説明

液圧制御弁

【課題】電磁弁や類似の液圧制御弁の弁ハウジングに対するフィルタの組み付け性の改善、フィルタ装着後の弁ハウジングの体格縮小及び弁ハウジングの加工コスト低減を可能となすことを課題としている。
【解決手段】アクチュエータハウジング30の組み付け穴31に挿入される弁ハウジング13の外周に通路32から弁室20に 導入される液体を濾過するフィルタ19を装着し、そのフィルタ19を、胴部13aの外周にその胴部を1周しない範囲で沿う形状にし、胴部13aの、連絡孔21が貫通して設けられた部分の外周に、深さがフィルタ19の厚みと同等若しくはフィルタ19の厚みよりも大きなフィルタ収納溝22を設けてそのフィルタ収納溝22にフィルタ19を収納した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弁部の開閉や開度制御などを行なって弁部を通った液体の圧力を制御する液圧制御弁に関する。以下では、その液圧制御弁の代表として、車両のブレーキ液圧制御装置に利用されているブレーキ液圧制御用の電磁弁を例に挙げて説明を行なう。
【背景技術】
【0002】
首記のブレーキ液圧制御用の電磁弁が例えば、下記特許文献1に開示されている。同文献に開示された電磁弁は、流路を開閉するものであって、弁ハウジングの内部に、弁体と弁座とからなる弁部を有している。弁体は弁棒で支持しており、その弁棒と一体の可動鉄心を電磁弁のコイルで発生させた磁力で吸引して可動鉄心と共に弁棒を進退させ、その動作で弁体を弁座に接離させて弁部を開閉する構造になっている。
【0003】
弁ハウジングには、弁体を収納する弁室が設けられており、その弁室を外部の流路に連通させる連絡孔が弁ハウジングの断面円形の胴部に形成されている。また、その連絡孔を通過するブレーキ液を濾過して弁室への異物侵入を防止するフィルタが設けられている。そのフィルタは円筒状に形成されており、弁ハウジングの前記胴部の外周に胴部の先端側から差し込まれていわゆる外嵌状態に装着されている。
【0004】
弁ハウジングは、ブレーキ液圧制御ユニットのハウジング(以下ではアクチュエータハウジングと言う)に設けられた組み付け穴に組み付けられる。このとき、弁ハウジングの胴部の先端側は外周を液封するためにアクチュエータハウジングの組み付け穴に圧入される。
【特許文献1】特開2007−131233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の電磁弁におけるフィルタの装着は、上述したように、周方向に連続した円筒状のフィルタを弁ハウジングの胴部の外周に外嵌する方法でなされていたが、この構造では、フィルタを弁ハウジングに対して軸方向にかぶせるようにして外嵌させるため、電磁弁における弁ハウジング周りの体格は少なくともフィルタの厚さ分だけ径方向に大きくなり、電磁弁の組み付けスペースが大きくなってブレーキ液圧制御ユニットの小型化の妨げになるという問題があった。
【0006】
また、アクチュエータハウジングに設ける組み付け穴は、フィルタ収納部の内径をフィルタとの干渉が起こらない大きさにする必要があることから、弁ハウジングの先端側を圧入する部分とフィルタ収納部の内径が異なった段つき穴になり、その組み付け穴の加工に2工程を必要とし、加工コストが高くなる不具合もあった。
【0007】
さらに、フィルタの下端部が圧入部と近いので、これらが干渉しないようにするために、フィルタとアクチュエータハウジングの寸法管理も厳しくなっていた。
【0008】
この発明は、上記の電磁弁や類似の液圧制御弁の弁ハウジングに対するフィルタの組み付け性の改善、フィルタ装着後の液圧制御弁の体格縮小及び弁ハウジングの加工コスト低減を可能となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、アクチュエータハウジングの組み付け穴に挿入される弁ハウジングの胴部の外周にフィルタを装着し、前記アクチュエータハウジングに設けられた通路から前記弁ハウジングの内部に設けられた弁室に導入される液体を前記フィルタで濾過する液圧制御弁において、
前記フィルタを、前記胴部の外周にその胴部を1周しない範囲で沿う形状にし、前記胴部におけるその外周と前記弁室との間の連絡孔が貫通して設けられた部分の外周に、深さが前記フィルタの厚みと同等若しくはフィルタの厚みよりも大きなフィルタ収納溝を設けてその溝に前記フィルタを収納した。なお、ここで言うフィルタ厚みとは、フレームなども含めたフィルタの全体厚みのことである。
【0010】
この液圧制御弁は、フィルタ収納溝内でのフィルタの周方向変位を止めるフィルタ回り止め手段を備えるものが好ましい。そのフィルタ回り止め手段は、フィルタと弁ハウジングに、軸方向に突出する凸部とその凸部を入り込ませる凹部を対応させて設け、その凸部と凹部で構成するものと、前記フィルタ収納溝を周方向における両端が行き止まりになった溝にし、このフィルタ収納溝の周方向端面でフィルタを拘束するものが考えられる。
【0011】
また、フィルタは、濾過部が1つになっているもののほかに、周方向に分離した2つの濾過部をステーで連結し、前記弁ハウジングに対応して設けた2箇所の連絡孔から前記弁室に流入する液体の濾過を前記2つの濾過部で個別に行なうものが考えられる。
【0012】
濾過部が1つのフィルタ、2つのフィルタとも、平面視C字状(前記胴部の外周を半周以上取り巻く形状)に形成し、かつ、弾性変形可能となし、このフィルタを自己の弾性復元力で弁ハウジングに抱きつかせて胴部外周のフィルタ収納溝内に保持するものが好ましい。
【0013】
なお、この発明の適用対象は、例えば、ブレーキ液圧制御用の電磁弁があるが、これに限定されるものではない。弁ハウジングの内部に異物の侵入を嫌う弁部を有しており、その弁部の弁体を収納した弁室に弁ハウジングの胴部外周に装着したフィルタを通して制御対象の液体を導入する液圧制御弁のすべてに適用される。
【発明の効果】
【0014】
この発明の液圧制御弁は、弁ハウジングの胴部外周にフィルタ収納溝を設けてその溝に周方向途中が途切れて横から組み込み可能となったフィルタを収納するので、フィルタ装着部の外径が弁ハウジングの胴部外径よりも大きくなることがなく、フィルタ装着による液圧制御弁の体格増加が無くなってその液圧制御弁を組み付けた液圧制御ユニットの小型化が図れる。
【0015】
また、フィルタ装着部の外径が弁ハウジングの胴部先端の圧入部の外径と同等あるいはそれ以下になるので、アクチュエータハウジングに設ける組み付け穴は、穴径が一定したストレート穴でよく、その組み付け穴の1パス加工が可能になって加工コストが低減される。
【0016】
さらに、従来の段付き穴のようにフィルタ下端部とアクチュエータハウジングの圧入部が干渉する心配がないため、アクチュエータハウジングの加工面でも有利になる。
【0017】
なお、上記において好ましいとした構成の作用、効果は次項で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面の図1〜図7に基づいて、この発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明を適用したブレーキ液圧制御用の電磁弁である。図示の電磁弁10は、増圧制御用であって、ヨーク12と、そのヨークの内側に配置された励磁用のコイル11と、固定鉄心を兼用した弁ハウジング13と、一体の弁棒14を有する可動鉄心15と、弁ハウジング13の内部に設けられた弁部16及びチェック弁17と、弁棒14に復帰力を加える復帰スプリング18と、フィルタ19を組み合わせて構成されている。
【0019】
弁ハウジング13は、円筒状の胴部13aを有しており、その胴部13aの内部に弁室20が設けられ、その弁室20に弁部16を構成する弁体16aが収納されている。弁部16は、弁体16aと、この弁体16aを接離させる弁座16bとから成る。弁体16aは弁棒14に保持されており、コイル11、弁ハウジング13、可動鉄心15、及びヨーク12によって磁路が形成され、この磁気吸引力により可動鉄心15が図中下方に引き動かされると、弁体16aが弁座16bに接して弁部16が閉じられる。胴部13aには弁室20から外部に抜ける連絡孔21を貫通させて設けてあり、その連絡孔21を覆う位置にフィルタ19が装着される。
【0020】
ブレーキ液圧制御ユニットのアクチュエータハウジング30には、電磁弁10用の組み付け穴31と、マスタシリンダや動力駆動のポンプ(両者とも図示せず)で発生させた液圧を導入する通路32と、車両のホイールシリンダに繋ぐ通路33が設けられている。このアクチュエータハウジング30の組み付け穴31に電磁弁10の弁ハウジング13が組み付けられる。その組み付け状態では、図1に示すように、通路32が連絡孔21を介して弁室20に連通し、また、弁部16よりも図中下側の弁ハウジング内の通路が通路33に連通する。
【0021】
以上述べた部分の構成は、従来の電磁弁とさほど変わるところが無い。すなわち、図1の電磁弁10では、フィルタ19を周方向に連続していないもの、すなわち、平面視形状(軸方向に見たときの形状)がC字状をなすものにしており、また、弁ハウジング13の胴部13aの外周にフィルタ収納溝22を設けてそのフィルタ収納溝22にフィルタ19を収納しており、さらに、アクチュエータハウジング30に設ける組み付け穴31を、穴径が一定したストレート穴にしており、以上の点が従来品と異なる。
【0022】
フィルタ19の詳細を図4に示す。図示のフィルタ19は、リブ19bを有するフレーム19aに濾過用の網19cを貼ったものになっている。このフィルタ19は、樹脂で形成されたものが軽量かつ安価であるが、金属製でもよい。
【0023】
フィルタ収納溝22は、環状溝にすると機械加工がし易い。ただし、環状溝ではフィルタ19の周方向への変位を止めることができないので、フィルタ収納溝22を環状溝にするときには、図3に示すようなフィルタ回り止め手段23を別途設ける。図3のフィルタ回り止め手段23は、フィルタのフレーム19aに軸方向に突出させて設けた凸部23aと、弁ハウジング13に設けた凹部23bとで構成されるものである。凸部23aを対応した位置にある凹部23bに入り込ませることによってフィルタ19を定位置に保持する。これにより、フィルタ19が変位してリブ19bが連絡孔21を塞いだり、フィルタ19が連絡孔21の位置から外れたりする心配がなくなる。凸部23aと凹部23bの位置関係は、図とは逆になっていてもよい。
【0024】
図5に示すように、フィルタ収納溝22を、周方向両端が行き止まりになった溝にし、このフィルタ収納溝22の周方向端面22aをストッパとして働かせる構造にしてフィルタ回り止め手段23を構成することもできる。
【0025】
図1〜図4及び図5の各フィルタ19は、図2、図5に示すように、弁ハウジング13の胴部13aの外周を半周以上取り巻くように形成され、平面視形状がC字状をなしている。これらのフィルタ19は、フレーム19aが弾性変形可能に構成されており、そのフレーム19aの弾性復元力で胴部13aの外周に抱きつかせて胴部外周のフィルタ収納溝22内に保持するものにしており、装着後のフィルタ19が外れる心配が無く、電磁弁10の組み付け前の取り扱い性とアクチュエータハウジング30に対する組み付け性に優れる。
【0026】
フィルタ19の他の形態を図6に示す。この図6のフィルタ19は、周方向に分離した2つの濾過部19dをステー19eで連結し、弁ハウジング13に対応して設けた2箇所の連絡孔21(図7参照)から弁室20に流入する液体の濾過を2つの濾過部19dで個別に行なうものになっている。このように、フィルタ19は任意の形状にアレンジすることができる。
【0027】
なお、ブレーキ液圧制御用の電磁弁には、通路を単純に開閉する電磁切換弁と、弁部の開度を調整してブレーキ液圧をコイルに流す電流の大きさに応じた値に制御する比例電磁弁があり、この発明は、そのどちらの電磁弁にも適用することができる。図示したチェック弁の有無も問わない。また、弁ハウジングの内部に弁部を備える液圧制御弁であれば、電磁弁でなくてもこの発明を有効性が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明を適用したブレーキ液圧制御用電磁弁の断面図
【図2】図1のX−X線に沿った軸直角断面図
【図3】フィルタ回り止め手段の一例を示す要部の正面図
【図4】フィルタの一例を示す斜視図
【図5】他の形態のフィルタ回り止め手段を設けた弁ハウジングの軸直角断面図
【図6】フィルタの他の例を示す斜視図
【図7】図6のフィルタを装着した弁ハウジングの軸直角断面図
【符号の説明】
【0029】
10 電磁弁
11 コイル
12 ヨーク
13 弁ハウジング
13a 胴部
14 弁棒
15 可動鉄心
16 弁部
16a 弁体
16b 弁座
17 チェック弁
18 復帰スプリング
19 フィルタ
19a フレーム
19b リブ
19c 網
19d 濾過部
19e ステー
20 弁室
21 連絡孔
22 フィルタ収納溝
22a 周方向端面
23 フィルタ回り止め手段
23a 凸部
23b 凹部
30 アクチュエータハウジング
31 組み付け穴
32,33 通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータハウジング(30)の組み付け穴(31)に挿入される弁ハウジング(13)の胴部(13a)の外周にフィルタ(19)を装着し、前記アクチュエータハウジング(30)に設けられた通路(32)から前記弁ハウジング(13)の内部に設けられた弁室(20)に導入される液体を前記フィルタ(19)で濾過する液圧制御弁において、前記フィルタ(19)を、前記胴部(13a)の外周にその胴部を1周しない範囲で沿う形状にし、前記胴部(13a)におけるその外周と前記弁室(20)との間の連絡孔(21)が貫通して設けられた部分の外周に、深さが前記フィルタ(19)の厚みと同等若しくはフィルタ(19)の厚みよりも大きなフィルタ収納溝(22)を設けてそのフィルタ収納溝(22)に前記フィルタ(19)を収納したことを特徴とする液圧制御弁。
【請求項2】
前記フィルタ(19)の前記フィルタ収納溝(22)内での周方向変位を止めるフィルタ回り止め手段(23)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の液圧制御弁。
【請求項3】
前記フィルタ(19)と前記弁ハウジング(13)に、軸方向に突出する凸部(23a)とその凸部(23a)を入り込ませる凹部(23b)を対応させて設け、この凸部(23a)と凹部(23b)で、前記フィルタ回り止め手段(23)を構成したことを特徴とする請求項2に記載の液圧制御弁。
【請求項4】
前記フィルタ収納溝(22)を周方向における両端が行き止まりになった溝にし、このフィルタ収納溝(22)の周方向端面(22a)で前記フィルタ(19)を拘束するようにして前記フィルタ回り止め手段(23)を構成したことを特徴とする請求項2に記載の液圧制御弁。
【請求項5】
周方向に分離した2つの濾過部(19d)をステー(19e)で連結して前記フィルタ(19)を構成し、前記弁ハウジング(13)に対応して設けた2箇所の連絡孔(21)を通って前記弁室(20)に流入する液体の濾過を前記2つの濾過部(19d)で個別に行なうようにした請求項1〜4のいずれかに記載の液圧制御弁。
【請求項6】
前記フィルタ(19)を、前記胴部(13a)の外周を半周以上取り巻く平面視C字状に形成し、かつ、弾性変形可能となし、このフィルタ(19)を自己の弾性復元力で前記弁ハウジング(13)に抱きつかせて前記フィルタ収納溝(22)内に保持するようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液圧制御弁。
【請求項7】
前記弁ハウジング(13)の内部に、可動鉄心(15)と一体の軸方向進退自在の弁棒(14)と、その弁棒(14)で保持した弁体(16a)と、その弁体(16a)を接離させる弁座(16b)を有し、さらに、磁気吸引力を発生させて前記可動鉄心(15)に作用させるコイル(11)を有し、ブレーキ液圧制御用の電磁弁として構成された請求項1〜6のいずれかに記載の液圧制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−243550(P2009−243550A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89568(P2008−89568)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】