説明

流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および軸受装置の製造方法

【課題】シャフトに対する環状部材の軸方向の位置ずれや、環状部材の傾斜を防止することができる流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および当該流体動圧軸受装置の好適な製造方法を提供する。
【解決手段】環状部材であるブッシュ44の下面44aのうち、シャフト41の段差面413に当接する部分を除いた領域に潤滑膜47が形成されている。このため、ブッシュ44の下面44aとシャフト41の段差面413との間で潤滑膜47が変形する恐れはなく、シャフト41に対するハブ42の軸方向のずれや、ハブ42の傾斜を防止することができる。製造工程においては、ブッシュ44に潤滑膜47の原型となる被膜を形成した後、ブッシュ44および被膜の表面を切削することにより、潤滑膜47を上記の領域に良好に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやカーナビゲーション等に使用されるハードディスク装置には、磁気ディスクをその中心軸を中心として回転させるためのスピンドルモータが搭載されている。スピンドルモータは、ステータとロータとを軸受装置を介して相対的に回転させる構成となっており、近年では、スピンドルモータ用の軸受装置として流体動圧軸受装置が多く使用されている。流体動圧軸受装置は、シャフトとスリーブとの間に潤滑オイルを介在させ、潤滑オイルの流体動圧によりシャフトとスリーブとを相対的に支持しつつ回転させる。
【0003】
このような従来の流体動圧軸受装置および流体動圧軸受装置を使用したスピンドルモータの構成は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−88042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流体動圧軸受装置のシャフトには、ディスクを支持するためのハブや、あるいは、スラストワッシャなどの環状部材が固定される。これらの環状部材は、シャフトの外周面に嵌着され、多くの場合、その端面の内縁部分をシャフトの外周面に形成された段差面に当接させることにより、シャフトに対して軸方向に位置決めされている。
【0006】
一方、ハブやスラストワッシャなどの環状部材の軸方向の端面は、スリーブの軸方向の端面と潤滑オイルを介して対向する。このため、環状部材とスリーブとの間の摺動性を向上させるために、また、環状部材とスリーブとの接触による損傷を防止するために、環状部材の軸方向の端面に潤滑性の高い被膜(潤滑膜)が形成される場合もある。
【0007】
しかしながら、シャフトに形成された段差面に、潤滑膜を有する環状部材の端面を当接させると、潤滑膜の変形により、シャフトに対する環状部材の取り付け精度が低下してしまうという問題があった。すなわち、シャフトの段差面と環状部材の下面とに挟まれた潤滑膜が変形し、特に、その変形量が周方向にばらつくことにより、シャフトに対する環状部材の軸方向の位置がずれたり、あるいは環状部材が僅かに傾斜したりする恐れがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、シャフトに対する環状部材の軸方向の位置ずれや、環状部材の傾斜を防止することができる流体動圧軸受装置、スピンドルモータ、ディスク駆動装置、および当該流体動圧軸受装置の好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、流体動圧軸受装置であって、所定の中心軸に沿って配置されたシャフトと、前記シャフトの外周面に形成された段差面に下面を部分的に当接させた状態で前記シャフトに固定され、前記中心軸に対する径方向の外側へ広がる環状部材と、前記環状部材の前記下面に対向する上面を有し、前記シャフトおよび前記環状部材を相対回転可能に支持するスリーブと、前記シャフトおよび前記環状部材と前記スリーブとの間に介在する潤滑オイルと、を備え、前記環状部材の前記下面のうち、前記シャフトの前記段差面に当接する部分を除いた領域または前記領域の一部分が、潤滑膜に被覆されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の流体動圧軸受装置であって、前記スリーブの前記上面には、前記環状部材の前記下面に接近し、前記下面との間に介在する前記潤滑オイルに流体動圧を発生させる動圧溝列を有する軸受面が形成されており、前記環状部材の前記下面のうち、少なくとも前記スリーブの前記軸受面に対向する領域は、前記潤滑膜に被覆されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の流体動圧軸受装置であって、前記環状部材は、前記スリーブの外周面に対向する円筒面を有し、前記潤滑膜の被覆領域が、前記円筒面に及ぶことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の流体動圧軸受装置であって、前記環状部材は、前記潤滑膜に被覆されるべき領域に形成された環状部材凹部を有し、前記潤滑膜は、前記環状部材凹部に保持されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の流体動圧軸受装置であって、前記環状部材の前記潤滑膜に被覆された領域と前記潤滑膜に被覆されていない領域との境界部付近において、前記潤滑膜に被覆されていない領域における前記環状部材の表面は、前記潤滑膜に被覆された領域における前記潤滑膜の表面よりも面位が高いことを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、スピンドルモータであって、ステータ部と、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の流体動圧軸受装置を介して前記ステータ部に対して回転自在に支持されるロータ部と、前記ステータ部と前記ロータ部との間に前記中心軸を中心とするトルクを発生させるトルク発生部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、ディスクを回転させつつ情報の読み出しおよび書き込みの一方または両方を行うディスク駆動装置であって、前記ディスクを回転させる請求項6に記載のスピンドルモータと、前記ディスクに対し、情報の読み出しおよび書き込みの一方又は両方を行うアクセス部と、前記スピンドルモータおよび前記アクセス部を収容するハウジングと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る発明は、所定の中心軸に沿って配置されたシャフトと、前記シャフトに固定され、前記中心軸に対する径方向の外側へ広がる環状部材と、前記環状部材の下面に対向する上面を有し、前記シャフトおよび前記環状部材を相対回転可能に支持するスリーブと、前記シャフトおよび前記環状部材と前記スリーブとの間に介在する潤滑オイルと、を備えた軸受装置の製造方法であって、a)前記環状部材の前記下面または前記下面の一部分に、潤滑膜の原型となる被膜を形成する工程と、b)前記工程a)の後、前記環状部材の前記下面に切削加工を行い、前記被膜の表面が削られて形成された潤滑膜と、前記環状部材を構成する金属材料が露出した露出金属面と、を得る工程と、c)前記工程b)の後、前記環状部材の前記露出金属面を、前記シャフトの外周面に形成された段差面に当接させて、前記環状部材と前記シャフトとを固定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の軸受装置の製造方法であって、前記環状部材は、前記下面のうち、前記潤滑膜に被覆されるべき領域に形成された環状部材凹部を有し、前記工程a)では、少なくとも前記環状部材凹部を含む領域に前記被膜を形成することを特徴とする。
【0018】
請求項10に係る発明は、請求項8または請求項9に記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程a)では、前記環状部材の前記下面のうち、前記段差面に当接する部分を除いた領域または前記領域の一部分に、前記被膜を形成することを特徴とする。
【0019】
請求項11に係る発明は、請求項8から請求項10までのいずれかに記載の軸受装置の製造方法であって、前記環状部材は、前記下面から下方へのびた円筒部を有し、前記円筒部は、前記環状部材の前記下面に連続する内周面を有し、前記工程a)では、前記環状部材の前記下面と前記円筒部の前記内周面とに連続して前記被膜を形成することを特徴とする。
【0020】
請求項12に係る発明は、請求項9に記載の軸受装置の製造方法であって、前記環状部材は、前記下面から下方へのびた円筒部を有し、前記円筒部は、前記環状部材の前記下面に連続する内周面を有するとともに、前記環状部材凹部に連続する円筒部凹部を前記内周面に有し、前記工程a)では、少なくとも前記環状部材凹部および前記円筒部凹部を含む領域に前記被膜を形成することを特徴とする。
【0021】
請求項13に係る発明は、請求項11または請求項12に記載の軸受装置の製造方法であって、前記工程b)では、前記環状部材の前記下面および前記円筒部の前記内周面に切削加工を行い、前記環状部材の前記下面および前記円筒部の前記内周面に、前記潤滑膜および前記露出金属面を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜7に記載の発明によれば、環状部材の下面のうち、シャフトの段差面に当接する部分を除いた領域または当該領域の一部分が、潤滑膜に被覆されている。すなわち、環状部材の下面とシャフトの段差面との間には潤滑膜が介在しない。このため、シャフトに対する環状部材の軸方向の位置ずれや、環状部材の傾斜を防止することができる。
【0023】
特に、請求項2に記載の発明によれば、環状部材の下面のうち、少なくともスリーブの軸受面に対向する領域は、潤滑膜に被覆されている。このため、環状部材の下面とスリーブの軸受面との当接による部材の振動や損傷を防止することができる。
【0024】
特に、請求項3に記載の発明によれば、環状部材は、スリーブの外周面に対向する円筒面を有し、潤滑膜の被覆領域が当該円筒面に及ぶ このため、環状部材の円筒面とスリーブの外周面との当接による部材の振動や損傷を防止することができる。
【0025】
特に、請求項4に記載の発明によれば、環状部材は、潤滑膜に被覆されるべき領域に形成された環状部材凹部を有し、潤滑膜は当該環状部材凹部に保持されている。このため、潤滑膜に被覆されるべき領域のみに潤滑膜を良好かつ容易に形成することができる。
【0026】
また、請求項8〜13に記載の発明によれば、環状部材の下面または下面の一部分に、潤滑膜の原型となる被膜を形成し、その後、環状部材の下面に切削加工を行い、被膜の表面が削られて形成された潤滑膜と、環状部材を構成する金属材料が露出した露出金属面と、を得る。このため、環状部材の下面に、潤滑膜と露出金属面とを容易かつ良好に形成することができる。
【0027】
特に、請求項9に記載の発明によれば、環状部材の下面に形成された環状部材凹部を含む領域に、潤滑膜の原型となる被膜を形成する。このため、潤滑膜に被覆されるべき領域のみに潤滑膜を良好かつ容易に形成することができる。
【0028】
特に、請求項10に記載の発明によれば、環状部材の下面のうち、シャフトの段差面に当接する部分を除いた領域または当該領域の一部分に、潤滑膜の原型となる被膜を形成する。このため、環状部材の下面のうち、シャフトの段差面に当接する部分を除いた領域または当該領域の一部分に潤滑膜を良好かつ容易に形成することができる。
【0029】
特に、請求項11に記載の発明によれば、環状部材の下面と、環状部材の下面に形成された円筒部の内周面とに、連続して潤滑膜の原型となる被膜を形成する。このため、円筒部の内周面とスリーブの外周面との当接による部材の振動や損傷を防止することができる。
【0030】
特に、請求項12に記載の発明によれば、環状部材の下面に形成された環状部材凹部と、円筒部の内周面に形成された円筒部凹部とを含む領域に、潤滑膜の原型となる被膜を形成する。このため、環状部材の下面および円筒部の内周面のうち、潤滑膜に被覆されるべき領域のみに潤滑膜を良好かつ容易に形成することができる。
【0031】
特に、請求項13に記載の発明によれば、環状部材の下面および円筒部の内周面に切削加工を行うことにより、環状部材の下面および円筒部の内周面に、潤滑膜および露出金属面を形成する。このため、環状部材の下面および円筒部の内周面に、潤滑膜を良好かつ容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、中心軸Lに沿ってロータ部4側を「上」とし、ステータ部3側を「下」として説明を行う。しかしながら、これにより本発明に係る軸受装置、スピンドルモータ、およびディスク駆動装置の設置姿勢が限定されるものではない。
【0033】
<1.ディスク駆動装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るディスク駆動装置2の縦断面図である。ディスク駆動装置2は、2枚の磁気ディスク22を回転させつつ、磁気ディスク22からの情報の読み出しおよび磁気ディスク22への情報の書き込みを行うハードディスク装置である。図1に示したように、ディスク駆動装置2は、主として、装置ハウジング21、2枚の磁気ディスク(以下、単に「ディスク」という)22、アクセス部23、およびスピンドルモータ1を備えている。
【0034】
装置ハウジング21は、カップ状の第1ハウジング部材211と、板状の第2ハウジング部材212とを有している。第1ハウジング部材211は、上部に開口を有し、第1ハウジング部材211の内側の底面には、スピンドルモータ1とアクセス部23とが設置されている。第2ハウジング部材212は、第1ハウジング部材211の上部の開口を覆うように第1ハウジング部材211に接合され、第1ハウジング部材211と第2ハウジング部材212とに囲まれた装置ハウジング21の内部空間213に、2枚のディスク22、アクセス部23、およびスピンドルモータ1が収容されている。装置ハウジング21の内部空間213は、塵や埃が少ない清浄な空間とされている。
【0035】
2枚のディスク22は、いずれも中央部に孔を有する円板状の情報記録媒体である。各ディスク22は、スピンドルモータ1のハブ42に装着され、スペーサ221を介して上下に積層配置されている。一方、アクセス部23は、4枚のディスク22の上面および下面に対向する4つのヘッド231と、各ヘッド231を支持するアーム232と、アーム232を揺動させる揺動機構233とを有している。アクセス部23は、揺動機構233により4本のアーム232をディスク22に沿って揺動させ、4つのヘッド231をディスク22の必要な位置にアクセスさせることにより、回転する各ディスク22の記録面に対して情報の読み出しおよび書き込みを行う。なお、ヘッド231は、ディスク22の記録面に対して情報の読み出しおよび書き込みのいずれか一方のみを行うものであってもよい。
【0036】
<2.スピンドルモータの構成>
続いて、上記のスピンドルモータ1の詳細な構成について説明する。図2は、スピンドルモータ1の縦断面図である。図2に示したように、スピンドルモータ1は、主として、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21に固定されるステータ部3と、ディスク22を装着して中心軸Lを中心として回転するロータ部4とを備えている。
【0037】
まず、ステータ部3の構成について説明する。ステータ部3は、ベース部材31、ステータコア32、コイル33、およびスリーブ34を有している。
【0038】
ベース部材31は、アルミニウム等の金属材料により形成され、ディスク駆動装置2の装置ハウジング21にねじ止め固定されている。ベース部材31には、中心軸Lの周りにおいて軸方向(中心軸Lに沿った方向。以下同じ。)に突出した略円筒形状のホルダ部311が形成されている。ホルダ部311の内周側(中心軸Lに対する内周側。以下同じ。)は、スリーブ34を保持するための貫通孔となっている。また、ホルダ部311の外周側(中心軸Lに対する外周側。以下同じ。)の面は、ステータコア32を嵌着させる取り付け面となっている。
【0039】
なお、本実施形態では、ベース部材31と第1ハウジング部材211とが別体となっているが、ベース部材31と第1ハウジング部材211とが単一の部材により構成されていてもよい。
【0040】
ステータコア32は、ベース部材31のホルダ部311の外周面に嵌着された円環状のコアバック321と、コアバック321から径方向(中心軸Lに直交する方向。以下同じ。)の外周側に突出した複数本のティース部322とを有している。ステータコア32は、例えば、電磁鋼板を軸方向に積層させた積層鋼板により形成されている。
【0041】
コイル33は、ステータコア32の各ティース部322の周囲に巻回された導線により構成されている。コイル33は、リード線331を介して所定の電源装置(図示省略)と接続されている。電源装置からリード線331を介してコイル33に駆動電流を与えると、ティース部322には径方向の磁束が発生する。ティース部322に発生した磁束は、後述するロータマグネット43の磁束と互いに作用し、中心軸Lを中心としてロータ部4を回転させるためのトルクを発生させる。
【0042】
スリーブ34は、シャフト41の外周側に配置されてその内周面がシャフト41を取り囲む略円筒形状の部材である。スリーブ34は、ベース部材31のホルダ部311の内周面に固定されている。スリーブ34の下面には、下方へ向けて突出した突状部34aが形成されている。また、当該突状部34aには、スリーブ34の下端部に形成された開口を封止するためのキャップ35が固定されている。
【0043】
スリーブ34は、シャフト41の径方向および軸方向の移動を規制しつつ、シャフト41の中心軸Lを中心とした回転を許容するラジアル軸受部を構成している。スリーブ34の内周面とシャフト41の外周面との間の微小な(例えば数μm程度の)隙間、シャフト41の下面とキャップ35の上面との間の微小な隙間、スリーブ34の上面と後述するハブ42の下面との間の微小な隙間、およびスリーブ34に軸方向に形成された循環孔34bには、連続的に潤滑オイル51(図5参照)が充填されている。潤滑オイル51には、例えば、ポリオールエステル系オイルやジエステル系オイル等のエステルを主成分とするオイルが使用される。
【0044】
図3は、スリーブ34の縦断面図である。図3に示したように、スリーブ34の内周面には、シャフト41の外周面とスリーブ34の内周面との間に介在する潤滑オイル51に流体動圧を発生させるための第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342が上下に形成されている。第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342は、いずれも、複数の鉤形の溝を周方向に配列したいわゆる「ヘリングボーン」形状の溝列となっている。
【0045】
図3に示したように、第1ラジアル動圧溝列341の各溝の折り返し位置と上端部との間の寸法d1は、第1ラジアル動圧溝列341の各溝の折り返し位置と下端部との間の寸法d2よりも大きく、また、第2ラジアル動圧溝列342の各溝の折り返し位置と下端部との間の寸法d4は、第2ラジアル動圧溝列342の各溝の折り返し位置と上端部との間の寸法d3よりも大きい。このため、第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342は、それぞれ、潤滑オイル51に対し、スリーブ34の軸方向中央位置へ向かう流体動圧を発生させる。また、上記の寸法d1は、上記の寸法d1〜d4のうち最も大きく、第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342は、全体として、潤滑オイル51に下方へ向かう流体動圧を発生させる。
【0046】
スリーブ34に対してシャフト41が回転するときには、上記のように、第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342により潤滑オイル51が加圧され、潤滑オイル51に発生する流体動圧によりシャフト41が径方向に支持されつつ回転する。なお、本実施形態では、スリーブ34の内周面に第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342が形成されていたが、第1ラジアル動圧溝列341および第2ラジアル動圧溝列342は、スリーブ34の内周面とシャフト41の外周面とのいずれか一方に形成されていればよい。
【0047】
図4は、スリーブ34の上面図である。スリーブ34の上面の外縁部分には、後述するブッシュ44の下面44aに接近するように隆起した軸受面34cが形成されている。そして、当該軸受面34cには、ブッシュ44の下面44aとスリーブ34の上面との間に介在する潤滑オイル51に流体動圧を発生させるためのスラスト動圧溝列343が刻設されている。スラスト動圧溝列343は、中心軸Lを中心とする複数の螺旋状の溝により構成されている。スリーブ34に対してシャフト41およびハブ42が回転するときには、スラスト動圧溝列343により潤滑オイル51が加圧され、潤滑オイル51に発生する流体動圧よりシャフト41およびハブ42が軸方向に支持されつつ回転する。
【0048】
このように、スリーブ34は、シャフト41およびハブ42を中心軸Lを中心として回転可能に支持する固定軸受部材としての役割を果たす。そして、スリーブ34、キャップ35、後述するシャフト41、および後述するハブ42により、本実施形態の流体動圧軸受装置5が構成されている。
【0049】
なお、スリーブ34は、例えば、磁性または非磁性のステンレス鋼や、銅合金等の金属材により構成されている。
【0050】
また、本実施形態では、スリーブ34が単一の部材により構成されているが、スリーブ34は、2以上の部材により構成されていてもよい。例えば、スリーブ34は、スリーブ本体部と、スリーブ本体部を収容するハウジングとを一体化させたものであってもよい。
【0051】
図2に戻り、続いて、ロータ部4の構成について説明する。ロータ部4は、、シャフト41、ハブ42、およびロータマグネット43を有している。
【0052】
シャフト41は、中心軸Lに沿って配置された略円柱形状の部材である。シャフト41は、スリーブ34の内側(軸受孔)に挿入された状態でスリーブ34に対して相対回転可能に支持されている。シャフト41は、後述するブッシュ44をその外周面に固定する比較的小径の頭部411と、スリーブ34の内側に挿入された比較的大径の胴部412とを有する。そして、シャフト41の外周面における頭部411と胴部412との境界に、段差面413が形成されている。段差面413は、後述するブッシュ44の下面44aの内縁部分に当接することにより、シャフト41に対するハブ42の軸方向の位置を規制する役割を果たす。
【0053】
また、シャフト41の下端部には、スリーブ34からシャフト41が抜け出すことを防止するための円環状の鍔部414が形成されている。鍔部414は、スリーブ34の下面とキャップ35の上面との間に形成された空間中に位置する。ロータ部4に上方へ向かう力が作用したときには、スリーブ34の下面に鍔部414の上面が当接し、これによりステータ部3とロータ部4との分離が防止される。なお、本実施形態では、シャフト41と鍔部414とが単一の部材により構成されているが、シャフト41および鍔部414は、別個の部材により構成されて一体化されていてもよい。
【0054】
ハブ42は、シャフト41に固定されてシャフト41とともに回転する部材である。ハブ42は、シャフト41の頭部411に固定された環状部材であるブッシュ44と、ブッシュ44の外周面に固定されるとともに2枚のディスク22を保持するハブ本体部45とを有する。
【0055】
図5は、ブッシュ44付近の拡大縦断面図である。図5に示したように、ブッシュ44は、その下面44aの内縁部分をシャフト41の段差面413に当接させた状態でシャフト41に固定されている。ブッシュ44の下面44aは、スリーブ34の上面に対向し、スリーブ34の上面に形成された軸受面34cと、ブッシュ44の下面44aと、これらの間に介在する潤滑オイル51とにより、スラスト動圧軸受機構が構成される。また、ブッシュ44は、下面44aの外縁部分から下方へ向けてのびる円筒部441を有している。円筒部441の内周面44bは、ブッシュ44の下面44aに連続し、潤滑オイル51を介してスリーブ34の外周面に対向する。また、円筒部441の外周面には、ハブ本体部45の下面の内縁部分に当接する段差面44cが形成されている。
【0056】
ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bには、これらの双方の面に亘る凹部46が形成されている。凹部46は、ブッシュ44の下面44aに形成された第1凹部461と、円筒部441の内周面44bに形成された第2凹部462とを含み、全体として、断面視において略L字形状の1つの溝を構成している。第1凹部461は、ブッシュ44の下面44aのうち、少なくともスリーブ34の軸受面34cに対向する領域を含み、かつ、シャフト41の段差面413に当接する部分を除いた領域に形成されている。また、第2凹部462は、円筒部441の内周面44bのうち、上端部から所定幅の領域に形成されている。なお、凹部46は、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bの、中心軸Lを中心とする全周に亘って形成されている。
【0057】
凹部46の表面は、スリーブ34とブッシュ44との間の潤滑性を向上させるための潤滑膜47に被覆されている。潤滑膜47は、ブッシュ44上に形成された凹部46の窪みに保持され、これにより、ブッシュ44上における潤滑膜47の位置が正確に規定されている。潤滑膜47は、外部からの衝撃等によりスリーブ34とブッシュ44とが接触してしまった場合にも、これらの両部材を良好に摺動させるとともに、これらの両部材の振動や損傷を防止する役割を果たす。潤滑膜47は、潤滑性の高い樹脂等の固体材料により構成される。例えば、潤滑膜47は、硫化モリブデン、硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、三酸化アンチモン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、セキボク、ウンモ、タルク、セッケン石、亜鉛華のうちの1種の材料または2種以上を組み合わせた材料により構成される。
【0058】
本実施形態のスピンドルモータ1では、上記のように、第1凹部461および第1凹部461に保持された潤滑膜47が、ブッシュ44の下面44aのうち、シャフト41の段差面413に当接する部分を除いた領域に形成されている。このため、ブッシュ44の下面44aとシャフト41の段差面413との間には潤滑膜47が介在しない。したがって、潤滑膜47の変形によりシャフト41に対するブッシュ44の取り付け精度が低下してしまうという問題は発生せず、シャフト41に対するハブ42の軸方向の位置ずれや、ハブ42の傾斜を防止することができる。
【0059】
また、本実施形態では、第1凹部461および第1凹部461に保持された潤滑膜47が、ブッシュ44の下面44aのうち、スリーブ34の軸受面34cに対向する部分を含む領域に形成されている。このため、スラスト動圧軸受機構を構成する軸受面34cやそれに対向するブッシュ44の下面44aを、損傷から適切に保護することができる。
【0060】
また、本実施形態では、円筒部441の内周面44bに第2凹部462が形成され、潤滑膜47の被覆領域が円筒部441の内周面44bにも及んでいる。このため、例えば、ディスク22の重みによりブッシュ44が撓み、円筒部441の内周面44bとスリーブ34の外周面とが当接してしまった場合にも、円筒部441の内周面44bとスリーブ34の外周面とを、損傷から適切に保護することができる。
【0061】
図2に戻る。ハブ本体部45は、ブッシュ44の外周面に固定されるとともに径方向の外側へ向けて広がる平板部451と、平板部451の外縁部分から下方へ向けてのびる円筒部452と、円筒部452の下端部から径方向の外側へ向けてのびるフランジ部453とを有している。円筒部452の外周面45aは、ディスク22の内周部(内周面または内周縁)に当接する当接面となる。また、フランジ部453の上面45bは、ディスク22を載置する載置面となる。
【0062】
2枚のディスク22は、フランジ部453の上面45b上に水平姿勢で積層配置される。すなわち、下段のディスク22がフランジ部453の上面45bに載置され、その上方に、上段のディスク22がスペーサ221を介して載置される。各ディスク22の内周部は円筒部452の外周面45aに接触し、これにより各ディスク22の径方向の移動が規制される。
【0063】
本実施形態のディスク22は、アルミニウムを主たる材料として構成されており、また、ハブ本体部45も、アルミニウムにより構成されている。このため、ディスク22の線膨張係数とハブ本体部45の線膨張係数とは同一または近似している。したがって、環境温度やスピンドルモータ1の内部の温度が変化した場合にも、ディスク22とハブ本体部45との間に過度の応力が発生することはない。一方、本実施形態のブッシュ44は、シャフト41に対して強固に固着された状態を維持するために、硬度の高いステンレスにより構成されている。
【0064】
なお、本実施形態のハブ42は、ブッシュ44とハブ本体部45との2部材により構成されているが、単一の部材によりハブ42が構成されていてもよい。例えば、ガラスを主たる材料とするディスクを使用する場合には、当該ディスクと線膨張係数の近いステンレス等の材料により、環状部材としてのハブが単一の部材として形成されていてもよい。
【0065】
ロータマグネット43は、ハブ本体部45の下面に、ヨーク431を介して取り付けられている。ロータマグネット43は、中心軸Lを取り囲むように円環状に配置されている。ロータマグネット43の内周面は磁極面となっており、ステータコア32の複数のティース部322の外周面に対向する。
【0066】
このようなスピンドルモータ1において、ステータ部3のコイル33に駆動電流を与えると、ステータコア32の複数のティース部322に径方向の磁束が発生する。そして、ティース部322とロータマグネット43との間の磁束の作用によりトルクが発生し、ステータ部3に対してロータ部4が中心軸Lを中心として回転する。ハブ42上に支持された2枚のディスク22は、シャフト41およびハブ42とともに中心軸Lを中心として回転する。
【0067】
<3.スピンドルモータの製造手順>
続いて、上記のスピンドルモータ1の製造手順について、図6のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下に説明するスピンドルモータ1の製造手順は、スピンドルモータ1の一部である流体動圧軸受装置5の製造手順も含んでいる。
【0068】
スピンドルモータ1を製造するときには、まず、潤滑膜47が未だ形成されていないブッシュ44を準備する。ブッシュ44の下面44aには、潤滑膜47に被覆されるべき領域に予め凹部46が形成されている。また、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bのうち、凹部46の周囲の領域は、製造後の状態よりもやや隆起した状態(切削前の状態)となっている。
【0069】
ブッシュ44が準備されると、次に、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bに、潤滑膜47の原型となる被膜470を形成する(ステップS1)。具体的には、図7に示したように、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bのうち、凹部46およびその周囲の領域に、潤滑膜47を構成する材料物質を、塗布、吹き付け、転写、その他の方法により連続的に付着させる。
【0070】
被膜470の形成が完了すると、続いて、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bに対して、切削加工を行う(ステップS2)。具体的には、まず、図示しないチャック機構によりブッシュ44をチャックし、チャック機構を回転させることにより、中心軸Lを中心としてブッシュ44を回転させる。そして、図8に示したように、ブッシュ44を回転させつつ、目標とする表面形状(図8中の破線)に沿って切削工具6を進行させることにより、円筒部441の内周面44bおよびブッシュ44の下面44aを切削する。
【0071】
この切削加工においては、図8に示したように、ブッシュ44を構成する金属材料と、被膜470とが連続的に切削される。これにより、切削後のブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bには、図9に示したように、ブッシュ44を構成する金属材料が露出した露出金属面44dと、被膜470の表面が削られてできた潤滑膜47とが形成される。
【0072】
本実施形態では、このように、ブッシュ44上の凹部46およびその周囲の領域に潤滑膜47の原型となる被膜470を形成し、その後、ブッシュ44および被膜470を連続的に切削することにより、露出金属面44dと潤滑膜47とを形成する。これにより、所望の領域(シャフト41の段差面413に当接する領域を除いた領域)に潤滑膜47を良好かつ容易にに形成することができる。
【0073】
なお、図9では、潤滑膜47の表面とブッシュ44の露出金属面44dとが境界部において滑らかに連続しているように描かれているが、厳密には、図10の拡大縦断面図に示したように、切削後のブッシュ44の下面44aにおいて、潤滑膜47の表面よりも露出金属面44dの方が僅かに面位が高く、これらの境界部に段差44eが形成される。このような段差44eは、相対的に切削抵抗の低い被膜470と相対的に切削抵抗の高い金属材料とを連続的に切削したために発生したものである。なお、切削工具6の進行の向きは、図8の例に限定されるものではない。切削工具6を図8と反対の向きに進行させた場合には、ブッシュ44の円筒部441の内周面44bにおける潤滑膜47と露出金属面44dとの境界部に、上記の段差44eと同様の段差が形成される。
【0074】
次に、上記の工程を経たブッシュ44に対して、ハブ本体部45を固定することにより、ハブ42を作成する(ステップS3)。ここでは、ブッシュ44に対して、例えば、焼きばめや圧入によりハブ本体部45を固定する。
【0075】
また、上記の一連の工程の後、あるいは、上記の一連の工程と並行して、スリーブ34にシャフト41を挿入する(ステップS4)。シャフト41は、スリーブ34の下端部側の開口から挿入され、挿入後のシャフト41の頭部411は、スリーブ34の上端部側の開口から突き出た状態となる。
【0076】
その後、上記のステップS4においてスリーブ34に挿入されたシャフト41と、上記のステップS3において得られたハブ42とを固定する(ステップS5)。具体的には、シャフト41の頭部411に対して、ハブ42のブッシュ44を圧入により固定する。この圧入の際、ブッシュ44の下面44aの内縁部分に形成された露出金属面44dをシャフト41の段差面413に当接させ、これにより、シャフト41に対するハブ42の軸方向の位置を規制する。なお、シャフト41とハブ42との固定方法は圧入に限定されるものではなく、焼きばめ等の他の固定方法を利用してもよい。
【0077】
次に、シャフト41が挿入されたスリーブ34の下端部に、キャップ35を取り付ける(ステップS6)。キャップ35は、スリーブ34の下端部に形成された突状部34aに、溶接、接着、あるいはカシメにより固定される。スリーブ34の下端部にキャップ35を取り付けることにより、スリーブ34の下端部側の開口が封止される。
【0078】
スリーブ34の下端部にキャップ35が取り付けられると、続いて、潤滑オイル51の注入を行う(ステップS7)。具体的には、まず、上記の工程により得られたスリーブ34、キャップ35、シャフト41、およびハブ42を含むアッセンブリを、所定のチャンバの内部に収容し、当該チャンバの内部を減圧する。そして、スリーブ34の外周面とブッシュ44の円筒部441の内周面44bとの間の隙間から潤滑オイル51を注入し、その後チャンバの内部を復圧させることにより、アッセンブリの内部の隙間に潤滑オイル51を圧送する。潤滑オイル51は、スリーブ34の内周面とシャフト41の外周面との間の微小な隙間、シャフト41の下面とキャップ35の上面との間の微小な隙間、スリーブ34の上面とブッシュ44の下面との間の微小な隙間、およびスリーブ34に軸方向に形成された循環孔34bに連続的に充填される。
【0079】
また、ハブ本体部45の下面に、ヨーク431およびロータマグネット43を取り付ける(ステップS8)。具体的には、ハブ本体部45の平板部451の下面に接着剤を介してヨーク431を固定し、更に、ヨーク431の内周面に接着剤を介してロータマグネット43を固定する。
【0080】
また、ステータ部3側では、ベース部材31にステータコア32およびコイル33を固定する(ステップS9)。具体的には、例えば、ベース部材31のホルダ部311の外周面にステータコア32のコアバック321を圧入することにより、ベース部材31とステータコア32とを固定する。コイル33からのびるリード線331は、所定の電源装置に接続される。
【0081】
その後、ベース部材31のホルダ部311にスリーブ34を圧入することにより、ベース部材31とスリーブ34と固定する(ステップS10)。以上をもって、スピンドルモータ1が完成する。
【0082】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記のステップS1では、凹部46およびその周囲の領域のみに潤滑膜47の原型となる被膜470を形成したが(図7参照)、より広い領域に潤滑膜47を形成してもよい。すなわち、切削加工前のステップS1では、少なくとも凹部46を含む領域に被膜470を形成すればよく、例えば、ブッシュ44の下面44aおよび円筒部441の内周面44bの全面に被膜470を形成してもよい。
【0083】
また、上記の実施形態では、ハブ42とともにシャフト41が回転するいわゆる軸回転タイプのスピンドルモータ1について説明したが、本発明は、軸固定タイプの軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置にも適用可能である。
【0084】
図11は、軸固定タイプのスピンドルモータの例を示した縦断面図である。図11のスピンドルモータ701は、ベース部材731に対して固定されたシャフト734の周囲において、スリーブ741、ハブ742、およびロータマグネット743が一体として回転する。また、シャフト734の外周面には、環状部材としてのスラストワッシャ735が固定されており、シャフト734、スラストワッシャ735、およびスリーブ741により流体動圧軸受装置705が構成されている。
【0085】
このような軸固定タイプのスピンドルモータ701においても、スラストワッシャ735の下面に潤滑膜736を被覆することが考えられるが、スラストワッシャ735の下面のうち、シャフト734の段差面734aに当接する部分を除いた領域に潤滑膜736を形成すれば、シャフト734に対するスラストワッシャ735の軸方向の位置ずれや、スラストワッシャ735の傾斜を防止することができる。
【0086】
また、上記の実施形態では、スリーブ34の上面にスラスト動圧溝列343を形成していたが、これに代えて、ブッシュ44の下面やスラストワッシャ735の下面にスラスト動圧溝列を形成してもよい。この場合には、ブッシュ44の下面あるいはスラストワッシャ735の下面にスラスト動圧溝列を形成し、その上に潤滑膜を形成すればよい。あるいは、ブッシュ44の下面やスラストワッシャ735の下面に潤滑膜を形成した後、その潤滑膜の表面にスラスト動圧溝列を形成してもよい。
【0087】
また、上記の実施形態のスリーブ34は、ステンレス鋼や銅合金等の金属材(溶性材)により構成されていたが、スリーブ34は、金属粉末を加熱しつつ結合固化させることにより得られた焼結体により構成されていてもよい。スリーブ34を焼結体により構成すれば、スリーブ34の表面に潤滑オイル51が含浸されるため、シャフト41およびハブ42をスリーブ34に対してより良好に摺動させることができる。また、焼結体として構成されるスリーブ34は、比較的安価に得ることができる。また、スリーブ34は、種々の樹脂材料により構成されていてもよい。
【0088】
また、上記の実施形態では、ハードディスクドライブであるディスク駆動装置2と、それに搭載されるスピンドルモータ1について説明したが、本発明は、光ディスクドライブ等の他のディスク駆動装置や、それに搭載されるスピンドルモータおよび流体動圧軸受装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】ディスク駆動装置の縦断面図である。
【図2】スピンドルモータの縦断面図である。
【図3】スリーブの縦断面図である。
【図4】スリーブの上面図である。
【図5】ブッシュ付近の拡大縦断面図である。
【図6】スピンドルモータの製造手順を示したフローチャートである。
【図7】ブッシュに潤滑膜の原型となる被膜を形成した様子を示した縦断面図である。
【図8】ブッシュに切削加工を行う様子を示した縦断面図である。
【図9】切削加工後のブッシュの縦断面図である。
【図10】切削加工後のブッシュの拡大縦断面図である。
【図11】変形例に係るスピンドルモータの縦断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 スピンドルモータ
2 ディスク駆動装置
3 ステータ部
4 ロータ部
5 流体動圧軸受装置
21 装置ハウジング
22 ディスク
23 アクセス部
31 ベース部材
32 ステータコア
33 コイル
34 スリーブ
34c 軸受面
41 シャフト
42 ハブ
43 ロータマグネット
44 ブッシュ
44a 下面
44b 内周面
45 ハブ本体部
46 凹部
47 潤滑膜
51 潤滑オイル
413 段差面
441 円筒部
461 第1凹部
462 第2凹部
470 被膜
701 スピンドルモータ
705 流体動圧軸受装置
L 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体動圧軸受装置であって、
所定の中心軸に沿って配置されたシャフトと、
前記シャフトの外周面に形成された段差面に下面を部分的に当接させた状態で前記シャフトに固定され、前記中心軸に対する径方向の外側へ広がる環状部材と、
前記環状部材の前記下面に対向する上面を有し、前記シャフトおよび前記環状部材を相対回転可能に支持するスリーブと、
前記シャフトおよび前記環状部材と前記スリーブとの間に介在する潤滑オイルと、
を備え、
前記環状部材の前記下面のうち、前記シャフトの前記段差面に当接する部分を除いた領域または前記領域の一部分が、潤滑膜に被覆されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体動圧軸受装置であって、
前記スリーブの前記上面には、前記環状部材の前記下面に接近し、前記下面との間に介在する前記潤滑オイルに流体動圧を発生させる動圧溝列を有する軸受面が形成されており、
前記環状部材の前記下面のうち、少なくとも前記スリーブの前記軸受面に対向する領域は、前記潤滑膜に被覆されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体動圧軸受装置であって、
前記環状部材は、前記スリーブの外周面に対向する円筒面を有し、
前記潤滑膜の被覆領域が、前記円筒面に及ぶことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の流体動圧軸受装置であって、
前記環状部材は、前記潤滑膜に被覆されるべき領域に形成された環状部材凹部を有し、
前記潤滑膜は、前記環状部材凹部に保持されていることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項4に記載の流体動圧軸受装置であって、
前記環状部材の前記潤滑膜に被覆された領域と前記潤滑膜に被覆されていない領域との境界部付近において、
前記潤滑膜に被覆されていない領域における前記環状部材の表面は、前記潤滑膜に被覆された領域における前記潤滑膜の表面よりも面位が高いことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項6】
スピンドルモータであって、
ステータ部と、
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の流体動圧軸受装置を介して前記ステータ部に対して回転自在に支持されるロータ部と、
前記ステータ部と前記ロータ部との間に前記中心軸を中心とするトルクを発生させるトルク発生部と、
を備えたことを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項7】
ディスクを回転させつつ情報の読み出しおよび書き込みの一方または両方を行うディスク駆動装置であって、
前記ディスクを回転させる請求項6に記載のスピンドルモータと、
前記ディスクに対し、情報の読み出しおよび書き込みの一方又は両方を行うアクセス部と、
前記スピンドルモータおよび前記アクセス部を収容するハウジングと、
を備えたことを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項8】
所定の中心軸に沿って配置されたシャフトと、前記シャフトに固定され、前記中心軸に対する径方向の外側へ広がる環状部材と、前記環状部材の下面に対向する上面を有し、前記シャフトおよび前記環状部材を相対回転可能に支持するスリーブと、前記シャフトおよび前記環状部材と前記スリーブとの間に介在する潤滑オイルと、を備えた軸受装置の製造方法であって、
a)前記環状部材の前記下面または前記下面の一部分に、潤滑膜の原型となる被膜を形成する工程と、
b)前記工程a)の後、前記環状部材の前記下面に切削加工を行い、前記被膜の表面が削られて形成された潤滑膜と、前記環状部材を構成する金属材料が露出した露出金属面と、を得る工程と、
c)前記工程b)の後、前記環状部材の前記露出金属面を、前記シャフトの外周面に形成された段差面に当接させて、前記環状部材と前記シャフトとを固定する工程と、
を備えることを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の軸受装置の製造方法であって、
前記環状部材は、前記下面のうち、前記潤滑膜に被覆されるべき領域に形成された環状部材凹部を有し、
前記工程a)では、少なくとも前記環状部材凹部を含む領域に前記被膜を形成することを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の軸受装置の製造方法であって、
前記工程a)では、前記環状部材の前記下面のうち、前記段差面に当接する部分を除いた領域または前記領域の一部分に、前記被膜を形成することを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10までのいずれかに記載の軸受装置の製造方法であって、
前記環状部材は、前記下面から下方へのびた円筒部を有し、
前記円筒部は、前記環状部材の前記下面に連続する内周面を有し、
前記工程a)では、前記環状部材の前記下面と前記円筒部の前記内周面とに連続して前記被膜を形成することを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の軸受装置の製造方法であって、
前記環状部材は、前記下面から下方へのびた円筒部を有し、
前記円筒部は、前記環状部材の前記下面に連続する内周面を有するとともに、前記環状部材凹部に連続する円筒部凹部を前記内周面に有し、
前記工程a)では、少なくとも前記環状部材凹部および前記円筒部凹部を含む領域に前記被膜を形成することを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の軸受装置の製造方法であって、
前記工程b)では、前記環状部材の前記下面および前記円筒部の前記内周面に切削加工を行い、前記環状部材の前記下面および前記円筒部の前記内周面に、前記潤滑膜および前記露出金属面を形成することを特徴とする軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−180318(P2009−180318A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20831(P2008−20831)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】