説明

水晶デバイスの製造方法及び水晶デバイス

【課題】数μm以下の厚みの非常に薄い水晶薄膜を安定して製造できる水晶デバイスの製造方法、及びこの製造方法で製造した水晶デバイスを提供する。
【解決手段】水晶単結晶基板1に水素イオンを注入して、表面1Aから一定深さの部分をアモルファス化させて、水晶単結晶基板1内にアモルファス層13A〜13Cを形成する。アモルファス層を形成する深さは、イオンや原子の注入条件(注入エネルギーやドーズ量)により決まり、注入条件に応じて1μm〜数μmの深さにばらつきのない平坦な層が形成される。アモルファス層の側面が露出するように、表面1Aから複数の溝14A〜14Dを形成し、これらの溝にエッチング液を導入してエッチングを行う。水晶のアモルファスは、水晶結晶よりもエッチング速度が速いので、エッチングによりアモルファス層13A〜13Cを除去することで、水晶単結晶基板1から水晶薄膜15A〜15Cが分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水晶の薄膜を用いた水晶デバイス、及びこの水晶デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電体の薄膜を備える圧電デバイスが製造されている。圧電デバイスは使用周波数帯域が高いほど圧電体の薄膜が薄く、薄膜の厚みはMHz帯で100μm以下、GHz帯で数μm以下である。
【0003】
圧電体の薄膜を備える圧電デバイスの製造方法には、半導体基板に接着された水晶基板を研磨加工するものがあった(例えば、特許文献1参照。)。また、LT(LiTaO)基板やLN(LiNbO)基板にイオンを注入してマイクロキャビティを発生させ、加熱によりマイクロキャビティを成長させて圧電単結晶体から圧電薄膜を加熱剥離するものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−327383号公報
【特許文献2】米国特許第6767749号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、特許文献1の段落[0020]に記載されているように、精度よく機械研磨できるのは10μm以上であるため、数μm以下の水晶薄膜を製造すると、厚みがばらついて品質が安定しないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明では、圧電基板として水晶基板を用いると、イオンを注入してもマイクロキャビティが形成されず、水晶基板を加熱しても水晶薄膜が剥離しないので、水晶薄膜が得られないという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、数μm以下の厚みの非常に薄い水晶薄膜を安定して製造できる水晶デバイスの製造方法、及びこの製造方法で製造した水晶デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)この発明の水晶デバイスの製造方法は、アモルファス層形成工程と、分離工程と、を備えている。アモルファス層形成工程は、イオンまたは原子を水晶基板に注入して、水晶基板内にアモルファス層を形成する。分離工程は、アモルファス層をエッチングにより除去して、水晶基板から水晶薄膜を分離する。
【0009】
水晶基板に水素イオンや希ガスイオンや水素原子を注入すると、水晶基板とイオン(または原子)が反応してアモルファス化するので、水晶基板内にアモルファス層が形成される。アモルファス層を形成する深さは、イオンや原子の注入条件(注入エネルギーやドーズ量)により決まる。注入条件に応じて、注入面から1μm〜数μmの深さに、ばらつきのない平坦なアモルファス層が形成される。水晶のアモルファスは、水晶結晶よりもエッチング速度が速いので、エッチングによりアモルファス層を除去することで、水晶基板から水晶薄膜を分離できる。したがって、数μm以下の厚みの水晶薄膜を安定して製造できる。
【0010】
また、水晶基板は、使用したい振動モードに最適な結晶方位に切り出してイオン注入を行うとよい。これにより、水晶単結晶基板の表面から一定の深さにアモルファス層が形成されるので、水晶メンブレンのカット面を任意に選ぶことができ、用途に応じて優れた性能の水晶振動子が製造できる。
【0011】
(2)(1)において、分離工程は、アモルファス層の一部をエッチングにより除去して、前記水晶薄膜と前記水晶基板の間に空間を形成する工程であることが好ましい。アモルファス層の一部をエッチングにより除去することで、水晶基板から分離した水晶薄膜の振動空間として使用できる。また、この振動空間の周囲にアモルファス層の一部を除去せずに残すことで、別に支持部を設けることなく、残したアモルファス層により水晶薄膜を支持できる。したがって、簡素な工程により水晶基板から水晶薄膜を分離して、水晶薄膜の振動空間を備えた水晶デバイスを製造できる。
【0012】
アモルファス層を残す部分は、水晶薄膜を振動体として使用する際に、振動変位の小さい領域(例えば振動ノード点)が好ましい。振動変位の小さい領域と接するアモルファス層を残して水晶薄膜と水晶基板を機械的に接続することで、Q値の劣化を抑制できる。
【0013】
(3)(1)において、アモルファス層形成工程よりも前に、イオンまたは原子の注入を阻止するレジスト膜をイオンまたは原子注入側の面の一部に形成し、アモルファス層形成工程において、イオンまたは原子を該注入側の面から注入して、水晶基板内にアモルファス層を形成し、アモルファス層形成工程よりも後に、レジスト膜を除去することが好ましい。
【0014】
水晶基板のイオンまたは原子注入側の面にレジスト膜を形成すると、レジスト膜を形成した部分からはイオンまたは原子が注入されない。そこで、水晶薄膜を形成したい領域以外にレジスト膜を形成してから、イオンまたは原子注入側の面からイオンまたは原子を注入することで、水晶薄膜を形成する必要がある領域だけにアモルファス層を形成できる。したがって、水晶基板全体にアモルファス層を形成してエッチングを行う場合と比較して、アモルファス層の形成とエッチングによるアモルファス層の除去を効率良く行うことができる。また、アモルファス層がエッチングされ、アモルファス層を形成していない領域はエッチングされないため、電極を形成した領域の近傍に、水晶による支持体を形成できる。つまり、水晶薄膜(メンブレン)を最低限の面積で形成できるため、水晶基板の使用効率を上げることができるともに水晶デバイスを小型化できる。
【0015】
(4)(1)〜(3)において、アモルファス層形成工程の後から分離工程の前までに、水晶基板のイオンまたは原子の注入面側に支持基板を設けることが好ましい。イオンまたは原子の注入面側に支持基板を設けることで、支持基板により水晶薄膜を支持できる。また、水晶基板と支持基板の間に任意の広さの空間が形成されるように支持基板を設けることで、水晶薄膜と支持基板の間に任意の広さの振動空間を形成できる。振動空間を形成するには、例えば、水晶基板と支持基板の間に犠牲層を設けて、この犠牲層を除去するとよい。
【0016】
(5)(1)〜(4)において、アモルファス層形成工程の後から分離工程の前までの間に、溝形成工程を行うことが好ましい。溝形成工程では、水晶基板に複数の溝を設けて、アモルファス層の側面を露出させる。また、分離工程は、複数の溝にエッチング液を導入して、溝と溝の間におけるアモルファス層を除去する工程とするのが好ましい。
【0017】
水晶基板に複数の溝を設けてアモルファス層の側面を露出させて、各溝からエッチングを行うと、水晶基板に溝を設けずに水晶基板の端部からエッチングを行う場合よりも、エッチングを行う距離を短くできる。したがって、エッチングを行う時間を短縮でき、水晶デバイスを効率良く製造できる。
【0018】
(6)(5)において、溝形成工程は、水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸に対して線対称に複数の溝を形成する工程であることが好ましい。
【0019】
水晶基板に対して上記のように溝を形成すると、分離工程でエッチングによりアモルファス層を除去する際には、水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸の部分が端部よりも厚い、山型形状に形成することが可能となる。これは、水晶薄膜の端部は溝に近く、水晶薄膜の中央部よりもエッチング液に触れている(浸っている)時間が長いからである。水晶薄膜を上記のように山型形状にすることで、動作周波数帯域において、中央部の主振動モードの波数を実数、周辺部の波数を虚数とするエネルギー閉じ込め構造を構成できる。水晶薄膜をエネルギー閉じ込め構造にすることで、共振時に振動エネルギーの漏洩がなくなるため、Q値が高く安定した特性の水晶デバイスを製造できる。
【0020】
(7)(1)〜(6)において、分離工程は、さらに水晶基板の一部をエッチングにより除去する工程であることが好ましい。
【0021】
エッチング液の混合比を調整することで、アモルファス層とともに、水晶基板の一部をエッチングにより除去することが可能となる。水晶薄膜の端部は溝に近く、水晶薄膜の中央部よりもエッチング液に触れている(浸っている)時間が長いので、水晶薄膜の端部に近いほど水晶薄膜が除去される。このように、水晶のアモルファス層だけでなく水晶薄膜も除去されると、水晶薄膜は中央部が最も厚い山型形状になり、エネルギー閉じ込め構造を構成できるので、Q値が高く安定した特性の水晶デバイスを得ることができる。
【0022】
(8)この発明の水晶デバイスは、上記(1)〜(7)のいずれかの製造方法により製造され、水晶薄膜は、その両面にそれぞれ電圧を印加する電極を備え、水晶薄膜の一方の面は、振動空間をおいて支持基板に対向し、水晶薄膜は、前記電極間に電圧が印加されると、振動空間において屈曲振動する。
【0023】
水晶薄膜の周波数変動の感度は厚みに対して反比例する。水晶デバイスは、上記の方法により製造した数μm以下の非常に薄い水晶薄膜を備えているので、非常に高感度なセンサとして使用できる。
【0024】
また、水晶薄膜をXカットの屈曲振動モードで構成した場合、屈曲振動するときの共振周波数は厚みに比例し、長さに反比例する。水晶デバイスは、上記の方法で製造した非常に薄い水晶薄膜を備えているので、共振周波数を低周波数化できる。また、周波数が同じ場合、上記の方法で製造した水晶薄膜の長さを短くすると、薄化による共振周波数の低周波数化は水晶薄膜の短化により打ち消されるので、結果として水晶薄膜を小型にすることができる。したがって、このような水晶薄膜を備える水晶デバイスは、小型のセンサとして使用できる。
【0025】
(9)水晶薄膜は、電極間に電圧が印加されると、振動空間において面振動するように構成することもできる。このような特性の水晶薄膜を備える水晶デバイスは、10〜100MHz程度の共振子として使用できる。水晶薄膜を、GTカットの結合振動モード、CTカット・DTカットの輪郭振動モード、すなわち面振動モードになるように構成した場合、厚みを薄くできるので、水晶デバイスの低インピーダンス化が可能となる。また、水晶薄膜の薄化により、パッケージを含む水晶デバイス全体を薄くできる。
【0026】
(10)水晶薄膜は、電極間に電圧が印加されると、振動空間において厚み振動するように構成することもできる。
【0027】
このような特性の水晶薄膜を備える水晶デバイスは、1GHz〜2GHzの共振子として使用できる。この共振子は、従来のAlN膜を用いた共振子に比べてQ値が高く、周波数温度特性が安定している。
【0028】
(11)この発明の水晶デバイスは、上記(1)〜(7)のいずれかの製造方法により製造され、水晶薄膜は、第1の面に電圧を印加する一対のくし形電極を備え、第2の面が振動空間をおいて水晶基板に対向し、水晶薄膜は、一対のくし形電極間に電圧が印加されると、板波を発生する。
【0029】
このような特性の水晶薄膜を備える水晶デバイスは、板波共振子として使用できる。この水晶デバイスを溶液濃度センサやガスセンサとして使用した場合、水晶薄膜の厚みが非常に薄いので、溶液やガスの濃度を高感度に検出できる。
【0030】
(12)水晶薄膜は、一対のくし形電極に電圧が印加されると、表面波を発生するように構成することもできる。このような特性の水晶薄膜を備える水晶デバイスは、表面波デバイスとして使用できる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、数μm以下の厚みの非常に薄い水晶薄膜を備えた水晶デバイスを安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す製造フローで形成される圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図3に示す製造フローで形成される圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す製造フローで形成される圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る圧電デバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【図8】図7に示す製造フローで形成される圧電デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[第1実施形態]
第1実施形態では、水晶単結晶基板に水晶薄膜を設ける例を説明する。
【0034】
図1は、本発明の第1実施形態に係る水晶デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図2は、図1に示す製造フローで形成される水晶デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【0035】
図2(A)に示すように、所定の厚みの水晶単結晶基板1を用意する。水晶単結晶基板1としては、表面1Aが鏡面研磨され、水晶薄膜を複数配列可能な基板を用いる。なお、図2には、水晶単結晶基板1の一部分を示している。
【0036】
図2(B)に示すように、水晶単結晶基板1のイオン注入側の面である表面1Aにおいて、水晶薄膜を形成しない部分にレジスト膜11A,11Bを形成する(図1:S101)。レジスト膜11A,11Bは、例えば、フォトリソグラフィ法により形成する。
【0037】
図2(C)に示すように、水晶単結晶基板1の表面1Aから水素イオン12を注入する。水晶単結晶基板1に水素イオン12を注入すると、表面1Aから一定の深さに、水晶(SiO)がアモルファス化した層(以下、アモルファス層と称する。)13A〜13Cが形成される(図1:S102[アモルファス層形成工程])。このとき、水晶単結晶基板1の表面1Aに設けたレジスト膜11A,11Bは、イオンの注入を阻止するので、レジスト膜11A及びレジスト膜11Bの直下にはアモルファス層は形成されない。なお、レジスト膜11A,11Bに代えて、金属膜を設けても、イオンの注入を阻止できる。
【0038】
水素イオンの注入条件を、注入エネルギー110keV、ドーズ量(イオン注入密度)5.0×1016atom/cmに設定した場合、水晶単結晶基板1の表面1Aから深さ1.25μmを中心とする位置に、厚み0.1μmのアモルファス層13A〜13Cが形成される。
【0039】
なお、水晶単結晶基板1に注入する物質としては、水素イオン12の他に、ヘリウムイオンやアルゴンイオンなどの希ガスイオンや、水素などの原子を用いることが可能である。アモルファス層13A〜13Cを形成する深さは、水素イオン12の注入条件や水晶基板に注入する物質(イオンや原子)を変更することにより調整可能である。
【0040】
図2(D)に示すように、レジスト膜11A,11Bを除去する(図1:S103)。レジスト膜11A,11Bは、RIE(Reactive Ion Etching:リアクティブ・イオン・エッチング)法などにより除去する。
【0041】
図2(E)に示すように、水晶単結晶基板1の表面1Aに複数の溝14A〜14Dを形成する。溝14A〜14Dは、ダイシングやドライエッチングにより、アモルファス層13A〜13Cの側面が露出するように形成する(図1:S104[溝形成工程])。
【0042】
続いて、エッチングによりアモルファス層を除去して、水晶単結晶基板1から水晶薄膜を分離する(図1:S105[分離工程])。具体的には、まず、水晶単結晶基板1の表面1Aに形成した複数の溝14A〜14Dにエッチング液を導入する。水晶のアモルファス層は、水晶単結晶よりもエッチング速度が速い。そのため、アモルファス層の露出した側面からエッチングが開始される。エッチングが進むと、溝と溝の間におけるアモルファス層が除去されて、水晶単結晶基板1内に空間(振動空間)が形成される。これにより、水晶単結晶基板1の表面1Aに、例えば厚さ約1.2μmの水晶薄膜が形成される。
【0043】
なお、基本的には、アモルファス層がエッチングされ、アモルファス層を形成していない領域はエッチングされないので、後述のくし形電極を形成する領域の近傍に、水晶単結晶による支持体を形成できる。つまり、水晶薄膜(メンブレン)を最低限の面積で形成できるため、水晶基板の使用効率を上げることができるとともに水晶デバイスを小型化できる。
【0044】
エッチング液としては、例えば、BHF(バッファードフッ酸)を用いる。BHFは、フッ酸と水とフッ化アンモニウムを混合したものである。これらの混合比を調整して、水晶の単結晶と、水晶のアモルファス(石英ガラス)と、のエッチングレートの比を変えることで、水晶薄膜を山型形状または平坦な形状に形成できる。
【0045】
例えば、フッ酸:水:フッ化アンモニウムの混合比(重量比)を1:59:40にすると、水晶の単結晶とアモルファスのエッチングレートの比は200倍程度である。この場合には、エッチング時間が長くなると、アモルファス層だけでなく水晶単結晶の一部もエッチングにより除去される。すなわち、水晶薄膜16A〜16Cの端部は、溝14A〜14Dに近く、エッチング液に触れている(浸っている)時間が長いので、アモルファス層13A〜13Cだけでなく水晶単結晶基板1の一部もエッチングにより除去される。一方、水晶薄膜16A〜16Cの中央部は、エッチング液に触れている時間が端部よりも短いので、アモルファス層13A〜13Cの一部が残る。したがって、各水晶薄膜16A〜16Cの中央部と端部の厚みの差が大きくなる。すなわち、図2(F)に示す水晶薄膜16Bのように、端部が最も薄く、端部から離れるのに従って厚みが徐々に増して中央部が最も厚い山型形状になる。
【0046】
水晶薄膜を山型形状に形成することで、Q値を高くできる。バルク振動子は、動作周波数帯域において、中央部の主振動モードの波数を実数とし、周辺部の波数を虚数とすることで、エネルギー閉じ込め状態となることが知られている。ATカット水晶の厚み滑り振動モードに代表される多くのバルク振動モードは、低域遮断型の分散特性を有している。低域遮断型の分散特性を有する振動モードは、中央部に対して、端部の厚みを僅かに薄くすることで、エネルギー閉じ込め構造を構成できる。
【0047】
一方、フッ酸:水:フッ化アンモニウムの混合比(重量比)を6:64:30にすると、水晶の単結晶とアモルファスのエッチングレートの比は500倍程度である。この場合には、水晶単結晶基板1はほとんどエッチングされないので、水晶薄膜の中央部と端部の厚みの差は小さい。
【0048】
水晶単結晶基板1に形成されるアモルファス層13A〜13Cは緻密かつ平坦なので、エッチングによりアモルファス層を除去した後も、水晶薄膜16A〜16Cの表面を平滑に保つことができる。したがって、エッチングによりアモルファス層を除去すると、水晶薄膜の表面を平滑にすることができ、図2(G)に示す水晶薄膜18Bのように、平坦な形状になる。
【0049】
以上のように、フッ酸:水:フッ化アンモニウムの混合比(重量比)を変更することで、水晶薄膜の形状を調整できる。なお、フッ酸/フッ化アンモニウムの比を1〜20の範囲に設定することで、水晶振動子としては好ましい形状にできる。すなわち、振動エネルギーの漏洩がなくなるため、Q値が高く安定した特性の水晶デバイスを得ることができる。
【0050】
なお、エッチング液の混合比を調整することで、水晶単結晶基板1を除去することなく、アモルファス層の除去により、水晶薄膜を山型形状に形成することも可能である。
【0051】
図2(H)は、水晶単結晶基板1の平面図、図2(I)は、図2(H)に示す水晶単結晶基板1のB−B断面図、図2(J)は、図2(H)に示す水晶単結晶基板1のA−A断面図である。
【0052】
図2(H)に示すように、水晶薄膜18の表面に振動子として駆動するための電極を水晶薄膜上に形成する(図1:S106)。
【0053】
水晶薄膜18Bの上面には、一対のIDT(Interdigital Transducer)電極19と、反射器20A,20Bと、を形成する。反射器20A,20Bは、一対のIDT電極19の表面波伝搬方向の両端に形成する。水晶単結晶基板1において中空保持した水晶薄膜18B上に一対のIDT電極19を形成し、一対のIDT電極19間に電圧を印加することで、板波を発生する板波共振子を形成できる。
【0054】
なお、板波共振子の振動変位は小さいので、アモルファス層を除去して形成した空間15A〜15Cまたは空間17A〜17Cを振動空間として用いても問題ない。
【0055】
次に、水晶単結晶基板1を切断して個別の水晶デバイスを切り出す(図1:S107)。以上の工程により、水晶薄膜の片面にくし形電極を備えた水晶デバイスを製造できる。
【0056】
このようにして製造した水晶デバイスは、前記のように板波共振子が形成されているので、溶液濃度センサやガスセンサとして使用した場合、水晶薄膜の厚みが非常に薄いので、溶液やガスの濃度を高感度に検出できる。
【0057】
なお、第1実施形態において、図1に示したフローチャートでは、イオン注入を行う前に、水晶単結晶基板1の表面1Aにレジスト膜11A,11Bを設けたが、レジスト膜11A,11Bを設けずに、水晶薄膜18A〜18Cを形成することも可能である。すなわち、ステップS101とS103を行わずに、ステップS102とステップS104以降の処理を行うことも可能である。
【0058】
この場合には、ステップS102では、水晶単結晶基板1の表面1Aから、水晶単結晶基板1の全体に水素イオンを注入する。ステップS104では、図2(H)に示した溝よりも、同図における上下方向の長さを短く形成する。ステップ105では、IDT19と反射器20A,20Bを形成する部分の直下のアモルファス層13が主に除去されるように、エッチング液の混合比やエッチングの時間を調整する。また、ステップS106,S107は、前記の説明と同様に処理を行う。
【0059】
これにより、IDTと反射器の直下のアモルファス層を除去した時点でエッチングを停止することで、IDTと反射器から離れた領域はエッチング除去されずにアモルファス層が残る。つまり、水晶薄膜がアモルファス層により保持された構造となる。
【0060】
アモルファス層の一部を除去せずに残す領域は、水晶薄膜を振動体として使用する際に、振動変位の小さい領域(例えば振動ノード点)が好ましい。振動変位の小さい領域と接するアモルファス層を残して水晶薄膜と水晶基板を機械的に接続することで、Qの劣化を抑制できる。例えば、上記の構成では、水晶薄膜の振動変位がないIDTと反射器の周囲の部分(外側)で保持された構造にするとよい。
【0061】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る水晶デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図4は、図3に示す製造フローで形成される水晶デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【0062】
図4(A)に示すように、水晶単結晶基板3の注入面である表面3Aから水素イオン32を注入して、水晶単結晶基板3内にアモルファス層33を形成する(図3:S201)。水素イオン32の注入条件は、第1実施形態と同様にするとよい。
【0063】
図4(B)に示すように、アモルファス層33を形成後の水晶単結晶基板3の表面3Aに下部電極31A〜31Cを所定の厚みに形成する(図3:S202)。電極の材料としてAl(アルミニウム)を用いる場合には、レジスト形成、Al蒸着、リフトオフを行い、Al膜の電極パターニングを行う。なお、下部電極31A〜31Cの材料には、後述のメンブレン犠牲層のエッチング時に、エッチング液に対して耐性のあるものを用いる。
【0064】
図4(C)に示すように、下部電極31A〜31Cの周囲を覆うようにメンブレン犠牲層34A〜34Cを形成する(図3:S203)。メンブレン犠牲層34A〜34Cの材料としてCu(銅)を用いる場合、レジスト形成、Cu蒸着、及びリフトオフを行ってパターニングする。
【0065】
メンブレン犠牲層34A〜34Cは、後述の処理によりメンブレン空間部となるので、メンブレン空間部の必要な大きさに応じた厚みに形成する。例えば、2μm程度の厚みに形成する。メンブレン犠牲層34A〜34Cには、後述のメンブレン犠牲層のエッチング時に下部電極との選択性が得られる材料を使用する。犠牲層材料には、Cuの他に、Ni・Wなどの金属や、AlNなどの誘電体を用いることができる。メンブレン犠牲層34A〜34Cを蒸着リフトオフで作成することで、水晶薄膜(メンブレン)のサイズや形状を精度よく作ることができる。
【0066】
図4(D)に示すように、メンブレン犠牲層34A〜34C及び水晶単結晶基板3の表面3Aを被覆するようにメンブレン支持層35を形成する(図3:S204)。メンブレン支持層35の材料には窒化アルミニウムを使用し、犠牲層の厚みに対して3倍以上の厚みになるようにスパッタ成膜によりメンブレン支持層35を形成する。なお、メンブレン支持層35の材料としては、後述のアモルファス層33のエッチング時と、メンブレン犠牲層34A〜34Cのエッチング時と、において、各エッチング液に対する耐性を有するものを使用する。窒化アルミニウムの他には、例えば、シリコン窒化物、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム物、酸化タンタルなどが好ましい。
【0067】
図4(E)に示すように、メンブレン支持層35の表面を、シリカスラリーを用いたCMPにより平坦化する(図3:S205)。このとき、表面粗度Raを1nm以下に仕上げる。
【0068】
図4(F)に示すように、メンブレン支持層35及び水晶単結晶基板1の一部に対して溝加工を行う(図3:S206)。すなわち、メンブレン支持層35に対して、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、ドライエッチングまたはウエットエッチングにより、メンブレン支持層35の表面から水晶単結晶基板1のアモルファス層よりも深い位置まで溝36A〜36Dを形成する。溝36A〜36Dは、水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸に対して線対称となるように形成する。すなわち、下部電極31A〜31Cの面に沿った中心を通る軸に対して線対称となるように形成する。これにより、第1実施形態において詳細を説明したように、水晶薄膜の形状を、下部電極31A〜31Cの中央が最も厚く、端部に近づくほど薄い山型形状にすることができる。
【0069】
また、水晶単結晶基板1に複数の溝を設けると、水晶基板に溝を設けずに水晶基板の端部からエッチングを行う場合よりも、エッチングを行う距離を短くできる。したがって、エッチングを行う時間を短縮できる。
【0070】
図4(G)に示すように、メンブレン支持層35と支持基板37を、清浄化接合技術を用いて真空中で直接接合する(図3:S207)。支持基板37の材料としては、LT(LiTaO)、LN(LiNbO)、Si、ガラス等を用いる。
【0071】
図4(H)に示すように、アモルファス層33をエッチングにより除去して、水晶薄膜39A〜39Cを水晶単結晶基板3から分離する(図3:S208)。すなわち、溝36A〜36Dからエッチング液を導入し、アモルファス層33を除去してメンブレン空間部38を形成する。エッチング液の混合比は、第1実施形態で説明したように、水晶とアモルファス層とのエッチングレートの比が200倍程度となるように設定する。これにより、水晶薄膜39A〜39Cは、水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸に沿った部分が最も厚い山型形状になる(図4(I)参照)。
【0072】
図4(J)に示すように、水晶薄膜39A〜39Cの上面に、上部電極40A〜40Cを形成する(図3:S209)。電極材料は下部電極31A〜31Cと同様に、Alにより電極パターンを形成する。
【0073】
続いて、上部電極40A〜40Cが形成された水晶薄膜39A〜39Cの端部に窓開けを行うために、窓開けをする領域以外にフォトリソグラフィによりレジストパターン(不図示)を形成する(図3:S210)。
【0074】
図4(K)に示すように、水晶薄膜39A〜39Cに窓開けを行う(図3:S211)。すなわち、ドライエッチングにより、水晶薄膜39A〜39Cの端部のレジストパターン(不図示)が形成されていない領域に、メンブレン犠牲層34A〜34Cを除去するためのエッチング窓41A〜41Cを形成する。水晶薄膜の厚みは、1.2μm程度と非常に薄いので、ドライエッチングを行っても、エッチングした部分がテーパー状にならず、加工精度が良好である。
【0075】
続いて、エッチング窓41A〜41Cからエッチング液を導入して、メンブレン犠牲層34A〜34Cを除去する(図3:S212)。これにより、水晶薄膜39A〜39Cの下部に振動空間42A〜42Cが形成される。なお、エッチング液は、メンブレン支持層35や上部電極60や下部電極31A〜31Cに対して影響を与えないものを選択する。
【0076】
図4(L)に示すように、水晶単結晶基板3を切断して個別の水晶デバイスを切り出す(図3:S213)。以上の工程により、水晶薄膜の両面に電極を備えた水晶デバイス44(44A〜44C)を製造できる。
【0077】
上記のようにして水晶デバイスを製造する際には、使用したい振動モードに最適な結晶方位(カット面やカット角と呼ばれる)に切り出した水晶単結晶基板に対してイオン注入を行う。これにより、水晶単結晶基板の表面から一定の深さにアモルファス層を形成するので、水晶薄膜(メンブレン)のカット面を任意に選ぶことができ、用途に応じて優れた性能の水晶振動子が製造できる。
【0078】
水晶振動子は、共振周波数やインピーダンス、周波数温度安定度などの要求特性や要求寸法に応じて、厚み滑りや輪郭振動などの振動モードを選択する。それぞれの振動モードはスプリアス特性や電気機械結合係数、周波数温度特性などが最適となる結晶方位が存在する。
【0079】
(1)屈曲振動モード(四角柱のみでなく、三角柱、円柱、音叉や三叉などの振動を含む)
上記のように、水晶薄膜の対向する両面(上面と下面)に金属電極を形成した水晶デバイスは、外部接続端子(不図示)に屈曲振動モードの共振周波数の交番電圧が入力されると、水晶薄膜が屈曲振動モードを主モードとして振動する。水晶薄膜は、Xカットにより屈曲振動モードとなる。水晶薄膜(メンブレン)を、屈曲振動モードで共振させると、圧力、衝撃、加速度による歪みで発生する共振周波数の変動を検出できる。そのため、上記の水晶デバイス44は、圧力センサ、衝撃センサ、加速度センサなどとして使用できる。
【0080】
また、水晶薄膜の厚みを1μm程度と非常に薄くできるので、センサを以下のような特性にできる。
【0081】
A.水晶薄膜の周波数変動の感度は厚みと反比例するので、水晶薄膜の薄化により非常に高感度なセンサを構成できる。
【0082】
B.水晶薄膜が屈曲振動するときの共振周波数は、厚みに比例し、長さに反比例する。水晶薄膜の薄化により共振周波数を低周波数化できる。また、水晶薄膜を薄化するとともに短くすることで、薄化による共振周波数の低周波数化は水晶薄膜を短くすることにより打ち消されて、共振周波数は高周波数化するが、水晶薄膜を小型化できるので、小型センサとして使用できる。
【0083】
(2)面振動(面積振動、径方向振動、輪郭振動(ラーメモード、結合モード))
上記のように、水晶デバイスの水晶薄膜の対向する両面(上面と下面)に金属電極を形成した水晶デバイスは、外部接続端子(不図示)に、面振動モードの共振周波数の交番電圧が入力されると、水晶薄膜が、面振動モードを主モードとして振動する。これにより、10〜100MHz程度の共振子として使用できる。なお、面振動モードは、面積振動モード、径方向振動モード、及び輪郭振動モード(ラーメモード、結合振動モード)の総称である。結合振動モードのときにはGTカットやNS−GTカット、輪郭振動モードのときにはCTカットまたはDTカットで水晶単結晶基板を切り出す。
【0084】
水晶薄膜の薄化により、水晶薄膜のインピーダンスが低くなり、パッケージを含む全体が薄い水晶デバイスを提供できる。また、この水晶デバイスを、気中ガスや液中溶液濃度の検出に用いた場合、高感度に検出できる。これは、水晶薄膜の振動領域にガスの付着や改質などで質量変化が生じたときの周波数変化の感度は、水晶薄膜の厚みに反比例して向上することによる。したがって、従来の100μm厚程度の水晶薄膜を備えた水晶面振動子に比べて、感度を著しく向上できる。
【0085】
(3)厚み振動モード(厚み縦振動、厚み滑り振動)
上記のように、水晶デバイスの水晶薄膜の対向する両面(上面と下面)に金属電極を形成した水晶デバイスは、外部接続端子(不図示)に、厚み振動モードの共振周波数の交番電圧が入力されると、水晶薄膜は、厚み振動モードを主モードとして振動する。これにより、1GHz〜2GHzの共振子として使用できる。なお、厚み振動モードは、厚み縦振動モードと厚み滑り振動モードの総称である。また、厚み滑り振動モードのときにはATカットで水晶単結晶基板を切り出す。
【0086】
この共振子は、従来のAlN膜を用いたFBAR(薄膜バルク共振子)に比べてQ値が高く、周波数温度特性が安定する。また、メンブレンを外周からエッチングして中央部を僅かに膨らませることで、低域遮断型の分散特性を有するATカットなどの厚み滑り振動モードではエネルギー閉じ込め状態となり、Q値が良化する。また外周に振動が漏れないため、保持しやすくなる。
【0087】
また、この水晶デバイスをQCM(水晶センサ)として、気中ガスや液中溶液濃度の検出に用いた場合、高感度に検出できる。これは、水晶薄膜の振動領域にガスの付着や改質などで質量変化が生じたときの周波数変化の感度は、水晶薄膜の厚みに反比例して向上するからである。したがって、従来の100μm厚程度の水晶薄膜を備えたQCMに比べて、感度を著しく向上できる。
【0088】
本発明は、これらの振動モードに必ずしも限定されず、例えば、弾性波素子技術ハンドブックp112表2.11に記載の各種振動モードを適用できる。いずれの振動モードにおいても、水晶の薄化に伴い、振動子の共振周波数や発振器の基本モード発振の高周波化(表2.11の周波数定数の項)や、質量負荷や流体や気体の粘性や圧力に対して、従来の削り出しで作成した素子より、高感度化なセンサを構成できる。また、従来の削り出しとエッチングを組み合わせて作成した素子より、イオン注入による深さバラツキが極めて均質なので、厚み分布の小さな素子が作製できる。
【0089】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3の実施形態に係る水晶デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図6は、図5に示す製造フローで形成される水晶デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【0090】
第3実施形態に係る水晶デバイスの製造方法は、図3に示した第2実施形態に係る水晶デバイスの製造方法におけるステップS206〜ステップS208の工程が異なっており、他の工程は同じである。そのため、以下の説明では、第2実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0091】
図6(A)は、図4(E)と同じ状態を示しており、メンブレン支持層35の表面を、シリカスラリーを用いたCMPにより平坦化した状態である(図5:S205)。
【0092】
そして、図6(B)に示すように、支持基板37(支持基板に相当)を準備して、メンブレン支持層35と支持基板37を、清浄化接合技術を用いて真空中で直接接合する(図5:S306)。
【0093】
さらに、図6(C)に示すように、水晶単結晶基板3の表面3Bから水晶単結晶基板3とメンブレン支持層35に溝36A〜36Dを形成する(図5:S307)。溝36A〜36Dは、ブレードを用いたダイサーでハーフカットを行って形成するか、またはサンドブラスト加工により形成する。
【0094】
溝36A〜36Dは、第2実施形態と同様に形成するとよい。これにより、水晶薄膜を山型形状にすることができる。
【0095】
そして、図6(D)に示すように、先に形成した溝からエッチング液を導入してエッチングによりアモルファス層を除去して、メンブレン空間部38を形成する(図5:S308)。これにより、水晶単結晶基板3から水晶薄膜39A〜39Cが分離され、図6(E)に示す状態になる。この状態は、図4(I)と同様の状態である。以降、第2実施形態と同様に窓開け、メンブレン犠牲層の除去、及び分離の各工程を行うことで、水晶デバイスが得られる。
【0096】
[第4実施形態]
図7は、本発明の第4実施形態に係る水晶デバイスの製造方法を示すフローチャートである。図8は、図7に示す製造フローで形成される水晶デバイスの製造過程を模式的に示す図である。
【0097】
図8(A)に示すように、水晶単結晶基板5の注入面である表面5Aから水素イオン52を注入して、水晶単結晶基板5内にアモルファス層53を形成する(図7:S401)。水素イオン52の注入条件を第1実施形態と同様にすることで、水晶単結晶基板5の表面3Aから深さ1.25μmを中心として厚み0.1μmのアモルファス層を形成できる。
【0098】
図8(B)に示すように、水晶単結晶基板5の表面5Aの上部にメンブレン支持層55を形成する(図7:S402)。
【0099】
続いて、メンブレン支持層55の表面を、シリカスラリーを用いたCMPにより平坦化する(図7:S403)。このとき、表面粗度Raを1nm以下に仕上げる。
【0100】
図8(C)に示すように、メンブレン支持層55及び水晶単結晶基板5に対して溝加工を行う(図7:S404)。すなわち、メンブレン支持層55に対して、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、ドライエッチングまたはウエットエッチングにより、メンブレン支持層55の表面から水晶単結晶基板5のアモルファス層53よりも深い位置まで溝54A〜54Dを形成する。溝54A〜54Dは、水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸(水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸)に対して線対称となるように形成することで、山型形状に形成できる。
【0101】
図8(D)に示すように、メンブレン支持層55と支持基板57を、清浄化接合技術を用いて真空中で直接接合する(図7:S405)。支持基板57の材料としては、LT(LiTaO)、LN(LiNbO)、Si、ガラス等を用いる。
【0102】
図8(E)に示すように、アモルファス層をエッチングし、水晶薄膜を水晶基板から分離する(図7:S406)。すなわち、ステップS404で形成した複数の溝からエッチング液を導入してアモルファス層を除去し、水晶基板から水晶薄膜を分離する。エッチング液の混合比は、第1実施形態で説明したように、水晶とアモルファス層とのエッチングレートの比が200倍程度となるように設定する。これにより、前記のように中央部の軸に沿った部分が最も高い山型になる(図8(F)参照)。
【0103】
図8(G)に示すように、水晶薄膜59A〜59Cの上面に、上部電極(くし形電極)60A〜60Cを形成する(図7:S407)。例えば、Al薄膜をパターン化する。
【0104】
図8(H)に示すように、水晶薄膜59A〜59Cの表面全体にくし形電極60A〜60Cを被覆するようにSiO層61A〜61Cを形成する。
【0105】
水晶薄膜59A〜59Cの表面にアモルファス層の一部が残っている場合、水晶ガラスの周波数温度係数TCFは負の値である。一方、SiO層の周波数温度係数TCFは正の値である。したがって、上記のようにSiO層を形成することで、全体として周波数温度係数の絶対値を小さくすることができる。すなわち、温度変化による周波数変動を小さくすることができる。
【0106】
次に、図8(I)に示すように、水晶単結晶基板3を切断して個別の水晶デバイスを切り出す(図7:S408)。以上の工程により、水晶薄膜の片面に一対のくし形電極を備えた水晶デバイス(表面波デバイス)65A〜65Cを製造できる。
【0107】
なお、水晶振動子として厚み方向の振動モード、面方向の振動モード、屈曲モード、板波など、振動エネルギーが振動体である水晶の表面に達している振動モードを用いる場合、振動体の周囲に真空、大気や窒素ガスが充填された空間を形成して振動空間とし、弾性波の漏洩損失を抑えることがQ値の向上のために望ましい。
【符号の説明】
【0108】
1,3,5…水晶単結晶基板
11A,11B…レジスト膜
12,32,52…水素イオン
13A〜13C,33,53…アモルファス層
14A〜14D,36A〜36D,54A〜54D…溝
15A〜15C…空間
16A〜16C,18A〜18C,39A〜39C,59A〜59C…水晶薄膜
17A〜17C…空間
19…IDT(くし形電極)
20A,20B…反射器
31A〜31C…下部電極
34A〜34C…メンブレン犠牲層
35,55…メンブレン支持層
37,57…支持基板
38…メンブレン空間部
40A〜40C,60A〜60C…上部電極
41A〜41C…エッチング窓
42A〜42C…振動空間
44(44A〜44C)…水晶デバイス
61A〜61C…SiO
65A〜65C…水晶デバイス(表面波デバイス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンまたは原子を水晶基板に注入して、前記水晶基板内にアモルファス層を形成するアモルファス層形成工程と、
前記アモルファス層をエッチングにより除去して、前記水晶基板から水晶薄膜を分離する分離工程と、
を備えた水晶デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記分離工程は、前記アモルファス層の一部を除去して、前記水晶薄膜と前記水晶基板の間に空間を形成する工程である、請求項1に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記アモルファス層形成工程よりも前に、前記イオンまたは原子の注入を阻止するレジスト膜を、前記イオンまたは原子注入側の面の一部に形成する工程と、
前記アモルファス層形成工程よりも後に、前記レジスト膜を除去する工程と、
を備えた請求項1に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記アモルファス層形成工程の後から前記分離工程の前までに、
前記水晶基板のイオンまたは原子の注入面側に支持基板を設ける工程を備えた、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記アモルファス層形成工程の後から前記分離工程の前までに、
前記水晶基板に複数の溝を設けて、前記アモルファス層の側面を露出させる溝形成工程を備え、
前記分離工程は、前記複数の溝にエッチング液を導入して、溝と溝の間におけるアモルファス層を除去する工程である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程は、前記水晶薄膜の面に沿った中心を通る軸に対して線対称に複数の溝を形成する工程である、請求項5に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記分離工程は、さらに前記水晶基板の一部をエッチングにより除去する工程である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法により製造された水晶デバイスであって、
前記水晶薄膜は、その両面にそれぞれ電圧を印加する電極を備え、
前記水晶薄膜の一方の面は、振動空間をおいて支持基板に対向し、
前記水晶薄膜は、前記電極の間に電圧が印加されると、前記振動空間において屈曲振動することを特徴とする水晶デバイス。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法により製造された水晶デバイスであって、
前記水晶薄膜は、その両面にそれぞれ電圧を印加する電極を備え、
前記水晶薄膜の一方の面は、振動空間をおいて支持基板に対向し、
前記水晶薄膜は、前記電極の間に電圧が印加されると、前記振動空間において面振動することを特徴とする水晶デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法により製造された水晶デバイスであって、
前記水晶薄膜は、その両面にそれぞれ電圧を印加する電極を備え、
前記水晶薄膜の一方の面は、振動空間をおいて支持基板に対向し、
前記水晶薄膜は、前記電極の間に電圧が印加されると、前記振動空間において厚み振動することを特徴とする水晶デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法により製造された水晶デバイスであって、
前記水晶薄膜は、第1の面に電圧を印加する一対のくし形電極を備え、
第2の面が、振動空間をおいて水晶基板に対向し、
前記水晶薄膜は、前記一対のくし形電極の間に電圧が印加されると、板波を発生することを特徴とする水晶デバイス。
【請求項12】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶デバイスの製造方法により製造された水晶デバイスであって、
前記水晶薄膜は、その片面に電圧を印加する一対のくし形電極を備え、
前記水晶薄膜は、前記一対のくし形電極に電圧が印加されると、表面波を発生することを特徴とする水晶デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−199638(P2012−199638A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60871(P2011−60871)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】