説明

波長可変半導体レーザ素子及びその制御装置、制御方法

【課題】波長ドリフトを防止する波長可変半導体レーザ素子及びその制御装置、制御方法を提供する。
【解決手段】レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、波長可変領域に隣接して、投入した電力の大部分を熱に変換する熱補償領域を設け、波長可変領域に投入する電力と熱補償領域に投入する電力の和を常に一定になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変光源として用いられる波長可変半導体レーザ素子及びその制御装置、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分布反射型レーザ(以降、DBRレーザと呼ぶ。DBR:Distributed Bragg Reflector)は、分布反射器となるDBR領域や位相調整領域への電流注入により、高速波長可変レーザとして利用される(非特許文献1)。DBR領域や位相調整領域へ電流が注入されると、プラズマ効果により導波路コア層の屈折率が減少し、発振波長を短波長側にシフトすることができる。プラズマ効果による波長チューニングの応答速度は極めて高速であり、原理的には10-9秒オーダである。しかしながら、電流注入に付随して、半導体素子の持つ抵抗成分による発熱により、発振波長が徐々に変化してしまい、発振波長の安定には10-3秒程度を要していた。10-3秒オーダの熱による波長ドリフトは、プラズマ効果による応答速度に比べ極めて遅く、波長可変速度を低下させる大きな問題となっており、解決のため手法が多数提案されてきた(特許文献1、2、非特許文献2、3)。
【0003】
【特許文献1】特許第3168855号公報
【特許文献2】特許第3257185号公報
【非特許文献1】池上徹彦、「半導体フォトニクスエ学」、コロナ社、1995年1月10日、p306−311
【非特許文献2】NUNZIO P. CAPONIO et al., Analysis and Design Criteria of Three-Section DBR Tunable Lasers, "IEEE JOUNAL ON SELECTED AREAS IN COMMUNICATIONS", AUGUST 1990, VOL. 8, NO. 6, pp. 1203-1213
【非特許文献3】Osamu Ishida et al., Fast and Stable Frequency Switching Employing a Delayed Self-Duplex (DSD) Light Source, "IEEE PHOTONICS THECHNOLOGY LETTERS", JANUARY 1994, VOL. 6, NO. 1, pp13-16
【非特許文献4】石井啓之、「博士論文:波長可変半導体レーザの高性能化に関する研究」、1999年3月、第4章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題を解決するため、非特許文献2では、素子への注入電流を変化させたときの素子表面での温度上昇を計算しているが、ジャンクション電圧は直接モニタすることができないのに加え、素子表面の光導波路と下面のヒートシンクとの熱抵抗の調査を必要としており、量産には不向きであった。
【0005】
又、非特許文献3では、波長ドリフト防止のため、光分波器及び遅延光ファイバにより構成した装置を用いて、細かい時間的な制御を行っている。実際には、波長が安定した部分を切り出してから分波した後、分波した一方を遅延させ、分岐された光同士を最終段で合成している。この方法により温度を一定にするためには、投入熱量、熱容量及び熱抵抗と呼ばれる排熱速度などのパラメータをあらかじめ求めておくことが必要であり、正確に制御するためには多くの準備が必要であった。又、光源を構成するために、光分波器や遅延光ファイバなどの装置が必要であり、コスト的にも不利であった。
【0006】
又、特許文献1では、熱補償制御用電極により熱補償を行っており、補正係数を用いて熱補償領域の電流値を決定している。特許文献1の段落0024には、この補正係数が装置によって自動的に決定されるとの記載があるが、補正係数の決定には、熱補償電流を細かく変化させながら、静的駆動時及び高速波長切り替え時のレーザの発振波長をモニタリングして、モニタリングした結果からパラメータを求めなくてはならず、補正係数の決定に膨大な時間がかかっていた。又、制御のためのフィッティング式に1次項や定数項が含まれておらず、正確なフィッティングはできなかった。
【0007】
又、特許文献2でも、熱補償制御用電極により熱補償を行っているが、特許文献2では、波長可変領域と熱補償領域の素子抵抗を制御要素に含んでいない。従って、この熱補償領域は波長可変領域と同等の抵抗を有することを要し、そのため、熱補償用領域と波長可変領域とは同等の形状と同等の電気抵抗を有することが必要となる。このことにより、この制御方法は特定の素子にしか対応できず、素子抵抗が異なると波長ドリフトは防止できないという問題があった。又、素子作製プロセスにおいては、高精度、高均一性及び高再現性が必要とされ、素子製作プロセスにおける歩留まりの低下、コスト増加という問題が生じていた。又、制御のためのフィッティング式に2次項と定数項が含まれておらず、正確なフィッティングはできなかった。
【0008】
このように、今まで提案されてきたものには、種々の問題点があり、実用化に結びつくような方法は提案されていない。
【0009】
ここで、従来のDBRレーザの構成を示すと共に、問題となっている熱による波長ドリフトの実測結果を示す。従来のDBRレーザとして、活性領域とDBR領域の計2つの領域の構造を簡略化した2-section DBRレーザの上面図を図27に示し、図27のX81、X82、X83線断面図を、各々図28(a)、(b)、(c)に示す。
【0010】
図27、図28(a)〜(c)に示す従来のDBRレーザは、レーザ光を発振する活性領域173とレーザ光の波長をシフトするDBR領域175からなる。活性領域173は、下部クラッド171となる基板上に直線状に形成された活性層172と、活性層172の上部に凸状に形成された上部クラッド177とを有している。DBR領域175は、下部クラッド171上に形成された非活性層174と、活性層172と同一直線となる部分の非活性層174の上面に形成された回折格子176と、回折格子176上に凸状に形成された上部クラッド177とを有している。そして、このような構成により、活性領域173及びDBR領域175の光導波路がメサ構造により構成されることになる。
【0011】
又、従来のDBRレーザは、上部クラッド177の上面を除き、活性層172、非活性層174及び上部クラッド177の表面に形成された絶縁膜178を有しており、電極として、活性領域173となる部分の上部クラッド177の上面に形成された活性領域電極179aと、DBR領域175となる部分の上部クラッド177の上面に形成されたDBR領域電極179bと、下部クラッド171の下面に形成された下部電極180と有している。更には、DBR領域175となる非活性層174の側端面には、反射防止膜(以降、AR膜と呼ぶ。)181が形成されている。
【0012】
このように、従来のDBRレーザは、活性領域173とDBR領域175により構成されており、活性領域173側の劈開端面が持っている約30%の反射率とDBR領域175の反射構造により、レーザ共振器を形成している。そして、活性領域電極179aへ電流を注入することによりレーザ光が発振し、DBR領域電極179bへ電流を注入することによりレーザ光の波長シフトを行っている。
【0013】
図29に、従来のDBRレーザのDBR領域電極179bへの電流値を切り替えることにより、波長を切り替えた場合の波長(周波数)の振る舞いを示す。
ここでは、DBR領域電極179bへの電流値を、4ミリ秒おきに20mA及び53mAと切り替えることで、それぞれ192.75THz及び193.15THzの波長を交互に出力させた。熱による波長ドリフトの様子を明確に示すため、図29の縦軸を10GHzに拡大したものを、図30(a)と図30(b)に示す。図30(a)では約2GHz、図30(b)では約6GHzの波長ドリフトが生じており、電流が低い状態から高い状態に切り替えた時の図30(b)では、図30(a)に比べて、熱による波長ドリフトが大きい。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、プラズマ効果を用いて波長チューニングを行う際に、副次的に発生する発熱により生ずる波長ドリフトを防止する波長可変半導体レーザ素子及びその制御装置、制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する第1の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域を、前記波長可変領域に隣接して設けたことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第2の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする複数の波長可変領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記複数の波長可変領域の各々に対応して、前記波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域を、前記複数の波長可変領域の各々に隣接して設けたことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第3の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする第1の波長可変領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする第2の波長可変領域と、レーザ光の位相を調整する位相調整領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記第1の波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第1の熱補償領域を、前記第1の波長可変領域に隣接して設け、
前記第2の波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第2の熱補償領域を、前記第2の波長可変領域に隣接して設け、
前記位相調整領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第3の熱補償領域を、前記位相調整領域に隣接して設けたことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第4の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第1乃至第3のいずれかの発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を電気抵抗により構成すると共に、前記電気抵抗への電流注入又電圧印加により、投入された電力の大部分を熱に変換することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第5の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第1乃至第3のいずれかの発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を、非活性導波路により構成すると共に、前記非活性導波路への電流注入又電圧印加により、投入された電力の大部分を熱に変換することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第6の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第5の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を構成する非活性導波路をメサ構造としたことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第7の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第6の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記メサ構造の両側面に、ルテニウムをドーピングして絶縁化した半導体絶縁層を形成したことを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第8の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域とを有するレーザ領域を複数備えると共に、前記複数のレーザ領域と光接続されて、光合波を行う光合波器を備えた波長可変半導体レーザ素子において、
前記複数のレーザ領域を互いに隣接して並列に配置し、
前記複数のレーザ領域の前記波長可変領域に投入する電力の総和が常に一定になるようにしたことを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第9の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第1乃至第8のいずれかの発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記活性領域及び前記波長可変領域を構成する導波路を他のメサ構造としたことを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第10の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第9の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記他のメサ構造の両側面に、ルテニウムをドーピングして絶縁化した半導体絶縁層を形成したことを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決する第11の発明に係る波長可変半導体レーザ素子は、
第1乃至第10のいずれかの発明に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記波長可変領域の一部又は全てを、分布反射型回折格子が形成された非活性導波路により構成するか、若しくは、位相調整領域となる非活性導波路により構成したことを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第12の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御方法は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第13の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御方法は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電圧特性を計測し、
前記電流−電圧特性から前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電力特性を求め、
前記電流−電圧特性、前記電流−電力特性に基づいて、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定して制御を行うことを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決する第14の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御方法は、
第13の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する際、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となる条件下で、前記波長可変領域の電流−電力特性と前記熱補償領域の電流−電力特性とを連立させた方程式に基づいて、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決する第15の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御方法は、
第12乃至第14のいずれかの発明に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
予め、前記波長可変領域及び前記熱補償領域における自然放出光の電流依存性又は電圧依存性を求めておき、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和から、前記波長可変領域で自然放出光により失われる電力と前記熱補償領域で自然放出光により失われる電力とを減算し、
減算後の電力が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御することを特徴とする。
【0030】
上記課題を解決する第16の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御装置は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御する制御部を有することを特徴とする。
【0031】
上記課題を解決する第17の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御装置は、
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記活性領域、前記波長可変領域及び前記熱補償領域に電流又は電圧を入力する入力部と、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電圧特性を計測する計測部と、
計測された前記電流−電圧特性を記憶する記憶部と、
記憶された前記電流−電圧特性から、前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電力特性を計算すると共に、前記電流−電圧特性及び前記電流−電力特性に基づいて、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する処理部と、
決定された前記電流又は前記電圧を、前記波長可変領域及び前記熱補償領域へ入力するように制御する制御部とを有することを特徴とする。
【0032】
上記課題を解決する第18の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御装置は、
第17の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記処理部は、波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する際、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となる条件下で、前記波長可変領域の電流−電力特性と前記熱補償領域の電流−電力特性とを連立させた方程式に基づいて、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする。
【0033】
上記課題を解決する第19の発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御装置は、
第17又は第18の発明に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記記憶部は、予め、前記波長可変領域及び前記熱補償領域における自然放出光の電流依存性又は電圧依存性を記憶しておき、
前記処理部は、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和から、前記波長可変領域で自然放出光により失われる電力と前記熱補償領域で自然放出光により失われる電力とを減算し、減算後の電力が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、波長可変領域に投入する電力と熱補償領域に投入する電力との和を常に一定に保つので、波長可変半導体レーザ素子の温度が常に一定に保たれることになり、波長可変領域へ電流を注入した際に、副次的に生ずる素子内の発熱量の変化を大幅に低減することができ、その結果、従来問題となっていた発熱量の変化に伴う波長ドリフトを大幅に低減することができる。又、波長可変領域及び熱補償領域に投入する電力を計算して制御する際、素子抵抗を制御要素として用いるので、素子自体のプロセス上の精度、均一性及び再現性に、計算や制御が左右されることは無く、その結果、素子製作上の歩留まりの向上、コスト低下を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
最初に、DBRレーザをはじめとするプラズマ効果型の波長可変半導体レーザ素子において、波長可変領域へ電流注入した時、波長可変領域へ電力がどのように分配・消滅していくかを簡単に説明する。
【0036】
波長可変型半導体レーザ素子を構成するPIN構造半導体に順バイアスを印加すると、印加電圧が一定値(ビルトイン電圧と呼ばれる。)を超えると電流が流れ始める。半導体の電気抵抗値は、通常の電子回路で使用される電気抵抗の抵抗値や白熱電球等のフィラメントの抵抗と比べ、その特性が大きく異なる。半導体の抵抗値は順バイアス電流値の関数になっており、順バイアス電流値に応じて刻々と変化する。
【0037】
半導体の電流−電圧値をプロットすると、後述する図4(a)に示すようなグラフとなる。表1は、図4(a)の電流値10mA、20mA及び30mAに対応する電圧値を示すと共に、各電流値における抵抗値を求めたものである。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より明らかなように、電流(若しくは電圧値)が変化する、抵抗値も変化している。このため、半導体への電流印加により加わるエネルギーは、実際の駆動状態の電流値I(A:アンペア)と電圧値V(V:ボルト)の積P(P=I×V)によって求めなくてはならない。
【0040】
ある電流値で駆動したときの投入電力は、実際にその状態で印加される電圧値と電流値の積をとって、その都度求めても良いし、あらかじめ電圧−電流特性を測定しておいて、そのデータからフィッティングにより近似式を求めておき、そこに電流値や電圧値を代入して求めても良い。この方法によって求まった電力は、実際に半導体レーザ素子中に投入されているが、そのエネルギーの一部は、発光再結合(以降、自然放出と呼ぶ。)により光に変換されてから外部に放出され、残りのエネルギーは、熱に変換される。
【0041】
ここで注目すべきは、波長可変領域へ投入される電力は、活性領域や半導体光増幅器(以降、SOAと呼ぶ。SOA:Semiconductor Optical Amplifier)への投入電力とは異なり、光の誘導放出を伴わないため、光のエネルギーとしては外部にほとんど放出されない。一部は光の自然放出として外部へ放出されてしまうが、自然放出により失われるエネルギーは、投入電力に対して微量(多くても5%程度)であり、投入電力の大部分は、熱に変換される。順バイアス印加時に半導体が不可逆変化を起こさない限り(半導体を損傷させるためにエネルギーが消費されない限り)、電気による投入エネルギーは、光若しくは熱のエネルギーのどちらかに変換されると考えて間違いない。
【0042】
従って、投入電力の大部分は熱に変換されるので、波長可変領域付近の温度を常に一定にするためには、その付近への投入電力を常に一定とすれば良い。又、投入電力から自然放出で失われる電力を引けば、残りは熱に変換される電力であり、熱に変換される電力が常に一定になるように制御を行えば素子の温度はさらに安定する。
【0043】
さて、ここで、発生した熱とその放出の過程について説明する。発生した熱は、半導体レーザ素子の裏面のヒートシンクや、素子の周りに存在する空気を介して外部へ放出されるが、その排熱の速度は、熱抵抗と呼ばれるパラメータにより律則される。従って、半導体レーザ素子内で発生熱量に変化が生じたときには、熱の定常状態は、それ以前とはずれてしまい、実際には素子温度が変化する。
【0044】
半導体レーザ素子は、電極を配線した金属やプラスチックのケース等のモジュールと呼ばれるものに収容されて使用され、モジュール内の温度は、ペルチェ素子により一定になるように制御されている。しかしながら、温度測定ためのサーミスタ素子は、半導体レーザ素子周辺のヒートシンク等に設置されるため、半導体レーザ素子自体の温度を計測することは出来ない。従って、ペルチェ素子により熱制御を行ったモジュールであっても、半導体レーザ素子自体は、熱による波長ドリフトを避けることができない(非特許文献2)。
【0045】
又、全く同じ構成の半導体レーザ素子をモジュールに組み立てたとしても、ハンダによる接着部の接着具合により、熱抵抗が各々変化してしまう。そのため、計算によって、熱的過渡応答を素子温度にフィードバックする従来の方法は現実的ではない。本発明では、熱抵抗値を用いた熱的過渡応答を計算・フィードバックしなくても、波長ドリフトを防止することができるため、極めて実用的な方法である。
【0046】
以下、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子及びその制御装置、制御方法について、実施形態の一例をいくつか示して、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0047】
<波長可変半導体レーザ素子>
図1、図2(a)〜(c)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の一例を示すものであり、図1に、その上面図を、図2(a)に、図1のX11線断面図を、図2(b)に図1のX12線断面図を、図2(c)に、図1のX13線断面図を示す。
【0048】
図1、図2(a)〜(c)に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、レーザ領域と熱補償領域とを有するものである。レーザ領域は、活性領域3と活性領域3に直列に接続されたDBR領域5とからなる。活性領域3は、下部クラッド1となる基板上に直線状に形成された活性層2と、活性層2上部に凸状に形成された上部クラッド7aとを有している。DBR領域5は、下部クラッド1上に形成された非活性層4と、活性層2と同一直線となる部分の非活性層4の上面に形成された回折格子6と、回折格子6の上部に凸状に形成された上部クラッド7aとを有している。そして、このような構成により、レーザ領域の光導波路がメサ構造8により構成されることになる。
【0049】
又、熱補償領域は、下部クラッド1上に形成された非活性層4と、レーザ領域の上部クラッド7aに平行に隣接するように、非活性層4の上部に凸状に形成された上部クラッド7bとを有している。そして、このような構成により、熱補償領域の光導波路がメサ構造9により構成されることになり、又、レーザ領域のメサ構造8に平行に隣接して、熱補償領域のメサ構造9が配置されることになる。
【0050】
更に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、上部クラッド7a及び上部クラッド7bの一部の上面を除き、活性層2、非活性層4及び上部クラッド7a、7bの表面に形成された絶縁膜10を有しており、電極として、活性領域3となる部分の上部クラッド7aの上面に形成された活性領域電極11aと、DBR領域5となる部分の上部クラッド7aの上面に形成されたDBR領域電極11bと、熱補償領域となる部分の上部クラッド7bの上面に形成された熱補償領域電極11cと、下部クラッド1の下面に形成された下部電極12とを有している。加えて、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、DBR領域5となる非活性層4の側端面に、AR膜13が形成されている。
【0051】
つまり、本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、熱補償のために、レーザ領域のメサ構造8に隣接して、熱補償領域のメサ構造9が形成されると共に、熱補償領域のメサ構造9の部分に、後述する制御方法、制御装置により、電圧印加又は電流注入を行っている。そして、熱補償領域への電圧印加又は電流注入により、その大部分を熱に変換し、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、従来問題となっていた波長ドリフトを低減するようにしている。
【0052】
ここで、本実施例の波長可変半導体レーザ素子の作製方法を次に示す。
(1)まず、n型InP基板である下部クラッド1上に活性層2を成長し、活性層2のうち、活性領域3となる領域以外を硫酸系ウェット選択エッチングにより除去した。
(2)次に、バットジョイント再成長により非活性層4を成長し、非活性層4のうち、分布反射器となるDBR領域5に、ウェットエッチングにより、図2(a)に示すような凹凸形状の回折格子6を形成した。
(3)次に、p型InPからなる上部クラッド層を再成長後、レーザ領域及び熱補償領域となる部分以外の上部クラッド層を、塩酸系ウェット選択エッチングにより除去した。その結果、上部クラッド層は、レーザ領域となる上部クラッド7aと熱補償領域となる上部クラッド7bのみ残存し、幅2μmのメサ構造8、9を構成することとなる。そして、熱補償領域では、上部クラッド7bとその下部の非活性導波路領域を発熱手段として用いることになる。
(4)次に、素子表面の全面にSiO2からなる絶縁膜10を形成し、絶縁膜10のうち、レーザ領域のメサ構造8及び熱補償領域のメサ構造9の頂上部の絶縁膜10のみを除去し、図2(b)、(c)に示すように、レーザ領域のメサ構造8及び熱補償領域のメサ構造9への通電を行うため、活性領域電極11a、DBR領域電極11b、熱補償領域電極11cを形成した。
(5)その後、実装のために、基板を含めたレーザ素子の厚さが150μmとなるように研磨を施し、裏面電極12を形成した。劈開の後、DBR領域5側の側端面にAR膜13を施した。
【0053】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、基板(下部クラッド1)をn型半導体、活性層2及び非活性層4をクラッド層よりもバンドギャップの小さいノンドープ半導体、上部クラッド7をp型半導体としたPIN構造とした。活性領域3とDBR領域5は、共に長さ400μmとした。図1及び図2(c)からわかるように、熱補償用非活性導波路と熱補償用電極11cにより熱補償領域が形成されており、レーザ領域のメサストライプとの間隔は20μmとした。なお、この配置間隔としては、近接して平行配置された導波路同士で光パワーが移動しないように、下限は、3μm以上が望ましく、熱補償領域により、素子温度を常に一定に保ち易いように、上限は、基板の厚さ以下、例えば、150μm以下であることが望ましい。
【0054】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、図2(a)及び図2(b)に示した活性領域電極11aと下面電極12との間に電流を流すことによりレーザ光が発振する。このときの発振波長は、図2で示したDBR領域5により決まるブラッグ波長におおよそ対応する波長となる。又、図1、図2(a)及び図2(c)に示したDBR領域電極11bを通じて、DBR領域5へ電流注入することにより、ブラッグ波長を短波長側にシフトさせることができ、それに伴い、発振波長も短波長側にシフトする。この際、後述するように、DBR領域5と熱補償用非活性導波路に投入される電力の和が常に一定となるような制御を行った。
【0055】
<制御方法>
次に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子の制御方法、具体的には、熱補償電流を決定するための手順を、図3に示したフローチャートを用いて説明する。
【0056】
(1)まず、DBR領域5と熱補償領域に対し、それぞれ図4(a)、(b)の示すI−V測定を行う(ステップS1)。
(2)ステップS1で求めたI−V特性から電流と電圧の積をとることで電力を求め、図5(a)、(b)に示すI−P特性を求める(ステップS2)。
(3)ステップS2で求めたI−P特性に対し、本実施例では2次関数近似を施し(最小自乗法(2次))、下記(式1)及び(式2)を得た(ステップS3)。なお、(式1)及び(式2)において、PDBR及びPTHは、各々、DBR領域5及び熱補償領域への投入電力(mW)を示し、IDBR及びITHは、各々、DBR領域5及び熱補償領域への順バイアス電流(mA)を示す。
(4)次に、DBR領域5と熱補償領域への投入電力の和PTOTALを、(式3)に示すように、一例として、70mWとした(ステップS4)。PTOTALを決定する際には、IDBRの最大値を(式1)に代入したとき、そのときのPDBRの値とPTOTALが等しいか、それ以上に設定する必要がある。ここで、DBR領域電流IDBRを決定すると、(式1)よりDBR領域への投入電力PDBRが求まり、このPDBRを(式3)に代入することにより、熱補償領域へ投入すべき電力PTHが求まる。
(5)最後に、PTHを(式2)へ代入し、ITHを変数とした二次方程式の解を求め、求まった解のうち正の値を持つ解が、熱補償領域電流ITHとなる(ステップS5)。
【0057】
DBR=0.0049IDBR2+0.848IDBR−0.381 ・・・ (式1)
TH=0.0047ITH2+0.8385ITH−0.3556 ・・・ (式2)
TOTAL=PTH+PDBR=70 ・・・ (式3)
【0058】
実際には、予め、IDBRとPTHの相関を計算により求めておき、この相関を示す図6のグラフから、DBR領域電流IDBRを決めれば、簡単に熱補償領域電流ITHが求まる。図6に示すグラフもフィッティングによる近似が可能であり、例えば、6次多項式でフィッティング(最小自乗法(6次))して、近似(精度99%以上)した式を(式4)に示す。
【0059】
TH=−6×10-10DBR6+1×10-7DBR5−8×10-6DBR4+0.0003IDBR3
−0.01141IDBR2+0.5222IDBR+62.262 ・・・ (式4)
【0060】
この近似式を用いれば、DBR領域電流IDBRを決めると、熱補償領域電流ITHが簡単に求まる。これより、表2に示すように、対となるDBR領域電流及び熱補償領域電流を定めた。なお、近似式は6次の多項式でなくても、正確にフィッティングが可能な式なら何でもかまわない。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示したDBR領域電流20mA−熱補償領域電流48.6mA、及び、DBR領域電流53mA−熱補償領域電流13.3mAの対は、いずれも、投入電力の和が70mWとなるように調整してある。
【0063】
図7には、DBR領域への電流値を4ミリ秒おきに20mA及び53mAと切り替え、それと同期して熱補償領域への電流値を48.6mA及び13.3mAと切り替えることで、それぞれ192.747THz及び193.146THzの波長を交互に出力させた時の波長の振る舞いを示す。又、熱補償による波長ドリフトの抑制効果を顕著に示すため、192.747THzと193.146THz付近の周波数に対し、縦軸スケールを10GHzに拡大したものを図8(a)、(b)に示す。熱補償を行わなかった場合には、図30(a)、(b)に示すように、2GHz及び6GHzの波長ドリフトが観測されていたのに対し、本発明においては、熱補償を行うことにより、図8(a)、(b)に示すように、波長ドリフトが1GHz以内に抑えられ、安定かつ高速な波長きりかえが実現できた。更には、波長切り替え時に熱的な外乱を与えないことで、波長ドリフトを大幅に抑制することが可能である。
【0064】
<制御装置>
次に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子を制御して、上記制御方法を実行する制御装置を、図9(a)、(b)を用いて説明する。
【0065】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子を制御する制御装置21(以降、波長可変レーザ制御装置と呼ぶ。)は、例えば、本実施例や後述する他の実施例の波長可変半導体レーザ素子22を制御するものであり、波長可変半導体レーザ素子22の各領域(活性領域、DBR領域、熱補償領域等)へ接続された電流制御回路(若しくは、電圧制御回路)23と、データを格納するメモリ24と、これらの設定、制御等を行うCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)25とを有する波長可変レーザ制御ボード26と、波長可変レーザ制御ボード26ヘのデータや設定条件を書き換えるためのPC(コンピュータ)27とを備えたものである。
【0066】
波長可変レーザ制御ボード26において、電流制御回路23は、I1〜I14で示す電流を測定可能な電源を備えると共に、各領域に注入する電流を制御している。電流制御回路に代えて電圧制御回路を用いる場合には、電圧制御回路は、電圧を測定可能な電源を備えると共に、各領域に印加する電圧を制御している。又、メモリ24は、電流制御回路(若しくは、電圧制御回路)23で測定された電流−電圧測定データ(I−V測定データ)を格納しており、CPU25は、メモリ24に格納されたI−V測定データに基づいて、電流設定(若しくは、電圧設定)を行い、電流制御回路(若しくは、電圧制御回路)23を制御している。PC27は、波長可変レーザ制御ボード26内のメモリ24のI−V測定データを書き換えたり、CPU25を制御することで、I−V測定データを取得したり、フィッティングや熱補償電流の自動算出・出力が可能である。なお、図9(a)においては、電流制御回路23における測定、制御電流をI1〜I14で示しているが、この数は、図9(a)に示す数に限定されるものではなく、適用する波長可変半導体レーザ素子に応じて、適切な数に変更してよい。
【0067】
波長可変レーザ制御ボード25は、ブロック図で説明すると、図9(b)に示すような構成となっている。具体的には、波長可変半導体レーザ素子22の各領域への電流(若しくは、電圧)を入力する入力部31と、DBR領域と熱補償領域の電流−電圧特性を計測する計測部32と、入力された電流(若しくは、電圧)及び計測された電流−電圧特性のデータ、即ち、I−V測定データを記憶する記憶部33(=メモリ24)と、記憶部33からI−V測定データを取り出し、DBR領域と熱補償領域の電流−電力特性(若しくは、電圧−電力特性)を計算し、I−V測定データに基づいて、DBR領域の電力と熱補償領域の電力との和が常に一定となるように、DBR領域と熱補償領域へ注入する電流(若しくは、印加する電圧)を決定する処理部34(=CPU25)と、決定された電流(若しくは、電圧)をDBR領域と熱補償領域に入力するように制御する制御部35とを有している。
【0068】
本実施例では、上記波長可変レーザ制御装置21に、図1、図2に示す波長可変半導体素子を搭載し、波長可変レーザ制御ボード25における電流制御回路23において、I1を活性領域電極11aに、I2をDBR領域電極11bに、I8を熱補償領域電極11cに接続した。そして、上述した制御方法におけるI−V測定を自動で行い、その結果からI−Pカーブを求めて、DBR領域5と熱補償領域に投入する電力の和を常に一定するように制御することが可能である。つまり、波長可変レーザ制御装置21は、波長可変電流が決まると、自動的に熱補償電流を算出し、出力することができる。
【0069】
(本実施例の波長可変半導体素子の変形例)
なお、本実施例においては、熱補償領域の構造を、レーザ領域側と同等の構造としているが、上述したように、本実施例の制御方法では、熱補償領域の抵抗値を制御要素として含むので、熱補償領域の構造を異なる形状としても、同様の効果を奏することができる。
【0070】
例えば、図10は、本実施例の変形例であり、波長可変半導体素子の上面図を示すものである。図10に示す波長可変半導体素子は、図1に示す波長可変半導体素子と略同等の構造であるが、熱補償領域電極11dの導波路方向の長さが異なるものである。このように、熱補償領域電極11dの導波路方向の長さは、対応するDBR領域電極11bの導波路方向の長さと異なる長さでも良く、例えば、DBR領域電極11bの長さよりも短く、その一部と隣接するように配置されたものであっても構わない。
【0071】
又、図11は、本実施例の他の変形例であり、波長可変半導体素子の上面図を示すものである。図11に示す波長可変半導体素子も、図1に示す波長可変半導体素子と略同等の構造であるが、熱補償領域におけるメサ構造14の幅が異なるものである。図1に示す波長可変半導体素子においては、レーザ領域及び熱補償領域におけるメサ構造8、9の幅を共に2μmとしているが、図11に示す波長可変半導体素子においては、熱補償領域におけるメサ構造14の幅を、それらより狭い幅、1μmとした。このような構造の波長可変半導体素子におけるI−V特性を図12(a)に示し、このI−V特性より求めたI−P特性を図12(b)に示す。図12(a)、(b)に示す特性図から、上述した制御方法を適用して、波長ドリフトの低減が可能であると共に、メサ構造14の幅を狭くして、メサ構造14の面積を小さくした結果、熱補償領域の抵抗値が上昇し、結果として、発熱に要する電流値を低減することもできる。
【0072】
更に、本実施例の他の変形例として、メサ構造9の導波路方向の長さを、レーザ領域におけるメサ構造8の導波路方向の長さより短くした構成、例えば、メサ構造9を熱補償領域電極11cの部分のみに形成した構成も考えられる。
【実施例2】
【0073】
本実施例は、波長可変半導体レーザ素子の他の制御方法を示すものである。具体的には、実施例1に示した制御方法において、投入電力を、発熱に寄与する電力と電流注入時に自然放出光として失われる分の電力とに分けて、より正確に熱補償する制御方法を示すものである。
【0074】
実施例1に示した制御方法における(式1)において、PDBRは以下の(式5)のように表記できる。
DBR=PREGISTANT+PSPON ・・・ (式5)
【0075】
ここで、PREGISTANTは発熱エネルギーに変換される電力、PSPONは半導体の自然放出によって光となって外部に失われる電力である。PSPONとしては、予め、DBR領域の電流−発光出力特性を調べておくことが出来る。DBR領域からの自然放出光は、5mAを過ぎると徐々に増加するため、実際には、IDBRが5mA以下のときは(式6)、5mA以上のときは(式7)を用いて近似した。
【0076】
SPON=0 ・・・ (式6)
SPON=IDBR/55−1/11 ・・・ (式7)
【0077】
(式7)は、本発明の波長可変半導体レーザ素子の発光特性に対して有効なフィッティング式であるが、対象となる波長可変半導体レーザ素子の発光特性を正確に記載できるものであれば、式の形式や次数、近似方法等を問わないことは言うまでもない。
【0078】
DBRが5mA以上である場合、つまり、DBR領域からの発光によって電力が失われる場合、(式1)に(式5)及び(式7)を代入し、PREGISTANTを左辺として変形すると、(式8)が求まる。
REGISTANT=0.0049IDBR2+0.848IDBR−0.381−(IDBR/55−1/11) ・・ (式8)
【0079】
熱補償領域においても、電流注入を行えば、DBR領域と同様に自然放出光が放出されるため、熱補償領域電流ITHが5mA以上である場合に対して、上記(式8)同様に、(式9)が求まる。
REGISTANT_TH=0.0047ITH2+0.8385ITH−0.3556−(ITH/55−1/11) ・・・ (式9)
ここで、PREGISTANT_THは熱補償領域における発熱に変換される電力である。
【0080】
本実施例においても、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に波長可変半導体レーザ素子を搭載し、電流制御回路23において、I1を活性領域電極に、I2をDBR領域電極に、I8を熱補償領域電極に接続した。そして、制御方法としては、上述したように、IDBRとITHが5mA以上である場合に、(式1)及び(式2)を(式8)及び(式9)に置き換え、又、(式3)を下記(式10)に置き換えて、熱補償電流を求め、波長可変電流20mA−熱補償電流49.4mA、波長可変電流53mA−熱補償電流14.4mAの条件で波長切り替えを行った。上記の2つの電流対は、いずれも(式10)のPTOTALが70mWである条件を満たしている。
TOTAL=PREGISTANT+PREGISTANT_TH ・・・ (式10)
【0081】
その結果、波長ドリフト量が1GHz以内の高速な波長切り替えが実現した。なお、本実施例では、実施例1に対して波長ドリフトの大幅な改善が見られなかったが、その理由は、そもそもの自然放出光PSPONが小さいためである。PSPONの大小は、DBR領域を構成する非活性領域の構造や結晶性に大きく左右されるものであり、自然放出光強度の強い場合には、本実施例は極めて有効である。
【実施例3】
【0082】
図13、図14(a)〜(c)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の他の一例を示すものであり、図13に、その上面図を、図14(a)に図13のX21線断面図を、図14(b)に図13のX22、X24線断面図を、図14(c)に図13のX23、X25、X26線断面図を示す。
【0083】
図13、図14(a)〜(c)に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子も、レーザ領域と熱補償領域を有するものである。レーザ領域は、SOA領域44、フロントDBR領域46、活性領域43、位相調整領域49、リアDBR領域47からなり、図中右から、この順に直列に接続されたものである。活性領域43、SOA領域44は、下部クラッド1となる基板上に直線状に形成された活性層42と、活性層42上部に凸状に形成された上部クラッド50aとを有している。フロントDBR領域46、リアDBR領域47は、下部クラッド1上に形成された非活性層45と、活性層42と同一直線となる部分の非活性層45の上面に形成された回折格子48と、回折格子48の上部に凸状に形成された上部クラッド50aとを有している。位相調整領域49は、下部クラッド1上に形成された非活性層45と、活性層42と同一直線となる部分の非活性層45の上部に凸状に形成された上部クラッド50aとを有している。そして、このような構成により、レーザ領域の光導波路がメサ構造51により構成されることになる。
【0084】
又、熱補償領域は、下部クラッド41上に形成された非活性層45と、レーザ領域の上部クラッド50aに平行に隣接するように、非活性層45の上部に凸状に形成された上部クラッド50bとを有している。そして、このような構成により、熱補償領域の光導波路がメサ構造52により構成されることになり、又、レーザ領域のメサ構造51に平行に隣接して、熱補償領域のメサ構造52が配置されることになる。
【0085】
更に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、上部クラッド50a及び上部クラッド50bの一部の上面を除き、活性層42、非活性層45及び上部クラッド50a、50bの表面に形成された絶縁膜53を有している。又、電極として、SOA領域44となる部分の上部クラッド50aの上面に形成されたSOA領域電極54aと、フロントDBR領域46となる部分の上部クラッド50aの上面に形成されたフロントDBR領域電極54bと、活性領域43となる部分の上部クラッド50aの上面に形成された活性領域電極54cと、位相調整領域49となる部分の上部クラッド50aの上面に形成された位相調整領域電極54dと、リアDBR領域47となる部分の上部クラッド50aの上面に形成されたリアDBR領域電極54eと、フロントDBR用の熱補償領域となる部分の上部クラッド50bの上面に形成された熱補償領域電極54fと、位相調整領域用の熱補償領域となる部分の上部クラッド50bの上面に形成された熱補償領域電極54gと、リアDBR用の熱補償領域となる部分の上部クラッド50bの上面に形成された熱補償領域電極54hと、下部クラッド41の下面に形成された下部電極55とを有している。加えて、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、SOA領44となる活性層42の側端面及びリアDBR領域47となる非活性層45の側端面に、AR膜56が形成されている。
【0086】
図13に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は多電極型であり、フロントDBR領域46とリアDBR領域47が、それぞれ7本の異なる反射ピークを持つSSG−DBRレーザとなっている。レーザ領域は、図14(a)に示すように、図中の右から、SOA領域44、フロントDBR領域46、活性領域43、位相調整領域49、リアDBR領域47の順に配置されており、各領域の長さは、それぞれ400μm、300μm、350μm、80μm、600μmである。本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、フロントDBR領域46、位相調整領域49及びリアDBR領域47の計3つの波長可変領域を持ち、これらの領域へ注入される電流は、それぞれフロントDBR電流、位相調整電流、リアDBR領域電流として制御される。
【0087】
そして、図13に示すように、レーザ領域のメサ構造51のメサストライプに平行に隣接して、20μmの間隔を置いて、熱補償用のメサ構造52のメサストライプが形成されており、上述した3つの波長可変領域(フロントDBR領域46、位相調整領域49及びリアDBR領域47)に対して、それぞれ熱補償領域が形成されている。つまり、本実施例の波長可変半導体レーザ素子でも、レーザ領域のメサ構造51に隣接して、熱補償用のメサ構造52が形成されると共に、熱補償用のメサ構造52の部分に、上述した制御方法、制御装置により、電圧印加又は電流注入を行っている。そして、熱補償領域への電圧印加又は電流注入により、その大部分を熱に変換し、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、従来問題となっていた波長ドリフトを低減するようにしている。
【0088】
ここで、本実施例の波長可変半導体レーザ素子の作製方法を次に示す。
(1)まず、n型InP基板である下部クラッド41上に活性層42を成長し、活性層42のうち、活性領域43とSOA領域44となる領域以外を硫酸系ウェット選択エッチングにより除去した。
(2)次に、バットジョイント再成長により非活性層45を成長し、非活性層45のうちフロントDBR領域46とリアDBR領域47となる領域に、ウェットエッチングにより、図14(a)に示すような凹凸形状の回折格子48を形成した。図示していないが、従来のSSG−DBRレーザと同様に、回折格子48は複数の位相シフトを含んでいる(非特許文献4参照)。又、位相調整領域49となる領域の非活性層45には、凹凸を設けず、平坦な形状とした。
(3)次に、p型InPによる上部クラッド50の再成長後、塩酸系ウェット選択エッチングにより、実施例1と同様に、レーザ領域と熱補償領域となる幅2μmのメサ構造51、52を形成した。
(4)次に、素子表面の全面にSiO2からなる絶縁膜53を形成し、絶縁膜53のうち、レーザ領域のメサ構造51及び熱補償領域のメサ構造52の頂上部の絶縁膜53のみを除去し、図14(b)、(c)に示すように、レーザ領域のメサ構造51及び熱補償領域のメサ構造52への通電を行うため、SOA領域電極54a、フロントDBR領域電極54b、活性領域電極54c、位相調整領域電極54d、リアDBR領域電極54e、フロントDBR用の熱補償領域電極54f、位相調整領域用の熱補償領域電極54g、リアDBR領域用の用の熱補償領域電極54hを形成した。
(5)その後、厚さが150μmとなるように、基板に研磨を施し、裏面電極55を形成した。劈開の後、SOA領域44側とリアDBR領域47側の側端面にAR膜56を施した。
【0089】
本実施例でも、基板(下部クラッド41)をn型半導体、活性層42及び非活性層45をクラッド層よりもバンドギャップの小さいノンドープ半導体、上部クラッド50をp型半導体としたPIN構造とした。
【0090】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、実施例1に示した波長可変半導体レーザ素子と同様に、活性領域43への電流注入によりレーザを発振し、SOA領域44への電流注入により出力光の増幅又は減衰を行って、出力強度を調整することが出来る。又、複数のDBR領域46、47へ順バイアス電流を注入することにより、ブラッグ波長をシフトさせることができる波長可変機能と、位相を調整するための位相調整領域49へ電流を注入することにより、最大0.5nm以内の範囲で発振波長の微調整を行うことができる微調整機能とを有している(非特許文献4)。
【0091】
本実施例においても、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子を搭載し、電流制御回路23において、I1をSOA領域電極54aに、I2をフロントDBR領域電極54bに、I3を活性領域電極54cに、I4を位相調整領域電極54dに、I5をリアDBR領域電極54eに、I13をフロントDBR領域に対応する熱補償領域電極54fに、I11を位相調整領域に対する熱補償領域電極54gに、I10をリアDBR領域に対する熱補償領域電極54hに、それぞれ割り当てて接続した。
【0092】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、上述したように、三つの波長可変領域を有するため、各波長可変領域と対応する熱補償領域の制御の方法は、実施例1に示した制御方法(図3〜図6、表1〜2等参照)を、それぞれの波長可変領域に対して行って、熱による波長ドリフトの防止効果を検証した。又、出力させる光の周波数(波長)に関しては、191.2265THz(≒1567.5nm)から195.6015THz(≒1532.5nm)の範囲において、6.25GHz間隔で700点を静的駆動状態で設定した。静的状態で設定した電流値を用い、1点の周波数保持時間を500nsとして、高速の繰り返し波長スイープ動作を行った結果を図15(a)に示す。図15(a)から明らかなように、波長跳びがなく良好なスイープ結果が得られた。又、静的駆動状態における設定周波数からのずれ量をチャネル毎に調べ、これを図15(b)に示した。図15(b)から判るように、ずれ量は、おおよそ±5GHz以内であった。
【0093】
比較のため、本実施例の波長可変半導体レーザ素子(SSG−DBRレーザ)から、熱補償領域を取り除いた構造の波長可変半導体レーザ素子、即ち、従来のSSG−DBRレーザを作製した。図16に、従来のSSG−DBRレーザの上面図を、図17(a)に図16のX31線断面図を、図17(b)に図16のX32、X34線断面図を、図17(c)に図16のX33、X35、X36線断面図を示す。なお、従来のSSG−DBRレーザの構成は、熱補償領域を除き、本実施例の波長可変半導体レーザ素子と重複する部分が多いため、その詳細な説明は省略する。
【0094】
図16、図17に示した従来のSSG−DBRレーザを用い、上述の周波数範囲、周波数間隔(191.2265〜195.6015THz、6.25GHz間隔、700ch)となるように、静的駆動状態において周波数グリッドを設定し、1点の周波数保持時間を同じく500nsとして、高速の繰り返し波長スイープ動作を行った。従来のSSG−DBRレーザの波長スイープ動作の結果を図18(a)に示すと、図15(a)とは異なり、大きな波長跳びが生じていることがわかる。又、チャネル毎の設定周波数からのずれ量を図18(b)に示すと、ずれ量はおおよそ±20GHzであり、図15(b)との比較により、その差は明らかである。
【0095】
なお、本実施例の波長可変半導体レーザ素子においては、フロントDBR領域46及びリアDBR領域47にSSG−DBRを用いているが、均一に凹凸を形成した分布反射器であっても、上述した熱補償領域を用いれば同様の効果が得られることは言うまでもない。又、他の実施例に示す波長可変半導体レーザ素子も含めて、DBR領域の一部又は全てを、分布反射型回折格子が形成された非活性導波路により構成したり、位相調整領域となる非活性導波路により構成したりしてもよい。
【実施例4】
【0096】
図19、図20(a)、(b)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の他の一例を示すものであり、図19に、その上面図を、図20(a)に図19のX41線断面図を、図20(b)に図19のX42線断面図を示す。
【0097】
図19、図20(a)、(b)に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子も、レーザ領域と熱補償領域を有するものであるが、熱補償領域の構成が他の実施例とは相違する。レーザ領域は、実施例1に示した波長可変半導体レーザ素子と同様に、活性領域83と活性領域83に直列に接続されたDBR領域85とからなる。活性領域83は、下部クラッド81となる基板上に直線状に形成された活性層82と、活性層82上部に凸状に形成された上部クラッド87とを有している。DBR領域85は、下部クラッド81上に形成された非活性層84と、活性層82と同一直線となる部分の非活性層84の上面に形成された回折格子86と、回折格子86の上部に凸状に形成された上部クラッド87とを有している。そして、このような構成により、レーザ領域の光導波路がメサ構造88により構成されることになる。
【0098】
又、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、上部クラッド87の上面を除き、活性層82、非活性層84及び上部クラッド87の表面に形成された絶縁膜89を有しており、更に、熱補償領域として、上部クラッド87に平行に隣接するように、絶縁膜89上に形成された電気抵抗91を有しており、これにより、レーザ領域のメサ構造88に平行に隣接した熱補償領域を構成している。更に、電極として、活性領域83となる部分の上部クラッド87の上面に形成された活性領域電極90aと、DBR領域85となる部分の上部クラッド87の上面に形成されたDBR領域電極90bと、熱補償領域となる部分の電気抵抗91に接続して形成された熱補償領域電極90cと、下部クラッド81の下面に形成された下部電極92とを有している。加えて、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、DBR領域85となる非活性層84の側端面に、AR膜93が形成されている。
【0099】
つまり、本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、他の実施例とは異なり、レーザ領域のメサ構造に平行に隣接して形成した熱補償領域のメサ構造の替わりに、図19に示すように、DBR領域のメサ構造88に平行に隣接して、熱補償領域としての電気抵抗91を形成したものである。そして、熱補償用の電気抵抗91の部分に、上述した制御方法、制御装置により、電圧印加又は電流注入を行うことにより、その大部分を熱に変換し、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、従来問題となっていた波長ドリフトを低減するようにしている。
【0100】
電気抵抗91は、プラチナ(Pt:電気伝導度=9.4×106S/m)により、厚さ500nm、幅2.5μm、長さ400μmの大きさに形成されており、これにより、30Ωの抵抗値を得た。なお、電気抵抗91に用いる金属は、電気伝導度が107S/m以下程度であり、安定して付着するものであれば何でもよく、例えば、クロム(Cr:電気伝導度=7.5×106S/m)等でもよい。
【0101】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子において、レーザ領域の構造は、図20(a)に示すように、実施例1と同じ2-section DBRレーザ構造とした。又、その制御については、実施例1と同様に、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子を搭載して行った。この際、本実施例の波長可変半導体レーザ素子における2つの熱補償領域電極90cのうち、図19中左側の電極をグランドにアースし、右側の電極を電流制御回路23のI8に接続した。又、活性領域電極90aをI1に、DBR領域電極90bをI2に、それぞれ接続して用いた。
【0102】
又、ここでは、実施例1の制御方法における(式2)を、以下で示す(式11)に置き換えて、図3に示すフローチャートに従って、波長切り替えを行った。なお、(式11)において、PTHとITHの単位は、それぞれmW及びmAであり、単位の修正のため、(式11)の右辺に1/1000の係数かけてある。例えば、ITH=10mAのとき、(式11)のITHに数値10を代入するとPTH=3(mW)が求まる。
TH=30×ITH2/1000 ・・・ (式11)
【0103】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子においても、実施例1に示すような制御方法、制御装置を用いることにより、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つことができ、その結果、波長ドリフト量は1GHz以内となり、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【実施例5】
【0104】
図21、図22(a)〜(c)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の他の一例を示すものであり、図21に、その上面図を、図22(a)に図21のX51線断面図を、図22(b)に図21のX52線断面図を、図22(c)に図21のX53線断面図を示す。
【0105】
図21、図22(a)〜(c)に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子も、レーザ領域と熱補償領域とを有するものである。レーザ領域は、活性領域103と活性領域103と直列に接続されたDBR領域105とからなる。活性領域103は、下部クラッド101となる基板上に直線状に形成された活性層102と、活性層102の上部に凸状に形成された上部クラッド107aと、下部クラッド101の一部、活性層102及び上部クラッド107aを埋め込むように、それらの周囲に形成された横クラッド110とを有している。DBR領域105は、活性層102と同一直線となるように、下部クラッド101上に形成された非活性層104と、非活性層104の上面に形成された回折格子106と、回折格子106上に凸状に形成された上部クラッド107aと、下部クラッド101の一部、非活性層104及び上部クラッド107aを埋め込むように、それらの周囲に形成された横クラッド110とを有している。そして、このような構成により、レーザ領域の光導波路がメサ構造108により構成されることになる。
【0106】
又、熱補償領域は、レーザ領域の活性層102及び非活性層104に平行に隣接するよう、下部クラッド101上に直線状に形成された非活性層104と、非活性層104の上部に凸状に形成された上部クラッド107bと、下部クラッド101の一部、非活性層104及び上部クラッド107bを埋め込むように、それらの周囲に形成された横クラッド110とを有している。そして、このような構成により、熱補償領域の光導波路がメサ構造109により構成されることになり、又、レーザ領域のメサ構造108に平行に隣接して、熱補償領域のメサ構造109が配置されることになる。
【0107】
更に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、上部クラッド107aの上面及び上部クラッド107bの上面の一部を除き、横クラッド110及び上部クラッド107bの表面に形成された絶縁膜110を有しており、電極として、活性領域103となる部分の上部クラッド107aの上面に形成された活性領域電極112aと、DBR領域105となる部分の上部クラッド107aの上面に形成されたDBR領域電極112bと、熱補償領域となる部分の上部クラッド107bの上面に形成された熱補償領域電極112cと、下部クラッド101の下面に形成された下部電極113とを有している。加えて、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、DBR領域105となる非活性層104の側端面に、AR膜114が形成されている。
【0108】
つまり、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、実施例1のように、レーザ領域のメサ構造108に隣接して、熱補償のためのメサ構造109が形成されたものであるが、メサ構造108、109をハイメサ構造とすると共に、メサ構造108、109を横クラッド110で埋め込んだ構成としている。そして、熱補償用のメサ構造109の部分に、上述した制御方法、制御装置により、電圧印加又は電流注入を行うことにより、その大部分を熱に変換し、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、従来問題となっていた波長ドリフトを低減するようにしている。
【0109】
ここで、本実施例の波長可変半導体レーザ素子の作製方法を次に示す。
(1)まず、n型InP基板である下部クラッド101上に活性層102を成長し、活性層102のうち、活性領域103となる領域以外を硫酸系ウェット選択エッチングにより除去した。
(2)次に、バットジョイント再成長により非活性層104を成長し、非活性層104のうち、分布反射器となるDBR領域105に、ウェットエッチングにより、図22(a)に示すような凹凸形状の回折格子106を形成した。
(3)次に、p型InPからなる上部クラッド層を1.5μm再成長した後、半導体ドライエッチングにより、レーザ領域導波路と熱補償用非活性導波路を高さ3μmのハイメサ構造に加工した。
(4)次に、ルテニウム(Ru)をドーピングすることで絶縁化を施したInPを、導波路横に3μmの高さで再成長し、図22(b)、(c)に示すような形状に導波路を埋め込んだ。
(5)次に、素子表面の全面にSiO2からなる絶縁膜111を形成し、絶縁膜111のうち、レーザ領域のメサ構造108及び熱補償領域のメサ構造109の頂上部の絶縁膜111のみを除去し、図22(b)、(c)に示すように、レーザ領域のメサ構造108及び熱補償領域のメサ構造109のへの通電を行うため、活性領域電極112a、DBR領域電極112b、熱補償領域電極112cを形成した。
(6)その後、実装のため、厚さが150μmとなるように、基板に研磨を施し、裏面電極113を形成した。劈開の後、図21及び図22(b)に示すように、DBR領域105側の側端面にAR膜114を施した。
【0110】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子では、基板(下部クラッド1)をn型半導体、活性層102と非活性層104とをクラッド層よりバンドギャップの小さいノンドープ半導体、上部クラッド107をp型半導体としたPIN構造とし、導波路の横を、ルテニウムをドーピングした半絶縁の横クラッド110で埋め込んだ形状である。又、活性領域103とDBR領域105は共に長さ400μmとした。
【0111】
又、本実施例の波長可変半導体レーザ素子を、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に搭載し、電流制御回路23において、I1を活性領域電極112aに、I2をDBR領域電極112bに、I8を熱補償領域電極112cに接続し、図3に示すフローチャートに従って、実施例1と同じ方法で波長の切り替えを行い、波長ドリフト量を観察した。その結果、波長ドリフトを1GHz以内に抑制し、熱による波長ドリフトの無い、良好な特性を実現した。なお、本実施例では、2-section DBRレーザ構造を採用したが、図13に示すような多電極型のDBRレーザによっても実現が可能であることは言うまでも無い。
【実施例6】
【0112】
図23、図24(a)〜(c)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の他の一例を示すものであり、図23に、その上面図を、図24(a)に図23のX61線断面図を、図24(b)に図23のX62線断面図を、図24(c)に図23のX63線断面図を示す。
【0113】
図23、図24(a)〜(c)に示すように、本実施例の波長可変半導体レーザ素子も、レーザ領域と熱補償領域を有するものである。レーザ領域は、活性領域123と活性領域123に直列に接続されたDBR領域125からなる。活性領域123は、下部クラッド121となる基板上に直線状に形成された活性層122と、下部クラッド121の一部、活性層122を埋め込むと共に、活性層122の上面より高く、それらの周囲に形成された横クラッド130と、活性層122及び横クラッド130の上部に形成された上部クラッド127aとを有している。DBR領域125は、活性層122と同一直線となるように、下部クラッド121上に形成された非活性層124と、非活性層124の上面に形成された回折格子126と、下部クラッド121の一部及び非活性層124を埋め込むと共に、非活性層124の上面より高く、それらの周囲に形成された横クラッド130と、非活性層124及び横クラッド130の上部に形成された上部クラッド127aとを有している。そして、このような構成により、レーザ領域の光導波路がメサ構造128により構成されることになる。
【0114】
又、熱補償領域は、レーザ領域の活性層122及び非活性層124に平行に隣接するように、下部クラッド121上に直線状に形成された非活性層124と、下部クラッド121の一部及び非活性層124を埋め込むと共に、非活性層124の上面より高く、それらの周囲に形成された横クラッド130と、非活性層124及び横クラッド130の上部に形成された上部クラッド127bとを有している。そして、このような構成により、熱補償領域の光導波路がメサ構造129により構成されることになり、又、レーザ領域のメサ構造128に平行に隣接して、熱補償領域のメサ構造129が配置されることになる。なお、上部クラッド127aと上部クラッド127bは、レーザ領域と熱補償領域の間に配置された横クラッド130において、その上部に形成した分離溝131及び後述する絶縁膜132により、電気的に分離されている。
【0115】
更に、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、上部クラッド127a及び上部クラッド127bの一部の上面を除き、それらの表面に形成された絶縁膜132を有しており、電極として、活性領域123となる部分の上部クラッド127aの上面に形成された活性領域電極133aと、DBR領域125となる部分の上部クラッド127aの上面に形成されたDBR領域電極133bと、熱補償領域となる部分の上部クラッド127bの上面に形成された熱補償領域電極133cと、下部クラッド121の下面に形成された下部電極134とを有している。加えて、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、DBR領域125となる非活性層124の側端面に、AR膜135が形成されている。
【0116】
つまり、本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、実施例1のように、レーザ領域のメサ構造128に隣接して、熱補償のためのメサ構造129が形成されたものであるが、メサ構造128、129をローメサ構造とすると共に、メサ構造128、129の周囲を横クラッド130で埋め込むと共に、それらの上部を上部クラッド127a、127bで埋め込んだ構成としている。そして、熱補償用のメサ構造129の部分に、上述した制御方法、制御装置により、電圧印加又は電流注入を行うことにより、その大部分を熱に変換し、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、従来問題となっていた波長ドリフトを低減するようにしている。
【0117】
ここで、本実施例の波長可変半導体レーザ素子の作製方法を次に示す。
(1)まず、n型InP基板となる下部クラッド121上に活性層122を成長し、活性層122のうち、活性領域123となる領域以外を硫酸系ウェット選択エッチングにより除去した。
(2)次に、バットジョイント再成長により非活性層124を成長し、非活性層124のうち、分布反射器となるDBR領域125に、ウェットエッチングにより、図24(a)に示すような凹凸形状の回折格子126を形成した。
(3)次に、p型InPからなる上部クラッド層を0.1μm再成長した後、半導体ドライエッチングにより、レーザ領域導波路と熱補償用非活性導波路を高さ1.5μmのローメサ構造に加工した。
(4)次に、ルテニウム(Ru)をドーピングすることで絶縁化を行ったInPを、導波路横に3μmの高さで再成長した後、p型InPにより2μmの上部クラッド層を成長して導波路を埋め込んだ。
(5)その後、ドライエッチングにより、図24(b)、(c)に示すような、電流分離のための分離溝131を形成した。この分離溝131は、DBR領域125と熱補償領域の間の電流リークを防止するためのものであり、DBR領域125のコア層と熱補償領域のコア層の間に形成されたルテニウムドープ絶縁層(横クラッド130)に達するまでエッチングを施した。
(6)次に、素子表面の全面にSiO2からなる絶縁膜132を形成し、絶縁膜132のうち、レーザ領域のメサ構造128及び熱補償領域のメサ構造129の頂上付近の絶縁膜132のみを20μm幅で除去し、図24(b)、(c)に示すように、レーザ領域のメサ構造128及び熱補償領域のメサ構造129への通電を行うため、活性領域電極133a、DBR領域電極133b、熱補償領域電極133cを形成した。
(7)その後、実装のため、厚さ150μmとなるように、基板に研磨を施し、裏面電極134を形成した。劈開の後、図23及び図24(a)に示すように、DBR領域125側の側端面にAR膜135を施した。
【0118】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子でも、基板(下部クラッド1)をn型半導体、活性層122と非活性層124とをクラッド層よりバンドギャップの小さいノンドープ半導体、上部クラッド127a、127bをp型半導体としたPIN構造とし、導波路の横を、ルテニウムをドーピングした半絶縁の横クラッド130で埋め込んだ形状である。又、活性領域123とDBR領域125は共に長さ400μmとした。
【0119】
又、本実施例の波長可変半導体レーザ素子を、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に搭載し、電流制御回路23において、I1を活性領域電極133aに、I2をDBR領域電極133bに、I8を熱補償領域電極133cに接続し、図3のフローチャートに従って、実施例1と同じ方法で波長の切り替えを行い、波長ドリフト量を観察した。その結果、波長ドリフトを1GHz以内に抑制し、熱による波長ドリフトの無い、良好な特性を実現した。なお、本実施例でも、2-section DBRレーザ構造を採用したが、図13に示すような多電極型のDBRレーザによっても実現が可能であることは言うまでも無い。
【実施例7】
【0120】
図25、図26(a)、(b)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の実施形態の他の一例を示すものであり、図25に、その上面図を、図26(a)に図25のX71線の一部の断面図を、図26(b)に図25のX72線断面図を示す。
【0121】
本実施例の波長可変半導体レーザ素子は、図25に示すように、図中左から順に、発振波長の異なる6個のDBRレーザからなる6チャネルDBRレーザアレイ161と、それらの出力光をひとつに合波する光合波器162と、最終段で出力光の強度を調整するSOA領域163から構成されている。
【0122】
まず、6チャネルDBRレーザアレイ161に集積されたDBRレーザの基本構造を説明する。
【0123】
DBRレーザは、図26(a)に示すように、図中右から順に、フロントDBR領域145、活性領域143、リアDBR領域146から構成され、これらが直列に接続されたものである。活性領域143は、下部クラッド141となる基板上に直線状に形成された活性層142と、活性層142の上部に凸状に形成された上部クラッド148とを有している。フロントDBR領域145及びリアDBR領域146は、下部クラッド141上に形成された非活性層144と、活性層142と同一直線となる部分の非活性層144の上面に形成された回折格子147と、回折格子147上に凸状に形成された上部クラッド148とを有している。フロントDBR領域145、リアDBR領域146において、回折格子147は全く同じものを形成している。そして、このような構成により、DBRレーザの光導波路がメサ構造により構成されることになる。
【0124】
又、DBRレーザは、上部クラッド148の上面を除き、活性層142、非活性層144及び上部クラッド148の表面に形成された絶縁膜149を有しており、電極として、フロントDBR領域145及びリアDBR領域146となる部分の上部クラッド148の上面に形成されたDBR領域電極150aと、活性領域143となる部分の上部クラッド148の上面に形成された活性領域電極150bと、下部クラッド141の下面に形成された下部電極151とを有している。なお、フロントDBR領域145、リアDBR領域146においては、図25に示すように、素子表面に形成した同じ電極(DBR領域電極150a)によって電気的に接続されているため、DBR領域電極150aに電流を注入すると、両領域に同じ電流密度で電流が流れる構造となっている。
【0125】
さらに、DBRレーザには、リアDBR領域146となる非活性層144の側端面に、AR膜152が形成されている。
【0126】
レーザを駆動する際には、活性領域143へ電流を注入することによりレーザ光が発振し、フロントDBR領域145、リアDBR領域146へ電流を注入することにより発振波長をシフト可能である。集積された6個のDBRレーザの波長可変幅は6nmであり、発振波長が互いに6nmずつ異なる。従って、6個のDBRレーザのうち所望の波長帯の1つを選択し、選択した1つのDBRレーザの活性領域143に電流を注入して駆動することと、選択された1つのDBRレーザのフロントDBR領域145、リアDBR領域146へ注入する電流を変化させることで、合計で36nm(6個×6nm=36nm)の範囲で所望の波長を出力させることが可能である。
【0127】
集積された6個のDBRレーザは、図26(b)に示すように、隣接して並列に配置されており、DBRレーザ同士の間隔は各々20μmとなるように作製した。作製方法は、実施例1の方法と同じであるが、回折格子147の凹凸周期がDBRレーザ毎に異なっている。又、熱補償にのみ用いる専用の熱補償領域を持っておらず、その時駆動していないDBRレーザのフロントDBR領域145、リアDBR領域146を熱補償領域として代用するようにしている。
【0128】
ここで、実際の駆動例を説明する。
本実施例の波長可変半導体レーザ素子を、図9に示した波長可変レーザ制御装置21に搭載し、電流制御回路23において、I1をSOA領域電極153に、I2をLD4波長可変領域電極150a4に、I3をLD4活性領域電極150b4、I4をLD5波長可変領域電極150a5、I5をLD5活性領域電極150b5、I6をLD6波長可変領域電極150a6、I7をLD6活性領域電極150b6、I14をLD3波長可変領域電極150a3、I13をLD3活性領域電極150b3、I12をLD2波長可変領域電極150a2、I11をLD2活性領域電極150b2、I10をLD1波長可変領域電極150a1、I9をLD1活性領域電極150b1に、それぞれ接続した。又、各DBRレーザLD1〜LD6は、LD1:1530〜1536nm、LD2:1536〜1542nm、LD3:1542〜1548nm、LD4:1548〜1554nm、LD5:1554〜1560nm、LD6:1560〜1566nmであり、計36nmの中の所望の波長を出力することが出来る。
【0129】
LD1〜LD6の各DBR領域(フロントDBR領域145及びリアDBR領域146)のI−V測定より、(式12)〜(式17)のI−P特性フィッティングカーブを求めた。
【0130】
DBR1=0.0048IDBR12+0.845IDBR1−0.383 ・・・ (式12)
DBR2=0.0049IDBR22+0.838IDBR2−0.357 ・・・ (式13)
DBR3=0.005IDBR32+0.83IDBR3−0.3556 ・・・ (式14)
DBR4=0.0049IDBR42+0.843IDBR4−0.365 ・・・ (式15)
DBR5=0.0048IDBR52+0.839IDBR5−0.376 ・・・ (式16)
DBR6=0.0047IDBR62+0.842IDBR6−0.368 ・・・ (式17)
TOTAL=PDBR1+PDBR2+PDBR3+PDBR4+PDBR5+PDBR6=70 ・・・ (式18)
【0131】
LD1〜LD6のDBR領域への投入電力の総和PTOTALは、(式18)に示すように、一例として、70mWとした。本実施例では、1546nmのレーザ光を出力させる際には、LD3の活性領域143に電流を注入して発光させ、LD3のDBR領域に、IDBR3=5.6mAの電流を注入しており、又、1556nmのレーザ光を出力させる際には、LD5の活性領域143に電流を注入して発光させ、LD5のDBR領域に、IDBR5=22.3mAを注入した。発光しているLD以外では、活性領域143に電流を注入せず、それらのDBR領域にのみ電流を注入することにより、熱補償を行っている。
【0132】
例えば、1546nmのレーザ光を出力させる際に、LD3のDBR領域をIDBR3=5.6mAで駆動する場合の条件を求める。(式14)にIDBR3=5.6mAを代入することで、PDBR3=4.45mWが求まる。光の発振を行わないLD1、LD2、LD4、LD5、LD6のDBR領域への投入電力は、投入が必要な残りの電力を割り振って、それぞれに等しくなるように設定した。この場合、各LDのDBR領域への投入電力は13.11mWであり、この値を(式12)、(式13)、(式15)、(式16)、(式17)に代入し、二次方程式の解のうち正の値をとると、IDBR1=14.7mA、IDBR2=14.8mA、IDBR4=14.7mA、IDBR5=14.8mA、IDBR6=14.8mAが求まる。
【0133】
又、1556nmのレーザ光を出力させる際に、LD5のDBR領域をIDBR5=22.3mAで駆動する場合の条件を求めると、上述した場合と同様にして、残りのLDのDBR領域に注入する電流は、IDBR1=11.3mA、IDBR2=11.4mA、IDBR3=11.4mA、IDBR4=11.4mA、IDBR6=11.4mAと求まる。
【0134】
以上の駆動条件を用いて、発振波長1546nm(LD3:IDBR3=5.6mA)から発振波長1556nm(LD5:IDBR5=22.3mA)に波長を切り替えると共に、6チャネルDBRレーザアレイ161の領域のDBR領域に投入する電力の総和を常に一定(例えば、70mW)とした。その結果、熱補償用として、発光するLD以外のDBR領域にも電流注入(又は電圧印加)を行うことにより、その大部分を熱に変換して、素子内の発熱量の変化を抑制し、素子温度を常に一定に保つようにして、波長ドリフトを低減することができ、この場合も、波長切り替え時の波長ドリフト量が1GHz以内の良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、DBRレーザをはじめとするプラズマ効果型の波長可変半導体レーザ素子に適用して好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の一例を示す上面図である。
【図2】(a)は、図1に示した波長可変半導体レーザ素子のX11線断面図であり、(b)は、X12線断面図であり、(c)は、X13線断面図である。
【図3】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】(a)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子のDBR領域のI−V特性を示すグラフであり、(b)は、その熱補償領域のI−V特性を示すグラフである。
【図5】(a)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子のDBR領域のI−P特性を示すグラフであり、(b)は、その熱補償領域のI−P特性を示すグラフである。
【図6】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子において、波長可変電流から熱補償電流を求めるためのグラフである。
【図7】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子における波長切り替え動作を示すグラフである。
【図8】(a)は、図7に示したグラフの192.747THz付近の拡大図であり、(b)は、図7に示したグラフの193.146THz付近の拡大図である。
【図9】(a)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の制御装置の一例を示す概略図であり、(b)は、そのブロック図である。
【図10】図1に示した波長可変半導体レーザ素子の変形例を示す上面図である。
【図11】図1に示した波長可変半導体レーザ素子の他の変形例を示す上面図である。
【図12】(a)は、図11に示した波長可変半導体レーザ素子の熱補償領域のI−V特性を示すグラフであり、(b)は、そのI−P特性を示すグラフである。
【図13】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の他の一例を示す上面図である。
【図14】(a)は、図13に示した波長可変半導体レーザ素子のX21線断面図であり、(b)は、X22、X24線断面図であり、(c)は、X23、X25、X26線断面図である。
【図15】(a)は、本発明に係る波長可変半導体レーザ素子において、波長スイープの動作結果を示すグラフであり、(b)は、チャネル毎に設定周波数からのずれ量を示すグラフである。
【図16】従来の波長可変半導体レーザ素子を示す上面図である。
【図17】(a)は、図17に示した従来の波長可変半導体レーザ素子のX31線断面図であり、(b)は、X32、X34線断面図であり、(c)は、X33、X35、X36線断面図である。
【図18】(a)は、図17に示した従来の波長可変半導体レーザ素子において、波長スイープの動作結果を示すグラフであり、(b)は、チャネル毎に設定周波数からのずれ量を示すグラフである。
【図19】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の更なる他の一例を示す上面図である。
【図20】(a)は、図19に示した波長可変半導体レーザ素子のX41線断面図であり、(b)は、X42線断面図である。
【図21】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の更なる他の一例を示す上面図である。
【図22】(a)は、図21に示した従来の波長可変半導体レーザ素子のX51線断面図であり、(b)は、X52線断面図であり、(c)は、X53線断面図である。
【図23】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の更なる他の一例を示す上面図である。
【図24】(a)は、図23に示した従来の波長可変半導体レーザ素子のX61線断面図であり、(b)は、X62線断面図であり、(c)は、X63線断面図である。
【図25】本発明に係る波長可変半導体レーザ素子の更なる他の一例を示す上面図である。
【図26】(a)は、図25に示した波長可変半導体レーザ素子のX71線断面図であり、(b)は、X72線断面図である。
【図27】従来の波長可変半導体レーザ素子を示す上面図である。
【図28】(a)は、図27に示した従来の波長可変半導体レーザ素子のX81線断面図であり、(b)は、X82線断面図であり、(c)は、X83線断面図である。
【図29】図27に示した従来の波長可変半導体レーザ素子における波長切り替え動作を示すグラフである。
【図30】(a)は、図29に示したグラフの192.75THz付近の拡大図であり、(b)は、図29に示したグラフの193.15THz付近の拡大図である。
【符号の説明】
【0137】
1 下部クラッド(基板)
2 活性層
3 活性領域
4 非活性層
5 DBR領域
6 回折格子
7a 上部クラッド
7b 上部クラッド
8 メサ構造
9 メサ構造
10 絶縁膜
11a 活性領域電極
11b DBR領域電極
11c 熱補償領域電極
12 下面電極
13 反射防止膜(AR膜)
21 波長可変レーザ制御装置
22 波長可変半導体レーザ素子
23 電流制御回路
24 メモリ
25 CPU
26 波長可変レーザ制御装置制御ボード
27 PC
31 入力部
32 計測部
33 記憶部
34 処理部
35 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域を、前記波長可変領域に隣接して設けたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項2】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする複数の波長可変領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記複数の波長可変領域の各々に対応して、前記波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域を、前記複数の波長可変領域の各々に隣接して設けたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項3】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする第1の波長可変領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする第2の波長可変領域と、レーザ光の位相を調整する位相調整領域とを有する波長可変半導体レーザ素子において、
前記第1の波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第1の熱補償領域を、前記第1の波長可変領域に隣接して設け、
前記第2の波長可変領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第2の熱補償領域を、前記第2の波長可変領域に隣接して設け、
前記位相調整領域に投入される電力との和が常に一定となる電力が投入されると共に投入された電力の大部分を熱に変換する第3の熱補償領域を、前記位相調整領域に隣接して設けたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を電気抵抗により構成すると共に、前記電気抵抗への電流注入又電圧印加により、投入された電力の大部分を熱に変換することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を、非活性導波路により構成すると共に、前記非活性導波路への電流注入又電圧印加により、投入された電力の大部分を熱に変換することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項6】
請求項5に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記熱補償領域を構成する非活性導波路をメサ構造としたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項7】
請求項6に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記メサ構造の両側面に、ルテニウムをドーピングして絶縁化した半導体絶縁層を形成したことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項8】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域とを有するレーザ領域を複数備えると共に、前記複数のレーザ領域と光接続されて、光合波を行う光合波器を備えた波長可変半導体レーザ素子において、
前記複数のレーザ領域を互いに隣接して並列に配置し、
前記複数のレーザ領域の前記波長可変領域に投入する電力の総和が常に一定になるようにしたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記活性領域及び前記波長可変領域を構成する導波路を他のメサ構造としたことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項10】
請求項9に記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記他のメサ構造の両側面に、ルテニウムをドーピングして絶縁化した半導体絶縁層を形成したことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ素子において、
前記波長可変領域の一部又は全てを、分布反射型回折格子が形成された非活性導波路により構成するか、若しくは、位相調整領域となる非活性導波路により構成したことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子。
【請求項12】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項13】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電圧特性を計測し、
前記電流−電圧特性から前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電力特性を求め、
前記電流−電圧特性、前記電流−電力特性に基づいて、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定して制御を行うことを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する際、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となる条件下で、前記波長可変領域の電流−電力特性と前記熱補償領域の電流−電力特性とを連立させた方程式に基づいて、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項15】
請求項12乃至請求項14のいずれかに記載の波長可変半導体レーザ素子の制御方法において、
予め、前記波長可変領域及び前記熱補償領域における自然放出光の電流依存性又は電圧依存性を求めておき、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和から、前記波長可変領域で自然放出光により失われる電力と前記熱補償領域で自然放出光により失われる電力とを減算し、
減算後の電力が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項16】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記波長可変半導体レーザ素子からレーザ光を発振させる際、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を制御する制御部を有することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御装置。
【請求項17】
レーザ光を発振する活性領域と、発振したレーザ光の波長をシフトする波長可変領域と、前記波長可変領域に隣接して、投入された電力の大部分を熱に変換する熱補償領域とを有する波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記活性領域、前記波長可変領域及び前記熱補償領域に電流又は電圧を入力する入力部と、
前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電圧特性を計測する計測部と、
計測された前記電流−電圧特性を記憶する記憶部と、
記憶された前記電流−電圧特性から、前記波長可変領域及び前記熱補償領域の電流−電力特性を計算すると共に、前記電流−電圧特性及び前記電流−電力特性に基づいて、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する処理部と、
決定された前記電流又は前記電圧を、前記波長可変領域及び前記熱補償領域へ入力するように制御する制御部とを有することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御装置。
【請求項18】
請求項17に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記処理部は、波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定する際、
前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和が常に一定となる条件下で、前記波長可変領域の電流−電力特性と前記熱補償領域の電流−電力特性とを連立させた方程式に基づいて、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御装置。
【請求項19】
請求項17又は請求項18に記載の波長可変半導体レーザ素子の制御装置において、
前記記憶部は、予め、前記波長可変領域及び前記熱補償領域における自然放出光の電流依存性又は電圧依存性を記憶しておき、
前記処理部は、前記波長可変領域に投入される電力と前記熱補償領域に投入される電力との和から、前記波長可変領域で自然放出光により失われる電力と前記熱補償領域で自然放出光により失われる電力とを減算し、減算後の電力が常に一定となるように、前記波長可変領域及び前記熱補償領域への電流又は電圧を決定することを特徴とする波長可変半導体レーザ素子の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−218947(P2008−218947A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58090(P2007−58090)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】