説明

水溶性有機溶剤の回収法

【課題】本発明は、少ない工程数によりかつ短時間のうちに、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から、水溶性有機溶剤を分離精製する方法を提供する。
【解決手段】水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から油状成分を分離して、水溶性有機溶剤を得る方法において、該混合物中の油状成分の沸点(℃)が、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の±25%の範囲内にあり、かつ該混合物に、油状成分の15〜300質量倍の水を加え、次いで、得られた混合物を、大気圧以下の圧力下に環境温度〜250℃の温度で蒸留して、油状成分と水溶性有機溶剤とを分離することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から油状成分を分離して、水溶性有機溶剤を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に水を加えて、例えば、静置分離等により水相と油相とに分離し、水相のみを取り出して、そこから水溶性有機溶剤を回収する方法は公知である。
【0003】
ラフィネートとスルホランとの混合物に水を加え、油水分離層にて油相と水相とに分離した後、水相を取り出し、この水相中に抽出されたスルホランを回収する方法が開示されている(特許文献1)。N-メチル-2-ピロリドンと機械油との混合物に水を加え、油水分離層にて油相と水相とに分離した後、水相を取り出し、この水相中に抽出されたN-メチル-2-ピロリドンを水から回収する方法が開示されている(特許文献2)。N-ホルミルモルホリンと炭化水素化合物との混合物に水を加え、油水を分離して水相を取り出し、この水相中に抽出されたN-ホルミルモルホリンを回収する方法が開示されている(特許文献3)。
【0004】
上記方法は少なくとも、(1)水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に水を加えて攪拌する工程、(2)該混合物を静置して水相と油相とに分離する工程、(3)分離した油相又は水相を取り出す工程、及び(4)取り出した相から目的物を、例えば、蒸留等により回収する工程を必要とし、従って、工程数が多くかつ複雑となる。
【0005】
上記方法を使用して水溶性有機溶剤の回収・精製を実施すると、工程(2)においてはエマルジョンの生成により混合物を水相と油相とに分離するために長時間を必要とし、又は混合物中に界面活性剤に類似する作用をする物質が含まれていることから、容易に水相と油相とに分離できないと言う問題が生じ得る。従って、工程(2)において著しく長時間を必要とする。一方、明確な相分離が生ずる前に水相を取り出すと、水溶性有機溶剤の回収率が低くなってしまう。
【0006】
上記方法では装置も複雑になると言う問題がある。例えば、工程(1)では攪拌機が取り付けられた槽等の混合装置、工程(2)では油水分離槽、工程(3)では油相又は水相を取り出すためのポンプ及び配管設備、並びに工程(4)では蒸留装置等が必要となる。従って、装置コストも高い。
【0007】
不純物を含有する溶剤に水蒸気を吹き込み、水蒸気と共に溶剤を蒸留回収する水蒸気蒸留法が知られている(非特許文献1)。しかし、該方法では、水蒸気発生装置、水蒸気を蒸留装置に導入するための配管及び水蒸気導入量の制御装置等の付属装置が必要になる。また、蒸留装置が複雑となり、蒸留条件の設定及び安定化のために熟練した技術が要求される。従って、装置及びその操作が著しく複雑になる。また、コスト高を余儀なくされる。
【0008】
【特許文献1】特公平6‐13715号公報
【特許文献2】特許第3564773号公報
【特許文献3】特開2003-238531号公報
【非特許文献1】化学工学便覧改訂5版、第466頁、化学工学協会編、丸善株式会社、1988年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、少ない工程数によりかつ短時間のうちに、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から、水溶性有機溶剤を分離回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から、水溶性有機溶剤を分離精製するための方法として、通常、蒸留が考えられる。しかし、水溶性有機溶剤と油状成分との沸点差が小さいと、蒸留による両者の分離は著しく困難となる。これを解決するために、従来から、上記のように該混合物に水を加えて静置分離した後に、水と水溶性有機溶剤との混合物を蒸留により精製する方法が採用されている。しかし、該方法では上記のように分離時間及びコストに問題があった。
【0011】
本発明者らは、該問題を解決すべく検討した。その結果、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に所定量の水を加えて蒸留すれば、静置分離して予め油状成分を分離せずとも、蒸留のみで著しく純度の高い水溶性有機溶剤を回収し得ることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から油状成分を分離して、水溶性有機溶剤を得る方法において、該混合物中の油状成分の沸点(℃)が、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の±25%の範囲内にあり、かつ該混合物に、油状成分の15〜300質量倍の水を加え、次いで、得られた混合物を、大気圧以下の圧力下に環境温度〜250℃の温度で蒸留して、油状成分と水溶性有機溶剤とを分離することを含む方法である。
【0013】
好ましい態様として、
(2)水添加量が油状成分の20〜150質量倍であるところの上記(1)記載の方法、
(3)水添加量が油状成分の25〜100質量倍であるところの上記(1)記載の方法、
(4)蒸留時の圧力が0.1〜200mmHgであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法、
(5)蒸留時の圧力が1〜150mmHgであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法、
(6)蒸留時の温度が40〜200℃であるところの上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法、
(7)蒸留時の温度が50〜150℃であるところの上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法、
(8)混合物中の油状成分の沸点(℃)が、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の±20%の範囲内にあるところの上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法、
(9)混合物中の油状成分の沸点(℃)が、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の−20〜+10%の範囲内にあるところの上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法、
(10)水溶性有機溶剤の沸点が150℃以上であるところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法、
(11)水溶性有機溶剤の沸点が200〜300℃であるところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法、
(12)水溶性有機溶剤が、2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐ホルミルモルホリン、スルホラン、ジプロピレングリコール、トリエチレングルコール及びトリエチレングルコールジメチルエーテルより成る群から選ばれるところの上記(1)〜(11)のいずれか一つに記載の方法、
(13)油状成分が炭素数8〜14の炭化水素化合物であるところの上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法は、静置分離をしないことから、著しく短時間で水溶性有機溶剤を回収し得る共に、工程数を減らすことによりコスト削減を達成し得る。また、水蒸気蒸留に比べて、装置及び操作が著しく簡便となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に水が加えられる。水の添加量の上限は、油状成分の300質量倍、好ましくは150質量倍、より好ましくは100質量倍であり、下限は、15質量倍、好ましくは20質量倍、より好ましくは25質量倍である。該添加量が上記下限未満では、蒸留により十分に油状成分を分離できず、上記上限を超えては、蒸留分離にエネルギーコスト及び時間がかかり過ぎる。
【0016】
水の添加量は、該混合物に対して、上限が好ましくは120質量%、より好ましくは100質量%、更に好ましくは95質量%であり、下限が好ましくは15質量%、より好ましくは20質量%、更に好ましくは25質量%である。添加する水は純水が好ましいが、水道水、工業用水、地下水等、多少の不純物が含まれているものであってもよい。
【0017】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物中の油状成分の沸点(℃)は、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の±25%、好ましくは±20%、より好ましくは−20〜+10%の範囲内にある。沸点が上記上限を超え下限未満では、水を添加して蒸留する必要性に乏しく、通常の蒸留法で分離可能である。
【0018】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に含まれる油状成分の量の上限は、混合物量に対して、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、更に好ましくは3質量%である。下限は、混合物量に対して、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.15質量%である。上記上限を超えては、該混合物を静置した際に、水溶性有機溶剤と油状成分相の二相に分離することが多く、このようなものは本発明の方法に適さない。このように二相に分離しているときは、好ましくは分離した水溶性有機溶剤相が本発明の対象となる。
【0019】
本発明における水溶性有機溶剤は、水100ミリリットル中に、好ましくは10ミリリットル以上、より好ましくは50ミリリットル以上、更に好ましくは100ミリリットル以上溶解する溶剤を言う。該水溶性有機溶剤としては、例えば、窒素含有化合物、硫黄含有化合物、酸素含有化合物が挙げられる。
【0020】
窒素含有化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、アリルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、アミルアミン、シクロヘキシルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、プロパノールアミン、N‐エチルエタノールアミン、N‐ブチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、N,N,N’,N’‐テトラメチルエチレンジアミン等のジアミン類、アセトアミド、ホルムアミド、N‐メチルホルムアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルトリアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピロリドン等のピロリドン類、モルホリン、N‐エチルモルホリン、N‐ホルミルモルホリン、アニリン、イミダゾール、カプロラクタム、テトラメチル尿素、ピコリン、ヒドラジン、ピペコリン、ピペラジン、ピペリジン、ピリジン、ピロリジン等が挙げられる。
【0021】
硫黄含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。
【0022】
酸素含有化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、フルフリルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、クロロプロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジオール、オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルアセタート、トリエチレングリコールモノメチルエーチル、トリエチレングリコールモノエチルエーチル、トリエチレングリコールジメチルエーチル、プロピレングリコールモノメチルエーチル、プロピレングリコールモノエチルエーチル、ジプロピレングリコールモノメチルエーチル、ジプロピレングリコールモノエチルエーチル、グリセリングリシジルエーテル、グリセリンモノアセタート、グリセリンジアセタート、グリセリントリアセタート等の多価アルコールの誘導体、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセタール類、アセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、ブチロラクトン等のエステル類等が挙げられる。
【0023】
上記の水溶性有機溶剤のうち、沸点が好ましくは150℃以上のもの、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは200℃以上の水溶性有機溶剤が使用される。また、水溶性有機溶剤の沸点の上限は、好ましくは400℃、より好ましくは350℃、更に好ましくは300℃である。該水溶性有機溶剤としては、好ましくは2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐ホルミルモルホリン、スルホラン、ジプロピレングリコール、トリエチレングルコール、トリエチレングルコールジメチルエーテルが挙げられる。この中でも、N‐ホルミルモルホリンがより好ましい。
【0024】
本発明における油状成分は、水溶性有機溶剤との沸点差が上記範囲内にあればよく、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素のいずれであってもよい。また、これらの炭素数の異なる混合物であってもよい。本発明における油状成分としては、例えば、炭化水素混合油からの芳香族炭化水素類の抽出蒸留において、抽出溶剤として使用された水溶性有機溶剤中に蓄積された炭素数8〜14の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び脂環式炭化水素の混合物、例えば、接触改質装置からの生成油の回収及びエチレン製造装置の分解ガソリン等からのベンゼンの回収において抽出溶剤として使用されたN‐ホルミルモルホリン中に蓄積されたオレフィンの二量体及び芳香族化合物、好ましくは炭素数4〜7のオレフィンが二量化したもの及びベンゼンに炭素数4〜7のオレフィンが結合したものが挙げられる。ここで、オレフィンとしては、上記の炭素数を有する種々のものが挙げられ、直鎖状でも分岐状でもよく、例えば、メチルペンテンが挙げられる。また、上記オレフィンの二重結合、ベンゼン環上の二重結合及びベンゼン環に結合したオレフィンの二重結合が水素添加されていてもよい。その他の油状成分としては、例えば、各種洗浄剤として使用された水溶性有機溶剤中に蓄積されたプレス油、切削油、機械油、モーター油、タール油、タービン油、グリース、又は重合体、縮合体、オリゴマー等の高分子量物等が挙げられる。
【0025】
本発明における水溶性有機溶剤と油状成分との組み合わせは、例えば、沸点150℃以上の水溶性有機溶剤と炭素数8〜14の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、2‐ピロリドンと沸点184〜306℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、2‐ピロリドンとプレス油との組み合わせ、N‐メチルピロリドンと沸点151〜253℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、N‐メチルピロリドンと機械油との組み合わせ、N‐メチルピロリドンと高分子量物との組み合わせ、N‐ホルミルモルホリンと沸点177〜296℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、N‐ホルミルモルホリンと切削油との組み合わせ、スルホランと沸点214〜356℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、スルホランとモーター油との組み合わせ、スルホランと高分子量物との組み合わせ、ジプロピレングリコールと沸点167〜278℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、ジプロピレングリコールとタール油との組み合わせ、ジプロピレングリコールと高分子量物との組み合わせ、トリエチレングリコールと沸点215〜359℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、トリエチレングリコールとタービン油との組み合わせ、トリエチレングリコールジメチルエーテルと沸点162〜270℃の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素との組み合わせ、トリエチレングリコールジメチルエーテルとグリース油との組み合わせ等が挙げられる。
【0026】
炭素数8〜14の脂肪族炭化水素としては、例えば、直鎖状又は分岐したアルカン、アルケン等が挙げられる。このうち炭素数12の脂肪族炭化水素について挙げれば、例えば、ドデカン、ドデセン、メチルウンデカン、メチルウンデセン、ジメチルデカン、ジメチルデセン、エチルデカン、エチルデセン、メチルエチルノナン、メチルエチルノネン、プロピルノナン、プロピルノネン、ジエチルオクタン、ジエチルオクテン、メチルプロピルオクタン、メチルプロピルオクテン等が挙げられる。
【0027】
炭素数8〜14の芳香族炭化水素としては、例えば、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ブチルベンゼン類、ペンチルベンゼン類、ヘキシルベンゼン類、ヘプチルベンゼン類、オクチルベンゼン類、ジメチルプロピルベンゼン、エチルメチルプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジメチルブチルベンゼン、エチルメチルブチルベンゼン、ジエチルブチルベンゼン、ジメチルシクロヘキシルベンゼン等が挙げられる。
【0028】
炭素数8〜14の環式炭化水素としては、例えば、ブチルシクロヘキサン類、ペンチルシクロヘキサン類、ヘキシルシクロヘキサン類、ヘプチルシクロヘキサン類、オクチルシクロヘキサン類、ブチルシクロヘキセン、ビシクロヘキサン等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に所定量の水を加え、従来技術で実施されているように静置分離をすることなく、次いで、得られた混合物を蒸留する。
【0030】
混合物の蒸留温度の上限は250℃、好ましくは200℃、より好ましくは150℃であり、下限は環境温度、好ましくは40℃、より好ましくは50℃である。上記上限を超えては、水溶性有機溶剤が分解し、又は水と反応し、又は重合する等の劣化の可能性があり、上記下限未満では、水が気化し難くなり蒸留が困難となる。
【0031】
蒸留圧力の上限は大気圧、好ましくは200mmHg、より好ましくは150mmHgであり、下限は、好ましくは0.1mmHg、より好ましくは1mmHgである。上記上限を超えては、高い蒸留温度が必要になり、水溶性有機溶剤の劣化が生ずる可能性があり、上記下限未満では、水溶性有機溶剤の気化が生じて蒸留効率が悪くなる可能性がある。
【0032】
本発明における蒸留はバッチ式又は連続式のいずれでも実施することができる。
【0033】
蒸留をバッチ式で行う場合には、蒸留釜に水溶性有機溶剤と油状成分との混合物と水を加えて蒸留を行う。蒸留の途中で温度及び圧力を変更することも可能である。
【0034】
蒸留を連続式で行う場合には、予め水溶性有機溶剤と油状成分との混合物に水を添加し、これを蒸留塔に導入してもよく、又は水溶性有機溶剤と油状成分との混合物と水とを別々に蒸留塔に導入してもよい。前者がより好ましく、この際、水溶性有機溶剤と油状成分との混合物及び水は蒸留塔に導入される前に、攪拌機付の供給槽中で予め十分に攪拌することが好ましい。
【0035】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物中に金属、金属塩、ポリマー等の固形物質が含まれているときは、該混合物を予め濾過して該固形物質を除去するか、又は本発明の蒸留により得られた水溶性有機溶剤を更に蒸留して、該固形物質を除去することもできる。後者の方法では、蒸留中に生じ得る高沸点劣化物を同時に除去することができる。この際、蒸留は好ましくは大気圧以下で実施される。
【0036】
本発明の方法によれば、回収された水溶性有機溶剤中の油液状物量は、上限が、回収された水溶性有機溶剤全量に対して、好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.1質量%である。また、回収された水溶性有機溶剤中の水量は、上限が、回収された水溶性有機溶剤全量に対して、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%である。いずれの量も上記上限を超えては、回収された水溶性有機溶剤が未使用の水溶性有機溶剤と同等に作用し得ない可能性が高い。例えば、回収されたN‐ホルミルモルホリンを、接触改質装置からの生成油の回収及びエチレン製造装置の分解ガソリン等からのベンゼン回収の抽出溶剤として再使用した際に所定の能力を発揮しない等の問題が生じ得る。
【0037】
(実施例)
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例及び比較例において、N‐ホルミルモルホリン中の水分及び油状成分量は下記の装置により測定した。
水分:株式会社ダイヤインスツルメンツ製、CA−100 微量水分測定装置(電量法)
油状成分量:株式会社島津製作所製、GC−17A ガスクロマトグラフィー
【0039】
(実施例1)
200ミリリットルの丸底フラスコに、接触改質装置からの生成油の抽出蒸留及びエチレン製造装置の分解ガソリン等からのベンゼンの抽出蒸留において得られた、炭素数8〜14の炭化水素の混合物である油状成分(沸点:約180〜約270℃)を1.0質量%含有するN‐ホルミルモルホリン100グラム及び水90グラムを仕込んだ。水の添加量は油状成分の90質量倍であった。減圧蒸留装置(理論段数:5段)に該丸底フラスコを取り付け、まず30mmHgに減圧し、次いで、内容物を120℃まで徐々に昇温して蒸留した。この間、減圧開始時から水と油状成分の混合物が塔頂から留出し始め、昇温に伴って更に留出し、温度が120℃に達した後、約30分間保持して蒸留を終えた。減圧開始から蒸留終了までの時間は約9.5時間であった。ここまでの所要時間は、N‐ホルミルモルホリンの丸底フラスコへの導入、水の添加、減圧蒸留装置への丸底フラスコ取り付け、減圧、昇温及び蒸留を含めて、合計10時間であった。塔頂から水と油状成分の混合物の約90グラムが除去された。
【0040】
丸底フラスコ内の圧力を大気圧に戻してから留出分を受ける容器を取り替えた。この間に内容物温度を110℃に下げた。次いで、内容物温度を110℃に保ちつつ、丸底フラスコ内を5mmHgまで徐々に減圧して蒸留し、塔頂よりN‐ホルミルモルホリン約96グラムを抜き出した。一方、丸底フラスコ底部には、N‐ホルミルモルホリン及び油状成分から誘導された高沸点物が残った。この間、減圧開始時からN‐ホルミルモルホリンが塔頂から留出し始め、圧力を下げるに従って更に留出し、圧力が5mmHgに達した後、約1時間保持して蒸留を終えた。減圧開始から蒸留終了までの時間は約5.5時間であり、作業に要した時間は合計6時間であった。従って、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で16時間であった。
【0041】
抜き出したN‐ホルミルモルホリン中には水分が0.06質量%存在した。また油状成分は検出限界以下であった。N‐ホルミルモルホリンのロス量は合計で3.1質量%であった。
【0042】
(実施例2)
水の仕込み量を30グラム(油状成分の30質量倍)とした以外は実施例1と同様にして丸底フラスコにN‐ホルミルモルホリン及び水を仕込んだ。実施例1と同じ減圧蒸留装置に該丸底フラスコを取り付け、100mmHgに減圧し、次いで、内容物を100℃まで徐々に昇温し、該温度で約30分間保持して蒸留を終えた。減圧開始から蒸留終了までの時間は約4.5時間であり、ここまでの所要時間は合計5時間であった。塔頂から水と油状成分の混合物を除去した。
【0043】
次いで、丸底フラスコ内の圧力を30mmHgとし、かつ温度を120℃にし、該温度で30分間保持して、塔頂より更に水と油状成分の混合物約31グラムを除去した。一方、丸底フラスコ内にN‐ホルミルモルホリン約99グラムを得た。この間、減圧開始から蒸留終了までの時間は約4時間であり、この作業に要した時間は合計4.5時間であった。従って、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で9.5時間であった。
【0044】
丸底フラスコ内に残ったN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.08質量%及び水分が0.34質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロスは殆どなかった。
【0045】
(実施例3)
水の仕込み量を50グラム(油状成分の50質量倍)とした以外は実施例2と同様に実施した。丸底フラスコ内にN‐ホルミルモルホリン約99グラムを得た。N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は実施例2と同じ合計で9.5時間であった。
【0046】
丸底フラスコ内に残ったN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.01質量%及び水分が0.35質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロスは殆どなかった。
【0047】
(実施例4)
水の仕込み量を70グラム(油状成分の70質量倍)とした以外は実施例1と同様にして丸底フラスコにN‐ホルミルモルホリン及び水を仕込んだ。実施例1と同じ減圧蒸留装置に該丸底フラスコを取り付け、35mmHgに減圧し、次いで、内容物を125℃まで徐々に昇温し、該温度で約30分間保持して蒸留を終えた。塔頂より水と油状成分の混合物約71グラムを除去した。一方、丸底フラスコ内にN‐ホルミルモルホリン約99グラムを得た。減圧開始から蒸留終了までの時間は約6.5時間であり、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で7時間であった。
【0048】
フラスコ内に残ったN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.02質量%及び水分が0.06質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロスは殆どなかった。
【0049】
(実施例5)
実施例2と同じく100℃及び120℃での蒸留を実施した。次いで、丸底フラスコ内の圧力を大気圧に戻してから留出分を受ける容器を取り替えた。この間に内容物温度を110℃に下げた。次いで、内容物温度を110℃に保ちつつ、丸底フラスコ内を5mmHgに減圧して蒸留し、塔頂よりN‐ホルミルモルホリン約97グラムを抜き出した。一方、フラスコ底部には、N‐ホルミルモルホリン及び油状成分から誘導された高沸点物が残った。この間、減圧開始時からN‐ホルミルモルホリンが塔頂から留出し始め、圧力を下げるに従って更に留出し、圧力が5mmHgに達した後、約1時間保持して蒸留を終えた。減圧開始から蒸留終了までの時間は約5.5時間であり、最後の蒸留に関連した作業に要した時間は合計6時間であった。従って、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で15.5時間であった。
【0050】
抜き出したN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.05質量%及び水分が0.05質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロスは2.0質量%であった。
【0051】
(実施例6)
実施例4と同じに35mmHg及び125℃での蒸留を実施した。次いで、内容物温度を110℃に下げ、該温度に保ちつつ丸底フラスコ内を5mmHgに減圧して蒸留した。塔頂よりN‐ホルミルモルホリン約96グラムを抜き出した。一方、フラスコ底部には、N‐ホルミルモルホリン及び油状成分から誘導された高沸点物が残った。この間、減圧開始時からN‐ホルミルモルホリンが塔頂から留出し始め、圧力を下げるに従って更に留出し、圧力が5mmHgに達した後、約1時間保持して蒸留を終えた。減圧開始から蒸留終了までの時間は約5.5時間であり、最後の蒸留に関連した作業に要した時間は合計6時間であった。従って、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で13時間であった。
【0052】
抜き出したN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.02質量%及び水分が0.05質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロス量は2.9質量%であった。
【0053】
(実施例7)
水の仕込み量を50グラム(油状成分の50質量倍)とした以外は実施例5と同様に実施した。塔頂よりN‐ホルミルモルホリン約97グラムを抜き出した。一方、フラスコ底部には、N‐ホルミルモルホリン及び油状成分から誘導された高沸点物が残った。N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で15.5時間であった。
【0054】
抜き出したN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.02質量%及び水分が0.06質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロス量は2.4質量%であった。
【0055】
(実施例8)
油状成分を1.5質量%含有するN‐ホルミルモルホリンを使用した以外は、実施例1と同一に実施した。水の添加量は油状成分の60質量倍であった。N‐ホルミルモルホリン約96グラムが得られた。
【0056】
得られたN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.01質量%及び水分が0.05質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロス量は3.0質量%であった。
【0057】
(比較例1)
水の仕込み量を10グラム(油状成分の10質量倍)とした以外は実施例2と同様に実施した。丸底フラスコ内にN‐ホルミルモルホリン約99グラムを得た。N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で9.5時間であった。
【0058】
得られたN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.19質量%及び水分が0.24質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロスは殆どなかった。
【0059】
(比較例2)
水の仕込み量を10グラム(油状成分の10質量倍)とした以外は実施例5と同様に実施した。蒸留装置の塔頂よりN‐ホルミルモルホリン約97グラムを抜き出した。N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で15.5時間であった。
【0060】
抜き出したN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.18質量%及び水分が0.05質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロス量は1.8質量%であった。
【0061】
(比較例3)
300ミリリットルの分液ロートに、実施例1と同一のN‐ホルミルモルホリン100グラム及び水30グラムを仕込んだ。次いで、これを振とうして混合した後、静置した。一昼夜静置後、二層に分離したので下層の水相を200ミリリットルの丸底フラスコに移した。実施例1と同じ減圧蒸留装置に該丸底フラスコを取り付け、5mmHgに減圧し、次いで、内容物を110℃に昇温して蒸留し、塔頂から水の留出がなくなるまで継続した。フラスコ内にN‐ホルミルモルホリン約95グラムを得た。水相を丸底フラスコに導入して、蒸留を終えるまでの時間は6時間であった。従って、N‐ホルミルモルホリンの分離に要した時間は合計で36時間であった。
【0062】
フラスコ内に残ったN‐ホルミルモルホリン中には油状成分が0.02質量%及び水分が0.05質量%存在した。N‐ホルミルモルホリンのロス量は4.3質量%であった。
【0063】
(比較例4)
300ミリリットルの分液ロートに、実施例1と同一のN‐ホルミルモルホリン100グラム及び水50グラムを仕込んだ。次いで、これを振とうして混合した後、静置した。一日以上静置したが、エマルジョンを形成し、水相と油相との分離はできなかった。
【0064】
上記の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

*1:油状成分に対する質量倍を示す。
*2:エマルジョンを形成し油水分離できなかった。
【0066】
実施例1〜8は、本発明の方法に従って、炭素数8〜14の炭化水素の混合物である油状成分を含むN‐ホルミルモルホリンを蒸留して、N‐ホルミルモルホリンを回収したものである。回収したN‐ホルミルモルホリン中の油状成分の含有量は極めて少なく、高純度のN‐ホルミルモルホリンを回収し得ることが分かった。実施例2及び3は、添加する水量を変えたものである。水量を多くすると回収したN‐ホルミルモルホリン中の油状成分の含有量をより少なくし得ることが分かった。実施例5は、実施例2において得たN‐ホルミルモルホリンを更に蒸留に付したものである。実施例5は、実施例2に比べて多少N‐ホルミルモルホリンのロスは多くなったが、油状成分及び水の含有量を著しく低下させることができた。実施例6は、実施例4において得たN‐ホルミルモルホリンを更に蒸留に付したものである。実施例4に比べて多少N‐ホルミルモルホリンのロスが多くなったが、水含有量を更に低下させることができた。実施例7は、実施例3において得たN‐ホルミルモルホリンを更に蒸留に付したものである。実施例7は、実施例3に比べて多少N‐ホルミルモルホリンのロスが多くなったが、水含有量を著しく低下させることができた。実施例8は、油状成分の含有量がより多いN‐ホルミルモルホリンを実施例1と同一条件で蒸留したものである。実施例1と同様のN‐ホルミルモルホリンが得られた。
【0067】
比較例1は、油状成分に対する水の添加量を、実施例1の90質量倍から10質量倍としたものである。また、比較例2は、油状成分に対する水の添加量を、実施例5の30質量倍から10質量倍としたものである。実施例1及び5に比べて、回収したN‐ホルミルモルホリン中の油状成分及び水の含有量は著しく多く、分離が不十分であることが分かった。比較例3及び4はいずれも、静置分離によりN‐ホルミルモルホリンと油状成分の分離を試みたものである。比較例3では分離はできたものの著しく長時間を要した。また、N‐ホルミルモルホリンのロスも著しく多くなった。比較例4では、水の添加によりエマルジョンを生じ分離できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の水溶性有機溶剤の分離法は、例えば、接触改質装置からの生成油の抽出蒸留及びエチレン製造装置の分解ガソリン等の炭化水素混合油からの芳香族炭化水素類の抽出蒸留において、抽出溶剤として使用された水溶性有機溶剤中に蓄積された炭化水素化合物を除去して、水溶性有機溶剤を回収する方法、又は、各種の洗浄剤として使用された水溶性有機溶剤中に蓄積されたプレス油、切削油、機械油、モーター油、タール油、タービン油、グリース、重合物、縮合体、オリゴマー等の高分子量物等を除去して水溶性有機溶剤を回収する方法等に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機溶剤と油状成分との混合物から油状成分を分離して、水溶性有機溶剤を得る方法において、該混合物中の油状成分の沸点(℃)が、水溶性有機溶剤の沸点(℃)の±25%の範囲内にあり、かつ該混合物に、油状成分の15〜300質量倍の水を加え、次いで、得られた混合物を、大気圧以下の圧力下に環境温度〜250℃の温度で蒸留して、油状成分と水溶性有機溶剤とを分離することを含む方法。
【請求項2】
水溶性有機溶剤の沸点が150℃以上であり、かつ油状成分が炭素数8〜14の炭化水素化合物であるところの請求項1記載の方法。
【請求項3】
水溶性有機溶剤が、2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピロリドン、N‐ホルミルモルホリン、スルホラン、ジプロピレングリコール、トリエチレングルコール及びトリエチレングルコールジメチルエーテルより成る群から選ばれるところの請求項1又は2記載の方法。

【公開番号】特開2007−137859(P2007−137859A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337055(P2005−337055)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【Fターム(参考)】