説明

液体散布システム

【課題】 農薬や肥料等の液体の散布量を正確に制御でき、散布後の管理を容易に且つ効率的に行える液体散布システムを提供する。
【解決手段】 農薬散布システム1は、農薬8が貯留されたタンク3、ポンプ4、ホース6及び噴霧器5に加えて、タンク3の内部に挿入された水位センサー12と、ポンプ4から送出される農薬8の流量を計測する流量計15と、流量計15及び水位センサー12に接続された集計端末13と、集計端末13と無線通信により接続された携帯端末14と、携帯端末14を介して閉じるように制御されるバルブ16とを備えている。使用時に、作業者10がバルブ16を開くと、農薬8は噴霧器5から噴出する。制御手段を構成する集計端末13は、流量計15で計測される流量が所定量となったことを検知すると、携帯端末14を介してバルブ16を閉じるように制御するため、正確な量の農薬8の散布が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液体散布システムに関し、特に農薬や肥料等の液体を散布するための液体散布システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図15は、従来より行われている農薬の散布方法の概略を示したブロック図である。
【0003】
図を参照して、農業において農薬や肥料を散布する際に、散布装置51が使用されている。
【0004】
この散布装置51は、タンク3と、タンク3に取付けられたポンプ4と、ポンプ4にその一方端部が接続されたホース6と、ホース6の他方端部に手動バルブ52を介して接続された噴霧器5とから構成されている。タンク3の大きさは様々であるが、例えば1000リットル程度の液体を貯留することができる容積を有しており、通常は図のように軽トラック7の荷台に搭載した状態で使用されている。また、ホース6は、例えば200m程度の長さを有しており、タンク3を移動させることなく、噴霧器5を持って徒歩で移動しながら散布作業を継続することが可能である。
【0005】
ここで、このような散布装置51の使用方法を、果樹園において農薬散布を行う場合を例として説明する。
【0006】
作業者10は軽トラック7に散布装置51を積載して果樹園へと移動した後、散布のための準備作業を開始するが、まず、散布対象とする果樹9の種類や病害虫の種類等に応じた所定の薬剤を希釈して、タンク3内部に農薬8を調製する。このとき、薬剤の濃度は、栽培作物や薬剤の種類等に応じて使用時の濃度が定められており、規定の濃度となるように希釈する。具体的な調製方法としては、例えば、所定重量の粉末状または液状の薬剤をタンク3に入れ、希釈倍率に応じた重量の水をタンク3に加える。その後、作業者10は、散布装置51を使用可能状態とするために、ポンプ4を始動させる。尚、このとき、タンク3及びポンプ4は、バルブ52が閉じられた状態においてタンク3内部の液体を循環させるように構成されているため、タンク3内に調製された農薬8は攪拌されて均一な状態となる。更に、作業者10は、散布作業中における農薬の吸入や身体への付着を防止するために完全防護服を着用し、散布のための準備作業が完了する。
【0007】
準備作業が完了すると、作業者10は、噴霧器5を手に取ってタンク3から離れ、農薬8を散布すべき果樹9へと移動する。目的の果樹9に到着した後、作業者10が噴霧器5の手元に取付けられている手動バルブ52を開くと、ポンプ4の動力によってタンク3に貯留されている農薬8はホース6を介して噴霧器5から噴出する。作業者10は、果樹9の周囲を適宜移動しながら果樹9の必要箇所に万遍なく農薬8が行き渡るように散布を行う。そして、作業者10は、果樹9に適切な散布量を散布したと判断すると、手元の手動バルブ52を閉じて噴霧器5からの農薬8の噴出を停止させる。
【0008】
最初の果樹9への散布が完了すると、作業者10は、隣接する果樹へと徒歩で移動して、同様の手順により農薬8の散布を行う。以後、作業者10は、移動と散布とを繰り返して、最終的に散布の必要な果樹全てに対して農薬8を散布し、散布作業を終了する。
【0009】
更に、散布作業の終了後には、作業者10は、農薬の散布実績を管理するために、作業者名、散布を行った圃場、使用した薬剤、濃度及び実際に散布した量等の情報を農業日誌に記録したり、パーソナルコンピューターに入力したりする作業を行う。
【0010】
尚、ここでは一例として果樹園における農薬の散布作業について説明したが、田畑で栽培される他の作物に農薬を散布する場合や、農薬の代わりに肥料を散布する場合についても、上記と同様の作業が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来の散布装置では、作業者は、手元に取付けられた手動バルブを開閉することによって、農薬の散布量の制御を行う必要がある。そのため、一本の果樹に対する農薬の散布量が常に一定となるように調節することは困難である。
【0012】
ところが、農薬や肥料の散布においては、過不足なく正確な量を散布することが重要である。特に、農薬の使用に関しては、管轄諸官庁等によって、栽培作物毎に使用可能な薬剤の種類、その濃度、散布量、散布回数等が定められているため、これらの規定に則って作業を行うことが必要とされている。
【0013】
このため、作業者は農薬や肥料の散布作業中に正確な散布量を把握するために、適宜液体タンクへと戻って、例えばタンク内の水位によって、散布量を確認することが必要となる。上述したように、噴霧器とタンクとを接続するホースの長さは、タンクを移動させずに噴霧を継続することができるように十分長く設定されているため、タンクから遠く離れた場所で散布作業を行う場合もあるが、この場合、確認作業に手間を要することになる。すると、農薬や肥料の散布作業を短時間で効率的に行うことは困難である。
【0014】
また、従来の散布装置を用いて散布作業を行った場合、作業者は散布作業の終了後に別途、散布実績の記録を作成する必要があり、管理面においても効率が良いとは言えない。
【0015】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、農薬や肥料等の液体の散布量を正確に制御でき、散布後の管理を容易に且つ効率的に行える液体散布システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、タンクに貯留された液体を、タンクにバルブ手段を介して接続された散布手段から散布するための液体散布システムであって、バルブ手段を開くことによって前記タンクから散布手段へと送出された液体の量が所定量になった旨を検知する検知手段と、検知手段の検知出力に応答して、バルブ手段を閉じるように制御する制御手段とを備えたものである。
【0017】
このように構成すると、散布された液体の量が所定量となると、バルブ手段が自動的に閉じられる。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、検知手段は、タンクと散布手段との間に取付けられ、送出された液体の流量を計測する流量計測手段を含むものである。
【0019】
このように構成すると、散布された液体の量は、タンクから実際に送出された液体の流量によって計測される。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、タンクの断面積情報を入力する断面積情報入力手段と、入力された断面積情報を記憶する断面積情報記憶手段と、タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、記憶された断面積情報と、取得された計測データに対応する液面レベルとに基づいてタンク内の液体の残量を算出する液量算出手段とを更に備えるものである。
【0021】
このように構成すると、タンク内に貯留されている液体の残量が算出される。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、テスト運転時において、まず、タンクに液体を貯留してバルブを閉じた状態で、液面計測手段により計測データを取得し、次に、バルブを開いた状態として、流量計測手段により計測される流量と、計測される流量に対応して液面計測手段により取得される計測データとの組み合わせを少なくとも一組取得し、更に、タンク内の液体がすべて排出された状態で、液面計測手段により計測データを取得し、流量計測手段により計測される流量に基づいて最初に貯留されていた液体の総量を求めた後、取得された計測データの各々と、タンク内の液体の量とが対応する変換データを作成する演算手段と、通常運転時に、変換データに基づいて、計測手段により計測される計測データからタンク内の液体の残量を算出する液量算出手段とを更に備えるものである。
【0023】
このように構成すると、テスト運転を行うことにより、液面レベルの計測データと、タンク内の液体の量とが対応する変換データが作成され、通常運転時には変換データに基づいて液体の残量が算出される。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項3または請求項4記載の発明の構成において、バルブ手段は、散布手段側に取付けられ、制御手段は、送受信機能を含み、送受信機能を有し、散布手段側に配置される端末手段を更に備え、制御手段は、端末手段を介してバルブ手段を制御するものである。
【0025】
このように構成すると、バルブ手段は端末手段を介して制御される。
【0026】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の構成において、端末手段は、表示手段を更に備え、制御手段は、計測された液体の流量と算出された液体の残量とを端末手段に送信し、表示手段は、送信された液体の流量と送信された液体の残量とを表示するものである。
【0027】
このように構成すると、端末手段が備える表示手段に液体の流量と残量とが表示される。
【0028】
請求項7記載の発明は、請求項2から請求項6のいずれかに記載の発明の構成において、液体は、農薬または肥料であり、液体の種類を入力する種類入力手段と、入力された液体の種類を記憶する種類記憶手段と、記憶された液体の種類と、流量計測手段により計測された液体の流量とを少なくとも含む散布情報の出力を指示する指示手段と、指示手段による指示の出力に応答して、散布情報を出力する散布情報出力手段を更に備えるものである。
【0029】
このように構成すると、少なくとも液体の種類とその流量とを含む散布情報が出力される。
【0030】
請求項8記載の発明は、タンクに貯留された液体を、タンクに接続されたバルブから送出することができる液体送出システムであって、バルブ手段を開くことによってタンクから送出される液体の流量を計測する流量計測手段と、タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、テスト運転時において、まず、タンクに液体を貯留してバルブを閉じた状態で、液面計測手段により計測データを取得し、次に、バルブを開いた状態として、流量計測手段により計測される流量と、計測される流量に対応して液面計測手段により取得される計測データとの組み合わせを少なくとも一組取得し、更に、タンク内の液体が全て排出された状態で、液面計測手段により計測データを取得し、流量計測手段により計測される流量に基づいて最初に貯留されていた液体の総量を求めた後、取得された計測データの各々と、タンク内の液体の量とが対応する変換データを作成する演算手段と、通常運転時に、変換データに基づいて、計測手段により計測される計測データからタンク内の液体の残量を算出する算出手段とを備えたものである。
【0031】
このように構成すると、テスト運転を行うことにより、液面レベルの計測データと、タンク内の液体の量とが対応する変換データが作成され、通常運転時には変換データに基づいて液体の残量が算出される。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、散布された液体の量が所定量となると、バルブ手段が自動的に閉じられるため、正確な量の液体を散布することが可能となる。
【0033】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、散布された液体の量は、タンクから実際に送出された液体の流量によって計測されるため、散布量の検知の信頼性が向上する。
【0034】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、タンク内に貯留されている液体の残量が算出されるため、タンク内の液体の残量を把握することが可能となる。
【0035】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、テスト運転で作成された変換データに基づいて液体の残量が算出されるため、タンクの形状や液面計測手段の特性にかかわらず、液体の残量を正確に算出することが可能となる。
【0036】
請求項5記載の発明は、請求項3または請求項4記載の発明の効果に加えて、バルブ手段は端末手段を介して制御されるため、タンクから散布手段までの距離にかかわらず散布量が自動的に制御され、使い勝手が良い。
【0037】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、端末手段が備える表示手段に液体の流量と残量とが表示されるため、作業時に常に散布量とタンク内の残量とを把握することができ、使い勝手が良い。
【0038】
請求項7記載の発明は、請求項2から請求項6のいずれかに記載の発明の効果に加えて、少なくとも液体の種類とその流量とを含む散布情報が出力されるため、実際の作業に対応させて作業実績を容易に且つ効率的に管理することが可能となる。
【0039】
請求項8記載の発明は、テスト運転で作成された変換データに基づいて液体の残量が算出されるため、タンクの形状や液面計測手段の特性にかかわらず、液体の残量を正確に算出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
図1は、この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの概略構成を示したブロック図である。
【0041】
図を参照して、この実施の形態による農薬散布システム1は、タンク3と、タンク3に取付けられたポンプ4と、ポンプ4の一方端部側が接続されたホース6と、ホース6の他方端部側に接続された噴霧器5とに加えて、流量計15、水位センサー12、集計端末13、携帯端末14及びバルブ16を更に備えている。
【0042】
この実施の形態による農薬散布システム1は、従来より用いられている農薬散布用のタンク3及びポンプ4に取付けた状態で使用され、噴霧器5からの農薬8の散布量が所定量となったことを検知して自動的に農薬8の散布を遮断するように制御するものである。また、農薬散布システム1は、散布実績をバーコード18やメモリーカード19の形で外部データとして出力する機能を備えており、これらの外部データを端末装置22やサーバー21に入力して散布実績を管理することができるが、この点については後述する。以下、この農薬散布システム1の各部の構成について説明する。
【0043】
図2は、図1で示したタンクとその周辺部分の詳細を示した図である。
【0044】
図を参照して、タンク3及びポンプ4は、図15で示したものと同一のものであって、従来から農薬等の散布に使用されているものである。ポンプ4は、図2に示すように、第1配管24を介してタンクに接続されると共に、第2配管25を介してホース6側に接続されている。また、第2配管25から分岐して、タンク3の上方部分へと至る流路を形成するように第3配管26が取付けられている。タンク3及びポンプ4はこのように構成されているため、ポンプ4を作動させた状態においてバルブ16を開くと、タンク3内部の農薬8は第1配管25を経由してバルブ6側(噴霧器側)へと、図の実線の矢印の方向に送出される。また、ポンプ4を作動させた状態でバルブ16を閉じているときには、農薬8は第2配管25から第3配管26を経て、図に示した二点鎖線の矢印の方向に循環するため、タンク3内の農薬8は常に攪拌されて均一な状態が維持されている。
【0045】
流量計測手段である流量計15は、タンク3から噴霧器5へと送出された液体の量が所定量となったことを検知するための検知手段の一部を構成しており、タンク3と噴霧器との間に取付けられている。具体的には、図に示すように、流量計15は、第2配管25を介してポンプ4に接続されると共に、ホース6の一方端部に接続されている。また、流量計15は、後述する集計端末13に接続されており、タンク3から送出される液体の流量を電気信号として集計端末13へと出力することができる。
【0046】
液面計測手段を構成する水位センサー12は、タンク3の内部においてほぼ垂直となるように取付けられている。この実施の形態における水位センサー12は、ほぼ筒形状を有し、その内周壁には図示しない一対の電極が取付けられ、これらの電極間の静電容量を測定することができる。タンク3にセットされた状態において、水位センサー12の筒形状の内部には貯留された農薬8が出入り自在となるように構成されているため、水位センサー12は静電容量を液面レベルに対応した計測データとして取得することができる。また、水位センサー12は集計端末13に接続されており、取得した計測データを電気信号として集計端末13へと出力することが可能である。
【0047】
尚、バルブ16は、従来例と同様に噴霧器5の側に取付けられており、作業時に手動で開くことによって、タンク3に貯留された農薬8を噴霧器から送出することができる。ただし、この実施の形態におけるバルブ16は、図1で示したように、携帯端末14に接続され、少なくとも閉じる動作については、携帯端末14を介して自動的に行われるよう制御されている点が、従来例における手動バルブとは異なっている。このバルブ16の制御についての更なる詳細は後述する。
【0048】
図3は、図1で示した集計端末の機能ブロック図である。
【0049】
図を参照して、集計端末13は、送受信部29、液晶タッチパネル30、データ出力部31及びこれらを制御する制御部28を備えている。
【0050】
送受信部29は、後述する携帯端末14との間で通信を行って、データの送受信を行うための手段である。この実施の形態においては、特に無線通信を利用しているが、必ずしも無線に限らず、有線通信で送受信を行うように構成しても良い。
【0051】
液晶タッチパネル30は、使用開始時に作業者名、圃場番号及び作業年月日を含む管理データを入力できるほか、使用薬剤の種類及びその希釈倍率を含む薬剤データを入力するための種類記憶手段、更に、タンクの断面積情報を入力するための断面積情報入力手段として機能するものである。また、使用中には、農薬の散布設定量、実際の散布量、タンク内の残量等を表示することが可能である。入出力時における表示内容や入力内容は制御部28によって制御されている。尚、この実施の形態においては、入力機能と表示機能とを併せ持つ液晶タッチパネル30を用いているが、この代わりに表示部と入力部とを別々に備えるようにしても良い。
【0052】
データ出力部31は、散布情報出力手段を構成しており、作業終了時に少なくとも薬剤の種類と流量計で計測された流量とを含む散布情報を出力する。この散布情報は、作業者による出力の指示によって、図1で示したバーコードやメモリーカード等の形式で出力され、農薬の散布実績を管理するために使用されるものである。
【0053】
制御部28は、例えばマイクロコンピュータよりなり、上記の送受信部29、液晶タッチパネル30及びデータ出力部31を制御する手段である。また、メモリー等の記憶媒体を備えており、入力された液体の種類を記憶する種類記憶手段として機能することができると共に、入力された断面積情報を記憶する断面積情報記憶手段として機能することが可能である。また、制御部28は、水位センサー12と接続されており、タンク3の液面レベルに応じて水位センサー12により計測された計測データを取得することができる。制御部28は、水位センサー12から取得した計測データと、作業者が入力した断面積情報とに基づいてタンク内の液体の残量を算出するための液量算出手段を構成しているが、この点については後述する。制御部28はまた、流量計15と接続されており、流量計15によって計測された液体の流量を取得することが可能である。更に、制御部28はバーコードリーダー32に接続されており、バーコードリーダー32を種類入力手段として用いて薬剤データを入力することも可能である。
【0054】
図4は、図1で示した携帯端末の機能ブロック図である。
【0055】
図を参照して、携帯端末14は、送受信部35、表示部36、音声出力部37、液量入力部38及びこれらを制御する制御部34を備えている。この携帯端末14は、作業者が散布作業時に身につけて使用するものである。
【0056】
送受信部35は、上述の集計端末13との間で通信を行って、データの送受信を行うための手段である。この送受信部35もまた、無線通信に限らず、有線通信で送受信を行うように構成しても良い。
【0057】
表示部36は、集計端末13から送信されたタンク内の液体の残量と、液体の流量とを受信して表示するための表示手段として機能するものである。
【0058】
音声出力部37は、流量計で計測された液体の流量が所定量となったときに、その旨を音声や効果音として出力して、作業者に報知するための手段である。この実施の形態においては、後述するように携帯端末14にイヤホンを接続することができ、作業者はイヤホンを装着して作業を行う。このように、音声出力部37がイヤホンを通じてにより音声を出力するように構成されているため、散布作業時の騒音にかかわらず、作業者に散布状況を確実に報知することが可能となる。
【0059】
液量入力部38は、一旦バルブ16を開いてから自動的に閉じられるまでに散布される液体の量を設定するための手段である。作業者は、例えば、樹木の大きさや種類等に応じて、手元で適宜散布量を設定することができる。
【0060】
制御部34は、例えばマイクロプロセッサーを含み、噴霧器の近傍に取付けられたバルブ16に接続されている。そして、液体の散布量が所定量となったことの検知出力に応答して、バルブを自動的に閉じるための電気信号を送出する。
【0061】
ここで、上記のように構成された農薬散布システムの使用方法について、果樹園において農薬散布を行う場合を例として説明する。
【0062】
図5は、この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用開始時において、集計端末に表示されるデータ入力画面の一例を示した図である。
【0063】
作業者は、農薬散布システムを軽トラック等に積載して果樹園へと移動した後、散布のための準備を開始する。
【0064】
まず、図5の(1)を参照して、作業者が農薬散布システムを起動すると、集計端末13の液晶タッチパネル30には、管理データ入力画面が表示される。図の例では、管理データとして、生産者名「○○ △△」、圃場番号「051」、散布年月日「2004−07−07」が表示されている。この状態から、「生産者名」ボタン、「圃場番号」ボタン及び「散布年月日」ボタンをそれぞれ指でタッチすると、図示しない入力画面が表示され、表示の内容を変更することができる。また、画面下部の「クリア」ボタンをタッチすると、表示されている内容を消去することが可能である。そして、入力すべき管理データを入力した後、画面下部の「決定」ボタンをタッチすると、画面は図5の(2)に遷移する。
【0065】
次に、図5の(2)を参照して、画面上には、薬剤データとして薬剤名「薬剤XYZ」及び倍率「1000倍」が表示されている。「薬剤名」ボタンまたは「倍率」ボタンをタッチすれば、図5の(1)と同様に表示内容を変更することが可能である。
【0066】
また、この実施の形態においては、図3で示したようにバーコードリーダーを用いてデータ入力を行うことができるように構成されている。例えば、予め薬剤に関するデータを記憶させておき、使用する薬剤のパッケージに付加されたバーコードを読み取ることにより、バーコードに対応して記憶された薬剤名を自動的に入力することが可能である。このようにすると、薬剤名を間違って入力してしまう虞がなくなり、使い勝手が向上する。また、使用薬剤に応じてその希釈倍率が予め決まっている場合は、使用薬剤を入力するだけで、自動的に倍率が表示されるように構成することも可能である。このようにすると、薬剤の希釈倍率を間違える虞がなくなり更に使い勝手が良い。また、薬剤データのみならず、予め作業者名や圃場番号毎にバーコードを用意しておいて、これをバーコードリーダーで読み取ることによって管理データをも入力できるように構成しても良い。
【0067】
作業者が薬剤データを入力した後、画面下部の「決定」ボタンをタッチすると、図5の(3)へと画面が遷移する。
【0068】
図5の(3)を参照して、画面上には、入力された管理データ及び薬剤データの確認画面が表示されている。表示される内容を訂正する場合は画面下部の「再入力」ボタンをタッチすると、再度図5の(1)に戻って入力内容を修正することができる。確認画面の内容が正しい場合には、「決定」ボタンをタッチすると次の画面に遷移する。
【0069】
図6は、図5に続いて集計端末に表示されるタンクの断面積情報入力画面の一例を示した図である。
【0070】
図6の(1)を参照して、画面には薬剤容器の形の選択画面が表示されている。使用するタンクが直方体形の場合は「四角形」ボタンを、使用するタンクが円筒形の場合は「円形」ボタンをタッチし、断面形状を選択する。例えば、「四角形」ボタンをタッチすると、図6の(2)へと画面が遷移する。
【0071】
図6の(2)を参照して、断面形状が四角形の場合には、縦寸法及び横寸法の欄が表示されている。「縦寸法」ボタン及び「横寸法」ボタンをタッチすると、図示しない入力画面が表示され、使用するタンクの断面の寸法をそれぞれ入力することができる。入力が完了した場合は、画面下部の「決定」ボタンをタッチすると、図6の(3)に画面が遷移する。
【0072】
図6の(3)を参照して、画面上には、タンクの断面積情報の確認画面が表示されている。断面積情報であるタンクの形状、断面積を算出するためのタンクの寸法について、表示されている内容を訂正する場合は画面下部の「再入力」ボタンをタッチすると、再度図6の(1)に戻って入力内容を修正することができる。確認画面の内容が正しい場合には、「決定」ボタンをタッチする。
【0073】
尚、ここでは、断面が四角形のタンクの場合の断面積情報を入力する場合について説明したが、断面が円形のタンクの場合については、容器の直径を入力するための同様の画面が表示される。
【0074】
このようにして入力された断面積情報は、タンク内の液体の残量を算出するために使用されるものであるが、ここで、水位センサーを用いてタンク内の液体の残量を算出する方法について詳細に説明する。尚、タンク内の液体の残量を算出するための液量算出手段は、この実施の形態においては、集計端末における制御部のマイクロコンピュータの機能によって実現されている。
【0075】
まず、タンク内に貯留される農薬は、例えば薬剤の数百倍以上の重量の水で希釈して調製され、その濃度は極めて希薄であるため、水位センサーで計測される静電容量は、ほぼ水の誘電率を用いた値に近似することが可能である。すると、理論的には、水位センサーで計測される静電容量は、誘電体である水及び空気の割合によって規定されることになる。したがって、計測される静電容量に基づいて、電極の垂直方向における水及び空気の割合、すなわち、電極の下端に対するタンク内の液面の相対位置を特定することが可能となる。
【0076】
この原理に従って、液量計測手段は、液面計測手段である水位センサーにより計測された計測データである静電容量を用いて、液面の高さを算出する。そして、算出された高さと入力された断面の寸法とに基づいて、タンク内の液体の残量を算出することが可能となる。
【0077】
以上のようにして、管理データ、薬剤データ及び断面データを入力した後、作業者は所定量の薬剤をタンクに入れ、更に希釈倍率に応じた重量の水をタンクに加えて散布するための農薬を調製する。そして、バルブを閉じた状態でポンプを始動させて、タンク内の農薬を攪拌する。
【0078】
尚、この農薬の調製の段階において、使用する薬剤の種類に応じて希釈倍率が規定されている場合、薬剤名と使用する薬剤重量を入力するだけで、希釈に必要な水の量を表示するようにしても良い。更に、入力された薬剤名及びその重量と、水位センサーに基づいて算出されたタンク内の水の量とから、タンク内の農薬の実際の濃度を算出し、使用する薬剤の種類に応じた濃度に希釈されているかどうかチェックするように構成することも可能である。水の量が不足している場合には、当該不足量を併せて表示するようにしても良い。このようにすれば、農薬の希釈作業や散布量の管理を確実に行うことが可能となる。
【0079】
そして、作業者は完全防護服を着用した後、携帯端末を身につけると共に携帯端末に接続されたイヤホンを耳に装着し、散布のための準備作業が完了する。
【0080】
図7は、この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用時における携帯端末の動作を示した概略図であり、図8は、この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用時において、集計端末に表示される画面の一例を示した図である。尚、図7の(1)〜(3)の各々と図8の(1)〜(3)の各々とは、それぞれ対応して表示される画面である。
【0081】
まず、図7の(1)及び図8の(1)を参照して、作業者が身につけている携帯端末14の表示部36には、「設定量」と「只今の散布量」と「タンクの残量」とが表示されている。「設定量」は、バルブ16を開いてから閉じられるまでに送出される液体の量であり、「只今の散布量」は、流量計で計測された液体の流量、すなわち実際に噴霧器から送出された量であり、「タンクの残量」は、水位センサーによる計測データに基づいて算出されたタンク内の液体の量である。この「設定量」は、作業者が携帯端末14の側面に取付けられたダイヤル形状の液量入力部38を矢印の方向に回転させることにより、例えば1〜9リットルの範囲で変更することが可能である。図の例では、「設定量」は2.0リットルにセットされている。また、「只今の散布量」及び「タンクの残量」は共に、集計端末13の制御部によって算出されたものであり、無線通信を介して集計端末13から携帯端末14へと送信され、携帯端末14の表示部36に表示されている。図の例では、散布作業開始前の状態であるため、「只今の散布量」として0.0リットルが表示され、「タンクの残量」として900.0リットル(すなわち、最初に調製した農薬の量)が表示されている。
【0082】
次に、図7の(2)及び図8の(2)を参照して、作業者が手動でバルブ16を開くと、図示しない噴霧器から農薬が送出されるが、これに応じて、携帯端末14の表示部36及び集計端末13の液晶タッチパネル30の表示が更新される。図の例では、「只今の散布量」として、流量計により計測された流量に基づいて1.2リットルと表示されている。また、先の図6で入力された断面積情報を用いて算出されるタンクの断面積と、水位センサーによって取得される計測データを用いて算出されるタンク内の水位とに基づいてタンク内の実際の液量が算出され、「タンクの残量」は、898.8リットルと表示されている。
【0083】
そして、図7の(3)及び図8の(3)を参照して、流量計で計測される流量が所定量、すなわち、設定量である2.0リットルに達したことを検知すると、集計端末13の制御部は、携帯端末14を介してバルブ16へと、図7の(3)の二点鎖線で模式的に示すように、信号を送出してバルブ16を閉じるように制御する。携帯端末14を介した制御の方法としては、例えば、集計端末13から携帯端末14へとバルブ16を閉じる旨の指示を送信しても良いし、集計端末13から送信された流量に基づいて携帯端末14の制御部でバルブ16を閉じるタイミングを判断しても良い。
【0084】
この実施の形態による農薬散布システムでは、このようにして、集計端末13と携帯端末14とで構成される制御手段によって、自動的にバルブ16を閉じるように制御されるため、作業者は正確に設定量の農薬を散布することが可能となる。また、このバルブを閉じる制御は端末手段である携帯端末を介して行われるため、作業時にタンクから離れて作業をしている場合でも、その距離にかかわらず、自動的に散布量が制御され使い勝手が良い。
【0085】
更に、図7の(3)に示すように、携帯端末14の音声出力部からイヤホン39を介して、設定量の農薬が散布された旨を報知する音声が出力される。図の例では、散布量が設定値である2.0リットルに達したため、「2リットルです」と出力されている。このように音声で報知されるため、作業者は携帯端末の画面を見なくても、設定量の散布が完了したことを容易に把握することが可能である。尚、この例では、散布量が設定量となったときにのみ音声を出力するようにしているが、これに加えて一定量散布する毎に音声出力を行うようにしても良い。例えば、設定量にかかわらず、1.0リットル散布するたびにその旨を音声出力するように構成すれば、果樹に対する散布量の目安となるため、使い勝手が良い。
【0086】
最初の果樹に対して農薬の散布が完了すると、作業者は隣接する果樹へと徒歩で移動して、同様の手順により農薬の散布を繰り返す。このとき、携帯端末14及び集計端末13は、その表示内容を更新しながら、図7及び図8で示したものと同様の画面遷移を繰り返す。
【0087】
以上図7で示したように、散布手段である噴霧器側に配置された携帯端末の表示部に、液体の流量とタンク内の残量とが表示されるため、作業者は作業中に常に散布量とタンク内の残量とを把握することができ、使い勝手が良い。また、表示される液体の流量は、タンクから実際に送出された液体の流量によって計測されるため、散布量の検知の信頼性が向上する。更に、水位センサーの計測データに基づいて、液量算出手段によってタンク内に貯留されている液体の残量が算出されるため、タンク内の液体の残量を把握することが可能となり、表示部に表示する等の方法で利用することが可能となる。
【0088】
そして、最終的に、散布すべき果樹全てに対して農薬の散布が完了すると、作業者は集計端末13のところに戻って、液晶タッチパネル30の画面下部に配置された「終了」ボタン(図8)をタッチする。
【0089】
図9は、この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムにおいて、集計端末に表示される結果確認画面の一例を示した図である。
【0090】
図を参照して、作業者が先の図8の画面で「終了」ボタンをタッチすると、画面には、作業開始時に入力した管理データ及び薬剤データと、実際の散布量とが表示される。作業者は、表示内容を確認してから画面下部の「出力」ボタンをタッチすると、出力の指示に応答して、画面に表示されている散布情報が、バーコードとして印刷されたり、電子データとしてメモリーカード等の記憶媒体に記憶される。このように、作業終了後に少なくとも農薬の種類とその実際の散布量とを含む散布情報が出力されるため、実際の作業に対応させて作業実績を容易に且つ効率的に管理することが可能となる。
【0091】
ここで、図1に戻って、バーコード18やメモリーカード19の形で集計端末13から出力された散布情報は、例えば、作業者10が端末装置22にバーコード18やメモリーカード19の内容を読み込んで、ネットワーク20経由で管理センター等に設置されたサーバー21に散布情報を送信する。また、端末装置22に一旦散布情報を入力せずに、直接管理センター等に送付して直接サーバー21に入力するようにしても良い。管理センター等のサーバー21では、作業者の散布情報をデータベース化するなどして容易に一元管理することが可能となる。
【0092】
図10は、この発明の第1の実施の形態におけるシステム制御の内容を示したフローチャートである。
【0093】
作業者が農薬を散布すべき農場に到着した後、システムを起動すると、システムは管理データ入力画面を表示する(S200、図5の(1))。作業者が画面に表示される管理データの入力を完了すると(S100)、次に、システムは薬剤データ入力画面を表示する(S201、図5の(2))。作業者は、薬剤データを画面上またはバーコードによって入力する(S101)と、システムは確認画面を表示する(S202)。作業者は、管理データ及び薬剤データの入力内容を確認して(図5の(3))、修正する場合は(S102でNo)、再度ステップS100に戻って入力内容を変更する(S100〜S102)。この際(S203でNo)、システムは再度入力画面を表示する(S200〜S203)。
【0094】
作業者が管理データ及び薬剤データの入力内容を確認すると(S102でYes、図5の(3))、システムは作業者の確認に応答して(S203でYes)、断面積情報入力画面を表示する(S204、図6(1)及び(2))。作業者が、薬剤容器の形状及び断面の寸法よりなる断面積情報を入力すると(S103)、システムは断面積情報確認画面を表示する(S205)。作業者は、入力内容を確認した後、修正する場合には(S104でNo)、再度ステップS103に戻って断面積情報を入力する。この際(S206でNo)、システムは、断面積情報入力画面を再度表示する(S204〜S206、図6)。
【0095】
作業者は、入力内容を確認した後(S104でYes、図6の(3))、薬剤の調製を行うと共にポンプを作動させる(S105)。また、このとき、作業者は完全防護服を着用し、携帯端末を身につけて、噴霧器を持って農薬を散布すべき果樹へと移動する。システムは、作業者の確認に応答して(S206でYes)、散布中の状態を示す画面を表示する(S207、図7及び図8)。この際、携帯端末の表示部(図7)は、集計端末から送信された液体の流量とタンク内の残量とを表示する。
【0096】
作業者が散布すべき果樹に到着し、バルブを手動で開くと(S106)、ポンプによって噴霧器から農薬が送出され、作業者は果樹の周りを適宜移動しながら散布作業を行う(S107)。この際、制御手段を構成する集計端末の制御部では、流量計により計測された流量と散布量の設定値とが等しくなったかどうかを検知する(S208)。計測された流量が設定量と等しくない場合は(S208でNo)、計測された流量及び算出された残量を更新して表示する(S207)。
【0097】
計測された流量が設定量と等しくなると(S208でYes)、システムは、端末手段を介してバルブを自動的に閉じるように制御し(S209)、更に、設定量の散布が完了した旨の音声を端末手段の音声出力部から出力する(S210)。
【0098】
以後、作業者は散布すべき果樹に順次移動しながら同様に散布作業を繰り返し(S106〜S108でNo)し、システムはこれに対応して同様のバルブの制御を繰り返す(S207〜S211でNo)。
【0099】
そして作業者が散布すべき果樹全てに農薬の散布を行い、全作業を終了すると(S108でYes)、集計端末の終了ボタンを押下する(S109、図8)。システムは、終了の指示に応答して(S211でYes)、集計端末に散布結果確認画面を表示する(S212、図9)。作業者は散布結果確認画面で「出力」ボタンを押下して、散布情報の出力を指示し(S110)、全ての作業を終了する。システムは散布情報の出力の指示に応答して、バーコードやメモリーカード等に散布情報を出力し(S213)、処理を終了する。
【0100】
以上のように制御することにより、農薬や肥料等の液体の散布量を正確に制御できるだけでなく、作業後においても散布量の管理を容易に且つ効率的に行える液体散布システムを実現することが可能となる。
【0101】
図11は、この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムを構成する集計端末の機能ブロック図である。
【0102】
図を参照して、この実施の形態による農薬散布システムの基本的な構成は、先の第1の実施の形態によるものと同様であるが、水位センサーの計測データとタンク内の液体の残量とを関連づけた変換データを作成する演算部41を備えている点が、第1の実施の形態とは異なっている。以下、相違点である演算部41の機能を中心に、具体例に即して説明する。
【0103】
図12は、この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムで使用されるタンクの断面図であり、図13は、図11で示した演算部において作成される変換データの一例を示した図である。
【0104】
図12を参照して、先の第1及の実施の形態による農薬散布システムは、従来から農薬等の散布に用いられてきた既存のタンクに取付けて使用されるものであるが、このような既存のタンクの形状は製品によって異なり、完全な直方体や円筒形ではない場合がある。すると、タンクの水平方向の断面積は一様ではないため、水位センサーに基づいてタンク内の水位が算出できたとしても、算出された水位と作業者が入力したタンクの断面積とを掛け合わせる方法では、タンク内の液体の残量が正確に計測できない場合が生じてしまう。例えば、図のような円錐台形状のタンク3を想定すると、液体の残量を算出するための断面積としてどの位置の断面を選択するかによって、算出される残量が実際より増減してしまう。
【0105】
そこで、この実施の形態では、演算部がタンクの形状に応じて水位センサーの計測データと液体の残量とを関連づけた変換データを作成し、制御部における液量算出手段が作成された変換データに基づいてタンク内の液体の残量を算出することができるように構成されている。
【0106】
図13を併せて参照して、変換データを作成するために行うテスト運転の詳細について説明する。まず、作業者はタンク3に任意の量の水43を貯留する。このときの液面レベルをLとし、水43の全体積を仮にVとする。演算部は、バルブを閉じた状態で、水位センサー12によって計測される静電容量を取得する。このとき取得された静電容量をSとする。
【0107】
次に、バルブを開いた状態として、タンク3内の水43を徐々に排出する。この排出の過程において、演算部は流量計で計測される流量と、この流量が計測された時点に水位センサー12によって取得された静電容量との組み合わせを少なくとも一組取得して記憶する。図に沿って具体的に説明すると、タンク3内の水43を一定の体積ΔVずつ排出しながら、液面レベルがL,L,…,Lとなるたびに、演算部は水位センサー12で取得される静電容量S,S,…,Sを取得する。流量計で計測される流量はΔVずつ増加するので、演算部は、流量計で計測される流量と静電容量との組み合わせとして、(S,ΔV),(S,2×ΔV),…,(S,6×ΔV)が得られる。尚、このとき、タンク3内の水の体積は、液面レベルがL,L,…,Lにあるときに、それぞれ(V−ΔV),(V−2×ΔV),…,(V−6×ΔV)となっている。
【0108】
この流量と静電容量との組み合わせは、図の例では6組取得しているが、必ずしも6組でなく、水43の体積がV(ただしV<=ΔV)となるまで、複数回繰り返して行えば良い。
【0109】
更に、タンク3内に残っている体積Vの水43を排出して、タンク3内の水43が全て排出された状態とし、水位センサー12の静電容量を取得する。このときの静電容量をSとする。尚、タンク3内の水43が全て排出された状態で取得された静電容量Sは、タンク3内の液体の体積の算出の基準を規定するために使用するものである。
【0110】
その後、演算部は流量計で計測される流量によって、当初貯留されていた任意の体積Vの具体的な値を取得する。
【0111】
演算部は、以上のように取得した当初の体積V及びこのときの静電容量Sと、流量と静電容量との複数の組み合わせ(S,ΔV),(S,2×ΔV),…,(S,6×ΔV)と、水43を全て排出した状態における静電容量Sとを用いて、計測された静電容量の各々とタンク内の液体の量とが対応する変換データとして図13に示すような近似曲線を作成して記憶する。また、必要に応じて、この近似曲線から近似式や変換テーブルを求めても良い。
【0112】
以後、通常運転時には、作成された変換データに基づいてタンク内の液量を算出することが可能となる。例えば、水位センサー12で取得された静電容量の値がXであるとき、液量算出部は、図13に示すように、近似曲線に基づいてこのときのタンク3内の水43の体積Yを取得することができる。
【0113】
このように、一度テスト運転を行って演算部によって変換データを作成しておけば、通常運転時には変換データと、水位センサー12で取得される静電容量の値とから液体の残量が算出されるので、タンクの形状や水位センサーの特性にかかわらず、正確な液体の残量を取得することが可能となる。
【0114】
図14は、この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムにおいて、テスト運転時に行われるシステム制御の一例を示したフローチャートである。
【0115】
図を参照して、変換データを作成するためにテスト運転を行う際には、まず、作業者は、タンクに任意の量の水を注水し(S150)、計測間隔毎に排出する水量(図12のΔV)を設定する(S151)。システムは、作業者が指定した水量を設定量として記憶した後(S250)、水位センサーで計測される静電容量を取得する(S251、図13のS)。また、システムは流量計をリセットしておく(S252)。
【0116】
次に、作業者はバルブを開いてタンク内の水の排出を開始する(S152)。システムは、流量計で計測された流量を取得し(S253)、取得した流量が設定量(図12のΔV)の整数倍である場合には(S254でYes)、水位センサーで計測される静電容量を取得し(S255)、計測された流量と静電容量との組み合わせを記憶した後(S256)、ステップS257の判別を行う。また、計測される流量が設定量の整数倍となっていない場合(S254でNo)には、静電容量を取得せずにステップS257の判別を行う。
【0117】
システムは、流量計の流量を再度取得して、流量変化があるかどうか判定する(S257)。尚、このステップは、タンク内の水が全て排出されたかどうか判別するためのものである。流量計の流量に変化がある場合は(S257でYes)、タンク内にまだ水が残っているので、再度ステップS253に戻って上記の処理を繰り返す(S253〜S257、図13のL〜L)。
【0118】
一方、流量計の流量に変化がない場合は(S257でNo)、タンク内の水が全て排出されたので、この状態で静電容量を計測する(S258、図13のS)。また、流量計で計測された流量によって、当初注水した水の量を取得する(S259)。
【0119】
そして、明らかになった当初の水の量(図13のV)と、水を排出していた過程での流量(ΔV、2×ΔV、…)とを用いて、計測した静電容量の各々と対応する水の残量を算出する(S260、図13の(V−ΔV)等)。システムは、この算出された水の残量の各々と、記憶された静電容量の各々とを対応させて近似曲線を算出する(S261、図13)。その後、必要に応じて近似式等を算出して記憶し(S262)、テスト運転のシステム処理を終了する。
【0120】
尚、上記の各実施の形態では、果樹園に農薬を散布する場合を例として農薬散布システムの使用方法を説明しているが、必ずしも農薬のみに限らず、肥料や水等を散布する場合にも同様に使用することが可能である。また、果樹に限らず田畑等の他の作物に対する散布にも使用できることは言うまでもない。
【0121】
また、上記の各実施の形態では、散布情報をバーコードやメモリーカード等の形式で出力してサーバー等に入力しているが、必ずしもこのように構成する必要はなく、散布情報を帳票として出力したり、いわゆる二次元バーコードとして出力したものをカメラ付き携帯電話等で撮像してサーバーに送信したり、集計端末を直接ネットワークに接続して送信したりするように構成しても良い。
【0122】
更に、上記の各実施の形態では、液面計測手段である水位センサーとして、静電容量測定式の水位計を使用しているが、必ずしもこのような水位センサーに限られるものではなく、液面レベルに応じた計測データを取得することができるものであれば良い。
【0123】
更に、上記の各実施の形態では、散布手段である噴霧器に送出された液体の量が所定量となったことを検知する検知手段として流量計を使用しているが、必ずしもこのように構成する必要はなく、水位計で計測されるタンク内の液体の量の変化に基づいて、送出された液体の量を検知するように構成しても良い。
【0124】
更に、上記の第2の実施の形態では、変換データを作成する際に、タンク内の水を排出しながら流量と静電容量の複数の組み合わせを取得しているが、必ずしも複数取得する必要はなく、排出過程では少なくとも一組の流量と静電容量との組み合わせを取得すれば、変換データを作成することは可能である。例えば、図13において、点L及び点Lのデータに加えて、点L〜点Lのいずれか1つのデータがあれば、曲線の作成が可能である。
【0125】
更に、上記の第2の実施の形態では、変換データを作成する際に、タンク内の水を一定量ずつ排出しながら流量と静電容量の組み合わせを取得しているが、必ずしも一定量ずつ排出しながら取得する必要はなく、任意の量の水を排出するたびに当該組み合わせを取得するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの概略構成を示したブロック図である。
【図2】図1で示したタンクとその周辺部分の詳細を示した図である。
【図3】図1で示した集計端末の機能ブロック図である。
【図4】図1で示した携帯端末の機能ブロック図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用開始時において、集計端末に表示されるデータ入力画面の一例を示した図である。
【図6】図5に続いて集計端末に表示されるタンクの断面積情報入力画面の一例を示した図である。
【図7】この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用時における携帯端末の動作を示した概略図である。
【図8】この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムの使用時において、集計端末に表示される画面の一例を示した図である。
【図9】この発明の第1の実施の形態による農薬散布システムにおいて、集計端末に表示される結果確認画面の一例を示した図である。
【図10】この発明の第1の実施の形態におけるシステム制御の内容を示したフローチャートである。
【図11】この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムを構成する集計端末の機能ブロック図である。
【図12】この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムで使用されるタンクの断面図である。
【図13】図11で示した演算部において作成される変換データの一例を示した図である。
【図14】この発明の第2の実施の形態による農薬散布システムにおいて、テスト運転時に行われるシステム制御の一例を示したフローチャートである。
【図15】従来より行われている農薬の散布方法の概略を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0127】
1…農薬散布システム
3…タンク
5…噴霧器
8…農薬
12…水位センサー
13…集計端末
14…携帯端末
15…流量計
16…バルブ
18…バーコード
19…メモリーカード
28、34…制御部
29、35…送受信部
30…液晶タッチパネル
31…データ出力部
36…表示部
41…演算部
43…水
尚、各図中同一符号は同一または相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクに貯留された液体を、前記タンクにバルブ手段を介して接続された散布手段から散布するための液体散布システムであって、
前記バルブ手段を開くことによって前記タンクから前記散布手段へと送出された液体の量が所定量になった旨を検知する検知手段と、
前記検知手段の検知出力に応答して、前記バルブ手段を閉じるように制御する制御手段とを備えた、液体散布システム。
【請求項2】
前記検知手段は、前記タンクと前記散布手段との間に取付けられ、前記送出された液体の流量を計測する流量計測手段を含む、請求項1記載の液体散布システム。
【請求項3】
前記タンクの断面積情報を入力する断面積情報入力手段と、
前記入力された断面積情報を記憶する断面積情報記憶手段と、
前記タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、
前記記憶された断面積情報と、前記取得された計測データに対応する液面レベルとに基づいて前記タンク内の液体の残量を算出する液量算出手段とを更に備える、請求項2記載の液体散布システム。
【請求項4】
前記タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、
テスト運転時において、まず、前記タンクに液体を貯留して前記バルブを閉じた状態で、前記液面計測手段により計測データを取得し、次に、前記バルブを開いた状態として、前記流量計測手段により計測される流量と、前記計測される流量に対応して前記液面計測手段により取得される計測データとの組み合わせを少なくとも一組取得し、更に、前記タンク内の液体が全て排出された状態で、前記液面計測手段により計測データを取得し、前記流量計測手段により計測される流量に基づいて最初に貯留されていた液体の総量を求めた後、前記取得された計測データの各々と、前記タンク内の液体の量とが対応する変換データを作成する演算手段と、
通常運転時に、前記変換データに基づいて、前記計測手段により計測される計測データから前記タンク内の液体の残量を算出する液量算出手段とを更に備える、請求項2記載の液体散布システム。
【請求項5】
前記バルブ手段は、前記散布手段側に取付けられ、
前記制御手段は、送受信機能を含み、
送受信機能を有し、前記散布手段側に配置される端末手段を更に備え、
前記制御手段は、前記端末手段を介して前記バルブ手段を制御する、請求項3または請求項4記載の液体散布システム。
【請求項6】
前記端末手段は、表示手段を更に備え、
前記制御手段は、前記計測された液体の流量と前記算出された液体の残量とを前記端末手段に送信し、
前記表示手段は、前記送信された液体の流量と前記送信された液体の残量とを表示する、請求項5記載の液体散布システム。
【請求項7】
前記液体は、農薬または肥料であり、
前記液体の種類を入力する種類入力手段と、
前記入力された液体の種類を記憶する種類記憶手段と、
前記記憶された液体の種類と、前記流量計測手段により計測された液体の流量とを少なくとも含む散布情報の出力を指示する指示手段と、
前記指示手段による指示の出力に応答して、前記散布情報を出力する散布情報出力手段を更に備える、請求項2から請求項6のいずれかに記載の液体散布システム。
【請求項8】
タンクに貯留された液体を、前記タンクに接続されたバルブから送出することができる液体送出システムであって、
前記バルブ手段を開くことによって前記タンクから送出される液体の流量を計測する流量計測手段と、
前記タンク内に貯留された液体の液面レベルに対応した計測データを取得する液面計測手段と、
テスト運転時において、まず、前記タンクに液体を貯留して前記バルブを閉じた状態で、前記液面計測手段により計測データを取得し、次に、前記バルブを開いた状態として、前記流量計測手段により計測される流量と、前記計測される流量に対応して前記液面計測手段により取得される計測データとの組み合わせを少なくとも一組取得し、更に、前記タンク内の液体が全て排出された状態で、前記液面計測手段により計測データを取得し、前記流量計測手段により計測される流量に基づいて最初に貯留されていた液体の総量を求めた後、前記取得された計測データの各々と、前記タンク内の液体の量とが対応する変換データを作成する演算手段と、
通常運転時に、前記変換データに基づいて、前記計測手段により計測される計測データから前記タンク内の液体の残量を算出する算出手段とを備えた、液体送出システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−34251(P2006−34251A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222744(P2004−222744)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(598072238)相光電子株式会社 (1)
【Fターム(参考)】