説明

水晶発振回路

【課題】電源変動に起因して生じる高調波ノイズのない水晶発振回路を提供する。
【解決手段】水晶発振回路100は、電流モードロジック(CML:Current Mode Logic)で構成されたインバータ102と、インバータ102に対して並列に接続された帰還抵抗R2と、インバータ102に対して出力用抵抗R1を通して並列に接続された共振回路101とを備え、共振回路101は、インバータ102に対して出力用抵抗R1を通して並列に接続された水晶振動子103と、水晶振動子103の両端とグランド間にそれぞれ接続されたキャパシタC1及びC2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジオの受信機などに用いられる水晶発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周波数安定度が高いことから、ラジオなどの送受信機における発振器、測定器の基準発振器などに水晶発振器が用いられている。
図4に示すように、一般に水晶発振回路400は、水晶振動子103と、コンデンサC1及びC2と、インバータ401と、出力抵抗R1と、帰還抵抗R2と、を備える。
【0003】
ここで、インバータ401は、同一又は異なるサイズの複数のインバータ401a、402b、・・・、からなり、各インバータが有するスイッチによってインバータのサイズを切り替え可能となっている。このような構成にすることにより、回路の負性抵抗を可変にしている。
【0004】
例えば、起動時にはインバータ401が最大サイズとなるようにスイッチを切替えて、水晶振動子103の等価抵抗に対して回路の負性抵抗を十分大きくすることで、十分な発振余裕度を確保することができる。また、定常時等にはインバータ401のサイズを小さくするようにスイッチを切替えることで、各インバータ401a、401b、・・・を構成するCMOSを貫通する貫通電流を小さく抑制し、貫通電流による電源(又はグランド)の電圧変動に起因して発生する高調波(以下、「高調波ノイズ」という)を抑制することができる。
【0005】
ここで、貫通電流とは、CMOS回路への入力信号が反転(ONからOFF、OFFからON)する瞬間に、CMOS回路を構成するP型MOSトランジスタとN型MOSトランジスタとが同時にONする事象が生じ、電源−P型MOSトランジスタ−N型MOSトランジスタ−グランドを貫通する電流をいう。この貫通電流の変化により電源電圧等が変動する結果、水晶発振回路で生じる高調波ノイズが装置(半導体IC)内の他の回路の回路動作(特性)へ悪影響を与える。
【0006】
上述した技術に関連して、特許文献1には、第2トランジスタ側に生ずる共振子の容量成分と帰還用の抵抗とにより形成されるローパスフィルタ特性と等価な特性のローパスフィルタを第1トランジスタ側にも設けることにより、高調波の発振を抑止して単一周波数での発振を可能にする正弦波発振器について開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、利得可変機能を持つ第1の増幅回路の入力と出力との間に設けられた発振動作を行わせる共振子を設けて発振動作を行わせるとともに、第1の増幅回路の出力信号を受けてこれを増幅する利得可変機能を持つ第2の増幅回路の出力信号を受けて、第2の増幅回路の発振出力信号が一定となるように制御する利得制御回路を設けることにより、共振子の損失バラツキや変動に対応して発振出力信号が一定になるよう第1及び第2の増幅回路の利得を制御し、発振動作の安定化を図りつつ高調波成分を抑える発振回路について開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、発振用増幅器としたECL(エミッタカップリングロジック)の出力端とアースとの間に設けたプルダウン抵抗を直列接続の第1と第2の分割抵抗として、分割抵抗の接続点とアースとの間にバイパスコンデンサを設けることにより、出力レベルを維持して電源電圧の変動による発振周波数の変化を防止できる水晶発振回路について開示されている。
【0009】
しかし、図4に示したように、インバータ401をCMOSで構成する以上、貫通電流を0にすることはできない(このインバータを「CMOSインバータ」という)。例えば、水晶発振回路400を発振させると、図5の(a)に示す貫通電流がインバータ401に生じる。その結果、図5の(b)に示すように、貫通電流による電源電圧等の変動に起因して発生する高調波ノイズが、受信チャネルの感度を劣化させる、という問題があった。
【特許文献1】特開平05−152848号公報
【特許文献2】特開平10−084222号公報
【特許文献3】特開2004−320321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、CMOSインバータで発生する貫通電流による電源変動に起因する高調波ノイズの少ない水晶発振回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る水晶発振回路は、水晶振動子とキャパシタとを直列に接続した共振回路と、該共振回路に対して並列に接続する定電流特性を有するインバータ回路と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によると、インバータ回路が定電流特性を有する回路なので、CMOSインバータのように貫通電流が発生することがない。そのため、貫通電流による電源電圧(又はグランド)の変動に起因して生じる高調波ノイズのない水晶発振回路を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の態様について図1〜図3に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例に係る水晶発振回路100の全体構成を示す図である。
図1に示す水晶発振回路100は、共振回路101と、共振回路101と並列に接続され電流モードロジック(CML:Current Mode Logic)で構成されたインバータ102と、を備える水晶発振回路である。さらに、本実施例に係る水晶発振回路100は、共振回路101−インバータ102間に出力用抵抗R1と、インバータ102に対して並列に帰還抵抗R2と、を備えている。
【0014】
共振回路101は、水晶振動子103と、キャパシタC1及びC2と、を備える。水晶振動子103の両端は、それぞれキャパシタC1とC2とに接続されている。また、キャパシタC1とC2の他端はグランドに接続されている。水晶振動子103とインバータ102とが並列接続となるように、共振回路101とインバータ102とが接続されている。
【0015】
図2は、本発明の実施例に係るインバータ102の具体的な構成を示す図である。
図2に示すインバータ102は、入力信号Vinに対して反転信号Voutを生成する信号反転回路201と、信号反転回路201に接続する電流源回路202と、を備える。
【0016】
信号反転回路201は、N型MOSトランジスタTra1、Tra2、抵抗R3及びR4で構成される。
信号反転回路201は、MOSトランジスタTra1のドレインとTra2のドレインが、それぞれ抵抗R3、R4を介して電源(Vdd)と接続され、MOSトランジスタTra1のソースとTra2のソースとが互いに接続された差動回路を構成する。
【0017】
電流源回路202は、N型MOSトランジスタTrb1、N型MOSトランジスタTrc1〜Trcn(nは2以上の整数、以下同じ)及び電源Jで構成される。
MOSトランジスタTrb1のドレインは、電流源Jを介して電源(Vdd)と接続され、ソースは、グランドに接続されている。また、MOSトランジスタTrc1、Trc2、・・・、Trcnのドレインは、信号反転回路201(MOSトランジスタTra1及びTra2のソース)と接続され、ソースはグランドに接続されている。
【0018】
そして、MOSトランジスタTrb1とTrc1とは、カレントミラー回路を構成している。同様に、MOSトランジスタTrb1と、各MOSトランジスタTrc2、・・・、Trc1とは、カレントミラー回路を構成している。
【0019】
また、MOSトランジスタTrc1のゲートとTrc2のゲートの間には、スイッチSW11及びSW12を備える。同様に、MOSトランジスタTrc1のゲートと、MOSトランジスタTrc3、Trc4、・・・、Trcnの各ゲートとの間には、それぞれスイッチSW21及びSW22、SW31及びSW32、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2を備える。
【0020】
以上の構成において、MOSトランジスタTra1のゲートに所定のバイアス電圧Vbiaが入力される。そして、MOSトランジスタTra2のゲートに入力信号が入力される。MOSトランジスタTra2への入力信号VinがHighになると、MOSトランジスタTra2がONとなるのでドレイン−ソース間が導通し、出力信号VoutがLowとなる。同様に、MOSトランジスタTra2への入力信号VinがLowになると、MOSトランジスタTra2はOFFとなるので、出力信号VoutがHighとなる。
【0021】
そして、スイッチSW11及びSW12、SW21及びSW22、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2のON/OFFを切替えることにより、MOSトランジスタTrb1を流れる電流I1と、信号反転回路201に流れる電流I2と、の電流比I1:I2を、1:1から1:nまで切替えることができる。
【0022】
したがって、スイッチSW11及びSW12、SW21及びSW22、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2を切替えることによって、CMLで構成されたインバータ102の出力振幅と消費電流を段階的に変更することが可能となる。
【0023】
ここで、本実施例に係る水晶発振回路100を、例えば、FMラジオ受信機の受信回路に使用する場合、当該受信回路の受信周波数が水晶振動子103の発振周波数のn倍になるときには、スイッチSW11、SW21、・・・、SW(n−1)1をOFF(スイッチSW12、SW22、・・・、SW(n−1)2をON)にして、インバータ102のゲインと消費電流を下げて高調波ノイズを少なくし、n倍以外の時に、スイッチSW11、SW21、・・・、SW(n−1)1をON(スイッチSW12、SW22、・・・、SW(n−1)2をOFF)にして、インバータ102のゲインと消費電流を上げて発振動作の安定性を向上させるように制御できる。 また、例えば、起動時(発振開始時)にはスイッチSW11、SW21、・・・、SW(n−1)1をON(スイッチSW12、SW22、・・・、SW(n−1)2をOFF)にすることで、インバータ102のサイズを大きくして十分な負性抵抗を確保し、定常時にはスイッチSW11、SW21、・・・、SW(n−1)1をOFF(スイッチSW12、SW22、・・・、SW(n−1)2をON)にして、水晶発振回路100で消費される電力を抑えるように、スイッチSW11及びSW12、SW21及びSW22、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2をデジタル的に制御してもよい。
【0024】
なお、上述のスイッチの制御を行う装置は図示していないが、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を利用した論理回路やMPUに所定のプログラムを実行させることによってスイッチSW11及びSW12、SW21及びSW22、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2を制御すればよい。
【0025】
図3は、本発明の実施例に係る水晶発振回路100の特性を示す図である。
図3の(a)に示す出力電圧Voutを生成する定常時では、インバータ102を流れる電流I2は、図3の(b)に示す電流波形となる。図5の(a)と比較すると、インバータ102には貫通電流が流れていないことが分かる。
【0026】
図3の(c)は、インバータ102の消費電流のスペクトラムであり、電源に生じる高調波ノイズの大きさに比例する。図5の(b)と比較すると、おおよそ100(dB)程度の高調波ノイズが低減されていることが分かる。
【0027】
以上に説明したように、本実施例に係る水晶発振回路100を構成するインバータ102は、CMLで構成されているので、CMOSインバータのように貫通電流を発生することがない。したがって、貫通電流による電源電圧(又はグランド)の変動がなく、当該変動に起因して発生する高調波ノイズをなくすことが可能となる。
【0028】
また、インバータ102は、抵抗R4だけ電圧降下したMOSトランジスタTra2のドレイン電圧を出力電圧としているので、CMOSインバータと比較して小さい振幅の出力電圧で発振することが可能となる。その結果、水晶発振回路100で消費される電力を小さくすることが可能となる。
【0029】
また、インバータ102は、複数のスイッチSW11及びSW12、SW21及びSW22、・・・、SW(n−1)1及びSW(n−1)2を備えるので、このスイッチをデジタル的に切替えることによって、容易にゲイン(出力振幅)の調整をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例に係る水晶発振回路の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るインバータの具体的な構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る水晶発振回路の特性を示す図である。
【図4】水晶発振回路の従来例を示す図である。
【図5】図4に示した水晶発振回路の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
100 ・・・ 水晶発振回路
101 ・・・ 共振回路
102 ・・・ インバータ
103 ・・・ 水晶振動子
201 ・・・ 信号反転回路
202 ・・・ 電流源回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子とキャパシタとを直列に接続した共振回路と、
該共振回路に対して並列に接続する定電流特性を有するインバータ回路と、
を備える水晶発振回路。
【請求項2】
前記インバータ回路は、ドレインが抵抗を介して電源と接続されるMOSトランジスタで構成される差動増幅回路であって、
入力電圧としてゲートにバイアス電圧が入力される第1のトランジスタと、
ゲートに入力信号が入力される第2のトランジスタと、
前記第1のトランジスタおよび前記第2のトランジスタのソースに共通に接続される電流源回路と、からなり、
前記第2のトランジスタのドレイン電圧を出力電圧とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の水晶発振回路。
【請求項3】
前記電流源回路は、可変電流源回路であることを特徴とする請求項2に記載の水晶発振回路。
【請求項4】
前記電流源回路は、第3のトランジスタと、複数の第4のトランジスタと、で構成されたカレントミラー回路であって、該第4のトランジスタの少なくとも1つ以上にスイッチを備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の水晶発振回路。
【請求項5】
前記スイッチは、所定の周波数が、前記水晶振動子が生成する発振周波数の整数倍である場合に前記インバータ回路に流れる電流が最小となるように切替えられ、前記所定の周波数の整数倍以外である場合に前記インバータ回路に流れる電流が最大となるように切替えられる、
ことを特徴とする請求項4に記載の水晶発振回路。
【請求項6】
前記スイッチは、発振開始時には前記インバータ回路に流れる電流が最大となるように切替えられ、定常時には前記インバータ回路に流れる電流が最小となるように切替えられる、
ことを特徴とする請求項4に記載の水晶発振回路。


【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−263312(P2008−263312A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103195(P2007−103195)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】