説明

液体噴射装置およびその制御方法

【課題】液体の特性を正確に検出して駆動波形を補正し、液体を適切に噴射させる。
【解決手段】液体噴射装置100が、液体が充填された圧力室50と、振動板Dfと、振動板Dfを変位させて圧力室50内の液体の圧力を変動させる圧力発生素子45とを含み、圧力室50内の液体の圧力変動に応じて液体をノズル52から噴射させる噴射駆動を実行可能な液体噴射ヘッド24と、噴射駆動を実行させる駆動波形COMを生成する駆動波形生成部64と、圧力室50内の液体を排出させるフラッシング動作を液体噴射ヘッド24に実行させる制御部60と、振動板Dfの残留振動Rvを検出する残留振動検出部324とを備える。制御部60は、フラッシング動作により発生した残留振動Rvに基づいて液体の特性に応じた特性値Cvを算出し、特性値Cvに基づいて駆動波形COMを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の液体(例えばインク)を加圧してノズルから噴射させる液体噴射技術が従来から提案されている。液体噴射技術においては、圧力室内のインクの温度や粘度等に応じて噴射特性(噴射速度、噴射量等)が変化するから、インクの温度や粘度等に基づいて噴射を制御する構成が好ましい。例えば、特許文献1には、圧電体素子の共振周波数または反共振周波数を測定してインクの粘度を検出し、インクの粘度に基づいて圧電体素子の駆動電圧を決定する技術が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−35812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧力室内のインクは、その温度に応じて粘度が変化する他、ノズル内に露出する液面(メニスカス)から溶媒が蒸発することによって粘度が増大する。溶媒の蒸発によるインクの増粘は、印字動作の期間内では完全には解消されない可能性がある。空走期間(インクの噴射を実行しない期間)が長いノズルに対応するインクは特に増粘成分の残留が顕著となる。したがって、印字動作の期間内にインクの粘度を検出する特許文献1の技術では、圧力室内のインクのうち増粘していない成分の粘度(すなわち、増粘の影響を排除した粘度)を正確に検出することが困難である。以上の事情に鑑み、本発明は、液体の特性を正確に検出して駆動波形を補正し、液体を適切に噴射させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射させる噴射駆動を実行可能な液体噴射ヘッドと、前記噴射駆動を実行させる駆動波形を生成する駆動波形生成部と、前記圧力室内の前記液体を排出させるフラッシング動作を前記液体噴射ヘッドに実行させる制御部と、前記圧力室内の前記液体の残留振動を検出する残留振動検出部とを備える液体噴射装置であって、前記制御部は、前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記駆動波形を補正する。以上の構成によれば、フラッシング動作により発生した液体の残留振動を検出するから、圧力室内の増粘成分が残留振動に与える影響を低減できるので、駆動波形をより適切に補正できる。
【0006】
本発明の好適な態様において、前記制御部は、前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記液体の特性に応じた特性値を算出し、前記特性値に基づいて前記駆動波形を補正する。以上の構成によれば、残留振動から算出された特性値に基づいて駆動波形を補正するから、駆動波形の補正がより適切となる。
【0007】
本発明の好適な態様において、前記制御部は、第1フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて第1特性値を算出し、前記第1特性値に応じた量の前記液体を噴射させる第2フラッシング動作を実行させ、前記第2フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて第2特性値を算出し、前記第2特性値に基づいて前記駆動波形を補正する。以上の構成において、第2フラッシング動作で噴射される液体の量(第1特性値に応じた液体の量)は、噴射量ゼロ、すなわち第2フラッシング動作にて液体を噴射しないことを含む概念である。
液体の特性値に関わらずフラッシング動作での液体の噴射量を一定とする構成では、液体の増粘成分が充分に排出されない可能性や、液体の噴射量が過剰となる可能性がある。以上の構成によれば、第1フラッシング動作により発生した残留振動に基づいて第1特性値を算出し、第1特性値に応じた量の液体を噴射させる第2フラッシング動作を実行する。そのため、液体の粘度が増大した場合でも、圧力室内の増粘成分がより充分に排出される。したがって、増粘の影響を低減した液体の特性値を算出できるから、駆動波形をより適切に補正できる。また、液体の粘度が減少した場合には、第2フラッシング動作による過剰な液体の噴射が抑制されるので、液体の消費量がより削減される。
【0008】
本発明の好適な態様において、前記制御部は、前記液体噴射ヘッドが記録媒体に対して前記液体を噴射させる期間とは異なる調整期間ごとに前記フラッシング動作を実行させ、過去の前記調整期間での前記第1特性値または前記第2特性値と現在の前記調整期間での前記第1特性値とを比較した結果に応じて、現在の前記調整期間での前記第2フラッシング動作により噴射させる前記液体の量を決定する。
現在の調整期間での特性値のみに応じて第2フラッシング動作で噴射させる液体の量を決定する構成では、過去の調整期間から現在の調整期間までに圧力室内の液体が急激に増粘した場合に、現在の調整期間での第2フラッシング動作で増粘成分を充分に排出できない可能性がある。以上の形態の構成によれば、過去の調整期間での特性値(第1特性値または第2特性値)と現在の調整期間での第1特性値とを比較した結果に応じて、現在の調整期間での第2フラッシング動作により噴射させる液体の量を決定する。そのため、圧力室内の液体が急激に増粘した場合であっても、圧力室内の増粘成分がより充分に排出される。したがって、増粘の影響を低減した液体の特性値を算出できるから、駆動波形をより適切に補正できる。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記制御部は、前記特性値に基づいて前記液体の温度を特定し、前記温度に基づいて前記駆動波形を補正する。以上の構成によれば、液体の温度に基づいて駆動波形を補正する構成を利用して、特性値に基づいた駆動波形の補正を実現可能である。
【0010】
本発明の好適な態様において、液体噴射装置は、噴射された前記液体を加熱する加熱器を更に備える。以上の構成によれば、加熱器の加熱により液体の特性が変化し易くなるので、前述した各形態の構成により発揮される効果が一層顕著となる。
【0011】
本発明は、以上の各形態に係る液体噴射装置の制御方法としても特定される。本発明の液体噴射装置の制御方法は、液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射させる噴射駆動を実行可能な液体噴射ヘッドと、前記噴射駆動を実行させる駆動波形を生成する駆動波形生成部と、前記圧力室内の前記液体を排出させるフラッシング動作を前記液体噴射ヘッドに実行させる制御部と、前記圧力室内の前記液体の残留振動を検出する残留振動検出部とを備える液体噴射装置の制御方法であって、前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記駆動波形を補正する。以上の制御方法でも、本発明の液体噴射装置と同様の作用および効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】記録ヘッドの構成図である。
【図4】印刷期間および調整期間の説明図である。
【図5】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図6】駆動信号の波形図である。
【図7】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図8】噴射駆動により生じる振動板の残留振動の説明図である。
【図9】素子制御回路の構成図である。
【図10】素子制御回路の構成図である。
【図11】駆動信号の補正に用いられるテーブルを示す図である。
【図12】第1実施形態の動作フローを示す図である。
【図13】駆動信号の補正の具体例を示す図である。
【図14】第2実施形態の動作フローを示す図である。
【図15】特性値と噴射駆動の回数とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図16】第3実施形態の動作フローを示す図である。
【図17】変形例の印刷装置の部分的な模式図である。
【図18】変形例の駆動信号の波形図である。
【図19】変形例の駆動信号から生成された波形を示す図である。
【図20】検出信号波形と基準電位とがなす閉領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、インクの液滴を記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とを具備する。
【0014】
キャリッジ12には、インクカートリッジ22と記録ヘッド24とが搭載される。インクカートリッジ22は、記録紙200に噴射されるインク(液体)を貯留する容器である。記録ヘッド24は、インクカートリッジ22に貯留されたインクを記録紙200に噴射する液体噴射ヘッドとして機能する。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ22を固定して記録ヘッド24にインクを供給する構成も採用され得る。
【0015】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面26の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面26には、相異なるインク色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル列28(28K,28Y,28M,28C)が形成される。各ノズル列28は、副走査方向に直線状に配列されたN個のノズル(吐出口)52の集合である(Nは自然数)。ノズル列28Kの各ノズル52からはブラック(K)のインクが吐出される。同様に、ノズル列28Yの各ノズル52からはイエロー(Y)のインクが吐出され、ノズル列28Mの各ノズル52からはマゼンタ(M)のインクが吐出され、ノズル列28Cの各ノズル52からはシアン(C)のインクが吐出される。なお、各ノズル52を千鳥状に配列した構成も好適である。
【0016】
図1の移動機構14は、キャリッジ12を主走査方向(記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に移動させる。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0017】
移動機構14は、吐出面26が記録紙200に対向する範囲の外側の位置(以下「待避位置」という)P0まで記録ヘッド24を移動させることが可能である。待避位置P0にある記録ヘッド24の吐出面26に対向するようにキャップ18が配置される。キャップ18は、記録ヘッド24の吐出面26を封止する。キャップ18の近傍には吐出面26を払拭するワイパー(図示略)が配置される。記録ヘッド24は、増粘等により噴射に適さなくなったインクを排出するフラッシング動作を待避位置P0にて行う。フラッシング動作を実行することで、各ノズル52の目詰まりや圧力室50内に侵入した気泡が解消される。
【0018】
図3は、第1実施形態の記録ヘッド24の構成図である。具体的には、図3の部分(A)は記録ヘッド24の平面図であり、図3の部分(B)は部分(A)におけるIIIb−IIIb線の断面図であり、図3の部分(C)は部分(A)におけるIIIc−IIIc線の断面図である。図3に示すように、記録ヘッド24は、概略的には、流路形成基板41とノズル形成基板42と弾性膜43と絶縁膜44と圧電素子45と保護基板46とを積層した構造である。
【0019】
流路形成基板41は、例えばステンレス鋼等の金属板材またはシリコン単結晶基板等で構成される板材である。図3の部分(A)および部分(C)に示すように、流路形成基板41には、長尺状の複数の圧力室50が各々の幅方向(ノズル52の配列方向)に並設される。相互に隣合う圧力室50は隔壁412で区画される。また、流路形成基板41のうち各圧力室50の長手方向の外側の領域には連通部414が形成される。連通部414と各圧力室50とは、圧力室50毎に形成されたインク供給路416を介して相互に連通する。インク供給路416は、圧力室50よりも狭い幅に形成され、連通部414から圧力室50に流入するインクに対して一定の流路抵抗を付与する。
【0020】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、流路形成基板41の表面(開口面)にはノズル形成基板42が例えば接着剤や熱溶着フィルム等で固定される。ノズル形成基板42には、各圧力室50のうちインク供給路416とは反対側の端部に連通するノズル(貫通孔)52が形成される。他方、流路形成基板41のうちノズル形成基板42とは反対側の表面には、弾性膜43が例えば二酸化シリコン(SiO2)で形成される。弾性膜43の表面には絶縁膜44が例えば酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成され、絶縁膜44の表面には圧力室50毎に圧電素子45が形成される。弾性膜43および絶縁膜44のうち圧電素子45(圧電体452)に相対する部分(図3の部分(B)および部分(C)にて両矢印で示される部分)が振動板Dfである。すなわち、振動板Dfは圧電素子45毎(圧力室50毎)に存在する。
【0021】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、各圧電素子45は、下電極451と圧電体452と上電極453とを絶縁膜44側からこの順番に積層した構造体である。下電極451および上電極453の一方は、複数の圧力室50にわたって連続する共通電極であり、下電極451および上電極453の他方と圧電体452とは圧力室50毎に個別に形成(パターニング)される。下電極451および上電極453の何れを共通電極とするかは、例えば圧電体452の分極方向や配線の都合等に応じて適宜に決定される。各圧電素子45の上電極453には、例えば金(Au)等で形成されたリード電極47が接続される。リード電極47を介した駆動信号の供給で下電極451と上電極453との間に電界を付与すると、各圧電素子45および各振動板Dfが変形(撓み変形)する。なお、以上の構成の他に、圧電素子45として静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。
【0022】
図3の部分(B)に示すように、流路形成基板41のうち各圧電素子45の設置面には保護基板46が固定される。保護基板46のうち各圧電素子45に対向する領域には、各圧電素子45を収容する圧電素子保持部461が形成される。圧電素子保持部461は、各圧電素子45の変位を阻害しない程度の大きさに成形されて各圧電素子45を保護する。また、保護基板46のうち流路形成基板41の連通部414に対応する領域には、保護基板46を貫通するリザーバー部462が形成される。リザーバー部462は、各圧力室50が配列する方向に沿う長尺状の空間である。流路形成基板41の連通部414と保護基板46のリザーバー部462とを連通させた空間が、各圧力室50の共通のインク室として機能するリザーバー54を構成する。
【0023】
保護基板46のうち圧電素子保持部461とリザーバー部462との間の領域には、保護基板46を厚さ方向に貫通する貫通孔463が形成される。圧電素子45の下電極451およびリード電極47が貫通孔463の内側に露出する。保護基板46の面上には、封止膜481と固定板482とを積層したコンプライアンス基板48が接合される。封止膜481は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えばポリフェニレンサルファイドフィルム)で構成され、保護基板46のリザーバー部462を封止する。固定板482は、金属等の硬質の材料(例えばステンレス鋼)で構成される。固定板482のうちリザーバー54(リザーバー部462)に対向する領域には開口部483が形成される。
【0024】
以上の構成の記録ヘッド24において、リザーバー54から各インク供給路416と各圧力室50とを介してノズル52に至る空間に、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。駆動信号の供給により圧電素子45および振動板Dfが変形すると圧力室50内の圧力が変動する。圧力室50内の圧力変動を駆動信号に応じて制御することで、圧力室50内のインクをノズル52から噴射させる動作(以下「噴射駆動」という)、または、圧力室50内のインクが噴射されない程度にノズル52内のインクの液面(メニスカス)を微振動させる動作(以下「微振動駆動」という)を実行させることが可能である。
【0025】
図4に示すように、印刷装置100の動作期間は印刷期間RDRと調整期間RFLとに区分される。印刷期間RDRは噴射駆動によるインクの噴射で記録紙200に画像を形成する期間である。印刷期間RDRは、例えば、記録ヘッド24によるインクの噴射に並行して、キャリッジ12が待避位置P0を基点として主走査方向に1往復する期間である。他方、調整期間RFLは、相前後する印刷期間RDRの合間に位置し、印刷期間RDRでの画像の形成(インクの噴射)に備えて、記録ヘッド24を待避位置P0に移動させて調整動作を実行する期間である。調整期間RFLでは、各ノズル52から強制的に(すなわち、印刷データDPとは無関係に)インクを噴射させるフラッシング動作が実行される。フラッシング動作により圧力室50内のインクの増粘成分が排出されてインクの増粘が解消される。フラッシング動作ではN回(Nは自然数であり、例えばN=100)の噴射駆動が実行される。
【0026】
図5は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図5に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含む。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データDPが外部装置(例えばホストコンピューター)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド24と移動機構14と用紙搬送機構16とを含む。
【0027】
駆動信号発生部64は、印刷期間RDRと調整期間RFLとにおいて駆動信号COMを生成する。駆動信号COMは、各圧電素子45を駆動する周期信号である。図6に示すように、駆動信号COMの1周期に相当する期間(以下「印字周期」という)T内には噴射パルスPDと微振動パルスPBとが配置される。噴射パルスPDは、所定の基準電位VREFから低位側(圧力室50を減圧させる方向)の電位VSLの電位まで電位が変化する区間d1と、電位が基準電位VREFより高位側(圧力室50を加圧させる方向)の電位VSHに変化する区間d2と、基準電位VREFに復帰する区間d3とを含む波形であり、圧電素子45に供給された場合に所定量のインクがノズル52から噴射されるように圧電素子45および振動板Dfを変形させて圧力室50内のインクを加圧する。他方、微振動パルスPBは、所定の基準電位VREFから低位側の電位VBまで電位が変化する区間p1と、区間p1の終端の電位VBを維持する区間p2と、電位が高位側に変化して基準電位VREFに復帰する区間p3とを含む台形状の波形であり、圧電素子45に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル52から噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させてノズル52内のメニスカスを微振動(揺動)させる。噴射パルスPDの電位変動幅A1(A1=VSH−VSL)および微振動パルスPBの電位変動幅A2(A2=VREF−VB)は制御部60による補正で変化し得る。
【0028】
図5の記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷に必要な各種のデータ等を一時的に記憶するRAMとを含む。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104)を統括的に制御する。具体的には、制御部60は各印字周期Tでの圧電素子45の動作を指示する制御データDCを生成する。制御データDCは、圧力室50内のインクをノズル52から噴射させる噴射駆動と、ノズル52内のインクのメニスカスを微振動させる微振動駆動とのいずれかを圧電素子45の動作として指定するデータである。制御データDCは印字周期T毎に繰り返し生成される。印刷期間RDRでは、印刷データDPに応じて、噴射駆動または微振動駆動を指示する制御データDCが生成される。他方、調整期間RFLでは、印刷データDPに関わらず、フラッシング動作としてのN回の噴射駆動を指示する制御データDCが生成される。
【0029】
図7は、記録ヘッド24の電気的な構成の模式図である。図7に示すように、記録ヘッド24は、相異なる圧電素子45に対応する複数の素子制御回路32を含む。各素子制御回路32は、駆動回路322と残留振動検出回路324と切替回路326とを具備する。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COMは、内部I/F68を介して複数の駆動回路322に共通に供給される。また、制御部60が生成した制御データDCは内部I/F68を介して各駆動回路322に供給される。
【0030】
切替回路326は、制御部60から供給される選択信号Swに応じて駆動回路322および残留振動検出回路324のいずれかを圧電素子45に接続するスイッチである。制御信号Swがローレベルである場合、図9に示すように、切替回路326は圧電素子45を駆動回路322に接続する。駆動回路322は、制御部60から供給される制御データDCに応じた区間を駆動信号COMから選択して圧電素子45に供給する。具体的には、制御データDCが噴射駆動を指示する場合、駆動回路322は駆動信号COMの噴射パルスPDを選択して圧電素子45に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル52から噴射される(噴射駆動)。また、制御データDCが微振動駆動を指示する場合、駆動回路322は駆動信号COMの微振動パルスPBを選択して圧電素子45に供給する。したがって、ノズル52内のメニスカスに微振動が付与され圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される(微振動駆動)。印刷期間RDRでは、制御信号Swがローレベルに維持されるので、切替回路326が常に圧電素子45を駆動回路322に接続する。
【0031】
図8は、インク噴射後の振動板Dfの変位を示す図である。期間W1にて噴射パルスPDが圧電素子45に供給されると、振動板Dfが変位し圧力室50内のインクが加圧されて噴射される。噴射パルスPDの供給後も振動板Dfおよび圧力室50内のインクの変位(振動)は直ちには収まらず残留振動Rvとして残存する。振動板Dfおよび圧力室50内のインクの振動は圧力室50内のインクの特性(インクの粘度等)に影響される。例えば、残留振動Rvの波高hが減少する割合はインクの粘度が高いほど大きい。
【0032】
他方、制御信号Swがハイレベルである場合、図10に示すように、切替回路326は圧電素子45を残留振動検出回路324に接続する。振動板Dfが振動すると圧電素子45に逆起電力BEFが発生する。残留振動検出回路324は、切替回路326を介して圧電素子45から供給される逆起電力BEFに応じた検出信号BDを検出して出力する。残留振動検出回路324は、例えば、逆起電力BEFのうち残留振動Rvに対応する周波数帯域のみを通過させるフィルタ、逆起電力BEFを増幅する増幅器、またはこれらの組合せであり得る。なお、切替回路326を設けずに、駆動回路322と残留振動検出回路324とが各別に圧電素子45に接続される構成も好適である。
【0033】
残留振動検出回路324が逆起電力BEFに応じて生成した検出信号BDは制御部60に供給される。制御部60は検出信号BDに応じた特性値Cvを算出する。前述の通り、振動板Dfの振動はインクの特性に影響されるから、逆起電力BEFにもインクの特性が反映される。したがって、特性値Cvは、インクの特性(例えば粘度)に応じた数値となる。具体的には、検出信号BD(残留振動Rv)中の隣り合う2つのピークの波高の比(例えば図8に示される波高h1および波高h2の比(Cv=h2/h1))が特性値Cvとして算出される。インクの粘度が高ければ波高hが減少する割合が大きいので特性値Cvは小さくなる。
【0034】
制御部60は、特性値Cvに基づいて駆動信号COMを補正する。具体的には、制御部60は、特性値Cvに応じた補正値Sを特定して駆動信号発生部64に指示する。補正値Sの特定には図11に例示されたテーブルTBL1およびテーブルTBL2が利用される。図11に示すように、テーブルTBL1では、特性値Cvと温度Tmpとの各数値が対応付けられる。テーブルTBL1が示す特性値Cvと温度Tmpとの相関は実験的または統計的に事前に設定される。また、テーブルTBL2では、温度Tmpと補正値Sとの各数値が対応付けられる。補正値Sは、駆動信号COMのパラメータ(例えば噴射パルスPDの電位変動幅A1や微振動パルスPBの電位変動幅A2)を規定する値であって、各温度Tmpにおけるインクの噴射特性が同等に近づくように実験的または統計的に事前に設定される。制御部60は、テーブルTBL1を参照して特性値Cvからインクの温度Tmpを特定し、その温度Tmpに対応する補正値SをテーブルTBL2から求めて駆動信号発生部64に指示する。駆動信号発生部64は、制御部60から指示された補正値Sに応じた駆動信号COMを生成する。以上のようにして、フラッシング動作により発生した残留振動Rvに基づいて特性値Cvが算出され、特性値Cvに基づいて駆動信号COMが補正される。
【0035】
図12は、調整期間RFLにて制御部60が駆動信号COMを補正する動作フローの一例である。印刷期間RDRが終了して調整期間RFLが開始すると、制御部60は、切替回路326に供給される選択信号Swをローレベルに設定して圧電素子45を駆動回路322に接続すると共に、駆動回路322に制御データDCを供給してN回の噴射駆動(フラッシング動作)の実行を指示する(ステップS101)。制御部60は、図8に示すように、N回目の噴射駆動を指示してから所定の時間が経過した時点tで、選択信号Swをハイレベルに設定して圧電素子45を残留振動検出回路324に接続する。時点tは、N回目の噴射駆動に対応する噴射パルスPDが圧電素子45に供給された直後の時点であって、かつ、その噴射駆動により発生した振動板Dfの振動が残留振動Rvとして継続している時点である。したがって、N回目の噴射駆動により発生した残留振動Rv(逆起電力BEF)に応じた検出信号BDが残留振動検出回路324により生成される。制御部60は、残留振動検出回路324が生成した検出信号BDを取得し(ステップS102)、その検出信号BDについて波高h1および波高h2を算出する(ステップS103)。制御部60は、算出された波高h1および波高h2から特性値Cv(h2/h1)を算出する(ステップS104)。そして、制御部60は、算出した特性値Cvに対応する補正値SをテーブルTBL1およびテーブルTBL2から特定して駆動信号発生部64に指示する(ステップS105)。図12の動作フローの終了後、次の印刷期間RDRが開始する。
【0036】
図13は、駆動信号COMの補正の具体例を示す図である。補正前の駆動信号COMはテーブルTBL2(図11(B))の補正値S2(温度Tmp=8℃)に対応し、補正後の駆動信号COMはテーブルTBL2の補正値S1(温度Tmp=4℃)に対応する。すなわち、図13では、特性値Cvにより特定されるインクの温度Tmpが低下した場合の駆動信号COMの補正が例示される。補正前と比較して、補正後の噴射パルスPDでは電位変動幅A1が増大し各傾斜波形(波形d1、波形d2、および波形d3)の傾きも増大する。すなわち、補正後の噴射パルスPDは、補正前と比較してより低い温度(より高い粘度)のインクの噴射に適合している。また、補正前と比較して、補正後の微振動パルスPBでは電位変動幅A2が増大し各傾斜波形(波形p1および波形p3)の傾きも増大する。すなわち、補正後の微振動パルスPBは、補正前と比較してより低い温度(より高い粘度)のインクの微振動に適合している。
【0037】
以上に説明した第1実施形態では、調整期間RFLでのフラッシング動作により発生した振動板Dfの残留振動Rvを検出するから、印刷期間RDR中に残留振動Rvを検出する構成と比較して、圧力室50内の増粘成分が残留振動Rvに与える影響を低減できる。そのため、増粘の影響を低減したインクの特性値Cvを算出できるから、駆動信号COMをより適切に補正できる。
【0038】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0039】
図14は、第2実施形態の制御部60が調整期間RFLにて駆動信号COMを補正する動作フローの一例である。第2実施形態では、第1フラッシング動作(ステップS201)と第2フラッシング動作(ステップS206)とが実行される。第1フラッシング動作の結果に応じた量のインクが第2フラッシング動作で噴射される。
【0040】
印刷期間RDRが終了して調整期間RFLが開始すると、制御部60は、切替回路326を制御して圧電素子45を駆動回路322に接続すると共に、駆動回路322に制御データDCを供給してM回(Mは自然数)の噴射駆動(第1フラッシング動作)の実行を指示する(ステップS201)。回数Mは第2フラッシング動作中の噴射駆動回数Nを下回る数であり、例えば10回である。第1実施形態と同様、第1フラッシング動作のうち最後(M回目)の噴射駆動の指示後に圧電素子45が残留振動検出回路324に接続される。残留振動検出回路324は、M回目の噴射駆動により発生した残留振動Rv(逆起電力BEF)に応じた検出信号BDを生成する。制御部60は、残留振動検出回路324が生成した検出信号BDに基づいて特性値Cvを算出し(ステップS202〜ステップS204)、算出した特性値Cvに基づいて第2フラッシング動作での噴射駆動の回数Nを決定する(ステップS205)。駆動回数Nの決定には図15に例示されたテーブルTBL3が利用される。図15に示すように、テーブルTBL3では特性値Cvと駆動回数N(噴射量)との各数値が対応付けられる。各回数Nは、各特性値Cvを有するインクの増粘成分が充分に排出されるように、実験的または統計的に事前に設定される。駆動回数Nの決定後、第1実施形態のステップS101〜ステップS105と同様にして、第2フラッシング動作(N回の噴射駆動)→検出信号BDの取得→特性値Cvの算出→駆動信号COMの補正が実行される(ステップS206〜ステップS210)。図14の動作フローの終了後、次の印刷期間RDRが開始する。
【0041】
インクの特性値Cvに関わらずフラッシング動作でのインクの噴射量(駆動回数N)を一定とする構成では、フラッシング動作が適切に実行されない可能性がある。例えば、特性値Cvが低下した(粘度が増大した)にも関わらず噴射量(駆動回数N)を一定とすると、インクの増粘成分が充分に排出されない可能性がある。他方、特性値Cvが上昇した(粘度が低下した)にも関わらず噴射量(駆動回数N)を一定とすると、噴射量が過剰となる可能性がある。第2実施形態の構成によれば、第1フラッシング動作により発生した残留振動Rvに基づいて特性値Cv(インクの粘度)を算出し、その特性値Cvに応じた量のインクを第2フラッシング動作で排出する。したがって、フラッシング動作によるインクの排出量の過不足が防止される。
【0042】
<C:第3実施形態>
図16は、第3実施形態の制御部60が調整期間RFLにて駆動信号COMを補正する動作フローの一例である。印刷期間RDRが終了して調整期間RFLが開始すると、制御部60は、第2実施形態のステップS201〜ステップS204と同様、第1フラッシング動作を実行して、M回目の噴射駆動により発生した残留振動Rvに基づいて現在の印刷期間RDRでの特性値Cvcを算出する(ステップS301〜ステップS304)。制御部60は、現在の特性値Cvcと、前回の調整期間RFLでのフラッシング動作(第1フラッシング動作または第2フラッシング動作)後に算出された特性値Cvpとの差分Δ(Δ=Cvc−Cvp)に応じて第2フラッシング動作での噴射駆動の回数Nを決定する(ステップS305)。具体的には、制御部60は、差分Δが閾値Thを上回る場合には、テーブルTBL3で規定された各駆動回数Nのいずれよりも大きい値(例えば200回)に回数Nを設定し、差分Δが閾値Th以下である場合には、テーブルTBL3を用いて現在の特性値Cvcに対応する値に回数Nを設定する。駆動回数Nの決定後は、第2実施形態のステップS206〜ステップS210と同様にして、第2フラッシング動作(N回の噴射駆動)→検出信号BDの取得→特性値Cvの算出→駆動信号COMの補正が実行される(ステップS306〜ステップS310)。現在の調整期間RFLのステップS304で算出された特性値CvcまたはステップS309で算出された特性値Cvは記憶部62に記憶され、次の調整期間RFLにて特性値Cvpとして利用される。図16の動作フローの終了後、次の印刷期間RDRが開始する。
【0043】
現在の調整期間RFLでの特性値Cvのみに応じてフラッシング動作で噴射させるインクの量を決定する構成では、前回の調整期間RFLから現在の調整期間RFLまでに圧力室50内のインクが急激に増粘した場合に、現在の調整期間RFLでのフラッシング動作で増粘成分を充分に排出できない可能性がある。第3実施形態の構成によれば、過去(前回)の調整期間RFLでの特性値Cvpと現在の調整期間RFLでの特性値Cvcとを比較した結果(差分Δ)に応じて、現在の調整期間RFLでのフラッシング動作により噴射させるインクの量を決定する。そのため、圧力室50内のインクが急激に増粘した場合であっても、圧力室50内の増粘成分がより充分に排出される。したがって、増粘の影響を低減したインクの特性値Cvを算出できるから、駆動信号COMをより適切に補正できる。
【0044】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0045】
(1)変形例1
図17に示すように、印刷装置100が加熱器(ヒーター)20を具備してもよい。加熱器20は往復移動中の記録ヘッド24に対向する。加熱器20は、制御部60による制御に従って、記録紙200上に噴射されたインクを加熱して乾燥させる。往復移動中の記録ヘッド24の圧力室50内のインクは、加熱器20により加熱されて温度等の特性が頻繁に変化する。したがって、インクの特性に応じて駆動信号COMを補正する前述の各形態の構成による効果が一層顕著となる。
【0046】
(2)変形例2
前述の各形態では、駆動信号発生部64が生成する駆動信号COMは印刷期間RDRと調整期間RFLとで共通だが、印刷期間RDRと調整期間RFLとで駆動信号COMが相違してもよい。例えば、調整期間RFLでは、噴射パルスPDのみを有する駆動信号COMを駆動信号発生部64が生成してもよい。また、印刷期間RDRでの噴射パルスPDをフラッシング動作にも流用したが、フラッシング動作での噴射駆動専用のパルスを有する駆動信号COMを駆動信号発生部64が生成してもよい。
前述の各形態では、1系統の駆動信号COMが記録ヘッド24に供給されたが、複数系統の駆動信号COMを各圧電素子45の駆動に使用する構成(例えば噴射パルスPDと微振動パルスPBとを別個の駆動信号に設定した構成)も採用され得る。さらに、駆動信号の各パルス(PD,PB)の波形は任意であり、例えば矩形状のパルスであってもよい。
【0047】
(3)変形例3
前述の各形態では、駆動信号COM内に噴射パルスPDと微振動パルスPBとがそれぞれ一連に設けられたが、例えば、図18のように、微振動駆動を実行させる波形(微振動波形)が期間TB1と期間TB2とに分離されてもよい。この駆動信号COMでは、駆動回路322が期間TB1と期間TB2とを選択することで図19(A)の微振動波形が圧電素子45に供給され、期間TB1と期間TDとを選択すすことで図19(B)の噴射波形が圧電素子45に供給される。なお、噴射駆動を実行させる波形(噴射波形)が複数の期間に分離されてもよい。以上のように、駆動回路322が駆動信号COM内の1以上の期間を選択して噴射波形および微振動波形を生成可能な波形であれば、駆動信号COMの波形は任意である。
【0048】
(4)変形例4
前述の各形態では、検出信号BD(残留振動Rv)中の隣り合う2つのピークの波高の比を特性値Cvとして例示したが、特性値Cvはインクの特性を反映した任意の値であり得る。例えば、検出信号BD(残留振動Rv)において、信号レベルが所定値を上回る区間の信号レベルの積分値(図20のC1およびC2)の比を特性値Cvとしてもよい。
【0049】
(5)変形例5
前述の各形態では、テーブルTBL1とテーブルTBL2とを用いて特性値Cvから補正値Sを制御部60が決定したが、特性値Cvを変数とする関数に基づいて補正値Sを制御部60が算出してもよい。また、特性値Cvを算出せず、検出信号BD(残留振動Rv)から直接的に補正値Sを制御部60が算出してもよい。また、前述の各形態では、テーブルTBL3に従ってフラッシング動作での噴射駆動回数Nを制御部60が決定したが、特性値Cvを変数とする関数に基づいて回数Nを制御部60が算出してもよい。以上の構成によれば、連続的に変化する特性値Cvに対して、連続的に補正値Sまたは噴射駆動回数Nを決定できる。ただし、関数に基づいた演算を実行すると制御部60の処理負荷が増大する。そのため、処理負荷を低減する観点からは、テーブルを用いて補正値Sおよび回数Nを決定する方がより好適である。
【0050】
(6)変形例6
前述の各形態では、テーブルTBL1とテーブルTBL2とを用いて特性値Cvから補正値Sを決定したが、特性値Cvと補正値Sとを直接に対応付けた単一のテーブルを用いて補正値Sを決定してもよい。以上の構成によれば、単一のテーブルにより補正値Sが決定されるので構成がより簡易となる。ただし、テーブルTBL2が実験的または統計的に既に設定されている場合には、これを流用してテーブルTBL1と組み合わせる構成が簡便である。
【0051】
(7)変形例7
前述の各形態では、制御部60が特性値Cvから補正値Sを求め、駆動信号発生部64が生成する駆動信号COMの波形を変化させた。しかし、駆動信号発生部64が複数の駆動信号COMを生成可能であって、一つの駆動信号COMを識別する識別信号Iを制御部60が特性値Cvに基づいて生成し、識別信号Iに基づいて駆動信号発生部64が複数の駆動信号COMのうちいずれかを選択して生成する構成であってもよい。
【0052】
(8)変形例8
前述の各形態では、各調整期間RFLにてフラッシング動作の実行および駆動信号COMの補正が実行されたが、これらの実行周期は任意である。例えば、調整期間RFLの所定個おきにフラッシング動作の実行および駆動信号COMの補正が実行されてもよい。また、各調整期間RFLにてフラッシング動作が実行され、調整期間RFLの所定個おきに駆動信号COMの補正が実行されてもよい。
【0053】
(9)変形例9
第3実施形態では、閾値Thと差分Δとを比較した結果に応じて第2フラッシング動作でのインクの噴射量(噴射駆動の回数)を変化させたが、閾値Thを下回る閾値Th2(例えば0)を更に設け、差分Δが閾値Th2以下である場合にはインクの噴射量を0とする(すなわち、第2フラッシング動作を実行しない)構成としてもよい。以上の構成によれば、印刷期間RDRにてインクの増粘が発生しない場合にはインクの噴射量を0とするので、調整期間RFLにおけるインクの噴射量をより低減できる。
【0054】
(10)変形例10
第3実施形態では、現在の調整期間RFLの直前の調整期間RFL(前回の調整期間RFL)における第2フラッシング動作後(N回目の噴射駆動後)に算出された特性値Cvと現在の調整期間RFLにおける第1フラッシング動作後(M回目の噴射駆動後)に算出された特性値Cvとの差分Δを算出したが、前回の調整期間RFLより前の調整期間RFLのフラッシング動作(第1フラッシング動作または第2フラッシング動作)後に算出された特性値Cvとの差分Δを算出してもよい。すなわち、任意の過去の調整期間RFLでの特性値Cvと現在の調整期間RFLでの特性値Cvとの差分Δに基づいて、第2フラッシング動作によるインクの噴射量を変更可能である。
【0055】
(11)変形例11
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を移動させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数のノズル52が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズル52からインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0056】
(12)変形例12
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0057】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、18……キャップ、20……加熱器、22……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、26……吐出面、28……ノズル列、32……素子制御回路、322……駆動回路、324……残留振動検出回路、326……切替回路、41……流路形成基板、42……ノズル形成基板、43……弾性膜、44……絶縁膜、45……圧電素子、46……保護基板、50……圧力室、52……ノズル、54……リザーバー、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、200……記録紙、300……外部装置、A……変動幅、BD……検出信号、BEF……逆起電力、COM……駆動信号、Cv(Cvc,Cvp)……特性値、DC……制御データ、DP……印刷データ、Df……振動板、N……駆動回数、PD……噴射パルス、PB……微振動パルス、RDR……印刷期間、RFL……調整期間、Rv……残留振動、S……補正値、Sw……選択信号、T……印字周期、TBL(TBL1,TBL2,TBL3)……テーブル、Th……閾値、Tmp……温度、Δ……差分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射させる噴射駆動を実行可能な液体噴射ヘッドと、
前記噴射駆動を実行させる駆動波形を生成する駆動波形生成部と、
前記圧力室内の前記液体を排出させるフラッシング動作を前記液体噴射ヘッドに実行させる制御部と、
前記圧力室内の前記液体の残留振動を検出する残留振動検出部とを備える液体噴射装置であって、
前記制御部は、
前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記駆動波形を補正する
液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記液体の特性に応じた特性値を算出し、前記特性値に基づいて前記駆動波形を補正する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御部は、
第1フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて第1特性値を算出し、前記第1特性値に応じた量の前記液体を噴射させる第2フラッシング動作を実行させ、前記第2フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて第2特性値を算出し、前記第2特性値に基づいて前記駆動波形を補正する
請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記液体噴射ヘッドが記録媒体に対して前記液体を噴射させる期間とは異なる調整期間ごとに前記フラッシング動作を実行させ、
過去の前記調整期間での前記第1特性値または前記第2特性値と現在の前記調整期間での前記第1特性値とを比較した結果に応じて、現在の前記調整期間での前記第2フラッシング動作により噴射させる前記液体の量を決定する
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記特性値に基づいて前記液体の温度を特定し、前記温度に基づいて前記駆動波形を補正する
請求項2から4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
噴射された前記液体を加熱する加熱器を更に備える
請求項1から5のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
液体が充填された圧力室と、前記圧力室内の前記液体の圧力を変動させる圧力発生素子とを含み、前記圧力室内の前記液体の圧力変動に応じて前記液体をノズルから噴射させる噴射駆動を実行可能な液体噴射ヘッドと、
前記噴射駆動を実行させる駆動波形を生成する駆動波形生成部と、
前記圧力室内の前記液体を排出させるフラッシング動作を前記液体噴射ヘッドに実行させる制御部と、
前記圧力室内の前記液体の残留振動を検出する残留振動検出部とを備える液体噴射装置の制御方法であって、
前記フラッシング動作により発生した前記残留振動に基づいて前記駆動波形を補正する
液体噴射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−206289(P2012−206289A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71863(P2011−71863)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】