説明

測定方法及び測定装置

【課題】現場等での測定が可能でありながら、迅速な測定を行える測定装置及び測定方法を提供する。
【解決手段】ゼロ点誤差Δzは、始点と終点におけるプローブMPの傾斜の差αN0から容易に求めることができ、これにより、被測定面全体の形状を精度良く求めることができる。即ち、水準器ELで2回傾斜を読み取るのみでゼロ点誤差Δzを得ることができるから、測定時間の短縮を図ることができ、例えば現場等での作業も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位センサを直線的に走査して被測定面の形状を求める精密測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大型加工物の加工精度向上に対する要求の高まりと共に、その工作機械の基盤となる定盤の高精度化が求められている。定盤の平面度の測定には通常水準器あるいは、オートコリメータと反射鏡の組み合わせによる接触2点間の傾斜を測定して逐次加算するいわゆる逐次2点法が用いられる。特許文献1には、逐次2点法を用いた測定技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-224578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オートコリメータを定盤測定に用いる場合は、定盤を固定した台等にオートコリメータを設置する必要があり、定盤が据え付けられた現場などでは、その測定環境を整えるのが難しいことが多い。そのため、定盤が既設置の現場では一般的に水準器を用いて平面度を測定することが行われるが、水準器から安定した読みを得るためには、熟練者でもかなりの時間を要するので、これが作業の迅速化の障害になっている。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑み、現場等での測定が可能でありながら、迅速な測定を行える測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の測定方法は、被測定面に当接する2個の足部と、前記2個の足部が被測定面と当接する2点を結ぶ直線上に配置され被測定面の変位を測定する変位センサと、前記2点を結ぶ線の傾斜を検出する水準器とを具備した測定装置を用いた測定方法において、
被測定面に沿って第1位置X0から第2位置XNまで測定装置を移動させながら、被測定面の変位を測定したときに、前記第1位置X0で前記水準器が検出した傾斜と、前記第2位置XNで前記水準器が検出した傾斜との差に基づいて、前記第1位置X0と前記第2位置XNとの間の被測定面の変位を補正するためのゼロ点誤差を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、水準器の読み取りに要する時間を短縮するため、例えば測定範囲の両端でのみ水準器による傾斜測定を行い、その中間では、水準器が被測定面に接する2点を結ぶ線上にある変位センサで形状の2階微分に相当する曲率を測定し、傾斜を算出する手法を用いる。
【0008】
本発明の原理について図1、図2を用いて説明する。図1において、簡略図示された測定プローブMPは、本体BDと、本体BDに取り付けられた2つの足部FT、変位センサS及び水準器ELとを有している。足部FTは定盤PL上の被測定面に当接しており、その接触点T1,T2が走査軸線上(X軸とする)に位置するとき、変位センサSは同じ走査軸線上の点T3に配置され、その感度軸に交差する被測定面を測定可能となっている。尚、接触点T1,T2は、それぞれ2つの足部FTの底面(被測定面に対向する面)の中央とみなして、以下の計算を行うものとするが、足部FTの底面の面積が十分小さいとすれば、実際の接触点と計算上の接触点とにズレが生じても、大きな誤差は生じない。更に説明を簡単にするため、点T3は、間隔2Dにある接触点T1、T2の中央に置いている。変位センサSの示す変位ゼロの点は、点T1、T2を結ぶ線の点T3における高さから被測定面MSに近い側にΔzだけずれているものとする。
【0009】
更に図2に示すように、走査軸線を通る鉛直面で切断したときの被測定面Msの真直形状をf(x)とする。なお、変位センサSの出力は、変位センサSから被測定面Msが遠ざかる方向を正とする。変位センサSが位置xにあるときのセンサ出力m(x)は、次式で表わされる。
m(x)= {f(x−D)+f(x+D)}/2−f(x)+Δz (1)
【0010】
(1)式を書き直すと、
m(x)= [{f(x+D)−f(x)}−{ f(x)−f(x−D)}+2Δz]/2 (2)
となり、[{f(x+D)−f(x)}−{ f(x)−f(x−D)}+2Δz]は、ちょうど間隔Dで3つのセンサを並べた場合における逐次3点法の差動出力となる。逐次3点法については、特開2006-337112号公報に詳細に開示されている。ここで、2Δzが差動出力にコンスタントに加わるゼロ点誤差になる。
【0011】
xk=kDとして、離散的な測定点での差分データΔf(xk)=f(xk)−f(x k -1)に注目すると、つぎの漸化式を得る。
Δf(xk)=2m(xk)+Δf(xk-1)−2Δz ,(k=1,2,…N) (3)
【0012】
初期値Δf(x0)=f(x0)−f(x-1)を与えて(3)式を書き直すと次のようになる。
Δf(xk)=2Σk m(xk)+Δf(x0)−2kΔz (4)
(但し、Σkはk=1〜kまでの和を意味する)
【0013】
二つの接点T1とT2の間の高さの差は、一般に{Δf(xk)+Δf(xk+1)}となる。よって、両端での接点間の高さの差は次のようになる。
Δf(x0)+Δf(x1)=2Δf(x0)+2m(x1)−2Δz (5)
Δf(xN-1)+Δf(xN)=4ΣN m(xk)−2m(xN)+ 2Δf(x0)−2(2N−1)Δz (6)
【0014】
始点(第1の位置X0)と終点(第2の位置XN)でのプローブMPの傾斜は、それぞれ{Δf(x0)+Δf(x1)}/2D、{Δf(xN-1)+Δf(xN)}/2Dとなる。従って、始点から終点までN回の測定を行ったとき、始点と終点での接点間の傾斜の差は、以下の式で表せる。
{Δf(xN-1)+Δf(xN)}/2D−{Δf(x0)+Δf(x1)}/2D={ 4ΣN m(xk)−2m(xN)−2m(x1)−4(N−1) Δz}/2D (7)
(但し、ΣNはk=1〜Nまでの和を意味する)
【0015】
ここで、ゼロ点誤差Δzは(8)式で与えられるが、N、Dは既知であり、2ΣN m(xk)−{m(xN)+m(x1)}は変位センサSの測定値から演算できるため、始点と終点におけるプローブMPの傾斜の差αN0を水準器ELの測定結果から求めれば、ゼロ点誤差Δzを得ることができることとなる。
(N−1)Δz /D=2ΣN m(xk)−{m(xN)+m(x1)}−(1/2)αN0 (8)
【0016】
このようにゼロ点誤差Δzを、始点と終点におけるプローブMPの傾斜の差αN0から容易に求めることができるから、これを(2)式に代入することで、被測定面全体の形状を精度良く求めることができる。即ち、1ラインの測定で水準器ELで2回傾斜を読み取るのみでゼロ点誤差Δzを得ることができるから、測定時間の短縮を図ることができ、例えば現場等での作業も容易である。
【0017】
更に、上述した測定方法に用いる測定装置において、走査軸線を定めるガイド軸と、前記ガイド軸に沿って変位センサを移動させる移動手段と、前記ガイド軸に沿った前記変位センサの測定位置を検出する検出手段とを具備すると好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図3は本発明にかかる測定装置全体の概略構成図である。図4は、測定装置の要部上面図である。図5は、測定装置の要部正面図である。
【0019】
図3,4において、定盤の上面である被測定面Msに沿って、細長い柱状のガイドレールGRが配置されている。ガイドレールGR上には、スライダSLがガイドレールGRに沿って直線的に移動可能に取り付けられており、従ってガイドレールGRが走査軸線Lを規定するガイド軸となる。スライダSLと、台形板状のプローブMPの前縁とを、連結軸CSにより揺動可能に連結している。よって、プローブMPとスライダSLが連結されたとき、走査方向(ガイドレールGRに沿った方向)に対してのプローブMPのヨーイングは抑制するが、ピッチングとローリングは抑制しない構造となっている。この構造はガイドとベアリングを用いても代用することが出来る。
【0020】
図5において、被測定面Msに対して平行に配置されたプローブMPは、その下面に、一対の平行なV字状の溝MPvを形成している。各溝MPvは、ガイドレールGRに直交しており、略五角柱状の中間部材MMをボルト固定している。各中間部材MMの下面には、足部FTがボルト固定されている。尚、図4で示すように、プローブMPの前縁側の足部FTの長さは、後縁側の足部FTの長さより長くなっているが、プローブMPを矩形板状として、一対の足部FTの長さを等しくすることもできる。
【0021】
図5において、プローブMPには、一対の足部FT間の中央において、センサブラケットSBを介して、変位センサSが取り付けられている。変位センサSは、接触子の変位をアナログ電圧に変換して出力する方式の微小変位計であり、そのセンサ端Seを被測定面Msに当接させている。センサ端Seの当接点は、足部FTが被測定面Msと当接する2点を結ぶ直線上にある。
【0022】
変位センサSは、センサ端Seが接触する被測定面Msの高さに応じて変位することにより、それに対応したアナログ信号を出力するようになっている。変位センサSからのアナログ信号は、アンプAMPに入力され、A/D変換回路ADによりデジタル信号に変換され、パソコンPCに入力される。
【0023】
更に、プローブMPは、変位センサSの近傍に、水準器ELを取り付けている。水準器ELは、変位センサSのセンサ端Seと、2つの足部FTの被測定面Msとの当接点とを結ぶ線の傾斜を検出し、作業者が読み取り可能に不図示の表示部に表示する。水準器ELは、例えば振り子を内蔵しており、振り子の傾きを光学的に読み取ることでプローブMPの傾斜を検出できるものであるが、傾斜の検出方法はこれに限られない。尚、足部FTと水準器ELの取り付けはボルトにより行うが、接着剤を使用しても良い。
【0024】
プローブMPが連結されたスライダSLの前方(図3,4で左側)には、巻き取りドラムDRが配置され、スライダSLに一端を取り付けたワイヤWを巻き付けている。巻き取りドラムDRは、モータMTの回転軸に連結されており、モータMTを駆動することで巻き取りドラムDRが回転し、それによりスライダSLがガイドレールGRに沿って移動するようになっている。ワイヤWと、ドラムDRと、モータMTが移動手段を構成する。
【0025】
モータMTの後端には、検出手段を構成するエンコーダENが取り付けられており、モータMTの回転角を検出できるようになっている。エンコーダENの出力はパソコンPCに入力され、ここでドラムDRの外径と掛け合わされることにより、プローブMP(即ち変位センサS)の移動量(始端からの相対位置)を精度良く検出できるようになっている。なお、プローブMPへの動力伝達は、ボールねじ駆動やベルト駆動を用いても良い。また、変位センサの位置情報の検出は、エンコーダENの代わりにスケールを用いて行っても良い。
【0026】
次に、本実施の形態の動作について説明する。測定を所望する被測定面Msの始端にガイドレールGR及びプローブMPを設置する。まず初期位置で、水準器ELの検出した傾斜を読み取る。次いで、モータMTを駆動して、巻き取りドラムDRを回転させてワイヤWを巻き取りながら、変位センサSにより被測定面Msの高さ測定を行う。このとき、エンコーダENからの出力に基づく被測定面の位置と、変位センサSからの出力に基づく被測定面Msの高さとが対応づけられた状態で、パソコンPCのメモリに記憶される。
【0027】
測定を続けながら被測定面Msの終端にプローブMPが到達したら、ここで水準器ELの検出した傾斜を読み取る。始点と終点におけるプローブMPの傾斜の差αN0を、水準器ELの測定結果から求め、パソコンPCに入力することで、上述したようにゼロ点誤差Δzを求めることができる。ゼロ点誤差Δzを求めることで、プローブMPの1走査ラインに沿った被測定面Msの形状測定を精度良く行うことができる。更に、プローブMPを被測定面Msの始端に戻し、ガイドレールGRと共に平行移動させた後、同様の測定を行うことで、隣接した被測定面Msの領域の形状測定を行うことができる。以上を繰り返すことで、定盤の表面全範囲における平面度の測定が可能となる。尚、パソコンPCへのプローブMPの傾斜の差αN0入力は自動で行っても良い。
【実施例1】
【0028】
以下に、本発明者らが行った実験結果を示す。図6は、比較例として、従来の測定方法を用いて水準器で傾斜検出しながら10回測定した定盤の真直形状のバラツキを示す。図7は、本実施例として、図3〜5の測定装置を用いて10回測定した同じ定盤の真直形状のバラツキを示す。また、真直形状を測定したときの測定条件を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
従来の測定方法の繰り返し誤差は1.0μmに対し、本実施例の測定方法によれば、繰り返し誤差は0.9μmと同等であるのに対し、測定時間は約1/8となり、時間をかけて水準器で測定した結果とほぼ同じになる。また、本実施例の結果が比較例のそれと違って連続的な曲線で表されているのは、比較例が水準器の読み取り所要時間の故に測定点数が制限されていたのに対して、本実施例では水準器の読み取りは両端の2回で済み、その間は変位センサによる形状曲線の2階微分量の計測を十分に多くの点で採取してから2階積分をして形状を求めるという手段をとれる利点も活かされているためである。但し、比較例の図と同じ離散的な折れ線を得ることができることは言うまでもない。
【0031】
なお、以上の実施例において、足部の寸法と測定間隔、測定プローブの足部と変位センサとの間隔は一例であり、本発明の変位センサを直線的に走査して形状を求める方法で測定する場合は、任意の寸法、任意の間隔で良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、定盤に限らず大判の平面を測定する種々の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発明の接触型3点法プローブの原理説明図である。
【図2】発明の装置による測定の原理説明図である。
【図3】測定装置の概略構成図である。
【図4】測定装置主要部の上面図である。
【図5】測定装置主要部の正面図である。
【図6】比較例としての定盤の真直形状の結果を示すグラフである。
【図7】実施例としての定盤の真直形状の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
S 変位センサ
AD 変換回路
AMP アンプ
BD 本体
CS 連結軸
DR ドラム
EL 水準器
EN エンコーダ
FT 足部
GR ガイドレール
MM 中間部材
MP プローブ
MPv 溝
MT モータ
Ms 被測定面
PC パソコン
PL 定盤
S 変位センサ
SB センサブラケット
SL スライダ
Se センサ端
T1,T2 接触点
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定面に当接する2個の足部と、前記2個の足部が被測定面と当接する2点を結ぶ直線上に配置され被測定面の変位を測定する変位センサと、前記2点を結ぶ線の傾斜を検出する水準器とを具備した測定装置を用いた測定方法において、
被測定面に沿って第1位置X0から第2位置XNまで測定装置を移動させながら、被測定面の変位を測定したときに、前記第1位置X0で前記水準器が検出した傾斜と、前記第2位置XNで前記水準器が検出した傾斜との差に基づいて、前記第1位置X0と前記第2位置XNとの間の被測定面の変位を補正するためのゼロ点誤差を求めることを特徴とする測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法に用いる測定装置であって、
走査軸線を定めるガイド軸と、前記ガイド軸に沿って変位センサを移動させる移動手段と、前記ガイド軸に沿った前記変位センサの測定位置を検出する検出手段とを具備することを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−7718(P2011−7718A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153399(P2009−153399)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(591238981)
【出願人】(399000812)株式会社 大菱計器製作所 (2)
【Fターム(参考)】