説明

溶融金属鉄の製造装置

【課題】別工程を経ることなく回転炉床炉から排出される溶融スラグと溶融金属鉄とを分離させ、溶融金属鉄のみを回収することができる溶融金属鉄の製造装置を提供する。
【解決手段】炉中心部に向けて先下がりに傾斜する傾斜面2aからなる回転炉床2と、炉中心部に設けられた排出口2bとを有し、少なくとも炭素質還元剤と酸化鉄含有物質からなる原料混合物を回転炉床2上に装入し、装入した原料混合物を還元することにより金属鉄およびスラグ成分を溶融する回転炉床炉1と、排出口2bの下方に設けられ、傾斜面2aを伝って流下する金属鉄およびスラグ成分を貯溜する溶融物容器5と、この溶融物容器5に付設された誘導加熱装置6とから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料混合物を回転炉床炉に供給して溶融金属鉄を製造する溶融金属鉄の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素質還元材と酸化鉄含有物質からなる成形原料を回転炉床炉に装入し、高温で加熱して還元、溶融することにより、炉床上でスラグと分離した溶融金属鉄を、冷却、固化することなく溶融状態のまま回転炉床炉外に排出し回収する溶融金属鉄の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は上記溶融金属鉄の製造方法に用いられる回転炉床炉の炉床構造を示したものであり、図7(a)は平面図、同図(b)は図7(a)のF−F矢視縦断面図、図7(c)は排出口の拡大縦断面図である。
【0004】
これらの図において、Maは原料供給装置50から炉床51に供給される原料を示している。
【0005】
炉床51の炉床幅のほぼ中心線上には一定間隔を空けて溶融金属鉄を排出するための排出口52が配設されており、それらの排出口52に向けて先下がりに傾斜する傾斜面53が形成されている。
【0006】
排出口52の下方には溶融金属鉄Meを排出するためのスライドバルブ54が設けられている。
【0007】
排出された溶融金属鉄Meは、排出口52の真下に配置された鍋(図示しない)で直接受けるか、または樋(図示しない)を介して回転炉床炉の近くに配置した鍋に集めるなどして回収される。
【0008】
また、図8(a)および(b)に示す別の炉床構造では、原料供給装置50から原料Maを供給する点は同じであるが、回転炉の中心部に向けて炉床60の床面60aを先下がりに傾斜させるとともに、床面60aの内周側縁部に沿わせて溶融金属鉄が溢れ出さない高さの固定堰61が設けられている。
【0009】
この固定堰61は、排出エリアにおいてその一部が切り欠かれている。この炉床構造では回転炉の中心に設けられた排出口60bに向けて、すり鉢状の傾斜面60aが形成され、特定の位置(切欠き部61a)から溶融金属鉄を排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−288504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した従来の炉床構造では、溶融金属鉄と溶融スラグが同時に排出されるため、次工程の転炉や電気炉などに溶融金属鉄を供給する際には、スラグを除去する必要がある。
【0012】
しかしながら、回転炉床炉と別に用意された鍋に回収され溶融金属鉄の温度が低下してしまうと、溶融金属鉄とスラグの分離が進行しないため、さらに別の工程を介してスラグを分離する必要が生じ、回転炉床炉から連続的に製造される溶融金属鉄を、次工程で直接、使用することができないという問題があった。
【0013】
本発明は以上のような従来の炉床構造における課題を考慮してなされたものであり、別工程を経ることなく回転炉床炉から排出される溶融スラグと溶融金属鉄とを分離させ、溶融金属鉄のみを回収することができる溶融金属鉄の製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、炉中心部に向けて先下がりに傾斜する傾斜面からなる回転炉床と、上記炉中心部に設けられた排出口とを有し、少なくとも炭素質還元剤と酸化鉄含有物質からなる原料混合物を上記回転炉床上に装入し、装入した上記原料混合物を還元することにより金属鉄およびスラグ成分を溶融する回転炉床炉と、
上記排出口の下方に設けられ、上記傾斜面を伝って流下する上記金属鉄およびスラグを貯溜する溶融物容器と、
上記溶融物容器に付設された加熱手段とから構成される溶融金属鉄の製造装置である。
【0015】
本発明において、上記傾斜面の傾斜角は3〜30°の範囲内に設定することが好ましい。
【0016】
本発明において、上記加熱手段として誘導加熱装置を有することができ、また、上記加熱手段として助燃バーナーを有することができ、また、これらを組み合わせて備えることもできる。
【0017】
本発明において、上記回転炉床炉は床敷材を装入する床敷材装入装置を有し、上記回転炉床炉の回転方向における上記床敷材装入装置の上流側に、未排出の溶融金属鉄およびスラグの少なくともいずれか一方を強制的に上記排出口に案内する強制排出装置を備えることができる。
【0018】
本発明において、回転する上記回転炉床と、固定された上記溶融物容器とをシールするための水シール装置を設けることが好ましい。
【0019】
本発明において、上記溶融物容器に、溶融金属鉄とスラグを分離して回収する回収装置を設けることが好ましい。
【0020】
本発明における炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料混合物とは、炭素質還元剤と酸化鉄含有物質の直接混合粉体、もしくはプレス機などによって塊状に成形された原料成形体であり、この原料成形体の形状は特に限定されず、塊状、粒状、ブリケット状、ペレット状、棒状などの様々な形状が含まれる。
【0021】
本発明において、助燃バーナーとは、溶融物容器内に貯溜された溶融金属鉄およびスラグの流動が促進される温度に維持することを目的に補助的に加熱するバーナーを意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の溶融金属鉄の製造装置によれば、別工程を経ることなく回転炉床炉から排出される溶融スラグと溶融金属鉄とを分離させ、溶融金属鉄のみを回収することができるという長所を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る回転炉床炉の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A矢視横断面図である。
【図3】(a)は図1に示す強制排出装置の拡大平面図、(b)は円周方向から見た側面図である。
【図4】本発明の溶融物容器に助燃バーナーを付設した構成を示す説明図である。
【図5】本発明の回収装置の構成を示す説明図である。
【図6】図5に示す回収装置の平面図である。
【図7】(a)は従来の回転炉床炉の炉床構造を示す平面図、(b)は図7(a)のF−F矢視縦断面図、(c)は排出口の拡大縦断面図である。
【図8】(a)は従来の別の炉床構造を示す平面図、(b)はその縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る溶融金属鉄の製造装置を構成する回転炉床炉1の概略構成を示した縦断面図であり、図2は図1のA−A矢視横断面図である。
【0026】
両図において、回転炉床炉1は垂直軸Zまわりに回転する炉床(回転炉床)2を有している。
【0027】
粉粒状の炭素質物質からなる炭材Cfが床敷材供給機3から上記炉床2上に敷き詰められ、さらにその上に、原料成形体供給機4から原料混合物としての原料成形体Mfが連続的に供給されるようになっている。
【0028】
上記床敷材供給機3および原料成形体供給機4はそれぞれ振動フィーダーを備えており、炉床2上に炭材Cfを均一に敷くことができるとともに、原料成形体Mfをほぼ一層にして敷くことができるようになっている。
【0029】
原料成形体Mfを供給する前に炭材Cfを炉床2上に敷き詰めると、炉床面を保護することができ、鉄の浸炭を促進してより低温で操業することが可能になり、さらに、炭材Cfの一部を後述する溶融物容器5に流下させると、その溶融物容器5内でも浸炭を促進させることができるという利点がある。
【0030】
上記炉床2は反時計方向(矢印B方向)に回転しており、操業条件によって異なるが、約10〜20分程度で一周し、その間に、炉壁および天板に設けられたバーナー(図示しない)の燃焼熱あるいはその輻射熱を受けて原料成形体Mf中に含まれる酸化鉄が還元されるようになっている。
【0031】
上記炉床2は、炉中心部に向けてすり鉢状に傾斜する先下がりの傾斜面2aを有し、流動状態になった溶融物Mx(溶融酸化鉄、溶融スラグ)を排出するための排出口2bを炉中心部に備えている。
【0032】
傾斜面2aの傾斜角は3〜30°の範囲内に設定されており、より好ましい傾斜角は10〜25°である。
【0033】
傾斜角が3°を下回ると溶融金属鉄とスラグが溶融しても自然流下せず、また、傾斜角が30°を上回ると原料成形体Mfを炉床2上に供給した時点で炉床2上に留まらず炉中心部に向けて転がり落ちてしまうからである。
【0034】
上記排出口2bと連通する状態でその下方には溶融物容器5が設けられている。
【0035】
上記溶融物容器5は有底筒状に構成されており、貯溜物を熱補償する目的で胴部外壁に沿って誘導加熱装置6または助燃バーナー7(図4参照)の少なくともいずれか一方が付設されている。
【0036】
上記誘導加熱装置6、助燃バーナー7は、溶融物容器5に付設される加熱手段として機能する。
【0037】
運転中の回転炉床炉1において、原料成形体Mfは溶融流動化した時点で傾斜面2aに沿って流れ、炉中心部に設けられている排出口2bに集められ、溶融物容器5内に落下する。
【0038】
溶融物容器5内では、溶融金属鉄とスラグとが相互に作用することによって溶融金属鉄の脱硫が進行する。
【0039】
また、誘導加熱装置6により加熱されていることによって溶融物容器5内での溶融物Mxの流動が促進されるため、溶融金属鉄とスラグとの分離が進行し、溶融金属鉄の表面にスラグが浮き出て層が形成される。
【0040】
なお、図1において符号Miは溶融金属鉄を、符号Sはスラグをそれぞれ示している。また、図2において符号8は強制排出装置(後述する)を、符号1aは回転炉床炉の天板から垂下されている仕切壁を、符号1bは炉壁をそれぞれ示している。
【0041】
なお、固定されている炉壁1bの下部と、回転する炉床2の外周部との間には、水シール装置9が介設されシールされている。
【0042】
また、回転する炉床2の内周部外壁と、固定されている溶融物容器5の上部との間にも別の水シール装置9′が介設されシールされている(図5参照)。
【0043】
図3(a)は強制排出装置8を拡大して示した平面図であり、図3(b)は炉床円周方向からその強制排出装置8を見た側面図である。
【0044】
両図において、強制排出装置8は短冊状をなす耐火物製の帯板8a〜8dからなり、これらの帯板8a〜8dは回転炉床炉1の天板1cから垂下され、自由端となる下端と炉床表面との間には所定の間隔Lvが設けられている。
【0045】
上記所定の間隔Lvは、排出しようとする溶融物Mxの量が炉床2の中心側ほど高くなることを考慮し、炉中心部に向けて段階的に広くすることが好ましい。
【0046】
また、図3(a)において、各帯板8a〜8dは、炉外周側から炉内周側に向けて順次、後退するように階段状に配置されており、図3(b)に示すように、隣接する帯板8a〜8d間には重なり代Lhが確保されている。
【0047】
上記構成を有する強制排出装置8を設けると、未排出の溶融金属鉄、溶融スラグ、床敷き材のうちのいずれかまたは複数を強制的に排出口2bに案内させることができ、強制排出装置8よりも下流側の炉床表面を平滑にすることができる。
【0048】
なお、帯板8a〜8dの下部は徐々に摩耗していくため、各帯板8a〜8dは油圧シリンダ等の昇降装置8eを設けることによって上記所定の間隔Lvを維持したり、または、帯板を継ぎ足すことにより上記所定の間隔Lvを維持できるようにすることが好ましい。
【0049】
上記強制排出装置8は必要に応じて、または溶融物Mxを排出できない場合の安全装置として設けられるものであり、溶融物Mxがスムーズに排出口2bに流れる場合は省略することができる。
【0050】
図4は、助燃バーナー7のみを加熱手段として溶融物容器5に付設する構成を示した説明図である。
【0051】
なお、以下の説明において、図1と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0052】
図4において、助燃バーナー7は、火炎が溶融物容器5の略中心に向けられるように溶融物容器5の上部に略水平方向に設けられている。
【0053】
この場合、溶融物容器5において助燃バーナー7の取付け位置よりも低い位置にスラグを排出するためのスラグ排出口5aを設け、そのスラグ排出口5aよりもさらに低い位置に溶融金属鉄排出口5bを設ける。
【0054】
図5は、溶融金属鉄MiとスラグSを回収する回収装置10の構成を示した説明図であり、図6はその平面図である。
【0055】
両図において、回収装置10は、溶融物容器5の上部から水平方向に延設された受銑樋11を有し、この受銑樋11の先端下面に溶融金属鉄Miを排出する溶融金属鉄取出口11aが設けられている。
【0056】
溶融金属取出口11aの下方には旋回可能な樋13が設けられ、この樋13が旋回する範囲の一方側には第一の溶融金属鉄鍋14が配置さ、他方側に第二の溶融金属鉄鍋15が配置される。
【0057】
それにより、連続的に排出される溶融金属鉄Miを第一および第二の溶融金属鉄鍋14,15に交互に振り分けるようになっている。
【0058】
また、誘導加熱装置6を付設した溶融物容器5は誘導加熱炉16として機能し、回転炉床炉1の運転休止や誘導加熱炉16の炉修理を行う場合は、受銑樋11内の溶融金属鉄Miを抜き取った後、誘導加熱炉16を接続部分Cから切り離して降下させ、次いで傾斜させることにより、誘導加熱炉16内の溶融金属鉄Miをすべて第三の溶融金属鉄鍋17に排出する。
【0059】
なお、受銑樋11については、接続部分Dから切り離し、水平方向(図6の矢印E方向参照)に移動させることができるようになっている。
【0060】
また、上記受銑樋11の途中にはスラグストッパー11bが設けられている。
【0061】
このスラグストッパー11bは昇降可能に構成されており、稼働開始時には受銑樋11の底面まで降下し、湯溜まりができると図5に示すスラグ分離位置まで上昇するように構成されている。それにより、スラグSはスラグ排出口11b(図6参照)から排出され、スラグポット12に回収される。
【符号の説明】
【0062】
1 回転炉床炉
1a 仕切壁
1b 炉壁
1c 天板
2 炉床(回転炉床)
2a 傾斜面
2b 排出口
3 床敷材供給機
4 原料成形体供給機
5 溶融物容器
5a スラグ排出口
5b 溶融金属鉄排出口
6 誘導加熱装置
7 助燃バーナー
8 強制排出装置
8a〜8d 帯板
8e 昇降装置
9 水シール装置
10 回収装置
11 受銑樋
11a 溶融金属鉄取出口
11b スラグストッパー
12 スラグポット
13 樋
14 第一の溶融金属鉄鍋
15 第二の溶融金属鉄鍋
16 誘導加熱炉
17 第三の溶融金属鉄鍋
Cf 炭材
Mf 原料成形体
Mx 溶融物
Mi 溶融金属鉄
S スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉中心部に向けて先下がりに傾斜する傾斜面からなる回転炉床と、上記炉中心部に設けられた排出口とを有し、少なくとも炭素質還元剤と酸化鉄含有物質からなる原料混合物を上記回転炉床上に装入し、装入した上記原料混合物を還元することにより金属鉄およびスラグ成分を溶融する回転炉床炉と、
上記排出口の下方に設けられ、上記傾斜面を伝って流下する上記金属鉄およびスラグを貯溜する溶融物容器と、
上記溶融物容器に付設された加熱手段とから構成されることを特徴とする溶融金属鉄の製造装置。
【請求項2】
上記傾斜面の傾斜角が3〜30°の範囲内に設定されている請求項1記載の溶融金属鉄の製造装置。
【請求項3】
上記加熱手段として誘導加熱装置を有する請求項1または2記載の溶融金属鉄の製造装置。
【請求項4】
上記加熱手段として助燃バーナーを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融金属鉄の製造装置。
【請求項5】
上記回転炉床炉は床敷材を装入する床敷材装入装置を有し、上記回転炉床炉の回転方向における上記床敷材装入装置の上流側に、未排出の溶融金属鉄およびスラグの少なくともいずれか一方を強制的に上記排出口に案内する強制排出装置が備えられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶融金属鉄の製造装置。
【請求項6】
回転する上記回転炉床と、固定された上記溶融物容器とをシールするための水シール装置が設けられている請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶融金属鉄の製造装置。
【請求項7】
上記溶融物容器に、溶融金属鉄とスラグを分離して回収する回収装置が設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶融金属鉄の製造装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−88006(P2012−88006A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236559(P2010−236559)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】