説明

無線受信機

【課題】PLLのループフィルタの帯域を大きくすることにより、局部発振器の位相雑音性能が大幅に改善し、隣接チャネル選択性能を改善する受信機を提供する。
【解決手段】受信信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキサでミキシングし、生成された中間周波数(IF)信号をバンドパスフィルタで選択して復調する無線受信機において、局部発振器は、受信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成であり、バンドパスフィルタは、受信信号の受信すべきチャネルによって通過帯域の中心周波数を切り替える構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局部発振器の発振周波数(fLO)を、複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定し、同チャネルブロック内のチャネルに対して局部発振器の発振周波数を一定に保ち、隣接チャネル選択性能に必要な局部発振器の位相雑音特性をPLL(フェーズロック・ループ)により大幅に改善する無線受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のヘテロダイン受信機の構成例を示す(非特許文献1)。
図6において、受信信号は低雑音増幅器(LNA)61で増幅された後に、ミキサ回路62で局部発振器60からのローカル信号(fLO)とミキシングされ、中間周波数(IF)信号(fIF)に変換される。その後、バンドパスフィルタ63により当該IF信号を選択し、IF増幅器64を介して検波器65に入力して復調される。
【0003】
ここに示す局部発振器60は積分型PLLであり、電圧制御発振器(VCO)66、分周器67、比較器68およびループフィルタ69により構成される。VCO66から出力されるローカル信号(fLO)は、分周器67でチャネル選択制御信号に応じて分周され、当該分周信号と参照信号(fCH:チャネル周波数間隔)が比較器68で位相比較され、ループフィルタ69を介して電圧制御発振器66にフィードバックされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Behzad Razavi, RF Microelectronics, pp.122-129, Prentice Hall PTR, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のヘテロダイン受信機における局部発振器60の位相雑音特性の一例を図7に示す。希望信号周波数をfC 、ローカル信号周波数をfLOとすると、IF信号周波数fIFは例えば、
IF=fC −fLO(fC >fLOのとき)
となる。しかし、図7に示すようにローカル信号に周波数fLO+fCHの雑音信号が含まれると、この雑音信号と周波数fC +fCHの隣接チャネル信号とが混合され、同じIF信号周波数fIF(=fC −fLO)にダウンコンバージョンされる。このため、同じIF信号周波数をもつ妨害波が発生し、受信性能を大幅に低下させる。
【0006】
この隣接チャネル選択度の問題を解決するには、ローカル信号に含まれる位相雑音を低減する必要がある。このため、従来技術では局部発振器にQ値の大きなLC共振器を用いてきた。しかし、ICチップ上にLC共振器を作成するとチップ面積が増加し、チップコストを上昇させる要因になる。
【0007】
また従来技術では、チャネル周波数間隔fCHよりも高周波の参照信号と帯域の広いループフィルタを用いたデルタ・シグマ型分数分周PLLにより、周波数fLO+fCHの雑音信号を抑圧する手法が用いられることがある。しかし、この手法では分周器の分周比を擬似ランダム的に変動させるデルタ・シグマ処理により多数のスプリアスが発生する。特に、参照信号周波数をチャネル周波数間隔fCHよりも大幅に大きくすると、このスプリアスを抑圧することが複雑になり、デルタ・シグマ型分数分周PLLの設計が困難になる。
【0008】
本発明は、局部発振器の位相雑音性能の改善により隣接チャネル選択性能を改善することができる無線受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、受信信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキサでミキシングし、生成された中間周波数(IF)信号をバンドパスフィルタで選択して復調する無線受信機において、局部発振器は、受信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成であり、バンドパスフィルタは、受信信号の受信すべきチャネルによって通過帯域の中心周波数を切り替える構成である。
【0010】
局部発振器は、積分型PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、チャネル周波数間隔の2倍より大きくn倍より小さいものとする。
【0011】
局部発振器は、デルタ・シグマ型分数分周PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、チャネル周波数間隔の2倍より大きくm×n倍(m>1)より小さいものとする。
【0012】
バンドパスフィルタは、チャネル選択制御信号に応じて通過帯域の中心周波数を切り替える複素バンドパスフィルタである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無線受信機は、局部発振器の発振周波数fLOを複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定し、同ブロック内のチャネルで一定に保つ構成であり、チャネル周波数間隔fCHよりも高周波の参照信号を用いたPLLによりループフィルタの帯域を大きくすることにより、局部発振器の位相雑音性能が大幅に改善し、隣接チャネル選択性能を改善することができる。これにより、無線受信機にオンチップLC共振器が不要となり、チップ面積を大幅に縮小してチップコストの低減を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無線受信機の実施例1を示す図である。
【図2】局部発振器10Aの位相雑音特性を示す図である。
【図3】IF可変型複素バンドパスフィルタ20の構成例を示す図である。
【図4】IF可変型複素バンドパスフィルタ20のフィルタ特性を示す図である。
【図5】本発明の無線受信機の実施例2を示す図である。
【図6】従来のヘテロダイン受信機の構成例を示す図である。
【図7】局部発振器60の位相雑音特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の無線受信機の実施例1を示す。
図1において、無線受信機は、図6に示す従来のヘテロダイン受信機と同様の低雑音増幅器(LNA)61、ミキサ回路62、IF増幅器64、検波器65を備えるとともに、局部発振器60およびバンドパスフィルタ63に代えて、発振周波数を複数のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定する局部発振器10Aおよびチャネル選択制御信号に応じたIF信号を選択するIF可変型複素バンドパスフィルタ20を用いた構成である。ここでは、局部発振器10Aとして積分型PLLを用いる構成例を示す。
【0016】
局部発振器10Aは、電圧制御発振器(VCO)11、分周器12、比較器13およびループフィルタ14により構成される。分周器12は、電圧制御発振器11から出力されるローカル信号(fLO)を、n個(nは3以上の整数)のチャネルに対応するブロック選択制御信号に応じて分周する。比較器13は、分周器12から出力されるローカル信号の分周信号と、チャネル周波数間隔fCHのn倍の参照信号(n×fCH)を比較し、VCO11を制御するフィードバックループを形成する。
【0017】
これにより、VCO11の発振周波数fLOは、n個のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定され、同一のチャネルブロック内では一定となり、ミキサ回路62から出力される各チャネルのIF信号周波数fIFはチャネルごとに異なることになる。このため、チャネル選択はIF可変型複素バンドパスフィルタ20を用いて行われる。
【0018】
ループフィルタ14の帯域は、チャネル周波数間隔fCHよりも大きく、そのn倍よりも小さく設定される。図2に、局部発振器10Aの位相雑音特性を示す。上向き矢印は中心周波数付近の出力であり、VCO11の元々持っていた位相雑音がPLLにより抑圧されている。これに対し、ループフィルタ14の帯域の外側の位相雑音はPLLにより抑圧されないため、VCO11の元々持っていた位相雑音特性を示している。
【0019】
以上により、VCO11に含まれる位相雑音は、広いループフィルタ帯域の範囲で位相雑音の小さい水晶発振器からの参照信号により補正されて大幅に低減される。すなわち、隣接チャネル信号の折り返し妨害信号が大幅に抑圧される。この時、隣接チャネル信号の折り返しに影響する位相雑音を低減するには、ループフィルタ14の帯域をチャネル周波数間隔fCHの2倍よりも大きくする必要がある。このため、チャネルブロックを構成するチャネル数nは3以上であり、位相雑音を充分低減するには通常n≧6程度に設定することが好ましい。また、チャネル数nの値は大きければ大きいほど効果が大きくなるが、周波数シフト量の誤差限界を考慮すると、チャネル数nの上限は例えば 100程度が好ましい。
【0020】
図3は、IF可変型複素バンドパスフィルタ20の構成例を示す。
図3において、本フィルタは直交信号に対応する構成であり、I位相信号およびQ位相信号に対して偶数個のローパスフィルタ(LPF)ブロックと、周波数シフト量を決定する偶数個のフィードバックブロックから構成される。図4(1) 〜(3) に示すように、フィードバックブロックへの制御信号により、周波数シフト量および、そのプラス・マイナスの周波数シフト方向が決定される。
【0021】
なお、本実施例では、チャネル選択にIF可変型複素バンドパスフィルタ20を用いているが、複数の複素バンドパスフィルタをスイッチ等で切り替えて使ってもよい。また、アナログ信号処理のIF可変型複素バンドパスフィルタ20に代えて、図1に示すIF増幅器64の後段おいてアナログ/デジタル変換したデジタル信号に対するフィルタリング処理により、同様の機能を実現することができる。
【実施例2】
【0022】
図5は、本発明の無線受信機の実施例2を示す。
図5において、実施例2の無線受信機は、図1に示す実施例1の無線受信器の局部発振器10Aに代えて、デルタ・シグマ型分数分周PLLを用いる局部発振器10Bを備えた構成である。局部発振器10Bは、電圧制御発振器(VCO)11、分周器12、比較器13、ループフィルタ14および分周比擬似ランダム設定回路15により構成される。
【0023】
分周比擬似ランダム設定回路15は、周波数ロック時における分周器12の分周比を擬似ランダム的に変動させることで、出力信号周波数間隔nfCHよりも高周波の参照信号を用いることができる。ここでは、参照信号周波数が出力信号周波数間隔nfCHよりもm倍大きい(m>1)とする。
【0024】
本実施例の局部発振器10Bにおいても、発振周波数はn個のチャネルをまとめたチャネルブロックごとに設定される。このため、同一のチャネルブロック内では局部発振器10Bの発振周波数は一定であり、各チャネルのIF信号周波数fIFはチャネルごとに異なる。このためチャネル選択はIF可変型複素バンドパスフィルタ20を用いている。
【0025】
また、局部発振器10Bを構成するループフィルタ14の帯域は、チャネル周波数間隔fCHよりも大きく、そのm×n倍よりも小さく設定される。したがって、実施例1における同じnの値を用いた局部発振器に比べて、ループフィルタ帯域をm倍大きくできる。このためnの値が実施例1に比べて小さい場合でも、局部発振器10Bの出力に含まれる位相雑音は広いループフィルタ帯域により大幅に低減することができ、隣接チャネル信号の折り返し妨害信号を大幅に抑圧できる。この時、隣接チャネル信号の折り返しに影響する位相雑音を低減するには、ループフィルタの帯域をチャネル周波数間隔fCHの2倍よりも大きくする必要がある。すなわち、m×n>2が必要条件であり、位相雑音を充分低減するには通常m×n≧6程度に設定する。
【0026】
なお、n=1である一般的なデルタ・シグマ型分数分周PLLを用いても、mを充分大きくすれば同様な効果が得られる。しかし、上記のようにm値が大きくなれば擬似ランダム処理が複雑になり、不要なスプリアスが起こらないようにするため設計が困難になる。そこで、実施例2では3以上の整数nを用いることで小さいm値でも同様の広いループフィルタ帯域が実現でき、m値を小さくすることでデルタ・シグマ型分数分周PLLの構成を簡略化できるという長所も持つ。
【符号の説明】
【0027】
10A,10B 局部発振器
11 電圧制御発振器(VCO)
12 分周器
13 比較器
14 ループフィルタ
15 分周比擬似ランダム設定回路
20 IF可変型複素バンドパスフィルタ
60 局部発振器
61 低雑音増幅器(LNA)
62 ミキサ回路
63 バンドパスフィルタ
64 IF増幅器
65 検波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号と局部発振器から出力されるローカル信号とをミキサでミキシングし、生成された中間周波数(IF)信号をバンドパスフィルタで選択して復調する無線受信機において、
前記局部発振器は、前記受信信号のチャネル周波数間隔のn倍(nは3以上の整数)の周波数間隔のローカル信号を切り替えて出力する構成であり、
前記バンドパスフィルタは、前記受信信号の受信すべきチャネルによって通過帯域の中心周波数を切り替える構成である
ことを特徴とする無線受信機。
【請求項2】
請求項1に記載の無線受信機において、
前記局部発振器は、積分型PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、前記チャネル周波数間隔の2倍より大きくn倍より小さい
ことを特徴とする無線受信機。
【請求項3】
請求項1に記載の無線受信機において、
前記局部発振器は、デルタ・シグマ型分数分周PLL(フェーズロック・ループ)を用い、ループフィルタの帯域は、前記チャネル周波数間隔の2倍より大きくm×n倍(m>1)より小さい
ことを特徴とする無線受信機。
【請求項4】
請求項1に記載の無線受信機において、
前記バンドパスフィルタは、チャネル選択制御信号に応じて通過帯域の中心周波数を切り替える複素バンドパスフィルタである
ことを特徴とする無線受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−26969(P2013−26969A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162148(P2011−162148)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】