説明

炭化物ナノ粒子を含む分散硬化体を製造する方法及び装置

炭化物ナノ粒子を含む分散硬化体の製造方法は、溶射法によって分散硬化体を製造する工程を含み、燃焼チャンバの下流に、気体流と反応して炭化物を形成する少なくとも1つの前駆体を有するキャリアガスによって気体流が供給されるか、又は熱的負荷に曝される外部ナノ粒子発生器を介して炭化物ナノ粒子が供給される。それは、例えば、内燃機関用部品(例えばピストンリング)などの分散硬化体の製造を可能にする。本方法は、燃焼チャンバの下流に、溶射粉末を供給するための少なくとも1つの管に加えて、キャリアガスによって前駆体を供給するための少なくとも1つの管をさらに含む溶射装置によって実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化物ナノ粒子を含む分散硬化体を製造するための方法及び装置に関する。さらに、本発明は、本発明による方法で製造される分散硬化体(例えば、内燃機関用部品、好ましくは、ピストンリングなど)に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリング(例えば、往復ピストンを有する内燃機関の一部分など)のために、高い耐磨耗性が確保されなければならない。さもなければ、すなわち低い耐磨耗性の場合には、そのコーティングが、より薄くなるからである。それによって、ピストンリングの壁厚が減少し、密閉作用が悪化し、ガス漏れ及び石油消費が増加し、そしてエンジンの性能が悪化することがある。磨耗を受けるピストンリングのために、シリンダー壁とピストンの間の隙間は、連続的に増加するので、燃焼ガスがピストンリングを通ることによって漏れる(いわゆる吹き抜け)ことが容易になり、それによって、エンジンの有効性を減少させる。さらに、増加した隙間のために、拭き取られていない残留油膜がより厚くなるので、単位時間当たりにより多くの石油が失われることがあり、したがって、石油消費が増加する。
【0003】
今日、ピストンリングの溶射の分野では、好ましくは、モリブデン系材料が、プラズマスプレー法によって使用される。しかし、高負荷エンジンにおけるその磨耗率は高すぎる。
【0004】
高速酸素燃料溶射技術(HVOF)によって、高密着性を有する緻密層が生成する手法によって、低い熱的影響及び高い運動エネルギーを有する粒子を基材上に堆積させる可能性が提供される。さらに、高負荷における向上した耐磨耗性を確保するために、つい最近になって、金属炭化物(例えば、WC又はCrなど)由来の粒子が使用されているが、それらは、20000℃以下の高プラズマ温度で分解するか、又は非常に不安定な相(例えばWCなど)を形成するので、プラズマスプレー法によって噴霧されることができない。前記粒子は、確かにより高い耐磨耗性を提供する;しかし、基材に関して異なっているそれらの物理的性質(例えば、より低い熱膨張係数及びより低い熱伝導度など)、及び異なる機械的性質(例えば、より低い延性、すなわち、より高い脆弱性及びより低い破壊靭性など)のために、それらには欠点がある。これらの欠点は、特に混合摩擦又は不十分な潤滑性の範囲で、エンジン運転中に影響する。これらの状態の間に、摩擦中にさらに導入される熱エネルギーによって、大幅に異なっている熱膨張係数のためにピストンリング層が基材の膨張についていくことのできない弛緩プロセスが起こり、したがって、ひびの網目が発生する。最終的に、この作用は、繰り返し荷重後の故障という結果になる。さらに、合金表面の湿潤のみが起こるが、金属結合が全く得られない金属マトリクス(例えば、NiCr合金など)中に、通常は金属炭化物が導入される。それによって、硬質材料の領域として高い耐磨耗性を提供する金属炭化物(例えば、WC又はCrなど)の密着が、制限される。
【0005】
他の物の中で、材料の強度を増加させるために、分散液硬化が行なわれることができる。この場合に存在する粒子は、機械的荷重中の材料内の転位運動のためのバリアーを形成する。荷重中に発生し、かつ存在する転位が、粒子を切断することはないが、実際には、それらは、粒子間で膨張しなければならない。転位環が形成されるが、それは再び迂回されなければならない。迂回するときに、切断中より高いエネルギー入力が必要である。粒子間隔及び粒径が減少するにつれて、転位の移動のための降伏応力が増加する。したがって、材料強度が同様に増加する。
【0006】
ナノ粒子の形態の炭化物を組み込むことにより、分散液硬化が可能になるであろう。用語「ナノ粒子」とは、本明細書では、1〜200nmの粒径を有する粒子をいう。微結晶性溶射コーティングの製造が、凝集したナノ粒子のみによって以前に行なわれている。ナノ粒子のそのような凝集体は、直径0.1〜100μmに達することができる。1〜2μmより大きい粒径のみによって、標準圧条件下の粒子送達が可能である。気体流中の一方向送達のために、ナノ粒子が、気体分子との衝突によってエネルギーの最小量を吸収しなければならず、かつ粒径が減少するにつれて最大限に吸収されるエネルギーが減少するという事実のために、ナノ粒子は、最小径までしかない一方向の態様で送達されることができる。これは、より低いプロセス圧又は帯電している粒子によって可能になるだけであろう。特に、800nmを下回る粒径では、粒子は気体分子のように挙動する。したがって、凝集した微結晶性粉末が入手可能であるならば、微結晶性HVOF層のみが形成されることができる。したがって、粒子強化は、粉末内で既に行なわれていなければならない。これは、発生したコーティングが、微粒子を含み、そしてナノ粒子から凝集するが、微小分散した個別のナノ粒子は無いという結果になる。ナノ粒子の凝集体を含むコーティングが、例えば、ドイツ特許出願公開第102007018859号明細書、ドイツ特許出願公開第10057953号明細書、米国特許第5,939,146号明細書、米国特許第6,723,387号明細書及び米国特許出願公開第2004/0131865号明細書に記述されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、分散硬化体、特に炭化物ナノ粒子を含むピストンリングの製造を可能にする方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
燃焼チャンバの下流に、少なくとも1つの炭化物ナノ粒子前駆体が、キャリアガスによって気体流に供給され、そのナノ粒子前駆体が気体流中で反応して炭化物を形成する、溶射法による硬化体の製造を含む方法により、本発明によってこの課題が解決される。したがって、本発明によれば、気相由来のナノ粒子による分散液強化が起こり、その際に、ナノ粒子が、気相中で形成され、次にスプレー粉末の微晶質粒子と共に凝固し、その結果、ナノ粒子凝集体のさらなる送達が従来のパラメータによって確実になる。好ましくは、キャリアガスは化学的に不活性な気体を伴う。化学的に不活性な気体が、例えば、希ガス又は窒素を含む。好ましくは、窒素が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
(原文記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましくは、炭化物ナノ粒子前駆体として、遷移金属ハロゲン化物が使用される。安価な遷移金属塩化物(例えば、WClなど)が特に好ましい。また、Si、V、W又はチタンなどの元素が使用されることができて、それは、外部反応器内で気化して、それぞれの炭化物を形成するためにCを含む大気中で反応する。
【0011】
溶射装置又は熱的負荷を受ける外部ナノ粒子発生器(例えば、管状炉)内の熱エネルギーが、前駆体材料又は基本的材料を組織的に分解し、したがって、気相内のナノ粒子として好ましい材料を得るために利用される。溶射法としては、高速酸素燃料溶射(HVOF)が好ましい。外部ナノ粒子発生器の使用が、ナノ粒子強化層装置の製造と、それによる部品(例えば、ピストンリングなど)の製造を可能にする。
【0012】
また、炭化物ナノ粒子前駆体のさらなる気体との化学反応が起こることがある。これは、燃料ガス、又はキャリアガスに追加される気体を伴うことがある。気体炭化水素(例えば、メタンなど)が、炭素源として適切である。還元剤としては、例えば、水素が加えられることができる。典型的な反応は、下記式1:
WCl+CH+H→WC+6HCl (1)
で示される。
【0013】
しかし、2個の炭素電極間のアークによって、外部反応器内の金属(例えば、タングステン、チタン、又はバナジウム)を気化することも可能であり、WCが発生するであろう。
【0014】
さらに、本発明は、炭化物ナノ粒子を含み、かつ本発明による方法に従って製造される分散硬化体に関する。前記硬化体は、好ましくは、内燃機関用部品、特に好ましくは、ピストンリングを包含する。
【0015】
最終的に、本発明は、本発明による方法を実施するための装置に関する。前記装置は、燃焼チャンバの下流に、溶射粉末を供給するための少なくとも1つの管に加えて、キャリアガスによって、炭化物ナノ粒子前駆体又は外部反応器により製造されたナノ粒子を供給するための少なくとも1つの管をさらに含む、溶射装置を含む。好ましくは、キャリアガスにより炭化物ナノ粒子前駆体を供給するための管は、溶射ジェットの高温に耐えることができるグラファイトから形成されている。特に好ましくは、本装置は、高速酸素燃料溶射(HVOF)のための装置を含む。
【0016】
図1には、溶射及び外部ナノ粒子発生器によりナノ粒子強化層を製造するためのスキーム図が示される。HVOF溶射によるナノ粒子強化層装置の製造は、例えば、制御された態様で材料が気化される外部反応器(1)内にナノ粒子を提供することにより可能である(図1参照)。この態様で発生したナノ粒子は、粒子形状を具体的に決めるために気体流中で第二の炉(2)内で焼結され、それがスプレーガン(4)中に供給される少し前に、気体流中の微粒子と凝集する。キャリアガスによってナノ粒子が送達されることができる管は、例えばT型コネクタによって、微粒子が送達される管と単純な態様で接続されることができる。(3)は粉末コンベヤーを示す。得られた基材は、(5)によって示される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射法により分散硬化体を製造する工程を含む、ナノ粒子を含む分散硬化体、特にピストンリングの製造方法であって、気体流と反応して炭化物を形成するか、又は炭化物の形態で既に供給されている、少なくとも1つの炭化物ナノ粒子前駆体又は外部で製造されたナノ粒子を有するキャリアガスによって、燃焼チャンバの下流に、気体流を供給することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
炭化物ナノ粒子前駆体が、遷移金属ハロゲン化物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化物ナノ粒子前駆体が、遷移金属塩化物を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
炭化物ナノ粒子前駆体が、WClを含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
熱的に作動している外部反応器から製造される炭化物ナノ粒子をスプレーチャンバ中に供給することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
熱的に作動している外部反応器から製造される炭化物ナノ粒子が、SiC、TiC、WC又はVCから成ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶射法が、高速酸素燃料溶射(HVOF)を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
キャリアガスが、炭化水素を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
炭化水素が、メタンを含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
キャリアガスが、水素を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により製造される、炭化物ナノ粒子を含む分散硬化体。
【請求項12】
内燃機関用部品を含むことを特徴とする、請求項11に記載の分散硬化体。
【請求項13】
ピストンリングを含むことを特徴とする、請求項11に記載の分散硬化体。
【請求項14】
燃焼チャンバの下流に、溶射粉末を供給するための少なくとも1つの管に加えて、キャリアガスによって炭化物ナノ粒子前駆体を供給するための少なくとも1つの管をさらに含む、溶射装置を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法を行なうための装置。
【請求項15】
前記キャリアガスによって炭化物ナノ粒子前駆体を供給するための少なくとも1つの管が、グラファイトから形成されていることを特徴とする、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
キャリアガスによって、外部で製造された炭化物ナノ粒子を供給するために、少なくとも1つの管を備えていることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
高速酸素燃料溶射(HVOF)のための装置を含むことを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の装置。

【公表番号】特表2011−521175(P2011−521175A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500056(P2011−500056)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000325
【国際公開番号】WO2009/115156
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(398071439)フェデラル−モーグル ブルシャイト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (28)
【Fターム(参考)】