液晶表示素子および液晶表示装置
【課題】応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることが可能な液晶表示素子を提供する。
【解決手段】複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有するTFT基板20と、負の誘電率異方性を示す液晶分子41を含む液晶層40と、TFT基板20と液晶層40を介して対向すると共に、画素電極20Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有するCF基板30とを備えている。CF基板30の側に位置する液晶分子41Bは、TFT基板20の側に位置する液晶分子41Aよりも大きなプレチルトを有している。
【解決手段】複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有するTFT基板20と、負の誘電率異方性を示す液晶分子41を含む液晶層40と、TFT基板20と液晶層40を介して対向すると共に、画素電極20Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有するCF基板30とを備えている。CF基板30の側に位置する液晶分子41Bは、TFT基板20の側に位置する液晶分子41Aよりも大きなプレチルトを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VAモードで表示を行う液晶表示素子およびこの液晶表示素子を備えた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビやノート型パソコン、カーナビゲーション等の表示モニタとして、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)が多く用いられている。液晶ディスプレイは、そのパネル基板間での分子配列によって様々な表示モード(方式)に分類され、例えば、電圧をかけない状態での液晶分子がねじれて配向してなるTN(Twisted Nematic ;ねじれネマティック)モードがよく知られている。このTNモードでは、液晶分子が正の誘電率異方性、すなわち分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて大きい性質を有しており、基板の面に対して平行な面内において液晶分子の配向方位を順次回転させつつ、基板の面に垂直な方向に整列させた構造となっている。
【0003】
この一方で、電圧をかけない状態での液晶分子が、基板の面に対して垂直に配向してなるVA(Vertical Alignment)モードに対する注目が高まっている。垂直配向型のVAモードでは、液晶分子が負の誘電率異方性、すなわち分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて小さい性質を有しており、TNモードに比べて広視野角を実現できる。
【0004】
このようなVAモードの液晶ディスプレイでは、電圧が印加されると、基板に対して垂直に配向していた液晶分子が、負の誘電率異方性により、基板に対して平行な方向に倒れる(起き上がる)ように応答して、光を透過させる構成となっている。ところが、基板に対して垂直方向に配向した液晶分子の倒れる方向は任意であるため、電圧印加により液晶分子の配向が乱れ、電圧に対する応答特性を悪化させる要因となっていた。
【0005】
そこで、電圧に応答して倒れる方向の規制手段として、基板の対向面側に所定の構造を有するポリマーを形成し、液晶分子を基板と垂直な方向から特定の方向に傾けて配向させる(いわゆるプレチルトを付与する)技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような構成により、電圧印加時の液晶分子の倒れる方向を予め定めておくことができ、電圧に対する応答特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−177408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、駆動していない(黒表示)状態においても液晶分子が基板法線に対して僅かに傾いて配向しているので、電圧に対する応答速度が改善される一方で、黒表示の際に僅かに光を透過してしまい、コントラストが低下するという問題がある。このため、電圧に対する応答速度を良好に維持しつつ、コントラストを向上させることのできる液晶表示素子の実現が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることのできる液晶表示素子および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶表示素子は、第1電極を有する第1基板と、負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、液晶層を介して第1基板と対向すると共に、第1電極と対向する第2電極を有する第2基板とを備え、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、第2基板の側に位置する液晶分子は、第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有し、VAモードで表示を行うものである。また、本発明の液晶表示装置は、上記した本発明の液晶表示素子と同様の素子を用いたものである。
【0010】
なお、「電界に歪みを発生させる構造」とは、両電極間に電圧が印加されると、その構造が設けられた電極の少なくとも近傍において、基板面に対して平行方向において電位強度の不均一な分布が生じることにより、歪んだ電界を発生させるもののことをいう。また、「プレチルト」とは、液晶層に対して電場を印加していない状態において、基板の法線に対する液晶分子の基準となる軸方向の角度のことをいう。
【0011】
本発明の液晶表示素子あるいは液晶表示装置では、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられている。これにより、両電極の間に駆動電圧が印加されると、第1基板側だけ、あるいは、第1および第2基板側の双方において、その基板面に対して平行方向に電位の不均一な分布が発生して電界に歪みが生じる。この結果、基板面に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層に印加されることになる。この際、液晶層では、少なくとも第2基板の側に位置する液晶分子が0°より大きなプレチルトを有するため、駆動電圧に対する液晶分子の応答速度が向上する。また、液晶層において、第1基板の側に位置する液晶分子は、第2基板の側に位置する液晶分子よりも小さなプレチルトを有するため、非駆動状態(黒表示状態)における光の透過量が低減される。
【0012】
本発明の液晶表示素子では、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられていてもよい。または、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方は、導電体層と、その導電体層の液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶表示素子あるいは液晶表示装置によれば、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられている。また、第2基板の側に位置する液晶分子は、第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有している。これにより、例えば、双方の基板の側に位置する液晶分子のプレチルトが0°の場合や、双方の基板の側に位置する液晶分子のプレチルトが0°よりも大きくかつ同じ大きさの場合と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る液晶表示素子の断面模式図である。
【図2】図1に示した画素電極の平面構成を表す模式図である。
【図3】液晶分子のプレチルトを説明するための模式図である。
【図4】図1に示した液晶表示素子の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1に示した液晶表示素子の製造方法を説明するための断面模式図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面模式図である。
【図7】図1に示した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の回路構成図である。
【図8】図2のVIII−VIII線に沿った断面において液晶層に生じる電位の分布を表す模式図である。
【図9】第1の実施の形態における液晶表示素子の他の断面模式図である。
【図10】図9に示した画素電極および対向電極の平面構成を表す模式図である。
【図11】図9の他の構成例に係る液晶表示素子の断面模式図である。
【図12】第2の実施の形態に係る液晶表示素子の断面構成図である。
【図13】図12に示した画素電極の平面構成を表す模式図である。
【図14】図13のXIV−XIV線に沿った断面において液晶層に生じる電位の分布を表す模式図である。
【図15】図12の他の構成例に係る液晶表示素子の断面模式図(A)およびその画素電極の平面模式図(B)である。
【図16】第2の実施の形態における液晶表示素子の他の断面模式図である。
【図17】実施例1,2および比較例1〜4における印加電圧と応答時間との関係を表した特性図である。
【図18】実施例1,2および比較例1〜4におけるコントラストを表した特性図である。
【図19】実施例3,4および比較例5,6における応答時間を表した特性図である。
【図20】従来の液晶表示素子におけるスリット電極近傍の液晶分子の動きを説明するための斜視図である。
【図21】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧と立ち上がり応答時間との関係を表す特性図である。
【図22】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧と立ち下がり応答時間との関係を表す特性図である。
【図23】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧とコントラストとの関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(VAモードの液晶表示素子および液晶表示装置の一例)
(1−1)液晶表示素子の構成
(1−2)液晶表示素子の製造方法
(1−3)液晶表示装置の構成
(1−4)液晶表示素子の他の構成等
2.第2の実施の形態(他の液晶表示素子および液晶表示装置の例)
(2−1)液晶表示素子の構成等
(2−2)液晶表示素子の他の構成等
3.変形例
【0016】
<1.第1の実施の形態(VAモードの液晶表示素子および液晶表示装置の一例)>
[(1−1)液晶表示素子の構成]
図1は本発明の第1の実施の形態に係る液晶表示素子の断面を模式的に表し、図2は図1中の画素電極の平面構成を模式的に表している。なお、図1は図2中のI−I線に沿った断面に対応している。この液晶表示素子の表示モードは垂直配向(VA)モードである。この液晶表示素子は、複数の画素10を有し、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)基板20とCF(Color Filter;カラーフィルタ)基板30との間に、配向膜22,32を介して液晶分子41を含む液晶層40が設けられたものである。この液晶表示素子はいわゆる透過型であり、図1では、駆動電圧が印加されていない非駆動状態を表している。
【0017】
TFT基板20は、ガラス基板20AのCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが画素10ごとに配置されたものである。さらに、TFT基板20には、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するためのTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線およびソース線等(図示せず)が設けられている。
【0018】
画素電極20Bは、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。図2に示したように、画素電極20Bには、各画素内において、所定のパターンで複数のスリット21(電極の形成されない部分)が液晶層40に対して印加される電界に歪みを発生させる構造として設けられている。複数のスリット21により、画素電極20Bは、基部20B1と、基部20B1と一端が接続すると共にTFT基板20の面内方向に向かって延在する複数の線状部分20B2とからなり、いわゆる魚の骨状の構造を有している。このように複数のスリット21が設けられていることにより、駆動電圧が印加されると、基部20B1および線状部分20B2からのみ電界が発せられるため、後述するようにガラス基板20A面に対して平行方向において電位の不均一な分布が発生して電界(電場)に歪みが生じる。これによって、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素10内に配向方向の異なる領域が形成(配向分割)されるため、視野角特性が向上する。すなわち、画素電極20Bによって発生される電界の歪みが、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向を規制することになる。なお、図2の画素電極20Bでは、基部20B1によって分割された4つの領域で駆動電圧印加時における液晶分子41の配向方位が異なるようになる。
【0019】
スリット21の形成パターンとしては、例えば、ストライプ状やV字状など任意であり、画素電極20Bに設けられたスリット21の幅Sやその数、または線状部分20B2の幅Lなどは任意に設定可能である。中でも、スリット21の幅Sは1μm以上20μm以下であると共に、線状部分20B2の幅Lは1μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、駆動電圧が印加された場合、液晶分子41全体が良好に配向するための斜め電場が付与されやすくなり、その上、画素電極20Bの加工が容易になるため、十分な歩留まりを確保することができる。具体的には、幅Sおよび幅Lが1μmよりも狭いと、画素電極20Bの形成が難しくなり、十分な歩留まりを確保することが難しくなる。一方、幅Sおよび幅Lが20μmよりも広いと、駆動電圧を印加した場合に画素電極20Bと対向電極30Bとの間に良好な斜め電界が生じにくくなり、液晶分子41全体の配向がわずかに乱れやすくなる。特に、幅Sが2μm以上10μm以下であると共に、幅Lは2μm以上10μm以下であることが好ましく、幅Sおよび幅Lが4μmであることがより好ましい。十分な歩留まりが確保されるうえ、駆動電圧が印加された場合の液晶分子41全体の配向がより良好になるからである。
【0020】
CF基板30は、ガラス基板30AのTFT基板20と対向する側の表面に、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のフィルタがストライプ状に設けられたカラーフィルタ(図示せず)と、有効表示領域のほぼ全面に亘って対向電極30Bとが配置されたものである。すなわち、対向電極30Bは、CF基板30の画素電極20B(スリット21の形成領域を含む)と対向する領域全体に設けられている。このため、駆動電圧が印加されると、液晶層40の対向電極30B近傍では、電位がほぼ均一に分布して発生するため、電界にほとんど歪みが生じにくくなっている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。
【0021】
配向膜22は、TFT基板20の液晶層40側の表面に画素電極20Bおよびスリット21を覆うように設けられている。配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に対向電極30Bを覆うように設けられている。これらの配向膜22,32は、液晶分子41の配向を規制するものであり、これにより液晶分子41は、全体として、その長軸方向(ダイレクタ)がガラス基板20A,30Aに対してほぼ垂直になるように配向している。
【0022】
配向膜22は、その近傍の液晶分子41(41A)を基板面に対して垂直方向に配向させるようになっている。すなわち、配向膜22は、垂直配向膜であり、垂直配向剤により構成されている。この垂直配向剤としては、例えば、ポリイミドやポリシロキサンなどの高分子化合物が挙げられ、これらの高分子化合物は、例えば、後述するように、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させるための構造(以下、垂直配向誘起構造部という)を含んでいる。なお、ここでの「垂直方向」とは、基板面に対して、わずかに傾斜した方向を含むことを排除するものではなく、基板面に対して90°の方向の他に、概ね垂直方向あるいはほぼ垂直方向という意味を含んでいる。
【0023】
配向膜32も、配向膜22と同様に液晶分子41の配向を規制するものであり、ここでは、その近傍の液晶分子41(41B)に対して0°よりも大きいプレチルトを付与する機能を有している。配向膜32は、架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基(以下、架橋性官能基等ともいう。)を有する高分子化合物がそれらの官能基を介して反応(架橋、重合あるいは感光)したもの(以下、配向処理後化合物という)の1種あるいは2種以上を含んでいる。ここで、架橋性官能基とは、架橋構造(橋かけ構造)を形成することが可能な基を意味し、より具体的には、例えば、二量化することが可能な基である。重合性官能基とは、2つ以上の官能基が逐次重合することが可能な基を意味する。感光性官能基とは、エネルギー線を吸収することが可能な基を意味し、そのエネルギー線は、例えば、紫外線、X線あるいは電子線などである。配向処理後化合物は、主鎖および側鎖を有する高分子化合物の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜32を形成したのち、液晶層40を設け、次いで電場または磁場を印加しながら側鎖に含まれる架橋性官能基等を反応(架橋等)させることにより生成されたものである。このように生成された配向処理後化合物が配向膜32中に含まれることにより、配向膜32近傍の液晶分子41(41B)に対して0°よりも大きいプレチルトを付与できるため、応答速度が向上し、表示特性が向上する。
【0024】
反応(架橋、重合あるいは感光)する前の主鎖および側鎖を有する高分子化合物、すなわち架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基を有する高分子化合物(以下、配向処理前化合物という)としては、主鎖として耐熱性が高い構造を含むものが好ましい。これにより、液晶表示素子では、高温環境下に曝されても、配向膜32中の配向処理後化合物が液晶分子41に対する配向規制能を維持するため、コントラストなどの表示特性や応答特性が良好に維持され、信頼性が確保される。このため、主鎖としては、繰り返し単位中にイミド結合を含むものが好ましい。主鎖中にイミド結合を含む配向処理前化合物としては、例えば、式(1)で表されるポリイミド構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(1)に示したポリイミド構造を含む高分子化合物では、式(1)に示したポリイミド構造のうちの1種から構成されていてもよいし、複数種がランダムに連結して含まれていてもよいし、式(1)に示した構造の他に、他の構造を含んでいてもよい。
【0025】
【化1】
(R1は4価の有機基であり、R2は2価の有機基である。n1は1以上の整数である。)
【0026】
式(1)中で説明したR1およびR2は、炭素を含んで構成された4価あるいは2価の基であれば任意であるが、R1およびR2のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基あるいは重合性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。
【0027】
また、配向処理前化合物では、側鎖は、主鎖に複数結合しており、その複数の側鎖のうちの少なくとも1つが架橋性官能基あるいは重合性官能基を含んでいれば任意である。すなわち、配向処理前化合物は、架橋性等を有する側鎖の他に、架橋性等を示さない側鎖を含んでいてもよい。架橋性官能基等を含む側鎖は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。架橋性官能基あるいは重合性官能基は、液晶層40を形成したのちに、架橋反応あるいは重合反応が可能な官能基であれば任意であり、光反応によって架橋構造等を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造等を形成する基であってもよい。中でも、光反応によって架橋構造等を形成する、光反応性の架橋性官能基等が好ましい。液晶分子41の配向を所定の方向に規制し易く、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造を容易にするからである。
【0028】
光反応性の架橋性官能基は、感光性を有する感光基であり、例えば、光二量化感光基である。この光反応性の架橋性官能基としては、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネンあるいはオリザノールのうちのいずれか1種の構造を含む基が挙げられる。これらのうち、カルコン、シンナメートあるいはシンナモイルの構造を含む基としては、例えば式(2)で表される基が挙げられる。式(2)に示した基を含む側鎖を有する配向処理前化合物が架橋すると、例えば、式(3)に示した構造が形成される。すなわち、式(2)に示した基を含む高分子化合物から生成された配向処理後化合物は、シクロブタン骨格を有する式(3)に示した構造を含む。なお、例えば、マレイミドなどの光反応性の架橋性官能基は、場合によっては、光二量化反応だけでなく、重合反応も示す。このため、配向処理後化合物について、架橋性官能基あるいは重合性官能基を有する高分子化合物が架橋等した化合物であることを説明している。
【0029】
【化2】
(R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は環構造を含む1価の基であり、R5は水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体である。)
【0030】
【化3】
(R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は環構造を含む1価の基であり、R5は水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体である。)
【0031】
式(2)中で説明したR3は、ベンゼン環などの芳香族環を含む2価の基であれば任意であり、芳香族環の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合あるいは炭化水素基を含んでいてもよい。また、式(2)中で説明したR4は、環構造を含む1価の基であれば任意であり、環構造の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、炭化水素基あるいはハロゲン基などを含んでいてもよい。R4が有する環構造としては、骨格を構成する元素として炭素を含む環であれば任意であり、その環構造としては、例えば、芳香族環、複素環あるいは脂肪族環、またはそれらの連結あるいは縮合した環構造などが挙げられる。式(2)中で説明したR5は、水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体であれば任意である。ここでの「誘導体」とは、アルキル基が有する水素基の一部あるいは全部がハロゲン基などの置換基により置換された基のことをいう。また、R5として導入されるアルキル基としては、その炭素数は任意である。R5としては、水素基あるいはメチル基が好ましい。良好な架橋反応性が得られるからである。
【0032】
式(3)中で説明したR3同士は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは式(3)中のR4同士およびR5同士についても同様である。式(3)中のR3、R4およびR5としては、例えば、上記した式(2)中のR3、R4およびR5と同様のものが挙げられる。
【0033】
式(2)に示した基としては、例えば、式(2−1)〜式(2−31)で表される基が挙げられる。なお、式(2)に示した構造を有する基であれば、式(2−1)〜式(2−31)に示した基に限定されない。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
配向処理前化合物は、垂直配向誘起構造部を含んでいることが好ましい。配向膜32が配向処理後化合物とは別に垂直配向誘起構造部を有する化合物(いわゆる通常の垂直配向剤)を含まなくても液晶分子41全体としての配向を規制可能になるからである。その上、垂直配向誘起構造部を有する化合物を別に含む場合よりも、液晶層40に対する配向規制機能をより均一に発揮できる配向膜32が形成され易いからである。垂直配向誘起構造部は、配向処理前化合物においては、主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよく、双方に含まれていてもよい。また、配向処理前化合物が上記した式(1)に示したポリイミド構造を含む場合には、R2として垂直配向誘起構造部を含む構造(繰り返し単位)と、R2として架橋性官能基を含む構造(繰り返し単位)との2種の構造を含んでいることが好ましい。容易に入手可能であるからである。なお、垂直配向誘起構造部は、配向処理前化合物に含まれていれば、配向処理後化合物においても含まれている。
【0039】
垂直配向誘起構造部としては、例えば、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のハロゲン化アルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基、炭素数10以上のハロゲン化アルコキシ基あるいは環構造を含む有機基などが挙げられる。具体的には、垂直配向誘起構造部を含む構造としては、例えば、式(4−1)〜式(4−6)で表される構造などが挙げられる。
【0040】
【化8】
(Y1は炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。Y2〜Y15は水素基、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基であり、Y2およびY3のうちの少なくとも一方、Y4〜Y6のうちの少なくとも1つ、Y7およびY8のうちの少なくとも一方、Y9〜Y12のうちの少なくとも1つ、およびY13〜Y15のうちの少なくとも1つは、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。ただし、Y11およびY12は結合して環構造を形成してもよい。)
【0041】
また、垂直配向誘起構造部としての環構造を含む1価の有機基としては、例えば、式(5−1)〜式(5−23)で表される基などが挙げられる。垂直配向誘起構造部としての環構造を含む2価の有機基としては、例えば、式(6−1)〜式(6−7)で表される基などが挙げられる。
【0042】
【化9】
(a1〜a3は0以上21以下の整数である。)
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
(a1は0以上21以下の整数である。)
【0045】
【化12】
【0046】
なお、垂直配向誘起構造部は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配列させるように機能する構造を含んでいれば、上記した基に限定されない。
【0047】
配向処理前化合物は、架橋性官能基あるいは重合性官能基の他に、更に式(7)で表される基を有していることが好ましい。式(7)に示した基は液晶分子41に対して沿うように動くことができるため、配向処理前化合物が架橋等する際に、式(7)に示した基が液晶分子41の配向方向に沿った状態で架橋性官能基等と一緒に固定されるからである。この固定された式(7)に示した基により、液晶分子41の配向を所定の方向により規制しやすくなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0048】
−R11−R12−R13 ・・・・・・(7)
(R11は、炭素数が1以上であると共にエーテル基あるいはエステル基を含む直鎖状または分岐状の2価の有機基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。または、R11は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよびヘミケタールのうちの少なくとも1種の結合基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。R12は複数の環構造を含む2価の有機基であり、その環構造を構成する原子のうちの1つはR11に結合している。R13は水素基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシル基あるいはカーボネート基を有する1価の基またはそれらの誘導体である。)
【0049】
式(7)中のR11は、R12およびR13を主鎖に固定すると共にR12およびR13が液晶分子41に沿うように自由に動きやすくするためのスペーサ部分として機能するための部位であり、R11としては、例えば、アルキレン基などが挙げられる。このアルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R11は、カルボニル基またはカーボネート基を有していてもよい。R11の炭素数は、6以上であることがより好ましい。式(7)に示した基が液晶分子41と相互作用するため、その液晶分子41に対して沿いやすくなるからである。この炭素数は、R11の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。式(7)中のR12は、一般的なネマティック液晶分子に含まれる環構造(コア部位)に沿う部分である。R12としては、例えば、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1,6−ナフタレン基、ステロイド骨格を有する2価の基またはそれらの誘導体などのように、液晶分子に含まれる環構造と同様の基あるいは骨格が挙げられる。ここでの「誘導体」とは、上記した一連の基に1または2以上の置換基が導入された基である。式(7)中のR13は、液晶分子の末端鎖に沿う部分であり、R13としては、例えば、アルキレン基またはハロゲン化アルキレン基などが挙げられる。ただし、ハロゲン化アルキレン基では、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素基がハロゲン基に置換されていればよく、そのハロゲン基の種類は、任意である。アルキレン基またはハロゲン化アルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R13は、カルボニル基またはカーボネート基を有していてもよい。R13の炭素数は、R11と同様の理由により、6以上であることがより好ましい。
【0050】
具体的には、式(7)に示した基としては、例えば、式(7−1)〜式(7−12)で表される1価の基などが挙げられる。
【0051】
【化13】
【0052】
【化14】
【0053】
なお、式(7)に示した基は、液晶分子41に対して沿うように動くことができれば、上記した基に限定されない。
【0054】
また、上記した架橋性官能基は、式(8)で表される基でもよい。架橋する部位の他に、液晶分子41に沿う部位と自由に動くことができる部位とを有するため、架橋性官能基の液晶分子41に対して沿う部位が液晶分子41により沿った状態で固定できるからである。これにより、液晶分子41の配向を所定の方向により規制しやすくなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0055】
−R21−R22−R23−R24 ・・・・・・(8)
(R21は、炭素数が1以上20以下、好ましくは3以上12以下であると共にエーテル基あるいはエステル基を含む直鎖状または分岐状の2価の有機基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。または、R21は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよびヘミケタールのうちの少なくとも1種の結合基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。R22はカルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、キトサン、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、エポキシおよびオキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、またはエチニレン基である。R23は複数の環構造を含む2価の有機基である。R24は水素基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシル基あるいはカーボネート基を有する1価の基またはそれらの誘導体である。)
【0056】
式(8)中のR21は、自由に動くことができる構造部であり、そのR21としては、例えば、式(7)中のR11について説明した基が挙げられる。式(8)に示した基では、R21を軸としてR22〜R24が動きやすいため、R23およびR24が液晶分子41に対して沿いやすくなっている。R21の炭素数は、6以上10以下であることがより好ましい。この炭素数は、R21の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。式(8)中のR22は、架橋性官能基を有する構造部である。この架橋性官能基は、上記したように、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよい。式(8)中のR23は、液晶分子41のコア部位に対して沿うことができる構造部であり、そのR23としては、例えば、式(7)中のR12について説明した基などが挙げられる。式(8)中のR24は、液晶分子41の末端鎖に沿う部位であり、そのR24としては、例えば、式(7)中のR13について説明した基などが挙げられる。
【0057】
具体的には、式(8)に示した基としては、例えば、式(8−1)〜式(8−11)で表される1価の基などが挙げられる。
【0058】
【化15】
(nは3以上20以下の整数である。)
【0059】
【化16】
【0060】
なお、式(8)に示した基は、上記した4つの構造部(R21〜R24)を有していれば、上記した基に限定されない。
【0061】
配向処理後化合物は、未反応の架橋性官能基等を含んでいてもよいが、駆動中に反応した場合に液晶分子41の配向を乱すおそれがあるため、未反応の架橋性官能基等は、少ないほうが好ましい。配向処理後化合物が未反応の架橋性官能基等を含んでいるか否かは、例えば、液晶表示素子を解体して、配向膜32を透過型または反射型のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で分析することにより確認することができる。具体的には、まず、液晶表示素子を解体し、配向膜32の表面を有機溶媒等により洗浄する。こののち、配向膜32をFT−IRで分析することによって、例えば、式(2)中に示した架橋構造等を形成する二重結合が配向膜32中に残留していれば、その二重結合に由来する吸収スペクトルが得られることとなり、確認することができる。
【0062】
また、配向膜32は、上記した配向処理後化合物の他に、他の垂直配向剤を含んでいてもよい。他の垂直配向剤としては、垂直配向誘起構造部を有するポリイミドや、垂直配向誘起構造部を有するポリシロキサン等の配向膜22を構成する垂直配向剤と同じものなどが挙げられる。
【0063】
液晶層40は、垂直配向型の液晶分子41を含んでいる。液晶分子41は、例えば、互いに直交する長軸および短軸をそれぞれ中心軸として回転対称な形状をなし、負の誘電率異方性を示すものである。なお、誘電率異方性(Δε)は、Δε=ε//−ε⊥で求められる。ε//とは、液晶分子41の長軸方向の誘電率であり、ε⊥とは、液晶分子41の短軸方向の誘電率である。
【0064】
液晶分子41は、配向膜22との界面近傍において、配向膜22に保持された液晶分子41Aと、配向膜32との界面近傍において配向膜32に保持された液晶分子41Bと、それら以外の液晶分子41Cとに分類することができる。液晶分子41Cは、液晶層40の厚み方向における中間領域に位置し、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Cの長軸方向(ダイレクタ)がガラス基板20A,30Aに対してほぼ垂直になるように配列している。ここで駆動電圧がオンになると、液晶分子41Cのダイレクタがガラス基板20A,30Aに対して平行になるように傾いて配向する。このような挙動は、液晶分子41Cにおいて、長軸方向の誘電率ε//が短軸方向の誘電率ε⊥よりも小さいという性質を有することに起因している。液晶分子41A,41Bも同様の性質を有することから、駆動電圧のオン・オフの状態変化に応じて基本的には液晶分子41Cと同様の挙動を示す。ただし、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Aは配向膜22によって、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向と同じ方向を向いた姿勢をとる。すなわち、液晶分子41Aは配向膜22によってプレチルトθ1が0°となっている。その一方で、液晶分子41Bは、駆動電圧がオフの状態において配向膜32によって0°よりも大きなプレチルトθ2が付与される。これにより、液晶分子41Bは、画素電極20Bの中心から外側に基部20B1および線状部分20B2の延在方向に向かって、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向から傾斜した姿勢となる。なお、ここでいう「保持される」とは、配向膜22,32と液晶分子41A,41Bとが固着せずに、液晶分子41の配向を規制していることを表している。また、「プレチルトθ(θ1,θ2)」とは、図3に示したように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A〜41C)のダイレクタDの角度をいい、その角度は0°を含むものとする。
【0065】
すなわち、液晶層40では、液晶分子41Bのプレチルトθ2は液晶分子41Aのプレチルトθ1よりも大きくなっており、ここではプレチルトθ1が0°、プレチルトθ2が0°よりも大きな値を有している。これにより、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合や、プレチルトθ1が0°よりも大きく、かつプレチルトθ2が0°である場合よりも、駆動電圧の印加に対する応答速度が向上すると共に、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合とほぼ同等のコントラストが得られる。その上、プレチルトθ1,θ2の双方が0°よりも大きい角度(θ1,θ2>0°)の場合と同等の応答速度が得られる。よって、応答特性が向上しつつ、黒表示の際の光の透過量が低減するため、コントラストを向上させることができる。この場合、プレチルトθ2は、0°よりも大きく10°以下であることがより望ましい。十分な応答特性が得られると共に、コントラストがより向上するからである。中でも、プレチルトθ2は1°以上4°以下であることが好ましい。これにより、優れた応答特性が確保されると共に、特にコントラストが向上する。具体的には、プレチルトθ2が上記の範囲内であることにより、プレチルトθ2が1°未満の場合よりも、駆動電圧を印加した際の液晶分子41の応答速度(駆動状態にした際の応答速度=立ち上がりの応答速度)が速くなる。また、プレチルトθ2が4°超の場合よりも駆動電圧を印加したのち非駆動状態にした際の液晶分子41の応答速度(立ち下がりの応答速度)が速くなり、その上、黒表示の際の光の透過量がより低減する。
【0066】
[(1−2)液晶表示素子の製造方法]
次に、上記の液晶表示素子の製造方法について、図4に表したフローチャートと共に、図5,図6に表した断面模式図を参照して説明する。なお、図5,図6では、簡略化のため、画素10の一部についてのみ示す。
【0067】
最初に、TFT基板20の表面に配向膜22を形成すると共に、CF基板30の表面に配向膜32を形成する(ステップS101)。
【0068】
具体的には、まず、ガラス基板20Aの表面に、所定のスリット21のパターンが形成された画素電極20Bを例えばマトリクス状に設けることにより、TFT基板20を作製する。続いて、画素電極20Bおよびスリット21を覆うように、溶剤に溶解あるいは分散させた垂直配向剤を含む配向剤料をTFT基板20に塗布あるいは印刷したのち、加熱処理をする。これにより、塗布あるいは印刷された配向材料に含まれる溶剤が蒸発し、配向膜22が形成される。こののち、必要に応じて、ラビングなどの処理を施してもよい。
【0069】
また、カラーフィルタが形成されたガラス基板30Aのカラーフィルタ上に対向電極30Bを設けることにより、CF基板30を作製する。続いて、例えば、配向処理前化合物、または配向処理前化合物となる高分子化合物前駆体と、溶剤と、必要に応じて垂直配向剤とを混合することにより、液状の配向材料を調製する。
【0070】
高分子化合物前駆体としては、例えば、架橋性官能基あるいは重合性官能基を側鎖として有する高分子化合物が式(1)に示したポリイミド構造を含む場合には、架橋性官能基あるいは重合性官能基を有するポリアミック酸が挙げられる。高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸は、例えば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて合成される。ここで用いるジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方が架橋性官能基あるいは重合性官能基を有している。ジアミン化合物としては、例えば、式(A−1)〜式(A−21)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物としては、式(A−22)〜式(A−31)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられる。
【0071】
【化17】
【0072】
【化18】
(X1〜X4は単結合あるいは2価の有機基である。)
【0073】
【化19】
(X5〜X7は単結合あるいは2価の有機基である。)
【0074】
【化20】
【0075】
【化21】
【0076】
【化22】
【0077】
また、配向処理前化合物が垂直配向誘起構造部を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(B−1)〜式(B−36)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物や、テトラカルボン酸二無水物として式(B−37)〜式(B−39)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いてもよい。
【0078】
【化23】
【0079】
【化24】
【0080】
【化25】
(a4〜a6は0以上21以下の整数である。)
【0081】
【化26】
(a4は0以上21以下の整数である。)
【0082】
【化27】
(a4は0以上21以下の整数である。)
【0083】
【化28】
【0084】
【化29】
【0085】
また、配向処理前化合物が架橋性官能基と一緒に式(7)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(C−1)〜式(C−24)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0086】
【化30】
【0087】
【化31】
【0088】
【化32】
【0089】
【化33】
【0090】
また、配向処理前化合物が式(8)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の代わりに、ジアミン化合物として式(D−1)〜式(D−12)で表される液晶分子41に対して沿うことができる架橋性官能基を有する化合物を用いてもよい。
【0091】
【化34】
【0092】
【化35】
(nは3以上20以下の整数である。)
【0093】
さらに、配向処理前化合物が式(1)中のR2として垂直配向誘起構造部を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(B−1)〜式(B−39)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。なお、式(E−23)中のR31およびR32は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、ハロゲン基の種類は、任意である。
【0094】
【化36】
【0095】
【化37】
【0096】
【化38】
(R31,R32はアルキル基、アルコキシル基またはハロゲン基である。)
【0097】
また、配向処理前化合物が式(1)中のR2として式(7)に示した基を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(C−1)〜式(C−24)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)に示したテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0098】
また、配向処理前化合物が式(1)中のR2として式(8)に示した基を含む構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(D−1)〜式(D−12)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0099】
配向材料中における配向処理前化合物あるいは高分子化合物前駆体の含有量は、1重量%以上30重量%以下であるのが好ましく、3重量%以上10重量%以下であるのがより好ましい。また、配向材料には、必要に応じて、光重合開始剤などを混合するようにしてもよい。
【0100】
続いて、調整した配向材料を、CF基板30に対向電極30Bを覆うように塗布あるいは印刷したのち、加熱処理をする。加熱処理の温度は、80℃以上が好ましく、150℃以上200℃以下がより好ましい。また、加熱処理は、加熱温度を段階的に変化させてもよい。これにより、塗布あるいは印刷された配向材料に含まれる溶剤が蒸発し、架橋性官能基を側鎖として有する高分子化合物(配向処理前化合物)を含む配向膜32が形成される。こののち、必要に応じて、ラビングなどの処理を施してもよい。
【0101】
次に、TFT基板20とCF基板30とを配向膜22と配向膜32とが対向するように配置し、配向膜22と配向膜32との間に、液晶分子41を含む液晶層40を封止する(ステップS102)。具体的には、TFT基板20あるいはCF基板30のどちらか一方の、配向膜22,32の形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えばプラスチックビーズ等を散布すると共に、例えばスクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いて、シール部を印刷する。こののち、図5に示したように、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22,32が対向するように、スペーサ突起物およびシール部を介して貼り合わせ、液晶分子41を含む液晶材料を注入する。その後、加熱するなどしてシール部の硬化を行うことにより液晶材料をTFT基板20とCF基板30との間に封止する。図5は、配向膜22および配向膜32の間に封止された液晶層40の断面構成を表している。
【0102】
次に、図6(A)に示したように、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、電圧印加手段1を用いて、電圧V1を印加する(ステップS103)。電圧V1は、例えば、5〜40(V)の大きさで印加するようにする。これにより、ガラス基板20A,30Aの表面に対して所定の角度をなす方向の電場(電界)が生じ、液晶分子41がガラス基板20A,30Aの垂直方向から所定方向に傾いて配向することとなる。このときの電圧V1の大きさと、後述の工程で液晶分子41Bに付与されるプレチルトθ2とは、相関するため、電圧V1の大きさを適宜調節することにより、液晶分子41Bのプレチルトθ2の大きさを制御することが可能である。
【0103】
さらに、図6(B)に示したように、電圧V1を印加した状態のまま、紫外光UVを、例えばTFT基板20の外側から配向膜32に対して照射することにより配向膜32中の高分子化合物が有する架橋性官能基を反応させ、高分子化合物を架橋させる(ステップS104)。この結果、配向膜32中において配向処理後化合物が形成され、非駆動状態において、液晶層40における配向膜32との界面近傍に位置する液晶分子41Bに0°よりも大きなプレチルトθ2が付与される。紫外光UVとしては、波長300nm〜365nm程度の光成分を多く含む紫外光が好ましい。短波長域の光成分を多く含む紫外光を用いると、液晶分子41が光分解し、劣化するおそれがあるからである。なお、ここでは、紫外光UVをTFT基板20の外側から照射したが、CF基板30の外側から照射してもよく、TFT基板20およびCF基板30の双方の基板の外側から照射してもよい。この場合には、透過率が高い方の基板側から紫外光UVを照射することが好ましい。また、CF基板30の外側から紫外光UVを照射した場合には、紫外光UVの波長域によっては、カラーフィルタに吸収されて架橋反応しにくくなるおそれがあるため、TFT基板20の外側から照射するほうが好ましい。
【0104】
以上の工程により、図1に示した液晶表示素子が完成する。
【0105】
[(1−3)液晶表示装置の構成]
次に、図7を参照して、上記した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の構成について説明する。図7は、図1に示した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の回路構成を表している。
【0106】
図7の液晶表示装置は、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する液晶表示素子を含んで構成されている。この液晶表示装置では、表示領域60の周囲において、ソースドライバ61およびゲートドライバ62と、ソースドライバ61およびゲートドライバ62を制御するタイミングコントローラ63と、ソースドライバ61およびゲートドライバ62に電力を供給する電源回路64とが設けられている。
【0107】
表示領域60は、映像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより映像を表示可能に構成された領域である。なお、図7では、複数の画素10を含む表示領域60を示しているほか、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
【0108】
表示領域60では、行方向に複数のソース線71が配列されていると共に列方向に複数のゲート線72が配列されており、それらのソース線71およびゲート線72が互いに交差する位置に画素10がそれぞれ配置されている。各画素10は、画素電極20Bおよび液晶層40と共にトランジスタ121およびキャパシタ122を含んで構成されている。各トランジスタ121では、ソース電極がソース線71に接続され、ゲート電極がゲート線72に接続され、ドレイン電極がキャパシタ122および画素電極20Bに接続されている。各ソース線71は、ソースドライバ61に接続されており、そのソースドライバ61から画像信号が供給されるようになっている。各ゲート線72は、ゲートドライバ62に接続されており、そのゲートドライバ62から走査信号が順次供給されるようになっている。
【0109】
ソースドライバ61およびゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択するものである。
【0110】
タイミングコントローラ63は、例えば、画像信号(例えば、赤、緑、青に対応するRGBの各映像信号)と、ソースドライバ61の動作を制御するためのソースドライバ制御信号とをソースドライバ61に出力する。また、タイミングコントローラ63は、例えば、ゲートドライバ62の動作を制御するためのゲートドライバ制御信号をゲートドライバ62に出力する。ソースドライバ制御信号としては、例えば、水平同期信号、スタートパルス信号あるいはソースドライバ用のクロック信号などが挙げられる。ゲートドライバ制御信号としては、例えば、垂直同期信号や、ゲートドライバ用のクロック信号などが挙げられる。
【0111】
この液晶表示装置では、以下の要領で画素電極20Bと対向電極30Bとの間に駆動電圧を印加することにより、映像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、タイミングコントローラ63からのソースドライバ制御信号の入力により、同じくタイミングコントローラ63から入力された画像信号に基づいて所定のソース線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が、タイミングコントローラ63からのゲートドライバ制御信号の入力により所定のタイミングでゲート線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたソース線71と走査信号が供給されたゲート線72との交差点に位置する画素10が選択され、その画素10に駆動電圧が印加されることとなる。
【0112】
選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、例えば図8に示したように電位差が生じる。図8は図2中のVIII−VIII線に沿った断面において駆動電圧印加時における液晶層40の電位分布を模式的に表している。詳細には、画素電極20B側では、基部20B1および線状部分20B2から電界が発せられるため、複数のスリット21によってガラス基板20A面に対して平行方向において電位(電場)の強度に不均一な分布が生じる。すなわち、画素電極20B側では、スリット21により電界に歪みが発生する。この基板面に対して平行方向における画素電極20B側の電位の不均一な強度分布は、対向電極30Bが画素電極20Bと対向する領域全体に設けられているため、対向電極30B側に近づくにつれて電位の分布の不均一性が小さくなり、対向電極30B近傍においてその分布はほぼ均一になっている。この画素電極20B側の電位の不均一な強度分布によって、ガラス基板20A,30A面に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層40に印加されることになる。
【0113】
このような画素電極20Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が変化する。具体的には、液晶層40では、図1に示した駆動電圧の印加前の状態から、駆動電圧が印加されることにより、配向膜32の近傍に位置する液晶分子41Bと共にその他の液晶分子41A,41Cが液晶分子41Bの傾き方向に倒れることとなる。その結果、液晶分子41がTFT基板20およびCF基板30に対してほぼ水平(平行)となる姿勢をとるように応答する。これにより、液晶層40の光学的特性が変化し、液晶表示素子への入射光が変調された射出光となり、その射出光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0114】
次に、本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置の作用効果について、従来の液晶表示素子および液晶表示装置と比較して説明する。
【0115】
0°よりもの大きなプレチルトを付与するための処理(以下、単にプレチルト処理という)が全く施されていない従来の液晶表示素子およびそれを備えた液晶表示装置では、上記した画素電極20Bと同様に電界の歪みによって液晶分子の配向を規制するためのスリットが設けられた電極(以下、スリット電極という)を有する基板を用いたとしても、駆動電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子は、そのダイレクタが基板の面内方向において任意の方位を向くように倒れる。
【0116】
具体的には、図20に示したように、スリット電極200近傍の液晶分子410は、スリット210近傍の液晶分子410Aと、スリット電極200の線状部分200A近傍の液晶分子410Bとに分類され、駆動電圧が印加されると、液晶分子410A,410Bはそれぞれが異なる方位に向かって倒れるものと考えられる。スリット210近傍の液晶分子410Aは、線状部分200Aのエッジ部Eから生じる斜め電界により、スリット210の幅方向(方向S1,S2)に倒れる。この際、線状部分200A近傍の液晶分子410Bは、線状部分200Aの延在方向(方向L1)に沿って倒れ、そのダイレクタが方向L1に沿った状態で配向する。こののち、方向S1,S2に倒れた液晶分子410Aは、液晶分子410Bの配向と揃うように、そのダイレクタが方向L1と平行になるように回転し、配向する。すなわち、駆動電圧が印加されると、線状部分200A近傍の液晶分子410Bは、そのダイレクタが方向L1と平行になるように倒れて配向する一方で、スリット210近傍の液晶分子410Aは、そのダイレクタが方向L1と平行になるように、ねじれて回転しながら倒れて配向する。なお、本実施の形態の液晶表示素子と同様に、画素電極をスリット電極、対向電極をスリットが形成されていない電極(以下、ベタ電極という)とした場合、対向電極側では、電界の斜め成分が少なくなるため、その近傍の液晶分子はダイレクタが任意の方位を向くように倒れたのち、スリット電極の線状部分の延在方向(図20に示したL1方向に対応する)に配向することとなる。このように駆動電圧に応答した液晶分子では、各液晶分子のダイレクタの方位がぶれた状態となり、全体としての配向に乱れが生じる。これにより、液晶分子が駆動電圧に対応した所定の配向をとるまでの応答速度が低くなるため、表示性が劣化し、その結果、応答特性を悪化させる。
【0117】
また、他の従来の液晶表示素子および液晶表示装置では、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが同じ角度で付与されている。プレチルト処理が施されていることにより、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子と比較して、駆動電圧に応答する液晶分子全体としての配向の乱れが抑制されるため、応答速度が向上する。しかしながら、この液晶表示素子では、非駆動状態(黒表示状態)においても液晶分子が基板法線に対して僅かに傾いて配向しているので、応答速度が改善される一方で、黒表示の際に僅かに光を透過してしまい、コントラストが低下する。また、この液晶表示素子の製造方法では、光重合性を有するモノマー等を含む液晶材料を用いて液晶層を形成したのち、そのモノマーを含んだ状態で、液晶層中の液晶分子を所定の配向にしながら、光照射してモノマーを重合させる。このようにして形成されたポリマーが、液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトを付与する。ところが、製造された液晶表示素子では、未反応の光重合性のモノマーが、液晶層中に残留し、信頼性を低下させる。また、未反応のモノマーを少なくするためには、光照射時間を長くする必要があり、製造にかかる時間(タクト)が長くなる。
【0118】
これに対して、本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板20は電界に歪みを発生させる構造として複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有し、CF基板30は画素電極20Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板20側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向し、CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。液晶分子41Bがプレチルトθ2を有することにより、駆動電圧に対する応答速度が向上し、液晶分子41Aがガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向していることにより、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが付与されている他の従来の液晶表示素子と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0119】
この場合、配向膜32は、架橋性官能基等を側鎖として有する高分子化合物が架橋等した配向処理後化合物を含み、この配向処理後化合物により、液晶分子41Bにプレチルトθ2を付与する。このため、上記したようにモノマーが添加された液晶材料を用いて液晶層40を形成しなくても、配向膜32が液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与することができるため、信頼性を向上させることができる。さらに、タクトが長くなることも抑制することができる。さらに、ラビング処理といった液晶分子に対するプレチルトを付与する従来の技術を用いなくても、良好に液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与できる。このため、ラビング処理の問題点である、配向膜に傷が付くラビング傷によるコントラストの低下や、ラビング時の静電気による配線の断線や、異物による信頼性の低下などが生じることもない。
【0120】
ここで、参考例として、複数のスリットが設けられた画素電極(スリット電極)を有する基板側に位置する液晶分子に0°よりも大きなプレチルトが付与され、その画素電極と対向する領域全体に設けられた対向電極(ベタ電極)を有する基板側に位置する液晶分子が基板面に対して垂直に配向している液晶表示素子について説明する。参考例の液晶表示素子では、画素電極近傍に位置する液晶分子は、0°よりも大きなプレチルトが付与されているため、駆動電圧に対する応答速度は、プレチルト処理が施されていない場合(上記した従来の液晶表示素子)と比較して速くなる。ところが、この画素電極近傍の液晶分子は、0°よりも大きなプレチルトが付与されていても、駆動電圧が印加されると図20に示した場合と同様に動作するものと考えられる。この結果、駆動電圧に応答した液晶分子では、全体としての配向に乱れが生じることになるため、十分な応答速度が得られにくくなる。この駆動電圧印加時における液晶分子全体としての配向の乱れは、特に、高い駆動電圧を印加した場合に顕著に生じる。また、参考例の液晶表示素子において、例えば上記した配向膜32の配向剤料を用いて本実施の形態と同様に画素電極近傍の液晶分子に対してプレチルト処理を施したとしても、スリット近傍と画素電極の線状部分近傍とで液晶分子の倒れる動きが異なるため、そのプレチルトの傾き方向も任意の方向になりやすくなる。これによっても、十分な応答特性が得られにくくなる上、黒表示状態における液晶分子全体の配向の乱れの要因となるため、コントラストが低下する。
【0121】
これに対して、本実施の形態では、CF基板30側に位置する液晶分子41Bに対して配向膜32がプレチルトθ2を付与している。これにより、液晶分子41Bのプレチルトθ2の傾き方向は揃いやすくなるため、参考例と比較して、駆動電圧印加時および非駆動時における液晶分子41全体としての配向の乱れが生じにくくなり、応答特性およびコントラストを向上させることができる。特に、液晶分子41Aに0°よりも大きなプレチルトを付与するよりも、液晶分子41Bにプレチルトθ2を付与したほうが、液晶分子41Bに対するアンカリング効果が強く発揮されやすくなるため、駆動電圧を印加したのち非駆動状態にした場合の液晶分子41の応答速度(立ち下がりの応答速度)も速くなる。
【0122】
[(1−4)液晶表示素子の他の構成]
図9は本実施の形態に係る液晶表示素子の他の構成を表しており、図1に対応する断面を示している。図10は図9中の画素電極(A)および対向電極(B)の主要部の平面構成を模式的に表している。なお、図9は図10(A),(B)中のIX−IX線に沿った断面に対応している。この液晶表示素子は、TFT基板20に設けられた画素電極20BおよびCF基板30に設けられた対向電極30Bの構成が異なることを除き、図1に示した液晶表示素子と同様の構成を有している。ここでは、画素電極20Bにスリット21が設けられているだけでなく、対向電極30にもスリット31が設けられている。
【0123】
図10(A)に示したように、画素電極20Bには、各画素内において、TFT基板20の面内において斜め方向(長手方向に対して傾いた方向)に延在する複数のスリット21が設けられている。複数のスリット21のうち、一部のスリット21の形成パターンはV字状であり、それ以外のスリット21は、V字状のスリット21に対して平行に配列されている。ただし、画素電極20Bのうち、V字状のスリット21の内側には、液晶分子41の配向を制御するための窪み22が設けられている。このように複数のスリット21が設けられていることにより、上記したように、駆動電圧が印加されると電界に歪みが生じる。なお、スリット21の幅Sやその数、または画素電極20B(スリット21が設けられていない部分)の幅Lなどは任意に設定可能である。中でも、幅Sは2μm以上10μm以下であると共に、幅Lは30μm以上180μm以下であることが好ましい。
【0124】
図10(B)に示したように、対向電極30Bには、各画素内において、CF基板30の面内において斜め方向に延在する複数のスリット31が設けられている。このスリット31の形成パターン(スリット31の幅Sを含む)は、例えば、画素電極20Bに設けられているスリット21の形成パターンと同様である。これに伴い、配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に、対向電極30Bおよびスリット31を覆うように設けられている。
【0125】
画素電極20Bに設けられているスリット21と対向電極30Bに設けられているスリット31との位置関係は、特に限定されない。すなわち、スリット21,31の位置は、図9および図10に示したように、TFT基板20およびCF基板30の基板面内においてずれていてもよいし、一致していてもよい。スリット21,31が存在していれば、それらの位置関係によらず、電界に歪みが生じるからである。なお、スリット21,31の位置がずれているとは、スリット21,31同士が液晶層40を介して対向していないことを意味している。一方、スリット21,31の位置が一致しているとは、スリット21,31同士が液相層40を介して対向していることを意味している。
【0126】
中でも、図9および図10に示したように、スリット21,31の位置はずれていることが好ましい。電界に歪みが生じやすくなるため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。なお、図10(A)では、対向電極30Bに設けられているスリット31を破線で示していると共に、図10(B)では、画素電極20Bに設けられているスリット21を破線で示している。図10(A),(B)において網掛けした領域は、画素電極20B(スリット21が設けられている部分)と対向電極30B(スリット31が設けられていない部分)とが重なっている領域を表している。
【0127】
なお、スリット21,31の位置が一致している場合には、スリット21の幅Sとスリット31の幅Sとが異なっていることが好ましい。画素電極20Bおよび対向電極30Bにおける端部(エッジ)同士の位置がずれるため、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。この場合には、スリット21の幅Sがスリット31の幅Sより広くてもよいし、その逆でもよいし、両者の態様が混在していてもよい。中でも、図11に示したように、スリット21,31同士の幅Sの大小関係が交互に逆転していることが好ましい。液晶分子41に対して斜めの電場が均等に付与されやすくなるからである。
【0128】
この液晶表示素子は、図1および図2に示した画素電極20Bおよび対向電極30Bに代えて、図9および図10に示した画素電極20Bおよび対向電極30Bを用いることを除き、図1に示した液晶表示素子と同様に製造することができると共に、図7に示した液晶表示装置に適用することができる。
【0129】
この液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板20は電界に歪みを発生させる構造として複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有し、CF基板30は同様に複数のスリット31が設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板20側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向し、CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。これにより、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様に、駆動電圧に対する応答速度が向上すると共に、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0130】
特に、画素電極20Bに複数のスリット21が設けられているだけでなく、対向電極30Bにも複数のスリット31が設けられているため、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合よりも、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなる。よって、応答特性をより向上させることができる。
【0131】
ここで説明した液晶表示素子および液晶表示装置に関する上記以外の作用および効果は、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様である。
【0132】
次に、本発明の他の実施の形態および変形例を説明するが、上記第1の実施の形態と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明は省略する。
【0133】
<2.第2の実施の形態(他の液晶表示素子および液晶表示装置の例)>
[(2−1)液晶表示素子の構成等]
図12は本発明の第2の実施の形態に係る液晶表示素子の断面構成を模式的に表し、図13は図12に示した画素電極の平面構成を模式的に表している。なお、図12は図13中のXII−XII線に沿った断面に対応している。図14は図13中のXIV−XIV線に沿った断面において駆動電圧印加時における液晶層の電位分布を模式的に表している。本実施の形態では、TFT基板50に設けられた画素電極50Bの構成が異なることを除き、上記した実施の形態と同様の構成を有している。
【0134】
TFT基板50は、ガラス基板50AのCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極50Bが画素10ごとに配置されている。さらに、TFT基板50には、TFT基板20と同様に、複数の画素電極50Bをそれぞれ駆動するためのTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線およびソース線等(図示せず)が設けられている。
【0135】
画素電極50Bは、ガラス基板50A側から順に、各画素10内においてほぼ全面に設けられた導電層50B1と、所定のパターンで導電層50B1を部分的に覆うように設けられた複数の突起50B2とを有している。導電層50B1はITO等の透明性を有する導電材料により構成され、突起50B2は1種あるいは2種以上の誘電体により構成されている。これにより、駆動電圧が印加されると、導電層50B1の露出面(突起50B2に覆われていない領域)において突起50B2に覆われた領域よりも強い電界が発せられるため、画素電極50B近傍では、ガラス基板50A面と平行方向において電位の強度に不均一な分布が生じて、電界に歪みが発生する。この電界の歪みによって液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与される。
【0136】
突起50B2の形成パターンは、特に限定されるものではない。例えば、各突起50B2の幅方向の断面形状は、三角形でもよいし、矩形でもよく、断面の輪郭が丸みを帯びていてもよい。また、例えば、各突起50B2の平面形状は、直線状でもよいし、V字状でもよい。さらに、例えば、複数の突起50B2がストライプ状や、導電層50B1の中心からその表面に対して平行方向に向かって放射状に配置されていてもよい。図13では、各突起50B2は、その幅方向の断面形状が三角形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状がV字状に延在し、複数の突起50B2それぞれが離間して所定の間隔S10で配置されている。これにより、導電層50B1の露出面の長手方向が異なる4つの領域が形成されため、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向が異なる領域が形成される。すなわち、画素電極50Bによって発生される電界の歪みも、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向を規制することになる。
【0137】
突起50B2の幅L10および高さやその数、または突起50B2の間隔(導電層50B1の露出面の幅)S10などは任意に設定可能である。中でも、突起50B2の幅L10は1μm以上20μm以下であると共に、突起50B2の間隔S10は1μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、駆動電圧が印加された場合、液晶分子41全体が良好に配向するための斜め電場が付与されやすくなり、その上、突起50B2の加工が容易になるため、十分な歩留まりを確保することができる。具体的には、幅L10および間隔S10が1μmよりも狭いと、突起50B2の形成が難しくなり、十分な歩留まりを確保することが難しくなる。一方、幅L10および間隔S10が20μmよりも広いと、駆動電圧を印加した場合に画素電極50Bと対向電極30Bとの間に良好な斜め電界が生じにくくなり、液晶分子41全体の配向がわずかに乱れやすくなる。特に、幅L10が2μm以上10μm以下であると共に、間隔S10は2μm以上10μm以下であることが好ましく、幅L10および間隔S10は4μmであることがより好ましい。十分な歩留まりが確保されるうえ、駆動電圧が印加された場合の液晶分子41全体の配向がより良好になるからである。
【0138】
また、突起50B2の高さは0.2μm以上1μm以下であることが好ましい。その範囲内において、より優れた応答特性およびコントラストが得られるからである。具体的には、突起50B2の高さが0.2μm未満であると、0.2μm以上の場合と比較して、駆動電圧印加時において電界の歪みが十分に発生しにくくなり、応答特性が低下しやすくなる。また、突起50B2の高さが1μm超であると、1μm以下の場合と比較して、配向膜22の表面に大きな凹凸が生じやすくなり、液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°よりも大きくなりやすくなるため、黒表示時の光の透過量が多くなるおそれがあり、コントラストが低下しやすくなる。
【0139】
突起50B2は誘電体により構成されていてもよいが、突起50B2が誘電体として機能すれば(すなわち、絶縁性を有していれば)、誘電体以外の物質を含んでいてもよい。突起50B2に含まれる誘電体としては、例えば、無機系絶縁材料や有機系絶縁材料などが挙げられる。これらの材料は多孔質系(ポーラス系)であってもよいし、多孔質ではなくてもよい。無機系材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。酸化ケイ素(SiO2 (比誘電率≒4〜5、耐熱温度>1000℃))、フッ素含有酸化ケイ素(SiOF:FSG(比誘電率=3.4〜3.6、耐熱温度>750℃))、窒化ケイ素(Si3 N4 (比誘電率≒6))、ホウケイ酸ガラス(SiO2 −B2 O3 〜SiOB:BSG(比誘電率=3.5〜3.7))、Si−H含有酸化ケイ素(HSQ(比誘電率=2.8〜3.0または<2.0、耐熱温度≒400℃))あるいは多孔質シリカ(炭素を含む酸化ケイ素(比誘電率<3.0))などである。有機系材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。カーボン含有酸化ケイ素(SiOC(比誘電率=2.7〜2.9、耐熱温度≒700℃))、メチル基含有酸化ケイ素(MSQ(比誘電率=2.7〜2.9、耐熱温度≒700℃))あるいは多孔質メチル基含有酸化ケイ素(多孔質MSQ(比誘電率=2.4〜2.7))などの酸化ケイ素系材料や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂(比誘電率=2.0〜2.4)、ポリイミド(比誘電率=3.0〜3.5、耐熱温度≒450℃)、ポリアリルエーテル(比誘電率≒2.8、耐熱温度>400℃)あるいはパリレン系高分子(比誘電率=2.7〜3.0、耐熱温度≒400℃)などの有機ポリマー材料や、フッ素がドープされたアモルファスカーボン(比誘電率<2.5)などである。また、誘電体は、フォトレジスト材料や印刷レジスト材料であってもよい。
【0140】
より具体的な誘電体としては、以下の材料が挙げられる。カーボン含有酸化ケイ素としては、例えば、日立化成工業株式会社製のHSG−R7(非誘電率=2.8、耐熱温度=650℃)、Applied Materials,Inc社製のBlack Diamond(比誘電率=2.4〜3.0、耐熱温度=450℃)、日立開発株式会社製のp−MTES(比誘電率=3.2)、Novellus Systems,Inc社製のCORAL(比誘電率=2.4〜2.7、耐熱温度=500℃)あるいは日本エー・エス・エム株式会社製のAurora(比誘電率=2.7、耐熱温度=450℃)などが挙げられる。メチル基含有酸化ケイ素としては、例えば、東京応化工業株式会社製のOCDT−9(比誘電率=2.7、耐熱温度=600℃)、JSR株式会社製のLKD−T200(比誘電率=2.5〜2.7、耐熱温度=450℃)、Honeywell Electronic Materials社製のHOSP(比誘電率=2.5、耐熱温度=550℃)、日立化成工業株式会社製のHSG−RZ25(比誘電率=2.5、耐熱温度=650℃)、東京応化工業株式会社製のOCLT−31(比誘電率=2.3、耐熱温度=500℃)あるいはJSR株式会社製のLKD−T400(比誘電率=2.0〜2.2、耐熱温度=450℃)などが挙げられる。多孔質メチル基含有酸化ケイ素としては、例えば、日立化成工業株式会社製のHSG−6211X(比誘電率=2.4、耐熱温度=650℃)あるいはHSG−6210X(比誘電率=2.1、耐熱温度=650℃)、旭化成工業株式会社製のALCAP−S、比誘電率=1.8〜2.3、耐熱温度=450℃)、東京応化工業株式会社製のOCLT−77(比誘電率=1.9〜2.2、耐熱温度=600℃)または株式会社神戸製鋼所製のsilica aerogel(比誘電率=1.1〜1.4)などが挙げられる。有機ポリマー材料としては、例えば、The Dow Chemical Co 社製のSiLK(非誘電率=2,7、耐熱温度>490℃、絶縁破壊耐圧=4.0〜5.0MV/Vm)あるいはHoneywell Electronic Materials社製のFLARE(ポリアリルエーテル系材料、非誘電率=2.8、耐熱温度>400℃)などが挙げられる。多孔質有機系材料としては、上記の他に、Air Productsand Chemicals,Inc 社製のPolyELK(比誘電率<2、耐熱温度=490℃)なども挙げられる。
【0141】
突起50B2を構成する誘電体は、液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有しているものが好ましい。駆動電圧印加時において液晶分子41の配向がより良好になり、より優れた応答特性が得られるからである。具体的には、誘電体の誘電率が液晶分子41の誘電率ε⊥以上であると、駆動電圧印加時において液晶分子41の配向に乱れが生じやすくなる。
【0142】
また、突起50B2を構成する誘電体は、フォトレジスト材料や印刷レジスト材料であることが好ましい。製造工程を簡略化することができるからである。その上、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物を一緒に形成することができるため、より製造工程を簡略化することができる。突起50B2とスペーサ突起物とを一緒に形成する場合には、誘電体はポジ型感光性樹脂であることが望ましい。
【0143】
本実施の形態の液晶表示素子は、TFT基板50の形成方法が異なることを除き、第1の実施の形態の液晶表示素子と同様に製造することができると共に、液晶表示装置に適用することができる。
【0144】
TFT基板50を形成する場合には、まず、例えば、ガラス基板50Aの表面に、導電層50B1を例えばマトリクス状に設ける。続いて、塗布法や熱CVD(chemical vapor deposition )法あるいはプラズマCVD法などにより、導電層50B1を覆うように誘電体膜を形成する。次いで、誘電体膜上にフォトリソグラフィ法などにより所定のレジストパターンを形成したのち、そのレジストパターンをマスクとして、例えばイオンエッチングすることにより、誘電体膜を選択的に除去する。最後に、レジストパターンを除去することにより、複数の突起50B2が形成され、TFT基板50が作製される。
【0145】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の要領で画素10が選択される。選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、画素電極50Bと対向電極30Bとの間に、例えば図14に示したように電位差が生じる。詳細には、画素電極50B側では、導電層50B1から発せられた電界が複数の突起50B2によって、ガラス基板50A面に対して平行方向において電位の強度に不均一な分布が生じる。すなわち、画素電極50B側では、導電層50B1の液晶層側に設けられた突起50B2が誘電体により構成されることによって電界に歪みが発生する。この基板面に対して平行方向における画素電極50B側の電位の不均一な強度分布も、対向電極30Bが画素電極50Bと対向する領域全体に設けられているため、対向電極30B側に近づくにつれて電位の強度分布の不均一性が小さくなり、対向電極30B近傍では電位はほぼ均一に分布するようになっている。この画素電極50B側の不均一な電位の分布によって、ガラス基板50A,30Aの面内方向に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層40に印加されることになる。
【0146】
このような画素電極50Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が第1の実施の形態と同様に変化し、液晶表示素子への入射光が変調された射出光となり、その射出光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0147】
本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板50は、電界に歪みを発生させる構造として導電層50B1上に設けられた複数の突起50B2を有する画素電極50Bを備え、CF基板30は、画素電極50Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板50側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向している。CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。液晶分子41Bがプレチルトθ2を有することにより、駆動電圧に対する応答速度が向上し、液晶分子41Aがガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向していることにより、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが付与されている他の従来の液晶表示素子と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。本実施の形態における他の作用効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0148】
なお、本実施の形態では、各突起50B2は、その幅方向の断面形状が三角形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状がV字状に延在し、複数の突起50B2それぞれが離間して所定の間隔S10で配置されていたが、これに限られない。例えば、図15(A),(B)に示したように、各突起50B3は、その幅方向の断面形状が矩形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状が直線状に延在し、複数の突起50B3それぞれが離間して所定の間隔S10でストライプ状に配置されていてもよい。この場合においても、本実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、図15(A)は図12に示した液晶表示素子の変形例の断面構成を模式的に表し、図15(B)は図15(A)に示した画素電極の平面構成を模式的に表している。
【0149】
[(2−2)液晶表示素子の他の構成等]
図16は本実施の形態に係る液晶表示素子の他の構成を表しており、図12に対応する断面を示している。この液晶表示素子は、CF基板30に代えてCF基板80を備えることを除き、図12に示した液晶表示素子と同様の構成を有している。ここでは、CF基板80は、TFT基板50と同様に、ガラス基板30A側から順に導電層80B1および複数の突起80B2を有している。
【0150】
CF基板80が有する導電層80B1および複数の突起80B2は、それぞれTFT基板50が有する導電層50B1および複数の突起80B2と同様の構成を有している。これにより、上記したように、駆動電圧が印加されると電界に歪みが発生するため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与される。なお、突起80B2の形成パターンは、特に限定されないが、例えば、突起50B2の形成パターンと同様(図13に示したV字状)である。これに伴い、配向膜32は、CF基板80の液晶層40側の表面に、導電層80B1および複数の突起80B2を覆うように設けられている。
【0151】
画素電極50Bが有する複数の突起50B2と対向電極80Bが有する複数の突起80B2との位置関係は、特に限定されない。すなわち、突起50B2,80B2の位置は、TFT基板20およびCF基板30の基板面内においてずれていてもよいし、一致していてもよい。突起50B2,80B2の位置関係によらず、電界に歪みが生じるからである。
【0152】
中でも、図16に示したように、突起50B2,80B2の位置はずれていることが好ましい。上記した実施の形態においてスリット21,31の位置をずらした場合と同様に、電界に歪みが生じやすくなるため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。
【0153】
この液晶表示素子は、図12に示したCF基板30に代えて、図16に示したCF基板80を用いることを除き、図12に示した液晶表示素子と同様に製造することができると共に、図7に示した液晶表示装置に適用することができる。
【0154】
この液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板50は、電界に歪みを発生させる構造として導電層50B1上に設けられた複数の突起50B2を有する画素電極50Bを備えている。CF基板80は、TFT基板50と同様に、導電層80B1上に設けられた複数の突起80B2を有する対向電極80Bを備えている。TFT基板80側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向している。CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。これにより、画素電極50Bだけが導電層50B1および複数の突起50B2を有する場合と同様に、駆動電圧に対する応答速度が向上すると共に、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0155】
特に、画素電極50Bが導電層50B1および複数の突起50B2を有するだけでなく、対向電極80Bも導電層80B1および複数の突起80B2を有しているため、前者よりも後者において、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなる。よって、応答特性をより向上させることができる。
【0156】
ここで説明した液晶表示素子および液晶表示装置に関する上記以外の作用および効果は、画素電極50Bだけが導電層50B1および複数の突起50B2を有する場合と同様である。
【0157】
<3.変形例>
(3−1.変形例1)
上記した第1および第2の実施の形態では、液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°としたが、プレチルトθ1は、液晶分子41Bのプレチルトθ2よりも小さくなっていればよい。この場合には、液晶表示素子は、例えば以下のように製造することができる。まず、上記したステップS101において、配向膜32を形成する際に用いた配向剤料と同様の材料を用いて配向膜22を形成する。次に、液晶層40中に、例えば、紫外線吸収剤を含ませて封止する。続いて、画素電極20B(50B)と対向電極30Bとの間に所定の電圧を印加してTFT基板20(50)側から紫外線を照射して配向膜22中の配向処理前化合物を架橋させる。この際、液晶層40中に、紫外線吸収剤が含まれていることにより、TFT基板20(50)側から入射した紫外線は、液晶層40中の紫外線吸収剤に吸収され、CF基板30側にはほとんど到達しないこととなる。このため、配向膜22中において配向処理後化合物が生成される。続いて、上記の所定の電圧とは、異なる電圧を画素電極20B(50B)と対向電極30Bとの間に印加し、CF基板30側から紫外線を照射して配向膜32中の配向処理前化合物を反応させ、配向処理後化合物を形成する。これにより、TFT基板20(50)側から紫外線を照射する場合に印加する電圧と、CF基板30側から紫外線を照射する場合に印加する電圧とに応じて、配向膜22,32の近傍に位置する液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2を設定可能となる。よって、プレチルトθ1を0°よりも大きく、プレチルトθ2よりも小さくすることができる。この場合においても、プレチルト処理が施されていない場合や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して同じ大きさのプレチルトが付与されている場合や、プレチルトθ1がプレチルトθ2よりも大きい場合と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0158】
(3−2.変形例2)
また、第1および第2の実施の形態ならびに変形例1では、画素電極20B(50B)を有するTFT基板20(50)の対向基板として、カラーフィルタを有するCF基板30を用いたが、TFT基板20(50)にTFTスイッチング等と共にカラーフィルタを備えるようにし、対向基板をガラス基板30Aに対向電極30Bを設けたものとしてもよい。これにより、対向電極30Bを有する基板の形成工程が簡素化するため、製造コストを低く抑えることができる。また、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させて液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与する際に、対向電極30Bを有する基板の側から紫外線を照射すれば、CF基板30を用いた場合のカラーフィルタによる紫外線の吸収や、TFT基板20(50)の外側から紫外線を照射した場合のTFTスイッチング素子等による未照射領域の発生を抑えることができる。よって、配向膜32中における未反応の架橋性官能基を少なくすることができるため、信頼性をさらに向上させることができる。
【0159】
(3−3.変形例3)
さらに、第1および第2の実施の形態ならびに変形例1,2では、主に、ポリイミド構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物を含有する配向膜32を用いた場合について説明したが、配向処理前化合物が有する主鎖は、ポリイミド構造を含むものに限定されるものではない。例えば、主鎖が、ポリシロキサン構造、ポリアクリレート構造、ポリメタクリレート構造、マレインイミド重合体構造、スチレン重合体構造、スチレン/マレインイミド重合体構造、ポリサカライド構造またはポリビニルアルコール構造などを含んでいてもよい。中でも、ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物が好ましい。上記したポリイミド構造を含む高分子化合物と同様の効果が得られるからである。ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物としては、例えば、式(9)で表されるポリシラン構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(9)中で説明したR40およびR41は、炭素を含んで構成された1価の基であれば任意であるが、R40およびR41のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。この場合における架橋性官能基としては、上記した式(2)に示した基などが挙げられる。
【0160】
【化39】
(R40およびR41は1価の有機基である。m1は1以上の整数である。)
【実施例】
【0161】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0162】
(実施例1)
以下の手順により、図1に示した液晶表示素子を作製した。
【0163】
まず、TFT基板20およびCF基板30を用意した。TFT基板20としては、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリット21の幅10μm、線状部分20B2の幅10μmのスリットパターンを有するITOからなる画素電極20Bが形成されたものを用いた。また、CF基板30としては、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、ITOからなる対向電極30Bが形成されたものを用いた。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0164】
続いて、TFT基板20の画素電極20B側の表面に、スピンコーターを用いて垂直配向剤を含む配向材料(JSR株式会社製AL1H659)を塗布したのち、塗布膜を80℃のホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20を、窒素雰囲気下200℃のオーブンで1時間加熱した。これにより、配向膜22を形成した。
【0165】
また、配向膜32を形成した。この場合、まず、配向剤料を調製した。最初にジアミン化合物である、式(D−6)に示した架橋性官能基を有する化合物と式(F−1)に示した化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物とをモル比(式(D−6):式(F−1):式(E−1))で25:25:50となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。続いて、この溶液を60℃で6時間反応させたのち、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離したのち、純水で洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させ、これにより高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたのち、ポリアミック酸溶液を0.2μmのフィルタでろ過した。
【0166】
【化40】
【0167】
続いて、CF基板30の対向電極30B側の表面に、スピンコーターを用いて調整した配向材料を塗布したのち、塗布膜を乾燥および加熱することにより、配向膜32を形成した。この場合、塗布膜の乾燥条件および加熱条件は、配向膜22を形成する際の条件と同様にした。
【0168】
次に、CF基板30上の画素部周縁に紫外線硬化樹脂を塗布することによりシールを形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製:ε⊥=7.2,ε//=3.6)からなる液晶材料を滴下注入した。こののち、画素電極20Bと対向電極30Bとが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シールを硬化させた。続いて、120℃のオーブンで1時間加熱し、シールを完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルが完成した。
【0169】
次に、液晶セルに対して、実行値電圧20Vの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、TFT基板20の外側から波長300nmの紫外光を20mW/cm2 で照射し、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させた。これによりCF基板30上に配向処理後化合物を含む配向膜32を形成した。以上により、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2を有する図1に示した液晶表示素子が完成した。最後に、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0170】
ここで、完成した液晶表示素子についてチルト角測定装置(株式会社大塚電子製;RETS−100)を用いて、プレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0171】
(実施例2)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0172】
(比較例1)
配向膜22を形成する際に上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いると共に、配向膜32を形成する際に上記の垂直配向剤を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1±0.3°,θ2=0°であった。
【0173】
(比較例2)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1.5±0.3°,θ2=0°であった。
【0174】
(比較例3)
配向膜22を形成する際に、垂直配向剤を含む配向材料に代えて、上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0175】
(比較例4)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0176】
これらの実施例1,2および比較例1〜4の液晶表示素子について、駆動電圧に対する応答時間およびコントラストを測定した。応答時間の結果を図17、コントラストの結果を図18に示す。
【0177】
応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(4V〜7.5V)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間を測定した。
【0178】
コントラストを測定する際には、暗室内にて、液晶表示素子のTFT基板20の外側から白色光を照射し、駆動電圧無印加時および駆動電圧7.5V印加時におけるCF基板30側に射出される光の輝度を測定した。これにより、コントラスト=(駆動電圧無印加時の輝度(暗状態))/(駆動電圧7.5V印加時の輝度(明状態))を算出した。輝度を測定する際には、測定装置としてCS−2000(コニカミノルタ株式会社製)を用いた。
【0179】
図17および図18に示したように、実施例1,2では、比較例1,2と比較して、6.5V以上の駆動電圧に対する応答時間が著しく短くなり、コントラストは高くなった。また、実施例1,2では、比較例3,4と比較して駆動電圧に対する応答時間がほぼ同等であったが、コントラストは著しく高くなった。
【0180】
これらの結果は、複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有するTFT基板20と、スリットが形成されていない対向電極30B(ベタ電極)を有するCF基板30とを備えたVAモードの液晶表示素子において、以下のことを表している。すなわち、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ1,θ2が0°よりも大きい同じ角度を有する場合と比較して、非駆動状態(黒表示時)において、光の透過率を低減することができる。また、プレチルトθ1が0°よりも大きく、プレチルトθ2が0°である場合と比較して、駆動電圧印加時および黒表示時における液晶分子41全体としての配向の乱れを抑制することができる。
【0181】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ2の大きさに依存することなく、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0182】
(実施例3)
TFT基板20に代えてTFT基板50を用いたことを除き、実施例1と同様の手順により、図15に示した液晶表示素子を作製したのち、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。TFT基板50を作製する場合には、厚さ0.7mmガラス基板50Aの一面側に、マトリックス状にITOからなる導電層50B1を形成した。続いて、導電層50B1上に、誘電体であるシプレイ社製のフォトレジストS1808(誘電率=約4)を用いて、厚さ0.2μm、幅L10=4μmの突起50B3を間隔S10=4μmでストライプ状に形成した。
【0183】
この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0184】
(実施例4)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0185】
(比較例5)
配向膜22を形成する際に上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いると共に、配向膜32を形成する際に上記の垂直配向剤を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1±0.3°,θ2=0°であった。
【0186】
(比較例6)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例5と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1.5±0.3°,θ2=0°であった。
【0187】
これらの実施例3,4および比較例5,6の液晶表示素子について、7.5Vの駆動電圧を印加した際の応答時間を実施例1,2と同様に測定したところ、図19に示した結果を得た。
【0188】
図19に示したように、実施例3,4では、比較例5,6と比較して、7.5Vの駆動電圧に対する応答時間が著しく短くなった。この結果は、電界に歪みを発生させる構造として複数の突起50B3が設けられた画素電極50Bを有する液晶表示素子においても、複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有する液晶表示素子と同様の特性が得られることを表している。
【0189】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、TFT基板50側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ2の大きさに依存することなく、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0190】
(実施例5〜9)
突起50B3を構成する誘電体として表1に示した誘電率を有するものを用いたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この場合、誘電体としては、フォトレジスト材料である、JSR株式会社製LKD−T400(実施例5)、日立開発株式会社製p−MTES(実施例6)あるいはシプレイ社製S1808(実施例7)を用いた。また、無機系材料である酸化ケイ素(SiO2 )(実施例8)あるいは窒化ケイ素(Si3 N4 )(実施例9)を用いた。なお、実施例8,9では、導電層50B1上に、プラズマCVD法(SiH4 −NH3 系;実施例8)あるいは熱CVD法(SiH4 −NH3 系;実施例9)により誘電体膜を形成したのち、エッチングして実施例3と同様の突起50B3をパターン形成した。
【0191】
これらの実施例5〜9の液晶表示素子について、駆動電圧印加時の液晶の配向を評価したところ、表1に示した結果を得た。液晶の配向を評価する際には、駆動電圧を0Vから5Vおよび7Vまでゆっくり上昇させて、液晶の配向を観察し、画素内の配向不良に起因する暗線がほとんど観察されなかった場合には「AA」、その暗線がごくわずかに観察された場合には「A」、その暗線がわずかに観察された場合には「B」として評価した。
【0192】
【表1】
【0193】
表1に示したように、液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率の誘電体を用いて突起50B3を形成した実施例5〜9では、駆動電圧印加時の液晶分子41の配向が良好であった。中でも、実施例5〜8では、実施例9よりも、液晶分子41の配向が良好であった。
【0194】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、突起50B3を構成する誘電体が液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有することにより、より優れた液晶の配向性が得られることから、優れた応答特性が得られることが確認された。
【0195】
(実施例10)
以下の手順により、図9に示した液晶表示素子を作製した。
【0196】
まず、TFT基板20およびCF基板30を用意した。TFT基板20としては、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリット21の幅およびピッチがそれぞれ5μmおよび65μmであるスリットパターンを有するITOからなる画素電極20B(スリット21が設けられていない部分の幅60μm)が形成されたものを用いた。また、CF基板30としては、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、スリット31の幅およびピッチがそれぞれ5μmおよび65μmであるスリットパターンを有するITOからなる対向電極30B(スリット31が設けられていない部分の幅60μm)が形成されたものを用いた。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0197】
続いて、TFT基板20の画素電極20B側の表面に、スピンコーターを用いて垂直配向剤を含む配向材料(JSR株式会社製AL1H659)を塗布したのち、塗布膜を80℃のホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20を、窒素雰囲気下200℃のオーブンで1時間加熱した。これにより、配向膜22を形成した。
【0198】
また、配向膜32を形成した。この場合、まず、配向剤料を調製した。最初にジアミン化合物である、式(A−6)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−4)に示した垂直配向有機構造部を有する化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物と、式(F−1)に示した化合物とをモル比(式(A−6):式(B−4):式(E−2):式(F−1))で25:5:50:20となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。続いて、この溶液を60℃で6時間反応させたのち、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離したのち、純水で洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させ、これにより高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたのち(固形分濃度3重量%)、ポリアミック酸溶液を0.2μmのフィルタでろ過した。
【0199】
続いて、CF基板30の対向電極30B側の表面に、スピンコーターを用いて調整した配向材料を塗布したのち、塗布膜を乾燥および加熱することにより、配向膜32を形成した。この場合、塗布膜の乾燥条件および加熱条件は、配向膜22を形成する際の条件と同様にした。
【0200】
次に、CF基板30上の画素部周縁に紫外線硬化樹脂を塗布することによりシールを形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製:ε⊥=7.2,ε//=3.6)からなる液晶材料を滴下注入した。こののち、画素電極20Bと対向電極30Bとが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シールを硬化させた。続いて、120℃のオーブンで1時間加熱し、シールを完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルが完成した。
【0201】
次に、液晶セルに対して、実行値電圧10Vの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、TFT基板20の外側から波長365nmの紫外光を500mJで照射し、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させた。これによりCF基板30上に配向処理後化合物を含む配向膜32を形成した。以上により、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2を有する図9に示した液晶表示素子が完成した。最後に、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0202】
ここで、完成した液晶表示素子についてチルト角測定装置(株式会社大塚電子製;RETS−100)を用いて、プレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0203】
(実施例11)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を20Vにしたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0204】
(実施例12)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を30Vにしたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=2.5±0.3°であった。
【0205】
(比較例7)
配向膜22を形成する際に、垂直配向剤を含む配向材料に代えて、上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0206】
(比較例8)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を20Vにしたことを除き、比較例7と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0207】
(比較例9)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を30Vにしたことを除き、比較例7と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも2.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0208】
(実施例13〜15)
配向膜32の形成材料を変更したことを除き、実施例10〜12と同様の手順を経た。配向膜32を形成する場合には、式(A−20)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−4)に示した垂直配向有機構造部を有する化合物と、式(C−1)に示した化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物と、式(F−1)に示した化合物とをモル比(式(A−20):式(B−4):式(C−1):式(E−2):式(F−1))で15:5:10:50:20となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。これ以外の手順は、実施例10〜12と同様である。プレチルトθ1,θ2を測定したところ、実施例13ではθ1=0°,θ2=1±0.3°、実施例14ではθ1=0°,θ2=1.6±0.3°、実施例15ではθ1=0°,θ2=2.7±0.3°であった。
【0209】
(比較例10〜12)
実施例13〜15と同様の配向膜32を形成したことを除き、比較例7〜9と同様の手順を経た。プレチルトθ1,θ2を測定したところ、比較例10ではθ1=θ2=1±0.3°、比較例11ではθ1=θ2=1.6±0.3°、比較例12ではθ1=θ2=2.7±0.3°であった。
【0210】
これらの実施例10〜15および比較例7〜12の液晶表示素子について、駆動電圧に対する応答時間(立ち上がり応答時間および立ち下がり応答時間)およびコントラストを測定した。立ち上がり応答時間の結果を図21、立ち下がり応答時間の結果を図22、コントラストの結果を図23に示す。応答時間およびコントラストの測定方法は、実施例1〜9および比較例1〜6と同様である。なお、実施例1〜4および比較例1〜6において測定した応答時間は、立ち上がり応答時間と立ち下がり応答時間との和である。
【0211】
図21〜図23に示したように、実施例10〜15では、比較例7〜12と比較して、立ち上がり応答時間がほぼ維持されたまま立ち下がり応答時間が著しく短くなると共に、コントラストが高くなった。
【0212】
これらの結果は、画素電極20Bに複数のスリット21が設けられていると共に対向電極30Bに複数のスリット31が設けられている場合においても、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様の利点が得られることを表している。すなわち、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、非駆動状態(黒表示時)において光の透過率を低減することができると共に、駆動電圧印加時および黒表示時における液晶分子41全体としての配向の乱れを抑制することができる。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0213】
以上、実施の形態、その変形例および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では透過型の液晶表示素子およびそれを搭載した液晶表示装置について説明するようにしたが、本発明では必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、反射型のものとしてもよい。反射型とした場合には、画素電極がアルミニウムなどの光反射性を有する電極材料により構成される。
【符号の説明】
【0214】
1…電圧印加手段、10…画素、20,50…TFT基板、30…CF基板、20A,30A,50A…ガラス基板、20B,50B,80B…画素電極、20B1…基部、20B2…線状部分、30B…対向電極、21,31…スリット、22,32…配向膜、40…液晶層、41(41A,41B,41C)…液晶分子、50B1,80B1…導電層、50B2,50B3,80B2…突起、60…表示領域、61…ソースドライバ、62…ゲートドライバ、63…タイミングコントローラ、64…電源回路、71…ソース線、72…ゲート線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、VAモードで表示を行う液晶表示素子およびこの液晶表示素子を備えた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビやノート型パソコン、カーナビゲーション等の表示モニタとして、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)が多く用いられている。液晶ディスプレイは、そのパネル基板間での分子配列によって様々な表示モード(方式)に分類され、例えば、電圧をかけない状態での液晶分子がねじれて配向してなるTN(Twisted Nematic ;ねじれネマティック)モードがよく知られている。このTNモードでは、液晶分子が正の誘電率異方性、すなわち分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて大きい性質を有しており、基板の面に対して平行な面内において液晶分子の配向方位を順次回転させつつ、基板の面に垂直な方向に整列させた構造となっている。
【0003】
この一方で、電圧をかけない状態での液晶分子が、基板の面に対して垂直に配向してなるVA(Vertical Alignment)モードに対する注目が高まっている。垂直配向型のVAモードでは、液晶分子が負の誘電率異方性、すなわち分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて小さい性質を有しており、TNモードに比べて広視野角を実現できる。
【0004】
このようなVAモードの液晶ディスプレイでは、電圧が印加されると、基板に対して垂直に配向していた液晶分子が、負の誘電率異方性により、基板に対して平行な方向に倒れる(起き上がる)ように応答して、光を透過させる構成となっている。ところが、基板に対して垂直方向に配向した液晶分子の倒れる方向は任意であるため、電圧印加により液晶分子の配向が乱れ、電圧に対する応答特性を悪化させる要因となっていた。
【0005】
そこで、電圧に応答して倒れる方向の規制手段として、基板の対向面側に所定の構造を有するポリマーを形成し、液晶分子を基板と垂直な方向から特定の方向に傾けて配向させる(いわゆるプレチルトを付与する)技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような構成により、電圧印加時の液晶分子の倒れる方向を予め定めておくことができ、電圧に対する応答特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−177408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、駆動していない(黒表示)状態においても液晶分子が基板法線に対して僅かに傾いて配向しているので、電圧に対する応答速度が改善される一方で、黒表示の際に僅かに光を透過してしまい、コントラストが低下するという問題がある。このため、電圧に対する応答速度を良好に維持しつつ、コントラストを向上させることのできる液晶表示素子の実現が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることのできる液晶表示素子および液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶表示素子は、第1電極を有する第1基板と、負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、液晶層を介して第1基板と対向すると共に、第1電極と対向する第2電極を有する第2基板とを備え、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、第2基板の側に位置する液晶分子は、第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有し、VAモードで表示を行うものである。また、本発明の液晶表示装置は、上記した本発明の液晶表示素子と同様の素子を用いたものである。
【0010】
なお、「電界に歪みを発生させる構造」とは、両電極間に電圧が印加されると、その構造が設けられた電極の少なくとも近傍において、基板面に対して平行方向において電位強度の不均一な分布が生じることにより、歪んだ電界を発生させるもののことをいう。また、「プレチルト」とは、液晶層に対して電場を印加していない状態において、基板の法線に対する液晶分子の基準となる軸方向の角度のことをいう。
【0011】
本発明の液晶表示素子あるいは液晶表示装置では、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられている。これにより、両電極の間に駆動電圧が印加されると、第1基板側だけ、あるいは、第1および第2基板側の双方において、その基板面に対して平行方向に電位の不均一な分布が発生して電界に歪みが生じる。この結果、基板面に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層に印加されることになる。この際、液晶層では、少なくとも第2基板の側に位置する液晶分子が0°より大きなプレチルトを有するため、駆動電圧に対する液晶分子の応答速度が向上する。また、液晶層において、第1基板の側に位置する液晶分子は、第2基板の側に位置する液晶分子よりも小さなプレチルトを有するため、非駆動状態(黒表示状態)における光の透過量が低減される。
【0012】
本発明の液晶表示素子では、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられていてもよい。または、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方は、導電体層と、その導電体層の液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶表示素子あるいは液晶表示装置によれば、第1電極だけ、あるいは、第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられている。また、第2基板の側に位置する液晶分子は、第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有している。これにより、例えば、双方の基板の側に位置する液晶分子のプレチルトが0°の場合や、双方の基板の側に位置する液晶分子のプレチルトが0°よりも大きくかつ同じ大きさの場合と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る液晶表示素子の断面模式図である。
【図2】図1に示した画素電極の平面構成を表す模式図である。
【図3】液晶分子のプレチルトを説明するための模式図である。
【図4】図1に示した液晶表示素子の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】図1に示した液晶表示素子の製造方法を説明するための断面模式図である。
【図6】図5に続く工程を説明するための断面模式図である。
【図7】図1に示した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の回路構成図である。
【図8】図2のVIII−VIII線に沿った断面において液晶層に生じる電位の分布を表す模式図である。
【図9】第1の実施の形態における液晶表示素子の他の断面模式図である。
【図10】図9に示した画素電極および対向電極の平面構成を表す模式図である。
【図11】図9の他の構成例に係る液晶表示素子の断面模式図である。
【図12】第2の実施の形態に係る液晶表示素子の断面構成図である。
【図13】図12に示した画素電極の平面構成を表す模式図である。
【図14】図13のXIV−XIV線に沿った断面において液晶層に生じる電位の分布を表す模式図である。
【図15】図12の他の構成例に係る液晶表示素子の断面模式図(A)およびその画素電極の平面模式図(B)である。
【図16】第2の実施の形態における液晶表示素子の他の断面模式図である。
【図17】実施例1,2および比較例1〜4における印加電圧と応答時間との関係を表した特性図である。
【図18】実施例1,2および比較例1〜4におけるコントラストを表した特性図である。
【図19】実施例3,4および比較例5,6における応答時間を表した特性図である。
【図20】従来の液晶表示素子におけるスリット電極近傍の液晶分子の動きを説明するための斜視図である。
【図21】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧と立ち上がり応答時間との関係を表す特性図である。
【図22】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧と立ち下がり応答時間との関係を表す特性図である。
【図23】実施例10〜15および比較例7〜12における印加電圧とコントラストとの関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(VAモードの液晶表示素子および液晶表示装置の一例)
(1−1)液晶表示素子の構成
(1−2)液晶表示素子の製造方法
(1−3)液晶表示装置の構成
(1−4)液晶表示素子の他の構成等
2.第2の実施の形態(他の液晶表示素子および液晶表示装置の例)
(2−1)液晶表示素子の構成等
(2−2)液晶表示素子の他の構成等
3.変形例
【0016】
<1.第1の実施の形態(VAモードの液晶表示素子および液晶表示装置の一例)>
[(1−1)液晶表示素子の構成]
図1は本発明の第1の実施の形態に係る液晶表示素子の断面を模式的に表し、図2は図1中の画素電極の平面構成を模式的に表している。なお、図1は図2中のI−I線に沿った断面に対応している。この液晶表示素子の表示モードは垂直配向(VA)モードである。この液晶表示素子は、複数の画素10を有し、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)基板20とCF(Color Filter;カラーフィルタ)基板30との間に、配向膜22,32を介して液晶分子41を含む液晶層40が設けられたものである。この液晶表示素子はいわゆる透過型であり、図1では、駆動電圧が印加されていない非駆動状態を表している。
【0017】
TFT基板20は、ガラス基板20AのCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが画素10ごとに配置されたものである。さらに、TFT基板20には、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するためのTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線およびソース線等(図示せず)が設けられている。
【0018】
画素電極20Bは、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。図2に示したように、画素電極20Bには、各画素内において、所定のパターンで複数のスリット21(電極の形成されない部分)が液晶層40に対して印加される電界に歪みを発生させる構造として設けられている。複数のスリット21により、画素電極20Bは、基部20B1と、基部20B1と一端が接続すると共にTFT基板20の面内方向に向かって延在する複数の線状部分20B2とからなり、いわゆる魚の骨状の構造を有している。このように複数のスリット21が設けられていることにより、駆動電圧が印加されると、基部20B1および線状部分20B2からのみ電界が発せられるため、後述するようにガラス基板20A面に対して平行方向において電位の不均一な分布が発生して電界(電場)に歪みが生じる。これによって、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素10内に配向方向の異なる領域が形成(配向分割)されるため、視野角特性が向上する。すなわち、画素電極20Bによって発生される電界の歪みが、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向を規制することになる。なお、図2の画素電極20Bでは、基部20B1によって分割された4つの領域で駆動電圧印加時における液晶分子41の配向方位が異なるようになる。
【0019】
スリット21の形成パターンとしては、例えば、ストライプ状やV字状など任意であり、画素電極20Bに設けられたスリット21の幅Sやその数、または線状部分20B2の幅Lなどは任意に設定可能である。中でも、スリット21の幅Sは1μm以上20μm以下であると共に、線状部分20B2の幅Lは1μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、駆動電圧が印加された場合、液晶分子41全体が良好に配向するための斜め電場が付与されやすくなり、その上、画素電極20Bの加工が容易になるため、十分な歩留まりを確保することができる。具体的には、幅Sおよび幅Lが1μmよりも狭いと、画素電極20Bの形成が難しくなり、十分な歩留まりを確保することが難しくなる。一方、幅Sおよび幅Lが20μmよりも広いと、駆動電圧を印加した場合に画素電極20Bと対向電極30Bとの間に良好な斜め電界が生じにくくなり、液晶分子41全体の配向がわずかに乱れやすくなる。特に、幅Sが2μm以上10μm以下であると共に、幅Lは2μm以上10μm以下であることが好ましく、幅Sおよび幅Lが4μmであることがより好ましい。十分な歩留まりが確保されるうえ、駆動電圧が印加された場合の液晶分子41全体の配向がより良好になるからである。
【0020】
CF基板30は、ガラス基板30AのTFT基板20と対向する側の表面に、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のフィルタがストライプ状に設けられたカラーフィルタ(図示せず)と、有効表示領域のほぼ全面に亘って対向電極30Bとが配置されたものである。すなわち、対向電極30Bは、CF基板30の画素電極20B(スリット21の形成領域を含む)と対向する領域全体に設けられている。このため、駆動電圧が印加されると、液晶層40の対向電極30B近傍では、電位がほぼ均一に分布して発生するため、電界にほとんど歪みが生じにくくなっている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。
【0021】
配向膜22は、TFT基板20の液晶層40側の表面に画素電極20Bおよびスリット21を覆うように設けられている。配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に対向電極30Bを覆うように設けられている。これらの配向膜22,32は、液晶分子41の配向を規制するものであり、これにより液晶分子41は、全体として、その長軸方向(ダイレクタ)がガラス基板20A,30Aに対してほぼ垂直になるように配向している。
【0022】
配向膜22は、その近傍の液晶分子41(41A)を基板面に対して垂直方向に配向させるようになっている。すなわち、配向膜22は、垂直配向膜であり、垂直配向剤により構成されている。この垂直配向剤としては、例えば、ポリイミドやポリシロキサンなどの高分子化合物が挙げられ、これらの高分子化合物は、例えば、後述するように、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させるための構造(以下、垂直配向誘起構造部という)を含んでいる。なお、ここでの「垂直方向」とは、基板面に対して、わずかに傾斜した方向を含むことを排除するものではなく、基板面に対して90°の方向の他に、概ね垂直方向あるいはほぼ垂直方向という意味を含んでいる。
【0023】
配向膜32も、配向膜22と同様に液晶分子41の配向を規制するものであり、ここでは、その近傍の液晶分子41(41B)に対して0°よりも大きいプレチルトを付与する機能を有している。配向膜32は、架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基(以下、架橋性官能基等ともいう。)を有する高分子化合物がそれらの官能基を介して反応(架橋、重合あるいは感光)したもの(以下、配向処理後化合物という)の1種あるいは2種以上を含んでいる。ここで、架橋性官能基とは、架橋構造(橋かけ構造)を形成することが可能な基を意味し、より具体的には、例えば、二量化することが可能な基である。重合性官能基とは、2つ以上の官能基が逐次重合することが可能な基を意味する。感光性官能基とは、エネルギー線を吸収することが可能な基を意味し、そのエネルギー線は、例えば、紫外線、X線あるいは電子線などである。配向処理後化合物は、主鎖および側鎖を有する高分子化合物の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜32を形成したのち、液晶層40を設け、次いで電場または磁場を印加しながら側鎖に含まれる架橋性官能基等を反応(架橋等)させることにより生成されたものである。このように生成された配向処理後化合物が配向膜32中に含まれることにより、配向膜32近傍の液晶分子41(41B)に対して0°よりも大きいプレチルトを付与できるため、応答速度が向上し、表示特性が向上する。
【0024】
反応(架橋、重合あるいは感光)する前の主鎖および側鎖を有する高分子化合物、すなわち架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基を有する高分子化合物(以下、配向処理前化合物という)としては、主鎖として耐熱性が高い構造を含むものが好ましい。これにより、液晶表示素子では、高温環境下に曝されても、配向膜32中の配向処理後化合物が液晶分子41に対する配向規制能を維持するため、コントラストなどの表示特性や応答特性が良好に維持され、信頼性が確保される。このため、主鎖としては、繰り返し単位中にイミド結合を含むものが好ましい。主鎖中にイミド結合を含む配向処理前化合物としては、例えば、式(1)で表されるポリイミド構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(1)に示したポリイミド構造を含む高分子化合物では、式(1)に示したポリイミド構造のうちの1種から構成されていてもよいし、複数種がランダムに連結して含まれていてもよいし、式(1)に示した構造の他に、他の構造を含んでいてもよい。
【0025】
【化1】
(R1は4価の有機基であり、R2は2価の有機基である。n1は1以上の整数である。)
【0026】
式(1)中で説明したR1およびR2は、炭素を含んで構成された4価あるいは2価の基であれば任意であるが、R1およびR2のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基あるいは重合性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。
【0027】
また、配向処理前化合物では、側鎖は、主鎖に複数結合しており、その複数の側鎖のうちの少なくとも1つが架橋性官能基あるいは重合性官能基を含んでいれば任意である。すなわち、配向処理前化合物は、架橋性等を有する側鎖の他に、架橋性等を示さない側鎖を含んでいてもよい。架橋性官能基等を含む側鎖は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。架橋性官能基あるいは重合性官能基は、液晶層40を形成したのちに、架橋反応あるいは重合反応が可能な官能基であれば任意であり、光反応によって架橋構造等を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造等を形成する基であってもよい。中でも、光反応によって架橋構造等を形成する、光反応性の架橋性官能基等が好ましい。液晶分子41の配向を所定の方向に規制し易く、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造を容易にするからである。
【0028】
光反応性の架橋性官能基は、感光性を有する感光基であり、例えば、光二量化感光基である。この光反応性の架橋性官能基としては、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネンあるいはオリザノールのうちのいずれか1種の構造を含む基が挙げられる。これらのうち、カルコン、シンナメートあるいはシンナモイルの構造を含む基としては、例えば式(2)で表される基が挙げられる。式(2)に示した基を含む側鎖を有する配向処理前化合物が架橋すると、例えば、式(3)に示した構造が形成される。すなわち、式(2)に示した基を含む高分子化合物から生成された配向処理後化合物は、シクロブタン骨格を有する式(3)に示した構造を含む。なお、例えば、マレイミドなどの光反応性の架橋性官能基は、場合によっては、光二量化反応だけでなく、重合反応も示す。このため、配向処理後化合物について、架橋性官能基あるいは重合性官能基を有する高分子化合物が架橋等した化合物であることを説明している。
【0029】
【化2】
(R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は環構造を含む1価の基であり、R5は水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体である。)
【0030】
【化3】
(R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は環構造を含む1価の基であり、R5は水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体である。)
【0031】
式(2)中で説明したR3は、ベンゼン環などの芳香族環を含む2価の基であれば任意であり、芳香族環の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合あるいは炭化水素基を含んでいてもよい。また、式(2)中で説明したR4は、環構造を含む1価の基であれば任意であり、環構造の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、炭化水素基あるいはハロゲン基などを含んでいてもよい。R4が有する環構造としては、骨格を構成する元素として炭素を含む環であれば任意であり、その環構造としては、例えば、芳香族環、複素環あるいは脂肪族環、またはそれらの連結あるいは縮合した環構造などが挙げられる。式(2)中で説明したR5は、水素基、またはアルキル基あるいはその誘導体であれば任意である。ここでの「誘導体」とは、アルキル基が有する水素基の一部あるいは全部がハロゲン基などの置換基により置換された基のことをいう。また、R5として導入されるアルキル基としては、その炭素数は任意である。R5としては、水素基あるいはメチル基が好ましい。良好な架橋反応性が得られるからである。
【0032】
式(3)中で説明したR3同士は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは式(3)中のR4同士およびR5同士についても同様である。式(3)中のR3、R4およびR5としては、例えば、上記した式(2)中のR3、R4およびR5と同様のものが挙げられる。
【0033】
式(2)に示した基としては、例えば、式(2−1)〜式(2−31)で表される基が挙げられる。なお、式(2)に示した構造を有する基であれば、式(2−1)〜式(2−31)に示した基に限定されない。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
配向処理前化合物は、垂直配向誘起構造部を含んでいることが好ましい。配向膜32が配向処理後化合物とは別に垂直配向誘起構造部を有する化合物(いわゆる通常の垂直配向剤)を含まなくても液晶分子41全体としての配向を規制可能になるからである。その上、垂直配向誘起構造部を有する化合物を別に含む場合よりも、液晶層40に対する配向規制機能をより均一に発揮できる配向膜32が形成され易いからである。垂直配向誘起構造部は、配向処理前化合物においては、主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよく、双方に含まれていてもよい。また、配向処理前化合物が上記した式(1)に示したポリイミド構造を含む場合には、R2として垂直配向誘起構造部を含む構造(繰り返し単位)と、R2として架橋性官能基を含む構造(繰り返し単位)との2種の構造を含んでいることが好ましい。容易に入手可能であるからである。なお、垂直配向誘起構造部は、配向処理前化合物に含まれていれば、配向処理後化合物においても含まれている。
【0039】
垂直配向誘起構造部としては、例えば、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のハロゲン化アルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基、炭素数10以上のハロゲン化アルコキシ基あるいは環構造を含む有機基などが挙げられる。具体的には、垂直配向誘起構造部を含む構造としては、例えば、式(4−1)〜式(4−6)で表される構造などが挙げられる。
【0040】
【化8】
(Y1は炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。Y2〜Y15は水素基、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基であり、Y2およびY3のうちの少なくとも一方、Y4〜Y6のうちの少なくとも1つ、Y7およびY8のうちの少なくとも一方、Y9〜Y12のうちの少なくとも1つ、およびY13〜Y15のうちの少なくとも1つは、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。ただし、Y11およびY12は結合して環構造を形成してもよい。)
【0041】
また、垂直配向誘起構造部としての環構造を含む1価の有機基としては、例えば、式(5−1)〜式(5−23)で表される基などが挙げられる。垂直配向誘起構造部としての環構造を含む2価の有機基としては、例えば、式(6−1)〜式(6−7)で表される基などが挙げられる。
【0042】
【化9】
(a1〜a3は0以上21以下の整数である。)
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
(a1は0以上21以下の整数である。)
【0045】
【化12】
【0046】
なお、垂直配向誘起構造部は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配列させるように機能する構造を含んでいれば、上記した基に限定されない。
【0047】
配向処理前化合物は、架橋性官能基あるいは重合性官能基の他に、更に式(7)で表される基を有していることが好ましい。式(7)に示した基は液晶分子41に対して沿うように動くことができるため、配向処理前化合物が架橋等する際に、式(7)に示した基が液晶分子41の配向方向に沿った状態で架橋性官能基等と一緒に固定されるからである。この固定された式(7)に示した基により、液晶分子41の配向を所定の方向により規制しやすくなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0048】
−R11−R12−R13 ・・・・・・(7)
(R11は、炭素数が1以上であると共にエーテル基あるいはエステル基を含む直鎖状または分岐状の2価の有機基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。または、R11は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよびヘミケタールのうちの少なくとも1種の結合基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。R12は複数の環構造を含む2価の有機基であり、その環構造を構成する原子のうちの1つはR11に結合している。R13は水素基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシル基あるいはカーボネート基を有する1価の基またはそれらの誘導体である。)
【0049】
式(7)中のR11は、R12およびR13を主鎖に固定すると共にR12およびR13が液晶分子41に沿うように自由に動きやすくするためのスペーサ部分として機能するための部位であり、R11としては、例えば、アルキレン基などが挙げられる。このアルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R11は、カルボニル基またはカーボネート基を有していてもよい。R11の炭素数は、6以上であることがより好ましい。式(7)に示した基が液晶分子41と相互作用するため、その液晶分子41に対して沿いやすくなるからである。この炭素数は、R11の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。式(7)中のR12は、一般的なネマティック液晶分子に含まれる環構造(コア部位)に沿う部分である。R12としては、例えば、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1,6−ナフタレン基、ステロイド骨格を有する2価の基またはそれらの誘導体などのように、液晶分子に含まれる環構造と同様の基あるいは骨格が挙げられる。ここでの「誘導体」とは、上記した一連の基に1または2以上の置換基が導入された基である。式(7)中のR13は、液晶分子の末端鎖に沿う部分であり、R13としては、例えば、アルキレン基またはハロゲン化アルキレン基などが挙げられる。ただし、ハロゲン化アルキレン基では、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素基がハロゲン基に置換されていればよく、そのハロゲン基の種類は、任意である。アルキレン基またはハロゲン化アルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R13は、カルボニル基またはカーボネート基を有していてもよい。R13の炭素数は、R11と同様の理由により、6以上であることがより好ましい。
【0050】
具体的には、式(7)に示した基としては、例えば、式(7−1)〜式(7−12)で表される1価の基などが挙げられる。
【0051】
【化13】
【0052】
【化14】
【0053】
なお、式(7)に示した基は、液晶分子41に対して沿うように動くことができれば、上記した基に限定されない。
【0054】
また、上記した架橋性官能基は、式(8)で表される基でもよい。架橋する部位の他に、液晶分子41に沿う部位と自由に動くことができる部位とを有するため、架橋性官能基の液晶分子41に対して沿う部位が液晶分子41により沿った状態で固定できるからである。これにより、液晶分子41の配向を所定の方向により規制しやすくなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0055】
−R21−R22−R23−R24 ・・・・・・(8)
(R21は、炭素数が1以上20以下、好ましくは3以上12以下であると共にエーテル基あるいはエステル基を含む直鎖状または分岐状の2価の有機基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。または、R21は、エーテル、エステル、エーテルエステル、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよびヘミケタールのうちの少なくとも1種の結合基であり、配向処理前化合物あるいは配向処理後化合物の主鎖に結合している。R22はカルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、キトサン、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、エポキシおよびオキセタンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、またはエチニレン基である。R23は複数の環構造を含む2価の有機基である。R24は水素基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシル基あるいはカーボネート基を有する1価の基またはそれらの誘導体である。)
【0056】
式(8)中のR21は、自由に動くことができる構造部であり、そのR21としては、例えば、式(7)中のR11について説明した基が挙げられる。式(8)に示した基では、R21を軸としてR22〜R24が動きやすいため、R23およびR24が液晶分子41に対して沿いやすくなっている。R21の炭素数は、6以上10以下であることがより好ましい。この炭素数は、R21の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。式(8)中のR22は、架橋性官能基を有する構造部である。この架橋性官能基は、上記したように、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよい。式(8)中のR23は、液晶分子41のコア部位に対して沿うことができる構造部であり、そのR23としては、例えば、式(7)中のR12について説明した基などが挙げられる。式(8)中のR24は、液晶分子41の末端鎖に沿う部位であり、そのR24としては、例えば、式(7)中のR13について説明した基などが挙げられる。
【0057】
具体的には、式(8)に示した基としては、例えば、式(8−1)〜式(8−11)で表される1価の基などが挙げられる。
【0058】
【化15】
(nは3以上20以下の整数である。)
【0059】
【化16】
【0060】
なお、式(8)に示した基は、上記した4つの構造部(R21〜R24)を有していれば、上記した基に限定されない。
【0061】
配向処理後化合物は、未反応の架橋性官能基等を含んでいてもよいが、駆動中に反応した場合に液晶分子41の配向を乱すおそれがあるため、未反応の架橋性官能基等は、少ないほうが好ましい。配向処理後化合物が未反応の架橋性官能基等を含んでいるか否かは、例えば、液晶表示素子を解体して、配向膜32を透過型または反射型のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で分析することにより確認することができる。具体的には、まず、液晶表示素子を解体し、配向膜32の表面を有機溶媒等により洗浄する。こののち、配向膜32をFT−IRで分析することによって、例えば、式(2)中に示した架橋構造等を形成する二重結合が配向膜32中に残留していれば、その二重結合に由来する吸収スペクトルが得られることとなり、確認することができる。
【0062】
また、配向膜32は、上記した配向処理後化合物の他に、他の垂直配向剤を含んでいてもよい。他の垂直配向剤としては、垂直配向誘起構造部を有するポリイミドや、垂直配向誘起構造部を有するポリシロキサン等の配向膜22を構成する垂直配向剤と同じものなどが挙げられる。
【0063】
液晶層40は、垂直配向型の液晶分子41を含んでいる。液晶分子41は、例えば、互いに直交する長軸および短軸をそれぞれ中心軸として回転対称な形状をなし、負の誘電率異方性を示すものである。なお、誘電率異方性(Δε)は、Δε=ε//−ε⊥で求められる。ε//とは、液晶分子41の長軸方向の誘電率であり、ε⊥とは、液晶分子41の短軸方向の誘電率である。
【0064】
液晶分子41は、配向膜22との界面近傍において、配向膜22に保持された液晶分子41Aと、配向膜32との界面近傍において配向膜32に保持された液晶分子41Bと、それら以外の液晶分子41Cとに分類することができる。液晶分子41Cは、液晶層40の厚み方向における中間領域に位置し、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Cの長軸方向(ダイレクタ)がガラス基板20A,30Aに対してほぼ垂直になるように配列している。ここで駆動電圧がオンになると、液晶分子41Cのダイレクタがガラス基板20A,30Aに対して平行になるように傾いて配向する。このような挙動は、液晶分子41Cにおいて、長軸方向の誘電率ε//が短軸方向の誘電率ε⊥よりも小さいという性質を有することに起因している。液晶分子41A,41Bも同様の性質を有することから、駆動電圧のオン・オフの状態変化に応じて基本的には液晶分子41Cと同様の挙動を示す。ただし、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Aは配向膜22によって、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向と同じ方向を向いた姿勢をとる。すなわち、液晶分子41Aは配向膜22によってプレチルトθ1が0°となっている。その一方で、液晶分子41Bは、駆動電圧がオフの状態において配向膜32によって0°よりも大きなプレチルトθ2が付与される。これにより、液晶分子41Bは、画素電極20Bの中心から外側に基部20B1および線状部分20B2の延在方向に向かって、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向から傾斜した姿勢となる。なお、ここでいう「保持される」とは、配向膜22,32と液晶分子41A,41Bとが固着せずに、液晶分子41の配向を規制していることを表している。また、「プレチルトθ(θ1,θ2)」とは、図3に示したように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A〜41C)のダイレクタDの角度をいい、その角度は0°を含むものとする。
【0065】
すなわち、液晶層40では、液晶分子41Bのプレチルトθ2は液晶分子41Aのプレチルトθ1よりも大きくなっており、ここではプレチルトθ1が0°、プレチルトθ2が0°よりも大きな値を有している。これにより、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合や、プレチルトθ1が0°よりも大きく、かつプレチルトθ2が0°である場合よりも、駆動電圧の印加に対する応答速度が向上すると共に、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合とほぼ同等のコントラストが得られる。その上、プレチルトθ1,θ2の双方が0°よりも大きい角度(θ1,θ2>0°)の場合と同等の応答速度が得られる。よって、応答特性が向上しつつ、黒表示の際の光の透過量が低減するため、コントラストを向上させることができる。この場合、プレチルトθ2は、0°よりも大きく10°以下であることがより望ましい。十分な応答特性が得られると共に、コントラストがより向上するからである。中でも、プレチルトθ2は1°以上4°以下であることが好ましい。これにより、優れた応答特性が確保されると共に、特にコントラストが向上する。具体的には、プレチルトθ2が上記の範囲内であることにより、プレチルトθ2が1°未満の場合よりも、駆動電圧を印加した際の液晶分子41の応答速度(駆動状態にした際の応答速度=立ち上がりの応答速度)が速くなる。また、プレチルトθ2が4°超の場合よりも駆動電圧を印加したのち非駆動状態にした際の液晶分子41の応答速度(立ち下がりの応答速度)が速くなり、その上、黒表示の際の光の透過量がより低減する。
【0066】
[(1−2)液晶表示素子の製造方法]
次に、上記の液晶表示素子の製造方法について、図4に表したフローチャートと共に、図5,図6に表した断面模式図を参照して説明する。なお、図5,図6では、簡略化のため、画素10の一部についてのみ示す。
【0067】
最初に、TFT基板20の表面に配向膜22を形成すると共に、CF基板30の表面に配向膜32を形成する(ステップS101)。
【0068】
具体的には、まず、ガラス基板20Aの表面に、所定のスリット21のパターンが形成された画素電極20Bを例えばマトリクス状に設けることにより、TFT基板20を作製する。続いて、画素電極20Bおよびスリット21を覆うように、溶剤に溶解あるいは分散させた垂直配向剤を含む配向剤料をTFT基板20に塗布あるいは印刷したのち、加熱処理をする。これにより、塗布あるいは印刷された配向材料に含まれる溶剤が蒸発し、配向膜22が形成される。こののち、必要に応じて、ラビングなどの処理を施してもよい。
【0069】
また、カラーフィルタが形成されたガラス基板30Aのカラーフィルタ上に対向電極30Bを設けることにより、CF基板30を作製する。続いて、例えば、配向処理前化合物、または配向処理前化合物となる高分子化合物前駆体と、溶剤と、必要に応じて垂直配向剤とを混合することにより、液状の配向材料を調製する。
【0070】
高分子化合物前駆体としては、例えば、架橋性官能基あるいは重合性官能基を側鎖として有する高分子化合物が式(1)に示したポリイミド構造を含む場合には、架橋性官能基あるいは重合性官能基を有するポリアミック酸が挙げられる。高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸は、例えば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて合成される。ここで用いるジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方が架橋性官能基あるいは重合性官能基を有している。ジアミン化合物としては、例えば、式(A−1)〜式(A−21)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物としては、式(A−22)〜式(A−31)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられる。
【0071】
【化17】
【0072】
【化18】
(X1〜X4は単結合あるいは2価の有機基である。)
【0073】
【化19】
(X5〜X7は単結合あるいは2価の有機基である。)
【0074】
【化20】
【0075】
【化21】
【0076】
【化22】
【0077】
また、配向処理前化合物が垂直配向誘起構造部を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(B−1)〜式(B−36)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物や、テトラカルボン酸二無水物として式(B−37)〜式(B−39)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いてもよい。
【0078】
【化23】
【0079】
【化24】
【0080】
【化25】
(a4〜a6は0以上21以下の整数である。)
【0081】
【化26】
(a4は0以上21以下の整数である。)
【0082】
【化27】
(a4は0以上21以下の整数である。)
【0083】
【化28】
【0084】
【化29】
【0085】
また、配向処理前化合物が架橋性官能基と一緒に式(7)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(C−1)〜式(C−24)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0086】
【化30】
【0087】
【化31】
【0088】
【化32】
【0089】
【化33】
【0090】
また、配向処理前化合物が式(8)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、上記の架橋性官能基を有する化合物の代わりに、ジアミン化合物として式(D−1)〜式(D−12)で表される液晶分子41に対して沿うことができる架橋性官能基を有する化合物を用いてもよい。
【0091】
【化34】
【0092】
【化35】
(nは3以上20以下の整数である。)
【0093】
さらに、配向処理前化合物が式(1)中のR2として垂直配向誘起構造部を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(B−1)〜式(B−39)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。なお、式(E−23)中のR31およびR32は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、ハロゲン基の種類は、任意である。
【0094】
【化36】
【0095】
【化37】
【0096】
【化38】
(R31,R32はアルキル基、アルコキシル基またはハロゲン基である。)
【0097】
また、配向処理前化合物が式(1)中のR2として式(7)に示した基を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(A−1)〜式(A−21)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(C−1)〜式(C−24)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)に示したテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0098】
また、配向処理前化合物が式(1)中のR2として式(8)に示した基を含む構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合には、例えば、次のようにジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物を選択する。すなわち、式(D−1)〜式(D−12)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0099】
配向材料中における配向処理前化合物あるいは高分子化合物前駆体の含有量は、1重量%以上30重量%以下であるのが好ましく、3重量%以上10重量%以下であるのがより好ましい。また、配向材料には、必要に応じて、光重合開始剤などを混合するようにしてもよい。
【0100】
続いて、調整した配向材料を、CF基板30に対向電極30Bを覆うように塗布あるいは印刷したのち、加熱処理をする。加熱処理の温度は、80℃以上が好ましく、150℃以上200℃以下がより好ましい。また、加熱処理は、加熱温度を段階的に変化させてもよい。これにより、塗布あるいは印刷された配向材料に含まれる溶剤が蒸発し、架橋性官能基を側鎖として有する高分子化合物(配向処理前化合物)を含む配向膜32が形成される。こののち、必要に応じて、ラビングなどの処理を施してもよい。
【0101】
次に、TFT基板20とCF基板30とを配向膜22と配向膜32とが対向するように配置し、配向膜22と配向膜32との間に、液晶分子41を含む液晶層40を封止する(ステップS102)。具体的には、TFT基板20あるいはCF基板30のどちらか一方の、配向膜22,32の形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えばプラスチックビーズ等を散布すると共に、例えばスクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いて、シール部を印刷する。こののち、図5に示したように、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22,32が対向するように、スペーサ突起物およびシール部を介して貼り合わせ、液晶分子41を含む液晶材料を注入する。その後、加熱するなどしてシール部の硬化を行うことにより液晶材料をTFT基板20とCF基板30との間に封止する。図5は、配向膜22および配向膜32の間に封止された液晶層40の断面構成を表している。
【0102】
次に、図6(A)に示したように、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、電圧印加手段1を用いて、電圧V1を印加する(ステップS103)。電圧V1は、例えば、5〜40(V)の大きさで印加するようにする。これにより、ガラス基板20A,30Aの表面に対して所定の角度をなす方向の電場(電界)が生じ、液晶分子41がガラス基板20A,30Aの垂直方向から所定方向に傾いて配向することとなる。このときの電圧V1の大きさと、後述の工程で液晶分子41Bに付与されるプレチルトθ2とは、相関するため、電圧V1の大きさを適宜調節することにより、液晶分子41Bのプレチルトθ2の大きさを制御することが可能である。
【0103】
さらに、図6(B)に示したように、電圧V1を印加した状態のまま、紫外光UVを、例えばTFT基板20の外側から配向膜32に対して照射することにより配向膜32中の高分子化合物が有する架橋性官能基を反応させ、高分子化合物を架橋させる(ステップS104)。この結果、配向膜32中において配向処理後化合物が形成され、非駆動状態において、液晶層40における配向膜32との界面近傍に位置する液晶分子41Bに0°よりも大きなプレチルトθ2が付与される。紫外光UVとしては、波長300nm〜365nm程度の光成分を多く含む紫外光が好ましい。短波長域の光成分を多く含む紫外光を用いると、液晶分子41が光分解し、劣化するおそれがあるからである。なお、ここでは、紫外光UVをTFT基板20の外側から照射したが、CF基板30の外側から照射してもよく、TFT基板20およびCF基板30の双方の基板の外側から照射してもよい。この場合には、透過率が高い方の基板側から紫外光UVを照射することが好ましい。また、CF基板30の外側から紫外光UVを照射した場合には、紫外光UVの波長域によっては、カラーフィルタに吸収されて架橋反応しにくくなるおそれがあるため、TFT基板20の外側から照射するほうが好ましい。
【0104】
以上の工程により、図1に示した液晶表示素子が完成する。
【0105】
[(1−3)液晶表示装置の構成]
次に、図7を参照して、上記した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の構成について説明する。図7は、図1に示した液晶表示素子を備えた液晶表示装置の回路構成を表している。
【0106】
図7の液晶表示装置は、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する液晶表示素子を含んで構成されている。この液晶表示装置では、表示領域60の周囲において、ソースドライバ61およびゲートドライバ62と、ソースドライバ61およびゲートドライバ62を制御するタイミングコントローラ63と、ソースドライバ61およびゲートドライバ62に電力を供給する電源回路64とが設けられている。
【0107】
表示領域60は、映像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより映像を表示可能に構成された領域である。なお、図7では、複数の画素10を含む表示領域60を示しているほか、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
【0108】
表示領域60では、行方向に複数のソース線71が配列されていると共に列方向に複数のゲート線72が配列されており、それらのソース線71およびゲート線72が互いに交差する位置に画素10がそれぞれ配置されている。各画素10は、画素電極20Bおよび液晶層40と共にトランジスタ121およびキャパシタ122を含んで構成されている。各トランジスタ121では、ソース電極がソース線71に接続され、ゲート電極がゲート線72に接続され、ドレイン電極がキャパシタ122および画素電極20Bに接続されている。各ソース線71は、ソースドライバ61に接続されており、そのソースドライバ61から画像信号が供給されるようになっている。各ゲート線72は、ゲートドライバ62に接続されており、そのゲートドライバ62から走査信号が順次供給されるようになっている。
【0109】
ソースドライバ61およびゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択するものである。
【0110】
タイミングコントローラ63は、例えば、画像信号(例えば、赤、緑、青に対応するRGBの各映像信号)と、ソースドライバ61の動作を制御するためのソースドライバ制御信号とをソースドライバ61に出力する。また、タイミングコントローラ63は、例えば、ゲートドライバ62の動作を制御するためのゲートドライバ制御信号をゲートドライバ62に出力する。ソースドライバ制御信号としては、例えば、水平同期信号、スタートパルス信号あるいはソースドライバ用のクロック信号などが挙げられる。ゲートドライバ制御信号としては、例えば、垂直同期信号や、ゲートドライバ用のクロック信号などが挙げられる。
【0111】
この液晶表示装置では、以下の要領で画素電極20Bと対向電極30Bとの間に駆動電圧を印加することにより、映像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、タイミングコントローラ63からのソースドライバ制御信号の入力により、同じくタイミングコントローラ63から入力された画像信号に基づいて所定のソース線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が、タイミングコントローラ63からのゲートドライバ制御信号の入力により所定のタイミングでゲート線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたソース線71と走査信号が供給されたゲート線72との交差点に位置する画素10が選択され、その画素10に駆動電圧が印加されることとなる。
【0112】
選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、例えば図8に示したように電位差が生じる。図8は図2中のVIII−VIII線に沿った断面において駆動電圧印加時における液晶層40の電位分布を模式的に表している。詳細には、画素電極20B側では、基部20B1および線状部分20B2から電界が発せられるため、複数のスリット21によってガラス基板20A面に対して平行方向において電位(電場)の強度に不均一な分布が生じる。すなわち、画素電極20B側では、スリット21により電界に歪みが発生する。この基板面に対して平行方向における画素電極20B側の電位の不均一な強度分布は、対向電極30Bが画素電極20Bと対向する領域全体に設けられているため、対向電極30B側に近づくにつれて電位の分布の不均一性が小さくなり、対向電極30B近傍においてその分布はほぼ均一になっている。この画素電極20B側の電位の不均一な強度分布によって、ガラス基板20A,30A面に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層40に印加されることになる。
【0113】
このような画素電極20Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が変化する。具体的には、液晶層40では、図1に示した駆動電圧の印加前の状態から、駆動電圧が印加されることにより、配向膜32の近傍に位置する液晶分子41Bと共にその他の液晶分子41A,41Cが液晶分子41Bの傾き方向に倒れることとなる。その結果、液晶分子41がTFT基板20およびCF基板30に対してほぼ水平(平行)となる姿勢をとるように応答する。これにより、液晶層40の光学的特性が変化し、液晶表示素子への入射光が変調された射出光となり、その射出光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0114】
次に、本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置の作用効果について、従来の液晶表示素子および液晶表示装置と比較して説明する。
【0115】
0°よりもの大きなプレチルトを付与するための処理(以下、単にプレチルト処理という)が全く施されていない従来の液晶表示素子およびそれを備えた液晶表示装置では、上記した画素電極20Bと同様に電界の歪みによって液晶分子の配向を規制するためのスリットが設けられた電極(以下、スリット電極という)を有する基板を用いたとしても、駆動電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子は、そのダイレクタが基板の面内方向において任意の方位を向くように倒れる。
【0116】
具体的には、図20に示したように、スリット電極200近傍の液晶分子410は、スリット210近傍の液晶分子410Aと、スリット電極200の線状部分200A近傍の液晶分子410Bとに分類され、駆動電圧が印加されると、液晶分子410A,410Bはそれぞれが異なる方位に向かって倒れるものと考えられる。スリット210近傍の液晶分子410Aは、線状部分200Aのエッジ部Eから生じる斜め電界により、スリット210の幅方向(方向S1,S2)に倒れる。この際、線状部分200A近傍の液晶分子410Bは、線状部分200Aの延在方向(方向L1)に沿って倒れ、そのダイレクタが方向L1に沿った状態で配向する。こののち、方向S1,S2に倒れた液晶分子410Aは、液晶分子410Bの配向と揃うように、そのダイレクタが方向L1と平行になるように回転し、配向する。すなわち、駆動電圧が印加されると、線状部分200A近傍の液晶分子410Bは、そのダイレクタが方向L1と平行になるように倒れて配向する一方で、スリット210近傍の液晶分子410Aは、そのダイレクタが方向L1と平行になるように、ねじれて回転しながら倒れて配向する。なお、本実施の形態の液晶表示素子と同様に、画素電極をスリット電極、対向電極をスリットが形成されていない電極(以下、ベタ電極という)とした場合、対向電極側では、電界の斜め成分が少なくなるため、その近傍の液晶分子はダイレクタが任意の方位を向くように倒れたのち、スリット電極の線状部分の延在方向(図20に示したL1方向に対応する)に配向することとなる。このように駆動電圧に応答した液晶分子では、各液晶分子のダイレクタの方位がぶれた状態となり、全体としての配向に乱れが生じる。これにより、液晶分子が駆動電圧に対応した所定の配向をとるまでの応答速度が低くなるため、表示性が劣化し、その結果、応答特性を悪化させる。
【0117】
また、他の従来の液晶表示素子および液晶表示装置では、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが同じ角度で付与されている。プレチルト処理が施されていることにより、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子と比較して、駆動電圧に応答する液晶分子全体としての配向の乱れが抑制されるため、応答速度が向上する。しかしながら、この液晶表示素子では、非駆動状態(黒表示状態)においても液晶分子が基板法線に対して僅かに傾いて配向しているので、応答速度が改善される一方で、黒表示の際に僅かに光を透過してしまい、コントラストが低下する。また、この液晶表示素子の製造方法では、光重合性を有するモノマー等を含む液晶材料を用いて液晶層を形成したのち、そのモノマーを含んだ状態で、液晶層中の液晶分子を所定の配向にしながら、光照射してモノマーを重合させる。このようにして形成されたポリマーが、液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトを付与する。ところが、製造された液晶表示素子では、未反応の光重合性のモノマーが、液晶層中に残留し、信頼性を低下させる。また、未反応のモノマーを少なくするためには、光照射時間を長くする必要があり、製造にかかる時間(タクト)が長くなる。
【0118】
これに対して、本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板20は電界に歪みを発生させる構造として複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有し、CF基板30は画素電極20Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板20側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向し、CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。液晶分子41Bがプレチルトθ2を有することにより、駆動電圧に対する応答速度が向上し、液晶分子41Aがガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向していることにより、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが付与されている他の従来の液晶表示素子と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0119】
この場合、配向膜32は、架橋性官能基等を側鎖として有する高分子化合物が架橋等した配向処理後化合物を含み、この配向処理後化合物により、液晶分子41Bにプレチルトθ2を付与する。このため、上記したようにモノマーが添加された液晶材料を用いて液晶層40を形成しなくても、配向膜32が液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与することができるため、信頼性を向上させることができる。さらに、タクトが長くなることも抑制することができる。さらに、ラビング処理といった液晶分子に対するプレチルトを付与する従来の技術を用いなくても、良好に液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与できる。このため、ラビング処理の問題点である、配向膜に傷が付くラビング傷によるコントラストの低下や、ラビング時の静電気による配線の断線や、異物による信頼性の低下などが生じることもない。
【0120】
ここで、参考例として、複数のスリットが設けられた画素電極(スリット電極)を有する基板側に位置する液晶分子に0°よりも大きなプレチルトが付与され、その画素電極と対向する領域全体に設けられた対向電極(ベタ電極)を有する基板側に位置する液晶分子が基板面に対して垂直に配向している液晶表示素子について説明する。参考例の液晶表示素子では、画素電極近傍に位置する液晶分子は、0°よりも大きなプレチルトが付与されているため、駆動電圧に対する応答速度は、プレチルト処理が施されていない場合(上記した従来の液晶表示素子)と比較して速くなる。ところが、この画素電極近傍の液晶分子は、0°よりも大きなプレチルトが付与されていても、駆動電圧が印加されると図20に示した場合と同様に動作するものと考えられる。この結果、駆動電圧に応答した液晶分子では、全体としての配向に乱れが生じることになるため、十分な応答速度が得られにくくなる。この駆動電圧印加時における液晶分子全体としての配向の乱れは、特に、高い駆動電圧を印加した場合に顕著に生じる。また、参考例の液晶表示素子において、例えば上記した配向膜32の配向剤料を用いて本実施の形態と同様に画素電極近傍の液晶分子に対してプレチルト処理を施したとしても、スリット近傍と画素電極の線状部分近傍とで液晶分子の倒れる動きが異なるため、そのプレチルトの傾き方向も任意の方向になりやすくなる。これによっても、十分な応答特性が得られにくくなる上、黒表示状態における液晶分子全体の配向の乱れの要因となるため、コントラストが低下する。
【0121】
これに対して、本実施の形態では、CF基板30側に位置する液晶分子41Bに対して配向膜32がプレチルトθ2を付与している。これにより、液晶分子41Bのプレチルトθ2の傾き方向は揃いやすくなるため、参考例と比較して、駆動電圧印加時および非駆動時における液晶分子41全体としての配向の乱れが生じにくくなり、応答特性およびコントラストを向上させることができる。特に、液晶分子41Aに0°よりも大きなプレチルトを付与するよりも、液晶分子41Bにプレチルトθ2を付与したほうが、液晶分子41Bに対するアンカリング効果が強く発揮されやすくなるため、駆動電圧を印加したのち非駆動状態にした場合の液晶分子41の応答速度(立ち下がりの応答速度)も速くなる。
【0122】
[(1−4)液晶表示素子の他の構成]
図9は本実施の形態に係る液晶表示素子の他の構成を表しており、図1に対応する断面を示している。図10は図9中の画素電極(A)および対向電極(B)の主要部の平面構成を模式的に表している。なお、図9は図10(A),(B)中のIX−IX線に沿った断面に対応している。この液晶表示素子は、TFT基板20に設けられた画素電極20BおよびCF基板30に設けられた対向電極30Bの構成が異なることを除き、図1に示した液晶表示素子と同様の構成を有している。ここでは、画素電極20Bにスリット21が設けられているだけでなく、対向電極30にもスリット31が設けられている。
【0123】
図10(A)に示したように、画素電極20Bには、各画素内において、TFT基板20の面内において斜め方向(長手方向に対して傾いた方向)に延在する複数のスリット21が設けられている。複数のスリット21のうち、一部のスリット21の形成パターンはV字状であり、それ以外のスリット21は、V字状のスリット21に対して平行に配列されている。ただし、画素電極20Bのうち、V字状のスリット21の内側には、液晶分子41の配向を制御するための窪み22が設けられている。このように複数のスリット21が設けられていることにより、上記したように、駆動電圧が印加されると電界に歪みが生じる。なお、スリット21の幅Sやその数、または画素電極20B(スリット21が設けられていない部分)の幅Lなどは任意に設定可能である。中でも、幅Sは2μm以上10μm以下であると共に、幅Lは30μm以上180μm以下であることが好ましい。
【0124】
図10(B)に示したように、対向電極30Bには、各画素内において、CF基板30の面内において斜め方向に延在する複数のスリット31が設けられている。このスリット31の形成パターン(スリット31の幅Sを含む)は、例えば、画素電極20Bに設けられているスリット21の形成パターンと同様である。これに伴い、配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に、対向電極30Bおよびスリット31を覆うように設けられている。
【0125】
画素電極20Bに設けられているスリット21と対向電極30Bに設けられているスリット31との位置関係は、特に限定されない。すなわち、スリット21,31の位置は、図9および図10に示したように、TFT基板20およびCF基板30の基板面内においてずれていてもよいし、一致していてもよい。スリット21,31が存在していれば、それらの位置関係によらず、電界に歪みが生じるからである。なお、スリット21,31の位置がずれているとは、スリット21,31同士が液晶層40を介して対向していないことを意味している。一方、スリット21,31の位置が一致しているとは、スリット21,31同士が液相層40を介して対向していることを意味している。
【0126】
中でも、図9および図10に示したように、スリット21,31の位置はずれていることが好ましい。電界に歪みが生じやすくなるため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。なお、図10(A)では、対向電極30Bに設けられているスリット31を破線で示していると共に、図10(B)では、画素電極20Bに設けられているスリット21を破線で示している。図10(A),(B)において網掛けした領域は、画素電極20B(スリット21が設けられている部分)と対向電極30B(スリット31が設けられていない部分)とが重なっている領域を表している。
【0127】
なお、スリット21,31の位置が一致している場合には、スリット21の幅Sとスリット31の幅Sとが異なっていることが好ましい。画素電極20Bおよび対向電極30Bにおける端部(エッジ)同士の位置がずれるため、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。この場合には、スリット21の幅Sがスリット31の幅Sより広くてもよいし、その逆でもよいし、両者の態様が混在していてもよい。中でも、図11に示したように、スリット21,31同士の幅Sの大小関係が交互に逆転していることが好ましい。液晶分子41に対して斜めの電場が均等に付与されやすくなるからである。
【0128】
この液晶表示素子は、図1および図2に示した画素電極20Bおよび対向電極30Bに代えて、図9および図10に示した画素電極20Bおよび対向電極30Bを用いることを除き、図1に示した液晶表示素子と同様に製造することができると共に、図7に示した液晶表示装置に適用することができる。
【0129】
この液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板20は電界に歪みを発生させる構造として複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有し、CF基板30は同様に複数のスリット31が設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板20側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板20A,30Aに対して垂直方向に配向し、CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。これにより、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様に、駆動電圧に対する応答速度が向上すると共に、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0130】
特に、画素電極20Bに複数のスリット21が設けられているだけでなく、対向電極30Bにも複数のスリット31が設けられているため、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合よりも、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなる。よって、応答特性をより向上させることができる。
【0131】
ここで説明した液晶表示素子および液晶表示装置に関する上記以外の作用および効果は、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様である。
【0132】
次に、本発明の他の実施の形態および変形例を説明するが、上記第1の実施の形態と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明は省略する。
【0133】
<2.第2の実施の形態(他の液晶表示素子および液晶表示装置の例)>
[(2−1)液晶表示素子の構成等]
図12は本発明の第2の実施の形態に係る液晶表示素子の断面構成を模式的に表し、図13は図12に示した画素電極の平面構成を模式的に表している。なお、図12は図13中のXII−XII線に沿った断面に対応している。図14は図13中のXIV−XIV線に沿った断面において駆動電圧印加時における液晶層の電位分布を模式的に表している。本実施の形態では、TFT基板50に設けられた画素電極50Bの構成が異なることを除き、上記した実施の形態と同様の構成を有している。
【0134】
TFT基板50は、ガラス基板50AのCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極50Bが画素10ごとに配置されている。さらに、TFT基板50には、TFT基板20と同様に、複数の画素電極50Bをそれぞれ駆動するためのTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線およびソース線等(図示せず)が設けられている。
【0135】
画素電極50Bは、ガラス基板50A側から順に、各画素10内においてほぼ全面に設けられた導電層50B1と、所定のパターンで導電層50B1を部分的に覆うように設けられた複数の突起50B2とを有している。導電層50B1はITO等の透明性を有する導電材料により構成され、突起50B2は1種あるいは2種以上の誘電体により構成されている。これにより、駆動電圧が印加されると、導電層50B1の露出面(突起50B2に覆われていない領域)において突起50B2に覆われた領域よりも強い電界が発せられるため、画素電極50B近傍では、ガラス基板50A面と平行方向において電位の強度に不均一な分布が生じて、電界に歪みが発生する。この電界の歪みによって液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与される。
【0136】
突起50B2の形成パターンは、特に限定されるものではない。例えば、各突起50B2の幅方向の断面形状は、三角形でもよいし、矩形でもよく、断面の輪郭が丸みを帯びていてもよい。また、例えば、各突起50B2の平面形状は、直線状でもよいし、V字状でもよい。さらに、例えば、複数の突起50B2がストライプ状や、導電層50B1の中心からその表面に対して平行方向に向かって放射状に配置されていてもよい。図13では、各突起50B2は、その幅方向の断面形状が三角形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状がV字状に延在し、複数の突起50B2それぞれが離間して所定の間隔S10で配置されている。これにより、導電層50B1の露出面の長手方向が異なる4つの領域が形成されため、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向が異なる領域が形成される。すなわち、画素電極50Bによって発生される電界の歪みも、駆動電圧印加時における液晶分子41の配向を規制することになる。
【0137】
突起50B2の幅L10および高さやその数、または突起50B2の間隔(導電層50B1の露出面の幅)S10などは任意に設定可能である。中でも、突起50B2の幅L10は1μm以上20μm以下であると共に、突起50B2の間隔S10は1μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、駆動電圧が印加された場合、液晶分子41全体が良好に配向するための斜め電場が付与されやすくなり、その上、突起50B2の加工が容易になるため、十分な歩留まりを確保することができる。具体的には、幅L10および間隔S10が1μmよりも狭いと、突起50B2の形成が難しくなり、十分な歩留まりを確保することが難しくなる。一方、幅L10および間隔S10が20μmよりも広いと、駆動電圧を印加した場合に画素電極50Bと対向電極30Bとの間に良好な斜め電界が生じにくくなり、液晶分子41全体の配向がわずかに乱れやすくなる。特に、幅L10が2μm以上10μm以下であると共に、間隔S10は2μm以上10μm以下であることが好ましく、幅L10および間隔S10は4μmであることがより好ましい。十分な歩留まりが確保されるうえ、駆動電圧が印加された場合の液晶分子41全体の配向がより良好になるからである。
【0138】
また、突起50B2の高さは0.2μm以上1μm以下であることが好ましい。その範囲内において、より優れた応答特性およびコントラストが得られるからである。具体的には、突起50B2の高さが0.2μm未満であると、0.2μm以上の場合と比較して、駆動電圧印加時において電界の歪みが十分に発生しにくくなり、応答特性が低下しやすくなる。また、突起50B2の高さが1μm超であると、1μm以下の場合と比較して、配向膜22の表面に大きな凹凸が生じやすくなり、液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°よりも大きくなりやすくなるため、黒表示時の光の透過量が多くなるおそれがあり、コントラストが低下しやすくなる。
【0139】
突起50B2は誘電体により構成されていてもよいが、突起50B2が誘電体として機能すれば(すなわち、絶縁性を有していれば)、誘電体以外の物質を含んでいてもよい。突起50B2に含まれる誘電体としては、例えば、無機系絶縁材料や有機系絶縁材料などが挙げられる。これらの材料は多孔質系(ポーラス系)であってもよいし、多孔質ではなくてもよい。無機系材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。酸化ケイ素(SiO2 (比誘電率≒4〜5、耐熱温度>1000℃))、フッ素含有酸化ケイ素(SiOF:FSG(比誘電率=3.4〜3.6、耐熱温度>750℃))、窒化ケイ素(Si3 N4 (比誘電率≒6))、ホウケイ酸ガラス(SiO2 −B2 O3 〜SiOB:BSG(比誘電率=3.5〜3.7))、Si−H含有酸化ケイ素(HSQ(比誘電率=2.8〜3.0または<2.0、耐熱温度≒400℃))あるいは多孔質シリカ(炭素を含む酸化ケイ素(比誘電率<3.0))などである。有機系材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。カーボン含有酸化ケイ素(SiOC(比誘電率=2.7〜2.9、耐熱温度≒700℃))、メチル基含有酸化ケイ素(MSQ(比誘電率=2.7〜2.9、耐熱温度≒700℃))あるいは多孔質メチル基含有酸化ケイ素(多孔質MSQ(比誘電率=2.4〜2.7))などの酸化ケイ素系材料や、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂(比誘電率=2.0〜2.4)、ポリイミド(比誘電率=3.0〜3.5、耐熱温度≒450℃)、ポリアリルエーテル(比誘電率≒2.8、耐熱温度>400℃)あるいはパリレン系高分子(比誘電率=2.7〜3.0、耐熱温度≒400℃)などの有機ポリマー材料や、フッ素がドープされたアモルファスカーボン(比誘電率<2.5)などである。また、誘電体は、フォトレジスト材料や印刷レジスト材料であってもよい。
【0140】
より具体的な誘電体としては、以下の材料が挙げられる。カーボン含有酸化ケイ素としては、例えば、日立化成工業株式会社製のHSG−R7(非誘電率=2.8、耐熱温度=650℃)、Applied Materials,Inc社製のBlack Diamond(比誘電率=2.4〜3.0、耐熱温度=450℃)、日立開発株式会社製のp−MTES(比誘電率=3.2)、Novellus Systems,Inc社製のCORAL(比誘電率=2.4〜2.7、耐熱温度=500℃)あるいは日本エー・エス・エム株式会社製のAurora(比誘電率=2.7、耐熱温度=450℃)などが挙げられる。メチル基含有酸化ケイ素としては、例えば、東京応化工業株式会社製のOCDT−9(比誘電率=2.7、耐熱温度=600℃)、JSR株式会社製のLKD−T200(比誘電率=2.5〜2.7、耐熱温度=450℃)、Honeywell Electronic Materials社製のHOSP(比誘電率=2.5、耐熱温度=550℃)、日立化成工業株式会社製のHSG−RZ25(比誘電率=2.5、耐熱温度=650℃)、東京応化工業株式会社製のOCLT−31(比誘電率=2.3、耐熱温度=500℃)あるいはJSR株式会社製のLKD−T400(比誘電率=2.0〜2.2、耐熱温度=450℃)などが挙げられる。多孔質メチル基含有酸化ケイ素としては、例えば、日立化成工業株式会社製のHSG−6211X(比誘電率=2.4、耐熱温度=650℃)あるいはHSG−6210X(比誘電率=2.1、耐熱温度=650℃)、旭化成工業株式会社製のALCAP−S、比誘電率=1.8〜2.3、耐熱温度=450℃)、東京応化工業株式会社製のOCLT−77(比誘電率=1.9〜2.2、耐熱温度=600℃)または株式会社神戸製鋼所製のsilica aerogel(比誘電率=1.1〜1.4)などが挙げられる。有機ポリマー材料としては、例えば、The Dow Chemical Co 社製のSiLK(非誘電率=2,7、耐熱温度>490℃、絶縁破壊耐圧=4.0〜5.0MV/Vm)あるいはHoneywell Electronic Materials社製のFLARE(ポリアリルエーテル系材料、非誘電率=2.8、耐熱温度>400℃)などが挙げられる。多孔質有機系材料としては、上記の他に、Air Productsand Chemicals,Inc 社製のPolyELK(比誘電率<2、耐熱温度=490℃)なども挙げられる。
【0141】
突起50B2を構成する誘電体は、液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有しているものが好ましい。駆動電圧印加時において液晶分子41の配向がより良好になり、より優れた応答特性が得られるからである。具体的には、誘電体の誘電率が液晶分子41の誘電率ε⊥以上であると、駆動電圧印加時において液晶分子41の配向に乱れが生じやすくなる。
【0142】
また、突起50B2を構成する誘電体は、フォトレジスト材料や印刷レジスト材料であることが好ましい。製造工程を簡略化することができるからである。その上、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物を一緒に形成することができるため、より製造工程を簡略化することができる。突起50B2とスペーサ突起物とを一緒に形成する場合には、誘電体はポジ型感光性樹脂であることが望ましい。
【0143】
本実施の形態の液晶表示素子は、TFT基板50の形成方法が異なることを除き、第1の実施の形態の液晶表示素子と同様に製造することができると共に、液晶表示装置に適用することができる。
【0144】
TFT基板50を形成する場合には、まず、例えば、ガラス基板50Aの表面に、導電層50B1を例えばマトリクス状に設ける。続いて、塗布法や熱CVD(chemical vapor deposition )法あるいはプラズマCVD法などにより、導電層50B1を覆うように誘電体膜を形成する。次いで、誘電体膜上にフォトリソグラフィ法などにより所定のレジストパターンを形成したのち、そのレジストパターンをマスクとして、例えばイオンエッチングすることにより、誘電体膜を選択的に除去する。最後に、レジストパターンを除去することにより、複数の突起50B2が形成され、TFT基板50が作製される。
【0145】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の要領で画素10が選択される。選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、画素電極50Bと対向電極30Bとの間に、例えば図14に示したように電位差が生じる。詳細には、画素電極50B側では、導電層50B1から発せられた電界が複数の突起50B2によって、ガラス基板50A面に対して平行方向において電位の強度に不均一な分布が生じる。すなわち、画素電極50B側では、導電層50B1の液晶層側に設けられた突起50B2が誘電体により構成されることによって電界に歪みが発生する。この基板面に対して平行方向における画素電極50B側の電位の不均一な強度分布も、対向電極30Bが画素電極50Bと対向する領域全体に設けられているため、対向電極30B側に近づくにつれて電位の強度分布の不均一性が小さくなり、対向電極30B近傍では電位はほぼ均一に分布するようになっている。この画素電極50B側の不均一な電位の分布によって、ガラス基板50A,30Aの面内方向に対して斜め方向の成分を含む電場が液晶層40に印加されることになる。
【0146】
このような画素電極50Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が第1の実施の形態と同様に変化し、液晶表示素子への入射光が変調された射出光となり、その射出光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0147】
本実施の形態の液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板50は、電界に歪みを発生させる構造として導電層50B1上に設けられた複数の突起50B2を有する画素電極50Bを備え、CF基板30は、画素電極50Bと対向する領域全体に設けられた対向電極30Bを有している。TFT基板50側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向している。CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。液晶分子41Bがプレチルトθ2を有することにより、駆動電圧に対する応答速度が向上し、液晶分子41Aがガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向していることにより、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、プレチルト処理が施されていない従来の液晶表示素子や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して0°よりも大きなプレチルトが付与されている他の従来の液晶表示素子と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。本実施の形態における他の作用効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0148】
なお、本実施の形態では、各突起50B2は、その幅方向の断面形状が三角形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状がV字状に延在し、複数の突起50B2それぞれが離間して所定の間隔S10で配置されていたが、これに限られない。例えば、図15(A),(B)に示したように、各突起50B3は、その幅方向の断面形状が矩形であると共に、導電層50B1の液晶層40側の表面に平面形状が直線状に延在し、複数の突起50B3それぞれが離間して所定の間隔S10でストライプ状に配置されていてもよい。この場合においても、本実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、図15(A)は図12に示した液晶表示素子の変形例の断面構成を模式的に表し、図15(B)は図15(A)に示した画素電極の平面構成を模式的に表している。
【0149】
[(2−2)液晶表示素子の他の構成等]
図16は本実施の形態に係る液晶表示素子の他の構成を表しており、図12に対応する断面を示している。この液晶表示素子は、CF基板30に代えてCF基板80を備えることを除き、図12に示した液晶表示素子と同様の構成を有している。ここでは、CF基板80は、TFT基板50と同様に、ガラス基板30A側から順に導電層80B1および複数の突起80B2を有している。
【0150】
CF基板80が有する導電層80B1および複数の突起80B2は、それぞれTFT基板50が有する導電層50B1および複数の突起80B2と同様の構成を有している。これにより、上記したように、駆動電圧が印加されると電界に歪みが発生するため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与される。なお、突起80B2の形成パターンは、特に限定されないが、例えば、突起50B2の形成パターンと同様(図13に示したV字状)である。これに伴い、配向膜32は、CF基板80の液晶層40側の表面に、導電層80B1および複数の突起80B2を覆うように設けられている。
【0151】
画素電極50Bが有する複数の突起50B2と対向電極80Bが有する複数の突起80B2との位置関係は、特に限定されない。すなわち、突起50B2,80B2の位置は、TFT基板20およびCF基板30の基板面内においてずれていてもよいし、一致していてもよい。突起50B2,80B2の位置関係によらず、電界に歪みが生じるからである。
【0152】
中でも、図16に示したように、突起50B2,80B2の位置はずれていることが好ましい。上記した実施の形態においてスリット21,31の位置をずらした場合と同様に、電界に歪みが生じやすくなるため、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与されやすくなるからである。
【0153】
この液晶表示素子は、図12に示したCF基板30に代えて、図16に示したCF基板80を用いることを除き、図12に示した液晶表示素子と同様に製造することができると共に、図7に示した液晶表示装置に適用することができる。
【0154】
この液晶表示素子および液晶表示装置では、TFT基板50は、電界に歪みを発生させる構造として導電層50B1上に設けられた複数の突起50B2を有する画素電極50Bを備えている。CF基板80は、TFT基板50と同様に、導電層80B1上に設けられた複数の突起80B2を有する対向電極80Bを備えている。TFT基板80側に位置する液晶分子41Aは、ガラス基板50A,30Aに対して垂直方向に配向している。CF基板30側に位置する液晶分子41Bは、プレチルトθ2(θ2>0°)を有している。これにより、画素電極50Bだけが導電層50B1および複数の突起50B2を有する場合と同様に、駆動電圧に対する応答速度が向上すると共に、黒表示状態における光の透過量が低減される。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0155】
特に、画素電極50Bが導電層50B1および複数の突起50B2を有するだけでなく、対向電極80Bも導電層80B1および複数の突起80B2を有しているため、前者よりも後者において、液晶分子41に対して斜めの電場が付与されやすくなる。よって、応答特性をより向上させることができる。
【0156】
ここで説明した液晶表示素子および液晶表示装置に関する上記以外の作用および効果は、画素電極50Bだけが導電層50B1および複数の突起50B2を有する場合と同様である。
【0157】
<3.変形例>
(3−1.変形例1)
上記した第1および第2の実施の形態では、液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°としたが、プレチルトθ1は、液晶分子41Bのプレチルトθ2よりも小さくなっていればよい。この場合には、液晶表示素子は、例えば以下のように製造することができる。まず、上記したステップS101において、配向膜32を形成する際に用いた配向剤料と同様の材料を用いて配向膜22を形成する。次に、液晶層40中に、例えば、紫外線吸収剤を含ませて封止する。続いて、画素電極20B(50B)と対向電極30Bとの間に所定の電圧を印加してTFT基板20(50)側から紫外線を照射して配向膜22中の配向処理前化合物を架橋させる。この際、液晶層40中に、紫外線吸収剤が含まれていることにより、TFT基板20(50)側から入射した紫外線は、液晶層40中の紫外線吸収剤に吸収され、CF基板30側にはほとんど到達しないこととなる。このため、配向膜22中において配向処理後化合物が生成される。続いて、上記の所定の電圧とは、異なる電圧を画素電極20B(50B)と対向電極30Bとの間に印加し、CF基板30側から紫外線を照射して配向膜32中の配向処理前化合物を反応させ、配向処理後化合物を形成する。これにより、TFT基板20(50)側から紫外線を照射する場合に印加する電圧と、CF基板30側から紫外線を照射する場合に印加する電圧とに応じて、配向膜22,32の近傍に位置する液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2を設定可能となる。よって、プレチルトθ1を0°よりも大きく、プレチルトθ2よりも小さくすることができる。この場合においても、プレチルト処理が施されていない場合や、両基板の近傍に位置する液晶分子に対して同じ大きさのプレチルトが付与されている場合や、プレチルトθ1がプレチルトθ2よりも大きい場合と比較して、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができる。
【0158】
(3−2.変形例2)
また、第1および第2の実施の形態ならびに変形例1では、画素電極20B(50B)を有するTFT基板20(50)の対向基板として、カラーフィルタを有するCF基板30を用いたが、TFT基板20(50)にTFTスイッチング等と共にカラーフィルタを備えるようにし、対向基板をガラス基板30Aに対向電極30Bを設けたものとしてもよい。これにより、対向電極30Bを有する基板の形成工程が簡素化するため、製造コストを低く抑えることができる。また、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させて液晶分子41Bに対してプレチルトθ2を付与する際に、対向電極30Bを有する基板の側から紫外線を照射すれば、CF基板30を用いた場合のカラーフィルタによる紫外線の吸収や、TFT基板20(50)の外側から紫外線を照射した場合のTFTスイッチング素子等による未照射領域の発生を抑えることができる。よって、配向膜32中における未反応の架橋性官能基を少なくすることができるため、信頼性をさらに向上させることができる。
【0159】
(3−3.変形例3)
さらに、第1および第2の実施の形態ならびに変形例1,2では、主に、ポリイミド構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物を含有する配向膜32を用いた場合について説明したが、配向処理前化合物が有する主鎖は、ポリイミド構造を含むものに限定されるものではない。例えば、主鎖が、ポリシロキサン構造、ポリアクリレート構造、ポリメタクリレート構造、マレインイミド重合体構造、スチレン重合体構造、スチレン/マレインイミド重合体構造、ポリサカライド構造またはポリビニルアルコール構造などを含んでいてもよい。中でも、ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物が好ましい。上記したポリイミド構造を含む高分子化合物と同様の効果が得られるからである。ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前化合物としては、例えば、式(9)で表されるポリシラン構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(9)中で説明したR40およびR41は、炭素を含んで構成された1価の基であれば任意であるが、R40およびR41のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。この場合における架橋性官能基としては、上記した式(2)に示した基などが挙げられる。
【0160】
【化39】
(R40およびR41は1価の有機基である。m1は1以上の整数である。)
【実施例】
【0161】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0162】
(実施例1)
以下の手順により、図1に示した液晶表示素子を作製した。
【0163】
まず、TFT基板20およびCF基板30を用意した。TFT基板20としては、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリット21の幅10μm、線状部分20B2の幅10μmのスリットパターンを有するITOからなる画素電極20Bが形成されたものを用いた。また、CF基板30としては、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、ITOからなる対向電極30Bが形成されたものを用いた。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0164】
続いて、TFT基板20の画素電極20B側の表面に、スピンコーターを用いて垂直配向剤を含む配向材料(JSR株式会社製AL1H659)を塗布したのち、塗布膜を80℃のホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20を、窒素雰囲気下200℃のオーブンで1時間加熱した。これにより、配向膜22を形成した。
【0165】
また、配向膜32を形成した。この場合、まず、配向剤料を調製した。最初にジアミン化合物である、式(D−6)に示した架橋性官能基を有する化合物と式(F−1)に示した化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物とをモル比(式(D−6):式(F−1):式(E−1))で25:25:50となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。続いて、この溶液を60℃で6時間反応させたのち、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離したのち、純水で洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させ、これにより高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたのち、ポリアミック酸溶液を0.2μmのフィルタでろ過した。
【0166】
【化40】
【0167】
続いて、CF基板30の対向電極30B側の表面に、スピンコーターを用いて調整した配向材料を塗布したのち、塗布膜を乾燥および加熱することにより、配向膜32を形成した。この場合、塗布膜の乾燥条件および加熱条件は、配向膜22を形成する際の条件と同様にした。
【0168】
次に、CF基板30上の画素部周縁に紫外線硬化樹脂を塗布することによりシールを形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製:ε⊥=7.2,ε//=3.6)からなる液晶材料を滴下注入した。こののち、画素電極20Bと対向電極30Bとが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シールを硬化させた。続いて、120℃のオーブンで1時間加熱し、シールを完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルが完成した。
【0169】
次に、液晶セルに対して、実行値電圧20Vの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、TFT基板20の外側から波長300nmの紫外光を20mW/cm2 で照射し、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させた。これによりCF基板30上に配向処理後化合物を含む配向膜32を形成した。以上により、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2を有する図1に示した液晶表示素子が完成した。最後に、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0170】
ここで、完成した液晶表示素子についてチルト角測定装置(株式会社大塚電子製;RETS−100)を用いて、プレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0171】
(実施例2)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0172】
(比較例1)
配向膜22を形成する際に上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いると共に、配向膜32を形成する際に上記の垂直配向剤を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1±0.3°,θ2=0°であった。
【0173】
(比較例2)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1.5±0.3°,θ2=0°であった。
【0174】
(比較例3)
配向膜22を形成する際に、垂直配向剤を含む配向材料に代えて、上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例1と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0175】
(比較例4)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0176】
これらの実施例1,2および比較例1〜4の液晶表示素子について、駆動電圧に対する応答時間およびコントラストを測定した。応答時間の結果を図17、コントラストの結果を図18に示す。
【0177】
応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(4V〜7.5V)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間を測定した。
【0178】
コントラストを測定する際には、暗室内にて、液晶表示素子のTFT基板20の外側から白色光を照射し、駆動電圧無印加時および駆動電圧7.5V印加時におけるCF基板30側に射出される光の輝度を測定した。これにより、コントラスト=(駆動電圧無印加時の輝度(暗状態))/(駆動電圧7.5V印加時の輝度(明状態))を算出した。輝度を測定する際には、測定装置としてCS−2000(コニカミノルタ株式会社製)を用いた。
【0179】
図17および図18に示したように、実施例1,2では、比較例1,2と比較して、6.5V以上の駆動電圧に対する応答時間が著しく短くなり、コントラストは高くなった。また、実施例1,2では、比較例3,4と比較して駆動電圧に対する応答時間がほぼ同等であったが、コントラストは著しく高くなった。
【0180】
これらの結果は、複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有するTFT基板20と、スリットが形成されていない対向電極30B(ベタ電極)を有するCF基板30とを備えたVAモードの液晶表示素子において、以下のことを表している。すなわち、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ1,θ2が0°よりも大きい同じ角度を有する場合と比較して、非駆動状態(黒表示時)において、光の透過率を低減することができる。また、プレチルトθ1が0°よりも大きく、プレチルトθ2が0°である場合と比較して、駆動電圧印加時および黒表示時における液晶分子41全体としての配向の乱れを抑制することができる。
【0181】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ2の大きさに依存することなく、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0182】
(実施例3)
TFT基板20に代えてTFT基板50を用いたことを除き、実施例1と同様の手順により、図15に示した液晶表示素子を作製したのち、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。TFT基板50を作製する場合には、厚さ0.7mmガラス基板50Aの一面側に、マトリックス状にITOからなる導電層50B1を形成した。続いて、導電層50B1上に、誘電体であるシプレイ社製のフォトレジストS1808(誘電率=約4)を用いて、厚さ0.2μm、幅L10=4μmの突起50B3を間隔S10=4μmでストライプ状に形成した。
【0183】
この液晶表示素子についても実施例1と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0184】
(実施例4)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0185】
(比較例5)
配向膜22を形成する際に上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いると共に、配向膜32を形成する際に上記の垂直配向剤を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1±0.3°,θ2=0°であった。
【0186】
(比較例6)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を40Vにしたことを除き、比較例5と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例3と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=1.5±0.3°,θ2=0°であった。
【0187】
これらの実施例3,4および比較例5,6の液晶表示素子について、7.5Vの駆動電圧を印加した際の応答時間を実施例1,2と同様に測定したところ、図19に示した結果を得た。
【0188】
図19に示したように、実施例3,4では、比較例5,6と比較して、7.5Vの駆動電圧に対する応答時間が著しく短くなった。この結果は、電界に歪みを発生させる構造として複数の突起50B3が設けられた画素電極50Bを有する液晶表示素子においても、複数のスリット21が設けられた画素電極20Bを有する液晶表示素子と同様の特性が得られることを表している。
【0189】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、TFT基板50側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、プレチルトθ2の大きさに依存することなく、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0190】
(実施例5〜9)
突起50B3を構成する誘電体として表1に示した誘電率を有するものを用いたことを除き、実施例3と同様の手順を経た。この場合、誘電体としては、フォトレジスト材料である、JSR株式会社製LKD−T400(実施例5)、日立開発株式会社製p−MTES(実施例6)あるいはシプレイ社製S1808(実施例7)を用いた。また、無機系材料である酸化ケイ素(SiO2 )(実施例8)あるいは窒化ケイ素(Si3 N4 )(実施例9)を用いた。なお、実施例8,9では、導電層50B1上に、プラズマCVD法(SiH4 −NH3 系;実施例8)あるいは熱CVD法(SiH4 −NH3 系;実施例9)により誘電体膜を形成したのち、エッチングして実施例3と同様の突起50B3をパターン形成した。
【0191】
これらの実施例5〜9の液晶表示素子について、駆動電圧印加時の液晶の配向を評価したところ、表1に示した結果を得た。液晶の配向を評価する際には、駆動電圧を0Vから5Vおよび7Vまでゆっくり上昇させて、液晶の配向を観察し、画素内の配向不良に起因する暗線がほとんど観察されなかった場合には「AA」、その暗線がごくわずかに観察された場合には「A」、その暗線がわずかに観察された場合には「B」として評価した。
【0192】
【表1】
【0193】
表1に示したように、液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率の誘電体を用いて突起50B3を形成した実施例5〜9では、駆動電圧印加時の液晶分子41の配向が良好であった。中でも、実施例5〜8では、実施例9よりも、液晶分子41の配向が良好であった。
【0194】
このことから、本実施例のVAモードの液晶表示素子では、突起50B3を構成する誘電体が液晶分子41全体における誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有することにより、より優れた液晶の配向性が得られることから、優れた応答特性が得られることが確認された。
【0195】
(実施例10)
以下の手順により、図9に示した液晶表示素子を作製した。
【0196】
まず、TFT基板20およびCF基板30を用意した。TFT基板20としては、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリット21の幅およびピッチがそれぞれ5μmおよび65μmであるスリットパターンを有するITOからなる画素電極20B(スリット21が設けられていない部分の幅60μm)が形成されたものを用いた。また、CF基板30としては、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、スリット31の幅およびピッチがそれぞれ5μmおよび65μmであるスリットパターンを有するITOからなる対向電極30B(スリット31が設けられていない部分の幅60μm)が形成されたものを用いた。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0197】
続いて、TFT基板20の画素電極20B側の表面に、スピンコーターを用いて垂直配向剤を含む配向材料(JSR株式会社製AL1H659)を塗布したのち、塗布膜を80℃のホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20を、窒素雰囲気下200℃のオーブンで1時間加熱した。これにより、配向膜22を形成した。
【0198】
また、配向膜32を形成した。この場合、まず、配向剤料を調製した。最初にジアミン化合物である、式(A−6)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−4)に示した垂直配向有機構造部を有する化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物と、式(F−1)に示した化合物とをモル比(式(A−6):式(B−4):式(E−2):式(F−1))で25:5:50:20となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。続いて、この溶液を60℃で6時間反応させたのち、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離したのち、純水で洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させ、これにより高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたのち(固形分濃度3重量%)、ポリアミック酸溶液を0.2μmのフィルタでろ過した。
【0199】
続いて、CF基板30の対向電極30B側の表面に、スピンコーターを用いて調整した配向材料を塗布したのち、塗布膜を乾燥および加熱することにより、配向膜32を形成した。この場合、塗布膜の乾燥条件および加熱条件は、配向膜22を形成する際の条件と同様にした。
【0200】
次に、CF基板30上の画素部周縁に紫外線硬化樹脂を塗布することによりシールを形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製:ε⊥=7.2,ε//=3.6)からなる液晶材料を滴下注入した。こののち、画素電極20Bと対向電極30Bとが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シールを硬化させた。続いて、120℃のオーブンで1時間加熱し、シールを完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルが完成した。
【0201】
次に、液晶セルに対して、実行値電圧10Vの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、TFT基板20の外側から波長365nmの紫外光を500mJで照射し、配向膜32中の配向処理前化合物を反応させた。これによりCF基板30上に配向処理後化合物を含む配向膜32を形成した。以上により、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2を有する図9に示した液晶表示素子が完成した。最後に、液晶表示素子の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0202】
ここで、完成した液晶表示素子についてチルト角測定装置(株式会社大塚電子製;RETS−100)を用いて、プレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1±0.3°であった。
【0203】
(実施例11)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を20Vにしたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=1.5±0.3°であった。
【0204】
(実施例12)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を30Vにしたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、θ1=0°,θ2=2.5±0.3°であった。
【0205】
(比較例7)
配向膜22を形成する際に、垂直配向剤を含む配向材料に代えて、上記の架橋性官能基を有する高分子化合物前駆体を含む配向剤料を用いたことを除き、実施例10と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0206】
(比較例8)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を20Vにしたことを除き、比較例7と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも1.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0207】
(比較例9)
液晶セルに対して矩形波の交流電界を印加する際に、実行値電圧を30Vにしたことを除き、比較例7と同様の手順を経た。この液晶表示素子についても実施例10と同様にプレチルトθ1,θ2を測定したところ、いずれも2.5±0.3°(=θ1=θ2)であった。
【0208】
(実施例13〜15)
配向膜32の形成材料を変更したことを除き、実施例10〜12と同様の手順を経た。配向膜32を形成する場合には、式(A−20)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−4)に示した垂直配向有機構造部を有する化合物と、式(C−1)に示した化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物と、式(F−1)に示した化合物とをモル比(式(A−20):式(B−4):式(C−1):式(E−2):式(F−1))で15:5:10:50:20となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた。これ以外の手順は、実施例10〜12と同様である。プレチルトθ1,θ2を測定したところ、実施例13ではθ1=0°,θ2=1±0.3°、実施例14ではθ1=0°,θ2=1.6±0.3°、実施例15ではθ1=0°,θ2=2.7±0.3°であった。
【0209】
(比較例10〜12)
実施例13〜15と同様の配向膜32を形成したことを除き、比較例7〜9と同様の手順を経た。プレチルトθ1,θ2を測定したところ、比較例10ではθ1=θ2=1±0.3°、比較例11ではθ1=θ2=1.6±0.3°、比較例12ではθ1=θ2=2.7±0.3°であった。
【0210】
これらの実施例10〜15および比較例7〜12の液晶表示素子について、駆動電圧に対する応答時間(立ち上がり応答時間および立ち下がり応答時間)およびコントラストを測定した。立ち上がり応答時間の結果を図21、立ち下がり応答時間の結果を図22、コントラストの結果を図23に示す。応答時間およびコントラストの測定方法は、実施例1〜9および比較例1〜6と同様である。なお、実施例1〜4および比較例1〜6において測定した応答時間は、立ち上がり応答時間と立ち下がり応答時間との和である。
【0211】
図21〜図23に示したように、実施例10〜15では、比較例7〜12と比較して、立ち上がり応答時間がほぼ維持されたまま立ち下がり応答時間が著しく短くなると共に、コントラストが高くなった。
【0212】
これらの結果は、画素電極20Bに複数のスリット21が設けられていると共に対向電極30Bに複数のスリット31が設けられている場合においても、画素電極20Bだけに複数のスリット21が設けられている場合と同様の利点が得られることを表している。すなわち、TFT基板20側の液晶分子41Aが基板面に対して垂直配向(プレチルトθ1=0°)すると共に、CF基板30側の液晶分子41Bがプレチルトθ2(>0°)を有することにより、非駆動状態(黒表示時)において光の透過率を低減することができると共に、駆動電圧印加時および黒表示時における液晶分子41全体としての配向の乱れを抑制することができる。よって、応答特性を確保すると共にコントラストを向上させることができることが確認された。
【0213】
以上、実施の形態、その変形例および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では透過型の液晶表示素子およびそれを搭載した液晶表示装置について説明するようにしたが、本発明では必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、反射型のものとしてもよい。反射型とした場合には、画素電極がアルミニウムなどの光反射性を有する電極材料により構成される。
【符号の説明】
【0214】
1…電圧印加手段、10…画素、20,50…TFT基板、30…CF基板、20A,30A,50A…ガラス基板、20B,50B,80B…画素電極、20B1…基部、20B2…線状部分、30B…対向電極、21,31…スリット、22,32…配向膜、40…液晶層、41(41A,41B,41C)…液晶分子、50B1,80B1…導電層、50B2,50B3,80B2…突起、60…表示領域、61…ソースドライバ、62…ゲートドライバ、63…タイミングコントローラ、64…電源回路、71…ソース線、72…ゲート線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極を有する第1基板と、
負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、
前記液晶層を介して前記第1基板と対向すると共に、前記第1電極と対向する第2電極を有する第2基板と、
を備え、
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、
前記第2基板の側に位置する液晶分子は、前記第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有し、
VAモードで表示を行う、
液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられている、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記第1および第2電極の双方に複数のスリットが設けられ、
前記第1電極に設けられたスリットの位置と前記第2電極に設けられたスリットの位置とは、前記第1および第2基板の基板面内においてずれている、
請求項2記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記第1電極だけに複数のスリットが設けられ、
前記第2電極は、前記第1電極(前記スリットの形成領域を含む)と対向する領域全体に設けられている、
請求項2記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第1基板の側に位置する液晶分子は、基板面に対して垂直に配向している、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記第1基板は、前記第1電極を駆動する半導体素子と、カラーフィルタとを備える、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記第1基板および第2基板と前記液晶層との間に、一対の配向膜を有し、
前記第2基板の側の配向膜は、架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基を側鎖として有する高分子化合物がそれらの官能基を介して反応した化合物を含み、
前記反応した化合物が、前記第2基板の側に位置する液晶分子にプレチルトを付与する、
請求項5記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記高分子化合物は、主鎖の繰り返し単位中にイミド結合を含む、請求項7記載の液晶表示素子。
【請求項9】
前記高分子化合物は、液晶分子に対して垂直配向を誘起する基を有する、請求項7記載の液晶表示素子。
【請求項10】
前記第2基板の側に位置する前記液晶分子のプレチルトは、0°より大きく10°以下である、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項11】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方は、導電体層と、前記導電体層の前記液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有する、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項12】
前記第1および第2電極の双方に、前記導電体層および前記複数の突起が設けられ、
前記第1電極に設けられた突起の位置と前記第2電極に設けられた突起の位置とは、前記第1および第2基板の基板面内においてずれている、
請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項13】
前記第1電極だけに、前記導電体層および前記複数の突起が設けられ、
前記第2電極は、前記第1電極と対向する領域全体に設けられている、
請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項14】
前記複数の突起は、それぞれ離間して前記導電体層上に延在している、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項15】
前記誘電体は、前記液晶分子の誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有する、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項16】
前記第1基板の側に位置する液晶分子は、基板面に対して垂直に配向している、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項17】
前記第1基板は、前記第1電極を駆動する半導体素子と、カラーフィルタとを備える、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項18】
第1電極を有する第1基板と、負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、前記液晶層を介して前記第1基板と対向すると共に前記第1電極と対向する第2電極を有する第2基板と、を有するVAモードで表示を行う液晶表示素子を備え、
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、
前記第2基板の側に位置する液晶分子は、前記第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有する
液晶表示装置。
【請求項19】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられている、請求項18記載の液晶表示装置。
【請求項20】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方は、導電体層と、前記導電体層の前記液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有する、請求項18記載の液晶表示装置。
【請求項1】
第1電極を有する第1基板と、
負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、
前記液晶層を介して前記第1基板と対向すると共に、前記第1電極と対向する第2電極を有する第2基板と、
を備え、
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、
前記第2基板の側に位置する液晶分子は、前記第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有し、
VAモードで表示を行う、
液晶表示素子。
【請求項2】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられている、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記第1および第2電極の双方に複数のスリットが設けられ、
前記第1電極に設けられたスリットの位置と前記第2電極に設けられたスリットの位置とは、前記第1および第2基板の基板面内においてずれている、
請求項2記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記第1電極だけに複数のスリットが設けられ、
前記第2電極は、前記第1電極(前記スリットの形成領域を含む)と対向する領域全体に設けられている、
請求項2記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記第1基板の側に位置する液晶分子は、基板面に対して垂直に配向している、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記第1基板は、前記第1電極を駆動する半導体素子と、カラーフィルタとを備える、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記第1基板および第2基板と前記液晶層との間に、一対の配向膜を有し、
前記第2基板の側の配向膜は、架橋性官能基、重合性官能基あるいは感光性官能基を側鎖として有する高分子化合物がそれらの官能基を介して反応した化合物を含み、
前記反応した化合物が、前記第2基板の側に位置する液晶分子にプレチルトを付与する、
請求項5記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記高分子化合物は、主鎖の繰り返し単位中にイミド結合を含む、請求項7記載の液晶表示素子。
【請求項9】
前記高分子化合物は、液晶分子に対して垂直配向を誘起する基を有する、請求項7記載の液晶表示素子。
【請求項10】
前記第2基板の側に位置する前記液晶分子のプレチルトは、0°より大きく10°以下である、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項11】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方は、導電体層と、前記導電体層の前記液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有する、請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項12】
前記第1および第2電極の双方に、前記導電体層および前記複数の突起が設けられ、
前記第1電極に設けられた突起の位置と前記第2電極に設けられた突起の位置とは、前記第1および第2基板の基板面内においてずれている、
請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項13】
前記第1電極だけに、前記導電体層および前記複数の突起が設けられ、
前記第2電極は、前記第1電極と対向する領域全体に設けられている、
請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項14】
前記複数の突起は、それぞれ離間して前記導電体層上に延在している、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項15】
前記誘電体は、前記液晶分子の誘電率ε⊥よりも小さい誘電率を有する、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項16】
前記第1基板の側に位置する液晶分子は、基板面に対して垂直に配向している、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項17】
前記第1基板は、前記第1電極を駆動する半導体素子と、カラーフィルタとを備える、請求項11記載の液晶表示素子。
【請求項18】
第1電極を有する第1基板と、負の誘電率異方性を示す液晶分子を含む液晶層と、前記液晶層を介して前記第1基板と対向すると共に前記第1電極と対向する第2電極を有する第2基板と、を有するVAモードで表示を行う液晶表示素子を備え、
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、電界に歪みを発生させる構造が設けられ、
前記第2基板の側に位置する液晶分子は、前記第1基板の側に位置する液晶分子よりも大きなプレチルトを有する
液晶表示装置。
【請求項19】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方に、複数のスリットが設けられている、請求項18記載の液晶表示装置。
【請求項20】
前記第1電極だけ、あるいは、前記第1および第2電極の双方は、導電体層と、前記導電体層の前記液晶層側の面に設けられると共に誘電体により構成された複数の突起とを有する、請求項18記載の液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−32752(P2012−32752A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249627(P2010−249627)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]