説明

炭化珪素基板、半導体装置及び配線基板

【課題】電子素子等のデバイスを実装するには、炭化珪素基板の高周波損失が大きく、実際には電子素子を炭化珪素基板に実装できなかった。
【解決手段】20GHzにおける高周波損失が2.0dB/mm以下の炭化珪素基板であれば、電子素子を実装して十分に動作させることができることを見出し、2.0dB/mm以上の高周波損失特性を有する炭化珪素基板を2000℃以上で加熱する。この熱処理により20GHzにおける高周波損失を2.0dB/mm以下にすることができた。また、ヒーターに窒素を流さないで、CVDにより炭化珪素基板を作製することによって高周波損失を2.0dB/mm以下にすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)基板、当該炭化珪素基板を含む半導体装置、及び配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭化珪素基板は、酸やアルカリ等の薬品に対する耐食性に優れているため、例えば、特許文献1に示されているように、CMP(化学機械研磨)に用いられる研磨パッドを処理、調整するのに使用されている。
【0003】
一方、炭化珪素基板は、特許文献2に示されているように、シリコン基板等に比較して割れ難く、且つ、熱伝導が高いため、SOI(Semiconductor On Insulator)用基板として用いることが企図されている。この場合、SOI基板の基体材料として炭化珪素を用い、当該炭化珪素基体上に絶縁膜を介してシリコン基板が形成される場合がある。即ち、SOI基板では、支持部材として炭化珪素を用い、半導体素子を形成する素子形成領域としてシリコンが使用されることが多い。
【0004】
また、特許文献3のように、炭化珪素を含むセラミックスによって、低損失の高周波用配線基板を形成することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−95637号公報
【特許文献2】特願2007−184896号
【特許文献3】特開2000−228461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2及び3に記載されたように、炭化珪素基板を支持基板、配線基板として使用するだけでなく、最近では炭化珪素基板に、半導体装置等、各種の電子素子を搭載すること、或いは、炭化珪素基板内に電子素子を形成することも考慮されている。このように、炭化珪素基板に対して直接、電子素子が取り付けられるようになると、今迄提案されてきた炭化珪素基板をそのまま使用することは出来ない。
【0007】
例えば、GHz帯域のように高周波帯域で使用される電子素子に用いられる炭化珪素基板では、高周波における損失が小さいものが要求される。しかしながら、従来提案されている炭化珪素基板は、高周波損失が大きい等、電気的特性が不十分であるため、電子素子を実際に実装した炭化珪素基板の例について提案されていないのが実情である。
【0008】
本発明の目的は、高周波損失の小さい炭化珪素基板を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、高周波損失の小さい炭化珪素基板を含む半導体装置、配線基板等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、周波数20GHzにおける損失が2dB/mm以下であることを特徴とする炭化珪素基板が得られる。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様において、多結晶炭化珪素によって形成されていることを特徴とする炭化珪素基板が得られる。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、周波数20GHzにおける損失が2dB/mm以下の多結晶炭化珪素によって形成された基板を含むことを特徴とする半導体装置が得られる。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、周波数20GHzにおける損失が2dB/mm以下の多結晶炭化珪素によって形成された炭化珪素基板を含むことを特徴とする配線基板が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、20GHzにおける高周波損失を2dB/mm以下まで低減した炭化珪素基板が得られる。更に、通常の製法によって得られた炭化珪素基板を2000℃以上に加熱することにより、高周波損失を2dB/mm以下まで低下させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)、(b)、(c)、及び(d)は本発明に係るSiC基板を作製するのに用いられる予備SiC基板の製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係るSiC基板を製造する際に使用される熱処理炉を説明する図である。
【図3】図2に示された熱処理炉における熱処理工程を示す図である。
【図4】図2及び図3に示された熱処理工程で得られたSiC基板の高周波損失特性を示すグラフである。
【図5】図2及び図3に示された熱処理工程で得られた他のSiC基板の高周波損失特性を示すグラフである。
【図6】SiC基板の高周波損失特性を測定する測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1を参照して、本発明に係る炭化珪素(SiC)基板を製造する際に用いられる前処理段階の炭化珪素基板(予備炭化珪素基板と呼ぶ)の製造方法について説明する。
【0018】
まず、図1(a)に示すように、黒鉛基材10を用意する。ここでは、作製するSiC基板の寸法に合わせた高純度黒鉛からなる所定寸法の円板状黒鉛基材を用意した。その後、当該円板状黒鉛基材10をCVD装置に導入し、図1(b)のように、CVDにより黒鉛基材10の上面、下面、及び周面に炭化珪素12を所定の厚さ成長させる。成長した炭化珪素12は3C−SiC結晶構造を有していた。具体的に説明すると、CVD装置として、反応部とヒーター部を備えたCVD炉を使用し、ヒーター部にガス(例えば、窒素ガス)を流せるものを使用した。円板状黒鉛基材10は上記CVD装置内で、水素雰囲気で所定の温度(例えば、1000〜1600℃)で加熱、保持することによって炭化珪素12を成長させた。
【0019】
尚、CVD装置内の圧力は、例えば、1.3kPaであった。この状態で、キャリアガスである水素ガス(H2)とともに、SiCの原料となるSiCl4、C3H8などを体積%で5〜20%供給する。SiCの原料の組み合わせとしてはSiH4/CH4, SiH4/C2H4, SiH4/C3H8, SiCl4/CCl4, SiCl4/CH4, CH3SiCl3, (CH3)2SiCl2でもよい。これらのガスを供給することにより、黒鉛基材10の表面にSiCの層である3C−SiC結晶体12が所望の厚さ(例えば、0.5〜1mm)だけ成膜された。
【0020】
ここでは、ヒーターの消耗を防ぐために流していた窒素を流さないで製作したSiC基板と、窒素を流した状態で製作したSiC基板の2種類のSiC基板を作製した。
【0021】
次に、3C−SiC結晶を成長させた黒鉛基材10を機械研磨して、図1(c)に示すように、周面のSiCを研削して除去した。機械研磨は、例えばダイヤモンド砥粒を用いて行った。
【0022】
続いて、上面及び下面を3C−SiCで覆われた黒鉛基材10を酸素雰囲気で900〜1400℃で加熱することにより、黒鉛基材10を燃焼させて脱離することにより除去し、これによって、2枚の3C−SiC基板14を得た(図1(d))。
【0023】
以下、3C−SiC基板14を機械研磨し、最後にウエハエッジ部分の面取り加工、洗浄を行なった後に所定の検査を行なって、高純度のSiC基板を作製した。このようにして得られた3C−SiC基板は、SiC結晶のポリタイプの1つである3C−SiC結晶(多結晶SiC)によって形成されていた。なお、本例では、3C−SiCのSiC基板の例について説明したが、本発明の高周波用途のSiC基板のポリタイプは、例えば4H−SiCであってもよく、炭化珪素(SiC)の多結晶構造には特に限定されない。ここでは、CVD等により作製されたSiC基板を予備炭化珪素(SiC)基板と呼ぶものとする。
【0024】
図2を参照して、図1(d)によって得られた炭化珪素基板(予備炭化珪素(SiC)基板)14の高周波損失改善の方法について説明する。予備炭化珪素基板14の高周波損失の改善は、図2に示された熱処理炉内で熱処理することによって可能であることが判明した。
【0025】
図2に示された熱処理炉は、ステンレス製の炉体20を有し、炉内は、熱処理部(反応部)21とヒーター部22とを備え、熱処理部21とヒーター部22とは黒鉛部材あるいは炭化珪素もしくはこれらを含む材料によって覆われた隔壁24によって区分されている。また、炉内の熱処理部21内には、アルゴンやヘリウム等の希ガスと窒素を選択的に流すことができ、真空ポンプにより炉内を真空に引くことができる。
【0026】
熱処理方法としては、まず、予備SiC基板14(黒鉛基材を除去していない黒鉛基材付きSiC12でも良い)を準備し、炉20内の反応部21にセットする。セットする際、黒鉛製の治具を用いてセットすることが望ましいが、予備SiC基板14を直接積み重ねてセットしてもよい。SiC基板14をセットした後、図3に示す熱処理が行われる。この例では、CVD装置でSiCを成長する際に、ヒーター部に窒素を流さないで製作した予備SiC基板(A基板と呼ぶ)と窒素を流した状態で製作した予備SiC基板(B基板と呼ぶ)とを用意し、両者に、図2に示した熱処理炉を用いた熱処理を施した。
【0027】
図3に示すように、まず、予備SiC基板14をセットした後、炉内を−90kPaまで減圧して、その後、炉内雰囲気を窒素に置換する。これを2回繰り返す。この工程は炉内の空気を窒素に置換するためである。この置換工程は2回以上行っても良い。また、窒素の他にアルゴンやヘリウム等の希ガスを用いてもよい。炉内の空気を窒素に置換した後、800℃まで窒素雰囲気にて昇温する。800℃に達すると、炉内の雰囲気を窒素雰囲気からアルゴン雰囲気に置換する。この置換には約30分程度要する。800℃までは熱電対を用いて温度の測定を行う。
【0028】
続いて、アルゴン雰囲気で、800℃から処理温度(2000℃〜2300℃)まで昇温し、この熱処理温度に約1時間保持する。800℃から処理温度(2000℃〜2300℃)までについては、1700℃以上の温度を熱電対で測定できないため、放射温度計を用いて温度測定を行う。本熱処理炉では熱電対と放射温度計を用いたが、他に測定できる測定装置があればそれを用いてもよい。尚、実験によれば、熱処理温度は2300℃のように、高い熱処理温度が好ましいことが判明した。実験では処理時間を1時間としたが、処理時間については高周波損失が小さくなるように時間を調整すればよい。
【0029】
熱処理後、20時間程度で室温まで降温する。熱処理後のSiC基板の表面を研磨、洗浄し、本発明に係る炭化珪素(SiC)基板が得られる。
【0030】
図4を参照すると、A基板を熱処理することによって得られたSiC基板の高周波損失特性が示されている。図4では、横軸にGHz帯域の周波数、縦軸に高周波損失(RF−loss(dB/mm))が示されている。図4の曲線C1からも明らかな通り、熱処理をしない未熱処理基板でも、CVD装置内で窒素ガスを流さなかったSiC基板(即ち、A基板)は20GHzにおける高周波損失が1.4dB/mmと極めて低いことが判る。
【0031】
本発明者等の知見によれば、20GHzにおいて2.0dB/mm以下の高周波損失を示すSiC基板は、電子素子を実装するのに実用上問題がないことが判明した。したがって、窒素ガスを流さないで製作されたSiC基板は、十分な高周波損失特性を有していることが判る。
【0032】
更に、上記した未熱処理A基板に対して、2000℃、2150℃、及び2300℃で図3の熱処理を施したSiC基板の高周波損失特性がそれぞれ曲線C2、C3、及びC4で示されている。曲線2〜C4を比較しても明らかな通り、熱処理を施すことによって未熱処理SiC基板よりも高周波損失を低下させることができ、且つ、熱処理温度が高い程、高周波損失は低下することが判る。
【0033】
実際、2300℃で熱処理したSiC基板は20GHzにおける高周波損失が1dB/mmよりも低いのに対し、2000℃及び2150℃で熱処理したSiC基板の20GHzにおける高周波損失は約1dB/mm程度である。更に、2000℃及び2150℃で熱処理したSiC基板の40GHzにおける高周波損失は約2dB/mm程度であり、他方、2300℃で熱処理したSiC基板は40GHzにおける高周波損失が1.5dB/mm程度である。
【0034】
上記したように、2000℃以上の熱処理を受けたSiC基板は40GHzにおける高周波損失の点でも十分使用に耐えることが分かる。
【0035】
図5を参照すると、B基板を熱処理した場合の高周波損失特性が示されている。図5からも明らかな通り、未熱処理状態のB基板の高周波損失特性、2000℃の熱処理を受けたSiC基板の高周波損失特性、及び、2300℃の熱処理を受けたSiC基板の高周波損失特性がそれぞれ曲線C5、C6、及びC7で示されている。
【0036】
曲線C5からも明らかな通り、未熱処理のB基板は、20GHzにおいて約2.5dB/mmの高周波損失を示していることから、電子素子等の実装には不十分である。しかしながら、B基板を2000℃及び2300℃で熱処理して得られたSiC基板は、曲線C6及び曲線C7に示すように、20GHzにおける高周波損失が2.0dB/mm以下であるから、電子素子実装用の基板として使用できる。
【0037】
次に、図4及び図5に示された高周波損失(dB/mm)の測定方法について説明しておく。
【0038】
図6を参照すると、高周波損失測定用の配線図が示されている。図示されているように、SiC基板14の表面中央部に、線幅Sの信号導体線30が配置されており、当該信号導体線30の両側に、間隔Wを置いてグランド導体線32が配置されている。ここでは、信号導体線30とグランド導体線32との間の間隔W及び信号導体線幅Sを変化させることにより、特性インピーダンス50Ωとなるように調整されている。この場合、信号導体線30の長さは1mmとしている。
【0039】
信号導体線30、グランド導体線32は、SiC基板14上に蒸着法によりAlを1μm程度蒸着し、フォトレジストにて信号導体線30とグランド導体線32からなるコプレナー線路パターンを形成している。この例では、信号導体線30とグランド導体線32はいずれも蒸着法により形成されたものであるが、蒸着法以外にスパッタリング法、CVD法やメッキ法等を使用して導体線30、32を形成してもよい。更に、図示された例では、導体線30、32として、Alを用いたが、Cu、Au等の金属を用いてもよい。
【0040】
導体線30、32の一方の端子から信号を入射して、他方の端子に透過してきた信号を、ネットワークアナライザーを用いて測定した。この場合、信号周波数が10MHzから50GHzまでの伝送特性を測定した。
【0041】
図4及び図5に示された測定結果には、1、5、10、20、30、40GHzの信号における信号通過特性の動作伝送行列(S21)の値がdB/mmとして示されている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明した実施形態では、電子素子を搭載、実装するSiC基板について説明したが、本発明に係るSiC基板は、これに限定されることなく、配線基板用、研磨パッド調整用、或いはSOIの支持基板としても使用できる。電子素子を搭載、実装するSiC基板としては、例えばSiC基板の上にSi層やその他の半導体層を形成し、この半導体層を電子素子の少なくとも一部としたものがある。あるいは、別に作成した電子素子をSiC基板上に搭載したものがある。またSOIの支持基板としては、例えば、SiC基板の上に絶縁物層を設けその上にSi等の半導体層を設けたSOI構成がある。配線基板としては、SiC基板の表面上に直接または他の絶縁物層を介して所定パターンの配線層を設けた構造のものが例示される。
【符号の説明】
【0043】
10 黒鉛基材
12 SiC
14 SiC基板
20 熱処理炉の炉体
22 ヒーター
24 黒鉛部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法による多結晶炭化珪素によって構成され、信号通過特性の動作伝送行列(S21)で表される周波数20GHzにおける伝送損失が2dB/mm以下になるように熱処理されたものであることを特徴とする炭化珪素基板。
【請求項2】
信号通過特性の動作伝送行列(S21)で表される周波数20GHzにおける伝送損失が2dB/mm以下になるように熱処理された、CVD法による多結晶炭化珪素の基板と、当該基板上に形成された半導体層又は電子素子を含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
信号通過特性の動作伝送行列(S21)で表される周波数20GHzにおける伝送損失が2dB/mm以下になるように熱処理された、CVD法による多結晶炭化珪素の基板と、当該基板上に形成された絶縁物層と、当該絶縁物層上に設けられた半導体層又は電子素子を含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
信号通過特性の動作伝送行列(S21)で表される周波数20GHzにおける伝送損失が2dB/mm以下になるように熱処理された、CVD法による多結晶炭化珪素によって形成された炭化珪素基板を含んでいることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80936(P2013−80936A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256337(P2012−256337)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2008−108815(P2008−108815)の分割
【原出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】