説明

溶射材料、溶射被覆、溶射法および溶射被処理品被覆処理された物品

【課題】従来の亜鉛めっき塗布層等と比較して少なくとも同様に優れた少なくとも耐腐食性を有する溶射表面を形成する溶射法を用いること。
【解決手段】本発明は、溶射法によって被処理品の表面を被覆するための、亜鉛を含む溶射材料(5)に関するものである。また、本発明は、溶射法、および、溶射材料(5)が溶射された溶射被覆に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各カテゴリーの独立請求項の前段部分に記載された溶射材料、溶射法による被処理品表面の被覆材料の使用、溶射被覆、溶射法および溶射被覆処理された物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大部分の各種被処理品の表面の被覆は、産業技術のほとんど数えきれない数の用途と、対応する高い経済的重要性を有する。この点に関して、極めて様々な理由から被覆は、有利には大半の多様な基板に塗布される。例えば、燃焼エンジンまたはコンプレッサーのシリンダまたはピストンリングの滑り面などの機構的に高負荷部品上の摩耗保護被覆は、重要な役割を果たす。これらの部品には、耐摩耗性の他に、良好な滑動特性等(すなわち、優れた摩擦特性、あるいはまた、優れたドライ作動特性も)が更に要求される。異なる溶射法、とりわけ周知のプラズマ溶射法(プラズマ・スプレー法)がそのような要求や同様の要求に対して特に優れていることが分かっている。
【0003】
アーク蒸着、PVDまたはCVDプロセスによって製造される被覆は、高負荷工具、主としてフライス、ドリル等のチップ製造工具上の固い層の製造に首尾よく利用されている。しかし、正確には、前記プロセスの利用は、例えば、宝石または時計のケースの被覆または保護被覆の付与または一般の日用品の装飾等の全く異なる分野に広く普及している。
【0004】
例えばガス窒化等のその他の方法は、とりわけ、腐食保護において極めて重要な確立された方法である。
【0005】
この点に関して、極めて大きい表面積を有する被処理品の被覆、例えば、金属薄板などは、とりわけ腐食から保護される必要があり、基本的に問題が多い。例えば、この種の金属薄板または他の基板は、幅が最大数メートル、長さが最大数百メートル以上のロール上で提供される。
【0006】
この種の薄板の被覆の確立された技術は、例えば、亜鉛めっき法または電気分解蒸着法である。それ故、例えば、ZnおよびMgでできている耐腐食層を備えた大型鋼板を提供することが周知である。典型的な既知のプロセスでは、第1のステップで、1μm〜30μmの厚さの純亜鉛(Zn)の層が、例えば、鋼、アルミニウム、他の金属または合金でできている金属薄板上に電気分解または亜鉛めっきにより塗布される。次に、この第1の層の表面には、例えば、超音波および/またはPVDスパッタリングなどによるクリーニング処理が施される。その後、約0.1μm〜0.5μmの厚さの純マグネシウム(Mg)でできている薄い層がPVD法によって第1の亜鉛層に塗布される。最後に、例えば200℃〜550℃で、非常に特別な場合には最高650℃の温度で、例えば10分〜3時間被処理品が熱処理される。これによって拡散プロセスが開始され、そのためMgZn相がもとの純Mgの層の表面上に形成され、それによって耐腐食性が改善される。
【0007】
このように処理される被処理品は、純亜鉛層を有する被処理品よりも明らかに改善された腐食特性を有し、また全体としての合金層は厚さが減少するため、作業性が向上する。しかし、前記4段階の塗布プロセスは極端に時間がかかり、とりわけ全く異なる方法を組み合わせなければならないため、前記塗布プロセスの実行だけでなく加工コストも膨大になる。したがって、前記耐腐食層の製造コストは基本的に不当に高価である。
【0008】
以上の理由から、長い間代替策が求められてきた。溶射法のバリエーションが基本的に検討されたが、これは主に個別の部品の連続生産および連続工業生産において溶射法がかなり前から確立されていたためである。特に、大量の基板の表面の被覆の連続生産にも用いられる最も普通の溶射法は、例えば、スプレー粉末またはスプレー・ワイヤによる火炎溶射、アーク溶射、高速火炎溶射(HVOF)、爆発溶射またはプラズマ溶射である。前記溶射法のリストは網羅的ではない。それどころか、当業者は前記リストの方法の多くのバリエーション、また、他の方法、例えば火炎溶射溶接などの特殊な方法について熟知している。いわゆる「冷ガス・スプレー」もこれに関連して述べなければならない。厳密には、溶射法の1つに挙げるべきものではないが、本出願の文脈では、既知の「冷ガス・スプレー法」(冷スプレー)も、全ての既知の溶射法に加えて「溶射法」に含まれると考える。
【0009】
この点に関して、溶射法は広い用途に途を開いた。表面被覆技術としての溶射法は、おそらく最も適用範囲の広い被覆技術であると言ってよい。これに関連して前記溶射法の利用領域の境界は必ずしも感じられないが、これは利用領域が互いに重なっているためである。
【0010】
これに関連して、特に、溶射法によって厚さがマイクロメートルの範囲の薄い層を備えた広い表面領域を十分に均一に提供することが長い間大きな課題であった。Sulzer MetcoのEP−0776594−B1が提案する低圧溶射法(LPPS法)はここで画期的進展をもたらした。この方法は、幅広い/広範囲のプラズマ・ビームを用いて、例えば、板金上のこれまでより広い表面に均一に被覆を形成できる。この方法は、一方では、スプレー・ガンの幾何学的設計によって達成され、さらに、スプレー・ガンの内部と外部との間で大幅な圧力差が生まれることが重要である。被覆する被処理品、または少なくとも被処理品の表面領域がこの構成で被覆チャンバ中にあり、被覆チャンバ内ではスプレー・ガンの内部に関連して、例えば100ミリバール未満の準大気圧が生成され、一方、スプレー・ガン内部には約1000ミリバールの圧力がかかる、すなわち、ほぼ周囲圧力がかかる。スプレー・ガン内部と被覆チャンバの間でこの種の圧力勾配を設定することで幅広い被覆ビームを生成することができる。これによって被処理品の表面に、かつて達成不可能であった均一度で被覆することができる。
【0011】
この点に関して、この基本原理は、その間にさらに大幅に発展した。EP−1479788−A1は、例えば、EP−0776594−B1の基本方法に基づくハイブリッド方法を示している。
【0012】
この点に関して、これらの方法は、異なる金属または非金属被覆、また、特に、薄い層内のセラミック、炭化物または窒化層成分を塗布するのに特に適している。
【0013】
しかし、現代の技術的需要は、例示プロセスに関する前記多段階亜鉛めっき法または電気分解法でさえ、溶射法に置き換えられつつある。これは、溶射層が原則的に、1つのプロセス・ステップではるかに効率よく、言い換えれば、はるかに高い蒸着速度、すなわち、はるかに短い時間で塗布できるためである。
【0014】
この点に関して、これまで、従来の溶射法、特に前記概説したLPPS法とまた冷ガス・スプレー法は、基本的に亜鉛と亜鉛化合物による被覆には適しないという考えがあった。この偏見の理由は、亜鉛が比較的低温でも異常に高い蒸気圧を有するということにある。それ故、例えば、亜鉛は、約900℃で約1000ミリバールの蒸気圧をすでに有するが、アルミニウムは約2000℃でおよそ同じ蒸気圧に達し、Alは約3000℃で初めてそれを示す。
【0015】
このように、現在までLPPS法は、基本的に亜鉛を含む層の溶射には考慮する価値がないと考えられてきたが、これは、亜鉛がその高い蒸気圧のゆえに被覆ビーム中にすでに大量に逃れたため、溶射によって有用な亜鉛含有層が製造できないと考えられていたことだけが理由ではない。この点に関して、そのように基本的な問題と考えられるのは亜鉛の高い蒸気圧だけでなく、亜鉛と同時に溶射できる他の材料の蒸気圧との大きな差もある。すなわち、亜鉛と同時に、例えば、亜鉛と同時ではあるがそれよりかなり低い蒸気圧で別の材料が溶射されると、亜鉛の別の溶射材料に対する組成率が被覆ビーム内ですでに大量に変化しており、そのため溶射層はもはや所望の組成を有さず、それ故必要な耐腐食性が達成できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、従来技術には、適切な亜鉛含有溶射材料はなく、したがって、それに対応する溶射法も存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かくして、本発明の目的は、例えば亜鉛めっき塗布層等の在来層と比較して少なくとも同等に良好である少なくとも腐食保護性を有する溶射表面を製造できるように、溶射法を利用可能にすることである。さらに、本発明の目的は、対応する表面層を製造できる溶射法を利用可能にすることである。
【0018】
方法および装置の観点から、前記目的を満足する本発明の主題は、各カテゴリーの独立請求項の記載によって特徴づけられる。
【0019】
各従属請求項は、本発明の特に有利な実施形態に関するものである。
【0020】
かくして、本発明は、溶射法によって被処理品の表面を被覆するための、亜鉛を含む溶射材料に関するものである。
【0021】
斯様に、本発明による溶射材料では、亜鉛を含むことが基本である。すなわち、溶射材料による溶射被覆中の亜鉛の存在(溶射被覆には、別の適切な元素を伴うであろうが)は、亜鉛被覆を付与された被処理品(例えば、鋼、アルミニウムまたはその他の適切な金属、または、適切な合金で形成された板)が、腐食に対して最適に保護されることを保証する。本発明の溶射材料が溶射法に実際に使用できるという事実は、以下で詳しく述べる被覆パラメータの適切な選択によって、高い蒸気圧を有する材料の溶射が、それよりも大幅に低い蒸気圧を有する別の材料と組み合わせた場合でも可能であるという認識による。
【0022】
好ましい実施形態では、溶射材料は、亜鉛合金および/またはZn−X群の金属間化合物および/または金属化合物および/または非金属化合物であって、Xは少なくとも金属または非金属成分であり、Znが70重量%〜100重量%、好ましくは80重量%を超える範囲で含まれ、Xは、Sn、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Co、Cu、Mo、Ti、Cr、Zr、Y、La、Ce、Sc、Pr、Dy、Dg、C、O、Nを含む元素群から選ばれる少なくとも1つの元素、特にMCrAlY合金である(ここで、M=Ni、Co、CoNiまたはFeである)。
【0023】
元素Cu、Ni、Co、Moの組み合わせは、とりわけこの点で特別の役割を果たすが、溶射する層の耐久性に影響することはない。
【0024】
実際の使用で特に重要な或る例では、溶射粉末中に、錫(Sn)が、最大10重量%、特に最大5重量%、とりわけ1重量%〜4重量%の割合の合金元素として含まれる。とりわけ、亜鉛(Zn)微粒子間の強化された結合が、Snの追加によって、拡散中に得られる。例えば、融点が約200℃の共晶がSn微粒子の周囲に形成され、これによって熱処理中の拡散が大幅に加速される。この点は、本発明の方法の説明で詳述する。前記効果を達成するために、出発材料Znが溶射以前にすでに合金化されている時、言い換えれば、溶射粉末自体中でSnと合金化されている時には、このことは特に有利である。
【0025】
別の実施形態では、溶射材料は、Mg−Zn合金(特にMgZnおよび/またはZnAl合金、ここで、特に1重量%≦a≦10重量%、とりわけ4重量%≦a≦6重量%である)を含むことができる。この点に関して、Alとの合金化は、合金融点の低下につながり、また、同時に純亜鉛の蒸気圧低下につながる。
【0026】
特に、溶射されるべき被覆の硬度および/または摩耗保護特性を増大させるために(この目的に限定されるわけではないが)、本発明の溶射材料は、酸化物成分および/またはセラミック成分(特にMgOおよび/またはAlおよび/または炭化物、特にSiCおよび/または窒化物、特にAlN)を含むことができ、および/または、M型化合物を含むことができ、ここで、Mは、金属、特にZr、Al、Cr、Ti、Ta、または、この種の熱力学的に安定な化合物を形成する別の材料である。これに関連して、特に、表面ひっかき傷に対する抵抗性が硬質セラミック材料の添加によって増す。
【0027】
この点に関して、溶射材料中の可能な追加成分は、当然、被覆すべき被処理品が採用される用途に依存する。溶射材料は、好適には、もはや均質な合金でなく、混合物材料(例えば、ナノメートルの範囲からマイクロメートルの範囲までの粒径を有する微細に凝集した材料等)である。
【0028】
さらに、本発明は、被処理品の表面上の溶射被覆に関し、表面層は亜鉛を含む。
【0029】
この点に関して、被覆は、純亜鉛、亜鉛合金および/またはZn−X型の金属間化合物および/または非金属化合物を含むことができ、Xは、少なくとも金属または非金属成分であり、Znが70重量%〜100重量%、好ましくは80重量%を超える範囲で含まれ、Xは、Sn、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Co、Cu、Mo、Ti、Cr、Zr、Y、La、Ce、Sc、Pr、Dy、Dg、C、O、Nを含む群から選ばれる少なくとも1つの元素、特にMCrAlY合金であり、Mは、Ni、Co、CoNiまたはFeに等しい。
【0030】
実際の使用で特に重要な或る実施形態では、溶射被覆は、表面層中に、最大10重量%、特に最大5重量%、とりわけ1重量%〜4重量%の割合で、合金元素として錫(Sn)を含む。前述したように、亜鉛(Zn)微粒子間の強化された結合が、Snの添加によって、拡散過程で得られる。すなわち、例えば、融点が約200℃の共晶をSn微粒子の周囲に形成でき、これが被覆の付与後に実行可能な熱処理中の拡散を大幅に加速できる。前記効果を達成するために、出発材料Znが溶射以前に既にSnと合金化されている場合(言い換えれば、溶射粉末自体中で既にSnと合金化されている場合)には、このことは特に有利である。
【0031】
本発明の溶射被覆の別の実施形態では、被覆が、Mg−Zn合金(特に、MgZnおよび/またはZnAl合金、ここで、特に1重量%≦a≦10重量%、とりわけ4重量%≦a≦6重量%である)を含み、および/または、被覆が、酸化物成分および/またはセラミック成分(特にMgOおよび/またはAlおよび/または炭化物、特にSiCおよび/または窒化物、特にAlN)を含む。この点に関して、前記のとおり、Alの合金化は、合金融点の低下につながり、また同時に、純亜鉛蒸気圧の低下につながる。
【0032】
酸化物成分および/または炭化物成分および/またはセラミック成分による被覆は、特に、高い硬度および/または良好な耐摩耗性によって区別される。例えば、SiCまたはAlNまたはこれらの材料クラスの別の成分を含むこれらの硬質層の場合、比較的少量の添加またはドーピングで、該当する特性に大幅な影響を与えることがある。この手段によって、粒子間の凝集性が特に改善され、および/または、被覆中の結晶組織の円柱構造が支援される。
【0033】
別の例では、溶射材料は、M型化合物を含む(ここで、Mは金属であり、特にZr、Al、Cr、Ti、Ta、または、この種の熱力学的に安定した化合物を形成する別の材料である)。
【0034】
被覆の厚さは、好ましくは、1μm〜100μm、特に2μm〜50μm、とりわけ2μm〜20μmであり、自動車の分野で使用されるような大面積金属薄板に特に有利であるが、これに限定されるわけではない。
【0035】
本発明は、さらに、被処理品の表面上の前記被覆の形成のための溶射法であって、本発明の亜鉛を含有する溶射材料が使用される方法に関する。
【0036】
この点に関して、被覆すべき被処理品がプロセス室または被覆室に導入され、プロセス室内でガス雰囲気が所定のガス圧に調整され、被処理品が所定のガス圧で被覆ビームによって被覆される。
【0037】
この点に関して、好ましくは、プロセス室内で、100ミリバール未満、好ましくは、1ミリバール〜10ミリバール、特に1ミリバール〜2ミリバールのガス圧、および/または800mm〜30000mm、特に1000mm〜2000mm、とりわけ1000mm〜1400mmの平均溶射距離が設定される。
【0038】
本発明方法の実際の使用で、特に重要な或る実施形態では、被覆ビーム内部の圧力とガス雰囲気のガス圧との間の圧力比が、1〜40、特に5〜30、とりわけ約10〜20に設定される。言い換えれば、被覆ビーム内部(例えば、スプレー・ガンの出口のプラズマ・ビーム内)の圧力よりも低いガス雰囲気のガス圧を選択するのが好ましい。圧力パラメータのこの選択は、「膨張不足状態」とも呼ばれる。溶射材料が容易に蒸発する(言い換えれば、例えば高い蒸気圧を有する材料を含む)時に、これらのパラメータの選択が、とりわけ非常に有利である。
【0039】
すなわち、例えば、超音波で発散する被覆ビーム内で衝撃類似波または衝撃類似状態が形成され、それによって被覆ビーム中に存在する材料に対するバリアが形成され、そのため、本質的にこの材料は被覆ビームから逃れられないことが示された。これは、被覆ビームが、完全反射バリアとして、光伝導体と同様に働き、したがって、蒸発材料が被覆ビーム内に捉えられ、そのため蒸気圧の高い材料も溶射できるということを意味する。この効果は、熱被覆ビームの周辺帯に準層流が存在し、したがって、この周辺帯で乱流が大幅に低減化されるという事実によって補強される。
【0040】
この点に関して、特に有利には、0.001ミリバール/mm〜0.02ミリバール/mm、特に0.0005ミリバール/mm〜0.01ミリバール/mmの圧力勾配が被覆ビームの全長にわたって設定される。
【0041】
被覆ビームは、固体、液体および気体だけでなく、気化成分も含み得ることに留意すべきである。液体成分と気体成分の組み合わせが、とりわけ有利な被覆につながる。気化材料の被着には、被処理品の清浄表面が特に重要である。酸化物を含む基板の表面上の、事実上液状の高温の亜鉛小滴が酸化物と反応するため、極めて接着性がよく、したがって、特に事実上液状の亜鉛の小滴が、少なくとも基板の表面と直接接触する被覆の部分の形成のために堆積されるべき被覆の付着性にとって極めて有利である。
【0042】
被処理品の温度は、有利には、被覆中に所定温度、特に室温と550℃の間の温度、とりわけ室温と400℃の間の温度に調整される。
【0043】
被覆後、被覆された被処理品は、必要に応じて、所定温度(特に400℃〜650℃の温度、とりわけ約550℃の温度)でさらに熱処理される。この熱処理によれば、とりわけ、溶射された被覆の均質化および/または高密度化がなされ、被覆の基板への接着性が向上し、表面粗さが低減化され、および/または、好ましい酸化物または金属化合物および/または非金属化合物が形成される。これは、とりわけ、被覆の耐腐食性、耐摩耗性または他の物理的または化学的特性に良い影響を与えることができる。
【0044】
特別な場合には、追加の保護カバー層、特に有機カバー層も、特にEP−1479788−A1に記載するようなLPPハイブリッド・プロセスで塗布され、したがって、例えば、最適な耐腐食性を有する被覆を被処理品上に作ることもできる。
【0045】
全てのプロセス・ステップは、好ましくは、プロセス室内で同時または順次に実行されるという事実のため、酸化物の汚染物質が発生せず、これによって、粒子内部および粒子間で、また隣接層間で、プロセスの実行が容易になり、拡散が向上する。多少の液体小滴によって薄い層が堆積されて得られる極めて高い表面領域によって、熱処理中の焼結温度が低下し、そのため被覆が厚くなる。
【0046】
これに関連して、要求に応じて、溶射プロセス前、および/または、被覆プロセス中に、アーク洗浄またはアーク融除によって、有機および/または酸化物の汚染物質を除去することが好ましい。
【0047】
同一、または、異なる化学組成および/または構造的組成の個別の各層から成る多層系も、当然に本発明方法を用いて被処理品に適用できることは言うまでもない。例えば、被覆プロセス中に、制御された方法で方法パラメータを変更することによって、および/または、溶射材料の組成を変更することによって、勾配層を製造できることも言うまでもない。
【0048】
基本的に、それ自体周知である全ての溶射法は、本発明方法の実行に有利に用いることができる。すなわち、パラメータおよび溶射条件を本発明に従って選択するだけで、溶射法は、プラズマ溶射法、特にLPPS法、とりわけLPPS薄膜法、HVOF法、冷ガス・スプレー法、火炎溶射法、特にワイヤ溶射法または粉末溶射法、または、その他の溶射法である。
【0049】
繰り返し述べたように、本発明は、さらに、溶射法による被処理品の表面の被覆のための本発明材料の使用に関するものである。
【0050】
また、本発明は、本発明の被覆が本発明材料で施された被処理品(特に大面積金属薄板、とりわけアルミニウムおよび/または鉄および/または鋼および/または金属および/または合金および/または別の材料で形成された金属薄板)に関するものである。本発明の被処理品は、当然に両面被覆も可能であることに留意すべきである。
【0051】
以下、図面を見ながら、本発明方法の特別な実施形態の重要な効果について詳細を述べる。
【実施例】
【0052】
図1に、縦軸に、例えばスプレー・ガン2のノズル3の出口4にプラズマ溶射中に発生するような圧力値を記録し、横軸に、例えば、基板の被覆中にプロセス室で設定されるようなガス圧を記録した図を示す。これに関連して、分割線1は、この図を、「膨張不足」および「過膨張」で特徴づけられる2つの部分領域に分割する。膨張不足領域では、ノズル3の出口4の圧力がプロセス室内のガス圧よりも高い。他方、過膨張部分領域では、プロセス室内のガス圧がノズル3の出口4の圧力よりも高い。
【0053】
本発明方法を実行するにあたり、被覆が膨張不足領域内で実行されるように、圧力パラメータを選択することが好ましい。
【0054】
図2は、膨張不足領域内での圧力パラメータの選択が被覆ビーム6内の溶射材料5の運動に影響する様子を模式的に示す。
【0055】
図2では、被覆ビーム6がノズル3から放出されるプラズマ・スプレー・ガン2の部分が模式的に示されている。被覆ビーム6は、被覆ビーム6内で衝撃波が生じるような超音波である。衝撃波の形成は、被覆ビーム6の波状輪郭によって象徴的に示されている。図2の右側には、被覆ビーム6によって被覆される図示されない基板がある。
【0056】
図2の例では、スプレー・ガン2の出口4の圧力よりも小さいプロセス室内のガス雰囲気のガス圧が選択される。この圧力パラメータの選択は、図1の「膨張不足」部分領域に対応する。これらのパラメーの選択は、前記のとおり、溶射材料5が容易に気化する時(換言すれば、高い蒸発圧力を有する材料を含む時)に、特に有利である。
【0057】
図2の被覆ビーム6は、超音波状に広がり、もって、衝撃類似波または衝撃類似状態が生じ形成され、それは被覆ビーム6内に存在する材料5のバリアになり、したがって、事実上、この材料は被覆ビーム6から逃れられない。これは、被覆ビーム6が、ほぼ完全に反射バリアとして光伝導体と同様に働き、したがって、蒸発材料が、被覆ビーム内に捉えられ、例えば、被覆されるべき基板に向かう方向の経路7をたどることを意味する。この理由で、本発明方法により、例えばZn等のように蒸気圧の高い材料で被覆することもできる。
【0058】
この点に関して、本発明は、前記実施例に限定されず、特に、本明細書の文脈の枠内にある本発明の実施例はもちろん、任意の適した方法で組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】膨張不足/過膨張の圧力図。
【図2】被覆ビーム内の粒子流に対する膨張不足状態の効果を示す図。
【符号の説明】
【0060】
1 分割線
2 スプレー・ガン
3 ノズル
4 出口
5 溶射材料
6 被覆ビーム
7 経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射法によって被処理品の表面を被覆するための溶射材料において、前記溶射材料が亜鉛を含むことを特徴とする溶射材料。
【請求項2】
前記溶射材料が、Zn−X型の、亜鉛合金および/または金属間化合物および/または金属化合物および/または非金属化合物であり、
Xが、少なくとも金属または非金属成分であり、
Znが、70重量%〜100重量%、好ましくは80重量%を超えて含まれ、
また、Xが、Sn、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Co、Cu、Mo、Ti、Cr、Zr、Y、La、Ce、Sc、Pr、Dy、Dg、C、O、Nから成る群から選ばれる少なくとも1つの元素、とりわけMCrAlY合金であり、
Mが、Ni、Co、CoNiまたはFeである請求項1に記載された溶射材料。
【請求項3】
Snが、最大10重量%、特に最大5重量%、とりわけ1重量%〜4重量%の割合で、合金元素として溶射粉末中に含まれている請求項1または請求項2に記載された溶射材料。
【請求項4】
前記溶射材料が、Mg−Zn合金、特にMgZn合金および/またはZnAl合金を含み、前記aが、特に1重量%≦a≦10重量%、とりわけ4重量%≦a≦6重量%である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された溶射材料。
【請求項5】
前記溶射材料が、酸化物成分および/またはセラミック成分、特にMgOおよび/またはAlおよび/または炭化物、特にSiCおよび/または窒化物、特にAlNを含み、
および/または、前記溶射材料がM型化合物を含み、Mが金属、特にZr、Al、Cr、Ti、Ta、または、熱力学的に安定なこの種の化合物を作るその他の金属である請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された溶射材料。
【請求項6】
被処理品の表面上の溶射被覆であり、前記表面層が亜鉛を含むことを特徴とする溶射被覆。
【請求項7】
前記溶射被覆が、Zn−X型の、亜鉛合金および/またはZn−X群の金属間化合物および/または金属組成物および/または非金属化合物を含み、
Xが少なくとも金属または非金属成分であり、
Znが70重量%〜100重量%、好ましくは80重量%を超える範囲で含まれ、
Xが、Sn、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Co、Cu、Mo、Ti、Cr、Zr、Y、La、Ce、Sc、Pr、Dy、Dg、C、O、Nから成る群から選ばれる少なくとも1つの元素、とりわけMCrAlY合金であり、
Mが、Ni、Co、CoNiまたはFeである請求項6に記載された溶射被覆。
【請求項8】
Snが、最大10重量%、特に最大5重量%、とりわけ1重量%〜4重量%の割合で、合金元素として前記表面層に含まれている請求項6または請求項7に記載された溶射被覆。
【請求項9】
Mg−Zn合金、特に、MgZnおよび/またはZnAl合金を含み、特に1重量%≦a≦10重量%、とりわけ4重量%≦a≦6重量%である請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載された溶射被覆。
【請求項10】
前記溶射被覆が、酸化物成分および/またはセラミック成分、特にMgOおよび/またはAlおよび/または炭化物、特にSiCおよび/または窒化物、特にAlNを含み、
および/または、前記溶射材料(5)が、M型化合物を含み、Mが金属であり、特にZr、Al、Cr、Ti、Ta、または、この種の熱力学的に安定した化合物を作る別の材料である請求項6から請求項9までのいずれか1項に記載された溶射被覆。
【請求項11】
前記被覆の厚さが1μm〜100μm、特に2μm〜50μm、とりわけ2μm〜20μmである請求項6から請求項10までのいずれか1項に記載された溶射被覆。
【請求項12】
被処理品の表面に請求項6から請求項10までのいずれか1項による被覆を形成するための溶射法において、
請求項1から請求項5までのいずれか1項の記載により、亜鉛を含む溶射材料(5)が使用されることを特徴とする溶射法。
【請求項13】
被覆された被処理品が、プロセス室に搬入され、該プロセス室内でガス雰囲気が所定のガス圧に調整され、前記被処理品が、前記所定のガス圧で被覆ビーム(6)によって被覆される請求項12に記載された溶射法。
【請求項14】
前記プロセス室のガス圧が、100ミリバール(mbar)未満、好ましくは、1ミリバール〜10ミリバール、特に1ミリバール〜2ミリバールに設定される請求項12または請求項13のいずれか1項に記載された溶射法。
【請求項15】
平均溶射距離が400mm〜3000mm、特に800mm〜2000mm、とりわけ1000mm〜1400mmである請求項13または請求項14に記載された溶射法。
【請求項16】
被覆ビーム(6)内の圧力とガス雰囲気のガス圧との間の圧力比が1〜40、特に5〜30、とりわけ約10〜20に設定され、
および/または、0.001ミリバール/mm〜0.02ミリバール/mm、特に0.005ミリバール/mm〜0.01ミリバール/mmの圧力勾配が被覆ジェット(6)の全長にわたって設定される請求項12から請求項15までのいずれか1項に記載された溶射法。
【請求項17】
被覆中に、前記被処理品の温度が所定の値、特に室温と550℃の間の温度、とりわけ室温と400℃の間の温度に設定され、
および/または、被覆後に、前記被処理品が、所定の温度、特に400℃〜650℃の温度、とりわけ約550℃の温度で熱処理される請求項12から請求項16までのいずれか1項に記載された溶射法。
【請求項18】
前記溶射法が、プラズマ溶射法、特にLPPS法、とりわけLPPS薄膜法、HVOF法、冷ガス・スプレー法、火炎溶射法、特に、ワイヤ火炎溶射法または粉末溶射法または別の溶射法である請求項12から請求項17までのいずれか1項に記載された溶射法。
【請求項19】
溶射法による被処理品の表面の被覆のための請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された材料の使用。
【請求項20】
被処理品、特に大面積金属薄板、とりわけ請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された材料、および、請求項6から請求項11までのいずれか1項に記載された被覆で被覆されたアルミニウムおよび/または鉄および/または鋼および/または金属および/または合金および/または別の材料(5)で形成された被処理品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−146291(P2007−146291A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302463(P2006−302463)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(500063790)ズルツァー・メットコ・アクチェンゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】Sulzer Metco AG
【Fターム(参考)】