説明

湾曲管の製造方法

【課題】プリプレグシートを積層した石膏内型を加熱して硬化させた後に、当該石膏内型を容易に破壊除去することができる湾曲管の製造方法を提供する。
【解決手段】石膏内型2の表面にプリプレグシート1aを積層し、加熱手段によりプリプレグシート1aを硬化させた後に、石膏内型2を破壊除去して湾曲管1を得る湾曲管の製造方法であって、湾曲面3aを内面に有する分離式雌型3の中心部に、熱または溶剤により溶解する中子4を配置して、分離式雌型3と中子4との間に石膏2aを注入し、石膏2aを乾燥させ硬化させた後に、中子4を溶解除去して石膏内型2を得るとともに、この石膏内型2にプリプレグシート1aを積層して加熱手段により硬化させた後に、石膏内型2を破壊除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏内型にプリプレグシートを積層して製造される湾曲管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、航空機内には、数多くのエアーダクトが張り巡らせている。このエアーダクトは、航空機内の客室床下や外板と内張との間など狭い空間に配管されるとともに、他の機材などを避けながら、縦横無尽に張り巡らされている。このため、上記エアーダクトには、湾曲管や途中で分岐した分岐管など、様々な形状のものが用いられている。
【0003】
上記エアーダクトに用いられる複雑な形状を有する湾曲管や分岐管には、プリプレグシートを積層した繊維強化樹脂管が用いられている。この繊維強化樹脂管は、湾曲管や分岐管を象った石膏内型に、上記プリプレグシートを積層し、硬化炉において硬化させて成形される。その際に、上記石膏内型は、最終的に破壊除去されるため、両端部側より中心部の径が大きい湾曲管や分岐管など、後から内型を抜くことができない形状のエアーダクトでも、容易に成形することが可能である。
【0004】
ここで、航空機に用いられる湾曲管の従来の製造方法について説明すると、まず図3(a)に示すように、湾曲面3aを有する分離式雌型3に石膏20aを注入し、乾燥炉で乾燥させ硬化させた後に、分離式雌型3から取り出し、さらに上記乾燥炉において乾燥させて、石膏内型20を得る。この石膏内型20は、図3(b)に示すように、上記雌型の容積と同等に成形され、外面が湾曲面3aに則した湾曲形状を有している。次いで、石膏内型20の表面に、樹脂を塗布して表面処理を施すとともに、離型処理を施す。そして、ガラスエポキシやガラスポリエステルなどを含浸させたプリプレグシート1aを所望の厚みに積層し、真空バックの中に入れ、真空引きを行いながら、硬化炉において加熱して硬化させる。硬化させた後に、石膏内型20を破壊除去して、繊維強化樹脂からなる湾曲管1を得る。
【0005】
しかし、この従来の製造方法では、分離式雌型3内に石膏20aを充填し、石膏内型20を成形するため、成形された石膏内型20は、無垢の塊となる。このため、積層されたプリプレグシート1aを加熱して硬化させた後に、石膏内型20を破壊除去する際に、手間が掛かるとともに、破壊する際の衝撃が強いために、繊維強化樹脂からなる湾曲管1を破損させてしまうという問題がある。
【0006】
また、破壊除去する際、繊維強化樹脂からなる湾曲管1の破損を防ぐために、密度が低く比較的に軟らかい崩壊性を有する石膏20aを使用して、石膏内型20を成型することも考えられる。しかし、この方法では、石膏20aの密度が低いため、石膏内型20の表面が粗くなり、石膏内型20の表面を表面処理して光沢面にすることが難しいとともに、製品となる湾曲管1の内面が粗面になる。この結果、崩壊性を有する石膏20aを使用した場合には、品質の劣る粗悪品になってしまうという問題もある。
【0007】
さらに、プリプレグシート1aを加熱して硬化させた後に、石膏内型20を破壊して除去するのではなく、石膏内型20を溶解して除去する方法も考えられる。この方法の場合には、水溶性を有する石膏20aを用いて、石膏内型20を成型し、水によって石膏内型20を溶解させるため、破壊除去の際の衝撃によって起こる湾曲管の破損を防止することができる。しかしながら、分離式雌型3内に水溶性を有する石膏20aを充填して成形される石膏内型20は、無垢の塊であるため、水によって溶解させた場合には、多大な時間を要してまうため、生産効率が低下してまうという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、プリプレグシートを積層した石膏内型を加熱して硬化させた後に、当該石膏内型を容易に破壊除去することができる湾曲管の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、石膏内型の表面にプリプレグシートを積層し、加熱手段により当該プリプレグシートを硬化させた後に、当該石膏内型を破壊除去して湾曲管を得る湾曲管の製造方法であって、湾曲面を内面に有する分離式雌型の中心部に、熱または溶剤により溶解する中子を配置して、当該分離式雌型と当該中子との間に石膏を注入し、当該石膏を乾燥させ硬化させた後に、当該中子を溶解除去して上記石膏内型を得るとともに、この石膏内型に上記プリプレグシートを積層して加熱手段により硬化させた後に、上記石膏内型を破壊除去することを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記中子は、発泡スチロールであることを特徴とするものである。
【0011】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記中子を溶解除去し、上記石膏内型を乾燥手段により乾燥させ硬化させた後に、上記石膏内型の表面に樹脂を塗布するとともに、離型処理を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜3に記載の本発明によれば、プリプレグシートを積層する石膏内型を、湾曲面を内面に有する分離式雌型の中心部に、熱または溶剤により溶解する中子を配置して、当該分離式雌型と当該中子との間に石膏を注入し、石膏を乾燥させて成型するため、上記石膏内型を乾燥させ硬化させた後に、中子を溶解して取り出すことにより、中空構造を有する上記石膏内型を成形することができる。これにより、上記プリプレグシートを硬化させた後に、上記石膏内型を破壊除去する際に、破壊する上記石膏内型の体積を小さくすることができ、少ない衝撃により、上記石膏内型を破壊することができるため、製品となる湾曲管の破損を防止することができる。
【0013】
また、上記石膏内型の破壊除去を容易に行えるため、密度の高い石膏を使用することができる。この結果、上記石膏内型の表面を滑らかに成形することができ、樹脂を塗布して形成される光沢面を得るための表面処理を容易に行うことができるとともに、湾曲管の内面も滑らかに仕上げることができ、製品の品質を向上させることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、熱または溶剤により溶解する上記中子を、発泡スチロールにより形成するため、湾曲を有する上記石膏内型が複雑な形状であっても、上記石膏内型に則した上記中子を、ナイフなどで削って成形することができるとともに、小型の熱風装置による熱溶解や、少ない溶剤によって簡単に熔解することができる。この結果、コストの掛けずに簡便に、中空構造を有する上記石膏内型を成形することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、上記中子を溶解除去し、上記石膏内型を乾燥手段により乾燥させ硬化させた後に、上記石膏内型の表面に樹脂を塗布して表面処理を施すため、上記石膏内型の表面を光沢面に仕上げることができ、上記プリプレグシートを積層し、加熱して硬化させた後に、上記石膏内型を破壊除去して得られる上記湾曲管の内面を滑らかに成形することができる。これにより、さらなる製品の品質を向上させることができる。
【0016】
また、上記石膏内型の表面に、離型処理を施すため、上記石膏内型を破壊除去する際に、容易に除去することができる。これにより、さらに少ない衝撃によって破壊することができる。この結果、上記湾曲管の破損リスクを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の湾曲管の製造方法による一実施形態を示す図であり、(a)は分離式雌型に中子を配置して石膏を注入する状態の斜視図、(b)は石膏内型から中子を溶解除去した状態の斜視図、(c)は石膏内型にプリプレグシートを積層した状態の斜視図、(d)はプリプレグシートを硬化させた後に石膏内型を破壊除去した状態の斜視図である。
【図2】本発明の湾曲管の製造方法の一実施形態の分離式雌型に中子を配置した状態の正面断面図である。
【図3】従来の湾曲管の製造方法を示す図であり、(a)は分離式雌型に石膏を注入する状態の斜視図、(b)は分離式雌型から石膏内型を取り出した状態の斜視図、(c)は石膏内型にプリプレグシートを積層した状態の斜視図、(d)はプリプレグシートを硬化させた後に石膏内型を破壊除去した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る湾曲管の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法を概略説明すれば、図1および図2に示すように、湾曲面3aを内面に有し分解可能な分離式雌型3を用いて、その中心部に熱または溶液により溶解するな中子4を配置し、分離式雌型3と中子4との間に石膏2aを注して、石膏2aを乾燥させ硬化させた後に、中子4を溶解除去して石膏内型2を得る。そして、この石膏内型2にプリプレグシート1aを積層し、硬化炉により加熱して硬化させた後に、石膏内型2を破壊除去して、湾曲管1が製造されるものである。
【0019】
また、熱または溶液により溶解するな中子4は、分離式雌型3の内面の湾曲面3aの形状に則して形成され、複雑な湾曲面3aであっても容易に加工できる発泡スチロールが用いられている。さらに石膏2aは、乾燥させ硬化した際に、その表面が粗くならないように、密度の高い石膏2aが用いられる。そして、プリプレグシート1aは、ガラスエポキシやガラスポリエステルなどを含浸させたガラス繊維強化プラスチックシートである。
【0020】
次に、上記製造方法を用いた湾曲管の製造方法について詳細に説明する。
まず、図2に示すように、内面に湾曲面3aを有する分離式雌型3の底面を底蓋3bにより閉塞する。次いで、底蓋3bの中心部に、中子4を配置する。この中子4は、分離式雌型3の内面形状に則して湾曲に加工された円柱状の発泡スチロールにより形成されている。また、分離式雌型3と中子4との間には、適当な空間が形成され、スペーサtが複数箇所に設けられている。このスペーサtは、竹ひごや針金などを用いている。
【0021】
次いで、図1(a)に示すように、分離式雌型3と中子4との間に、石膏2aを注入する。このときに、分離式雌型3と中子4との間には、スペーサtが複数箇所設けられているため、石膏2aの液圧により中子4がズレたりせずに、分離式雌型3の中心部に位置して、石膏2aが充填される。そして、分離式雌型3に石膏2aを充填した後に、乾燥炉で乾燥させて石膏2aを硬化させる。
【0022】
そして、石膏内型2が硬化した後に、分離式雌型3を分解して、石膏内型2を取り出し、図1(b)に示すように、石膏内型2の中心部に内包された中子4を、工業用ドライヤーなどの熱風発生機により熔解して取り除く。そして、再び石膏内型2を上記乾燥炉に入れて、完全に乾燥させる。
【0023】
さらに、上記乾燥炉より取り出した石膏内型2の表面に、樹脂を塗布して表面処理を施し、光沢面に仕上げる。この際、石膏内型2の表面は、密度の高い石膏2aにより成形されているため、上記樹脂を滑らかに塗布することができる。そして、光沢面に仕上がった表面に離型処理を施す。その後、図1(c)に示すように、石膏内型2の表面に、プリプレグシート1aを一定の厚さになるように巻回して積層する。このとき、プリプレグシート1aを、0.18〜0.2mmの厚さに積層する。
【0024】
そして、プリプレグシート1aを積層した石膏内型2を真空バックに入れて、真空引きを行い、積層されたプリプレグシート1aの隙間の空気を抜く。さらに、真空引きの状態のまま硬化炉に入れて、設定された温度と時間により、積層されたプリプレグシート1aを加熱して硬化させる。その後、上記硬化炉から上記真空バックを取り出し、さらに、上記真空バックから石膏内型2を取り出して冷却させる。
【0025】
さらに、石膏内型2の冷却後、図1(d)に示すように、硬化したプリプレグシート1aから石膏内型2を破壊除去して、湾曲管1を得る。この際に、石膏内型2が中空構造を有しているため、大きな衝撃を石膏内型2に与えずに、石膏内型2を破壊除去することができる。
【0026】
上述の実施形態による湾曲管の製造方法によれば、プリプレグシート1aを積層する石膏内型2を、湾曲面3aを内面に有する分離式雌型3の中心部に、熱または溶剤により溶解する中子4を配置して、分離式雌型3と中子4との間に石膏2aを注入し、石膏2aを乾燥させて成型するため、石膏内型2を乾燥させ硬化させた後に、中子4を溶解して取り出すことにより、中空構造を有する石膏内型2を成形することができる。これにより、プリプレグシート1aを硬化させた後に、石膏内型2を破壊除去する際に、破壊する石膏内型2の体積を小さくすることができ、少ない衝撃により、石膏内型2を破壊することができるため、製品となる湾曲管1の破損を防止することができる。
【0027】
また、石膏内型2の破壊除去を容易に行えるため、密度の高い石膏2aを使用することができる。この結果、石膏内型2の表面を滑らかに成形することができ、樹脂を塗布して形成される光沢面を得るための表面処理を容易に行うことができるとともに、湾曲管1の内面も滑らかに仕上げることができ、製品の品質を向上させることができる。
【0028】
そして、熱または溶剤により溶解する中子4を、発泡スチロールにより形成するため、湾曲を有する石膏内型2が複雑な形状であっても、石膏内型2に則した中子4を、ナイフなどで削って成形することができるとともに、小型の熱風装置による熱溶解や、少ない溶剤によって簡単に熔解することができる。この結果、コストの掛けずに簡便に、中空構造を有する石膏内型2を成形することができる。
【0029】
さらに、中子4を溶解除去し、石膏内型2を乾燥手段により乾燥させ硬化させた後に、石膏内型2の表面に樹脂を塗布して表面処理を施すため、石膏内型2の表面を光沢面に仕上げることができ、プリプレグシート1aを積層し、加熱して硬化させた後に、石膏内型2を破壊除去して得られる湾曲管1の内面を滑らかに成形することができる。これにより、さらなる製品の品質を向上させることができる。
【0030】
また、石膏内型2の表面に、離型処理を施すため、石膏内型2を破壊除去する際に、容易に除去することができる。これにより、さらに少ない衝撃によって破壊することができる。この結果、湾曲管1の破損リスクを抑えることができる。
【0031】
なお、上記実施の形態において、中子4を発泡スチロールを用いた場合のみ説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、シリコンなどのゴムや発泡ウレタンなど、形態を成形することができ、かつ熱や溶剤によって容易に熔解するものであれば対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
プリプレグシートを積層した湾曲管の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 湾曲管
1a プリプレグシート
2 石膏内型
2a 石膏
3 分離式雌型
3a 湾曲面
4 中子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏内型の表面にプリプレグシートを積層し、加熱手段により当該プリプレグシートを硬化させた後に、当該石膏内型を破壊除去して湾曲管を得る湾曲管の製造方法であって、
湾曲面を内面に有する分離式雌型の中心部に、熱または溶剤により溶解する中子を配置して、当該分離式雌型と当該中子との間に石膏を注入し、当該石膏を乾燥させ硬化させた後に、当該中子を溶解除去して上記石膏内型を得るとともに、この石膏内型に上記プリプレグシートを積層して加熱手段により硬化させた後に、上記石膏内型を破壊除去することを特徴とする湾曲管の製造方法。
【請求項2】
上記中子は、発泡スチロールであることを特徴とする請求項1に記載の湾曲管の製造方法。
【請求項3】
上記中子を溶解除去し、上記石膏内型を乾燥手段により乾燥させ硬化させた後に、上記石膏内型の表面に樹脂を塗布し表面処理を行うとともに、離型処理を施すことを特徴とする請求項1または2に記載の湾曲管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−152694(P2011−152694A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15203(P2010−15203)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(595047178)株式会社ピーエヌシー (1)
【Fターム(参考)】