説明

波面収差測定装置の校正方法、波面収差測定方法、波面収差測定装置、投影光学系の製造方法、投影光学系、投影露光装置の製造方法、投影露光装置、マイクロデバイスの製造方法、及びマイクロデバイス

【課題】波面収差測定装置のシステム誤差を確実に既知とすることのできる波面収差測定装置の校正方法を提供する。
【解決手段】被検光学系(0)の透過波面(W)の形状の勾配のデータ(δW)を取得する波面収差測定装置の校正方法であって、前記波面収差測定装置内の所定光学系と前記被検光学系(0)との相対位置関係(θ)を変化させる変化手順と、互いに異なる複数の前記相対位置関係の下で((a),(a’))それぞれ前記データを取得する測定手順と、前記取得された複数の前記データの間の差異(ΔδW)と、複数の前記相対位置関係の間の差異(θ1)とに基づき、前記所定光学系に起因するシステム誤差を求める校正手順とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャックハルトマン式波面収差測定装置やシアリング干渉計などの波面収差測定装置の校正方法、波面収差測定方法、及び波面収差測定装置に関する。
また、本発明は、その波面収差測定方法が適用された投影光学系の製造方法、及びその投影光学系に関する。
また、本発明は、その投影光学系の製造方法が適用された投影露光装置の製造方法、及びその投影露光装置に関する。
【0002】
また、本発明は、その投影露光装置を用いたマイクロデバイスの製造方法、及びそのマイクロデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
近年の半導体回路素子のパターンの微細化に伴い、その製造装置である投影露光装置の投影光学系は、高NA化かつ短波長化される傾向にある。よって、投影光学系の透過波面の形状を測定する波面収差測定装置(特許文献1、非特許文献1,2など)には、高い精度が要求される。
【特許文献1】特開2004−14764号公報
【非特許文献1】高橋徹,摩嶋孝章,高城洋明,「シャック・ハルトマンセンサーによる波面センシングの繰り返し型位相反復法による改善」,光学,2004年,第33巻第3号,P183−P191
【非特許文献2】Vincent Laude,Segolene Olivier,Carine Dirson,and Jean-Pierre Huignard,"シャックハルトマン式波面走査装置(Hartomann wave-front scanner)",OPTICS LETTERS,Optical Society of America,1999年12月15日,Vol.24,No.24,P1797−P1798
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、要求精度が高いと、装置にて生じる僅かなシステム誤差までも校正する必要が生じる。
そこで本発明は、波面収差測定装置のシステム誤差を確実に既知とすることのできる波面収差測定装置の校正方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、システム誤差に依らない高精度な測定が可能な波面収差測定方法、及び波面収差測定装置を提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は、高性能な投影光学系を製造することのできる投影光学系の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、高性能な投影光学系を提供することを目的とする。
また、本発明は、高性能な投影露光装置を製造することのできる投影露光装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、高性能な投影露光装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、高性能なマイクロデバイスを製造することのできるマイクロデバイスの製造方法、及びマイクロデバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の波面収差測定装置の校正方法は、被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する波面収差測定装置の校正方法であって、前記波面収差測定装置内の所定光学系と前記被検光学系との相対位置関係を変化させる変化手順と、互いに異なる複数の前記相対位置関係の下でそれぞれ前記データを取得する測定手順と、前記取得された複数の前記データの間の差異と複数の前記相対位置関係の間の差異とに基づき前記所定光学系に起因するシステム誤差を求める校正手順とを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の波面収差測定装置の校正方法は、請求項1に記載の波面収差測定装置の校正方法において、前記変化手順では、光軸の周りに前記相対位置関係を変化させることを特徴とする。
請求項3に記載の波面収差測定装置の校正方法は、請求項1又は請求項2に記載の波面収差測定装置の校正方法において、前記所定光学系は、前記被検光学系より後段に配置される検出光学系であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の波面収差測定装置の校正方法は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の波面収差測定装置の校正方法において、前記校正手順では、前記データの差異を所定の多項式にフィッティングすることにより前記システム誤差を求め、前記所定の多項式は、前記透過波面の評価すべき形状成分の最高次数よりも高次の多項式からなることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の波面収差測定方法は、被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する波面収差測定装置を用いた波面収差測定方法であって、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の波面収差測定装置の校正方法により前記波面収差測定装置のシステム誤差を求めて記憶し、前記波面収差測定装置が取得した前記データと前記記憶したシステム誤差とに基づき、前記被検光学系の透過波面の形状をそのシステム誤差に依らずに求めることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の波面収差測定装置は、被検光学系に測定光束を投光する投光光学系と、前記被検光学系を通過した前記測定光束に基づきその被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する検出光学系と、前記投光光学系及び前記検出光学系の一部又は全部である所定光学系と前記被検光学系との相対位置関係を変化させる変化機構と、互いに異なる複数の前記相対位置関係の下でそれぞれ前記データを取得する制御手段と、前記取得された複数の前記データの間の差異と複数の前記相対位置関係の間の差異とに基づき前記所定光学系に起因するシステム誤差を求める演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の波面収差測定装置は、請求項6に記載の波面収差測定装置において、前記変化機構は、光軸の周りに前記相対位置関係を変化させることを特徴とする。
請求項8に記載の波面収差測定装置は、請求項6又は請求項7に記載の波面収差測定装置において、前記所定光学系は、前記検出光学系であることを特徴とする。
請求項9に記載の波面収差測定装置は、請求項6〜請求項8の何れか一項に記載の波面収差測定装置において、前記演算手段は、前記データの差異を所定の多項式にフィッティングすることにより前記システム誤差を求め、前記所定の多項式は、前記透過波面の評価すべき形状成分の最高次数よりも高次の多項式からなることを特徴とする。
【0013】
請求項10に記載の投影光学系の製造方法は、請求項5に記載の波面収差測定方法により投影光学系を測定し、前記測定の結果に応じて前記投影光学系を調整することを特徴とする。
請求項11に記載の投影光学系は、請求項10に記載の投影光学系の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0014】
請求項12に記載の投影露光装置の製造方法は、請求項10に記載の投影光学系の製造方法により投影光学系を製造する手順を含むことを特徴とする。
請求項13に記載の投影露光装置は、請求項12に記載の投影露光装置の製造方法により製造されたことを特徴とする。
請求項14に記載の投影露光装置は、請求項6〜請求項9の何れか一項に記載の波面収差測定装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項15に記載のマイクロデバイスの製造方法は、請求項13又は請求項14に記載の投影露光装置によりマイクロデバイスを製造することを特徴とする。
請求項16に記載のマイクロデバイスは、請求項15に記載のマイクロデバイスの製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、波面収差測定装置のシステム誤差を確実に既知とすることのできる波面収差測定装置の校正方法が実現する。
また、本発明によれば、システム誤差に依らない高精度な測定が可能な波面収差測定方法、及び波面収差測定装置が実現する。
また、本発明によれば、高性能な投影光学系を製造することのできる投影光学系の製造方法が実現する。
【0017】
また、本発明によれば、高性能な投影光学系が実現する。
また、本発明によれば、高性能な投影露光装置を製造することのできる投影露光装置の製造方法が実現する。
また、本発明によれば、高性能な投影露光装置が実現する。
また、本発明によれば、高性能なマイクロデバイスを製造することのできるマイクロデバイスの製造方法が実現する。
【0018】
また、本発明によれば、高性能なマイクロデバイスが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、図1、図2を参照して本発明の第1実施形態を説明する。
本実施形態は、シャックハルトマン式波面収差測定装置の実施形態である。
本測定装置の測定対象は、使用波長が可視光〜紫外光の範囲に収まるような被検光学系である。被検光学系は、例えば、投影露光装置に搭載される投影光学系である。
【0020】
先ず、本測定装置の構成を説明する。
本測定装置には、図1に示すように、照明光学系11、透過型のピンホール板12、コンデンサレンズ13、集光レンズアレイ14、CCD撮像素子15が順に配置される。透過型のピンホール板12とコンデンサレンズ13との間に、被検光学系POがセットされる。このうち、照明光学系11及び透過型のピンホール板12が請求項の投光光学系に対応する。また、本測定装置には、ステージ16、制御回路17、コンピュータ18なども備えられる。
【0021】
なお、以下に説明する制御回路17の動作の一部又は全部は、コンピュータ18によって実行されてもよい。また、以下に説明するコンピュータ18の動作の一部又は全部は、制御回路17によって実行されてもよい。
ステージ16は、本測定装置の校正(詳細は後述)に利用される。ステージ16は、制御回路17からの指示に従い、被検光学系POを光軸の周りに回転させ、被検光学系POの配置角度θを変化させる。このステージ16の動作によると、被検光学系POと本測定装置の全光学系との相対位置関係が変化する。
【0022】
なお、被検光学系POの物体面に、透過型のピンホール板12のピンホールHが位置しており、被検光学系POの像面より後ろ側の光束に、コンデンサレンズ13が挿入される。また、集光レンズアレイ14の各レンズレット141,142,・・・の集光面は、CCD撮像素子15の撮像面15aに一致している。
次に、本測定装置の基本動作を説明する。
【0023】
照明光学系11は、制御回路17からの指示に従い、被検光学系POの使用波長と同じ波長の光(ここでは、可視光〜紫外光の範囲に収まる光)を射出する。
照明光学系11が透過型のピンホール板12を照明すると、透過型のピンホール板12のピンホールHにて理想的球面波が発生する。
この理想的球面波は、測定光束として被検光学系POに入射し、被検光学系POの収差に応じてその波面を変形させて被検光学系POを射出する。
【0024】
被検光学系POを射出した測定光束の波面(透過波面W)は、コンデンサレンズ13に入射して位相の揃った波面に近づけられ、集光レンズアレイ14に入射する。
集光レンズアレイ14に入射した透過波面Wのうち、集光レンズアレイ14の各レンズレット141,142,・・・に個別に入射した各部分波面は、CCD撮像素子15の撮像面15a上の各部分領域にそれぞれ集光スポットS1,S2,・・・を形成する(図2(b)参照)。
【0025】
なお、図1、図2では、集光レンズアレイ14のレンズレット141,142,・・・の数、及び集光スポットS1,S2,・・・の数を実際よりも少なく表した。
CCD撮像素子15は、制御回路17からの指示に従い、それら集光スポットS1,S2,・・・が撮像面15a上に生じさせる輝度分布を一括して検出する。
CCD撮像素子15が取得したデータは、制御回路17を介してコンピュータ18に取り込まれる。
【0026】
コンピュータ18は、図2(b)に示すようにそのデータを解析し、撮像面15a上の座標で、各部分領域内の各画素値の重心位置を求め、それを各集光スポットS1,S2,・・・の重心位置とする。
コンピュータ18は、各集光スポットS1,S2,・・・の重心位置の理想位置からのずれ(ΔX,ΔY1,(ΔX,ΔY2,・・・を求める(なお、ΔXは、X方向のずれ、ΔYは、Y方向のずれである。)。
【0027】
コンピュータ18は、ずれ(ΔX,ΔY1,(ΔX,ΔY2,・・・をそれぞれレンズレット141,142,・・・の焦点距離Lで除して除算値(ΔX/L,ΔY/L)1,(ΔX/L,ΔY/L)2,・・・を得る。
この除算値(ΔX/L,ΔY/L)1,(ΔX/L,ΔY/L)2,・・・は、上述した透過波面Wの各部分波面の勾配(δWx,δWY1,(δWx,δWY2,・・・を示す。
【0028】
以下、除算値(ΔX/L,ΔY/L)1,(ΔX/L,ΔY/L)2,・・・を、勾配データ(δWx,δWY1,(δWx,δWY2,・・・と称す。勾配データ(δWx,δWY1,(δWx,δWY2,・・・が、請求項における「勾配のデータ」に対応する。
次に、本測定装置の校正動作を説明する。
校正では、本測定装置に任意の被検光学系POがセットされる。校正時にセットされる被検光学系POは、測定対象となる被検光学系であっても、その他の光学系(基準光学系)であってもよい。
【0029】
ピンホールHの位置は、被検光学系POの物体面上の中心に設定される。この状態で、第1の校正用測定、第2の校正用測定が行われる。
先ず、第1の校正用測定では、被検光学系POの配置角度θが、図2(a)に示すように、第1の値(θ=0)に設定される。
この状態で、第1の勾配データ(δWX,δWY1,(δWX,δWY2,・・・が取得される(図2(b)参照)。
【0030】
一方、第2の校正用測定では、被検光学系POの配置角度θが、図2(a’)に示すように、第2の値(θ=θ1)に設定される。なお、図2(a),(a’)には、配置角度θの変化を可視化するために、被検光学系POに点線円のマークを付した。
因みに、θ1の値は、例えば、90°、45°、135°などπ/2の整数倍に相当する角度に設定される。
【0031】
この状態で、第2の勾配データ(δWX’,δWY’)1,(δWX’,δWY’)2,・・・が取得される(図2(b’)参照)。なお、図2(b),(b)には、配置角度θの変化を可視化するために、撮像面15aに入射する光束のエッジに、直線のマークを付した。
以下、第1の勾配データ(δWX,δWY1,(δWX,δWY2,・・・を、まとめて第1の勾配データ(δWX,δWY)と称し、第2の勾配データ(δWX’,δWY’)1,(δWX’,δWY’)2,・・・を、まとめて第2の勾配データ(δWX’,δWY’)と称す。
【0032】
先ず、第1の勾配データ(δWX,δWY)には、信号成分(δWTX,δWTY)の他に、システム誤差成分(δWSX,δWSY)が重畳されているので、式(1X),(1Y)で表される。
【0033】
【数1】

なお、式(1X),(1Y)における信号成分(δWTX,δWTY)は、第1の校正用測定時における透過波面Wの信号成分WTのX方向の勾配、Y方向の勾配である。透過波面Wの信号成分WTとは、被検光学系POの収差に起因して透過波面Wに生じた変形を指す。
【0034】
また、式(1X),(1Y)におけるシステム誤差成分(δWSX,δWSY)は、第1の校正用測定時における透過波面Wのシステム誤差成分WSのX方向の勾配、Y方向の勾配である。透過波面Wのシステム誤差成分とは、本測定装置のシステム誤差に起因して透過波面Wに生じた変形を指す。
ここでいうシステム誤差には、ピンホール板12の製造誤差(測定光束の理想的球面波からのずれ)、コンデンサレンズ13の収差及び配置誤差、集光レンズ14の収差及び配置誤差、CCD撮像素子15の製造誤差及び配置誤差などが含まれる。
【0035】
一方、第2の勾配データ(δWX’,δWY’)には、信号成分(δWTX’,δWTY’)の他に、システム誤差成分(δWSX,δWSY)が重畳されているので、式(2X),(2Y)で表される。
【0036】
【数2】

なお、式(2X),(2Y)における信号成分(δWTX’,δWTY’)は、第2の校正用測定時における透過波面W’の信号成分WT’のX方向の勾配、Y方向の勾配である。
第1の校正用測定と第2の校正用測定との間では、撮像面15aに対して被検光学系POの配置角度θがθ1だけ変化するので、この式(2X),(2Y)における信号成分(δWTX’,δWTY’)は、式(1X),(1Y)における信号成分(δWTX,δWTY)をθ1だけ回転させたものに相当する。
【0037】
但し、被検光学系PO以外の光学系の配置角度は変化しないので、式(2X),(2Y)におけるシステム誤差成分は、式(1X),(1X)におけるシステム誤差成分と同じである。
次に、コンピュータ18は、式(3X),(3Y)により第1の勾配データ(δWX,δWY)と第2の勾配データ(δWX’,δWY’)との差分データ(ΔδWX,ΔδWY)を取得する(図2下部参照)。
【0038】
【数3】

上述した式(1X),(1Y),(2X),(2Y)により、この差分データ(ΔδWX,ΔδWY)は、式(4X),(4Y)で表される。
【0039】
【数4】

したがって、差分データ(ΔδWX,ΔδWY)は、システム誤差成分に依らず、信号成分の差分のみを示す。
次に、コンピュータ18は、その差分データ(ΔδWX,ΔδWY)を所定の多項式にフィッティングして透過波面Wの信号成分WTを求める。
【0040】
ここで、差分データ(ΔδWX,ΔδWY)をフィッティングすべき所定の多項式について説明する。
先ず、第1の校正用測定における透過波面Wの信号成分WTは、ツェルニケ多項式によって式(5)のとおり表されることは周知である。
【0041】
【数5】

なお、Zkはツェルニケ多項式の各次数の項、AkはZkの係数である。
よって、第1の校正用測定における信号成分(δWTX,δWTY)は、式(6X),(6Y)のとおり表される。
【0042】
【数6】

但し、δZXkは、ZkのX方向の微分、δZYkは、ZkのY方向の微分である。
このとき、第2の校正用測定における透過波面W’の信号成分WT’は、式(5)の各項「Zk」をθ1だけ回転させたもの「Zk’」によって式(7)のとおり表される。
【0043】
【数7】

よって、第2の校正用測定における信号成分(δWTX’,δWTY’)は、式(8X),(8Y)のとおり表される。
【0044】
【数8】

但し、δZXk’は、Zk’のX方向の微分、δZYk’は、Zk’のY方向の微分である。
以上の式(6X),(6Y),(8X),(8Y)に基づけば、式(4X),(4Y)の右辺は、式(9X),(9Y)に示す所定の多項式でそれぞれ表されることがわかる。
【0045】
【数9】

したがって、差分データ(ΔδWX,ΔδWY)のフィッティングには、式(9X),(9Y)の多項式が用いられる。
因みに、この多項式は、第1の校正用測定と第2の校正用測定との間の位置関係の差異(ここでは、配置角度θの差異)を考慮した多項式となっている。
【0046】
以下、式(9X),(9Y)の多項式を式(10X),(10Y)のとおり置き換える。
【0047】
【数10】

次に、フィッティングの詳細を説明する。
フィッティングでは、コンピュータ18は、式(11)で表される値Mが最小となるような係数A1,A2,A3,・・・ANの値を求める。
【0048】
【数11】

つまり、式(12)で表されるN個の連立方程式を満たす係数A1,A2,A3,・・・ANの値が求められる。
【0049】
【数12】

コンピュータ18は、求めた係数A1,A2,A3,・・・ANの値を式(5)の右辺に代入し、第1の校正用測定における透過波面Wの信号成分WTを求める。
次に、コンピュータ18は、求めた信号成分WTと、第1の勾配データ(δWX,δWY)と、式(1X),(1Y)などに基づき、第1の勾配データ(δWX,δWY)のシステム誤差成分(δWSX,δWSY)、又は透過波面Wのシステム誤差成分WSを求めて記憶する。ここでは、記憶される情報を、透過波面Wのシステム誤差成分WSとする(以上、校正動作)。
【0050】
次に、本測定装置の校正後の測定動作を説明する。
校正後の測定では、測定対象となる被検光学系POが本測定装置にセットされる。ピンホールHの位置は、その被検光学系POの測定対象物点である。この状態で、校正後の測定が行われ、勾配データ(δWX,δWY)が取得される。
コンピュータ18は、取得した勾配データ(δWX,δWY)に基づき、従来と同様の手法により透過波面Wを復元する。
【0051】
例えば、復元では、コンピュータ18は、勾配データ(δWX,δWY)を、所定の多項式(ツェルニケ多項式を微分したもの、式(6X),(6Y)の右辺と同じ。)にフィッティングし、その多項式の係数A1,A2,A3,・・・ANの値を決定する。決定された係数A1,A2,A3,・・・ANと、ツェルニケ多項式(式(5)の右辺と同じ。)とで表される波面を、復元透過波面Wとする。
【0052】
そして、コンピュータ18は、その復元透過波面Wから、予め記憶したシステム誤差成分WSを差し引く。それによって得られる差分波面が、透過波面Wの信号成分WTである(以上、校正後の測定動作)。
次に、本測定装置の効果を説明する。
本測定装置の校正動作によると、被検光学系POに対する所定の光学系(ここでは、被検光学系PO以外の全光学系)の相対位置関係が変化し、各相対位置関係の下でそれぞれ勾配データ(δWX,δWY),(δWX’,δWY’)が取得される(図2参照。)。
【0053】
これら勾配データ(δWX,δWY)と勾配データ(δWX’,δWY’)との間には、所定の光学系に起因するシステム誤差成分(δWSX,δWSY)は等しく重畳されるが、透過波面Wの信号成分(δWTX,δWTY)は、所定量だけずれて重畳される(式(1X),(1Y),(2X),(2Y)参照)。
本測定装置の校正動作では、その事実を利用し、勾配データ(δWX,δWY),(δWX’,δWY’)の差分データ(ΔδWX,ΔδWY)を求めることにより、システム誤差成分を消去する(式(4X),(4Y)参照)。
【0054】
さらに、本測定装置の校正動作では、その差分データ(ΔδWX,ΔδWY)と式(10X),(10Y)の多項式とに基づき、所定の光学系(ここでは、被検光学系PO以外の全光学系)に起因するシステム誤差成分が求められ、かつ記憶される。
このように、各相対位置関係の差異(ここでは配置角度θの差異)が考慮された多項式に基づけば、そのシステム誤差成分は確実に求められる。
【0055】
以上の校正動作の結果、本測定装置の校正後の測定動作では、1回の測定のみによって、透過波面Wの信号成分WTのデータを得ることが可能になった。つまり所定の光学系(ここでは、被検光学系PO以外の全光学系)に起因するシステム誤差の影響を受けない測定が可能になった。
また、本実施形態では、相対位置関係を変化させるための運動が、被検光学系POの光軸周りの回転なので、式(7)の多項式は、式(5)の多項式を回転させただけの式となる。
【0056】
なお、本実施形態では、ステージ16の移動対象が、被検光学系POであるが、被検光学系PO以外の全光学系に代えてもよい。被検光学系POと全光学系との相対位置関係が上述したものと同様に変化するのであれば、同じ効果が得られる。
また、本実施形態では、被検光学系POとそれ以外の全光学系との相対位置関係を変化させたが、透過型のピンホール板12の製造誤差が十分に小さいときには、被検光学系POと被検光学系POより後段の検出光学系(符号13,14,15)との相対位置関係を変化させてもよい。
【0057】
また、上述した校正動作は、被検光学系POがセットされる毎に行われる必要は無いが、少なくとも、本測定装置の何れかの光学素子の位置や姿勢がずれたときに行われることが望ましい。
また、本実施形態の校正動作では、相対位置関係を2種類にしか変化させなかったが、3種類以上に変化させると共に、各相対位置関係の下で勾配データを取得し、3種類以上の勾配データに基づきシステム誤差成分をさらに高精度に求めてもよい。
【0058】
また、本実施形態の校正動作では、相対位置関係を変化させるための運動を、光軸周りの回転としたが、光軸に垂直な方向へのシフトとしてもよい。
また、本測定装置において上述した校正動作及び測定動作は自動化されているが、その一部又は全部を測定者が手動で行ってもよい。
[第2実施形態]
以下、図3を参照して本発明の第2実施形態を説明する。
【0059】
本実施形態は、シャックハルトマン式波面収差測定装置の実施形態である。ここでは、第1実施形態の測定装置との相違点のみ説明する。
主な相違点は、被検光学系POの使用波長が極端紫外光(EUV光、波長50nm以下、例えば波長13.4nm)である点にある。被検光学系POは、反射型、かつ斜入射型の投影光学系である。
【0060】
それに伴い、本測定装置においては、図3に示すように、透過型のピンホール板12に代えて反射型のピンホール板22が備えられ、コンデンサレンズ13に代えてコンデンサミラー23が備えられ、集光レンズアレイ14に代えてゾーンプレートアレイ24が備えられる。
本測定装置の照明光学系11は、被検光学系POの使用波長と同じ波長の光(ここでは、EUV光)を射出する。反射型のピンホール板22は、そのEUV光を反射して理想的球面波を生成する。コンデンサミラー23は、そのEUV光にパワーを与える。ゾーンプレートアレイ24は、入射したEUV光を一部宛集光する単位ゾーンプレート241,242,・・・をアレイ状に配置している。
【0061】
つまり、本測定装置は、各構成要素に、EUV光を導光するための特性が付与されている。
また、本測定装置のステージ16は、被検光学系POと本測定装置の所定の光学系との相対位置関係を変化させるためのステージである。
ここで、本測定装置では、被検光学系POが斜入射型なので、被検光学系POとそれよりも前段の投光光学系(照明光学系11及び反射型のピンホール板22)との相対位置関係が変化すると、所望の測定光束を投光できなくなる。
【0062】
このため、本実施形態では、反射型のピンホール板22の製造誤差を十分に小さいとみなし、ステージ16の移動対象を、被検光学系POよりも後段の全光学系(ここでは、コンデンサミラー23、ゾーンプレートアレイ24、CCD撮像素子15からなる検出光学系10)とした。
つまり、ステージ16は、制御回路17からの指示に従い、検出光学系10を光軸の周り(図3中矢印参照)に回転させ、その検出光学系10の配置角度θを変化させる。
【0063】
以上の本測定装置によれば、反射型のピンホール板22に起因するシステム誤差の影響は受けるものの、検出光学系10に起因するシステム誤差の影響を受けない測定が可能になる。
一般に、ピンホールに起因するシステム誤差は、検出光学系10に起因するシステム誤差と比較すると小さいので、本測定装置による効果は、十分に有意である。
【0064】
なお、本測定装置においては、ゾーンプレートアレイ24に代えてピンホールアレイを適用することもできる。
また、本測定装置は、全ての構成要素が屈折レンズ以外の光学素子(反射光学素子又は回折光学素子)からなるが、EUV光を導光する特性が付与されているのであれば、その一部に屈折レンズを用いてもよい。
【0065】
[第3実施形態]
以下、図4、図5を参照して本発明の第3実施形態を説明する。
本実施形態は、シアリング干渉計を用いた波面収差測定装置の実施形態である。ここでは、第1実施形態の測定装置との相違点のみ説明する。
主な相違点は、シアリング干渉計を用いた点と、被検光学系POの使用波長が極端紫外光(EUV光、波長50nm以下、例えば波長13.4nm)である点にある。被検光学系POは、反射型、かつ斜入射型の投影光学系である。
【0066】
それに伴い、本測定装置においては、図4に示すように、透過型のピンホール板12に代えて反射型のピンホール板22が備えられ、コンデンサレンズ13及び集光レンズアレイ14に代えて回折格子41、マスク42が備えられる。
回折格子41の挿入位置は、被検光学系POと像面との間であり、マスク42の挿入位置は、その像面である。
【0067】
本測定装置の照明光学系11は、被検光学系POの使用波長と同じ波長の光(ここでは、EUV光)を射出する。反射型のピンホール板22は、そのEUV光を反射して理想的球面波を生成する。
また、本測定装置のステージ16は、被検光学系POと本測定装置の所定の光学系との相対位置関係を変化させるためのステージである。
【0068】
ここで、本測定装置では、被検光学系POが斜入射型なので、被検光学系POとそれよりも前段の投光光学系(照明光学系11及び反射型のピンホール板22)との相対位置関係が変化すると、所望の測定光束を投光できなくなる。
このため、本実施形態では、反射型のピンホール板22の製造誤差を十分に小さいとみなし、ステージ16の移動対象を、被検光学系POよりも後段の全光学系(ここでは、回折格子41、マスク42、CCD撮像素子15からなる検出光学系20)とした。
【0069】
つまり、ステージ16は、制御回路17からの指示に従い、検出光学系20を光軸の周り(図4中矢印参照)に回転させ、その検出光学系20の配置角度θを変化させる。
次に、本測定装置の基本動作を説明する。
照明光学系11が制御回路17からの指示に従い反射型のピンホール板22を照明すると、反射型のピンホール板22のピンホールHにて理想的球面波が発生する。
【0070】
この理想的球面波は、測定光束として被検光学系POに入射し、被検光学系POの収差に応じてその波面を変形させて被検光学系POを射出する。
被検光学系POを射出した測定光束の波面(透過波面W)は、図4の下部の円枠内に拡大して示したように、回折格子41にて+1次回折光からなるシア波面W1と、−1次回折光からなるシア波面W-1とにシア(分割)されてからマスク42に入射する。
【0071】
これらのシア波面W1,W-1はマスク42を通過し、回折格子41にて生じたその他の余分な光はマスク42にてカットされる。
ここで、本測定装置は、上述したシアの方向(シア方向)を互いに直交するX方向とY方向とに切り替えることができる。例えば、回折格子41には、互いに直交する2種類の回折パターンが並べて形成されており、その2種類の回折パターンが回折格子41のスライドにより切り替えられる。或いは、1種類の回折パターンが刻まれた回折格子41が光軸の周りに90°回転する。なお、シア方向の切り替え方法の詳細については、従来の何れかのシアリング干渉計におけるそれと同じなので、説明を省略する。
【0072】
先ず、シア方向がX方向であるときに生起するシア波面W1,W-1をW1X,W-1Xとする。これらのシア波面W1X,W-1Xは、図5(b)に示すように撮像面15a上でX方向にΔxだけずれて入射し、両者の重複部分に干渉縞を生起させる。
一方、シア方向がY方向であるときに生起するシア波面W1,W-1をW1Y,W-1Yとする。これらのシア波面W1Y,W-1Yは、図5(c)に示すように撮像面15a上でY方向にΔyだけずれて入射し、両者の重複部分に干渉縞を生起させる。
【0073】
CCD撮像素子15は、制御回路17からの指示に従い、シア方向がX方向であるときに生起する干渉縞と、シア方向がY方向であるときに生起する干渉縞との2種類の干渉縞をそれぞれ検出する。
CDD撮像素子15が取得した2種類の干渉縞のデータは、制御回路17を介してコンピュータ18に取り込まれる。
【0074】
コンピュータ18は、2種類の干渉縞のデータを解析し、2種類の干渉縞の位相分布データ(ΔW1X,ΔW1Y)を求める。これらの位相分布データ(ΔW1X,ΔW1Y)は、シア波面(W1X,W-1X)の差分、シア波面(W1Y,W-1Y)の差分を示すので、以下、位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)と称す。この位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)が、請求項における「勾配のデータ」に対応する。
【0075】
次に、本測定装置の校正動作を説明する。
校正では、本測定装置に任意の被検光学系POがセットされる。校正時にセットされる被検光学系POは、測定対象となる被検光学系であっても、その他の光学系(基準光学系)であってもよい。この状態で、第1の校正用測定、第2の校正用測定が行われる。
先ず、第1の校正用測定では、検出光学系20の配置角度θが、図5(a)に示すように、第1の値(θ=0)に設定される。
【0076】
この状態で、シア方向の異なる2種類の第1の位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)が取得される(図5(b),(c)参照)。
以下、ΔW1XをX方向の第1の位相差データ、ΔW1YをY方向の第1の位相差データと称す。
一方、第2の校正用測定では、検出光学系20の配置角度θが、図5(a’)に示すように、第2の値(θ=θ1)に設定される。なお、図5(a),(a’)には、CCD撮像素子15を基準とした被検光学系POの配置角度θの変化を可視化するために、被検光学系POに点線円のマークを付した。
【0077】
因みに、θ1の値は、例えば、90°、45°、135°などπ/2の整数倍に相当する角度に設定される。
この状態で、シア方向の異なる2種類の第2の位相差データ(ΔW1X’,ΔW1Y’)が取得される(図(b’),(c’)参照)。なお、図5(b),(b’),(c),(c’)には、CCD撮像素子15を基準とした被検光学系POの配置角度θの変化を可視化するために、撮像面15aに入射する光束のエッジに、直線のマークを付した。
【0078】
以下、ΔW1X’をX方向の第2の位相差データ、ΔW1Y’をY方向の第2の位相差データと称す。
先ず、X方向の第1の位相差データΔW1Xには、信号成分(WT1X−WT-1X)の他に、検出光学系20に起因するシステム誤差成分(WG1X−WG-1X),WSXが重畳されている。
【0079】
同様に、Y方向の第1の位相差データΔW1Yには、信号成分(WT1Y−WT-1Y)の他に、検出光学系20に起因するシステム誤差成分(WGY−WG-1Y),WSYが重畳されている。
よって、X方向及びY方向の第1の位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)は、式(13X),(13Y)で表される。
【0080】
【数13】

なお、式(13X)における信号成分(WT1X,WT-1X)は、第1の校正用測定時かつシア方向がX方向であるときのシア波面(W1X,W-1X)の信号成分である。
また、式(13Y)におけるの信号成分(WT1Y,WT-1Y)は、第1の校正用測定時かつシア方向がY方向であるときのシア波面(W1Y,W-1Y)の信号成分である。
【0081】
また、式(13X)におけるシステム誤差成分(WG1X,WG-1X)は、第1の校正用測定時かつシア方向がX方向であるときに回折格子41に起因してシア波面(W1X,W-1X)に重畳するシステム誤差成分であり、システム誤差成分WSXは、そのときにCCD撮像素子15の姿勢誤差に起因して位相差データΔW1Xに重畳するシステム誤差成分である。
また、式(13Y)におけるシステム誤差成分(WG1Y,WG-1Y)は、第1の校正用測定時かつシア方向がY方向であるときに回折格子41に起因してシア波面(W1Y,W-1Y)に重畳するシステム誤差成分であり、システム誤差成分WSYは、そのときにCCD撮像素子15の姿勢誤差に起因して位相差データΔW1Yに重畳するシステム誤差成分である。
【0082】
一方、X方向の第2の位相差データΔW1X’には、信号成分(WT1X’−WT-1X’)の他に、検出光学系20に起因するシステム誤差成分(WG1X−WG-1X),WSXが重畳されている。
同様に、Y方向の第2の位相差データΔW1Y’には、信号成分(WT1Y’−WT-1Y’)の他に、検出光学系20に起因するシステム誤差成分(WG1Y−WG-1Y),WSYが重畳されている。
【0083】
よって、X方向及びY方向の第2の位相差データ(ΔW1X’,ΔW1Y’)は、式(14X),(14Y)で表される。
【0084】
【数14】

なお、式(14X)における信号成分(WT1X’,WT-1X’)は、第2の校正用測定時かつシア方向がX方向であるときのシア波面(W1X’,W-1X’)の信号成分である。
また、式(14Y)における信号成分(WT1Y’,WT-1Y’)は、第2の校正用測定時かつシア方向がY方向であるときのシア波面(W1Y’,W-1Y’)の信号成分である。
【0085】
第1の校正用測定と第2の校正用測定との間では、撮像面15aに対して被検光学系POの配置角度θがθ1だけ変化するので、この式(14X)における信号成分(WT1X’,WT-1X’)は、式(13X)における信号成分(WT1X,WT-1X)をθ1だけ回転させたものに相当し、式(14Y)における信号成分(WT1Y’,WT-1Y’)は、式(13Y)における信号成分(WT1Y,WT-1Y)をθ1だけ回転させたものに相当する。
【0086】
但し、撮像面15aに対して検出光学系20の配置角度は変化しないので、式(14X),(14Y)におけるシステム誤差成分は、式(13X),(13Y)におけるシステム誤差成分と同じである。
次に、コンピュータ18は、式(15X),(15Y)によりX方向及びY方向の第1の位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)と、X方向及びY方向の第2の位相差データ(ΔW1X’,ΔW1Y’)との差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)を取得する。
【0087】
【数15】

上述した式(13X),(13Y),(14X),(14Y)により、この差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)は、式(16X),(16Y)で表される。
【0088】
【数16】

したがって、差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)は、検出光学系20に起因するシステム誤差成分に依らず、信号成分の差分のみを示す。
次に、コンピュータ18は、その差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)を所定の多項式にフィッティングして透過波面Wの信号成分WTを求める。
【0089】
ここで、差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)をフィッティングすべき所定の多項式について説明する。
先ず、第1の校正用測定における透過波面Wの信号成分WTは、ツェルニケ多項式によって上述した式(5)のとおり表されることは周知である。
よって、第1の校正用測定における信号成分(WT1X−WT-1X),(WT1Y−WT-1Y)は、式(17X),(17Y)のとおり表される。なお、ΔxはX方向のシア量(図5(b),(b’)参照)、ΔyはY方向のシア量(図5(c),(c’)参照)である。
【0090】
【数17】

但し、ΔZXkは、ZkをX方向にΔxだけずらした差分、ΔZYkは、ZkをY方向にΔyだけずらした差分である。
このとき、第2の校正用測定における透過波面W’の信号成分WT’は、上述した式(5)の各項「Zk」をθ1だけ回転させたもの「Zk’」によって式(7)のとおり表される。
【0091】
よって、第2の校正用測定における信号成分(WT1X’−WT-1X’),(WT1Y’−WT-1Y’)は、式(18X),(18Y)のとおり表される。
【0092】
【数18】

なお、ΔZXk’は、Zk’をX方向にΔxだけずらした差分、ΔZYk’は、Zk’をY方向にΔyだけずらした差分である。
以上の式(17X),(17Y),(18X),(18Y)に基づけば、式(16X),(16Y)の右辺は、式(19X),(19Y)に示す所定の多項式でそれぞれ表されることがわかる。
【0093】
【数19】

したがって、差分データ(ΔΔW1X,ΔΔW1Y)のフィッティングには、式(19X),(19Y)の多項式が用いられる。
因みに、この多項式は、第1の校正用測定と第2の校正用測定との間の位置関係の差異(ここでは、配置角度θの差異)を考慮した多項式となっている。
【0094】
以下、式(19X),(19Y)の多項式を式(20X),(20Y)のとおり置き換える。
【0095】
【数20】

次に、フィッティングの詳細を説明する。
フィッティングでは、コンピュータ18は、式(21)で表される値Kが最小となるような係数A1,A2,A3,・・・ANの値を求める。
【0096】
【数21】

つまり、式(22)で表されるN個の連立方程式を満たす係数A1,A2,A3,・・・ANの値が求められる。
【0097】
【数22】

コンピュータ18は、求めた係数A1,A2,A3,・・・ANの値を式(5)の右辺に代入し、第1の校正用測定における透過波面Wの信号成分WTを求める。
次に、コンピュータ18は、求めた信号成分WTと、X方向及びY方向の第1の位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)と、式(13X),(13Y)などに基づき、第1の位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)のシステム誤差成分{(WG1X−WG-1X)+WSX},{(WG1Y−WG-1Y)+WSY}、又は、透過波面Wのシステム誤差成分WSを求めて記憶する。ここでは、記憶される情報を、透過波面Wのシステム誤差成分WSとする(以上、校正動作)。
【0098】
次に、本測定装置の校正後の測定動作を説明する。
校正後の測定では、測定対象となる被検光学系POが本測定装置にセットされる。ピンホールHの位置は、その被検光学系POの測定対象物点である。この状態で、校正後の測定が行われ、位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)が取得される。
コンピュータ18は、取得した位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)に基づき、従来と同様の手法により透過波面Wを復元する。
【0099】
例えば、復元では、コンピュータ18は、位相差データ(ΔW1X,ΔW1Y)を、所定の多項式(ツェルニケ多項式の差分をとったもの、式(17X),(17Y)の右辺と同じ。)にフィッティングし、その多項式の係数A1,A2,A3,・・・ANの値を決定する。決定された係数A1,A2,A3,・・・ANと、ツェルニケ多項式(式(5)の右辺と同じ。)とで表される波面を、復元透過波面Wとする。
【0100】
そして、コンピュータ18は、その復元透過波面Wから、予め記憶したシステム誤差成分WSを差し引く。それによって得られる差分波面が、透過波面Wの信号成分WTである(以上、校正後の測定動作)。
以上の本測定装置によれば、反射型のピンホール板22に起因するシステム誤差の影響は受けるものの、検出光学系20に起因するシステム誤差の影響を受けない測定が可能になる。
【0101】
一般に、ピンホールに起因するシステム誤差は、検出光学系20に起因するシステム誤差と比較すると小さいので、本測定装置による効果は、十分に有意である。
[実施形態への補足]
上記各実施形態では、差分データのフィッティングに用いられる多項式の次数(式(5),(9X),(9Y),(19X),(19Y)の次数N)について言及しなかったが、復元透過波面Wのうち評価すべき波面収差の最高次数と同じにするよりも、その最高次数よりもさらに高い次数にすることが望ましい。
【0102】
例えば、評価すべき波面収差の最高次数が「36」であるとき、差分データのフィッティングに用いられる多項式の次数は「81」に設定される。
以下、その理由を説明する。
図6は、差分データのフィッティングに用いられたツェルニケ多項式の次数と、求められた係数Ak(k=1〜36)との関係を示す図である。図6の横軸は、係数Akの次数k、縦軸は、係数Akの大きさを使用波長λの単位で表したものである。
【0103】
「DZ36」は、ツェルニケ多項式の次数を「36」にしたときのデータ、「DZ81」は、ツェルニケ多項式の次数を「81」にしたときのデータを示している。
この図6からは、ツェルニケ多項式の次数を「36」にすると、「81」にしたときと比較して、高次側の係数(図中円枠で示す高次の係数A25〜A36)が大幅にずれることがわかる。これは、ツェルニケ多項式の次数を「36」にすると、高次側の係数(A25〜A36)の誤差が大きくなることを示している。
【0104】
このとき、1次〜24次の波面収差については高精度に評価することができるものの、25次〜36次の波面収差については、あまり高精度に評価できない。
このため、或る次数の波面収差を高精度に評価するためには、ツェルニケ多項式の次数をその次数よりも、十分に余裕を持って高く設定することが望ましい。
[第4実施形態]
図7を参照して本発明の第4実施形態を説明する。
【0105】
本実施形態は、第2実施形態の波面収差測定装置と同じ機能が搭載されたEUVL用の投影露光装置の実施形態である。
本投影露光装置には、照明光学系101、反射型のレチクルR、レチクルステージ102、レチクルステージ102の駆動回路102c、反射型のピンホール板22、投影光学系PL、ウエハW、ウエハステージ106、ウエハステージ106の駆動回路106c、波面収差測定用のユニット30、制御部109などが配置される。
【0106】
投影光学系PLは、EUVL用の投影光学系であり、照明光学系101は、EUV光を出射する。照明光学系101は、露光用の照明光束を射出するものであるが、この照明光束は、波面収差測定時の測定光束としても用いられる。
反射型のピンホール板22は、波面収差測定時にのみ、レチクルRに代わり投影光学系PLの物体面に挿入される。
【0107】
なお、図7では、レチクルRと反射型のピンホール板22とが共にレチクルステージ102によって支持された様子を示した。レチクルステージ102の移動により、レチクルRと反射型のピンホール板22とが入れ替わる。
波面収差測定用のユニット30には、第2実施形態の測定装置の検出光学系10が配置されている。
【0108】
波面収差測定用のユニット30は、波面収差測定時にのみ、ウエハWに代わり被検光学系PLの像側の光路にセットされる。
なお、図7では、ウエハWと波面収差測定用のユニット30とが共にウエハステージ106によって支持された様子を示した。ウエハステージ106の移動により、ウエハWと波面収差測定用のユニット30とが入れ替わり、被検光学系10を光路に挿入することができる。
【0109】
ここで、本投影露光装置のウエハステージ106は、波面収差測定用のユニット30を光路にセットした状態で、制御部109からの指示に従い、波面収差測定用のユニット30を光軸の周り(図7中矢印参照)に回転させ、その検出光学系10の配置角度θを変化させることができる。
制御部109は、このようなウエハステージ106の動作を利用し、第1実施形態又は第2実施形態と同様に校正動作、及び測定動作を実行する。
【0110】
この制御部109の動作によれば、投影光学系PLの透過波面を、検出光学系10に起因するシステム誤差の影響を受けずに高精度に測定することができる。
したがって、本投影露光装置は、投影光学系PLの自己測定を高精度に行うことのできる高性能な投影露光装置となる。
なお、本実施形態では、第2実施形態の波面収差測定装置と同じ機能が搭載されたEUVL用の投影露光装置を説明したが、使用波長の異なる他の投影露光装置や、他の実施形態の何れかの波面収差測定装置と同じ機能が搭載された投影露光装置を構成することもできる。
【0111】
[第5実施形態]
図8を参照して本発明の第5実施形態を説明する。
本実施形態は、投影光学系の製造方法の実施形態である。この投影光学系は、EUVL用の投影光学系であっても、その他の投影光学系であってもよい。
図8は、投影光学系の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【0112】
投影光学系の光学設計をする(ステップS101)。このステップS101において、投影光学系内の各光学部材の各面形状が決定される。
各光学部材が加工される(ステップS102)。
加工された各光学部材の面形状を測定しつつその面精度誤差が小さくなるまで加工が繰り返される(ステップS102,S103,S104)。
【0113】
その後、全ての光学部材の面精度誤差が許容範囲内に収まると(ステップS104OK)、光学部材を完成させ、それら光学部材によって投影光学系を組み立てる(ステップS105)。
組み立て後、投影光学系の透過波面を、上述した実施形態の何れかの波面収差測定装置にて測定しつつ(ステップS106)、各光学部材の間隔調整や偏心調整などを行い(ステップS108)、投影光学系の波面収差が許容範囲内に収まった時点(ステップS107OK)で投影光学系PLを完成させる(以上、製造方法の手順)。
【0114】
次に、本製造方法の効果を説明する。
本製造方法では、投影光学系の測定に上述した実施形態の何れかの波面収差測定装置が用いられる。この波面収差測定装置によれば、投影光学系を、システム誤差の影響を受けずに高精度に測定することができるので、本製造方法によれば、高性能な投影光学系を製造することができる。
【0115】
さらに、本製造方法を利用すれば、レチクルのパターンをウエハに高精度に転写できる高性能な投影露光装置を製造することもできる。
[第6実施形態]
図9を参照して本発明の第6実施形態を説明する。
本実施形態は、上述した実施形態の何れかの投影露光装置により、マイクロデバイス(半導体素子、撮像素子、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッド等)を製造する製造方法の実施形態である。
【0116】
本製造方法は、図16に示す手順からなる。
1ロットのウエハ上に金属膜が蒸着される(ステップS301)。
その1ロットのウエハ上の金属膜上にフォトレジストが塗布される(ステップS302)。
上述した実施形態の何れかの投影露光装置を用いて、マスク上のパターンの像がその1ロットのウエハ上の各ショット領域に順次露光転写される(ステップS303)。
【0117】
その1ロットのウエハ上のフォトレジストの現像が行われた後(ステップS304)、ステップ305において、その1ロットのウエハ上でレジストパターンをマスクとしてエッチングが行われる。それにより、マスク上のパターンに対応する回路パターンが、各ウエハ上の各ショット領域に形成される。その後、上のレイヤの回路パターンの形成等が行われ、マイクロデバイスが完成する。
【0118】
このように、本製造方法では、ステップ303において上述した実施形態の何れかの投影露光装置が用いられるので、高性能なマイクロデバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第1実施形態の波面収差測定装置の構成図である。
【図2】(a),(b)は、第1実施形態の第1の校正用測定を説明する図、(a’),(b’)は、第1実施形態の第2の校正用測定を説明する図である。
【図3】第2実施形態の波面収差測定装置の構成図である。
【図4】第3実施形態の波面収差測定装置の構成図である。
【図5】(a),(b),(c)は、第3実施形態の第1の校正用測定を説明する図、(a’),(b’),(c’)は、第3実施形態の第2の校正用測定を説明する図である。
【図6】フィッティングに用いられる多項式の次数と係数の誤差との関係を説明する図である。
【図7】第4実施形態の投影露光装置の構成図である。
【図8】第5実施形態の投影光学系の製造方法のフローチャートである。
【図9】第6実施形態のマイクロデバイスの製造方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0120】
11,101 照明光学系
12 透過型のピンホール板
H ピンホール
13 コンデンサレンズ
23 コンデンサミラー
13 集光レンズアレイ
24 ゾーンプレートアレイ
141,142,・・・ レンズレット
241,242,・・・ 単位ゾーンプレート
1,S2,・・・ 集光スポット
15 CCD撮像素子
0 被検光学系
16 ステージ
17 制御回路
18 コンピュータ
22 反射型のピンホール板
10,20 検出光学系
PL 投影光学系
R 反射型のレチクル
102 レチクルステージ
102c,106c 駆動回路
W ウエハ
106 ウエハステージ
30 波面収差測定用のユニット
109 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する波面収差測定装置の校正方法であって、
前記波面収差測定装置内の所定光学系と前記被検光学系との相対位置関係を変化させる変化手順と、
互いに異なる複数の前記相対位置関係の下でそれぞれ前記データを取得する測定手順と、
前記取得された複数の前記データの間の差異と複数の前記相対位置関係の間の差異とに基づき前記所定光学系に起因するシステム誤差を求める校正手順と
を含むことを特徴とする波面収差測定装置の校正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の波面収差測定装置の校正方法において、
前記変化手順では、
光軸の周りに前記相対位置関係を変化させる
ことを特徴とする波面収差測定装置の校正方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の波面収差測定装置の校正方法において、
前記所定光学系は、
前記被検光学系より後段に配置される検出光学系である
ことを特徴とする波面収差測定装置の校正方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の波面収差測定装置の校正方法において、
前記校正手順では、
前記データの差異を所定の多項式にフィッティングすることにより前記システム誤差を求め、
前記所定の多項式は、
前記透過波面の評価すべき形状成分の最高次数よりも高次の多項式からなる
ことを特徴とする波面収差測定装置の校正方法。
【請求項5】
被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する波面収差測定装置を用いた波面収差測定方法であって、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の波面収差測定装置の校正方法により前記波面収差測定装置のシステム誤差を求めて記憶し、
前記波面収差測定装置が取得した前記データと前記記憶したシステム誤差とに基づき、前記被検光学系の透過波面の形状をそのシステム誤差に依らずに求める
ことを特徴とする波面収差測定方法。
【請求項6】
被検光学系に測定光束を投光する投光光学系と、
前記被検光学系を通過した前記測定光束に基づきその被検光学系の透過波面の勾配のデータを取得する検出光学系と、
前記投光光学系及び前記検出光学系の一部又は全部である所定光学系と前記被検光学系との相対位置関係を変化させる変化機構と、
互いに異なる複数の前記相対位置関係の下でそれぞれ前記データを取得する制御手段と、
前記取得された複数の前記データの間の差異と複数の前記相対位置関係の間の差異とに基づき前記所定光学系に起因するシステム誤差を求める演算手段と
を備えたことを特徴とする波面収差測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の波面収差測定装置において、
前記変化機構は、
光軸の周りに前記相対位置関係を変化させる
ことを特徴とする波面収差測定装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の波面収差測定装置において、
前記所定光学系は、
前記検出光学系である
ことを特徴とする波面収差測定装置。
【請求項9】
請求項6〜請求項8の何れか一項に記載の波面収差測定装置において、
前記演算手段は、
前記データの差異を所定の多項式にフィッティングすることにより前記システム誤差を求め、
前記所定の多項式は、
前記透過波面の評価すべき形状成分の最高次数よりも高次の多項式からなる
ことを特徴とする波面収差測定装置。
【請求項10】
請求項5に記載の波面収差測定方法により投影光学系を測定し、
前記測定の結果に応じて前記投影光学系を調整する
ことを特徴とする投影光学系の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の投影光学系の製造方法により製造された
ことを特徴とする投影光学系。
【請求項12】
請求項10に記載の投影光学系の製造方法により投影光学系を製造する手順を含む
ことを特徴とする投影露光装置の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の投影露光装置の製造方法により製造された
ことを特徴とする投影露光装置。
【請求項14】
請求項6〜請求項9の何れか一項に記載の波面収差測定装置を備えた
ことを特徴とする投影露光装置。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の投影露光装置によりマイクロデバイスを製造する
ことを特徴とするマイクロデバイスの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載のマイクロデバイスの製造方法により製造された
ことを特徴とするマイクロデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−30016(P2006−30016A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210132(P2004−210132)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギ−・産業技術総合開発機構「EUV光学系絶対波面計測技術の研究」に関する委託研究)産業活力再生特別措置法第30条の規定を受ける特許出願
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】