説明

洗浄剤組成物及びナノインプリント用モールドの洗浄方法

【課題】ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が高く、かつ、モールドを傷めずに洗浄できる洗浄剤組成物、及びナノインプリント用モールドの簡便な洗浄方法の提供。
【解決手段】ナノインプリント用モールドの洗浄に用いる洗浄剤組成物において、遷移金属を含む水溶性塩(A)とキレート剤(B)と過酸化物(C)とを含有し、(B)/(A)で表されるモル比が0.5以上であり、かつ、pHが8未満であることを特徴とする洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリント用モールドの洗浄に好適な洗浄剤組成物、及びナノインプリント用モールドの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント技術は、モールドを被転写材料の樹脂(レジストなど)に押し付け、モールド上に形成されたナノメーターオーダーのパターンを前記樹脂に転写する技術である。
このナノインプリント技術は、ナノメーターオーダーの微細構造を有する電子デバイスの有望な次世代製造法として注目されている。
ナノインプリント技術の代表的な方式としては、熱ナノインプリント、UVナノインプリント(光ナノインプリントともいう)、ソフトリソグラフィがある。
【0003】
たとえば、UVナノインプリントでは、微細構造が形成され、かつ、光(UV)を透過する石英からなるモールドが鋳型として一般に用いられている。
UVナノインプリントは、石英からなるモールドを、基板上にある光硬化性樹脂に押し付け、当該モールドを通じて光(UV)照射して前記光硬化性樹脂を硬化し、パターンを転写することにより、微細構造のコピーを大量に製造する技術である。
【0004】
ナノインプリントに用いられるモールドには、被転写材料との剥離性の向上などを目的として、モールド表面に離型剤を塗布する離型処理が一般的に施されている。
しかしながら、たとえばUVナノインプリントにおいては、離型処理が施されていても、モールドを光硬化性樹脂に押し付けてパターンを転写した後、当該モールドに光硬化性樹脂が付着残存し、次にパターンを転写する際、この付着残存した光硬化性樹脂の影響によりパターン欠陥を生じてしまう場合があった。そのため、当該モールドに付着残存した光硬化性樹脂を洗浄除去する必要がある。
また、モールド表面に塗布する離型剤の効果をより発揮させるためには、清浄化したモールドに離型処理を施す必要がある。
【0005】
従来、ナノインプリント用モールドの洗浄は、半導体洗浄で用いられている硫酸過水(SPM)又は硫酸による洗浄、有機溶剤による洗浄、オゾン洗浄、プラズマ洗浄又はこれらを組み合わせた方法などにより行われている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−198746号公報
【特許文献2】特開2007−326367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ナノインプリント用モールドの硫酸過水(SPM)又は硫酸による洗浄では、高濃度酸を高温で使用するために作業性が悪く、有機溶剤による洗浄では、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対しては洗浄力が不充分である。また、オゾン洗浄又はプラズマ洗浄では、特殊な装置がそれぞれ必要となるため簡便でない等の問題がある。
一方、ナノインプリント用モールドにおいては、ナノメーターオーダーの微細構造が形成されており、正確なパターンを転写できること、また、ナノインプリント用モールドは数万回以上の使用に耐え得る必要があること等から、当該微細構造を損傷しないよう又は洗浄液で腐食しないよう、モールドを傷めずに洗浄することが求められる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が高く、かつ、モールドを傷めずに洗浄できる洗浄剤組成物、及びナノインプリント用モールドの簡便な洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
すなわち、本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリント用モールドの洗浄に用いる洗浄剤組成物において、遷移金属を含む水溶性塩(A)とキレート剤(B)と過酸化物(C)とを含有し、(B)/(A)で表されるモル比が0.5以上であり、かつ、pHが8未満であることを特徴とする。
本発明の洗浄剤組成物においては、前記キレート剤(B)がポリカルボン酸系化合物であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のナノインプリント用モールドの洗浄方法は、上記本発明の洗浄剤組成物を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が高く、かつ、モールドを傷めずに洗浄できる洗浄剤組成物、及びナノインプリント用モールドの簡便な洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪洗浄剤組成物≫
本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリント用モールドの洗浄に用いるものであり、遷移金属を含む水溶性塩(A)とキレート剤(B)と過酸化物(C)とを含有する。
【0013】
[遷移金属を含む水溶性塩(A)]
遷移金属を含む水溶性塩(A)(以下「(A)成分」という。)において、遷移金属としては、長周期型周期表における3〜11族の金属元素がつくる単体が挙げられる。なかでも、モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が特に高いことから、銅、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銀が好ましく、銅、マンガン、コバルトがより好ましく、マンガン、コバルトが特に好ましい。
水溶性塩としては、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、臭素酸塩などが挙げられ、水等の溶媒への溶解性が特に良好であることから、硫酸塩、塩化物、硝酸塩が好ましく、硫酸塩がより好ましい。
(A)成分として具体的には、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸銀等の硫酸塩;塩化銅、塩化鉄、塩化マンガン、塩化コバルト、塩化ニッケル等の塩化物;硝酸銅、硝酸鉄、硝酸マンガン、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸銀等の硝酸塩;臭化銅、臭化鉄、臭化マンガン、臭化コバルト、臭化ニッケル等の臭素酸塩が挙げられる。
また、(A)成分としては、上記化合物に加えて、上記化合物の水和物も用いることができる。
(A)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0014】
[キレート剤(B)]
キレート剤(B)(以下「(B)成分」という。)としては、たとえば、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、β−アラニンジ酢酸塩、グルタミン酸ジ酢酸塩、アスパラギン酸ジ酢酸塩、メチルグリシンジ酢酸塩、イミノジコハク酸塩、ジエチレントリアミンペンタ酢酸塩等のアミノカルボン酸塩;セリンジ酢酸塩、ヒドロキシイミノジコハク酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩、ジヒドロキシエチルグリシン塩等のヒドロキシアミノカルボン酸塩;ヒドロキシ酢酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩等のヒドロキシカルボン酸塩;ピロメリット酸塩、ベンゾポリカルボン酸塩、シクロペンタンテトラカルボン酸塩等のシクロカルボン酸塩;カルボキシメチルタルトロン酸塩、カルボキシメチルオキシコハク酸塩、オキシジコハク酸塩、酒石酸モノコハク酸塩、酒石酸ジコハク酸塩等のエーテルカルボン酸塩;シュウ酸塩又はこれらの酸型の化合物が挙げられる。
加えて、(B)成分としては、マレイン酸アクリル酸共重合体、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン又はこれらの塩等の高分子キレート剤;トリポリリン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ピロリン酸又はこれらの塩等のリン系キレート剤なども挙げられる。
なかでも、(B)成分としては、モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が特に高いことから、ポリカルボン酸系化合物であることが好ましい。
【0015】
ポリカルボン酸系化合物の中でより好適なものとしては、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、β−アラニンジ酢酸塩、グルタミン酸ジ酢酸塩、アスパラギン酸ジ酢酸塩、メチルグリシンジ酢酸塩、イミノジコハク酸塩、ジエチレントリアミンペンタ酢酸塩等のアミノポリカルボン酸塩;セリンジ酢酸塩、ヒドロキシイミノジコハク酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩等のヒドロキシアミノポリカルボン酸塩;クエン酸塩等のヒドロキシポリカルボン酸塩;ピロメリット酸塩、ベンゾポリカルボン酸塩、シクロペンタンテトラカルボン酸塩等のシクロポリカルボン酸塩;カルボキシメチルタルトロン酸塩、カルボキシメチルオキシコハク酸塩、オキシジコハク酸塩、酒石酸モノコハク酸塩、酒石酸ジコハク酸塩等のエーテルポリカルボン酸塩;シュウ酸塩、又はこれらの酸型の化合物;マレイン酸アクリル酸共重合体又はその塩、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン又はその塩等の高分子キレート剤などが挙げられる。
そのなかでも、アミノポリカルボン酸塩、ヒドロキシアミノポリカルボン酸塩、ヒドロキシポリカルボン酸塩又はこれらの酸型の化合物がさらに好ましい。
【0016】
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
(B)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明において「(B)/(A)」は、(A)成分に対する(B)成分の含有割合(モル比)を示す。
本発明の洗浄剤組成物においては、(B)/(A)で表されるモル比が0.5以上であり、当該モル比が1以上であることが好ましい。(B)/(A)で表されるモル比が0.5以上であると、モールドに付着残存した樹脂汚れに対して高い洗浄効果が得られる。
(B)/(A)の上限値は高いほど、(A)成分から放出される遷移金属のモールドへの残留が抑制されるため好ましく、(B)成分の当該モールドへの残留による有機物汚染が抑制されやすくなることから、上限値としては、実質的に、(B)/(A)で表されるモル比が100以下であることが好ましく、当該モル比が10以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明における洗浄剤組成物中、(A)成分と(B)成分との合計の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましい。
(A)成分と(B)成分との合計の含有量が0.01質量%以上であると、モールドに付着残存した樹脂汚れに対してより高い洗浄効果が得られやすくなる。当該合計の含有量が5質量%以下であると、水溶液中で、後述する(C)成分から発生する過酸化水素の分解による発泡を適度に制御でき、過酸化水素の失活が早まることを抑制できる。
【0019】
[過酸化物(C)]
本明細書及び本特許請求の範囲において、「過酸化物」には、過酸化水素を包含するものとする。
過酸化物(C)(以下「(C)成分」という。)としては、過酸化水素、又は水に溶解して水溶液中で過酸化水素を発生するものであればよく、たとえば、過酸化水素、過炭酸、過ホウ酸、又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。
なかでも、モールドに付着残存した樹脂汚れに対してより高い洗浄効果が得られやすいことから、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムであることが好ましく、過酸化水素であることがより好ましい。
(C)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の洗浄剤組成物における(C)成分の含有量は、洗浄対象とする樹脂の種類若しくはモールドの汚れ度合に応じて適宜調整すればよく、0.05〜30質量%であることが好ましく、0.05〜15質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。(C)成分の含有量が0.05質量%以上であると、モールドに付着残存した樹脂汚れに対してより高い洗浄効果が得られやすくなる。(C)成分の含有量が30質量%以下であると、水溶液中で発生する過酸化水素量が抑制され、過酸化水素の分解による発泡を適度に制御できる。
【0021】
[その他の成分]
本発明の洗浄剤組成物においては、必要に応じて、上記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外のその他の成分を併用してもよい。
その他の成分としては、たとえばアルカリ剤、酸、溶媒、界面活性剤等が挙げられる。
アルカリ剤としては、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機アルカリ剤;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の有機アルカリ剤が挙げられる。
酸としては、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸;酢酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、グリコール酸などの有機酸が挙げられる。
溶媒としては、純水、超純水、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
界面活性剤としては、特に限定されず、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などのアニオン界面活性剤;高級アルコールのアルキレンオキシド付加物、プルロニック型界面活性剤などのノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0022】
本発明の洗浄剤組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、常法に準じて各成分を順次、混合することにより調製できる。
その際、(A)成分と(B)成分は、両方の成分同士を予め混合して乾燥させた混合物として用いてもよく、それぞれ別個に配合してもよい。又は、(A)成分と(B)成分とを混合して形成される金属錯体(錯化合物、錯塩)を配合してもよい。
また、(A)成分と(C)成分は、配合順序が離れていることが好ましい。これにより、(C)成分から発生する過酸化水素の分解を抑制でき、より安定に洗浄剤組成物を調製できる。
また、(C)成分と(A)成分とを、洗浄を行う直前に混合することも好ましい。
また、アルカリ剤を用いる場合、(C)成分とアルカリ剤とを、洗浄を行う直前に混合することが好ましい。これにより、(C)成分から発生する過酸化水素の分解を抑制でき、より安定に洗浄剤組成物を調製できる。
さらに、上記調製方法以外に、(C)成分を含む調製物と(A)成分を含む調製物とを予め準備し、洗浄を行う際に両方の調製物同士を混合してもよい。かかる場合、(B)成分は、いずれの調製物に含まれていてもよい。
さらに、上記調製方法以外に、(C)成分を含む調製物と(B)成分を含む調製物と(A)成分を含む調製物とを予め準備し、洗浄を行う際にこれら調製物同士を混合してもよい。その際、(A)成分を含む調製物と(C)成分を含む調製物は、混合順序が離れていることが好ましい。これにより、(C)成分から発生する過酸化水素の分解を抑制でき、より安定に洗浄剤組成物を調製できる。
【0023】
本発明の洗浄剤組成物(原液)は、pHが8未満であり、pH5以上8未満であることが好ましく、pH6以上8未満であることがより好ましく、pH6.5〜7.5であることがさらに好ましい。
洗浄剤組成物のpHが8未満であると、洗浄液によるモールドの腐食が抑制され、モールドを傷めずに洗浄できる。また、本発明における金属錯体による過酸化水素活性化効果(後述)は、洗浄剤組成物のpHが弱酸性以上で強まるため、pHの下限値は5以上であることが好ましい。
上記洗浄剤組成物(原液)のpHは、洗浄剤組成物を調製した直後から、25℃で10分間放置した後の洗浄剤組成物(原液)のpHを示す。
pHの測定は、pHメータ(製品名:HM−20S、東亜ディーケーケー株式会社製)とpH電極(製品名:GST−5211C、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、約25℃に調整した洗浄剤組成物に対してpH電極を浸漬し、15秒経過後の指示値を読み取ることにより行う。
なお、本発明の洗浄剤組成物は、(A)〜(C)成分の相互作用により、調製直後のpHの値が一定しない。そのため、本発明においては、洗浄剤組成物のpHがほぼ一定値を示す、調製後から10分後の洗浄剤組成物(原液)のpHを測定するものとする。
【0024】
(ナノインプリント用モールド)
本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリント用モールドの洗浄に用いるものである。
ナノインプリント用モールドとしては、モールドの素材、用途、大きさ等は特に限定されず、たとえば、熱ナノインプリントに用いられるSiモールド、SiO/Siモールド;UVナノインプリントに用いられる石英モールド、ソフトリソグラフィに用いられるポリジメチルシロキサン(PDMS)モールド等が挙げられる。ナノインプリント用モールドは非常に高価でもある。
本発明の洗浄剤組成物は、これらモールドを傷めずに洗浄でき、当該モールドに付着残存した樹脂汚れに対して高い洗浄効果を発揮する。
なかでも、本発明の洗浄剤組成物は、UVナノインプリントに用いられる石英モールドに対して特に有用である。pHの高い溶液は石英モールドに対してエッチング作用があり、石英モールドの洗浄方法としては従来、硫酸過水を用いた洗浄やプラズマ照射などの特殊な方法が検討されているのみであった。
本発明の洗浄剤組成物においては、石英モールドの洗浄に用いても、石英モールドが腐食することなく、付着残存した樹脂汚れに対して高い洗浄効果が得られる。
【0025】
また、モールドに付着残存する樹脂汚れとしては、たとえば熱ナノインプリントでは熱可塑性樹脂、UVナノインプリントでは光硬化性樹脂が挙げられる。
光硬化性樹脂は、光照射により光重合開始剤が反応し、連鎖重合反応の進行により三次元架橋構造を形成する。三次元架橋構造のため、強固な樹脂膜が形成されるため、ナノインプリントプロセスで幅広く用いられている。その一方、強固であるためにモールドへ付着残存した場合の除去が困難である。光硬化性樹脂は、その重合機構によって、ラジカル重合タイプ、イオン重合タイプ等が挙げられるが、本発明の洗浄剤組成物はこれらタイプを問わず洗浄除去できる。
【0026】
以上説明した本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対して高い洗浄効果を発揮する。かかる効果が得られる理由としては、定かではないが以下のように推測される。
本発明の洗浄剤組成物は、遷移金属を含む水溶性塩(A)とキレート剤(B)と過酸化物(C)とを含有し、(A)成分に対する(B)成分の含有割合[(B)/(A)]がモル比で0.5以上である。
洗浄剤組成物中又は洗浄時、(A)成分と(B)成分は、金属錯体(錯化合物、錯塩)を形成する。特に、(B)/(A)をモル比で0.5以上とすることで、金属錯体を良好に形成できる。そして、当該金属錯体は、(C)成分から発生する過酸化水素をより活性化する。
この金属錯体による過酸化水素活性化効果によって、本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対して高い洗浄効果を発揮することができると考えられる。
なお、本発明の洗浄剤組成物においては、たとえば洗浄剤組成物が水溶液の形態である場合、前記金属錯体は、当該水溶液中に溶存しており;洗浄剤組成物が粒状の形態である場合、金属錯体として粒子を形成している、又は洗浄剤組成物を水に溶解した際に前記金属錯体が形成されると推測される。
【0027】
また、本発明の洗浄剤組成物によれば、モールドを傷めずに洗浄できる。
ナノインプリント用モールドには、正確なパターンを転写でき、数万回以上の使用に耐え得ることが求められる。
したがって、モールドの洗浄では、洗浄の前後で、モールドにおけるナノオーダーの微細構造を保持する必要がある。そのため、モールドを洗浄する際、当該微細構造を損傷しないこと又は洗浄剤組成物によりモールドを腐食しないこと等が求められる。pHの高い溶液は、特にUVナノインプリントで用いられる石英モールドに対してエッチング作用がある。本発明の洗浄剤組成物においては、pHが8未満であることにより、モールドの腐食等が抑制され、また、樹脂汚れに対する洗浄力が高いことから、モールドに物理的力を与えない浸漬による洗浄で充分に樹脂汚れを除去することができる。これら理由によって、本発明の洗浄剤組成物はモールドを傷めずに洗浄できる。
【0028】
本発明の洗浄剤組成物は、ナノインプリントに用いられる、ナノオーダーの微細構造を有するモールドの洗浄用として特に好適なものである。
かかる微細構造を有するモールドに対して高い洗浄効果が発揮される理由としては、ナノオーダーの微細構造と比較しても過酸化水素は小さな分子であることから、本技術により活性化された過酸化水素が当該微細構造にも入り込むことができるため、と考えられる。
【0029】
≪ナノインプリント用モールドの洗浄方法≫
本発明のナノインプリント用モールドの洗浄方法は、上記本発明の洗浄剤組成物を用いる方法である。
本発明の洗浄方法は、従来のオゾン洗浄又はプラズマ洗浄に用いるような特殊な装置を必要とせず、通常液体状洗浄剤を用いる方法と同様にして行うことができる。
以下、当該洗浄方法の一例として、ナノインプリント用モールドを洗浄剤組成物に浸漬する方法について説明する。
【0030】
具体的には、まず、洗浄槽内に、洗浄対象とするナノインプリント用モールドを入れる。
次いで、本発明の洗浄剤組成物を当該洗浄槽内に入れて、ナノインプリント用モールドを洗浄剤組成物中に浸漬する。
そして、一定時間、浸漬した後、洗浄剤組成物からナノインプリント用モールドを取り出す。
次いで、取り出したナノインプリント用モールドを、流水等によりすすぐことにより、当該モールドに残存する洗浄剤組成物や樹脂汚れを除去し、その後、乾燥を行う。
【0031】
洗浄槽内に入れる洗浄剤組成物の濃度は、特に限定されず、洗浄剤組成物をそのまま用いてもよいし、純水(好ましくは超純水)や溶剤等で希釈して用いることもできる。
洗浄剤組成物を希釈して用いる場合、その希釈倍率としては、2〜1000倍とすることが好ましく、2〜100倍とすることがより好ましい。当該希釈倍率の上限値以下であれば、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れを充分に除去できる。
【0032】
ナノインプリント用モールドを洗浄剤組成物中に浸漬する時間は、特に限定されず、1〜90分間とすることが好ましく、5〜30分間とすることがより好ましい。当該浸漬する時間が前記範囲であると、良好な洗浄効果が得られ、樹脂汚れを充分に除去できる。
また、洗浄槽内の温度は、特に限定されず、5〜95℃とすることが好ましく、15〜80℃とすることがより好ましい。当該温度が前記範囲であると、洗浄剤組成物の配合成分が良好に溶存し、樹脂汚れに対する洗浄効果が安定に得られる。
【0033】
本発明の洗浄方法は、ナノインプリント用モールドを洗浄剤組成物に浸漬する方法以外の方法であってもよく、たとえば、洗浄対象とするモールドに、洗浄剤組成物をノズル等から直接吹き付けることにより塗布して拭き取る方法でもよく、洗浄時に超音波処理を行う方法などでもよい。
【0034】
以上説明した本発明の洗浄方法によれば、ナノインプリント用モールドに付着残存した樹脂汚れに対する洗浄力が高く、かつ、モールドを傷めずに洗浄でき、加えて、特殊な装置を必要とせず、モールドの洗浄を簡便に行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「%」は特に断りがない限り「質量%」を示す。
【0036】
<洗浄剤組成物の調製>
表1〜3に示す組成の洗浄剤組成物を、常法に準じて、以下のようにしてそれぞれ調製した。
【0037】
(実施例1〜11、比較例2〜5)
マグネチックスターラーの入った石英製ビーカー(容量100mL)に、所定量の超純水を入れ、25℃に調温し、マグネチックスターラーを回転させながら、それぞれ所定量のキレート剤(B)と、過酸化物(C)として過酸化水素と、遷移金属を含む水溶性塩(A)とを順次、配合して洗浄剤組成物を得た。pHの調整には、水酸化ナトリウムと硫酸を適宜用いた。
【0038】
(比較例1)
比較例1では硫酸過水(SPM)を用いた。
硫酸過水(SPM)は、マグネチックスターラーの入った石英製ビーカー(容量100mL)に、所定量の硫酸を入れ、そこへ過酸化水素を添加し、SPM洗浄液(硫酸濃度80質量%、過酸化水素濃度5質量%)を得た。
【0039】
なお、表1〜3中の配合量の単位は質量%であり、各成分の配合量は、いずれの成分も水和水を含まない純分換算量を示す。
表における「バランス」とは、洗浄剤組成物に含まれる各成分の総量が100質量%になるように配合した、洗浄剤組成物中の超純水の配合量を意味する。
【0040】
表における「(A)+(B)[質量%]」は、洗浄剤組成物中の(A)成分と(B)成分との合計の含有量[質量%]を示す。
また、表における「(B)/(A)[モル比]」は、(A)成分に対する(B)成分の含有割合(モル比)を示す。
(A)成分と(B)成分の配合量は、たとえば実施例1の場合、硫酸コバルト(無水物)の分子量が155.0であり、エチレンジアミンテトラ酢酸の分子量が292.2であり、(B)/(A)[モル比]が1.0であり、(A)+(B)が0.1質量%であることから、硫酸コバルト(無水物)は0.035質量%、エチレンジアミンテトラ酢酸は0.065質量%となっている。
【0041】
以下に、表中に示した成分について説明する。
【0042】
[表中に示した成分の説明]。
・遷移金属を含む水溶性塩(A)
A1:硫酸コバルト7水和物(和光純薬(株)製、特級)、式量281.1(無水物としての分子量155.0)。
A2:硫酸マンガン5水和物(関東化学(株)製、特級)、式量241.1(無水物としての分子量151.0)。
A3:硫酸銅5水和物(関東化学(株)、特級)製、式量249.7(無水物としての分子量159.6)。
A4:塩化カルシウム2水和物(関東化学(株)製、特級)、式量147.0(無水物としての分子量111.0);(A)成分の比較成分。
【0043】
・キレート剤(B)
B1:エチレンジアミンテトラ酢酸(関東化学(株)製、特級)、分子量292.2。
B2:クエン酸三ナトリウム2水和物(関東化学(株)製、1級)、分子量294.1(無水物としての分子量258.1)。
B3:イミノジコハク酸4ナトリウム塩(IDS−4Na、ランクセス製)、分子量337.1。
B4:ヒドロキシエタンジホスホン酸ナトリウム(商品名:BRIQUEST ADPA−60SH、ローディア製)、分子量294.0。
B5:酢酸ナトリウム(和光純薬(株)製、特級)、分子量82.0;(B)成分の比較成分。
【0044】
・過酸化物(C)
過酸化水素:関東化学(株)製、特級、30質量%水溶液。
【0045】
・その他の成分
超純水:アドバンテック東洋(株)製のGSR−200(製品名)を用いて製造したもの。この超純水の25℃における比抵抗値は18MΩ・cmであった。
硫酸(関東化学(株)製、EL)、96質量%水溶液。
水酸化ナトリウム(関東化学(株)製、UGR)。
【0046】
<洗浄剤組成物のpHの測定>
洗浄剤組成物のpHは、水酸化ナトリウムと硫酸を適宜用いて調整し、以下のようにして測定した。
上記<洗浄剤組成物の調製>において、最後に(A)成分(比較例1のみ最後に過酸化水素)を加えて10秒間混合した後、得られる洗浄剤組成物10mLを直ちにサンプル瓶に取り、蓋をせず25℃で10分間静置した後、当該洗浄剤組成物(原液)のpHを測定した。
pHの測定は、pHメータ(製品名:HM−20S、東亜ディーケーケー株式会社製)とpH電極(製品名:GST−5211C、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、約25℃の洗浄剤組成物に対してpH電極を浸漬し、15秒経過後の指示値を読み取ることにより行った。
【0047】
<光硬化性樹脂汚れに対する洗浄力の評価>
以下に示す石英板、毛細管、ナノインプリント用光硬化性樹脂及びUV照射装置を用いて洗浄サンプルの調製を行った。
石英板:縦18mm×横18mm×厚さ0.5mm。
毛細管:外径0.57mm、内径0.14mm、容量0.5μL。
ナノインプリント用光硬化性樹脂:東洋合成工業株式会社製、商品名PAK−01。
UV照射装置:アトー株式会社製、製品名ドナフィクスDF−254。
【0048】
(洗浄サンプルの調製法)
石英板上に、毛細管に吸引したナノインプリント用光硬化性樹脂を少量ずつ5箇所に付着させ、80℃で2分間ベークした後、窒素雰囲気下でUV照射装置により、波長254nmのUVの200mJ/cmを照射して光硬化性樹脂を硬化し、洗浄サンプルとして光硬化性樹脂が付着した石英板を調製した。
【0049】
(洗浄方法)
容量100mLの石英製ビーカーに、前記洗浄サンプルの石英板を入れ、各例の洗浄剤組成物50mLをそれぞれ加えた。次いで、50℃に調整し、浸漬による洗浄を15分間行った。その後、石英板を取り出し、流水100mLですすいだ後、窒素ブロー乾燥を行い、洗浄済みサンプルを得た。
【0050】
(洗浄力の評価方法)
洗浄力の評価は、洗浄前後の石英板上における光硬化性樹脂の付着状態について顕微鏡観察し、以下の基準に従って評価した。その結果を表に示した。
◎:5箇所の光硬化性樹脂のいずれも完全に除去されていた。
○:4箇所の光硬化性樹脂が完全に除去されていた。
△:2〜3箇所の光硬化性樹脂が完全に除去されていた。
×:1箇所の光硬化性樹脂しか除去されていなかった、又は5箇所の光硬化性樹脂のいずれも除去されていなかった。
【0051】
<モールドの損傷度の評価>
(評価方法)
前記洗浄方法による洗浄処理を20回繰り返し行い、洗浄処理前後の石英板の質量変化率を算出することにより、モールドの損傷度の評価を行った。
石英板の質量変化率は、下記数式により求めた。その結果を表に示した。
なお、下記数式中、「洗浄処理前の石英板のみ」とは、ナノインプリント用光硬化性樹脂を付着していない、縦18mm×横18mm×厚さ0.5mmの石英板を意味する。
石英板の質量変化率(%)=(洗浄処理前の石英板のみの質量−洗浄処理後の石英板の質量)/(洗浄処理前の石英板のみの質量)×100
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
以上の結果から、本発明に係る実施例1〜11の洗浄剤組成物はいずれも、石英板に付着した光硬化性樹脂に対する洗浄力が高いことが確認できた。
また、実施例1〜11の洗浄剤組成物はいずれも、石英板の質量変化率が0.0であり、モールドを傷めずに洗浄できることも確認できた。
【0056】
一方、硫酸過水を用いた比較例1、(A)成分の比較成分を含有する比較例2、(B)成分の比較成分を含有する比較例3及び(B)/(A)で表されるモル比が0.5未満の比較例4の洗浄剤組成物はいずれも、光硬化性樹脂に対する洗浄力が悪いことが確認された。
また、pHが8以上の比較例5の洗浄剤組成物は、石英板の質量変化率が0.2%であり、石英板が腐食により減量しており、モールドが損傷していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインプリント用モールドの洗浄に用いる洗浄剤組成物において、
遷移金属を含む水溶性塩(A)とキレート剤(B)と過酸化物(C)とを含有し、
(B)/(A)で表されるモル比が0.5以上であり、かつ、pHが8未満であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記キレート剤(B)がポリカルボン酸系化合物である請求項1記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の洗浄剤組成物を用いることを特徴とするナノインプリント用モールドの洗浄方法。

【公開番号】特開2011−42050(P2011−42050A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190164(P2009−190164)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】