説明

流体軸受装置およびそれを備えたスピンドルモータ、ディスク駆動装置

【課題】HDD用スピンドルモータにおいて、小型薄型化によって軸方向寸法が小さくなる環境において、軸受寿命の長い流体軸受装置を提供する。
【解決手段】スリーブ2側面とカバー5側面の間に周方向に沿って深さが変化する作動流体貯留部14を設け、軸受隙間部と、スリーブ2上端面とカバー5の間の軸受隙間より大きいスリーブ上端隙間部12と、連通孔6と、によって作動流体を循環させ、前記作動流体貯留部14と前記スリーブ上端隙間部12とは、気液分離機能を有する導入隙間部11で連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク、光ディスクなどを回転駆動するスピンドルモータ、ディスク駆動装置、およびこのスピンドルモータなどに使用される流体軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置のスピンドルモータなどに用いられている軸受装置として、従来用いられていた玉軸受装置に代わって、玉軸受よりも回転精度が優れ、しかも静音性にも優れる流体軸受装置に置き換えられてきている。
【0003】
また近年、ハードディスク装置が、ラップトップパソコンに標準搭載されてきており、さらに携帯音楽プレーヤや携帯電話に応用展開されており、小型薄型・低消費電力・耐衝撃性・長寿命などが要求されている。
小型薄型化では、軸方向の寸法が制約を受けるため、必要な軸受角度剛性を実現するためにラジアル軸受の寸法をいかに確保するかが課題であった。また、長寿命に関しては、軸受が有するオイル溜まりを限られた寸法内でいかに大きく確保するかが課題であった。さらに、耐衝撃性に関しては、衝撃でオイル漏れが発生してはならず、小型薄型化または長寿命化のために信頼性が低下してはならない。
【0004】
これらの市場の要求に応えるべく、様々な提案がなされている。たとえば、図10に示されるように、(特許文献1参照)円筒状軸受スリーブ101(cylindrical bearing sleeve)の外周面に均衡体積部102(equalizing volume)を形成し、軸受スリーブ101(cylindrical bearing sleeve)の上端面にスペーサ103(spacer)付きのカバーキャップ104(covering cap)を配置して軸受隙間105(bearing gap)との間に連通路106(connecting channel)を形成しているものがある。さらに再循環路107(re-circulation channel)を有している。また、カバーキャップ104は側面に穴108(hole)を有しており、軸受組立後に軸受流体109(bearing fluid)を注入する際に用いられる。また、この穴108は衝撃等で軸受流体109が飛散しないように十分小さく形成されている。
【0005】
上記の軸受構造において、軸受流体109は軸受隙間105と再循環路107を経路とする循環路の中を移動し、軸受内の内圧の不均衡を解消している。また、オイル溜まりでもある均衡体積部102は、連通路106によって軸受隙間105と連通されており、軸受流体109の蒸発分を供給したり、温度による軸受流体109の熱膨張分を吸収したりすることができる。
【0006】
上記特許文献の構造は、オイル溜まりである均衡体積部102を軸受隙間105と並列に配置できるため、軸受隙間105に形成するラジアル軸受部108の長さを必要量確保できるので、必要な軸受角度剛性を実現しつつ小型薄型化を図ることができる。また、オイル溜まりである均衡体積部102は、軸受スリーブ101の外周部に形成されているので、軸受性能に影響しない範囲で十分に容積を確保することができる。
【0007】
また、オイル溜まりを大きく取って、長寿命化する構造としては、特許文献2〜4のような構造をすでに提案している。
【特許文献1】米国特許7059773号明細書
【特許文献2】特開2006−161988号公報
【特許文献3】特開2006−170230号公報
【特許文献4】特開2006−161967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示す流体軸受装置においては、シャフト110の外周とカバーキャップ104の内周に形成される軸受流体109の界面(特許文献1にはその詳細な部分の図面記載はない)の面積は、軸受スリーブ101の外周に形成される均衡体積部102の界面の面積に比べて非常に小さいのでそれぞれの表面張力の釣り合いが取れず、均衡体積部102の界面の表面張力が遙かに大きいため、シャフト110とカバーキャップ104の内周に形成される界面は上昇して軸受流体109は開口部から漏れると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、本発明の流体軸受装置は、シャフトと、一端が閉鎖された閉鎖端と、軸受孔である開口する開口端とを有するスリーブと、前記スリーブの軸受孔内に前記シャフトと回転自在に挿通させ、前記スリーブの開口端側の端面およびスリーブの外周側面部に隙間または空間を有した状態で覆うカバーとを備え、前記スリーブの閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側との間の隙間領域とを連通させる連通路を形成し、前記カバーと前記スリーブとの間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、前記連通路からの作動流体が前記軸受孔に移動するように、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間にスリーブ上端面隙間部を形成するとともに、前記連通路の開口部近傍領域に前記スリーブ上端面隙間部に連続する導入隙間部を形成し、前記カバー内周部とスリーブ外周側面における空間に、外気に通じる通気孔を形成し、前記導入隙間部と前記通気孔とを連通させ、前記カバー内周部とそれに対抗するスリーブ外周側面に、前記スリーブ上端面隙間部の隙間よりも大きな空間となるようにスリーブおよびカバーもしくはどちらか片方を窪ませて作動流体を貯留可能な第1の作動流体貯留部を形成し、前記第1の作動流体貯留部を、前記カバー内周側面と前記スリーブ外周側面との離間距離が、周方向に沿って前記通気孔側に近づくほど大きくなるような形状に形成したことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、シャフトとスリーブとの一方が相対的に回転されると、作動流体が、スリーブの内部とスリーブとカバーとの間の空間とを循環して流れ、ラジアル流体軸受の動圧溝などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝などから離脱して循環し、連通路から導入隙間部を通して流体溜まり空間部に流入した際に、作動流体から分離されて通気孔から排出される。これにより、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止できる。
また、上記構成によれば、第1の作動流体貯留部を、スリーブ外周側面部に形成したので、軸受として使用できる軸方向の空間を最大限にラジアル軸受として有効活用することが可能となり、軸受特性に与える影響は小さくなる。また、作動流体の蒸発による寿命を延命させる場合でも、スリーブ側のくぼみの大きさをかえることで、保持空間の大きさを容易に変えることが可能である為、軸受長さの変更等による軸受特性の劣化を伴うことはない。
【0011】
また、本発明は、カバー裏面とスリーブの開口端側端面との間におけるスリーブ上端面隙間部の連通孔直上部を含む領域に、軸受孔開口端側に毛管現象を生じる導入隙間部を形成し、開口側から外周側に向かって隙間を拡大させることによって、連通路から送り出された作動流体は、前記導入隙間部と前記スリーブ上端面隙間部とを介して、前記軸受孔に流入するように構成したことを特徴とする。
【0012】
この構成により、カバー裏面とスリーブの開口端側端面との間に毛管力の大きな領域、スリーブ上端面隙間部を形成したので、導入用隙間部から導入された作動流体が、前記スリーブ上端面隙間部を介して、スリーブの軸受孔開口端へ全周から良好に供給され、スリーブの軸受孔開口端も安定して作動流体が満たされる。
【0013】
また、本発明は、カバーのシャフトに臨む内周面にも、外気に連通して作動流体を溜める第2の作動流体貯留部を形成し、この第2の作動流体貯留部を、スリーブの開口端側端面から離間するにしたがって内径が広がるように傾斜する傾斜面で構成し、この第2の作動流体貯留部に溜められた作動流体の表面張力と、スリーブ外周側面に形成される作動流体の表面張力とがほぼ釣り合うような形状に前記第2の作動流体貯留部の内径を形成したことを特徴とする。
【0014】
この構成により、カバーのシャフトに臨む内周面に形成された第2の作動流体貯留部の界面による表面張力と、カバー内周面とスリーブ外周側面との間に形成された第1の作動流体貯留部の界面による表面張力とが安定して釣り合い、界面の位置の急激な変動ならびに、界面の変動による作動流体の洩れを防止できる。
【0015】
また、本発明は、カバーとスリーブ端面に形成されたスリーブ上端面隙間部の隙間をg1とし、カバーとスリーブ外周面に形成された側面隙間部の隙間をg2とし、第1の作動流体貯留部の最小隙間をg3とするとき、
g1<g2<g3
なる関係を有することを特徴とする。
【0016】
この構成により、第1の作動流体貯留部に貯えられた作動流体は、毛管現象によって側面隙間部を介してスリーブ上端面隙間部にスムーズに移動して軸受に供給され、軸受の作動流体切れを防ぐことができる。
【0017】
また、本発明は、カバー側面に換気孔を有し、前記換気孔は前記カバー端面にかかる半円形状もしくは円形状の一部であることを特徴とする。
【0018】
この構成により、換気孔の成形は、サイドピン等の金型構造を取らなくても、安価にしかも少ない工数でカバーを成形することができる。
【0019】
また、本発明は、スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端に固定されたスラストフランジが配設されている空間領域であり、このスラストフランジが臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた連通孔の開口部が通じるように構成したことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端と閉鎖端面側領域閉鎖板とで形成される空間領域であり、このシャフトの先端が臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた連通孔の開口部が通じるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の流体軸受装置によると、第1の作動流体貯留部を、スリーブ上端面に形成した導入用隙間部に毛管力により連通されるスリーブ外周側面部に形成したので、スリーブ上端側に十分なスペースのない軸受についても、軸受長(主としてラジアル軸受、もしくはコニカル軸受でもよい)を可能な限り大きく取れ、連通孔付軸受の持つ特性的な利点を活かせると同時に作動流体を十分に保持可能であり、長寿命も確保できる為、信頼性を向上させることができる。
【0022】
また、カバー裏面とスリーブの開口端側端面との間は、軸受孔開口端の隙間と同様の毛管現象を生じるスリーブ上端面隙間部を形成し、導入隙間部を前記スリーブ上端面隙間部と接続させ、連通路から送り出された作動流体が、前記導入隙間部と前記スリーブ上端面隙間部とを介して毛管現象により前記軸受孔に流入するように構成したことにより、導入隙間部から導入された作動流体が、前記スリーブ上端面隙間部を介して、スリーブの軸受孔開口端へ全周から良好に供給され、スリーブの軸受孔開口端も安定して作動流体が満たされ、この結果、外部から衝撃を受けた場合でも空気の巻き込み等は発生しないため、信頼性をさらに向上させることができる。
【0023】
また、カバーのシャフトに臨む内周面にも、外気に連通して作動流体を溜める第2の作動流体貯留部を形成し、この第2の作動流体貯留部を、スリーブの開口端側端面から離間するにしたがって内径が広がるように傾斜する傾斜面で構成し、この第2の作動流体貯留部に溜められた作動流体の表面張力と、通気孔に臨む作動流体の表面張力とがほぼ釣り合うような形状に前記第2の作動流体貯留部の隙間を形成したことにより、界面の位置の急激な変動ならびに、界面の変動による作動流体の洩れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を図面に基づき説明する。この実施の形態では、ハードディスク装置のスピンドルモータにこの流体軸受装置が使用されている場合を説明する。
【0025】
図1は本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図、図2は同流体軸受装置の断面図、図3は詳細図、図4は図2(a)のII−II線断面図である。なお、以下の説明は、理解し易いように、図1、図2(a)および図3に示すように、スリーブの軸受孔における開口端が上方に、閉鎖端が下方に配置された場合を説明するが、実際に使用する場合はこの配置に限るものではないことはもちろんである。
【0026】
図1〜図3に示すように、このスピンドルモータの流体軸受装置は、シャフト1と、スピンドルモータのベース15に固定され、開口する上側の開口端2aaと閉鎖された下側の閉鎖端2abとを有する軸受孔2aを有し、シャフト1を間隙(空間)を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブ2と、シャフト1の下端部に外嵌結合やねじにより固定されているとともに、軸受孔2aにおける閉鎖端側である太径孔部2acに、この太径孔部2acの上面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ3と、スラストフランジ3の下面と間隙を有する姿勢で対向するようにスリーブ2の底部に固定されたスラスト板4とを備え、さらにこれらの構成に加えて、スリーブ2の上端面(開口端側端面)および、スリーブ外周側面部を空間を有した姿勢で覆うとともに、外周側面部には外気に通じる1つの通気孔13を有し、透光性を有する材料で構成されたカバー5を設けている。そして、この流体軸受装置において、スリーブ2における外周面寄りの箇所に、軸心Oと平行に延びる1つの連通路6(例えば、この直径は0.2mm〜0.6mm程度)が穿孔されており、この連通路6により、軸受孔2aの閉鎖端2ab側に設けられた太径孔部2ac(閉鎖端面側の空間領域)と、カバー5とスリーブ2の開口端(2aa)側端面である上端面との間の空間領域とが連通されている。
【0027】
また、カバー5とスリーブ2との間を含むスリーブ2の内部の空間(すなわち、シャフト1の外周面とスリーブ2の内周面との間の空間、軸受孔2aの太径孔部2ac内の空間、軸受孔2aの太径孔部2acと連通路6との間の連通箇所の空間、連通路6内の空間、スリーブ2の上端面とカバー5との間の空間、スリーブ2外周側面部とカバー5の内周(ただし、通気孔13箇所は除く))に潤滑油などの作動流体20が充填されている。なお、図7に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面には開口側ほど広がるように形成されて、外気に連通して作動流体20を溜める第2の作動流体貯留部23が形成されている。また、スリーブ2の段部端面2fとカバー5の端面5fとは接着剤21で固定されており、スリーブ2とカバー5との接合面から作動流体20が外部に洩れ出ないように構成されている。
【0028】
スリーブ2の内周面(またはシャフト1の外周面、若しくは、スリーブ2の内周面とシャフト1の外周面との両方に設けてもよい)に上下に魚骨状パターンなどの2つの動圧溝7、8が形成され、後述する回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ3の上面と下面(または、これに対向するスリーブ2の下面やスラスト板4の上面、またはスラストフランジ3の上下面とスリーブ2の下面やスラスト板4の上面との全てに設けてもよい)とに螺旋状パターンなどの動圧溝9、10が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト1に取り付けられたスラストフランジ3とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。ここで、ラジアル流体軸受を構成する動圧溝7、8は、周知のヘリングボーン形状とされ、シャフト2の外周面における上側と下側の合わせて2箇所に形成されているが、下側の動圧溝8は、その頂部から斜めに上がる溝と斜めに下がる溝とが同じ長さとされている一方、上側の動圧溝7は、図2に示すように、その頂部から斜めに上がる溝7aが、頂部から斜めに下がる溝7bよりも長めに形成され、回転駆動時にはこの上側の動圧溝7によって、この隙間の作動流体20が積極的に下方に送り出されるように構成されている。
【0029】
図1に示すように、シャフト1におけるスリーブ2の軸受孔2aから突出している突出軸部1aには、その外周に例えば磁気記録ディスクが固定される回転部材としてのハブ16が圧入状態で外嵌されている。この実施の形態では、ハブ16のベース寄り部分外周にロータマグネット17が取り付けられている。また、ベース15には、ロータマグネット17に対向するように、ステータコイル18が巻かれたステータコア19が取り付けられている。そして、このロータマグネット17とステータコア19とにより、シャフト1とスリーブ2との間に回転駆動力を与えるスピンドルモータの回転駆動部が構成されている。
【0030】
また、図2に示すように、スリーブ2におけるカバー5に対向する上端面はほぼ平面形状とされている。これに対して、図3に示すように、カバー5はその裏面部がスリーブ2の上端面に開口する連通路6の開口部近傍領域には、径方向内周側に毛管現象を生じる導入隙間部11がもうけられ、この導入隙間部11は外周に向かって隙間が大きくなるようになっている。また、開口部近傍領域以外のカバー裏面については、導入隙間部における最小隙間と同等の隙間を介してスリーブ上端面と並行に平面配置された形状となっている。スリーブ2の外周側面部には、(図4においては、理解し易いように、カバー5の内周面部とこれに対向するスリーブ2の外周側面部との離間空間を概念的に示している)に示すように、カバー5の内周面部とスリーブ2の外周側面部の上部の離間距離は、第1の作動流体貯留部14からスリーブ2の上面部に向かって毛管現象を生じる寸法g1(図3参照)としており、スリーブ2内周面の軸受孔2aに毛管現象により流入する隙間(それぞれ、導入隙間部11、スリーブ上面隙間部12と称し、スリーブ上部分における隙間を示している)を形成するように配設されている。また、この導入隙間部11は、図3、図4に示すように、連通路6の開口部近傍箇所からスリーブ上端面隙間部12を介してスリーブ2の軸受孔2aの開口端に続くように形成されている。
【0031】
なお、この実施の形態においては、導入隙間部11は、軸方向上方から見たとき、略30度の開き角度θsの略扇形形状とされ、連通路13の開口部よりも広い範囲に形成されている。ここでは導入隙間部11領域とスリーブ上端面隙間部12領域を分ける境界は外周に向かって広がる扇形形状としているが、後述する角度θtのテーパ形状を有していれば、この境界は平行であってもよい。導入隙間部11領域の内周側境界は軸受孔2Aよりも外方かまたは等しい領域にある。
また、導入隙間部11は、側面断面方向から見たとき、その領域は外周に向かって0度より大きい角度θtのテーパ形状に形成されている。これらの扇形形状またはテーパ形状によって、連通路6から循環してきた作動流体20は毛管現象によって内周側に移動するので、それに含まれている気泡は外周側に移動し、その結果導入隙間部11で気液分離され、導入隙間部11領域の内周側境界でスリーブ上端面隙間部12領域または軸受孔2Aへ流れ込むことになる。また、スリーブ2の上端面における軸受孔2aの開口端の直径は例えば、2.8mm〜3.2mmとされる。また、導入隙間部11の離間隙間は例えば0.03mm〜0.15mmである。また、この実施の形態においては、導入隙間部11は径方向外周側に向かって隙間が広くなる形状であり、スリーブ上端面隙間部12の離間隙間は径方向に対して一定である。
【0032】
また特に、カバー5の内周面およびスリーブの外周側面部は、導入隙間部11およびスリーブ上端隙間部12の隙間よりも大きな空間となるように窪ませて作動流体20を貯留可能な第1の作動流体貯留部14を形成しており、導入隙間部11と通気孔13とを軸方向に連通させるように形成している。なお、この第1の作動流体貯留部14は、例えば、軸方向の幅0.5mm〜1.5mm、半径方向の最小隙間は0.03mm〜0.15mm、最大隙間は0.15mm〜0.3mm程度である。そして、通気孔13は、この半径が例えば0.15mm〜0.5mm程度であり、この通気孔13が設けられている箇所には、ざぐり孔により形成された緩衝空間としての凹部22(例えば、半径0.3mm〜0.8mm、深さ0.1mm〜0.3mm程度)が形成されているが、この通気孔13および凹部22に連なる第1の作動流体貯留部14の箇所(最大空間部14aと称す)が、スリーブ2の外周側面部との離間距離が最も大きくなり、軸心Oを中心として対向する方向から前記最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の外周側面部からの離間距離が大きくなるように径方向に対して傾斜する形状に形成されている。なお、この実施の形態においては、第1の作動流体貯留部14の離間隙間は軸方向に対して一定である。また、この実施の形態においては、外気に連通する通気孔13は、カバー5における、平面視して、連通路6の開口部と軸心0を中心に同方向となる箇所に設けられている。また、図4、図6に示すように前記通気孔13に凹部22を形成したことで、作動流体20が満量である状態で流体軸受装置の設置環境の温度上昇などがあった場合でも、作動流体20の界面Kが凹部22内にとどまり、通気孔13から作動流体20が洩れ出ることがないよう図られている。
【0033】
また、図6に示すように通気孔13は略半円形状または円形状の一部の形状でカバー5の端面に形成されているので、カバー5を樹脂成形等するときに、金型にサイドピン等の複雑な機構を必要としないので、金型が安価にでき、また、工数も低減することができる。
【0034】
また、図7に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面において開口側ほど広がるように形成された第2の作動流体貯留部23は、下方ほど狭くなるように傾斜する傾斜面23aにより形成され、後述するように、作動流体が蒸発するなどして減少して第1の作動流体貯留部14の箇所での界面の位置が変化した場合でも、この第2の作動流体貯留部23において、界面が傾斜面23a内で移動する範囲で釣り合うように、傾斜面23aの上端の直径Dtと下端の直径dtとが設定されている。
【0035】
また、図3に示すように、カバー5の上面外周部には、この流体軸受装置を組み立てた後に作動流体20を注油する際に、作動流体20が、外側に落ちないように防止するための、撥油剤塗布凹部24も形成されている。この塗布凹部24は、例えば、内径3.5mm〜6mm、巾0.2〜1.0mm、深さ0.03mm〜0.1mm程度である。
【0036】
上記構成において、スピンドルモータの回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転されると、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力と、スラスト流体軸受の動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力とにより、シャフト1がスリーブ2に対して所定の隙間を保った状態で支持される。また、上側のラジアル流体軸受の動圧溝7により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2との間の作動流体20が下方に送られ、これに伴って、作動流体20が、スラストフランジ3とスリーブ2との間の空間、スリーブ2とスラスト板4との間の空間、連通路6内の空間、導入隙間部11およびスリーブ上端面隙間部12を順に通り、再度、シャフト1とスリーブ2との間の空間に流入し、これらの空間の間で作動流体20が積極的に循環する。また、連通路6から導入隙間部11内に導入された作動流体20の一部は、スリーブ上端面隙間部12にも流入しながら、再度、軸受孔外周最小隙間部12を介してシャフト1とスリーブ2との間の空間に流入する。
【0037】
したがって、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8やスラスト流体軸受の動圧溝9、10などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝7、8、動圧溝9、10などから離脱して循環し、連通路6から、導入隙間部11を通った際に、圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入する。圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入すると、その気泡の大きさも大き目となるので、圧力の高い導入隙間部11やスリーブ上端面隙間部12に再度入ることが少なくなり、流体溜まり用空間部14において気泡は作動流体20から分離されて通気孔13から排出される。
【0038】
このように、この構成によれば、正常な回転駆動時にも作動流体内の気泡が排出され、この結果、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止でき、信頼性を向上させることができる。
【0039】
また、この流体軸受装置によれば、カバー5のシャフト1に臨む内周面に第2の作動流体貯留部23が設けられているだけでなく、スリーブ2外周側面部とカバー5との間に、大きな容積の流体溜まり用空間部14が設けられている。したがって、流体溜まり用空間部14の作動流体が減少した場合でも、導入隙間部11およびスリーブ上端面隙間部12に作動流体20が満たされている限り、循環機能を維持できる。
【0040】
そして特に本発明によれば、第1の作動流体貯留部14を、導入隙間部11の軸心に対して対称部の方向から通気孔13が設けられている最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の外周側面からの離間距離が大きくなるように周方向に対して傾斜する形状に形成したので、流体軸受装置が外部から衝撃を受けたり、姿勢が急激に変化したりした際でも、第1の作動流体貯留部14における空気と作動流体20との界面が、通気孔13近傍箇所にとどまって、周方向に移動することが防止され、この結果、気泡の移動に伴う作動流体20の外部へ洩れ出しを防止できる。また、通気孔近傍箇所ほど、第1の作動流体貯留部の貯留空間断面積が大きいとともに、図4において、作動流体20が減少した場合の界面の位置ア、イを示すように、常に界面が軸方向に延びる形状となるので、界面の面積やこれに伴う第1の作動流体貯留部14における表面張力の変動が、図10に示すような構造の流体軸受装置の場合と比較して、少ない。
【0041】
また、カバー5の裏面とスリーブ2の上面との間にも毛管現象を生じるスリーブ上端面隙間部12を形成したので、導入用隙間部11から導入された作動流体20が、このスリーブ上端面隙間部12を介して、スリーブ2の軸受孔2aへ全周から良好に供給され、スリーブ2の軸受孔2aにおいて安定して作動流体20が満たされる。
【0042】
また、第2の作動流体貯留部23に溜められた作動流体20の表面張力と、通気孔13に臨む第1の作動流体貯留部14の表面張力とがほぼ釣り合うような形状に、第2の作動流体貯留部20の内径(傾斜面23aの上端の直径Dtと下端の直径dt)を形成することにより、第2の作動流体貯留部23における作動流体20の界面の位置の急激な変動ならびに、界面の変動による作動流体の洩れを防止できる。
【0043】
ここで、この点について、詳しく説明する。
【0044】
図8は、この流体軸受装置における第2の作動流体貯留部23と第1の作動流体貯留部14との圧力の釣り合いを概念的に示す図である。ここで、Aは第2の作動流体貯留部23での界面の表面張力による圧力、Bは界面位置の差による体積分の圧力、Cは第1の作動流体貯留部14での界面の表面張力による圧力である。また、γはオイル(作動流体)の表面張力[N/m]、ρはオイルの密度[kg/m3]、Liは界面Iにおけるオイル界面と部材との接触長さ、Aiは界面Iのオイル界面表面積、Loは界面Oにおけるオイル界面と部材の接触長さ、Aoは界面Oのオイル界面表面積、hiはスリーブ上面から界面Iまでの高さ、hoはスリーブ上面から界面Oまでの平均高さ(t/2)、Θは部材とオイル界面の接触角である。
【0045】
図8に示すモデルにおいて、圧力の釣り合い式は、
(式1)
A=B+C [Pa]
ここで、式1のA、B、Cは以下の通りである。
(式2)
A=(γ・cosΘ×Li)/Ai
(式3)
B=ρ・(hi−ho)
(式4)
C=(γ・cosΘ×Lo)/Ao
(式1)に、(式2)、(式3)、(式4)を代入すると、(式5)
Li/Ai={1/(γ・cosΘ)}×[ρ・(hi−ho)+{(γ・cosΘ)+Lo}/Ao]
であり、(式5)に以下の(式6)、(式7)を代入し、右辺をZとおくと、
(式6)
Li=π(ds+Dts)
(式7)
Ai=π{(Dts/2)2−(ds/2)2
(式8)
(ds+Dts)/{(Dts/2)2−(ds/2)2}=Z
(式8)を展開し、解の公式にしたがって、第2の作動流体貯留部23での直径Dtsを求めると、
(式9)
Dts={1+SQRT(1+Z(ds+Z×ds2/4))}/(Z/2)
(式9)から、オイル界面の最大時と最小時の直径Dtsを求め、トップシールの内径(dt,Dt)がその界面移動範囲を十分満足できるように設定することで、第2の作動流体貯留部23に溜められた作動流体20の表面張力と、通気孔13に臨む第1の作動流体貯留部14の表面張力とがほぼ釣り合うこととなり、これにより、第2の作動流体貯留部23における作動流体20の界面の位置の急激な変動ならびに、界面の変動による作動流体の洩れを防止できる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、カバー5の上面外周部には、くぼみ状に撥油剤を塗布する為の塗布凹部24が形成されているので、流体軸受装置の組み立て後に作動流体20を注油する際に、作動流体20がカバー5の上面から流れ落ちることが塗布凹部24により阻止され、これにより、作業能率が向上するとともに、スリーブ2内への作動流体20の充填量が少なくなることも防止することができ、信頼性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の流体軸受装置は、ディスク駆動装置、リール駆動装置、キャプスタン駆動装置、ドラム駆動装置などのスピンドルモータとして特に好適であるが、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図
【図2】(a)は同流体軸受装置の断面図、(b)は同流体軸受装置の1つの動圧溝を示す図
【図3】同流体軸受装置の上部拡大断面図
【図4】同流体軸受装置の図3(a)3−3断面図
【図5】同流体軸受装置の上面透視図
【図6】同流体軸受装置の換気孔から見た側面図
【図7】同流体軸受装置の第2の作動流体貯留部の図3のJ部拡大断面図
【図8】同流体軸受装置における第2の作動流体貯留部と第1の作動流体貯留部との圧力の釣り合いを概念的に示す図
【図9】本発明の流体軸受装置を備えたスピンドルモータを適用したディスク駆動装置を示す図
【図10】従来の流体軸受装置の断面図
【符号の説明】
【0049】
1 シャフト
2 スリーブ
2a 軸受孔
2aa 開口端
2ab 閉鎖端
2ac 太径孔部
3 スラストフランジ
4 スラスト板
5 カバー
6 連通路
7、8 動圧溝(ラジアル流体軸受)
9、10 動圧溝(スラスト流体軸受)
11 導入隙間部
12 スリーブ上端隙間部
13 通気孔
14 第1の作動流体貯留部
20 作動流体
23 第2の作動流体貯留部
24 塗布凹部
50 スピンドルモータ
51 ディスク
52 記録再生ヘッド
53 ディスク駆動装置
101 軸受スリーブ
102 均衡体積部
103 スペーサ
104 カバーキャップ
105 軸受隙間
106 連通路(本願の連通路ではない)
107 再循環路
108 穴
109 軸受流体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
一端が閉鎖された閉鎖端と、軸受孔である開口する開口端とを有するスリーブと、
前記スリーブの軸受孔内に前記シャフトと回転自在に挿通させ、
前記スリーブの開口端側の端面およびスリーブの外周側面部に隙間または空間を有した状態で覆うカバーとを備え、
前記スリーブの閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側との間の隙間領域とを連通させる連通路を形成し、
前記カバーと前記スリーブとの間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、
前記連通路からの作動流体が前記軸受孔に移動するように、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間にスリーブ上端面隙間部を形成するとともに、前記連通路の開口部近傍領域に前記スリーブ上端面隙間部に連続する導入隙間部を形成し、
前記カバー内周部とスリーブ外周側面における空間に、外気に通じる通気孔を形成し、
前記導入隙間部と前記通気孔とを連通させ、
前記カバー内周部とそれに対抗するスリーブ外周側面に、前記スリーブ上端面隙間部の隙間よりも大きな空間となるようにスリーブおよびカバーもしくはどちらか片方を窪ませて作動流体を貯留可能な第1の作動流体貯留部を形成し、
前記第1の作動流体貯留部を、前記カバー内周側面と前記スリーブ外周側面との離間距離が、周方向に沿って前記通気孔側に近づくほど大きくなるような形状に形成したことを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
前記カバーのシャフトに臨む内周面にも、外気に連通して作動流体を溜める第2の作動流体貯溜部を形成し、前記第2の作動流体貯溜部を、スリーブの開口端側端面から離間するにしたがって内径が広がるように傾斜する傾斜面で構成し、前記第2の作動流体貯溜部に溜められた作動流体の表面張力と、スリーブ外周側面に形成される前記第1の作動流体貯留部の作動流体の表面張力とがほぼ釣り合うような形状に前記第2の作動流体貯溜部の内径を形成したことを特徴とする
請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
カバーとスリーブ端面に形成された前記スリーブ上端面隙間部の隙間をg1とし、カバーとスリーブ外周面に形成された側面隙間部の隙間をg2とし、前記第1の作動流体貯留部の最小隙間をg3とするとき、
g1<g2<g3
なる関係を有することを特徴とする
請求項1または2に記載の流体軸受装置。
【請求項4】
前記カバーは側面に換気孔を有し、前記換気孔の形状は前記カバー端面にかかる半円形状もしくは円形状の一部であることを特徴とする
請求項1〜3の何れか一項に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、前記シャフトの先端に固定されたスラストフランジが配設されている空間領域であり、前記スラストフランジが臨む空間に、前記スリーブにおける閉鎖端面側に設けられた前記連通孔の開口部が通じるように構成したことを特徴とする
請求項1〜4の何れか一項に記載の流体軸受装置。
【請求項6】
前記スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、前記シャフトの先端と閉鎖端面側領域閉鎖板とで形成される空間領域であり、前記シャフトの先端が臨む空間に、前記スリーブにおける閉鎖端面側に設けられた前記連通孔の開口部が通じるように構成したことを特徴とする
請求項1〜4の何れか一項に記載の流体軸受装置。
【請求項7】
前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との少なくとも一方にもうけられた前記動圧溝は、前記作動流体に循環する力を与える形状に形成したことを特徴とする
請求項1〜5の何れか一項に記載の流体軸受装置。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載の流体軸受装置を備えたスピンドルモータ。
【請求項9】
請求項8に記載のスピンドルモータを備えたディスク駆動装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−248916(P2008−248916A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87454(P2007−87454)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】