説明

水素透過構造体及び燃料電池

【課題】水素透過性基材とプロトン伝導性膜を有する水素透過構造体において、水素透過性基材とプロトン伝導性膜間の剥離を防止し、安定した性能を有し、耐久性に優れた水素透過構造体を提供するとともに、この水素透過構造体を使用した、耐久性に優れる燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性膜、該プロトン伝導性膜に密着する第1中間層、該第1中間層に密着する第2中間層、及び該第2中間層に密着する水素透過性基材からなる水素透過構造体であって、第1中間層が、鉄及びクロムから選ばれる1種以上の金属又はそれらの合金よりなり、かつ第2中間層が、ニッケル、銅、コバルト及び亜鉛から選ばれる1種以上の金属、又はそれらの合金よりなることを特徴とする水素透過構造体、及びこの水素透過構造を用いる燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト構造酸化物で構成されるプロトン伝導性膜を有する水素透過構造体、及びこの水素透過構造体を用いる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素透過性能を有する基材(以下、「水素透過性基材」という)上にプロトン伝導性の固体電解質膜(以下、「プロトン伝導性膜」という)を形成した水素透過構造体は、水素を選択的に検出分離する機能や電気エネルギーを出力する機能を有しており、水素センサや水素燃料電池(以下単に燃料電池とも言う)等に用いられ、車用、家庭用等として脚光を浴びている。
【0003】
このような水素透過構造体は、例えば、SOLID STATE IONICS、162−163(2003)、291−296頁(非特許文献1)に記載されており、この文献中では、水素透過性基材の材料としてパラジウム(Pd)又はPdを含む金属(Pd合金)が、又、プロトン伝導性膜の材料としてアルカリ土類金属及びセリウム(Ce)等を含む酸化物が紹介されている。
【0004】
プロトン伝導性膜を形成する酸化物の中でも、一般式ALO(式中、Aはアルカリ土類金属を表し、Lは、Ce、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の4価元素である。)で表される基本組成を有し、ペロブスカイト型結晶構造を持つ複合酸化物(以下、「ペロブスカイト構造酸化物」と言う。)は、耐熱性に優れる等の特性を有するので、種々の材料が開発されている。特に、4価元素Lの一部を3価元素Mで置換した組成のペロブスカイト構造酸化物は、優れたプロトン伝導性を有するものとして種々提案されている。
【0005】
水素透過構造体は、PdやPd合金等からなる水素透過性基材上に、前記のペロブスカイト構造酸化物を構成する原料元素を、スパッタリング法、パルスレーザーディポジション法(PLD法)等により蒸着してプロトン伝導性膜を形成することにより得ることができる。
【非特許文献1】SOLID STATE IONICS、162−163(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、PdやPd合金からなる水素透過性基材とペロブスカイト構造酸化物からなるプロトン伝導性膜は、ファンデルワールス力により密着していると考えられ、密着力が弱い。従って、使用環境温度の変化等により引き起こされる膨張や収縮の差により剪断応力が発生すると、水素透過性基材とプロトン伝導性膜は容易に剥離する。その結果、安定した性能を維持できないとの問題がある。
【0007】
本発明は、この水素透過構造体における水素透過性基材とプロトン伝導性膜間の剥離を防止して、安定した性能を有し、耐久性に優れた水素透過構造体を提供することを課題とする。
【0008】
本発明は、さらに、この水素透過構造体を使用した、耐久性に優れる燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定の材質からなる層が、水素透過性能を有するとともに、水素透過性基材又はプロトン伝導性膜との密着性に優れること、そしてこの層を水素透過性基材とプロトン伝導性膜の中間に配置することにより、前記の剥離の問題を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、その請求項1として、プロトン伝導性膜、該プロトン伝導性膜に密着する第1中間層、該第1中間層に密着する第2中間層、及び該第2中間層に密着する水素透過性基材からなる水素透過構造体であって、
前記プロトン伝導性膜が、化学式AL1−X3−α(式中、Aは、アルカリ土類金属を表し、Lは、Ce、Ti、Zr及びハフニウム(Hf)から選ばれる1種以上の元素を表し、Mは、ネオジム,ガリウム、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、イッテルビウム、スカンジウム、ガドリウム、サマリウム及びプラセオジムから選ばれる1種以上の元素を表し、Xは、0.05〜0.35であり、αは、0.15〜1.00である。)で表される酸素欠損型ペロブスカイト構造酸化物で構成され、
前記第1中間層が、鉄(Fe)及びクロム(Cr)から選ばれる1種の金属又は2種の金属の合金よりなり、その膜厚が10nm以上で200nm以下であり、かつ
前記第2中間層が、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)から選ばれる1種の金属又は2種以上の金属の合金よりなり、その膜厚が1nm以上で200nm以下であることを特徴とする水素透過構造体、を提供する。
【0011】
図1は、本発明の水素透過構造体を概念的に示す模式断面図であるが、図1に示すように、本発明の水素透過構造体は、プロトン伝導性膜と水素透過性基材間に、第1中間層及び第2中間層を有することを特徴とする。ここで、第1中間層はプロトン伝導性膜及び第2中間層に密着するものであり、Fe及びCrから選ばれる1種の金属又は2種の金属の合金よりなる。この材質としては、Fe又はCrの単体、FeとCrの合金が挙げられ、さらに、FeやCrを主体としながらも、本発明の趣旨を阻害しない範囲で他の金属も含有する合金も挙げることができる。
【0012】
この第1中間層は、プロトン伝導性膜との密着性が高く、又、第2中間層との密着性も高い。本発明者は、プロトン伝導性膜との間の極薄い界面において、FeやCrは、ペロブスカイト構造酸化物を構成する元素A(アルカリ土類金属)と、新しいペロブスカイト構造酸化物(AFeO、ACrO等)を形成し、この新しい構造の形成により第1中間層とプロトン伝導性膜との親和性が向上し、より優れた密着性が得られることを見出した。
【0013】
さらに、FeやCrで構成される第1中間層は水素透過性能を有するとともに、水素透過構造体の水素透過性能を阻害しにくいものである。ペロブスカイト構造酸化物膜との密着性が優れた金属としては、Fe、Crの他にも、Al、Ti、Zr、タンタル(Ta)が挙げられる。しかし、第1中間層をこれらの金属により形成すると、その上にプロトン伝導性膜を形成する際に酸化物を生成しやすく、その生成した酸化物が水素の透過に対し高い抵抗となるので、これらの金属を第1中間層の材質として使用することはできない。本発明者は、鋭意検討の結果、Fe及びCrのみが、第1中間層の材質として使用できることを見出したのである。
【0014】
第2中間層は、第1中間層及び水素透過性基材に密着するものであり、Ni、Cu、Co及びZnから選ばれる1種の金属又は2種以上の金属の合金よりなる。この材質としては、Ni、Cu、Co又はZnの単体、Ni、Cu、Co及びZnから選ばれる2種以上の金属の合金、さらに、Ni、Cu、Co又はZnを主体としながらも、本発明の趣旨を阻害しない範囲で他の金属も含有する合金も挙げることができる。
【0015】
この第2中間層は、第1中間層及び水素透過性基材との密着性が高く、さらに、水素透過性能を有するとともに、水素透過構造体の水素透過性能を阻害しにくいものである。前記のように第1中間層は、プロトン伝導性膜との密着性が高いので、プロトン伝導性膜、第1中間層、第2中間層及び水素透過性基材をこの順序で配置し密着させることにより、プロトン伝導性膜と水素透過性基材間の優れた密着性が達成される。
【0016】
FeやCrは、水素透過性基材を構成するPdに対する熱拡散係数が著しく低く、この性質に起因して、FeやCrから構成される第1中間層は、水素透過性基材との密着性が低い。本発明者は、Pd、及びFeやCrに対する熱拡散係数が高い金属を使用すれば、第1中間層と水素透過性基材の双方に対して優れた密着性を有する層が得られ、この層を第1中間層と水素透過性基材の間に設ければ、プロトン伝導性膜と水素透過性基材間の剥離を防止できるとの考えに基づき、鋭意検討を行った結果、Pd、及びFeやCrに対する熱拡散係数が高いとともに、PdやFe、Cr中に拡散しても水素透過性能を阻害しない材料として、Ni、Cu、Co及びZnから選ばれる1種以上の金属又はその合金が好適であることを見出したのである。
【0017】
第1中間層の膜厚は、水素透過性能を阻害せずかつ優れた密着性を得るために、10nm以上200nm以下の範囲である。第2中間層の膜厚は、水素透過性能を阻害せずかつ優れた密着性を得るために、1nm以上200nm以下の範囲である。第1中間層及び/又は第2中間層の膜厚がこの範囲の下限未満の場合、プロトン伝導性膜と水素透過性基材間の剥離を防止する効果が小さい。一方、第1中間層及び/又は第2中間層の膜厚がこの範囲の上限を越える場合は、水素透過性能が阻害され十分な電流の出力は得られない。
【0018】
第1中間層及び第2中間層の製造方法は、どちらも、特定の手段に限定されず、既存のスパッタ法、電子ビーム蒸着法等で代表される乾式法や、めっき法等の湿式法が使用できるが、成膜時における表面上への不純物混入、付着を防止するためには、乾式法が好ましい。
【0019】
プロトン伝導性膜を構成するペロブスカイト構造酸化物を表す化学式AL1−X3−αにおいて、Aで表されるアルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。Lは、Ce、Ti、Zr及びHfから選ばれる1種又は2種以上の4価元素を表す。
【0020】
Mは3価元素であり、4価元素Lの一部をMで置換することによりプロトン伝導性を発現する。Mは、ネオジム(Nd),ガリウム(Ga)、Al、Y、In、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)、ガドリウム(Gd)、サマリウム(Sm)、及びプラセオジム(Pr)よりなる群より選ばれ、A、Lの元素の種類に基づき、1種以上の元素が適宜選択される。式中のA、L及びMとして、前記の元素、中でも好ましいものとして例示されたものの中から適宜選択することにより、高いプロトン伝導性と電子絶縁性を両立させることができる。
【0021】
Xは、Lに対するMの置換比率を表し、0より大きく0.35以下である。0.35を越えると、酸化物のペロブスカイト構造が不安定となり、水に対する安定性が急激に低下する。
【0022】
又、αは、ペロブスカイト構造酸化物における酸素欠損の程度を示す指数であり、0.15〜1.00の範囲内である。αが0でないので、このペロブスカイト構造酸化物は、酸素欠損型ペロブスカイト構造酸化物である。αが0.15未満の場合、プロトン伝導性が不十分となり、αが1.00を越える場合、結晶としての維持ができなくなる。
【0023】
プロトン伝導性膜の厚さは、0.02μm〜2μmが好ましい。厚さが0.02μm未満では、ピンホール等の膜の欠陥が生じやすい。ピンホール等が存在すると、水素ガスがプロトン化せずに膜を抜けてしまうので、電流が出力されない。2μmより厚くなると、プロトン透過抵抗が大きくなり、プロトン伝導性が低下し、電流の出力が低下する。
【0024】
プロトン伝導性膜を構成するペロブスカイト構造酸化物の形成については、特定の手段に限定されず、イオンプレーティング法、PLD法、物理蒸着法(PVD法)、スパッタ法、化学蒸着法(CVD法)、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD法)等、プロトン伝導性の膜の形成に用いられている、既存の、様々な手段を用いることが出来る。又、ゾルゲル法、電気泳動法、泳動電着法等の湿式法を用いることもできる。
【0025】
しかし、プロトン伝導性膜を、第1中間層方向への運動エネルギーを付与された粒子を第1中間層上へ衝突させる方法により成膜すると、プロトン伝導性膜と第1中間層の界面に、FeやCrとA(アルカリ土類金属)からなる新たなペロブスカイト構造酸化物の生成がより促進され密着性が向上するので好ましい。すなわち、プロトン伝導性膜は、第1中間層方向への運動エネルギーを付与された粒子を、第1中間層上へ衝突させて成膜された層(以後、高粒子エネルギー層と言う。)を有することが好ましい(請求項2)。
【0026】
高粒子エネルギー層は、イオンプレーティング法、スパッタ法等を用い、バイアス電位を与えて、第1中間層上に蒸着される粒子に第1中間層方向への運動エネルギーを付与することにより製造することができる。なお、密着性向上の効果を十分に達成するためには、高粒子エネルギー層の厚さは10nm以上が好ましい(請求項3)。プロトン伝導性膜は、第1中間層と接する側に設けられた高粒子エネルギー層、及び、他の方法で形成されたペロブスカイト構造酸化物層から構成されてもよい。図1の例では、プロトン伝導性膜は、第1中間層側に形成された高粒子エネルギー層と他のペロブスカイト構造酸化物層よりなる。
【0027】
水素透過性基材としては、水素透過性の金属の薄膜(水素透過性金属箔)が利用できる。この水素透過性金属箔としては、Pd、バナジウム(V)、Ta、ニオブ(Nb)等の箔が挙げられる。中でも、Pdの箔や、Pdを主体として、銀(Ag)、白金(Pt)、Cu等との合金の箔、すなわちPdを含んだ金属箔が好適である。又、V、Nb又はTa等の箔の表面に、PdやPdを主体とする合金を被覆したもの、又はV、Nb又はTaの合金の箔に、PdやPdを主体とする合金を被覆したもの等を用いてもよい。V、Nb又はTaの合金の一例としては、Ni、Ti、Co、Cr等との合金が例示される(請求項4)。
【0028】
水素透過性基材の厚みは、水素透過性能を上げるためには薄いほど好ましいが、その上に形成するプロトン伝導性膜の構造維持をはかるだけの支持能力が必要であることを考慮すると、20μm以上1mm未満であることが好ましい。
【0029】
このようにして得られた水素透過構造体は、水素分離及び水素検出の機能や、特に中温域以上の温度でのプロトンイオンの輸送機能等に優れている。又、この水素透過構造体は、耐久性に優れたものであるので、電極等の機能部材を組み合わせることによって、各種水素デバイスの部材、特に、地球環境に優しいクリーンなエネルギー供給源として期待されている燃料電池として好適である(請求項5)。
【0030】
この燃料電池は、通常、水素透過構造体を構成するプロトン伝導性膜の上に酸素電極(カソード電極。なお、水素透過性基材がアノード電極となる。)が設けられ、プロトン伝導性膜が、第1、第2中間層を介して水素透過性基材及び酸素電極間に挟まれた構造を有している。酸素電極としては、Pd、Pt、Ni、ルテニウム(Ru)やそれらの合金からなる薄膜状の電極、貴金属や酸化物伝導体からなる厚膜状の電極、及び貴金属や酸化物伝導体を含み多孔質状の多孔質電極が好ましく例示される。薄膜状の酸素電極は、Pd、Pt、Ni、Ruやそれらの合金をプロトン伝導性膜の上に、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、PLD法等により成膜して得ることができる。通常その厚みは、0.01〜10μm程度であり、好ましくは0.03〜0.3μm程度である。
【0031】
厚膜状の酸素電極は、例えば、Ptペースト、Pdペースト、酸化物伝導体ペースト等をプロトン伝導性膜の上に塗布し、焼付けることにより形成することができる。このようにして形成された電極は一般的には多孔質の電極となる。酸化物伝導体としては、例えば、La−Sr−Co系、La−Sr―Fe系及びSr−Pr−Co系の複合酸化物等が挙げられる。塗布される層の厚みは、通常5〜500μm程度である。
【0032】
この燃料電池の使用時においては、水素透過構造体の水素透過性基材側に接する水素が、水素透過性基材並びに第1、第2中間層を透過してプロトン伝導性膜に達し、そこで電子を放出してプロトンになる。このプロトンは、プロトン伝導性膜中を透過して酸素電極側に達し、そこで電子を得るとともに酸素電極側にある酸素と結合して水を生成し系外に放出される。基材側及び酸素電極側での電子の授受により起電力を生じ、電池として機能する。
【0033】
従来の燃料電池では、界面剥離の問題を生じていたが、本発明の燃料電池は、剥離の問題が抑制され、耐久性に優れたものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の水素透過構造体は、水素透過性基材とプロトン伝導性膜間の剥離が防止され、安定した性能を有し、耐久性に優れた水素透過構造体である。又、この水素透過構造体を使用した本発明の燃料電池は、高い電池出力が得られるとともに、長期間にわたって安定した性能を発揮する耐久性に優れた燃料電池である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に本発明を実施するための形態を、実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
20mm角、厚さ0.1mmのPd基材上(Pdからなる水素透過性基材)に、蒸着法を用いて、膜厚50nmのCu層(第2中間層)を、続いて膜厚50nmのFe層(第1中間層)を形成した。なお、蒸発源の蒸発方法は電子線(EB)照射法を用いた。
【0037】
その後、第1中間層の上に、高周波イオンプレーティング法を用いて、高粒子エネルギー層として、膜厚100nm、組成がSrZr0.8In0.23-αのペロブスカイト構造酸化物膜を形成した。高周波イオンプレーティングは、基板加熱温度600℃で、酸素ガス1sccm、Arガス1sccmを使用して行った。Sr源、Ce源、Yb源としてはそれぞれの酸化物を用い、EB照射により蒸発させた。高周波(RF)は13.56MHz、高周波出力200W、EB出力は1.5kWであった。又、基材側にDCバイアス−100Vを印加して行ったので、蒸着される粒子には、第1中間層方向への運動エネルギーが付与されている。
【0038】
さらに、その上に、PLD法を用いて、膜厚2μmのSrZr0.8In0.23-α組成ペロブスカイト構造酸化物膜を形成し、水素透過構造体(試験体)を得た。PLDは、レーザー透過用の合成石英ガラス窓を備えた真空チャンバー内部のホルダーに、高粒子エネルギー層が形成された基材をセットし、ホルダー部の温度を600℃に加熱して行った。酸素を、マスフローメータを通して導入し、酸素分圧1×10−2Torrにチャンバー内圧力を調整した。プロトン伝導性膜原料焼結体(20mmφ、厚み5mm)にレーザー照射用窓を通してKrFエキシマレーザー(周波数20Hz)を照射した。
【0039】
(実施例2)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのNi層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0040】
(実施例3)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚20nmのCo層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0041】
(実施例4)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのZn層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0042】
(実施例5)
第1中間層を、膜厚20nmのCr層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0043】
(実施例6)
Pd基材を、Pd−Ag合金(Ag/Pd=9/1:モル比)からなる基材に変え、第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0044】
(実施例7)
Pd基材の代わりに、V(0.1mm厚)にPd(0.1μm厚)を被覆してなる基材を用い、第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0045】
(実施例8)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とし、高粒子エネルギー層及びPLDにより成膜された層の組成を、SrCe0.80.2とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0046】
(比較例1)
第1中間層を、膜厚5nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0047】
(比較例2)
第1中間層を、膜厚250nmのFe層、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0048】
(比較例3)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚0.5nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0049】
(比較例4)
第1中間層を、膜厚50nmのFe層、第2中間層を、膜厚250nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0050】
(比較例5)
第1中間層を形成せず、第2中間層を、膜厚50nmのCu層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0051】
(比較例6)
第2中間層を形成せず、第1中間層を、膜厚50nmのFe層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0052】
(比較例7)
第1中間層を形成せず、第2中間層を、膜厚50nmのNi層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0053】
(比較例8)
第1中間層を形成せず、第2中間層を、膜厚50nmのTa層とした以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0054】
(比較例9)
第1中間層及び第2中間層をともに形成しない以外は、実施例1と同様にして水素透過構造体(試験体)を得た。
【0055】
(物性試験)
実施例1〜8、及び比較例1〜9で得られた各試験体(水素透過構造体)のプロトン伝導性膜上に、1μm径の粉末白金からなる酸素電極をスクリーン印刷で形成し、水素透過性基材側に水素ガス、プロトン伝導性膜及び電極側に加湿空気を流して、450℃×1000時間、0.7Vの定電圧発電試験を行った。試験の前後に電流密度を測定し、電流密度の経時的低下率を算出した。又、試験後のプロトン伝導性膜の剥離状態を観察した。又、第1中間層の形成に伴う新たなペロブスカイト構造酸化物(アルカリ土類金属とFe又はCrを含有する酸化物)の生成の有無を、膜X線回折(XRD)により確認した。測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より明らかなように、実施例1〜8では、1000時間経過後も電流密度の低下がなく、又、プロトン伝導性膜の剥離もなく、耐久性に優れていることがわかる。しかし、第1中間層を設けていない比較例5、7、第2中間層を設けていない比較例6、8、第1中間層も第2中間層もともに設けていない比較例9、さらに、第1中間層及び第2中間層を設けているが、第1中間層の厚さが本発明の範囲の下限より薄い比較例1、第2中間層の厚さが本発明の範囲外である比較例3、4は、1000時間経過後には剥離を生じており、その結果、電流密度の低下率が大きく、耐久性に問題があることがわかる。
【0058】
特に、第1中間層も第2中間層もともに設けていない比較例9では電流密度の低下率が著しく大きい。又、中間層が1層のみでその材質がTaである比較例8も、電流密度の低下率が著しく大きい。
【0059】
又、第1中間層の厚さが本発明の範囲の上限を越える比較例2では、初期から電流を殆ど生じず、燃料電池として十分に機能していない。第1中間層の厚さが厚すぎて水素透過性能が阻害されているためと思われる。中間層をTaで形成した場合も、初期から電流密度が小さく、燃料電池として十分に機能していない。同様に、水素透過性能が阻害されているためと思われる。
【0060】
なお、第1中間層と高粒子エネルギー層が形成されている場合(実施例1〜8、比較例1〜4、6)は、新たなペロブスカイト構造酸化物を生成していることが表1の結果より示されている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の水素透過構造体を概念的に示す模式断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性膜、該プロトン伝導性膜に密着する第1中間層、該第1中間層に密着する第2中間層、及び該第2中間層に密着する水素透過性基材からなる水素透過構造体であって、
前記プロトン伝導性膜が、化学式AL1−X3−α(式中、Aは、アルカリ土類金属を表し、Lは、セリウム、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を表し、Mは、ネオジム,ガリウム、アルミニウム、イットリウム、インジウム、イッテルビウム、スカンジウム、ガドリウム、サマリウム及びプラセオジムから選ばれる1種以上の元素を表し、Xは、0.05〜0.35であり、αは、0.15〜1.00である。)で表される酸素欠損型ペロブスカイト構造酸化物で構成され、
前記第1中間層が、鉄及びクロムから選ばれる1種の金属又は2種の金属の合金よりなり、その膜厚が10nm以上で200nm以下であり、かつ
前記第2中間層が、ニッケル、銅、コバルト及び亜鉛から選ばれる1種の金属又は2種以上の金属の合金よりなり、その膜厚が1nm以上で200nm以下であることを特徴とする水素透過構造体。
【請求項2】
前記プロトン伝導性膜が、第1中間層方向への運動エネルギーを付与された粒子を、第1中間層上へ衝突させて成膜された高粒子エネルギー層を有することを特徴とする請求項1に記載の水素透過構造体。
【請求項3】
前記高粒子エネルギー層の厚さが、10nm以上であることを特徴とする請求項2に記載の水素透過構造体。
【請求項4】
前記水素透過性基材が、パラジウム箔もしくはパラジウムを主体とする合金箔、又は、バナジウム、ニオブもしくはタンタルを含む金属箔の表面に、パラジウム膜もしくはパラジウムを主体とする合金膜を有する金属箔であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水素透過構造体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水素透過構造体を用いることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−18315(P2008−18315A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190918(P2006−190918)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】