説明

油圧制御弁及びスプール弁体作動状態検出装置

【課題】スプール弁体の軸方向の移動位置をタイムリーにかつ高精度に検出することができる油圧制御弁を提供する。
【解決手段】ポートが複数形成された中空状のバルブボディ51と、該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記ポートの開口面積を変更するスプール弁体52と、このスプール弁体を軸方向の一方側へ付勢するバルブスプリング53と、通電されることによって前記バルブスプリングのばね力に抗してスプール弁体を軸方向の他方側へ移動させる電磁ソレノイド54とを備え、バルブスプリングのばね力を受ける段差面51aの外周部51bの外周面に、バルブスプリングのばね力の変化に伴う外周部の歪みを検出する半導体歪みセンサ80を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関のバルブタイミング制御装置などの油圧機器の作動を制御するための油圧制御弁及び該油圧制御弁に用いられるスプール弁体作動状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルブタイミング制御装置に用いられる前記油圧制御弁のレイアウトの自由度を向上させるために、軸方向の短尺化を図ることによって小型化の要求が高まっていると共に、スプール弁体による多数ポートの切り換え制御が望まれている。
【0003】
そして、これらの要求に答えるためには、油圧制御弁の前記多数ポートの切り換えを行うスプール弁体の移動位置の精度を向上させる必要があり、このために、スプール弁体の移動位置をタイムリー(応答性良く)にかつ精度良く検出することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−13714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載された従来の油圧制御弁にあっては、スプール弁体の移動位置を直接検出するのではなく、バルブタイミング制御装置の作動状態をフィードバック制御することによって検出するようになっている。
【0006】
このため、いわゆるハンチング現象が発生し易くなって、スプール弁体を所望の位置に高精度に制御することが困難になる。
【0007】
本発明は、前記従来技術の技術的課題に鑑みて案出されたもので、スプール弁体の移動位置の検出精度を高められる油圧制御弁及びスプール弁体作動状態検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、周壁を貫通するポートが軸方向の異なる位置に複数形成された中空状のバルブボディと、該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記ポートの開口面積を変更する複数のランド部を有するスプール弁体と、前記スプール弁体を軸方向の一方側へ付勢する付勢部材と、通電されることによって前記付勢部材の付勢力に抗して前記スプール弁体を軸方向の他方側へ移動させる電磁ソレノイドと、前記付勢部材が付勢方向で弾接する両端部位のうち、少なくとも一方の部位に設けられた歪みセンサと、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歪みセンサを用いることによって、スプール弁体の移動位置を応答性良く、かつ高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る電磁切換弁が適用されるバルブタイミング制御装置を断面して示す全体構成図である。
【図2】本実施形態に供されるベーン部材が中間位相の回転位置に保持された状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図3】本実施形態に供されるベーン部材が最遅角位相の位置に回転した状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図4】本実施形態に供されるベーン部材が最進角位相の位置に回転した状態を示す図1のA−A線断面図である。
【図5】本実施形態の各ロックピンの作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図6】本実施形態の各ロックピンの別の作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図7】本実施形態の各ロックピンの別の作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図8】本実施形態の各ロックピンの別の作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図9】本実施形態の各ロックピンの別の作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図10】本実施形態の各ロックピンの別の作動を示す図2のB−B線断面図及びC−C線断面図である。
【図11】本実施形態の電磁切換弁を示す縦断面図である。
【図12】本実施形態における電磁切換弁のスプール弁体の第1ポジションを示す縦断面図である。
【図13】同スプール弁体の第6ポジションを示す縦断面図である。
【図14】同スプール弁体の第2ポジションを示す縦断面図である
【図15】同スプール弁体の第4ポジションを示す縦断面図である
【図16】同スプール弁体の第3ポジションを示す縦断面図である
【図17】同スプール弁体の第5ポジションを示す縦断面図である
【図18】スプール弁体のストローク量(ポジション)と各油圧室及びロック通路への作動油の給排との関係を示す表である。
【図19】本実施形態に供される半導体歪みセンサの概略図である。
【図20】本実施形態に供される歪みセンサが設けられる測定装置を示す斜視図である。
【図21】歪みセンサの測定装置の他例を示す概略図である。
【図22】第2実施形態の電磁切換弁を示す縦断面図である。
【図23】第3実施形態の電磁切換弁を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る油圧制御弁が適用される内燃機関のバルブタイミング制御装置を吸気弁側に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
前記バルブタイミング制御装置は、図1〜図4に示すように、機関のクランクシャフトによりタイミングチェーンを介して回転駆動されるスプロケット1と、機関前後方向に沿って配置されて、前記スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた吸気側のカムシャフト2と、前記スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者の相対回動位相を変換する位相変更機構3と、該位相変更機構3を中間位相位置でロックさせるロック機構である位置保持機構4と、前記位相変更機構3と位置保持機構4をそれぞれ作動させる油圧回路5と、を備えている。
【0013】
前記スプロケット1は、ほぼ肉厚円板状に形成されて、外周に前記タイミングチェーンが巻回された歯車部1aを有していると共に、後述するハウジングの後端開口を閉塞するリアカバーとして構成され、中央には前記カムシャフト2に固定された後述のベーンロータ15の外周に回転自在に支持される支持孔6が貫通形成されている。
【0014】
前記カムシャフト2は、図外のシリンダヘッドにカム軸受を介して回転自在に支持され、外周面には機関弁である吸気弁を開作動させる複数の卵形の回転カムが軸方向の位置に一体に固定されていると共に、一端部の内部軸心方向に雌ねじ孔2aが形成されている。
【0015】
前記位相変更機構3は、図1及び図2に示すように、前記スプロケット1に軸方向から一体的に設けられたハウジング7と、前記カムシャフト2の一端部の雌ねじ孔2aに螺着するカムボルト8を介して固定され、前記ハウジング7内に回転自在に収容された従動回転体であるベーン部材9と、前記ハウジング7内に形成されて、該ハウジング7の内周面に有する3つのシューである隔壁10とベーン部材9とによって隔成されたそれぞれ3つの遅角油圧室11及び進角油圧室12と、を備えている。
【0016】
前記ハウジング7は、焼結金属によって一体に形成された円筒状のハウジング本体7aと、プレス成形によって形成され、前記ハウジング本体7aの前端開口を閉塞するフロントカバー13と、後端開口を閉塞するリアカバーとしての前記スプロケット1と、から構成されている。前記ハウジング本体7aとフロントカバー13及びスプロケット本体5とは、前記各隔壁10の各ボルト挿通孔10aを貫通する3本のボルト14によって共締め固定されている。前記フロントカバー13は、中央に挿通孔13aが貫通形成されている。
【0017】
前記ベーン部材9は、焼結金属によって一体に形成され、カムシャフト2の一端部にカムボルト8によって固定されたベーンロータ15と、該ベーンロータ15の外周面に円周方向のほぼ120°等間隔位置に放射状に突設された3つのベーン16a〜16cとから構成されている。
【0018】
前記ベーンロータ15は、前後方向に長いほぼ円筒状に形成され、前端面15bのほぼ中央位置に薄肉な段差小径な円筒状のシール部材挿入ガイド部15aが一体に設けられていると共に、後端部15cがカムシャフト2方向へ延設されている。また、前記ベーンロータ15の前端部から後端部の内部には、円柱状の嵌合溝15dが形成されている。
【0019】
一方、前記ベーン16a〜16cは、それぞれが各隔壁10の間に配置されていると共に、円周方向の巾がそれぞれ異なっており、最大巾のベーン16aと中巾のベーン16bはほぼ扇状に形成されていると共に、最小巾のベーン16cは、厚肉なプレート状に形成されている。前記各ベーン16a〜16cの外周面と隔壁10の先端には、ハウジング本体7aの内面とベーンロータ外周面との間をシールするシール部材17a、17bがそれぞれ設けられている。
【0020】
また、前記ベーン部材9は、図3に示すように、遅角側へ相対回転すると最大巾ベーン16aの一側面16dが対向する前記一つの隔壁10の対向側面に形成された突起面10bに当接して最大遅角側の回転位置が規制され、図4に示すように、進角側へ相対回転すると最大巾ベーン16aの他側面16eが対向する他の隔壁10の突起面10cに当接して最大進角側の回転位置が規制されるようになっている。
【0021】
このとき、他のベーン16b、16cは、両側面が円周方向から対向する各隔壁10の対向面に当接せずに離間状態にある。したがって、ベーン部材9と隔壁10との当接精度が向上すると共に、後述する各油圧室11,12への油圧の供給速度が速くなってベーン部材9の正逆回転応答性が高くなる。
【0022】
前記各ベーン16a〜16cの正逆回転方向の両側面と各隔壁10の両側面との間に、前述した各遅角油圧室11と各進角油圧室12が隔成されており、各遅角油圧室11と各進角油圧室12とは、前記ベーンロータ15の内部にほぼ放射状に形成された第1連通孔11aと第2連通孔12aを介して後述する油圧回路5にそれぞれに連通している。
【0023】
前記位置保持機構4は、ハウジング7に対してベーン部材9を最遅角側の回転位置(図3の位置)と最進角側の回転位置(図4の位置)との間の中間回転位相位置(図2の位置)に保持するものである。
【0024】
すなわち、図5〜図10に示すように、前記スプロケット1の内側面の円周方向の所定位置に設けられた断面ほぼT字形状の2つのロック穴構成部材1a、1bと、該ロック穴構成部材1a、1bにそれぞれ形成されたロック部である第1、第2ロック穴24,25と、前記ベーン部材9の2つのベーン16a,16bの内部に設けられて、前記各ロック穴24,25にそれぞれ係脱する2つのロック部材である第1、第2ロックピン26,27と、該各ロックピン26,27の前記各ロック穴24,25に対する係合を解除させるロック通路28と、から主として構成されている。
【0025】
前記第1ロック穴24は、図2〜図5に示すように、スプロケット1の円周方向に延びた円弧長穴状(繭状)に形成されていると共に、スプロケット1の内側面1cの前記ベーン部材9の最遅角側の回転位置よりも進角側に寄った中間位置に形成されている。また、第1ロック穴24は、その底面が遅角側から進角側に亘って順次低くなる3段の階段状に形成されて、これが第1ロック案内溝になっている。
【0026】
つまり、第1ロック案内溝は、図5〜図10に示すように、スプロケット1の内側面1cを最上段として、これより一段ずつ低くなる第1底面24a、第2底面24b、第3底面24cと順次低くなる階段状に形成され、遅角油圧室11側の内側面24dは垂直に立ち上がった壁面になっている。したがって、前記各底面24a〜24cに順次係合した第1ロックピン26は、ベーン16aを介して先端部26aがスプロケット1の内端面1cから各底面24a〜24cを進角方向へ段階的に下降移動すると、各段差面によって反対方向への移動、つまり、遅角方向への移動が規制される。よって、各底面24a〜24cが一方向クラッチ(ラチェット)として機能するようになっている。
【0027】
前記第1ロックピン26は、先端部26aの側縁が前記内側面24dに当接した時点で進角方向(遅角油圧室11側)への移動が規制されるようになっている(図10参照)。
【0028】
前記第2ロック穴25は、図2〜図5に示すように、第1ロック穴24と同じくスプロケット1の円周方向に延びた長穴状に形成されていると共に、スプロケット1の内側面1cの前記ベーン部材9の最遅角側の回転位置よりも進角側に寄った中間位置に形成されている。また、この第2ロック穴25は、その底面が進角油圧室12側から遅角油圧室11側に亘って順次低くなる2段の階段状に形成されており、これが第2ロック案内溝となっている。
【0029】
すなわち、スプロケット1の内側面1cを最上段として第1底面25a、第2底面25bと順次低くなる階段状に形成され、遅角油圧室11側の内側面25cは垂直に立ち上がった壁面になっている。また、第1底面25aの深さは段差面を介して第1ロック穴の第1底面24aより若干深く形成され、第2底面25bの深さは段差面25cを介して第2底面24bと第3底面24cの深さを合わせた大きな深さに設定されて、全体の深さが前記第1ロック穴24の第3底面24cとほぼ同じ深さに設定されている。したがって、前記各底面25a、25bに係合した第2ロックピン27は、ベーン16aを介して先端部27aが各底面25a、25bを進角側へ段階的に下降移動すると、各段差面によって反対方向への移動、つまり、最遅角方向への移動が規制されている。よって、各底面25a、25bが一方向クラッチ(ラチェット)として機能するようになっている。
【0030】
そして、前記第2ロックピン26は、先端部26aの側縁が第2底面25bの段差面25cに当接した時点で遅角方向(進角油圧室12側)への移動が規制されるようになっている(図10参照)。
【0031】
そして、第1、第2ロック穴24,25の相対的な形成位置の関係は、第1ロックピン26が第1ロック穴24の第1〜第3底面24a〜24cに順次当接係合した段階では、図5〜図8に示すように、第2ロックピン27は先端部27aの先端面が未だスプロケット本体5の内側面5dに当接した状態にある。
【0032】
その後、図9、図10に示すように、第1ロックピン26の先端部が第3底面24c上を僅かに進角側へ移動した時点で初めて第2ロックピン27の先端部27aが第1底面25aに当接係合し、第1ロックピン26が第3底面24cに係合したままさらに進角側へ移動して内側面24dに当接した時点で第2ロックピン27の先端部27aが第2底面25bに当接係合しつつ側縁が段差面25cに当接するように相対位置が設定されている。
【0033】
要するに、ベーン部材9が所定の遅角側位置から進角側位置まで相対回転するにしたがって前記第1ロックピン26が第1底面24a〜第3底面24cに順次段階的に当接係合し、続いて第2ロックピン27が第1底面25aと第2底面25bに順次段階的に当接係合する。これによって、ベーン部材9は、全体として5段階のラチェット作用によって遅角方向への回転を規制されながら進角方向へ相対回転して、最終的に最遅角位相と最進角位相との間の中間位相位置に保持されるようになっている。
【0034】
前記第1ロックピン26は、図1、図5などに示すように、最大巾ベーン16aの内部軸方向に貫通形成された第1ピン孔31a内に摺動自在に配置され、外径が段差径状に形成されて、最小径の前記先端部26aと、該先端部26aより後部側の中径部26bと、該中径部26bの後端側の外周面に大径フランジ状の第1受圧部26cとによって一体に形成されている。
【0035】
前記中径部26bは、先端部26a側が前記第1ピン孔31aの先端側に圧入固定されたスリーブ40の内周面を液密的に摺動するようになっていると共に、後端部26dが第1ピン孔31aに液密的に摺動するようになっている。前記先端部26aは、先端面が前記第1ロック穴24の各底面24a〜24cに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
【0036】
また、この第1ロックピン26は、中径部26bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝底面とフロントカバー13の内面との間に弾装された付勢部材である第1スプリング29のばね力によって第1ロック穴24に係合する方向へ付勢されている。
【0037】
また、この第1ロックピン26は、先端部26aと後端部26dが前記ベーン16aに形成された前後の油孔45a、45bを介して前記進角油圧室12からの同一油圧が作用するようになっている。
【0038】
つまり、前記一方の油孔45aに臨む前記先端部26aの先端面26fと中径部26bの環状先端面26gとを合わせた受圧面積と、他方の油孔45bに臨む後端部26dの後端面26hとスプリング溝の底面26iとを合わせた受圧面積が同一に設定されて、これらにそれぞれ進角油圧室12の同一の油圧が同時に作用するようになっている。
【0039】
さらに、前記第1受圧部26cは、図中下端面が後述する第1解除受圧室32に臨む第1受圧面26eとして構成されている一方、上端面が前記ベーン16a内部とフロントカバー13内とに連通状態に形成された呼吸孔43を介して大気開放されている。
【0040】
前記第2ロックピン27は、中巾ベーン16bの内部軸方向に貫通形成された第2ピン孔31b内に摺動自在に配置され、第1ロックピン26と同じく、外径が段差径状に形成されて、最小径の先端部27aと、該先端部27aより後部側の中径部27bと、該中径部26bの後端側の外周面に大径フランジ状の第2受圧部27cと、によって一体に形成されている。また、前記中径部27bは、先端部27a側が前記第2ピン孔31bの先端側に圧入固定されたスリーブ41の内周面を液密的に摺動するようになっていると共に、後端部27dが第2ピン孔31bに液密的に摺動するようになっている。前記先端部27aは、先端面が前記第2ロック穴25の各底面25a、25bに密着状態に当接可能な平坦面状に形成されている。
【0041】
また、この第2ロックピン27は、中径部27bの後端側から内部軸方向に形成された凹溝底面とフロントカバー13の内面との間に弾装された付勢部材である第2スプリング30のばね力によって第2ロック穴25に係合する方向へ付勢されている。
【0042】
また、この第2ロックピン27は、先端部27aと後端部27dが前記ベーン16bに形成された前後の油孔46a、46bを介して前記進角油圧室12からの同一油圧が作用するようになっている。つまり、前記一方の油孔46aに臨む前記先端部27aの先端面27fと中径部27bの環状先端面27gとを合わせた受圧面積と、他方の油孔46bに臨む後端部27dの後端面27hとスプリング溝の底面27iとを合わせた受圧面積が、同一に設定されて、これらにそれぞれ進角油圧室12の同一の油圧が同時に作用するようになっている。
【0043】
さらに、前記第2受圧部27cは、図中下端面が後述する第2解除受圧室33に臨む第2受圧面27eとして構成されている一方、上端面が前記ベーン16b内部とフロントカバー13内とに跨って形成された呼吸孔44を介して大気開放されている。
【0044】
前記位置保持機構4は、図1及び図5に示すように、前記第1ピン孔31aの大径段差部と第1ロックピン26の第1受圧部26cとの間に形成された前記第1解除用受圧室32と、第2ピン孔31bの大径段差部と第2ロックピン27の第2受圧部27bとの間に形成された前記第2解除用受圧室33とを有している。
【0045】
この第1、第2解除用受圧室32,33は、内部にそれぞれ供給された油圧を前記第1、第2受圧面26e、27eに作用させて、第1、第2ロックピン26,27を各スプリング29,30のばね力に抗して第1、第2ロック穴24,25から後退させてそれぞれの係合を解除するようになっている。
【0046】
前記油圧回路5は、図1に示すように、前記各遅角油圧室11に対して第1連通路11aを介して油圧を給排する遅角通路18と、各進角油圧室12に対して第2連通路12aを介して油圧を給排する進角通路19と、前記各第1、第2解除用受圧室32,33に対してそれぞれ油圧を供給、排出するロック通路28と、前記各通路18,19に作動油を選択的に供給すると共に、ロック通路28に作動油を供給する流体圧供給源であるオイルポンプ20と、機関運転状態に応じて前記遅角通路18と進角通路19の流路を切り換えると共に、前記ロック通路28に対する作動油の給排を切り換える制御弁である単一の油圧制御弁である電磁切換弁21と、を備えている。
【0047】
前記遅角通路18と進角通路19とは、それぞれの一端部が前記電磁切換弁21の後述する各ポートに接続されている一方、他端側が前記ベーン部材9のベーンロータ15の内部及び前記シール部材挿入ガイド部15a内に挿通保持されたほぼ円柱状の通路構成部37内に軸方向に沿って平行に形成された通路部18a、19aと前記第1,第2連通路11a、12aとを介して前記各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ連通している。
【0048】
前記ロック通路28は、一端側が電磁切換弁21の後述するロックポート58に接続されている一方、他端側の通路部28aが前記通路構成部37の内部軸方向から径方向に折曲されて、前記ベーンロータ15内に分岐形成された第1、第2油通路孔38a、38bを介して前記第1、第2解除用受圧室32,33にそれぞれ連通している。
【0049】
前記通路構成部37は、外側の端部が図外のチェーンカバーに固定されて非回転部として構成されており、その内部軸方向には、前記各通路部18a、19aと前記通路孔28aが形成されている。
【0050】
なお、前記通路構成部37は、外周面の軸方向の前後位置に形成された3つの嵌着溝に前記各通路部18a、19a、28aの前後をシールする3つの環状シール部材39がそれぞれ嵌着固定されている。
【0051】
前記オイルポンプ20は、機関のクランクシャフトによって回転駆動するトロコイドポンプなどの一般的なものであって、アウター、インナーロータの回転によってオイルパン23内から吸入通路20bを介して吸入された作動油が吐出通路20aを介して吐出されて、その一部がメインオイルギャラリーM/Gから内燃機関の各摺動部などに供給されると共に、他が前記電磁切換弁21側に供給されるようになっている。なお、吐出通路20aの下流側には、濾過フィルタ50aが設けられていると共に、該吐出通路20aから吐出された過剰な作動油をオイルパン23に排出して適正な流量に制御する流量制御弁50bが設けられている。
【0052】
前記電磁切換弁21は、図1及び図11に示すように、6ポート6位置の比例型弁であって、ほぼ円筒状の軸方向に比較的長いバルブボディ51と、該バルブボディ51内に軸方向へ摺動自在に設けられたスプール弁体52と、バルブボディ51の内部一端側に設けられて、スプール弁体52を図中右方向へ付勢する付勢部材であるバルブスプリング53と、バルブボディ51の一端部に設けられて、前記スプール弁体52をバルブスプリング53のばね力に抗して図中左方向へ移動させる電磁ソレノイド54と、から主として構成されている。
【0053】
前記バルブボディ51は、機関のシリンダブロックに形成されたバルブ収容孔01に挿通配置され、周壁に複数のポートが貫通形成されており、軸方向のほぼ中央位置に配置形成されて、前記オイルポンプ20の吐出通路20aに連通する隣接した一対の第1,第2導入ポート55a、55bと、先端側に形成されて、前記遅角通路18に連通する隣接した一対の第1、第2供給ポート56a、56bと、軸方向のほぼ中央位置に形成されて、前記進角通路19に連通する一つの第3供給ポート57と、基端側である前記電磁ソレノイド54側に配置形成されて、前記ロック通路28に連通するロックポート58と、前記第1、第2導入ポート55a、55bの両側に配置形成されて、前記オイルパン23に接続されたドレン通路22に連通する一対の第1,第2排出ポート59a、59bと、を有している。また、バルブボディ51の電磁ソレノイド54側の基端部外周に、前記バルブ収容孔01の内周に密着してシールするオイルシール72が嵌着固定されている。
【0054】
前記スプール弁体52は、有底中空状の内部が作動油を通流させる通路孔60として構成されていると共に、該通路孔60の両端が底壁と栓体61とによって閉止されている。また、このスプール弁体52は、外周面両端側に該スプール弁体52をバルブボディ51の内周面51aに摺動案内する円筒状の2つの第1、第2ガイド部62a、62bが形成されていると共に該両ガイド部62a、62bの間の外周面に5つの第1〜第5ランド部63a〜63eが軸方向へ所定間隔をもって一体に形成されている。
【0055】
前記第1ランド部63aと第1ガイド部62aとの間に、前記第1供給ポート56aと通路孔60とを適宜連通させる第1連通孔64aが径方向に貫通形成されている。また、前記第2ランド部63bと第3ランド部63cとの間に、前記第2導入ポート55bと通路孔60とを適宜連通させる第2連通孔64bが同じく径方向へ貫通形成されている。さらに、前記第2ガイド部62bと第5ランド部63eとの間に、前記ロックポート58と通路孔60を適宜連通させる第3連通孔64cが径方向へ貫通形成されている。
【0056】
また、前記スプール弁体52の外周面、つまり第1ランド部63aと第2ランド部63bとの間の外周面、第3ランド部63cと第4ランド部63dとの間の外周面、第4ランド部63dと第5ランド部63eとの間の外周面に、環状凹部である第1環状通路溝65aと第2環状通路溝65b及び第3環状通路溝65cがそれぞれ形成されている。なお、前記第1〜第3連通孔64a〜64cの外周側には、それぞれ円環状のグルーブ溝が形成されている。
【0057】
前記バルブスプリング53は、一端がバルブボディ51の基端部側の内周に形成された一方側部位である段差面51aに軸方向から弾接している一方、他端が前記スプール弁体52の基端側にスナップリング73を介して設けられた他方側の部位である円環状のリテーナ66に軸方向から弾接して、スプール弁体52を電磁ソレノイド54方向に付勢している。
【0058】
前記電磁ソレノイド54は、円筒状のソレノイドケーシング54aの内部に収容保持されて、電子コントローラ34から制御電流が出力される電磁コイル67と、該電磁コイル67の内周側に固定された有底筒状の固定ヨーク68と、該固定ヨーク68の内部に軸方向へ摺動自在に設けられた可動プランジャ69と、該可動プランジャ69の先端部に一体に形成されて、先端部70aが前記バルブスプリング53のばね力に抗して前記スプール弁体52の基端面を図11中、左方向へ押圧する駆動ロッド70とから主として構成されている。また、前記ソレノイドケーシング54aの後端側には、電子コントローラ34に電気的に接続される端子71aを有する合成樹脂製のコネクタ71が取り付けられている。
【0059】
そして、この電磁切換弁21は、図11〜図17に示すように、電子コントローラ34の制御電流と前記バルブスプリング53との相対的な圧力によって、前記スプール弁体52を前後方向の6つのポジジョンに移動させて、オイルポンプ20の吐出通路20aと前記いずれか一方の油通路18,19と連通させると同時に、他方の油通路18,19とドレン通路22とを連通させるようになっている。また、前記ロック通路28と吐出通路20aあるいはドレン通路22とを選択的に連通させるようになっている。
〔スプール弁体のポジション制御〕
すなわち、以下において、スプール弁体52のストローク量と各油圧室11,12や各ロック解除受圧室32,33(ロック通路28)への作動油の給排の関係を、図18に示す表を参照しながら、図12〜図17に基づいて前記スプール弁体52のポジション制御を具体的に説明する。
【0060】
まず、スプール弁体52が、図11及び図12に示すように、バルブスプリング53のばね力によって最大右方向に位置している場合(第1ポジジョン)は、第2導入ポート55bと第1供給ポート56が第1連通孔64aと通路孔60を介して連通されると共に、第1導入ポート55aと第3供給ポート57がスプール弁体52の外周面に有する第2環状通路溝65bを介して連通される。と同時に、ロックポート58と第1排出ポート59aが第3環状通路溝65cを介して連通されるようになっている。
【0061】
次に、スプール弁体52が、図13に示すように、電磁ソレノイド54への通電によりバルブスプリング53のばね力に抗して僅かに左方向へ移動した場合(第6ポジション)は、第2導入ポート55bと第1供給ポート56aの連通及び第1導入ポート55aと第3供給ポート57の連通は維持しつつ、ロックポート58が、第1排出ポート59aとの連通が遮断される一方、第2導入ポート55bとの連通が第3連通孔64cと通路孔60を介して確保されるようになっている。
【0062】
スプール弁体52が、図14に示すように、電磁ソレノイド54へのより大きな通電によってさらに僅かに左方向へ移動した場合(第2ポジション)は、前記第1導入ポート55aと第3供給ポート57との連通、並びに第2導入ポート55bとロックポート58との連通が維持されつつ、第1供給ポート56aと第2排出ポート59bが第1環状通路溝65aを介して連通される。
【0063】
スプール弁体52が、図15に示すように、さらに僅かに左方向へ移動した場合(第4ポジション)は、前記第1導入ポート55aと第3供給ポート57並びに第1供給ポート56aと第2排出ポート59bとの連通がそれぞれ遮断されると共に、ロックポート58と第2導入ポート55bとの連通が維持されるようになっている。
【0064】
スプール弁体52が、図16に示すように、さらに僅かに左方向へ移動した場合(第3ポジション)は、第2導入ポート55bとロックポート58との連通が維持され、同時に、第2導入ポート55bと第2供給ポート56bが通路孔60を介して連通すると共に、第3供給ポート57と第1排出ポート59aが第3環状通路溝65cを介して連通されるようになっている。
【0065】
また、スプール弁体52が、図17に示すように、電子ソレノイド54への最大の通電量によって最大左方向へ移動した場合(第5ポジション)は、第2供給ポート56b及びロックポート58が第2排出ポート59bに通路孔60を介して連通すると共に、第3供給ポート57が第1排出ポート59aに連通するようになっている。
【0066】
このように、機関運転状態に応じて、前記スプール弁体52の軸方向の移動位置を変更することによって、各ポートを選択的に切り換えてタイミングスプロケット1に対するベーン部材9の相対回転角度を変化させると共に、両ロックピン26,27のロック穴24,25へのロックとロック解除を選択的に行ってベーン部材9の自由な回転の許容と自由な回転を規制するようになっている。
【0067】
また、前記バルブボディ51の段差面51aが位置する外周部51bには、前記スプール弁体52の軸方向の移動位置を検出する検出装置としての半導体歪みセンサ80が取り付けられている。
【0068】
前記歪みセンサ80は、例えば、特開2006−220574号公報などに記載されたものと構造的に同一のものである。
【0069】
すなわち、この歪みセンサ80は、シリコン単結晶によって形成された一片が数ミクロン〜数mm角、厚さが10〜数百ミクロンのチップ形状を有したものを拡散層などの素子形成面(シリコン基板)の裏面全体を前記バルブボディ51の段差面51aが位置する外周部51bに貼り付けて、前記バルブスプリングプリング53の圧縮、伸張変形による付勢力の変化に応じて、前記段差面51aを介して外周部51bが受けた歪みを検出するようになっている。
【0070】
この歪みセンサ80の構造の一例を図19に基づいて簡単に説明すると、例えばp型の拡散抵抗4本を用いてホイートスンブリッジ回路を形成し、このホイートストンブリッジ回路を形成する4本のp型不純物拡散層による抵抗100は、対向する一組の左右に位置する抵抗100,100がシリコン単結晶の〔−110〕方向が長手となるように配置されている。残りの一組の上下に位置する抵抗100、100は、〔−110〕方向に対して90°回転させた〔110〕方向が長手となるように配置されている。すなわち、ホイートストンブリッジ回路を構成する半数の抵抗の各抵抗の両端子102を結ぶ直線が半導体単結晶の〔110〕方向とほぼ同一となるように形成されていると共に、該半数の抵抗の各抵抗の両端子を結ぶ線に対してほぼ直角が望ましいが、45°より大きく135°より小さい角度で交わるように配置されている。
【0071】
このように拡散抵抗のレイアウトにすることにより、4本すべての抵抗100は周囲の影響をすべて等しくすることができることから、4本の抵抗100のマスク形状を同一にエッチングすることができる。このため、不純物拡散層を形成した際に、4本の抵抗値を均一にすることができ、ホイートストンブリッジ回路のオフセットを小さくことを可能とし、精度の高い歪み量測定を行うことができる。
【0072】
なお、この歪みセンサ80は、電源及び信号ラインとしてはリード線74を用いた有線形式であって、このリード線74の端部が電子コントローラ34に接続されている。
【0073】
また、この測定装置としては、図20に示すように、前記歪みセンサ80が貼り付けられた前記シリコン基板81上に、電源82や増幅器83やA/D変換器、アナログ回路84、通信制御部85及びアンテナ86が設けられて、後述する電子コントローラ34との情報のやり取りを無線形式で行うようにすることも可能である。
【0074】
この場合、前記電源82は、蓄電池であっても良いし、電磁波を用いて自己発電を行うもので合っても良い。このような無線方式で電子コントローラ34との通信を行うことにより、電子コントローラ34との間に配線が必要なくなり、ベーン部材9の回転を阻害することなく測定を行うことができる。
【0075】
また、前記アンテナ86は、図21に示すように、シリコン基板81の外側に配置することも可能である。このように、アンテナ86を外部に配置する場合には、アンテナ86が取り囲む面積を大きくすることができることから、通信距離を長くすることができる。
【0076】
前記電子コントローラ34は、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出する。
【0077】
また、この電子コントローラ34は、検出された機関運転状態と前記半導体歪みセンサ80によって検出された歪みの変化値に基づいて演算し、前記電磁切換弁21の電磁コイル67に制御パルス電流を出力して前記スプール弁体52の移動位置を制御して、前記各ポートを選択的に切換制御するようになっている。これによって、前記スプロケット1に対するカムシャフト2の相対回転位相を変更したり、各ロックピン26,27によるロックまたはロックを解除するようになっている。
【0078】
以下、本実施形態のバルブタイミング制御装置の具体的な作動を説明する。
【0079】
まず、車両の通常走行後にイグニッションスイッチをオフ操作して機関を停止した場合には、オイルポンプ20の駆動も停止されることから、いずれかの油圧室11,12や各第1,第2解除用受圧室32,33への作動油の供給が停止される。
【0080】
つまり、機関停止前のアイドリング回転時には、各遅角油圧室11に作動油圧が供給されて、ベーン部材9が進角側の回転位置になっている状態で、イグニッションスイッチがオフ操作されると、機関の停止直前にカムシャフト2に作用する正負の交番トルクが発生する。特に、負のトルクによってベーン部材9が遅角側から進角側へ回転して中間位相位置になると、第1ロックピン26と第2ロックピン27が、図10に示すように、各スプリング29、30のばね力で進出移動して各先端部26a、27aが対応する第1、第2ロック穴24、25に係合する。これによって、ベーン部材9は、図2に示す最進角と最遅角の間の中間位相位置に保持される。
【0081】
すなわち、前記カムシャフト2に作用する負の交番トルクによってベーン部材9が図5、図6に示すように僅かに進角側に回転して前記第1ロックピン26の先端部26aが第1ロック穴24の第1底面24aに当接係合する。この時点で、ベーン部材9に正の交番トルクが作用して遅角側へ回転しようとするが、第1ロックピン26の先端部26aの側縁が第1底面24aの立ち上がり段差面に当接して遅角側への回転が規制される。
【0082】
その後、負のトルクにしたがってベーン部材9が進角側へ回転するに伴い第1ロックピン26が、図7〜図9に示すように、順次階段を下りるように移動して第2底面24b、第3底面24cに当接係合する共に、第3底面24c上を進角方向へラチェット作用を受けながら移動する。これと共に、第2ロックピン27の先端部27aが、図9及び図10に示すように、第2ロック穴25の第1底面25a、第2底面25bに順次ラチェット作用を受けながら当接係合して最終的に第2底面25b位置で係合保持される。
【0083】
この時点での第1ロックピン26は、図10に示すように、先端部26aの側縁が第3底面24cから立ち上がった進角方向(遅角油圧室11側)の前記内側面24dに当接して保持される一方、第2ロックピン27は、先端部27aの側縁が第2底面25bから立ち上がった進角油圧室12側の前記内側面25cに当接してそれぞれが安定的に保持される。
【0084】
また、この状態における電磁切換弁21は、電子コントローラ34から電磁コイル67への通電も停止されることから、スプール弁体52がバルブスプリング53のばね力で図11、図12に示す最大右方向の位置(第1ポジジョン)に保持される。これによって、前述した作動によって、吐出通路20aに対して遅角通路18及び進角通路19の両方を連通させると共に、ロック通路28とドレン通路22を連通させる。
【0085】
その後、機関を始動するために、イグニッションスイッチをオン操作すると、その直後の初爆(クランキング開始)によってオイルポンプ20が駆動し、その吐出油圧が、図12に示すように、遅角通路18と進角通路19を介して各遅角油圧室11と各進角油圧室12にそれぞれ供給される。一方、前記ロック通路28とドレン通路22は連通された状態になっていることから、各ロックピン26,27は各スプリング29,30のばね力によって各ロック穴24,25に係合した状態を維持している。
【0086】
また、前記電磁切換弁21は、油圧などの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出して電子コントローラ34によって制御されているため、オイルポンプ20の吐出油圧の不安定なアイドリング運転時は各ロックピン26,27の係合状態を維持する。
【0087】
続いて、例えば機関低回転低負荷域や高回転高負荷域に移行する直前には、電子コントローラ34から電磁コイル67に制御電流が出力されて、スプール弁体52が、図13に示すように、バルブスプリング53のばね力に抗して僅かに左方向へ移動する(第6ポジション)。これによって、通路孔60を介して吐出通路20aとロック通路28が連通する。また、吐出通路20aに対する遅角通路18と進角通路19との連通が維持される。
【0088】
したがって、ロック通路28を介して第1、第2解除用受圧室32,33に作動油(油圧)が供給されるので、各ロックピン26,27は、各スプリング29,30のばね力に抗して後退移動して先端部26a、27aが各ロック穴24,25から抜け出してそれぞれの係合が解除される。したがって、ベーン部材9の自由な正逆回転が許容される。
【0089】
ここで、従来技術のように、前記いずれか一方の油圧室11,12のみに油圧を供給した場合は、ベーン部材9がいずれか一方に回転しようとして、ベーンロータ15内の第1、第2ピン孔31a、31bと第1,第2ロック穴24,25との間に発生した剪断力を第1、第2ロックピン26,27が受けていわゆる食い込み現象が発生して、速やかな係合解除ができないおそれがある。
【0090】
また、両油圧室11,12のいずれにも油圧が供給されない場合は、前記交番トルクによってベーン部材9がばたついてハウジング7の隔壁10との衝突打音が発生するおそれがある。
【0091】
これに対して本実施形態では、両方の油圧室11,12に油圧を供給していることから、前記ロックピン26.27のロック穴24,25への食い込み現象やばたつき等を十分に抑制できる。
【0092】
そして、その後、例えば機関低回転低負荷域に移行した場合は、電磁切換弁21にさらに大きな制御電流が出力されて、スプール弁体52が、図16に示すように、バルブスプリング53のばね力に抗してさらに左側に移動し(第3ポジション)、吐出通路20aとロック通路28及び遅角通路18の連通状態を維持すると共に、進角通路19とドレン通路22が連通させる。
【0093】
これによって、各ロックピン25,26は、図5に示すように各ロック穴24,25から抜け出た状態が維持される一方、図3に示すように、進角油圧室12の油圧が排出されて低圧になる一方、遅角油圧室11が高圧になっていることから、ベーン部材9をハウジング7に対して最遅角側に回転させる。
【0094】
よって、バルブオーバーラップが小さくなって筒内の残留ガスが減少して燃焼効率が向上し、機関回転の安定化と燃費の向上が図れる。
【0095】
その後、例えば機関高回転高負荷域に移行した場合は、電磁切換弁21に小さな制御電流が供給されて、スプール弁体52が、図14に示すように、右方向へ移動する(第2ポジション)。これによって、遅角通路18とドレン通路22が連通されると共に、吐出通路20aに対してロック通路28が連通状態を維持されていると共に、進角通路19が連通する。
【0096】
したがって、図5に示すように、各ロックピン26,27の係合が解除された状態になっていると共に、遅角油圧室11が低圧になる一方、進角油圧室12が高圧になるため、ベーン部材9は、図4に示すように、ハウジング11に対して最進角側に回転する。これにより、カムシャフト2は、スプロケット1に対して最進角の相対回転位相に変換される。
【0097】
これによって、吸気弁と排気弁のバルブオーバーラップが大きくなって、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
【0098】
また、前記機関低回転低負荷域や高回転高負荷域からアイドリング運転に移行した場合は、図12に示すように、電子コントローラ34から電磁切換弁21への制御電流の通電が遮断されて、スプール弁体52が図12に示すように、バルブスプリング53のばね力を最大右方向に移動して(第1ポジション)、ロック通路28とドレン通路22を連通させると共に、吐出通路22aが遅角通路18と進角通路19の両方に連通させる。これによって、両油圧室11,12にほぼ均一圧の油圧が作用する。
【0099】
このため、ベーン部材9は、たとえ遅角側位置にあった場合でもカムシャフト2に作用する前記交番トルクによって進角側に回転する。これによって、第1ロックピン26と第2ロックピン27が、各スプリング29、30のばね力で進出移動して、前述した階段状のロック穴24,25にラチェット作用を得ながら係合する。このため、ベーン部材9は、図2に示す最進角と最遅角の間の中間位相位置にロック保持される。
【0100】
また、機関を停止する際も、前述したように、イグニッションスイッチをオフ操作すると、各ロックピン26,27は各ロック穴24,25から抜け出すことなく係合状態を維持する。
【0101】
さらに、所定の運転域が継続されている場合は、電磁切換弁21に通電されて、スプール弁体52が図15に示す軸方向のほぼ中央位置に移動する(第4ポジション)と、前記各第1,第2供給ポート56a、56bと第3供給ポート57が前記ランド63b、63dなどによって閉止されて、吐出通路20aやドレン通路22に対する前記遅角通路18と進角通路19の連通が遮断されると共に、吐出通路20aとロック通路28が連通される。
【0102】
これによって、各遅角油圧室11と各進角油圧室12の内部にそれぞれ作動油が保持された状態になると共に、各ロックピン26,27が各ロック穴24,25から抜け出してロック解除状態が維持される。
【0103】
したがって、ベーン部材9が所望の回転位置に保持されて、カムシャフト2もハウジング7に対して所望の相対回転位置に保持されることから、吸気弁の所定のバルブタイミングに保持される。
【0104】
このように、機関の運転状態に応じて、電子コントローラ34が電磁切換弁21に所定の通電量で通電、あるいは通電を遮断して前記スプール弁体52の軸方向の移動を制御して、前記第1ポジション〜第4ポジションの位置に制御する。これによって、前記位相変換機構と3と位置保持機構4を制御してスプロケット1に対するカムシャフト2の最適相対回転位置に制御することから、バルブタイミングの制御精度の向上が図れる。
【0105】
さらに、機関がエンストなどで異常停止し、あるいは通常の機関停止した後に、再始動した場合において、通電された電磁切換弁21のスプール弁体52が、移動中に作動油に混入した金属粉などのコンタミを前記各ランド部63a〜63eの端縁と各ポートの孔縁との間などに噛み込んでロックし、流路に切り換えができなくなった場合には、以下の作動を行う。
【0106】
すなわち、前記スプール弁体52の移動不能状態によって、ベーン部材9の回転位相制御ができなくなることから、この異常状態をカムシャフト2の回転位置から検出した前記電子コントローラ34が、前記電磁切換弁21の電磁ソレノイド54に最大の通電量の制御電流が出力される。これによって、スプール弁体52は、図17に示すように、左方向へ最大かつ強い力で移動して(第5ポジション)、前記コンタミを切断しつつ遅角通路18と進角通路19及びロック通路28の全てをドレン通路22に連通させる。これによって、各油圧室11,12や各受圧室32,33の作動油がオイルパン23に排出される。
【0107】
このため、ベーン部材9が、例えば中間回転位置よりも遅角側に位置していた場合でも、前述した負の交番トルクによって進角側へ回転して前記各ロックピン26,27がラチェット式に速やかに移動して各ロック穴24,25に係合する。したがって、カムシャフト2は、最遅角と最進角の間の中間回転位相に保持される。
【0108】
そして、この実施形態によれば、前記特異な構造の半導体歪みセンサ80によって、電磁切換弁21のスプール弁体52の移動位置、つまり前記第1ポジション〜第6ポジションのそれぞれの移動位置を、応答性良く検出できると共に、高精度に検出することができる。
【0109】
この結果、前記ハウジング7に対するベーン部材9の相対回転位置制御と位置保持機構4のロックピン26,27によるロック及びロック解除の作動制御を高精度に行うことが可能になる。
【0110】
すなわち、前記スプール弁体52が、図11,図12に示す最進角の回転位置にある場合は、バルブスプリング53による段差面51aへのばね付勢力が小さく、外周部51bの歪みが小さいため、かかる小さな歪みを前記歪みセンサ80が検出して電子コントローラ34に出力する。
【0111】
その後、前述のように、機関運転状態に応じてスプール弁52が図13〜図17に示すように、バルブスプリング53のばね力に抗して、つまり該バルブスプリング53を圧縮変形させながら左軸方向へ移動すると、前記段差面51a(外周部51b)に作用する反力が漸次大きくなって歪みが大きくなる。これを、歪みセンサ80が検出して電子コントローラ34に出力する。
【0112】
これによって、電子コントローラ34は、歪みセンサ80によってスプール弁体52の移動位置を直接検出し、この検出信号に基づいて電磁ソレノイド54に制御電流を出力して、ハウジング7に対するベーン部材9の相対回転角を変換制御する。したがって、前記相対回転角制御を高精度に行うことができると共に、連続かつタイムリーに制御することができる。
【0113】
また、前記歪みセンサ80を用いることによって、従来技術のようにクランク角センサとカム角センサを用いる場合に比較してコストの大幅な低減化が図れる。
【0114】
さらに、前記歪みセンサ80から検出された情報信号を無線によって電子コントローラ34に出力することから、無用な配線が不要になると共に、断線などのトラブルの発生がない。
【0115】
また、本実施形態では、各油圧室11,12への油圧制御用とロック解除受圧室32,33への油圧制御用の2つの機能を単一の電磁切換弁21によって行うようにしたため、機関本体へのレイアウトの自由度が向上すると共に、コストの低減化が図れる。
【0116】
本実施形態では、特に、前記各ロックピン26,27の各ロック穴24,25からの係合を解除する準備段階として、スプール弁体52を図12に示す第1ポジションの位置に制御して、前記第1、第2解除受圧室32,33内の作動油を排出すると同時に、各遅角油圧室11と各進角油圧室12の両方に作動油を供給することから、該両油圧室11,12のほぼ同一の相対油圧によってベーン部材9のばたつきが抑制されると共に、一方向への回転も抑制できる。
【0117】
続いて、スプール弁体52を第6ポジションに移動させることによって前記各受圧室32,33に作動油を供給すると、前記各油圧室11,12への先の作動油の供給によって、前記ロックピン26,27に対する剪断方向の力が作用しないので、ロック穴24、25からの係合解除をスムーズかつ容易に行うことができる。
【0118】
さらに、前記位置保持機構4によってベーン部材9を中間位相位置への保持性が向上すると共に、各ロック穴24、25の階段状のロック案内溝の各底面24a〜24c、25a、25bによって各ロックピン26,27は必ず各ロック穴24,25方向のみに案内移動されることから、かかる案内作用の確実性と安定性を担保できる。
【0119】
また、前記各受圧室32,33に作用する油圧を、前記各油圧室11,12の油圧を用いるのではないことから、各油圧室11,12の油圧を用いる場合に比較して、前記各受圧室32,33に対する油圧の供給応答性が良好になり、各ロックピン26,27の後退移動の応答性が向上する。また、各油圧室11,12から各受圧室32,33間のシール機構が不要になる。
【0120】
さらに、本実施形態では、各ロックピン26,27のスムーズな進退移動を得るために、前記各ロックピン26、27の軸方向両端側に、各油孔45a、45bを介して前記進角油圧室12に連通させて各ロックピン26,27のそれぞれの前後に同一の油圧が掛かるようにして軸方向にバランスさせるようにしたことから、前記各スプリング29,30のばね力と前記第1,第2解除受圧室32、33に供給された油圧との差圧によって各ロックピン26,27を速やかに進退動させることが可能になる。
〔第2実施形態〕
図22は第2実施形態を示し、この実施形態では、歪みセンサ80の配設位置は第1実施形態と同じであるが、前記リード線74を前記電磁ソレノイド54の電磁コイル67と重ねて成形することによって、前記コネクタ71を3極とし、このコネクタ71からの通電によって電磁ソレノイド54を介してスプール弁体52を軸方向へ移動させると共に、歪みセンサ80の検出信号を、電磁ソレノイド54を介してコネクタ71から電子コントローラ34に送ってスプール弁体52の移動位置を検出するようになっている。
【0121】
したがって、この実施形態によれば、第1実施形態と同様にスプール弁体52のタイムリーかつ高精度な制御が可能になると共に、リード線74の取り回しが簡素化されるため、装置の小型化が促進できる。
〔第3実施形態〕
図23は第3実施形態を示し、前記歪みセンサ80を外周部51bに代えて、前記リテーナ66の外端面66aに取り付けたものである。
【0122】
すなわち、前記リテーナ66は、弾性変形可能な金属製の円環薄板によって形成されており、内端面66bにはバルブスプリング53の一端部が弾接支持されていると共に、この内端面66bと反対の外側面66aに歪みセンサ80が貼り付けられている。
【0123】
この歪みセンサ80は、基本構造は図19に示す第1実施形態のものと同じであり、また、通電などはリード線を用いた有線方式でも良く、また前記図20、図21に示す無線方式によって行うことが可能である。
【0124】
そして、この実施形態では、前記スプール弁体52が、図12〜図17に示すように、軸方向へ移動することによってバルブスプリング53が伸縮、圧縮変形すると、前記リテーナ66が歪み変形することからこの歪変形を歪みセンサ80が検出して、電子コントローラ34に出力する。これによって、第1、第2実施形態と同様な作用効果が得られると共に、特にリテーナ66によってバルブスプリング53のばね変形に伴う歪みをダイレクトに検出できることから、一層、タイムリーにかつ高精度に検出することが可能になる。
【0125】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、適用対象装置としては吸気VTCの他に、排気VTCに適用することも可能である。
【0126】
また、前記歪みセンサ80は、電磁切換弁21のバルブスプリング53のばね変形による所定部位の歪みを検出するものであるから、前記バルブスプリング53の配設位置、例えば、バルブボディ51の先端内部に配置した場合は、このばね力を受けるバルブボディ51の先端壁に取り付けることも可能である。
【0127】
本発明が適用される油圧制御弁としては、各実施形態の構造のものに限定されるものではなく、例えばポートの少ないなどの他の一般的な電磁切換弁にも適用することが可能である。
【0128】
また、前記リテーナ66は、その材質は限定されるものではなく、金属の他に合成樹脂材などであってもよく、また厚さなどを変えて、撓み変形率を種々変更することも可能である。
【0129】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の油圧制御弁において、
前記歪みセンサは、前記バルブボディにおける前記付勢部材が当接する箇所に設けていることを特徴とする油圧制御弁。
〔請求項b〕請求項1に記載の油圧制御弁において、
前記付勢部材の付勢方向で弾接する両端部位のうちの少なくとも一方の部位に、前記付勢部材の圧縮荷重を受ける弾性部材が設けられていると共に、該弾性部材に前記歪みセンサが取り付けられていることを特徴とする油圧制御弁。
〔請求項c〕請求項bに記載の油圧制御弁において、
前記弾性部材は、弾性変形可能な薄板によって形成されていることを特徴とする油圧制御弁。
【符号の説明】
【0130】
1…スプロケット
2…カムシャフト
3…位相変更機構
4…位置保持機構
5…油圧回路
7…ハウジング
9…ベーン部材
11…遅角油圧室
12…進角油圧室
16a〜16c…ベーン
18…遅角通路
19…進角通路
20…オイルポンプ
20a…吐出通路
21…電磁切換弁
22…ドレン通路
24…第1ロック穴
25…第2ロック穴
26…第1ロックピン
27…第2ロックピン
28…ロック通路
34…電子コントローラ
01…バルブ収容穴
51…バルブボディ
51a…段差面
51b…外周部(一端部位)
52…スプール弁体
53…バルブスプリング
54…電磁ソレノイド
55a・55b…第1,第2導入ポート
56a、56b…第1,第2供給ポート
57…第3供給ポート
58…ロックポート
59a、59b…第1、第2排出ポート
60…通路孔
63a〜63e…ランド部
66…リテーナ(弾性部材)
80…歪みセンサ
81…シリコン基板
82…電源
83…増幅器
84…アナログ回路
85…通信制御部
86…受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁を貫通するポートが軸方向の異なる位置に複数形成された中空状のバルブボディと、
該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記ポートの開口面積を変更する複数のランド部を有するスプール弁体と、
前記スプール弁体を軸方向の一方側へ付勢する付勢部材と、
通電されることによって前記付勢部材の付勢力に抗して前記スプール弁体を軸方向の他方側へ移動させる電磁ソレノイドと、
前記付勢部材が付勢方向で弾接する両端部位のうち、少なくとも一方の部位に設けられた歪みセンサと、
を備えたことを特徴とする油圧制御弁。
【請求項2】
周壁を貫通する複数のポートが軸方向の異なる位置に形成された中空状のバルブボディと、
該バルブボディ内に軸方向に摺動自在に設けられ、軸方向に摺動することによって前記ポートの開口面積を変更する複数のランド部を有するスプール弁体と、
前記スプール弁体を軸方向の一方側へ付勢する付勢部材と、
通電されることによって前記付勢部材の付勢力に抗して前記スプール弁体を軸方向の他方側へ移動させる電磁ソレノイドと、を備えた油圧制御弁において、
前記付勢部材が付勢方向で弾接する両端部位のうち、少なくとも一方の部位に歪みセンサを設けると共に、該歪みセンサによって検出された検出結果に基づいて前記スプール弁体の摺動位置を算出するコントローラを有することを特徴とするスプール弁体の作動状態検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−68308(P2013−68308A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208952(P2011−208952)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】