説明

液状多面体構造ポリシロキサン系化合物および該化合物を用いた組成物と硬化物。

【課題】
成型加工性、透明性に優れる液状の多面体構造ポリシロキサン系化合物および該化合物を用いた組成物を提供する。
【解決手段】

[XRSiO−SiO3/2][XRSiO−(RSiO)−SiO3/2][R’−(RSiO)−SiO3/2]
(a〜cは0または1以上の整数、a+b+cは6〜24の整数、b+cは1以上の整数、m、nは1以上の整数;Rは、アルキル基、アリール基であり、それぞれが複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい;R’は、他の多面体構造ポリシロキサン;Xは、水素原子、アルケニル基であり、同一であっても異なっていてもよい)を構成単位とすることを特徴とする多面体構造ポリシロキサン系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型加工性、透明性、耐熱性、耐光性に優れる液状のポリシロキサン系化合物および該当化合物を用いた組成物と硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサン系組成物は、耐熱性、耐寒性、耐候性、耐光性、化学的安定性、電気特性、難燃性、耐水性、透明性、着色性、非粘着性、非腐食性に優れており、様々な産業で利用されている。中でも、多面体骨格を有するポリシロキサンで構成された組成物は、その特異的な化学構造から、さらに優れた耐熱性、耐光性、化学的安定性、低誘電性等を示すことが知られている。
【0003】
しかしながら、多面体骨格を有するポリシロキサンは、一般に、多官能性で固体の化合物であり、反応の制御が難しく、ハンドリング性、成型加工性に乏しいため、材料化が困難であった。例えば、官能基含有ポリシロキサンを用いたヒドロシリル化硬化性組成物が開示されているが(非特許文献1)、該当技術では、出発原料である多面体骨格を有するポリシロキサンが多官能性の固形物であるため、硬化反応の制御が困難であり、塗膜や注入成型が難しい。
【0004】
この他にも、エポキシ基やフェニル基を含有する多面体骨格を有するポリシロキサンを用いた硬化性組成物(特許文献1〜3)が開示されているが、高温条件化では、加熱による着色が見られるなど、ポリシロキサン系組成物の特性が活かしきれていない。
【0005】
上記のように、多面体骨格を有するポリシロキサン化合物を用いた材料の開示は見られるが、ポリシロキサン系組成物の特性を有し、ハンドリング、成型加工性に優れた液状化合物に関する例は見られず、新たな材料の開発が望まれていた。
【特許文献1】特表2004−529984
【特許文献2】特開2004−359933
【特許文献3】特開2006−22207
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1998,120,8380−8391
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成型加工性、透明性、耐熱性、耐光性に優れる液状のポリシロキサン系化合物および該当化合物を用いた組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
1).式
[XRSiO−SiO3/2][XRSiO−(RSiO)−SiO3/2][R’−(RSiO)−SiO3/2]
(a〜cは0または1以上の整数、a+b+cは6〜24の整数、b+cは1以上の整数、m、nは1以上の整数;Rは、アルキル基、アリール基であり、それぞれが複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい;R’は、他の多面体構造ポリシロキサン;Xは、水素原子、アルケニル基であり、同一であっても異なっていてもよい)を構成単位とすることを特徴とする多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【0009】
2).20℃で液状であることを特徴とする1)に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【0010】
3).多面体構造を有するケイ酸塩とモノクロロシランとジクロロシランの混合物とを反応させて得られることを特徴とする1)または2)に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物の製造法。
【0011】
4).モノクロロシランとジクロロシランの混合物のモル比が、モノクロロシラン8モルに対して、ジクロロシランが0.1〜4モルであることを特徴とする3)に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物の製造法。
【0012】
5).3)または4)に記載の製造法で製造されることを特徴とする多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【0013】
6).1)、2)または5)のいずれか1に記載の多面体構造シロキサン系化合物と硬化剤、ヒドロシリル化触媒からなることを特徴とする、多面体構造ポリシロキサン系組成物。
【0014】
7).硬化遅延剤を含有することを特徴とする、6)に記載の多面体構造ポリシロキサン系組成物。
【0015】
8).6)または7)に記載の多面体構造ポリシロキサン系組成物を硬化させてなる硬化物。
【0016】
9).3mm厚の成型体の波長400nmにおける光線透過率が70%以上であることを特徴とする8)に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0017】
成型加工性、透明性、耐熱性、耐光性に優れる液状のポリシロキサン系化合物および該化合物を用いた組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0019】
<多面体構造ポリシロキサン系化合物>
本多面体構造ポリシロキサン系化合物は、側鎖にシロキサン結合を有する、または2個以上の多面体構造ポリシロキサンがシロキサン結合で連結したオリゴマーからなるものであり、以下の式(1)、で表されるシロキサン単位からなるものである。本多面体構造ポリシロキサン系化合物は、側鎖にシロキサン結合を導入、またはシロキサン結合で連結することにより、液状成分とすることが可能である。
[XRSiO−SiO3/2][XRSiO−(RSiO)−SiO3/2][R’−(RSiO)−SiO3/2] (1)
(a〜cは0または1以上の整数、a+b+cは6〜24の整数、b+cは1以上の整数、m、nは1以上の整数である、Rは、アルキル基、アリール基であり、それぞれが複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい、R’は他の多面体構造ポリシロキサン、Xは水素原子、アルケニル基であり、同一であっても異なっていてもよい)。
【0020】
まずは、[XRSiO−SiO3/2][XRSiO−(RSiO)−SiO3/2]単位について説明する。
【0021】
上記シロキサン単位は、側鎖にシロキサン結合が導入された多面体構造ポリシロキサンを構成する成分である。Xは、ヒドロシリル化触媒存在下、ヒドロシリル化反応により硬化剤と架橋反応を発生させる置換基であり、水素原子またはアルケニル基である。
【0022】
Rは、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、アリール基であり、それぞれが複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明におけるRは、耐熱性、耐光性の観点から、メチル基であることが好ましい。
【0023】
[XRSiO−(RSiO)−SiO3/2]単位中のシロキサン結合部位(RSiO)は、多面体構造ポリシロキサン系化合物を液状化するために有用な成分であり、mは1以上の整数であれば特に限定はないが、1〜20の整数であることが望ましい。また、上記シロキサン結合部位は、本発明における多面体構造ポリシロキサンおよび得られる硬化物の物性調整も担っており、m数を調整することによって、架橋密度の調整、皮膜性、レベリング性、脆さ改善などが可能となる。
【0024】
[R’−(RSiO)−SiO3/2]単位は、他の多面体構造ポリシロキサンと連結している成分である。上記シロキサン単位中のシロキサン結合部位(RSiO)は、多面体構造ポリシロキサン系化合物を液状化するために有用な成分であり、nは1以上の整数であれば特に限定はないが、1〜20の整数であることが望ましい。また、上記シロキサン結合部位は、本発明における多面体構造ポリシロキサンおよび得られる硬化物の物性調整も担っており、n数を調整することによって、架橋密度の調整、皮膜性、レベリング性、脆さ改善などが可能となる。R’は、他の多面体構造ポリシロキサンである。
【0025】
<多面体構造ポリシロキサンの製造方法>
本発明において、所望の多面体構造ポリシロキサン系化合物を得るために、多面体構造を有するケイ酸塩を前駆体として使用してもよい。
【0026】
多面体構造を有するケイ酸塩の合成方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いて合成できる。具体的には、テトラアルコキシシランを4級アンモニウムヒドロキシド等の塩基存在下で加水分解縮合させる方法が挙げられる。テトラアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等が例示できる。4級アンモニウムヒドロキシドとしては、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドが例示できる。本発明においては、テトラアルコキシランの替わりに、シリカや稲籾殻等のシリカ含有する物質からも、同様の多面体構造を有するケイ酸塩を得ることが可能である。
【0027】
所望の多面体構造ポリシロキサン系化合物は、前記多面体構造を有するケイ酸塩をモノクロロシラン、ジクロロシランを併用してシリル化することにより得ることができる。
【0028】
クロロシランは、シリル化後の生成物が前記した式(1)で表される化合物として得られる限り特に限定はされない。
【0029】
モノクロロシランとしては、ジメチルヒドロクロロシラン、メチルフェニルヒドロクロロシラン、ジフェニルヒドロクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルフェニルビニルクロロシラン、ジフェニルビニルクロロシラン等が例示できる。
【0030】
ジクロロシランとしては、ジメチルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等が例示できる。
【0031】
クロロシランの添加量は、特に限定されないが、前駆体である多面体構造を有するケイ酸塩のケイ素原子の1個に対して、クロロシランの塩素原子の総数が0.5〜10個になるように用いることが好ましく、0.8〜5であることがさらに好ましい。
【0032】
モノクロロシランとジクロロシランの添加量の比率としては、モノクロロシラン8モルに対して、ジクロロシランを0.1〜4モルの範囲で用いることが好ましい。クロロシランの添加量が多いと、多面体構造を化学構造に含まないシロキサン化合物が副生する場合があり、少なすぎると生成物内に固形物が残存したり、ゲル化したりする場合がある。
【0033】
本発明における多面体構造ポリシロキサン系化合物の製造方法では、シリル化の際に、モノクロロシランにジクロロシランを併用して用いることにより、モノクロロシラン単独で用いる場合に比べ、添加するクロロシランのモル数を減少させることができるため、より効果的に多面体構造ポリシロキサン系化合物を得ることができる。
【0034】
<硬化剤>
次に、本発明に用いる硬化剤について説明する。
【0035】
硬化剤は、多面体構造ポリシロキサン系化合物の主たる反応性基の種類よって使い分けることができる。多面体構造ポリシロキサン系化合物がヒドロシリル基を主たる反応性基として有する場合は、アルケニル基を有する化合物、アルケニル基を主たる反応性基として有する場合は、ヒドロシリル基を有する化合物を硬化剤として用いることができる。以下、詳細に説明する。
【0036】
前記、アルケニル基を有する硬化剤は、アルケニル基を有する化合物であれば特に限定されないが、1分子中に少なくともアルケニル基を2個含有するものが好ましく、アルケニル基を少なくとも2個有するポリシロキサン化合物が好ましい。アルケニル基を少なくとも2個有するポリシロキサン化合物としては、アルケニル基を有する直鎖構造のポリシロキサン、分子末端にアルケニル基を有するポリシロキサン、アルケニル基を含有する環状シロキサンが特に好ましい。これらアルケニル基を有する化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明におけるアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が例示され、耐熱性、耐光性の観点から、ビニル基が好ましい。
【0038】
アルケニル基を有する直鎖構造のポリシロキサンの具体例としては、ジメチルシロキサン単位とメチルビニルシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジフェニルシロキサン単位とメチルビニルシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、メチルフェニルシロキサン単位とメチルビニルシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジメチルビニルシリル基で末端が封鎖されたポリシロキサン、などが例示される。
【0039】
分子末端にアルケニル基を有するポリシロキサンの具体例としては、前記したアルケニル基を有する直鎖構造のポリシロキサンに例示したジメチルアルケニル基で末端が封鎖されたポリシロキサン、ジメチルアルケニルシロキサン単位とSiO単位、SiO3/2単位、SiO単位からなる群において選ばれる少なくとも1つのシロキサン単位からなるポリシロキサンなどが例示される。
【0040】
アルケニル基を含有する環状シロキサン化合物としては、1,3,5,7−ビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジビニル−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタビニル−1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロシロキサン、1,3,5,7,9,11−ヘキサビニル−1,3,5,7,9,11−ヘキサメチルシクロシロキサンなどが例示される。
【0041】
前記、ヒドロシリル基を有する硬化剤は、ヒドロシリル基を有する化合物であれば特に限定されないが、1分子中に少なくともヒドロシリル基を2個含有するものが好ましく、ヒドロシリル基を有する直鎖構造のポリシロキサン、分子末端にヒドロシリル基を有するポリシロキサン、ヒドロシリル基を含有する環状シロキサンなどのシロキサン化合物が特に好ましい。これらヒドロシリル基を有する化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
直鎖構造を有するヒドロシリル基含有ポリシロキサンの具体例としては、ジメチルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジフェニルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、メチルフェニルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジメチルハイドロジェンシリル基で末端が封鎖されたポリシロキサン、などが例示される。
【0043】
分子末端にヒドロシリル基を有するポリシロキサンの具体例としては、先に例示したジメチルハイドロジェンシリル基で末端が封鎖されたポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキサン単位(H(CHSiO1/2単位)とSiO単位、SiO3/2単位、SiO単位からなる群において選ばれる少なくとも1つのシロキサン単位からなるポリシロキサンなどが例示される。
【0044】
ヒドロシリル基を含有する環状シロキサン化合物としては、1,3,5,7−ハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジハイドロジェン−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリハイドロジェン−1,3,5−トリメチルシクロシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタハイドロジェン−1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロシロキサン、1,3,5,7,9,11−ヘキサハイドロジェン−1,3,5,7,9,11−ヘキサメチルシクロシロキサンなどが例示される。
【0045】
本発明においては、耐熱性、耐光性の観点から、Si原子上は、水素原子、ビニル基およびメチル基から構成されることが好ましい。
【0046】
硬化剤の添加量は種々設定できるが、アルケニル基1個あたり、Si原子に直結した水素原子が0.3〜5個、好ましくは、0.5〜3個となる割合であることが望ましい。
アルケニル基の割合が少なすぎると、発泡等による外観不良が生じやすくなり、また、多すぎると、硬化物の物性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0047】
<ヒドロシリル化触媒>
本発明では、多面体構造ポリシロキサン系化合物および該化合物を用いた組成物を作成する際に、ヒドロシリル化触媒を用いる。
【0048】
本発明で用いるヒドロシリル化触媒としては、通常ヒドロシリル化触媒化として用いられるものを用いることができ特に制限はなく、任意のものが使用できる。
【0049】
具体的には例示すれば、白金−オレフィン錯体、塩化白金酸、白金の単体、担体(アルミナ、シリカ、カーボンブラック等)に固体白金を担持させたもの;白金−ビニルシロキサン錯体、例えば、Ptn(ViMe2SiOSiMe2Vi)n、Pt〔(MeViSiO)4m;白金−ホスフィン錯体、例えば、Pt(PPh34、Pt(PBu34;白金−ホスファイト錯体、例えば、Pt〔P(OPh)34、Pt〔P(OBu)34(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、n、mは整数を表す)、Pt(acac)2、また、Ashbyらの米国特許第3159601及び3159662号明細書中に記載された白金−炭化水素複合体、並びにLamoreauxらの米国特許第3220972号明細書中に記載された白金アルコラ−ト触媒も挙げられる。
【0050】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh33、RhCl3、Rh/Al23、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4、等が挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用しても構わない。触媒活性の点から塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、Pt(acac)2等が好ましい。
【0051】
ヒドロシリル化触媒の添加量としては特に制限はないが、多面体構造シロキサン中間体のアルケニル基1molに対して10-1〜10-10molの範囲で用いるのがよい。さらに好ましくは10-4〜10-8molの範囲で用いるのがよい。また、ヒドロシリル化触媒は、一般に高価で腐食性であり、また、水素ガスを大量に発生して硬化物が発泡してしまう場合があるので10-1mol以上用いない方がよい。
【0052】
ヒドロシリル化反応の反応温度としては、30〜400℃、さらに好ましくは、40〜250℃であることが好ましく、より好ましくは、50〜160℃である。
【0053】
<硬化遅延剤>
硬化遅延剤は、本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物の保存安定性を改良あるいは、硬化過程でのヒドロシリル化反応の反応性を調整するための成分である。本発明においては、硬化遅延剤としては、ヒドロシリル化触媒による付加型硬化性組成物で用いられている公知のものが使用でき、具体的には脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機イオウ化合物、窒素含有化合物、スズ系化合物、有機過酸化物等が挙げられる。これらを単独使用、または2種以上併用してもよい。
【0054】
前記の脂肪族不飽和結合を含有する化合物としては、具体的には3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチン、3−ヒドロキシ−3−フェニル−1−ブチン、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のプロパギルアルコール類、エン−イン化合物類、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸エステル類等が例示できる。
【0055】
有機リン化合物としては、具体的にはトリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類、トリオルガノフォスファイト類等が例示できる。
【0056】
有機イオウ化合物としては、具体的にはオルガノメルカプタン類、ジオルガノスルフィド類、硫化水素、ベンゾチアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールジサルファイド等が例示できる。
【0057】
窒素含有化合物としては、具体的にはN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジブチルエチレンジアミン、N,N−ジブチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N′,N′−テトラエチルエチレンジアミン、N,N−ジブチル−1,4−ブタンジアミン、2,2’−ビピリジン等が例示できる。
【0058】
スズ系化合物としては、具体的にはハロゲン化第一スズ2水和物、カルボン酸第一スズ等が例示できる。
【0059】
有機過酸化物としては、具体的にはジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過安息香酸t−ブチル等が例示されうる。これらのうち、マレイン酸ジメチル、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノールが、特に好ましい硬化遅延剤として例示できる。
【0060】
硬化遅延剤の添加量は、特に限定するものではないが、ヒドロシリル化触媒1モルに対して10−1〜10モルの範囲で用いるのが好ましく、1〜100モルの範囲で用いるのがより好ましい。また、これらの硬化遅延剤は単独で使用してもよく、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0061】
<組成物>
本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物は、多面体構造ポリシロキサン系化合物に硬化剤、ヒドロシリル化触媒、必要によっては硬化遅延剤も加えることにより得ることができる。本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物は、組成分であるポリシロキサン系化合物が液状であることから、透明性の液状組成物となす事が可能である。液状組成物と成すことにより成型体に流し込み、加熱して硬化させることで容易に成形体を得ることができる。透明性であることにより、光学用組成物として用いることができる。
【0062】
液状の透明性の組成物を硬化させた成型体は、例えば3mm厚さの成型体での透過率は400nmの光線で70%以上となるものを得ることが可能である。また、多面体構造ポリシロキサン系化合物が液状であることで、本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物が容易に液状として得ることができるので好ましい。
【0063】
硬化させる際に温度を加える場合は、好ましくは、30〜400℃、さらに好ましくは50〜250℃である。硬化温度が高くなり過ぎると、得られる硬化物に外観不良が生じる傾向があり、低すぎると硬化が不十分となる。また、2段階以上の温度条件を組み合わせて硬化させてもよい。具体的には例えば、70℃、120℃、150℃の様に段階的に硬化温度を引き上げていくことで、良好な硬化物を得ることができ好ましい。
【0064】
硬化時間は硬化温度、用いるヒドロシリル化触媒の量及びヒドロシリル基の量その他、本願組成物のその他の配合物の組み合わせにより適宜選択することができるが、あえて例示すれば、1分〜4時間、好ましくは10分〜2時間行うことにより、良好な硬化物を得ることができる。
【0065】
本発明に用いる多面体構造ポリシロキサン系組成物には、上記必須成分に加え、任意成分として本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ増量剤として粉砕石英、炭酸カルシウム、カーボンなどの充填剤を添加してもよい。
【0066】
また、本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物には、必要に応じて着色剤、耐熱性向上剤などの各種添加剤や反応制御剤、離型剤あるいは充填剤用分散剤などを任意で添加することができる。
【0067】
この充填剤用分散剤としては、例えば、ジフェニルシランジオール、各種アルコキシシラン、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子量シロキサンなどが挙げられる。
【0068】
また、本発明のポリシロキサン系組成物を難燃性、耐火性にするためには二酸化チタン、炭酸マンガン、Fe、フェライト、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレークなどの公知の添加剤を添加してもよい。なお、これら任意成分は、本発明の効果を損なわないように最小限の添加量に止めることが好ましい。
【0069】
本発明に用いる多面体構造ポリシロキサン系組成物は、上記した成分をロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの混練機を用いたり、遊星式攪拌脱泡機を用いて均一に混合し、必要に応じ加熱処理を施したりすることにより得ることができる。
【0070】
本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物は、成形方法として、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、発泡成形、射出成形、液状射出成形、注型成形などの任意の方法を使用することにより成形体として使用することができる。
【0071】
本発明によるポリシロキサン系組成物から得られる成形体は、耐熱性、耐光性に優れ、400nm程度の近紫外領域の波長の光に対しても、高い透明性を発現する。
本発明の多面体構造ポリシロキサン系組成物は、光学材料用組成物として用いることができる。ここで言う光学材料とは、可視光、赤外線、紫外線、X線、レーザーなどの光をその材料中を通過させる用途に用いる材料一般を示す。
【0072】
本発明において得られる多面体構造ポリシロキサン系組成物および成形体の用途としては、具体的には、レジスト材料、液晶ディスプレイ分野における基板材料、導光板、プリズムシート、偏向板、位相差板、視野角補正フィルム、接着剤、カラーフィルター、パッシベーション膜、偏光子保護フィルム、液晶用フィルムなどの液晶表示装置周辺材料が例示される。
【0073】
また、次世代フラットパネルディスプレイとして期待されるカラーPDP(プラズマディスプレイ)の封止剤、反射防止フィルム、光学補正フィルム、ハウジング材、前面ガラスの保護フィルム、前面ガラス代替材料、接着剤、カラーフィルター、パッシベーション膜。
【0074】
またLED表示装置に使用されるLED素子のモールド材、前面ガラスの保護フィルム、前面ガラス代替材料、カラーフィルター、パッシベーション膜、接着剤。またプラズマアドレス液晶(PALC)ディスプレイにおける基板材料、導光板、カラーフィルター、パッシベーション膜、プリズムシート、偏向板、位相差板、視野角補正フィルム、接着剤、偏光子保護フィルム。また有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイにおける前面ガラスの保護フィルム、カラーフィルター、パッシベーション膜、前面ガラス代替材料、接着剤。また、フィールドエミッションディスプレイ(FED)における各種フィルム基板、前面ガラスの保護フィルム、前面ガラス代替材料、カラーフィルター、パッシベーション膜、接着剤が例示される。
【0075】
光記録分野では、VD(ビデオディスク)、CD/CD−ROM、CD−R/RW、DVD−R/DVD−RAM、MO/MD、PD(相変化ディスク)、光カード用のディスク基板材料、ピックアップレンズ、保護フィルム、封止剤、接着剤が例示される。
【0076】
光学機器分野では、スチールカメラのレンズ用材料、ファインダプリズム、ターゲットプリズム、ファインダーカバー、受光センサー部が例示される。また、ビデオカメラの撮影レンズ、ファインダーが例示される。またプロジェクションテレビの投射レンズ、保護フィルム、封止剤、接着剤などが例示される。光センシング機器のレンズ用材料、封止剤、接着剤、フィルムなどが例示される。
【0077】
光部品分野では、光通信システムでの光スイッチ周辺のファイバー材料、レンズ、導波路、素子の封止剤、接着剤などが例示される。光コネクタ周辺の光ファイバー材料、フェルール、封止剤、接着剤などが例示される。光受動部品、光回路部品ではレンズ、導波路、LED素子の封止剤、接着剤などが例示される。光電子集積回路(OEIC)周辺の基板材料、ファイバー材料、素子の封止剤、接着剤などが例示される。
【0078】
光ファイバー分野では、装飾ディスプレイ用照明・ライトガイドなど、工業用途のセンサー類、表示・標識類など、また通信インフラ用および家庭内のデジタル機器接続用の光ファイバーが例示される。
【0079】
半導体集積回路周辺材料では、層間絶縁膜、パッシベーション膜、LSI、超LSI材料用のマイクロリソグラフィー用のレジスト材料が例示される。自動車・輸送機分野では、自動車用のランプリフレクタ、ベアリングリテーナー、ギア部分、耐蝕コート、スイッチ部分、ヘッドランプ、エンジン内部品、電装部品、各種内外装品、駆動エンジン、ブレーキオイルタンク、自動車用防錆鋼板、インテリアパネル、内装材、保護・結束用ワイヤーネス、燃料ホース、自動車ランプ、ガラス代替品が例示される。また、鉄道車輌用の複層ガラスが例示される。また、航空機の構造材の靭性付与剤、エンジン周辺部材、保護・結束用ワイヤーネス、耐蝕コートが例示される。
【0080】
建築分野では、内装・加工用材料、電気カバー、シート、ガラス中間膜、ガラス代替品、太陽電池周辺材料が例示される。農業用では、ハウス被覆用フィルムが例示される。
【0081】
次世代の光・電子機能有機材料としては、次世代DVD、有機EL素子周辺材料、有機フォトリフラクティブ素子、光−光変換デバイスである光増幅素子、光演算素子、有機太陽電池周辺の基板材料、ファイバー材料、素子の封止剤、接着剤などが例示される。
【実施例】
【0082】
次に本発明の組成物を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
(耐熱試験)
150℃に温度設定した熱風循環オーブン内にて、24時間養生し、養生後の光線透過率を測定した。
【0084】
(耐光試験)
スガ試験機(株)社製、メタリングウェザーメーター(形式M6T)を用いた。ブラックパネル温度120℃、放射照度0.53kW/mで、積算放射照度50MJ/mまで照射後、光線透過率を測定した。
【0085】
(光線透過率)
紫外可視分光光度計V−560(日本分光株式会社製)を用い、温度20℃/湿度50%の条件下、波長700nmおよび400nmでの光線透過率を測定した。
【0086】
<多面体構造ポリシロキサン系化合物>
(製造例1)
2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムの47wt%水溶液34.5gにテトラエトキシシラン27.9gを加え、10時間攪拌した。得られた多面体構造を有するケイ酸塩に、メタノールを30mL加えて溶解させ、ケイ酸塩メタノール溶液Aを得た。
【0087】
(実施例1)
ケイ酸塩メタノール溶液A9mLをシリンジで取り出し、ジメチルビニルクロロシラン1.6g、ジメチルジクロロシラン0.65g、ジメトキシプロパン7mLの混合溶液に、攪拌しながら、室温でゆっくりと滴下し、1時間反応させた。反応終了後、水30mL、トルエン30mLを加え、有機層を抽出し、濃縮することにより、茶色の粘性液体である化合物を得た。次に、得られた化合物をヘキサン溶媒に溶解させ、セライト(和光純薬工業株式会社製)を用いてろ過し、ろ液を濃縮することにより、透明液体の多面体ポリシロキサン化合物Bを得た。
【0088】
29Si−NMRスペクトルから、ViMe2SiO、Me2SiO2、SiO4のケイ素原子のシグナルを1ppm、−18ppm、−110ppmに確認した。また、GPCの結果から、生成物は、側鎖にシロキサン結合を有する多面体構造ポリシロキサンと多面体構造ポリシロキサンがシロキサン結合で連結したオリゴマーの混合物であることが分かった。
【0089】
<多面体構造ポリシロキサン系組成物>
(実施例2)
多面体ポリシロキサン化合物B0.6gに、ヒドロシリル基を末端に含有する直鎖状ポリジメチルシロキサン(DMS−H03、ゲレスト製)1.0g、白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有する白金ビニルシロキサン錯体、ユミコアプレシャスメタルズジャパン製、Pt-VTSC-3X)0.03μLを加え、均一溶液として多面体構造ポリシロキサン系組成物を得た。このようにして得られた組成物を型枠に流し込み、70℃で30分、120℃で10分、150℃で10分加熱して硬化させ、3mm厚の評価用成形体を得た。その成形体の光線透過率を以下の表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
以上のように、本発明の多面体構造ポリシロキサン系化合物は、透明液体となす事が可能で取り扱いが容易であり、該当化合物を用いた組成物より得られた成型体は、耐熱性、耐光性に優れ、光線透過率の低下も小さい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】

[XRSiO−SiO3/2][XRSiO−(RSiO)−SiO3/2][R’−(RSiO)−SiO3/2]
(a〜cは0または1以上の整数、a+b+cは6〜24の整数、b+cは1以上の整数、m、nは1以上の整数;Rは、アルキル基、アリール基であり、それぞれが複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい;R’は、他の多面体構造ポリシロキサン;Xは、水素原子、アルケニル基であり、同一であっても異なっていてもよい)を構成単位とすることを特徴とする多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【請求項2】
20℃で液状であることを特徴とする請求項1に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【請求項3】
多面体構造を有するケイ酸塩とモノクロロシランとジクロロシランの混合物とを反応させて得られることを特徴とする請求項1または2に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物の製造法。
【請求項4】
モノクロロシランとジクロロシランの混合物のモル比が、モノクロロシラン8モルに対して、ジクロロシランが0.1〜4モルであることを特徴とする請求項3に記載の多面体構造ポリシロキサン系化合物の製造法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の製造法で製造されることを特徴とする多面体構造ポリシロキサン系化合物。
【請求項6】
請求項1、2または5のいずれか1項に記載の多面体構造シロキサン系化合物と硬化剤、ヒドロシリル化触媒からなることを特徴とする、多面体構造ポリシロキサン系組成物。
【請求項7】
硬化遅延剤を含有することを特徴とする、請求項6に記載の多面体構造ポリシロキサン系組成物。
【請求項8】
請求項6または7記載の多面体構造ポリシロキサン系組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項9】
3mm厚の成型体の波長400nmにおける光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項8に記載の硬化物。

【公開番号】特開2009−173760(P2009−173760A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13186(P2008−13186)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】