説明

液化ガス供給方法及び装置

【課題】液移動が発生しても各液化ガス容器内の液化ガスの残量を平均化することができる液化ガス供給方法及び装置を提供する。
【解決手段】連結配管で連結した複数の液化ガス容器11a,11b,11cからガスを供給する液化ガス供給方法において、前記複数の液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定し、残量が最大の液化ガス容器に対して他の液化ガス容器内の液化ガスの残量との差があらかじめ設定された残量差の範囲内に収まるように各液化ガス容器からのガス供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス供給方法及び装置に関し、詳しくは、半導体製造工場で使用する半導体用特殊材料ガスを連結配管で連結した複数の液化ガス容器から供給するためのガス供給方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場で使用する半導体用特殊材料ガスを供給するためのシリンダーキャビネットや液化ガス供給設備において、液化ガス容器1本からの供給可能なガス量は、その充填量に応じた液層部表面積と外気からの自然対流による入熱とにより定まる。すなわち、容器への入熱量Q[J/h]は、Q=h・A・ΔT(h:自然対流による熱伝達係数、A:液層部表面積、ΔT:外気温度と液層温度差)で求められ、供給可能ガス量q[kg/h]は、q=Q/H(H:蒸発潜熱)で求めることができる。このように供給可能なガス量は、気化熱に見合った外気からの入熱量で推算が可能である。
【0003】
一般的に、使用ガス量が多く見込まれる場合には、蒸発表面積を増加させるために液化ガス容器の本数を増やし、各液化ガス容器を連結配管で接続してガスを供給することが行われている。これらの複数の液化ガス容器は、液化ガス容器内の液化ガスの残量を管理され、いずれか一つの液化ガス容器の残量があらかじめ設定した下限値に減少したときに、すべての液化ガス容器からのガス供給を停止し、すべての液化ガス容器を新しい液化ガス容器に同時に交換するようにしている。
【0004】
一方、LPガスの供給では周知の事実であるように、複数の液化ガス容器を連結配管で連結してガス供給を行う場合、計画したガス供給量に近い量のガスを定常的に供給しているときには、各液化ガス容器間は平衡状態となるので各液化ガス容器内の液化ガスは平均的に消費されていくが、計画量に比べてガス供給量が少ないときには、各液化ガス容器間の環境温度が異なると、温度の高い液化ガス容器で蒸発したガスが温度の低い液化ガス容器で凝縮することにより液化ガスが移動する現象、即ち液移動が発生する。
【0005】
このため、各液化ガス容器間で液化ガスの残量が異なる状態になることから、前述のようにすべての液化ガス容器を交換すると、液化ガスの残量が多い容器も交換することになるため、経済性に問題が発生する。なお、残量が下限値に達した液化ガス容器のみを交換することも可能であるが、一つ一つの容器交換を頻繁に行う必要があり、作業性、経済性の点から一般的には行われていない。
【0006】
このような液移動に対処するため、複数の液化ガス容器の各々に、前記液化ガス容器内の液化ガスの残量を測定する残量測定手段と、各液化ガス容器からのガス供給量を制御する制御手段とを備え、複数の制御手段を、各々対応する前記液化ガス容器に備えられた残量測定手段の測定結果に基づいて制御することにより、複数の液化ガス容器の各々について液化ガスが所定の残量になるまで使用することができ、効率的かつ経済的に液化ガス容器の交換を可能としたガス供給装置の制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−226386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された制御方法では、残量測定手段の測定結果が規定残量に達した液化ガス容器からのガス供給を停止し、他の液化ガス容器からのガス供給は続行するようにしているため、ガス供給を行っている液化ガス容器の本数が次第に減少し、最終的には1本の液化ガス容器からのガス供給になってしまうことから、計画したガス供給量に見合った量のガスを供給することができなくなってしまう。
【0008】
そこで本発明は、計画したガス供給量に見合った量のガスを供給可能な状態を保つとともに、液移動が発生しても各液化ガス容器内の液化ガスの残量を平均化することができる液化ガス供給方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の液化ガス供給方法は、連結配管で連結した複数の液化ガス容器からガスを供給する液化ガス供給方法において、前記複数の液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定し、残量が最大の液化ガス容器に対して他の液化ガス容器内の液化ガスの残量との差があらかじめ設定された残量差の範囲内に収まるように各液化ガス容器からのガス供給量を制御することを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の液化ガス供給方法は、前記ガス供給量の制御が残量が最小の液化ガス容器からのガス供給のみを停止すること、ガス供給圧力があらかじめ設定した規定圧力以下になったときや、複数の液化ガス容器内の液化ガスの合計量があらかじめ設定した残量低下基準値に減少したときには、ガス供給停止中の液化ガス容器からのガス供給を再開すること、また、複数の液化ガス容器内の液化ガスの合計量があらかじめ設定した残量下限基準値に減少したときには、すべての液化ガス容器からのガス供給を停止すること、さらに、前記ガス供給量の制御は、現在のガス供給量に見合う液化ガス容器の本数を算出し、残量が多い液化ガス容器から順に算出した本数分の液化ガス容器を選択してガス供給を行うことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の液化ガス供給装置は、連結配管で連結した複数の液化ガス容器からガスを供給する液化ガス供給装置において、前記複数の液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定する液化ガス量測定手段と、該液化ガス量測定手段で測定した各液化ガス容器内の液化ガスの残量を比較して残量が最大の液化ガス容器と残量が最小の液化ガス容器とを選出する残量比較手段と、選出された両液化ガス容器の残量の差があらかじめ設定した範囲から外れたときに残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を停止するガス供給停止手段とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、残量が最大の液化ガス容器に対して他の液化ガス容器内の液化ガス量との差があらかじめ設定された範囲内に収まるように各液化ガス容器からのガス供給量を制御することにより、例えば、残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を停止したり、ガス供給量を絞ったりすることにより、残量が少ない液化ガス容器の液化ガス減少量を小さくすることができ、各液化ガス容器内の液化ガス残量を平均化することができる。
【0013】
また、各液化ガス容器からのガス供給量の制御として、現在のガス供給量が計画量に比べて少ない場合には、現在のガス供給量に見合う本数で、残量が多い液化ガス容器から順にガス供給を行うことにより、残量が多い液化ガス容器の液化ガス減少量を大きくすることができ、前記同様に、各液化ガス容器内の液化ガス残量を平均化することができる。
【0014】
さらに、各残量が設定範囲内にあるときには、すべての液化ガス容器からガス供給を行うことになるので、計画したガス供給量に見合った量のガスを供給可能な状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の液化ガス供給方法を実施する液化ガス供給装置の一形態例を示す説明図である。
【0016】
この液化ガス供給装置は、複数の液化ガス容器11a,11b,11cを、ガス供給弁12a,12b,12cを介して連結配管13で連結し、該連結管13から減圧弁14、元弁15及び圧力計16を備えたガス供給管17を介して使用先にガスを供給するようにしている。各液化ガス容器11a,11b,11cは、各液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定する液化ガス量測定手段である重量計18a,18b,18cに載置されており、重量によって各液化ガス容器内の液化ガスの残量を測定するようにしている。
【0017】
各液化ガス容器11a,11b,11cからのガス供給を制御するための制御手段19は、重量計18a,18b,18cで測定した各液化ガス容器11a,11b,11c内の液化ガスの残量を比較して残量が最大の液化ガス容器と残量が最小の液化ガス容器とを選出する残量比較手段と、選出された両液化ガス容器の残量の差があらかじめ設定した範囲から外れたときに残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を停止するガス供給停止手段とを備えている。
【0018】
制御手段19によるガス供給の制御を行うためには、まず、容器内の液化ガス残量を平均化するためのガス供給制御を開始する残量差ΔW_close及びガス供給制御を終了する残量差ΔW_open、減圧弁14の一次側に要求される下限圧力P_min、合計残量が減少したときに前記ガス供給制御を終了するための残量低下基準値W_care及び液化ガス供給装置からのガス供給を停止するための残量下限基準値W_alarmをそれぞれ設定する。
【0019】
以下、液化ガス容器11a,11b,11cの液化ガス初期充填量が30kg、1本当たりのガス供給可能ガス量が毎分1.1kgであり、前述のガス供給制御を開始する残量差ΔW_closeを3kg、ガス供給制御を終了する残量差ΔW_openを1kg、下限圧力P_minを0.4MPa、残量低下基準値W_careを15kg、残量下限基準値W_alarmを9kgにそれぞれ設定した場合で説明する。
【0020】
ガス供給を行っているときに、各液化ガス容器11a,11b,11cの重量を各重量計18a,18b,18cにて一定時間毎に測定し、最も重い液化ガス容器、すなわち、内部の液化ガスの残量が最大(最大残量W_max)であるガス容器、例えば液化ガス容器11aを選出するとともに、最も軽い液化ガス容器、すなわち、内部の液化ガスの残量が最小(最小残量W_min)であるガス容器、例えば液化ガス容器11bを選出する。
【0021】
次に、最大残量W_maxと最小残量W_minとの差が前記残量差ΔW_closeの範囲内に収まっているかを判定し、3kgの範囲内に収まっている場合はそのままガス供給を継続し、3kgの範囲を超えた場合は(W_max−W_min>ΔW_close(3kg))、ガス供給弁12bを閉じて残量が最小の液化ガス容器11bからのガス供給を停止する(図2参照)。
【0022】
他の2本の液化ガス容器11a,11cからのガス供給を行って液化ガス容器11aの重量が減少し、最大残量W_maxと最小残量W_minとの差が前記残量差ΔW_openである1kgを下回ったら(W_max−W_min<ΔW_open(1kg))、ガス供給弁12bを開いて液化ガス容器11bからのガス供給を再開する(図3参照)。
【0023】
なお、2本の液化ガス容器11a,11cからのガス供給を行っているときに、液化ガス容器11cの重量が液化ガス容器11bの重量を下回り、かつ、液化ガス容器11aと液化ガス容器11cとの残量の差が前記残量差ΔW_closeを超えたときには、制御対象を液化ガス容器11cに切り換え、ガス供給弁12bを開いて液化ガス容器11bからのガス供給を再開するとともに、ガス供給弁12cを閉じて液化ガス容器11cからのガス供給を停止するようにしてもよい。また、ガス供給量が少なく、1本の液化ガス容器からのガス供給で賄えるようなときには、ガス供給弁12bを閉じた状態のまま、ガス供給弁12cを閉じて液化ガス容器11aのみからガス供給を行うことも可能である(図4参照)。
【0024】
さらに、ガス供給中には、圧力計16の測定圧力P_detと下限圧力P_minとを常時比較し、圧力計16の測定圧力P_detが下限圧力P_min(0.4MPa)を下回ったときに(P_det<P_min(0.4MPa))、ガス供給制御によって閉じられているガス供給弁があった場合には、そのガス供給弁を開いてすべての液化ガス容器11a,11b,11cからガス供給を行うようにしてガス供給圧力を所定圧力に保持する。これにより、液化ガス供給装置からのガス供給量を確保することができ、ガス使用先でのガス圧力の低下やガス流量の低下を防止することができる。
【0025】
また、液化ガス容器内の液化ガス残量が少なくなると、外気からの入熱を受けるために必要な面積が確保できなくなり、容器内圧力が低下することになるため、ガス供給の継続によって全液化ガス容器11a,11b,11cの合計残量W_supが前記残量低下基準値W_careの15kgを下回った場合にも(W_sup<W_care(15kg))、ガス供給制御によって閉じられているガス供給弁を開いてすべての液化ガス容器11a,11b,11cからガス供給を行う。これにより、液化ガス容器における外気からの入熱面積を確保することができ、所定のガス供給を継続することができる。
【0026】
さらに、全液化ガス容器11a,11b,11cの合計残量W_supが残量下限基準値W_alarmの9kgを下回ったときには(W_sup<W_alarm(9kg))、すべてのガス供給弁12a,12b,12cを閉じ、この液化ガス供給装置からのガス供給を停止する。これにより、残液中に濃縮された不純物が使用先に供給されてしまうことを防止できる。なお、半導体製造工場における液化ガス供給設備では、同じような構成のガス供給装置を複数設けているため、一つのガス供給装置からのガス供給が停止したときには、自動的に他のガス供給装置からのガス供給が開始される。
【0027】
このようにして液化ガス容器からのガス供給を制御することにより、ガス供給量が計画量より少なくて液移動が発生した場合でも、複数の液化ガス容器内の液化ガス残量を平均化することができ、ガスの利用効率を向上させることができる。さらに、ガス供給圧力や全体の液化ガス残量に応じてガス供給弁12a,12b,12cのすべてを開くようにしているので、使用先へのガス供給を確実に行うことができる。
【0028】
また、ガス供給装置における液化ガス容器の設置本数が多く、ガス供給装置のガス供給能力に比べてガス供給量が少ない場合は、液化ガス残量の多い液化ガス容器を選択してガス供給を行うようにすることもできる。例えば、液化ガス容器が10本設置されていて、ガス供給量が液化ガス容器5本分で賄えるまかなえる場合には、液化ガス残量の多い液化ガス容器から順に5本の液化ガス容器を選択してガス供給を行うこともでき、ガス供給量が大幅に少ない場合は、1本の液化ガス容器のみからガス供給することも可能である。逆に、液化ガス残量の少ない液化ガス容器から順にガス供給を停止していき、残りの液化ガス容器からガス供給を行うことができる。
【0029】
この場合、各液化ガス残量の変化に応じてガス供給を停止する液化ガス容器を切り換えていくことにより、液化ガス残量を平均化することができる。また、ガス供給圧力が下限圧力を下回った場合や、液化ガスの合計残量が残量低下基準値を下回った場合には、前述のようにすべての液化ガス容器からガス供給を行うようにしてもよいが、ガス供給を停止しているガス容器の中で液化ガス残量の多い液化ガス容器から順にガス供給を再開させるようにしてもよい。
【0030】
なお、液化ガスの種類、液化ガス容器の構造や大きさ及び本数、液化ガス量測定手段の種類、ガス供給弁の種類等は任意に選択することが可能であり、ガス供給量の制御は、ガス供給弁を開閉するものに限らず、流量を絞るような制御も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の液化ガス供給方法を実施する液化ガス供給装置の一形態例を示す説明図である。
【図2】残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を停止した状態を示す説明図である。
【図3】残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を再開した状態を示す説明図である。
【図4】1本の液化ガス容器のみからガス供給を行っている状態の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
11a,11b,11c…液化ガス容器、12a,12b,12c…ガス供給弁、13…連結配管、14…減圧弁、15…元弁、16…圧力計、17…ガス供給管、18a,18b,18c…重量計、19…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結配管で連結した複数の液化ガス容器からガスを供給する液化ガス供給方法において、前記複数の液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定し、残量が最大の液化ガス容器に対して他の液化ガス容器内の液化ガスの残量との差があらかじめ設定された残量差の範囲内に収まるように各液化ガス容器からのガス供給量を制御することを特徴とする液化ガス供給方法。
【請求項2】
前記ガス供給量の制御は、残量が最小の液化ガス容器からのガス供給のみを停止することを特徴とする請求項1記載の液化ガス供給方法。
【請求項3】
ガス供給圧力があらかじめ設定した規定圧力以下になったときに、ガス供給停止中の液化ガス容器からのガス供給を再開することを特徴とする請求項2記載の液化ガス供給方法。
【請求項4】
複数の液化ガス容器内の液化ガスの合計量があらかじめ設定した残量低下基準値に減少したときに、ガス供給停止中の液化ガス容器からのガス供給を再開することを特徴とする請求項2記載の液化ガス供給方法。
【請求項5】
複数の液化ガス容器内の液化ガスの合計量があらかじめ設定した残量下限基準値に減少したときに、すべての液化ガス容器からのガス供給を停止することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の液化ガス供給方法。
【請求項6】
前記ガス供給量の制御は、現在のガス供給量に見合う液化ガス容器の本数を算出し、残量が多い液化ガス容器から順に算出した本数分の液化ガス容器を選択してガス供給を行うことを特徴とする請求項1記載の液化ガス供給方法。
【請求項7】
連結配管で連結した複数の液化ガス容器からガスを供給する液化ガス供給装置において、前記複数の液化ガス容器内の液化ガスの量をそれぞれ測定する液化ガス量測定手段と、該液化ガス量測定手段で測定した各液化ガス容器内の液化ガスの残量を比較して残量が最大の液化ガス容器と残量が最小の液化ガス容器とを選出する残量比較手段と、選出された両液化ガス容器の残量の差があらかじめ設定した範囲から外れたときに残量が最小の液化ガス容器からのガス供給を停止するガス供給停止手段とを備えていることを特徴とする液化ガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−24727(P2009−24727A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185859(P2007−185859)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】