説明

水素吸蔵材料、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両

【課題】 高い水素吸蔵能を有する水素吸蔵材料、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両を提供する。
【解決手段】水素吸蔵材料1であって、炭素原子を含む六員環を主体とし、六員環の直径以上の大きさの孔H1a、H1b、H2a、H2bを有する略平行に積層された分子の層L、Lと、隣り合う分子の層L、Lの原子網面を離散位置で結合する分子鎖C1a〜C1fとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素吸蔵材料、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両の実用化のために、低コスト、軽量で、かつ水素吸蔵密度の高い水素吸蔵材料を用いた効率的な水素吸蔵法の開発が望まれている。中でも、炭素系材料を用いた水素吸蔵法の研究が盛んに行われており、炭素系材料としては、活性炭、グラファイト層間化合物(GIC)、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、グラファイトナノファイバー(GNF)、フラーレン類等が知られている。これらの炭素系材料は、常温での吸蔵・放出特性、製造コスト、量産性や収率に課題を有しているため、その課題を克服すべく検討が進められている。
【0003】
黒鉛を水素吸蔵材料として用いる場合には、黒鉛層の表面に水素が吸着されるよりも、黒鉛層にはさまれたスリット状空間又は黒鉛層を円筒状に丸めた空間内部の方が水素の吸着力が強くなるため、水素が高密度に充填されることが計算機を用いた解析により示されている(非特許文献1参照)。特に、スリット状空間の幅又は円筒状空間の直径が拡大されている場合には高い水素密度が得られると予想されているため、スリット状空間の幅を拡げる検討が行われている。そこで、スリット状空間を有する材料として、いわゆる膨張黒鉛を利用した材料の検討が行われており、膨張条件を制御することによって黒鉛層間を拡げる方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。また、不飽和炭化水素を重合させることにより、黒鉛層間を拡げる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−53301号公報
【特許文献2】特開2001−26414号公報
【特許文献3】特開平11−70612号公報
【非特許文献1】Q.Wang and J.K. Johnson, J. Phys. Chem. B103, 277-281 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に黒鉛層間を拡げる場合は、高圧水素下では拡げた黒鉛層間が圧縮されるため、高圧下での水素吸蔵能が低下する。この場合は、水素が吸着することができる表面積を増やすだけであり、十分な水素吸蔵能を得ることができない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る水素吸蔵材料は、炭素原子を含む六員環を主体とし、六員環の直径以上の大きさの孔を有する略平行に積層された分子の層と、隣り合う分子の層の原子網面を離散位置で結合する分子鎖とを有することを特徴とする。
【0006】
本発明に係る水素吸蔵体は、本発明に係る水素吸蔵材料のうちの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る水素貯蔵装置は、本発明に係る水素吸蔵体を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る水素貯蔵装置を搭載することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水素吸蔵材料内部に高密度に水素を蓄積することが可能となる。この結果、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能及び水素吸蔵材料単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0010】
本発明によれば、水素吸蔵能の高い水素吸蔵体が得られる。
【0011】
本発明によれば、水素貯蔵能の高い水素貯蔵装置が得られ、水素貯蔵装置の小型化及び軽量化が可能となり、車両設置時には、設置スペースの節減及び車両重量の軽減が可能となる。
【0012】
本発明によれば、車両重量が低減するため燃費の改善が図れ、航続距離の延長が図れる。さらに、水素貯蔵装置の体積が低下するため、車室をより広く活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る水素吸蔵材料、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び水素燃料車両を詳細に説明する。
【0014】
(水素吸蔵材料)
まず、本発明の実施の形態に係る水素吸蔵材料を説明する。
【0015】
第一実施形態
図1に、本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1の一部を模式図で示す。水素吸蔵材料1は、分子の層L及びLと、分子鎖C1a〜C1fとによって構成されている。各分子の層L及びLは互いに略平行に積層されており、それぞれが炭素原子を含む六員環を主体とし、直径が六員環の直径(六員環の外接円の直径)以上の大きさである略円形状の孔H1a、H1b、H2a、H2bを有する原子網面からなる。分子鎖C1a〜C1fは分子の層L及びLの原子網面を互いに離散した位置で化学的に結合し、分子の層間に水素吸蔵空間Sを画成する。つまり、分子鎖C1a〜C1fは、分子の層Lの下面L1bと分子の層Lの上面L2aとの層間を、層間距離がdとなる位置で架橋結合して、分子の層LとLとの間に水素を吸蔵する水素吸蔵空間Sを画成する。層間距離dは、分子の層LとLとの中心部間の距離を示す。分子の層Lの上面L1aと分子の層Lの下面L2bは更に別の分子鎖を有し、隣り合う別の分子の層との間に水素吸蔵空間を画成する。なお、分子の層L及びLは、それぞれ置換原子を有していてもよく、置換原子としては、例えば、ホウ素原子又は窒素原子があげられる。
【0016】
本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1は、このような構成とすることにより、分子の層間に水素を強く吸着できる空間Sを確保しつつ、高圧水素下でもその空間を維持することが可能となる。このため、高圧水素下であっても、水素吸蔵材料1の内部に高密度に水素を蓄積することが可能となる。また、分子の層間が分子鎖C1a〜C1fによって化学的に結合されているため、水分や加熱によって水素を吸蔵する吸蔵空間Sが破壊されることがない。このため、水素を吸蔵する吸蔵空間Sを維持することが可能となり、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能、及び水素吸蔵材料の単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0017】
分子の層が有する孔は、隣り合う分子の層間の距離d、孔の直径をrとするとき、次の関係を満たすことが好ましい。
【0018】
r>−2d+c ・・・・式(1)
c=1.8[nm]
本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1では、孔H1aの直径をr1a、H1bの直径をr1b、H2aの直径をr2a、H2bの直径をr2bとするとき、各直径r1a、r1b、r2a及びr2bの平均r、分子の層L及びLの層間距離dとするとき、次の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
>−2d+c ・・・・式(2)
c=1.8[nm]
本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1において、式(2)の関係を満たす場合には、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能が向上する。式(2)を満たさない場合には、十分な単位質量あたりの水素吸蔵能に達しない。
【0020】
隣り合う分子の層間の距離dは、d<1.0[nm]であることが好ましい。この場合には、水素吸蔵材料の単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0021】
孔は、六員環の直径をdとするとき、任意な分子の層の隣り合う孔の中心間距離が1.05×(r+d)以下であることが好ましい。本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1において、分子の層L及びLの隣り合う孔H1a、H1bの中心間距離をdとした場合、dがr+dのn倍になるとそれにほぼ反比例して水素吸蔵能が減少する。dがr+dの場合には水素吸蔵能が最大となり、この場合がもっとも好ましい形態となる。dが1.05×(r+d)以上の場合には単位質量あたりの水素吸蔵能が減少し、十分な水素貯蔵能に達しない。
【0022】
分子の層L及びLの原子網面は、格子に欠陥を持つ黒鉛面であることが好ましい。この場合には、価格の安価な黒鉛を原材料として使用することが可能である。
【0023】
分子鎖C1a〜C1fは、鎖状有機物を含むことが好ましい。一般的に、黒鉛では黒鉛を構成する分子の層間は分子間力によって結合されている。分子間力は弱い結合であるため、単純に層間を拡大したままだと高圧水素下では分子の層間に水素が入る前に層間が容易に圧壊する。このため、高圧水素下では水素吸蔵能を保つことができない。また、分子の層間に炭素原子以外の異物を挿入することにより分子の層間を保持する場合には、加圧や加熱により分子の層間が不安定になり水素吸蔵能を保つことができない。これに対し、分子間力とは別に、新たに共有結合、イオン結合及び金属結合からなる群から選択される結合によって分子の層間を結合した場合には、加圧や加熱によって分子の層間が圧壊せず、分子層間に形成した水素を吸蔵する吸蔵空間を維持することが可能となり、水素吸蔵能が向上する。この場合、分子の層間を結合する分子鎖C1a〜C1fは、できるだけ水素を吸蔵する空間を占有しない鎖状有機物を含むことが好ましい。この鎖状有機物は有機単量体が連なって形成された重合体であることが好ましく、有機単量体は、エチレン、スチレン、イソプレン及び1,3-ブタジエンからなる群から選択されるアルキル鎖であることが好ましい。このような構成とすることにより、分子の層間の距離を適切に保つことができ、分子の層間に水素吸着に有効な水素吸蔵空間を画成することが可能となる。このため、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0024】
本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料1は、例えば次のようにして調製する。炭素原子を含む六員環を主体とする原子網面が略平行に積層した構造体である黒鉛材料に対し、例えば強酸化処理を施すことにより、原子網面に欠陥を導入する。この欠陥導入のプロセスは、高エネルギーを持つ粒子などを照射するプロセスであっても良い。その後、欠陥を導入した黒鉛の層間にCsなどのアルカリ金属を挿入し、続けてアルカリ金属によって重合されうる有機単量体で原子網面を結合し、さらに水洗によりアルカリ金属を除去することにより水素吸蔵材料1が得られる。また、アルカリ金属の代わりに、黒鉛層間に挿入可能な、酸や金属塩化物等を用いることも可能である。得られた水素吸蔵材料1は、炭素原子を含む六員環を主体とし、六員環の直径以上の大きさ孔H1a、H1b、H2a、H2bを有する略平行に積層された分子の層L及びLと、隣り合う分子の層L及びLの原子網面を離散位置で結合する分子鎖C1a〜C1fとを有する。
【0025】
上記した構成を採用したことにより、本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料では、高圧水素下であっても、水素吸蔵吸蔵空間に高密度に水素を蓄積することが可能となるため、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能及び水素吸蔵材料単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。なお、全ての分子の層が必ずしも六員環の直径以上の大きさ孔を有していなくてもよく、孔を有さない分子の層があってもよい。また、隣り合う分子の層の間に分子鎖を有さず、隣り合う分子の層間に水素吸蔵空間が形成されない層があっても良い。
【0026】
第二実施形態
図2に、本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11の一部を模式図で示す。水素吸蔵材料11は、分子の層L11及びL12と、分子鎖C11a〜C11pとによって構成されている。各分子の層L11及びL12は互いに略平行に積層されており、それぞれが炭素原子を含む六員環を主体とし、内接円の直径が六員環の直径以上の大きさを有する任意の多角形状(本実施例では四角形)の孔H11a〜H12iを有する原子網面からなる。分子鎖C11a〜C11pは分子の層L11及びL12の原子網面を互いに離散した位置で化学的に結合し、分子の層間に水素吸蔵空間S11を画成する。つまり、分子鎖C11a〜C11pは、分子の層L11の下面L11bと分子の層L12の上面L12aとの層間を、層間距離がd11となる位置で架橋結合して、分子の層L11とL12との間に水素を吸蔵する水素吸蔵空間S11を画成する。層間距離d11は、分子の層L11とL12との中心部間の距離を示す。孔H11a〜H12iは、それぞれ大きさが略等しいものとし、一つの孔の長辺の長さがu、短辺の長さがvとすると、その内接円の直径r11はvの長さと等しくなる。また、分子鎖C11a〜C11pの長さは、孔H11a〜H12iの長辺又は短辺の長さと等しいものであってもよく、分子の層L11及びL12と分子鎖C11a〜C11pとは化学組成的には区別されないものとする。
【0027】
本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11は、このような構成とすることにより、分子の層間に水素を強く吸着できる空間S11を確保しつつ、高圧水素下でもその空間を維持することが可能となる。このため、高圧水素下であっても、水素吸蔵材料11の内部に高密度に水素を蓄積することが可能となる。また、分子の層間が分子鎖C11a〜C11pによって化学的に結合されているため、水分や加熱によって水素を吸蔵する吸蔵空間S11が破壊されることがない。このため、水素を吸蔵する吸蔵空間S11を維持することが可能となり、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能、及び水素吸蔵材料の単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0028】
分子の層が有する孔は、隣り合う分子の層間の距離d、孔の直径をrとするとき、次の関係を満たすことが好ましい。
【0029】
r>−2d+c ・・・・式(3)
c=1.8[nm]
本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11では、孔H11a〜H12iに内接する円の直径をr11としたときr11はvと長さが等しく、分子の層L11及びL12の層間距離とするとき、次の関係を満たすことが好ましい。
【0030】
v>−2d11+c ・・・・式(4)
c=1.8[nm]
本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11において、式(4)の関係を満たす場合には、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能が向上する。式(4)を満たさない場合には、十分な単位質量あたりの水素吸蔵能に達しない。
【0031】
隣り合う分子の層間の距離d11は、d11<1.0[nm]であることが好ましい。この場合には、水素吸蔵材料の単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0032】
孔は、六員環の直径をdとするとき、任意な分子の層の隣り合う孔の中心間距離が1.05×(r+d)以下であることが好ましい。本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料1において、分子の層L及びLの隣り合う孔H1a、H1bの中心間距離をdとした場合、dがr+dのn倍になるとそれにほぼ反比例して水素吸蔵能が減少する。dがr+dの場合には水素吸蔵能が最大となり、この場合がもっとも好ましい形態となる。dが1.05×(r+d)以上の場合には単位質量あたりの水素吸蔵能が減少し、十分な水素貯蔵能に達しない。
【0033】
任意な分子の層の隣り合う孔の中心間距離が1.05×(r+d)以下であることが好ましい。本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11において、分子の層L11及びL12の隣り合う孔H11a、H11bの中心間距離をd12とした場合、d12がv+dのn倍になるとそれにほぼ反比例して水素吸蔵能が減少する。d12がv+dの場合には水素吸蔵能が最大となり、この場合がもっとも好ましい形態となる。d12が1.05×(v+d)以上の場合には単位質量あたりの水素吸蔵能が減少し、十分な水素貯蔵能に達しない。
【0034】
分子鎖C11a〜C11pは、鎖状有機物を含むことが好ましい。この鎖状有機物は有機単量体が連なって形成された重合体であることが好ましく、有機単量体は、エチレン、スチレン、イソプレン及び1,3-ブタジエンからなる群から選択されるアルキル鎖であることが好ましい。このような構成とすることにより、分子の層間の距離を適切に保つことができ、分子の層間に水素吸着に有効な水素吸蔵空間を画成することが可能となる。このため、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0035】
本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料11は、例えば次のようにして調製する。炭素原子を含む六員環を主体とする原子網面が略平行に積層した構造体である黒鉛材料に対し、例えば強酸化処理を施すことにより、原子網面に欠陥を導入する。この欠陥導入のプロセスは高エネルギーを持つ粒子などを照射するプロセスであっても良い。その後、欠陥を導入した黒鉛の層間にCs金属を挿入し、続けてCsによって重合されうる有機単量体で原子網面を結合し、さらに水洗によりCsを除去することにより水素吸蔵材料11が得られる。得られた水素吸蔵材料1は、炭素原子を含む六員環を主体とし、六員環の直径以上の大きさ孔H11a〜H12iを有する略平行に積層された分子の層L11及びL12と、隣り合う分子の層L11及びL12の原子網面を離散位置で結合する分子鎖C11a〜C11pとを有する。
【0036】
上記した構成を採用したことにより、本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料では、高圧水素下であっても、水素吸蔵吸蔵空間に高密度に水素を蓄積することが可能となるため、水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能及び水素吸蔵材料単位体積あたりの水素吸蔵能が向上する。
【0037】
(水素吸蔵体及び水素貯蔵装置)
図3は、本発明の実施の形態に係る車載用の水素吸蔵体21及び水素貯蔵装置20を示している。この水素貯蔵装置20は、上記した水素吸蔵材料を加圧成型により固形化又は薄膜化して形成した水素吸蔵体21を、水素流出口22を設けた耐圧容器23の内部に封入した構成である。このような水素貯蔵装置20は、車両に搭載して燃料電池システムあるいは水素エンジンシステムに組み込んで用いることができる。容器の形状は単純な閉空間を有する形状のほかに、内部にリブや柱を設けたものであっても良い。また、容器の素材は、アルミニウム、ステンレス及びカーボン構造材料等、水素の吸蔵放出に耐えうる強度と化学的安定性を有する素材の中から選び出すことが好ましい。更に、容器内部に熱交換装置を配置することにより、水素の吸蔵放出の速度・効率に寄与することが可能となる。このような構成にすることで、水素貯蔵能の高い水素貯蔵装置を実現することが可能となる。また、水素貯蔵装置を小型化及び軽量化が可能となり、水素貯蔵装置を車両設置した場合には、設置スペースの節減及び車両重量の軽減が可能となる。なお、この水素吸蔵体の加圧成型は、耐圧タンク内に水素吸蔵体を充填する前に行っても良く、充填しながら同時に行っても良い。
【0038】
(燃料電池車両)
図4は、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵装置20を搭載する水素燃料車両を示しており、図3に示すような水素貯蔵装置20を水素燃料車両30に設置搭載したものである。このとき、車両に設置搭載する水素貯蔵装置20は一つ又は二つ以上に分割しても良く、複数の水素貯蔵装置の形状はそれぞれ異なったものでも良い。また、エンジンルームやトランクルーム内部、あるいはシート下のフロア部等の車室内部の他に、ルーフ上部等の車室外に水素貯蔵装置20を設置することも可能である。このような車両は、車両重量が低減するため燃費の改善が図れ、航続距離の延長が図れる。また、水素貯蔵装置20の体積が低下するため、車室をより広く活用できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施の形態に係る水素吸蔵材料の実施例について説明する。
【0040】
<水素吸蔵能の算出>
水素吸蔵能の算出には、熱力学的平衡状態に対する分子シミュレーションである、モンテカルロ計算法を用いて行った。モンテカルロ法は、分子あるいは原子の配置を確率的に計算していく確率論的な方法である。水素吸蔵能の予測には、系の粒子数、体積及び温度が規定された統計集団である大正準集団を用いたモンテカルロ計算、すなわちグランドカノニカルモンテカルロ計算法を用いて行った。
【0041】
モンテカルロ計算には各原子間の相互作用が必要となり、ここでは二つの分子間の相互作用、すなわち2体間ポテンシャルを定義する。2体間ポテンシャルとしては、次の式(5)に示す最も典型的なレナード・ジョーンズ(Lennard-Jones)12−6ポテンシャルを用いる。
【0042】
u(r)=4e((σ/r)12−(σ/r)) ・・・ 式(5)
ここで、u(r)は原子間ポテンシャルを表し、e及びσは原子対に固有の定数でそれぞれポテンシャル曲線の井戸の深さとポテンシャルエネルギーがゼロになる分子間距離(実質的な原子直径)に相当する。ここでは、e及びσの値に最も典型的な分子場であるユニバーサルフォースフィールド(Universal Force Field)を用いた。計算に用いたモデルは、面内に直径が0.4〜0.9[nm]になるような孔を含んだ炭素六員環からなる層が積層した物を用いた。このとき、層間距離を0.33〜1.0[nm]の間で変化させた。また水素吸蔵能の計算は、77[K]、水素圧10[MPa]で行った。
【0043】
実施例で得られた単位重量あたりの水素吸蔵量及び単位体積あたりの水素吸蔵量を算出した結果を、それぞれ表1及び2に示す。また、図4に表1に示した層間距離と単位重量あたりの水素吸蔵量との関係を、図5に表2に示した層間距離と単位体積あたりの水素吸蔵量との関係を示す。
【表1】

【表2】

【0044】
孔の直径が0.4[nm]の場合、層間距離が0.33〜0.7[nm]の場合には水素吸蔵量が0であり、層間距離が1.0[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が4.2[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.007[g/cm]であった。この結果より、孔の直径が0.4[nm]の場合には、孔の周囲よりも層と層との間に水素が吸着されたことが考えられる。また、層間距離が1[nm]の場合には、r>−2d+1.8を満たす。
【0045】
孔の直径が0.5[nm]の場合、層間距離が0.33[nm]の場合には水素吸蔵量が0であり、層間距離が0.5[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が1.6[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.005[g/cm]であり、層間距離が0.6[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が2.5[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.007[g/cm]であり、層間距離が0.7[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が5.5[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.013[g/cm]であり、層間距離が1.0[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が6.6[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.007[g/cm]であった。この結果より、孔の直径が0.5[nm]の場合には、層間距離が0.33[nm]の場合には水素が吸着する空間がないため水素吸蔵量が0となったが、層間距離が0.5[nm]以上の場合には、孔の周囲及び、層と層との間に水素が吸着されたことが考えられる。また、層間距離が広がるにつれて単位重量あたりの水素吸蔵量が増加したが、単位体積あたりの水素吸蔵量は層間距離が1.0[nm]で減少した。これは、層間距離が大きくなりすぎ、水素吸蔵に寄与しない空間が増えたため、結果として単位体積あたりの水素吸蔵能が減少したためと考えられる。なお、層間距離が0.7及び1.0[nm]の場合には、r>−2d+1.8を満たす。
【0046】
孔の直径が0.7[nm]の場合、層間距離が0.33[nm]の場合には単位重量あたりの水素吸蔵量が1.5[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.005[g/cm]であり、層間距離が0.5[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が2.3[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.007[g/cm]であり、層間距離が0.6[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が5.9[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.0118[g/cm]であり、層間距離が0.7[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が7.2[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.0118[g/cm]であり、層間距離が1.0[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が8.5[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.007[g/cm]であった。この結果より、孔の直径が0.7[nm]の場合には、孔の周囲及び、層と層との間に水素が吸着されたことが考えられる。また、層間距離が広がるにつれて単位重量あたりの水素吸蔵量が増加したが、単位体積あたりの水素吸蔵量は層間距離が1.0[nm]で減少した。これは、層間距離が大きくなりすぎ、水素吸蔵に寄与しない空間が増えたため、結果として単位体積あたりの水素吸蔵能が減少したためと考えられる。なお、層間距離が0.6〜1.0[nm]の場合には、r>−2d+1.8を満たす。
【0047】
孔の直径が0.9[nm]の場合、層間距離が0.33[nm]の場合には単位重量あたりの水素吸蔵量が2.9[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.009[g/cm]であり、層間距離が0.5[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が7[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.0118[g/cm]であり、層間距離が0.6[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が8[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.011[g/cm]であり、層間距離が0.7[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が9[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.01[g/cm]であり、層間距離が1.0[nm]のときに単位重量あたりの水素吸蔵量が11[wt%]及び単位体積あたりの水素吸蔵量が0.006[g/cm]であった。この結果より、孔の直径が0.9[nm]の場合には、孔の周囲及び、層と層との間に水素が吸着されたことが考えられる。また、層間距離が広がるにつれて単位重量あたりの水素吸蔵量が増加したが、単位体積あたりの水素吸蔵量は層間距離が0.5[nm]で減少した。これは、層間距離が大きくなりすぎ、水素吸蔵に寄与しない空間が増えたため、結果として単位体積あたりの水素吸蔵能が減少したためと考えられる。なお、層間距離が0.5[nm]以上の場合には、r>−2d+1.8を満たす。
【0048】
以上の結果より、炭素原子を含む六員環を主体とする分子の層において、導入された孔の直径rが、隣接する原子平面間の層間距離dに対して、r>−2d+1.8の場合には、特に水素吸蔵材料の単位質量あたりの水素吸蔵能を発現することがわかった。また、r>−2d+1.8であり、かつd<0.1[nm]の場合には、単位体積あたりの水素吸蔵能をより高くすることも可能となることがわかった。
【0049】
以上、本実施の形態の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第一実施形態に係る水素吸蔵材料を示す模式図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る水素吸蔵材料を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る水素貯蔵装置の実施の形態を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の実施の形態を示す側面図である。
【図5】層間距離と単位重量あたりの水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図6】層間距離と単位体積あたりの水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1、11 水素吸蔵材料
、L、L11、L12 分子の層
1a〜C1f、C11a〜C11p 分子鎖
1a、H1b、H2a、H2b、H11a〜H12i
1a、r1b、r2a、r2b 直径
、d11 層間距離
、S11 水素吸蔵空間
20 水素貯蔵装置
21 水素吸蔵体
22 水素流出口
23 耐圧容器
30 水素燃料車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を含む六員環を主体とし、前記六員環の直径以上の大きさの孔を有する略平行に積層された分子の層と、
隣り合う分子の層の原子網面を離散位置で結合する分子鎖とを有することを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記孔は、隣り合う分子の層間の距離d、前記孔の直径をrとするとき、次の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
r>−2d+c
c=1.8[nm]
【請求項3】
d<1.0[nm]であることを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記孔は、前記六員環の直径をdとするとき、任意な分子の層の隣り合う孔の中心間距離が1.05×(r+d)以下であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記分子の層は、格子に欠陥を持つ黒鉛面であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
前記分子鎖は、鎖状有機物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項7】
前記鎖状有機物は、アルキル鎖であることを特徴とする請求項6に記載の水素吸蔵材料。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に係る水素吸蔵材料のうちの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする水素吸蔵体。
【請求項9】
請求項8に係る水素吸蔵体を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
【請求項10】
前記水素吸蔵体を、耐圧タンク中に封入したことを特徴とする請求項9に記載の水素貯蔵装置。
【請求項11】
請求項10に係る水素貯蔵装置を搭載することを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−18362(P2008−18362A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193216(P2006−193216)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】