炭化珪素基板の製造方法および製造装置
【課題】効率よく炭化珪素基板を製造することができる炭化珪素基板の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】積層体TXを準備する工程が、第1の単結晶基板群10aの各々と第1のベース基板30aとが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群10bの各々と第2のベース基板30bとが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群10aと第1のベース基板30aと挿入部60Xと第2の単結晶基板群10bと第2のベース基板30bとが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われる。次に、積層体TXの温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体TX中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体TXが加熱される。
【解決手段】積層体TXを準備する工程が、第1の単結晶基板群10aの各々と第1のベース基板30aとが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群10bの各々と第2のベース基板30bとが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群10aと第1のベース基板30aと挿入部60Xと第2の単結晶基板群10bと第2のベース基板30bとが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われる。次に、積層体TXの温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体TX中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体TXが加熱される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。米国特許第7314520号明細書(特許文献1)によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、このため大型の基板を用いて半導体装置を効率よく製造することができないという問題がある。特に六方晶系の炭化珪素において、(0001)面以外の面の特性が利用される場合、上記の問題が特に深刻となる。このことについて、以下に説明する。
【0006】
欠陥の少ない炭化珪素基板は、通常、積層欠陥の生じにくい(0001)面成長で得られた炭化珪素インゴットから切り出されることで製造される。このため(0001)面以外の面方位を有する炭化珪素基板は、成長面に対して非平行に切り出されることになる。このため基板の大きさを十分確保することが困難であったり、インゴットの多くの部分が有効に利用できなかったりする。このため、炭化珪素の(0001)面以外の面を利用した半導体装置は、効率よく製造することが特に困難である。
【0007】
上記のように困難をともなう炭化珪素基板の大型化に代わって、単結晶基板群と、その各々に接合されたベース基板とを有する炭化珪素基板を用いることが考えられる。ベース基板は結晶欠陥密度が高くても差し支えないことが多く、よって大型のものを比較的容易に準備することができる。そして単結晶基板群が有する単結晶基板の数を増やすことで、必要に応じて炭化珪素基板を大きくすることができる。
【0008】
本発明者らは、単結晶基板群の各々とベース基板とを接合する方法として、ベース基板から発生させた昇華ガスを単結晶基板群の各々の上で再結晶させる方法を用いることができることを見出した。しかしながら、このような方法を用いて炭化珪素基板を製造するに際して、複数の炭化珪素基板を効率よく製造するための方法はこれまで十分に検討されていなかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率よく炭化珪素基板を製造することができる炭化珪素基板の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を有する。炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体が準備される。積層体を準備する工程は、第1の単結晶基板群の各々と第1のベース基板とが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群の各々と第2のベース基板とが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群と第1のベース基板と挿入部と第2の単結晶基板群と第2のベース基板とが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われる。次に、積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体が加熱される。
【0011】
本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、単結晶基板群およびベース基板の複数組が積層された状態で加熱されることで、複数の炭化珪素基板が同時に製造される。また加熱前に第1のベース基板と第2の単結晶基板群との間に挿入部が配置されることで、異なる炭化珪素基板の間で接合が生じてしまうことが防止される。これにより、効率よく炭化珪素基板を製造することができる。
【0012】
好ましくは温度勾配は0.1℃/mm以上20℃/mm以下である。温度勾配が0.1℃/mm以上とされることによって、ベース基板と単結晶基板群との間の接合をより確実に進行させることができる。また温度勾配が20℃以下とされることによって、加熱のための装置をより簡易なものとすることができる。
【0013】
好ましくは挿入部は、第2の単結晶基板群の全体と第1のベース基板との間を隔てる仕切部材を含む。これにより、異なる炭化珪素基板の間で望ましくない接合が生じてしまうことがより確実に防止される。より好ましくは、仕切部材は、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている。これにより、上記加熱に耐え得る耐熱性を仕切部材に付与することができる。また仕切部材の炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0014】
好ましくは挿入部は、第2の単結晶基板群の各々の、第2のベース基板と対向することになる面と反対の面の上に形成された保護膜を含む。これにより加熱の際に第2の単結晶基板群の表面が保護される。より好ましくは保護膜は、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む。これにより、上記加熱に耐え得る耐熱性を保護膜に付与することができる。また保護膜の炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0015】
本発明の炭化珪素基板の製造装置は容器および加熱部を有する。容器は、炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を収めるためのものである。積層体は、第1の単結晶基板群の各々と第1のベース基板とが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群の各々と第2のベース基板とが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群と第1のベース基板と挿入部と第2の単結晶基板群と第2のベース基板とが一の方向に向かって積み重なるように構成される。加熱部は、積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体を加熱するためのものである。
【0016】
なお上記における「第1および第2の」との文言の使用は、「第1および第2の」ものに加えてさらに1つ以上のものを用いる形態を除外することを意味するものではない。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、効率よく炭化珪素基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の一工程を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図9】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1および図2に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板81は、炭化珪素から作られたベース基板30と、炭化珪素から作られた単結晶基板群10とを有する。単結晶基板群10は単結晶基板11〜19を有する。
【0020】
単結晶基板11〜19の各々は、互いに対向する裏面および表面と、この裏面および表面をつなぐ側面とを有する。たとえば、単結晶基板11は、互いに対向する裏面B1および表面F1と、裏面B1および表面F1をつなぐ側面S1とを有し、単結晶基板12は、互いに対向する裏面B2および表面F2と、裏面B2および表面F2をつなぐ側面S2とを有する。
【0021】
ベース基板30は、互いに対向する主面P1および主面P2を有する。単結晶基板11〜19の各々はベース基板30上に配置されている。具体的には、単結晶基板11〜19の各々の裏面(裏面B1、B2など)はベース基板30の主面P1に接合されている。また単結晶基板11〜19のうち隣り合うものの間には隙間GPが形成されている。よって、たとえば側面S1およびS2は、隙間GPを介して互いに対向している。なお隙間GPが単結晶基板11〜19の間を完全に分離する必要はなく、たとえば側面S1の一部と側面S2の一部とが互いに接触していてもよい。
【0022】
上記のように、ベース基板30の主面P1は、単結晶基板11〜19の裏面(裏面B1、B2など)を互いにつないでおり、これにより単結晶基板11〜19は互いに固定されている。単結晶基板11〜19のそれぞれは同一平面上において露出した表面(表面F1、F2など)を有し、これにより炭化珪素基板81は、単結晶基板11〜19の各々に比して大きな表面を有する。よって単結晶基板11〜19の各々を単独で用いる場合に比して、炭化珪素基板81を用いる場合の方が、半導体装置をより効率よく製造することができる。
【0023】
次に、複数の炭化珪素基板81の製造方法について説明する。本実施の形態においては3つの炭化珪素基板81が同時に製造される場合について例示する。
【0024】
まず、複数の炭化珪素基板81の各々の材料として、3つのベース基板30と、3組の単結晶基板群10とが準備される。単結晶基板群10の各々は、たとえば、六方晶系における(0001)面で成長したSiCインゴットを(0−33−8)面に沿って切断することによって準備される。この場合、好ましくは、(0−33−8)面側が表面として用いられ、(03−38)面側が裏面として用いられる。単結晶基板群10の各々の厚さは、たとえば400μmである。ベース基板30の厚さは、たとえば400μmである。
【0025】
図3を参照して、単結晶基板11〜19(図3においては単結晶基板11のみを示す)の各々の表面(単結晶基板11の場合は表面F1)の上に保護膜60fが形成される。保護膜60fは、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られる。具体的には、保護膜60fは、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む。有機膜を炭化することによって形成された膜は、有機物を含む流動体の塗布および炭化によって容易に形成することができる。このような流動体としては、たとえばフォトレジストまたはカーボン接着剤がある。
【0026】
図4を参照して、加熱装置が準備される。加熱装置は、断熱容器40と、第1および第2の加熱体91、92、ヒータ50、およびヒータ電源150から構成される加熱部とを有する。断熱容器40は、断熱性の高い材料から形成されている。ヒータ50は、たとえば電気抵抗ヒータである。第1および第2の加熱体91、92は、ヒータ50からの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、ベース基板30および単結晶基板群10を加熱する機能を有する。第1および第2の加熱体91、92は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0027】
次に第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cと、第1〜第3のベース基板30a〜30cと、挿入部60Xとを含む積層体TXが準備される。ここで第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cおよび第1〜第3のベース基板30a〜30cのそれぞれは、上記説明における3つの単結晶基板群10および3つのベース基板30に対応する。また挿入部60Xは、単結晶基板11〜19の各々の上に形成された保護膜60fと、仕切部材60pとを含む部分のことをいう。
【0028】
仕切部材60pは、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られており、好ましくは、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている。仕切部材60pの厚さは、好ましくは100nm〜10mmである。仕切部材60pとしては、たとえば、厚さ1mm程度の炭素板、または、炭素を主成分として含む厚さ0.2mm〜1mmの可とう性膜を用いることができる。
【0029】
積層体TXを準備する工程は具体的には、第1の単結晶基板群10aの各々の裏面と第1のベース基板30aとが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群10bの各々の裏面と第2のベース基板とが互いに対向し、第3の単結晶基板群10cの各々の裏面と第3のベース基板30cとが互いに対向するように行われる。第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cの各々が有する単結晶基板11〜19は、たとえば図1に示すように、マトリックス状に配置される。
【0030】
またこの工程は、第1の単結晶基板群10aと、第1のベース基板30aと、第1の挿入部60Xと、第2の単結晶基板群10bと、第2のベース基板30bと、第2の挿入部60Xと、第3の単結晶基板群10cと、第3のベース基板30cとが、一の方向(図4の上方向)に向かって積み重なるように行われる。第1の挿入部60Xは第2の単結晶基板群10bの全体と第1のベース基板30aとの間を隔てるように配置され、第2の挿入部60Xは第3の単結晶基板群10cの全体と第2のベース基板30bとの間を隔てるように配置される。
【0031】
この積層体TXは、第1の加熱体91上に載置され、またこの積層体TX上に第2の加熱体92が載置される。これにより積層体TXは第1および第2の加熱体91、92に挟まれる。次に第1および第2の加熱体91、92に挟まれた積層体TXが断熱容器40内に収められる。この際、第2の加熱体92は第1の加熱体91に比してヒータ50の近くに配置されることが好ましい。
【0032】
次に断熱容器40内の雰囲気が、大気雰囲気の減圧によって得られた雰囲気、または不活性ガス雰囲気とされる。不活性ガスとしては、たとえば、He、Arなどの希ガス、窒素ガス、または希ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いることができる。断熱容器40内の圧力は、たとえば0.01〜104Paとされる。
【0033】
次にヒータ50によって、第1および第2の加熱体91、92のそれぞれを介して、積層体TXが加熱される。この加熱は、積層体TXが、炭化珪素が昇華し得る温度、たとえば1800℃以上2500℃以下の温度、より好ましくは2000℃以上2300℃以下の温度に達するように行われる。加熱時間は、たとえば1〜24時間とされる。
【0034】
またこの加熱は、積層体TX中において上記一の方向(図4の上方向)に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように行われる。このような温度勾配は、たとえば、ヒータ50が第1の加熱体91に比して第2の加熱体92の近くに位置することによって得られる。またこの温度勾配は、好ましくは0.1℃/mm以上20℃/mm以下である。
【0035】
さらに図5を参照して、上記の加熱が開始される段階では、第1〜第3のベース基板30a〜30cのそれぞれは第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cの上に載置されているだけであって接合はされていない。このため第2の単結晶基板群10bの裏面(裏面B1、B2など)の各々と、第2のベース基板30bの主面P1との間には、ミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図5における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmである。
【0036】
空隙GQにおいては、前述した温度勾配によって、昇華および再結晶化による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、第2のベース基板30bから炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスは第2の単結晶基板群10bの各々の裏面上で再結晶化する。つまり空隙GQにおいて図中矢印Mcに示すように第2のベース基板30bから第2の単結晶基板群10bの各々への物質移動が生じる。この物質移動によって、第2のベース基板30bが第2の単結晶基板群10bの各々に接合される。
【0037】
また第2の単結晶基板群10bの各々の間の隙間GPにおいても、前述した温度勾配によって、昇華および再結晶化による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、第2のベース基板30bから炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスは、図中矢印Mbに示すように第2のベース基板30bから隙間GPに向かう。この昇華ガスの進行は、仕切部材60pによって遮られるので、仕切部材60pを越えて位置する第1のベース基板30a(図4)には達しない。よってこの昇華ガスに起因して第2の単結晶基板群10bと第1のベース基板30aとが互いに付着してしまうこと、すなわち、異なる炭化珪素基板81が接合されてしまうことが防止される。
【0038】
なお図5においては第2の単結晶基板群10bと第2のベース基板30bとの接合について説明したが、第1の単結晶基板群10aと第1のベース基板30aとの接合、および第3の単結晶基板群10cと第3のベース基板30cとの接合も同様に行われる。
【0039】
次に断熱容器40から積層体TXが取り出される。次に仕切部材60pが除かれる。仕切部材60pは引き剥がされることによって容易に除去することができる。次に保護膜60fが除去される。保護膜60fの除去は、たとえば研磨またはエッチングによって行われる。以上により複数の炭化珪素基板81(図1および図2)が同時に製造される。
【0040】
本実施の形態の炭化珪素基板81(図2)の製造方法によれば、単結晶基板群10およびベース基板30の複数組を有する積層体TXが加熱されることで(図4)、複数の炭化珪素基板81が同時に製造される。また加熱前に第1のベース基板30aと第2の単結晶基板群10bとの間に挿入部60Xが配置されることで、異なる炭化珪素基板81の間で望ましくない接合が生じてしまうことが防止される。これにより、効率よく炭化珪素基板81を製造することができる。
【0041】
また単結晶基板群10の各々の表面は、上記加熱の際に、保護膜60fによって保護されている。これにより、単結晶基板群10の表面が昇華したり他の物質と反応したりすることが防止される。よって得られる炭化珪素基板81の表面の品質を高めることができる。また保護膜60fが、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む場合、上記加熱に耐え得る耐熱性を保護膜60fに付与することができる。また保護膜60fの炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0042】
また仕切部材60pが、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている場合、上記加熱に耐え得る耐熱性を仕切部材60pに付与することができる。また仕切部材60pの炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0043】
また上記加熱の温度勾配が0.1℃/mm以上とされる場合、ベース基板と単結晶基板群との間の接合をより確実に進行させることができる。また温度勾配が20℃以下とされる場合、加熱のための装置をより簡易なものとすることができる。
【0044】
また仕切部材60pの厚さが100nm以上とされる場合、仕切部材60pのポーラスな部分を昇華ガスが透過してしまうことが防止される。またこの厚さが10mm以下とされる場合、断熱容器40内の空間をより有効に使用することができる。
【0045】
好ましくは、ベース基板30の不純物濃度は、単結晶基板群10の各々の不純物濃度よりも高くされる。すなわち相対的に、ベース基板30の不純物濃度は高く、また単結晶基板群10の不純物濃度は低くされる。ベース基板30の不純物濃度が高いことによってベース基板30の抵抗率を小さくすることができるので、炭化珪素基板81を流れる電流に対する抵抗が低減される。また単結晶基板群10の不純物濃度が低いことによって、その結晶欠陥をより容易に低減することができる。なお不純物としては、たとえば窒素またはリンを用いることができる。
【0046】
単結晶基板群10の各単結晶基板の炭化珪素の結晶構造は六方晶系であることが好ましく、4H型または6H型であることがより好ましい。また好ましくは、単結晶基板の(000−1)面に対する表面(表面F1など)のオフ角は50°以上65°以下である。より好ましくは、表面のオフ方位と単結晶基板の<1−100>方向とのなす角は5°以下である。さらに好ましくは、単結晶基板の<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面のオフ角は−3°以上5°以下である。このような結晶構造が用いられることによって、炭化珪素基板81を用いた半導体装置のチャネル移動度を高くすることができる。なお「<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面のオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る射影面への表面の法線の正射影と、(0−33−8}面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。また表面の好ましいオフ方位として、上記以外に、単結晶基板11の<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようなオフ方位を用いることもできる。
【0047】
なお本実施の形態においては、単結晶基板群10およびベース基板30の3組によって3つの炭化珪素基板81が同時に製造される場合について説明したが、積層体TXが適切な温度まで加熱され、かつ積層体TXの温度勾配が適切とされれば、この組数は2つ以上の任意の数であり得る。たとえば、2組、30組および50組の場合についての実験では、すべての組においてベース基板30と単結晶基板群10とが接合されることが確認された。
【0048】
また単結晶基板群10の表面と仕切部材60pの面とが共に高い平坦性を有する場合は、両者を密着させることによって単結晶基板群10の表面を保護することができるので、保護膜60fの形成が省略されてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
主に図6を参照して、本実施の形態においては積層体TX(図4:実施の形態1)の代わりに積層体TYが用いられる。積層体TYの挿入部60Yは保護膜60fを有するが仕切部材60p(図4)を有しない。
【0050】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0051】
本実施の形態によれば、仕切部材60p(図4)を用いる必要がないので、その分だけ積層体TYの積層高さ(図6の縦方向の寸法)を小さくすることができる。これにより断熱容器40内の空間をより有効に使用することができる。
【0052】
なお隙間GP中に生じる昇華ガスの再結晶化によって第2の単結晶基板群10bと第1のベース基板30aとが付着してしまうことを避けるためには、隙間GPが十分に狭くされればよい。言い換えれば、本実施の形態は隙間GPが狭い場合に適している。
【0053】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、炭化珪素基板81(図1および図2)を用いた半導体装置の製造について説明する。なお説明を簡単にするために炭化珪素基板81が有する単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11にのみ言及する場合があるが、他の単結晶基板12〜19の各々もほぼ同様に扱われる。
【0054】
図7を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、ベース基板30、単結晶基板11、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図7の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0055】
ドレイン電極112はベース基板30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶基板11上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、ベース基板30ではなく単結晶基板11の上に配置されている。
【0056】
ベース基板30、単結晶基板11、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0057】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0058】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0059】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0060】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。まず基板準備工程(ステップS110:図8)にて、炭化珪素基板81(図1および図2)が準備される。
【0061】
図9を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図8)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0062】
単結晶基板群10の表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0063】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0064】
図10を参照して、注入工程(ステップS130:図8)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0065】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0066】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0067】
図11を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図8)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0068】
その後、窒化処理工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0069】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0070】
次に電極形成工程(ステップS160:図8)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0071】
図12を参照して、酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0072】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0073】
図13を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、炭化珪素基板81の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0074】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図8)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図7)が切り出される。
【0075】
なお上記の各実施の形態において、導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
10 単結晶基板群、10a〜10c 第1〜第3の単結晶基板群、11〜19 単結晶基板、30 ベース基板、30a〜30c 第1〜第3のベース基板、40 断熱容器、50 ヒータ、91 第1の加熱体、92 第2の加熱体、150 ヒータ電源、TX,TY 積層体。
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。米国特許第7314520号明細書(特許文献1)によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、このため大型の基板を用いて半導体装置を効率よく製造することができないという問題がある。特に六方晶系の炭化珪素において、(0001)面以外の面の特性が利用される場合、上記の問題が特に深刻となる。このことについて、以下に説明する。
【0006】
欠陥の少ない炭化珪素基板は、通常、積層欠陥の生じにくい(0001)面成長で得られた炭化珪素インゴットから切り出されることで製造される。このため(0001)面以外の面方位を有する炭化珪素基板は、成長面に対して非平行に切り出されることになる。このため基板の大きさを十分確保することが困難であったり、インゴットの多くの部分が有効に利用できなかったりする。このため、炭化珪素の(0001)面以外の面を利用した半導体装置は、効率よく製造することが特に困難である。
【0007】
上記のように困難をともなう炭化珪素基板の大型化に代わって、単結晶基板群と、その各々に接合されたベース基板とを有する炭化珪素基板を用いることが考えられる。ベース基板は結晶欠陥密度が高くても差し支えないことが多く、よって大型のものを比較的容易に準備することができる。そして単結晶基板群が有する単結晶基板の数を増やすことで、必要に応じて炭化珪素基板を大きくすることができる。
【0008】
本発明者らは、単結晶基板群の各々とベース基板とを接合する方法として、ベース基板から発生させた昇華ガスを単結晶基板群の各々の上で再結晶させる方法を用いることができることを見出した。しかしながら、このような方法を用いて炭化珪素基板を製造するに際して、複数の炭化珪素基板を効率よく製造するための方法はこれまで十分に検討されていなかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率よく炭化珪素基板を製造することができる炭化珪素基板の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を有する。炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体が準備される。積層体を準備する工程は、第1の単結晶基板群の各々と第1のベース基板とが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群の各々と第2のベース基板とが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群と第1のベース基板と挿入部と第2の単結晶基板群と第2のベース基板とが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われる。次に、積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体が加熱される。
【0011】
本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、単結晶基板群およびベース基板の複数組が積層された状態で加熱されることで、複数の炭化珪素基板が同時に製造される。また加熱前に第1のベース基板と第2の単結晶基板群との間に挿入部が配置されることで、異なる炭化珪素基板の間で接合が生じてしまうことが防止される。これにより、効率よく炭化珪素基板を製造することができる。
【0012】
好ましくは温度勾配は0.1℃/mm以上20℃/mm以下である。温度勾配が0.1℃/mm以上とされることによって、ベース基板と単結晶基板群との間の接合をより確実に進行させることができる。また温度勾配が20℃以下とされることによって、加熱のための装置をより簡易なものとすることができる。
【0013】
好ましくは挿入部は、第2の単結晶基板群の全体と第1のベース基板との間を隔てる仕切部材を含む。これにより、異なる炭化珪素基板の間で望ましくない接合が生じてしまうことがより確実に防止される。より好ましくは、仕切部材は、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている。これにより、上記加熱に耐え得る耐熱性を仕切部材に付与することができる。また仕切部材の炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0014】
好ましくは挿入部は、第2の単結晶基板群の各々の、第2のベース基板と対向することになる面と反対の面の上に形成された保護膜を含む。これにより加熱の際に第2の単結晶基板群の表面が保護される。より好ましくは保護膜は、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む。これにより、上記加熱に耐え得る耐熱性を保護膜に付与することができる。また保護膜の炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0015】
本発明の炭化珪素基板の製造装置は容器および加熱部を有する。容器は、炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を収めるためのものである。積層体は、第1の単結晶基板群の各々と第1のベース基板とが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群の各々と第2のベース基板とが互いに対向し、かつ第1の単結晶基板群と第1のベース基板と挿入部と第2の単結晶基板群と第2のベース基板とが一の方向に向かって積み重なるように構成される。加熱部は、積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ積層体中において一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように積層体を加熱するためのものである。
【0016】
なお上記における「第1および第2の」との文言の使用は、「第1および第2の」ものに加えてさらに1つ以上のものを用いる形態を除外することを意味するものではない。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、効率よく炭化珪素基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の一工程を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図9】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1および図2に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板81は、炭化珪素から作られたベース基板30と、炭化珪素から作られた単結晶基板群10とを有する。単結晶基板群10は単結晶基板11〜19を有する。
【0020】
単結晶基板11〜19の各々は、互いに対向する裏面および表面と、この裏面および表面をつなぐ側面とを有する。たとえば、単結晶基板11は、互いに対向する裏面B1および表面F1と、裏面B1および表面F1をつなぐ側面S1とを有し、単結晶基板12は、互いに対向する裏面B2および表面F2と、裏面B2および表面F2をつなぐ側面S2とを有する。
【0021】
ベース基板30は、互いに対向する主面P1および主面P2を有する。単結晶基板11〜19の各々はベース基板30上に配置されている。具体的には、単結晶基板11〜19の各々の裏面(裏面B1、B2など)はベース基板30の主面P1に接合されている。また単結晶基板11〜19のうち隣り合うものの間には隙間GPが形成されている。よって、たとえば側面S1およびS2は、隙間GPを介して互いに対向している。なお隙間GPが単結晶基板11〜19の間を完全に分離する必要はなく、たとえば側面S1の一部と側面S2の一部とが互いに接触していてもよい。
【0022】
上記のように、ベース基板30の主面P1は、単結晶基板11〜19の裏面(裏面B1、B2など)を互いにつないでおり、これにより単結晶基板11〜19は互いに固定されている。単結晶基板11〜19のそれぞれは同一平面上において露出した表面(表面F1、F2など)を有し、これにより炭化珪素基板81は、単結晶基板11〜19の各々に比して大きな表面を有する。よって単結晶基板11〜19の各々を単独で用いる場合に比して、炭化珪素基板81を用いる場合の方が、半導体装置をより効率よく製造することができる。
【0023】
次に、複数の炭化珪素基板81の製造方法について説明する。本実施の形態においては3つの炭化珪素基板81が同時に製造される場合について例示する。
【0024】
まず、複数の炭化珪素基板81の各々の材料として、3つのベース基板30と、3組の単結晶基板群10とが準備される。単結晶基板群10の各々は、たとえば、六方晶系における(0001)面で成長したSiCインゴットを(0−33−8)面に沿って切断することによって準備される。この場合、好ましくは、(0−33−8)面側が表面として用いられ、(03−38)面側が裏面として用いられる。単結晶基板群10の各々の厚さは、たとえば400μmである。ベース基板30の厚さは、たとえば400μmである。
【0025】
図3を参照して、単結晶基板11〜19(図3においては単結晶基板11のみを示す)の各々の表面(単結晶基板11の場合は表面F1)の上に保護膜60fが形成される。保護膜60fは、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られる。具体的には、保護膜60fは、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む。有機膜を炭化することによって形成された膜は、有機物を含む流動体の塗布および炭化によって容易に形成することができる。このような流動体としては、たとえばフォトレジストまたはカーボン接着剤がある。
【0026】
図4を参照して、加熱装置が準備される。加熱装置は、断熱容器40と、第1および第2の加熱体91、92、ヒータ50、およびヒータ電源150から構成される加熱部とを有する。断熱容器40は、断熱性の高い材料から形成されている。ヒータ50は、たとえば電気抵抗ヒータである。第1および第2の加熱体91、92は、ヒータ50からの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、ベース基板30および単結晶基板群10を加熱する機能を有する。第1および第2の加熱体91、92は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0027】
次に第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cと、第1〜第3のベース基板30a〜30cと、挿入部60Xとを含む積層体TXが準備される。ここで第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cおよび第1〜第3のベース基板30a〜30cのそれぞれは、上記説明における3つの単結晶基板群10および3つのベース基板30に対応する。また挿入部60Xは、単結晶基板11〜19の各々の上に形成された保護膜60fと、仕切部材60pとを含む部分のことをいう。
【0028】
仕切部材60pは、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られており、好ましくは、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている。仕切部材60pの厚さは、好ましくは100nm〜10mmである。仕切部材60pとしては、たとえば、厚さ1mm程度の炭素板、または、炭素を主成分として含む厚さ0.2mm〜1mmの可とう性膜を用いることができる。
【0029】
積層体TXを準備する工程は具体的には、第1の単結晶基板群10aの各々の裏面と第1のベース基板30aとが互いに対向し、かつ第2の単結晶基板群10bの各々の裏面と第2のベース基板とが互いに対向し、第3の単結晶基板群10cの各々の裏面と第3のベース基板30cとが互いに対向するように行われる。第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cの各々が有する単結晶基板11〜19は、たとえば図1に示すように、マトリックス状に配置される。
【0030】
またこの工程は、第1の単結晶基板群10aと、第1のベース基板30aと、第1の挿入部60Xと、第2の単結晶基板群10bと、第2のベース基板30bと、第2の挿入部60Xと、第3の単結晶基板群10cと、第3のベース基板30cとが、一の方向(図4の上方向)に向かって積み重なるように行われる。第1の挿入部60Xは第2の単結晶基板群10bの全体と第1のベース基板30aとの間を隔てるように配置され、第2の挿入部60Xは第3の単結晶基板群10cの全体と第2のベース基板30bとの間を隔てるように配置される。
【0031】
この積層体TXは、第1の加熱体91上に載置され、またこの積層体TX上に第2の加熱体92が載置される。これにより積層体TXは第1および第2の加熱体91、92に挟まれる。次に第1および第2の加熱体91、92に挟まれた積層体TXが断熱容器40内に収められる。この際、第2の加熱体92は第1の加熱体91に比してヒータ50の近くに配置されることが好ましい。
【0032】
次に断熱容器40内の雰囲気が、大気雰囲気の減圧によって得られた雰囲気、または不活性ガス雰囲気とされる。不活性ガスとしては、たとえば、He、Arなどの希ガス、窒素ガス、または希ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いることができる。断熱容器40内の圧力は、たとえば0.01〜104Paとされる。
【0033】
次にヒータ50によって、第1および第2の加熱体91、92のそれぞれを介して、積層体TXが加熱される。この加熱は、積層体TXが、炭化珪素が昇華し得る温度、たとえば1800℃以上2500℃以下の温度、より好ましくは2000℃以上2300℃以下の温度に達するように行われる。加熱時間は、たとえば1〜24時間とされる。
【0034】
またこの加熱は、積層体TX中において上記一の方向(図4の上方向)に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように行われる。このような温度勾配は、たとえば、ヒータ50が第1の加熱体91に比して第2の加熱体92の近くに位置することによって得られる。またこの温度勾配は、好ましくは0.1℃/mm以上20℃/mm以下である。
【0035】
さらに図5を参照して、上記の加熱が開始される段階では、第1〜第3のベース基板30a〜30cのそれぞれは第1〜第3の単結晶基板群10a〜10cの上に載置されているだけであって接合はされていない。このため第2の単結晶基板群10bの裏面(裏面B1、B2など)の各々と、第2のベース基板30bの主面P1との間には、ミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図5における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmである。
【0036】
空隙GQにおいては、前述した温度勾配によって、昇華および再結晶化による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、第2のベース基板30bから炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスは第2の単結晶基板群10bの各々の裏面上で再結晶化する。つまり空隙GQにおいて図中矢印Mcに示すように第2のベース基板30bから第2の単結晶基板群10bの各々への物質移動が生じる。この物質移動によって、第2のベース基板30bが第2の単結晶基板群10bの各々に接合される。
【0037】
また第2の単結晶基板群10bの各々の間の隙間GPにおいても、前述した温度勾配によって、昇華および再結晶化による炭化珪素の物質移動が生じる。具体的には、第2のベース基板30bから炭化珪素の昇華ガスが形成され、このガスは、図中矢印Mbに示すように第2のベース基板30bから隙間GPに向かう。この昇華ガスの進行は、仕切部材60pによって遮られるので、仕切部材60pを越えて位置する第1のベース基板30a(図4)には達しない。よってこの昇華ガスに起因して第2の単結晶基板群10bと第1のベース基板30aとが互いに付着してしまうこと、すなわち、異なる炭化珪素基板81が接合されてしまうことが防止される。
【0038】
なお図5においては第2の単結晶基板群10bと第2のベース基板30bとの接合について説明したが、第1の単結晶基板群10aと第1のベース基板30aとの接合、および第3の単結晶基板群10cと第3のベース基板30cとの接合も同様に行われる。
【0039】
次に断熱容器40から積層体TXが取り出される。次に仕切部材60pが除かれる。仕切部材60pは引き剥がされることによって容易に除去することができる。次に保護膜60fが除去される。保護膜60fの除去は、たとえば研磨またはエッチングによって行われる。以上により複数の炭化珪素基板81(図1および図2)が同時に製造される。
【0040】
本実施の形態の炭化珪素基板81(図2)の製造方法によれば、単結晶基板群10およびベース基板30の複数組を有する積層体TXが加熱されることで(図4)、複数の炭化珪素基板81が同時に製造される。また加熱前に第1のベース基板30aと第2の単結晶基板群10bとの間に挿入部60Xが配置されることで、異なる炭化珪素基板81の間で望ましくない接合が生じてしまうことが防止される。これにより、効率よく炭化珪素基板81を製造することができる。
【0041】
また単結晶基板群10の各々の表面は、上記加熱の際に、保護膜60fによって保護されている。これにより、単結晶基板群10の表面が昇華したり他の物質と反応したりすることが防止される。よって得られる炭化珪素基板81の表面の品質を高めることができる。また保護膜60fが、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む場合、上記加熱に耐え得る耐熱性を保護膜60fに付与することができる。また保護膜60fの炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0042】
また仕切部材60pが、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている場合、上記加熱に耐え得る耐熱性を仕切部材60pに付与することができる。また仕切部材60pの炭化珪素に対する反応性を小さくすることができる。
【0043】
また上記加熱の温度勾配が0.1℃/mm以上とされる場合、ベース基板と単結晶基板群との間の接合をより確実に進行させることができる。また温度勾配が20℃以下とされる場合、加熱のための装置をより簡易なものとすることができる。
【0044】
また仕切部材60pの厚さが100nm以上とされる場合、仕切部材60pのポーラスな部分を昇華ガスが透過してしまうことが防止される。またこの厚さが10mm以下とされる場合、断熱容器40内の空間をより有効に使用することができる。
【0045】
好ましくは、ベース基板30の不純物濃度は、単結晶基板群10の各々の不純物濃度よりも高くされる。すなわち相対的に、ベース基板30の不純物濃度は高く、また単結晶基板群10の不純物濃度は低くされる。ベース基板30の不純物濃度が高いことによってベース基板30の抵抗率を小さくすることができるので、炭化珪素基板81を流れる電流に対する抵抗が低減される。また単結晶基板群10の不純物濃度が低いことによって、その結晶欠陥をより容易に低減することができる。なお不純物としては、たとえば窒素またはリンを用いることができる。
【0046】
単結晶基板群10の各単結晶基板の炭化珪素の結晶構造は六方晶系であることが好ましく、4H型または6H型であることがより好ましい。また好ましくは、単結晶基板の(000−1)面に対する表面(表面F1など)のオフ角は50°以上65°以下である。より好ましくは、表面のオフ方位と単結晶基板の<1−100>方向とのなす角は5°以下である。さらに好ましくは、単結晶基板の<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面のオフ角は−3°以上5°以下である。このような結晶構造が用いられることによって、炭化珪素基板81を用いた半導体装置のチャネル移動度を高くすることができる。なお「<1−100>方向における(0−33−8)面に対する表面のオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る射影面への表面の法線の正射影と、(0−33−8}面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。また表面の好ましいオフ方位として、上記以外に、単結晶基板11の<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようなオフ方位を用いることもできる。
【0047】
なお本実施の形態においては、単結晶基板群10およびベース基板30の3組によって3つの炭化珪素基板81が同時に製造される場合について説明したが、積層体TXが適切な温度まで加熱され、かつ積層体TXの温度勾配が適切とされれば、この組数は2つ以上の任意の数であり得る。たとえば、2組、30組および50組の場合についての実験では、すべての組においてベース基板30と単結晶基板群10とが接合されることが確認された。
【0048】
また単結晶基板群10の表面と仕切部材60pの面とが共に高い平坦性を有する場合は、両者を密着させることによって単結晶基板群10の表面を保護することができるので、保護膜60fの形成が省略されてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
主に図6を参照して、本実施の形態においては積層体TX(図4:実施の形態1)の代わりに積層体TYが用いられる。積層体TYの挿入部60Yは保護膜60fを有するが仕切部材60p(図4)を有しない。
【0050】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0051】
本実施の形態によれば、仕切部材60p(図4)を用いる必要がないので、その分だけ積層体TYの積層高さ(図6の縦方向の寸法)を小さくすることができる。これにより断熱容器40内の空間をより有効に使用することができる。
【0052】
なお隙間GP中に生じる昇華ガスの再結晶化によって第2の単結晶基板群10bと第1のベース基板30aとが付着してしまうことを避けるためには、隙間GPが十分に狭くされればよい。言い換えれば、本実施の形態は隙間GPが狭い場合に適している。
【0053】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、炭化珪素基板81(図1および図2)を用いた半導体装置の製造について説明する。なお説明を簡単にするために炭化珪素基板81が有する単結晶基板11〜19のうち単結晶基板11にのみ言及する場合があるが、他の単結晶基板12〜19の各々もほぼ同様に扱われる。
【0054】
図7を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、ベース基板30、単結晶基板11、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図7の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0055】
ドレイン電極112はベース基板30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶基板11上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、ベース基板30ではなく単結晶基板11の上に配置されている。
【0056】
ベース基板30、単結晶基板11、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0057】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0058】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0059】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0060】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。まず基板準備工程(ステップS110:図8)にて、炭化珪素基板81(図1および図2)が準備される。
【0061】
図9を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図8)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0062】
単結晶基板群10の表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0063】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0064】
図10を参照して、注入工程(ステップS130:図8)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0065】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0066】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0067】
図11を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図8)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0068】
その後、窒化処理工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0069】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0070】
次に電極形成工程(ステップS160:図8)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0071】
図12を参照して、酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0072】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0073】
図13を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、炭化珪素基板81の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0074】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図8)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図7)が切り出される。
【0075】
なお上記の各実施の形態において、導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
10 単結晶基板群、10a〜10c 第1〜第3の単結晶基板群、11〜19 単結晶基板、30 ベース基板、30a〜30c 第1〜第3のベース基板、40 断熱容器、50 ヒータ、91 第1の加熱体、92 第2の加熱体、150 ヒータ電源、TX,TY 積層体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を準備する工程を備え、
前記積層体を準備する工程は、前記第1の単結晶基板群の各々と前記第1のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第2の単結晶基板群の各々と前記第2のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第1の単結晶基板群と前記第1のベース基板と前記挿入部と前記第2の単結晶基板群と前記第2のベース基板とが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われ、さらに
前記積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ前記積層体中において前記一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように前記積層体を加熱する工程を備える、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記温度勾配は0.1℃/mm以上20℃/mm以下である、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記挿入部は、前記第2の単結晶基板群の全体と前記第1のベース基板との間を隔てる仕切部材を含む、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記仕切部材は、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記挿入部は、前記第2の単結晶基板群の各々の、前記第2のベース基板と対向することになる面と反対の面の上に形成された保護膜を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜は、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む、請求項5に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を収めるための容器を備え、
前記積層体は、前記第1の単結晶基板群の各々と前記第1のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第2の単結晶基板群の各々と前記第2のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第1の単結晶基板群と前記第1のベース基板と前記挿入部と前記第2の単結晶基板群と前記第2のベース基板とが一の方向に向かって積み重なるように構成され、さらに
前記積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ前記積層体中において前記一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように前記積層体を加熱するための加熱部を備える、炭化珪素基板の製造装置。
【請求項1】
炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を準備する工程を備え、
前記積層体を準備する工程は、前記第1の単結晶基板群の各々と前記第1のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第2の単結晶基板群の各々と前記第2のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第1の単結晶基板群と前記第1のベース基板と前記挿入部と前記第2の単結晶基板群と前記第2のベース基板とが一の方向に向かってこの順で積み重なるように行われ、さらに
前記積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ前記積層体中において前記一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように前記積層体を加熱する工程を備える、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記温度勾配は0.1℃/mm以上20℃/mm以下である、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記挿入部は、前記第2の単結晶基板群の全体と前記第1のベース基板との間を隔てる仕切部材を含む、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記仕切部材は、炭素、モリブデン、タングステン、および、金属カーバイドのいずれかから作られている、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記挿入部は、前記第2の単結晶基板群の各々の、前記第2のベース基板と対向することになる面と反対の面の上に形成された保護膜を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜は、有機膜を炭化することによって形成された膜、炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、およびダイヤモンド膜の少なくともいずれかを含む、請求項5に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
炭化珪素から作られた第1および第2の単結晶基板群と、炭化珪素から作られた第1および第2のベース基板と、炭化珪素の昇華温度において固体状態を有する材料から作られた挿入部とを含む積層体を収めるための容器を備え、
前記積層体は、前記第1の単結晶基板群の各々と前記第1のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第2の単結晶基板群の各々と前記第2のベース基板とが互いに対向し、かつ前記第1の単結晶基板群と前記第1のベース基板と前記挿入部と前記第2の単結晶基板群と前記第2のベース基板とが一の方向に向かって積み重なるように構成され、さらに
前記積層体の温度が炭化珪素が昇華し得る温度に達するように、かつ前記積層体中において前記一の方向に向かって温度が高くなるような温度勾配が形成されるように前記積層体を加熱するための加熱部を備える、炭化珪素基板の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−4494(P2012−4494A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140768(P2010−140768)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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