油温センサの故障診断装置
【課題】早期に油温センサの故障診断を行うことを可能にし、故障診断を行う頻度を高めるとともに油温センサの故障検出精度を高める。
【解決手段】エンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における第一差分と第二差分を求め、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行う
【解決手段】エンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における第一差分と第二差分を求め、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行う
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は油温センサの故障診断装置に係り、特にエンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機に使用される作動油の温度を検出する油温センサの故障を診断する油温センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、変速機に使用される作動油の温度を検出するための油温センサを備えるとともに、この油温センサの故障診断をするための故障診断装置を備えている。
【0003】
従来の油温センサの故障診断装置には、変速機の油温(TFT)が例えば20℃以下のスタック(油温センサの検出値がある値に固着している状態)を検出し、所定のアクセル開度条件等で走行条件を満たしたときに、所定時間にわたり変速機の油温が変化していない(スタック)場合に、油温センサをスタック故障と判定するものがある。(従来技術1−走行中診断)
【0004】
従来の油温センサの故障診断装置には、上記従来技術1の診断と並行して、エンジン停止後のソーク(エンジンの再始動までの停止状態)中に、エンジン冷却水の水温(ECT)の低下度合いに対する油温(TFT)の変化度合いが少ない場合等にスタックしていると判定するものがある。(従来技術2−ソーク診断1)
【0005】
従来の油温センサの故障診断装置には、エンジン停止してソーク後のエンジン始動時にソーク時間を測定するソークタイマを参照し、ソークタイマによる測定時間によりソークが十分に行われている場合に故障判定閾値と油温(TFT)、水温(ECT)の絶対値の差分とを比較し、差分が故障判定閾値以上であった場合に故障と判定するものがある。(従来技術3−ソーク診断2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−25024号公報
【特許文献2】特許第4459965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記従来技術1の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)油温(TFT)の昇温を利用して油温センサの故障を検出しているため、油温(TFT)がサチュレートする領域(時間経過による油温(TFT)の変化量が小さい場合)での故障検出が困難である。(例えば、油温(TFT)20℃以下、油温(TFT)140℃以上のみで検出をしているため、時間経過による油温(TFT)の変化が比較的大きくなる油温(TFT)20℃以下、油温(TFT)140℃以上のみで、油温センサの故障診断を行っていた。)
(2)走行中に油温を検出して診断を行っているため、走行条件などで検出領域が限定されている。
(3)上記理由(1)、(2)により、検出性低下、頻度低下することになる。 (4)さらに、故障確定するまでに時間が掛かる傾向がある。(例えば、所定時間にわたり変速機の油温が変化していない状態を検出する等。)
(5)診断閾値を決定するにあたり、油温(TFT)の昇温性確認が必要となり、確認、適合工数が多くかかる。
(6)また、車両部品変更(バンパー変更、油量変更、クーラ変更など)によりクーラ性能が変更になる場合、確認工数が大である。
【0008】
また、前記従来技術2の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)ソーク中の油温(TFT)の変化特性(温度の低下率)を見て診断しているため、ソーク中の油温(TFT)の変化特性が正しく検出できているが、油温(TFT)の検出値が本来の値よりも高い、もしくは低い値となっている場合の故障は診断できない。
(2)水温(ECT)がある程度変化しないと油温(TFT)が変化しないため、環境によって検出性、頻度が低下する。
【0009】
さらに、前記従来技術3の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)ソークタイマを特たない車両では実施できない。
(2)設定されたソーク時間を満たさねば診断が行われないため、検出頻度が低い。
【0010】
この発明の目的は、早期に油温センサの故障診断を行うことを可能にし、故障診断を行う頻度を高めるとともに油温センサの故障検出精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、車両の動力源であるエンジンと、前記エンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機と、前記エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記エンジンの吸気温を検出する吸気温センサと、前記油温センサの検出した油温に基づいて前記油温センサの異常状態を判定する制御手段を備えた油温センサの故障診断装置において、前記制御手段は検出された油温と水温と吸気温を記憶する温度記憶手段を備え、前記温度記憶手段はエンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、前記制御手段は、前記油温センサを故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン停止後の次のエンジン始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求め、前記第一差分と第二差分の大小を比較し、前記第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、前記第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明の油温センサの故障診断装置は、水温、油温、吸気温が油温センサの故障診断可能な所定の値に収束するのを待つことなく油温センサの故障診断を行うことができるので、早期に油温センサの故障診断が行うことができるとともに、油温センサの故障診断を行う頻度を高めることができる。
この発明の油温センサの故障診断装置は、第一差分と第二差分の小さい側の差分を利用して油温センサの故障診断を行うので、油温センサを正常判定するための第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の正常診断閾値幅を小さくでき、油温センサの異常診断を誤判定することを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は故障診断装置のブロック図である。(実施例)
【図2】図2はパワートレインを搭載した車両の概略平面図である。(実施例)
【図3】図3は第一〜第三故障診断閾値それぞれで診断した場合のフローチャートである。(実施例)
【図4】図4は第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の組み合わせと第三故障診断閾値それぞれで診断した場合のフローチャートである。(実施例)
【図5】図5は前提条件の走行経験条件を示す図である。(実施例)
【図6】図6(A)は前提条件のストール判定条件を示す図、図6(B)はストール判定条件の車速に対するアクセル開度を示す図である。(実施例)
【図7】図7はストール解除タイマの動作例を示すタイムチャートである。(実施例)
【図8】図8は水温(ECT)と油温(TFT)が先に収束する場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図9】図9は吸気温(IAT)と油温(TFT)が先に収束する場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図10】図10は熱害でソークが進んでも吸気温(IAT)が低下しない場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図11】図11は吸気温(IAT)の急変化で水温(ECT)、吸気温(IAT)が共に油温(TFT)からの乖離が大きい場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図12】図12は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第一故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図13】図13は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第二故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図14】図14は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第三故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図15】図15は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図16】図16は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側でスタックした場合の第一故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図17】図17は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図18】図18は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側でスタックした場合の第二故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図19】図19は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が中温でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図20】図20は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が中温でスタックした場合の第三故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図21】図21は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図22】図22は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側にオフセットした場合の第一故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図23】図23は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図24】図24は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合の第二故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図25】図25は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図26】図26は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合の第三故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0015】
図1〜図26は、この発明の実施例を示すものである。図2において、1は車両、2はこの車両1に搭載されるパワートレインである。パワートレイン2は、動力源であるエンジン3と、このエンジン3の動力を駆動輪に伝える変速機(自動変速機)4とからなる。エンジン3には、冷却水の温度(水温)を検出する水温センサ5を備え、吸気温を検出する吸気温センサ6を備えている。変速機4には、差動油によって作動して各シフトポジションに応じた変速段に切り換えるブレーキ等の切換機構を備え、この切換機構に供給する作動油を切り換える複数のソレノイドバルブとして第1〜第4ソレノイドバルブ7〜10を備え、これら第1〜第4ソレノイドバルブ7〜10により切り換えられる作動油の温度(油温)を検出する油温センサ11を備えている。
車両1は、図1に示すように、油温センサ11の故障診断装置12を備えている。故障診断装置12は、エンジン3の水温、吸気温、変速機4の油温によって各温度の相関から油温センサ11の故障診断を行うものであって、車両1の走行中、エンジン停止時、エンジン始動時に状況を判定することで、各状況に合った判定値(閾値)を用いて対応するものである。
【0016】
前記故障診断装置12は、制御手段13が備えている。制御手段13には、前記水温センサ5と、吸気温センサ6と、第1〜第4ソレノイド7〜10と、油温センサ11とが連絡している。また、制御手段13には、アクセルペダルの踏み込み量をアクセル開度として検出するアクセル開度センサ14と、車速を検出する車速センサ15と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ16と、バッテリ電温を検出可能なバッテリ電圧検出センサ17と、イグニションスイッチ18と、変速機4のシフトポジションを検出可能なシフトポジションスイッチ19と、エンジン3の始動時・停止時を検出可能なエンジン始動停止検出センサ20とが連絡している。
【0017】
前記制御手段13は、検出された油温と水温と吸気温とを記憶する温度記憶手段21と、油温センサ11の検出した油温に基づいて油温センサ11の異常状態を判定するための故障診断閾値を記憶する故障診断閾値記憶手段22と、故障診断閾値により油温センサ11の故障診断を行う故障判定手段23とを備えている。
前記温度記憶手段21は、エンジン3の停止時とエンジン停止後の次のエンジン3の始動時における油温と水温と吸気温を記憶する。前記制御手段13は、油温センサ11を故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値とを、故障診断閾値記憶手段22に記憶して備えている。
前記制御手段13は、故障判定手段23によって、エンジン3を停止後の次のエンジン3の始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン3を停止後の次のエンジン3の始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求める。そして、制御手段13は、故障判定手段23によって、第一差分と第二差分の大小を比較し、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行い、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行う。
【0018】
また、前記制御手段13は、所定の故障診断閾値の一つとして、水温と油温との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第三故障診断閾値を、故障診断閾値記憶手段22に記憶して備えている。制御手段13は、故障判定手段23によって、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温の変化傾向が水温の変化傾向と異なる場合に、第一差分と第三故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行う。
【0019】
さらに、前記制御手段13は、第一故障診断閾値と第二故障診断閾値と第三故障診断閾値とを、冷却水の温度の低下量が大きいほど小さくなるように設定し、故障診断閾値記憶手段22に記憶する。
【0020】
次に、この実施例に係る油温センサ11の故障診断を、図3・図4のフローチャートに基づいて説明する。図3のフローチャートによる故障診断は、第一〜第三故障診断閾値それぞれで油温センサ11の故障を診断する。図4のフローチャートによる故障診断は、第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の組み合わせと第三故障診断閾値それぞれで油温センサ11の故障を診断する。なお、図3〜図26においては、油温を「TFT」、水温を「ECT」、吸気温を「IAT」、水温の変化量を「ΔECT」、第一故障診断閾値を「ECT閾値1」、第二故障診断閾値を「IAT閾値」、第三故障診断閾値を「ECT閾値2」と記載して説明する。
【0021】
図3のフローチャートにおいて、故障診断装置12の制御手段13によるプログラムがスタートすると(ステップA01)、先ず、油温センサ11の故障診断の前提条件が成立したかを判断する(ステップA02)。前提条件は、故障診断を実施する直前のDC(ドライビングサイクル)走行をモニタして、故障診断を実施するかどうかを判断するものである。この故障診断の実施は、走行条件が成立し、かつ、登坂(ストール)条件が不成立である場合に行われる。
走行条件は、図5に示すように、(1)油温が設定範囲内(TftPreL≦油温≦TftPreH)、(2)水温が設定範囲内(EngWaPreL≦水温≦EngWaPreH)、(3)吸気温が設定範囲内(EngArPreL≦吸気温≦EngArPreH)、(4)エンジン3のオン時間(エンジン回転速度がある一定値以上等のエンジン始動条件を満足後の経過時間)が設定時間以上(エンジンOn時間≧EngOnTime)、(5)エンジン3のアイドル運転時間(エンジン3の始動後、変速機4がP(パーキング)レンジまたはN(ニュートラル)レンジでの積算時間)が設定時間以上(アイドル時間≧IdleTime)、(6)アクセル開度積算時間が設定時間以上(アクセル開度積算時間≧AcclTime)、(7)車速が設定車速以上(車速≧VhclSpdPre)、(8)設定車速以上での走行(7)が成立している走行時間が設定時間以上(走行時間≧DrvPre)、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
登坂(ストール)条件は、ストール判定の成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)以上である場合に、成立する。
ストール判定は、図6(A)に示すように、(1)アクセル開度が設定開度以上(アクセル開度≧AcclSt)、(2)変速機4においてロックアップ・スリップロックアップのいずれの状態でもない、(3)変速機4のシフトポジションがP(パーキング)レンジ・N(ニュートラル)レンジ以外であること、の全ての条件が、所定時間(StTime)満たされた場合に成立する。アクセル開度の設定開度は、図6(B)に示すように、車速に応じて定められるものである。
ストール解除タイマの動作例においては、図7に示すように、ストール判定が成立し(診断条件が停止)、そして、このストール判定の成立から不成立になった時(「ストール確定」として記す)に、ストール解除タイマでストール減衰時間をセットして、このストール減衰時間を減衰し、このストール減衰時間が零(0)になった時に、診断条件を復帰させる。
これより、登坂(ストール)条件は、ストール判定の不成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)である場合に、不成立する。
【0022】
前記判断(ステップA02)がNOの場合は、このステップA02に戻る。前記ステップA02がYESの場合は、エンジン3の停止時における油温(TFT)、水温(ECT)、吸気温(IAT)を保存し(ステップA03)、エンジン3を再始動し(ステップA04)、吸気温(IAT)の信頼性の条件が成立したかを判断する(ステップA05)。
吸気温(IAT)の信頼性の条件は、エンジン3を停止後のソーク中に、水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対して吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)が急変していない場合に成立する。ソークは、エンジン3が停止して冷却水や作動油が循環していない状態を意味し、エンジン3を停止した後、そのままの状態で放置しておくと、油温、水温、吸気温がともに周囲温度(エンジンルーム内の温度)に略等しい状態となる。吸気温(IAT)は、図11に示すように、ソーク中に外気からの風の影響による急変が懸念される。吸気温(IAT)の急変は、油温センサ11の故障診断に誤判定する可能性があるため、診断を行わない。もしくは異なる故障診断閾値にて診断を行う。
前記判断(ステップA05)がNOの場合は、ステップA02に戻る。前記判断(ステップA05)がYESの場合は、熱害の条件が成立したかを判断する(ステップA06)。熱害時は、図10に示すように、ソークが進んでも、油温(TFT)、水温(ECT)に対して、吸気温(IAT)が低下しない。熱害の条件は、(1)水温(ECT)がエンジン3の停止時よりも所定量だけ低下、(2)エンジン3の再始動時の吸気温(IAT)が所定値以上高い、(3)エンジン3の停止時からの吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)の変化量が所定値よりも小さい、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
【0023】
前記判断(ステップA06)において、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と同じで、吸気温(IAT)が低下して熱害の条件が不成立し、判断(ステップA06)がNOの場合は、油温(TFT)が水温(ECT)と吸気温(IAT)のどちらとより収束しているかを判断する(ステップA07)。この判断(ステップA07)においては、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分を求めるとともに、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分を求め、求めた第一差分と第二差分の大小を比較することで判断を行う。
図8に示すように、第一差分が第二差分よりも小さく、油温(TFT)が水温(ECT)とより早く収束している(ステップA07:ECT)場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)を満足するかを判断する(ステップA08)。第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、図12に示すように、第一差分と比較する第一所定値として、高側の閾値(ECT1High)と低側の閾値(ECT1Low)とを設定している。また、第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップA08)においては、水温(ECT)と油温(TFT)の収束が油温(TFT)と吸気温(IAT)の収束よりも早い(ステップA07;ECT)ので、図12に示すように、第一故障診断閾値(ECT閾値1)にて油温センサ11の故障診断を実施する。
制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA08)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA09)、プログラムを終了する(ステップA10)。一方、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA08)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA11)、プログラムを終了する(ステップA10)。
【0024】
また、前記判断(ステップA07)において、図9に示すように、第二差分が第一差分よりも小さく、油温(TFT)が吸気温(IAT)とより早く収束している(ステップA07:IAT)場合は、吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)を満足するかを判断する(ステップA12)。第二故障診断閾値(IAT閾値)は、図13に示すように、第二差分と比較する第二所定値として、高側の閾値(IATHigh)と低側の閾値(IATLow)とを設定している。また、第二故障診断閾値(IAT閾値)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップA12)においては、吸気温(IAT)と油温(TFT)との収束が水温(ECT)と油温(TFT)との収束よりも早い(ステップA07;IAT)ので、第二故障診断閾値(IAT閾値)にて油温センサ11の故障診断を実施する。
制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA12)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA13)、プログラムを終了する(ステップA10)。一方、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA12)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA14)、プログラムを終了する(ステップA10)。
なお、図12において、斜線で示す領域は、吸気温(IAT)を考慮した第一故障診断閾値(ECT閾値1)と吸気温(IAT)を考慮しない第一故障診断閾値(ECT閾値1)とで挟まれた領域を示している。吸気温(IAT)を考慮することで、油温センサ11の正常判定閾値幅を狭め、より精度の高い油温センサ11の故障診断を実施できる。ここでは、一例として第一故障診断閾値の低側の閾値(ECT1Low)のみを図示している。
【0025】
さらに、前記判断(ステップA06)において、図10に示すように、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なり、吸気温(IAT)が低下しないで熱害の条件が成立し、判断(ステップA06)がYESの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)を満足するかを判断する(ステップA15)。第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、図14に示すように、第一差分と比較する第三所定値として、高側の閾値(ECT2High)と低側の閾値(ECT2Low)とを設定している。また、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。熱害と判定された場合は、ソーク時の水温(ECT)の変化量(ΔECT)に対する水温(ECT)と油温(TFT)の収束が早いため、水温(ECT)と油温(TFT)の比較のみで診断が可能である。
第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA15)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA16)、プログラムを終了する(ステップA10)。第二差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)未満、あるいは閾値(ECT2High)より上の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA15)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA17)、プログラムを終了する(ステップA10)。
【0026】
図4のフローチャートにおいて、故障診断装置12の制御手段13によるプログラムがスタートすると(ステップB01)、先ず、油温センサ11の故障診断の前提条件が成立したかを判断する(ステップB02)。前提条件は、故障診断を実施する直前のDC(ドライビングサイクル)走行をモニタして、故障診断を実施するかどうかを判断するものである。この故障診断の実施は、走行条件が成立し、かつ、登坂(ストール)条件が不成立である場合に行われる。
走行条件は、図5に示すように、(1)油温が設定範囲内(TftPreL≦油温≦TftPreH)、(2)水温が設定範囲内(EngWaPreL≦水温≦EngWaPreH)、(3)吸気温が設定範囲内(EngArPreL≦吸気温≦EngArPreH)、(4)エンジン3のオン時間(エンジン回転速度がある一定値以上等のエンジン始動条件を満足後の経過時間)が設定時間以上(エンジンOn時間≧EngOnTime)、(5)エンジン3のアイドル運転時間(エンジン3の始動後、変速機4がP(パーキング)レンジまたはN(ニュートラル)レンジでの積算時間)が設定時間以上(アイドル時間≧IdleTime)、(6)アクセル開度積算時間が設定時間以上(アクセル開度積算時間≧AcclTime)、(7)車速が設定車速以上(車速≧VhclSpdPre)、(8)設定車速以上での走行(7)が成立している走行時間が設定時間以上(走行時間≧DrvPre)、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
登坂(ストール)条件は、ストール判定の成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)以上である場合に、成立する。
ストール判定は、図6(A)に示すように、(1)アクセル開度が設定開度以上(アクセル開度≧AcclSt)、(2)変速機4においてロックアップ・スリップロックアップのいずれの状態でもない、(3)変速機4のシフトポジションがP(パーキング)レンジ・N(ニュートラル)レンジ以外であること、の全ての条件が、所定時間(StTime)満たされた場合に成立する。アクセル開度の設定開度は、図6(B)に示すように、車速に応じて定められるものである。
ストール解除タイマの動作例においては、図7に示すように、ストール判定が成立し(診断条件が停止)、そして、このストール判定の成立から不成立になった時(「ストール確定」として記す)に、ストール解除タイマでストール減衰時間をセットして、このストール減衰時間を減衰し、このストール減衰時間が零(0)になった時に、診断条件を復帰させる。
これより、登坂(ストール)条件は、ストール判定の不成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)である場合に、不成立する。
【0027】
前記判断(ステップA02)がNOの場合は、このステップA02に戻る。前記ステップA02がYESの場合は、エンジン3の停止時における油温(TFT)、水温(ECT)、吸気温(IAT)を保存し(ステップA03)、エンジン3を再始動し(ステップA04)、吸気温(IAT)の信頼性の条件が成立したかを判断する(ステップA05)。
吸気温(IAT)の信頼性の条件は、エンジン3を停止後のソーク中に、水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対して吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)が急変していない場合に成立する。ソークは、エンジン3が停止して冷却水や作動油が循環していない状態を意味し、エンジン3を停止した後、そのままの状態で放置しておくと、油温、水温、吸気温がともに周囲温度(エンジンルーム内の温度)に略等しい状態となる。吸気温(IAT)は、図11に示すように、ソーク中に外気からの風の影響による急変が懸念される。吸気温(IAT)の急変は、油温センサ11の故障診断に誤判定する可能性があるため、診断を行わない。もしくは異なる故障診断閾値にて診断を行う。
前記判断(ステップA05)がNOの場合は、ステップA02に戻る。前記判断(ステップA05)がYESの場合は、熱害の条件が成立したかを判断する(ステップA06)。熱害時は、図10に示すように、ソークが進んでも、油温(TFT)、水温(ECT)に対して、吸気温(IAT)が低下しない。熱害の条件は、(1)水温(ECT)がエンジン3の停止時よりも所定量だけ低下、(2)エンジン3の再始動時の吸気温(IAT)が所定値以上高い、(3)エンジン3の停止時からの吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)の変化量が所定値よりも小さい、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
【0028】
前記判断(ステップB06)において、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と同じで、吸気温(IAT)が低下して熱害の条件が不成立し、判断(ステップA06)がNOの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)を満足するかを判断する(ステップB07)。第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、図12に示すように、第一差分と比較する第一所定値として、高側の閾値(ECT1High)と低側の閾値(ECT1Low)とを設定している。また、第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップB07)においては、図12に示すように、第一故障診断閾値(ECT閾値1)にて油温センサ11の故障診断を実施する。制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB07)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB08)、プログラムを終了する(ステップB09)。
【0029】
また、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB07)がNOの場合は、吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)を満足するかを判断する(ステップB10)。第二故障診断閾値(IAT閾値)は、図13に示すように、第二差分と比較する第二所定値として、高側の閾値(IATHigh)と低側の閾値(IATLow)とを設定している。また、第二故障診断閾値(IAT閾値)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップB10)においては、図13に示すように、第二故障診断閾値(IAT閾値)にて油温センサ11の故障診断を実施する。制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB10)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB11)、プログラムを終了する(ステップB09)。第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB10)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップB12)、プログラムを終了する(ステップB09)。
なお、図12において、斜線で示す領域は、吸気温(IAT)を考慮した第一故障診断閾値(ECT閾値1)と吸気温(IAT)を考慮しない第一故障診断閾値(ECT閾値1)とで挟まれた領域を示している。吸気温(IAT)を考慮することで、油温センサ11の正常判定閾値幅を狭め、より精度の高い油温センサ11の故障診断を実施できる。ここでは、一例として第一故障診断閾値の低側の閾値(ECT1Low)のみを図示している。
【0030】
さらに、前記判断(ステップB06)において、図10に示すように、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なり、吸気温(IAT)が低下しないで熱害の条件が成立し、判断(ステップB06)がYESの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)を満足するかを判断する(ステップB13)。第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、図14に示すように、第一差分と比較する第三所定値として、高側の閾値(ECT2High)と低側の閾値(ECT2Low)とを設定している。また、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。熱害と判定された場合は、ソーク時の水温(ECT)の変化量(ΔECT)に対する水温(ECT)と油温(TFT)の収束が早いため、水温(ECT)と油温(TFT)の比較のみで診断が可能である。
第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB13)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB14)、プログラムを終了する(ステップB09)。第二差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB13)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップB15)、プログラムを終了する(ステップB15)。
【0031】
次に、故障診断装置12による油温センサ11の故障診断の具体例を、図15〜図26にしたがって説明する。
【0032】
図15・図16は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が高温側でスタックした場合の診断を示すものである。
図15に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が高温側(80℃)で変化しない場合は、図16に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側から高温側に大きく変化する。故障診断装置12は、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下から、閾値(ECT1High)より上の高い値に変化したときに、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0033】
図17・図18は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が低温側でスタックした場合の診断を示すものである。
図17に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が低温側(0℃)で変化しない場合は、図18に示すように、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分が低温側で変化する。故障診断装置12は、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATLow)未満の低い値にとどまっているので、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0034】
図19・図20は、熱害条件の成立時に油温センサ11の検出値が中温でスタックした場合の診断を示すものである。
図19に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束した後に再び離れ、油温(TFT)が中温(20℃)で変化しない場合は、図20に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側で変化する。故障診断装置12は、第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2Low)未満の低い値にとどまっているので、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0035】
図21・図22は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が高温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図21に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が高温側に変化して収束しない場合は、図22に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が高温側に変化する。故障診断装置12は、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下から、閾値(ECT1High)より上の高い値となったときに、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0036】
図23・図24は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が低温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図23に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が低温側に変化して収束しない場合は、図24に示すように、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分が低温側に変化する。故障診断装置12は、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATLow)以上から、閾値(IATLow)未満の低い値となったときに、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0037】
図25・図26は、熱害条件の成立時に油温センサ11の検出値が低温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図25に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束した後に再び離れ、油温(TFT)が低温側に変化して収束しない場合は、図26に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側にわずかに変化する。故障診断装置12は、第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2Low)以上から、閾値(ECT2Low)未満の低い値となったとき、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0038】
このように、故障診断装置12は、エンジン3の水温(ECT)、吸気温(IAT)、変速機4の油温(TFT)によって各温度の相関から油温センサ11の故障診断を行う。
一般的に、油温(TFT)は水温(ECT)ほど上昇せず、エンジン3の始動後ある程度の乖離が生じる。この乖離は、ソーク時間の経過に応じて小さくなる特性を特つ。この特性を利用し、ソーク時間を水温(ECT)の低下量(ΔECT)から推定(ソークタイマに代替)することで、ソーク時間に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の絶対値差を比較することによる故障診断を実施する。低下量(ΔECT)に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の差の許容範囲を故障診断閾値として設定することにより、ソーク完了時(水温(ECT)、油温(TFT)が所定の値に収束すること)だけではなく全領域での故障診断が可能となる。
但し、故障診断閾値を設定するにあたり、油温(TFT)と水温(ECT)の乖離が極端に大きい場合、水温(ECT)、油温(TFT)の差が収束するまでの水温(ECT)の変化量(ΔECT)の変化が大きくなり、故障診断閾値が広がるため、検出性が低下する懸念がある。そのため、上記変化量(ΔECT)に応じた水温(ECT)と油温(TFT)の絶対値差の比較と並行し、変化量(ΔECT)に応じたエンジン3の吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差の比較を実施する。
油温(TFT)は、十分に昇温されていない(油温(TFT)と水温(ECT)の温度差の乖離が大きい)場合には、油温(TFT)と水温(ECT)がともに収束する場合よりも、油温(TFT)と吸気温(IAT)がともに収束する方が早い特性がある。なお、十分に昇温されるとは、時間経過による流体の昇温度合いが比較的緩やかとなって、その温度が高温側で安定することを指す。そのため、上記2種類の診断(低下量(ΔECT)に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の絶対値差、および吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差による診断)を実施することで、変化量(ΔECT)が小さい領域での診断性を向上することができる。
【0039】
エンジン3の吸気温(IAT)は不安定であり、外的要因により大きく変化することが知られている。そこで、吸気温(IAT)を診断のパラメータとして使用するに当たり、いくつかの前提条件を設定することにより精度を向上している。
吸気温(IAT)の変化の外的要因には、
(1)水温(ECT)の変化量に対して、吸気温(IAT)の変化量が極端に大きい場合。(自然風、ソーク中ボンネット開放等)
(2)吸気温(IAT)が高く、ソーク後にも低下していない場合。(日射により吸気が暖められる。)
(3)停止時の吸気温(IAT)から、始動時の吸気温(IAT)が極端に上昇している場合。(走行後、即エンジン停止)
、等がある。
上記のよう吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なる状況では、別途閾値を設ける等により診断を実施する。例えば、上記(1)については、図3のフローチャートのステップA05、図4のフローチャートのステップB05により、吸気温(IAT)の信頼性判定を行っている。上記(2)、(3)については、図3のフローチャートのステップA06、図4のフローチャートのステップB06により、熱害判定を行っている。
熱害判定時は、十分に水温(ECT)と油温(TFT)が昇温されていることが望ましい。水温(ECT)と油温(TFT)が共に十分に昇温されていることで、ソーク開始時直後から水温(ECT)と油温(TFT)の乖離が比較的小さいことから、精度の高い油温センサ11の故障診断を行うことができる。
故障診断装置12は、第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)、熱害用の第三故障診断閾値(ECT閾値2)を設定し、油温センサ11の故障診断を実施する。第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)は吸気温(IAT)を考慮した診断閾値であり、熱害判定がなされなかった場合において用いる診断閾値である。一方、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は吸気温(IAT)を考慮しない診断閾値であり、熱害判定がなされた場合に用いる診断閾値である。エンジン3の始動時に、熱害判定がなされなかった場合には油温(TFT)が水温(ECT)、吸気温(IAT)のどちらとより近いか判定、診断を実施し、差分が閾値外であった場合、故障と判定する。一方、エンジン3の始動時に、熱害判定がなされた場合には油温(TFT)と水温(ECT)とから診断を実施し、差分が閾値外であった場合、故障と判定する。
【0040】
このように、油温センサ11の故障診断装置12は、油温センサ11を故障と判断する所定の故障診断閾値として第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)を備え、エンジン3の停止後の次のエンジン3の始動時における水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分と、エンジン3の停止後の次のエンジン3の始動時における吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分を求め、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値(ECT閾値1)とを比較し、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値(IAT閾値)とを比較し、油温センサ11の故障診断を行っている。
これにより、油温センサ11の故障診断装置12は、水温(ECT)、油温(TFT)、吸気温(IAT)が油温センサ11の異常診断可能な所定の値に収束するのを待つことなく油温センサ11の故障診断を行うことができるので、早期に油温センサ11の故障診断が行うことができるとともに、油温センサ11の故障診断を行う頻度を高めることができる。
また、故障診断装置11は、第一差分と第二差分の小さい側の差分を利用して油温センサ11の故障診断を行うので、油温センサ11を正常判定するための第一故障診断閾値(ECT閾値1)および第二故障診断閾値(IAT閾値)の正常診断閾値幅を小さくでき、油温センサ11の異常診断を誤判定することを軽減できる。
この油温センサ11の故障診断装置12は、制御手段13に所定の故障診断閾値の一つとして、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第三故障診断閾値(ECT閾値2)を備え、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なる場合に第一差分と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とを比較して油温センサ11の故障診断を行っている。
これにより、故障診断装置12は、車両1が熱害の影響を受けている状況下にあることを判定でき、その熱害の影響を考慮した油温センサの故障診断を行うことができる。
さらに、この油温センサ11の故障診断装置12は、制御手段13によって、第一故障診断閾値(ECT閾値1)と第二故障診断閾値(IAT閾値)と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とを、冷却水の温度(ECT)の低下量が大きいほど小さくなるように設定している。
エンジン3の停止後からエンジン3を始動させるまでの時間が長いほど、冷却水の水温(ECT)や変速機4の油温(TFT)は共に低下する特性を持つことから、第一差分、第二差分の値は小さくなる傾向を持つ。これより、第一故障診断閾値(ECT閾値1)と第二の故障診断閾値(IAT閾値)と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とは、エンジン3の停止後からエンジン3を始動させるまでの時間が長いほど小さくして良い。
これにより、故障診断装置12は、冷却水の温度(ECT)の低下量が大きいほど小さくなるように故障診断閾値を設定することで、油温センサ11の故障診断の精度を向上できる。
【0041】
なお、この発明は、上述実施例にかぎらず、種々応用改変が可能である。
例えば、
・水温(ECT)の変化量(ΔECT)に応じたエンジン3の吸気温(IAT)と変速機4の油温(TFT)の絶対値差の比較を、吸気温(IAT)の変化量(ΔIAT)に応じた吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差の比較としても、診断が可能である。
・エンジン3の始動時に第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二の故障診断閾値(IAT閾値)のどちらかで診断するのではなく、両閾値と同時に診断を実施し、第一差分、あるいは第二差分が共に両閾値外であった場合のみ故障と判定する事で、誤判定を防止することができる。
・診断対象を、水温センサ5、吸気温センサ6としても診断が可能である。
・吸気温(IAT)の外因を考慮して、診断を実施する。吸気温(IAT)が低い場合には、完全ソーク状態まで時間がかかる(吸気温(IAT)が低い、つまり外気温が低く、吸気温(IAT)や水温(ECT)が収束するまで時間がかかる)ため、始動時の吸気温(IAT)に応じて変化量(ΔECT)の前提条件を加えることで、ソーク中の前方向からの風によって吸気温(IAT)のみ著しく低下する条件のロバスト性(外乱や設計誤差などの不確定な挙動に対して、システム特性がそれらの影響を受けることなく現状を維持できること)を確保するができる。(変化量(ΔIAT)による判定の代わりに、変化量(ΔECT)を使用する)
【0042】
また、エンジン3の停止時の温度を保存する場合の前提条件として、以下のような判定を実施することで、ロバスト性を高くすることが可能である。
・ストール判定
ストール操作直後のエンジン3の停止等、ストール中に油温(TFT)が上昇するような操作を行った場合、当該操作完了後の一定時間内でのエンジン3の停止については各温度の保存を実施しない。
・走行条件判定
故障診断の実施前、ドライビングサイクルにて走行経験条件を持たせることにより、各温度が十分昇温された状態からの診断が可能である。走行経験条件としては、例えば、アイドリング時間、アクセル開度、車速、走行時間等がある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明の油温センサの故障診断装置は、車両に搭載されるエンジンにかぎらず、各種産業機器用のエンジンに適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 車両
2 パワートレイン
3 エンジン
4 変速機
5 水温センサ
6 吸気温センサ
11 油温センサ
12 故障診断装置
13 制御手段
14 アクセル開度センサ
15 車速センサ
16 エンジン回転数センサ
17 バッテリ電圧検出センサ
18 イグニションスイッチ
19 シフトポジションスイッチ
20 エンジン始動停止検出センサ
21 温度記憶手段
22 故障診断閾値記憶手段
23 故障判定手段
【技術分野】
【0001】
この発明は油温センサの故障診断装置に係り、特にエンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機に使用される作動油の温度を検出する油温センサの故障を診断する油温センサの故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、変速機に使用される作動油の温度を検出するための油温センサを備えるとともに、この油温センサの故障診断をするための故障診断装置を備えている。
【0003】
従来の油温センサの故障診断装置には、変速機の油温(TFT)が例えば20℃以下のスタック(油温センサの検出値がある値に固着している状態)を検出し、所定のアクセル開度条件等で走行条件を満たしたときに、所定時間にわたり変速機の油温が変化していない(スタック)場合に、油温センサをスタック故障と判定するものがある。(従来技術1−走行中診断)
【0004】
従来の油温センサの故障診断装置には、上記従来技術1の診断と並行して、エンジン停止後のソーク(エンジンの再始動までの停止状態)中に、エンジン冷却水の水温(ECT)の低下度合いに対する油温(TFT)の変化度合いが少ない場合等にスタックしていると判定するものがある。(従来技術2−ソーク診断1)
【0005】
従来の油温センサの故障診断装置には、エンジン停止してソーク後のエンジン始動時にソーク時間を測定するソークタイマを参照し、ソークタイマによる測定時間によりソークが十分に行われている場合に故障判定閾値と油温(TFT)、水温(ECT)の絶対値の差分とを比較し、差分が故障判定閾値以上であった場合に故障と判定するものがある。(従来技術3−ソーク診断2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−25024号公報
【特許文献2】特許第4459965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記従来技術1の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)油温(TFT)の昇温を利用して油温センサの故障を検出しているため、油温(TFT)がサチュレートする領域(時間経過による油温(TFT)の変化量が小さい場合)での故障検出が困難である。(例えば、油温(TFT)20℃以下、油温(TFT)140℃以上のみで検出をしているため、時間経過による油温(TFT)の変化が比較的大きくなる油温(TFT)20℃以下、油温(TFT)140℃以上のみで、油温センサの故障診断を行っていた。)
(2)走行中に油温を検出して診断を行っているため、走行条件などで検出領域が限定されている。
(3)上記理由(1)、(2)により、検出性低下、頻度低下することになる。 (4)さらに、故障確定するまでに時間が掛かる傾向がある。(例えば、所定時間にわたり変速機の油温が変化していない状態を検出する等。)
(5)診断閾値を決定するにあたり、油温(TFT)の昇温性確認が必要となり、確認、適合工数が多くかかる。
(6)また、車両部品変更(バンパー変更、油量変更、クーラ変更など)によりクーラ性能が変更になる場合、確認工数が大である。
【0008】
また、前記従来技術2の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)ソーク中の油温(TFT)の変化特性(温度の低下率)を見て診断しているため、ソーク中の油温(TFT)の変化特性が正しく検出できているが、油温(TFT)の検出値が本来の値よりも高い、もしくは低い値となっている場合の故障は診断できない。
(2)水温(ECT)がある程度変化しないと油温(TFT)が変化しないため、環境によって検出性、頻度が低下する。
【0009】
さらに、前記従来技術3の故障診断装置は、以下の問題があった。
(1)ソークタイマを特たない車両では実施できない。
(2)設定されたソーク時間を満たさねば診断が行われないため、検出頻度が低い。
【0010】
この発明の目的は、早期に油温センサの故障診断を行うことを可能にし、故障診断を行う頻度を高めるとともに油温センサの故障検出精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、車両の動力源であるエンジンと、前記エンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機と、前記エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記エンジンの吸気温を検出する吸気温センサと、前記油温センサの検出した油温に基づいて前記油温センサの異常状態を判定する制御手段を備えた油温センサの故障診断装置において、前記制御手段は検出された油温と水温と吸気温を記憶する温度記憶手段を備え、前記温度記憶手段はエンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、前記制御手段は、前記油温センサを故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン停止後の次のエンジン始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求め、前記第一差分と第二差分の大小を比較し、前記第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、前記第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明の油温センサの故障診断装置は、水温、油温、吸気温が油温センサの故障診断可能な所定の値に収束するのを待つことなく油温センサの故障診断を行うことができるので、早期に油温センサの故障診断が行うことができるとともに、油温センサの故障診断を行う頻度を高めることができる。
この発明の油温センサの故障診断装置は、第一差分と第二差分の小さい側の差分を利用して油温センサの故障診断を行うので、油温センサを正常判定するための第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の正常診断閾値幅を小さくでき、油温センサの異常診断を誤判定することを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は故障診断装置のブロック図である。(実施例)
【図2】図2はパワートレインを搭載した車両の概略平面図である。(実施例)
【図3】図3は第一〜第三故障診断閾値それぞれで診断した場合のフローチャートである。(実施例)
【図4】図4は第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の組み合わせと第三故障診断閾値それぞれで診断した場合のフローチャートである。(実施例)
【図5】図5は前提条件の走行経験条件を示す図である。(実施例)
【図6】図6(A)は前提条件のストール判定条件を示す図、図6(B)はストール判定条件の車速に対するアクセル開度を示す図である。(実施例)
【図7】図7はストール解除タイマの動作例を示すタイムチャートである。(実施例)
【図8】図8は水温(ECT)と油温(TFT)が先に収束する場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図9】図9は吸気温(IAT)と油温(TFT)が先に収束する場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図10】図10は熱害でソークが進んでも吸気温(IAT)が低下しない場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図11】図11は吸気温(IAT)の急変化で水温(ECT)、吸気温(IAT)が共に油温(TFT)からの乖離が大きい場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図12】図12は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第一故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図13】図13は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第二故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図14】図14は水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対する第三故障診断閾値を示す図である。(実施例)
【図15】図15は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図16】図16は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側でスタックした場合の第一故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図17】図17は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図18】図18は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側でスタックした場合の第二故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図19】図19は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が中温でスタックした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図20】図20は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が中温でスタックした場合の第三故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図21】図21は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図22】図22は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が高温側にオフセットした場合の第一故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図23】図23は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図24】図24は熱害条件の不成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合の第二故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【図25】図25は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合のソーク時温度推移を示す図である。(実施例)
【図26】図26は熱害条件の成立時に油温センサの検出値が低温側にオフセットした場合の第三故障診断閾値による診断を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0015】
図1〜図26は、この発明の実施例を示すものである。図2において、1は車両、2はこの車両1に搭載されるパワートレインである。パワートレイン2は、動力源であるエンジン3と、このエンジン3の動力を駆動輪に伝える変速機(自動変速機)4とからなる。エンジン3には、冷却水の温度(水温)を検出する水温センサ5を備え、吸気温を検出する吸気温センサ6を備えている。変速機4には、差動油によって作動して各シフトポジションに応じた変速段に切り換えるブレーキ等の切換機構を備え、この切換機構に供給する作動油を切り換える複数のソレノイドバルブとして第1〜第4ソレノイドバルブ7〜10を備え、これら第1〜第4ソレノイドバルブ7〜10により切り換えられる作動油の温度(油温)を検出する油温センサ11を備えている。
車両1は、図1に示すように、油温センサ11の故障診断装置12を備えている。故障診断装置12は、エンジン3の水温、吸気温、変速機4の油温によって各温度の相関から油温センサ11の故障診断を行うものであって、車両1の走行中、エンジン停止時、エンジン始動時に状況を判定することで、各状況に合った判定値(閾値)を用いて対応するものである。
【0016】
前記故障診断装置12は、制御手段13が備えている。制御手段13には、前記水温センサ5と、吸気温センサ6と、第1〜第4ソレノイド7〜10と、油温センサ11とが連絡している。また、制御手段13には、アクセルペダルの踏み込み量をアクセル開度として検出するアクセル開度センサ14と、車速を検出する車速センサ15と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ16と、バッテリ電温を検出可能なバッテリ電圧検出センサ17と、イグニションスイッチ18と、変速機4のシフトポジションを検出可能なシフトポジションスイッチ19と、エンジン3の始動時・停止時を検出可能なエンジン始動停止検出センサ20とが連絡している。
【0017】
前記制御手段13は、検出された油温と水温と吸気温とを記憶する温度記憶手段21と、油温センサ11の検出した油温に基づいて油温センサ11の異常状態を判定するための故障診断閾値を記憶する故障診断閾値記憶手段22と、故障診断閾値により油温センサ11の故障診断を行う故障判定手段23とを備えている。
前記温度記憶手段21は、エンジン3の停止時とエンジン停止後の次のエンジン3の始動時における油温と水温と吸気温を記憶する。前記制御手段13は、油温センサ11を故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値とを、故障診断閾値記憶手段22に記憶して備えている。
前記制御手段13は、故障判定手段23によって、エンジン3を停止後の次のエンジン3の始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン3を停止後の次のエンジン3の始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求める。そして、制御手段13は、故障判定手段23によって、第一差分と第二差分の大小を比較し、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行い、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行う。
【0018】
また、前記制御手段13は、所定の故障診断閾値の一つとして、水温と油温との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第三故障診断閾値を、故障診断閾値記憶手段22に記憶して備えている。制御手段13は、故障判定手段23によって、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温の変化傾向が水温の変化傾向と異なる場合に、第一差分と第三故障診断閾値とを比較して油温センサ11の故障診断を行う。
【0019】
さらに、前記制御手段13は、第一故障診断閾値と第二故障診断閾値と第三故障診断閾値とを、冷却水の温度の低下量が大きいほど小さくなるように設定し、故障診断閾値記憶手段22に記憶する。
【0020】
次に、この実施例に係る油温センサ11の故障診断を、図3・図4のフローチャートに基づいて説明する。図3のフローチャートによる故障診断は、第一〜第三故障診断閾値それぞれで油温センサ11の故障を診断する。図4のフローチャートによる故障診断は、第一故障診断閾値および第二故障診断閾値の組み合わせと第三故障診断閾値それぞれで油温センサ11の故障を診断する。なお、図3〜図26においては、油温を「TFT」、水温を「ECT」、吸気温を「IAT」、水温の変化量を「ΔECT」、第一故障診断閾値を「ECT閾値1」、第二故障診断閾値を「IAT閾値」、第三故障診断閾値を「ECT閾値2」と記載して説明する。
【0021】
図3のフローチャートにおいて、故障診断装置12の制御手段13によるプログラムがスタートすると(ステップA01)、先ず、油温センサ11の故障診断の前提条件が成立したかを判断する(ステップA02)。前提条件は、故障診断を実施する直前のDC(ドライビングサイクル)走行をモニタして、故障診断を実施するかどうかを判断するものである。この故障診断の実施は、走行条件が成立し、かつ、登坂(ストール)条件が不成立である場合に行われる。
走行条件は、図5に示すように、(1)油温が設定範囲内(TftPreL≦油温≦TftPreH)、(2)水温が設定範囲内(EngWaPreL≦水温≦EngWaPreH)、(3)吸気温が設定範囲内(EngArPreL≦吸気温≦EngArPreH)、(4)エンジン3のオン時間(エンジン回転速度がある一定値以上等のエンジン始動条件を満足後の経過時間)が設定時間以上(エンジンOn時間≧EngOnTime)、(5)エンジン3のアイドル運転時間(エンジン3の始動後、変速機4がP(パーキング)レンジまたはN(ニュートラル)レンジでの積算時間)が設定時間以上(アイドル時間≧IdleTime)、(6)アクセル開度積算時間が設定時間以上(アクセル開度積算時間≧AcclTime)、(7)車速が設定車速以上(車速≧VhclSpdPre)、(8)設定車速以上での走行(7)が成立している走行時間が設定時間以上(走行時間≧DrvPre)、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
登坂(ストール)条件は、ストール判定の成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)以上である場合に、成立する。
ストール判定は、図6(A)に示すように、(1)アクセル開度が設定開度以上(アクセル開度≧AcclSt)、(2)変速機4においてロックアップ・スリップロックアップのいずれの状態でもない、(3)変速機4のシフトポジションがP(パーキング)レンジ・N(ニュートラル)レンジ以外であること、の全ての条件が、所定時間(StTime)満たされた場合に成立する。アクセル開度の設定開度は、図6(B)に示すように、車速に応じて定められるものである。
ストール解除タイマの動作例においては、図7に示すように、ストール判定が成立し(診断条件が停止)、そして、このストール判定の成立から不成立になった時(「ストール確定」として記す)に、ストール解除タイマでストール減衰時間をセットして、このストール減衰時間を減衰し、このストール減衰時間が零(0)になった時に、診断条件を復帰させる。
これより、登坂(ストール)条件は、ストール判定の不成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)である場合に、不成立する。
【0022】
前記判断(ステップA02)がNOの場合は、このステップA02に戻る。前記ステップA02がYESの場合は、エンジン3の停止時における油温(TFT)、水温(ECT)、吸気温(IAT)を保存し(ステップA03)、エンジン3を再始動し(ステップA04)、吸気温(IAT)の信頼性の条件が成立したかを判断する(ステップA05)。
吸気温(IAT)の信頼性の条件は、エンジン3を停止後のソーク中に、水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対して吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)が急変していない場合に成立する。ソークは、エンジン3が停止して冷却水や作動油が循環していない状態を意味し、エンジン3を停止した後、そのままの状態で放置しておくと、油温、水温、吸気温がともに周囲温度(エンジンルーム内の温度)に略等しい状態となる。吸気温(IAT)は、図11に示すように、ソーク中に外気からの風の影響による急変が懸念される。吸気温(IAT)の急変は、油温センサ11の故障診断に誤判定する可能性があるため、診断を行わない。もしくは異なる故障診断閾値にて診断を行う。
前記判断(ステップA05)がNOの場合は、ステップA02に戻る。前記判断(ステップA05)がYESの場合は、熱害の条件が成立したかを判断する(ステップA06)。熱害時は、図10に示すように、ソークが進んでも、油温(TFT)、水温(ECT)に対して、吸気温(IAT)が低下しない。熱害の条件は、(1)水温(ECT)がエンジン3の停止時よりも所定量だけ低下、(2)エンジン3の再始動時の吸気温(IAT)が所定値以上高い、(3)エンジン3の停止時からの吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)の変化量が所定値よりも小さい、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
【0023】
前記判断(ステップA06)において、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と同じで、吸気温(IAT)が低下して熱害の条件が不成立し、判断(ステップA06)がNOの場合は、油温(TFT)が水温(ECT)と吸気温(IAT)のどちらとより収束しているかを判断する(ステップA07)。この判断(ステップA07)においては、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分を求めるとともに、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分を求め、求めた第一差分と第二差分の大小を比較することで判断を行う。
図8に示すように、第一差分が第二差分よりも小さく、油温(TFT)が水温(ECT)とより早く収束している(ステップA07:ECT)場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)を満足するかを判断する(ステップA08)。第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、図12に示すように、第一差分と比較する第一所定値として、高側の閾値(ECT1High)と低側の閾値(ECT1Low)とを設定している。また、第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップA08)においては、水温(ECT)と油温(TFT)の収束が油温(TFT)と吸気温(IAT)の収束よりも早い(ステップA07;ECT)ので、図12に示すように、第一故障診断閾値(ECT閾値1)にて油温センサ11の故障診断を実施する。
制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA08)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA09)、プログラムを終了する(ステップA10)。一方、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA08)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA11)、プログラムを終了する(ステップA10)。
【0024】
また、前記判断(ステップA07)において、図9に示すように、第二差分が第一差分よりも小さく、油温(TFT)が吸気温(IAT)とより早く収束している(ステップA07:IAT)場合は、吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)を満足するかを判断する(ステップA12)。第二故障診断閾値(IAT閾値)は、図13に示すように、第二差分と比較する第二所定値として、高側の閾値(IATHigh)と低側の閾値(IATLow)とを設定している。また、第二故障診断閾値(IAT閾値)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップA12)においては、吸気温(IAT)と油温(TFT)との収束が水温(ECT)と油温(TFT)との収束よりも早い(ステップA07;IAT)ので、第二故障診断閾値(IAT閾値)にて油温センサ11の故障診断を実施する。
制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA12)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA13)、プログラムを終了する(ステップA10)。一方、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA12)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA14)、プログラムを終了する(ステップA10)。
なお、図12において、斜線で示す領域は、吸気温(IAT)を考慮した第一故障診断閾値(ECT閾値1)と吸気温(IAT)を考慮しない第一故障診断閾値(ECT閾値1)とで挟まれた領域を示している。吸気温(IAT)を考慮することで、油温センサ11の正常判定閾値幅を狭め、より精度の高い油温センサ11の故障診断を実施できる。ここでは、一例として第一故障診断閾値の低側の閾値(ECT1Low)のみを図示している。
【0025】
さらに、前記判断(ステップA06)において、図10に示すように、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なり、吸気温(IAT)が低下しないで熱害の条件が成立し、判断(ステップA06)がYESの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)を満足するかを判断する(ステップA15)。第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、図14に示すように、第一差分と比較する第三所定値として、高側の閾値(ECT2High)と低側の閾値(ECT2Low)とを設定している。また、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。熱害と判定された場合は、ソーク時の水温(ECT)の変化量(ΔECT)に対する水温(ECT)と油温(TFT)の収束が早いため、水温(ECT)と油温(TFT)の比較のみで診断が可能である。
第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップA15)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップA16)、プログラムを終了する(ステップA10)。第二差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)未満、あるいは閾値(ECT2High)より上の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップA15)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップA17)、プログラムを終了する(ステップA10)。
【0026】
図4のフローチャートにおいて、故障診断装置12の制御手段13によるプログラムがスタートすると(ステップB01)、先ず、油温センサ11の故障診断の前提条件が成立したかを判断する(ステップB02)。前提条件は、故障診断を実施する直前のDC(ドライビングサイクル)走行をモニタして、故障診断を実施するかどうかを判断するものである。この故障診断の実施は、走行条件が成立し、かつ、登坂(ストール)条件が不成立である場合に行われる。
走行条件は、図5に示すように、(1)油温が設定範囲内(TftPreL≦油温≦TftPreH)、(2)水温が設定範囲内(EngWaPreL≦水温≦EngWaPreH)、(3)吸気温が設定範囲内(EngArPreL≦吸気温≦EngArPreH)、(4)エンジン3のオン時間(エンジン回転速度がある一定値以上等のエンジン始動条件を満足後の経過時間)が設定時間以上(エンジンOn時間≧EngOnTime)、(5)エンジン3のアイドル運転時間(エンジン3の始動後、変速機4がP(パーキング)レンジまたはN(ニュートラル)レンジでの積算時間)が設定時間以上(アイドル時間≧IdleTime)、(6)アクセル開度積算時間が設定時間以上(アクセル開度積算時間≧AcclTime)、(7)車速が設定車速以上(車速≧VhclSpdPre)、(8)設定車速以上での走行(7)が成立している走行時間が設定時間以上(走行時間≧DrvPre)、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
登坂(ストール)条件は、ストール判定の成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)以上である場合に、成立する。
ストール判定は、図6(A)に示すように、(1)アクセル開度が設定開度以上(アクセル開度≧AcclSt)、(2)変速機4においてロックアップ・スリップロックアップのいずれの状態でもない、(3)変速機4のシフトポジションがP(パーキング)レンジ・N(ニュートラル)レンジ以外であること、の全ての条件が、所定時間(StTime)満たされた場合に成立する。アクセル開度の設定開度は、図6(B)に示すように、車速に応じて定められるものである。
ストール解除タイマの動作例においては、図7に示すように、ストール判定が成立し(診断条件が停止)、そして、このストール判定の成立から不成立になった時(「ストール確定」として記す)に、ストール解除タイマでストール減衰時間をセットして、このストール減衰時間を減衰し、このストール減衰時間が零(0)になった時に、診断条件を復帰させる。
これより、登坂(ストール)条件は、ストール判定の不成立時で、かつ、ストール解除タイマが零(0)である場合に、不成立する。
【0027】
前記判断(ステップA02)がNOの場合は、このステップA02に戻る。前記ステップA02がYESの場合は、エンジン3の停止時における油温(TFT)、水温(ECT)、吸気温(IAT)を保存し(ステップA03)、エンジン3を再始動し(ステップA04)、吸気温(IAT)の信頼性の条件が成立したかを判断する(ステップA05)。
吸気温(IAT)の信頼性の条件は、エンジン3を停止後のソーク中に、水温(ECT)の低下量(ΔECT)に対して吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)が急変していない場合に成立する。ソークは、エンジン3が停止して冷却水や作動油が循環していない状態を意味し、エンジン3を停止した後、そのままの状態で放置しておくと、油温、水温、吸気温がともに周囲温度(エンジンルーム内の温度)に略等しい状態となる。吸気温(IAT)は、図11に示すように、ソーク中に外気からの風の影響による急変が懸念される。吸気温(IAT)の急変は、油温センサ11の故障診断に誤判定する可能性があるため、診断を行わない。もしくは異なる故障診断閾値にて診断を行う。
前記判断(ステップA05)がNOの場合は、ステップA02に戻る。前記判断(ステップA05)がYESの場合は、熱害の条件が成立したかを判断する(ステップA06)。熱害時は、図10に示すように、ソークが進んでも、油温(TFT)、水温(ECT)に対して、吸気温(IAT)が低下しない。熱害の条件は、(1)水温(ECT)がエンジン3の停止時よりも所定量だけ低下、(2)エンジン3の再始動時の吸気温(IAT)が所定値以上高い、(3)エンジン3の停止時からの吸気温(IAT)の低下量(ΔIAT)の変化量が所定値よりも小さい、の全ての条件が満たされた場合に成立する。
【0028】
前記判断(ステップB06)において、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と同じで、吸気温(IAT)が低下して熱害の条件が不成立し、判断(ステップA06)がNOの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)を満足するかを判断する(ステップB07)。第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、図12に示すように、第一差分と比較する第一所定値として、高側の閾値(ECT1High)と低側の閾値(ECT1Low)とを設定している。また、第一故障診断閾値(ECT閾値1)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップB07)においては、図12に示すように、第一故障診断閾値(ECT閾値1)にて油温センサ11の故障診断を実施する。制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下と閾値(ECT1Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB07)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB08)、プログラムを終了する(ステップB09)。
【0029】
また、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)より上、あるいは閾値(ECT1Low)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB07)がNOの場合は、吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)を満足するかを判断する(ステップB10)。第二故障診断閾値(IAT閾値)は、図13に示すように、第二差分と比較する第二所定値として、高側の閾値(IATHigh)と低側の閾値(IATLow)とを設定している。また、第二故障診断閾値(IAT閾値)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
前記判断(ステップB10)においては、図13に示すように、第二故障診断閾値(IAT閾値)にて油温センサ11の故障診断を実施する。制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第二差分が、第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。
第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)以下と閾値(IATLow)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB10)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB11)、プログラムを終了する(ステップB09)。第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATHigh)より上、あるいは閾値(IATLow)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB10)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップB12)、プログラムを終了する(ステップB09)。
なお、図12において、斜線で示す領域は、吸気温(IAT)を考慮した第一故障診断閾値(ECT閾値1)と吸気温(IAT)を考慮しない第一故障診断閾値(ECT閾値1)とで挟まれた領域を示している。吸気温(IAT)を考慮することで、油温センサ11の正常判定閾値幅を狭め、より精度の高い油温センサ11の故障診断を実施できる。ここでは、一例として第一故障診断閾値の低側の閾値(ECT1Low)のみを図示している。
【0030】
さらに、前記判断(ステップB06)において、図10に示すように、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なり、吸気温(IAT)が低下しないで熱害の条件が成立し、判断(ステップB06)がYESの場合は、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)を満足するかを判断する(ステップB13)。第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、図14に示すように、第一差分と比較する第三所定値として、高側の閾値(ECT2High)と低側の閾値(ECT2Low)とを設定している。また、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は、水温(ECT)の低下量(ΔECT)が大きいほど小さくなるように設定している。
制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にある場合に、正常と判断する。また、制御手段13は、第一差分が、第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にある場合に、故障と判断する。熱害と判定された場合は、ソーク時の水温(ECT)の変化量(ΔECT)に対する水温(ECT)と油温(TFT)の収束が早いため、水温(ECT)と油温(TFT)の比較のみで診断が可能である。
第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)以下と閾値(ECT2Low)以上の間の正常診断閾値内にあり、前記判断(ステップB13)がYESの場合は、油温センサ11を正常と判定し(ステップB14)、プログラムを終了する(ステップB09)。第二差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2High)より上、あるいは閾値(ECT2High)未満の正常診断閾値外にあり、前記判断(ステップB13)がNOの場合は、油温センサ11を故障と判定し(ステップB15)、プログラムを終了する(ステップB15)。
【0031】
次に、故障診断装置12による油温センサ11の故障診断の具体例を、図15〜図26にしたがって説明する。
【0032】
図15・図16は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が高温側でスタックした場合の診断を示すものである。
図15に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が高温側(80℃)で変化しない場合は、図16に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側から高温側に大きく変化する。故障診断装置12は、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下から、閾値(ECT1High)より上の高い値に変化したときに、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0033】
図17・図18は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が低温側でスタックした場合の診断を示すものである。
図17に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が低温側(0℃)で変化しない場合は、図18に示すように、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分が低温側で変化する。故障診断装置12は、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATLow)未満の低い値にとどまっているので、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0034】
図19・図20は、熱害条件の成立時に油温センサ11の検出値が中温でスタックした場合の診断を示すものである。
図19に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束した後に再び離れ、油温(TFT)が中温(20℃)で変化しない場合は、図20に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側で変化する。故障診断装置12は、第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2Low)未満の低い値にとどまっているので、油温センサ11をスタック故障と診断する。
【0035】
図21・図22は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が高温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図21に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が高温側に変化して収束しない場合は、図22に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が高温側に変化する。故障診断装置12は、第一差分が第一故障診断閾値(ECT閾値1)の閾値(ECT1High)以下から、閾値(ECT1High)より上の高い値となったときに、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0036】
図23・図24は、熱害条件の不成立時に油温センサ11の検出値が低温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図23に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束し、油温(TFT)が低温側に変化して収束しない場合は、図24に示すように、油温(TFT)と吸気温(IAT)との差である第二差分が低温側に変化する。故障診断装置12は、第二差分が第二故障診断閾値(IAT閾値)の閾値(IATLow)以上から、閾値(IATLow)未満の低い値となったときに、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0037】
図25・図26は、熱害条件の成立時に油温センサ11の検出値が低温側にオフセットした場合の診断を示すものである。
図25に示すように、ソークが進んで水温(ECT)に対して吸気温(IAT)が収束した後に再び離れ、油温(TFT)が低温側に変化して収束しない場合は、図26に示すように、油温(TFT)と水温(ECT)との差である第一差分が低温側にわずかに変化する。故障診断装置12は、第一差分が第三故障診断閾値(ECT閾値2)の閾値(ECT2Low)以上から、閾値(ECT2Low)未満の低い値となったとき、油温センサ11をオフセット故障と診断する。
【0038】
このように、故障診断装置12は、エンジン3の水温(ECT)、吸気温(IAT)、変速機4の油温(TFT)によって各温度の相関から油温センサ11の故障診断を行う。
一般的に、油温(TFT)は水温(ECT)ほど上昇せず、エンジン3の始動後ある程度の乖離が生じる。この乖離は、ソーク時間の経過に応じて小さくなる特性を特つ。この特性を利用し、ソーク時間を水温(ECT)の低下量(ΔECT)から推定(ソークタイマに代替)することで、ソーク時間に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の絶対値差を比較することによる故障診断を実施する。低下量(ΔECT)に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の差の許容範囲を故障診断閾値として設定することにより、ソーク完了時(水温(ECT)、油温(TFT)が所定の値に収束すること)だけではなく全領域での故障診断が可能となる。
但し、故障診断閾値を設定するにあたり、油温(TFT)と水温(ECT)の乖離が極端に大きい場合、水温(ECT)、油温(TFT)の差が収束するまでの水温(ECT)の変化量(ΔECT)の変化が大きくなり、故障診断閾値が広がるため、検出性が低下する懸念がある。そのため、上記変化量(ΔECT)に応じた水温(ECT)と油温(TFT)の絶対値差の比較と並行し、変化量(ΔECT)に応じたエンジン3の吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差の比較を実施する。
油温(TFT)は、十分に昇温されていない(油温(TFT)と水温(ECT)の温度差の乖離が大きい)場合には、油温(TFT)と水温(ECT)がともに収束する場合よりも、油温(TFT)と吸気温(IAT)がともに収束する方が早い特性がある。なお、十分に昇温されるとは、時間経過による流体の昇温度合いが比較的緩やかとなって、その温度が高温側で安定することを指す。そのため、上記2種類の診断(低下量(ΔECT)に応じた水温(ECT)、油温(TFT)の絶対値差、および吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差による診断)を実施することで、変化量(ΔECT)が小さい領域での診断性を向上することができる。
【0039】
エンジン3の吸気温(IAT)は不安定であり、外的要因により大きく変化することが知られている。そこで、吸気温(IAT)を診断のパラメータとして使用するに当たり、いくつかの前提条件を設定することにより精度を向上している。
吸気温(IAT)の変化の外的要因には、
(1)水温(ECT)の変化量に対して、吸気温(IAT)の変化量が極端に大きい場合。(自然風、ソーク中ボンネット開放等)
(2)吸気温(IAT)が高く、ソーク後にも低下していない場合。(日射により吸気が暖められる。)
(3)停止時の吸気温(IAT)から、始動時の吸気温(IAT)が極端に上昇している場合。(走行後、即エンジン停止)
、等がある。
上記のよう吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なる状況では、別途閾値を設ける等により診断を実施する。例えば、上記(1)については、図3のフローチャートのステップA05、図4のフローチャートのステップB05により、吸気温(IAT)の信頼性判定を行っている。上記(2)、(3)については、図3のフローチャートのステップA06、図4のフローチャートのステップB06により、熱害判定を行っている。
熱害判定時は、十分に水温(ECT)と油温(TFT)が昇温されていることが望ましい。水温(ECT)と油温(TFT)が共に十分に昇温されていることで、ソーク開始時直後から水温(ECT)と油温(TFT)の乖離が比較的小さいことから、精度の高い油温センサ11の故障診断を行うことができる。
故障診断装置12は、第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)、熱害用の第三故障診断閾値(ECT閾値2)を設定し、油温センサ11の故障診断を実施する。第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)は吸気温(IAT)を考慮した診断閾値であり、熱害判定がなされなかった場合において用いる診断閾値である。一方、第三故障診断閾値(ECT閾値2)は吸気温(IAT)を考慮しない診断閾値であり、熱害判定がなされた場合に用いる診断閾値である。エンジン3の始動時に、熱害判定がなされなかった場合には油温(TFT)が水温(ECT)、吸気温(IAT)のどちらとより近いか判定、診断を実施し、差分が閾値外であった場合、故障と判定する。一方、エンジン3の始動時に、熱害判定がなされた場合には油温(TFT)と水温(ECT)とから診断を実施し、差分が閾値外であった場合、故障と判定する。
【0040】
このように、油温センサ11の故障診断装置12は、油温センサ11を故障と判断する所定の故障診断閾値として第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二故障診断閾値(IAT閾値)を備え、エンジン3の停止後の次のエンジン3の始動時における水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分と、エンジン3の停止後の次のエンジン3の始動時における吸気温(IAT)と油温(TFT)との差である第二差分を求め、第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値(ECT閾値1)とを比較し、第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値(IAT閾値)とを比較し、油温センサ11の故障診断を行っている。
これにより、油温センサ11の故障診断装置12は、水温(ECT)、油温(TFT)、吸気温(IAT)が油温センサ11の異常診断可能な所定の値に収束するのを待つことなく油温センサ11の故障診断を行うことができるので、早期に油温センサ11の故障診断が行うことができるとともに、油温センサ11の故障診断を行う頻度を高めることができる。
また、故障診断装置11は、第一差分と第二差分の小さい側の差分を利用して油温センサ11の故障診断を行うので、油温センサ11を正常判定するための第一故障診断閾値(ECT閾値1)および第二故障診断閾値(IAT閾値)の正常診断閾値幅を小さくでき、油温センサ11の異常診断を誤判定することを軽減できる。
この油温センサ11の故障診断装置12は、制御手段13に所定の故障診断閾値の一つとして、水温(ECT)と油温(TFT)との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサ11を故障と判断する第三故障診断閾値(ECT閾値2)を備え、エンジン3の停止からの時間経過による吸気温(IAT)の変化傾向が水温(ECT)の変化傾向と異なる場合に第一差分と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とを比較して油温センサ11の故障診断を行っている。
これにより、故障診断装置12は、車両1が熱害の影響を受けている状況下にあることを判定でき、その熱害の影響を考慮した油温センサの故障診断を行うことができる。
さらに、この油温センサ11の故障診断装置12は、制御手段13によって、第一故障診断閾値(ECT閾値1)と第二故障診断閾値(IAT閾値)と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とを、冷却水の温度(ECT)の低下量が大きいほど小さくなるように設定している。
エンジン3の停止後からエンジン3を始動させるまでの時間が長いほど、冷却水の水温(ECT)や変速機4の油温(TFT)は共に低下する特性を持つことから、第一差分、第二差分の値は小さくなる傾向を持つ。これより、第一故障診断閾値(ECT閾値1)と第二の故障診断閾値(IAT閾値)と第三故障診断閾値(ECT閾値2)とは、エンジン3の停止後からエンジン3を始動させるまでの時間が長いほど小さくして良い。
これにより、故障診断装置12は、冷却水の温度(ECT)の低下量が大きいほど小さくなるように故障診断閾値を設定することで、油温センサ11の故障診断の精度を向上できる。
【0041】
なお、この発明は、上述実施例にかぎらず、種々応用改変が可能である。
例えば、
・水温(ECT)の変化量(ΔECT)に応じたエンジン3の吸気温(IAT)と変速機4の油温(TFT)の絶対値差の比較を、吸気温(IAT)の変化量(ΔIAT)に応じた吸気温(IAT)と油温(TFT)の絶対値差の比較としても、診断が可能である。
・エンジン3の始動時に第一故障診断閾値(ECT閾値1)、第二の故障診断閾値(IAT閾値)のどちらかで診断するのではなく、両閾値と同時に診断を実施し、第一差分、あるいは第二差分が共に両閾値外であった場合のみ故障と判定する事で、誤判定を防止することができる。
・診断対象を、水温センサ5、吸気温センサ6としても診断が可能である。
・吸気温(IAT)の外因を考慮して、診断を実施する。吸気温(IAT)が低い場合には、完全ソーク状態まで時間がかかる(吸気温(IAT)が低い、つまり外気温が低く、吸気温(IAT)や水温(ECT)が収束するまで時間がかかる)ため、始動時の吸気温(IAT)に応じて変化量(ΔECT)の前提条件を加えることで、ソーク中の前方向からの風によって吸気温(IAT)のみ著しく低下する条件のロバスト性(外乱や設計誤差などの不確定な挙動に対して、システム特性がそれらの影響を受けることなく現状を維持できること)を確保するができる。(変化量(ΔIAT)による判定の代わりに、変化量(ΔECT)を使用する)
【0042】
また、エンジン3の停止時の温度を保存する場合の前提条件として、以下のような判定を実施することで、ロバスト性を高くすることが可能である。
・ストール判定
ストール操作直後のエンジン3の停止等、ストール中に油温(TFT)が上昇するような操作を行った場合、当該操作完了後の一定時間内でのエンジン3の停止については各温度の保存を実施しない。
・走行条件判定
故障診断の実施前、ドライビングサイクルにて走行経験条件を持たせることにより、各温度が十分昇温された状態からの診断が可能である。走行経験条件としては、例えば、アイドリング時間、アクセル開度、車速、走行時間等がある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明の油温センサの故障診断装置は、車両に搭載されるエンジンにかぎらず、各種産業機器用のエンジンに適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 車両
2 パワートレイン
3 エンジン
4 変速機
5 水温センサ
6 吸気温センサ
11 油温センサ
12 故障診断装置
13 制御手段
14 アクセル開度センサ
15 車速センサ
16 エンジン回転数センサ
17 バッテリ電圧検出センサ
18 イグニションスイッチ
19 シフトポジションスイッチ
20 エンジン始動停止検出センサ
21 温度記憶手段
22 故障診断閾値記憶手段
23 故障判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源であるエンジンと、前記エンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機と、前記エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記エンジンの吸気温を検出する吸気温センサと、前記油温センサの検出した油温に基づいて前記油温センサの異常状態を判定する制御手段を備えた油温センサの故障診断装置において、前記制御手段は検出された油温と水温と吸気温を記憶する温度記憶手段を備え、前記温度記憶手段はエンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、前記制御手段は、前記油温センサを故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン停止後の次のエンジン始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求め、前記第一差分と第二差分の大小を比較し、前記第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、前記第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする油温センサの故障診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定の故障診断閾値の一つとして、水温と油温との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第三故障診断閾値を備え、エンジン停止からの時間経過による吸気温の変化傾向が水温の変化傾向と異なる場合に第一差分と第三故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の油温センサの故障診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、第一故障診断閾値と第二故障診断閾値と第三故障診断閾値とを、冷却水の温度の低下量が大きいほど小さくなるように設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油温センサの故障診断装置。
【請求項1】
車両の動力源であるエンジンと、前記エンジンの動力を車両の駆動軸に伝える変速機と、前記エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサと、前記変速機の油温を検出する油温センサと、前記エンジンの吸気温を検出する吸気温センサと、前記油温センサの検出した油温に基づいて前記油温センサの異常状態を判定する制御手段を備えた油温センサの故障診断装置において、前記制御手段は検出された油温と水温と吸気温を記憶する温度記憶手段を備え、前記温度記憶手段はエンジンの停止時とエンジン停止後の次のエンジン始動時における油温と水温と吸気温を記憶し、前記制御手段は、前記油温センサを故障と判断する所定の故障診断閾値として、水温と油温との差である第一差分が第一所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第一故障診断閾値と、吸気温と油温との差である第二差分が第二所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第二故障診断閾値を備え、エンジン停止後の次のエンジン始動時における水温と油温との差である第一差分と、エンジン停止後の次のエンジン始動時における吸気温と油温との差である第二差分を求め、前記第一差分と第二差分の大小を比較し、前記第一差分が第二差分よりも小さい場合には第一差分と第一故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行い、前記第二差分が第一差分よりも小さい場合には第二差分と第二故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする油温センサの故障診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定の故障診断閾値の一つとして、水温と油温との差である第一差分が第三所定値以上となる場合に油温センサを故障と判断する第三故障診断閾値を備え、エンジン停止からの時間経過による吸気温の変化傾向が水温の変化傾向と異なる場合に第一差分と第三故障診断閾値とを比較して油温センサの故障診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の油温センサの故障診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、第一故障診断閾値と第二故障診断閾値と第三故障診断閾値とを、冷却水の温度の低下量が大きいほど小さくなるように設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油温センサの故障診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2013−19484(P2013−19484A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153702(P2011−153702)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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