説明

湿式摩擦材の製造方法

【課題】耐久性と摩擦性能に優れた湿式摩擦材の製造方法を提供すること。
【解決手段】不織布20の表層に粒子32と熱硬化性樹脂42を充填し乾燥・硬化させて粒子32と樹脂42からなる層(中間層)12を形成した後、不織布20の裏面側から密度調整剤31と熱硬化性樹脂41を充填し乾燥・硬化させ、不織布20の表面に摩擦調整剤33と熱硬化性樹脂41を塗布して乾燥・硬化させる。中間層12が壁の役目を果たし、密度調整剤31が不織布20内部へ高密度に充填され、摩擦調整剤33が摩擦摺動面15の表層に定着し均一に塗布される結果、湿式摩擦材10の耐久性及び摩擦性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、自動車や産業機器の動力伝達要素や制動要素に利用される湿式摩擦材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の摩擦材には、主に、耐熱性合成繊維等で構成されるペーパー摩擦材が用いられている。ペーパー摩擦材は、パルプに各種の摩擦調整剤などを配合したのち、抄紙を行い、更に、フェノール樹脂などの結合用樹脂を含浸・硬化させることにより製造されている。得られた摩擦材は高い動摩擦係数を有する。
しかし、ユニットの小型化、高性能化が進むにつれて摩擦材に対する耐久性の向上が求められるようになり、現状のペーパー摩擦材では適用が困難な場合があらわれてきた。例えば、ペーパー摩擦材は繊維が層状に重なり合っているため、摩擦面に対して平行な方向に過剰な負荷が掛かると、繊維層間が破壊され、摩擦材としての機能が損なわれる場合がある。
【0003】
一方、摩擦材の強度を得るのに適した材料として不織布が知られており、基材に不織布を用いた摩擦材が特許文献1〜3等に開示されている。
特許文献1の湿式摩擦材は、不織布に摩擦調整剤を含有した熱硬化性樹脂が含浸され、不織布中の摩擦調整剤の分布割合が、摩擦材の摩擦表面において高く、底面に向かって次第に低くなるように構成されている。
また、特許文献2の湿式摩擦材は、乾式不織布間に織布を介在させ、不織布と織布とを3次元絡合させた三層構造であり、表面に摩擦調整剤が充填され、且つ、三層全体に熱硬化性樹脂が含浸された摩擦材基材を圧縮成形することにより得られる。この湿式摩擦材は、昨今の車両のエンジン出力アップ等による負荷が増大する条件下であっても、高い層間剥離強度を維持して高耐久性であるという長所を持つ。
特許文献3の湿式摩擦材は、乾式不織布と湿式不織布が絡合一体化され、湿式不織布側から摩擦調整剤が充填され、全体に熱硬化性樹脂が含浸・硬化された基材を加熱圧縮成形されることにより得られ、層間剥離を生じることなく負荷の増大に対応でき、高い摩擦係数及び熱安定性を有する。
【0004】
【特許文献1】特開2005−120163号公報
【特許文献2】特許第2767197号公報
【特許文献3】特開2004−217790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の湿式摩擦材は、不織布内部の摩擦調整剤の分布割合が摩擦材の摩擦表面において高く底面に向かって次第に低くなるように構成され、底面近くの摩擦調整剤濃度の薄い部分は、主に繊維と熱硬化性樹脂で構成されるため、圧縮や剪断強度に劣り、耐久性に問題がある。また、不織布内部に摩擦調整剤を拡散させる手段として超音波発信機や真空吸引装置等を用いるため、設備投資が必要である。
また、特許文献2及び3の湿式摩擦材は、複数枚の不織布又は織布を絡合一体化させるため、製造コストが高くなる。また、今後、耐久性をさらに向上させることが必要となる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、低コストで製造することができ、耐久性と摩擦性能に優れた湿式摩擦材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不織布からなる基材の表層に粒子と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させた後、
前記基材の裏面側から、密度調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させ、
前記基材の表面に摩擦調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を塗布し、前記組成物を乾燥・硬化させることを特徴とする湿式摩擦材の製造方法によって、前記の課題を解決した。
前記不織布は乾式不織布であり、パラアラミド繊維、メタアラミド繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アクリル酸化繊維、カイノール繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維又はセルロース繊維単独で、又は2種類以上を混合させて紡績用カードで薄いシート状にしたものを、ニードルパンチング、ステッチボンド、又は接着で一体化させたものであることが好ましい。
前記粒子と熱硬化性樹脂を含む組成物の充填量が、前記不織布に対し10〜40重量%であることが好ましい。
前記密度調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物の充填量が、前記不織布に対し10〜120重量%であることが好ましい。
前記摩擦調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物の含有量が、前記不織布に対し5〜60重量%であることが好ましい。
前記粒子、前記密度調整剤及び前記摩擦調整剤は、コークス、グラファイト、珪藻土、活性炭、二硫化モリブデン、シリカ粉末、金属粒子又は金属繊維、カシューダスト、フッ素樹脂粉末、球形フェノール樹脂硬化物粉末のうちのひとつ又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、油・ゴム・エポキシ樹脂等により改質された変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂のうちのひとつ又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の湿式摩擦材の製造方法では、始めに、不織布の表層に粒子と樹脂を充填し、乾燥・硬化させて粒子と樹脂からなる層(中間層)を形成した後に、密度調整剤の充填及び摩擦調整剤の塗布を行う。従って、密度調整剤を不織布の裏面側から充填する際には、中間層が壁となり、密度調整剤が不織布の摩擦摺動面側から漏れ出ることを防止する。その結果、不織布内部に均一に、且つ、高密度に密度調整材が充填されるため、材料疲労強度が増し、湿式摩擦材の耐久性を向上させることができる。
また、摩擦調整剤を不織布表面に塗布する際にも中間層が壁となり、摩擦調整剤の不織布内部への拡散が防止される。その結果、摩擦調整剤が不織布表面に定着し、且つ、均一に塗布されることにより、摩擦係数を向上させることができる。
さらに、複数枚の不織布を絡合一体化されたものと比較して製造コストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の湿式摩擦材の製造方法では、基材に不織布を用い、まず、この不織布の表層に、粒子(粉体)と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させる。
次に、不織布の裏面側から、密度調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させることにより不織布内部の繊維に密度調整剤を固着させ、不織布内部の密度を調整する。
次に、不織布の表面に摩擦調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を塗布し、前記組成物を乾燥・硬化させることにより不織布表面の繊維に摩擦調整剤を固着させ、摩擦摺動面を形成する。
ここで、不織布の表面とは、摩擦材の摩擦摺動面が形成される面をいい、不織布の裏面とは、摩擦摺動面の反対側、すなわち、金属リング基材に接着される面を意味する。
【0010】
図1は、本発明の湿式摩擦材の製造方法により得られる湿式摩擦材10を模式的に示した断面図である。
本発明に用いられる不織布20としては、乾式不織布、湿式不織布いずれも使用可能であるが、比較的長繊維を交絡させることができるため強度に優れ、また、基材密度を小さくできるため高い気孔率を有する摩擦材が得られるといった観点から、乾式不織布が好ましい。
乾式不織布としては、パラアラミド繊維、メタアラミド繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アクリル酸化繊維、カイノール繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、セルロース繊維等の繊維を、単独で又は2種以上混合させて、紡績用カード等で繊維を薄いシート状にし、ニードルパンチング、ステッチボンド、接着などで一体化させたものを使用することができる。
また、不織布20の繊度は1〜20dtex、繊維長30〜70mmであることが好ましい。繊維長が30mm未満の場合、繊維同士が十分に絡み合わず、湿式摩擦材10の剪断強度や引張強度が低下する。また、繊維長が70mmを超えた場合、ニードルパンチング工程におけるニードルへの負荷上昇、パンチ数の増加、不織布の平滑性の悪化等の不具合が生じる。
【0011】
密度調整剤31、粒子32及び摩擦調整剤33は、それぞれ充填・塗布する目的及び効果が異なるものであるが、以下に挙げる物質から適宜選択して用いられる。具体的には、コークス、グラファイト等の炭素粒子、珪藻土、活性炭、二硫化モリブデン、シリカ粉末、金属粒子又は金属繊維のような無機状粉末物質、カシューダスト、フッ素樹脂粉末、球形フェノール樹脂硬化物粉末等のような有機質粉末状物質を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの物質を密度調整剤31、摩擦調整剤33として用いる場合、平均粒径を10〜500μmとするのが好ましい。10μm未満の場合、低密度となり圧縮強度が劣る。また、均一な摩擦面が得られないため摩擦係数向上の効果が得られない。500μmを超えた場合、高密度となり、摩擦熱低減効果が低減する。また、剥離強度が低下する。
また、これらの物質を中間層12の粒子32として用いる場合には、平均粒径を100μm以下とするのが好ましい。100μmを超えた場合、密度調整剤を不織布内部に留める壁面効果が減少する。
【0012】
密度調整剤31、粒子32及び摩擦調整剤33の充填・塗布に用いられる熱硬化性樹脂41、42、43としては、フェノール樹脂、油・ゴム・エポキシ樹脂等により改質された変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上の樹脂を混合して使用することができる。これらの樹脂は、不織布20内部に充填、又は表層に塗布されるために、適度な粘度の液体の形態で使用され、液状樹脂としてそのまま、又は、適当な溶剤に溶解し稀釈して使用することができる。
【0013】
以下、湿式摩擦材10の製造工程について説明する。
まず、不織布20表面に粒子32と熱硬化性樹脂42を含む組成物を塗布して含浸させることにより、不織布20表層に前記組成物を充填し、乾燥・硬化させて中間層12を形成する。塗布方法は、スプレーコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング等の汎用法を用いることができ、特に限定されない。中間層12の厚さ、すなわち、前記組成物を不織布表層に含浸させる厚さは、不織布の厚さに対して10〜25%程度であることが好ましい。この中間層12は、後述する密度調整剤充填層11及び摩擦調整剤層13の隔壁の役目を果たす。
【0014】
粒子32と熱硬化性樹脂42を含む組成物の充填量は、不織布に対し、10〜40重量%であることが好ましい。このうち、粒子32の充填量は、不織布に対し6〜24%であり、熱硬化性樹脂42の充填量は、不織布に対し4〜16%である。
前記組成物の充填量が10重量%未満の場合、密度調整剤を充填する際に漏れ止めの壁となる効果が得られない。また、40重量%を超えた場合、中間層内部の気孔率が低くなり、冷却油循環の阻害要因となる。
【0015】
不織布20表層に中間層12を形成した後、図1に示す密度調整剤充填層11及び摩擦調整剤層13を形成する。
不織布20の裏面側から、密度調整剤31と熱硬化性樹脂41を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させて密度調整剤31を不織布20内部の繊維に固着させ、密度調整剤充填層11を形成する。充填方法は、不織布内部に密度調整剤31が均一に分散されればよく、スプレーコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング等の汎用法を用いることができる。
充填の際には、中間層12が壁となり、密度調整剤31が不織布表面から漏れ出ることがなく、不織布内部に留まるため、密度調整剤充填層11に均一に、且つ、高密度に充填される。これにより、湿式摩擦材10の材料疲労強度が増し、耐久性を向上させることができる。
【0016】
密度調整剤31と熱硬化性樹脂41を含む組成物の充填量は、不織布に対し、10〜120重量%であることが好ましい。このうち、密度調整剤31の充填量は、不織布に対し5〜60%であり、熱硬化性樹脂41の充填量は、不織布に対し5〜60%である。
前記組成物の充填量が10重量%未満の場合、密度が低くなり耐久性向上の効果が得られない。また、120重量%を超える場合、基材層11の密度が高くなりすぎ、湿式摩擦材10内部の隙間が極めて少なくなる。この隙間は、油の通り道でもあり、摩擦熱の冷却に重要な役目を果たすため、耐久性の悪化を招く。また、湿式摩擦材の硬度が高くなるため、摺動相手面との「あたり」が偏り、摩擦係数が低下する。
以上の観点から、密度調整剤充填層11の密度調整後の密度は、0.2〜0.6g/cmであることが好ましい。
【0017】
中間層12が形成された不織布20の表面に、摩擦調整剤33と熱硬化性樹脂43を含む組成物を塗布し、前記組成物を乾燥・硬化させて摩擦調整剤を不織布表面の繊維に固着させ、摩擦調整剤層13を形成する。塗布方法は、中間層12と同様、スプレーコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング等の汎用法を用いることができる。
摩擦調整剤塗布の際も、中間層12が壁となることで、摩擦調整剤33の不織布内部への拡散が防止され、摩擦特性に最も重要な摩擦摺動面15の表層にのみ、摩擦調整剤33を定着させることができる。また、摩擦調整剤33が摩擦摺動面15に均一に分散するので、摺動時の接触面積が増し、摩擦係数を向上させることができる。
【0018】
摩擦調整剤33と熱硬化性樹脂43を含む組成物の塗布量は、不織布20に対し、5〜60重量%であることが好ましい。このうち、摩擦調整剤33の充填量は、不織布に対し2.5〜30%であり、熱硬化性樹脂43の充填量は、不織布に対し2.5〜30%である。
前記組成物の充填量が5重量%未満の場合、摩擦係数向上の効果が得られない。また、60重量%を超える場合、摩擦調整剤層13のうち、不織布20表面の繊維に摩擦調整剤33が絡まず、摩擦調整剤33だけで構成される部分が厚くなるため、摩擦調整剤層13の剥離強度が低下する。また、湿式摩擦材10の摩擦摺動面15の気孔を埋めてしまうことになり、摩擦摺動面15に介在する油膜の除去が速やかに行なわれず、摩擦係数の低下を招く。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の方法により得られた湿式摩擦材を、シンクロナイザーリングに適用した実施例によって本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例)
パラアラミド繊維(繊維長51mm、繊維径12μm)を目付量が200g/mになるように、ニードルパンチングマシンを用いて絡合一体 化させて、厚さ1.5mmの乾式不織布を製作した。
次に、不織布重量に対し、粒径40μm以下の珪藻土30重量%、粒径75μm以下の活性炭30重量%と、エポキシエマルジョン樹脂40重量%の割合でミキサーにより撹拌混合した組成物を、ロールコーターを用いて不織布表面に充填し、180℃で8分間乾燥させ、不織布表層に中間層12を形成した。中間層の厚さは0.3mmであった。
次に、不織布重量に対し、粒径100〜250μmの石油系コークス粉末(密度調整剤)を50重量%、フェノール樹脂を50重量%の割合で混合した組成物を、不織布の裏面側からスプレーで吹付けて不織布内部に充填し、80℃で30分間乾燥させ、密度調整剤充填層11を形成した。密度調整後の不織布の密度は0.2〜0.6g/cmであった。
次に、不織布重量に対し、粒径100〜250μmの石油系コークス粉末(摩擦調整剤)を50重量%、フェノール樹脂を50重量%の割合で混合した組成物を、中間層12が形成された不織布表面にスプレーで吹付けた後、200℃で10分間乾燥させて摩擦調整剤層13を形成し、シート状中間製造品を得た。
【0021】
次に、このシート状中間製造品からプレスと金型を用いて、外径276.5mm、内径269.2mm、展開角度43.9°の円弧形状品を打ち抜いた。別に用意した円錐状内径面を有すリング状黄銅基材の内径面に、摩擦調整剤層13が表面となるように円弧形状品を貼り合わせ、270℃、90秒間、実面圧100kg/mで加熱プレスを行ってシンクロナイザーリングを得た。
【0022】
(比較例)
多孔質黒鉛粒子(全粒数の50%以上が44〜250μmの粒直径を有するもの)55重量部と、熱硬化性樹脂としてノボラック型フェノール樹脂20重量部と、金属繊維としてステンレス繊維10重量部と、無機粒子として硫酸バリウム15重量部とを、ミキサーにて5分間混合して、摩擦材組成物を得た。この摩擦材組成物とリング状本体材料としての黄銅とを、所定形状の成形型内に充填して300℃に加熱し、リング状本体と摩擦材層とを一体化成形した後、一体化されたリング状本体と摩擦材層とを30分間、300℃に保った。その後、摩擦材層 の内周をテーパー状に切削し、内周に溝及びトップランドを形成してシンクロナイザーリングを得た。
【0023】
次に、製作されたシンクロナイザーリングについて、シンクロナイザーリング試験機を用い、以下に示す試験を行った。
【0024】
(単体摩擦摩耗テスト)
80℃の油中で、慣性量0.08kgf・m/sec、回転数2,000rpmで回転する材質SCM420のテーパー状の相手部材に、シンクロナイザーリングを90kgfの力で押付けて相手部材を停止させることを、1万回繰り返して行った。このテストにおいて、200回目から1万回目までのシンクロナイザーリングの摩擦材の動摩擦係数を100回毎に測定した。動摩擦係数の測定結果を図2示す。
また、単体摩擦摩耗テスト後、シンクロナイザーリングの摩擦材が軸方向に摩耗した長さを測定し、この値を摩擦材摩耗量とした。摩擦材磨耗量は、実施例の摩擦材では0.10mm、比較例の摩擦材では0.12mmであった。
また、上記の試験条件と同様の条件で、油温80℃で回転数を500、1000、1500、2000rpmと変化させた場合の、各1万回目の動摩擦係数を測定した。測定結果を図3に示す。また、油温−30℃で回転数を500、1000、1500、2000rpmと変化させた場合の、各1万回目の動摩擦係数を測定した。測定結果を図4に示す。
【0025】
図2より、本発明の湿式摩擦材は、単体摩擦摩耗テストの初期と終わりとで、摩擦係数の低下が殆どなく、また、摩耗量も少ないことが示され、比較例の摩擦材と比較して、動摩擦係数の経時低下が極めて小さいことが分かる。
また、図3より、1万回目における油温80℃での実施例の動摩擦係数は0.153で、回転数域500〜2000rpmにおいて、比較例の動摩擦係数0.130に比べ、高い値を示した。
また、図4より、同じく1万回目における油温−30℃での実施例の動摩擦係数は0.155で、回転数域500〜2000rpmにおいて、比較例の動摩擦係数0.128に比べ、高い値を示した。
【0026】
以上の試験結果より、本発明の方法により得られた湿式摩擦材は、長期の繰り返し使用に対する高い安定性と油温の影響を受けない高い動摩擦係数を有し、今後多くの用途への適用が期待される。
従って、前記の実施例では本発明の方法により得られた摩擦材をシンクロナイザーリングに適用したが、これに限定されず、他の動力伝達要素や制動要素にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の湿式摩擦材の製造方法により得られた湿式摩擦材を模式的に示した断面図。
【図2】実施例及び比較例の動摩擦係数の測定結果を示したグラフ。
【図3】実施例及び比較例の油温80℃における回転数別の動摩擦係数の測定結果を示したグラフ。
【図4】実施例及び比較例の油温−30℃における回転数別の動摩擦係数の測定結果を示したグラフ。
【符号の説明】
【0028】
10:湿式摩擦材
20:不織布(基材)
31:密度調整剤
32:粒子
33:摩擦調整剤
41,42,43:熱硬化性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる基材の表層に粒子と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させた後、
前記基材の裏面側から、密度調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を充填し、前記組成物を乾燥・硬化させ、
前記基材の表面に摩擦調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を塗布し、前記組成物を乾燥・硬化させることを特徴とする、
湿式摩擦材の製造方法。
【請求項2】
前記不織布が乾式不織布であり、パラアラミド繊維、メタアラミド繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アクリル酸化繊維、カイノール繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維又はセルロース繊維単独で、又は2種類以上を混合させて紡績用カードで薄いシート状にしたものを、ニードルパンチング、ステッチボンド、又は接着で一体化させたものである、請求項1の湿式摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記粒子と熱硬化性樹脂を含む組成物の充填量が、前記不織布に対し10〜40重量%である、請求項1又は2の湿式摩擦材の製造方法。
【請求項4】
前記密度調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物の充填量が、前記不織布に対し10〜120重量%である、請求項1から3のいずれかの湿式摩擦材の製造方法。
【請求項5】
前記摩擦調整剤と熱硬化性樹脂を含む組成物の含有量が、前記不織布に対し5〜60重量%である、請求項1から4のいずれかの湿式摩擦材の製造方法。
【請求項6】
前記粒子、前記密度調整剤及び前記摩擦調整剤が、コークス、グラファイト、珪藻土、活性炭、二硫化モリブデン、シリカ粉末、金属粒子又は金属繊維、カシューダスト、フッ素樹脂粉末、球形フェノール樹脂硬化物粉末のうちのひとつ又は2種以上を混合したものである、請求項1から5のいずれかの湿式摩擦材の製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、油・ゴム・エポキシ樹脂等により改質された変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂のうちのひとつ又は2種以上を混合したものである、請求項1から6のいずれかの湿式摩擦材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−45860(P2007−45860A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228777(P2005−228777)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000204882)株式会社ダイナックス (31)
【Fターム(参考)】