説明

無段変速機の制御装置

【課題】高精度な滑り制御を容易に実現することができ、しかも、製造コストを抑制することができる無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】無段変速機1のチェーン4に近接してセンサ9を配置し、ピン4aを検出してパルスを出力させる。また、無段変速機1の入力回転数及び出力回転数に基づいてチェーン4の理論速度を求めるとともに、センサ9の出力に基づいてチェーン4の実速度を求め、これらの速度から滑りを求め、この滑りを基準値に近づけるように無段変速機1のクランプ力を制御する制御部10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン又はベルトを用いる無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)におけるチェーンやベルトのスリップは、プーリの軸方向の変位を位置センサで捉えることにより、これを検出することができる。例えば、位置センサによって検出された駆動プーリのプーリ幅から演算して求めた変速比と、駆動プーリ及び従動プーリの各回転数に基づいて演算した実変速比とを比較して、その差が所定値以上であるか否かにより、滑りを検出することができる(例えば、特許文献1参照。)。また、プーリのクランプ力を調整することにより、滑りを制御することが可能である。
【0003】
【特許文献1】特開2005−28915号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、軸方向へのプーリの変位を高精度に検出することは容易でなく、高い精度が出なければ滑り制御を正確に行うことができない。また、高精度に検出するには、製造コストがかかる。
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、高精度な滑り制御を容易に実現することができ、しかも、製造コストを抑制することができる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の無段変速機の制御装置は、無段変速機の入力回転数及び出力回転数をそれぞれ検出する一対の検出装置と、前記無段変速機のチェーン又はベルトに近接して配置され、チェーン又はベルトの長さ方向に存在する形態上の周期的な変化に基づくパルスを出力するセンサと、無段変速機の入力回転数及び出力回転数に基づいてチェーン又はベルトの理論速度を求めるとともに、前記センサの出力に基づいてチェーン又はベルトの実速度を求め、これらの速度から滑りを求め、これを基準値に近づけるように前記無段変速機のクランプ力を制御する制御部とを備えたものである。
【0006】
上記のような無段変速機の制御装置においては、チェーン又はベルトに近接して配置されたセンサの出力に基づいて、制御部が実速度を求めるとともに、理論速度と実速度とから滑りを求め、これを基準値に近づけるように無段変速機のクランプ力を制御する。
【0007】
また、上記無段変速機の制御装置において、センサは、無段変速機の変速比にかかわらず常にチェーン又はベルトが通過する位置に面して設けられるようにすればよい。
この場合、変速によってチェーン又はベルトの張架形態が変化しても、センサは確実にパルスを出力することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無段変速機の制御装置によれば、チェーン又はベルトに近接して配置されたセンサの出力に基づいて、制御部が実速度を求めるとともに、理論速度と実速度とから滑りを求め、これを基準値に近づけるように無段変速機のクランプ力を制御する。従って、高精度な滑り制御を容易に実現することができ、しかも、製造コストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、無段変速機(CVT)の制御装置を示すブロック回路図である。図において、無段変速機1は、駆動側プーリ2と従動側プーリ3との間に、動力伝達用のチェーン4を張架させている。チェーン4は、その長さ方向にピン4aが所定間隔で設けられている。駆動側プーリ2はエンジンの駆動軸5と接続されている。一方、従動側プーリ3は、車両(図示せず。)の負荷6と接続されている。
【0010】
駆動側プーリ2及び従動側プーリ3の各外周近傍には、それぞれ、各プーリの回転数を検出するためのセンサ7及び8が配置されている。各センサ7,8は、磁気的な変化を検出するセンサであり、例えばプーリ外周の周方向に等間隔で設けた凹凸(図示せず。)を検出することにより回転数に応じたパルスを出力する。
【0011】
また、チェーン4の側面に対向して、チェーンの実速度を検出するためのセンサ9が設けられている。センサ9は例えば磁気抵抗の変化を検出するセンサであり、チェーンの長さ方向に所定間隔で設けられているピン4aと近接対向するときと、隣接する2つのピン間に対向するときとの間で生じる磁気抵抗の周期的な変化に基づいて、パルスを出力する。図3は、各プーリ2,3及びチェーン4を側面から見たときの略図である。変速比の変化により、チェーン4の張架形態は変化する。しかし、変速比にかかわらず常にチェーン4が通過する図示の位置に面してセンサ9(の検出面)を配置することにより、常に、ピン4aの通過を検出してパルスを出力することができる。なお、センサ9の位置は、破線で示す下方側でもよい。
【0012】
図1に戻り、センサ7〜9の出力するパルスは制御部10に入力される。また、制御部10には、基準値設定部11から後述の基準値を設定することができる。サーボポンプ12は、制御部10から指示を受けて、駆動側プーリ2によるチェーン4のクランプ力を調整する。
【0013】
次に、上記制御部10の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。まず、制御部10は、ステップS1において記憶値の初期化を行う。続いて制御部10は、センサ7,8からの信号に基づいて駆動側プーリ2と従動側プーリ3の回転数を求め、その状態におけるチェーン4の理論速度を演算する(ステップS2)。さらに制御部10は、センサ9からの信号に基づいてチェーン4の実速度を演算し(ステップS3)、理論速度の演算値Vと実速度の演算値Vとの差から滑りSmを、
Sm=(V−V)/V
により求める(ステップS4)。次に制御部10は、基準値設定部11から設定される滑りの基準値Srと、上記滑りSmとを比較し(ステップS5)、Sr−Sm=0すなわちSr=SmであればステップS2に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0014】
一方、Sr−Smが正、すなわち滑りSmが基準値Sr未満である場合は、制御部10はサーボポンプ12を駆動してチェーン4のクランプ力を一定量だけ低減させる(ステップS7)。クランプ力の低減により、滑りSmは増大する。その後は、ステップS2〜S5、S7の処理が繰り返されれ、Sr=Smとなった時点でクランプ力の低減処理は終了となる。
【0015】
逆に、Sr−Smが負、すなわち滑りSmが基準値Srを超えている場合は、制御部10はサーボポンプ12を駆動してチェーン4のクランプ力を一定量だけ増大させる(ステップS6)。クランプ力の増大により、滑りSmは減少する。その後は、ステップS2〜S6の処理が繰り返されれ、Sr=Smとなった時点でクランプ力の増大処理は終了となる。
このようにして、常にSr=Smの関係になる方向へクランプ力が調整される。一般に、動力伝達の効率は滑りと密接な関係があり、滑りを適正値(=基準値Sr)にすることにより、最も優れた効率及び燃費が得られる。例えば滑りSr=1.5%が好適である。
【0016】
上記のような無段変速機の制御装置によれば、チェーンに近接して配置されたセンサの出力に基づいて、チェーンの実速度を簡単かつ高精度に検出することができる。また、理論速度も各プーリ2,3の回転数に基づいているので正確である。従って、理論速度と実速度とから滑りを求め、これを基準値に近づけるように無段変速機のクランプ力を制御することで、高精度な滑り制御を容易に実現することができ、しかも、製造コストを抑制することができる。
【0017】
なお、上記実施形態の無段変速機ではチェーンを使用しているが、ベルトであっても、その長さ方向に存在する形態上の周期的な変化があれば、その変化をセンサで捉えることができる。また、センサは、磁気的変化に基づくセンサの他、光センサも使用することができる。
【0018】
また、上記実施形態では各プーリ2,3の回転数を検出するために各プーリ2,3の外周にセンサ7,8を配置し、それらの出力を制御部10で処理する構成としたが、これに限られるものではなく、要するに無段変速機の入力回転数及び出力回転数をそれぞれ検出する検出装置を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】無段変速機(CVT)の制御装置を示すブロック回路図である。
【図2】制御部の動作を示すフローチャートである。
【図3】各プーリ及びチェーンを側面から見たときの略図である。
【符号の説明】
【0020】
1 無段変速機
4 チェーン
7,8 センサ(検出装置)
9 センサ
10 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機の入力回転数及び出力回転数をそれぞれ検出する一対の検出装置と、
前記無段変速機のチェーン又はベルトに近接して配置され、チェーン又はベルトの長さ方向に存在する形態上の周期的な変化に基づくパルスを出力するセンサと、
前記無段変速機の入力回転数及び出力回転数に基づいてチェーン又はベルトの理論速度を求めるとともに、前記センサの出力に基づいてチェーン又はベルトの実速度を求め、これらの速度から滑りを求め、この滑りを基準値に近づけるように前記無段変速機のクランプ力を制御する制御部と
を備えたことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記センサは、前記無段変速機の変速比にかかわらず常にチェーン又はベルトが通過する位置に面して設けられる請求項1記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106786(P2008−106786A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287256(P2006−287256)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】