湿式摩擦材
【課題】湿式摩擦材において、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果が得られること。
【解決手段】リングタイプ摩擦材6が回転することにより、リングタイプ摩擦材6の外周に溜まるATFとの相互作用によって発生する引き摺りトルクを、複数の油溝9に挟まれた島状部分8の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、島状部分8の外周側を削除した周方向の長さが、外周側を削除した島状部分8を挟む複数の油溝9の外周開口部の幅の一以上が油溝9の最も細い部分の4倍以上になるように設け、外周部におけるATFによる攪拌トルクを抑制することにより、高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【解決手段】リングタイプ摩擦材6が回転することにより、リングタイプ摩擦材6の外周に溜まるATFとの相互作用によって発生する引き摺りトルクを、複数の油溝9に挟まれた島状部分8の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、島状部分8の外周側を削除した周方向の長さが、外周側を削除した島状部分8を挟む複数の油溝9の外周開口部の幅の一以上が油溝9の最も細い部分の4倍以上になるように設け、外周部におけるATFによる攪拌トルクを抑制することにより、高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング形状の芯金の両面または片面にリング状摩擦材基材を接着したリング状摩擦材の両面若しくは片面をプレス加工若しくは切削加工して半径方向に複数の油溝を形成してなるリングタイプ摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、隣り合うセグメントピースの間に形成される油溝を区画形成し、油溝の間隔を内周側から外周側へ向かう途中で狭くすることを特徴とする湿式摩擦部材の発明について開示している。これによって、内周側から外周側へ流れるATFは、油溝の間隔が変化するポイントで堰き止められて、一部のATFがセグメントピースの表面に溢れ出てセグメントピースの表面を流れるため、ATFによる冷却効果が向上して耐熱性が向上するとともに、引き摺りトルクを低下させることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明においては、セグメントピースの芯金とは逆方向のRが付けられた2辺が内周及び外周となるように接着されているため、内周に油溝方向に向かって上がるRが付くとともに、油溝となる間隙の外周開口部の幅が内周開口部の幅よりも大きくなることによって、セグメントタイプ摩擦材の空転によるATFの排出性が大きく向上し、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0007】
更に、特許文献3に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0008】
また、特許文献4においては、セグメントタイプ摩擦材において、セグメントピースの側面(油溝を構成する面)に当接するATFの油圧が大きくなってセグメントピースが剥がれるのを防止するために、セグメントピースの4箇所のコーナーにRを付け、またはセグメントピースの4箇所のコーナーを面取りする発明について開示している。これによって、耐剥離性が大きく向上するとともに、4箇所のコーナーの形状が適切な場合には、ATFによる引き摺りトルクが低減されるという効果も得られるものと考えられる。
【特許文献1】特開2001−295859号公報
【特許文献2】特開2005−069411号公報
【特許文献3】特開2005−282648号公報
【特許文献4】特開2004−150449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1乃至特許文献3に記載の技術においては、ATFがセグメントタイプ摩擦材の芯金の内周側から供給されることを前提としており、実機においてハブ孔からのATFの供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においては、引き摺りトルクを低減する効果がまだまだ小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難であるという問題点があった。
【0010】
また、上記特許文献4に記載の技術においては、セグメントピースが剥がれるのを防止することのみを目的としているために、実施の形態に示されているセグメントピースの4箇所のコーナーのRや面取りが小さ過ぎて引き摺りトルクを低減する効果を得ることができず、引き摺りトルクを低減するための、セグメントピースの4箇所のコーナーのRや面取りの大きさの、適切な範囲が示されていない。更に、引き摺りトルクを低減するためには必ずしも要求されない、セグメントピースの4箇所のコーナーの全てを、R加工または面取り加工しなければならないという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、前記リングタイプ摩擦材が回転することにより、前記リングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、前記複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、前記島状部分の外周側を削除した周方向の長さが、前記外周側を削除した前記島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が前記油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられたものである。
【0013】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、リングタイプ摩擦材が回転することによりリングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側を削除して潤滑油がリングタイプ摩擦材の外周に対し流通しやすくすることで低減させる。
【0015】
すなわち、島状部分の外周側が削除されることによって、潤滑油がリングタイプ摩擦材の外周に対し流通しやすくなっており、これによってリングタイプ摩擦材の回転時に外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを低減させることができる。
【0016】
かかる構成によって、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合には、湿式摩擦材の外周側から供給される潤滑油が削除された部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出して湿式摩擦材とセパレータプレートとの間隔を確保するため、湿式摩擦材のみが円滑に空転する。また、内周側から潤滑油が供給される仕様の場合にも、前記島状部分の外周側が削除されることによって、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0017】
また、島状部分の外周側角部の一方または両方がR加工または面取り加工されている。すなわち、複数の油溝の外周側の開口部が、曲線的にまたは直線的に拡がっており、湿式摩擦材の外周側から流れ込む潤滑油が、R加工または面取り加工された部分である拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出し易くなっているとともに、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に確保されている。
【0018】
そして、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合には、湿式摩擦材の外周側から供給される潤滑油が拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出して湿式摩擦材とセパレータプレートとの間隔を確保するため、湿式摩擦材のみが円滑に空転する。また、内周側から潤滑油が供給される仕様の場合にも、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0019】
更に、島状部分の外周側の略全域がR加工または面取り加工されている。すなわち、複数の油溝の外周側の開口部が、曲線的にまたは直線的に外周側の全域に亘って拡がっており、湿式摩擦材の外周側から流れ込む潤滑油が、R加工または面取り加工された部分である拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出し易くなっているとともに、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に確保されている。
【0020】
加えて、島状部分の外周側を削除した長さが、外周側を削除した島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられていることから、複数の油溝の外周開口部が油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっているため、更に確実に、より大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0021】
このようにして、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、更に確実に、より大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【0022】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられている。これによって、外周側から供給される潤滑油が、R加工または面取り加工部分のみでなく、凹部からも島状部分の表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、実施の形態1において、参考例の部分と同一の記号及び同一の符号は、参考例と同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態との同一の記号及び同一の符号は、それら参考例と実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0024】
参考例
まず、本発明の参考例に係る湿式摩擦材について、図1乃至図11を参照して説明する。
図1(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)の一部を示した部分平面図である。図2(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図である。図3(a),(b)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。図4(a),(b),(c),(d),(e),(f)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【0025】
図5(a)は本発明の参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(e)は本発明の参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0026】
図6(a)は従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)の一部を示した部分平面図、(b)は従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図、(c)は従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)の一部を示した部分平面図である。図7は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2,3)と比較して示す図である。図8は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における各パラメータの関係を示す図である。
【0027】
図9は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み高さ(半径方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図10は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み長さ(円周方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図11(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの発生を示す説明図、(b)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。
【0028】
図1(a)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3の左右外周角部には高さ(セグメントタイプ摩擦材1の半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1の円周方向の幅)がβmmの切り込み3aが設けられている。
【0029】
すなわち、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、複数の油溝4に挟まれたセグメントピース3の外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝4はその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4の全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0030】
また、図1(b)に示されるように、参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)としてのセグメントタイプ摩擦材1Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4A,4Bの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3Aの左外周角部、及びセグメントピース3Bの右外周角部には、それぞれ、高さ(セグメントタイプ摩擦材1Aの半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1Aの円周方向の幅)がβmmの切り込み3Aa,3Baが設けられている。
【0031】
すなわち、参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)としてのセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、複数の油溝4A,4Bに挟まれたセグメントピース3A,3Bの外周側角部の一方が面取り加工されており、複数の油溝4A,4Bはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4A,4Bの1本おきに外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4A,4Bの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4Aが設けられている。
【0032】
更に、図1(c)に示されるように、参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)としてのセグメントタイプ摩擦材1Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Cを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Cの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3Cの左右外周角部は、高さ(セグメントタイプ摩擦材1Cの半径方向の幅)が(α1)mmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1Cの円周方向の幅)が50%の切り込み3Caが設けられている。つまり、セグメントピース3Cの外周側は左右から完全に切り落とされている。そして、α1=(3/4)αである。
【0033】
すなわち、参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)としてのセグメントタイプ摩擦材1Cにおいては、複数の油溝4Cに挟まれたセグメントピース3Cの外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝4Cはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4Cの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4Cの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0034】
ここで、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面の構造と、参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面の構造について、図2を参照して説明する。図2(a)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、芯金2の表面側と裏面側でセグメントピース3の円周方向についての接着位置がほぼ一致しており、したがって油溝4の円周方向についての位置も表裏でほぼ一致している。
【0035】
これに対して、図2(b)に示されるように、参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Fにおいては、芯金2の表面側と裏面側でセグメントピース3の円周方向についての接着位置がずれており、したがって油溝4の円周方向についての位置も表裏でずれが生じている。
【0036】
すなわち、セグメントピース3の接着位置及び油溝4の円周方向についての位置は、芯金2の表裏でランダムであって良く、図2(a)に示されるセグメントタイプ摩擦材1のように芯金2の表裏で一致していても良いし、図2(b)に示されるセグメントタイプ摩擦材1Fのように芯金2の表裏でずれていても良い。これは、参考例で説明する他のセグメントタイプ摩擦材についても、全く同様である。
【0037】
次に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材について、図3を参照して説明する。
図3(a)に示されるように、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Dは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3,3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0038】
ここで、図3(a),(b)においては、セグメントピース3とセグメントピース3Aとの間に設けられた油溝、及びセグメントピース3とセグメントピース3Bとの間に設けられた油溝(いずれも外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている)を、いずれも油溝4Dとしている。
【0039】
図3(a)に示されるように、セグメントタイプ摩擦材1Dにおいては、セグメントピース3が2個貼り付けられた次に、セグメントピース3Aとセグメントピース3Bが交互2個ずつ貼り付けられ、これが全周に亘って繰り返されている。その結果、外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4D,4,4Dが3本連続して並び、外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、外周開口部が拡がっている油溝4Aが並び、更に外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、また外周開口部が拡がっている油溝4D,4,4Dが3本連続して並んでいる。
【0040】
また、図3(b)に示されるように、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Eは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3,3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0041】
図3(b)に示されるように、セグメントタイプ摩擦材1Eにおいては、セグメントピース3,セグメントピース3A,セグメントピース3Bが右回り(時計回り)方向に順に貼り付けられ、これが全周に亘って繰り返されている。その結果、外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4Dが2本連続して並び、外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、また外周開口部が拡がっている油溝4Dが2本連続して並んでいる。
【0042】
更に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状について、図4を参照して説明する。
【0043】
図4(a)に示されるセグメントピース3Dは、外周側角部の両方がR加工されており、図4(b)に示されるセグメントピース3Eは、外周側角部の両方が図1(a)に示されるセグメントピース3よりも小さく面取り加工されており、図4(c)に示されるセグメントピース3Fは、外周側角部の両方が外周の中間部分までR加工されている。
【0044】
また、図4(d)に示されるセグメントピース3Gは、外周側角部の両方が面取り加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅gmmの凹部3gが設けられており、図4(e)に示されるセグメントピース3Hは、外周側角部の両方がR加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅hmmの凹部3hが設けられており、図4(f)に示されるセグメントピース3Iは、外周側角部の両方が面取り加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅immの凹部3iが設けられている。
【0045】
これによって、これらのセグメントピース3G,3H,3Iをそれぞれ用いてなるセグメントタイプ摩擦材は、外周側から供給される潤滑油が、R加工または面取り加工部分のみでなく、凹部3g,3h,3iからもセグメントピース3G,3H,3Iの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0046】
更に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材について、図5を参照して説明する。
図5(a)に示されるように、参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Gは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Jを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Eの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。なお、セグメントピース3Jは、上述したセグメントピース3等よりも高さ(半径方向の幅)・長さ(円周方向の幅)ともに大きく、このため油溝4Eの本数は全周で30本と、上述したセグメントタイプ摩擦材1等より少なくなっている。
【0047】
ここで、セグメントピース3Jの左右外周角部には切り込み(面取り加工)3Jaが施されており、またセグメントピース3Jの外周側中央部分には、外周側に対して凹んだ幅jmmの凹部3jが設けられている。
【0048】
これによって、セグメントタイプ摩擦材1Gは、外周側から供給される潤滑油が、面取り加工部分3Jaのみでなく、凹部3jからもセグメントピース3Jの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、セグメントタイプ摩擦材1Gの外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0049】
また、図5(b)に示されるように、参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Hは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3K,3Lを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4F,4Gの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。なお、セグメントピース3K,3Lは、上述したセグメントピース3等よりも高さ(半径方向の幅)は大きいが、長さ(円周方向の幅)は同程度であり、このため油溝4F,4Gの本数は全周で40本と、上述したセグメントタイプ摩擦材1等と同じになっている。
【0050】
ここで、セグメントピース3Kの右外周角部には、セグメントピース3Kの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工3Kaが施されており、またセグメントピース3Lの左外周角部には、セグメントピース3Lの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工3Laが施されている。
【0051】
また、図5(c)に示されるように、参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Jは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3K,3L,3M,3Nを、この順に右回り(時計回り)方向に並べて、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4F,4H,4J,4Kの間隔を空けて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0052】
ここで、セグメントピース3Mの右外周角部には切り込み(面取り加工)3Maが施されており、またセグメントピース3Nの左外周角部には切り込み(面取り加工)3Naが施されている。
【0053】
また、図5(d)に示されるように、参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Kは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Kを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Lの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0054】
また、図5(e)に示されるように、参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Lは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3L,3Mを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4H,4Mの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0055】
これによって、これらのセグメントタイプ摩擦材1H,1J,1K,1Lは、外周側から供給される潤滑油が、面取り加工部分からセグメントピース3K,3L,3M,3Nの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0056】
次に、従来技術に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材について、図6を参照して説明する。
図6(a)に示されるように、従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)としてのセグメントタイプ摩擦材11は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。かかる構成の従来技術の第1例に係るセグメントタイプ摩擦材11は、上記特許文献4の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0057】
また、図6(b)に示されるように、従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)としてのセグメントタイプ摩擦材11Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13A,13Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14A,14Bの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0058】
ここで、セグメントピース13Aの左内周角部、及びセグメントピース13Bの右内周角部には、それぞれ、高さ(セグメントタイプ摩擦材11Aの半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材11Aの円周方向の幅)がβmmの切り込み13Aa,13Baが設けられている。かかる構成の従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献3の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0059】
更に、図6(c)に示されるように、従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)としてのセグメントタイプ摩擦材11Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13Cを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14Cの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。かかる構成の従来技術の第3例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cは、上記特許文献2の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0060】
以上説明した参考例に係るセグメントタイプ摩擦材のうち、セグメントタイプ摩擦材1(事例1)、第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1A(事例2)、第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1C(事例3)、従来技術の第1例に係るセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)、従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11A(比較例2)、及び従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11C(比較例3)について、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0061】
各セグメントピースのサイズは、セグメントピースの横幅=13mm、セグメントピース3の縦幅=5mm、セグメントピースの枚数は片面40枚(両面で80枚)、また油溝の最も細い部分の幅=1mm、α=2mm、β=2mmとした。すなわち、セグメントピース3においては、面取り加工の円周方向の幅(2mm)はセグメントピース3の円周方向の幅(13mm)の15.4%であり、面取り加工の半径方向の幅(2mm)はセグメントピースの半径方向の幅(5mm)の40%である。セグメントピース3A,3Bにおいても、同一である。
【0062】
また、セグメントピース3Cにおいては、面取り加工の円周方向の幅(6.5mm)はセグメントピース3の円周方向の幅(13mm)の50%であり、面取り加工の半径方向の幅(α1=(3/4)α=(3/4)×2mm=1.5mm)はセグメントピースの半径方向の幅(5mm)の30%である。
【0063】
試験条件としては、相対回転数=500〜7000rpm、ATF油温=40℃、ATF油量=500mL/min(軸芯潤滑なし)、ディスクサイズが図1及び図3に示される外周φ1=185mm,内周φ2=175mmにおいて試験し、ディスク枚数=7枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは8枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚で行った。試験の結果を、図7に示す。
【0064】
図7に示されるように、相対回転数が500rpmの時点で、事例1,2,3と比較例1,2との間には既に大きな差が出ており、参考例(事例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cの方が、比較例1,2,3に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A,11Cに比べて、引き摺りトルクが小さくなっている。
【0065】
その後、相対回転数が上がるにしたがって、軸芯潤滑なしの条件であることから、いずれのセグメントタイプ摩擦材も引き摺りトルクが小さくなるが、相対回転数が1000rpm,1500rpm,2000rpmの時点では、事例1,2,3と比較例1,2,3との間の差が維持されている。そして、相対回転数が2500rpmの時点では、事例1,2,3と比較例1,3との間の差は殆どなくなるが、比較例2のみは依然として引き摺りトルクが大きく、7000rpmに至るまで、事例1,2,3よりも引き摺りトルクが大きいままである。
【0066】
このように、参考例(事例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cは、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A,11C(比較例1,2,3)に比較して、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0067】
なお、図7に示されるように、試験を行った相対回転数=500〜7000rpmの全ての範囲に亘って、事例3に係るセグメントタイプ摩擦材1Cの方が、事例1,2に係るセグメントタイプ摩擦材1,1Aよりも引き摺りトルクが小さいという結果が出ている。したがって、参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cの中でも、セグメントタイプ摩擦材1Cの方が、すなわちセグメントピースの外周側の中央まで左右対称に面取り加工を行ったセグメントタイプ摩擦材の方が、より引き摺りトルクの低減効果が大きいことが分かった。
【0068】
そこで、より大きな引き摺りトルク抑制効果を得るために、図8に示される参考例のセグメントタイプ摩擦材1、及びセグメントタイプ摩擦材1に用いられるセグメントピース3に関する6つのパラメータ、すなわち切り込み3aの高さ(半径方向の幅)α、切り込み3aの長さ(円周方向の幅)β、油溝4の最も細い部分の幅γ、セグメントピース3の横幅δ、セグメントピース3の縦幅ε、油溝4の外周開口部の幅σ、についてそれぞれ最適値を求めるべく実験を行った。
【0069】
そのうち、切り込み3aの高さα及び長さβについての実験結果を示すのが、図9及び図10の棒グラフである。まず、切り込み3aの高さαの最適値を求めるために、切り込み長さβ=2.0mmに固定して、切り込み高さαを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、引き摺りトルク低減率を測定した。
【0070】
なお、引き摺りトルク低減率はセグメントタイプ摩擦材1の回転数を1000rpm,1500rpmとした場合の測定値2点の平均値として表した。そして、切り込み高さα=2mm,切り込み長さβ=2.0mmの場合、すなわち図5に示される事例1の場合を基準として、事例1と比較して引き摺りトルク低減率が増加した場合をプラス、引き摺りトルク低減率が減少した場合をマイナスとして表示した。
【0071】
また、図8に示される他のパラメータについては、油溝4の最も細い部分の幅γ=1mm,セグメントピース3の横幅δ=13mm、セグメントピース3の縦幅ε=5mmとして、試験条件としては、ATF油温=40℃、ATF油量=500mL/min(軸芯潤滑なし)、ディスクサイズが外周φ1=185mm,内周φ2=175mmにおいて試験し、ディスク枚数=7枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは8枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚、で行った。
【0072】
その結果、図9に示されるように、切り込み高さαが1.0mm,1.5mmと、事例1と比較して小さい場合には、引き摺りトルク低減率が減少してマイナスの値となり、切り込み高さαが2.5mmと、事例1と比較して大きい場合には、プラスの値となった。この結果、切り込み高さαが大きいほど引き摺りトルク低減効果が向上するものと考えられる。
【0073】
一方、切り込み3aの長さβの最適値を求めるために、切り込み高さα=2.0mmに固定して、切り込み長さβを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、同様の試験条件で引き摺りトルク低減率を測定した。その結果、図10に示されるように、切り込み長さβが1.0mm,1.5mmと、事例1と比較して小さい場合には、引き摺りトルク低減率が減少してマイナスの値となり、切り込み長さβが2.5mmと、事例1と比較して大きい場合には、プラスの値となった。この結果、切り込み長さβが大きいほど引き摺りトルク低減効果が向上するものと考えられる。
【0074】
更に、図8に示される他のパラメータ同士の関係についても実験を重ねた結果、切り込み高さα=セグメントピース3の縦幅εの25%〜50%の範囲内、切り込み長さβ≦0.5×(セグメントピース3の横幅δ)、油溝4の外周開口部の幅σ≧4×(油溝4の最も細い部分の幅γ)、という条件を満たす場合に、より高い引き摺りトルク低減効果が得られることが明らかになった。
【0075】
以上説明したように、湿式摩擦材の内周側からの潤滑油(ATF)の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合、すなわち湿式摩擦材の外周側からのみ潤滑油が供給される場合には、セグメントタイプ摩擦材の場合はセグメントピースの外周側角部の一方または両方をR加工または面取り加工することによって、加工部分からセグメントピースの表面にATFが流れて、相手材との間に入り込む引き剥がし効果によって、高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【0076】
これに対して、湿式摩擦材の内周側から潤滑油(ATF)が供給される場合について、図11を参照して説明する。図11(a)に示されるように、従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)としてのセグメントタイプ摩擦材11においては、外周部に溜まったATFによる攪拌トルクが大きいため、引き摺りトルクが大きくなってしまう。
【0077】
これに対して、図11(b)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、セグメントピース3の外周に切り込み3aを設けることによって、ATFによる攪拌トルクを抑制できるとともに、切り込み3aからセグメントピース3の表面にATFが流れて、相手材との間に入り込む引き剥がし効果によって、引き摺りトルクが低減される。
【0078】
なお、上述したように、外周側からのみ潤滑油が供給される場合には、セグメントピースの内周に切り込みを入れても引き摺りトルクを低減する効果は少ないが、内周側から潤滑油(ATF)が供給される場合には、セグメントピースの外周に切り込みを設けるとともに、セグメントピースの内周にも切り込みを入れることによって、より高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【0079】
このようにして、参考例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cにおいては、内周側からの潤滑油の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、より確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0080】
実施の形態1
次に、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図12乃至図14を参照して説明する。図12(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0081】
図13(a)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。図14(a)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0082】
図12(a),(b)に示されるように、実施の形態1に係る湿式摩擦材6は、参考例(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8を間に挟んで複数(片面40本)の油溝9を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0083】
ここで、油溝9は外周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝であり、複数の油溝9〜9に挟まれた島状部分8の外周側角部の両方が面取り加工(8a)されており、複数の油溝9はその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9の全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0084】
また、外周部分が左右対称の形状に拡がった油溝9の外周開口部における、摩擦材基材の島状部分8の面取り加工部分8aの半径方向の高さX(mm)及び円周方向の長さY(mm)については、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるα及びβと同一の寸法とした。すなわち、X=2mm,Y=2mmである。
【0085】
更に、島状部分8の横方向の幅及び島状部分8の縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8の横方向の幅=13mm,島状部分8の縦方向の幅=5mmとした。
【0086】
また、図12(c)に示されるように、実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材6Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8A,8Bを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9A,9Bを形成してなるリングタイプ摩擦材である。ここで、島状部分8Aの左外周角部及び島状部分8Bの右外周角部には、それぞれ、高さ(半径方向の幅)がXmmで長さ(円周方向の幅)がYmmの面取り加工8Aa,8Baが施されている。
【0087】
すなわち、実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Aにおいては、複数の油溝9A,9Bに挟まれた島状部分8A,8Bの外周側角部の一方が面取り加工されており、複数の油溝9A,9Bはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9A,9Bの1本おきに外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9A,9Bの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝9Aが設けられている。
【0088】
また、島状部分8A,8Bの横方向の幅及び島状部分8A,8Bの縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8A,8Bの横方向の幅=13mm,島状部分8A,8Bの縦方向の幅=5mmとした。
【0089】
更に、図12(d)に示されるように、実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材6Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8Cを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9Cを形成してなるリングタイプ摩擦材である。ここで、島状部分8Cの左右外周角部は、高さ(半径方向の幅)が(X1)mmで長さ(円周方向の幅)が50%に面取り加工8Caが施されている。つまり、島状部分8Cの外周側は左右から完全に切り落とされている。そして、X1=(3/4)Xである。
【0090】
すなわち、実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Cにおいては、複数の油溝9Cに挟まれた島状部分8Cの外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝9Cはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9Cの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9Cの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0091】
また、島状部分8Cの横方向の幅及び島状部分8Cの縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8Cの横方向の幅=13mm,島状部分8Cの縦方向の幅=5mmとした。
【0092】
次に、本発明の実施の形態1の第3変形例、第4変形例、第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材について、図13を参照して説明する。図13(a)に示されるように、実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材6Dは、参考例(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8を間に挟んで複数(片面40本)の油溝9を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0093】
ここで、実施の形態1の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材6Dが、図12(a),(b)に示される本実施の形態1に係るリングタイプ摩擦材6と異なるのは、リングタイプ摩擦材6においては、芯金2の表面側と裏面側で円周方向についての島状部分8の形成された位置がほぼ一致しており、したがって円周方向についての油溝9の位置も表裏でほぼ一致しているのに対して、リングタイプ摩擦材6Dにおいては、芯金2の表面側と裏面側で円周方向についての島状部分8の形成された位置がずれており、したがって円周方向についての油溝9の位置も表裏でずれが生じている点である。
【0094】
すなわち、円周方向についての島状部分8の形成された位置及び油溝9の位置は、芯金2の表裏でランダムであって良く、図12(a),(b)に示されるリングタイプ摩擦材6のように芯金2の表裏で一致していても良いし、図13(a)に示されるリングタイプ摩擦材6Dのように芯金2の表裏でずれていても良い。これは、本実施の形態1で説明する他のリングタイプ摩擦材についても、全く同様である。
【0095】
次に、図13(b)に示されるように、実施の形態1の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材6Eは、図12(d)に示される実施の形態1の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材6Cの島状部分8Cに対して、逆の外周形状を有している。すなわち、リングタイプ摩擦材6Cの島状部分8Cが外周側に凸の形状を有しているのに対して、リングタイプ摩擦材6Eの島状部分8Dは、外周側に対して凹んだ幅dmmの凹部8dを有している。更に、島状部分8Dの左右の外周側角部には、面取り加工8Daが施されている。
【0096】
なお、島状部分8Dは、上述した島状部分8等よりも高さ(半径方向の幅)・長さ(円周方向の幅)ともに大きく、このため油溝9Dの本数は全周で30本と、上述したリングタイプ摩擦材6等より少なくなっている。複数の油溝9Dはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9Dの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9Dの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0097】
また、図13(c)に示されるように、実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Fは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8E,8Fを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9E,9Fを形成してなるものである。なお、島状部分8E,8Fは、上述した島状部分8等よりも高さ(半径方向の幅)は大きいが、長さ(円周方向の幅)は同程度であり、このため油溝9E,9Fの本数は全周で40本と、上述したリングタイプ摩擦材6等と同じになっている。
【0098】
ここで、島状部分8Eの右外周角部には、島状部分8Eの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工8Eaが施されており、また島状部分8Fの左外周角部には、島状部分8Fの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工8Faが施されている。
【0099】
次に、本発明の実施の形態1の第6変形例、第7変形例、第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材について、図14を参照して説明する。図14(a)に示されるように、実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材6Gは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8E,8F,8G,8Hを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9E,9G,9H,9Jを形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0100】
ここで、島状部分8Gの右外周角部には面取り加工8Gaが施されており、また島状部分8Hの左外周角部には面取り加工8Haが施されている。
【0101】
また、図14(b)に示されるように、実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Hは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8Fを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9Kを形成してなるものである。
【0102】
また、図14(c)に示されるように、実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Jは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8F,8Gを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9G,9Lを形成してなるものである。
【0103】
これによって、実施の形態1に係るリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jは、ATに組み込まれた場合、非締結状態においていずれかの方向に空転したとき、内周側からの潤滑油(ATF)の供給がない仕様の場合には、外周側から供給されるATFが面取り加工部分8a,8Aa,8Ba,8Ca,8Da,8Ea,8Fa,8Ga,8Haで堰き止められて、島状部分8,8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G,8Hの表面に溢れ出してリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jとセパレータプレートとの間隔を確保するため、リングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jのみが円滑に空転する。
【0104】
また、内周側から潤滑油(ATF)が供給される仕様の場合にも、リングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jの外周にATFが流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0105】
このようにして、実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jにおいては、内周側からの潤滑油の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、より確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0106】
更に、実施の形態1に係るプレス型摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jにおいては、平板リング形状の芯金2の両面全面にリング形状の摩擦材基材7,10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって製造されるため、量産がより容易であり、より低コスト化できるという利点がある。
【0107】
上記実施の形態1においては、湿式摩擦材のうちセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のプレス型摩擦材のみについて説明したが、同様の油溝を切削加工によって形成したリングタイプの切削加工型摩擦材においても、リングタイプ(プレス型)摩擦材6,6A,6Cと同等の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0108】
また、上記参考例及び実施の形態1においては、図1,図3,図5,図6,図8,図11乃至図14に示されるように、セグメントピース3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3J,3K,3L,3M,3Nまたはリング形状の摩擦材基材7,10を、芯金2の外周側に片寄った部分にのみ貼り付けた湿式摩擦材について説明したが、上記特許文献1乃至特許文献4に示されるように、芯金2の外周から内周までの幅の90%以上の幅でセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても、上記参考例及び実施の形態1と同様の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0109】
その他、芯金2の外周から内周までの幅の何%の幅でセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても、上記参考例及び実施の形態1と同様の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。更に、上記参考例及び実施の形態1においては、芯金2の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金2の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。
【0110】
更に、上記参考例及び実施の形態1においては、芯金2の片面にセグメントピースを30枚または40枚ずつ貼り付けた場合、及びリング形状の摩擦材基材を貼り付けて油溝を30本または40本ずつ形成した場合のみについて説明したが、芯金2の片面当たりのセグメントピースの枚数は30枚または40枚に限られるものではなく、また油溝の数も30本または40本に限られるものではなく、何枚でも何本でも自由に設定することができる。
【0111】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材(セグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材)のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記参考例及び実施の形態1に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態1で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)の一部を示した部分平面図である。
【図2】図2(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図である。
【図3】図3(a),(b)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図4】図4(a),(b),(c),(d),(e),(f)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【図5】図5(a)は本発明の参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(e)は本発明の参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図6】図6(a)は従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)の一部を示した部分平面図、(b)は従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図、(c)は従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)の一部を示した部分平面図である。
【図7】図7は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2,3)と比較して示す図である。
【図8】図8は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における各パラメータの関係を示す図である。
【図9】図9は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み高さ(半径方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図10】図10は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み長さ(円周方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図11】図11(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの発生を示す説明図、(b)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。
【図12】図12(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図13】図13(a)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図14】図14(a)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【符号の説明】
【0113】
1,1A,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J,1K,1L,6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6J 湿式摩擦材
2 芯金
3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3I,3J,3K,3L,3M,3N セグメントピース
3a,3Aa,3Ba,3Ca 切り込み(面取り加工)
3g,3h,3i,3j,8d 凹部
4,4A,4B,4C,4D,4E,4F,4G,4H,4J,4K,4L,4M,9,9A,9B,9C,9D,9E,9F,9G,9H,9J,9K,9L 油溝
7,10 リング形状の摩擦材基材
8,8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G,8H 島状部分
8a,8Aa,8Ba,8Ca,8Da,8Ea,8Fa,8Ga,8Ha 面取り加工
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング形状の芯金の両面または片面にリング状摩擦材基材を接着したリング状摩擦材の両面若しくは片面をプレス加工若しくは切削加工して半径方向に複数の油溝を形成してなるリングタイプ摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、隣り合うセグメントピースの間に形成される油溝を区画形成し、油溝の間隔を内周側から外周側へ向かう途中で狭くすることを特徴とする湿式摩擦部材の発明について開示している。これによって、内周側から外周側へ流れるATFは、油溝の間隔が変化するポイントで堰き止められて、一部のATFがセグメントピースの表面に溢れ出てセグメントピースの表面を流れるため、ATFによる冷却効果が向上して耐熱性が向上するとともに、引き摺りトルクを低下させることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明においては、セグメントピースの芯金とは逆方向のRが付けられた2辺が内周及び外周となるように接着されているため、内周に油溝方向に向かって上がるRが付くとともに、油溝となる間隙の外周開口部の幅が内周開口部の幅よりも大きくなることによって、セグメントタイプ摩擦材の空転によるATFの排出性が大きく向上し、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0007】
更に、特許文献3に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0008】
また、特許文献4においては、セグメントタイプ摩擦材において、セグメントピースの側面(油溝を構成する面)に当接するATFの油圧が大きくなってセグメントピースが剥がれるのを防止するために、セグメントピースの4箇所のコーナーにRを付け、またはセグメントピースの4箇所のコーナーを面取りする発明について開示している。これによって、耐剥離性が大きく向上するとともに、4箇所のコーナーの形状が適切な場合には、ATFによる引き摺りトルクが低減されるという効果も得られるものと考えられる。
【特許文献1】特開2001−295859号公報
【特許文献2】特開2005−069411号公報
【特許文献3】特開2005−282648号公報
【特許文献4】特開2004−150449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1乃至特許文献3に記載の技術においては、ATFがセグメントタイプ摩擦材の芯金の内周側から供給されることを前提としており、実機においてハブ孔からのATFの供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においては、引き摺りトルクを低減する効果がまだまだ小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難であるという問題点があった。
【0010】
また、上記特許文献4に記載の技術においては、セグメントピースが剥がれるのを防止することのみを目的としているために、実施の形態に示されているセグメントピースの4箇所のコーナーのRや面取りが小さ過ぎて引き摺りトルクを低減する効果を得ることができず、引き摺りトルクを低減するための、セグメントピースの4箇所のコーナーのRや面取りの大きさの、適切な範囲が示されていない。更に、引き摺りトルクを低減するためには必ずしも要求されない、セグメントピースの4箇所のコーナーの全てを、R加工または面取り加工しなければならないという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、前記リングタイプ摩擦材が回転することにより、前記リングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、前記複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、前記島状部分の外周側を削除した周方向の長さが、前記外周側を削除した前記島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が前記油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられたものである。
【0013】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、リングタイプ摩擦材が回転することによりリングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側を削除して潤滑油がリングタイプ摩擦材の外周に対し流通しやすくすることで低減させる。
【0015】
すなわち、島状部分の外周側が削除されることによって、潤滑油がリングタイプ摩擦材の外周に対し流通しやすくなっており、これによってリングタイプ摩擦材の回転時に外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを低減させることができる。
【0016】
かかる構成によって、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合には、湿式摩擦材の外周側から供給される潤滑油が削除された部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出して湿式摩擦材とセパレータプレートとの間隔を確保するため、湿式摩擦材のみが円滑に空転する。また、内周側から潤滑油が供給される仕様の場合にも、前記島状部分の外周側が削除されることによって、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0017】
また、島状部分の外周側角部の一方または両方がR加工または面取り加工されている。すなわち、複数の油溝の外周側の開口部が、曲線的にまたは直線的に拡がっており、湿式摩擦材の外周側から流れ込む潤滑油が、R加工または面取り加工された部分である拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出し易くなっているとともに、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に確保されている。
【0018】
そして、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合には、湿式摩擦材の外周側から供給される潤滑油が拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出して湿式摩擦材とセパレータプレートとの間隔を確保するため、湿式摩擦材のみが円滑に空転する。また、内周側から潤滑油が供給される仕様の場合にも、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0019】
更に、島状部分の外周側の略全域がR加工または面取り加工されている。すなわち、複数の油溝の外周側の開口部が、曲線的にまたは直線的に外周側の全域に亘って拡がっており、湿式摩擦材の外周側から流れ込む潤滑油が、R加工または面取り加工された部分である拡がった部分で堰き止められて、島状部分の表面に溢れ出し易くなっているとともに、湿式摩擦材の外周に潤滑油が流れるスペースが充分に確保されている。
【0020】
加えて、島状部分の外周側を削除した長さが、外周側を削除した島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられていることから、複数の油溝の外周開口部が油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっているため、更に確実に、より大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0021】
このようにして、内周側からの潤滑油の供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、更に確実に、より大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【0022】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられている。これによって、外周側から供給される潤滑油が、R加工または面取り加工部分のみでなく、凹部からも島状部分の表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、実施の形態1において、参考例の部分と同一の記号及び同一の符号は、参考例と同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態との同一の記号及び同一の符号は、それら参考例と実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0024】
参考例
まず、本発明の参考例に係る湿式摩擦材について、図1乃至図11を参照して説明する。
図1(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)の一部を示した部分平面図である。図2(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図である。図3(a),(b)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。図4(a),(b),(c),(d),(e),(f)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【0025】
図5(a)は本発明の参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(e)は本発明の参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0026】
図6(a)は従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)の一部を示した部分平面図、(b)は従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図、(c)は従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)の一部を示した部分平面図である。図7は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2,3)と比較して示す図である。図8は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における各パラメータの関係を示す図である。
【0027】
図9は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み高さ(半径方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図10は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み長さ(円周方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図11(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの発生を示す説明図、(b)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。
【0028】
図1(a)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3の左右外周角部には高さ(セグメントタイプ摩擦材1の半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1の円周方向の幅)がβmmの切り込み3aが設けられている。
【0029】
すなわち、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、複数の油溝4に挟まれたセグメントピース3の外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝4はその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4の全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0030】
また、図1(b)に示されるように、参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)としてのセグメントタイプ摩擦材1Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4A,4Bの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3Aの左外周角部、及びセグメントピース3Bの右外周角部には、それぞれ、高さ(セグメントタイプ摩擦材1Aの半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1Aの円周方向の幅)がβmmの切り込み3Aa,3Baが設けられている。
【0031】
すなわち、参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)としてのセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、複数の油溝4A,4Bに挟まれたセグメントピース3A,3Bの外周側角部の一方が面取り加工されており、複数の油溝4A,4Bはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4A,4Bの1本おきに外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4A,4Bの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4Aが設けられている。
【0032】
更に、図1(c)に示されるように、参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)としてのセグメントタイプ摩擦材1Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Cを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Cの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3Cの左右外周角部は、高さ(セグメントタイプ摩擦材1Cの半径方向の幅)が(α1)mmで長さ(セグメントタイプ摩擦材1Cの円周方向の幅)が50%の切り込み3Caが設けられている。つまり、セグメントピース3Cの外周側は左右から完全に切り落とされている。そして、α1=(3/4)αである。
【0033】
すなわち、参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)としてのセグメントタイプ摩擦材1Cにおいては、複数の油溝4Cに挟まれたセグメントピース3Cの外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝4Cはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝4Cの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝4Cの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0034】
ここで、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面の構造と、参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面の構造について、図2を参照して説明する。図2(a)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、芯金2の表面側と裏面側でセグメントピース3の円周方向についての接着位置がほぼ一致しており、したがって油溝4の円周方向についての位置も表裏でほぼ一致している。
【0035】
これに対して、図2(b)に示されるように、参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Fにおいては、芯金2の表面側と裏面側でセグメントピース3の円周方向についての接着位置がずれており、したがって油溝4の円周方向についての位置も表裏でずれが生じている。
【0036】
すなわち、セグメントピース3の接着位置及び油溝4の円周方向についての位置は、芯金2の表裏でランダムであって良く、図2(a)に示されるセグメントタイプ摩擦材1のように芯金2の表裏で一致していても良いし、図2(b)に示されるセグメントタイプ摩擦材1Fのように芯金2の表裏でずれていても良い。これは、参考例で説明する他のセグメントタイプ摩擦材についても、全く同様である。
【0037】
次に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材について、図3を参照して説明する。
図3(a)に示されるように、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Dは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3,3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0038】
ここで、図3(a),(b)においては、セグメントピース3とセグメントピース3Aとの間に設けられた油溝、及びセグメントピース3とセグメントピース3Bとの間に設けられた油溝(いずれも外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている)を、いずれも油溝4Dとしている。
【0039】
図3(a)に示されるように、セグメントタイプ摩擦材1Dにおいては、セグメントピース3が2個貼り付けられた次に、セグメントピース3Aとセグメントピース3Bが交互2個ずつ貼り付けられ、これが全周に亘って繰り返されている。その結果、外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4D,4,4Dが3本連続して並び、外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、外周開口部が拡がっている油溝4Aが並び、更に外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、また外周開口部が拡がっている油溝4D,4,4Dが3本連続して並んでいる。
【0040】
また、図3(b)に示されるように、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Eは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3,3A,3Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0041】
図3(b)に示されるように、セグメントタイプ摩擦材1Eにおいては、セグメントピース3,セグメントピース3A,セグメントピース3Bが右回り(時計回り)方向に順に貼り付けられ、これが全周に亘って繰り返されている。その結果、外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝4Dが2本連続して並び、外周開口部が拡がっていない油溝4Bを1本挟んで、また外周開口部が拡がっている油溝4Dが2本連続して並んでいる。
【0042】
更に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状について、図4を参照して説明する。
【0043】
図4(a)に示されるセグメントピース3Dは、外周側角部の両方がR加工されており、図4(b)に示されるセグメントピース3Eは、外周側角部の両方が図1(a)に示されるセグメントピース3よりも小さく面取り加工されており、図4(c)に示されるセグメントピース3Fは、外周側角部の両方が外周の中間部分までR加工されている。
【0044】
また、図4(d)に示されるセグメントピース3Gは、外周側角部の両方が面取り加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅gmmの凹部3gが設けられており、図4(e)に示されるセグメントピース3Hは、外周側角部の両方がR加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅hmmの凹部3hが設けられており、図4(f)に示されるセグメントピース3Iは、外周側角部の両方が面取り加工されるとともに外周側中央部分に外周側に対して凹んだ幅immの凹部3iが設けられている。
【0045】
これによって、これらのセグメントピース3G,3H,3Iをそれぞれ用いてなるセグメントタイプ摩擦材は、外周側から供給される潤滑油が、R加工または面取り加工部分のみでなく、凹部3g,3h,3iからもセグメントピース3G,3H,3Iの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0046】
更に、参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材について、図5を参照して説明する。
図5(a)に示されるように、参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Gは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Jを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Eの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。なお、セグメントピース3Jは、上述したセグメントピース3等よりも高さ(半径方向の幅)・長さ(円周方向の幅)ともに大きく、このため油溝4Eの本数は全周で30本と、上述したセグメントタイプ摩擦材1等より少なくなっている。
【0047】
ここで、セグメントピース3Jの左右外周角部には切り込み(面取り加工)3Jaが施されており、またセグメントピース3Jの外周側中央部分には、外周側に対して凹んだ幅jmmの凹部3jが設けられている。
【0048】
これによって、セグメントタイプ摩擦材1Gは、外周側から供給される潤滑油が、面取り加工部分3Jaのみでなく、凹部3jからもセグメントピース3Jの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、セグメントタイプ摩擦材1Gの外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0049】
また、図5(b)に示されるように、参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Hは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3K,3Lを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4F,4Gの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。なお、セグメントピース3K,3Lは、上述したセグメントピース3等よりも高さ(半径方向の幅)は大きいが、長さ(円周方向の幅)は同程度であり、このため油溝4F,4Gの本数は全周で40本と、上述したセグメントタイプ摩擦材1等と同じになっている。
【0050】
ここで、セグメントピース3Kの右外周角部には、セグメントピース3Kの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工3Kaが施されており、またセグメントピース3Lの左外周角部には、セグメントピース3Lの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工3Laが施されている。
【0051】
また、図5(c)に示されるように、参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Jは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3K,3L,3M,3Nを、この順に右回り(時計回り)方向に並べて、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4F,4H,4J,4Kの間隔を空けて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0052】
ここで、セグメントピース3Mの右外周角部には切り込み(面取り加工)3Maが施されており、またセグメントピース3Nの左外周角部には切り込み(面取り加工)3Naが施されている。
【0053】
また、図5(d)に示されるように、参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Kは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3Kを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4Lの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0054】
また、図5(e)に示されるように、参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Lは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース3L,3Mを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して、油溝4H,4Mの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0055】
これによって、これらのセグメントタイプ摩擦材1H,1J,1K,1Lは、外周側から供給される潤滑油が、面取り加工部分からセグメントピース3K,3L,3M,3Nの表面に溢れ出すため、確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、湿式摩擦材の外周の潤滑油が流れるスペースがより広くなるために、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態をより確実に防止することができる。
【0056】
次に、従来技術に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材について、図6を参照して説明する。
図6(a)に示されるように、従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)としてのセグメントタイプ摩擦材11は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。かかる構成の従来技術の第1例に係るセグメントタイプ摩擦材11は、上記特許文献4の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0057】
また、図6(b)に示されるように、従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)としてのセグメントタイプ摩擦材11Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13A,13Bを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14A,14Bの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0058】
ここで、セグメントピース13Aの左内周角部、及びセグメントピース13Bの右内周角部には、それぞれ、高さ(セグメントタイプ摩擦材11Aの半径方向の幅)がαmmで長さ(セグメントタイプ摩擦材11Aの円周方向の幅)がβmmの切り込み13Aa,13Baが設けられている。かかる構成の従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献3の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0059】
更に、図6(c)に示されるように、従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)としてのセグメントタイプ摩擦材11Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13Cを、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝14Cの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。かかる構成の従来技術の第3例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cは、上記特許文献2の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0060】
以上説明した参考例に係るセグメントタイプ摩擦材のうち、セグメントタイプ摩擦材1(事例1)、第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1A(事例2)、第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1C(事例3)、従来技術の第1例に係るセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)、従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11A(比較例2)、及び従来技術の第2例に係るセグメントタイプ摩擦材11C(比較例3)について、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0061】
各セグメントピースのサイズは、セグメントピースの横幅=13mm、セグメントピース3の縦幅=5mm、セグメントピースの枚数は片面40枚(両面で80枚)、また油溝の最も細い部分の幅=1mm、α=2mm、β=2mmとした。すなわち、セグメントピース3においては、面取り加工の円周方向の幅(2mm)はセグメントピース3の円周方向の幅(13mm)の15.4%であり、面取り加工の半径方向の幅(2mm)はセグメントピースの半径方向の幅(5mm)の40%である。セグメントピース3A,3Bにおいても、同一である。
【0062】
また、セグメントピース3Cにおいては、面取り加工の円周方向の幅(6.5mm)はセグメントピース3の円周方向の幅(13mm)の50%であり、面取り加工の半径方向の幅(α1=(3/4)α=(3/4)×2mm=1.5mm)はセグメントピースの半径方向の幅(5mm)の30%である。
【0063】
試験条件としては、相対回転数=500〜7000rpm、ATF油温=40℃、ATF油量=500mL/min(軸芯潤滑なし)、ディスクサイズが図1及び図3に示される外周φ1=185mm,内周φ2=175mmにおいて試験し、ディスク枚数=7枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは8枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚で行った。試験の結果を、図7に示す。
【0064】
図7に示されるように、相対回転数が500rpmの時点で、事例1,2,3と比較例1,2との間には既に大きな差が出ており、参考例(事例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cの方が、比較例1,2,3に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A,11Cに比べて、引き摺りトルクが小さくなっている。
【0065】
その後、相対回転数が上がるにしたがって、軸芯潤滑なしの条件であることから、いずれのセグメントタイプ摩擦材も引き摺りトルクが小さくなるが、相対回転数が1000rpm,1500rpm,2000rpmの時点では、事例1,2,3と比較例1,2,3との間の差が維持されている。そして、相対回転数が2500rpmの時点では、事例1,2,3と比較例1,3との間の差は殆どなくなるが、比較例2のみは依然として引き摺りトルクが大きく、7000rpmに至るまで、事例1,2,3よりも引き摺りトルクが大きいままである。
【0066】
このように、参考例(事例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cは、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A,11C(比較例1,2,3)に比較して、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0067】
なお、図7に示されるように、試験を行った相対回転数=500〜7000rpmの全ての範囲に亘って、事例3に係るセグメントタイプ摩擦材1Cの方が、事例1,2に係るセグメントタイプ摩擦材1,1Aよりも引き摺りトルクが小さいという結果が出ている。したがって、参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cの中でも、セグメントタイプ摩擦材1Cの方が、すなわちセグメントピースの外周側の中央まで左右対称に面取り加工を行ったセグメントタイプ摩擦材の方が、より引き摺りトルクの低減効果が大きいことが分かった。
【0068】
そこで、より大きな引き摺りトルク抑制効果を得るために、図8に示される参考例のセグメントタイプ摩擦材1、及びセグメントタイプ摩擦材1に用いられるセグメントピース3に関する6つのパラメータ、すなわち切り込み3aの高さ(半径方向の幅)α、切り込み3aの長さ(円周方向の幅)β、油溝4の最も細い部分の幅γ、セグメントピース3の横幅δ、セグメントピース3の縦幅ε、油溝4の外周開口部の幅σ、についてそれぞれ最適値を求めるべく実験を行った。
【0069】
そのうち、切り込み3aの高さα及び長さβについての実験結果を示すのが、図9及び図10の棒グラフである。まず、切り込み3aの高さαの最適値を求めるために、切り込み長さβ=2.0mmに固定して、切り込み高さαを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、引き摺りトルク低減率を測定した。
【0070】
なお、引き摺りトルク低減率はセグメントタイプ摩擦材1の回転数を1000rpm,1500rpmとした場合の測定値2点の平均値として表した。そして、切り込み高さα=2mm,切り込み長さβ=2.0mmの場合、すなわち図5に示される事例1の場合を基準として、事例1と比較して引き摺りトルク低減率が増加した場合をプラス、引き摺りトルク低減率が減少した場合をマイナスとして表示した。
【0071】
また、図8に示される他のパラメータについては、油溝4の最も細い部分の幅γ=1mm,セグメントピース3の横幅δ=13mm、セグメントピース3の縦幅ε=5mmとして、試験条件としては、ATF油温=40℃、ATF油量=500mL/min(軸芯潤滑なし)、ディスクサイズが外周φ1=185mm,内周φ2=175mmにおいて試験し、ディスク枚数=7枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは8枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚、で行った。
【0072】
その結果、図9に示されるように、切り込み高さαが1.0mm,1.5mmと、事例1と比較して小さい場合には、引き摺りトルク低減率が減少してマイナスの値となり、切り込み高さαが2.5mmと、事例1と比較して大きい場合には、プラスの値となった。この結果、切り込み高さαが大きいほど引き摺りトルク低減効果が向上するものと考えられる。
【0073】
一方、切り込み3aの長さβの最適値を求めるために、切り込み高さα=2.0mmに固定して、切り込み長さβを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、同様の試験条件で引き摺りトルク低減率を測定した。その結果、図10に示されるように、切り込み長さβが1.0mm,1.5mmと、事例1と比較して小さい場合には、引き摺りトルク低減率が減少してマイナスの値となり、切り込み長さβが2.5mmと、事例1と比較して大きい場合には、プラスの値となった。この結果、切り込み長さβが大きいほど引き摺りトルク低減効果が向上するものと考えられる。
【0074】
更に、図8に示される他のパラメータ同士の関係についても実験を重ねた結果、切り込み高さα=セグメントピース3の縦幅εの25%〜50%の範囲内、切り込み長さβ≦0.5×(セグメントピース3の横幅δ)、油溝4の外周開口部の幅σ≧4×(油溝4の最も細い部分の幅γ)、という条件を満たす場合に、より高い引き摺りトルク低減効果が得られることが明らかになった。
【0075】
以上説明したように、湿式摩擦材の内周側からの潤滑油(ATF)の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合、すなわち湿式摩擦材の外周側からのみ潤滑油が供給される場合には、セグメントタイプ摩擦材の場合はセグメントピースの外周側角部の一方または両方をR加工または面取り加工することによって、加工部分からセグメントピースの表面にATFが流れて、相手材との間に入り込む引き剥がし効果によって、高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【0076】
これに対して、湿式摩擦材の内周側から潤滑油(ATF)が供給される場合について、図11を参照して説明する。図11(a)に示されるように、従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)としてのセグメントタイプ摩擦材11においては、外周部に溜まったATFによる攪拌トルクが大きいため、引き摺りトルクが大きくなってしまう。
【0077】
これに対して、図11(b)に示されるように、参考例に係る湿式摩擦材(事例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1においては、セグメントピース3の外周に切り込み3aを設けることによって、ATFによる攪拌トルクを抑制できるとともに、切り込み3aからセグメントピース3の表面にATFが流れて、相手材との間に入り込む引き剥がし効果によって、引き摺りトルクが低減される。
【0078】
なお、上述したように、外周側からのみ潤滑油が供給される場合には、セグメントピースの内周に切り込みを入れても引き摺りトルクを低減する効果は少ないが、内周側から潤滑油(ATF)が供給される場合には、セグメントピースの外周に切り込みを設けるとともに、セグメントピースの内周にも切り込みを入れることによって、より高い引き摺りトルク低減効果が得られる。
【0079】
このようにして、参考例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1,1A,1Cにおいては、内周側からの潤滑油の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、より確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0080】
実施の形態1
次に、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図12乃至図14を参照して説明する。図12(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0081】
図13(a)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。図14(a)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【0082】
図12(a),(b)に示されるように、実施の形態1に係る湿式摩擦材6は、参考例(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8を間に挟んで複数(片面40本)の油溝9を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0083】
ここで、油溝9は外周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝であり、複数の油溝9〜9に挟まれた島状部分8の外周側角部の両方が面取り加工(8a)されており、複数の油溝9はその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9の全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9の最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0084】
また、外周部分が左右対称の形状に拡がった油溝9の外周開口部における、摩擦材基材の島状部分8の面取り加工部分8aの半径方向の高さX(mm)及び円周方向の長さY(mm)については、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるα及びβと同一の寸法とした。すなわち、X=2mm,Y=2mmである。
【0085】
更に、島状部分8の横方向の幅及び島状部分8の縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8の横方向の幅=13mm,島状部分8の縦方向の幅=5mmとした。
【0086】
また、図12(c)に示されるように、実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材6Aは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8A,8Bを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9A,9Bを形成してなるリングタイプ摩擦材である。ここで、島状部分8Aの左外周角部及び島状部分8Bの右外周角部には、それぞれ、高さ(半径方向の幅)がXmmで長さ(円周方向の幅)がYmmの面取り加工8Aa,8Baが施されている。
【0087】
すなわち、実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Aにおいては、複数の油溝9A,9Bに挟まれた島状部分8A,8Bの外周側角部の一方が面取り加工されており、複数の油溝9A,9Bはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9A,9Bの1本おきに外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9A,9Bの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がった油溝9Aが設けられている。
【0088】
また、島状部分8A,8Bの横方向の幅及び島状部分8A,8Bの縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8A,8Bの横方向の幅=13mm,島状部分8A,8Bの縦方向の幅=5mmとした。
【0089】
更に、図12(d)に示されるように、実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材6Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8Cを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9Cを形成してなるリングタイプ摩擦材である。ここで、島状部分8Cの左右外周角部は、高さ(半径方向の幅)が(X1)mmで長さ(円周方向の幅)が50%に面取り加工8Caが施されている。つまり、島状部分8Cの外周側は左右から完全に切り落とされている。そして、X1=(3/4)Xである。
【0090】
すなわち、実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Cにおいては、複数の油溝9Cに挟まれた島状部分8Cの外周側角部の両方が面取り加工されており、複数の油溝9Cはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9Cの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9Cの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0091】
また、島状部分8Cの横方向の幅及び島状部分8Cの縦方向の幅についても、上記参考例に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるセグメントピース3と同一の寸法、すなわち、島状部分8Cの横方向の幅=13mm,島状部分8Cの縦方向の幅=5mmとした。
【0092】
次に、本発明の実施の形態1の第3変形例、第4変形例、第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材について、図13を参照して説明する。図13(a)に示されるように、実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材6Dは、参考例(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8を間に挟んで複数(片面40本)の油溝9を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0093】
ここで、実施の形態1の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材6Dが、図12(a),(b)に示される本実施の形態1に係るリングタイプ摩擦材6と異なるのは、リングタイプ摩擦材6においては、芯金2の表面側と裏面側で円周方向についての島状部分8の形成された位置がほぼ一致しており、したがって円周方向についての油溝9の位置も表裏でほぼ一致しているのに対して、リングタイプ摩擦材6Dにおいては、芯金2の表面側と裏面側で円周方向についての島状部分8の形成された位置がずれており、したがって円周方向についての油溝9の位置も表裏でずれが生じている点である。
【0094】
すなわち、円周方向についての島状部分8の形成された位置及び油溝9の位置は、芯金2の表裏でランダムであって良く、図12(a),(b)に示されるリングタイプ摩擦材6のように芯金2の表裏で一致していても良いし、図13(a)に示されるリングタイプ摩擦材6Dのように芯金2の表裏でずれていても良い。これは、本実施の形態1で説明する他のリングタイプ摩擦材についても、全く同様である。
【0095】
次に、図13(b)に示されるように、実施の形態1の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材6Eは、図12(d)に示される実施の形態1の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材6Cの島状部分8Cに対して、逆の外周形状を有している。すなわち、リングタイプ摩擦材6Cの島状部分8Cが外周側に凸の形状を有しているのに対して、リングタイプ摩擦材6Eの島状部分8Dは、外周側に対して凹んだ幅dmmの凹部8dを有している。更に、島状部分8Dの左右の外周側角部には、面取り加工8Daが施されている。
【0096】
なお、島状部分8Dは、上述した島状部分8等よりも高さ(半径方向の幅)・長さ(円周方向の幅)ともに大きく、このため油溝9Dの本数は全周で30本と、上述したリングタイプ摩擦材6等より少なくなっている。複数の油溝9Dはその全てが左右対称の形状であって、複数の油溝9Dの全ての外周開口部が左右対称の形状で複数の油溝9Dの最も細い部分の幅の4倍以上の幅に拡がっている。
【0097】
また、図13(c)に示されるように、実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Fは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8E,8Fを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9E,9Fを形成してなるものである。なお、島状部分8E,8Fは、上述した島状部分8等よりも高さ(半径方向の幅)は大きいが、長さ(円周方向の幅)は同程度であり、このため油溝9E,9Fの本数は全周で40本と、上述したリングタイプ摩擦材6等と同じになっている。
【0098】
ここで、島状部分8Eの右外周角部には、島状部分8Eの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工8Eaが施されており、また島状部分8Fの左外周角部には、島状部分8Fの外周側のほぼ全面に亘って面取り加工8Faが施されている。
【0099】
次に、本発明の実施の形態1の第6変形例、第7変形例、第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材について、図14を参照して説明する。図14(a)に示されるように、実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材6Gは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8E,8F,8G,8Hを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9E,9G,9H,9Jを形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0100】
ここで、島状部分8Gの右外周角部には面取り加工8Gaが施されており、また島状部分8Hの左外周角部には面取り加工8Haが施されている。
【0101】
また、図14(b)に示されるように、実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Hは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8Fを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9Kを形成してなるものである。
【0102】
また、図14(c)に示されるように、実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6Jは、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出したリング形状の摩擦材基材10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、島状部分8F,8Gを間に挟んで複数(片面40本)の油溝9G,9Lを形成してなるものである。
【0103】
これによって、実施の形態1に係るリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jは、ATに組み込まれた場合、非締結状態においていずれかの方向に空転したとき、内周側からの潤滑油(ATF)の供給がない仕様の場合には、外周側から供給されるATFが面取り加工部分8a,8Aa,8Ba,8Ca,8Da,8Ea,8Fa,8Ga,8Haで堰き止められて、島状部分8,8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G,8Hの表面に溢れ出してリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jとセパレータプレートとの間隔を確保するため、リングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jのみが円滑に空転する。
【0104】
また、内周側から潤滑油(ATF)が供給される仕様の場合にも、リングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jの外周にATFが流れるスペースが充分にあるため、外周に油溜まりを発生して引き摺りトルクが上昇する事態を確実に防止することができる。
【0105】
このようにして、実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jにおいては、内周側からの潤滑油の供給がない仕様(軸芯潤滑なし)の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、より確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0106】
更に、実施の形態1に係るプレス型摩擦材としてのリングタイプ摩擦材6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6Jにおいては、平板リング形状の芯金2の両面全面にリング形状の摩擦材基材7,10を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって製造されるため、量産がより容易であり、より低コスト化できるという利点がある。
【0107】
上記実施の形態1においては、湿式摩擦材のうちセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のプレス型摩擦材のみについて説明したが、同様の油溝を切削加工によって形成したリングタイプの切削加工型摩擦材においても、リングタイプ(プレス型)摩擦材6,6A,6Cと同等の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0108】
また、上記参考例及び実施の形態1においては、図1,図3,図5,図6,図8,図11乃至図14に示されるように、セグメントピース3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3J,3K,3L,3M,3Nまたはリング形状の摩擦材基材7,10を、芯金2の外周側に片寄った部分にのみ貼り付けた湿式摩擦材について説明したが、上記特許文献1乃至特許文献4に示されるように、芯金2の外周から内周までの幅の90%以上の幅でセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても、上記参考例及び実施の形態1と同様の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0109】
その他、芯金2の外周から内周までの幅の何%の幅でセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても、上記参考例及び実施の形態1と同様の引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。更に、上記参考例及び実施の形態1においては、芯金2の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金2の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。
【0110】
更に、上記参考例及び実施の形態1においては、芯金2の片面にセグメントピースを30枚または40枚ずつ貼り付けた場合、及びリング形状の摩擦材基材を貼り付けて油溝を30本または40本ずつ形成した場合のみについて説明したが、芯金2の片面当たりのセグメントピースの枚数は30枚または40枚に限られるものではなく、また油溝の数も30本または40本に限られるものではなく、何枚でも何本でも自由に設定することができる。
【0111】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材(セグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材)のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記参考例及び実施の形態1に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態1で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第1変形例に係る湿式摩擦材(事例2)の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第2変形例に係る湿式摩擦材(事例3)の一部を示した部分平面図である。
【図2】図2(a)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の参考例の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図である。
【図3】図3(a),(b)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図4】図4(a),(b),(c),(d),(e),(f)は本発明の参考例のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【図5】図5(a)は本発明の参考例の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の参考例の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の参考例の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の参考例の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(e)は本発明の参考例の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図6】図6(a)は従来技術の第1例に係る湿式摩擦材(比較例1)の一部を示した部分平面図、(b)は従来技術の第2例に係る湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図、(c)は従来技術の第3例に係る湿式摩擦材(比較例3)の一部を示した部分平面図である。
【図7】図7は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2,3)と比較して示す図である。
【図8】図8は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における各パラメータの関係を示す図である。
【図9】図9は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み高さ(半径方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図10】図10は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における油溝の外周角部の切り込み長さ(円周方向の幅)と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図11】図11(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの発生を示す説明図、(b)は本発明の参考例に係る湿式摩擦材(事例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。
【図12】図12(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図13】図13(a)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係る湿式摩擦材の縦断面を示した部分断面図、(b)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第5変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【図14】図14(a)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第7変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第8変形例に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図である。
【符号の説明】
【0113】
1,1A,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J,1K,1L,6,6A,6C,6D,6E,6F,6G,6H,6J 湿式摩擦材
2 芯金
3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3I,3J,3K,3L,3M,3N セグメントピース
3a,3Aa,3Ba,3Ca 切り込み(面取り加工)
3g,3h,3i,3j,8d 凹部
4,4A,4B,4C,4D,4E,4F,4G,4H,4J,4K,4L,4M,9,9A,9B,9C,9D,9E,9F,9G,9H,9J,9K,9L 油溝
7,10 リング形状の摩擦材基材
8,8A,8B,8C,8D,8E,8F,8G,8H 島状部分
8a,8Aa,8Ba,8Ca,8Da,8Ea,8Fa,8Ga,8Ha 面取り加工
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、
前記リングタイプ摩擦材が回転することにより、前記リングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、前記複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、前記島状部分の外周側を削除した周方向の長さが、前記外周側を削除した前記島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が前記油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられたことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項1】
平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材の湿式摩擦材であって、
前記リングタイプ摩擦材が回転することにより、前記リングタイプ摩擦材の外周に溜まる潤滑油との相互作用によって発生する引き摺りトルクを、前記複数の油溝に挟まれた前記島状部分の外周側両角部の一方または両方または外周側全域を、R加工または面取り加工によって削除し、前記島状部分の外周側を削除した周方向の長さが、前記外周側を削除した前記島状部分を挟む複数の油溝の外周開口部の幅の一以上が前記油溝の最も細い部分の4倍以上になるように設けられたことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記島状部分の外周側中央部分に、外周側に対して凹んだ凹部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−102645(P2011−102645A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7040(P2011−7040)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【分割の表示】特願2008−156667(P2008−156667)の分割
【原出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【分割の表示】特願2008−156667(P2008−156667)の分割
【原出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
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