液晶表示装置
【課題】 IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置における、黒表示時の色目の青みを低減する。
【解決手段】 IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置であって、液晶層が下記構造式1で表される化合物を含有する液晶組成物でなり、構造式1におけるmおよびnは、それぞれ、0または1であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な単結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに電子供与性基を有する液晶表示装置。
【化21】
【解決手段】 IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置であって、液晶層が下記構造式1で表される化合物を含有する液晶組成物でなり、構造式1におけるmおよびnは、それぞれ、0または1であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な単結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに電子供与性基を有する液晶表示装置。
【化21】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、IPS(In Plane Switching)方式であり、かつ、ノーマリブラックモードである液晶表示装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶テレビなどの液晶表示装置には、IPS方式と呼ばれる表示方式のものがある。IPS方式の液晶表示装置に用いられる液晶表示パネルは、第1の基板と第2の基板との間に液晶層が配置されており、当該液晶層を駆動させるための画素電極および共通電極が、ともに第1の基板側に設けられている。またこのとき、液晶層中の液晶分子は、ホモジニアス配向になっている。
【0003】
IPS方式の液晶表示装置は、他の表示方式、たとえば、TN(Twisted Nematic)方式やVA(Vertical Alignment)方式などと比べて、コントラストの視野角依存性が小さい。そのため、IPS方式の液晶表示装置は、近年、液晶テレビに限らず、たとえば、携帯電話端末の液晶ディスプレイやパーソナルコンピュータ用の液晶ディスプレイなどにも用いられるようになってきている。
【0004】
しかしながら、IPS方式の液晶表示装置は、たとえば、VA方式の液晶表示装置に比べて、正面でのコントラストが若干劣るといった問題がある(たとえば、非特許文献1を参照。)。そのため、IPS方式の液晶表示装置では、近年、コントラストを向上させるための構造や駆動方法の研究がなされている。
【0005】
IPS方式の液晶表示装置でコントラストが低下する要因の1つは、黒表示時における光漏れであり、これは液晶に由来する光散乱であるとされている(たとえば、非特許文献2を参照。)。また、非特許文献2によると、液晶に由来する光散乱は、屈折率異方性(Δn)と弾性定数(K)に依存するとされている。そして、非特許文献2によれば、IPS方式の液晶表示装置は、たとえば、液晶の屈折率異方性Δnを低くし弾性定数Kを増大させることによって、黒表示時における光漏れが低減し、コントラストの向上を図ることができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日経BP社、「フラットパネルディスプレイ2006応用技術編」、2006年、p.52−61
【非特許文献2】内海夕香他、「シンポジウム・オブ・インフォーメション・ディスプレイ2008ダイジェスト」、2008年、p.129−132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液晶の屈折率異方性Δnは、波長依存性があり、短波長ではΔnが大きくなる傾向にある(たとえば、非特許文献3:液晶便覧編集委員会編、「液晶便覧」、2000年、p.203−204を参照。)。そのため、液晶層における光散乱の強度は、長波長よりも短波長で大きくなる傾向にある。
【0008】
このように、液晶に由来する光散乱が長波長よりも短波長において大きくなることは、黒表示時において色目が青みを帯びる要因である。
【0009】
そして、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題は、IPS方式のように液晶分子がホモジニアス配向であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置における本質的な問題である。すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、任意の波長における屈折率異方性Δnを小さくし、光散乱を低減したとしても、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題が発生する。
【0010】
本発明の目的は、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置における、黒表示時の色目の青みを低減することが可能な技術を提供することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概略を説明すれば、以下の通りである。
【0013】
(1)画素電極および共通電極ならびに液晶層を有する画素がマトリクス状に配置された液晶表示パネルを有し、それぞれの前記画素は、前記画素電極と前記共通電極との電位差に応じて明るさが変化し、かつ、前記画素電極と前記共通電極とが同じ電位のときに最も暗くなる液晶表示装置であって、前記液晶表示パネルは、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された液晶層とを有し、前記液晶層は、液晶分子がホモジニアス配向をしており、かつ、下記構造式1で表される化合物を有し、下記構造式1におけるX1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであり、mおよびnは、それぞれ、0または1であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な単結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに、電子供与性基を有する液晶表示装置。
【0014】
【化1】
【0015】
(2)前記(1)の液晶表示装置において、前記電子供与性基は、メチル基、メトキシ基、アミノ基のいずれかである液晶表示装置。
【0016】
(3)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3のうちのいくつかまたは全部が、−CH2−CH2−、−CH2−O−、および−CF2−O−のいずれかであり、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基である液晶表示装置。
【0017】
(4)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3が原子を介さない直接的な結合であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基である液晶表示装置。
【0018】
(5)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、X1およびX2を水素原子としたときの分子構造主骨格における分子長軸方向および分子短軸方向の分極率をそれぞれα‖およびα⊥とし、当該分子構造主骨格に含まれる環状構造の総数をRとしたときに、下記数式1の関係が成り立つ液晶表示装置。
【0019】
【数1】
【0020】
(6)前記(1)の液晶表示装置において、前記液晶表示パネルは、赤色系の光の明るさを変化させる第1の画素と、緑色系の光の明るさを変化させる第2の画素と、青色系の光の明るさを変化させる第3の画素とを有し、前記第3の画素における前記液晶層の厚さをdbとし、前記第2の画素における前記液晶層の厚さをdgとしたときに、下記数式2の関係が成り立つ液晶表示装置。
0.9dg<db≦dg ・・・(数式2)
【0021】
(7)前記(6)の液晶表示装置において、前記第1の画素における前記液晶層の厚さをdrとしたときに、下記数式3の関係が成り立つ液晶表示装置。
dg≦dr<1.05dg ・・・(数式3)
【0022】
(8)前記(1)の液晶表示装置において、前記液晶層は、ネマチック層−等方相転移温度が70℃以上である液晶表示装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1(a)】本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。
【図1(b)】液晶表示パネルにおける1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。
【図1(c)】液晶表示パネルの平面構成の一例を示す模式平面図である。
【図1(d)】図1(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図2(a)】本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の一例を示す模式平面図である。
【図2(b)】図2(a)のB−B’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図2(c)】液晶分子の配向方向と偏光板の透過軸との関係の一例を示す模式図である。
【図3(a)】本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の別の一例を示す模式平面図である。
【図3(b)】図3(a)のC−C’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図4】本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成のさらに別の一例を説明するための模式断面図である。
【図5】本発明の原理を説明するための模式グラフ図である。
【図6】本発明による実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図7】本発明による実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図8(a)】化合物に含まれる環の数毎に調べた分極率の差分と分極率の比との関係の一例を示す模式グラフ図である。
【図8(b)】環の数と図8(a)に示した直線の傾きとの関係の一例を示す模式グラフ図である。
【図9】本発明による実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図10】本発明による実施例5の液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1(a)乃至図1(d)は、本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を説明するための模式図である。
図1(a)は、本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。図1(b)は、液晶表示パネルにおける1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。図1(c)は、液晶表示パネルの平面構成の一例を示す模式平面図である。図1(d)は、図1(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0027】
本発明は、たとえば、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置の液晶層として用いる液晶組成物に関する。本実施形態では、本発明に関わる上記の液晶表示装置の一例として、RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置を挙げる。
【0028】
本実施形態の液晶表示装置は、たとえば、図1(a)に示すように、液晶表示パネル1、第1の駆動回路2、第2の駆動回路3、バックライトの光源4、および制御回路5を有する。
【0029】
液晶表示パネル1は、アクティブマトリクス方式であり、複数の走査信号線GLおよび複数の映像信号線DLを有する。また、液晶表示パネル1の表示領域DAは、マトリクス状に配置された複数の画素からなる。このとき、1つの画素は、たとえば、図1(b)に示すように、TFT素子Tr(アクティブ素子)、画素電極PX、共通電極CT、および液晶層LCを有する。
【0030】
TFT素子Trは、ゲートが1本の走査信号線GLに接続しており、ドレインが1本の映像信号線DLに接続している。また、TFT素子Trのソースは、画素電極PXに接続している。なお、TFT素子Trのドレインとソースとは、当該TFT素子Trがオンになっている期間における映像信号線DLの電位と画素電極PXの電位との高低の関係によって変わる。
【0031】
共通電極CTは、コモン給電配線CLに接続しており、所定の電位の電圧が加わっている。
【0032】
また、液晶表示パネル1は、たとえば、図1(c)および図1(d)に示すように、第1の基板6および第2の基板7を有し、第1の基板6と第2の基板7との間に液晶層LCが配置されている。また、液晶表示パネル1は、第1の基板6、液晶層LC、および第2の基板7を挟んで配置される第1の偏光板9および第2の偏光板10を有する。
【0033】
第1の基板6は、走査信号線GL、映像信号線DL、TFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT、および第1の配向膜などを有する。第2の基板7は、ブラックマトリクスと呼ばれる遮光膜、カラーフィルタ、第2の配向膜などを有する。第1の基板6および第2の基板7の構成の具体例については、後述する。
【0034】
液晶層LCは、液晶分子をホモジニアス配向させている。このとき、液晶分子の分子長軸方向は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさによって変化する。また、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときの液晶分子の分子長軸方向は、第1の配向膜および第2の配向膜の配向方向(ラビング方向)と一致する。
【0035】
第1の偏光板9と第2の偏光板10とは、それぞれの偏光板における偏光透過軸が直交するように配置されている。このとき、第1の偏光板9は、偏光透過軸が、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときの液晶分子の分子長軸方向と一致するように配置されている。
【0036】
第1の駆動回路2は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を生成する回路であり、一般に、データドライバ、ソースドライバなどと呼ばれている。
【0037】
第2の駆動回路3は、映像信号線DLに加わっている映像信号を画素電極PXに書き込む画素を選択するための走査信号を生成する回路であり、一般に、走査ドライバ、ゲートドライバなどと呼ばれている。
【0038】
光源4は、液晶表示パネル1に照射する光を発する発光素子であり、たとえば、冷陰極蛍光管(CCFL)または発光ダイオード(LED)などが用いられる。また、光源4が発した光は、たとえば、プリズムシートや光拡散シートなどの光学シートを用いて面状光線に変換される。また、光源4が発した光を面状光線に変換するときには、光学シートの他に、導光板を用いることもある。このとき、面状光線は、通常、第1の偏光板9側から液晶表示パネル1に入射する。
【0039】
制御回路5は、第1の駆動回路2および第2の駆動回路3の動作の制御や、光源4が発する光の明るさなどを制御する回路であり、一般に、T−CON、TFTコントローラなどと呼ばれている。
【0040】
図1(a)に示したような構成の液晶表示装置は、面状光線を液晶表示パネル1に照射したときの、それぞれの画素における光の透過量(明るさ)を制御することで、映像や画像を可視化する。第1の偏光板9および液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光の透過量は、第2の偏光板10に入射する光の偏光状態によって変化する。このとき、液晶層LCを透過した後、第2の偏光板に入射する光の偏光状態は、液晶分子の分子長軸方向と液晶層LCの厚さとで決まる。液晶分子の分子長軸方向は、前述のように、画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさによって決まる。また、共通電極CTは、あらかじめ定められた電位に固定されている。したがって、画素の明るさは、画素電極PXに加える(書き込む)階調電圧の電位によって制御される。
【0041】
また、RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置(液晶表示パネル1)の場合、映像や画像の1ドットの色は、たとえば、赤色フィルタを有する第1の画素、緑色フィルタを有する第2の画素、および青色フィルタを有する第3の画素の3つの画素の明るさの組み合わせで表現する。
【0042】
図2(a)乃至図2(c)は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成の一例を説明するための模式図である。
図2(a)は、本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の一例を示す模式平面図である。図2(b)は、図2(a)のB−B’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。図2(c)は、液晶分子の配向方向と偏光板の透過軸との関係の一例を示す模式図である。
【0043】
本実施形態の液晶表示装置で用いる液晶表示パネル1は、IPS方式であり、画素電極PXおよび共通電極CTが第1の基板6に形成されている。このとき、第1の基板6は、たとえば、図2(a)および図2(b)に示すような構成になっており、ガラス基板などの第1の絶縁基板600の上(液晶層LCと対向する面)に、走査信号線GL、共通電極CT、第1の絶縁層601、TFT素子Trの半導体層602、映像信号線DL(TFT素子Trのドレイン電極を含む)、TFT素子Trのソース電極603、第2の絶縁層604、画素電極PX、および第1の配向膜605が形成されている。
【0044】
このとき、画素電極PXと共通電極CTとは、第1の絶縁層601および第2の絶縁層604を介して積層されており、液晶層LCに近い画素電極PXには、複数のスリットが設けられている。このような構成の液晶表示パネル1では、画素電極PXと共通電極CTとに電位差が生じると、図2(b)に示したような電気力線11(電界)が生成され、液晶層LCに加わる。このとき、液晶分子12は、第1の基板6から第2の基板7に向かう方向を回転軸とした回転をする。
【0045】
また、第2の基板7は、たとえば、図2(b)に示すような構成になっており、ガラス基板などの第2の絶縁基板700の上(液晶層LCと対向する面)に、ブラックマトリクス701、カラーフィルタ702、オーバーコート層703、および第2の配向膜704が形成されている。なお、第2の絶縁基板700の上には、カラーフィルタ702として、赤色系の光のみが透過する赤色フィルタ、緑色系の光のみが透過する緑色フィルタ、青色系の光のみが透過する青色フィルタの3種類のカラーフィルタが形成されている。そして、1つの画素は、赤色フィルタ、緑色フィルタ、および青色フィルタのうちのいずれか1つを有する。
【0046】
このような構成の液晶表示パネル1における画素電極PXのスリットは、たとえば、図2(c)に示すように、x方向(走査信号線GLの延在方向)に対して角度θだけ傾いた方向に延びている。このとき、スリットの幅W1、および画素電極PXのうちの隣接する2つのスリットの間を通る帯状電極部分の幅W2は、それぞれ、たとえば、5μm程度である。
【0047】
またこのとき、第1の配向膜605のラビング方向605Rおよび第2の配向膜704のラビング方向704Rは、それぞれ、x方向と一致させる。そのため、液晶分子12は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときに、分子長軸方向12Lがx方向と一致する。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、液晶分子12は、たとえば、xy面内で、その電位差の大きさに応じた角度ηだけ回転する。このとき、液晶分子12の回転方向は、画素電極PXの電位と共通電極CTの電位との高低の関係によって反転する。
【0048】
また、本実施形態の液晶表示装置は、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を0にすると黒表示になるノーマリブラック表示の液晶表示装置である。そのため、第1の偏光板9は、偏光透過軸9Tをx方向と一致させ、第2の偏光板10は、偏光透過軸10Tをy方向と一致させる。
【0049】
このとき、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0であると、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射する光の偏光状態は、第1の偏光板9を透過した光の偏光状態と同じである。そのため、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光は、第2の偏光板10で吸収される。したがって、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置は、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を0にすると、黒表示になる。
【0050】
一方、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差がある場合、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射する光の偏光状態が、第1の偏光板9を透過した光の偏光状態とは異なる状態になる。そのため、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光は、当該入射した光の偏光状態と第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの方向との関係に応じた透過率で透過する。したがって、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置は、たとえば、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を、それぞれの画素における輝度(明るさ)が最大になる電位差にすると、白表示になる。
【0051】
図3(a)および図3(b)は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成の別の一例を説明するための模式図である。
図3(a)は、本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の別の一例を示す模式平面図である。図3(b)は、図3(a)のC−C’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0052】
本実施形態の液晶表示装置は、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示であればよい。そのため、液晶表示パネル1における1つの画素の構成は、たとえば、図3(a)および図3(b)に示すような構成であってもよい。
【0053】
図3(a)および図3(b)に示した構成では、画素電極PXの平面形状が、概ねy方向に延びる幅W3の帯状電極部を2つ有する櫛歯形状である。また、共通電極CTの平面形状は、概ねy方向に延びる幅W4の帯状電極部を3つ有する櫛歯形状である。そして、画素電極PXの帯状電極部と共通電極CTの帯状電極部とは、間隔Pでx方向に交互に並んでいる。そのため、画素電極PXと共通電極CTとに電位差が生じると、図3(b)に示したような電気力線11(電界)が生成される。
【0054】
このとき、画素電極PXの帯状電極部の幅W3および共通電極CTの帯状電極部の幅W4は、それぞれ、たとえば、7μm程度である。また、画素電極PXの帯状電極部と共通電極CTの帯状電極部との間隔Pは、たとえば、10μm程度である。
【0055】
このような構成の液晶表示パネル1は、第1の配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、第1の偏光板の偏光透過軸9T、および第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの関係を、図2(c)に示した例と同じ関係にすれば、ノーマリブラック表示になる。なお、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1の場合は、たとえば、第1の配向膜配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、および第1の偏光板の偏光透過軸9Tをy方向(映像信号線DLの延在方向)と一致させる。
【0056】
また、図3(a)および図3(b)に示した構成では、液晶層LCとの距離が長いほうの共通電極CTも櫛歯形状にしている。しかしながら、共通電極CTは、これに限らず、たとえば、図2(a)に示したような平板状であってもよい。
【0057】
図4は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成のさらに別の一例を説明するための模式断面図である。
【0058】
図2(a)および図2(b)に示した構成や、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1は、共通電極CTと画素電極PXとを積層している。しかしながら、IPS方式の液晶表示装置(液晶表示パネル1)の場合、共通電極CTと画素電極PXとは、たとえば、図4に示すように、同じ層(第2の絶縁層604の上)に形成されていてもよい。このとき、共通電極CTおよび画素電極PXの平面形状は、それぞれ、たとえば、図3(a)に示したような櫛歯形状にし、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部とが、間隙Gでx方向に交互に並ぶようにする。
【0059】
このような構成の液晶表示パネル1は、第1の配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、第1の偏光板の偏光透過軸9T、および第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの関係を、図2(c)に示した例と同じ関係にすれば、ノーマリブラック表示になる。
【0060】
ところで、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示パネル1を有する液晶表示装置には、従来、たとえば、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題がある。このような問題が生じる要因としては、たとえば、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が考えられる。
【0061】
これに対し、本実施形態の液晶表示装置では、下記のような原理に基づいて調整された液晶組成物を用いることで、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくし、黒表示時の色目の青みを低減する。
【0062】
図5は、本発明の原理を説明するための模式グラフ図である。
なお、図5のグラフ図において、横軸λは、液晶層を通過する光の波長(単位はnm)である。また、図5のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。
【0063】
ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときに黒表示になる。しかしながら、液晶表示装置(液晶表示パネル1)は、その構造上、黒表示時であっても、光源4(バックライト)からの光が液晶層LCを通過する。そのため、ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、黒表示時に、液晶層LCの液晶分子12で散乱した光が第2の偏光板10を通過して漏れ出る、いわゆる光漏れが発生しやすい。特に、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶分子の分子長軸方向が光の進行方向に対して直交しているので、散乱光の光量が多く、黒表示時に漏れ出る光の光量が多くなる。
【0064】
また、液晶層LCとして用いる液晶組成物は、屈折率異方性Δnに波長依存性があり、通常、たとえば、図5に示した実線の曲線P1のように、波長λが短いほど屈折率異方性Δnが大きい。そのため、液晶層LCで起こる光散乱は、短波長の光(青色系の光)の散乱強度が、長波長の光(赤色系の光)の散乱強度よりも高くなる。したがって、黒表示時に漏れ出る散乱光は、青色系の光の割合が、緑色系の光や赤色系の光の割合よりも高くなる。その結果、従来のIPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、黒表示時に色目が青みを帯び、コントラストが低下するという問題がある。
【0065】
IPS方式の液晶表示装置のコントラストを向上させる方法としては、たとえば、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくし、弾性定数Kを大きくすることで光漏れ、すなわち液晶層LCで生じる光散乱の強度を低くする方法が提案されている。
【0066】
しかしながら、IPS方式の液晶表示装置において黒表示時に色目が青みを帯びるのは、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性、言い換えると、可視光領域における屈折率異方性の幅が関係している。すなわち、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくしても、その波長依存性が、たとえば、図5に示した実線の曲線P1の波長依存性(可視光領域における屈折率異方性の幅Q1)と同等であれば、黒表示時における色目の青みの度合いはほとんど変わらない。そのため、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするだけでは、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題を解決することが難しいと考えられる。
【0067】
したがって、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置における上記の問題を解決するためには、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするとともに、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を、たとえば、図5に示した破線の曲線P2のようにすることが望まれる。屈折率異方性Δnの波長依存性が破線の曲線P2のような液晶層LCは、可視光領域における屈折率異方性の幅がQ2であり、屈折率異方性Δnの波長依存性が実線の曲線P1である液晶層LCの幅Q1に比べて小さい。そのため、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が破線の曲線P2のようになるIPS方式の液晶表示装置は、黒表示時に漏れ出る散乱光における青色系の光の割合と緑色系の光や赤色系の光の割合との差が小さくなり、黒表示時の色目の青みが低減する。
【0068】
液晶層LCの屈折率異方性Δnは、液晶層LCとして用いる液晶組成物に含まれる液晶分子の分子長軸方向の屈折率n‖と分子短軸方向の屈折率n⊥との差分(n‖−n⊥)である。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするには、たとえば、液晶分子の分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすればよい。
【0069】
一般的な透光性の材料では、屈折率nが大きくなると、その分散、すなわち波長依存性が大きくなるといわれている(たとえば、非特許文献4:日本化学会編、「透明ポリマーの屈折率制御」、1998年、p.7−8を参照。)。そのため、液晶層LCにおける分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、屈折率n⊥の波長依存性は、相対的に大きくなる。
【0070】
しかしながら、このとき、当該液晶層LCにおける分子長軸方向の屈折率n‖が変わらなければ、屈折率n‖の波長依存性は変わらない。そのため、分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、その差分である屈折率異方性Δnの波長依存性は、相対的に小さくなる。このことから、液晶層LCは、分子長軸方向の屈折率n‖と比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなるようにすると、屈折率異方性Δnの波長依存性を相対的に小さくすることができると考えられる。
【0071】
また、非特許文献4によると、屈折率nは、下記数式4の関係が成り立つ。
(n2−1)/(n2+2)=4/3πNα (数式4)
【0072】
なお、数式4において、Nは1cm3あたりの分子の数であり、αは分極率である。
【0073】
数式4から明らかなように、屈折率nは、分極率αに依存しており、分極率αが大きくなると、屈折率nも大きくなる。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を低減するためには、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなるようにすればよいことになる。
【0074】
本願発明者らは、上記の点をふまえ、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さく、かつ、液晶表示装置の表示特性を損なうことがない液晶層LCの構成について検討した。その結果、本願発明者らは、液晶層LCとして用いる液晶組成物に、下記構造式1で表される化合物を含有させるとよいことを見出した。
【0075】
【化2】
【0076】
なお、構造式1において、X1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかである。また、構造式1において、mおよびnは、それぞれ、0または1である。また、構造式1において、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合、または−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式1において、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環である。
【0077】
また、構造式1で表される化合物は、mおよびnの組み合わせにより、環の数が変わるが、いずれの化合物においても、1つ以上の環が電子供与性基を有する構造にすることが望ましい。すなわち、構造式1で表される化合物の具体的な構造としては、たとえば、下記構造式2乃至構造式7のような構造が挙げられる。
【0078】
【化3】
【0079】
なお、構造式2乃至構造式7において、X1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基である。また、構造式2乃至構造式7において、A、A1、A2、A3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合か、または−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式2乃至構造式7におけるA、A1、A2、A3が原子を介さない直接的な結合の場合、B1、B2、B3、B4は、少なくともいずれか1つがメチル基、メトキシ基、アミノ基から選ばれる電子供与性を有する置換基である。また、構造式2乃至構造式7におけるA、A1、A2、A3が−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基の場合、B1、B2、B3、B4は、水素原子もしくはメチル基、メトキシ基、アミノ基から選ばれる電子供与性を有する置換基である。
【0080】
また、B1、B2、B3、B4が、水素原子以外の置換基である場合、当該置換基は、1つのベンゼン環に2つ以上であってもよい。すなわち、構造式2における置換基B1がメチル基(Me)の場合、当該メチル基が結合しているベンゼン環は、たとえば、下記構造式8a乃至構造式8fの、どの構造であってもよい。
【0081】
【化4】
【0082】
なお、構造式8a乃至構造式8fにおける*は、それぞれ、構造式2におけるA、X2である。また、構造式8a乃至構造式8fのような構造は、構造式2におけるB1に限らず、構造式2におけるB2や、構造式3乃至構造式7におけるB1、B2、B3、B4にも当てはまる。また、構造式8a乃至構造式8fのような構造は、電子供与性基がメチル基である場合に限らず、たとえば、電子供与性基がメトキシ基、アミノ基などの場合にも当てはまる。
【0083】
また、電子供与性基B1、B2、B3、B4は、たとえば、水素原子であってもよい。また、構造式1で表される化合物は、前述のように、当該化合物が有する環のうちの1つ以上の環に、電子供与性を有する置換基があればよい。したがって、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式9a乃至構造式9fが挙げられる。
【0084】
【化5】
【0085】
なお、構造式9a乃至構造式9fにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは、電子供与性を有する置換基である。
【0086】
また、構造式9a乃至構造式9cにおいて、Aは、それぞれ、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式9d乃至構造式9fは、それぞれ、構造式9a乃至構造式9cにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造であり、B1、B2、およびB3のいずれか1つは電子供与性を有する置換基である。
【0087】
また、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,1)または(m,n)=(1,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式10a乃至構造式10gや、構造式11a乃至構造式11gのような構造が挙げられる。
【0088】
【化6】
【0089】
【化7】
【0090】
なお、構造式10a乃至構造式10gにおいて、Aは、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式10a乃至構造式10gにおいて、B1、B2、およびB3は、それぞれ、水素原子もしくは電子供与性を有する置換基である。
【0091】
また、構造式11a乃至構造式11gは、それぞれ、構造式10a乃至構造式10gにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造である。この、構造式11a乃至構造式11gにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは電子供与性基であるが、少なくとも1つは電子供与性を有する置換基である。
【0092】
また、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,1)または(m,n)=(1,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式12a乃至構造式12eや、構造式13a乃至構造式13eのような構造が挙げられる。
【0093】
【化8】
【0094】
【化9】
【0095】
なお、構造式12a乃至構造式12eにおいて、Aは、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式12a乃至構造式12eにおいて、B1、B2、およびB3は、それぞれ、水素原子もしくは電子供与性を有する置換基である。
【0096】
また、構造式13a乃至構造式13eは、それぞれ、構造式12a乃至構造式12eにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造である。この、構造式13a乃至構造式13gにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは電子供与性基であるが、少なくとも1つは電子供与性を有する置換基である。
【0097】
なお、上記の構造式2乃至構造式7、構造式8a乃至構造式8f、構造式9a乃至構造式9f、構造式10a乃至構造式10g、構造式11a乃至構造式11g、構造式12a乃至構造式12e、および構造式13a乃至構造式13fは、それぞれ、構造式1で表される化合物の具体的な構造の一例である。すなわち、構造式1で表される化合物の構造は、前述の条件を満たしていれば、別の構造であってもよい。
【0098】
構造式1で表される化合物は、2つ乃至4つの環が並んでいる方向(水平方向)が分子長軸方向である。そのため、構造式1で表される化合物の環に結合している電子供与性基は、当該環から分子短軸方向に延びることになり、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなる。
【0099】
また、IPS方式の液晶表示装置の液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いた場合、当該液晶層LCの配向は、液晶分子および構造式1で表される化合物によるホモジニアス配向になる。すなわち、当該液晶組成物を用いた液晶層LCでは、構造式1で表される化合物の分子長軸方向および分子短軸方向が、それぞれ、液晶分子の分子長軸方向および分子短軸方向と一致する。
【0100】
したがって、IPS方式の液晶表示装置の液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いた場合、当該液晶層LCは、分子長軸方向の屈折率n‖と比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなり、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなる。すなわち、液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いたIPS方式の液晶表示装置は、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなり、黒表示時の色目の青みが低減する。
【0101】
また、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくする効果は、たとえば、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4を、−CH=CH−、−CH=N−、−CC−などの不飽和結合やエステルといった構造にした場合でも期待できる。しかしながら、これらの不飽和結合やエステルといった構造を有する化合物は、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4を、原子を介さない直接的な結合や、飽和結合といった構造にした場合に比べて、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくする効果が弱い。そのため、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4は、原子を介さない直接的な結合であって、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基か、またはA1、A2、A3、およびA4は、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基で、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基にすることが望ましい。
【0102】
また、構造式1に類似した構造としては、たとえば、特許文献1(特開2008−58374号公報)や特許文献2(特開2006−232809号公報)に記載された構造が挙げられる。しかしながら、本発明は、ネマチック液晶をホモジニアス配向させた液晶表示装置にかかるものであり、高分子分散液晶を用いた液晶表示装置ではない。そのため、構造式1におけるX1、X2は、アクリル基やエポキシ基のような光重合性の置換基は含まない。したがって、本実施形態の液晶表示装置における液晶組成物は、特許文献1や特許文献2に記載されたものと異なる。
【実施例1】
【0103】
図6は、本発明による実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図6のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図6のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図6のグラフ図において、実線の曲線P3は、実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図6のグラフ図において、点線の曲線P4は、実施例1の液晶表示装置と比較するための比較例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0104】
実施例1では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図2(a)乃至図2(c)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例1では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0105】
なお、実施例1では、画素電極PXと共通電極CTとの間に介在する絶縁層の厚さ(第1の絶縁層の厚さと第2の絶縁層の厚さとの和)が550nmになるようにした。また、実施例1では、厚さが約77nmのITO膜をエッチングして画素電極PXを形成し、画素電極PXにおけるスリットの幅W1および帯状電極部分の幅W2を、それぞれ、5μmにした。
【0106】
また、実施例1では、構造式1で表される化合物として、下記構造式14で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0107】
【化10】
【0108】
構造式14で表される化合物は、構造式1におけるm,nをm=0,n=1とし、A2を原子を介さない直接的な結合とし、A3を −O−CH2− とし、Z1,Z3,Z4をベンゼン環とし、X1,X2をプロピル基(CH3−CH2−CH2−)とした構造である。
【0109】
また、構造式14で表される化合物は、ベンゼン環(Z1,Z3,Z4)の電子供与性を有する置換値を、水素原子とした構造である。
【0110】
また、実施例1では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式14で表される化合物を5wt%添加して得られる第2の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0111】
なお、構造式14で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0112】
まず、4−(4'−プロピルフェニル)フェノール0.7g、4−プロピルベンジルクロリド0.56g、および炭酸カリウム0.9gを、ジメチルホルムアミド5ml中に加え、120℃で1.5時間反応させた。次に、その反応液を室温まで冷却して水を加え、不要物を酢酸エチルで抽出した後、当該抽出物の有機相を水、塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、これを減圧留去し、残留物をシリカカラムで精製して、構造式14で表される化合物1.05gを得た。
【0113】
このとき、4−(4'−プロピルフェニル)フェノールは、下記のような手順で合成した。
【0114】
まず、4−ベンジルオキシ−ブロモベンゼン2.63g、4−プロピルフェニルボロン酸2.46g、炭酸カリウム2.76g、および塩化パラジウム180mgを、ピリジン20ml中に加え、24時間加熱撹拌した後、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。次に、その抽出物の有機相を5%塩酸、水、塩水にて洗浄し、当該有機相を、硫酸マグネシウムで乾燥した。次に、これを減圧にて溶媒を留去し、残留物をシリカカラム(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製した。次に、これをメタノール30mlに溶解し、10%Pd−C(300mg)を加え、水素気流下で24時間反応させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮した。そして、これをシリカカラム(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて精製し、4−(4'−プロピルフェニル)フェノール3.0gを得た。
【0115】
また、4−プロピルベンジルクロリドは、4−プロピル安息香酸を水素化リチウムアルミニウムにて還元し、塩化チオニルを作用させて得た。
【0116】
そして、本願発明者らが、第2の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した実線の曲線P3のような結果が得られた。
【0117】
また、本願発明者らは、第2の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式15で表される化合物を5wt%添加した第3の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した点線の曲線P4のような結果が得られた。
【0118】
【化11】
【0119】
なお、構造式15で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0120】
まず、1,4−ジブロモベンゼン1.77g、4−プロピルフェニルボロン酸3.7g、炭酸カリウム4.14g、および塩化パラジウム40mgを、ピリジン10ml中に加え、24時間加熱撹拌した後、減圧にて溶媒を除去し、残留物を水洗した。次に、これをメタノール中70℃にて30分撹拌した後、不要物を濾別し、構造式15で表される化合物1.8gを得た。
【0121】
構造式14で表される化合物と、構造式15で表される化合物とは、それぞれ、3つのベンゼン環を有する構造である。しかしながら、構造式14で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが、−O−CH2−を介して結合している。これに対し、構造式15で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが直接結合している。
【0122】
構造式15で表される化合物は、通常、3つのベンゼン環が分子長軸方向にまっすぐに並んでいるので、3つのベンゼン環は分子短軸方向の位置のずれが小さい。
【0123】
これに対し、構造式14で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが、−O−CH2−を介して結合しているので、当該2つのベンゼン環は分子短軸方向の位置のずれが大きくなる。
【0124】
また、構造式14で表される化合物と構造式15で表される化合物とは、その構造から、分子長軸方向の分極率α‖(屈折率n‖)が、ほぼ同じであると考えられる。
【0125】
そのため、構造式14で表される化合物における分子長軸方向の分極率および分子短軸方向の分極率をそれぞれα2‖およびα2⊥とし、構造式3で表される化合物における分子長軸方向の分極率および分子短軸方向の分極率をそれぞれα3‖およびα3⊥とすると、それぞれの化合物における分子長軸方向の分極率と分子短軸方向の分極率と比の関係は、(α2⊥/α2‖)>(α3⊥/α3‖)になると考えられる。
【0126】
したがって、図6に示したように、構造式14で表される化合物を含有する第2の液晶組成物のほうが、構造式15で表される化合物を含有する第3の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0127】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第2の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0128】
また、第2の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式14で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0129】
また、液晶層LCとして第2の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0130】
一方、第2の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0131】
したがって、第2の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0132】
以上説明したように、実施例1の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0133】
また、実施例1では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0134】
また、実施例1では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式14で表される化合物を挙げた。構造式14は、構造式1におけるX1およびX2がプロピル基(CH3−CH2−CH2−)になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式14で表される化合物における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を、上記の水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0135】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式14で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式14で表される化合物と、構造式14における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0136】
また、実施例1では、第1の液晶組成物に、構造式14で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式14で表される化合物、あるいは構造式14と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0137】
また、実施例1では、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第2の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第2の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図3(a)および図3(c)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例2】
【0138】
実施例1では、第1の液晶組成物に、構造式14で表される化合物を添加した場合を例に挙げた。構造式14で表される化合物は、3つのベンゼン環の電子供与性を有する置換基が、すべて水素原子である。しかしながら、構造式1で表される化合物における電子供与性を有する置換基は、前述のように、メチル基、メトキシ基、アミノ基などであってもよい。
【0139】
そこで、実施例2では、構造式14と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の一例として、下記構造式16で表される化合物を挙げる。
【0140】
【化12】
【0141】
なお、構造式16で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0142】
まず、4−ヨウ化−3−メチル安息香酸メチル8.3gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させ、−40℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムクロリド(2Mテトラヒドロフラン溶液16ml)を滴下し、さらに同温度にて1時間反応させ後、ジメチルホルムアミド8mlを加え、30分間反応させた。次に、室温まで昇温し、飽和塩化アンモニウム水溶液で分解した。さらにこれをエーテルで抽出し、有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、これを溶媒留去して化合物Aを得た。
【0143】
また、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド7.43gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させ、−30℃にてn−ブチルリチウム(1.6M、12.5ml)を加え、同温度で30分反応させた。次に、これに先の化合物A3.6gを加え、さらに30分反応させた。次に、これを室温まで昇温し、飽和塩化アンモニウム水溶液で分解した。さらにこれをエーテルで抽出、有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、これを溶媒留去し化合物Bを得た。
【0144】
次に、この化合物B3.0gをメタノール50mlに溶解させ、10%Pd−C300mgを加え、水素気流下で24時間反応させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮し化合物C2.74gを得た。
【0145】
次に、化合物C1.92gをテトラヒドロフラン20mlに溶解させ、水素化リチウムアルミニウム1.0gを加え、3時間加熱撹拌した。その後、塩化チオニル3.6gを加え、3時間加熱撹拌したのち、減圧で溶媒を留去して化合物Dを得た。
【0146】
次に、化合物D0.79g、実施例1で説明した手順で合成した4−(4'−プロピルフェニル)フェノール0.7g、および炭酸カリウム0.9gをジメチルホルムアミド5ml中に加え、120℃にて1.5時間反応させた。その後、冷却し、水を加え不要物を酢酸エチルで抽出し、有機相を水および塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。そして最後に、これを減圧留去し、残留物をシリカカラムで精製して、構造式16で表される化合物1.1gを得た。
【0147】
また、実施例2では、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式16で表される化合物を5wt%添加して得られる第3の液晶組成物を、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いた。このとき、液晶表示パネル1は、液晶層LCとして用いる液晶組成物以外の構成を、実施例1で用いたものと同じ構成にした。
【0148】
そして、本願発明者らが、第3の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した実線の曲線P3と同様の結果が得られた。
【0149】
したがって、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第3の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0150】
また、第3の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式16で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0151】
また、液晶層LCとして第3の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0152】
一方、第3の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0153】
したがって、第3の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0154】
以上説明したように、実施例2の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0155】
また、実施例2では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0156】
また、実施例2では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式16で表される化合物を挙げた。構造式16は、構造式1におけるX1およびX2がプロピル基(CH3−CH2−CH2−)になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式16で表される化合物における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を、上記の水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0157】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式16で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式16で表される化合物と、構造式16における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0158】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物を複数種類にする場合、その組み合わせは、たとえば、構造式14で表される化合物と、構造式16で表される化合物のように、環に結合した電子供与性を有する置換基の構造が異なる化合物の組み合わせであってもよい。
【0159】
また、実施例2では、第1の液晶組成物に、構造式16で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式16で表される化合物、あるいは構造式16と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0160】
また、実施例2では、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第3の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第3の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例3】
【0161】
図7は、本発明による実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図7のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図7のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図7のグラフ図において、実線の曲線P5は、実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図7のグラフ図において、点線の曲線P6は、実施例3の液晶表示装置と比較するための比較例2の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0162】
実施例3では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図3(a)および図3(b)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例3では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0163】
なお、実施例3では、画素電極PXと共通電極CTとの積層方向(上下方向)の距離が500nmになるようにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部の幅W3および画素電極PXの帯状電極部の幅W4を、それぞれ、7μmにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部との間隔Pを、10μmとした。
【0164】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物として、下記構造式17で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0165】
【化13】
【0166】
構造式17で表される化合物は、構造式1におけるm,nをm=n=0とし、A3を原子を介さない直接的な結合とし、Z1,Z4をベンゼン環とし、X1,X2を水素原子とした構造である。
【0167】
また、構造式17で表される化合物は、2つのベンゼン環(Z1,Z4)のそれぞれに、電子供与性を有する置換値としてメチル基を有する構造である。
【0168】
また、実施例3では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式17で表される化合物(アルドリッチ社製)を5wt%添加して得られる第5の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0169】
そして、本願発明者らが、第5の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した実線の曲線P5のような結果が得られた。
【0170】
また、本願発明者らは、第5の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式18で表される化合物(アルドリッチ社製)を5wt%添加した第6の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した点線の曲線P6のような結果が得られた。
【0171】
【化14】
【0172】
構造式17で表される化合物は、構造式18で表される化合物における2つのベンゼン環について、それぞれの環の水素原子の1つをメチル基に置換した構造である。そのため、構造式17で表される化合物における分子長軸方向の分極率に対する分子短軸方向の分極率は、構造式18で表される化合物における分子長軸方向の分極率に対する分子短軸方向の分極率よりも大きくなる。
【0173】
したがって、図7に示したように、構造式17で表される化合物を含有する第5の液晶組成物のほうが、構造式18で表される化合物を含有する第6の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0174】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第5の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0175】
また、第5の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式17で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0176】
また、液晶層LCとして第5の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0177】
一方、第5の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0178】
したがって、第5の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0179】
以上説明したように、実施例3の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0180】
また、実施例3では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0181】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式17で表される化合物を挙げた。構造式17は、構造式1におけるX1およびX2が水素原子になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式17で表される化合物における分子長軸方向の両端のいずれか一方または両方を、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0182】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式17で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式17で表される化合物と、構造式17における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方をアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0183】
また、実施例3では、第1の液晶組成物に添加する化合物として、構造式17のように、2つのベンゼン環のそれぞれに、1つのメチル基がある化合物を挙げた。しかしながら、当該2つのベンゼン環には、これに限らず、たとえば、メトキシ基、アミノ基などの、電子供与性を有する他の置換基が結合していてもよい。また、構造式1で表される化合物は、前述のように、2つ以上の環のいずれかに電子供与性を有する置換基があればよい。そのため、構造式1で表される化合物として、ベンゼン環が2つの化合物を用いる場合は、当該2つのベンゼン環のうちのいずれか一方の環のみに、メチル基、メトキシ基、アミノ基などの電子供与性を有する置換基が結合している構造であってもよい。
【0184】
また、実施例3では、第1の液晶組成物に、構造式17で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式17で表される化合物、あるいは構造式17と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0185】
また、実施例3では、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第5の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第5の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例4】
【0186】
IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置における、黒表示時の色目の青みを低減するには、前述のように、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくすればよい。そして、本発明では、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくするために、母体である第1の液晶組成物(ネマチック液晶)に、構造式1で表される化合物を添加した液晶組成物を、液晶層LCとして用いる。
【0187】
このとき、構造式1で表される化合物は、前述のように、分子長軸方向の分極率α‖に対する分子短軸方向の分極率α⊥が小さいことが望ましい。またこのとき、分子長軸方向の分極率α‖と分子短軸方向の分極率α⊥との関係は、たとえば、下記数式1で表される関係を満たすことが望ましい。
【0188】
【数2】
【0189】
なお、数式1において、α‖は、分子構造主骨格の分子長軸方向の分極率であり、α⊥は、分子短軸方向の分極率である。また、数式1において、Rは、分子構造主骨格中に含まれるベンゼン環、シクロヘキサン環など環状構造の総数である。
【0190】
また、分子構造主骨格は、第1の液晶組成物に添加する化合物におけるX1、X2を水素原子とした構造のことである。すなわち、第1の液晶組成物に添加する化合物が、下記構造式19で表される化合物である場合、その分子構造主骨格は、下記構造式20で表される。
【0191】
【化15】
【0192】
また、分極率α‖およびα⊥は、それぞれ、半経験的分子軌道計算法(MOPAC2002)のPM3法(キーワードPOLAR)から得られる一次の分極率αxx、αyy、およびαzzを用いて、下記数式5および下記数式6のように定義した。
α‖=αxx ・・・(数式5)
α⊥=0.5×(αyy+αZZ) ・・・(数式6)
【0193】
このとき、構造式19で表される化合物の分子構造主骨格(構造式20で表される化合物)は、α‖が321.1、α⊥が163.14であり、また分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rは3であるので、数式1の関係を満たす。
【0194】
図8(a)および図8(b)は、数式1で表される関係の根拠を説明するための模式グラフ図である。
図8(a)は、化合物に含まれる環の数毎に調べた分極率の差分と分極率の比との関係の一例を示す模式グラフ図である。図8(b)は、環の数と図8(a)に示した直線の傾きとの関係の一例を示す模式グラフ図である。
【0195】
数式1で表される分極率α‖、α⊥の関係は、本願発明者らが、下記のような検討をした結果、得られた関係である。
【0196】
液晶層LCの屈折率異方性Δnは、前述のように、分子長軸方向の屈折率n‖と分子短軸方向の屈折率n⊥との差分(n‖−n⊥)である。また、屈折率n‖,n⊥は、それぞれ、値が大きくなると波長依存性が大きくなる。
【0197】
このとき、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、その波長依存性は相対的に大きくなるが、分子長軸方向の屈折率n‖が変わらなければ、その波長依存性は変わらない。そのため、分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに分子短軸方向の屈折率⊥を大きくすれば、その差分であるΔnの波長依存性は、相対的に小さくなることになる。このことから、分子長軸方向の屈折率n‖に比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなると、屈折率異方性Δnの波長依存性は相対的に小さくなることになる。
【0198】
また、分子長軸方向の屈折率n‖および分子短軸方向の屈折率n⊥は、それぞれ、数式1のような関係が成り立つ。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を低減するためには、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなるようにすればよいことになる。
【0199】
ところで、分子構造(分子中に含まれる環の数R)毎の分極率α‖と分極率α⊥との関係については、たとえば、図8(a)に示すような関係になり、分子構造に含まれる環の数が同じであれば、(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係は、ほぼ直線の関係にある。
【0200】
なお、図8(a)におけるR=2の直線は、下記構造式21a乃至構造式21cの3つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0201】
【化16】
【0202】
また、図8(a)におけるR=3の直線は、下記構造式22a乃至構造式22dの4つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0203】
【化17】
【0204】
また、図8(a)におけるR=4の直線は、下記構造式23a乃至構造式23dの4つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0205】
【化18】
【0206】
また、分極率α‖に対して相対的に分極率α⊥が大きい材料の場合は、(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係がこれらの直線よりも下の領域にプロットされる。
【0207】
このとき、図8(a)に示した3本の直線は、それぞれ、(α‖/α⊥)=S(α‖−α⊥)+Uとすると、いずれの直線においてもUがほぼ1である。また、それぞれの直線の傾きSと環の数Rには、たとえば、図8(b)に示すような関係がある。
【0208】
そして、本願発明者らは、図8(a)および図8(b)に基づき、数式1のような関係を導き出した。すなわち、本願発明者らは、構造式1で表される化合物であり、かつ、数式1を満たす構造の化合物を第1の液晶組成物に添加することにより、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性をさらに低減することができることを見出した。
【0209】
図9は、本発明による実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図9のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図9のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、
波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図9のグラフ図において、実線の曲線P7は、実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図9のグラフ図において、点線の曲線P8は、実施例4の液晶表示装置と比較するための比較例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0210】
実施例4では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図3(a)乃至図3(c)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例4では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0211】
なお、実施例4では、画素電極PXと共通電極CTとの積層方向(上下方向)の距離が500nmになるようにした。また、実施例4では、共通電極CTの帯状電極部の幅W3および画素電極PXの帯状電極部の幅W4を、それぞれ、7μmにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部との間隔Pを、10μmとした。
【0212】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物として、構造式19で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0213】
また、実施例4では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式19で表される化合物(アルドリッチ社製)を10wt%添加して得られる第7の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0214】
そして、本願発明者らが、第7の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図9に示した実線の曲線P7のような結果が得られた。
【0215】
また、本願発明者らは、第7の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式24で表されるアズレン(アルドリッチ社製)を10wt%添加した第8の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した点線の曲線P8のような結果が得られた。
【0216】
【化19】
【0217】
構造式24で表されるアズレンは、その構造自体が、構造式1の条件を満たしていない。また、構造式24で表されるアズレンは、分極率α‖が163.9、分極率α⊥が60.2であり、分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rが2であるので、数式1を満たさない。
【0218】
一方、構造式19で表される化合物は、その構造自体が、構造式1の条件を満たしている。また、構造式19で表される化合物は、α‖が321.1、α⊥が163.14であり、また分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rは3であるので、数式1の関係を満たす。
【0219】
したがって、図9に示したように、構造式19で表される化合物を含有する第7の液晶組成物のほうが、構造式24で表される化合物(アズレン)を含有する第8の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0220】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第7の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0221】
また、第7の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式19で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0222】
また、液晶層LCとして第7の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0223】
一方、第7の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0224】
したがって、第7の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0225】
以上説明したように、実施例4の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【実施例5】
【0226】
図10は、本発明による実施例5の液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0227】
RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置の場合、映像や画像の1ドットの色は、上記のように、赤色フィルタを有する第1の画素の明るさ、緑色フィルタを有する第2の画素の明るさ、および青色フィルタを有する第3の画素の明るさの組み合わせによって表現される。このとき、黒表示および白表示を、ともに良好な表示にするためには、たとえば、第1の画素、第2の画素、第3の画素のそれぞれにおける液晶層のリタデーションがほぼ同じ値になるようにすることが望ましい。このようにするためには、可視光における波長域において、赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタのそれぞれにおけるリタデーションの平均的な値をほぼ同じ値とすることが望ましい。このリタデーションの平均的な値とは、赤色フィルタでは600nmと700nmにおけるリタデーションの平均、緑色フィルタでは500nmと600nmにおけるリタデーションの平均、青色フィルタでは400nmと500nmにおけるリタデーションの平均である。
【0228】
リタデーションは、液晶層の屈折率異方性Δnと液晶層の厚さdとの積Δndである。また、液晶層LCの屈折率異方性Δnは、前述のように、波長依存性があり、短波長側(青色系の光)のほうが屈折率異方性Δnが大きくなる。また、屈折率異方性Δnの波長依存性は、緑色系の光から赤色系の光の波長領域における依存性よりも、緑色系の光から青色系の光の波長領域における依存性のほうが大きい。
【0229】
そのため、厚さがdの液晶層では、青色系の光に対するリタデーションΔndが、緑色系の光や赤色系の光に対するリタデーションΔndに比べて大きくなる。
【0230】
また、第1の画素は、赤色フィルタを有し、赤色系の光のみを通過させるので、第1の画素におけるリタデーションは、赤色系の光に対するリタデーションを考慮すればよい。また、第2の画素は、緑色フィルタを有し、緑色系の光のみを通過させるので、第2の画素のリタデーションは、緑色系の光に対するリタデーションを考慮すればよい。また、第3の画素は、青色フィルタを有し、青色系の光のみを通過させるので、第3の画素のリタデーションは、青色系の光に対するリタデーションのみを考慮すればよい。
【0231】
したがって、第1の画素、第2の画素、第3の画素のそれぞれにおける液晶層の平均的なリタデーションがほぼ同じ値になるようにするには、たとえば、図10に示すように、青色フィルタ702Bを有する第3の画素の液晶層LCの厚さdbを、赤色フィルタ702Rを有する第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび緑色フィルタ702Gを有する第2の画素の液晶層LCの厚さdgよりも薄くすればよい。第3の画素の液晶層LCの厚さdbを、第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび第2の画素の液晶層LCの厚さdgよりも薄くするには、たとえば、青色フィルタ702Bを、赤色フィルタ702Rおよび緑色フィルタ702Gよりも厚く形成すればよい。可視光における波長域において、赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタのそれぞれの透過波長範囲内のリタデーションをほぼ同じ値になるようにするために鋭意検討した結果、0.9dg<db≦dgを満たすことが望ましく、さらには、dg≦dr<1.05dgであることが望ましい。
【0232】
このとき、第3の画素の液晶層LCの厚さdbを3.1μm、第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび第2の画素の液晶層LCの厚さdgをそれぞれ3.4μmにすると、たとえば、バックライトの光源4(冷陰極管)の輝線スペクトルのうちの、第3の画素における波長435nmの光に対するリタデーションと、第2の画素における波長545nmに対するリタデーションはそれぞれ、ほぼ0.45と等しくなる。そのため、このような液晶表示装置の液晶層LCとして、実施例4で挙げた第7の液晶組成物を用いた場合、実施例4の液晶表示装置に比べて、黒表示時の色目の青みさらに低減することができる。
【0233】
また、実施例5の液晶表示装置では、第1の画素における赤色系の波長の光に対するリタデーション、第2の画素における緑色系の波長の光に対するリタデーション、および第3の画素における青色系の波長の光に対するリタデーションが、ほぼ同じ値になるようにすることが望ましい。すなわち、実施例5の液晶表示装置は、より厳密には、たとえば、第1の画素の液晶層LCの厚さdr、第2の画素の液晶層LCの厚さdg、および第3の画素の液晶層LCの厚さdbの関係が、0.9dg<db≦dg、さらには、dg≦dr<1.05dgになるようにすることが望ましい。
【0234】
そこで、本願発明者らは、第1の画素の液晶層LCの厚さdr、第2の画素の液晶層LCの厚さdg、および第3の画素の液晶層LCの厚さdbの関係を確認するために、それぞれの液晶層LCの厚さを変えたときの黒表示時の色目の青みの度合いと、白表示時の着色の度合いについて調べた。その結果の一例を下記表1に示す。
【0235】
【表1】
【0236】
なお、表1において、CNは、液晶層LCの厚さの組み合わせを特定する番号である。また、表1において、dr、dg、およびdbは、それぞれ、第1の画素の液晶層LCの厚さ、第2の画素の液晶層LCの厚さ、および第3の画素の液晶層LCの厚さである。また、表1において、db/dgおよびdr/dgは、それぞれ、左欄のdbをdgで除した値およびdrをdgで除した値である。また、表1において、BLBおよびBLWは、それぞれ、目視による、黒表示時の色目の青みの度合いおよび白表示時の着色の度合いである。また、BLBおよびBLWにおける○、△、×は、それぞれ、目視では確認できない、目視で確認できるが従来のものよりも改善されている、従来のものと同程度の度合いである、ということを意味する。
【0237】
また、表1は、実施例4で挙げた液晶表示パネル1、すなわち液晶層LCとして第7の液層組成物を用いた液晶表示パネル1における各画素の液晶層LCの厚さを変えたときの黒表示時の色目の青みの度合いと、白表示時の着色の度合いの一例である。
【0238】
表1からもわかるように、db/dg=1.00である場合、黒表示時の色目の青みの度合いは、従来のものよりも改善されているが、白表示時の着色の度合いが従来のものと同程度である。また、黒表示時の色目の青みの度合いについては、db/dg>1.00になると、黒表示時の色目の青みの度合いが従来のものと同程度になってしまう。また、黒表示時の色目の青みの度合いについては、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbが同じ(db/dg=1.00)である場合よりも、db/dg=0.81のほうが黒表示時の色目の青みの度合いが小さい。
【0239】
しかしながら、db/dgが小さくなると、白表示時の着色が目立つようになる。
【0240】
このことから、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbとの関係は、たとえば、0.9dg<db≦dgであることが望ましいといえる。
【0241】
また、dr/dgの大きさと黒表示時の色目の青みの度合いとの関係、dr/dgの大きさと白表示時の着色の度合いとの関係については、逆に、db/dg>1.00のほうが黒表示時の色目の青みの度合いが小さい。しかしながら、dr/dgが大きくなると、白表示時の着色が目立つようになる。
【0242】
このことから、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbとの関係は、たとえば、dg≦dr<1.05dgであることが望ましいといえる。
【0243】
以上説明したように、実施例5の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みをさらに低減でき、コントラストをさらに向上させることができる。
【0244】
以上、本発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることはもちろんである。
【0245】
たとえば、母体である第1の液晶組成物に添加する化合物は、前記各実施例で挙げた構造の化合物に限らず、構造式1で表される化合物であればよいことはもちろんである。またこのとき、母体である第1の液晶組成物に添加する化合物は、構造式1の条件を満たし、かつ、分極率α‖,α⊥の関係が数式1を満たす構造の化合物が望ましいことはいうまでもない。
【0246】
また、本発明は、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1、図4に示した構成の液晶表示パネル1に限らず、液晶分子をホモジニアス配向させる液晶表示パネル1を有する液晶表示装置全般に適用できることはもちろんである。またさらに、本発明は、液晶テレビなどに用いられる大型の液晶表示装置に限らず、たとえば、携帯電話端末などに用いられる小型の液晶表示装置も含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0247】
1 液晶表示パネル
2 第1の駆動回路
3 第2の駆動回路
4 光源
5 制御回路
6 第1の基板
600 第1の絶縁基板
601 第1の絶縁層
602 半導体層
603 ソース電極
604 第2の絶縁層
605 第1の配向膜
7 第2の基板
700 第2の絶縁基板
701 ブラックマトリクス
702 カラーフィルタ
702R 赤色フィルタ
702G 緑色フィルタ
702B 青色フィルタ
703 オーバーコート層
704 第2の配向膜
8 シール材
9 第1の偏光板
10 第2の偏光板
11 電気力線
12 液晶分子
GL 走査信号線
DL 映像信号線
Tr TFT素子
PX 画素電極
CT 共通電極
LC 液晶層
CL コモン配線
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、IPS(In Plane Switching)方式であり、かつ、ノーマリブラックモードである液晶表示装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶テレビなどの液晶表示装置には、IPS方式と呼ばれる表示方式のものがある。IPS方式の液晶表示装置に用いられる液晶表示パネルは、第1の基板と第2の基板との間に液晶層が配置されており、当該液晶層を駆動させるための画素電極および共通電極が、ともに第1の基板側に設けられている。またこのとき、液晶層中の液晶分子は、ホモジニアス配向になっている。
【0003】
IPS方式の液晶表示装置は、他の表示方式、たとえば、TN(Twisted Nematic)方式やVA(Vertical Alignment)方式などと比べて、コントラストの視野角依存性が小さい。そのため、IPS方式の液晶表示装置は、近年、液晶テレビに限らず、たとえば、携帯電話端末の液晶ディスプレイやパーソナルコンピュータ用の液晶ディスプレイなどにも用いられるようになってきている。
【0004】
しかしながら、IPS方式の液晶表示装置は、たとえば、VA方式の液晶表示装置に比べて、正面でのコントラストが若干劣るといった問題がある(たとえば、非特許文献1を参照。)。そのため、IPS方式の液晶表示装置では、近年、コントラストを向上させるための構造や駆動方法の研究がなされている。
【0005】
IPS方式の液晶表示装置でコントラストが低下する要因の1つは、黒表示時における光漏れであり、これは液晶に由来する光散乱であるとされている(たとえば、非特許文献2を参照。)。また、非特許文献2によると、液晶に由来する光散乱は、屈折率異方性(Δn)と弾性定数(K)に依存するとされている。そして、非特許文献2によれば、IPS方式の液晶表示装置は、たとえば、液晶の屈折率異方性Δnを低くし弾性定数Kを増大させることによって、黒表示時における光漏れが低減し、コントラストの向上を図ることができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日経BP社、「フラットパネルディスプレイ2006応用技術編」、2006年、p.52−61
【非特許文献2】内海夕香他、「シンポジウム・オブ・インフォーメション・ディスプレイ2008ダイジェスト」、2008年、p.129−132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液晶の屈折率異方性Δnは、波長依存性があり、短波長ではΔnが大きくなる傾向にある(たとえば、非特許文献3:液晶便覧編集委員会編、「液晶便覧」、2000年、p.203−204を参照。)。そのため、液晶層における光散乱の強度は、長波長よりも短波長で大きくなる傾向にある。
【0008】
このように、液晶に由来する光散乱が長波長よりも短波長において大きくなることは、黒表示時において色目が青みを帯びる要因である。
【0009】
そして、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題は、IPS方式のように液晶分子がホモジニアス配向であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置における本質的な問題である。すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、任意の波長における屈折率異方性Δnを小さくし、光散乱を低減したとしても、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題が発生する。
【0010】
本発明の目的は、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置における、黒表示時の色目の青みを低減することが可能な技術を提供することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概略を説明すれば、以下の通りである。
【0013】
(1)画素電極および共通電極ならびに液晶層を有する画素がマトリクス状に配置された液晶表示パネルを有し、それぞれの前記画素は、前記画素電極と前記共通電極との電位差に応じて明るさが変化し、かつ、前記画素電極と前記共通電極とが同じ電位のときに最も暗くなる液晶表示装置であって、前記液晶表示パネルは、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された液晶層とを有し、前記液晶層は、液晶分子がホモジニアス配向をしており、かつ、下記構造式1で表される化合物を有し、下記構造式1におけるX1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであり、mおよびnは、それぞれ、0または1であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な単結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに、電子供与性基を有する液晶表示装置。
【0014】
【化1】
【0015】
(2)前記(1)の液晶表示装置において、前記電子供与性基は、メチル基、メトキシ基、アミノ基のいずれかである液晶表示装置。
【0016】
(3)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3のうちのいくつかまたは全部が、−CH2−CH2−、−CH2−O−、および−CF2−O−のいずれかであり、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基である液晶表示装置。
【0017】
(4)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3が原子を介さない直接的な結合であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基である液晶表示装置。
【0018】
(5)前記(1)の液晶表示装置において、前記構造式1で表される化合物は、X1およびX2を水素原子としたときの分子構造主骨格における分子長軸方向および分子短軸方向の分極率をそれぞれα‖およびα⊥とし、当該分子構造主骨格に含まれる環状構造の総数をRとしたときに、下記数式1の関係が成り立つ液晶表示装置。
【0019】
【数1】
【0020】
(6)前記(1)の液晶表示装置において、前記液晶表示パネルは、赤色系の光の明るさを変化させる第1の画素と、緑色系の光の明るさを変化させる第2の画素と、青色系の光の明るさを変化させる第3の画素とを有し、前記第3の画素における前記液晶層の厚さをdbとし、前記第2の画素における前記液晶層の厚さをdgとしたときに、下記数式2の関係が成り立つ液晶表示装置。
0.9dg<db≦dg ・・・(数式2)
【0021】
(7)前記(6)の液晶表示装置において、前記第1の画素における前記液晶層の厚さをdrとしたときに、下記数式3の関係が成り立つ液晶表示装置。
dg≦dr<1.05dg ・・・(数式3)
【0022】
(8)前記(1)の液晶表示装置において、前記液晶層は、ネマチック層−等方相転移温度が70℃以上である液晶表示装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1(a)】本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。
【図1(b)】液晶表示パネルにおける1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。
【図1(c)】液晶表示パネルの平面構成の一例を示す模式平面図である。
【図1(d)】図1(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図2(a)】本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の一例を示す模式平面図である。
【図2(b)】図2(a)のB−B’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図2(c)】液晶分子の配向方向と偏光板の透過軸との関係の一例を示す模式図である。
【図3(a)】本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の別の一例を示す模式平面図である。
【図3(b)】図3(a)のC−C’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【図4】本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成のさらに別の一例を説明するための模式断面図である。
【図5】本発明の原理を説明するための模式グラフ図である。
【図6】本発明による実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図7】本発明による実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図8(a)】化合物に含まれる環の数毎に調べた分極率の差分と分極率の比との関係の一例を示す模式グラフ図である。
【図8(b)】環の数と図8(a)に示した直線の傾きとの関係の一例を示す模式グラフ図である。
【図9】本発明による実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
【図10】本発明による実施例5の液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1(a)乃至図1(d)は、本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を説明するための模式図である。
図1(a)は、本発明による一実施形態の液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。図1(b)は、液晶表示パネルにおける1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。図1(c)は、液晶表示パネルの平面構成の一例を示す模式平面図である。図1(d)は、図1(c)のA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0027】
本発明は、たとえば、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置の液晶層として用いる液晶組成物に関する。本実施形態では、本発明に関わる上記の液晶表示装置の一例として、RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置を挙げる。
【0028】
本実施形態の液晶表示装置は、たとえば、図1(a)に示すように、液晶表示パネル1、第1の駆動回路2、第2の駆動回路3、バックライトの光源4、および制御回路5を有する。
【0029】
液晶表示パネル1は、アクティブマトリクス方式であり、複数の走査信号線GLおよび複数の映像信号線DLを有する。また、液晶表示パネル1の表示領域DAは、マトリクス状に配置された複数の画素からなる。このとき、1つの画素は、たとえば、図1(b)に示すように、TFT素子Tr(アクティブ素子)、画素電極PX、共通電極CT、および液晶層LCを有する。
【0030】
TFT素子Trは、ゲートが1本の走査信号線GLに接続しており、ドレインが1本の映像信号線DLに接続している。また、TFT素子Trのソースは、画素電極PXに接続している。なお、TFT素子Trのドレインとソースとは、当該TFT素子Trがオンになっている期間における映像信号線DLの電位と画素電極PXの電位との高低の関係によって変わる。
【0031】
共通電極CTは、コモン給電配線CLに接続しており、所定の電位の電圧が加わっている。
【0032】
また、液晶表示パネル1は、たとえば、図1(c)および図1(d)に示すように、第1の基板6および第2の基板7を有し、第1の基板6と第2の基板7との間に液晶層LCが配置されている。また、液晶表示パネル1は、第1の基板6、液晶層LC、および第2の基板7を挟んで配置される第1の偏光板9および第2の偏光板10を有する。
【0033】
第1の基板6は、走査信号線GL、映像信号線DL、TFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT、および第1の配向膜などを有する。第2の基板7は、ブラックマトリクスと呼ばれる遮光膜、カラーフィルタ、第2の配向膜などを有する。第1の基板6および第2の基板7の構成の具体例については、後述する。
【0034】
液晶層LCは、液晶分子をホモジニアス配向させている。このとき、液晶分子の分子長軸方向は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさによって変化する。また、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときの液晶分子の分子長軸方向は、第1の配向膜および第2の配向膜の配向方向(ラビング方向)と一致する。
【0035】
第1の偏光板9と第2の偏光板10とは、それぞれの偏光板における偏光透過軸が直交するように配置されている。このとき、第1の偏光板9は、偏光透過軸が、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときの液晶分子の分子長軸方向と一致するように配置されている。
【0036】
第1の駆動回路2は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を生成する回路であり、一般に、データドライバ、ソースドライバなどと呼ばれている。
【0037】
第2の駆動回路3は、映像信号線DLに加わっている映像信号を画素電極PXに書き込む画素を選択するための走査信号を生成する回路であり、一般に、走査ドライバ、ゲートドライバなどと呼ばれている。
【0038】
光源4は、液晶表示パネル1に照射する光を発する発光素子であり、たとえば、冷陰極蛍光管(CCFL)または発光ダイオード(LED)などが用いられる。また、光源4が発した光は、たとえば、プリズムシートや光拡散シートなどの光学シートを用いて面状光線に変換される。また、光源4が発した光を面状光線に変換するときには、光学シートの他に、導光板を用いることもある。このとき、面状光線は、通常、第1の偏光板9側から液晶表示パネル1に入射する。
【0039】
制御回路5は、第1の駆動回路2および第2の駆動回路3の動作の制御や、光源4が発する光の明るさなどを制御する回路であり、一般に、T−CON、TFTコントローラなどと呼ばれている。
【0040】
図1(a)に示したような構成の液晶表示装置は、面状光線を液晶表示パネル1に照射したときの、それぞれの画素における光の透過量(明るさ)を制御することで、映像や画像を可視化する。第1の偏光板9および液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光の透過量は、第2の偏光板10に入射する光の偏光状態によって変化する。このとき、液晶層LCを透過した後、第2の偏光板に入射する光の偏光状態は、液晶分子の分子長軸方向と液晶層LCの厚さとで決まる。液晶分子の分子長軸方向は、前述のように、画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさによって決まる。また、共通電極CTは、あらかじめ定められた電位に固定されている。したがって、画素の明るさは、画素電極PXに加える(書き込む)階調電圧の電位によって制御される。
【0041】
また、RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置(液晶表示パネル1)の場合、映像や画像の1ドットの色は、たとえば、赤色フィルタを有する第1の画素、緑色フィルタを有する第2の画素、および青色フィルタを有する第3の画素の3つの画素の明るさの組み合わせで表現する。
【0042】
図2(a)乃至図2(c)は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成の一例を説明するための模式図である。
図2(a)は、本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の一例を示す模式平面図である。図2(b)は、図2(a)のB−B’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。図2(c)は、液晶分子の配向方向と偏光板の透過軸との関係の一例を示す模式図である。
【0043】
本実施形態の液晶表示装置で用いる液晶表示パネル1は、IPS方式であり、画素電極PXおよび共通電極CTが第1の基板6に形成されている。このとき、第1の基板6は、たとえば、図2(a)および図2(b)に示すような構成になっており、ガラス基板などの第1の絶縁基板600の上(液晶層LCと対向する面)に、走査信号線GL、共通電極CT、第1の絶縁層601、TFT素子Trの半導体層602、映像信号線DL(TFT素子Trのドレイン電極を含む)、TFT素子Trのソース電極603、第2の絶縁層604、画素電極PX、および第1の配向膜605が形成されている。
【0044】
このとき、画素電極PXと共通電極CTとは、第1の絶縁層601および第2の絶縁層604を介して積層されており、液晶層LCに近い画素電極PXには、複数のスリットが設けられている。このような構成の液晶表示パネル1では、画素電極PXと共通電極CTとに電位差が生じると、図2(b)に示したような電気力線11(電界)が生成され、液晶層LCに加わる。このとき、液晶分子12は、第1の基板6から第2の基板7に向かう方向を回転軸とした回転をする。
【0045】
また、第2の基板7は、たとえば、図2(b)に示すような構成になっており、ガラス基板などの第2の絶縁基板700の上(液晶層LCと対向する面)に、ブラックマトリクス701、カラーフィルタ702、オーバーコート層703、および第2の配向膜704が形成されている。なお、第2の絶縁基板700の上には、カラーフィルタ702として、赤色系の光のみが透過する赤色フィルタ、緑色系の光のみが透過する緑色フィルタ、青色系の光のみが透過する青色フィルタの3種類のカラーフィルタが形成されている。そして、1つの画素は、赤色フィルタ、緑色フィルタ、および青色フィルタのうちのいずれか1つを有する。
【0046】
このような構成の液晶表示パネル1における画素電極PXのスリットは、たとえば、図2(c)に示すように、x方向(走査信号線GLの延在方向)に対して角度θだけ傾いた方向に延びている。このとき、スリットの幅W1、および画素電極PXのうちの隣接する2つのスリットの間を通る帯状電極部分の幅W2は、それぞれ、たとえば、5μm程度である。
【0047】
またこのとき、第1の配向膜605のラビング方向605Rおよび第2の配向膜704のラビング方向704Rは、それぞれ、x方向と一致させる。そのため、液晶分子12は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときに、分子長軸方向12Lがx方向と一致する。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、液晶分子12は、たとえば、xy面内で、その電位差の大きさに応じた角度ηだけ回転する。このとき、液晶分子12の回転方向は、画素電極PXの電位と共通電極CTの電位との高低の関係によって反転する。
【0048】
また、本実施形態の液晶表示装置は、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を0にすると黒表示になるノーマリブラック表示の液晶表示装置である。そのため、第1の偏光板9は、偏光透過軸9Tをx方向と一致させ、第2の偏光板10は、偏光透過軸10Tをy方向と一致させる。
【0049】
このとき、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0であると、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射する光の偏光状態は、第1の偏光板9を透過した光の偏光状態と同じである。そのため、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光は、第2の偏光板10で吸収される。したがって、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置は、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を0にすると、黒表示になる。
【0050】
一方、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差がある場合、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射する光の偏光状態が、第1の偏光板9を透過した光の偏光状態とは異なる状態になる。そのため、液晶層LCを通過して第2の偏光板10に入射した光は、当該入射した光の偏光状態と第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの方向との関係に応じた透過率で透過する。したがって、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置は、たとえば、第1の画素、第2の画素、第3の画素のすべての画素における画素電極PXと共通電極CTとの電位差を、それぞれの画素における輝度(明るさ)が最大になる電位差にすると、白表示になる。
【0051】
図3(a)および図3(b)は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成の別の一例を説明するための模式図である。
図3(a)は、本実施形態の液晶表示パネルの第1の基板における1つの画素の平面構成の別の一例を示す模式平面図である。図3(b)は、図3(a)のC−C’線における液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0052】
本実施形態の液晶表示装置は、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示であればよい。そのため、液晶表示パネル1における1つの画素の構成は、たとえば、図3(a)および図3(b)に示すような構成であってもよい。
【0053】
図3(a)および図3(b)に示した構成では、画素電極PXの平面形状が、概ねy方向に延びる幅W3の帯状電極部を2つ有する櫛歯形状である。また、共通電極CTの平面形状は、概ねy方向に延びる幅W4の帯状電極部を3つ有する櫛歯形状である。そして、画素電極PXの帯状電極部と共通電極CTの帯状電極部とは、間隔Pでx方向に交互に並んでいる。そのため、画素電極PXと共通電極CTとに電位差が生じると、図3(b)に示したような電気力線11(電界)が生成される。
【0054】
このとき、画素電極PXの帯状電極部の幅W3および共通電極CTの帯状電極部の幅W4は、それぞれ、たとえば、7μm程度である。また、画素電極PXの帯状電極部と共通電極CTの帯状電極部との間隔Pは、たとえば、10μm程度である。
【0055】
このような構成の液晶表示パネル1は、第1の配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、第1の偏光板の偏光透過軸9T、および第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの関係を、図2(c)に示した例と同じ関係にすれば、ノーマリブラック表示になる。なお、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1の場合は、たとえば、第1の配向膜配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、および第1の偏光板の偏光透過軸9Tをy方向(映像信号線DLの延在方向)と一致させる。
【0056】
また、図3(a)および図3(b)に示した構成では、液晶層LCとの距離が長いほうの共通電極CTも櫛歯形状にしている。しかしながら、共通電極CTは、これに限らず、たとえば、図2(a)に示したような平板状であってもよい。
【0057】
図4は、本実施形態の液晶表示パネルにおける1つの画素の概略構成のさらに別の一例を説明するための模式断面図である。
【0058】
図2(a)および図2(b)に示した構成や、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1は、共通電極CTと画素電極PXとを積層している。しかしながら、IPS方式の液晶表示装置(液晶表示パネル1)の場合、共通電極CTと画素電極PXとは、たとえば、図4に示すように、同じ層(第2の絶縁層604の上)に形成されていてもよい。このとき、共通電極CTおよび画素電極PXの平面形状は、それぞれ、たとえば、図3(a)に示したような櫛歯形状にし、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部とが、間隙Gでx方向に交互に並ぶようにする。
【0059】
このような構成の液晶表示パネル1は、第1の配向膜605のラビング方向605R、第2の配向膜704のラビング方向704R、第1の偏光板の偏光透過軸9T、および第2の偏光板10の偏光透過軸10Tの関係を、図2(c)に示した例と同じ関係にすれば、ノーマリブラック表示になる。
【0060】
ところで、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示パネル1を有する液晶表示装置には、従来、たとえば、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題がある。このような問題が生じる要因としては、たとえば、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が考えられる。
【0061】
これに対し、本実施形態の液晶表示装置では、下記のような原理に基づいて調整された液晶組成物を用いることで、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくし、黒表示時の色目の青みを低減する。
【0062】
図5は、本発明の原理を説明するための模式グラフ図である。
なお、図5のグラフ図において、横軸λは、液晶層を通過する光の波長(単位はnm)である。また、図5のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。
【0063】
ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、画素電極PXと共通電極CTとの電位差が0のときに黒表示になる。しかしながら、液晶表示装置(液晶表示パネル1)は、その構造上、黒表示時であっても、光源4(バックライト)からの光が液晶層LCを通過する。そのため、ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、黒表示時に、液晶層LCの液晶分子12で散乱した光が第2の偏光板10を通過して漏れ出る、いわゆる光漏れが発生しやすい。特に、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶分子の分子長軸方向が光の進行方向に対して直交しているので、散乱光の光量が多く、黒表示時に漏れ出る光の光量が多くなる。
【0064】
また、液晶層LCとして用いる液晶組成物は、屈折率異方性Δnに波長依存性があり、通常、たとえば、図5に示した実線の曲線P1のように、波長λが短いほど屈折率異方性Δnが大きい。そのため、液晶層LCで起こる光散乱は、短波長の光(青色系の光)の散乱強度が、長波長の光(赤色系の光)の散乱強度よりも高くなる。したがって、黒表示時に漏れ出る散乱光は、青色系の光の割合が、緑色系の光や赤色系の光の割合よりも高くなる。その結果、従来のIPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置は、黒表示時に色目が青みを帯び、コントラストが低下するという問題がある。
【0065】
IPS方式の液晶表示装置のコントラストを向上させる方法としては、たとえば、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくし、弾性定数Kを大きくすることで光漏れ、すなわち液晶層LCで生じる光散乱の強度を低くする方法が提案されている。
【0066】
しかしながら、IPS方式の液晶表示装置において黒表示時に色目が青みを帯びるのは、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性、言い換えると、可視光領域における屈折率異方性の幅が関係している。すなわち、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくしても、その波長依存性が、たとえば、図5に示した実線の曲線P1の波長依存性(可視光領域における屈折率異方性の幅Q1)と同等であれば、黒表示時における色目の青みの度合いはほとんど変わらない。そのため、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするだけでは、黒表示時に色目が青みを帯びるという問題を解決することが難しいと考えられる。
【0067】
したがって、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置における上記の問題を解決するためには、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするとともに、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を、たとえば、図5に示した破線の曲線P2のようにすることが望まれる。屈折率異方性Δnの波長依存性が破線の曲線P2のような液晶層LCは、可視光領域における屈折率異方性の幅がQ2であり、屈折率異方性Δnの波長依存性が実線の曲線P1である液晶層LCの幅Q1に比べて小さい。そのため、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が破線の曲線P2のようになるIPS方式の液晶表示装置は、黒表示時に漏れ出る散乱光における青色系の光の割合と緑色系の光や赤色系の光の割合との差が小さくなり、黒表示時の色目の青みが低減する。
【0068】
液晶層LCの屈折率異方性Δnは、液晶層LCとして用いる液晶組成物に含まれる液晶分子の分子長軸方向の屈折率n‖と分子短軸方向の屈折率n⊥との差分(n‖−n⊥)である。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnを小さくするには、たとえば、液晶分子の分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすればよい。
【0069】
一般的な透光性の材料では、屈折率nが大きくなると、その分散、すなわち波長依存性が大きくなるといわれている(たとえば、非特許文献4:日本化学会編、「透明ポリマーの屈折率制御」、1998年、p.7−8を参照。)。そのため、液晶層LCにおける分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、屈折率n⊥の波長依存性は、相対的に大きくなる。
【0070】
しかしながら、このとき、当該液晶層LCにおける分子長軸方向の屈折率n‖が変わらなければ、屈折率n‖の波長依存性は変わらない。そのため、分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、その差分である屈折率異方性Δnの波長依存性は、相対的に小さくなる。このことから、液晶層LCは、分子長軸方向の屈折率n‖と比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなるようにすると、屈折率異方性Δnの波長依存性を相対的に小さくすることができると考えられる。
【0071】
また、非特許文献4によると、屈折率nは、下記数式4の関係が成り立つ。
(n2−1)/(n2+2)=4/3πNα (数式4)
【0072】
なお、数式4において、Nは1cm3あたりの分子の数であり、αは分極率である。
【0073】
数式4から明らかなように、屈折率nは、分極率αに依存しており、分極率αが大きくなると、屈折率nも大きくなる。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を低減するためには、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなるようにすればよいことになる。
【0074】
本願発明者らは、上記の点をふまえ、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さく、かつ、液晶表示装置の表示特性を損なうことがない液晶層LCの構成について検討した。その結果、本願発明者らは、液晶層LCとして用いる液晶組成物に、下記構造式1で表される化合物を含有させるとよいことを見出した。
【0075】
【化2】
【0076】
なお、構造式1において、X1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかである。また、構造式1において、mおよびnは、それぞれ、0または1である。また、構造式1において、A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合、または−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式1において、Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環である。
【0077】
また、構造式1で表される化合物は、mおよびnの組み合わせにより、環の数が変わるが、いずれの化合物においても、1つ以上の環が電子供与性基を有する構造にすることが望ましい。すなわち、構造式1で表される化合物の具体的な構造としては、たとえば、下記構造式2乃至構造式7のような構造が挙げられる。
【0078】
【化3】
【0079】
なお、構造式2乃至構造式7において、X1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基である。また、構造式2乃至構造式7において、A、A1、A2、A3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合か、または−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式2乃至構造式7におけるA、A1、A2、A3が原子を介さない直接的な結合の場合、B1、B2、B3、B4は、少なくともいずれか1つがメチル基、メトキシ基、アミノ基から選ばれる電子供与性を有する置換基である。また、構造式2乃至構造式7におけるA、A1、A2、A3が−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基の場合、B1、B2、B3、B4は、水素原子もしくはメチル基、メトキシ基、アミノ基から選ばれる電子供与性を有する置換基である。
【0080】
また、B1、B2、B3、B4が、水素原子以外の置換基である場合、当該置換基は、1つのベンゼン環に2つ以上であってもよい。すなわち、構造式2における置換基B1がメチル基(Me)の場合、当該メチル基が結合しているベンゼン環は、たとえば、下記構造式8a乃至構造式8fの、どの構造であってもよい。
【0081】
【化4】
【0082】
なお、構造式8a乃至構造式8fにおける*は、それぞれ、構造式2におけるA、X2である。また、構造式8a乃至構造式8fのような構造は、構造式2におけるB1に限らず、構造式2におけるB2や、構造式3乃至構造式7におけるB1、B2、B3、B4にも当てはまる。また、構造式8a乃至構造式8fのような構造は、電子供与性基がメチル基である場合に限らず、たとえば、電子供与性基がメトキシ基、アミノ基などの場合にも当てはまる。
【0083】
また、電子供与性基B1、B2、B3、B4は、たとえば、水素原子であってもよい。また、構造式1で表される化合物は、前述のように、当該化合物が有する環のうちの1つ以上の環に、電子供与性を有する置換基があればよい。したがって、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式9a乃至構造式9fが挙げられる。
【0084】
【化5】
【0085】
なお、構造式9a乃至構造式9fにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは、電子供与性を有する置換基である。
【0086】
また、構造式9a乃至構造式9cにおいて、Aは、それぞれ、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式9d乃至構造式9fは、それぞれ、構造式9a乃至構造式9cにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造であり、B1、B2、およびB3のいずれか1つは電子供与性を有する置換基である。
【0087】
また、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,1)または(m,n)=(1,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式10a乃至構造式10gや、構造式11a乃至構造式11gのような構造が挙げられる。
【0088】
【化6】
【0089】
【化7】
【0090】
なお、構造式10a乃至構造式10gにおいて、Aは、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式10a乃至構造式10gにおいて、B1、B2、およびB3は、それぞれ、水素原子もしくは電子供与性を有する置換基である。
【0091】
また、構造式11a乃至構造式11gは、それぞれ、構造式10a乃至構造式10gにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造である。この、構造式11a乃至構造式11gにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは電子供与性基であるが、少なくとも1つは電子供与性を有する置換基である。
【0092】
また、構造式1で表される化合物において、(m,n)=(0,1)または(m,n)=(1,0)とした場合、より具体的な構造としては、たとえば、下記構造式12a乃至構造式12eや、構造式13a乃至構造式13eのような構造が挙げられる。
【0093】
【化8】
【0094】
【化9】
【0095】
なお、構造式12a乃至構造式12eにおいて、Aは、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基である。また、構造式12a乃至構造式12eにおいて、B1、B2、およびB3は、それぞれ、水素原子もしくは電子供与性を有する置換基である。
【0096】
また、構造式13a乃至構造式13eは、それぞれ、構造式12a乃至構造式12eにおけるAを、原子を介さない直接的な結合にした構造である。この、構造式13a乃至構造式13gにおいて、B1、B2、およびB3は水素原子もしくは電子供与性基であるが、少なくとも1つは電子供与性を有する置換基である。
【0097】
なお、上記の構造式2乃至構造式7、構造式8a乃至構造式8f、構造式9a乃至構造式9f、構造式10a乃至構造式10g、構造式11a乃至構造式11g、構造式12a乃至構造式12e、および構造式13a乃至構造式13fは、それぞれ、構造式1で表される化合物の具体的な構造の一例である。すなわち、構造式1で表される化合物の構造は、前述の条件を満たしていれば、別の構造であってもよい。
【0098】
構造式1で表される化合物は、2つ乃至4つの環が並んでいる方向(水平方向)が分子長軸方向である。そのため、構造式1で表される化合物の環に結合している電子供与性基は、当該環から分子短軸方向に延びることになり、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなる。
【0099】
また、IPS方式の液晶表示装置の液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いた場合、当該液晶層LCの配向は、液晶分子および構造式1で表される化合物によるホモジニアス配向になる。すなわち、当該液晶組成物を用いた液晶層LCでは、構造式1で表される化合物の分子長軸方向および分子短軸方向が、それぞれ、液晶分子の分子長軸方向および分子短軸方向と一致する。
【0100】
したがって、IPS方式の液晶表示装置の液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いた場合、当該液晶層LCは、分子長軸方向の屈折率n‖と比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなり、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなる。すなわち、液晶層LCとして、構造式1で表される化合物を含有させた液晶組成物を用いたIPS方式の液晶表示装置は、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなり、黒表示時の色目の青みが低減する。
【0101】
また、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくする効果は、たとえば、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4を、−CH=CH−、−CH=N−、−CC−などの不飽和結合やエステルといった構造にした場合でも期待できる。しかしながら、これらの不飽和結合やエステルといった構造を有する化合物は、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4を、原子を介さない直接的な結合や、飽和結合といった構造にした場合に比べて、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくする効果が弱い。そのため、構造式1におけるA1、A2、A3、およびA4は、原子を介さない直接的な結合であって、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基か、またはA1、A2、A3、およびA4は、−CH2−CH2−、−CH2−O−、−CF2−O−で示される飽和結合を有する置換基で、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基にすることが望ましい。
【0102】
また、構造式1に類似した構造としては、たとえば、特許文献1(特開2008−58374号公報)や特許文献2(特開2006−232809号公報)に記載された構造が挙げられる。しかしながら、本発明は、ネマチック液晶をホモジニアス配向させた液晶表示装置にかかるものであり、高分子分散液晶を用いた液晶表示装置ではない。そのため、構造式1におけるX1、X2は、アクリル基やエポキシ基のような光重合性の置換基は含まない。したがって、本実施形態の液晶表示装置における液晶組成物は、特許文献1や特許文献2に記載されたものと異なる。
【実施例1】
【0103】
図6は、本発明による実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図6のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図6のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図6のグラフ図において、実線の曲線P3は、実施例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図6のグラフ図において、点線の曲線P4は、実施例1の液晶表示装置と比較するための比較例1の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0104】
実施例1では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図2(a)乃至図2(c)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例1では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0105】
なお、実施例1では、画素電極PXと共通電極CTとの間に介在する絶縁層の厚さ(第1の絶縁層の厚さと第2の絶縁層の厚さとの和)が550nmになるようにした。また、実施例1では、厚さが約77nmのITO膜をエッチングして画素電極PXを形成し、画素電極PXにおけるスリットの幅W1および帯状電極部分の幅W2を、それぞれ、5μmにした。
【0106】
また、実施例1では、構造式1で表される化合物として、下記構造式14で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0107】
【化10】
【0108】
構造式14で表される化合物は、構造式1におけるm,nをm=0,n=1とし、A2を原子を介さない直接的な結合とし、A3を −O−CH2− とし、Z1,Z3,Z4をベンゼン環とし、X1,X2をプロピル基(CH3−CH2−CH2−)とした構造である。
【0109】
また、構造式14で表される化合物は、ベンゼン環(Z1,Z3,Z4)の電子供与性を有する置換値を、水素原子とした構造である。
【0110】
また、実施例1では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式14で表される化合物を5wt%添加して得られる第2の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0111】
なお、構造式14で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0112】
まず、4−(4'−プロピルフェニル)フェノール0.7g、4−プロピルベンジルクロリド0.56g、および炭酸カリウム0.9gを、ジメチルホルムアミド5ml中に加え、120℃で1.5時間反応させた。次に、その反応液を室温まで冷却して水を加え、不要物を酢酸エチルで抽出した後、当該抽出物の有機相を水、塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、これを減圧留去し、残留物をシリカカラムで精製して、構造式14で表される化合物1.05gを得た。
【0113】
このとき、4−(4'−プロピルフェニル)フェノールは、下記のような手順で合成した。
【0114】
まず、4−ベンジルオキシ−ブロモベンゼン2.63g、4−プロピルフェニルボロン酸2.46g、炭酸カリウム2.76g、および塩化パラジウム180mgを、ピリジン20ml中に加え、24時間加熱撹拌した後、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。次に、その抽出物の有機相を5%塩酸、水、塩水にて洗浄し、当該有機相を、硫酸マグネシウムで乾燥した。次に、これを減圧にて溶媒を留去し、残留物をシリカカラム(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製した。次に、これをメタノール30mlに溶解し、10%Pd−C(300mg)を加え、水素気流下で24時間反応させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮した。そして、これをシリカカラム(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて精製し、4−(4'−プロピルフェニル)フェノール3.0gを得た。
【0115】
また、4−プロピルベンジルクロリドは、4−プロピル安息香酸を水素化リチウムアルミニウムにて還元し、塩化チオニルを作用させて得た。
【0116】
そして、本願発明者らが、第2の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した実線の曲線P3のような結果が得られた。
【0117】
また、本願発明者らは、第2の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式15で表される化合物を5wt%添加した第3の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した点線の曲線P4のような結果が得られた。
【0118】
【化11】
【0119】
なお、構造式15で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0120】
まず、1,4−ジブロモベンゼン1.77g、4−プロピルフェニルボロン酸3.7g、炭酸カリウム4.14g、および塩化パラジウム40mgを、ピリジン10ml中に加え、24時間加熱撹拌した後、減圧にて溶媒を除去し、残留物を水洗した。次に、これをメタノール中70℃にて30分撹拌した後、不要物を濾別し、構造式15で表される化合物1.8gを得た。
【0121】
構造式14で表される化合物と、構造式15で表される化合物とは、それぞれ、3つのベンゼン環を有する構造である。しかしながら、構造式14で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが、−O−CH2−を介して結合している。これに対し、構造式15で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが直接結合している。
【0122】
構造式15で表される化合物は、通常、3つのベンゼン環が分子長軸方向にまっすぐに並んでいるので、3つのベンゼン環は分子短軸方向の位置のずれが小さい。
【0123】
これに対し、構造式14で表される化合物は、中央のベンゼン環と右端のベンゼン環とが、−O−CH2−を介して結合しているので、当該2つのベンゼン環は分子短軸方向の位置のずれが大きくなる。
【0124】
また、構造式14で表される化合物と構造式15で表される化合物とは、その構造から、分子長軸方向の分極率α‖(屈折率n‖)が、ほぼ同じであると考えられる。
【0125】
そのため、構造式14で表される化合物における分子長軸方向の分極率および分子短軸方向の分極率をそれぞれα2‖およびα2⊥とし、構造式3で表される化合物における分子長軸方向の分極率および分子短軸方向の分極率をそれぞれα3‖およびα3⊥とすると、それぞれの化合物における分子長軸方向の分極率と分子短軸方向の分極率と比の関係は、(α2⊥/α2‖)>(α3⊥/α3‖)になると考えられる。
【0126】
したがって、図6に示したように、構造式14で表される化合物を含有する第2の液晶組成物のほうが、構造式15で表される化合物を含有する第3の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0127】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第2の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0128】
また、第2の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式14で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0129】
また、液晶層LCとして第2の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0130】
一方、第2の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0131】
したがって、第2の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0132】
以上説明したように、実施例1の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0133】
また、実施例1では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0134】
また、実施例1では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式14で表される化合物を挙げた。構造式14は、構造式1におけるX1およびX2がプロピル基(CH3−CH2−CH2−)になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式14で表される化合物における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を、上記の水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0135】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式14で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式14で表される化合物と、構造式14における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0136】
また、実施例1では、第1の液晶組成物に、構造式14で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式14で表される化合物、あるいは構造式14と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0137】
また、実施例1では、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第2の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第2の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図3(a)および図3(c)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例2】
【0138】
実施例1では、第1の液晶組成物に、構造式14で表される化合物を添加した場合を例に挙げた。構造式14で表される化合物は、3つのベンゼン環の電子供与性を有する置換基が、すべて水素原子である。しかしながら、構造式1で表される化合物における電子供与性を有する置換基は、前述のように、メチル基、メトキシ基、アミノ基などであってもよい。
【0139】
そこで、実施例2では、構造式14と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の一例として、下記構造式16で表される化合物を挙げる。
【0140】
【化12】
【0141】
なお、構造式16で表される化合物は、本願発明者らが下記のような手順で合成したものを用いた。
【0142】
まず、4−ヨウ化−3−メチル安息香酸メチル8.3gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させ、−40℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムクロリド(2Mテトラヒドロフラン溶液16ml)を滴下し、さらに同温度にて1時間反応させ後、ジメチルホルムアミド8mlを加え、30分間反応させた。次に、室温まで昇温し、飽和塩化アンモニウム水溶液で分解した。さらにこれをエーテルで抽出し、有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、これを溶媒留去して化合物Aを得た。
【0143】
また、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド7.43gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させ、−30℃にてn−ブチルリチウム(1.6M、12.5ml)を加え、同温度で30分反応させた。次に、これに先の化合物A3.6gを加え、さらに30分反応させた。次に、これを室温まで昇温し、飽和塩化アンモニウム水溶液で分解した。さらにこれをエーテルで抽出、有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、これを溶媒留去し化合物Bを得た。
【0144】
次に、この化合物B3.0gをメタノール50mlに溶解させ、10%Pd−C300mgを加え、水素気流下で24時間反応させた後、セライト濾過し、濾液を濃縮し化合物C2.74gを得た。
【0145】
次に、化合物C1.92gをテトラヒドロフラン20mlに溶解させ、水素化リチウムアルミニウム1.0gを加え、3時間加熱撹拌した。その後、塩化チオニル3.6gを加え、3時間加熱撹拌したのち、減圧で溶媒を留去して化合物Dを得た。
【0146】
次に、化合物D0.79g、実施例1で説明した手順で合成した4−(4'−プロピルフェニル)フェノール0.7g、および炭酸カリウム0.9gをジメチルホルムアミド5ml中に加え、120℃にて1.5時間反応させた。その後、冷却し、水を加え不要物を酢酸エチルで抽出し、有機相を水および塩水にて洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。そして最後に、これを減圧留去し、残留物をシリカカラムで精製して、構造式16で表される化合物1.1gを得た。
【0147】
また、実施例2では、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式16で表される化合物を5wt%添加して得られる第3の液晶組成物を、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いた。このとき、液晶表示パネル1は、液晶層LCとして用いる液晶組成物以外の構成を、実施例1で用いたものと同じ構成にした。
【0148】
そして、本願発明者らが、第3の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図6に示した実線の曲線P3と同様の結果が得られた。
【0149】
したがって、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第3の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0150】
また、第3の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式16で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0151】
また、液晶層LCとして第3の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0152】
一方、第3の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0153】
したがって、第3の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0154】
以上説明したように、実施例2の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0155】
また、実施例2では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0156】
また、実施例2では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式16で表される化合物を挙げた。構造式16は、構造式1におけるX1およびX2がプロピル基(CH3−CH2−CH2−)になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式16で表される化合物における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を、上記の水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0157】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式16で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式16で表される化合物と、構造式16における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方を水素原子、アルキル基(プロピル基を除く)、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0158】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物を複数種類にする場合、その組み合わせは、たとえば、構造式14で表される化合物と、構造式16で表される化合物のように、環に結合した電子供与性を有する置換基の構造が異なる化合物の組み合わせであってもよい。
【0159】
また、実施例2では、第1の液晶組成物に、構造式16で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式16で表される化合物、あるいは構造式16と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0160】
また、実施例2では、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第3の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第3の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例3】
【0161】
図7は、本発明による実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図7のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図7のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図7のグラフ図において、実線の曲線P5は、実施例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図7のグラフ図において、点線の曲線P6は、実施例3の液晶表示装置と比較するための比較例2の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0162】
実施例3では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図3(a)および図3(b)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例3では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0163】
なお、実施例3では、画素電極PXと共通電極CTとの積層方向(上下方向)の距離が500nmになるようにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部の幅W3および画素電極PXの帯状電極部の幅W4を、それぞれ、7μmにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部との間隔Pを、10μmとした。
【0164】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物として、下記構造式17で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0165】
【化13】
【0166】
構造式17で表される化合物は、構造式1におけるm,nをm=n=0とし、A3を原子を介さない直接的な結合とし、Z1,Z4をベンゼン環とし、X1,X2を水素原子とした構造である。
【0167】
また、構造式17で表される化合物は、2つのベンゼン環(Z1,Z4)のそれぞれに、電子供与性を有する置換値としてメチル基を有する構造である。
【0168】
また、実施例3では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式17で表される化合物(アルドリッチ社製)を5wt%添加して得られる第5の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0169】
そして、本願発明者らが、第5の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した実線の曲線P5のような結果が得られた。
【0170】
また、本願発明者らは、第5の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式18で表される化合物(アルドリッチ社製)を5wt%添加した第6の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した点線の曲線P6のような結果が得られた。
【0171】
【化14】
【0172】
構造式17で表される化合物は、構造式18で表される化合物における2つのベンゼン環について、それぞれの環の水素原子の1つをメチル基に置換した構造である。そのため、構造式17で表される化合物における分子長軸方向の分極率に対する分子短軸方向の分極率は、構造式18で表される化合物における分子長軸方向の分極率に対する分子短軸方向の分極率よりも大きくなる。
【0173】
したがって、図7に示したように、構造式17で表される化合物を含有する第5の液晶組成物のほうが、構造式18で表される化合物を含有する第6の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0174】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第5の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0175】
また、第5の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式17で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0176】
また、液晶層LCとして第5の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0177】
一方、第5の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0178】
したがって、第5の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0179】
以上説明したように、実施例3の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【0180】
また、実施例3では、母体となる第1の液晶組成物として、メルク社製ZLI4792を用いた。しかしながら、第1の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている他の液晶組成物(ネマチック液晶)であってもよい。
【0181】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物の一例として、構造式17で表される化合物を挙げた。構造式17は、構造式1におけるX1およびX2が水素原子になっている化合物である。しかしながら、構造式1におけるX1およびX2は、前述のように、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであればよい。また、構造式1におけるX1とX2は、異なる基であってもよい。したがって、第1の液晶組成物に添加する化合物は、たとえば、構造式17で表される化合物における分子長軸方向の両端のいずれか一方または両方を、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物であってもよい。
【0182】
また、第1の液晶組成物に添加する化合物は、1種類(たとえば、構造式17で表される化合物のみ)に限らず、複数種類であってもよい。すなわち、第1の液晶組成物には、たとえば、構造式17で表される化合物と、構造式17における分子長軸方向の両端の基(原子団)のいずれか一方または両方をアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、およびアルケニルオキシ基のいずれかで置換した化合物とを添加してもよい。
【0183】
また、実施例3では、第1の液晶組成物に添加する化合物として、構造式17のように、2つのベンゼン環のそれぞれに、1つのメチル基がある化合物を挙げた。しかしながら、当該2つのベンゼン環には、これに限らず、たとえば、メトキシ基、アミノ基などの、電子供与性を有する他の置換基が結合していてもよい。また、構造式1で表される化合物は、前述のように、2つ以上の環のいずれかに電子供与性を有する置換基があればよい。そのため、構造式1で表される化合物として、ベンゼン環が2つの化合物を用いる場合は、当該2つのベンゼン環のうちのいずれか一方の環のみに、メチル基、メトキシ基、アミノ基などの電子供与性を有する置換基が結合している構造であってもよい。
【0184】
また、実施例3では、第1の液晶組成物に、構造式17で表される化合物を5wt%添加した場合を例に挙げた。しかしながら、構造式17で表される化合物、あるいは構造式17と類似した構造であり、かつ、構造式1の条件を満たす化合物の添加量は、これに限らず、液晶表示パネル1の表示特性を損なわない範囲で、適宜変更可能であることはもちろんである。
【0185】
また、実施例3では、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして、第5の液晶組成物を用いた場合を例に挙げた。しかしながら、第5の液晶組成物は、これに限らず、たとえば、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1や、図4に示した構成の液晶表示パネル1の液晶層LCとして用いることもできることはもちろんである。
【実施例4】
【0186】
IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置における、黒表示時の色目の青みを低減するには、前述のように、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくすればよい。そして、本発明では、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を小さくするために、母体である第1の液晶組成物(ネマチック液晶)に、構造式1で表される化合物を添加した液晶組成物を、液晶層LCとして用いる。
【0187】
このとき、構造式1で表される化合物は、前述のように、分子長軸方向の分極率α‖に対する分子短軸方向の分極率α⊥が小さいことが望ましい。またこのとき、分子長軸方向の分極率α‖と分子短軸方向の分極率α⊥との関係は、たとえば、下記数式1で表される関係を満たすことが望ましい。
【0188】
【数2】
【0189】
なお、数式1において、α‖は、分子構造主骨格の分子長軸方向の分極率であり、α⊥は、分子短軸方向の分極率である。また、数式1において、Rは、分子構造主骨格中に含まれるベンゼン環、シクロヘキサン環など環状構造の総数である。
【0190】
また、分子構造主骨格は、第1の液晶組成物に添加する化合物におけるX1、X2を水素原子とした構造のことである。すなわち、第1の液晶組成物に添加する化合物が、下記構造式19で表される化合物である場合、その分子構造主骨格は、下記構造式20で表される。
【0191】
【化15】
【0192】
また、分極率α‖およびα⊥は、それぞれ、半経験的分子軌道計算法(MOPAC2002)のPM3法(キーワードPOLAR)から得られる一次の分極率αxx、αyy、およびαzzを用いて、下記数式5および下記数式6のように定義した。
α‖=αxx ・・・(数式5)
α⊥=0.5×(αyy+αZZ) ・・・(数式6)
【0193】
このとき、構造式19で表される化合物の分子構造主骨格(構造式20で表される化合物)は、α‖が321.1、α⊥が163.14であり、また分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rは3であるので、数式1の関係を満たす。
【0194】
図8(a)および図8(b)は、数式1で表される関係の根拠を説明するための模式グラフ図である。
図8(a)は、化合物に含まれる環の数毎に調べた分極率の差分と分極率の比との関係の一例を示す模式グラフ図である。図8(b)は、環の数と図8(a)に示した直線の傾きとの関係の一例を示す模式グラフ図である。
【0195】
数式1で表される分極率α‖、α⊥の関係は、本願発明者らが、下記のような検討をした結果、得られた関係である。
【0196】
液晶層LCの屈折率異方性Δnは、前述のように、分子長軸方向の屈折率n‖と分子短軸方向の屈折率n⊥との差分(n‖−n⊥)である。また、屈折率n‖,n⊥は、それぞれ、値が大きくなると波長依存性が大きくなる。
【0197】
このとき、分子短軸方向の屈折率n⊥を大きくすると、その波長依存性は相対的に大きくなるが、分子長軸方向の屈折率n‖が変わらなければ、その波長依存性は変わらない。そのため、分子長軸方向の屈折率n‖を変えずに分子短軸方向の屈折率⊥を大きくすれば、その差分であるΔnの波長依存性は、相対的に小さくなることになる。このことから、分子長軸方向の屈折率n‖に比べて相対的に分子短軸方向の屈折率n⊥が大きくなると、屈折率異方性Δnの波長依存性は相対的に小さくなることになる。
【0198】
また、分子長軸方向の屈折率n‖および分子短軸方向の屈折率n⊥は、それぞれ、数式1のような関係が成り立つ。したがって、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を低減するためには、分子長軸方向の分極率α‖に比べて分子短軸方向の分極率α⊥が大きくなるようにすればよいことになる。
【0199】
ところで、分子構造(分子中に含まれる環の数R)毎の分極率α‖と分極率α⊥との関係については、たとえば、図8(a)に示すような関係になり、分子構造に含まれる環の数が同じであれば、(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係は、ほぼ直線の関係にある。
【0200】
なお、図8(a)におけるR=2の直線は、下記構造式21a乃至構造式21cの3つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0201】
【化16】
【0202】
また、図8(a)におけるR=3の直線は、下記構造式22a乃至構造式22dの4つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0203】
【化17】
【0204】
また、図8(a)におけるR=4の直線は、下記構造式23a乃至構造式23dの4つの構造における(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係から引いた直線である。
【0205】
【化18】
【0206】
また、分極率α‖に対して相対的に分極率α⊥が大きい材料の場合は、(α‖−α⊥)と(α‖/α⊥)との関係がこれらの直線よりも下の領域にプロットされる。
【0207】
このとき、図8(a)に示した3本の直線は、それぞれ、(α‖/α⊥)=S(α‖−α⊥)+Uとすると、いずれの直線においてもUがほぼ1である。また、それぞれの直線の傾きSと環の数Rには、たとえば、図8(b)に示すような関係がある。
【0208】
そして、本願発明者らは、図8(a)および図8(b)に基づき、数式1のような関係を導き出した。すなわち、本願発明者らは、構造式1で表される化合物であり、かつ、数式1を満たす構造の化合物を第1の液晶組成物に添加することにより、液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性をさらに低減することができることを見出した。
【0209】
図9は、本発明による実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性の一例を示す模式グラフ図である。
なお、図9のグラフ図において、横軸λは、液晶層LCを通過する光の波長(単位はnm)である。また、図9のグラフ図において、縦軸Δn/Δnλ=589は、
波長λ=589nmの光に対する屈折率異方性Δnλ=589を1としたときの各波長λの光に対する屈折率異方性Δnである。また、図9のグラフ図において、実線の曲線P7は、実施例4の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性の波長依存性である。また、図9のグラフ図において、点線の曲線P8は、実施例4の液晶表示装置と比較するための比較例3の液晶表示装置における液晶層の屈折率異方性Δnの波長依存性である。
【0210】
実施例4では、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示の液晶表示装置の一例として、図3(a)乃至図3(c)に示したような構成の液晶表示パネル1を有する液晶表示装置を挙げる。このとき、液晶表示パネル1の製造方法は、基本的には従来の製造方法と同じ手順であり、液晶層LCとして用いる液晶組成物の調整方法のみが異なるだけである。そのため、実施例4では、第1の基板6の製造方法や第2の基板7の製造方法などの説明を省略する。
【0211】
なお、実施例4では、画素電極PXと共通電極CTとの積層方向(上下方向)の距離が500nmになるようにした。また、実施例4では、共通電極CTの帯状電極部の幅W3および画素電極PXの帯状電極部の幅W4を、それぞれ、7μmにした。また、実施例3では、共通電極CTの帯状電極部と画素電極PXの帯状電極部との間隔Pを、10μmとした。
【0212】
また、実施例3では、構造式1で表される化合物として、構造式19で表される化合物を用いた場合を例に挙げる。
【0213】
また、実施例4では、母体となる第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に、構造式19で表される化合物(アルドリッチ社製)を10wt%添加して得られる第7の液晶組成物を、液晶層LCとして用いた。
【0214】
そして、本願発明者らが、第7の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図9に示した実線の曲線P7のような結果が得られた。
【0215】
また、本願発明者らは、第7の液晶組成物の代わりに、第1の液晶組成物(メルク社製ZLI4792)に下記構造式24で表されるアズレン(アルドリッチ社製)を10wt%添加した第8の液晶組成物を用いた液晶層LCの屈折率異方性Δnの波長依存性を調べたところ、たとえば、図7に示した点線の曲線P8のような結果が得られた。
【0216】
【化19】
【0217】
構造式24で表されるアズレンは、その構造自体が、構造式1の条件を満たしていない。また、構造式24で表されるアズレンは、分極率α‖が163.9、分極率α⊥が60.2であり、分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rが2であるので、数式1を満たさない。
【0218】
一方、構造式19で表される化合物は、その構造自体が、構造式1の条件を満たしている。また、構造式19で表される化合物は、α‖が321.1、α⊥が163.14であり、また分子構造主骨格中に含まれる環状構造の数Rは3であるので、数式1の関係を満たす。
【0219】
したがって、図9に示したように、構造式19で表される化合物を含有する第7の液晶組成物のほうが、構造式24で表される化合物(アズレン)を含有する第8の液晶組成物よりも、屈折率異方性Δnの波長依存性が小さくなったと考えられる。
【0220】
すなわち、IPS方式であり、かつ、ノーマリブラック表示である液晶表示装置は、液晶層LCとして第7の液晶組成物を用いることで、たとえば、黒表示時の色目の青みを低減できる。
【0221】
また、第7の液晶組成物は、母体となる第1の液晶組成物として、従来のIPS方式の液晶表示装置で用いられている液晶組成物を用いることができる。そのため、構造式19で表される化合物の添加量が、たとえば、1wt%以上20wt%以下であれば、駆動電圧や透過率などの液晶表示パネル1の駆動特性を阻害することなく、黒表示時の色目の青みを低減できるという効果を期待することができる。
【0222】
また、液晶層LCとして第7の液晶組成物を用いた液晶表示装置は、たとえば、室温(25℃)で30分間、映像や画像を表示したときの液晶表示パネル1の温度を測定したところ、バックライトや駆動回路などの発熱により35℃から40℃程度に上昇した。
【0223】
一方、第7の液晶組成物は、ネマチック相-等方相転移温度が70℃以上であった。
【0224】
したがって、第7の液晶組成物は、液晶表示装置(液晶表示パネル1)の液晶層LCとして用いることができる。
【0225】
以上説明したように、実施例4の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みを低減でき、コントラストを向上させることができる。
【実施例5】
【0226】
図10は、本発明による実施例5の液晶表示パネルの断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0227】
RGB方式のカラー表示に対応した液晶表示装置の場合、映像や画像の1ドットの色は、上記のように、赤色フィルタを有する第1の画素の明るさ、緑色フィルタを有する第2の画素の明るさ、および青色フィルタを有する第3の画素の明るさの組み合わせによって表現される。このとき、黒表示および白表示を、ともに良好な表示にするためには、たとえば、第1の画素、第2の画素、第3の画素のそれぞれにおける液晶層のリタデーションがほぼ同じ値になるようにすることが望ましい。このようにするためには、可視光における波長域において、赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタのそれぞれにおけるリタデーションの平均的な値をほぼ同じ値とすることが望ましい。このリタデーションの平均的な値とは、赤色フィルタでは600nmと700nmにおけるリタデーションの平均、緑色フィルタでは500nmと600nmにおけるリタデーションの平均、青色フィルタでは400nmと500nmにおけるリタデーションの平均である。
【0228】
リタデーションは、液晶層の屈折率異方性Δnと液晶層の厚さdとの積Δndである。また、液晶層LCの屈折率異方性Δnは、前述のように、波長依存性があり、短波長側(青色系の光)のほうが屈折率異方性Δnが大きくなる。また、屈折率異方性Δnの波長依存性は、緑色系の光から赤色系の光の波長領域における依存性よりも、緑色系の光から青色系の光の波長領域における依存性のほうが大きい。
【0229】
そのため、厚さがdの液晶層では、青色系の光に対するリタデーションΔndが、緑色系の光や赤色系の光に対するリタデーションΔndに比べて大きくなる。
【0230】
また、第1の画素は、赤色フィルタを有し、赤色系の光のみを通過させるので、第1の画素におけるリタデーションは、赤色系の光に対するリタデーションを考慮すればよい。また、第2の画素は、緑色フィルタを有し、緑色系の光のみを通過させるので、第2の画素のリタデーションは、緑色系の光に対するリタデーションを考慮すればよい。また、第3の画素は、青色フィルタを有し、青色系の光のみを通過させるので、第3の画素のリタデーションは、青色系の光に対するリタデーションのみを考慮すればよい。
【0231】
したがって、第1の画素、第2の画素、第3の画素のそれぞれにおける液晶層の平均的なリタデーションがほぼ同じ値になるようにするには、たとえば、図10に示すように、青色フィルタ702Bを有する第3の画素の液晶層LCの厚さdbを、赤色フィルタ702Rを有する第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび緑色フィルタ702Gを有する第2の画素の液晶層LCの厚さdgよりも薄くすればよい。第3の画素の液晶層LCの厚さdbを、第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび第2の画素の液晶層LCの厚さdgよりも薄くするには、たとえば、青色フィルタ702Bを、赤色フィルタ702Rおよび緑色フィルタ702Gよりも厚く形成すればよい。可視光における波長域において、赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタのそれぞれの透過波長範囲内のリタデーションをほぼ同じ値になるようにするために鋭意検討した結果、0.9dg<db≦dgを満たすことが望ましく、さらには、dg≦dr<1.05dgであることが望ましい。
【0232】
このとき、第3の画素の液晶層LCの厚さdbを3.1μm、第1の画素の液晶層LCの厚さdrおよび第2の画素の液晶層LCの厚さdgをそれぞれ3.4μmにすると、たとえば、バックライトの光源4(冷陰極管)の輝線スペクトルのうちの、第3の画素における波長435nmの光に対するリタデーションと、第2の画素における波長545nmに対するリタデーションはそれぞれ、ほぼ0.45と等しくなる。そのため、このような液晶表示装置の液晶層LCとして、実施例4で挙げた第7の液晶組成物を用いた場合、実施例4の液晶表示装置に比べて、黒表示時の色目の青みさらに低減することができる。
【0233】
また、実施例5の液晶表示装置では、第1の画素における赤色系の波長の光に対するリタデーション、第2の画素における緑色系の波長の光に対するリタデーション、および第3の画素における青色系の波長の光に対するリタデーションが、ほぼ同じ値になるようにすることが望ましい。すなわち、実施例5の液晶表示装置は、より厳密には、たとえば、第1の画素の液晶層LCの厚さdr、第2の画素の液晶層LCの厚さdg、および第3の画素の液晶層LCの厚さdbの関係が、0.9dg<db≦dg、さらには、dg≦dr<1.05dgになるようにすることが望ましい。
【0234】
そこで、本願発明者らは、第1の画素の液晶層LCの厚さdr、第2の画素の液晶層LCの厚さdg、および第3の画素の液晶層LCの厚さdbの関係を確認するために、それぞれの液晶層LCの厚さを変えたときの黒表示時の色目の青みの度合いと、白表示時の着色の度合いについて調べた。その結果の一例を下記表1に示す。
【0235】
【表1】
【0236】
なお、表1において、CNは、液晶層LCの厚さの組み合わせを特定する番号である。また、表1において、dr、dg、およびdbは、それぞれ、第1の画素の液晶層LCの厚さ、第2の画素の液晶層LCの厚さ、および第3の画素の液晶層LCの厚さである。また、表1において、db/dgおよびdr/dgは、それぞれ、左欄のdbをdgで除した値およびdrをdgで除した値である。また、表1において、BLBおよびBLWは、それぞれ、目視による、黒表示時の色目の青みの度合いおよび白表示時の着色の度合いである。また、BLBおよびBLWにおける○、△、×は、それぞれ、目視では確認できない、目視で確認できるが従来のものよりも改善されている、従来のものと同程度の度合いである、ということを意味する。
【0237】
また、表1は、実施例4で挙げた液晶表示パネル1、すなわち液晶層LCとして第7の液層組成物を用いた液晶表示パネル1における各画素の液晶層LCの厚さを変えたときの黒表示時の色目の青みの度合いと、白表示時の着色の度合いの一例である。
【0238】
表1からもわかるように、db/dg=1.00である場合、黒表示時の色目の青みの度合いは、従来のものよりも改善されているが、白表示時の着色の度合いが従来のものと同程度である。また、黒表示時の色目の青みの度合いについては、db/dg>1.00になると、黒表示時の色目の青みの度合いが従来のものと同程度になってしまう。また、黒表示時の色目の青みの度合いについては、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbが同じ(db/dg=1.00)である場合よりも、db/dg=0.81のほうが黒表示時の色目の青みの度合いが小さい。
【0239】
しかしながら、db/dgが小さくなると、白表示時の着色が目立つようになる。
【0240】
このことから、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbとの関係は、たとえば、0.9dg<db≦dgであることが望ましいといえる。
【0241】
また、dr/dgの大きさと黒表示時の色目の青みの度合いとの関係、dr/dgの大きさと白表示時の着色の度合いとの関係については、逆に、db/dg>1.00のほうが黒表示時の色目の青みの度合いが小さい。しかしながら、dr/dgが大きくなると、白表示時の着色が目立つようになる。
【0242】
このことから、第2の画素の液晶層LCの厚さdgと第3の画素の液晶層LCの厚さdbとの関係は、たとえば、dg≦dr<1.05dgであることが望ましいといえる。
【0243】
以上説明したように、実施例5の液晶表示装置によれば、黒表示時の色目の青みをさらに低減でき、コントラストをさらに向上させることができる。
【0244】
以上、本発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることはもちろんである。
【0245】
たとえば、母体である第1の液晶組成物に添加する化合物は、前記各実施例で挙げた構造の化合物に限らず、構造式1で表される化合物であればよいことはもちろんである。またこのとき、母体である第1の液晶組成物に添加する化合物は、構造式1の条件を満たし、かつ、分極率α‖,α⊥の関係が数式1を満たす構造の化合物が望ましいことはいうまでもない。
【0246】
また、本発明は、図2(a)乃至図2(c)に示した構成の液晶表示パネル1、図3(a)および図3(b)に示した構成の液晶表示パネル1、図4に示した構成の液晶表示パネル1に限らず、液晶分子をホモジニアス配向させる液晶表示パネル1を有する液晶表示装置全般に適用できることはもちろんである。またさらに、本発明は、液晶テレビなどに用いられる大型の液晶表示装置に限らず、たとえば、携帯電話端末などに用いられる小型の液晶表示装置も含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0247】
1 液晶表示パネル
2 第1の駆動回路
3 第2の駆動回路
4 光源
5 制御回路
6 第1の基板
600 第1の絶縁基板
601 第1の絶縁層
602 半導体層
603 ソース電極
604 第2の絶縁層
605 第1の配向膜
7 第2の基板
700 第2の絶縁基板
701 ブラックマトリクス
702 カラーフィルタ
702R 赤色フィルタ
702G 緑色フィルタ
702B 青色フィルタ
703 オーバーコート層
704 第2の配向膜
8 シール材
9 第1の偏光板
10 第2の偏光板
11 電気力線
12 液晶分子
GL 走査信号線
DL 映像信号線
Tr TFT素子
PX 画素電極
CT 共通電極
LC 液晶層
CL コモン配線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極および共通電極ならびに液晶層を有する画素がマトリクス状に配置された液晶表示パネルを有し、
それぞれの前記画素は、前記画素電極と前記共通電極との電位差に応じて明るさが変化し、かつ、前記画素電極と前記共通電極とが同じ電位のときに最も暗くなる液晶表示装置であって、
前記液晶表示パネルは、
第1の基板と、
第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された液晶層とを有し、
前記液晶層は、液晶分子がホモジニアス配向をしており、かつ、下記構造式1で表される化合物を有し、
下記構造式1におけるX1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであり、
mおよびnは、それぞれ、0または1であり、
Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、
A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、
Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに、電子供与性基を有することを特徴とする液晶表示装置。
【化20】
【請求項2】
前記電子供与性基は、メチル基、メトキシ基、アミノ基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3のうちのいくつかまたは全部が、−CH2−CH2−、−CH2−O−、および−CF2−O−のいずれかであり、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3が原子を介さない直接的な結合であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記構造式1で表される化合物は、X1およびX2を水素原子としたときの分子構造主骨格における分子長軸方向および分子短軸方向の分極率をそれぞれα‖およびα⊥とし、
当該分子構造主骨格に含まれる環状構造の総数をRとしたときに、下記数式1の関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【数3】
【請求項6】
前記液晶表示パネルは、赤色系の光の明るさを変化させる第1の画素と、緑色系の光の明るさを変化させる第2の画素と、青色系の光の明るさを変化させる第3の画素とを有し、
前記第3の画素における前記液晶層の厚さをdbとし、前記第2の画素における前記液晶層の厚さをdgとしたときに、下記数式2の関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
0.9dg<db≦dg ・・・(数式2)
【請求項7】
前記第1の画素における前記液晶層の厚さをdrとしたときに、下記数式3の関係が成り立つことを特徴とする請求項6に記載の液晶表示装置。
dg≦dr<1.05dg ・・・(数式3)
【請求項8】
前記液晶層は、ネマチック層−等方相転移温度が70℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項1】
画素電極および共通電極ならびに液晶層を有する画素がマトリクス状に配置された液晶表示パネルを有し、
それぞれの前記画素は、前記画素電極と前記共通電極との電位差に応じて明るさが変化し、かつ、前記画素電極と前記共通電極とが同じ電位のときに最も暗くなる液晶表示装置であって、
前記液晶表示パネルは、
第1の基板と、
第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された液晶層とを有し、
前記液晶層は、液晶分子がホモジニアス配向をしており、かつ、下記構造式1で表される化合物を有し、
下記構造式1におけるX1およびX2は、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基のいずれかであり、
mおよびnは、それぞれ、0または1であり、
Z1、Z2、Z3、およびZ4は、それぞれ、シクロヘキサン環またはベンゼン環であり、
A1、A2、およびA3は、それぞれ、原子を介さない直接的な結合または飽和結合のみでなる置換基であり、かつ、
Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかに、電子供与性基を有することを特徴とする液晶表示装置。
【化20】
【請求項2】
前記電子供与性基は、メチル基、メトキシ基、アミノ基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3のうちのいくつかまたは全部が、−CH2−CH2−、−CH2−O−、および−CF2−O−のいずれかであり、かつZ1、Z2、Z3、およびZ4のうちのいずれかが、水素原子もしくは電子供与性基であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記構造式1で表される化合物は、A1、A2、およびA3が原子を介さない直接的な結合であり、Z1、Z2、Z3、およびZ4のうちの少なくとも1つが電子供与性基であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記構造式1で表される化合物は、X1およびX2を水素原子としたときの分子構造主骨格における分子長軸方向および分子短軸方向の分極率をそれぞれα‖およびα⊥とし、
当該分子構造主骨格に含まれる環状構造の総数をRとしたときに、下記数式1の関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【数3】
【請求項6】
前記液晶表示パネルは、赤色系の光の明るさを変化させる第1の画素と、緑色系の光の明るさを変化させる第2の画素と、青色系の光の明るさを変化させる第3の画素とを有し、
前記第3の画素における前記液晶層の厚さをdbとし、前記第2の画素における前記液晶層の厚さをdgとしたときに、下記数式2の関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
0.9dg<db≦dg ・・・(数式2)
【請求項7】
前記第1の画素における前記液晶層の厚さをdrとしたときに、下記数式3の関係が成り立つことを特徴とする請求項6に記載の液晶表示装置。
dg≦dr<1.05dg ・・・(数式3)
【請求項8】
前記液晶層は、ネマチック層−等方相転移温度が70℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図9】
【図10】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−175940(P2010−175940A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19720(P2009−19720)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
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