを酸価処理することにより10〜110mgKOH /g の酸価を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスの170℃での溶融粘度が30000mPa ・s 以下である請求項1〜3いずれかに記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス100質量部を、一般式(1)を満たす化合物15〜67質量部、水90〜380質量部の存在下、加熱溶解させた後、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の塩基性化合物を加えて得られる水性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−31472(P2007−31472A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212536(P2005−212536)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】