説明

炉内監視装置および炉内監視方法

【課題】供給されるエネルギー量の変化に対応して、高い信頼性で炉内の状況を推定できる炉内監視装置および炉内監視方法を提供する。
【解決手段】継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視装置200であって、炉内の温度を測定する温度測定部210と、炉内の温度を維持するように炉内へ供給するエネルギー量を制御する供給量制御部220と、炉内へ供給されたエネルギー量を記録する供給量記録部230と、炉内の測定温度を記録する温度記録部240と、供給されたエネルギー量の推移が測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する時間算出部250と、を備え、算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視装置および炉内監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント原料を焼成するロータリーキルンについて、その表面温度の変化を測定し、温度の高低を基準にコーチングの付着の有無を推定する技術が知られている。これは、ロータリーキルンは、継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出すため、内壁に付着物が堆積すると、加熱された原料の送出が阻害されるため、堆積量を監視する必要があるためである。また、このような技術は、炉内の温度を維持し、同様の条件で継続的に原料を加熱処理するのにも役立つ。
【0003】
たとえば、特許文献1記載のロータリーキルンの操業制御装置は、ロータリーキルンの特定の長さ方向において周方向に沿って分布する複数の測定点でのシェル温度を温度計によって連続的に測定し、シェル温度が最低値を下回るとロータリーキルン内の熱負荷を増加させ、内壁面の付着物を剥離させている。特許文献2記載のロータリーキルン内の付着物の厚さ検出方法は、大気温度、ロータリーキルンの炉内ガス雰囲気温度および鉄皮表面温度から、ロータリーキルン内の付着物の厚さを演算している。また、特許文献3記載の外熱ロータリーキルンでは、温度センサを複数箇所に設置し、測定温度をテストプラントによる検討結果に照合し、キルン壁温度を推定し、キルン内堆積層厚さを推定している。
【0004】
一方、ロータリーキルンの前段階に設けられるプレヒータは、保温材により囲まれているため、内部に設けられた温度計により、コーチングの付着の有無を推定している。たとえば、特許文献4記載のサイクロンでは、プレヒータ内に設置された複数の温度計で測定された温度を時系列的に監視し、測定温度のいずれかが設定値以下になったときにセメント原料の除去作業を指示するための警告を発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−230676号公報
【特許文献2】特開昭56−137106号公報
【特許文献3】特開平10−197157号公報
【特許文献4】特開平11−262689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように炉の表面または内部の温度を測定し、測定温度から内部状況を監視する種々の方法が提案されている。しかしながら、上記の方法は燃料供給量の変化を考慮しておらず必ずしも信頼性が高いとは言えない。これに対して、直接的に内部状況を監視する方法も考えられるが、現実的ではない。たとえば、セメント原料のプレヒータ内部に挿入された温度計を引き抜き、温度計に付着したコーチングの状況から内部のコーチング状況を推定する方法では、温度計を測定口から抜出す時点でコーチングが脱落する可能性が高く測定は困難である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、供給されるエネルギー量の変化に対応して、高い信頼性で炉内の状況を推定できる炉内監視装置および炉内監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の炉内監視装置は、継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視装置であって、炉内の温度を測定する温度測定部と、前記炉内の温度を維持するように前記炉内へ供給するエネルギー量を制御する供給量制御部と、前記炉内へ供給されたエネルギー量を記録する供給量記録部と、前記炉内の測定温度を記録する温度記録部と、前記供給されたエネルギー量の推移が前記測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する時間算出部と、を備え、前記算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にすることを特徴としている。
【0009】
このように、本発明の炉内監視装置は、供給されたエネルギー量の推移が炉内の温度の推移として現れるまでの応答時間を算出し、応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にしている。これにより、供給されるエネルギー量の変化に対応して、高い信頼性で炉内状況を推定できる。たとえば、応答時間の増加から炉内壁を覆う層の増加を推定できる。また、応答時間が急激に変化したときに温度測定部の層の剥がれが生じたことを推定したり、供給原料の量に異常があったことを推定したりすることも可能になる。
【0010】
(2)また、本発明の炉内監視装置は、前記時間算出部は、前記エネルギーの供給により生じる熱が前記温度測定部に伝達されるステップを一次遅れモデルで近似したときの時定数を、前記応答時間として算出することを特徴としている。
【0011】
これにより、容易に妥当な応答時間を算出することができる。たとえば、エネルギー供給量の実測値の時系列データから炉内温度の推移を推定し、炉内温度の実測値の時系列データにフィッティングすることで、一次遅れモデルで近似したときの最適な時定数を求めることができる。
【0012】
(3)また、本発明の炉内監視装置は、前記応答時間を出力する出力部を更に備えることを特徴としている。これにより、作業者は出力された応答時間を監視することができ、炉内壁を覆う層の変化や、炉内の異常の発生を容易に把握することができる。
【0013】
(4)また、本発明の炉内監視装置は、前記応答時間の変化率の絶対値が所定値を超えたときに異常と判定する異常判定部を更に備え、異常の発生を報知可能にすることを特徴としている。これにより、炉内の急激な変化を自動的に作業者に報知することが可能になる。
【0014】
(5)また、本発明の炉内監視装置は、前記温度測定部は、継続的にセメント原料が供給されるプレヒータ内の温度を測定し、前記温度記録部は、前記プレヒータ内の測定温度を記録し、前記供給量記録部は、前記プレヒータ内にエネルギーとして供給される石炭燃料の量を記録し、前記時間算出部は、前記記録された石炭燃料の量の推移が前記プレヒータ内の温度の推移として現れるまでの応答時間を算出し、前記算出された応答時間の変化によりプレヒータ内の状況の推定を可能にすることを特徴としている。
【0015】
これにより、プレヒータ内のコーチング厚を推定することができ、事前にサイクロン詰まりの防止処理を実行できる。また、リサイクル原燃料の供給を含め運転条件を推定でき、コーチング付着の原因を絞りこむことができる。このように、プレヒータ内の状況把握が容易になるため、従来は安全側で設定していたリサイクル原燃料の使用量制約を緩和することができる。
【0016】
(6)また、本発明の炉内監視方法は、継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視方法であって、炉内の温度を測定する手順と、前記炉内の温度を維持するように前記炉内へ供給するエネルギー量を制御する手順と、前記炉内へ供給されたエネルギー量を記録する手順と、前記炉内の測定温度を記録する手順と、前記供給されたエネルギー量の推移が前記測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する手順と、を含み、前記算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にすることを特徴としている。これにより、応答時間の変化により、供給されるエネルギー量の変化に対応して、高い信頼性で炉内状況を推定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、応答時間の変化により、供給されるエネルギー量の変化に対応して、高い信頼性で炉内状況を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るセメント製造プラントの構成を示す概略図である。
【図2】最下段のサイクロンと本発明に係る炉内監視装置(プレヒータ内監視装置)の構成を示す概略図である。
【図3】本発明に係る炉内監視装置(プレヒータ内監視装置)の動作を示すフローチャートである。
【図4】1次遅れモデルによるステップ応答のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ主燃料供給量および温度の推移、算出された応答時間の推移を示すグラフである。
【図6】(a)、(b)は、それぞれ主燃料供給量および温度の推移、算出された応答時間の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0020】
(セメント製造プラントの構成)
図1は、セメント製造プラント100の構成を示す概略図である。セメント製造プラント100は、主にクリンカの焼成を行うプラントであり、プレヒータ105、ロータリーキルン170、冷却機180、プレヒータ内監視装置200(炉内監視装置)を備えている。
【0021】
プレヒータ105は、ロータリーキルン170の前段に設けられ、ロータリーキルン170での焼成効率を向上させるためにセメント原料Mを管理用温度で予熱する。プレヒータ105は、多段サイクロンで構成されている。プレヒータ105には、粉体のセメント原料Mが、原料供給部108から継続的に供給される。セメント原料Mは、主に石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料を所定の構成成分になるように予め粉砕、乾燥、混合して作製される。原料供給量は、ほぼ一定になるように制御されている。
【0022】
サイクロン110は、多段に設けられ、高温ガスとセメント原料Mとの間の熱交換および分離を行う。サイクロン110は、コーン部111とシュート部112を有している。シュート部112は、コーン部111の下部に連結され、セメント原料Mを排出する。排気口113は、コーン部111の上部中央に設けられ、排ガスを排出する。排出された排ガスは原料の乾燥や廃熱発電等に利用される。排気口113の周辺部にはマンホール(図示せず)が開閉自在に設けられている。仮焼炉160にはロータリーキルン170から高温の排ガスが流れ込んでいる。また、仮焼炉160にはセメント原料Mが供給されている。最下段のコーン部111には、仮焼炉160からセメント原料Mおよび排ガスが流入している。
【0023】
ロータリーキルン170は、プレヒータ105から排出されたセメント原料Mを1450℃程度で焼成し、クリンカを生成する。冷却機180は、いわゆるクリンカクーラーであり、ロータリーキルン170で生成されたクリンカを冷却する。冷却により代わりに熱せられた空気は、キルンや仮焼炉160の燃焼用空気として利用される。
【0024】
リサイクル原燃料R1、R2は、それぞれ仮焼炉160およびロータリーキルン入口169に設けられたリサイクル原燃料供給部161、169から供給される。リサイクル原燃料R1、R2としては、たとえば、廃プラスチック、廃油、木屑または廃タイヤが供給される。リサイクル原燃料R1、R2の供給量は、ほぼ一定になるように制御されている。
【0025】
主燃料供給部162は、仮焼炉160の側面に設けられ、主燃料Fとしてたとえば石炭燃料を供給する。主燃料供給部162は、温度計190により計測される温度を一定にするようにプレヒータ内監視装置200により供給量を制御している。温度計190は、最下段のコーン部111上部に接続している排気口113の付け根付近に設けられている。温度計190は、たとえば熱電対または測温抵抗体で構成される。温度計190は、鉄皮で形成された排気口113の壁部を介して先端が排気口113の内部に入るように挿入されている。
【0026】
プレヒータ内監視装置200は、主燃料Fの供給量と測定されたプレヒータ105内の温度とからプレヒータ105内の状況を推定可能にする。プレヒータ内監視装置200の詳細は後述する。
【0027】
(最下段のサイクロンおよびプレヒータ内監視装置の構成)
図2は、最下段のサイクロン110とプレヒータ内監視装置200の構成を示す概略図である。図2に示すように、最下段のサイクロン110の壁部は、鉄皮の内側に耐火物が内張りされている。サイクロン110内に高温ガスとセメント原料Mを流通させると、サイクロン110の内壁面に原料が付着し、付着物がコーチングCとして次第に成長する。サイクロン110内のコーン部111に付着したコーチングCが剥がれてシュート部112へ落下したり、コーチングCが異常に成長するとサイクロン詰まりが発生したりする虞が生じる。
【0028】
サイクロン詰まりの発生が確認されると、通常は製造プラントが停止され、詰まった原料の解消作業が行われる。このような作業は時間と手間がかかり、大きな負担となる。また、莫大な損失をもたらしうる。したがって、プレヒータ105内を監視し、コーチングCの状況を把握し、異常が発生したときには予め対処することが重要となる。そのため、プレヒータ内監視装置200が設けられている。
【0029】
プレヒータ内監視装置200(炉内監視装置)は、継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する。プレヒータ内監視装置200は、温度測定部210、供給量制御部220、供給量記録部230、温度記録部240、時間算出部250、出力部260および異常判定部270を備えている。
【0030】
温度測定部210は、温度計190に接続され、プレヒータ105内の温度を測定する。供給量制御部220は、測定された温度を参照し、プレヒータ105内の温度を維持するように主燃料の供給量(エネルギー量)を制御する。供給量記録部230は、プレヒータ105内へ供給された主燃料Fの量を記録する。温度記録部240は、プレヒータ105内の測定温度を記録する。
【0031】
時間算出部250は、供給された主燃料Fの量の推移が測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する。具体的には、エネルギーの供給により生じる熱が温度測定部210に伝達されるステップを一次遅れモデルで近似したときの時定数を、応答時間として算出することが好ましい。
【0032】
出力部260は、たとえばモニター画面やプリンタにより構成され、算出された応答時間を出力する。グラフにより過去のデータも含めて経時的に出力することが好ましい。このように算出された応答時間の変化が出力されることで、応答時間の推移が解析作業者またはオペレータにより監視されプレヒータ105内の状況の推定が可能になる。これにより、応答時間の変化により、供給される主燃料Fの量の変化に対応して、高い信頼性で炉内状況を推定できる。
【0033】
これにより、プレヒータ105への主燃料Fの供給量変更とそれに伴う温度変化を時系列(過渡状態)で測定できる。そして、温度計掃除直後の温度変化と掃除後時間が経過した時点の温度変化を比較することで、温度計190へのコーチングCの付着状態を推定することもできる。また、コーチングの成長原因の推定にも応用できる。
【0034】
異常判定部270は、応答時間の変化率の絶対値が所定値を所定時間以上超えたときに異常と判定する。これにより、炉内の急激な変化を自動的に作業者に報知することが可能になる。たとえば、応答時間の変化量が設定値以上で設置時間以上元のレベル(上昇前の値)の設定比率まで戻らない場合に異常と判断する。これらの異常判定の各設定値は、温度計の感度や付着したコーチングにより、応答時間が変化するため、絶対量としては設定できない。そこで、掃除時の実績から決定することができる。異常判定部270は、必ずしも必須ではないが設けられていることが好ましい。
【0035】
(プレヒータ内監視装置の動作)
以上のように構成されたプレヒータ内監視装置200の動作を説明する。図3は、プレヒータ内監視装置200の動作を示すフローチャートである。まず、プレヒータ105内の温度を測定する(S1)。そして、プレヒータ105内の温度を維持するように炉内へ供給する主燃料の量を制御し(S2)、供給された主燃料の量を記録する(S3)。そして、同時に炉内の測定温度を記録する(S4)。
【0036】
次に、記録に基づいて、供給されたエネルギー量の推移が測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する(S5)。そして、算出された応答時間を出力する(S6)。なお、応答時間の算出については後述する。
【0037】
次に、応答時間の変化率の絶対値が所定値より大きいか否かを判定する(S7)。所定値より大きいときには、出力部260により警告を行う。また、算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にする。
【0038】
このようにしてプレヒータ105内のコーチング厚を推定することができ、事前にサイクロン詰まりの防止処理を実行できる。また、リサイクル原燃料R1、R2の供給を含め運転条件を推定でき、コーチング付着の原因を絞りこむことも可能になる。このように、プレヒータ105内の状況把握が容易になるため、従来は安全側で設定していたリサイクル原燃料の使用量制約を緩和することができる。
【0039】
(応答時間の算出例)
セメント製造プラント100の運転に伴い、サイクロン110内部に高温ガスとセメント原料Mが流通すると、次第にサイクロン110内壁面に付着したセメント原料Mが保温材として作用し、付着量が増加するほど、温度計190への熱の伝達時間が増加する。
【0040】
温度、主燃料の供給量の実測データを用いて、コーチング内の熱の伝達時間(応答時間)を算出する。コーチングにより熱が1次遅れで伝達すると仮定し、ステップ応答を1次遅れモデルで近似する。そして、逐次型最小2乗法を用いてオンラインで1次遅れの時定数を演算する。1次遅れモデルにおける時刻tでの応答θ(t)は以下の通りに表される。なお、t0はむだ時間、θ1は時定数(θ(t)がθ2の63.2%に至るまでの時間)を表し、θ2はゲインに相当する。
【数1】

【0041】
この数式により、ゲインを一定にし、コーチング厚が大きい場合と小さい場合とでそれぞれシミュレーションすると異なる時定数が得られる。図4は、1次遅れモデルによるステップ応答のシミュレーション結果を示す図である。図4に示すように、コーチング厚の大きい掃除前の曲線は、時間の経過に対して緩やかに上昇し、時定数が大きくなっている。また、コーチング厚の小さい掃除後の曲線は、時間の経過に対して急激に上昇し、時定数が小さくなっている。このような仮定に基づいて、オンライン推定で1次遅れの時定数を演算する。演算で用いられる数式は以下の通りである。
【数2】

【0042】
Ypは温度の予測値、Yは温度、Uは主燃料供給量を表す。ここではθが遅れ(時定数)を表し、θがゲインを表す。また、tは現在、t−1は現在より1サンプル前、t−2は、2サンプル前を表す(過去の値)。また、delay1は、1サンプル前の応答時間を表す。θ、θは、主燃料供給量以外の温度への影響を及ぼす量を表す。また、eは、以下のように定義される。
【数3】

【0043】
eは、主燃料供給量以外の温度への影響を考慮するために用いる。eを用いるかどうかはプロセスにより、この項を無視してもよい。このようにして得られるY(t)の予測値Yp(t)が実際の値Y(t)に等しくなるようθ(t)を最小二乗法で求める。これにより、容易に妥当な応答時間(時定数)を算出することができる。たとえば、エネルギー供給量の実測値の時系列データから炉内温度の推移を推定し、炉内温度の実測値の時系列データにフィッティングすることで、一次遅れモデルで近似したときの最適な時定数を求めることができる。これにより、作業者は出力された応答時間を監視することができ、炉内壁を覆う層の変化や、炉内の異常の発生を容易に把握することができる。なお、上記の演算は一例であって、演算方法は必ずしもこの方法に限定されない。
【0044】
(実施例1)
上記のように構成されたセメント製造プラント100を運転し、プレヒータ内監視装置200により応答時間を算出する実験を行った。実験の途中で温度計を抜き出し、コーチングを掃除した。この掃除のタイミングは、コーチング厚が比較的小さい状態において行った。図5(a)、(b)は、それぞれ主燃料供給量および温度の推移、算出された応答時間の推移を示すグラフである。図5に示すように、コーチング厚の増加に伴う応答時間の増加が観察された。コーチング厚が小さかったため掃除による影響は小さかったが、その後、320分の時点で応答時間の急激な増加が確認された。このようなコーチングの成長は、特定のリサイクル原燃料の使用量増によるものであり、オペレータがこれに対処したことで、応答時間は減少した。
【0045】
(実施例2)
また、同様の条件で、コーチング厚が大きい場合の応答時間の算出実験を行った。図6(a)、(b)は、それぞれ主燃料供給量および温度の推移、算出された応答時間の推移を示すグラフである。実験によりコーチング厚の増加による応答時間の増加を観察できた。また、コーチング厚が大きい影響で、掃除により一気に応答時間が減少したことが観察できた。
【0046】
なお、以上の実施形態では、セメント製造プラントのプレヒータ内の監視を可能にするが、他の分野においても継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する必要性があれば、本発明を適宜応用できる。たとえば、セメント原料Mは、他の原料であってもよく、主燃料Fは他のエネルギーであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
100 セメント製造プラント
105 プレヒータ
108 原料供給部
110 サイクロン
111 コーン部
112 シュート部
113 排気口
160 仮焼炉
161 リサイクル原燃料供給部
162 主燃料供給部
169 ロータリーキルン入口
170 ロータリーキルン
180 冷却機
190 温度計
200 プレヒータ内監視装置(炉内監視装置)
210 温度測定部
220 供給量制御部
230 供給量記録部
240 温度記録部
250 時間算出部
260 出力部
270 異常判定部
C コーチング
F 主燃料
M セメント原料
R1、R2 リサイクル原燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視装置であって、
炉内の温度を測定する温度測定部と、
前記炉内の温度を維持するように前記炉内へ供給するエネルギー量を制御する供給量制御部と、
前記炉内へ供給されたエネルギー量を記録する供給量記録部と、
前記炉内の測定温度を記録する温度記録部と、
前記供給されたエネルギー量の推移が前記測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する時間算出部と、を備え、
前記算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にすることを特徴とする炉内監視装置。
【請求項2】
前記時間算出部は、前記エネルギーの供給により生じる熱が前記温度測定部に伝達されるステップを一次遅れモデルで近似したときの時定数を、前記応答時間として算出することを特徴とする請求項1記載の炉内監視装置。
【請求項3】
前記応答時間を出力する出力部を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の炉内監視装置。
【請求項4】
前記応答時間の変化率の絶対値が所定値を超えたときに異常と判定する異常判定部を更に備え、
異常の発生を報知可能にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の炉内監視装置。
【請求項5】
前記温度測定部は、継続的にセメント原料が供給されるプレヒータ内の温度を測定し、
前記温度記録部は、前記プレヒータ内の測定温度を記録し、
前記供給量記録部は、前記プレヒータ内にエネルギーとして供給される石炭燃料の量を記録し、
前記時間算出部は、前記記録された石炭燃料の量の推移が前記プレヒータ内の温度の推移として現れるまでの応答時間を算出し、
前記算出された応答時間の変化によりプレヒータ内の状況の推定を可能にすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の炉内監視装置。
【請求項6】
継続的に供給される原料を加熱し次工程に送り出す炉の内部を監視する炉内監視方法であって、
炉内の温度を測定する手順と、
前記炉内の温度を維持するように前記炉内へ供給するエネルギー量を制御する手順と、
前記炉内へ供給されたエネルギー量を記録する手順と、
前記炉内の測定温度を記録する手順と、
前記供給されたエネルギー量の推移が前記測定された温度の推移として現れるまでの応答時間を算出する手順と、を含み、
前記算出された応答時間の変化により炉内状況の推定を可能にすることを特徴とする炉内監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−47421(P2012−47421A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191328(P2010−191328)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】