説明

水素ステーション

【課題】簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供する。
【解決手段】燃料電池自動車27の内部に搭載される車載水素タンク28に水素を供給するための水素ステーションであって、駆動機5にて駆動される低圧段側の往復動圧縮機4と、回転数制御可能な駆動機15にて駆動される高圧段側の往復動圧縮機15を備え、車載水素タンク28にはその内部の温度Tdを検出可能な温度センサ29が付設され、温度Tdに基づき、駆動機15の回転数を制御するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池自動車、水素自動車等に水素を供給する水素ステーションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、自動車の排気ガスに含まれる二酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)、浮遊粒子状物質(PM)などによる地球温暖化、大気汚染の影響が懸念されている。このため、従来のガソリン内燃機関型自動車にかわり、積載された燃料電池で水素と酸素の化学反応に基づく電気エネルギーを利用して駆動する燃料電池自動車(FCV)が着目されている。
【0003】
燃料電池自動車は、上述した二酸化炭素等を排出せず、他の有害物質も排出しない。また、燃料電池自動車は、ガソリン内燃機関型自動車よりもエネルギー効率に優れるなど、ガソリン内燃機関型自動車にない種々の利点を有している。
【0004】
ところで、燃料電池自動車には、大別すると、水素ステーションから水素を補給するタイプのものと、水素以外の燃料を補給して車載改質器で水素を製造するタイプのものとがあるが、二酸化炭素(CO)削減の効果等から、前者のほうが優位であるとみなされている。従って、燃料電池自動車と、それに水素を補給するための水素ステーションの研究、開発が急がれている。
【0005】
水素ステーションから、水素を補給するタイプの燃料電池自動車の場合には、直接、自動車に積載された水素タンクに高圧に圧縮された水素を補給する。なお、供給元の高圧の気体を供給先の低圧側の状態に移行(すなわち膨張)させる際、圧力差を保ちながらその気体を膨張させた場合には、ジュール・トムソン効果による温度の変化が生じる。
【0006】
ジュール・トムソン効果による温度の変化は、気体の当初の温度に依存し、その温度が逆転温度以下であれば、温度は低下し、そうでなければ、温度は上昇する。しかしながら、水素の逆転温度は、215K(−58.15℃)程度と、他の気体に比してかなり低温であるため、得てして、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇が生じる。
【0007】
したがって、水素ステーションには、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避するための設備等が必要となる。そして、そのための種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、水素供給源と水素タンクとを接続する接続工程、水素供給源と水素タンクとを結ぶ流路上に備えられた充填速度可変手段により水素タンク内の圧力に応じて水素の充填速度を速める充填工程を有する、水素タンクへの水素急速充填方法(その水素急速充填方法を実現した水素ステーション)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−355795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、水素ステーションには、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避するための設備等が必要となっている。そのための種々の提案はなされつつあるが、技術の豊富化の観点から、更なる提案が求められている。
【0010】
ところで、水素ステーションには圧縮機が具備される。その圧縮機には、供給先の水素タンクに多量の水素を補給するために、100MPaといった非常に高い圧力まで水素を昇圧する能力が求められる。このため、水素ステーション向けの圧縮機には、いわゆる往復動圧縮機(レシプロ圧縮機)の採用が検討されている。なお、往復動圧縮機には、ダイアフラム式圧縮機、ピストン式圧縮機、プランジャー式圧縮機、イオニックコンプレッサなどが知られている。
【0011】
なお、往復動圧縮機では通常、供給する流体の量を調整するための機構として、「吸込弁アンローダ方式」(シリンダの吸込弁板を押さえつけて開放し,いったん吸込んだガスを吸込側へ逆流させて圧縮仕事を行わないようにして流量を調整する方式)、「クリアランスポケット方式」(シリンダヘッドなどに取付けられたクリアランスポケットを開閉することによって筒隙(クリアランス)容積を変化させる方式)が多く採用されている。
【0012】
しかしながら、「吸込弁アンローダ方式」も「クリアランスポケット方式」式も段階的な調整となり、圧力の一定制御、あるいは温度の一定制御が難しくなるという課題がある。
【0013】
なお、上述の方式のうち、「吸込弁アンローダ方式」については、吸込弁アンローダ機構に油圧制御を組合せることによって約20〜100%の容量の範囲を無段階に調整できる方式のものが提案されているが、設備が大仰となるなどの課題もある。
【0014】
そこで、本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、回転数制御可能な駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、前記水素タンクの内部の温度に基づき、前記駆動機の回転数を制御するよう構成されてなることを特徴とする。
【0016】
このように構成することによって、簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【0017】
また、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記駆動機の回転数を減少させ、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より低い場合には前記駆動機の回転数を増加させて制御するように構成されても良い。
【0018】
さらに、前記駆動機の回転数の減少の割合または増加の割合が一定になるように構成されても良い。
【0019】
あるいは、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記水素タンクの内部の温度と前記基準温度の温度差が大きいほど、前記駆動機の回転数の減少の割合が大きくなるように構成されても良い。
【0020】
また、前記往復動圧縮機と前記駆動機とを接続する駆動軸にフライホイールが介設されていても良い。
【0021】
自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、調整弁が介設され、前記往復動圧縮機の吐出側から、当該往復動圧縮機の吸い込み側を接続する戻し流路が設けられ、前記水素タンク内部の温度に基づき、前記調節弁の開度を調整し、前記戻し流路を介して、前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されてなることを特徴とする。
【0022】
このように構成しても、簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【0023】
前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記調節弁の開度を大きくし、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より低い場合には前記調節弁の開度を小さくして前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されていても良い。
また、前記水素タンクの内部の温度に基づき、前記駆動機の回転数を制御する構成に替えて、水素タンクに水素を供給する水素充填流路の内部の温度に基づき、前記駆動機の回転数を制御するようにしても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水素ステーションの構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態の変形に係る水素ステーションの構成を概略的に示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る水素ステーションの制御における車載水素タンクの内部の温度と高圧段側の往復動圧縮機の駆動機の回転数の相関を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る水素ステーションの構成を概略的に示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る水素ステーションの構成を概略的に示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る水素ステーションの制御における車載水素タンクの内部の温度と戻し流路に介設された調整弁の開度の相関を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水素ステーション1の構成を示している。この水素ステーション1は、まず、図示しない水素の供給源から、フィルター2の介設された供給流路3を介して、低圧段側の往復動圧縮機4に水素が供給されるよう、構成されている。
【0028】
この低圧段側の往復動圧縮機4には駆動機5(電動機等)が接続されている。駆動機5の回転によって、この往復動圧縮機4は駆動される。往復動圧縮機4で圧縮された水素は、中間流路6に吐出される。このときの往復動圧縮機4の吐出側の圧力は例えば40MPaに制御される。中間流路6には、圧縮され、高温となった水素を冷却するためのクーラ7が介設されている。そして、中間流路6は分岐点6aにて、2つの流路に分岐されている。分岐点6aにて分岐された中間流路6の一方は開閉弁8、分岐点6bを介して、第1の中間圧蓄圧器9に達する。また、分岐点6aにて分岐された中間流路6の他方は開閉弁10、分岐点6cを介して、第2の中間圧蓄圧器11に達する。
【0029】
そして、中間流路6は、第1の中間圧蓄圧器9からは分岐点6bと開閉弁12を介して、また、第2の中間圧蓄圧器11からは分岐点6cと開閉弁13を介して、合流点6dにて合流し、高圧段側の往復動圧縮機14に達するよう構成されている。
【0030】
なお、この高圧段側の往復動圧縮機14には駆動機15が接続されている。駆動機15の回転によって、この往復動圧縮機14は駆動される。駆動機15は、インバータにて駆動される電動機であって、回転数制御可能な、すなわち任意の回転数によって回転させることの可能なものである。なお、駆動機15は回転数制御可能なものであれば良く、インバータにて駆動される電動機に限定されるものではない。
【0031】
第1の中間圧蓄圧器9、第2の中間圧蓄圧器11は、低圧段側の往復動圧縮機4から供給された水素を一旦、貯留する機能を担っている。
【0032】
なお、分岐点6bと第1の中間圧蓄圧器9との間の中間流路6には、圧力センサ16が介設されている。また、分岐点6cと第2の中間圧蓄圧器11との間の中間流路6には、圧力センサ17が介設されている。
【0033】
開閉弁8は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第1の閾値より低い場合に開けられる。逆に、開閉弁8は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第1の閾値以上の場合に閉められる。この開閉弁8の開閉動作(特に閉じる動作)によって、低圧段側の往復動圧縮機4から供給される水素の量が過多となり、第1の中間圧蓄圧器9の内圧が上昇しすぎるのを防止している。
【0034】
開閉弁10も、開閉弁8と同様に、圧力センサ17での検出圧力P2が予め設定された第2の閾値より低い場合に開けられる。逆に、開閉弁10は、圧力センサ17での検出圧力P2が予め設定された第2の閾値以上の場合に閉められる。この開閉弁10の開閉動作(特に閉じる動作)によって、低圧段側の往復動圧縮機4から供給される水素の量が過多となり、第2の中間圧蓄圧器11の内圧が上昇しすぎるのを防止している。
【0035】
更に、開閉弁12は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第3の閾値より低い場合に閉められる。逆に、開閉弁12は、圧力センサ16での検出圧力P1が予め設定された第3の閾値以上の場合に開けられる。この開閉弁12の開閉動作によって、高圧段側の往復動圧縮機14へ供給される水素の圧力が極端に低くなることを防止している。
【0036】
なお、開閉弁13は、開閉弁12と同様に、圧力センサ17での検出圧力P2が予め設定された第4の閾値より低い場合に閉められる。逆に、開閉弁13は、圧力センサ17での検出圧力P2が予め設定された第4の閾値以上の場合に開けられる。これの開閉弁13の開閉動作によっても、高圧段側の往復動圧縮機14へ供給される水素の圧力が極端に低くなることを防止している。
【0037】
往復動圧縮機14で圧縮された水素は、吐出流路18に吐出される。このときの往復動圧縮機14の吐出側の圧力は例えば100MPaに制御される。吐出流路18には、圧縮され、高温となった水素を冷却するためのクーラ19が介設されている。
【0038】
クーラ19以降の、吐出流路18には、順に、流量調整弁20、流量計21、クーラ22が介設されている。流量調整弁20はその下流の流量計21で検出された流量値に基づき、その開度が制御され、流量調整弁20を通じる水素の流量を適正に調整する機能を担っている。吐出流路18の末端に配設されたクーラ22によって、その上流のクーラ19で冷却された水素を更に冷却する。たとえば、クーラ19では130℃程度の高温の水素を40℃程度にまで冷却し、更に、クーラ22ではその40℃程度の水素を−40℃程度にまで冷却する。
【0039】
このようにして、クーラ22により冷却され、最終的に温度調整が行なわれた水素は、クーラ22の出側から燃料電池自動車27に設けられた後述の充填ノズル26の入側に至る水素充填流路34により同燃料電池自動車27の車載水素タンク28に供給、充填されることになる。なお、水素充填流路34におけるクーラ22の出側直後には遮断弁23が配設されており、この遮断弁23は吐出流路18に設けられた前記流量調整弁20、流量計21とともにディスペンサー(充填機)を構成する。
【0040】
そして、水素充填流路34の途上(水素ステーション側の最も下流の端部)には、緊急離脱カップラー24が設けられている。この緊急離脱カップラー24はこれを介して燃料電池自動車27側に伸びる充填ホース25が極めて強い力で引っ張られた場合に離脱し、水素ガスの供給先側(燃料電池自動車27側)、あるいはそれと反対の水素ガスの供給元側の双方から、高圧の水素ガスが噴出しないよう、構成されてなるものである。
【0041】
さらに緊急離脱カップラー24から伸びる充填ホース25の最も下流の端部には充填ノズル26が設けられている。充填ノズル26は、燃料電池自動車27の図示しないノズル口に接続される。そして、水素ステーション1から供給される水素は、燃料電池自動車27の内部に搭載される車載水素タンク28に供給される。
【0042】
車載水素タンク28にはその内部の温度Tdを検出可能な温度センサ29が付設されている。なお、この温度センサ29は、車載水素タンク28の内部の温度Tdを正確に検出するために、その車載水素タンク28を構成する容器そのものに付設されることが望ましいが、これに限るものではない。例えば、温度センサで検出される温度Td’が、上述の温度Tdとほぼ同一か、温度Tdを導出できる値であれば、その温度センサを、上述の温度Tdを直接的、あるいは間接的に検出しうる温度センサ29として採用できる。具体的には、燃料電池自動車27の図示しないノズル口から、車載水素タンク28に至るまでの流路の部分に、図1に示した温度センサ29aのようなものを備えても良い。
【0043】
さらに、クーラ22の出側から燃料電池自動車27に設けられた充填ノズル26の入側に至る水素充填流路34の任意の位置にその内部の温度Tdを検出可能な温度センサ29を設けても良い。図2はこの具体例を示すもので、水素充填流路34の遮断弁23の出側の位置に温度センサ29が設けられたものである。この場合、水素充填流路34内の温度Tdは車載水素タンク28の内部の温度Tdとは異なり、低温となるが、両者の温度には相関があるため水素充填流路34内の温度から車載水素タンク28の内部の温度を比較的精度良く推定することが可能である。すなわち、水素充填流路34内の温度Tdは車載水素タンク28の内部の温度Tdとは絶対値としては異なるが、互いに相関があるものゆえに、実質的には同様に取り扱うことができる。つまり、以下の説明において「車載水素タンク28の内部の温度Td」との文言は「水素充填流路34内の温度Td」との文言に換言することもできる。また、この例のように、水素ステーション1c側の配管流路に温度センサをディスペンサーの一部として一体的に組み込むことで、燃料電池自動車に個々に温度センサを装備する必要がなく、また燃料電池自動車側から無線(あるいは有線)によってステーション側に温度データを送受信することも不要となる。このため、燃料電池自動車側とステーション側の双方にそれぞれ、温度データを送受信するための送信機・受信機が不要となる。送信機・受信機がないために、送信機・受信機間における(あるいは送信機・受信機内部における)外乱によるデータの通信不調を生じ得ないという利点がある。また、更に、送信機・受信機がないために、その分のコストが少なくて済む利点もある。
【0044】
さて、図1(あるいは図2)において、温度センサ29で検出された温度Tdにかかる信号は水素ステーション1(あるいは水素ステーション1c)側に設けられたコントローラ30に入力される。コントローラ30は、温度Tdにかかる信号に基づき、駆動機15の回転数、ひいては、高圧段側の往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を制御、すなわち往復動圧縮機14の容量を制御することができるよう、構成されている。
【0045】
続いて、水素ステーション1(あるいは水素ステーション1c)における制御について、説明する。
上述したように、クーラ19で冷却された水素は、クーラ22によって、更に冷却され、たとえば、−40℃の低温とされる。
【0046】
ただし、この低温(高圧)の水素には、車載水素タンク28に供給される際に、上述したジュール・トムソン効果による温度の変化が生じ、その温度は通常、上昇する。一方、通常、金属や樹脂にて形成されたライナーとその外周面に積層された繊維強化樹脂層などから構成される車載水素タンク28には、許容される上限温度Tthが仕様上、あるいは技術基準上、予め定まっている。その上限温度Tthは例えば、圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準(JARI S 001)によれば、85℃である。したがって、車載水素タンク28に水素が供給される際に、温度の上昇が生じても、その車載水素タンク28の内部の温度Tdが、上限温度Tthより更に低温の(上限温度Tthより余裕をもった)上限値Tth−Δt(Δtは例えば20℃)に相当する基準温度(Tb)を予め設定(Tbは例えば65℃)し、この基準温度(Tb)をなるべく超えないように(あるいは、この基準温度(Tb)を越えることはあっても、その時間が短時間に抑制されるように、更に上限温度Tthを超えないように)管理する必要がある。なお、基準温度(Tb)は、上限温度Tthより低い、任意の温度の範囲(Tb1〜Tb2)として設定しても勿論かまわないものである。
【0047】
そして、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)を超える高温の場合は、高圧段側の往復動圧縮機14の駆動機15の回転数を減少させ、同往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を減少させ、クーラ19、22による冷却効率を相対的に高め、車載水素タンク28に供給される水素の供給量を減少させるとともにその温度を低下(車載水素タンク28に水素が供給され、膨張する際の、ジュール・トムソン効果による温度の上昇を抑制)させ、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)になるように制御される。
【0048】
また、一方で、車載水素タンク28の内部の温度Tdが上記基準温度(Tb)未満の低温の場合は、逆に往復動圧縮機14の駆動機15の回転数を増加させる制御が成される。これにより、同往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を増加させ、クーラ19、22による冷却効率を相対的に下げて、車載水素タンク28に供給される水素の供給量を増加させつつも、車載水素タンク28の内部の温度Tdが基準温度(Tb)になるように制御される。このように、温度Tdを許容される上限温度Tth以下の基準温度(Tb)に保持することにより、車載水素タンク28の高温下での劣化や破損などの恐れもなく、安全を確保した上で、且つ車載水素タンク28への水素の補給、充填を効率的に実施することができる。
【0049】
このため、前述のとおり、水素ステーション1(あるいは水素ステーション1c)では、コントローラ30が、温度Tdにかかる信号に基づき、駆動機15の回転数、ひいては、高圧段側の往復動圧縮機14より吐出される水素の流量を制御、すなわち往復動圧縮機14の容量を制御する。
【0050】
コントローラ30は記憶手段を具備している。コントローラ30は、その記憶手段にて、車載水素タンクの内部の温度Tdと、基準温度Tb、温度Tdと駆動機15の回転数Rとの関係式や相関データを記憶している。上述の関係式や相関データは、図3(の実線Aや破線B)に示すように、また、後述するように、温度Tdが低い値であると、対応する回転数Rは高い値となり、逆に、温度Tdが高い値であると、対応する回転数Rは低い値となるように構成される。
【0051】
そして、コントローラ30は、この記憶された関数式や相関データと、温度センサ27で検出された温度Td及び基準温度Tbに基づいて、駆動機15の回転数Rを決定し、その回転数Rによって、駆動機15、ひいては往復動圧縮機14を駆動する。すなわち、コントローラ30は、温度Tdが高くなるに従って、駆動機15の回転数Rが小さくなるよう、制御する。
【0052】
つまり、温度Tdが基準温度Tbより低い値であると、車載水素タンク28に供給される水素は十分に冷却されていることとなるので、高い回転数Rにて比較的大きな容量にて、往復動圧縮機14は駆動される。逆に温度Tdが基準温度Tbより高い値であると、車載水素タンク28に供給される水素の冷却は不十分ということになるため、低い回転数Rにて容量を減らした状態で、往復動圧縮機14は駆動される。
【0053】
このように構成することで簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、車載水素タンク28への補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【0054】
また、図3では、温度Tdが高くなるにつれて、比例的に回転数Rが減少する、すなわち温度Tdが高くなっても、温度Tdの増加分に対する回転数Rの減少分の比率が変化しない関係を表した実線Aと、温度Tdが高くなるにつれて、減少の度合い自体が大きくなるように回転数Rが減少する、すなわち温度Tdが高くなると、温度Tdの増加分に対する回転数Rの減少分の比率が増大する関係を表した破線Bとを示している。
【0055】
前者(実線A)であれば、駆動機15の回転数は一定の割合で変更されることになり、急激な回転数の変更が為されないので、安定的な制御を実現できる。また、車載水素タンク28の内部の温度が上限値Tth−Δtに達することを極力避けたい場合には、後者(破線B)のように、温度Tdに対する回転数Rの値を定めることが好ましい。
【0056】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る水素ステーション1aの構成を示している。この水素ステーション1aは、上述の第1の実施形態にかかる水素ステーション1とほとんどの構成を共通するものである。ただし、水素ステーション1aでは、高圧段側の往復動圧縮機14と駆動機15とを接続する駆動軸にフライホイール31が介設されている。
【0057】
例えば、駆動機15がエンジン等で構成されているものである場合、吸入、圧縮、燃焼、排出の各行程の状態を調整(燃料の吸入量の調整など)することで回転数制御が可能である。ただし、上述した各行程ごとに生じる回転数の差によって、滑らかな回転が阻害される恐れがある。ただし、この水素ステーション1aでは、フライホイール31を高圧段側の往復動圧縮機14と駆動機15とを接続する駆動軸にフライホイールを介設しているので、上述の各行程ごとの回転数の差が低減され、滑らかな回転が可能となる。
【0058】
また、このフライホイール31を備えたことで、高圧段側の往復動圧縮機14と駆動機15の固有振動数を駆動機15の回転数の制御の範囲に含めないよう調整し、ねじり振動を抑制することができる。したがって、このフライホイール31を備えた水素ステーション1aでは、それを備えないもの(水素ステーション1)に比し、駆動機15の回転数の制御の範囲、ひいては、往復動圧縮機14の容量の制御の範囲を増大させることができる。
【0059】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係る水素ステーション1bの構成を示している。この水素ステーション1aは、上述の第1の実施形態にかかる水素ステーション1とほとんどの構成を共通するものである。ただし、水素ステーション1では、温度Tdに基づき、駆動機15の回転数を制御するよう、構成されていたのに対し、水素ステーション1bでは、温度Tdに基づき、後述の調整弁32の開度を調整し、後述の戻し流路33を介して、高圧段側の往復動圧縮機14の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量(戻し量)を調整するよう、構成されている。
【0060】
水素ステーション1bでは、調整弁32が介設され、クーラ19の下流の吐出流路18(高圧段側の往復動圧縮機14の吐出側)から、合流点6でより下流で且つ往復動圧縮機14の上流の中間流路6(高圧段側の往復動圧縮機14の吸い込み側)を接続する戻し流路33が設けられている。調整弁32の開度は、コントローラ30によって、温度Tdに基づき、調整される。
【0061】
コントローラ30は、記憶手段にて、前記素タンクの内部の温度Tdと基準温度Tb、温度Tdと調整弁32の開度との関係式や相関データを記憶している。上述の関係式や相関データは、図6に示すように、温度Tdが基準温度Tbより低い値であると、対応する調整弁32の開度は小さい値となり、逆に、温度Tdが基準温度Tbより高い値であると、対応する調整弁32の開度は大きい値となるように構成される。
【0062】
そして、コントローラ30は、この記憶された関数式や相関データと、温度センサ27にて検出された温度Tdと基準温度Tbに基づいて、調整弁32の開度を決定し、その調整弁32の開度によって、戻し流路33を介して高圧段側の往復動圧縮機14の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量(戻し量)が調整される。すなわち、コントローラ30は温度Tdが高くなるに従って、調整弁32の開度も大きくなるよう、制御する。
【0063】
つまり、温度Tdが低い値であると、車載水素タンク28に供給される水素は十分に冷却されていることとなるので、調整弁32の開度を小さくして、戻し量を少なくし、比較的大きな容量にて、往復動圧縮機14は駆動される。逆に温度Tdが低い値であると、車載水素タンク28に供給される水素の冷却は不十分とされ、調整弁32の開度を大きくして、戻し量を大きくし、容量を減らした状態で、往復動圧縮機14は駆動される。
【0064】
このように構成することでも、簡易な構成で、圧力・温度等の管理のしやすい連続的な容量制御を採用したうえで、水素タンクへの補給の際に急激な温度上昇を回避することのできる、水素ステーションを提供することができる。
【0065】
なお、基本的には、各往復動圧縮機で圧縮した水素の全量を車載水素タンク28に供給するものである水素ステーション1、1aに対し、水素ステーション1bでは、高圧段側の往復動圧縮機14の吐出側から吸い込み側へ、いったん圧縮した水素の一部を戻すことになるので、動力をロスするデメリットがあるが、回転数制御を必須としないので、回転数制御にかかる構成(インバータ等)を必要とせず、一定速の回転を行う電動機を駆動機15に採用することができるというメリットがある。
【0066】
本発明の実施形態の説明において、水素タンクの内部の温度Tdに基づき、往復動圧縮機に設けられた駆動機の回転数や往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量(戻し量)を制御するに当って、予め目標温度である基準温度Tbを設定し、この基準温度Tbと前記温度Tdを比較し、温度Tdが基準温度Tbに対応、一致あるいは近づくように上記駆動機の回転数や調節弁の開度調整による水素の戻し量を変更、制御する方法について述べたが、本発明はこの基準温度Tbを用いる方法に限定されない。
【0067】
例えば、この基準温度Tbを設けず、上限温度Tthのみを設定して、図3において上限温度Tth(あるいはその上限温度Tthより所定温度Δt2だけ低い温度Tth−Δt2)では駆動機15の回転数Rが仕様上の最低回転数(例えばゼロ)となるように設定し、あるいは図6において上限温度Tth(あるいは温度Tth−Δt2)では調整弁32の開度がその調整弁32の仕様上の最大の開度となるよう設定し、それら図3あるいは図6と、検出された水素タンクの内部の温度Tdとから、一意的に、駆動機15の回転数R、あるいは調整弁32の開度を決定し、駆動機15の回転数R、あるいは調整弁32の開度の変更を行なう場合等も本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1,1a,1b,1c …水素ステーション
2…フィルター
3…供給流路
4…低圧段側の往復動圧縮機
5…駆動機
6…中間流路
7,19,22…クーラ
8,10,12,13…開閉弁
9…第1の中間圧蓄圧器
11…第2の中間圧蓄圧器
14…高圧段側の往復動圧縮機
15…駆動機
16,17…圧力センサ
18…吐出流路
20…流量調整弁
21…流量計
23…遮断弁
24…緊急離脱カップラー
25…充填ホース
26…充填ノズル
27…燃料電池自動車
28…車載水素タンク
29…温度センサ
30…コントローラ
31…フライホイール
32…調整弁
33…戻し流路
34…水素充填流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、回転数制御可能な駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、前記水素タンクの内部の温度に基づき、前記駆動機の回転数を制御するよう構成されてなることを特徴とする水素ステーション。
【請求項2】
前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記駆動機の回転数を減少させ、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より低い場合には前記駆動機の回転数を増加させて制御するように構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の水素ステーション。
【請求項3】
前記駆動機の回転数の減少の割合または増加の割合が一定になるように構成されてなることを特徴とする請求項2に記載の水素ステーション。
【請求項4】
前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記水素タンクの内部の温度と前記基準温度の温度差が大きいほど、前記駆動機の回転数の減少の割合が大きくなるように構成されてなることを特徴とする請求項2に記載の水素ステーション。
【請求項5】
前記往復動圧縮機と前記駆動機とを接続する駆動軸にフライホイールが介設されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水素ステーション。
【請求項6】
自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、調整弁が介設され、前記往復動圧縮機の吐出側から、当該往復動圧縮機の吸い込み側を接続する戻し流路が設けられ、前記水素タンク内部の温度に基づき、前記調節弁の開度を調整し、前記戻し流路を介して、前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されてなることを特徴とする水素ステーション。
【請求項7】
前記水素タンクの内部の温度が基準温度より高い場合には前記調節弁の開度を大きくし、前記水素タンクの内部の温度が基準温度より低い場合には前記調節弁の開度を小さくして前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の水素ステーション。
【請求項8】
前記自動車が燃料電池自動車である請求項1乃至7のいずれかに記載の水素ステーション。
【請求項9】
自動車に搭載される水素タンクに水素を供給するための水素ステーションにおいて、回転数制御可能な駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、前記水素タンクに水素を供給する水素充填流路の内部の温度に基づき、前記駆動機の回転数を制御するよう構成されてなることを特徴とする水素ステーション。
【請求項10】
前記水素充填流路の内部の温度が基準温度より高い場合には前記駆動機の回転数を減少させ、前記水素充填流路の内部の温度が基準温度より低い場合には前記駆動機の回転数を増加させて制御するように構成されてなることを特徴とする請求項9に記載の水素ステーション。
【請求項11】
前記駆動機の回転数の減少の割合または増加の割合が一定になるように構成されてなることを特徴とする請求項10に記載の水素ステーション。
【請求項12】
前記水素充填流路の内部の温度が基準温度より高い場合には前記水素充填流路の内部の温度と前記基準温度の温度差が大きいほど、前記駆動機の回転数の減少の割合が大きくなるように構成されてなることを特徴とする請求項10に記載の水素ステーション。
【請求項13】
前記往復動圧縮機と前記駆動機とを接続する駆動軸にフライホイールが介設されていることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の水素ステーション。
【請求項14】
自動車に搭載される水素充填流路に水素を供給するための水素ステーションにおいて、駆動機にて駆動される往復動圧縮機を備え、調整弁が介設され、前記往復動圧縮機の吐出側から、当該往復動圧縮機の吸い込み側を接続する戻し流路が設けられ、前記水素充填流路内部の温度に基づき、前記調節弁の開度を調整し、前記戻し流路を介して、前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されてなることを特徴とする水素ステーション。
【請求項15】
前記水素充填流路の内部の温度が基準温度より高い場合には前記調節弁の開度を大きくし、前記水素充填流路の内部の温度が基準温度より低い場合には前記調節弁の開度を小さくして前記往復動圧縮機の吐出側から吸い込み側へ戻す水素の量を制御するように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の水素ステーション。
【請求項16】
前記自動車が燃料電池自動車である請求項9乃至15のいずれかに記載の水素ステーション。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237437(P2012−237437A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141900(P2011−141900)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】