説明

溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置及び連続焼鈍方法

【課題】溶融亜鉛メッキ用鋼板ラインの連続焼鈍装置全体の炉長スペースを従来に比べて節約することができるるとともに、より高い還元効果及びより大きい冷却速度を得ることができる溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置を提供する。
【解決手段】予熱帯1、加熱帯2、還元帯3、徐冷帯4及び急冷帯5が順次連設されて溶融亜鉛メッキ用鋼板の入側に酸化域が形成され、次いでこの酸化域において溶融亜鉛メッキ用鋼板表面に生成された酸化膜を還元する還元域が形成される溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置において、還元域の急冷帯5に設けた高速水素ガスジェットクーラで高濃度の高速水素ガスジェットを溶融亜鉛メッキ用鋼板表面に吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板溶融亜鉛メッキラインにおいて鋼板を連続的に熱処理する溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置及び連続焼鈍方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板溶融亜鉛メッキラインでは、溶融亜鉛メッキ用鋼板を横型あるいは竪型の連続焼鈍装置内を連続的に搬送して連続焼鈍した後に溶融亜鉛メッキを行っている。連続焼鈍装置では、加熱帯の酸化域において鋼板表面に形成された酸化膜を還元域で還元して鋼板表面を清浄にしている。
【0003】
図8は従来の横型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。図3の横型の連続焼鈍装置において、鋼板は、予熱帯1、加熱帯2、還元帯3、徐冷帯4及び急冷帯5を連続的に順次搬送されて焼鈍される。鋼板は、予熱帯1で約300℃に予熱され、加熱帯2で直火バーナにより約600℃に加熱され、還元帯で約740℃に加熱され、徐冷帯で約700℃まで徐冷し、急冷帯で460℃まで急冷される。
【0004】
予熱帯1及び加熱帯2は、直火バーナにより鋼板表面に酸化膜が形成される酸化域となっており、続く還元帯3、徐冷帯4及び急冷帯5は、雰囲気がN:80容量%とH:20容量%の還元域となっている。酸化域で鋼板表面に形成された酸化膜は、還元域で還元される。
【0005】
図9は従来の竪型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。図4の竪型の連続焼鈍装置では、鋼板は、竪型の予熱帯1、加熱帯2、還元帯3、均熱帯6、徐冷帯4及び急冷帯5を連続的に順次搬送されて焼鈍される。図9は、図8に示す横型の連続焼鈍装置とは、還元帯3に次いで740℃で均熱する均熱帯6を配設した点、還元帯3、均熱帯6、徐冷帯4及び急冷帯5が還元域となっている点を除いて実質的に同様のヒートサイクルである。
【0006】
また、鋼板の連続焼鈍において、鋼板表面に形成された酸化膜を還元するために、例えば、特許文献1には、連続焼鈍装置において、排ガス予熱帯と直火還元加熱帯を連設し、直火還元加熱帯の後段に酸化膜検出装置を設置し、さらにその後段にガス還元帯を設置し、かつガス還元帯の出側に冷却帯を連設した連続焼鈍装置において、ガス還元帯に鋼板の両面に対向する位置に複数の還元ガス噴出ノズルを配置して鋼板表面に形成された酸化膜の厚さなどの状態に応じて還元ガス噴出ノズルを選択して水素10%以上の還元ガスを鋼板に噴出させて鋼板表面の酸化膜を還元することが開示されている。
【特許文献1】特開平4−99822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8及び図9に示す連続焼鈍装置では、酸化域で鋼板表面に形成された酸化膜を長い時間をかけて還元反応を行うとともに、鋼板温度を下げていくのに必要な搬送距離を確保しなければならないため、連続焼鈍装置全体の炉長スペースを長くとらなくてはならないという問題があった。
【0008】
また、特許文献1に開示されている連続焼鈍装置では、直火還元加熱帯の後段に酸化膜検出装置を設置し、酸化膜の生成状態を演算し、還元ガスノズルを選択して操業しなくてはならないので、設備が複雑となり、さらに直火還元加熱帯が大型になるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、溶融亜鉛メッキ用鋼板ラインの連続焼鈍装置全体の炉長スペースを従来に比べて節約することができるるとともに、より高い還元効果及びより大きい冷却速度を得ることができる溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置及び連続焼鈍方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍は、予熱帯、加熱帯、還元帯、徐冷帯及び急冷帯を順次連設して構成される溶融亜鉛メッキ用鋼板製造設備の予熱帯または加熱帯のいずれかに酸化域を形成し、次いでこの酸化域において溶融亜鉛メッキ用鋼板表面に生成した酸化膜を還元する還元域を形成して溶融亜鉛メッキ鋼板の酸化膜を還元する溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍において、前記急冷帯に高速水素ガスジェットクーラを設け、高濃度の高速水素ガスジェットを鋼板の表面に吹き付ける。
【0011】
還元帯と徐冷帯の間にさらに均熱帯を連設することができ、また、急冷帯の前半に高速水素ガスジェットクーラを設けてもよい。
【0012】
高速水素ガスジェットは、ガス流速100〜190m/s、水素濃度20〜80容量%の還元ガスを使用する。
【0013】
まず、水素濃度に関する熱伝達率については、高速水素ガスジェットパイロットラインにおける水素濃度・熱伝達指標の試験結果を図5に示す。吹き付け流速一定の条件においては、従来の水素濃度(水素20容量%、窒素80容量%)を基準にすると、濃度向上とともに、熱伝達率が向上し、水素濃度70容量%〜80容量%ポイントで約1.3倍のピークとなる。即ち、水素濃度80容量%までは、濃度が上がるほど熱伝達率が向上することがわかる。
【0014】
一方で、ガス流速における熱伝達については、圧力損失が増え、ブロア能力が大きくしなければならないものの、理論的には流速が速ければ速い程、熱伝達率が高くなる。しかしながら、実際の鋼板搬送状態においては、ガス流速に対する鋼板のバタツキ現象が発生することが知られている。水素濃度に関するバタツキ限界速度は、図6で示されている。すなわち、水素濃度20容量%〜80容量%においては、100m/s〜190/sと規定される。
【0015】
また、酸化された鋼板の還元能力については、水素濃度に比例して直線的に向上することが知られている。鋼板温度700℃において、水素濃度を横軸に還元されるFe304の質量を示したグラフを図7に示す。この結果より、水素濃度20容量%から水素濃度が向上すればするほど還元能力が増大することがわかる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、連続焼鈍装置の急冷帯に高濃度の水素を高速で鋼板表面に吹き付ける高速水素ガスジェットクーラにより、より高い還元効果を得ることができるとともに、より大きい冷却速度を得ることができるので、冷却帯の長さを削減でき、その結果、連続焼鈍装置の全体の炉長スペースを節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例について図1及び図2を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の横型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。図1において、鋼板は、図8に示す従来の横型の連続焼鈍装置と同様に、予熱帯1、加熱帯2、還元帯3、徐冷帯4、急冷帯5をハースロールに支持されて連続的に順次搬送されて焼鈍される。
【0019】
鋼板は、予熱帯1で約300℃に予熱され、加熱帯2で約600℃に加熱される。予熱帯1及び加熱帯2は、直火バーナの燃焼排ガスにより鋼板表面に酸化膜が形成される酸化域となっている。
【0020】
続いて、鋼板は、還元帯3で約740℃に昇温され、徐冷帯4で約700℃まで徐冷し、急冷帯5で460℃まで急冷される。還元帯3、徐冷帯4及び急冷帯5は、酸化域で鋼板表面に形成された酸化膜を還元して鋼板表面を清浄にするために還元域となっている。還元域のうち還元帯3及び徐冷帯4の雰囲気がN:80容量%とH:20容量%の還元域となっている。急冷帯5は、N:50容量%とH:50容量%の高速水素ガスジェットクーラにより強還元域となっている。
【0021】
急冷帯5では高速水素ガスジェットにより高濃度の水素を高速で鋼板に吹き付けることで、鋼板表面ガスの置換効果が向上するとともに、鋼板表面圧の上昇により反応速度が大きくなり、酸化膜の還元が促進される。その結果、急冷帯5は従来に比べて、約1/5の長さに短縮できた。さらに、Hの分圧比で還元反応がアップする強還元効果により徐冷帯の長さも短縮することができた。
【実施例2】
【0022】
図2は本発明の竪型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。図2において図9に示す従来の竪型の連続焼鈍装置と同様に、溶融亜鉛メッキ用鋼板は、予熱帯1、加熱帯2、還元帯3、均熱帯6、徐冷帯4及び急冷帯5をハースローラに支持されて連続的に順次搬送されて焼鈍される。鋼板は、予熱帯1で約300℃に予熱され、加熱帯2で約600℃まで直火バーナで直接加熱される。予熱帯1及び加熱帯2は、鋼板表面に酸化膜が形成される酸化域となっている。
【0023】
続いて、鋼板は、還元帯3で約740℃まで加熱され、均熱帯6において約740℃に均熱され、徐冷帯4で約700℃まで徐冷され、急冷帯5で460℃まで急冷される。還元帯3、均熱帯6、徐冷帯4及び急冷帯5は、酸化域で鋼板表面に形成された酸化膜を還元して鋼板表面を清浄にするために還元域となっている。還元域のうち還元帯3、均熱帯6及び徐冷帯4の雰囲気がN:80容量%とH:20容量%の還元域となっている。急冷帯5は、N:50容量%とH:50容量%の高速水素ガスジェットジェットクーラにより強還元域となっている。
【0024】
図3は本発明の水素高速ジェットクーラを設置した急冷帯の概略図、図4のA−A矢視図である。
【0025】
図3において、急冷帯5には鋼板7を搬送する上下ロール8,9間に設置され、このロール8,9間に、高濃度の高速水素ガスジェットを噴出する高速水素ガスジェットクーラ10の一対を鋼板7の面に対向して設け、鋼板7の流れに沿って複数段配置している。そしてこの高速水素ガスジェットクーラ10の上下間には鋼板7のバタツキを防止する押さえロール11が鋼板12を挟持するように配置される。
【0026】
図4は、図3のA−A矢視図であり、高速水素ガスジェットクーラ10により鋼板7に吹き付けられたガスは循環系を介して冷却ガスとして再利用される。すなわち、吹き付けられたガスは、炉体に設けられたガス吸い込み口から吸い込まれ、吸引側ダクト12、熱交換機13、循環ブロワ14および吐出側ダクト15を介し、さらに、炉体内の冷却箱16に連結された循環系により、冷却箱16の鋼板7面側に設けられたノズル17から鋼板7に向けて再び噴出される。このように、鋼板12に吹き付けられた炉内のガスを循環して使用する。
【0027】
急冷帯5では、高速水素ガスにより高濃度の水素を高速で鋼板7の表面に吹き付けることで、鋼板表面ガスの置換効果が向上するとともに、鋼おび表面圧の上昇により反応速度が大きくなり、酸化膜の還元が促進され、その結果、急冷帯は従来に比べて、約1/5の長さに短縮できた。さらに、Hの分圧比で還元反応がアップする強還元効果により徐冷帯の長さも短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の横型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。
【図2】本発明の竪型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。
【図3】本発明の高速水素ガスジェットクーラを設置した急冷帯の概略図である。
【図4】図4のA−A矢視図である。
【図5】水素濃度と熱伝達指標の関係を示すグラフである。
【図6】水素濃度とバタツキ限界速度の関係を示すグラフである。
【図7】水素濃度と還元速度の関係を示すグラフである。
【図8】従来の横型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。
【図9】従来の竪型の連続焼鈍装置及びそのヒートサイクルを示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1:予熱帯
2:加熱帯
3:還元帯
4:徐冷帯
5:急冷帯
6:均熱帯
7:鋼板
8,9:上下ロール
10:高速水素ガスジェットクーラ
11:押さえロール
12:吸引側ダクト
13:熱交換機
14:循環ブロワ
15:吐出側ダクト
16:冷却箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予熱帯、加熱帯、還元帯、徐冷帯及び急冷帯を順次連設して構成される溶融亜鉛メッキ用鋼板製造設備の予熱帯または加熱帯のいずれかに酸化域を形成し、次いでこの酸化域において溶融亜鉛メッキ用鋼板表面に生成した酸化膜を還元する還元域を形成して溶融亜鉛メッキ鋼板の酸化膜を還元する溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置において、
前記急冷帯に高濃度の高速水素ガスジェットを溶融亜鉛メッキ用鋼板の表面に吹き付ける高速水素ガスジェットクーラを設けたことを特徴とする溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置。
【請求項2】
還元帯と徐冷帯の間に均熱帯が連設されていることを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置。
【請求項3】
急冷帯の前半に高速水素ガスジェットクーラを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置。
【請求項4】
高速水素ガスジェットが、ガス流速100〜190m/s、水素濃度20〜80%の還元ガスであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍装置。
【請求項5】
予熱帯、加熱帯、還元帯、徐冷帯及び急冷帯を順次連設して構成される溶融亜鉛メッキ用鋼板製造設備の予熱帯または加熱帯のいずれかに酸化域を形成し、次いでこの酸化域において溶融亜鉛メッキ用鋼板表面に生成した酸化膜を還元する還元域を形成して溶融亜鉛メッキ鋼板の酸化膜を還元する溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍方法において、
前記急冷帯に設けた高速水素ガスジェットクーラにて高濃度の高速水素ガスジェットを鋼板の表面に吹き付けて前記酸化域にて生成した鋼板の酸化膜を還元することを特徴とする溶融亜鉛メッキ用鋼板の連続焼鈍方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−144104(P2006−144104A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339165(P2004−339165)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】