説明

油圧装置

【課題】空気が容易に排出されて安定した油圧制御を実施することが可能となる油圧装置を提供する。
【解決手段】油圧装置100は、排出孔21を有するピストン20と、ピストン20の一部分を覆うリップ50と、ピストン20とリップ50の間に設けられて排出孔21を封止することが可能なチェックボール70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧装置に関し、より特定的には、車両に搭載される油圧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧装置は、たとえば特開2008−256009号公報(特許文献1)および実開平4−48471号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−256009号公報
【特許文献2】実開平4−48471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、油圧により作動し多板クラッチを押圧するピストンに、非作動時にはエア排出孔を開放し、油の流入により押圧されて排出孔を塞ぐ弁を備えた係合装置が開示されている。
【0005】
特許文献2では、シリンダ内の油に混入したエアを排出するためのチェックボールとそれを保持するためのゴム製部材とを設け、
ゴム製部材に通油孔を設ける構成が開示されている。
【0006】
従来の技術では、油室に一旦空気が入るとその空気の排出が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、油室に混入した空気を容易に排出することが可能な油圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に従った油圧装置は、油室のエアを排出する排出孔が設けられた、油圧により作動するピストンと、油圧が作用時に、排出孔を閉じるチェックボールと、油圧が作用時に弾性変形してチェックボールを押圧するように排出孔の周辺部に設けられたリップとを備える。
【0009】
このように構成された油圧装置では、ピストン作動時の油圧を低下させることなく油圧室のエアを排出可能なため、応答性が向上する。ボールが油圧を受け、リップは作動初期以外は変形しないことで、リップの耐久性が向上する。
【0010】
好ましくは、リップの通油孔の径は排出孔の径よりも小さい。
【発明の効果】
【0011】
この発明に従えば、容易に空気を油室から排出することが可能な油圧装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に従った空気の排出機構を有する油圧装置の断面図である。
【図2】図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す、空気排出部の構成を説明するための断面図である。
【図3】空気が排出されてリップに油圧が加わった状態における空気排出部の動作を説明するための断面図である。
【図4】チェックボールに油圧が加わって排出孔を封止している状態を説明するための断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2に従った空気排出部の構成を説明するための断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2に従った空気排出部の動作状態を説明するための断面図である。
【図7】この発明の実施の形態2に従った空気排出部の動作状態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照番号を付し、その説明については繰返さない。また、各実施の形態を組合せることも可能である。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った空気の排出機構を有する油圧装置の断面図である。図1を参照して油圧装置100は、ケース10と、ケース10に嵌め合わされたピストン20と、ピストン20を付勢する付勢手段としてのバネ30と、ピストン20により形成された空間から空気を排出する空気排出部40と、ケース10とピストン20との間に設けられたリップ50とを備える。
【0015】
ケース10は筐体であり、その内部に油室60を形成している。ケース10の油室60には作動油61が供給される。作動油61はケース10に設けられた作動油供給孔11から油室60内へ送られる。ピストン20はケース10内に嵌合している。ピストン20はバネ30を圧縮する方向と、バネ30を伸ばす方向とに移動することが可能である。ピストン20の一方の面はバネ30に押圧され、他方の面は油室60に向かい合っている。すなわち、油室60内の作動油61によってピストン20により加えられる力と、バネ30によってピストン20に加えられる力のバランスにより、ピストン20の位置(変位)が決定される。すなわち、油室60内の作動油61の圧力が大きくなると、油室60が膨張し、これによりピストン20が図1中の右方向へ移動する。このとき、バネ30が押し縮められる。これとは反対に、油室60内の作動油61が少なくなると、ピストン20はバネ30に押圧された図1中の左方向へ移動する。
【0016】
油室60内には好ましくは作動油61が完全に充填されていることが好ましいが、作動油61内の気泡が油室60に溜まり、油室60の上部に空気62が混入することがある。非回転系のサーボでは、一旦油室60に空気が入ると排出困難である。ピストン20とケース10との隙間はリップ50でシールされているため、空気62の排出が困難となっている。
【0017】
またピストン20が回転しない非回転系の部分においては空気62と作動油61との遠心力の差を利用して空気62が回転中心に集まる構成とすることができない。この空気62を排出できない状態が続くと、油圧制御時に応答性などが安定せずばらつきなどが発生する。ピストン20の一部分にブリード孔を設け、常時油圧をリークすることで空気62を排出する構成も可能であるが、この場合には、トルク容量の低下、無駄な油圧供給による燃費への悪影響などの弊害が発生する。
【0018】
そこで、空気排出部40をピストン20およびリップ50に設けている。その構成について以下に説明する。
【0019】
図2は、図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す、空気排出部の構成を説明するための断面図である。図2を参照して、空気排出部40は、リップ50に設けられた通油孔としての通気孔51と、ピストン20に設けられた排出孔21と、排出孔21を閉じることが可能なチェックボール70とを有する。通気孔51からは矢印62aで示すように空気が排出される。通気孔51の径はW1であり、排出孔21の最小径はW2である。通気孔62aは、油室60の比較的高い位置、すなわち空気が溜まりやすい位置に設けられる。図2で示すように、油室60に空気62が溜まっている場合には、その空気は矢印62aで示すように通気孔51を経由して排出孔21側へ排出される。これにより、油室60内の空気62が減少する。このとき、チェックボール70は、排出孔21を塞がない位置に位置決めされている。
【0020】
図3は、空気が排出されてリップに油圧が加わった状態における空気排出部の動作を説明するための断面図である。図3を参照して、空気が排出された後は、リップ50に矢印61aで示す方向に油圧が加わる。これは、作動油の粘性が高いため、作動油61が通気孔51から排出されにくくなり、これにより油圧が通気孔51近辺にも加えられるためである。これにより、リップ50はチェックボール70を押圧する。排出孔21の周面がテーパ面となっているため、チェックボール70は排出孔21を塞ぐ。このとき、チェックボール70の外径Dは排出孔21の内径W1よりも大きい。
【0021】
図4は、チェックボールに油圧が加わって排出孔を封止している状態を説明するための断面図である。図4を参照して、チェックボール70で油圧を受けた後は、リップ50は図2で示す初期位置に戻る。この状態において、リップ50は油圧を受けないため、リップ50が劣化することを防止できる。
【0022】
以上のように、この発明に従った油圧装置100では、加圧初期に通気孔51から空気を排出した後、油圧でリップ50を変形させてチェックボール70を排出孔21に導いて排出孔21を塞ぐ。これにより油圧の漏れをなくし油圧サーボのトルク容量への影響をなくすこととの両立を図ることができる。さらに、油圧を図4で示すようにチェックボール70で受けることで耐久性を向上させることができる。
【0023】
(実施の形態2)
図5は、この発明の実施の形態2に従った空気排出部の構成を説明するための断面図である。図5を参照して、この発明の実施の形態2に従った空気排出部40では、通気孔51の内径W1が排出孔21の内径W2よりも小さい点で、実施の形態1に従った油圧装置100と異なる。
【0024】
図6および図7は、この発明の実施の形態2に従った空気排出部の動作状態を説明するための断面図である。図6を参照して、初期段階では、チェックボール70が、排出孔21を塞いでいない。この状態において、通気孔51および排出孔21から空気が排出される。そして、空気の排出が終わると、作動油が通気孔51から排出されようとするが、通気孔51の孔径が小さいため、図7で示すように、作動油が通気孔51を押し潰し、チェックボール70に油圧が加わる。この油圧により、チェックボール70が排出孔21を封止する。
【0025】
このように構成された、実施の形態2に従った油圧装置でも、実施の形態1に従った油圧装置と同様の効果がある。
【0026】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、ここで示した実施の形態はさまざまに変形することが可能である。まず、リップ50は、たとえばOリングなどによるシールに置き換えてもよい。Oリングによるシールの場合は油圧がかけきらないときは密着が弱いために、係合初期の油圧がかかりきる前に、隙間から空気が排出されることがある。
【0027】
また、空気排出部40はピストンではなくケース側に設けてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0028】
10 ケース、11 作動油供給孔、20 ピストン、21 排出孔、30 バネ、40 空気排出部、50 リップ、51 通気孔、60 油室、61 作動油、61a 矢印、62 空気、62 通気孔、70 チェックボール、100 油圧装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油室のエアを排出する排出孔が設けられた、油圧により作動するピストンと、
油圧が作用時に、前記排出孔を閉じるチェックボールと、
油圧が作用時に弾性変形して前記チェックボールを押圧するように前記排出孔の周辺部に設けられたリップとを備えた、油圧装置。
【請求項2】
前記リップに設けられた通油孔の径は前記排出孔の径よりも小さい、請求項1に記載の油圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−216599(P2010−216599A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65592(P2009−65592)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】