治療薬送達のための無機コーティングを有する医療用デバイス
本発明の態様によれば、基材と、基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬と、該治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの無機層とを含んでなる医療用デバイスであって、無機層は多孔性の無機層であるかin vivoで多孔性の無機層になる非多孔性の層であるかのうちいずれかである医療用デバイスが提供される。本発明の他の態様は、医療用デバイスを形成する方法からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用デバイスに関し、特に、下層をなす治療薬の放出を可能にする無機コーティングを備えた医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の身体内部における治療薬のin situ送達は、近代医療の業務において一般的である。治療薬のin situ送達は多くの場合、身体内の標的部位に一時的または恒久的に配置可能な医療用デバイスを使用して実行される。これらの医療用デバイスは、標的部位に治療薬を送達するために、必要に応じて短時間または長期間にわたってその標的部位に維持することが可能である。
【0003】
例えば、近年では、薬物溶出性の冠状動脈ステント(ボストン・サイエンティフィック・コーポレイション(Boston Scientific Corp.)(TAXUS(R))、ジョンソン・アンド・ジョンソン(Johnson and Johnson)(CYPHER(R))およびその他から市販されている)がバルーン血管形成後の血管開通性を維持するために広く使用されてきた。これらの製品は、制御された速度および総用量で再狭窄抑制薬を放出する生物学的に安定(biostable)なポリマーコーティングを備えた金属性の拡張可能なステントを基にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、治療薬送達のための無機コーティングを有する医療用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、基材と、基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬と、治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの無機層とを含んでなる医療用デバイスであって、無機層は多孔性の無機層であるかin vivoで多孔性の無機層になる非多孔性の層であるかのうちいずれかであることを特徴とする、医療用デバイスが提供される。
【0006】
本発明の他の態様は、医療用デバイスを形成する方法からなる。
本発明の利点は、治療薬の放出が制御される医療用デバイスが提供されうるということである。
【0007】
本発明の別の利点は、無機の外側層を有している治療薬放出型医療用デバイスが提供されるということである。無機材料は一般に高い生体適合性、例えば血管に対する高い生体適合性を有する。
【0008】
本発明の別の利点は、放出を調節する無機層を備えた医療用デバイスであって、治療薬を医療用デバイスに装荷するために治療薬を無機層内に入れたり無機層を通過させたりする必要のない医療用デバイス、が提供されうるということである。
【0009】
本発明の上記およびその他の実施形態ならびに利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を検討すれば当業者には直ちに明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図2】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図3】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図4】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図5】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図6A】本発明の実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図6B】ある期間にわたって対象者に移植または挿入されていた後の図6Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【図7A】本発明の実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図7B】ある期間にわたって対象者に移植または挿入されていた後の図7Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施形態による医療用デバイスを形成するための装置の概略図である。
【図9A】ほぼ平滑なコーティングの走査型電子顕微鏡写真(SEM)(5000×)を示す図である。
【図9B】本発明の実施形態による、粗い下層として使用するのに適したコーティングのSEMを示す図である。
【図9C】本発明の実施形態による、粗い下層として使用するのに適したコーティングのSEMを示す図である。
【図10A】本発明の実施形態による、無機表面層を適用する前の医療用デバイスの概略断面図である。
【図10B】無機表面層を適用した後の図10Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の態様によれば、基材と、基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬と、治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの無機層とを含んでなる医療用デバイスであって、無機層は多孔性の無機層であるかin vivoで多孔性の無機層になる非多孔性の層(本明細書中では「プロ多孔性の」無機層とも呼ばれる)であるかのうちいずれかであることを特徴とする医療用デバイスが提供される。
【0012】
いくつかの実施形態では、無機層はナノ多孔性の無機層である。しかしながら、本発明はナノ多孔性の無機層に限定されるものではない。任意の多孔度を有する無機層が使用されうる。
【0013】
本発明から利益を享受する医療用デバイスの例は広く様々であり、移植式または挿入式の医療用デバイス、例えばステント(冠状動脈用血管内ステント、末梢用血管内ステント、脳、尿道、尿管、胆管、気管、胃腸および食道用のステントを含む)、ステントカバー、ステントグラフト、代用血管、腹部大動脈瘤(AAA)デバイス(例えばAAAステント、AAAグラフト)、血管アクセスポート、透析ポート、カテーテル(例えば泌尿器用カテーテルまたは血管用カテーテル、例えばバルーンカテーテルおよび様々な中心静脈カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、蒸留(distil)保護デバイスのための大静脈フィルタおよびメッシュフィルタ)、脳動脈瘤フィラーコイルを含む塞栓術デバイス(グリエルミ離脱型コイルおよび金属コイルを含む)、中隔欠損閉鎖デバイス、心筋プラグ、パッチ、電気刺激リード線、例えばペースメーカー用のリード線、植込み型除細動器用のリード線、脊髄刺激システム用のリード線、深部脳刺激システム用のリード線、末梢神経刺激システムのためのリード線、人工内耳用のリード線および網膜インプラント用のリード線、心室補助装置、例えば左心室の補助人工心臓およびポンプ、完全人工心臓、シャント、心臓弁および脈管弁を含む弁、吻合術用のクリップおよびリング、組織増嵩デバイス、ならびに軟骨、硬骨、皮膚および他のin vivo組織再生のための組織工学的足場、縫合材、縫合糸アンカー、外科手術部位の組織用ステープルおよび結紮用クリップ、カニューレ、金属ワイヤ結紮糸、尿道スリング、ヘルニア用「メッシュ」、人工靭帯、整形外科用の人工器官、例えば移植骨片、骨板、フィンおよび固定術用(fusion)デバイス、人工関節、整形外科用固定具、例えば足首、膝および手の部分のインターフェアレンススクリュー、靭帯結合および半月板修復のための留め鋲、骨折固定用のロッドおよびピン、頭蓋顎顔面修復用のスクリューおよびプレート、歯科インプラント、あるいは、体内に移植または挿入して治療薬を放出させるための他のデバイス、が挙げられる。
【0014】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明のデバイスは単に治療薬の放出だけを提供してもよいが、他の実施形態では、デバイスは治療薬の制御放出を越える治療的機能を提供するように構成されて、例えば、考えられる他の多くの機能の中でも特に、機械的、熱的、磁気的または電気的のうち少なくともいずれかの機能を身体内に提供する。
【0015】
本発明の医療用デバイスには、例えば、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、全身的な治療に使用されるもの、同様に任意の哺乳類の組織または臓器の局所的な治療に使用されるものが含まれる。非限定的な例は、腫瘍;臓器、例えば心臓、冠血管系および末梢血管系(全体で「血管系」と呼ばれる)、泌尿生殖器系、例えば腎臓、膀胱、尿道、尿管、前立腺、膣、子宮および卵巣、目、耳、脊椎、神経系、肺、気管、食道、腸、胃、脳、肝臓および膵臓、骨格筋、平滑筋、乳房、皮膚組織、軟骨、歯、ならびに骨である。
【0016】
本明細書中で使用されるように、「治療」は、疾病もしくは疾患の予防、疾病もしくは疾患に関連した症状の低減もしくは除去、または疾病もしくは疾患の十分もしくは完全な除去を指す。対象者は、脊椎動物の対象者、より典型的には哺乳動物の対象者、例えばヒト対象者、ペットおよび家畜である。
【0017】
本発明の医療用デバイスのための基材材料は広く様々な組成であってよく、いかなる特定の材料にも限定されるものではない。基材材料は、一連の生物学的に安定な材料および生崩壊性の材料(すなわち、体内に配置されると、溶解、分解、再吸収、またはその他の方法でデバイスから除去されるかのうち少なくともいずれかである材料)から選択可能であり、例えば、(a)有機材料(すなわち、有機分子種を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)、例えばポリマー材料(すなわち、ポリマーを典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)および生物由来材料(biologics)、(b)無機材料(すなわち、無機分子種を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)、例えば金属無機材料(すなわち、金属を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)および非金属無機材料(すなわち、非金属の無機材料を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)(例えば、数多い中でも特に、カーボン、半導体、ガラスおよびセラミックスであって、これらは様々な金属酸化物および非金属酸化物、様々な金属窒化物および非金属窒化物、様々な金属炭化物および非金属炭化物、様々な金属ホウ化物および非金属ホウ化物、様々な金属リン酸化物および非金属リン酸化物、ならびに様々な金属硫化物および非金属硫化物を含有し得る)、ならびに(c)ハイブリッド材料(例えばハイブリッドの有機−無機材料、例えばポリマー/金属無機ハイブリッドおよびポリマー/非金属無機ハイブリッド)が挙げられる。
【0018】
無機の非金属材料の具体例は、例えば、下記すなわち:金属酸化物セラミックス、例えば酸化アルミニウムおよび遷移金属酸化物(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、鉄、ニオブ、およびイリジウムの酸化物);シリコン;シリコン系セラミックス、例えばシリコン窒化物、シリコン炭化物およびシリコン酸化物を含有するもの(ガラスセラミックスと呼ばれる場合もある);リン酸カルシウムセラミックス(例えばハイドロキシアパタイト);カーボン;ならびにカーボン系のセラミックス類似材料、例えば窒化炭素、のうち1以上を含有している材料から選択可能である。
【0019】
金属材料の具体例は、例えば金属、数多い中でも特に金、鉄、ニオブ、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、ルテニウム、亜鉛およびマグネシウム、ならびに合金であって、数多い中でも特に、例えば鉄とクロムとを含んでなる合金(例えばステンレス鋼、例えば白金強化された放射線不透過性のステンレス鋼)、ニオブ合金、チタン合金、ニッケルとチタンとを含んでなる合金(例えばニチノール)、コバルトとクロムとを含んでなる合金、例えばコバルトとクロムと鉄とを含んでなる合金(例えばelgiloy(R)合金)、ニッケルとコバルトとクロムとを含んでなる合金(例えばMP35N)、コバルトとクロムとタングステンとニッケルとを含んでなる合金(例えばL605)、ニッケルとクロムとを含んでなる合金(例えばインコネル合金)、および生崩壊性の合金、例えば、数多い中でも特にマグネシウム、亜鉛または鉄のうち少なくともいずれかの合金(およびCe、Ca、Al、ZrおよびLiと組み合わせた合金)(例えば、マグネシウムの合金であって、Fe、Ce、Al、Ca、Zn、Zr、LaおよびLiのうち1つ以上を含んでなるマグネシウム合金、鉄の合金であって、Mg、Ce、Al、Ca、Zn、Zr、LaおよびLiのうち1つ以上を含んでなる鉄合金、亜鉛の合金であって、Fe、Mg、Ce、Al、Ca、Zr、LaおよびLiを含んでなる亜鉛合金など)から選択可能である。
【0020】
有機材料の具体例には、ポリマー(生物学的に安定であってもよいし、生崩壊性であってもよい)ならびにその他の高分子量有機材料および低分子量有機材料が含まれ、例えば、下記すなわち:ポリカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアクリル酸、アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキルのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリ(メタクリル酸メチル−b−n−アクリル酸ブチル−b−メタクリル酸メチル)およびポリ(スチレン−b−n−アクリル酸ブチル−b−スチレン)トリブロックコポリマー、ポリアミド、例えばナイロン6,6、ナイロン12、およびポリエーテルブロックポリアミドコポリマー(例えばPebax(R)樹脂)、ビニル系のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリハロゲン化ビニル、例えばポリ塩化ビニルおよびエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ビニル芳香族のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、ビニル芳香族−アルケンコポリマー、例えばスチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレンコポリマー(例えばポリ(スチレン−b−エチレン/ブチレン−b−スチレン(SEBS)コポリマー、Kraton(R)Gシリーズポリマーとして入手可能)、スチレン−イソプレンコポリマー(例えばポリ(スチレン−b−イソプレン−b−スチレン)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマーおよびスチレン−イソブチレンコポリマー(例えばポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマー、例えばポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)またはSIBS、例えばピンチューク(Pinchuk)らの米国特許第6,545,097号明細書に記載されている)、アイオノマー、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートおよび脂肪族ポリエステル、例えばラクチド(d−ラクチド、l−ラクチドおよびメソラクチドを含む)のホモポリマーおよびコポリマー(例えばポリ(L−ラクチド)およびポリ(d,l−ラクチド)、グリコリド(グリコール酸)、およびイプシロン−カプロラクトン、例えばポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、例えばポリ(l−ラクチド−コ−グリコリド)およびポリ(d,l−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカーボネート、例えばトリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリエーテルのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアルキレンオキシドポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)およびポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオレフィンのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアルキレン、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン(例えばポリブト−1−エンおよびポリイソブチレン)、ポリオレフィンエラストマー(例えばsantoprene(R))およびエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、フッ素化ホモポリマーおよびフッ素化コポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロペン)(FEP)、変性エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シリコーンのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、生体高分子、例えばポリペプチド、タンパク質、多糖類、フィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチン、キトサン、ゼラチン、デンプン、およびグリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸;ならびに上記のもののブレンドおよびさらなるコポリマー、のうち1つ以上を含有している適切な材料から選択可能である。
【0021】
前述のポリマーは多くの形態で提供可能であり、該形態は例えば環式形態、直鎖状形態および分岐状形態から選択可能である。分岐状形態には、星型の形態(例えば種分子のような単一の分岐点から3つ以上の鎖が出ている形態)、櫛型の形態(例えば主鎖と複数の側鎖とを有する形態)、樹状形態(例えば樹枝状ポリマーおよび高分岐ポリマー)、ネットワーク型(例えば架橋型)形態などが挙げられる。
【0022】
上述のように、本発明の1つの態様では、基材に加えて、該基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬、および該治療薬上に配置された少なくとも1つの多孔性/プロ多孔性の無機層を含んでなる医療用デバイスが提供される。いくつかの実施形態では、治療薬は基材内部に提供される。いくつかの実施形態では、治療薬は、基材と多孔性/プロ多孔性の無機層との間の別個の治療薬含有層(本明細書中では「治療層」とも呼ばれる)の中に提供される。
【0023】
本明細書中で使用されるように、所与の材料の「層」とは、その材料の領域であってその厚さが長さおよび幅のいずれと比較しても小さい(例えば、長さおよび幅がそれぞれ厚さの少なくとも4倍の大きさである)領域である。「膜」、「層」および「コーティング」のような用語は、本明細書中では互換的に使用可能である。本明細書中で使用されるように、層は平面状である必要はなく、例えば下層をなす基材の輪郭に沿っていてもよい。層が非連続的であって下層をなす構造物を部分的に覆っているだけでもよい(例えば、2以上、場合によってはさらに多くの材料領域の集合物で構成されていてもよい)。
【0024】
例えば、層は、適切な塗布用具(例えばインクジェット装置、ペン、ブラシ、ローラなど)を使用して、または適切なマスキング技法を使用して、下層をなす基材の上に所望のパターンで提供可能である。より具体的な例として、本発明のある実施形態では、下層をなす基材の上にパターン化された治療層が提供される。そのような実施形態では基材の別の表面領域は治療層によって覆われないので、このことは、例えば、基材と、上層をなす多孔性/プロ多孔性の無機層との間で直接的接触(および結合)が可能であるという点で、都合がよい場合がある。
【0025】
治療層は、例えば、1重量%以下〜2重量%〜5重量%〜10重量%〜25重量%〜50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%以上の単一の治療薬または治療薬の混合物を該層内に含有することができる。治療層の形成に使用することができる治療薬以外の追加の材料の例には、治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料、例えば有機材料(例えばポリマー材料など)、無機材料(例えば金属無機材料および非金属無機材料)、およびハイブリッドの有機−無機材料があり、特に、上記に列挙されたものから選択可能である。例えば、治療層は、1つ以上の追加の材料とブレンドされた、例えば有機材料、無機材料またはこれらのハイブリッドとブレンドされた、1つ以上の治療薬を含んでなることができる。別例として、治療層は、追加の材料から形成された、例えば有機材料、無機材料またはこれらのハイブリッドから形成された、多孔性または非多孔性のリザーバ層の内部に配置された1つ以上の治療薬を含んでなることができる。治療薬は、例えば、追加の材料とともに共堆積されてもよいし、他の可能性もあるが特に、追加の材料の層が最初に堆積されてから該追加材料に治療薬が導入されてもよい。
【0026】
治療層の厚さは広く様々であってよく、典型的には厚さ10nm〜100nm〜1000nm(1μm)〜10000nm(10μm)またはそれ以上の範囲であってよい。
ある実施形態では、本発明の医療用デバイスは持続性の治療薬放出プロファイルを有する。「持続性の放出プロファイル」とは、投与の全過程にわたって生じる医薬物品からの総放出のうち25%未満が、投与の第1日目の間に(または実施形態によっては最初の2、4、8、16、32、64、128日もしくはさらに長い日数にわたって)生じる、放出プロファイルを意味する。このことは、該医療用デバイスからの総放出のうち75%超は、該デバイスがその同じ期間(すなわち最初の1、2、4、8、16、32、64、128日またはそれ以上の日数にわたって)投与された後で生じることになることを意味している。
【0027】
「治療薬」、「薬学的に活性を有する作用物質」、「薬学的に活性を有する物質」、「薬物」、「生物活性物質」および他の関連用語は、本明細書中では互換的に使用可能であり、該用語には遺伝子治療薬、非遺伝子治療薬および細胞が含まれる。種々様々の疾病および疾患を治療するために使用されるものを含む種々様々の治療薬が、本発明と共に使用可能である。
【0028】
本発明と共に使用するための例示の治療薬には、(a)抗血栓剤、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレルおよびPPack(デキストロフェニルアラニン・プロリン・アルギニン・クロロメチルケトン);(b)抗炎症剤、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミン;(c)抗新生物剤/抗増殖剤/抗縮瞳薬、例えばパクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞の増殖を阻止することができるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤;(d)麻酔薬、例えばリドカイン、ブピバカインおよびロピバカイン;(e)抗凝血剤、例えばD−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、抗血小板薬およびダニ抗血小板ペプチド;(f)血管細胞増殖促進物質、例えば増殖因子、転写活性化因子および翻訳プロモータ;(g)血管細胞増殖阻害剤、例えば増殖因子阻害剤、増殖因子受容体拮抗薬、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、阻害抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子と細胞毒素とで構成される二機能分子、抗体と細胞毒素とで構成される二機能分子;(h)タンパク質キナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えばチルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i)プロスタサイクリン類似体;(j)コレステロール降下剤;(k)アンジオポエチン;(l)抗菌物質、例えばトリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシドおよびニトロフラントイン;(m)細胞毒性薬、細胞静止薬、および細胞増殖の影響因子;(n)血管拡張剤;(o)内在性の血管作動性機構を妨げる作用物質;(p)モノクローナル抗体のような、白血球動員の阻害剤;(q)サイトカイン;(r)ホルモン;(s)HSP90タンパク質(すなわち熱ショックタンパク質。熱ショックタンパク質は分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、細胞の増殖および生存を担う他のクライアントタンパク質/シグナル伝達タンパク質の安定性および機能に必要とされる)の阻害剤、例えばゲルダナマイシン、(t)平滑筋弛緩薬、例えばα受容体拮抗薬(例えばドキサゾシン、タムスロシン、テラゾシン、プラゾシンおよびアルフゾシン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えばベラピミル(verapimil)、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピンおよびベプリジル)、β受容体作動薬(例えばドブタミンおよびサルメテロール)、β受容体拮抗薬(例えばアテノロール、メタプロロール(metaprolol)およびブトキサミン)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(例えばロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタンおよびテルミサルタン)、および鎮痙剤/抗コリン薬(例えば塩化オキシブチニン、フラボキサート、トルテロジン、硫酸ヒヨスチアミン、ジクロミン(diclomine))、(u)bARKct阻害剤、(v)ホスホランバン阻害剤、(w)Serca2遺伝子/タンパク質、(x)免疫応答修飾剤、例えばアミノキゾリン(aminoquizoline)、例えばレシキモド(resiquimod)およびイミキモド(imiquimod)のようなイミダゾキノリン、(y)ヒトのアポリポタンパク質(例えばAI、AII、AIII、AIV、AVなど)、(z)選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、例えばラロキシフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、ミプロキシフェン、オスペミフェン、PKS3741、MF101およびSR16234、(aa)PPAR作動薬、例えばPPARα、γおよびδ作動薬、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、ネトグリタゾン、フェノフィブラート、ベキサオテン(bexaotene)、メタグリダセン、リボグリタゾンおよびテサグリタザル、(bb)プロスタグランジンE作動薬、例えばアルプロスタジルまたはONO8815LyのようなPGE2作動薬、(cc)トロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)、(dd)バソペプチダーゼ阻害剤、例えばベナゼプリル、フォシノプリル、リシノプリル、キナプリル、ラミプリル、イミダプリル、デラプリル、モエキシプリルおよびスピラプリル、(ee)チモシンβ4、(ff)リン脂質、例えばホスホリルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルコリン、(gg)VLA−4拮抗薬およびVCAM−I拮抗薬、が挙げられる。
【0029】
具体的な治療薬には、特に、タキサン、例えばパクリタキセル(例えばその微粒子型、例えば、タンパク質結合パクリタキセル粒子、例えばアルブミン結合パクリタキセルナノ粒子(例えばABRAXANE(R)))、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス、EpoD、デキサメタゾン、エストラジオール、ハロフジノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、塩化アラゲブリウム(ALT−711)、ABT−578(アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories))、トラピジル、リプロスチン(liprostin)、アクチノムシンD(Actinomcin D)、Resten−NG(R)、Ap−17、アブシキシマブ、クロピドグレル、リドグレル、β遮断薬、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、Serca2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えばAI〜AV)、成長因子(例えばVEGF−2)、ならびに前述のものの誘導体、が挙げられる。
【0030】
必ずしも上記に列挙されたものに限らず、数多くの治療薬が、例えば再狭窄を標的とする薬剤(抗再狭窄剤)として血管の治療のための候補であると確認されている。そのような薬剤は本発明の実施に有用であり、そのような薬剤には以下すなわち:(a)Caチャネル遮断薬、例えば、ジルチアゼムおよびクレンチアゼムのようなベンゾチアザピン(benzothiazapine)類、ニフェジピン、アムロジピンおよびニカルダピン(nicardapine)のようなジヒドロピリジン、ならびにベラパミルのようなフェニルアルキルアミン類、(b)セロトニン経路モジュレータ、例えば:ケタンセリンおよびナフチドロフリルのような5−HT拮抗薬、ならびにフルオキセチンのような5−HT取り込み阻害剤、(c)環状ヌクレオチド経路作用物質、例えば、シロスタゾールおよびジピリダモールのようなホスホジエステラーゼ阻害剤、ホルスコリンのようなアデニル酸/グアニル酸シクラーゼ刺激剤、ならびにアデノシン類似体、(d)カテコールアミンモジュレータ、例えば、プラゾシンおよびブナゾシン(bunazosine)のようなα−拮抗薬、プロプラノロールのようなβ−拮抗薬、ならびにラベタロールおよびカルベジロールのようなα/β−拮抗薬、(e)エンドセリン受容体拮抗薬、例えばボセンタン、シタキセンタンナトリウム、アトラセンタン、エンドネンタン(endonentan)、(f)一酸化窒素供与体/放出分子、例えばニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび亜硝酸アミルのような有機硝酸塩/亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウムのような無機ニトロソ化合物、モルシドミンおよびリンシドミンのようなシドノンイミン類、ジアゼニウムジオラートおよびアルカンジアミンのNO付加物のようなNONOアート、S−ニトロソ化合物の低分子量化合物(例えばカプトプリル、グルタチオンおよびN−アセチルペニシラミンのS−ニトロソ基誘導体)および高分子化合物(例えばタンパク質、ペプチド、オリゴ糖、多糖、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS−ニトロソ基誘導体)、ならびにC−ニトロソ化合物、O−ニトロソ化合物、N−ニトロソ化合物およびL−アルギニン、(g)アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、例えばシラザプリル、フォシノプリルおよびエナラプリル、(h)ATII受容体拮抗薬、例えばサララシンおよびロサルチン(losartin)、(i)血小板粘着阻害剤、例えばアルブミンおよびポリエチレンオキシド、(j)血小板凝集阻害剤、例えばシロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)、ならびにGP IIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマブ、エピチフィバチド(epitifibatide)およびチロフィバン、(k)凝固経路モジュレータ、例えばヘパリン、低分子ヘパリン、デキストラン硫酸およびβ−シクロデキストリンテトラデカスルファートのようなヘパリン類似物質、ヒルジン、ヒルログ、PPACK(D−phe−L−プロピル−L−arg−クロロメチルケトン)およびアルガトロバンのようなトロンビン阻害剤、アンチスタチン(antistatin)およびTAP(ダニ抗凝固ペプチド)のようなFXa阻害剤、ワルファリンのようなビタミンK阻害剤、ならびに活性化プロテインC、(l)シクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン、(m)天然および合成コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、メトプレドニゾロン(methprednisolone)およびヒドロコルチゾン、(n)リポキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばノルジヒドログアヤレチック酸およびカフェ酸、(o)ロイコトリエン受容体拮抗薬、(p)E−セレクチンおよびP−セレクチンの拮抗薬、(q)VCAM−1およびICAM−1相互作用の阻害剤、(r)プロスタグランジンおよびその類似体、例えばPGE1およびPGI2のようなプロスタグランジン、ならびにシプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロストおよびベラプロストのようなプロスタサイクリン類似体、(s)マクロファージ活性化防止剤、例えばビスホスホネート類、(t)HMG−CoA還元酵素阻害剤、例えばロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン、(u)魚油およびオメガ−3−脂肪酸、(v)フリーラジカル捕捉剤/抗酸化物質、例えばプロブコール、ビタミンCおよびビタミンE、エブセレン、トランスレチノイン酸ならびにSOD(オルゴテイン)およびSOD模倣体、ベルテポルフィン、ロスタポルフィン(rostaporfin)、AGI1067およびM40419、(w)様々な増殖因子に作用する薬剤、例えばbFGF抗体およびbFGFキメラ融合タンパク質のようなFGF経路作用物質、トラピジルのようなPDGF受容体拮抗薬、アンギオペプチンおよびオクレオチド(ocreotide)のようなソマトスタチン類似体などのIGF経路作用物質、ポリアニオン性物質(ヘパリン、フコイジン)、デコリン、およびTGF−β抗体のようなTGF−β経路作用物質、EGF抗体、EGF受容体拮抗薬およびキメラ融合タンパク質のようなEGF経路作用物質、サリドマイドおよびその類似体のようなTNF−α経路作用物質、スロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベンおよびリドグレルのようなトロンボキサンA2(TXA2)経路モジュレータ、ならびにチルホスチン、ゲニステインおよびキノキサリン誘導体のようなタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、(x)マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)経路阻害剤、例えばマリマスタット、イロマスタット、メタスタット、バチマスタット、ペントサンポリスルファート、レビマスタット、インサイクリニド(incyclinide)、アプラタスタット(apratastat)、PG116800、RO1130830またはABT518、(y)細胞運動阻害剤、例えばサイトカラシンB、(z)抗増殖薬/抗新生物薬、例えば代謝拮抗物質のプリン拮抗薬/類似体(例えば6−メルカプトプリンおよび6−メルカプトプリンのプロドラッグ、例えばアザチオプリンまたは塩素化プリンヌクレオシド類似体であるクラドリビン)、ピリミジン類似体(例えばシタラビンおよび5−フルオロウラシル)およびメトトレキサート、ナイトロジェンマスタード、スルホン酸アルキル、エチレンイミン、抗生物質(例えばダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソ尿素、シスプラチン、微小管動態に作用する薬剤(例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、EpoD、パクリタキセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、血管新生阻害剤(例えばエンドスタチン、アンギオスタチンおよびスクアラミン)、オリムス(olimus)系薬物(例えばシロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムスなど)、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミン、(aa)マトリックス沈着/構築経路阻害剤、例えばハロフジノンまたはその他のキナゾリノン誘導体、ピルフェニドンおよびトラニラスト、(bb)内皮化(endothelialization)促進剤、例えばVEGFおよびRGDペプチド、(cc)血液レオロジーモジュレータ、例えばペントキシフィリン、ならびに(dd)グルコース架橋切断薬、例えば塩化アラゲブリウム(ALT−711)、のうちの1つ以上が含まれる。
【0031】
本発明の実施に有用ないくつかの別の治療薬は、クンツ(Kunz)の米国特許第5,733,925号明細書にも開示されており、前記特許文献は参照により全容が本願に組み込まれる。
【0032】
既述のように、本発明の1つの態様では、基材および該基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬に加えて、該治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの多孔性/プロ多孔性(pro−porous)の無機層を含んでなる医療用デバイスが提供される。
【0033】
本発明で使用される多孔性/プロ多孔性の無機層は、広く様々な組成であってよく、いかなる特定の無機材料にも限定されるものではない。該無機層は、広範囲の生崩壊性無機材料および生物学的に安定な無機材料、例えば上記に列挙された無機材料のうち適切なもの、例えば生物学的に安定な金属無機材料(例えばチタン、イリジウム、タンタル、白金、金、ニオブ、モリブデン、レニウム、ステンレス鋼、白金強化された放射線不透過性のステンレス鋼、ニオブ合金、チタン合金、ニチノールなど)、生崩壊性の金属無機材料(例えばマグネシウム、鉄、亜鉛、これらの合金など)、ならびに生物学的に安定な非金属無機材料および生崩壊性の非金属無機材料(例えばチタン酸化物、イリジウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、チタン酸窒化物、リン酸カルシウムセラミックスなど)、から選択可能である。本発明による多孔性およびプロ多孔性の無機層は、例えば、完全に生物学的に安定であってもよいし、完全に生崩壊性であってもよいし、または部分的に生物学的に安定かつ部分的に生崩壊性であってもよい。
【0034】
本発明で使用される多孔性/プロ多孔性の無機層の厚さは広く様々であってよく、例えば、数多くの値の中でも特に、層厚5nm〜20μmまたはそれ以上、例えば、層厚5nm〜10nm〜100nm〜1000nm(1μm)〜10000nm(10μm)またはそれ以上の範囲であってよい。
【0035】
ある実施形態(例えばナノクラスターPVDを使用して形成された多孔性/プロ多孔性の無機層)では、多孔性/プロ多孔性の無機層の厚さは、該無機層を形成する無機ナノ粒子の大きさに依存することになり、この場合層厚は、ナノ粒子の直径の例えば3〜5〜7〜10〜15〜20〜50〜75〜100倍またはそれ以上であってよい。本明細書中で使用されるように、「ナノ粒子」とは、1μmを超過しない幅を有する粒子、例えば、幅が2nm以下〜4nm〜8nm〜10nm〜15nm〜20nm〜25nm〜35nm〜50nm〜100nm〜150nm〜250nm〜500nm〜1000nmの範囲の粒子である。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明のデバイスの多孔性/プロ多孔性の無機層は、当初からナノ多孔性であるかin vivoでナノ多孔性になるかのうちいずれかである。国際純正応用化学連合(IUPAC)に従えば、「ナノ細孔」とは、50nmを超えない(例えば0.5nm以下〜1nm〜2.5nm〜5nm〜10nm〜25nm〜50nmの)幅を有する細孔である。本明細書中で使用されるように、ナノ細孔には、2nmを超えない幅を有する細孔である「ミクロ細孔」および幅が2〜50nmの範囲にある「メソ細孔」が含まれる。本明細書中で使用されるように、「マクロ細孔」は幅が50nmより大きく、従ってナノ細孔ではない。本発明では、「ナノ細孔」は、幅が最大1μmまでの細孔をさらに包含する場合もあるが、この特別な定義が明確に用いられる場合のみである。
【0037】
本明細書中で使用されるように、「多孔性」の層とは細孔を含んでいる層である。「ナノ多孔性の層」とはナノ細孔を含んでいる層である。ナノ多孔性の層は、ナノ細孔ではない何らかの細孔をさらに含んでなる場合もあり;例えば、ナノ多孔性の層はマクロ細孔をさらに含んでなる場合もある。典型的にはナノ多孔性の層内の細孔数の少なくとも90%がナノ細孔である。
【0038】
多孔性の無機層は、例えば、生物学的に安定な無機材料、生物学的に安定な無機材料と生崩壊性の無機材料との混合物、または生崩壊性の無機材料から形成可能である。プロ多孔性の無機層は、例えば、生物学的に安定な無機材料と生崩壊性の無機材料との混合物、または生崩壊性の無機材料の混合物であって1つの生崩壊性無機材料が他の生崩壊性無機材料よりも速く生物学的に崩壊するものから形成可能である。例えば、層は、別個の生物学的に安定な無機材料相と生崩壊性の無機材料相であって、相の形態が、in vivoにおいて生崩壊性の相が除去されると多孔性の層が形成されるようになっているもので形成されてもよい。多孔性およびプロ多孔性の無機層は、例えば後述されるような堆積技法を含む任意の適切な技法を使用して形成可能である。
【0039】
いくつかの実施形態では、生崩壊性の材料(例えば生崩壊性の有機材料、無機材料または有機−無機ハイブリッド)は、多孔性/プロ多孔性の無機層の下でありかつ治療薬の上(すなわち治療層と多孔性/プロ多孔性の無機層との間)に配置される。これらの実施形態では、治療薬の放出速度は、多孔性/プロ多孔性の無機層によって、生崩壊性の材料によって、または両方によって規定されうる。さらに、多孔性/プロ多孔性の無機層は、生崩壊性の材料の断片がデバイスから放出されるのを防止する障壁としての役割を果たすこともできる。
【0040】
本発明の様々な実施形態では、多孔性/プロ多孔性の無機層は粗い層である。粗い無機層は、例えば、本来ならば平滑な層で生じる可能性のある、クラッキングに起因する無機層の損傷に強い可能性がある。理論によって束縛されるものではないが、この挙動は次のように説明可能である。下層をなす粗い領域の上に配置された比較的一定した厚さの粗い層と、下層をなす平滑な領域の上に配置された比較的一定した厚さの平滑な層とを比べる場合、後者の層は、引張応力(凝集破壊をもたらす)および界面応力の増大に起因するクラッキングを生じやすいと考えられる。さらに、クラッキングは、基材密着性が乏しい結果として平滑な層全体に広がる可能性がある。そのうえ、粗い層は、実質的に薄い部分の領域に接続している、多数の厚い部分でできた無機材料の島状部(例えば、横方向に間隔を置いて並んだ比較的厚い無機ドットの疑似島状部)を含んでなることができる。材料領域が薄いほど、曲げた時の該材料領域の向かい合う表面にかかる引張応力/圧縮応力は小さくなる。反対に、材料領域が厚いほど、曲げた時の向かい合う表面にかかる引張応力/圧縮応力は大きくなる。(このため、薄いガラス繊維は非常に可撓性が高い一方で、同じ材料のロッドは屈曲された時に砕けることになる。)従って、厚い領域と薄い領域とを備えた層が曲げられると、曲げ応力は薄い領域に吸収されやすくなる。
【0041】
「粗い」領域は、表面のトポグラフィー計測(例えばAFM)によって、Sa値(すなわち材料の表面に関して評価された平均粗さであり、数学的には以下のように表される:)が50ナノメートルより大きく(典型的な電気研磨表面はおよそ20〜40ナノメートルの粗さ値Saを有する)、典型的にはSa=∬a|Z(x,y)|dxdy)100ナノメートルより大きく、より典型的には300nmより大きい領域であると測定される。この点に関しては、表面の粗さが増大していくと、平均粗さが約300nmを越えるときに艶有/光沢から艶無へと切り替わる。「粗い」領域は、その表面が少なくとも20 1/μm2の頂点の個数密度(Sds)(表面の単位面積当たりの突出部の数)を有するものと測定されてもよい。粗さ試験についてのさらに詳しい情報については、例えばASME B46.1を参照されたい。
【0042】
ある実施形態では、多孔性/プロ多孔性の無機層は基材の一定の表面のみにわたって配置される。例えば、多孔性/プロ多孔性の無機層は、ステントのような管状医療用デバイスの外側/管腔外側表面のみに提供されてもよいし、そのようなデバイスの内側/管腔側表面のみに提供されてもよい。
【0043】
多孔性/プロ多孔性の無機層が十分に薄い場合は、粗さは、例えば粗い下層材料を使って無機層に付与されてもよい。
以下にさらに議論されるように、粗い下層材料の上に多孔性/プロ多孔性の無機層を形成する際にPVD系の処理法のような視程内(line−of−sight)処理法(例えばパルスレーザ堆積法、ナノクラスターPVDなど)が使用される場合、下層材料の粗さにより、下層材料が不完全に覆われて多孔性無機層が生成される可能性がある。
【0044】
いくつかの実施形態では、粗い下層材料は粗い基材材料に相当する。そのような材料の例には、形成時点で粗い基材(例えば、粗い表面を有するモールド由来の鋳造物)および形成後に適切な粗化処理によって粗化される基材が挙げられる。例えば、プラズマ浸漬イオン注入(PIII)処理は、例えば化学エッチングを含む他の多くの処理法の中でも特に、金属性基材の表面の粗化に使用されうる。
【0045】
いくつかの実施形態では、粗い下層材料は基材の上に配置される材料の粗層に相当する。下層をなす基材の上に粗い有機層、無機層および有機−無機ハイブリッド層を作製するための様々な処理法が知られている。そのような粗層は生崩壊性であってもよいし、生物学的に安定であってもよいし、部分的に生崩壊性および部分的に生物学的に安定であってもよい。
【0046】
本発明のある実施形態では、基材上に材料の粗層を作出するために静電噴霧(「エレクトロスプレイ」)コーティング処理が使用される。エレクトロスプレイ処理法についての情報は、例えばフィン(Feng)らの米国特許出願公開第2007/0048452号明細書に見出すことが可能である。
【0047】
エレクトロスプレイコーティング法については以下の段落に説明されているが、該方法によって最終的なコーティングの形態を制御して、例えば、部分的に融合したポリマー粒子(例えば、架橋/相互連結したファイバー、架橋/相互連結した低アスペクト比の粒子など)の多孔性表面領域、平滑表面領域、または組み合わせもしくは両方を層深さに応じて生産することができる。典型的な粒径は、他の可能性もあるが特に直径15〜2000nm、例えば直径15〜20〜50〜100〜200〜500〜1000〜2000nmにわたる。部分的に融合した粒子は、極めて均一に生産されるか(単分散)、球形状もしくは非球形状を有するか、または、多様な構造的特性(例えば、中実、カプセル化、中空、くぼみなど)が賦与されるかのうち少なくともいずれかであってよい。したがって、いくつかの実施形態では、部分的に融合したポリマー粒子の大多数は低アスペクト比を有し、例えば2以下のアスペクト比を有している(例えば下記の図9Bを参照)。いくつかの実施形態では、コーティングが基材に適用されて、初期のコーティングパラメータがぬれまたは基材への付着性を最適化し、後のコーティングパラメータが有孔性を最適化するようになっている。いくつかの実施形態では、コーティングの形態が天然の組織の形態を模倣するように改変されることにより、デバイス上での細胞増殖(例えば血管内皮細胞増殖)が促進される。
【0048】
具体的な例において、SIBSおよび任意選択でパクリタキセルのような治療薬(例えば、100重量%のSIBSで、または8.8重量%のパクリタキセルと91.2重量%のSIBSとで構成されている固形分)は、様々な溶液(例えば全体的な固形分濃度が1重量%〜2.5重量%〜5重量%の範囲にあるもの)、例えば、テトラヒドロフラン(THF)含量の高い溶液であって例えば溶媒種としてTHFを単独で使用するもの(溶媒種として100重量%THF)、THFをメタノール(MeOH)とブレンドしたもの(例えば溶媒種としての85重量%THFおよび15重量%MeOH)、THFを炭酸プロピレン(PC)とブレンドしたもの(例えば溶媒種として97重量%THFおよび3重量%PC)、およびTHFをメチルエチルケトン(MEK)とブレンドしたもの(例えば溶媒種として70重量%THFおよび30重量%MEK)からのエレクトロスプレイ処理によって堆積させることが可能である。治療薬がコーティング中に含められる場合、放出プロファイルは溶媒組成を変えることにより変化させることができる。(放出は、前述のトルエン含量の高い溶液にトルエンを加えることによりさらに調整可能である。)例えば、溶液の組成(固形分および溶媒種)を変えることによって、1〜10日間にほぼ直線的な放出プロファイルを示すいくつかのコーティングを用いて、10日後のSIBSからのパクリタキセルの累積的放出を10%〜90%に調整することが可能である。
【0049】
エレクトロスプレイの分野で良く知られているように、エレクトロスプレイ処理のための帯電方法には、静電誘導帯電およびコロナ帯電化、例えば流量制限フィールド噴出エレクトロスプレイ(flow limited field ejection electrospray)(FFESS)が挙げられる。プロセス変数には、印加電圧、溶液流量、溶液の導電率、ターゲット距離、ガス温度およびキャピラリーサイズが挙げられる。コーティング内の有孔度レベルの変化には、例えば、エレクトロスプレイ処理で形成される微小液滴の乾燥速度を変えることにより影響を与えることができる。例えば、キャリアガス温度を上昇させることにより、溶媒の乾燥、乾燥速度の増大および細孔数のより多いコーティングの生産を支援することが可能であり、キャピラリーとターゲットとの距離を短縮することにより溶媒の蒸発が低減され(より平滑なコーティングの生産)、また、キャピラリーとターゲットとの距離を増大することにより、溶媒の蒸発が増大し(より細孔数の多いコーティングの生産)、しかし同時に良好なコーンジェット性能のために同一の電界強度を維持するための印加電圧の増大も必要となる。さらに、適度の熱量を備えた窒素ガスは、噴霧される溶液の全体的な熱エネルギーを増大させて、蒸発の増強をもたらすことができる。具体的な例では、図9A〜9Cは、平坦な金属(ステンレス鋼316L)の試験片上に、85重量%のTHF、14重量%のMeOHおよび1重量%のSIBSを含有する溶液から、異なる3セットのエレクトロスプレイ・プロセス変数を使用して形成されたコーティングの走査型電子顕微鏡写真(SEM)(5000×)を表わす。この件については、サブミクロンの液滴を生成する処理は一般に、溶液流量、印加電位/電圧、キャピラリーノズルと基材との距離および乾燥条件(例えば、並行流ガスおよび温度)によって調整することができる。配合パラメータ(例えば固形分、溶媒ブレンド物、導電性など)と組み合わせて、様々な固有のコーティング構造物を構築することができる。図9Aはほぼ平滑な形態である(意図的に付けた掻き傷は図の右側に見られる)が、図9Bは相互に連結した粒子(例えば部分的に融合した粒子)の形態が基になっている。図9Cの形態は、高アスペクト比の粒子のネットワークが、結合かつ乾燥して多くの空隙領域および高度の固体相互結合の両方を備えたパターン(例えば開気孔性の多泡体)をなすように設計されている、融合した繊維状物(fibroid)の実施例である。
【0050】
いくつかの実施形態では、医療用デバイスの一部分のみがエレクトロスプレイ処理によってコーティングされる。例えば、ステントは、絶縁性マンドレルを使用して(該マンドレルにより内側/管腔側表面をマスキングして)、または(反発性の電場を適用するために)バイアスをかけたマンドレルを使用して、該ステントの外側/管腔外側表面上に選択的にコーティングが施されてもよい。
【0051】
ある実施形態では、粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、上述したような粗いポリマー層上への堆積によって生成される。治療薬は、例えば、粗いポリマー層の内部、粗いポリマー層の細孔内/粗いポリマー層の上に配置された別個の層の内部などに提供されうる。
【0052】
ある実施形態では、粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、粗い無機層の上への堆積によって生成される。例えば、粗い無機層は、最初に上述のような粗いポリマー層を形成することにより形成されてもよい。次いで、この粗いポリマー層の上に金属酸化物または半金属酸化物のゲルをまず堆積させた後、ゲルを強化しポリマー成分を燃焼させて除去する高温での焼成を行うことにより、ゾル−ゲル法による粗いセラミックス層が形成される。粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、ゾル−ゲル法による粗い層の上への堆積によって生成される。治療薬は、例えば、ゾル−ゲル法による粗い層の内部、ゾル−ゲル法による粗い層の細孔内/ゾル−ゲル法による粗い層の上に配置された別個の層の内部などに提供されうる。
【0053】
背景について述べると、典型的なゾル−ゲル法では、典型的には無機の金属塩および半金属塩、金属および半金属の錯体/キレート、金属水酸化物および半金属水酸化物、ならびに金属のアルコキシドおよびアルコキシシランのような有機金属化合物および有機半金属化合物から選択された前駆体材料が、加水分解反応および縮合(「重合」と呼ばれる場合もある)反応に供されることにより、「ゾル」(すなわち固体粒子の液体中懸濁物)を形成する。例えば、最適な半金属または金属(例えばシリコン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、鉄、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、イリジウム、バリウムなど)の最適なアルコキシド(例えばメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、tert−ブトキシドなど)が、適切な溶媒中、例えば1または複数のアルコール中に溶解される。続いて、水または別の水溶液、例えば酸性水溶液または塩基性水溶液(該水溶液はアルコールのような有機溶媒種をさらに含有することができる)が添加され、その結果加水分解および縮合が生じる。ゾルがさらに処理されることによって固体材料が作製可能となる。例えば、下層をなす構造物に、例えば浸漬、スプレイコーティング、アプリケータを用いた(例えばローラ、ブラシもしくはペンによる)コーティング、インクジェット印刷、スクリーン印刷などによってゾルを導入することにより、該構造物上に「湿潤ゲル」コーティングを生成させることができる。その後、湿潤ゲルは乾燥される。周囲温度および周囲圧力での乾燥では、一般に「キセロゲル」と呼ばれるものが得られる。超臨界乾燥(「エアロゲル」の生成)、凍結乾燥(「クリオゲル」の生成)、高温乾燥(例えばオーブン中)、真空乾燥(例えば周囲温度または高温)などを含む、可能性として考えられる他の乾燥法も利用可能である。ゾル−ゲル材料に関するさらに詳しい情報は、例えばヴィータラ R(Viitala R.)ら、「Surface properties of in vitro bioactive and non−bioactive sol−gel derived materials」、Biomaterials,2002 Aug;23(15):3073−86において見出すことができる。
【0054】
先述のように、治療層は、様々な方法で本発明の構造物に組み入れることができる。
例えば、少なくとも1つの治療薬が、粗層の形成に使用される堆積材料に含められることによって、形成時に粗層の中に該治療薬が組み込まれてもよい。この種の医療用デバイスは図1に概略的に示されており、図1は、基材110(例えばステンレス鋼基材など)と、基材110の上に配置された粗い治療層120と、治療層120および基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130(例えばPVDイリジウム層など)とを含んでなる医療用デバイス100を示している。粗い治療層120は、少なくとも1つの治療薬で構成されているか、または少なくとも1つの治療薬および少なくとも1つの追加の材料(例えば治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料)を含んでなる。粗い治療層の1つの具体例は、上述のようなエレクトロスプレイ法で作製されたSIBS/パクリタキセル層である。
【0055】
そのような追加の材料の例には、生物学的に安定な有機・無機材料および生崩壊性の有機・無機材料が含まれ、特に、上述されたものから選択可能である。そのような追加の材料はこのように、生崩壊性であっても、生物学的に安定であっても、または部分的に生崩壊性および部分的に生物学的に安定であってよい。
【0056】
別例として、少なくとも1つの治療薬(例えば散剤、溶液、液状懸濁物、溶融物など)と、任意選択の追加材料(例えば治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料、溶媒種など)とを含有する組成物が、粗い基材または基材上の粗層に塗布されてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、粗い基材または粗層の性質および塗布される組成物の性質に応じて、治療薬は、粗層もしくは粗い基材の中(または粗層もしくは粗い基材の少なくとも表面部分)に組み込まれうる。例えば、塗布される組成物は、粗い基材または粗層に付随する細孔の中に導入される場合がある。別例として、塗布される組成物は、粗い基材または粗層を形成している材料の膨潤剤でもある溶媒系に治療薬が溶解された溶液であってもよい。この溶液は、粗い基材または粗層が該溶液によって膨潤することにより該溶液中に含まれた治療薬を取り込むように、粗い基材または粗層に塗布されうる。
【0058】
この種の構造物は図2に概略的に示されており、図2は、粗い基材110と基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる医療用デバイス100を示している。図2の構造物では、粗い基材110の上方部分に導入された治療薬は、粗い基材110のより濃く影付けされた部分として描出されている。
【0059】
他の実施形態では、塗布される組成物により、粗い基材または粗層の表面上に別個の治療層が作られる。例えば、治療層は、ほぼ純粋な形態(すなわち治療薬ではない追加の材料を伴わない形態)の単一の治療薬(または治療薬の混合物)で構成されてもよい。別例として、治療層は、少なくとも1つの治療薬を少なくとも1つの追加の材料(例えば上述のような、治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料)と併せて含んでいてもよい。
【0060】
そのような医療用デバイスの一例は図3に概略的に示されており、図3は本発明の実施形態による医療用デバイス100を示している。図の医療用デバイスは、粗い基材110と、粗い基材110の上に配置された治療層120(特に、各々がパターン化された治療層120の一部を構成している2つの治療薬含有領域が示されている)と、治療層120および基材110を覆う多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる。
【0061】
そのような医療用デバイスの別例は図4に概略的に示されており、図4は本発明の実施形態による医療用デバイス100を示している。図の医療用デバイス100は、基材110と、該基材の上に配置された粗層140と、粗層140の上に配置された治療層120(各々が治療層120の一部を構成している3つの治療薬含有領域が示されている)と、治療層120、粗層140および基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる。
【0062】
上記のように、治療層に使用される追加の材料は広く様々であってよく、該追加材料には有機材料および無機材料が挙げられる。ある実施形態では、追加材料はゾル−ゲル法による金属酸化物および非金属酸化物から選択されてもよい。例えば、少なくとも1つの治療薬は、例えば、後に粗層または粗い基材の上にゲル層を形成するために使用されるゾルまたはゾル前駆体(例えば金属アルコキシド溶液または半金属アルコキシド溶液)と組み合わされてもよい。別例として、少なくとも1つの治療薬(例えば溶液または懸濁物の形態)が予め形成されたゲルに導入されてもよく、その場合ゲルは(例えば、ゲルの焼成および強化のために)高温に供された後に治療薬と接触させるとよい。そのようにしなければその温度では治療薬が破壊される可能性がある。
【0063】
既述のように、補足的な材料層、例えば完全もしくは部分的に生分解性の有機もしくは無機材料層または多孔性の有機もしくは無機材料層が、例えば治療薬の放出速度を低下させるために、治療層と多孔性/プロ多孔性の無機層との間に提供される場合がある。そのような構造物の一例は図5に示されており、図5は、多孔性/プロ多孔性の無機層130の下に補足的な材料層150が配置されること以外は図4と同様である。
【0064】
上述のように、いくつかの実施形態では、本明細書中に記載された多孔性/プロ多孔性の無機層は、同層の下に配置された生分解性材料の断片がデバイスから流出するのを該無機層が防止するように作用しうるという点で、好都合である。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書中に記載された多孔性/プロ多孔性の無機層は、該無機層が、その下にある材料(例えば基材材料、粗層の形成に使用された材料、治療層に付随する追加の材料など)を、デバイスが移植される対象者との直接的接触から保護しうるという点で、好都合である。例えば、デバイス内で下層をなす材料は、血流と直接接触すると血栓症をもたらすが上層をなす多孔性の無機層の存在下ではそのような結果を引き起こさないものである場合がある。
【0065】
本発明のいくつかの態様では、上層をなす無機層は平滑なプロ多孔層である。「平滑な」が意味するのは、その表面の粗さが「粗い」表面を定義する上述のSa値より低い領域である。多くの実施形態において、平滑な表面は光沢のあるものとなり、その場合、該表面構造は光学波長を下回る(例えば約300nm未満のSa値)の横方向の不連続部を有する。
【0066】
平滑な表面層は様々な状況の下で望ましい可能性がある。一例として、粗い表面層の存在に伴う場合のあるバルーン損傷の可能性を回避するように、ステント上(特にステントの管腔側表面)に平滑層を提供することが望ましい場合がある。さらに、プロ多孔層は当初は多孔性ではないので、ある実施形態では下にある治療薬を外部条件(例えばデバイス滅菌時のエチレンオキシドへの曝露)から保護する役割を果たす場合がある。いくつかの実施形態では、多孔層を有する医療用デバイスは、滅菌サイクルに供されてから多孔層に治療薬が装荷され、その後治療薬装荷層は追加の層(例えば、追加の滅菌工程にさらに供することが可能な、生崩壊性の層またはプロ多孔層)によって封止される。
【0067】
ある実施形態では、プロ多孔層は、この層の電解研摩により平滑な表面を得ることを可能にする構成を有する。例えば、多孔層またはプロ多孔層の最外面が生分解性の金属(例えばマグネシウムまたはマグネシウム合金)で覆われて、その後電解研磨されてもよい。マグネシウム表面はその後in vivoで生崩壊し、薬剤の放出が可能となる。治療薬の即時放出が必要な場合、ある実施形態では生分解性金属の一定の部分が(平滑な表面を保護/マスキングしながら)エッチングで除去された後に治療薬が装荷されてもよい。
【0068】
本発明によるプロ多孔層は、例えば生崩壊性の相および生物学的に安定な相の両方を含んでなることができる。in vivoで配置されると、該デバイスは最終的には細孔を生じ、治療薬の放出を可能にする。ステントまたは別の脈管用医療用デバイスの場合、多孔度を高めると血管内皮細胞の増殖を促進する場合がある。この件については、100nm未満の範囲の細孔、繊維状部および隆起部を含むサブミクロンの微細構成が、大動脈弁内皮の基底膜およびその他の基底膜材料について観察されている。R.G.フレミング(R.G.Flemming)ら、Biomaterials 20(1999)573−588、S.ブロディ(S.Brody)ら、Tissue Eng.2006 Feb;12(2):413−421、およびS.L.グッドマン(S.L.Goodman)ら、Biomaterials 1996;17:2087−95を参照されたい。グッドマンらは、露出させて広げた血管の内皮下細胞間マトリックス表面の微細構成上の特徴を複製するポリマー・キャスティングを用い、そのような材料上で増殖させた内皮細胞が、テクスチャを持たない表面上で増殖させた細胞よりも速く広がりかつ本来の動脈における細胞により似ていることを見出した。
【0069】
平滑なプロ多孔層を有するデバイスの一例は、図6Aに概略的に例証されている。図中の医療用デバイス100は、粗い基材110(例えばPIII処理によって粗化されたステンレス鋼基材など)と、粗い基材110の割れ目の内部に配置された治療層120(例えばパクリタキセルまたはエベロリムスの層のような純粋な治療薬の層など)と、治療層120および粗い基材110の上に配置された平滑なプロ多孔性の無機層130(例えば、薄灰色で示されたイリジウム相のような生物学的に安定な金属相と、濃い灰色で示されたマグネシウム相のような生崩壊性の金属相とを含んでなる層)とを含んでなる。以下に議論されるように、そのような層130は混合組成物のターゲットを使用してPVDにより形成可能である。対象者にデバイス100が挿入されると、生崩壊性の金属相の少なくとも一部が除去されて、図6Bに示されるように多孔層130pが残り、デバイスからの治療薬の放出が可能となる。
【0070】
上記のように、いくつかの実施形態では、追加の材料が治療層の中で治療薬と混合されているか、または補足的な層が治療層の上に配置されるかのうち少なくともいずれかであってよい。これらの実施形態では、治療薬の放出プロファイルは、プロ多孔性の無機層により、また追加の材料または補足的な層のうち少なくともいずれかにより、規定可能である。さらに、プロ多孔性の無機層は、任意の下層をなす生崩壊性材料のフラグメントがデバイスから放出されるのを防止する障壁としての役割を果たすことができる。
【0071】
ある実施形態では、治療薬は基材の表面陥凹部の内部に提供される。例えば、基材110と、基材110の一連の陥凹部の内部に配置された治療層120とを含んでなる医療用デバイス100が、図7Aに概略的に例証されている。平滑なプロ多孔性の無機層130(例えば図6Aに関して上述されたようなもの)は、治療層120および基材110の上に配置されている。図6Aのデバイスと同じように、対象者にデバイスが挿入されると、図7Bに示されるように多孔層130pがin vivoで形成されて、デバイスからの治療薬の放出が可能となる。
【0072】
陥凹部の例には、特に溝、袋孔および細孔が挙げられる。陥凹部は種々様々の形状および大きさに作出可能である。多数の陥凹部を無限に近い種類の配列で提供することができる。袋孔の例には、表面における横方向の特徴が円形、多角形(例えば、三角形、四角形、五角形など)のもの、ならびに様々な他の規則的および不規則な形状および大きさの袋孔が挙げられる。溝には、単純な線形の溝、波状の溝、その方向が角度変化をなした線形の部分から形成された溝(例えばジグザグの溝)、および様々な角度で交差する線形の溝のネットワーク、ならびにその他の規則的および不規則な溝構成が挙げられる。陥凹部は任意の適切な大きさであってよい。例えば、本発明の医療用デバイスは、典型的には、最も小さな横方向の寸法(例えば幅)が10mm未満(10000μm)未満、例えば10000μm〜1000μm〜100μm〜10μm〜1μm〜100nmまたはこれより短い陥凹部を含有する。
【0073】
陥凹部(例えば細孔、袋孔、溝など)を形成するための技法の例には、材料が形成時点で陥凹部を含んでいる方法が挙げられる。これらには、様々な突部を備えたモールドが提供され、該突部により対象基材の鋳造後に材料に陥凹部が作出されるモールド成形技法が含まれる。上記の技法にはさらに、多泡体に基づいた技法のような、多孔性材料を形成する技法が挙げられる。多孔性材料は、多成分の材料から適切な処理(例えば溶解、エッチングなど)を使用して1つの成分を除去することによっても形成可能である。陥凹部を形成するための技法の例にはさらに、直接的除去技法、および除去すべきでない材料を保護するためにマスキングが使用されるマスクを基にした除去技法が挙げられる。直接的除去技法には、固形の工具との接触を通じて材料が除去されるもの(例えばミクロ掘削加工、ミクロ機械加工など)、および固形の工具を必要とせずに材料を除去するもの(例えばレーザービーム、電子ビームおよびイオンビームのような有向エネルギービームに基づくもの)が挙げられる。マスクを基にした技法には、マスキング材料が機械加工されるべき材料と接触する技法(例えばマスクが既知のリソグラフィ技法を使用して形成される場合)、およびマスキング材料は機械加工されるべき材料とは接触しないが、方向付けされた掘削エネルギー供給源と機械加工されるべき材料との間にマスキング材料が提供される技法(例えば、開孔部が形成された不透明なマスク、ならびに可変的なビーム強度およびしたがって可変的な機械加工速度を提供するグレースケールマスクのような半透明マスク)が挙げられる。材料は、物理的処理(例えば、除去される材料の熱昇華および/または揮発)、化学的処理(例えば、除去される材料の化学分解および/または化学反応)、またはこれら両方の組み合わせを含む一連の処理のうちのいずれかを使用して、上記マスクによって保護されていない領域が除去される。除去処理の具体例には、湿式および乾式の(プラズマ)エッチング技法、ならびに電子ビーム、イオンビームおよびレーザービームのような有向エネルギービームに基づいたアブレーション技法が挙げられる。さらに別の実施形態では、陥凹部は、基材表面上、例えば、パターン化表面上またはマスキングされた表面上における材料の選択的成長によって形成されてもよい。
【0074】
多孔性およびプロ多孔性の無機層を形成する様々な方法についてここで説明する。例えば、いくつかの実施形態では、層は物理蒸着(PVD)技法などの蒸着法により形成可能である。PVD処理は、材料の供給源、典型的には固体材料が気化されて構造物へと運ばれ、該構造物上に該材料の膜(すなわち層)が形成される処理法である。本発明では、固体材料は、例えば生崩壊性の無機材料、生物学的に安定な無機材料、または生崩壊性の無機材料と生物学的に安定な無機材料との組み合わせであってよい。
【0075】
PVD処理は一般に、厚いものも可能であるが数ナノメートル〜数千ナノメートルの範囲の厚さの膜を堆積させるために使用される。PVDは、典型的には減圧下で(すなわち周囲の気圧より低い圧力で)行われる。多くの実施形態では、PVD技法に関連する圧力は、基材まで移動する間に気化した蒸発源材料と周囲の気体分子との間で衝突がほとんどまたは全く生じないように、十分に低い。従って、蒸気の軌道は一般に直線(視程内)軌道である。
【0076】
ある実施形態では、PVD処理パラメータは多孔層を形成するために選択される。例えば、上記のように、PVD系の処理のような視程内処理が、粗い下層材料の上への無機層の形成に使用される場合、下層材料の粗さにより、下層材料が不完全に覆われて多孔性無機層を生成させることができる。これは、図10A〜10Bに概略的に示されている。図10Aは、基材110と、粗い治療層120、例えば治療薬のマトリックスとしての役割を果たす部分的に融合したポリマー粒子の層(例えば、エレクトロスプレイで作られたSIBS/パクリタキセルなど)とを含んでなる医療用デバイス100の例証である。図10Bに示されるように、無機層130(例えばイリジウム層など)をPVDに基づいて堆積させることにより、治療層120が十分ながら不完全に覆われて無機層130が多孔性となる。(他方、堆積が十分に長く継続されれば、最終的には平滑で厚い非多孔性の無機層が形成されることになる。)
他の実施形態では、PVD処理パラメータはプロ多孔層を形成するために選択される。例えば、生物学的に安定な金属および生崩壊性の金属が同時堆積され、別個の生物学的に安定な金属相および生崩壊性の金属相を備えた層が形成されて、この相の形態が、in vivoで生崩壊が生じて生崩壊性の金属相が除去されると多孔層が形成されるようになっていてもよい。
【0077】
本発明による多孔性/プロ多孔性の層を形成するために使用されるいくつかの具体的なPVD法には、蒸着、昇華、スパッタ堆積およびレーザアブレーション堆積が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの蒸発源材料が蒸発または昇華され、その結果生じた蒸気は蒸発源から基材まで移動して、該基材上に堆積層が生じる。これらの処理法のための蒸発源の例には、特に抵抗加熱蒸発源、加熱ボートおよび加熱ルツボが挙げられる。スパッタ堆積は別のPVD処理法であり、該方法では高エネルギーのイオンを表面(一般に「ターゲット」として知られている)に衝突させることにより該表面から表面原子または分子が物理的に放出される。スパッタ用のイオンは、様々な技法、例えば、特にアーク形成(例えばダイオードスパッタリング)、直交磁界(例えばマグネトロンスパッタリング)、およびグロー放電からの採収(例えばイオンビームスパッタリング)を使用して生成させることができる。
【0078】
パルスレーザ堆積(PLD)はさらに別のPVD処理法であり、気化材料が高エネルギーのイオンではなくレーザ放射(例えばパルスレーザ放射)をターゲット材上に方向づけることにより生産される以外は、スパッタ堆積に類似している。PLD処理の利点は、余地(room)または余地付近において基材上に膜を堆積させることができるということである。従って、温度感受性の材料、例えばポリマーおよび治療薬のような有機材料の上に膜を形成させることができる。
【0079】
典型的なPLD処理において、かつ図8の概略図に関して、レーザパルス810はウィンドウ850wを通って真空チャンバ850に入るように方向付けられ、堆積させるべきターゲット材820の上に衝突する。レーザパルス810はターゲット材820を気化させて、様々な化学種(例えば、中性化学種、イオン化学種、分子化学種)を含有するプルーム830を形成する。これらの化学種は、基材に向かって、本例の場合は回転しているステント800に向かって移動し、ステント800の上に膜の形態に堆積される。(望ましい場合には、カバー率を向上させるためにステント800を長手方向に往復運動させてもよい。)ターゲットには、単一材料(例えば単一の金属または金属酸化物)から形成されたターゲット、および多数の材料(例えば多数の金属または多数の金属酸化物)から形成されたターゲットが挙げられる。例えば、図8に示されたターゲット820は、2つの材料すなわちマグネシウム820mおよびイリジウム820iを含んでなる回転ターゲットである。従って、回転しているステント800の上に堆積された膜はマグネシウムおよびイリジウムを含有している。対象者に移植された際にマグネシウムが除去されると、先述のように、多孔性のイリジウム層が形成される。
【0080】
図8の装置のような装置の別例として、Mg/Ir同時堆積のための二重ビーム機構が使用されてもよく、該機構では第1のビームがMgターゲットまたはMg−Ir複合物ターゲットのMg領域に衝突し、第2のビームがIrターゲットまたは複合物ターゲットのIr領域に衝突する。この結果、スポットあたりのレーザ強度、基材への距離、材料の種類などに応じた層厚および組成を備えた、両方の材料の同時堆積がもたらされる。
【0081】
上記のように、ある実施形態では、多孔性およびプロ多孔性の無機層は無機粒子から形成され、該無機粒子は、例えば生崩壊性の無機粒子、生物学的に安定な無機粒子、または生崩壊性の無機粒子と生物学的に安定な無機粒子との組み合わせであってよい。いくつかの実施形態では、粒子のうちの少なくとも一部は下層をなす医療用デバイス基材と同じ組成を有する。具体例としては、イリジウム、タンタル、チタン、コバルト、鉄、亜鉛、金、前述のものを2つ以上含有している合金、ステンレス鋼およびニチノールが挙げられる。
【0082】
本発明による多孔性/プロ多孔性の無機層を形成する方法には、無機ナノ粒子が作出され、加速され、構造物の上部表面上に対して方向付けられることによって、該構造物の上に無機層を形成する方法が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ粒子は荷電ナノ粒子であって、該ナノ粒子は、該ナノ粒子を電界に供することにより構造物表面上に向かって加速される。望ましい場合には、第2の電界または磁界の使用によってナノ粒子の軌道にさらに影響が与えられてもよい。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は磁性ナノ粒子または強磁性ナノ粒子であり、該ナノ粒子は、該ナノ粒子を適切な磁界に供することにより構造物表面上に向かって加速される。望ましい場合には、第2の磁界の使用を通じてナノ粒子の軌道にさらに影響が与えられてもよい。
【0083】
理論に拘束されるものではないが、ナノ粒子が(例えば磁界、電界などの中で)表面に向かって加速されるとき、該粒子に十分な運動エネルギーが与えられることにより到着時に融解が引き起こされる場合がある。上記から分かるように、ナノ粒子を構造物へ向けて加速するための様々な方法がある。例えば、荷電ナノ粒子が電界を使用して加速される実施形態では、低い印加電圧は、熱的影響をほとんどまたは全く伴わずに該ナノ粒子を基材上に到着させる小さな電界を作出することになる。しかしながら、より高い印加電圧はより大きな電界強度をもたらし、該電界強度が十分に大きい場合には、運動エネルギーを、ナノ粒子を融解しわずかに結合させて粒子間にギャップが残るようにするのに十分な量の熱へと変換させることになる。同様に、磁性ナノ粒子または常磁性ナノ粒子が磁界を使用して加速される実施形態では、低い磁界強度は、熱的影響をほとんどまたは全く伴わずにナノ粒子を表面にちょうど到着させることになり、一方、より高い磁界強度は、運動エネルギーを、ナノ粒子を融解しわずかに結合させて粒子間にギャップが残るようにするのに十分な熱へと変換させることになる。場(例えば、磁界、電界など)の強度がさらに高いと、個々の粒子が固結してギャップのない固体材料となる。いくつかの実施形態では、下層構造物に対するナノ粒子の付着またはナノ粒子相互の付着のうち少なくともいずれか一方は、(例えば加速の程度によって)調整可能である。さらに、頑丈かつ付着性または軟質かつ破砕性の層を形成することも可能である。
【0084】
多孔性の無機層が形成される場合、ナノ粒子のサイズ分布が細孔径分布に大きな影響を及ぼす可能性があり、より大きな粒子ほどより大きな細孔を作出することができるが、細孔径は、場の強度の調節を通じてさらに調整可能である。持続性の薬物放出は、ナノ多孔層全体にわたって一定の多孔度を作ることにより促進可能であるが、多孔度は、粒子の初期サイズと、場の強度から生じる融解作用との両方に左右されることになる。
【0085】
具体例として、上述の方針に沿ってナノ粒子の堆積を実施するためのシステムは、英国オクスフォードシャー州テーム(Thame)所在のマンティスデポジション株式会社(Mantis Deposition Ltd.)から入手可能であり、同社はスパッタターゲットからわずか30個の原子を有するナノ粒子〜最大15nmを超える直径を備えたナノ粒子を生成することができる高圧マグネトロンスパッタリング源を市販している。(マンティスのシステムに類似のシステムは英国オクスフォードシャー州ウイットニー所在のオクスフォード・アプライド・リサーチ(Oxford Applied Research)より入手可能である。)このシステムはおよそ5mPa(5×10−5mbar)で作動されるが、使用される正確な作動圧力は、他の要因の中でも特に、使用される特定の処理およびシステムに依存して、広く様々である。ナノ粒子の大きさは、ナノ粒子材料、マグネトロン表面と出射口との間の距離(例えば、距離が大きければより大きなナノ粒子を作出することが観察されている)、気体流(例えば、気体流が高ければより小さなナノ粒子サイズを作出することが観察されている)、および気体の種類(例えば、ヘリウムはアルゴンよりもより小さな粒子を生産することが観察されている)を含むいくつかのパラメータによって影響を受ける。特定の設定について、サイズ分布は、マグネトロンチャンバの出射口の後に配置されたリニア型四重極(quadrapole)デバイスを使用して計測可能である。四重極デバイスは、堆積のための狭いナノ粒子サイズ範囲を選別するためにインラインで使用されてもよい。マンティスデポジション株式会社のシステムに類似のシステムは、大多数(およそ40%〜80%)が電子1個の電荷を有しているナノ粒子を生産することができる。従って、磁界または第2の電界を使用して同じような重量の個別の粒子を互いに分離することができる(より軽量の粒子は、同じ電荷のより大きな粒子よりも所与の場において強く偏向されるからである)。例えば、上記マンティスデポジション株式会社のシステムは、極めて狭い質量分布の荷電ナノ粒子流を生産することができる。さらに、粒子を高い運動エネルギーで表面に衝突させるために、負に荷電した粒子を正にバイアスされた表面上へ向けて加速することが可能である。正にバイアスされたグリッドを使用して粒子を加速し、粒子がグリッドの穴を通り抜けて表面に衝突することを可能にしてもよい。バイアス電圧を低値から高値まで変化させることによって、堆積膜は多孔性の緩く結合したナノ粒子から金属の固形膜へと変化する。個々のナノ粒子を融解するために必要とされるエネルギー量は下層をなす構造物のバルク温度を増大させるために必要とされるエネルギーと比べて相対的に低いという事実から、この処理法は、室温または室温付近で効果的に実施される。マンティスデポジション株式会社のシステムに類似のシステムを使用する場合、バイアス電圧(例えば10Vから5000Vまで変化しうる)および粒径(例えば0.7nmから25nmまで変化しうる)は薬物放出に著しい影響を及ぼし、電圧が高く粒径が小さいほど薬物放出が低減されたコーティングを生じる、ということが見出されている。
【0086】
先述のように、いくつかのPVD実施形態では、材料の流れに対する構造物(その上に材料が堆積される構造物)の方向を変化させることが望ましい場合がある。例えば、ステントのような管状の医療用デバイスは、材料の流れに該デバイスを曝露している間、軸方向に回転(かつ任意選択で長手方向に往復運動)させてもよい。
【実施例】
【0087】
薬物を溶出するニチノールのらせん体を、上大腿動脈(superior femoral artery)(SFA)に適用するために作製する。具体的には、長さ2130mmの0.30mmニチノール製ワイヤ(Sタイプ)、ドイツ連邦共和国D−79576ヴェイルアムライン、ケッセルハウス5に所在のメモリメタレ有限会社(Memory Metalle GmbH)、をらせん形状にセットする(5分間にわたり475℃で、直径4.5mm、ピッチ2mm)。
【0088】
ポリマー製ナノファイバーのエレクトロスピニングしたファイバーネットワークをニチノール表面に形成し、その後該ファイバーネットワークをエベロリムスコーティングで、またTiOx(チタニア)粒子の最終コーティング層で覆い、エベロリムスコーティングが施されたPEIファイバーのまわりに多孔性のチタニア膜を残す。内部のPEIファイバーネットワークは、表面を拡大するための、およびチタニア層を損ねずに保持する足場としての、両方の役割を果たす。
【0089】
より具体的には、オールドリッチ社(Aldrich Co.)(米国ミズーリ州セントルイス)のポリエーテルイミド(PEI)、およびモンサント・カンパニー(Monsanto Company)(米国ミズーリ州セントルイス)のBiopolTMポリヒドロキシブチラート−バレラート(PHBV)をクロロホルム中に混合し、23重量%PEIおよび21重量%PHBVのそれぞれの溶液を作製する。上記2つの溶液を75/25(PEI/PHBV)の比に混合する。ニチノール製のらせん体を、500gの錘を使用して垂直に引き伸ばして元の真っ直ぐな長さ2130mmまたはこれに近い長さとし、この引き伸ばされたワイヤの両端に、アースされた電気接点を接続する。このニチノールワイヤから15cmの距離にシリンジ付きノズルを配置し、シリンジポンプ(タイプSP101i、ドイツ連邦共和国D−10999ベルリン、リーグニツァシュトラーセ(Liegnitzer Str.)15に所在のワールドプレシジョンインスツルメンツ(World Precision Instruments))および高電圧電源(タイプCS2091、米国テキサス州ダラス所在のハイボルテージパワーソリューションズ社(High Voltage Power Solutions,Inc.))に接続する。ニチノールワイヤを噴霧処理の間5Hzで回転させ、上に2mmおよび下に2.5mmの振幅で12Hzの周期運動で軸に沿って動かす。噴霧は次の設定すなわち:15kV、0.05ml/分、1サイクルについて6分で実施する。このようにして噴霧されたワイヤを、窒素環境中において210℃で90分間熱処理してPHBV成分を分解し、かつ多孔性PEIファイバーで作られたファイバー網状組織をニチノールワイヤ上に残す。乾燥処理中にワイヤから錘を取り除き、ワイヤがらせん形状に戻るようにする。
【0090】
次のステップでは、このファイバーPEIネットワークを、シクロヘキサノンおよびアセトンの50:50混合物に2重量%でエベロリムスを溶解することによるエベロリムスコーティングで覆う。この溶液はニチノール製らせん体を覆っている多孔性PEIファイバーの上に噴霧される。0.05mL/分での噴霧処理(上記と同じシリンジポンプ)の間、ニチノール製ワイヤを5Hzで回転させ、かつ50cm/分の速度で上昇させて、移植後にカバーされる血管壁1cm2あたり約100ugのエベロリムス用量となるようにする。
【0091】
該アセンブリ全体をTiOxナノ粒子の層(さらにヘパリンを含む場合もある)で覆うために、0.01mol/Lの四塩化チタンおよび0.1mol/Lの塩酸を含有する水溶液を調製する。塩化チタン(IV)を、該水溶液に激しく撹拌しながら加える。該水溶液をマイクロ波反応装置(スウェーデン国ウプサラ、バイオタージ所在のバイオタージアドバンサ(Biotage Advancer))に注入し、0.4−MPaのアルゴン圧を該システムに導入し、次に該反応装置を500ワットの出力レベルで30秒間マイクロ波に曝露する。圧力レベルは最大で0.15MPa(1.5バール)に維持する。ヘパリン水溶液(200mg/水10ml)を調製し、得られたTiOx溶液を室温に冷却した直後に該ヘパリン水溶液をTiOx溶液に激しく撹拌しながら1:1比として加える。ニチノールを支持体とするらせん体を、ヘパリン/TiOx溶液中で4回浸漬コーティングし、浸漬コーティングの工程ごとに70℃で1時間乾燥させる。
【0092】
様々な実施形態が本明細書中で具体的に例証かつ記載されているが、当然ながら、本発明の改変形態および変更形態は上記教示内容に包含されており、本発明の趣旨および意図された範囲から逸脱することなく添付の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0093】
関連出願
本願は、2008年8月27日に出願された米国仮特許出願第61/092,347号の優先権を主張し、前記特許文献は参照により全体が本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用デバイスに関し、特に、下層をなす治療薬の放出を可能にする無機コーティングを備えた医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の身体内部における治療薬のin situ送達は、近代医療の業務において一般的である。治療薬のin situ送達は多くの場合、身体内の標的部位に一時的または恒久的に配置可能な医療用デバイスを使用して実行される。これらの医療用デバイスは、標的部位に治療薬を送達するために、必要に応じて短時間または長期間にわたってその標的部位に維持することが可能である。
【0003】
例えば、近年では、薬物溶出性の冠状動脈ステント(ボストン・サイエンティフィック・コーポレイション(Boston Scientific Corp.)(TAXUS(R))、ジョンソン・アンド・ジョンソン(Johnson and Johnson)(CYPHER(R))およびその他から市販されている)がバルーン血管形成後の血管開通性を維持するために広く使用されてきた。これらの製品は、制御された速度および総用量で再狭窄抑制薬を放出する生物学的に安定(biostable)なポリマーコーティングを備えた金属性の拡張可能なステントを基にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、治療薬送達のための無機コーティングを有する医療用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、基材と、基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬と、治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの無機層とを含んでなる医療用デバイスであって、無機層は多孔性の無機層であるかin vivoで多孔性の無機層になる非多孔性の層であるかのうちいずれかであることを特徴とする、医療用デバイスが提供される。
【0006】
本発明の他の態様は、医療用デバイスを形成する方法からなる。
本発明の利点は、治療薬の放出が制御される医療用デバイスが提供されうるということである。
【0007】
本発明の別の利点は、無機の外側層を有している治療薬放出型医療用デバイスが提供されるということである。無機材料は一般に高い生体適合性、例えば血管に対する高い生体適合性を有する。
【0008】
本発明の別の利点は、放出を調節する無機層を備えた医療用デバイスであって、治療薬を医療用デバイスに装荷するために治療薬を無機層内に入れたり無機層を通過させたりする必要のない医療用デバイス、が提供されうるということである。
【0009】
本発明の上記およびその他の実施形態ならびに利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を検討すれば当業者には直ちに明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図2】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図3】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図4】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図5】本発明の様々な実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図6A】本発明の実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図6B】ある期間にわたって対象者に移植または挿入されていた後の図6Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【図7A】本発明の実施形態による医療用デバイスの概略断面図である。
【図7B】ある期間にわたって対象者に移植または挿入されていた後の図7Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施形態による医療用デバイスを形成するための装置の概略図である。
【図9A】ほぼ平滑なコーティングの走査型電子顕微鏡写真(SEM)(5000×)を示す図である。
【図9B】本発明の実施形態による、粗い下層として使用するのに適したコーティングのSEMを示す図である。
【図9C】本発明の実施形態による、粗い下層として使用するのに適したコーティングのSEMを示す図である。
【図10A】本発明の実施形態による、無機表面層を適用する前の医療用デバイスの概略断面図である。
【図10B】無機表面層を適用した後の図10Aの医療用デバイスを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の態様によれば、基材と、基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬と、治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの無機層とを含んでなる医療用デバイスであって、無機層は多孔性の無機層であるかin vivoで多孔性の無機層になる非多孔性の層(本明細書中では「プロ多孔性の」無機層とも呼ばれる)であるかのうちいずれかであることを特徴とする医療用デバイスが提供される。
【0012】
いくつかの実施形態では、無機層はナノ多孔性の無機層である。しかしながら、本発明はナノ多孔性の無機層に限定されるものではない。任意の多孔度を有する無機層が使用されうる。
【0013】
本発明から利益を享受する医療用デバイスの例は広く様々であり、移植式または挿入式の医療用デバイス、例えばステント(冠状動脈用血管内ステント、末梢用血管内ステント、脳、尿道、尿管、胆管、気管、胃腸および食道用のステントを含む)、ステントカバー、ステントグラフト、代用血管、腹部大動脈瘤(AAA)デバイス(例えばAAAステント、AAAグラフト)、血管アクセスポート、透析ポート、カテーテル(例えば泌尿器用カテーテルまたは血管用カテーテル、例えばバルーンカテーテルおよび様々な中心静脈カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、蒸留(distil)保護デバイスのための大静脈フィルタおよびメッシュフィルタ)、脳動脈瘤フィラーコイルを含む塞栓術デバイス(グリエルミ離脱型コイルおよび金属コイルを含む)、中隔欠損閉鎖デバイス、心筋プラグ、パッチ、電気刺激リード線、例えばペースメーカー用のリード線、植込み型除細動器用のリード線、脊髄刺激システム用のリード線、深部脳刺激システム用のリード線、末梢神経刺激システムのためのリード線、人工内耳用のリード線および網膜インプラント用のリード線、心室補助装置、例えば左心室の補助人工心臓およびポンプ、完全人工心臓、シャント、心臓弁および脈管弁を含む弁、吻合術用のクリップおよびリング、組織増嵩デバイス、ならびに軟骨、硬骨、皮膚および他のin vivo組織再生のための組織工学的足場、縫合材、縫合糸アンカー、外科手術部位の組織用ステープルおよび結紮用クリップ、カニューレ、金属ワイヤ結紮糸、尿道スリング、ヘルニア用「メッシュ」、人工靭帯、整形外科用の人工器官、例えば移植骨片、骨板、フィンおよび固定術用(fusion)デバイス、人工関節、整形外科用固定具、例えば足首、膝および手の部分のインターフェアレンススクリュー、靭帯結合および半月板修復のための留め鋲、骨折固定用のロッドおよびピン、頭蓋顎顔面修復用のスクリューおよびプレート、歯科インプラント、あるいは、体内に移植または挿入して治療薬を放出させるための他のデバイス、が挙げられる。
【0014】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明のデバイスは単に治療薬の放出だけを提供してもよいが、他の実施形態では、デバイスは治療薬の制御放出を越える治療的機能を提供するように構成されて、例えば、考えられる他の多くの機能の中でも特に、機械的、熱的、磁気的または電気的のうち少なくともいずれかの機能を身体内に提供する。
【0015】
本発明の医療用デバイスには、例えば、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、全身的な治療に使用されるもの、同様に任意の哺乳類の組織または臓器の局所的な治療に使用されるものが含まれる。非限定的な例は、腫瘍;臓器、例えば心臓、冠血管系および末梢血管系(全体で「血管系」と呼ばれる)、泌尿生殖器系、例えば腎臓、膀胱、尿道、尿管、前立腺、膣、子宮および卵巣、目、耳、脊椎、神経系、肺、気管、食道、腸、胃、脳、肝臓および膵臓、骨格筋、平滑筋、乳房、皮膚組織、軟骨、歯、ならびに骨である。
【0016】
本明細書中で使用されるように、「治療」は、疾病もしくは疾患の予防、疾病もしくは疾患に関連した症状の低減もしくは除去、または疾病もしくは疾患の十分もしくは完全な除去を指す。対象者は、脊椎動物の対象者、より典型的には哺乳動物の対象者、例えばヒト対象者、ペットおよび家畜である。
【0017】
本発明の医療用デバイスのための基材材料は広く様々な組成であってよく、いかなる特定の材料にも限定されるものではない。基材材料は、一連の生物学的に安定な材料および生崩壊性の材料(すなわち、体内に配置されると、溶解、分解、再吸収、またはその他の方法でデバイスから除去されるかのうち少なくともいずれかである材料)から選択可能であり、例えば、(a)有機材料(すなわち、有機分子種を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)、例えばポリマー材料(すなわち、ポリマーを典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)および生物由来材料(biologics)、(b)無機材料(すなわち、無機分子種を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)、例えば金属無機材料(すなわち、金属を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)および非金属無機材料(すなわち、非金属の無機材料を典型的には50重量%以上、例えば50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%またはそれ以上含有している材料)(例えば、数多い中でも特に、カーボン、半導体、ガラスおよびセラミックスであって、これらは様々な金属酸化物および非金属酸化物、様々な金属窒化物および非金属窒化物、様々な金属炭化物および非金属炭化物、様々な金属ホウ化物および非金属ホウ化物、様々な金属リン酸化物および非金属リン酸化物、ならびに様々な金属硫化物および非金属硫化物を含有し得る)、ならびに(c)ハイブリッド材料(例えばハイブリッドの有機−無機材料、例えばポリマー/金属無機ハイブリッドおよびポリマー/非金属無機ハイブリッド)が挙げられる。
【0018】
無機の非金属材料の具体例は、例えば、下記すなわち:金属酸化物セラミックス、例えば酸化アルミニウムおよび遷移金属酸化物(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、鉄、ニオブ、およびイリジウムの酸化物);シリコン;シリコン系セラミックス、例えばシリコン窒化物、シリコン炭化物およびシリコン酸化物を含有するもの(ガラスセラミックスと呼ばれる場合もある);リン酸カルシウムセラミックス(例えばハイドロキシアパタイト);カーボン;ならびにカーボン系のセラミックス類似材料、例えば窒化炭素、のうち1以上を含有している材料から選択可能である。
【0019】
金属材料の具体例は、例えば金属、数多い中でも特に金、鉄、ニオブ、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ロジウム、チタン、タンタル、タングステン、ルテニウム、亜鉛およびマグネシウム、ならびに合金であって、数多い中でも特に、例えば鉄とクロムとを含んでなる合金(例えばステンレス鋼、例えば白金強化された放射線不透過性のステンレス鋼)、ニオブ合金、チタン合金、ニッケルとチタンとを含んでなる合金(例えばニチノール)、コバルトとクロムとを含んでなる合金、例えばコバルトとクロムと鉄とを含んでなる合金(例えばelgiloy(R)合金)、ニッケルとコバルトとクロムとを含んでなる合金(例えばMP35N)、コバルトとクロムとタングステンとニッケルとを含んでなる合金(例えばL605)、ニッケルとクロムとを含んでなる合金(例えばインコネル合金)、および生崩壊性の合金、例えば、数多い中でも特にマグネシウム、亜鉛または鉄のうち少なくともいずれかの合金(およびCe、Ca、Al、ZrおよびLiと組み合わせた合金)(例えば、マグネシウムの合金であって、Fe、Ce、Al、Ca、Zn、Zr、LaおよびLiのうち1つ以上を含んでなるマグネシウム合金、鉄の合金であって、Mg、Ce、Al、Ca、Zn、Zr、LaおよびLiのうち1つ以上を含んでなる鉄合金、亜鉛の合金であって、Fe、Mg、Ce、Al、Ca、Zr、LaおよびLiを含んでなる亜鉛合金など)から選択可能である。
【0020】
有機材料の具体例には、ポリマー(生物学的に安定であってもよいし、生崩壊性であってもよい)ならびにその他の高分子量有機材料および低分子量有機材料が含まれ、例えば、下記すなわち:ポリカルボン酸のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアクリル酸、アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキルのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリ(メタクリル酸メチル−b−n−アクリル酸ブチル−b−メタクリル酸メチル)およびポリ(スチレン−b−n−アクリル酸ブチル−b−スチレン)トリブロックコポリマー、ポリアミド、例えばナイロン6,6、ナイロン12、およびポリエーテルブロックポリアミドコポリマー(例えばPebax(R)樹脂)、ビニル系のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリハロゲン化ビニル、例えばポリ塩化ビニルおよびエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ビニル芳香族のホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、ビニル芳香族−アルケンコポリマー、例えばスチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレンコポリマー(例えばポリ(スチレン−b−エチレン/ブチレン−b−スチレン(SEBS)コポリマー、Kraton(R)Gシリーズポリマーとして入手可能)、スチレン−イソプレンコポリマー(例えばポリ(スチレン−b−イソプレン−b−スチレン)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマーおよびスチレン−イソブチレンコポリマー(例えばポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマー、例えばポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)またはSIBS、例えばピンチューク(Pinchuk)らの米国特許第6,545,097号明細書に記載されている)、アイオノマー、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートおよび脂肪族ポリエステル、例えばラクチド(d−ラクチド、l−ラクチドおよびメソラクチドを含む)のホモポリマーおよびコポリマー(例えばポリ(L−ラクチド)およびポリ(d,l−ラクチド)、グリコリド(グリコール酸)、およびイプシロン−カプロラクトン、例えばポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、例えばポリ(l−ラクチド−コ−グリコリド)およびポリ(d,l−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカーボネート、例えばトリメチレンカーボネート(およびそのアルキル誘導体)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリエーテルのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアルキレンオキシドポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)およびポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオレフィンのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリアルキレン、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン(例えばポリブト−1−エンおよびポリイソブチレン)、ポリオレフィンエラストマー(例えばsantoprene(R))およびエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、フッ素化ホモポリマーおよびフッ素化コポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロペン)(FEP)、変性エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シリコーンのホモポリマーおよびコポリマー、例えばポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、生体高分子、例えばポリペプチド、タンパク質、多糖類、フィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチン、キトサン、ゼラチン、デンプン、およびグリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸;ならびに上記のもののブレンドおよびさらなるコポリマー、のうち1つ以上を含有している適切な材料から選択可能である。
【0021】
前述のポリマーは多くの形態で提供可能であり、該形態は例えば環式形態、直鎖状形態および分岐状形態から選択可能である。分岐状形態には、星型の形態(例えば種分子のような単一の分岐点から3つ以上の鎖が出ている形態)、櫛型の形態(例えば主鎖と複数の側鎖とを有する形態)、樹状形態(例えば樹枝状ポリマーおよび高分岐ポリマー)、ネットワーク型(例えば架橋型)形態などが挙げられる。
【0022】
上述のように、本発明の1つの態様では、基材に加えて、該基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬、および該治療薬上に配置された少なくとも1つの多孔性/プロ多孔性の無機層を含んでなる医療用デバイスが提供される。いくつかの実施形態では、治療薬は基材内部に提供される。いくつかの実施形態では、治療薬は、基材と多孔性/プロ多孔性の無機層との間の別個の治療薬含有層(本明細書中では「治療層」とも呼ばれる)の中に提供される。
【0023】
本明細書中で使用されるように、所与の材料の「層」とは、その材料の領域であってその厚さが長さおよび幅のいずれと比較しても小さい(例えば、長さおよび幅がそれぞれ厚さの少なくとも4倍の大きさである)領域である。「膜」、「層」および「コーティング」のような用語は、本明細書中では互換的に使用可能である。本明細書中で使用されるように、層は平面状である必要はなく、例えば下層をなす基材の輪郭に沿っていてもよい。層が非連続的であって下層をなす構造物を部分的に覆っているだけでもよい(例えば、2以上、場合によってはさらに多くの材料領域の集合物で構成されていてもよい)。
【0024】
例えば、層は、適切な塗布用具(例えばインクジェット装置、ペン、ブラシ、ローラなど)を使用して、または適切なマスキング技法を使用して、下層をなす基材の上に所望のパターンで提供可能である。より具体的な例として、本発明のある実施形態では、下層をなす基材の上にパターン化された治療層が提供される。そのような実施形態では基材の別の表面領域は治療層によって覆われないので、このことは、例えば、基材と、上層をなす多孔性/プロ多孔性の無機層との間で直接的接触(および結合)が可能であるという点で、都合がよい場合がある。
【0025】
治療層は、例えば、1重量%以下〜2重量%〜5重量%〜10重量%〜25重量%〜50重量%〜75重量%〜90重量%〜95重量%〜97.5重量%〜99重量%以上の単一の治療薬または治療薬の混合物を該層内に含有することができる。治療層の形成に使用することができる治療薬以外の追加の材料の例には、治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料、例えば有機材料(例えばポリマー材料など)、無機材料(例えば金属無機材料および非金属無機材料)、およびハイブリッドの有機−無機材料があり、特に、上記に列挙されたものから選択可能である。例えば、治療層は、1つ以上の追加の材料とブレンドされた、例えば有機材料、無機材料またはこれらのハイブリッドとブレンドされた、1つ以上の治療薬を含んでなることができる。別例として、治療層は、追加の材料から形成された、例えば有機材料、無機材料またはこれらのハイブリッドから形成された、多孔性または非多孔性のリザーバ層の内部に配置された1つ以上の治療薬を含んでなることができる。治療薬は、例えば、追加の材料とともに共堆積されてもよいし、他の可能性もあるが特に、追加の材料の層が最初に堆積されてから該追加材料に治療薬が導入されてもよい。
【0026】
治療層の厚さは広く様々であってよく、典型的には厚さ10nm〜100nm〜1000nm(1μm)〜10000nm(10μm)またはそれ以上の範囲であってよい。
ある実施形態では、本発明の医療用デバイスは持続性の治療薬放出プロファイルを有する。「持続性の放出プロファイル」とは、投与の全過程にわたって生じる医薬物品からの総放出のうち25%未満が、投与の第1日目の間に(または実施形態によっては最初の2、4、8、16、32、64、128日もしくはさらに長い日数にわたって)生じる、放出プロファイルを意味する。このことは、該医療用デバイスからの総放出のうち75%超は、該デバイスがその同じ期間(すなわち最初の1、2、4、8、16、32、64、128日またはそれ以上の日数にわたって)投与された後で生じることになることを意味している。
【0027】
「治療薬」、「薬学的に活性を有する作用物質」、「薬学的に活性を有する物質」、「薬物」、「生物活性物質」および他の関連用語は、本明細書中では互換的に使用可能であり、該用語には遺伝子治療薬、非遺伝子治療薬および細胞が含まれる。種々様々の疾病および疾患を治療するために使用されるものを含む種々様々の治療薬が、本発明と共に使用可能である。
【0028】
本発明と共に使用するための例示の治療薬には、(a)抗血栓剤、例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレルおよびPPack(デキストロフェニルアラニン・プロリン・アルギニン・クロロメチルケトン);(b)抗炎症剤、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミン;(c)抗新生物剤/抗増殖剤/抗縮瞳薬、例えばパクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞の増殖を阻止することができるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤;(d)麻酔薬、例えばリドカイン、ブピバカインおよびロピバカイン;(e)抗凝血剤、例えばD−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、抗血小板薬およびダニ抗血小板ペプチド;(f)血管細胞増殖促進物質、例えば増殖因子、転写活性化因子および翻訳プロモータ;(g)血管細胞増殖阻害剤、例えば増殖因子阻害剤、増殖因子受容体拮抗薬、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製阻害剤、阻害抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子と細胞毒素とで構成される二機能分子、抗体と細胞毒素とで構成される二機能分子;(h)タンパク質キナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えばチルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i)プロスタサイクリン類似体;(j)コレステロール降下剤;(k)アンジオポエチン;(l)抗菌物質、例えばトリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシドおよびニトロフラントイン;(m)細胞毒性薬、細胞静止薬、および細胞増殖の影響因子;(n)血管拡張剤;(o)内在性の血管作動性機構を妨げる作用物質;(p)モノクローナル抗体のような、白血球動員の阻害剤;(q)サイトカイン;(r)ホルモン;(s)HSP90タンパク質(すなわち熱ショックタンパク質。熱ショックタンパク質は分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、細胞の増殖および生存を担う他のクライアントタンパク質/シグナル伝達タンパク質の安定性および機能に必要とされる)の阻害剤、例えばゲルダナマイシン、(t)平滑筋弛緩薬、例えばα受容体拮抗薬(例えばドキサゾシン、タムスロシン、テラゾシン、プラゾシンおよびアルフゾシン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えばベラピミル(verapimil)、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニカルジピン、ニモジピンおよびベプリジル)、β受容体作動薬(例えばドブタミンおよびサルメテロール)、β受容体拮抗薬(例えばアテノロール、メタプロロール(metaprolol)およびブトキサミン)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(例えばロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、エプロサルタンおよびテルミサルタン)、および鎮痙剤/抗コリン薬(例えば塩化オキシブチニン、フラボキサート、トルテロジン、硫酸ヒヨスチアミン、ジクロミン(diclomine))、(u)bARKct阻害剤、(v)ホスホランバン阻害剤、(w)Serca2遺伝子/タンパク質、(x)免疫応答修飾剤、例えばアミノキゾリン(aminoquizoline)、例えばレシキモド(resiquimod)およびイミキモド(imiquimod)のようなイミダゾキノリン、(y)ヒトのアポリポタンパク質(例えばAI、AII、AIII、AIV、AVなど)、(z)選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)、例えばラロキシフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、ミプロキシフェン、オスペミフェン、PKS3741、MF101およびSR16234、(aa)PPAR作動薬、例えばPPARα、γおよびδ作動薬、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、ネトグリタゾン、フェノフィブラート、ベキサオテン(bexaotene)、メタグリダセン、リボグリタゾンおよびテサグリタザル、(bb)プロスタグランジンE作動薬、例えばアルプロスタジルまたはONO8815LyのようなPGE2作動薬、(cc)トロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)、(dd)バソペプチダーゼ阻害剤、例えばベナゼプリル、フォシノプリル、リシノプリル、キナプリル、ラミプリル、イミダプリル、デラプリル、モエキシプリルおよびスピラプリル、(ee)チモシンβ4、(ff)リン脂質、例えばホスホリルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルコリン、(gg)VLA−4拮抗薬およびVCAM−I拮抗薬、が挙げられる。
【0029】
具体的な治療薬には、特に、タキサン、例えばパクリタキセル(例えばその微粒子型、例えば、タンパク質結合パクリタキセル粒子、例えばアルブミン結合パクリタキセルナノ粒子(例えばABRAXANE(R)))、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス、EpoD、デキサメタゾン、エストラジオール、ハロフジノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、塩化アラゲブリウム(ALT−711)、ABT−578(アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories))、トラピジル、リプロスチン(liprostin)、アクチノムシンD(Actinomcin D)、Resten−NG(R)、Ap−17、アブシキシマブ、クロピドグレル、リドグレル、β遮断薬、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、Serca2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えばAI〜AV)、成長因子(例えばVEGF−2)、ならびに前述のものの誘導体、が挙げられる。
【0030】
必ずしも上記に列挙されたものに限らず、数多くの治療薬が、例えば再狭窄を標的とする薬剤(抗再狭窄剤)として血管の治療のための候補であると確認されている。そのような薬剤は本発明の実施に有用であり、そのような薬剤には以下すなわち:(a)Caチャネル遮断薬、例えば、ジルチアゼムおよびクレンチアゼムのようなベンゾチアザピン(benzothiazapine)類、ニフェジピン、アムロジピンおよびニカルダピン(nicardapine)のようなジヒドロピリジン、ならびにベラパミルのようなフェニルアルキルアミン類、(b)セロトニン経路モジュレータ、例えば:ケタンセリンおよびナフチドロフリルのような5−HT拮抗薬、ならびにフルオキセチンのような5−HT取り込み阻害剤、(c)環状ヌクレオチド経路作用物質、例えば、シロスタゾールおよびジピリダモールのようなホスホジエステラーゼ阻害剤、ホルスコリンのようなアデニル酸/グアニル酸シクラーゼ刺激剤、ならびにアデノシン類似体、(d)カテコールアミンモジュレータ、例えば、プラゾシンおよびブナゾシン(bunazosine)のようなα−拮抗薬、プロプラノロールのようなβ−拮抗薬、ならびにラベタロールおよびカルベジロールのようなα/β−拮抗薬、(e)エンドセリン受容体拮抗薬、例えばボセンタン、シタキセンタンナトリウム、アトラセンタン、エンドネンタン(endonentan)、(f)一酸化窒素供与体/放出分子、例えばニトログリセリン、硝酸イソソルビドおよび亜硝酸アミルのような有機硝酸塩/亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウムのような無機ニトロソ化合物、モルシドミンおよびリンシドミンのようなシドノンイミン類、ジアゼニウムジオラートおよびアルカンジアミンのNO付加物のようなNONOアート、S−ニトロソ化合物の低分子量化合物(例えばカプトプリル、グルタチオンおよびN−アセチルペニシラミンのS−ニトロソ基誘導体)および高分子化合物(例えばタンパク質、ペプチド、オリゴ糖、多糖、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS−ニトロソ基誘導体)、ならびにC−ニトロソ化合物、O−ニトロソ化合物、N−ニトロソ化合物およびL−アルギニン、(g)アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、例えばシラザプリル、フォシノプリルおよびエナラプリル、(h)ATII受容体拮抗薬、例えばサララシンおよびロサルチン(losartin)、(i)血小板粘着阻害剤、例えばアルブミンおよびポリエチレンオキシド、(j)血小板凝集阻害剤、例えばシロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)、ならびにGP IIb/IIIa阻害剤、例えばアブシキシマブ、エピチフィバチド(epitifibatide)およびチロフィバン、(k)凝固経路モジュレータ、例えばヘパリン、低分子ヘパリン、デキストラン硫酸およびβ−シクロデキストリンテトラデカスルファートのようなヘパリン類似物質、ヒルジン、ヒルログ、PPACK(D−phe−L−プロピル−L−arg−クロロメチルケトン)およびアルガトロバンのようなトロンビン阻害剤、アンチスタチン(antistatin)およびTAP(ダニ抗凝固ペプチド)のようなFXa阻害剤、ワルファリンのようなビタミンK阻害剤、ならびに活性化プロテインC、(l)シクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン、(m)天然および合成コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、メトプレドニゾロン(methprednisolone)およびヒドロコルチゾン、(n)リポキシゲナーゼ経路阻害剤、例えばノルジヒドログアヤレチック酸およびカフェ酸、(o)ロイコトリエン受容体拮抗薬、(p)E−セレクチンおよびP−セレクチンの拮抗薬、(q)VCAM−1およびICAM−1相互作用の阻害剤、(r)プロスタグランジンおよびその類似体、例えばPGE1およびPGI2のようなプロスタグランジン、ならびにシプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロストおよびベラプロストのようなプロスタサイクリン類似体、(s)マクロファージ活性化防止剤、例えばビスホスホネート類、(t)HMG−CoA還元酵素阻害剤、例えばロバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン、(u)魚油およびオメガ−3−脂肪酸、(v)フリーラジカル捕捉剤/抗酸化物質、例えばプロブコール、ビタミンCおよびビタミンE、エブセレン、トランスレチノイン酸ならびにSOD(オルゴテイン)およびSOD模倣体、ベルテポルフィン、ロスタポルフィン(rostaporfin)、AGI1067およびM40419、(w)様々な増殖因子に作用する薬剤、例えばbFGF抗体およびbFGFキメラ融合タンパク質のようなFGF経路作用物質、トラピジルのようなPDGF受容体拮抗薬、アンギオペプチンおよびオクレオチド(ocreotide)のようなソマトスタチン類似体などのIGF経路作用物質、ポリアニオン性物質(ヘパリン、フコイジン)、デコリン、およびTGF−β抗体のようなTGF−β経路作用物質、EGF抗体、EGF受容体拮抗薬およびキメラ融合タンパク質のようなEGF経路作用物質、サリドマイドおよびその類似体のようなTNF−α経路作用物質、スロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベンおよびリドグレルのようなトロンボキサンA2(TXA2)経路モジュレータ、ならびにチルホスチン、ゲニステインおよびキノキサリン誘導体のようなタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、(x)マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)経路阻害剤、例えばマリマスタット、イロマスタット、メタスタット、バチマスタット、ペントサンポリスルファート、レビマスタット、インサイクリニド(incyclinide)、アプラタスタット(apratastat)、PG116800、RO1130830またはABT518、(y)細胞運動阻害剤、例えばサイトカラシンB、(z)抗増殖薬/抗新生物薬、例えば代謝拮抗物質のプリン拮抗薬/類似体(例えば6−メルカプトプリンおよび6−メルカプトプリンのプロドラッグ、例えばアザチオプリンまたは塩素化プリンヌクレオシド類似体であるクラドリビン)、ピリミジン類似体(例えばシタラビンおよび5−フルオロウラシル)およびメトトレキサート、ナイトロジェンマスタード、スルホン酸アルキル、エチレンイミン、抗生物質(例えばダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソ尿素、シスプラチン、微小管動態に作用する薬剤(例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、EpoD、パクリタキセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、血管新生阻害剤(例えばエンドスタチン、アンギオスタチンおよびスクアラミン)、オリムス(olimus)系薬物(例えばシロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムスなど)、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミン、(aa)マトリックス沈着/構築経路阻害剤、例えばハロフジノンまたはその他のキナゾリノン誘導体、ピルフェニドンおよびトラニラスト、(bb)内皮化(endothelialization)促進剤、例えばVEGFおよびRGDペプチド、(cc)血液レオロジーモジュレータ、例えばペントキシフィリン、ならびに(dd)グルコース架橋切断薬、例えば塩化アラゲブリウム(ALT−711)、のうちの1つ以上が含まれる。
【0031】
本発明の実施に有用ないくつかの別の治療薬は、クンツ(Kunz)の米国特許第5,733,925号明細書にも開示されており、前記特許文献は参照により全容が本願に組み込まれる。
【0032】
既述のように、本発明の1つの態様では、基材および該基材上または基材中に配置された少なくとも1つの治療薬に加えて、該治療薬および基材の上に配置された少なくとも1つの多孔性/プロ多孔性(pro−porous)の無機層を含んでなる医療用デバイスが提供される。
【0033】
本発明で使用される多孔性/プロ多孔性の無機層は、広く様々な組成であってよく、いかなる特定の無機材料にも限定されるものではない。該無機層は、広範囲の生崩壊性無機材料および生物学的に安定な無機材料、例えば上記に列挙された無機材料のうち適切なもの、例えば生物学的に安定な金属無機材料(例えばチタン、イリジウム、タンタル、白金、金、ニオブ、モリブデン、レニウム、ステンレス鋼、白金強化された放射線不透過性のステンレス鋼、ニオブ合金、チタン合金、ニチノールなど)、生崩壊性の金属無機材料(例えばマグネシウム、鉄、亜鉛、これらの合金など)、ならびに生物学的に安定な非金属無機材料および生崩壊性の非金属無機材料(例えばチタン酸化物、イリジウム酸化物、アルミニウム酸化物、酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、チタン酸窒化物、リン酸カルシウムセラミックスなど)、から選択可能である。本発明による多孔性およびプロ多孔性の無機層は、例えば、完全に生物学的に安定であってもよいし、完全に生崩壊性であってもよいし、または部分的に生物学的に安定かつ部分的に生崩壊性であってもよい。
【0034】
本発明で使用される多孔性/プロ多孔性の無機層の厚さは広く様々であってよく、例えば、数多くの値の中でも特に、層厚5nm〜20μmまたはそれ以上、例えば、層厚5nm〜10nm〜100nm〜1000nm(1μm)〜10000nm(10μm)またはそれ以上の範囲であってよい。
【0035】
ある実施形態(例えばナノクラスターPVDを使用して形成された多孔性/プロ多孔性の無機層)では、多孔性/プロ多孔性の無機層の厚さは、該無機層を形成する無機ナノ粒子の大きさに依存することになり、この場合層厚は、ナノ粒子の直径の例えば3〜5〜7〜10〜15〜20〜50〜75〜100倍またはそれ以上であってよい。本明細書中で使用されるように、「ナノ粒子」とは、1μmを超過しない幅を有する粒子、例えば、幅が2nm以下〜4nm〜8nm〜10nm〜15nm〜20nm〜25nm〜35nm〜50nm〜100nm〜150nm〜250nm〜500nm〜1000nmの範囲の粒子である。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明のデバイスの多孔性/プロ多孔性の無機層は、当初からナノ多孔性であるかin vivoでナノ多孔性になるかのうちいずれかである。国際純正応用化学連合(IUPAC)に従えば、「ナノ細孔」とは、50nmを超えない(例えば0.5nm以下〜1nm〜2.5nm〜5nm〜10nm〜25nm〜50nmの)幅を有する細孔である。本明細書中で使用されるように、ナノ細孔には、2nmを超えない幅を有する細孔である「ミクロ細孔」および幅が2〜50nmの範囲にある「メソ細孔」が含まれる。本明細書中で使用されるように、「マクロ細孔」は幅が50nmより大きく、従ってナノ細孔ではない。本発明では、「ナノ細孔」は、幅が最大1μmまでの細孔をさらに包含する場合もあるが、この特別な定義が明確に用いられる場合のみである。
【0037】
本明細書中で使用されるように、「多孔性」の層とは細孔を含んでいる層である。「ナノ多孔性の層」とはナノ細孔を含んでいる層である。ナノ多孔性の層は、ナノ細孔ではない何らかの細孔をさらに含んでなる場合もあり;例えば、ナノ多孔性の層はマクロ細孔をさらに含んでなる場合もある。典型的にはナノ多孔性の層内の細孔数の少なくとも90%がナノ細孔である。
【0038】
多孔性の無機層は、例えば、生物学的に安定な無機材料、生物学的に安定な無機材料と生崩壊性の無機材料との混合物、または生崩壊性の無機材料から形成可能である。プロ多孔性の無機層は、例えば、生物学的に安定な無機材料と生崩壊性の無機材料との混合物、または生崩壊性の無機材料の混合物であって1つの生崩壊性無機材料が他の生崩壊性無機材料よりも速く生物学的に崩壊するものから形成可能である。例えば、層は、別個の生物学的に安定な無機材料相と生崩壊性の無機材料相であって、相の形態が、in vivoにおいて生崩壊性の相が除去されると多孔性の層が形成されるようになっているもので形成されてもよい。多孔性およびプロ多孔性の無機層は、例えば後述されるような堆積技法を含む任意の適切な技法を使用して形成可能である。
【0039】
いくつかの実施形態では、生崩壊性の材料(例えば生崩壊性の有機材料、無機材料または有機−無機ハイブリッド)は、多孔性/プロ多孔性の無機層の下でありかつ治療薬の上(すなわち治療層と多孔性/プロ多孔性の無機層との間)に配置される。これらの実施形態では、治療薬の放出速度は、多孔性/プロ多孔性の無機層によって、生崩壊性の材料によって、または両方によって規定されうる。さらに、多孔性/プロ多孔性の無機層は、生崩壊性の材料の断片がデバイスから放出されるのを防止する障壁としての役割を果たすこともできる。
【0040】
本発明の様々な実施形態では、多孔性/プロ多孔性の無機層は粗い層である。粗い無機層は、例えば、本来ならば平滑な層で生じる可能性のある、クラッキングに起因する無機層の損傷に強い可能性がある。理論によって束縛されるものではないが、この挙動は次のように説明可能である。下層をなす粗い領域の上に配置された比較的一定した厚さの粗い層と、下層をなす平滑な領域の上に配置された比較的一定した厚さの平滑な層とを比べる場合、後者の層は、引張応力(凝集破壊をもたらす)および界面応力の増大に起因するクラッキングを生じやすいと考えられる。さらに、クラッキングは、基材密着性が乏しい結果として平滑な層全体に広がる可能性がある。そのうえ、粗い層は、実質的に薄い部分の領域に接続している、多数の厚い部分でできた無機材料の島状部(例えば、横方向に間隔を置いて並んだ比較的厚い無機ドットの疑似島状部)を含んでなることができる。材料領域が薄いほど、曲げた時の該材料領域の向かい合う表面にかかる引張応力/圧縮応力は小さくなる。反対に、材料領域が厚いほど、曲げた時の向かい合う表面にかかる引張応力/圧縮応力は大きくなる。(このため、薄いガラス繊維は非常に可撓性が高い一方で、同じ材料のロッドは屈曲された時に砕けることになる。)従って、厚い領域と薄い領域とを備えた層が曲げられると、曲げ応力は薄い領域に吸収されやすくなる。
【0041】
「粗い」領域は、表面のトポグラフィー計測(例えばAFM)によって、Sa値(すなわち材料の表面に関して評価された平均粗さであり、数学的には以下のように表される:)が50ナノメートルより大きく(典型的な電気研磨表面はおよそ20〜40ナノメートルの粗さ値Saを有する)、典型的にはSa=∬a|Z(x,y)|dxdy)100ナノメートルより大きく、より典型的には300nmより大きい領域であると測定される。この点に関しては、表面の粗さが増大していくと、平均粗さが約300nmを越えるときに艶有/光沢から艶無へと切り替わる。「粗い」領域は、その表面が少なくとも20 1/μm2の頂点の個数密度(Sds)(表面の単位面積当たりの突出部の数)を有するものと測定されてもよい。粗さ試験についてのさらに詳しい情報については、例えばASME B46.1を参照されたい。
【0042】
ある実施形態では、多孔性/プロ多孔性の無機層は基材の一定の表面のみにわたって配置される。例えば、多孔性/プロ多孔性の無機層は、ステントのような管状医療用デバイスの外側/管腔外側表面のみに提供されてもよいし、そのようなデバイスの内側/管腔側表面のみに提供されてもよい。
【0043】
多孔性/プロ多孔性の無機層が十分に薄い場合は、粗さは、例えば粗い下層材料を使って無機層に付与されてもよい。
以下にさらに議論されるように、粗い下層材料の上に多孔性/プロ多孔性の無機層を形成する際にPVD系の処理法のような視程内(line−of−sight)処理法(例えばパルスレーザ堆積法、ナノクラスターPVDなど)が使用される場合、下層材料の粗さにより、下層材料が不完全に覆われて多孔性無機層が生成される可能性がある。
【0044】
いくつかの実施形態では、粗い下層材料は粗い基材材料に相当する。そのような材料の例には、形成時点で粗い基材(例えば、粗い表面を有するモールド由来の鋳造物)および形成後に適切な粗化処理によって粗化される基材が挙げられる。例えば、プラズマ浸漬イオン注入(PIII)処理は、例えば化学エッチングを含む他の多くの処理法の中でも特に、金属性基材の表面の粗化に使用されうる。
【0045】
いくつかの実施形態では、粗い下層材料は基材の上に配置される材料の粗層に相当する。下層をなす基材の上に粗い有機層、無機層および有機−無機ハイブリッド層を作製するための様々な処理法が知られている。そのような粗層は生崩壊性であってもよいし、生物学的に安定であってもよいし、部分的に生崩壊性および部分的に生物学的に安定であってもよい。
【0046】
本発明のある実施形態では、基材上に材料の粗層を作出するために静電噴霧(「エレクトロスプレイ」)コーティング処理が使用される。エレクトロスプレイ処理法についての情報は、例えばフィン(Feng)らの米国特許出願公開第2007/0048452号明細書に見出すことが可能である。
【0047】
エレクトロスプレイコーティング法については以下の段落に説明されているが、該方法によって最終的なコーティングの形態を制御して、例えば、部分的に融合したポリマー粒子(例えば、架橋/相互連結したファイバー、架橋/相互連結した低アスペクト比の粒子など)の多孔性表面領域、平滑表面領域、または組み合わせもしくは両方を層深さに応じて生産することができる。典型的な粒径は、他の可能性もあるが特に直径15〜2000nm、例えば直径15〜20〜50〜100〜200〜500〜1000〜2000nmにわたる。部分的に融合した粒子は、極めて均一に生産されるか(単分散)、球形状もしくは非球形状を有するか、または、多様な構造的特性(例えば、中実、カプセル化、中空、くぼみなど)が賦与されるかのうち少なくともいずれかであってよい。したがって、いくつかの実施形態では、部分的に融合したポリマー粒子の大多数は低アスペクト比を有し、例えば2以下のアスペクト比を有している(例えば下記の図9Bを参照)。いくつかの実施形態では、コーティングが基材に適用されて、初期のコーティングパラメータがぬれまたは基材への付着性を最適化し、後のコーティングパラメータが有孔性を最適化するようになっている。いくつかの実施形態では、コーティングの形態が天然の組織の形態を模倣するように改変されることにより、デバイス上での細胞増殖(例えば血管内皮細胞増殖)が促進される。
【0048】
具体的な例において、SIBSおよび任意選択でパクリタキセルのような治療薬(例えば、100重量%のSIBSで、または8.8重量%のパクリタキセルと91.2重量%のSIBSとで構成されている固形分)は、様々な溶液(例えば全体的な固形分濃度が1重量%〜2.5重量%〜5重量%の範囲にあるもの)、例えば、テトラヒドロフラン(THF)含量の高い溶液であって例えば溶媒種としてTHFを単独で使用するもの(溶媒種として100重量%THF)、THFをメタノール(MeOH)とブレンドしたもの(例えば溶媒種としての85重量%THFおよび15重量%MeOH)、THFを炭酸プロピレン(PC)とブレンドしたもの(例えば溶媒種として97重量%THFおよび3重量%PC)、およびTHFをメチルエチルケトン(MEK)とブレンドしたもの(例えば溶媒種として70重量%THFおよび30重量%MEK)からのエレクトロスプレイ処理によって堆積させることが可能である。治療薬がコーティング中に含められる場合、放出プロファイルは溶媒組成を変えることにより変化させることができる。(放出は、前述のトルエン含量の高い溶液にトルエンを加えることによりさらに調整可能である。)例えば、溶液の組成(固形分および溶媒種)を変えることによって、1〜10日間にほぼ直線的な放出プロファイルを示すいくつかのコーティングを用いて、10日後のSIBSからのパクリタキセルの累積的放出を10%〜90%に調整することが可能である。
【0049】
エレクトロスプレイの分野で良く知られているように、エレクトロスプレイ処理のための帯電方法には、静電誘導帯電およびコロナ帯電化、例えば流量制限フィールド噴出エレクトロスプレイ(flow limited field ejection electrospray)(FFESS)が挙げられる。プロセス変数には、印加電圧、溶液流量、溶液の導電率、ターゲット距離、ガス温度およびキャピラリーサイズが挙げられる。コーティング内の有孔度レベルの変化には、例えば、エレクトロスプレイ処理で形成される微小液滴の乾燥速度を変えることにより影響を与えることができる。例えば、キャリアガス温度を上昇させることにより、溶媒の乾燥、乾燥速度の増大および細孔数のより多いコーティングの生産を支援することが可能であり、キャピラリーとターゲットとの距離を短縮することにより溶媒の蒸発が低減され(より平滑なコーティングの生産)、また、キャピラリーとターゲットとの距離を増大することにより、溶媒の蒸発が増大し(より細孔数の多いコーティングの生産)、しかし同時に良好なコーンジェット性能のために同一の電界強度を維持するための印加電圧の増大も必要となる。さらに、適度の熱量を備えた窒素ガスは、噴霧される溶液の全体的な熱エネルギーを増大させて、蒸発の増強をもたらすことができる。具体的な例では、図9A〜9Cは、平坦な金属(ステンレス鋼316L)の試験片上に、85重量%のTHF、14重量%のMeOHおよび1重量%のSIBSを含有する溶液から、異なる3セットのエレクトロスプレイ・プロセス変数を使用して形成されたコーティングの走査型電子顕微鏡写真(SEM)(5000×)を表わす。この件については、サブミクロンの液滴を生成する処理は一般に、溶液流量、印加電位/電圧、キャピラリーノズルと基材との距離および乾燥条件(例えば、並行流ガスおよび温度)によって調整することができる。配合パラメータ(例えば固形分、溶媒ブレンド物、導電性など)と組み合わせて、様々な固有のコーティング構造物を構築することができる。図9Aはほぼ平滑な形態である(意図的に付けた掻き傷は図の右側に見られる)が、図9Bは相互に連結した粒子(例えば部分的に融合した粒子)の形態が基になっている。図9Cの形態は、高アスペクト比の粒子のネットワークが、結合かつ乾燥して多くの空隙領域および高度の固体相互結合の両方を備えたパターン(例えば開気孔性の多泡体)をなすように設計されている、融合した繊維状物(fibroid)の実施例である。
【0050】
いくつかの実施形態では、医療用デバイスの一部分のみがエレクトロスプレイ処理によってコーティングされる。例えば、ステントは、絶縁性マンドレルを使用して(該マンドレルにより内側/管腔側表面をマスキングして)、または(反発性の電場を適用するために)バイアスをかけたマンドレルを使用して、該ステントの外側/管腔外側表面上に選択的にコーティングが施されてもよい。
【0051】
ある実施形態では、粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、上述したような粗いポリマー層上への堆積によって生成される。治療薬は、例えば、粗いポリマー層の内部、粗いポリマー層の細孔内/粗いポリマー層の上に配置された別個の層の内部などに提供されうる。
【0052】
ある実施形態では、粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、粗い無機層の上への堆積によって生成される。例えば、粗い無機層は、最初に上述のような粗いポリマー層を形成することにより形成されてもよい。次いで、この粗いポリマー層の上に金属酸化物または半金属酸化物のゲルをまず堆積させた後、ゲルを強化しポリマー成分を燃焼させて除去する高温での焼成を行うことにより、ゾル−ゲル法による粗いセラミックス層が形成される。粗い多孔性/プロ多孔性の無機層は、ゾル−ゲル法による粗い層の上への堆積によって生成される。治療薬は、例えば、ゾル−ゲル法による粗い層の内部、ゾル−ゲル法による粗い層の細孔内/ゾル−ゲル法による粗い層の上に配置された別個の層の内部などに提供されうる。
【0053】
背景について述べると、典型的なゾル−ゲル法では、典型的には無機の金属塩および半金属塩、金属および半金属の錯体/キレート、金属水酸化物および半金属水酸化物、ならびに金属のアルコキシドおよびアルコキシシランのような有機金属化合物および有機半金属化合物から選択された前駆体材料が、加水分解反応および縮合(「重合」と呼ばれる場合もある)反応に供されることにより、「ゾル」(すなわち固体粒子の液体中懸濁物)を形成する。例えば、最適な半金属または金属(例えばシリコン、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、鉄、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、レニウム、イリジウム、バリウムなど)の最適なアルコキシド(例えばメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、tert−ブトキシドなど)が、適切な溶媒中、例えば1または複数のアルコール中に溶解される。続いて、水または別の水溶液、例えば酸性水溶液または塩基性水溶液(該水溶液はアルコールのような有機溶媒種をさらに含有することができる)が添加され、その結果加水分解および縮合が生じる。ゾルがさらに処理されることによって固体材料が作製可能となる。例えば、下層をなす構造物に、例えば浸漬、スプレイコーティング、アプリケータを用いた(例えばローラ、ブラシもしくはペンによる)コーティング、インクジェット印刷、スクリーン印刷などによってゾルを導入することにより、該構造物上に「湿潤ゲル」コーティングを生成させることができる。その後、湿潤ゲルは乾燥される。周囲温度および周囲圧力での乾燥では、一般に「キセロゲル」と呼ばれるものが得られる。超臨界乾燥(「エアロゲル」の生成)、凍結乾燥(「クリオゲル」の生成)、高温乾燥(例えばオーブン中)、真空乾燥(例えば周囲温度または高温)などを含む、可能性として考えられる他の乾燥法も利用可能である。ゾル−ゲル材料に関するさらに詳しい情報は、例えばヴィータラ R(Viitala R.)ら、「Surface properties of in vitro bioactive and non−bioactive sol−gel derived materials」、Biomaterials,2002 Aug;23(15):3073−86において見出すことができる。
【0054】
先述のように、治療層は、様々な方法で本発明の構造物に組み入れることができる。
例えば、少なくとも1つの治療薬が、粗層の形成に使用される堆積材料に含められることによって、形成時に粗層の中に該治療薬が組み込まれてもよい。この種の医療用デバイスは図1に概略的に示されており、図1は、基材110(例えばステンレス鋼基材など)と、基材110の上に配置された粗い治療層120と、治療層120および基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130(例えばPVDイリジウム層など)とを含んでなる医療用デバイス100を示している。粗い治療層120は、少なくとも1つの治療薬で構成されているか、または少なくとも1つの治療薬および少なくとも1つの追加の材料(例えば治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料)を含んでなる。粗い治療層の1つの具体例は、上述のようなエレクトロスプレイ法で作製されたSIBS/パクリタキセル層である。
【0055】
そのような追加の材料の例には、生物学的に安定な有機・無機材料および生崩壊性の有機・無機材料が含まれ、特に、上述されたものから選択可能である。そのような追加の材料はこのように、生崩壊性であっても、生物学的に安定であっても、または部分的に生崩壊性および部分的に生物学的に安定であってよい。
【0056】
別例として、少なくとも1つの治療薬(例えば散剤、溶液、液状懸濁物、溶融物など)と、任意選択の追加材料(例えば治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料、溶媒種など)とを含有する組成物が、粗い基材または基材上の粗層に塗布されてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、粗い基材または粗層の性質および塗布される組成物の性質に応じて、治療薬は、粗層もしくは粗い基材の中(または粗層もしくは粗い基材の少なくとも表面部分)に組み込まれうる。例えば、塗布される組成物は、粗い基材または粗層に付随する細孔の中に導入される場合がある。別例として、塗布される組成物は、粗い基材または粗層を形成している材料の膨潤剤でもある溶媒系に治療薬が溶解された溶液であってもよい。この溶液は、粗い基材または粗層が該溶液によって膨潤することにより該溶液中に含まれた治療薬を取り込むように、粗い基材または粗層に塗布されうる。
【0058】
この種の構造物は図2に概略的に示されており、図2は、粗い基材110と基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる医療用デバイス100を示している。図2の構造物では、粗い基材110の上方部分に導入された治療薬は、粗い基材110のより濃く影付けされた部分として描出されている。
【0059】
他の実施形態では、塗布される組成物により、粗い基材または粗層の表面上に別個の治療層が作られる。例えば、治療層は、ほぼ純粋な形態(すなわち治療薬ではない追加の材料を伴わない形態)の単一の治療薬(または治療薬の混合物)で構成されてもよい。別例として、治療層は、少なくとも1つの治療薬を少なくとも1つの追加の材料(例えば上述のような、治療薬のリザーバ/結合剤/マトリックスとしての役割を果たす材料)と併せて含んでいてもよい。
【0060】
そのような医療用デバイスの一例は図3に概略的に示されており、図3は本発明の実施形態による医療用デバイス100を示している。図の医療用デバイスは、粗い基材110と、粗い基材110の上に配置された治療層120(特に、各々がパターン化された治療層120の一部を構成している2つの治療薬含有領域が示されている)と、治療層120および基材110を覆う多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる。
【0061】
そのような医療用デバイスの別例は図4に概略的に示されており、図4は本発明の実施形態による医療用デバイス100を示している。図の医療用デバイス100は、基材110と、該基材の上に配置された粗層140と、粗層140の上に配置された治療層120(各々が治療層120の一部を構成している3つの治療薬含有領域が示されている)と、治療層120、粗層140および基材110の上に配置された多孔性/プロ多孔性の無機層130とを含んでなる。
【0062】
上記のように、治療層に使用される追加の材料は広く様々であってよく、該追加材料には有機材料および無機材料が挙げられる。ある実施形態では、追加材料はゾル−ゲル法による金属酸化物および非金属酸化物から選択されてもよい。例えば、少なくとも1つの治療薬は、例えば、後に粗層または粗い基材の上にゲル層を形成するために使用されるゾルまたはゾル前駆体(例えば金属アルコキシド溶液または半金属アルコキシド溶液)と組み合わされてもよい。別例として、少なくとも1つの治療薬(例えば溶液または懸濁物の形態)が予め形成されたゲルに導入されてもよく、その場合ゲルは(例えば、ゲルの焼成および強化のために)高温に供された後に治療薬と接触させるとよい。そのようにしなければその温度では治療薬が破壊される可能性がある。
【0063】
既述のように、補足的な材料層、例えば完全もしくは部分的に生分解性の有機もしくは無機材料層または多孔性の有機もしくは無機材料層が、例えば治療薬の放出速度を低下させるために、治療層と多孔性/プロ多孔性の無機層との間に提供される場合がある。そのような構造物の一例は図5に示されており、図5は、多孔性/プロ多孔性の無機層130の下に補足的な材料層150が配置されること以外は図4と同様である。
【0064】
上述のように、いくつかの実施形態では、本明細書中に記載された多孔性/プロ多孔性の無機層は、同層の下に配置された生分解性材料の断片がデバイスから流出するのを該無機層が防止するように作用しうるという点で、好都合である。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書中に記載された多孔性/プロ多孔性の無機層は、該無機層が、その下にある材料(例えば基材材料、粗層の形成に使用された材料、治療層に付随する追加の材料など)を、デバイスが移植される対象者との直接的接触から保護しうるという点で、好都合である。例えば、デバイス内で下層をなす材料は、血流と直接接触すると血栓症をもたらすが上層をなす多孔性の無機層の存在下ではそのような結果を引き起こさないものである場合がある。
【0065】
本発明のいくつかの態様では、上層をなす無機層は平滑なプロ多孔層である。「平滑な」が意味するのは、その表面の粗さが「粗い」表面を定義する上述のSa値より低い領域である。多くの実施形態において、平滑な表面は光沢のあるものとなり、その場合、該表面構造は光学波長を下回る(例えば約300nm未満のSa値)の横方向の不連続部を有する。
【0066】
平滑な表面層は様々な状況の下で望ましい可能性がある。一例として、粗い表面層の存在に伴う場合のあるバルーン損傷の可能性を回避するように、ステント上(特にステントの管腔側表面)に平滑層を提供することが望ましい場合がある。さらに、プロ多孔層は当初は多孔性ではないので、ある実施形態では下にある治療薬を外部条件(例えばデバイス滅菌時のエチレンオキシドへの曝露)から保護する役割を果たす場合がある。いくつかの実施形態では、多孔層を有する医療用デバイスは、滅菌サイクルに供されてから多孔層に治療薬が装荷され、その後治療薬装荷層は追加の層(例えば、追加の滅菌工程にさらに供することが可能な、生崩壊性の層またはプロ多孔層)によって封止される。
【0067】
ある実施形態では、プロ多孔層は、この層の電解研摩により平滑な表面を得ることを可能にする構成を有する。例えば、多孔層またはプロ多孔層の最外面が生分解性の金属(例えばマグネシウムまたはマグネシウム合金)で覆われて、その後電解研磨されてもよい。マグネシウム表面はその後in vivoで生崩壊し、薬剤の放出が可能となる。治療薬の即時放出が必要な場合、ある実施形態では生分解性金属の一定の部分が(平滑な表面を保護/マスキングしながら)エッチングで除去された後に治療薬が装荷されてもよい。
【0068】
本発明によるプロ多孔層は、例えば生崩壊性の相および生物学的に安定な相の両方を含んでなることができる。in vivoで配置されると、該デバイスは最終的には細孔を生じ、治療薬の放出を可能にする。ステントまたは別の脈管用医療用デバイスの場合、多孔度を高めると血管内皮細胞の増殖を促進する場合がある。この件については、100nm未満の範囲の細孔、繊維状部および隆起部を含むサブミクロンの微細構成が、大動脈弁内皮の基底膜およびその他の基底膜材料について観察されている。R.G.フレミング(R.G.Flemming)ら、Biomaterials 20(1999)573−588、S.ブロディ(S.Brody)ら、Tissue Eng.2006 Feb;12(2):413−421、およびS.L.グッドマン(S.L.Goodman)ら、Biomaterials 1996;17:2087−95を参照されたい。グッドマンらは、露出させて広げた血管の内皮下細胞間マトリックス表面の微細構成上の特徴を複製するポリマー・キャスティングを用い、そのような材料上で増殖させた内皮細胞が、テクスチャを持たない表面上で増殖させた細胞よりも速く広がりかつ本来の動脈における細胞により似ていることを見出した。
【0069】
平滑なプロ多孔層を有するデバイスの一例は、図6Aに概略的に例証されている。図中の医療用デバイス100は、粗い基材110(例えばPIII処理によって粗化されたステンレス鋼基材など)と、粗い基材110の割れ目の内部に配置された治療層120(例えばパクリタキセルまたはエベロリムスの層のような純粋な治療薬の層など)と、治療層120および粗い基材110の上に配置された平滑なプロ多孔性の無機層130(例えば、薄灰色で示されたイリジウム相のような生物学的に安定な金属相と、濃い灰色で示されたマグネシウム相のような生崩壊性の金属相とを含んでなる層)とを含んでなる。以下に議論されるように、そのような層130は混合組成物のターゲットを使用してPVDにより形成可能である。対象者にデバイス100が挿入されると、生崩壊性の金属相の少なくとも一部が除去されて、図6Bに示されるように多孔層130pが残り、デバイスからの治療薬の放出が可能となる。
【0070】
上記のように、いくつかの実施形態では、追加の材料が治療層の中で治療薬と混合されているか、または補足的な層が治療層の上に配置されるかのうち少なくともいずれかであってよい。これらの実施形態では、治療薬の放出プロファイルは、プロ多孔性の無機層により、また追加の材料または補足的な層のうち少なくともいずれかにより、規定可能である。さらに、プロ多孔性の無機層は、任意の下層をなす生崩壊性材料のフラグメントがデバイスから放出されるのを防止する障壁としての役割を果たすことができる。
【0071】
ある実施形態では、治療薬は基材の表面陥凹部の内部に提供される。例えば、基材110と、基材110の一連の陥凹部の内部に配置された治療層120とを含んでなる医療用デバイス100が、図7Aに概略的に例証されている。平滑なプロ多孔性の無機層130(例えば図6Aに関して上述されたようなもの)は、治療層120および基材110の上に配置されている。図6Aのデバイスと同じように、対象者にデバイスが挿入されると、図7Bに示されるように多孔層130pがin vivoで形成されて、デバイスからの治療薬の放出が可能となる。
【0072】
陥凹部の例には、特に溝、袋孔および細孔が挙げられる。陥凹部は種々様々の形状および大きさに作出可能である。多数の陥凹部を無限に近い種類の配列で提供することができる。袋孔の例には、表面における横方向の特徴が円形、多角形(例えば、三角形、四角形、五角形など)のもの、ならびに様々な他の規則的および不規則な形状および大きさの袋孔が挙げられる。溝には、単純な線形の溝、波状の溝、その方向が角度変化をなした線形の部分から形成された溝(例えばジグザグの溝)、および様々な角度で交差する線形の溝のネットワーク、ならびにその他の規則的および不規則な溝構成が挙げられる。陥凹部は任意の適切な大きさであってよい。例えば、本発明の医療用デバイスは、典型的には、最も小さな横方向の寸法(例えば幅)が10mm未満(10000μm)未満、例えば10000μm〜1000μm〜100μm〜10μm〜1μm〜100nmまたはこれより短い陥凹部を含有する。
【0073】
陥凹部(例えば細孔、袋孔、溝など)を形成するための技法の例には、材料が形成時点で陥凹部を含んでいる方法が挙げられる。これらには、様々な突部を備えたモールドが提供され、該突部により対象基材の鋳造後に材料に陥凹部が作出されるモールド成形技法が含まれる。上記の技法にはさらに、多泡体に基づいた技法のような、多孔性材料を形成する技法が挙げられる。多孔性材料は、多成分の材料から適切な処理(例えば溶解、エッチングなど)を使用して1つの成分を除去することによっても形成可能である。陥凹部を形成するための技法の例にはさらに、直接的除去技法、および除去すべきでない材料を保護するためにマスキングが使用されるマスクを基にした除去技法が挙げられる。直接的除去技法には、固形の工具との接触を通じて材料が除去されるもの(例えばミクロ掘削加工、ミクロ機械加工など)、および固形の工具を必要とせずに材料を除去するもの(例えばレーザービーム、電子ビームおよびイオンビームのような有向エネルギービームに基づくもの)が挙げられる。マスクを基にした技法には、マスキング材料が機械加工されるべき材料と接触する技法(例えばマスクが既知のリソグラフィ技法を使用して形成される場合)、およびマスキング材料は機械加工されるべき材料とは接触しないが、方向付けされた掘削エネルギー供給源と機械加工されるべき材料との間にマスキング材料が提供される技法(例えば、開孔部が形成された不透明なマスク、ならびに可変的なビーム強度およびしたがって可変的な機械加工速度を提供するグレースケールマスクのような半透明マスク)が挙げられる。材料は、物理的処理(例えば、除去される材料の熱昇華および/または揮発)、化学的処理(例えば、除去される材料の化学分解および/または化学反応)、またはこれら両方の組み合わせを含む一連の処理のうちのいずれかを使用して、上記マスクによって保護されていない領域が除去される。除去処理の具体例には、湿式および乾式の(プラズマ)エッチング技法、ならびに電子ビーム、イオンビームおよびレーザービームのような有向エネルギービームに基づいたアブレーション技法が挙げられる。さらに別の実施形態では、陥凹部は、基材表面上、例えば、パターン化表面上またはマスキングされた表面上における材料の選択的成長によって形成されてもよい。
【0074】
多孔性およびプロ多孔性の無機層を形成する様々な方法についてここで説明する。例えば、いくつかの実施形態では、層は物理蒸着(PVD)技法などの蒸着法により形成可能である。PVD処理は、材料の供給源、典型的には固体材料が気化されて構造物へと運ばれ、該構造物上に該材料の膜(すなわち層)が形成される処理法である。本発明では、固体材料は、例えば生崩壊性の無機材料、生物学的に安定な無機材料、または生崩壊性の無機材料と生物学的に安定な無機材料との組み合わせであってよい。
【0075】
PVD処理は一般に、厚いものも可能であるが数ナノメートル〜数千ナノメートルの範囲の厚さの膜を堆積させるために使用される。PVDは、典型的には減圧下で(すなわち周囲の気圧より低い圧力で)行われる。多くの実施形態では、PVD技法に関連する圧力は、基材まで移動する間に気化した蒸発源材料と周囲の気体分子との間で衝突がほとんどまたは全く生じないように、十分に低い。従って、蒸気の軌道は一般に直線(視程内)軌道である。
【0076】
ある実施形態では、PVD処理パラメータは多孔層を形成するために選択される。例えば、上記のように、PVD系の処理のような視程内処理が、粗い下層材料の上への無機層の形成に使用される場合、下層材料の粗さにより、下層材料が不完全に覆われて多孔性無機層を生成させることができる。これは、図10A〜10Bに概略的に示されている。図10Aは、基材110と、粗い治療層120、例えば治療薬のマトリックスとしての役割を果たす部分的に融合したポリマー粒子の層(例えば、エレクトロスプレイで作られたSIBS/パクリタキセルなど)とを含んでなる医療用デバイス100の例証である。図10Bに示されるように、無機層130(例えばイリジウム層など)をPVDに基づいて堆積させることにより、治療層120が十分ながら不完全に覆われて無機層130が多孔性となる。(他方、堆積が十分に長く継続されれば、最終的には平滑で厚い非多孔性の無機層が形成されることになる。)
他の実施形態では、PVD処理パラメータはプロ多孔層を形成するために選択される。例えば、生物学的に安定な金属および生崩壊性の金属が同時堆積され、別個の生物学的に安定な金属相および生崩壊性の金属相を備えた層が形成されて、この相の形態が、in vivoで生崩壊が生じて生崩壊性の金属相が除去されると多孔層が形成されるようになっていてもよい。
【0077】
本発明による多孔性/プロ多孔性の層を形成するために使用されるいくつかの具体的なPVD法には、蒸着、昇華、スパッタ堆積およびレーザアブレーション堆積が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの蒸発源材料が蒸発または昇華され、その結果生じた蒸気は蒸発源から基材まで移動して、該基材上に堆積層が生じる。これらの処理法のための蒸発源の例には、特に抵抗加熱蒸発源、加熱ボートおよび加熱ルツボが挙げられる。スパッタ堆積は別のPVD処理法であり、該方法では高エネルギーのイオンを表面(一般に「ターゲット」として知られている)に衝突させることにより該表面から表面原子または分子が物理的に放出される。スパッタ用のイオンは、様々な技法、例えば、特にアーク形成(例えばダイオードスパッタリング)、直交磁界(例えばマグネトロンスパッタリング)、およびグロー放電からの採収(例えばイオンビームスパッタリング)を使用して生成させることができる。
【0078】
パルスレーザ堆積(PLD)はさらに別のPVD処理法であり、気化材料が高エネルギーのイオンではなくレーザ放射(例えばパルスレーザ放射)をターゲット材上に方向づけることにより生産される以外は、スパッタ堆積に類似している。PLD処理の利点は、余地(room)または余地付近において基材上に膜を堆積させることができるということである。従って、温度感受性の材料、例えばポリマーおよび治療薬のような有機材料の上に膜を形成させることができる。
【0079】
典型的なPLD処理において、かつ図8の概略図に関して、レーザパルス810はウィンドウ850wを通って真空チャンバ850に入るように方向付けられ、堆積させるべきターゲット材820の上に衝突する。レーザパルス810はターゲット材820を気化させて、様々な化学種(例えば、中性化学種、イオン化学種、分子化学種)を含有するプルーム830を形成する。これらの化学種は、基材に向かって、本例の場合は回転しているステント800に向かって移動し、ステント800の上に膜の形態に堆積される。(望ましい場合には、カバー率を向上させるためにステント800を長手方向に往復運動させてもよい。)ターゲットには、単一材料(例えば単一の金属または金属酸化物)から形成されたターゲット、および多数の材料(例えば多数の金属または多数の金属酸化物)から形成されたターゲットが挙げられる。例えば、図8に示されたターゲット820は、2つの材料すなわちマグネシウム820mおよびイリジウム820iを含んでなる回転ターゲットである。従って、回転しているステント800の上に堆積された膜はマグネシウムおよびイリジウムを含有している。対象者に移植された際にマグネシウムが除去されると、先述のように、多孔性のイリジウム層が形成される。
【0080】
図8の装置のような装置の別例として、Mg/Ir同時堆積のための二重ビーム機構が使用されてもよく、該機構では第1のビームがMgターゲットまたはMg−Ir複合物ターゲットのMg領域に衝突し、第2のビームがIrターゲットまたは複合物ターゲットのIr領域に衝突する。この結果、スポットあたりのレーザ強度、基材への距離、材料の種類などに応じた層厚および組成を備えた、両方の材料の同時堆積がもたらされる。
【0081】
上記のように、ある実施形態では、多孔性およびプロ多孔性の無機層は無機粒子から形成され、該無機粒子は、例えば生崩壊性の無機粒子、生物学的に安定な無機粒子、または生崩壊性の無機粒子と生物学的に安定な無機粒子との組み合わせであってよい。いくつかの実施形態では、粒子のうちの少なくとも一部は下層をなす医療用デバイス基材と同じ組成を有する。具体例としては、イリジウム、タンタル、チタン、コバルト、鉄、亜鉛、金、前述のものを2つ以上含有している合金、ステンレス鋼およびニチノールが挙げられる。
【0082】
本発明による多孔性/プロ多孔性の無機層を形成する方法には、無機ナノ粒子が作出され、加速され、構造物の上部表面上に対して方向付けられることによって、該構造物の上に無機層を形成する方法が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ粒子は荷電ナノ粒子であって、該ナノ粒子は、該ナノ粒子を電界に供することにより構造物表面上に向かって加速される。望ましい場合には、第2の電界または磁界の使用によってナノ粒子の軌道にさらに影響が与えられてもよい。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は磁性ナノ粒子または強磁性ナノ粒子であり、該ナノ粒子は、該ナノ粒子を適切な磁界に供することにより構造物表面上に向かって加速される。望ましい場合には、第2の磁界の使用を通じてナノ粒子の軌道にさらに影響が与えられてもよい。
【0083】
理論に拘束されるものではないが、ナノ粒子が(例えば磁界、電界などの中で)表面に向かって加速されるとき、該粒子に十分な運動エネルギーが与えられることにより到着時に融解が引き起こされる場合がある。上記から分かるように、ナノ粒子を構造物へ向けて加速するための様々な方法がある。例えば、荷電ナノ粒子が電界を使用して加速される実施形態では、低い印加電圧は、熱的影響をほとんどまたは全く伴わずに該ナノ粒子を基材上に到着させる小さな電界を作出することになる。しかしながら、より高い印加電圧はより大きな電界強度をもたらし、該電界強度が十分に大きい場合には、運動エネルギーを、ナノ粒子を融解しわずかに結合させて粒子間にギャップが残るようにするのに十分な量の熱へと変換させることになる。同様に、磁性ナノ粒子または常磁性ナノ粒子が磁界を使用して加速される実施形態では、低い磁界強度は、熱的影響をほとんどまたは全く伴わずにナノ粒子を表面にちょうど到着させることになり、一方、より高い磁界強度は、運動エネルギーを、ナノ粒子を融解しわずかに結合させて粒子間にギャップが残るようにするのに十分な熱へと変換させることになる。場(例えば、磁界、電界など)の強度がさらに高いと、個々の粒子が固結してギャップのない固体材料となる。いくつかの実施形態では、下層構造物に対するナノ粒子の付着またはナノ粒子相互の付着のうち少なくともいずれか一方は、(例えば加速の程度によって)調整可能である。さらに、頑丈かつ付着性または軟質かつ破砕性の層を形成することも可能である。
【0084】
多孔性の無機層が形成される場合、ナノ粒子のサイズ分布が細孔径分布に大きな影響を及ぼす可能性があり、より大きな粒子ほどより大きな細孔を作出することができるが、細孔径は、場の強度の調節を通じてさらに調整可能である。持続性の薬物放出は、ナノ多孔層全体にわたって一定の多孔度を作ることにより促進可能であるが、多孔度は、粒子の初期サイズと、場の強度から生じる融解作用との両方に左右されることになる。
【0085】
具体例として、上述の方針に沿ってナノ粒子の堆積を実施するためのシステムは、英国オクスフォードシャー州テーム(Thame)所在のマンティスデポジション株式会社(Mantis Deposition Ltd.)から入手可能であり、同社はスパッタターゲットからわずか30個の原子を有するナノ粒子〜最大15nmを超える直径を備えたナノ粒子を生成することができる高圧マグネトロンスパッタリング源を市販している。(マンティスのシステムに類似のシステムは英国オクスフォードシャー州ウイットニー所在のオクスフォード・アプライド・リサーチ(Oxford Applied Research)より入手可能である。)このシステムはおよそ5mPa(5×10−5mbar)で作動されるが、使用される正確な作動圧力は、他の要因の中でも特に、使用される特定の処理およびシステムに依存して、広く様々である。ナノ粒子の大きさは、ナノ粒子材料、マグネトロン表面と出射口との間の距離(例えば、距離が大きければより大きなナノ粒子を作出することが観察されている)、気体流(例えば、気体流が高ければより小さなナノ粒子サイズを作出することが観察されている)、および気体の種類(例えば、ヘリウムはアルゴンよりもより小さな粒子を生産することが観察されている)を含むいくつかのパラメータによって影響を受ける。特定の設定について、サイズ分布は、マグネトロンチャンバの出射口の後に配置されたリニア型四重極(quadrapole)デバイスを使用して計測可能である。四重極デバイスは、堆積のための狭いナノ粒子サイズ範囲を選別するためにインラインで使用されてもよい。マンティスデポジション株式会社のシステムに類似のシステムは、大多数(およそ40%〜80%)が電子1個の電荷を有しているナノ粒子を生産することができる。従って、磁界または第2の電界を使用して同じような重量の個別の粒子を互いに分離することができる(より軽量の粒子は、同じ電荷のより大きな粒子よりも所与の場において強く偏向されるからである)。例えば、上記マンティスデポジション株式会社のシステムは、極めて狭い質量分布の荷電ナノ粒子流を生産することができる。さらに、粒子を高い運動エネルギーで表面に衝突させるために、負に荷電した粒子を正にバイアスされた表面上へ向けて加速することが可能である。正にバイアスされたグリッドを使用して粒子を加速し、粒子がグリッドの穴を通り抜けて表面に衝突することを可能にしてもよい。バイアス電圧を低値から高値まで変化させることによって、堆積膜は多孔性の緩く結合したナノ粒子から金属の固形膜へと変化する。個々のナノ粒子を融解するために必要とされるエネルギー量は下層をなす構造物のバルク温度を増大させるために必要とされるエネルギーと比べて相対的に低いという事実から、この処理法は、室温または室温付近で効果的に実施される。マンティスデポジション株式会社のシステムに類似のシステムを使用する場合、バイアス電圧(例えば10Vから5000Vまで変化しうる)および粒径(例えば0.7nmから25nmまで変化しうる)は薬物放出に著しい影響を及ぼし、電圧が高く粒径が小さいほど薬物放出が低減されたコーティングを生じる、ということが見出されている。
【0086】
先述のように、いくつかのPVD実施形態では、材料の流れに対する構造物(その上に材料が堆積される構造物)の方向を変化させることが望ましい場合がある。例えば、ステントのような管状の医療用デバイスは、材料の流れに該デバイスを曝露している間、軸方向に回転(かつ任意選択で長手方向に往復運動)させてもよい。
【実施例】
【0087】
薬物を溶出するニチノールのらせん体を、上大腿動脈(superior femoral artery)(SFA)に適用するために作製する。具体的には、長さ2130mmの0.30mmニチノール製ワイヤ(Sタイプ)、ドイツ連邦共和国D−79576ヴェイルアムライン、ケッセルハウス5に所在のメモリメタレ有限会社(Memory Metalle GmbH)、をらせん形状にセットする(5分間にわたり475℃で、直径4.5mm、ピッチ2mm)。
【0088】
ポリマー製ナノファイバーのエレクトロスピニングしたファイバーネットワークをニチノール表面に形成し、その後該ファイバーネットワークをエベロリムスコーティングで、またTiOx(チタニア)粒子の最終コーティング層で覆い、エベロリムスコーティングが施されたPEIファイバーのまわりに多孔性のチタニア膜を残す。内部のPEIファイバーネットワークは、表面を拡大するための、およびチタニア層を損ねずに保持する足場としての、両方の役割を果たす。
【0089】
より具体的には、オールドリッチ社(Aldrich Co.)(米国ミズーリ州セントルイス)のポリエーテルイミド(PEI)、およびモンサント・カンパニー(Monsanto Company)(米国ミズーリ州セントルイス)のBiopolTMポリヒドロキシブチラート−バレラート(PHBV)をクロロホルム中に混合し、23重量%PEIおよび21重量%PHBVのそれぞれの溶液を作製する。上記2つの溶液を75/25(PEI/PHBV)の比に混合する。ニチノール製のらせん体を、500gの錘を使用して垂直に引き伸ばして元の真っ直ぐな長さ2130mmまたはこれに近い長さとし、この引き伸ばされたワイヤの両端に、アースされた電気接点を接続する。このニチノールワイヤから15cmの距離にシリンジ付きノズルを配置し、シリンジポンプ(タイプSP101i、ドイツ連邦共和国D−10999ベルリン、リーグニツァシュトラーセ(Liegnitzer Str.)15に所在のワールドプレシジョンインスツルメンツ(World Precision Instruments))および高電圧電源(タイプCS2091、米国テキサス州ダラス所在のハイボルテージパワーソリューションズ社(High Voltage Power Solutions,Inc.))に接続する。ニチノールワイヤを噴霧処理の間5Hzで回転させ、上に2mmおよび下に2.5mmの振幅で12Hzの周期運動で軸に沿って動かす。噴霧は次の設定すなわち:15kV、0.05ml/分、1サイクルについて6分で実施する。このようにして噴霧されたワイヤを、窒素環境中において210℃で90分間熱処理してPHBV成分を分解し、かつ多孔性PEIファイバーで作られたファイバー網状組織をニチノールワイヤ上に残す。乾燥処理中にワイヤから錘を取り除き、ワイヤがらせん形状に戻るようにする。
【0090】
次のステップでは、このファイバーPEIネットワークを、シクロヘキサノンおよびアセトンの50:50混合物に2重量%でエベロリムスを溶解することによるエベロリムスコーティングで覆う。この溶液はニチノール製らせん体を覆っている多孔性PEIファイバーの上に噴霧される。0.05mL/分での噴霧処理(上記と同じシリンジポンプ)の間、ニチノール製ワイヤを5Hzで回転させ、かつ50cm/分の速度で上昇させて、移植後にカバーされる血管壁1cm2あたり約100ugのエベロリムス用量となるようにする。
【0091】
該アセンブリ全体をTiOxナノ粒子の層(さらにヘパリンを含む場合もある)で覆うために、0.01mol/Lの四塩化チタンおよび0.1mol/Lの塩酸を含有する水溶液を調製する。塩化チタン(IV)を、該水溶液に激しく撹拌しながら加える。該水溶液をマイクロ波反応装置(スウェーデン国ウプサラ、バイオタージ所在のバイオタージアドバンサ(Biotage Advancer))に注入し、0.4−MPaのアルゴン圧を該システムに導入し、次に該反応装置を500ワットの出力レベルで30秒間マイクロ波に曝露する。圧力レベルは最大で0.15MPa(1.5バール)に維持する。ヘパリン水溶液(200mg/水10ml)を調製し、得られたTiOx溶液を室温に冷却した直後に該ヘパリン水溶液をTiOx溶液に激しく撹拌しながら1:1比として加える。ニチノールを支持体とするらせん体を、ヘパリン/TiOx溶液中で4回浸漬コーティングし、浸漬コーティングの工程ごとに70℃で1時間乾燥させる。
【0092】
様々な実施形態が本明細書中で具体的に例証かつ記載されているが、当然ながら、本発明の改変形態および変更形態は上記教示内容に包含されており、本発明の趣旨および意図された範囲から逸脱することなく添付の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0093】
関連出願
本願は、2008年8月27日に出願された米国仮特許出願第61/092,347号の優先権を主張し、前記特許文献は参照により全体が本願に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上または基材中に配置された治療薬と、該治療薬および基材の上に配置された無機層とを含んでなる、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、前記無機層は粗い無機層であることと、前記無機層は、多孔性の無機層であるか、該デバイスが対象者に十分な時間にわたって移植または挿入された後で多孔性の無機層になる非多孔性の無機層であるかのうちいずれかであることと、を特徴とする医療用デバイス。
【請求項2】
医療用デバイスは、ステント、電気刺激リード線、心臓弁、骨用足場、軟組織用足場、およびバルーンアセンブリから選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
基材は、生崩壊性の金属性基材および生物学的に安定な金属性基材から選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
無機層は、生物学的に安定な無機層、生崩壊性の無機層、および部分的に生崩壊性であり部分的に生物学的に安定である無機層から選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
無機層は蒸着された層である、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
無機層は金属の層である、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
前記粗い無機層は、下層をなす粗い材料領域の輪郭を示す、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項8】
下層をなす粗い材料領域は粗い基材である、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項9】
前記治療薬は、下層をなす粗い基材と上層をなす無機層との間にほぼ純粋な層の形態で提供される、請求項8に記載の医療用デバイス。
【請求項10】
下層をなす粗い材料領域は、無機層の下および基材の上に配置された粗い材料層である、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項11】
前記粗い材料層は前記治療薬を含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項12】
前記粗い材料層は相互連結したポリマー粒子を含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項13】
前記粗い材料層はエレクトロスプレイで堆積された層である、請求項12に記載の医療用デバイス。
【請求項14】
前記粗い材料層は、ゾル−ゲル法による金属酸化物、ゾル−ゲル法によるシリコン酸化物、またはこれらの組み合わせを含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項15】
前記粗い材料領域と前記無機層との間に材料の介在層を含んでなる、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項16】
前記介在層は前記治療薬を含んでなる、請求項15に記載の医療用デバイス。
【請求項17】
前記介在層は前記治療薬と前記無機層との間に配置される、請求項15に記載の医療用デバイス。
【請求項18】
前記介在層は生崩壊性の層である、請求項17に記載の医療用デバイス。
【請求項19】
基材と、前記基材上または基材中に配置された治療薬と、該治療薬の上に配置された無機層とを含んでなる、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、前記無機層は生物学的に安定な無機相と生崩壊性の無機相とを含んでなることと、無機層は、デバイスが対象者に移植または挿入されると多孔性になることとを特徴とする医療用デバイス。
【請求項20】
医療用デバイスはステントおよび電気刺激リード線から選択される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項21】
無機層は生崩壊性の金属相と生物学的に安定な金属相とを含んでなる、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項22】
無機層は蒸着された層である、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項23】
治療薬は前記基材の陥凹部の内部に配置される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項24】
治療薬はほぼ純粋な形態である、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項25】
治療薬は、治療薬とポリマーとを含んでなる組成物の状態で提供される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項1】
基材と、前記基材上または基材中に配置された治療薬と、該治療薬および基材の上に配置された無機層とを含んでなる、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、前記無機層は粗い無機層であることと、前記無機層は、多孔性の無機層であるか、該デバイスが対象者に十分な時間にわたって移植または挿入された後で多孔性の無機層になる非多孔性の無機層であるかのうちいずれかであることと、を特徴とする医療用デバイス。
【請求項2】
医療用デバイスは、ステント、電気刺激リード線、心臓弁、骨用足場、軟組織用足場、およびバルーンアセンブリから選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
基材は、生崩壊性の金属性基材および生物学的に安定な金属性基材から選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
無機層は、生物学的に安定な無機層、生崩壊性の無機層、および部分的に生崩壊性であり部分的に生物学的に安定である無機層から選択される、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
無機層は蒸着された層である、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
無機層は金属の層である、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項7】
前記粗い無機層は、下層をなす粗い材料領域の輪郭を示す、請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項8】
下層をなす粗い材料領域は粗い基材である、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項9】
前記治療薬は、下層をなす粗い基材と上層をなす無機層との間にほぼ純粋な層の形態で提供される、請求項8に記載の医療用デバイス。
【請求項10】
下層をなす粗い材料領域は、無機層の下および基材の上に配置された粗い材料層である、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項11】
前記粗い材料層は前記治療薬を含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項12】
前記粗い材料層は相互連結したポリマー粒子を含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項13】
前記粗い材料層はエレクトロスプレイで堆積された層である、請求項12に記載の医療用デバイス。
【請求項14】
前記粗い材料層は、ゾル−ゲル法による金属酸化物、ゾル−ゲル法によるシリコン酸化物、またはこれらの組み合わせを含んでなる、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項15】
前記粗い材料領域と前記無機層との間に材料の介在層を含んでなる、請求項7に記載の医療用デバイス。
【請求項16】
前記介在層は前記治療薬を含んでなる、請求項15に記載の医療用デバイス。
【請求項17】
前記介在層は前記治療薬と前記無機層との間に配置される、請求項15に記載の医療用デバイス。
【請求項18】
前記介在層は生崩壊性の層である、請求項17に記載の医療用デバイス。
【請求項19】
基材と、前記基材上または基材中に配置された治療薬と、該治療薬の上に配置された無機層とを含んでなる、移植可能または挿入可能な医療用デバイスであって、前記無機層は生物学的に安定な無機相と生崩壊性の無機相とを含んでなることと、無機層は、デバイスが対象者に移植または挿入されると多孔性になることとを特徴とする医療用デバイス。
【請求項20】
医療用デバイスはステントおよび電気刺激リード線から選択される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項21】
無機層は生崩壊性の金属相と生物学的に安定な金属相とを含んでなる、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項22】
無機層は蒸着された層である、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項23】
治療薬は前記基材の陥凹部の内部に配置される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項24】
治療薬はほぼ純粋な形態である、請求項19に記載の医療用デバイス。
【請求項25】
治療薬は、治療薬とポリマーとを含んでなる組成物の状態で提供される、請求項19に記載の医療用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図10A】
【図10B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図10A】
【図10B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【公表番号】特表2012−501219(P2012−501219A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525100(P2011−525100)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/054394
【国際公開番号】WO2010/027678
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/054394
【国際公開番号】WO2010/027678
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】
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